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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H02M
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H02M
管理番号 1404665
総通号数 24 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2023-04-21 
確定日 2023-11-14 
事件の表示 特願2018−228274「電力変換装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 6月11日出願公開、特開2020− 92518、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成30年12月5日の出願であって、令和4年8月18日付けで拒絶の理由が通知され、同年10月21日に意見書とともに手続補正書が提出され、令和5年1月12日付けで拒絶査定(謄本送達日同年1月24日)がなされ、これに対して同年4月21日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされ、同年6月30日付けで審査官により特許法164条3項の規定に基づく報告がなされたものである。


第2 原査定の概要

原査定(令和5年1月12日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

●理由1(特許法第29条第1項第3号)、理由2(特許法第29条第2項)について

・請求項 1〜3
・引用文献等 1

<引用文献等一覧>
1.特開2015−122342号公報


第3 審判請求時の補正について

審判請求時の補正(以下、「本件補正」という。)は、特許法17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
本件補正によって、本件補正前の請求項1に「前記正極側金属層と前記接地側金属層との間に形成されるコンデンサの静電容量は、前記負極側コンデンサの静電容量と等しく設定される」とあるのを、本件補正後の請求項1において「前記正極側金属層及び前記接地側金属層は、それぞれ表面積が等しい同形状とされ、/前記表面積は、前記正極側金属層と前記接地側金属層とによって形成されるコンデンサの静電容量が前記負極側コンデンサの静電容量と等しくなるように設定される」(“/”は、改行位置を表す。)とする補正は、本件補正前の請求項1に特定される、「正極側金属層」及び「接地側金属層」について限定的に減縮することを目的とするものと認められる。
また、当初明細書の段落0015には、「この絶縁基板4は、セラミック等の絶縁素材で構成された基板本体4aと、パワー半導体チップ5が接合される面に複数設けられる正極側銅層4b(正極側金属層)と、冷却器3に対して接合される面において、正極側銅層4bと対応する位置に複数設けられる接地側銅層4c(接地側金属層)とを備えている。これにより、絶縁基板4は、正極側銅層4bと接地側銅層4cとの間がコンデンサCとして機能する。このため、正極側銅層4b及び接地側銅層4cは、それぞれ表面積が等しい同形状とされ、コンデンサCの静電容量がコモンノードノイズの除去に必要となる静電容量、すなわち、負極側フィルタコンデンサ8の静電容量と同等となるように、表面積Sが設定されている。」(下線は当審で付加。以下同様。)と記載されているから、当初明細書等に新規事項を追加するものではない。
そして、以下、第4〜第6に示すように、本件補正後の請求項1〜3に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。


第4 本願発明

本件補正後の請求項1〜3に係る発明(以下、「本願発明1」〜「本願発明3」という。)は、令和5年4月21日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された、次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
一端が電源の負極側と接続され、他端が接地に接続される負極側コンデンサと、パワー半導体素子が実装される絶縁基板とを備える電力変換装置であって、
前記絶縁基板は、一方の面に形成されると共に前記パワー半導体素子が接合される正極側金属層と、他方の面において前記正極側金属層と対応する位置に形成されると共に接地部材と電気的に接続される接地側金属層とを備え、
前記正極側金属層及び前記接地側金属層は、それぞれ表面積が等しい同形状とされ、
前記表面積は、前記正極側金属層と前記接地側金属層とによって形成されるコンデンサの静電容量が前記負極側コンデンサの静電容量と等しくなるように設定されることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記接地部材は、前記絶縁基板と接合される冷却器であることを特徴とする請求項1記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記パワー半導体素子を複数備え、前記電源から供給される直流電力を多相交流電力へと変換する変換回路を備え、
前記正極側金属層及び前記接地側金属層は、交流電力の各相に対応する複数の前記パワー半導体素子ごとに設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の電力変換装置。」


第5 引用例

1 引用例に記載された事項及び引用発明

原査定の拒絶の理由において引用した、本願の出願前に既に公知である、特開2015−122342号公報(平成27年7月2日公開。以下、これを「引用例」という。)には、関連する図面と共に、次の事項が記載されている。

(1)「【背景技術】
【0002】
半導体素子のスイッチング動作に伴い発生する放射ノイズを低減することを目的として、半導体素子とシャーシ導体間に静電容量成分を設ける場合がある。この場合、半導体素子の正極側と負極側とで静電容量が平衡に設けられる場合がある。このような静電容量成分は対地間コンデンサとも呼ばれる。ところが、半導体素子とシャーシ導体間の静電容量が正極側と負極側で不平衡になると逆に放射ノイズが増加してしまうという問題がある。」

(2)「【0015】
(実施の形態1)
まず、図1〜図5を参照して、本発明の実施の形態1に係る半導体モジュール1および電力変換装置51について説明する。はじめに、図1を参照して、実施の形態1に係る電力変換装置51の回路図の一例を説明する。実施の形態1に係る電力変換装置51は、直流電源52から入力された直流電力を交流化して、モータ53等に供給することができる。電力変換装置51は、たとえばインバータとして、3つのセミブリッジ回路が並列に接続されて構成されている。具体的には、電力変換装置51は、上アームの半導体素子56a、56b、56cおよび下アームの半導体素子57a、57b、57cを備える。半導体素子56aと半導体素子57aとは直列接続されて第1のセミブリッジ回路を構成している。半導体素子56bと半導体素子57bとは直列接続されて第2のセミブリッジ回路を構成している。半導体素子56cと半導体素子57cとは直列接続されて第3のセミブリッジ回路を構成している。これら第1のセミブリッジ回路〜第3のセミブリッジ回路は並列に接続されて、3相のインバータ回路を構成している。各半導体素子56、57は、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)、サイリスタなど任意の半導体素子とすることができるが、たとえばMOS型電界効果トランジスタ(MOSFET)である。各半導体素子には、それぞれ並列にダイオードが接続されている。上アームの半導体素子のドレイン側は直流電源52の正極側に接続され、下アームの半導体素子のソース側は直流電源52の負極側に接続されている。上アームの半導体素子と下アームの半導体素子の接続部はモータ53に接続されている。
【0016】
電力変換装置51の各セミブリッジ回路は、半導体モジュール1として構成されている。図2は、電力変換装置51を構成する半導体モジュール1の実装状態を示す鳥瞰図である。半導体モジュール1は、導電部材としてのシャーシ導体2上に実装されている。半導体モジュール1は、たとえば正極側導体3、負極側導体4、中間側導体5とを備え、各導体は半導体モジュール1の内部から外部に引き出されている。シャーシ導体2は、放熱性の高い任意の材料で構成されていればよいが、たとえば銅やアルミニウム等で構成されていればよい。」

(3)「【0018】
半導体モジュール1は、たとえば第1の半導体素子としての上アームの半導体素子6(6a,6b)と、第2の半導体素子としての下アームの半導体素子7(7a,7b)とを備えている。半導体素子6のドレイン電極は、直流電源52の正極側に接続されている正極側導体3に、半導体素子7のソース電極は、直流電源52の負極側に接続されている負極側導体4にそれぞれ接続されている。モータ53に接続されている中間側導体5に、半導体素子6のソース電極および半導体素子7のドレイン電極は、それぞれ接続されている。また、シャーシ導体2は接地されている。正極側導体3、負極側導体4、および中間側導体5は、導電性を有する任意の材料により構成すればよいが、たとえば銅、銀、またははんだ等により構成されている。
【0019】
半導体モジュール1において、上アームの半導体素子6は第1電極としての正極側ベース電極8上に搭載されている。このとき、半導体素子6のドレイン電極は正極側ベース電極8と接合されており、正極側ベース電極8は正極側導体3と接合されている。これにより、上述のように、半導体素子6のドレイン電極は直流電源52の正極側に接続されている。また、下アームの半導体素子7は、第2電極としての中間側ベース電極9上に搭載されている。このとき、半導体素子7のドレイン電極は中間側ベース電極9と接合されており、中間側ベース電極9は中間側導体5と接合されている。つまり、中間側導体5は、上述のように上アームの半導体素子6のソース電極と接合されているとともに、下アームの半導体素子7のドレイン電極と接合されている中間側ベース電極9と接合されており、これにより半導体素子6と半導体素子7とを直列に接続している。
【0020】
正極側ベース電極8および中間側ベース電極9を構成する材料は、導電性を有する任意の材料とすればよいが、たとえば、銅、銀、またははんだ等などである。正極側ベース電極8および中間側ベース電極9は、シャーシ導体2上に形成されている第1絶縁体10上に設けられている。
【0021】
第1絶縁体10を構成する材料は、電気的絶縁性を有する任意の材料から選択することができ、たとえばエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの樹脂系材料、チタン酸バリウム、アルミナ等のセラミック系材料等である。第1絶縁体10を構成する材料およびその膜厚は、第1絶縁体10に求められる誘電率に応じて適宜設定することができる。なお、本実施の形態のようにパワー半導体素子を用いる場合には、シャーシ導体2への放熱性を高める観点から第1絶縁体10の膜厚を薄く形成するのが一般的である。
【0022】
正極側ベース電極8および中間側ベース電極9は、第1絶縁体10を介してシャーシ導体2と接続されていることにより、それぞれ正極側静電容量101と中間側静電容量102とを形成している。正極側静電容量101と中間側静電容量102とは、第1絶縁体10が同一の材料でかつ同等の膜厚で形成されており、かつ、正極側ベース電極8と中間側ベース電極9とが同等の面積で形成されていることにより、それぞれの静電容量値を同等とすることができる。
【0023】
シャーシ導体2上において、第1絶縁体10が形成されていない領域には接地電極11が形成されている。つまり、接地電極11は、シャーシ導体2を介して接地されている。接地電極11を構成する材料は、導電性を有する任意の材料とすればよいが、たとえば銅である。
【0024】
負極側導体4と接地電極11との間はコンデンサ素子100を介して接続されている。コンデンサ素子100は、所定の静電容量を有するものとして選択されている。具体的には、図4および図5を参照して、コンデンサ素子100の静電容量値は、第1絶縁体10を介して接続されている正極側ベース電極8とシャーシ導体2との間に形成される正極側静電容量101の静電容量値の±10%以内であるように選択される。つまり、コンデンサ素子100の静電容量値は、正極側静電容量101を基準として一般的なコンデンサの静電容量値の誤差範囲内に収まっていればよい。なお、図3を参照して、コンデンサ素子100は、複数のコンデンサ素子100a、100b、100c、100dにより構成されていてもよい。各コンデンサ素子100a、100b、100c、100dは、たとえば負極側導体4と接地電極11との間に互いに並列に接続されている。この場合、正極側静電容量101の静電容量値に対する、コンデンサ素子100a、100b、100c、100dの静電容量値の合計値の比が0.9以上1.1以下であるように設けられていればよい。」

(4)「【0032】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2に係る半導体モジュールおよび電力変換装置51について説明する。図6を参照して、実施の形態2に係る半導体モジュールおよび電力変換装置は、基本的には実施の形態1に係る半導体モジュールおよび電力変換装置51と同様の構成を備えるが、半導体モジュール1において接地電極11がシャーシ導体2とコンデンサ素子100との間、およびシャーシ導体2と第1絶縁体10との間に形成されている点で異なる。」

(5)「図2



(6)「図4



(7)「図5



(8)「図6



(9)以上、上記記載事項(1)〜(8)(特に下線部)から、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「半導体素子のスイッチング動作に伴い発生する放射ノイズを低減することを目的として、半導体素子の正極側と負極側とで静電容量が平衡となるように設け(【0002】)、直流電源52から入力された直流電力を交流化して、モータ53等に供給することができる電力変換装置51であって、上アームの半導体素子56a、56b、56cおよび下アームの半導体素子57a、57b、57cを備え、各半導体素子56、57は、MOS型電界効果トランジスタ(MOSFET)であり、上アームの半導体素子のドレイン側は直流電源52の正極側に接続され、下アームの半導体素子のソース側は直流電源52の負極側に接続され(【0015】、図4、図5)、電力変換装置51の各セミブリッジ回路は半導体モジュール1として構成され、半導体モジュール1は導電部材としてのシャーシ導体2上に実装され(【0016】、図2)、
半導体モジュール1は、第1の半導体素子としての上アームの半導体素子6と、第2の半導体素子としての下アームの半導体素子7とを備え、半導体素子6のドレイン電極は、直流電源52の正極側に接続されている正極側導体3に、半導体素子7のソース電極は、直流電源52の負極側に接続されている負極側導体4にそれぞれ接続され(【0018】)、
半導体モジュール1において、上アームの半導体素子6は第1電極としての正極側ベース電極8上に搭載され、下アームの半導体素子7は、第2電極としての中間側ベース電極9上に搭載され、半導体素子6のドレイン電極は正極側ベース電極8と接合されており、正極側ベース電極8は正極側導体3と接合され(【0019】)、
正極側ベース電極8および中間側ベース電極9は、シャーシ導体2上に形成されている第1絶縁体10上に設けられ(【0020】)、正極側ベース電極8および中間側ベース電極9は、第1絶縁体10を介してシャーシ導体2と接続されていることにより、それぞれ正極側静電容量101と中間側静電容量102とを形成していて、正極側静電容量101と中間側静電容量102とは、第1絶縁体10が同一の材料でかつ同等の膜厚で形成されており、かつ、正極側ベース電極8と中間側ベース電極9とが同等の面積で形成されていることにより、それぞれの静電容量値を同等とすることができ(【0022】)、
シャーシ導体2上には接地電極11が形成され、接地電極11は、シャーシ導体2を介して接地され(【0023】)、
負極側導体4と接地電極11との間はコンデンサ素子100を介して接続され、コンデンサ素子100の静電容量値は、第1絶縁体10を介して接続されている正極側ベース電極8とシャーシ導体2との間に形成される正極側静電容量101の静電容量値の±10%以内であるように選択され、正極側静電容量101の静電容量値に対する、コンデンサ素子100a、100b、100c、100dの静電容量値の合計値の比が0.9以上1.1以下であるように設けられ(【0024】)、
半導体モジュール1において接地電極11がシャーシ導体2とコンデンサ素子100との間、およびシャーシ導体2と第1絶縁体10との間に形成されている(【0032】、図6)
電力変換装置。」


第6 対比・判断

1 本願発明1について

(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「直流電源52」、「MOS型電界効果トランジスタ(MOSFET)であ」る「半導体素子56、57」及び「電力変換装置」は、それぞれ本願発明1の「電源」、「パワー半導体素子」及び「電力変換装置」に相当する。
引用発明の「負極側導体4と接地電極11との間」に接続される「コンデンサ素子100」は、本願発明1の「負極側コンデンサ」に対応するものといえるところ、当該「負極側導体4」は、「直流電源52の負極側に接続され」、引用発明の「接地電極11」は、「シャーシ導体2を介して接地され」ていることから、引用発明の「コンデンサ素子100」は、本願発明1の「一端が電源の負極側と接続され、他端が接地に接続される負極側コンデンサ」に相当するものといえる。

イ 引用発明の「第1絶縁体10」は、「半導体モジュール1」の「正極側ベース電極8および中間側ベース電極9」が設けられ、また、当該「正極側ベース電極8および中間側ベース電極9」の上にはそれぞれ、「半導体モジュール1」の「上アームの半導体素子6」及び「下アームの半導体素子7」が「搭載」されるものであることから、引用発明の「第1絶縁体10」は、本願発明1の「パワー半導体素子が実装される絶縁基板」に相当するものといえる。

ウ 上記ア及びイの認定を踏まえると、引用発明と本願発明1とは、“一端が電源の負極側と接続され、他端が接地に接続される負極側コンデンサと、パワー半導体素子が実装される絶縁基板とを備える電力変換装置”である点で一致する。

エ 「正極側ベース電極8および中間側ベース電極9」は、「シャーシ導体2上に形成されている第1絶縁体10上に設けられ、正極側ベース電極8および中間側ベース電極9は、第1絶縁体10を介してシャーシ導体2と接続されていることにより、それぞれ正極側静電容量101と中間側静電容量102とを形成」することから、当該「正極側ベース電極8」は、上記イの「絶縁基板」に関する対比を踏まえると、本願発明1の「前記絶縁基板」の「一方の面に形成される」「正極側金属層」に相当するものといえる。

オ また、引用発明の「上アームの半導体素子6…中略…のドレイン電極は、直流電源52の正極側に接続されている正極側導体3に…中略…接続され」るとともに、「半導体素子6のドレイン電極は正極側ベース電極8と接合されており、正極側ベース電極8は正極側導体3と接合されている」ことから、当該「正極側ベース電極8」は、「半導体素子6」に接合されているといえ、上記アの「パワー半導体素子」に関する対比、及び上記エの認定も踏まえると、引用発明と本願発明1とは、“前記絶縁基板は、一方の面に形成されると共に前記パワー半導体素子が接合される正極側金属層”を備える点で一致する。

カ 引用発明の「接地電極11」は、「シャーシ導体2を介して接地され」るところ、「シャーシ導体2と第1絶縁体10との間に形成されている」ことから、上記イの「絶縁基板」に関する対比を踏まえると、本願発明1の「前記絶縁基板」の「他方の面」に「形成される」「接地部材と電気的に接続される接地側金属層」に相当するものといえる。
そして、引用発明の「正極側ベース電極8および中間側ベース電極9」が、「第1絶縁体10を介してシャーシ導体2と接続されていることにより、それぞれ正極側静電容量101と中間側静電容量102とを形成」するものであるところ、「接地電極11」が、「シャーシ導体2を介して接地され」るものであることを踏まえると、当該「接地電極11」は、「第1絶縁体10」上に形成された「正極側ベース電極8」に対応する位置に形成されているといえるから、「第1絶縁体10」の“他方の面において前記正極側金属層と対応する位置に形成され”たものといえる。

キ 上記オ及びカの認定を踏まえると、引用発明と本願発明1とは、“前記絶縁基板は、一方の面に形成されると共に前記パワー半導体素子が接合される正極側金属層と、他方の面において前記正極側金属層と対応する位置に形成されると共に接地部材と電気的に接続される接地側金属層とを備える”点で一致する。

ク 以上、ア〜キの検討から、引用発明と本願発明1とは、次の一致点及び相違点を有する。

〈一致点〉
一端が電源の負極側と接続され、他端が接地に接続される負極側コンデンサと、パワー半導体素子が実装される絶縁基板とを備える電力変換装置であって、
前記絶縁基板は、一方の面に形成されると共に前記パワー半導体素子が接合される正極側金属層と、他方の面において前記正極側金属層と対応する位置に形成されると共に接地部材と電気的に接続される接地側金属層とを備えることを特徴とする電力変換装置。

〈相違点1〉
本願発明1が、「前記正極側金属層及び前記接地側金属層は、それぞれ表面積が等しい同形状とされ」ているのに対し、引用発明の「正極側ベース電極8」及び「接地電極11」がそのような表面積及び形状であることが特定されていない点。

〈相違点2〉
本願発明1が、「前記表面積は、前記正極側金属層と前記接地側金属層とによって形成されるコンデンサの静電容量が前記負極側コンデンサの静電容量と等しくなるように設定され」ているのに対し、引用発明は、「正極側ベース電極8」の表面積により正極側金属層及び接地側金属層によって形成されるコンデンサの静電容量が、「コンデンサ素子100」の静電容量と等しくなるように設定されていることは特定されていない点。

(2)当審の判断
相違点1及び2は、共に絶縁基板が備える正極側金属層及び接地側金属層によって形成されるコンデンサの静電容量値に係るものであるので、まとめて検討する。
引用発明は、「正極側ベース電極8と中間側ベース電極9とが同等の面積で形成されていることにより、それぞれの静電容量値を同等とすることができ」るものであるものの、本願発明1の「負極側コンデンサ」に対応する引用発明の「コンデンサ素子100」は、「正極側静電容量101の静電容量値に対する、コンデンサ素子100a、100b、100c、100dの静電容量値の合計値の比が0.9以上1.1以下であるように設けられ」るようにして、「半導体素子の正極側と負極側とで静電容量が平衡となるように」しており、また引用例には、引用発明と本願発明1との間の上記相違点1及び2に係る構成、すなわち、正極側金属層及び接地側金属層をそれぞれ表面積が等しい同形状とし、前記表面積を、前記正極側金属層と前記接地側金属層とによって形成されるコンデンサの静電容量が負極側コンデンサの静電容量と等しくなるように設定することの開示も示唆も無く、当業者といえども、当該相違点1及び2に係る構成を導き出すことは容易とはいえず、また、相違点1及び2に係る構成は、本願の出願前に周知な構成ともいえない。
したがって、本願発明1は、当業者であっても、引用例に記載された引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2及び3について
本願発明2及び3は、本願発明1を直接または間接的に引用するものであることから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用例に記載された引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。


第7 原査定について

1 理由1(特許法29条1項3号)について
本件補正により、本願発明1〜3は上記第4に示したとおりのものとなっており、上記第6 1(1)クに示した相違点1及び2の点で相違し、拒絶査定において引用された引用文献1(引用例)に記載された発明とは異なる。したがって、原査定の理由1を維持することはできない。

2 理由2(特許法29条2項)について
本件補正により、本願発明1〜3は上記第4に示したとおりのものとなっており、上記第6において判断したとおり、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。したがって、原査定の理由2を維持することはできない。


第8 むすび

以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2023-10-31 
出願番号 P2018-228274
審決分類 P 1 8・ 113- WY (H02M)
P 1 8・ 121- WY (H02M)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 須田 勝巳
特許庁審判官 山崎 慎一
吉田 美彦
発明の名称 電力変換装置  
代理人 弁理士法人志賀国際特許事務所  

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