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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A01N
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  A01N
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  A01N
審判 全部申し立て 発明同一  A01N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A01N
管理番号 1404800
総通号数 24 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-01-26 
確定日 2023-10-03 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第7111877号発明「害虫、ダニ防除用エアゾール、及び害虫、ダニ防除方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7111877号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜9〕について訂正することを認める。 特許第7111877号の請求項1〜9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7111877号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜9に係る特許についての出願は、令和3年10月22日(国内優先権主張 令和2年10月28日及び令和3年4月21日)に出願され、令和4年7月25日に特許権の設定登録がされ、令和4年8月2日に特許掲載公報が発行され、その請求項1〜9に係る発明の特許に対し、令和5年1月26日に平松由紀子(以下「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
特許異議の申立て以後の手続の経緯は次のとおりである。
令和5年 4月 7日付け 取消理由通知
同年 6月 8日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 6月30日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 7月26日 意見書(特許異議申立人)

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
令和5年6月8日付けの訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の「請求の趣旨」は『特許第7111877号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜9について訂正することを求める。』というものであり、その内容は、以下の訂正事項1〜8からなるものである(なお、下線は当審による。以下同じ。)。

(1)訂正事項1
訂正前の請求項1の「定量噴霧用エアゾールバルブを備えた害虫、ダニ防除用エアゾールであって、耐圧容器に、ペルメトリン、シフルトリン、フェノトリン、及びシフェノトリンからなる群から選択される一つの害虫、ダニ防除成分(a)、及び沸点が175〜300℃である飽和炭化水素系有機溶剤(b)からなるエアゾール原液(L)と、噴射剤(G)と、が封入されてなり、前記噴射剤(G)と前記飽和炭化水素系有機溶剤(b)との容量比率(G/b)が、4.5〜50に設定されており、前記定量噴霧用エアゾールバルブから噴霧される噴霧粒子は、25℃、噴射距離50cmにおける体積平均粒子径(Dv50)が、15〜40μmに設定されている害虫、ダニ防除用エアゾール。」との記載を、
訂正後の請求項1の「定量噴霧用エアゾールバルブを備えた害虫、ダニ防除用エアゾール製品であって、耐圧容器に、害虫、ダニ防除成分であるペルメトリン(a)、及び沸点が180〜235℃である飽和炭化水素系有機溶剤(b)のみからなるエアゾール原液(L)と、噴射剤(G)と、が封入されてなり、前記害虫は、チャバネゴキブリ、ワモンゴキブリ、クロゴキブリ、又はトコジラミであり、前記ダニは、ケナガコナダニ、コナヒョウヒダニ、ヤケヒョウヒダニ、又はツメダニであり、前記噴射剤(G)と前記飽和炭化水素系有機溶剤(b)との容量比率(G/b)が、4.5〜50に設定されており、前記定量噴霧用エアゾールバルブから噴霧される噴霧粒子は、25℃、噴射距離50cmにおける体積平均粒子径(Dv50)が、15〜40μmに設定されている害虫、ダニ防除用エアゾール製品。」との記載に訂正する。
(請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2〜9も同様に訂正する。)

(2)訂正事項2〜8
訂正前の請求項2〜8の「害虫、ダニ防除用エアゾール」との記載部分を、
訂正後の請求項2〜8の「害虫、ダニ防除用エアゾール製品」との記載に訂正する。

2.本件訂正による訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア エアゾール製品の訂正について
訂正事項1のうち、訂正前の請求項1の「定量噴霧用エアゾールバルブを備えた害虫、ダニ防除用エアゾールであって」との記載部分を「定量噴霧用エアゾールバルブを備えた害虫、ダニ防除用エアゾール製品であって」との記載に改める訂正、
及び訂正前の請求項1の「害虫、ダニ防除用エアゾール。」との記載部分を「害虫、ダニ防除用エアゾール製品。」との記載に改める訂正について、
これらの訂正は、訂正前の請求項1に記載の「エアゾール」という用語が、例えば、甲第2号証(特開2021−109842号公報)の請求項7の「1回の噴射操作によって前記エアゾール容器内の前記コバエ駆除用エアゾール剤を一定量だけ噴射する定量噴射バルブを備えていることを特徴とするコバエ駆除用エアゾール製品。」との記載にある「エアゾール容器」と「エアゾール剤」と「エアゾール製品」との用語のうち、何れの用語を意味するのか明瞭でないという記載上の不備について、その本来の意が「エアゾール製品」であることを明らかにするための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

そして、訂正前の請求項1に記載の「害虫、ダニ防除用エアゾール」が「定量噴霧用エアゾールバルブを備えた」ものとして特定されていることや、本件特許明細書の段落0051の「本発明の構成を備えたエアゾール製品(実施例1〜10)を調製」との記載からみて、設定登録時の特許請求の範囲に記載された「エアゾール」という用語の本来の意が「エアゾール製品」にあることが明らかであるから、
これらの訂正は、当業者によって、設定登録時の明細書又は特許請求の範囲のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、訂正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであって、特許法第120の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

また、これらの訂正は、訂正前の請求項1の記載について、その記載本来の意味内容を明らかにするための「明瞭でない記載の釈明」のみを目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

イ エアゾール原液(L)の訂正について
訂正事項1のうち、訂正前の請求項1の「ペルメトリン、シフルトリン、フェノトリン、及びシフェノトリンからなる群から選択される一つの害虫、ダニ防除成分(a)、及び沸点が175〜300℃である飽和炭化水素系有機溶剤(b)からなるエアゾール原液(L)と、」との記載部分を「害虫、ダニ防除成分であるペルメトリン(a)、及び沸点が180〜235℃である飽和炭化水素系有機溶剤(b)のみからなるエアゾール原液(L)と、」との記載に改める訂正は、
訂正前の請求項1の「ペルメトリン、シフルトリン、フェノトリン、及びシフェノトリンからなる群から選択される一つの害虫、ダニ防除成分(a)」との記載部分を「害虫、ダニ防除成分であるペルメトリン(a)」との記載に改めることにより、その「害虫、ダニ防除成分(a)」の範囲を、訂正前の「ペルメトリン、シフルトリン、フェノトリン、及びシフェノトリンからなる群から選択される一つ」という択一的な選択肢のうちの「ペルメトリン」のみに限定して減縮し、
訂正前の請求項1の「沸点が175〜300℃である飽和炭化水素系有機溶剤(b)」との記載部分を「沸点が180〜235℃である飽和炭化水素系有機溶剤(b)」との記載に改めることにより、その「飽和炭化水素系有機溶剤(b)」の範囲を、訂正前の「沸点が175〜300℃」のものから、訂正後の「沸点が180〜235℃」のものに限定して減縮し、
訂正前の請求項1の「からなる」との記載部分を「のみからなる」との記載に改めることにより、エアゾール原液(L)が、所定の(a)と(b)の成分のみからなるものに限定して減縮するための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
そして、これらの訂正は、本件特許明細書の段落0067の表1に、成分(a)としての「ペルメトリン」と、成分(b)としての「沸点180℃」の「イソドデカン」又は「沸点235℃」の「ノルマルトリデカン」のみからなる実施例1、2及び8〜10の記載に根拠があるから、新規事項を導入するものではなく、特許法第120の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
また、これらの訂正は「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ 害虫とダニの種類の訂正について
訂正事項1のうち、訂正前の請求項1の記載に「前記害虫は、チャバネゴキブリ、ワモンゴキブリ、クロゴキブリ、又はトコジラミであり、前記ダニは、ケナガコナダニ、コナヒョウヒダニ、ヤケヒョウヒダニ、又はツメダニであり、」という発明特定事項を追加する訂正は、本件特許明細書の段落0050の「本発明の害虫、ダニ防除用エアゾール…が対象とする害虫は、…チャバネゴキブリ、ワモンゴキブリ、クロゴキブリ等のゴキブリ類、トコジラミ類…などの匍匐害虫、及びケナガコナダニ、コナヒョウヒダニ、ヤケヒョウヒダニ、ツメダニ等の屋内塵性ダニ類が挙げられる。」との記載を根拠にするものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」を目的として訂正するものに該当する。
また、この訂正は「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、この訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、なおかつ、特許法第120の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2〜8について
訂正事項2〜8は、訂正前の請求項2〜8の「エアゾール」との記載部分を「エアゾール製品」との記載に改める訂正からなり、これらの訂正は、上記(1)アに示した理由と同様に、訂正前の請求項2〜8に記載の「エアゾール」という用語の本来の意が「エアゾール製品」であることを明らかにするための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当し、なおかつ、新規事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもないから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(3)一群の請求項について
訂正事項1に係る訂正前の請求項1〜9について、その請求項2〜9はいずれも直接又は間接的に請求項1を引用するものであるから、訂正前の請求項1〜9に対応する訂正後の請求項1〜9は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

3.まとめ
以上総括するに、訂正事項1〜8による本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、なおかつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1〜9〕について訂正を認める。

第3 本件発明
本件訂正により訂正された請求項1〜9に係る発明(以下「本1発明」〜「本9発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
定量噴霧用エアゾールバルブを備えた害虫、ダニ防除用エアゾール製品であって、
耐圧容器に、
害虫、ダニ防除成分であるペルメトリン(a)、及び沸点が180〜235℃である飽和炭化水素系有機溶剤(b)のみからなるエアゾール原液(L)と、
噴射剤(G)と、
が封入されてなり、
前記害虫は、チャバネゴキブリ、ワモンゴキブリ、クロゴキブリ、又はトコジラミであり、
前記ダニは、ケナガコナダニ、コナヒョウヒダニ、ヤケヒョウヒダニ、又はツメダニであり、
前記噴射剤(G)と前記飽和炭化水素系有機溶剤(b)との容量比率(G/b)が、4.5〜50に設定されており、
前記定量噴霧用エアゾールバルブから噴霧される噴霧粒子は、25℃、噴射距離50cmにおける体積平均粒子径(Dv50)が、15〜40μmに設定されている害虫、ダニ防除用エアゾール製品。
【請求項2】
前記エアゾール原液(L)と前記噴射剤(G)との容量比率(L/G)が、0.05〜1に設定されている請求項1に記載の害虫、ダニ防除用エアゾール製品。
【請求項3】
前記飽和炭化水素系有機溶剤(b)は、ノルマルパラフィン及び/又はイソパラフィンを含む請求項1又は2に記載の害虫、ダニ防除用エアゾール製品。
【請求項4】
前記ノルマルパラフィンは、ノルマルトリデカンである請求項3に記載の害虫、ダニ防除用エアゾール製品。
【請求項5】
前記イソパラフィンは、イソドデカンである請求項3又は4に記載の害虫、ダニ防除用エアゾール製品。
【請求項6】
屋内空間に一定量空間噴霧する定量噴射型エアゾールとして構成され、前記屋内空間の容積は18.8〜33.3m3である請求項1〜5の何れか一項に記載の害虫、ダニ防除用エアゾール製品。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載の害虫、ダニ防除用エアゾール製品を用いた害虫、ダニ防除方法であって、
屋内空間に一定量空間噴霧することにより、当該屋内空間を防除処理する処理工程を実施する害虫、ダニ防除方法。
【請求項8】
前記処理工程において、前記定量噴霧用エアゾールバルブを複数回押すことにより、前記害虫、ダニ防除用エアゾール製品を空間噴霧する請求項7に記載の害虫、ダニ防除方法。
【請求項9】
前記処理工程において、前記エアゾール原液(L)及び前記噴射剤(G)を合計0.1〜3.6mL空間噴霧する請求項7又は8に記載の害虫、ダニ防除方法。」

第4 取消理由通知の概要
令和5年4月7日付けの取消理由通知で通知された取消理由は、次の理由1〜3からなるものである。
〔理由1〕本件特許の請求項1〜9に係る発明は、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された、以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
甲第1号証:国際公開第2020/111071号
甲第3号証:特開2014−30391号公報
甲第4号証:井口辰興ほか1名、“■家庭の環境衛生■ エアゾール概説およびエアゾール殺虫剤について”、家庭用殺虫剤概論III、日本家庭用殺虫剤工業会、2006年改訂、第28〜33頁
甲第5号証:津田重典、“エーロゾル製剤の物理特性と殺虫効力”、日本農薬学会誌、第16巻第3号、平成3年8月、第533〜543頁
甲第6号証:特開2006−325489号公報
甲第8号証:2017年版 16817の化学商品、化学工業日報社、2017年1月31日発行、第1797頁
甲第9号証:津田重典ほか2名、“油性エーロゾル殺虫製剤の噴霧粒子径の殺虫効力に及ぼす効果*”、日本農薬学会誌、第12巻第3号、昭和62年8月、第483〜489頁
よって、本件特許の請求項1〜9に係る発明に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定に該当し取り消されるべきものである。

〔理由2〕本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
『(2)本件特許明細書の実施例1〜10において、ペルメトリン及びシフェノトリンからなる群から選択される一つの害虫、ダニ防除成分(a)を用いて、チャバネゴキブリ、トコジラミ、及びコナヒョウヒダニに対して、A又はBの評価の防除性能が得られることが具体的な試験結果によって裏付けられているとしても、具体的な試験結果による裏付けのない防除成分(a)の選択肢と防除対象の害虫の組み合わせについては、本件特許の出願時の技術常識を参酌しても、上記「簡単な空間噴霧処理で種々の害虫に対して優れた防除効果を発揮する害虫、ダニ防除用エアゾールの提供」という課題を解決できると当業者が認識できる範囲にあるとはいえない。』
よって、本件特許の請求項1〜9に係る発明に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定に該当し取り消されるべきものである。

〔理由3〕本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。
『(1)本件請求項1の「定量噴霧用エアゾールバルブを備えた害虫、ダニ防除用エアゾールであって」との記載は、噴射されるコロイド系それ自体がエアゾールバルブを備えるものとして発明を特定しているので、その技術的な内容が明確ではない。
(2)本件請求項1の「からなる」との記載は、具体的に「のみからなる」を意味するのか、或いは「を含む」を意味するのか、その意味するところが明確ではない。』
よって、本件特許の請求項1〜9に係る発明に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定に該当し取り消されるべきものである。

第5 当審の判断
事案に鑑み、以下、令和5年4月7日付けの取消理由通知書で通知した〔理由3〕、〔理由2〕、及び〔理由1〕の順に検討し、その後に特許異議申立書で申し立てられた、申立理由1、申立理由3、及び申立理由2の順に検討する。

1.理由3(明確性要件)について
(1)訂正前の請求項1の「定量噴霧用エアゾールバルブを備えた害虫、ダニ防除用エアゾールであって」との記載は、本件訂正により「定量噴霧用エアゾールバルブを備えた害虫、ダニ防除用エアゾール製品であって」との記載に改められ、噴射されるコロイド系それ自体がエアゾールバルブを備えるものとして発明を特定する記載がなくなったので、本件訂正後の請求項1及びその従属項の記載に不明確な点はない。

(2)訂正前の請求項1の「からなる」との記載は、本件訂正により「のみからなる」との記載に改められ、その意味するところが明確になったので、本件訂正後の請求項1及びその従属項の記載に不明確な点はない。

(3)したがって、本件訂正による訂正後の請求項1〜9の記載は、特許を受けようとする発明が明確であり、特許法第36条第6項第2号に適合するから、上記〔理由3〕の点に理由はない。

2.理由2(サポート要件)について
訂正前の請求項1の「害虫、ダニ防除用エアゾール」の防除対象とされる害虫及びダニの種類は、本件訂正により、害虫の種類は「チャバネゴキブリ、ワモンゴキブリ、クロゴキブリ、又はトコジラミ」に、ダニの種類は「ケナガコナダニ、コナヒョウヒダニ、ヤケヒョウヒダニ、又はツメダニ」に限定され、訂正前の「害虫、ダニ防除成分(a)」の種類は「ペルメトリン」に限定されている。
してみると、本件訂正後の請求項1及びその従属項の記載は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、実施例1〜2及び8〜10の具体的な試験結果による裏付けから、拡張ないし一般化できるといえる程度にまで、防除成分(a)の種類と、防除対象の害虫の種類とが限定されており、本件訂正後の請求項1及びその従属項の記載は、本件特許明細書の段落0010の記載を含む発明の詳細な説明の記載から把握される「簡単な空間噴霧処理で種々の害虫に対して優れた防除効果を発揮する害虫、ダニ防除用エアゾールの提供」という課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるといえる。
したがって、本件訂正による訂正後の請求項1〜9の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものであり、特許法第36条第6項第1号に適合するから、上記〔理由2〕の点に理由はない。

3.理由1(進歩性)について
(1)甲第1、5及び8号証の記載事項
ア 甲第1号証には、次の記載がある。
摘記1a:請求項1〜5
「[請求項1] 対象空間に対して、エアゾール組成物を噴射して匍匐害虫を防除する、匍匐害虫の防除方法であり、
原液と噴射剤とを、配合割合(体積比)が5:95〜40:60となるよう含むエアゾール組成物が充填されたエアゾール容器と、前記エアゾール容器に取り付けられた定量噴射用エアゾールバルブと、前記定量噴射用エアゾールバルブを介して前記エアゾール容器に取り付けられ、前記エアゾール組成物を噴射するための噴口が先端に形成され、一端に前記噴口が形成された直線状の噴射通路が形成された噴射ノズルを含む噴射部材と、を備え、前記噴口の噴口径R(mm)と、前記噴射通路の長さL(mm)との比率(L/R)が6.9を超え、75未満であるエアゾール装置を用いて、前記噴口から前記エアゾール組成物を噴射する、匍匐害虫の防除方法。
[請求項2] 前記噴射通路の長さL(mm)が36を超える前記エアゾール装置を用いて、前記噴口から前記エアゾール組成物を噴射する、請求項1記載の匍匐害虫の防除方法。
[請求項3] 縦360cm×横360cm×高さ250cmの空間において、壁の高さ150cmの位置に直径9cmの金属シャーレを床面に対して垂直に取り付け、水平方向50cmの距離から1mLのエアゾール組成物を2回噴射した直後にシャーレに付着した有効成分の付着率が10〜75%となる条件で、対象空間に対して噴射する、請求項1または2記載の匍匐害虫の防除方法。
[請求項4] 前記匍匐害虫が、クモであり、
前記クモを防除するために前記エアゾール装置を用いて、前記噴口から前記エアゾール組成物を噴射する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の匍匐害虫の防除方法。
[請求項5] 原液および噴射剤を含むエアゾール組成物が充填されたエアゾール容器と、前記エアゾール容器に取り付けられた定量噴射用エアゾールバルブと、前記定量噴射用エアゾールバルブを介して前記エアゾール容器に取り付けられ、前記エアゾール組成物を噴射するための噴口が先端に形成された噴射ノズルを含む噴射部材と、を備え、
前記噴射部材は、一端に前記噴口が形成された直線状の噴射通路が形成されており、
前記噴口の噴口径R(mm)と、前記噴射通路の長さL(mm)との比率(L/R)が6.9を超え、75未満であり、
前記原液と前記噴射剤との配合割合(体積比)が5:95〜40:60である、匍匐害虫防除用エアゾール装置。」

摘記1b:段落0012〜0013及び0040
「[0012] <定量噴射型エアゾール装置>
図1は、本実施形態の定量噴射型エアゾール装置(以下、単にエアゾール装置1ともいう)の模式的な側面図である。本実施形態のエアゾール装置1は、原液および噴射剤を含むエアゾール組成物が充填されたエアゾール容器2と、エアゾール容器2に取り付けられた定量噴射用エアゾールバルブ(以下、単にエアゾールバルブ3ともいう)と、エアゾールバルブ3を介してエアゾール容器2に取り付けられる噴射部材4とを備える。噴射部材4は、エアゾール組成物を噴射するための噴口51が先端に形成された噴射ノズル5が取り付けられている。噴射部材は、一端に噴口51が形成された直線状の噴射通路が形成されている。噴口の噴口径R(mm)(図2参照)と、噴射通路の長さL(mm)との比率(L/R)は6.9を超え、75未満である。原液と噴射剤との配合割合(体積比)は5:95〜40:60である。
[0013](エアゾール容器2)
エアゾール容器2は、エアゾール組成物を加圧充填するための耐圧容器である。エアゾール容器2は、内部にエアゾール組成物が充填される空間が形成された概略筒状の容器である。エアゾール容器2の上部には開口が設けられている。開口は、後述するエアゾールバルブ3によって密封される。…
[0040]噴射されたエアゾール組成物の平均粒子径(D50)は特に限定されない。一例を挙げると、平均粒子径(D50)は、10μm以上となるよう噴射されることが好ましく、15μm以上となるよう噴射されることがより好ましい。また、平均粒子径(D50)は、80μm以下となるよう噴射されることが好ましく、70μm以下となるよう噴射されることがより好ましい。平均粒子径(D50)が上記範囲内に調整されることにより、本実施形態の防除方法は、匍匐害虫を防除しやすい。なお、本実施形態において、平均粒子径(D50)は、粒度分布測定装置により測定され、自動演算処理装置により解析されたD50(累積50%)を意味する。具体的には、平均粒子径(D50)は、25℃において、レーザー粒度分布測定装置(LDSA−1400A、東日コンピュータアプリケーションズ(株)製)を用いて、オート・スタート平均(平均化回数3回、間隔0.60ms)とし、30cmの位置における平均粒子径を指す。」

摘記1c:段落0045〜0047、0049〜0051及び0055
「[0045]以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。なお、特に制限のない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
[0046]使用したエアゾール装置の詳細を以下に示す。
・エアゾール装置1:噴射部材(噴口径R:φ1.6mm、噴射通路の長さL:11mm、噴口の断面形状:円形の噴口1個)、比率(L/R):6.9、エアゾールバルブ(定量室の容量1.0mL)
・エアゾール装置2:噴射部材(噴口径R:φ1.6mm、噴射通路の長さL:16mm、噴口の断面形状:円形の噴口1個)、比率(L/R):10.0、エアゾールバルブ(定量室の容量1.0mL)…
[0047]使用した原液の処方を以下に示す。
・原液1:ペルメトリン24.5gにネオチオゾール(ノルマルパラフィン)を適量加え、100mLに調整した。
・原液2:ペルメトリン24.5gにトクソーIPA(イソプロピルアルコール)を適量加え、100mLに調整した。…
[0049](比較例1)
原液1を、容量289mLのエアゾール容器に10mL充填し、エアゾールバルブを取り付けた後、原液と噴射剤との配合割合(体積比)が5:95となるよう噴射剤(LPG 飽和蒸気圧:0.49MPa(25℃))を190mL加圧充填し、噴射部材を取り付け、エアゾール装置を作製した(エアゾールバルブ、噴射部材はエアゾール装置1を用いた)。
[0050](実施例1〜50、比較例2〜34)
原液、エアゾール装置の種類、または、原液と噴射剤との配合比率を表1に記載のとおり変更した以外は、比較例1と同様の方法により、エアゾール装置を作成した。
[0051][表1]


*表1中、2回噴射時の有効成分吐出量(mg)(*理論値)は、噴射量(mL)×エアゾール組成物中の原液の配合比率(%)×原液中の有効成分濃度(mg/mL)の式で算出した。…
[0055]表1に示されるように、実施例1〜50のエアゾール装置を用いた場合、付着率が10%以上であり、かつ、噴口周囲に液ダレを生じなかったか若干の液ダレを生じた程度であった。また、これらの実施例1〜50のエアゾール装置を用いてクモ(セアカゴケグモ)に対する防除効果を確認したところ、すべての実施例において、好適な防除効果を発揮したことが確認された。具体的には、蓋つきのKPカップにクモを入れ、天面の裏面(容器内側)にエアゾール装置を1回噴射した場合に、7時間後および24時間後の両時点において、いずれも天面の裏面に移動したクモがいなかった。一方、エアゾール組成物を天面の裏面に付与しなかった場合、クモは天面の裏面に移動していた。これは、閉鎖された空間ではクモは上方に移動して張り付くという習性を利用した評価である。実施例1〜50のエアゾール装置を用いた場合、天面の裏面に張り付いたクモがいなかったことから、これらのエアゾール装置を用いたことによって、クモが防除(忌避)されたことを示している。」

イ 甲第5号証には、次の記載がある(英文の一部を和訳で示す。)。
摘記5a:第534頁左欄第5〜11行
「飛翔する衛生害虫を防除するために用いられる殺虫エーロゾル製剤においては,気相中に噴霧されたエーロゾル粒子が害虫に到達するまでの気相中での挙動および,粒子が害虫に到達した後の害虫の表皮を通じた作用部位(神経)への浸透移行性が殺虫効力に重要な影響を与えるものと考えられる.」

摘記5b:第540〜543頁
「 表1 本研究で使用された溶剤の物理的性質
────────────────────────────────
溶媒名 一般名 沸点(℃) 比重(15〜20℃)
────────────────────────────────
… Kerosene(注:石油系炭化水素溶剤) …
Neochiozol(中央化成) 〃 224−268 0.769

────────────────────────────────

以上の結果を確認するために炭素数の異なる各種の直鎖炭化水素を用いてテトラメトリンおよびd−フェノトリンを含むエーロゾル製剤を作成し,イエバエ,アカイエカ,チャバネゴキブリに対する効力を比較した.結果をFig.12に示す.いずれの害虫に対してもn−テトラミンが最も高いノックダウン効力を示した.…したがって,噴霧施用型殺虫剤のノックダウン効力上最適な溶剤はn−テトラデカンであると結論することができる.この溶剤はアカイエカおよびチャバネゴキブリに対する致死効力においても最適溶剤である.…

図12 飛翔昆虫に対するエーロゾル試験法及びゴキブリに対する直接噴霧法による0.4%のテトラメトリン及び0.1%のd−フェノトリンを含むエーロゾル製剤の殺虫効果

以上の結果より総合的に判断すると,イエバエ,アカイエカ,チャバネゴキブリ等の重要な衛生害虫に対して総合的に高い効力を得るためには,炭素数が12から14程度のパラフィン系炭化水素を用いることが最も良いと結論された.」

ウ 甲第8号証には、次の記載がある。
摘記8a:第1797頁




(2)甲第1号証に記載された発明
摘記1bの「定量噴射型エアゾール装置…本実施形態のエアゾール装置1は、原液および噴射剤を含むエアゾール組成物が充填されたエアゾール容器2と、エアゾール容器2に取り付けられた定量噴射用エアゾールバルブ…とを備える。…エアゾール容器2は、エアゾール組成物を加圧充填するための耐圧容器である。」との記載、及び
摘記1cの「特に制限のない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。…・エアゾール装置2:噴射部材(噴口径R:φ1.6mm、噴射通路の長さL:16mm、噴口の断面形状:円形の噴口1個)、比率(L/R):10.0、エアゾールバルブ(定量室の容量1.0mL)…・原液1:ペルメトリン24.5gにネオチオゾール(ノルマルパラフィン)を適量加え、100mLに調整した。…(比較例1)原液1を、容量289mLのエアゾール容器に10mL充填し、エアゾールバルブを取り付けた後、原液と噴射剤との配合割合(体積比)が5:95となるよう噴射剤(LPG…)を190mL加圧充填し、噴射部材を取り付け、エアゾール装置を作製した…(実施例1〜50、比較例2〜34)原液、エアゾール装置の種類、または、原液と噴射剤との配合比率を表1に記載のとおり変更した以外は、比較例1と同様の方法により、エアゾール装置を作成した。…[表1]…*表1中、2回噴射時の有効成分吐出量(mg)(*理論値)は、噴射量(mL)×エアゾール組成物中の原液の配合比率(%)×原液中の有効成分濃度(mg/mL)の式で算出した。…これらの実施例1〜50のエアゾール装置を用いてクモ(セアカゴケグモ)に対する防除効果を確認したところ、すべての実施例において、好適な防除効果を発揮したことが確認された。」との記載からみて、甲第1号証には、
『ペルメトリン24.5gにネオチオゾール(ノルマルパラフィン)を適量加え、100mLに調整した原液を、容量289mLのエアゾール容器(耐圧容器)に10mL充填し、定量噴射用エアゾールバルブを取り付けた後、原液と噴射剤との配合割合(体積比)が5:95となるよう噴射剤(LPG)を190mL加圧充填し、噴射部材を取り付けたエアゾール装置を用いてクモ(セアカゴケグモ)に対する好適な防除効果を発揮したエアゾール。』についての発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

(3)対比
本1発明と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「定量噴射用エアゾールバルブを取り付けた…エアゾール装置を用いてクモ(セアカゴケグモ)に対する好適な防除効果を発揮したエアゾール」は、本1発明の「定量噴霧用エアゾールバルブを備えた害虫、ダニ防除用エアゾール製品」に相当する。
甲1発明の「容量289mLのエアゾール容器(耐圧容器)」は、本1発明の「耐圧容器」に相当する。
甲1発明の「ペルメトリン」は、本1発明の「害虫、ダニ防除成分であるペルメトリン(a)」に相当する。
甲1発明の「ネオチオゾール(ノルマルパラフィン)」は、甲第5号証の表1(摘記5b)の「Neochiozol」が、沸点224〜268℃の「n−paraffin」の溶剤である旨の記載にあるように、直鎖の飽和炭化水素系の有機溶剤であるから、本1発明の「飽和炭化水素系有機溶剤(b)」に相当する。
甲1発明の「ペルメトリン24.5gにネオチオゾール(ノルマルパラフィン)を適量加え、100mLに調整した原液」の「原液」は、ペルメトリンとネオチオゾールの二成分のみからなるから、本1発明の「エアゾール原液(L)」に相当する。
甲1発明の「噴射剤(LPG)」は、本1発明の「噴射剤(G)」に相当する。
甲1発明の「充填し」は、本1発明の「封入されてなり」に相当する。
甲1発明の「ペルメトリン24.5gにネオチオゾール(ノルマルパラフィン)を適量加え、100mLに調整した原液を、容量289mLのエアゾール容器(耐圧容器)に10mL充填し、…原液と噴射剤との配合割合(体積比)が5:95となるよう噴射剤(LPG)を190mL加圧充填し」は、
甲第8号証(摘記8a)の「ペルメトリン…比重1.214」の記載から、ペルメトリン24.5gの容積は、24.5÷1.214≒20.18mLと計算され、
原液100mL中のネオチオゾールの容積は、100−20.18=79.82mLと計算され、
耐圧容器に充填された10mLの原液に含まれるネオチオゾールの容積は、79.82×10/100=7.982mLと計算され、
噴射剤190mLと、ネオチオゾール7.982mLとの容積比率は、190÷7.982≒23.8と計算されるので、
本1発明の「前記噴射剤(G)と前記飽和炭化水素系有機溶剤(b)との容量比率(G/b)が、4.5〜50に設定されており」に相当する。
してみると、本1発明と甲1発明は『定量噴霧用エアゾールバルブを備えた害虫、ダニ防除用エアゾール製品であって、耐圧容器に、害虫、ダニ防除成分であるペルメトリン(a)、及び飽和炭化水素系有機溶剤(b)からなるエアゾール原液(L)と、噴射剤(G)と、が封入されてなり、前記噴射剤(G)と前記飽和炭化水素系有機溶剤(b)との容量比率(G/b)が、4.5〜50に設定されている害虫、ダニ防除用エアゾール。』という点において一致し、次の(α)〜(γ)の3つの点において相違する。

(α)飽和炭化水素系有機溶剤(b)の沸点が、本1発明は「180〜235℃」であるのに対して、甲1発明は「224〜268℃」である点

(β)防除対象の害虫、ダニの種類が、本1発明は「前記害虫は、チャバネゴキブリ、ワモンゴキブリ、クロゴキブリ、又はトコジラミであり、前記ダニは、ケナガコナダニ、コナヒョウヒダニ、ヤケヒョウヒダニ、又はツメダニ」であるのに対して、甲1発明は「クモ(セアカゴケグモ)」である点

(γ)本1発明においては「定量噴霧用エアゾールバルブから噴霧される噴霧粒子」の「25℃、噴射距離50cmにおける体積平均粒子径(Dv50)」が「15〜40μmに設定」されているのに対して、甲1発明においては、噴射されたエアゾール組成物の「25℃、噴射距離50cmにおける体積平均粒子径(Dv50)」が不明な点

(4)判断
上記(α)の相違点について検討する。
甲第5号証の第541〜542頁(摘記5b)の「結果をFig.12に示す.いずれの害虫に対してもn−テトラミンが最も高いノックダウン効力を示した.…したがって,噴霧施用型殺虫剤のノックダウン効力上最適な溶剤はn−テトラデカンであると結論することができる.この溶剤はアカイエカおよびチャバネゴキブリに対する致死効力においても最適溶剤である.」との記載、及び図12の記載においては、炭素数14のn−テトラデカン(沸点253.57℃)が、炭素数12のn−ドデカン(沸点215℃)よりも、チャバネゴキブリ等の害虫に対する致死効力において最適な溶剤であるとされている。
してみると、甲第5号証には、致死効力の観点から、沸点が本1発明の「180〜235℃」の範囲外の「253.57℃」である「n−テトラデカン」が好ましいとされているので、甲1発明の溶剤の沸点の数値範囲を、本1発明の「180〜235℃」にする動機付けがあるとはいえない。また、甲第3〜9号証の公知刊行物の記載を精査しても、甲1発明の溶剤の沸点の数値範囲を、本1発明の「180〜235℃」にすることを示唆する記載は見当たらない。
そして、本件特許明細書の段落0067及び0074の表1及び表2には、チャバネゴキブリ、トコジラミ、及びコナヒョウヒダニに対する防除効果が、沸点235℃又は180℃の飽和炭化水素系有機溶剤を用いた実施例1〜2及び8〜9のものにおいて、AAAの評価となり、沸点271℃又は240℃の飽和炭化水素系有機溶剤を用いた実施例3〜7の防除効果よりも優れた効果を発揮することが示されている。
してみると、上記(α)の相違点は、甲第1号証並びに甲各号証の公知刊行物に記載の技術事項をどのように組み合わせても導き出し得るものではないから、上記(β)及び(γ)の相違点について検討するまでもなく、上記(α)の相違点に係る構成及び当該構成を具備することによる効果を想到することが当業者にとって容易であるとはいえない。
したがって、本1発明は、甲第1号証に記載された発明、並びに甲第1及び3〜9号証の公知刊行物に記載された技術事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。

(5)令和5年7月26日付けの意見書の主張について
令和5年7月26日付けの意見書の第13〜14頁において、特許異議申立人は『甲第5号証の記載より、殺虫エーロゾル製剤において、炭素数が12から14程度のパラフィン系炭化水素を用いることにより、チャバネゴキブリ等の重要な衛生害虫に対して総合的に高い効力が得られることは、当該技術分野における周知技術であることが理解できます。そうすると、甲第1号証に記載された、ペルメトリンとネオチオゾールのみからなる原液1を含有する匍匐害虫防除用エアゾール装置において、…炭素数12のノルマルパラフィン(沸点214−216℃)又は炭素数13のノルマルパラフィン(沸点234℃)を用いることは、当業者が適宜なし得ることか、容易に想到し得ることです。』と主張する。
しかしながら、甲第5号証には、炭素数14のノルマルパラフィン(沸点263.57℃)である「n−テトラデカン」が「ノックダウン効力上最適な溶剤」とされているので、上記意見書の主張は採用できない。

(6)本2〜本9に係る発明について
本2〜本9発明は、本1発明を直接又は間接的に引用し、さらに限定したものであるから、本1発明の進歩性を、甲第1及び3〜9号証によって否定できない以上、その進歩性を否定することはできない。
したがって、本2〜本9発明は、甲第1号証に記載された発明、並びに甲第1及び3〜9号証の公知刊行物に記載された技術事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。

(7)理由1(進歩性)についてのまとめ
以上総括するに、本件訂正による訂正後の本1〜本9発明の進歩性を否定することはできないから、上記〔理由1〕の点に理由はない。

4.令和5年4月7日付けの取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由1について
特許異議申立人が主張する申立理由1(進歩性)は、本件発明1〜9は、甲第1、3〜5号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであり、その特許が特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきであるというものである(申立書の第48頁)。
そして、申立理由1は、上記第4の〔理由1〕において採用されているから、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由に該当しない。

(2)申立理由3について
特許異議申立人が主張する申立理由3(サポート要件)は、本件明細書の実施例には、チャバネゴキブリ、トコジラミに対する致死効果と、コナヒョウヒダニに対する忌避効果が具体的に示されているものの、蚊やハエ、コバエ等の飛翔害虫に対する防除効果は示されていない。よって、本件発明は、蚊やハエ、コバエ等の飛翔害虫に係る点で、本件発明の課題を解決することができるものとは認識できず、サポート要件を満たしていないから、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきであるというものである(申立書の第47〜49頁)。
そして、申立理由3は、上記第4の〔理由2〕において採用されているから、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由に該当しない。

(3)申立理由2について
ア 申立理由2(拡大先願)の概要
特許異議申立人が主張する申立理由2(拡大先願)は、本件発明1−4、7、8は、その出願の日前の特許出願であって、本件特許の出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面である甲第2号証に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者が本件特許の出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、本件特許の出願人が上記特許出願の出願にと同一でもないので、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきであるというものである(申立書の第48〜49頁)。

イ 甲第2号証及びその記載事項
特許異議申立人が提示する「甲第2号証」は、令和3年10月22日(優先権主張 令和2年10月28日及び令和3年4月21日)を出願日とする本件特許の出願の日前の令和2年1月9日に出願された「特願2020−2194号」という特許出願であって、本件特許の出願後の令和3年8月2日に「特開2021−109842号公報」として出願公開がされた公開特許公報の写しであるところ、甲第2号証に係る特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「先願明細書等」という。)には、次の記載がある。

摘記2a:請求項1及び5〜7
「【請求項1】
ネオチオゾールと噴射剤とを含有し、エアゾール容器に収容されるコバエ駆除用エアゾール剤において、
前記エアゾール容器から噴射された粒子の平均粒子径が20μm以上120μm以下とされ、
前記エアゾール容器から噴射された粒子濃度が2000以上とされていることを特徴とするコバエ駆除用エアゾール剤。…
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載のコバエ駆除用エアゾール剤において、
コバエに対して殺虫作用を発揮する殺虫剤を含有していることを特徴とするコバエ駆除用エアゾール剤。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載のコバエ駆除用エアゾール剤と、
前記コバエ駆除用エアゾール剤が収容されるエアゾール容器とを備えていることを特徴とするコバエ駆除用エアゾール製品。
【請求項7】
請求項6に記載のコバエ駆除用エアゾール製品において、
1回の噴射操作によって前記エアゾール容器内の前記コバエ駆除用エアゾール剤を一定量だけ噴射する定量噴射バルブを備えていることを特徴とするコバエ駆除用エアゾール製品。」

摘記2b:段落0028及び0031
「【0028】
エアゾール容器10は、耐圧性を有する材料で構成されており、内容量は例えば80ml〜200ml程度の間で設定することができる。エアゾール容器10の上部には、定量噴射バルブ12が設けられている。定量噴射バルブ12は、1回の噴射操作によってエアゾール容器10内のコバエ駆除用エアゾール剤を一定量だけ噴射するように構成されたバルブである。この定量噴射バルブ12は、従来から周知のものであることからその詳細な説明は省略する。…
【0031】
噴射口11aから噴射された粒子の平均粒子径は20μm以上120μm以下とされている。平均粒子径の大きさは、噴射口11aの径、流路の形状や長さ、噴射剤の量等によって変更することができる。平均粒子径は25μm以上とするのが好ましい。また、平均粒子径は115μm以下とするのが好ましい。平均粒子径の設定根拠については、後述の試験結果に基づいて説明する。平均粒子径の測定装置は、レーザー光回折方式の粒子径測定装置 Microtrac Aerotrac LDSA−SPR 1500A(マイクロトラック・ベル株式会社製)を使用した。温度25℃、噴射距離30cmの条件で前記コバエ駆除用エアゾールの粒子径測定を行い、体積積算分布での50%粒子径(D50)を平均粒子径とした。」

ウ 甲2発明
摘記2aの「ネオチオゾールと噴射剤とを含有し、エアゾール容器に収容されるコバエ駆除用エアゾール剤において、前記エアゾール容器から噴射された粒子の平均粒子径が20μm以上120μm以下とされ…ていることを特徴とするコバエ駆除用エアゾール剤。…コバエに対して殺虫作用を発揮する殺虫剤を含有していることを特徴とするコバエ駆除用エアゾール剤。…前記コバエ駆除用エアゾール剤が収容されるエアゾール容器とを備えていることを特徴とするコバエ駆除用エアゾール製品。…1回の噴射操作によって前記エアゾール容器内の前記コバエ駆除用エアゾール剤を一定量だけ噴射する定量噴射バルブを備えていることを特徴とするコバエ駆除用エアゾール製品。」との記載、及び
摘記2bの「エアゾール容器10は、耐圧性を有する材料で構成されており…温度25℃、噴射距離30cmの条件で前記コバエ駆除用エアゾールの粒子径測定を行い、体積積算分布での50%粒子径(D50)を平均粒子径とした」との記載からみて、甲第2号証の先願明細書等には、
『1回の噴射操作によってエアゾール容器内のコバエ駆除用エアゾール剤を一定量だけ噴射する定量噴射バルブを備えているコバエ駆除用エアゾール製品であって、
前記エアゾール容器は、耐圧性を有する材料で構成されており、
前記コバエ駆除用エアゾール剤は、コバエに対して殺虫作用を発揮する殺虫剤とネオチオゾールと噴射剤とを含有し、
前記コバエ駆除用エアゾール剤は、前記エアゾール容器に収容され、
前記エアゾール容器から噴射された粒子が、温度25℃、噴射距離30cmの条件で測定を行い、体積積算分布での50%粒子径(D50)を平均粒子径で、20μm以上120μm以下とされたコバエ駆除用エアゾール剤。』についての発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているといえる。

エ 対比
本1発明と甲2発明とを対比すると、両者は『定量噴霧用エアゾールバルブを備えた害虫防除用エアゾール製品であって、耐圧容器に、害虫防除成分(a)、飽和炭化水素系有機溶剤(b)と、噴射剤(G)と、が封入されている害虫防除用エアゾール製品。』という点において一致し、次の(あ)〜(お)の5つの点で少なくとも相違する。

(あ)防除対象の害虫、ダニの種類が、本1発明は、害虫が「チャバネゴキブリ、ワモンゴキブリ、クロゴキブリ、又はトコジラミ」であり、ダニが「ケナガコナダニ、コナヒョウヒダニ、ヤケヒョウヒダニ、又はツメダニ」であるのに対して、甲2発明は「コバエ」である点

(い)害虫防除成分(a)が、本1発明は「害虫、ダニ防除成分であるペルメトリン」であるのに対して、甲2発明は「コバエに対して殺虫作用を発揮する殺虫剤」である点

(う)飽和炭化水素系有機溶剤(b)が、本1発明は「沸点が180〜235℃である飽和炭化水素系有機溶剤」であるのに対して、甲2発明は「ネオチオゾール」である点

(え)噴射剤(G)と飽和炭化水素系有機溶剤(b)との容量比率(G/b)が、本1発明は「4.5〜50に設定」されているのに対して、甲2発明は、そのような設定がなされていない点

(お)定量噴霧用エアゾールバルブから噴霧される噴霧粒子が、本1発明は「25℃、噴射距離50cmにおける体積平均粒子径(Dv50)」として「15〜40μm」に設定されているのに対して、甲2発明は「温度25℃、噴射距離30cmの条件で測定を行い、体積積算分布での50%粒子径(D50)を平均粒子径」として「20μm以上120μm以下」に設定されている点

オ 判断
上記(あ)の防除対象の害虫、ダニに関する相違点は、実質的な差異であるから、上記(い)〜(お)の相違点について検討するまでもなく、本1発明は甲第2号証の先願明細書等に記載された発明と同一ではなく、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであるとはいえない。
また、本1発明を直接又は間接的に引用する本2〜本4、本7及び本8発明についても、同様に甲第2号証の先願明細書等に記載された発明と同一ではなく、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであるとはいえない。
したがって、本1〜本4、本7及び本8発明についての申立理由2に理由はない。

第6 まとめ
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由、並びに特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、訂正後の請求項1〜9に係る発明の特許を取り消すことができず、他に訂正後の請求項1〜9に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
定量噴霧用エアゾールバルブを備えた害虫、ダニ防除用エアゾール製品であって、
耐圧容器に、
害虫、ダニ防除成分であるペルメトリン(a)、及び沸点が180〜235℃である飽和炭化水素系有機溶剤(b)のみからなるエアゾール原液(L)と、
噴射剤(G)と、
が封入されてなり、
前記害虫は、チャバネゴキブリ、ワモンゴキブリ、クロゴキブリ、又はトコジラミであり、
前記ダニは、ケナガコナダニ、コナヒョウヒダニ、ヤケヒョウヒダニ、又はツメダニであり、
前記噴射剤(G)と前記飽和炭化水素系有機溶剤(b)との容量比率(G/b)が、4.5〜50に設定されており、
前記定量噴霧用エアゾールバルブから噴霧される噴霧粒子は、25℃、噴射距離50cmにおける体積平均粒子径(Dv50)が、15〜40μmに設定されている害虫、ダニ防除用エアゾール製品。
【請求項2】
前記エアゾール原液(L)と前記噴射剤(G)との容量比率(L/G)が、0.05〜1に設定されている請求項1に記載の害虫、ダニ防除用エアゾール製品。
【請求項3】
前記飽和炭化水素系有機溶剤(b)は、ノルマルパラフィン及び/又はイソパラフィンを含む請求項1又は2に記載の害虫、ダニ防除用エアゾール製品。
【請求項4】
前記ノルマルパラフィンは、ノルマルトリデカンである請求項3に記載の害虫、ダニ防除用エアゾール製品。
【請求項5】
前記イソパラフィンは、イソドデカンである請求項3又は4に記載の害虫、ダニ防除用エアゾール製品。
【請求項6】
屋内空間に一定量空間噴霧する定量噴射型エアゾール製品として構成され、前記屋内空間の容積は18.8〜33.3m3である請求項1〜5の何れか一項に記載の害虫、ダニ防除用エアゾール製品。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載の害虫、ダニ防除用エアゾール製品を用いた害虫、ダニ防除方法であって、
屋内空間に一定量空間噴霧することにより、当該屋内空間を防除処理する処理工程を実施する害虫、ダニ防除方法。
【請求項8】
前記処理工程において、前記定量噴霧用エアゾールバルブを複数回押すことにより、前記害虫、ダニ防除用エアゾール製品を空間噴霧する請求項7に記載の害虫、ダニ防除方法。
【請求項9】
前記処理工程において、前記エアゾール原液(L)及び前記噴射剤(G)を合計0.1〜3.6mL空間噴霧する請求項7又は8に記載の害虫、ダニ防除方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2023-09-25 
出願番号 P2021-172809
審決分類 P 1 651・ 851- YAA (A01N)
P 1 651・ 853- YAA (A01N)
P 1 651・ 121- YAA (A01N)
P 1 651・ 537- YAA (A01N)
P 1 651・ 161- YAA (A01N)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 阪野 誠司
特許庁審判官 齋藤 恵
木村 敏康
登録日 2022-07-25 
登録番号 7111877
権利者 大日本除蟲菊株式会社
発明の名称 害虫、ダニ防除用エアゾール、及び害虫、ダニ防除方法  
代理人 日東 伸二  
代理人 沖中 仁  
代理人 日東 伸二  
代理人 沖中 仁  

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