ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C09J 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C09J 審判 全部申し立て 2項進歩性 C09J |
---|---|
管理番号 | 1404806 |
総通号数 | 24 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2023-12-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2023-02-21 |
確定日 | 2023-12-06 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第7127674号発明「接着剤組成物及び接着剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7127674号の請求項1〜9に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第7127674号の請求項1〜9に係る特許についての出願は、令和2年9月18日(優先権主張 令和2年2月21日)の出願であって、令和4年8月22日に特許権の設定登録(請求項の数9)がされ、同年同月30日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1〜9に係る特許に対し、令和5年2月21日に特許異議申立人 小林 瞳(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、同年8月15日付け(発送日は同年同月17日)で審尋を兼ねる取消理由を通知し、特許権者は、その指定期間内である同年10月2日に意見書を提出し、同年11月6日に特許異議申立人は上申書を提出した。 第2 本件特許発明 特許第7127674号の請求項1〜9に係る発明(以下「本件特許発明1」〜「本件特許発明9」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。なお、分説のための記号A、A1〜A5は当審で付した。 「【請求項1】 A:多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位とを含むポリエステル系樹脂(A)を含有する接着剤組成物であって、ポリエステル系樹脂(A)が下記の要件を満足することを特徴とする接着剤組成物。 A1:[I]多価カルボン酸類が、芳香族多価カルボン酸類を25モル%以上含有すること。 A2:[II]多価カルボン酸類が、酸無水物基数が0又は1である3価以上の多価カルボン酸類(a1)を含有すること。 A3:[III]ポリエステル系樹脂(A)のエステル結合濃度が7ミリモル/g以下であること。 A4:[IV]ポリエステル系樹脂(A)の酸価が3mgKOH/g以上であること。 A5:[V]多価カルボン酸類としてダイマー酸類、及び多価アルコール類としてダイマージオール類からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有し、多価カルボン酸類全体に対するダイマー酸類の含有量(α)と多価アルコール類全体に対するダイマージオール類の含有量(β)との合計含有量(α+β)が5モル%以上であること。 【請求項2】 多価アルコール類がビスフェノール骨格含有モノマーを含有し、多価アルコール類全体に対するビスフェノール骨格含有モノマーの含有量が10モル%以上であることを特徴とする請求項1記載の接着剤組成物。 【請求項3】 ポリエステル系樹脂(A)のガラス転移温度が−5℃以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の接着剤組成物。 【請求項4】 ポリエステル系樹脂(A)が、多価カルボン酸類(a1)を用いた解重合の工程を経て得られたポリエステル系樹脂であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の接着剤組成物。 【請求項5】 ポリエステル系樹脂中におけるポリエステル系樹脂(A)の含有量が50重量%超であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の接着剤組成物。 【請求項6】 更に、ポリエポキシ系化合物(B)を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の接着剤組成物。 【請求項7】 請求項1〜6のいずれか一項に記載の接着剤組成物が硬化されてなることを特徴とする接着剤。 【請求項8】 電子材料部材の貼り合せに用いられることを特徴とする請求項7記載の接着剤。 【請求項9】 電子材料部材が、フレキシブル銅張積層板、フレキシブルプリント基板、カバーレイ及びボンディングシートから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項8記載の接着剤。」 第3 取消理由通知に記載した取消理由について 理由1(サポート要件)本件特許の請求項1、3〜8に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 本件特許発明の課題は、本願明細書の【0009】の記載からみて、低吸湿性、湿熱環境下での長期耐久性に優れ、更には高い接着性を有する接着剤組成物及びこの接着剤組成物が硬化された接着剤を提供することであると認められる。 ここで、本件特許明細書の【0088】の【表1】及び【0097】の【表2】からみて、BPE−20(ビスフェノールAのエチレンオキサイド約2モル付加物)である多価アルコールを含む実施例1〜4のものは、湿熱耐久性が優れており、前記課題を解決することができることは理解できるが、BPE−20を含まない比較例3〜6のものは、湿熱耐久性を有しておらず、前記課題を解決することができるとはいえない。 また、本件特許明細書の【0026】には「多価アルコール類全体に対するビスフェノール骨格含有モノマーの含有量は、10モル%以上であることが好ましく、より好ましくは20モル%以上、特に好ましくは30モル%以上、更に好ましくは40モル%以上である。ビスフェノール骨格含有モノマーの含有量が少なすぎると、低吸湿性や湿熱環境下での長期耐久性が不充分となる傾向がある。」と記載されており、この記載は、ビスフェノール骨格を含有するBPE−20を含む比較例1及び2のものが、実施例1〜4のものには劣るものの、BPE−20を含まない比較例3〜6のものよりも湿熱耐久性を有していることとも整合する。 そして、本件特許明細書の他の記載をみても、ビスフェノール骨格を含有するBPE−20を含まないものが前記課題を解決できることは記載されていないし、前記課題を解決できるという出願時の技術常識もない。 そうすると、本件特許発明1に記載の接着剤組成物は、ポリエステルの構成成分としてビスフェノール骨格含有モノマーを発明特定事項としていないため、発明の詳細な説明に記載された事項及び本件出願時の技術常識に基づき、当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。 ポリエステルの構成成分としてビスフェノール骨格含有モノマーを発明特定事項としていない本件特許発明3〜8についても同様である。 第4 前記第3におけるサポート要件についての判断 1 判断 本件特許発明の課題は前記第3のとおりである。 そして、特許権者が、令和5年10月2日に意見書とともに提出した乙第1号証の実験成績証明書からみて、ポリエステルの構成成分としてビスフェノール骨格含有モノマーを含まないものであっても、本件特許発明1が前記課題を解決できることは理解できるといえる。 そうすると、本件特許発明1に記載の接着剤組成物は、ポリエステルの構成成分としてビスフェノール骨格含有モノマーを発明特定事項としていないとしても、発明の詳細な説明に記載された事項及び本件出願時の技術常識に基づき、当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 また、ポリエステルの構成成分としてビスフェノール骨格含有モノマーを発明特定事項としていないとしても、本件特許発明3〜8についても同様である。 2 特許異議申立人の主張及び当審の判断について 特許異議申立人は、令和5年11月6日の上申書において「i)特許権者は、取消理由通知における、「本件特許発明1に記載の接着剤組成物は、ポリエステルの構成成分としてビスフェノール骨格含有モノマーを発明特定事項としていないため、発明の詳細な説明に記載された事項及び本件出願時の技術常識に基づき、当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。」との指摘に対して、 甲第1号証(特開2015−187271号公報)の段落0103[表1]にはビスフェノール骨格を含有するBPE−20(ビスフェノールAのエチレンオキサイド約2モル付加物)を含まないものが記載され、接着性に優れた接着剤が得られることが記載されていることを主張しています。 上記甲第1号証(特開2015−187271号公報)の段落0103[表1]に記載の多価アルコール(2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール)は、いずれも、本件特許明細書の【0027】に記載の「脂肪族多価アルコール」に係ります。 しかし、本件特許明細書の段落【0088】の表1の比較例製造例3乃至5では、P2033(ダイマージオール)以外の多価アルコールとして、脂肪族多価アルコールを用いたポリエステル系樹脂の例が記載されており、本件特許明細書の段落【0097】の表2の比較例3乃至6(比較例製造例3乃至5のポリエステル系樹脂を使用)では、本件特許の課題を解決できていないことが示されています。即ち、本件特許明細書の実施例では、P2033(ダイマージオール)以外の多価アルコールとして、脂肪族多価アルコールを用いたポリエステル系樹脂によって、本件特許の課題を解決できることは開示されていません。 従って、甲第1号証の段落0103[表1]において、脂肪族多価アルコールが用いられていることをもってして、ビスフェノール骨格を含有するBPE−20を含まないものが本件特許の課題を解決できるという出願時の技術常識の証拠とすることはできないものと思料します。 ii)また、特許権者は、「ビスフェノール骨格含有モノマーを用いることは好ましい様態の1つにすぎません。」と主張するとともに、実験成績証明書の追加製造例(追加実験例)を提出して、BPE−20(ビスフェノールAのエチレンオキサイド約2モル付加物)なしで本件特許の請求項1に係る構成を満たすポリエステル系樹脂Xを使用すると、湿熱耐久性の評価は「◎」となること、を主張しています。 追加製造例では、P2033(ダイマージオール)以外の多価アルコールとして、2MPG:2−メチル−1,3ープロパンジオール、TCD−DM:トリシクロ[5.2.1.0(2,6)]デカンジメタノールが用いられています。 しかし、追加製造例において、多価アルコールとして用いている、TCD−DM:トリシクロ[5.2.1.0(2,6)]デカンジメタノールは、「脂環族多価アルコール」に係ります。「脂環族多価アルコール」は、特許権者が甲第1号証の段落0103[表1]の記載をもって主張する「脂肪族多価アルコール」とは化学構造が明らかに相違します。また、「脂環族多価アルコール」によって、本件特許の課題を解決できるという出願時の技術常識はないものと思料します。 また、本件特許明細書の段落【0088】の表1において多価アルコールとして例示のない「脂環族多価アルコール」を用いて、本件特許発明の課題を解決することを主張することは、本件特許明細書に開示の技術思想を追加することになり、そのような新た技術思想に係る追加データを提出することは、請求の範囲を変更することなく、新規事項を追加することに等しく、発明概念を拡張することになるものと思料します。 よって、追加製造例(追加実験例)の記載をもって、「ビスフェノール骨格を含有するBPE−20を含まないものが前記課題を解決できるという出願時の技術常識」とすることはできないものと思料します。 なお、追加製造例(追加実験例)としては、多価アルコールとして、本件特許明細書の段落【0088】の表1の実施例1乃至4のBPE−20の代わりに、EG(エチレングリコール)またはNPG(ネオペンチルグリコール)を用いた例が妥当であるものと思料しますが、このような例を提出していないことからも、「ビスフェノール骨格を含有するBPE−20を含まないものが前記課題を解決できるという出願時の技術常識」とすることはできないものと思料します。」と主張する。 しかしながら、前記i)について、本件特許明細書【0088】には下記の【表1】 が記載され、【0020】には「多価カルボン酸類全体に対する芳香族多価カルボン酸類の含有量は、25モル%以上であり、好ましくは40モル%以上、より好ましくは70モル%以上、特に好ましくは90モル%以上である。芳香族多価カルボン酸類が100モル%を占めてもよい。芳香族カルボン酸類の含有量が少なすぎると、湿熱環境下での長期耐久性が不充分となる。」、【0046】には「〔ポリエステル系樹脂(A)のエステル結合濃度〕 本発明に用いるポリエステル系樹脂(A)のエステル結合濃度は、7ミリモル/g以下であり、好ましくは2〜6.5ミリモル/g、より好ましくは2.5〜6ミリモル/g、特に好ましくは3〜5.5ミリモル/g、更に好ましくは3.1〜5ミリモル/gである。 エステル結合濃度が高すぎると、低吸湿性や湿熱環境下での長期耐久性が不充分となる。また、エステル結合濃度が低すぎると、初期接着性が不充分となる。」と記載されており、本件の比較例3乃至6で本件特許発明の課題を解決できないのは、多価カルボン酸類全体に対する芳香族多価カルボン酸類の含有量が25モル%未満であるか、ポリエステル系樹脂(A)のエステル結合濃度が7ミリモル/gを超えるためであると考えられ、また、本件特許明細書には「【0027】 脂肪族多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−エチル−2−ブチルプロパンジオール、ジメチロールヘプタン、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール等を挙げることができる。 【0028】 脂環族多価アルコールとしては、例えば、1,4−シクロヘキサンジオ−ル、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジオール、トリシクロデカンジメタノール、スピログリコール等を挙げることができる。 【0029】 芳香族多価アルコールとしては、例えば、パラキシレングリコール、メタキシレングリコール、オルトキシレングリコール、1,4−フェニレングリコール、1,4−フェニレングリコ−ルのエチレンオキサイド付加物等を挙げることができる。」と記載され、使用可能な多価アルコールとして、脂環族だけでなく、芳香族や脂肪族の多価アルコールが列挙されている。 そうすると、多価カルボン酸類全体に対する芳香族多価カルボン酸類の含有量が25モル%以上、ポリエステル系樹脂(A)のエステル結合濃度が7ミリモル/g以下とすれば、追加製造例で用いた脂環族多価アルコールのみならず、脂肪族多価アルコールを用いても、前記課題を解決できるといえる。 また、前記ii)について、追加製造例で用いられているTCD−DM:トリシクロ[5.2.1.0(2,6)]デカンジメタノールは、前記i)のとおり、本件特許明細書【0028】に例示されたものであり、それを用いて、本件特許発明の課題を解決することを主張することが、本件特許明細書に開示の技術思想を追加することになるということはできない。また、そのような追加データを提出することが、請求の範囲を変更することなく、新規事項を追加することに等しく、発明概念を拡張するということになるとはいえない。また、追加製造例により、BPE−20の代わりに、TCD−DM:トリシクロ[5.2.1.0(2,6)]デカンジメタノールを用いたものが前記課題を解決できることが示されている以上、EG(エチレングリコール)またはNPG(ネオペンチルグリコール)を用いた例を提出する必要があるとはいえない。 したがって、特許異議申立人の前記主張は採用できない。 第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由 理由1(進歩性)本件特許の請求項1〜9に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証〜甲第7号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、前記の請求項1〜9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 甲第1号証:特開2015−187271号公報 甲第2号証:特開2010−116422号公報 甲第3号証:特開2002−47471号公報 甲第4号証:特開2013−181159号公報 甲第5号証:特開2014−185219号公報 甲第6号証:特開2003−183365号公報 甲第7号証:特開2002−3587号公報 甲第8号証:化学大辞典2縮刷版第36刷247頁、「解重合」の項 理由2(サポート要件)本件特許の請求項1〜9に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 1 本件特許発明1について ・解重合の工程について (1)本件特許発明1に記載の接着剤組成物に関する発明特定事項としては、構成A、構成Al乃至A5が記載されている。 一方、本件特許の段落[0098]の表2の実施例1乃至4で用いられているポリエステル系樹脂A−1乃至A−4について、段落[0088]の表1の製造例1乃至4では、いずれの例でも、解重合に、TMAn(トリメリット酸無水物)が用いられている。 本件特許明細書には、TMAn(トリメリット酸無水物)による解重合の工程を経ていないポリエステル系樹脂によって、本件特許発明の課題を解決することができることを窺わせる開示もなく、一般的な技術常識であるとも言えない。 (2)本件特許発明において、TMAn(トリメリット酸無水物)による解重合の工程は、本件特許発明の課題を解決するための必要不可欠な成分であると思料する。 従って、本件特許発明1に記載の接着剤組成物は、ポリエステルに関して、TMAn(トリメリット酸無水物)による解重合の工程について発明特定事項として記載していないため、発明の詳細な説明に記載された事項及び本件出願時の技術常識に基づき、当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。 2 本件特許発明4 (1)本件特許発明4では、構成Dとして、「ポリエステル系樹脂(A)が、多価カルボン酸類(a1)を用いた解重合の工程を経て得られたポリエステル系樹脂であること」が記載されている。 なお、「解重合」とは、「重合の反対の反応で、重合体が分解して単量体を生成する現象。」を言う(甲第8号証)。 段落[0041]には「プレポリマーを得た後、重縮合を行い、更に解重合を行うことにより製造することができる。」との記載があり、構成Dの記載からすれば、TMAnにより、解重合が生じることになるものの、本件特許の明細書の発明の詳細な説明(実施例を含めて)には、TMAnによって、プレポリマーが分解して単量体を生成していることが認められる開示はないものと思料する。 また、本件特許の段落[0088]の表1では、製造例1乃至4については「TMAn(解重合)」、比較製造例1乃至4については「PMAn:ピロメリット酸二無水物(重付加)」、「BPDA:3,3’,4,4’,−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物(重付加)」に関する記載があり、(解重合)と(重付加)が明確に差別化されていることからも、(解重合)では、付加反応は生じていないと解釈されるものと思料する。 (2)上記のように、本件特許発明4における接着剤組成物は、解重合の工程を経て得られたものであるにも拘わらず、本件特許の明細書には、「TMAn」により解重合が生じることに関する開示がなされていない。また、「解重合」が「TMAn」により生じることが技術常識であるとも言えない。 理由3(実施可能要件)本件特許の請求項4に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 (1)本件特許発明4では、構成Dとして、「ポリエステル系樹脂(A)が、多価カルボン酸類(a1)を用いた解重合の工程を経て得られたポリエステル系樹脂であること」が記載されている。 なお、「解重合」とは、「重合の反対の反応で、重合体が分解して単量体を生成する現象。」を言う(甲第8号証)。 段落[0041]には「プレポリマーを得た後、重縮合を行い、更に解重合を行うことにより製造することができる。」との記載があり、構成Dの記載からすれば、TMAnにより、解重合が生じることになるものの、本件特許の明細書(実施例を含めて)、TMAnによって、プレポリマーが分解して単量体を生成しているとも認められないものと思料する。 また、本件特許の段落[0088]の表1では、製造例1乃至4については「TMAn(解重合)」、比較製造例1乃至4については「PMAn:ヒ°ロメリット酸二無水物(重付加)」、「BPDA:3,3’,4,4’,−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物(重付加)」に関する記載があり、(解重合)と(重付加)が明確に差別化されており、(解重合)では、付加反応は生じていないと解釈されるものと思料する。 (2)上記のように、本件特許発明4における接着剤組成物は、解重合の工程を経て得られたものであるにも拘わらず、本件特許の明細書には、「TMAn」により、如何にして解重合が生じることに関する開示がなされていない。また、「解重合」が「TMAn」により生じることが技術常識であるとも言えない。 (3)従って、本件特許発明4における「解重合」を如何に行うのかに関するかについて、発明の詳細な説明に記載されていないため、当業者は、本件特許発明4を実施することができないため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものであり、同法113条第4号により、その特許は取り消されるべきである。 第6 前記第5の理由1(進歩性)について 1 甲号証について 前記第5に記載のとおり。 2 甲号証の記載について (1)甲第1号証(以下、「甲1」という。) 1a「【請求項1】 熱可塑性樹脂(A)、無機充填材(B)、溶剤(C)、エポキシ樹脂(D)を含有する接着剤用樹脂組成物であって、 該熱可塑性樹脂(A)の酸価(単位:当量/106g)が100以上1000以下であり、 該熱可塑性樹脂(A)の数平均分子量が5.0×103以上1.0×105以下であり、 該熱可塑性樹脂(A)が、ポリエステル系樹脂(但し、フェノール性水酸基を150当量/106g以上有するポリエステル樹脂を除く)であり、 該エポキシ樹脂(D)がジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂であり、 該熱可塑性樹脂(A)と該無機充填材(B)を該接着剤用樹脂組成物における含有比率で合計25質量部含み、メチルエチルケトン52質量部とトルエン23質量部からなる混合溶剤(但し、該熱可塑性樹脂(A)が前記濃度で前記混合溶剤に25℃において溶解しない場合は、前記混合溶剤に変えてジメチルアセトアミド52質量部とトルエン23質量部からなる混合溶剤を用いる)を分散媒とする分散液(α)の揺変度(TI値)を測定したとき、液温25℃における揺変度(TI値)が3以上6以下であり、 該熱可塑性樹脂(A)の酸価AV(β)(単位:当量/106g)と配合量AW(β)(単位:質量部)、エポキシ樹脂(D)のエポキシ価EV(γ)(単位:当量/106g)と配合量EW(γ)(単位:質量部)が以下に示す式(1)、 0.7≦{EV(γ)×EW(γ)}/{AV(β)×AW(β)}≦4.0 (1) を満たす接着剤用樹脂組成物。 ・・・ 【請求項8】 請求項1〜7いずれかに記載の接着剤用樹脂組成物を含有する接着剤。 【請求項9】 請求項1〜7いずれかに記載の接着剤用樹脂組成物に含有される前記熱可塑性樹脂(A)、前記無機充填材(B)、前記エポキシ樹脂(D)およびこれらに由来する反応生成物を含有する接着シート。 【請求項10】 請求項8に記載の接着剤または請求項9に記載の接着剤シートを用いてなる接着層を含むプリント配線板。」 1b「【0007】 本発明の課題はこれら従来の接着剤が抱えている各問題点を改良することであり、各種プラスチックフィルムや、銅、アルミ、ステンレス鋼などの金属、ガラスエポキシへの接着性を維持しつつ、高湿度下での鉛フリーハンダにも対応できる高度の耐湿熱性、高温高湿度下での接着性に優れた接着剤を提供すること、さらには前記接着剤から得たBステージの接着シートがたとえ高温高湿下で流通された後に使用されても良好な接着特性の維持が可能なシートライフが良好な接着剤シートを提供すること、にある。また、前記接着剤または接着シートから得られた接着層を含むプリント配線板を提供することにある。」 1c「【0021】 (ポリエステル系樹脂) 本発明の熱可塑性樹脂(A)として用いるポリエステル系樹脂のガラス転移温度は、−10℃以上60℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度が−10℃未満だと、高温での接着性が不十分になる傾向がある。ガラス転移温度が60℃を超えると、基材との貼り合せが不十分になり、また常温での弾性率が高くなり、常温での接着性が不十分になる傾向がある。好ましくはガラス転移温度の下限は−5℃、より好ましくはガラス転移温度の下限は0℃、さらに好ましくはガラス転移温度の下限は5℃である。好ましい上限は55℃、より好ましい上限は50℃、さらに好ましい上限は45℃である。」 1d「【0024】 なおその他の酸成分としては、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸とその酸無水物などの脂環族ジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸を挙げることができる。 【0025】 一方、グリコール成分は脂肪族グリコール、脂環族グリコール、芳香族含有グリコール、エ−テル結合含有グリコ−ルなどよりなることが好ましく、脂肪族グリコ−ルの例としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,3,−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−エチル−2−ブチルプロパンジオール、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステル、ジメチロールヘプタン、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール等を挙げることができ、脂環族グリコールの例としては、1,4−シクロヘキサンジオ−ル、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジオール、トリシクロデカンジメチロール、スピログリコール、水素化ビスフェノールA、水素化ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物およびプロピレンオキサイド付加物、等を挙げることができる。エ−テル結合含有グリコ−ルの例としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、さらに、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコールエチレンオキサイド付加物、ネオペンチルグリコールプロピレンオキサイド付加物も必要により使用しうる。芳香族含有グリコールの例としてはパラキシレングリコール、メタキシレングリコール、オルトキシレングリコール、1,4−フェニレングリコール、1,4−フェニレングリコ−ルのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物およびプロピレンオキサイド付加物等の、ビスフェノール類の2つのフェノール性水酸基にエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドをそれぞれ1〜数モル付加して得られるグリコール類等を例示できる。」 1e「【0069】 本発明の樹脂組成物はプリント配線板の各接着剤層に好適に使用することが可能である。特に本発明の樹脂組成物を接着剤として使用すると、プリント配線板を構成する基材に対して高い接着性を有し、かつ鉛フリーハンダにも対応できる高度の耐熱性を有し、さらに高温高湿度下においても高い接着性を維持することが可能である。特に耐ハンダ性を評価する高温領域において、樹脂と樹脂との化学架橋と共に樹脂と無機充填材との物理架橋をバランスよく付与することで、加湿状態での耐ハンダ性試験における水分の蒸発による衝撃で膨れや変形すること無しに、応力を緩和することが可能であり、金属箔層とカバーフィルム層間の接着剤、および基材フィルム層と補強材層間の接着に適している。特に、SUS板やアルミ板のような金属補強材を使用した場合、加湿状態でのハンダづけの際、補強材側から水分は蒸発できない為、基材フィルム層と補強材層間の接着剤層に及ぶ衝撃は特に強大であり、そのような場合の接着に用いる樹脂組成物として好適である。」 1f「【0089】 本発明をさらに詳細に説明するために以下に実施例を挙げるが、本発明は実施例になんら限定されるものではない。なお、実施例中に単に部とあるのは質量部を示す。また、特記なくエポキシ樹脂配合率と記した場合には、{EV(γ)×EW(γ)}/{AV(β)×AW(β)}の値を指すこととする。また、表中において、例えば「>40」とあれば40を超えることを、「<230」とあれば230未満であることを示す。 【0090】 (物性評価方法) (1)熱可塑性樹脂の組成 熱可塑性樹脂を重クロロホルムに溶解し、1H−NMR分析により、各成分のモル比を求めた。但し、該熱可塑性樹脂が重クロロホルムに溶解しない場合には、重ジメチルスルホキシドに溶解して1H−NMR分析を行った。 【0091】 (2)数平均分子量Mn 試料を、樹脂濃度が0.5%程度となるようにテトラヒドロフランに溶解または希釈し、孔径0.5μmのポリ四フッ化エチレン製メンブランフィルターで濾過したものを測定用試料として、テトラヒドロフランを移動相とし示差屈折計を検出器とするゲル浸透クロマトグラフィーにより分子量を測定した。流速は1mL/分、カラム温度は30℃とした。カラムには昭和電工製KF−802、804L、806Lを用いた。分子量標準には単分散ポリスチレンを使用した。但し、試料がテトラヒドロフランに溶解しない場合は、テトラヒドロフランに変えてN,N−ジメチルホルムアミドを用いた。 【0092】 (3)ガラス転移温度 ポリエステル樹脂およびポリウレタン樹脂の場合は、示差走査熱量計(DSC)を用いて20℃/分の昇温速度で測定した。 ポリアミドイミド樹脂の場合は、幅10mm、厚さ30μmの短冊状試料について、アイテイ計測制御社製動的粘弾性測定装置DVA−220を用いて、周波数110Hzで動的粘弾性の測定を行い、その貯蔵弾性率の変曲点をガラス転移点とした。なお、短冊状試料は、ポリアミドイミドの重合溶液をポリプロピレン製フィルムに塗布し、1〜10mmHgの減圧状態で、120℃で10時間乾燥することにより溶剤を除いたフィルムから得た。 【0093】 (4)酸価 試料0.2gを20mlのクロロホルムに溶解し、指示薬としてフェノールフタレインを用い、0.1Nの水酸化カリウムエタノール溶液、ポリアミドイミド系樹脂の場合のみナトリウムメトキシドメタノール溶液で滴定し、樹脂106gあたりの当量(eq/106g)を算出した。 【0094】 (5)エポキシ価 JIS K 7236に準拠し、過塩素酸滴定法を用いて得られたエポキシ当量(1当量のエポキシ基を含む樹脂の質量)から樹脂106gあたりの当量(eq/106g)を算出した。 【0095】 (特性評価方法) (1)耐ハンダ性、剥離強度 (1)−1 評価用サンプル1作成方法 後述する接着剤組成物を厚さ25μmのポリイミドフィルム(株式会社カネカ製、アピカル)に、乾燥後の厚みが30μmとなるように塗布し、130℃で3分乾燥した。この様にして得られた接着性フィルム(Bステージ品)を30μmの圧延銅箔と貼り合わせる際、圧延銅箔の光沢面が接着剤と接する様にして、160℃で35kgf/cm2の加圧下に30秒間プレスし、接着した。次いで140℃で4時間熱処理して硬化させて、耐ハンダ性及び剥離強度評価用サンプル1を得た(初期評価用)。 また、接着性フィルム(Bステージ品)を、40℃、80%加湿下にて14日間放置後、上記条件にて圧延銅箔とプレス、熱処理して硬化させ、経時評価用のサンプル1を得た。 【0096】 (1)−2 評価用サンプル2作成方法 後述する接着剤組成物を厚さ50μmのポリプロピレンフィルム(東洋紡績株式会社製、パイレン)に、乾燥後の厚みが30μmとなるように塗布し、130℃で3分乾燥し接着性フィルム(Bステージ品)を得た。評価用基板は、片面銅張積層版(25μmポリイミドフィルム、18μm圧延銅箔)を通常の回路作製工程(穴あけ、めっき、ドライフィルムレジスト(以下DFRと略すことがある)ラミネート、露光・現像・エッチング、DFR剥離)にて作製し、硬化することで評価用基板を得た。この様にして得られた評価用基板上に、前記接着性フィルム(Bステージ品)を仮圧着した後、ポリプロピレンフィルムを剥離し、補強板として500μmのSUS304板を160℃で35kgf/cm2の加圧下に30秒間プレスし、接着した。次いで140℃で4時間熱処理して硬化させて、耐ハンダ性および剥離強度評価用サンプル2を得た(初期評価用)。 また、接着性フィルム(Bステージ品)を、40℃、80%加湿下にて14日間放置後、上記条件にて圧延銅箔とプレス、熱処理して硬化させ、経時評価用のサンプル2を得た。 【0097】 各特性の評価は以下の方法で行った; 耐ハンダ性(加湿):サンプルを40℃、80%加湿下にて2日間放置後、加熱したハンダ浴に1分間浮かべて、膨れが発生しない上限の温度を10℃ピッチで測定した。この試験において、測定値の高い方が良好な耐熱性を持つことを示すが、各基材、接着剤層に含まれた水蒸気の蒸発による衝撃をも抑制する必要があり、乾燥状態よりも、さらに厳しい耐熱性が要求される。実用的性能から考慮すると250℃以上が好ましく、より好ましくは260℃以上である。 剥離強度:25℃において、引張速度50mm/minで90°剥離試験を行ない、剥離強度を測定した。この試験は常温での接着強度を示すものである。実用的性能から考慮すると10N/cm以上が好ましく、より好ましくは15N/cm以上である。 【0098】 (2)クリープ特性 前述した評価サンプル2を用いて、60℃×90%雰囲気下、200gの錘をぶら下げ、30分間で剥がれた距離を測定した。なお錘のぶら下げ方は、剥離形態が180°剥離となるように行った。この試験は、高温高湿下での接着強度を示すもので、剥離のないものが好ましく、剥離距離が大きくなるほど、接着強度が低い。実用的性能から考慮すると10mm以下が好ましく、より好ましくは4mm以下である。 【0099】 (3)高温高湿環境試験 前述した耐ハンダ性および剥離強度評価用サンプル2(初期評価用)を85℃、85%加湿環境下に放置し、500時間経過後及び1000時間経過後の剥離強度を測定した。この試験は、実使用時の信頼性を確認する目的で高温且つ高湿環境下での耐久性を評価したものであり、実使用時の信頼性から5N/cm以上が好ましく、より好ましくは10N/cm以上である。 【0100】 ポリエステル樹脂Aの重合例 撹拌器、温度計、流出用冷却器を装備した反応缶内に、テレフタル酸243部、イソフタル酸237部、アジピン酸107部、無水トリメリット酸7部、2−メチル−1,3−プロパンジオール455部、1,4−ブタンジオール205部、テトラブチルチタネート0.3部を仕込み、4時間かけて250℃まで徐々に昇温し、留出する水を系外に除きつつエステル化反応を行った。エステル化反応終了後30分かけて10mmHgまで減圧初期重合を行うと共に温度を250℃まで昇温し、更に1mmHg以下で1時間後期重合を行った。その後、窒素にて常圧に戻し、無水トリメリット酸28部を投入し、220℃で30分間反応させることによってポリエステル樹脂Aを得た。この様にして得られたポリエステル樹脂Aの組成、特性値を表1に示した。各測定評価項目は前述の方法に従った。 ・・・ 【0103】 【表1】 ・・・ 【0110】 <実施例1> 熱可塑性樹脂(A)としてポリエステル樹脂A100部(固形分のみの質量、以下同様)、無機充填材(B)としてR972[日本アエロジル(株)製 疎水性煙霧状シリカ]20部、溶剤(C)としてメチルエチルケトン248部、トルエン112部を配合し固形分濃度25%である樹脂組成物(β)を調整した。次に、エポキシ樹脂(D)としてエポキシ樹脂ア[大日本インキ化学工業(株)製 HP7200−H(ジシクロペンタンジエン型エポキシ樹脂)、エポキシ価=3540当量/106g]11.9部、溶剤(C)としてメチルエチルケトン5.1部を配合し固形分濃度70%である樹脂組成物(γ)を調整した。得られた樹脂組成物(β)と樹脂組成物(γ)を配合することで目的とする接着剤用樹脂組成物を得た。エポキシ樹脂の配合量は、ポリエステル樹脂の酸価の総量の1.05倍のエポキシ基を含むように算出して決定した。接着評価試料を上述の方法で作製し、評価した結果を表4に示す。初期評価、経時評価ともに良好な結果を示している。 ・・・ 」 (2)甲第2号証(以下、「甲2」という。) 2a「【請求項1】 ガラス転移点が30℃以下のポリエステル樹脂(A)と、ガラス転移点が50℃以上のポリエステル樹脂(B)とを含有し、樹脂(A)と樹脂(B)との配合比が(A)/(B)=90/10〜50/50(質量比)であり、ポリエステル樹脂(B)が、酸成分として少なくともテレフタル酸とイソフタル酸とのどちらか一方を含有し、かつアルコール成分としてビスフェノール骨格を有する多価アルコールを1〜70モル%含有していることを特徴とするポリエステル樹脂組成物。 【請求項2】 ポリエステル樹脂(B)の酸価が2.0〜30mgKOH/gであることを特徴とする請求項1記載のポリエステル樹脂組成物。 ・・・ 【請求項5】 請求項1から4までのいずれか1項記載のポリエステル樹脂組成物と、汎用有機溶剤とを含むことを特徴とする接着剤。 【請求項6】 請求項1から4までのいずれか1項記載のポリエステル樹脂組成物を含む樹脂層を有し、かつ2層以上の樹脂層を含有することを特徴とする積層体。」 2b「【0001】 本発明はポリエステル樹脂組成物に関し、特に、電化製品や自動車関連製品などの配線材用の接着剤として用いることができるポリエステル樹脂組成物に関する。」 2b「【0009】 本発明は、ガラス転移点の低いポリエステル樹脂とガラス転移点の高いポリエステル樹脂とを含有するとともに、銅やアルミニウム等の金属への密着性に優れかつUL60℃定格以上の耐熱型の、ポリエステル系のフレキシブルフラットケーブルに適した接着剤とすることができるポリエステル樹脂組成物に関して、主剤であるガラス転移点の低い方のポリエステル樹脂の接着性などの特徴を損ねることなく、アンチブロッキング性、耐熱性を飛躍的に向上できるようにすることを目的とする。」 2c「【0017】 以下、本発明について詳細に説明する。 本発明に使用するポリエステル樹脂(A)は、ガラス転移点が30℃以下であることが必要であり、20℃以下であることが好ましく、10℃以下であることがさらに好ましい。ガラス転移点が30℃を超えると、導体への接着強力が低下する。ガラス転移点の下限は特に規定されないが、−40℃以上であることが好ましく、−30℃以上であることがより好ましく、−20℃以上がさらに好ましい。ガラス転移点が−40℃よりも低温であると、粘着性が強い樹脂となり取り扱いにくい。」 2d「【0026】 ポリエステル樹脂(B)は、アルコール成分に、ビスフェノール骨格を有する多価アルコールを1〜70モル%含有することが必要である。その含有率は、5〜60モル%であることが好ましく、10〜50モル%であることがより好ましく、15〜40モル%であることが最も好ましい。ビスフェノール骨格を有する多価アルコールの含有率が1モル%未満であると、アンチブロッキング性、耐熱性が低下する。一方、その含有率が70モル%を超えると、本発明のポリエステル樹脂組成物を有機溶剤に溶解させた場合に、ポリエステル樹脂(A)とポリエステル(B)とが二層に相分離しやすくなり、溶液の分散性が低下し、平均粒径が大きいものとなって、導体接着性、アンチブロッキング性共に低下する。」 2e「【0037】 本発明のポリエステル樹脂(B)を構成するモノマーとしては、酸成分としては、たとえばマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、エイコサン二酸、ドコサン二酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4、4’−ジカルボキシビフェニル、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−ヒドロキシ−イソフタル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、1,3,4−ベンゼントリカルボン酸、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、シュウ酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルネンジカルボン酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸等の多価カルボン酸またはその無水物を、必要に応じ用いてもよい。ただし、酸成分は、上記に限定されるものではない。 【0038】 また、上述の多価アルコール以外に用いることができるアルコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、スピログリコール、ダイマージオールなどを挙げることができる。中でも、エチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、スピログリコールを好ましく用いることができる。」 2f「【0051】 本発明のポリエステル樹脂組成物には、必要に応じて、エポキシ樹脂、酸無水物、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシナネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシナネート等のイソシアネート類およびそのブロックイソシアネート;ウレトジオン類、β−ヒドロキシアルキルアミド等の硬化剤;トリエチレンジアミン、トリエチルアミン等の硬化触媒;二酸化チタン、炭酸カルシウム、酸化亜鉛等の顔料;タルク;ポリエチレンワックス;パラフィンワックス;タッキファイヤー等を使用することができる。」 2g「【0055】 次に、実施例によって本発明を具体的に説明する。なお、以下の実施例、比較例における各種物性値は、下記の方法によって測定した。 (1)ポリエステル樹脂の数平均分子量 GPC分析により求めた。詳しくは、島津製作所社製の送液ユニット LC−10ADvp型、および紫外−可視分光光度計 SPD−6AV型を使用した。検出波長は254nm、溶媒はテトラヒドロフランを用いた。ポリスチレン換算とした。 【0056】 (2)ガラス転移点(Tg) JIS−K7121にしたがって、入力補償型示差走査熱量測定装置(パーキンエルマー社製 ダイヤモンドDSC)を用いて10℃/minの昇温速度でスキャンさせたチャートから、ガラス転移点(Tg)(補外ガラス転移開始温度(℃))を読み取った。 【0057】 (3)軟化点(Ts) TAインスツルメンツ社製の熱機械分析装置(TMA)を用い、樹脂を2mm前後の厚みに切断し、直径3mmφのプローブを樹脂にのせ、窒素雰囲気下で177mNの力をかけて、−50℃から2℃/minの昇温速度で昇温させた場合の変曲点について引いた接線を交点の温度をTsとした。 【0058】 (4)ポリエステルの組成 日本電子社製 NMR測定装置 JNM−LA400型を用いて、1H−NMR測定を行い、それぞれの共重合成分のピーク強度から組成を求めた。測定溶媒としては、重水素化トリフルオロ酢酸を用いた。 【0059】 (5)溶解性 ポリエステル樹脂(A)または(B)を固形分濃度10質量%になるようにトルエン/メチルエチルケトンの8/2(質量比)の混合溶剤に溶解し、目視で溶解性を評価した。すなわち、均一に溶解したものを溶解性良好(○)と評価し、それ以外を不溶(×)と評価した。 【0060】 (6)導体接着性 ポリエステル樹脂組成物を固形分濃度30質量%になるようにトルエン/メチルエチルケトンの8/2(質量比)の混合溶剤に溶解させ、その溶解液を肉厚0.3mmの銅板にバーコーターを用いて塗布し、120℃で2分間熱処理して、乾燥肉厚20μmの接着層を有するラミネート用シートを作製した。このラミネート用シートに肉厚38μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムの非コロナ面を重ね、温度180℃、圧力100kPaで1分間プレスし、ラミネートした。得られたラミネートシートを25mm幅に成形し、23℃で180度剥離試験を行い、剥離強度を測定した。 【0061】 表1に示すように、25N/25mm幅以上である場合を優秀(◎)と評価し、17N/25mm幅以上かつ25N/25mm幅未満である場合を良好(○)と評価し、14N/25mm幅以上かつ17N/25mm幅未満である場合をやや不良(△)と評価し、14N/25mm幅未満である場合を不良(×)と評価した。 【表1】 【0062】 (7)耐熱性 上記(6)の場合と同様にラミネートシートを25mm幅に成形し、60℃で180度剥離試験を行い、剥離強度を測定した。同様の試験を23℃の条件でも行い、23℃のときの剥離強度と60℃のときの剥離強度との対比による強度保持率を求めて、耐熱性を評価した。 【0063】 表1に示すように、強度保持率が90%以上である場合を優秀(◎)と評価し、70%以上90%未満である場合を良好(○)と評価し、50%以上70%未満をやや不良(△)と評価し、50%未満である場合を不良(×)と評価した。 【0064】 (8)アンチブロッキング性 ポリエステル樹脂組成物を固形分濃度30質量%になるようにトルエン/メチルエチルケトンの8/2(質量比)の混合溶剤に溶解させ、その溶解液を肉厚38μmのPETフィルムのコロナ面にバーコーターを用いて塗布し、120℃で1分間熱処理して、乾燥肉厚15μmの接着層を有するラミネート用シートを作製した。このシートの接着剤面に肉厚38μmのPETフィルムの非コロナ面を重ね、圧力50hPaで60℃で24時間プレスした。その後、25mm幅に成形し、23℃で180度剥離試験を行い、剥離強度を測定した。 【0065】 表1に示すように、剥離強度が3N/25mm幅未満である場合を優秀(◎)と評価し、3N/25mm幅以上かつ8N/25mm幅未満である場合を良好(○)と評価し、83N/25mm幅以上かつ11N/25mm幅未満である場合をやや不良(△)と評価し、11N/25mm幅以上である場合を不良(×)と評価した。 【0066】 (9)溶液の粒度分布 ポリエステル樹脂組成物を固形分濃度30質量%になるようにトルエン/メチルエチルケトンの8/2(質量比)の混合溶剤に溶解させ、堀場製作所社製のレーザ回折式粒度分布測定装置LA−500を用い、メディアン径を測定した。 【0067】 (10)溶液特性 ポリエステル樹脂組成物を固形分濃度30質量%になるようにトルエン/メチルエチルケトンの8/2(質量比)の混合溶剤に溶解させ、透明なガラス瓶の中で溶液を2時間および24時間静置し、層分離するかどうか目視で確認した。2時間で層分離した場合を不良(×)と評価し、2時間では層分離しなかったが24時間で層分離した場合をやや不良(△)と評価し、24時間以上層分離しなかったものを良好(○)と評価した。 【0068】 (11)酸価 試料0.5gにジオキサン/水(9/1 体積比)を加え、加熱還流後、クレゾールレッドを指示薬とし、KOHメタノール溶液(濃度:100mol/m3 )で滴定し、その滴定量から酸価を求めた。 【0069】 (12)総合評価 合格(○)あるいは不合格(×)と評価した。 【0070】 次にポリエステル樹脂の合成例を説明する。 [合成例A1] テレフタル酸62モル%、イソフタル酸10モル%、セバシン酸28モル%、エチレングリコール53モル%、ネオペンチルグリコール47モル%になるように、原料をエステル化反応缶に投入し、アンカー翼の撹拌機で100rpmの回転数で撹拌しながら、0.25MPaの制圧下で250℃で5時間エステル化を行った。次に、重縮合缶へ移送して、重合触媒を投入し、60分かけて徐々に1.3hPaになるまで減圧していき、その後、所定の分子量に到達するまで260℃で重縮合反応を行い、ポリエステル樹脂(A1)を得た。得られた樹脂(A1)は、数平均分子量が26000、Tgが9℃、酸価が2.5mgKOH/g、Tsが63℃であった。 【0071】 [合成例B1] 表2の組成になるように、原料をエステル化反応缶に投入した。それ以外はポリエステル樹脂(A1)の場合と同様にして、重縮合反応を行った後、酸変性用の原料として無水トリメリット酸を1モル%投入し、常圧で1時間撹拌し、ポリエステル樹脂(B1)を得た。得られた樹脂(B1)は、数平均分子量が11000、Tgが65℃、酸価が7.1mgKOH/g、Tsが114℃であった。 ・・・ 【0074】 【表2】 【0075】 実施例1 ポリエステル樹脂(A1)とポリエステル樹脂(B1)とを、表3に示す配合比率でガラス瓶に投入し、さらに、樹脂(A1)と樹脂(B1)との合計の樹脂固形分の濃度が30質量%になるように、トルエン:メチルエチルケトンが質量比で8:2である混合溶剤を投入した。次に瓶を密栓し、ペイントシェイカーを用いることにより、樹脂を溶剤に溶解させた。 【0076】 その結果、溶液は層分離しなかった。すなわち、溶液特性は良好(○)であった。この溶液にて形成される接着剤の導体接着強力は26N/25mm幅であり、導体接着性は優秀(◎)であった。60℃における導体接着強力は24N/25mm幅であり、したがって強度保持率は92%となり耐熱性は優秀(◎)であった。アンチブロッキング性は、剥離強力が4N/25mm幅と小さく、良好(○)であった。メディアン径は61μmであった。 【0077】 さらに、上記の溶液100質量部に対して、添加物としてヘキサブロモベンゼンを15質量部、三酸化アンチモンを5質量部、二酸化チタンを7質量部、二酸化珪素を2質量部、水酸化アルミニウムを1質量部を加えて均一になるまで撹拌することで、添加物入りの接着剤を得た。 【0078】 この接着剤を、肉厚25μmのPETフィルムに塗布し、120℃で2分間乾燥することで、厚み50μmの積層フィルムを得た。この積層フィルムを用いて、導体接着性、耐熱性、アンチブロッキング性を評価したところ、いずれも、添加物を含まない接着剤の評価結果と同等であった。 【0079】 実施例2〜10 ポリエステル樹脂(A)および(B)を、表3に示す種類および配合比率にした。それ以外は実施例1と同様として接着剤を作製し、評価した。その結果を表3に示す。 【0080】 【表3】 」 (3)甲第3号証(以下、「甲3」という。) 3a「【請求項1】 ジカルボン酸成分と1,4-ブタンジオールを主たる成分とする結晶性の共重合ポリエステルであって、ジカルボン酸成分がポリエステルを構成する全酸成分に対してテレフタル酸30〜98.5モル%、ダイマー酸 0.5〜25モル%、イソフタル酸及び/又は脂肪族ジカルボン酸1〜30モル%からなり、エステル形成性の官能基を2つ以上有する有機リン化合物をポリエステル中のリン原子含有量が 500〜50000ppmとなる量含有し、かつ融点が50〜 200℃であることを特徴とする難燃性ホットメルト接着剤用ポリエステル。」 3b「【0013】また、本発明のポリエステルにはダイマー酸を共重合する必要がある。これにより樹脂の耐湿熱性が向上し、湿熱環境下での接着性低下を著しく改善できるとともに接着性が向上する。ダイマー酸の割合は共重合ポリエステルを構成する全酸成分に対して 0.5〜25モル%である必要があり、好ましくは5〜15モル%である。ダイマー酸の割合が0.5モル%未満になると、接着性や耐湿熱性の改良効果が乏しくなる。また、ダイマー酸の割合が25モル%を超えると、重縮合時の反応性が低下し、所望とする重合度のポリエステルが得られない。」 3c「【0029】 【作用】本発明の共重合ポリエステルは、適度の結晶性を持ち、使用に十分な柔軟性、難燃性を有しており、接着性、特に金属に対する接着性及び耐湿熱性に優れたものである。すなわち、ダイマー酸が共重合されていることで金属に対する密着性が向上すると共に、ポリエステル中のエステル基濃度が低下するため、加水分解も起こり難くなり、耐湿熱性が向上する。また、難燃剤である有機リン化合物が、ポリエステルに共重合されているため、難燃剤とポリエステルとの相溶性不良によるブリードや接着性の低下がない。」 (4)甲第4号証(以下、「甲4」という。) 4a「【請求項1】 主としてジカルボン酸成分とグリコール成分からなる共重合ポリエステル樹脂であって、前記共重合ポリエステルを構成する全多価カルボン酸成分を100モル%としたとき、前記ジカルボン酸成分が芳香族ジカルボン酸を50モル%以上含有し、ダイマー酸を5モル%以上含有し、かつ前記グリコール成分として飽和脂環からなる橋かけ環構造を有するジオールを10〜35モル%含有する共重合ポリエステル樹脂。」 4b「【0008】 本発明の共重合ポリエステル樹脂は、入手容易なバイオマス原料であるダイマー酸を共重合成分として用いていながら、芳香族骨格を有するジカルボン酸と飽和脂環からなる橋かけ環構造を有するジオールとを特定の共重合比率で含有することにより、耐湿熱性、耐傷付性および密着性に優れた塗膜を容易に形成することができる。また、本発明の共重合ポリエステル樹脂は溶解安定性に優れるので、ワニスの状態での保存安定性に優れる。」 (5)甲第5号証(以下、「甲5」という。) 5a「【請求項1】 酸成分とグリコール成分からなるポリエステル樹脂において、酸成分として、テレフタル酸とイソフタル酸を含有し、酸成分中のテレフタル酸とイソフタル酸の合計含有量が80モル%以上であり、グリコール成分として、ダイマージオールとネオペンチルグリコールを含有し、グリコール成分中のダイマージオールの含有量が10〜40モル%、ネオペンチルグリコールの含有量が30〜60モル%であることを特徴とする共重合ポリエステル樹脂。」 5b「【0016】 次に、本発明の共重合ポリエステル樹脂を構成するグリコール成分としては、ダイマージオールとネオペンチルグリコールを共重合成分として含むものである。 ネオペンチルグリコールの含有量は、30〜60モル%であることが必要であり、中でも35〜55モル%であることが好ましい。ネオペンチルグリコールを含有することにより、樹脂に柔軟性と接着性を付与することができる。ネオペンチルグリコールの含有量が30モル%未満であると、このような効果を付与することができず、また、有機溶剤に固形分30〜60質量%の濃度で溶解した場合に不溶解物、固形分の再沈殿を生じやすい。一方、ネオペンチルグリコールの含有量が60モル%を超えると、テレフタル酸とネオペンチルグリコールからなる環状オリゴマーが生成しやすくなり、この場合も、有機溶剤に固形分30〜60質量%の濃度で溶解した場合に不溶解物、固形分の再沈殿を生じやすい。 【0017】 また、グリコール成分としてダイマージオールを10〜40モル%含有することが必要であり、中でも20〜30モル%含有することが好ましい。ダイマージオールを含有することにより、湿熱耐久性を向上させることができる。したがって、ダイマージオールの含有量が10モル%未満では耐湿熱性が低下する。一方、40モル%より多くなると樹脂の凝集力が低下し、被着剤への接着強度が低下する。ここでダイマージオールとは、不飽和脂肪酸が重合またはDiels−Alder反応等によって二量化して生じる脂肪族または脂環族ジカルボン酸(大部分の2量体の他、3量体、モノマー等を数モル%含有するものが多い)をアルコールに還元したものをいう。ダイマージオールとしてはクローダ社のプリポール等が挙げられる。本発明で用いるダイマージオールは、上記で例示した化合物に限定されるものではない。」 (6)甲第6号証(以下、「甲6」という。) 6a「【請求項1】 芳香族ジカルボン酸成分と、下記a)〜d)成分とからなるポリエステルであって、a)〜d)成分の総量を100モル%としたことを特徴とする共重合ポリエステル。 a)ダイマージオールを3〜50モル%、 b)下記式(1)で示されるグリコールを0〜10モル%、 c)下記式(2)で示される構造を有するグリコール又はオキシ酸を10〜60モル%、および d)炭素数2〜10のアルキレングリコールを20〜80モル% 【化1】 (式中、R1は炭素数1〜3のアルキル基、R2は水素または炭素数1〜3のアルキル基、1≦n≦3、5≦m≦100、1≦p<2である。)」 6b「【0012】ここで、a)成分として必要なダイマージオールとは、不飽和脂肪酸を2量化したダイマー酸を還元して得られる脂肪族両末端ジオールである。本発明の共重合ポリエステルは、ダイマージオールを3〜50モル%、好ましくは10〜30モル%含有することが必要である。5モル%未満では耐湿熱性の改善効果が乏しく、50モル%を越えると接着剤組成物の相溶性が低下する。」 (7)甲第7号証(以下、「甲7」という。) 7a「【請求項1】 分子鎖中に含まれるリン原子が0.5wt%以上であり、かつエチレングリコールの含有量が40モル%未満であることを特徴とする接着剤用難燃性ポリエステル樹脂。」 7b「【0029】<リンを共重合した樹脂の合成例2〜6、比較合成例1〜6>合成例1と同様にして、各原料を用い表1及び表2に示す組成のポリエステル樹脂を得た。比較合成例1〜3はリンを共重合していないかあるいは共重合量が少ないので本発明の範囲外である。また、比較合成例4〜6は、エチレングリコールを40モル%以上含むので本発明の範囲外である。 【0030】 【表1】 *1)TPA:テレフタル酸 *2)IPA:イソフタル酸 *3)NDC:2,6−ナフタレンジカルボン酸 *4)DPDA:4,4‘−ジフェニルジカルボン酸 *5)AA:アジピン酸 *6)SA:セバシン酸 *7)DDA:ドデカンジカルボン酸 *8)式5:式5で示されるジカルボン酸 *9)TMA:無水トリメリット酸 *10)EGエチレングリコール *11)2MG:2−メチル−1,3−プロパンジオール *12)1,3−PD:1,3−プロパンジオール *13)NPG:ネオペンチルグリコール *14)1,6−HD:1,6−ヘキサンジオール *15)ND:1,9−ノナンジオール *16)DDOダイマージオール(ユニケマ社製プリポール2033) *17)PTG:ポリテトラメチレングリコール(分子量1000)」 (8)甲第8号証(以下、「甲8」という。) 「 ・・・ 」 3 甲号証に記載された発明 (1)甲1に記載された発明 甲1には接着剤用樹脂組成物は接着剤組成物として評価されているから(摘記1f参照)、実施例1として「熱可塑性樹脂(A)として、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、無水トリメリット酸、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、テトラブチルチタネートを仕込み、4時間かけて250℃まで徐々に昇温し、留出する水を系外に除きつつエステル化反応を行った後30分かけて10mmHgまで減圧初期重合を行うと共に温度を250℃まで昇温し、更に1mmHg以下で1時間後期重合を行い、その後、窒素にて常圧に戻し、無水トリメリット酸を投入し、220℃で30分間反応させることによって得た、テレフタル酸 40部、イソフタル酸 39部、アジピン酸 20部及び無水トリメリット酸 1部からなる多価カルボン酸成分、2−メチル−1,3−プロパンジオール 58部及び1,4−ブタンジオール 42部からなる多価アルコール成分、並びに、無水トリメリット酸 4部からなる付加酸からなり、数平均分子量(Mn)15,000、酸価(当量/106g)400、ガラス転移温度(℃)10であるポリエステル樹脂A100部(固形分のみの質量、以下同様)、無機充填材(B)としてR972[日本アエロジル(株)製 疎水性煙霧状シリカ]20部、溶剤(C)としてメチルエチルケトン248部、トルエン112部を配合し、調整した固形分濃度25%である樹脂組成物(β)と、エポキシ樹脂(D)としてエポキシ樹脂ア[大日本インキ化学工業(株)製 HP7200−H(ジシクロペンタンジエン型エポキシ樹脂)、エポキシ価=3540当量/106g]11.9部、溶剤(C)としてメチルエチルケトン5.1部を配合し、調整した固形分濃度70%である樹脂組成物(γ)を配合することで得た、接着剤用樹脂組成物から得られる接着剤組成物。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる(摘記1f参照)。 (2)甲2に記載された発明 甲2のポリエステル樹脂B1はポリエステル樹脂A1と同様に合成されるから(摘記2g参照)、実施例1として「テレフタル酸62モル%、イソフタル酸10モル%、セバシン酸28モル%、エチレングリコール53モル%、ネオペンチルグリコール47モル%になるように、原料をエステル化反応缶に投入し、アンカー翼の撹拌機で100rpmの回転数で撹拌しながら、0.25MPaの制圧下で250℃で5時間エステル化を行い、重縮合缶へ移送して、重合触媒を投入し、60分かけて徐々に1.3hPaになるまで減圧していき、その後、所定の分子量に到達するまで260℃で重縮合反応を行い得た、数平均分子量が26000、Tgが9℃、酸価が2.5mgKOH/g、Tsが63℃であるポリエステル樹脂(A1)とテレフタル酸50モル%、イソフタル酸50モル%、エチレングリコール49モル%、BisA−2EO(ビスフェノールAの2モルエチレンオキサイド付加物)50モル%、プロピレングリコール1モル%になるように、原料をエステル化反応缶に投入し、アンカー翼の撹拌機で100rpmの回転数で撹拌しながら、0.25MPaの制圧下で250℃で5時間エステル化を行った。次に、重縮合缶へ移送して、重合触媒を投入し、60分かけて徐々に1.3hPaになるまで減圧していき、その後、所定の分子量に到達するまで260℃で重縮合反応を行った後、酸変性用の原料として無水トリメリット酸を1モル%投入し、常圧で1時間撹拌し得た、数平均分子量が11000、Tgが65℃、酸価が7.1mgKOH/g、Tsが114℃であるポリエステル樹脂(B1)から得られる接着剤。」の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる(摘記2g参照)。 4 対比・判断 (1)甲1発明を主引用発明とする場合 ア 本件特許発明1 (ア)甲1発明との対比 甲1発明の「無水トリメリット酸」は本件特許発明1の「酸無水物基数が0又は1である3価以上の多価カルボン酸類(a1)」に相当し、甲1発明の「テレフタル酸 40部、イソフタル酸 39部」は、本件特許発明1の「芳香族多価カルボン酸類」に相当し、その合計含有量は27.2モル%(100×(40/166)+(39/166))+((40/166)+(39/166)+(20/146)+(1/210)+(58/90)+(42/90)+(1/210))であるから、甲1発明の「テレフタル酸 40部、イソフタル酸 39部、アジピン酸 20部及び無水トリメリット酸 1部からなる多価カルボン酸成分、2−メチル−1,3−プロパンジオール 58部及び1,4−ブタンジオール 42部からなる多価アルコール成分」は本件特許発明1の「多価カルボン酸類由来の構造単位」、「[I]多価カルボン酸類が、芳香族多価カルボン酸類を25モル%以上含有すること」及び「[II]多価カルボン酸類が、酸無水物基数が0又は1である3価以上の多価カルボン酸類(a1)を含有すること」に相当する。 甲1発明の「2−メチル−1,3−プロパンジオール 58部及び1,4−ブタンジオール 42部からなる多価アルコール成分」は本件特許発明1の「多価アルコール類由来の構造単位」に相当する。 そうすると、本件特許発明1と甲1発明は、「多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位とを含むポリエステル系樹脂(A)を含有する接着剤組成物であって、ポリエステル系樹脂(A)が下記の要件を満足することを特徴とする接着剤組成物。 [I]多価カルボン酸類が、芳香族多価カルボン酸類を25モル%以上含有すること。[II]多価カルボン酸類が、酸無水物基数が0又は1である3価以上の多価カルボン酸類(a1)を含有すること。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1−1> 本件特許発明1は[III]ポリエステル系樹脂(A)のエステル結合濃度が7ミリモル/g以下であるのに対し、甲1発明はそのような特定がない点。 <相違点1−2> 本件特許発明1は[IV]ポリエステル系樹脂(A)の酸価が3mgKOH/g以上であるのに対し、甲1発明は酸価(当量/106g)が400である点。 <相違点1−3> 本件特許発明1は[V]多価カルボン酸類としてダイマー酸類、及び多価アルコール類としてダイマージオール類からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有し、多価カルボン酸類全体に対するダイマー酸類の含有量(α)と多価アルコール類全体に対するダイマージオール類の含有量(β)との合計含有量(α+β)が5モル%以上であるのに対し、甲1発明はそのような特定がない点。 (イ)相違点についての検討 事案に鑑み、まず、<相違点1−1>及び<相違点1−3>について検討する。 <相違点1−1>及び<相違点1−3>について 甲1には、甲1発明の接着剤組成物におけるポリエステル樹脂Aの酸成分としてダイマー酸が記載されている(摘記1d参照)。 また、甲1発明の接着剤組成物は耐湿熱性を有するものであり(摘記1b参照)、甲3には5〜15モル%のダイマー酸がポリエステルの耐湿熱性を向上することが記載され(摘記3b参照)、甲4には5モル%以上のダイマー酸を含むポリエステル樹脂が耐湿熱性に優れることが記載されており(摘記4b参照)、甲5にはダイマージオールを10〜40モル%含有することによりポリエステル樹脂の湿熱耐久性を向上させることが記載されており(摘記5b参照)、甲6にはダイマージオールを3〜50モル%含有するポリエステル共重合体を含む接着剤組成物は耐湿熱性の改善効果を有することが記載されており(摘記6b参照)、甲7には接着剤用ポリエステル樹脂においてダイマージオールを5〜8モル%含むものが記載されており(摘記7b参照)、甲3には、ダイマー酸が共重合することでポリエステル中のエステル基濃度が低下し、耐湿熱性が向上することが、記載されている(摘記3c参照)。 そうすると、耐湿熱性を有する甲1発明の接着剤組成物におけるポリエステル樹脂Aにおいて、耐湿熱性を向上させるために、甲1、甲3〜甲7に記載のポリエステルの耐湿熱性を向上させるダイマー酸やダイマージオールを含有するものとし、甲1、甲3〜甲7のダイマー酸やダイマージオールのポリエステル中の含有量の範囲を参照して、多価カルボン酸類全体に対するダイマー酸類の含有量(α)と多価アルコール類全体に対するダイマージオール類の含有量(β)との合計含有量(α+β)が5モル%以上とし、[III]ポリエステル系樹脂(A)のエステル結合濃度を少なくすることまでは、当業者が容易に想到し得ることであるかもしれないが、[III]ポリエステル系樹脂(A)のエステル結合濃度を7ミリモル/g以下とすることができるか否かについては不明であって、7ミリモル/gという閾値を設定する動機付けがあるともいえない。してみると、耐湿熱性を有する甲1発明の接着剤組成物におけるポリエステル樹脂Aにおいて、[III]ポリエステル系樹脂(A)のエステル結合濃度を7ミリモル/g以下とすることは、当業者が容易になしえたこととはいえない。 (ウ)本件特許発明1の効果について 本件特許明細書の【表1】からみて、[III]ポリエステル系樹脂(A)のエステル結合濃度が7ミリモル/g以下である本件特許発明1の実施例のものが、[III]ポリエステル系樹脂(A)のエステル結合濃度が7ミリモル/gを超える比較例のものと比較して、湿熱環境下での長期耐久性に優れているから、本件特許発明1は優れた効果を奏するといえる。 (エ)小括 したがって、本件特許発明1は、<相違点1−2>について検討するまでもなく、甲1に記載された発明及び甲3〜甲7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。 イ 本件特許発明2〜9 本件特許発明2〜9は、本件特許発明1を引用し、さらに限定するものであり、前記本件特許発明1と甲1発明との<相違点1−1>及び<相違点1−3>と同じの相違点を有するものであり、本件特許発明2〜9は、甲1に記載された発明及び甲3〜甲7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。 (2)甲2発明を主引用発明とする場合 ア 本件特許発明1 (ア)甲2発明との対比 甲2発明の「ポリエステル樹脂B1」の「テレフタル酸50モル%、イソフタル酸50モル%」は、本件特許発明1の「多価カルボン酸類由来の構造単位」に相当し、ポリエステル樹脂B1中49.5モル%(100×(50+50)/(50+50+49+50+1+1)であるから、本件特許発明1の「[I]多価カルボン酸類が、芳香族多価カルボン酸類を25モル%以上含有すること」に相当する。 甲2発明の「無水トリメリット酸」は本件特許発明1の「[II]多価カルボン酸類が、酸無水物基数が0又は1である3価以上の多価カルボン酸類(a1)を含有すること」に相当する。 甲2発明の「酸価が7.1mgKOH/g」は本件特許発明1の「[IV]ポリエステル系樹脂(A)の酸価が3mgKOH/g以上であること」に相当する。 そうすると、本件特許発明1と甲1発明は、「多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位とを含むポリエステル系樹脂(A)を含有する接着剤組成物であって、ポリエステル系樹脂(A)が下記の要件を満足することを特徴とする接着剤組成物。 [I]多価カルボン酸類が、芳香族多価カルボン酸類を25モル%以上含有すること。[II]多価カルボン酸類が、酸無水物基数が0又は1である3価以上の多価カルボン酸類(a1)を含有すること。 [IV]ポリエステル系樹脂(A)の酸価が3mgKOH/g以上であること。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点2−1> 本件特許発明1は[III]ポリエステル系樹脂(A)のエステル結合濃度が7ミリモル/g以下であるのに対し、甲2発明はそのような特定がない点。 <相違点2−2> 本件特許発明1は[V]多価カルボン酸類としてダイマー酸類、及び多価アルコール類としてダイマージオール類からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有し、多価カルボン酸類全体に対するダイマー酸類の含有量(α)と多価アルコール類全体に対するダイマージオール類の含有量(β)との合計含有量(α+β)が5モル%以上であるのに対し、甲2発明はそのような特定がない点。 (イ)相違点についての検討 <相違点2−1>及び<相違点2−2>について 甲2発明の接着剤のポリエステル樹脂は耐湿熱性を向上したものであり(摘記2b参照)、甲3には5〜15モル%のダイマー酸がポリエステルの耐湿熱性を向上することが記載され(摘記3b参照)、甲4には5モル%以上のダイマー酸を含むポリエステル樹脂が耐湿熱性に優れることが記載されており(摘記4b参照)、甲5にはダイマージオールを10〜40モル%含有することによりポリエステル樹脂の湿熱耐久性を向上させることが記載されており(摘記5b参照)、甲6にはダイマージオールを3〜50モル%含有するポリエステル共重合体を含む接着剤組成物は耐湿熱性の改善効果を有することが記載されており(摘記6b参照)、甲7には接着剤用ポリエステル樹脂においてダイマージオールを5〜8モル%含むものが記載されており(摘記7b参照)、甲3には、ダイマー酸が共重合することでポリエステル中のエステル基濃度が低下し、耐湿熱性が向上することが、記載されている(摘記3c参照)。 そうすると、耐湿熱性が向上した甲2発明の接着剤におけるポリエステル樹脂において、耐湿熱性を向上させるために、甲2〜甲7に記載のポリエステルの耐湿熱性を向上させるダイマー酸やダイマージオールを含有するものとし、甲2〜甲7のダイマー酸やダイマージオールのポリエステル中の含有量の範囲を参照して、多価カルボン酸類全体に対するダイマー酸類の含有量(α)と多価アルコール類全体に対するダイマージオール類の含有量(β)との合計含有量(α+β)が5モル%以上として、[III]ポリエステル系樹脂(A)のエステル結合濃度が7ミリモル/g以下であるものと、[III]ポリエステル系樹脂(A)のエステル結合濃度を少なくすることまでは、当業者が容易に想到し得ることであるかもしれないが、[III]ポリエステル系樹脂(A)のエステル結合濃度を7ミリモル/g以下とすることができるか否かについては不明であって、7ミリモル/gという閾値を設定する動機付けがあるともいえない。してみると、耐湿熱性を有する甲1発明の接着剤組成物におけるポリエステル樹脂Aにおいて、[III]ポリエステル系樹脂(A)のエステル結合濃度を7ミリモル/g以下とすることは、当業者が容易になしえたこととはいえない。 (ウ)本件特許発明1の効果について 前記(1)ア(ウ)で検討したとおり、本件特許発明1は優れた効果を奏するといえる。 (エ)小括 したがって、本件特許発明1は、甲2に記載された発明及び甲3〜甲7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。 イ 本件特許発明2〜9 本件特許発明2〜9は、本件特許発明1を引用し、さらに限定するものであり、前記本件特許発明1と甲2発明との<相違点2−1>及び<相違点2−2>と同じの相違点を有するものであり、本件特許発明2〜9は、甲2に記載された発明及び甲3〜甲7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。 第7 前記第5の理由2(サポート要件)について 1 本件特許発明1について ・解重合の工程について 本件特許発明の課題は前記第3のとおりである。 確かに、本件特許明細書にはTMAn(トリメリット酸無水物)による解重合の工程を経ていないポリエステル系樹脂を含有する接着剤が前記課題を解決できることは記載されていないが、本件特許明細書の【0020】、【0032】、【0046】及び【0053】には、湿熱環境下での長期耐久性が不充分とならないようにポリエステル系樹脂(A)の多価カルボン酸類全体に対する芳香族多価カルボン酸類の含有量を25モル%以上とすること、ポリエステル系樹脂(A)の多価カルボン酸類全体に対するダイマー酸類の含有量(α)と多価アルコール類全体に対するダイマージオール類の含有量(β)との合計含有量(α+β)(モル%)を5モル%以上とすること、ポリエステル系樹脂(A)のエステル結合濃度を7ミリモル/g以下とすること、耐熱性が不十分とならにようにポリエステル系樹脂(A)の酸価を3mgKOH/g以上とすることが、記載されており、実際に、ポリエステル系樹脂(A)において、多価カルボン酸類が芳香族多価カルボン酸類を25モル%以上含有し、エステル結合濃度が7ミリモル/g以下であり、酸価が3mgKOH/g以上であり、多価カルボン酸類全体に対するダイマー酸類の含有量(α)と多価アルコール類全体に対するダイマージオール類の含有量(β)との合計含有量(α+β)が5モル%以上である実施例のものが、前記課題を解決できることが、理解できる。 そうすると、TMAn(トリメリット酸無水物)による解重合の工程を経ていないものであっても、ポリエステル系樹脂(A)が、多価カルボン酸類が芳香族多価カルボン酸類を25モル%以上含有し、エステル結合濃度が7ミリモル/g以下であり、酸価が3mgKOH/g以上であり、多価カルボン酸類全体に対するダイマー酸類の含有量(α)と多価アルコール類全体に対するダイマージオール類の含有量(β)との合計含有量(α+β)が5モル%以上であれば、前記課題を解決できると推認でき、また、特許異議申立人はTMAn(トリメリット酸無水物)による解重合の工程を経ていないポリエステル系樹脂を含有する接着剤が前記課題を解決できないことを実証しているわけでもない。 そうすると、本件特許発明1に記載の接着剤組成物は、ポリエステルに関して、TMAn(トリメリット酸無水物)による解重合の工程について発明特定事項として記載していないとしても、発明の詳細な説明に記載された事項及び本件出願時の技術常識に基づき、当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでないとはいえない。 2 本件特許発明4 本件特許明細書の【0041】及び【0088】の【表1】における「解重合」とは、ポリエステルの末端水酸基とTMAnの酸無水物基の付加反応の一方で、TMAnにもともと存在するカルボキシル基がポリエステル主鎖中のエステル結合とエステル交換反応を起こすことによる主鎖の切断も起こることであることは、明らかであるから、本件特許発明4における接着剤組成物は、解重合の工程を経て得られたものであるにも拘わらず、本件特許の明細書には、「TMAn」により解重合が生じることに関する開示がなされていないとはいえない。 第8 前記第5の理由3(実施可能要件)について 前記第7 2のとおり、本件特許の明細書には、「TMAn」により、付加反応の一方で解重合が生じることから、如何にして解重合が生じることに関する開示がなされていないとはいえない。 そうすると、本件特許発明4における「解重合」を如何に行うのかについて、発明の詳細な説明に記載されているといえるため、当業者が本件特許発明4を実施することができないとはいえない。 なお、特許異議申立人は、甲第8号証を提示して、「解重合」によって、単量体が生成することを前提として、実施可能要件について主張するが、甲第8号証には、「広義には機械的作用,熱的作用,放射線,紫外線などの作用による重合体の崩壊,分裂反応をも解重合とよぶ場合もあり」と記載されており、本件発明4における「解重合」が重合体の分裂反応を指しているといえるから、特許異議申立人の主張は前提において誤っており、採用できない。 第9 むすび 以上のとおりであるから、令和5年9月15日付けの取消理由通知に記載した取消理由、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許発明1〜9に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許発明1〜9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2023-11-28 |
出願番号 | P2020-157082 |
審決分類 |
P
1
651・
536-
Y
(C09J)
P 1 651・ 537- Y (C09J) P 1 651・ 121- Y (C09J) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
関根 裕 |
特許庁審判官 |
瀬下 浩一 門前 浩一 |
登録日 | 2022-08-22 |
登録番号 | 7127674 |
権利者 | 三菱ケミカル株式会社 |
発明の名称 | 接着剤組成物及び接着剤 |
代理人 | 井▲崎▼ 愛佳 |
代理人 | 西藤 征彦 |
代理人 | 寺尾 茂泰 |
代理人 | 西藤 優子 |