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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01R
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01R
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01R
管理番号 1405204
総通号数 25 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2024-01-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-03-18 
確定日 2023-11-29 
事件の表示 特願2019−517924「バッテリーセル電圧データ処理装置および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 9月13日国際公開、WO2018/164346、令和 2年 1月 9日国内公表、特表2020−500292〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)11月28日を国際出願日とする外国語特許出願であって(パリ条約による優先権主張外国庁受理2017年3月6日、韓国)、その手続の経緯の概略は、以下のとおりである。

平成31年 4月17日 :翻訳文の提出
令和 2年 7月 2日付け:拒絶理由通知書
同年10月 9日 :意見書、手続補正書の提出
令和 3年 2月26日付け:拒絶理由通知書(最後)
同年 6月 1日 :意見書、手続補正書の提出
同年11月12日付け:補正の却下の決定
同日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同月24日 :原査定の謄本の送達)
令和 4年 3月18日 :審判請求書の提出
同年10月27日 :面接
同月31日付け:審尋
令和 5年 1月26日 :回答書の提出
同年 2月16日付け:拒絶理由通知書
同年 5月12日 :意見書の提出

なお、令和5年2月16日付けで当審において通知した拒絶理由を、以下「当審拒絶理由」という。


第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和2年10月9日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。

「【請求項1】
一つ以上のバッテリーセルから印加される電圧を測定して電圧データを取得する電圧データ取得部、
前記取得した一つ以上の前記電圧データのうちからいずれか一つ以上の前記電圧データを選択し、前記選択された電圧データの個数に基づいて前記電圧データに対応する加重値を算出して各々の前記電圧データに付与する加重値処理部、
前記加重値の付与を受けた一つ以上の前記電圧データの移動平均を算出する移動平均算出部、および
直前ステップで取得された前記電圧データを前記移動平均に反映して現在ステップの前記電圧データを取得する電圧データ処理部
を含む、
バッテリーセル電圧データ処理装置。」


第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由のうち、本願発明に対する理由1(明確性要件違反)、理由2(新規性の欠如)及び理由3(進歩性の欠如)の概要は、次のとおりである。

1 理由1(明確性要件違反)
請求項1には、「前記取得した一つ以上の前記電圧データのうちからいずれか一つ以上の前記電圧データを選択し、前記選択された電圧データの個数に基づいて前記電圧データに対応する加重値を算出して各々の前記電圧データに付与する加重値処理部」と記載されているところ、「選択された電圧データの個数に基づいて算出する」とは、どのように算出することを意味するのか明らかでないから、請求項1に係る発明は明確でない。

2 理由2(新規性の欠如)
本願発明は、本願の優先日前に発行された、下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。

3 理由3(進歩性の欠如)
本願発明は、本願の優先日前に発行された、下記の引用文献1に記載された発明に基づいて、本願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。



引用文献1.特開2015−198276号公報


第4 明確性要件違反について
1 審尋
(1) 審尋の内容
令和4年10月31日付けで、次に示すことを内容とする審尋を行い、請求人に回答を求めた。

「請求項1における、「前記選択された電圧データの個数に基づいて前記電圧データに対応する加重値を算出して各々の前記電圧データに付与する」ことにおける「電圧データの個数に基づいて前記電圧データに対応する加重値を算出[する]」は、電圧データの個数をnとするとき、「加重値をnの数式によって算出する」という意味ではないと理解していますが、このような理解で正しいのでしょうか。」

(2) 回答書の内容
令和5年1月26日に付けの回答書(以下、単に「回答書」という。)において、請求人は、請求項1における「電圧データの個数に基づいて前記電圧データに対応する加重値を算出する」という記載は、合議体の認定どおり、「加重値をnの数式によって算出する」という意味ではないと回答した。

2 意見書
令和5年5月12日付け意見書(以下、単に「意見書」という。)において、請求人は次のとおり主張している。下線は、合議体による。
「 (1−1)
審判官は、「選択された電圧データの個数に基づいて」「加重値を算出」(請求項1)するとは、どのように算出することを意味するのか明らかでない、と認定している。
本願明細書には、「前記電圧データ取得部110からn番目(ここで、nは正の整数を意味する。)の電圧データを取得する場合、n番目に取得した電圧データにn番だけ加重された加重値を付与する」(段落0037)ことと、「現在ステップで測定されたバッテリー10の電圧値に対応する前記電圧データに対して最も大きい加重値を算出して付与する」(段落0038)ことと、「ユーザが取得した電圧データ各々に所定の値だけ加重された加重値を付与するように設定する場合、前記加重値処理部120は、n番目に取得した電圧データに所定の値だけ加重された加重値を付与する」(段落0040)ことなどが開示されている。
例えば、「選択された電圧データの個数」に基づく加重値の算出方法には下記の方法がある。
(1−2)
基本加重値αが適用されて計算された電圧値Vmは、例えば次のように定義される。



(α>0,k=1,2,3・・・n,n≧5)
n=5、α=2である場合、データの個数(n=5)に基づく重みが適用されて算出された電圧値Vmは、次のように算出される。



n=6、α=2である場合、データの個数(n=6)に基づく重みが適用されて算出された電圧値Vmは、次のように算出される。



このように、データの個数nが変わると、最新のデータに適用される加重値も変化することが分かる。

(1−3) さらなる実施形態では、急激なセル電圧の変化があるときに現在の測定値に高い重みを適用することができ、電圧変化がない区間には過去のデータを反映してフィルタリング効果を狙うことができる。
例えば、最初にn=5、α=1であり、データの個数(n=5)に基づく重みを適用して計算された電圧値をVm、現在測定されデータの個数(n=c)に基づく重みを適用して計算された電圧値をVcとすると、次のようにデータの個数(n=c)と重みを変更して適用することができる。
0.003<Vc−Vm<0.005の場合: α値をそのまま維持
Vc−Vm≧0.005の場合: α値を1ずつ増加
Vc−Vm≦0.003の場合: α値を1ずつ減少

(1−2)および(1−3)の実施形態は、「選択された電圧データの個数」に基づく加重値の算出方法の一例であり、これらの方法以外でも加重値を算出することができる。
上述した例より、拒絶理由通知において指摘された「選択された電圧データの個数に基づいて」「加重値を算出」(請求項1)することの意味が明確になった。」

3 当審の判断
(1) 当審の判断の概要
請求項1に係る発明は、「前記取得した一つ以上の前記電圧データのうちからいずれか一つ以上の前記電圧データを選択し、前記選択された電圧データの個数に基づいて前記電圧データに対応する加重値を算出して各々の前記電圧データに付与する加重値処理部」及び「前記加重値の付与を受けた一つ以上の前記電圧データの移動平均を算出する移動平均算出部」を発明特定事項としているところ、次に示すとおり、意見書の主張を参酌しても、「選択された電圧データの個数に基づいて算出する」とは、どのように算出することを意味するのか明らかでないから、請求項1に係る発明は明確でない。

(2) 検討
回答書において、請求人は、請求項1における「電圧データの個数に基づいて前記電圧データに対応する加重値を算出する」という記載は、「加重値をnの数式によって算出する」という意味ではないと回答している。
当審拒絶理由において、「選択された電圧データの個数に基づいて算出する」とは、どのように算出することを意味するのか明らかでないと通知したところ、請求人は、この意味を直接説明することにその意味を明らかにすることはしておらず、意見書の(1−2)で実施形態を説明し、「このように、データの個数nが変わると、最新のデータに適用される加重値も変化することが分かる。」とし、また、意見書の(1−3)で実施形態を説明し、「データの個数(n=c)と重みを変更して適用することができる。」とし、「(1−2)および(1−3)の実施形態は、「選択された電圧データの個数」に基づく加重値の算出方法の一例であり、これらの方法以外でも加重値を算出することができる。」としている。
その一方で、新規性進歩性の欠如の根拠として合議体が示した、引用文献1(特開2015−198276号公報)においては、「加重移動平均値」を計算するところ、「加重移動平均値」は、データの個数により、最新のデータに適用される加重値も変化することになるが、これに対して請求人は、「前記取得した一つ以上の前記電圧データのうちからいずれか一つ以上の前記電圧データを選択し、前記選択された電圧データの個数に基づいて前記電圧データに対応する加重値を算出」するという点については、何ら記載されておらず、また示唆されていないと主張している。
結局のところ、「電圧データの個数に基づいて前記電圧データに対応する加重値を算出する」ことがどのような意味であるのか、当業者には不明であるから、請求項1に係る発明は、不明確である。
なお、令和4年10月27日の面接、同月31日付審尋を経て、当審拒絶理由を通知してもなお、請求人は、「電圧データの個数に基づいて前記電圧データに対応する加重値を算出する」ことがどのような意味であるのか、明確にしない以上、再度拒絶理由通知を通知したとしても、第三者に不測の不利益を生じさせることがない程度に明確になるように請求人が補正する見込みは、あるとはいえない。


第5 新規性進歩性の欠如
1 引用文献1に記載された事項及び引用発明の認定
(1) 引用文献1に記載された事項
当審拒絶理由において引用した、本願の優先日前に発行された前記引用文献1(特開2015−198276号公報)には、以下の事項が記載されている。下線は、当合議体によるものであり、以下同様である

ア 特許請求の範囲
「【請求項1】
バッテリを構成する複数の電池セルの電圧をサンプリングすることによってデジタル値に変換するA/D変換器と、
前記A/D変換器を制御する制御手段と、
演算手段とを具備し、
前記制御手段は、低周波ノイズの周期を基準として設けられた複数の異なる第1時間間隔からなる第1テーブルと、高周波ノイズの周期を基準として設けられた複数の異なる第2時間間隔からなる第2テーブルとを有し、時系列的に、前記第1時間間隔と前記第2時間間隔とを異なる組み合わせで加算し、その加算値を次回のサンプリングまでの時間間隔とすることを特徴とする電圧検出装置。
【請求項2】
前記演算手段によって移動平均値を算出する際のサンプリングデータの数は、前記第1テーブルの第1時間間隔の数と、前記第2テーブルの第2時間間隔の数との倍数であることを特徴とする請求項1に記載の電圧検出装置。」

イ 段落【0001】
「【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧検出装置に関する。」

ウ 段落【0010】〜【0025】、【図1】〜【図3】
「【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態に係る電圧検出装置Aは、電気自動車(EV:Electric Vehicle)あるいはハイブリッド自動車(HV:Hybrid Vehicle)等の移動車両に搭載され、バッテリBを構成する各電池セルCの電圧状態を監視するものであり、図1に示すように、フィルタ回路1、マルチプレクサ2、A/D変換器3及びマイコン4を備えている。なお、マイコン4は、本実施形態における制御手段及び演算手段である。
【0011】
電池セルCの各々は、フィルタ回路1を介してマルチプレクサ2と接続されている。各フィルタ回路1は、各セル電圧に重畳するノイズ成分を低減するために設けられたローパスフィルタである。なお、フィルタ回路1は、A/D変換器3のサンプリング周期を調整することによってノイズを除去するので、複雑な構成のアナログフィルタ回路でなくともよい。
【0012】
マルチプレクサ2は、マイコン4から入力される選択切替えタイミングを規定する選択タイミング信号に同期して、電池セルCの各々とA/D変換器3との接続を選択的に順次切替える。
A/D変換器3は、マルチプレクサ2の出力電圧、つまりマルチプレクサ2によって順次接続された電池セルCの各々の電圧をサンプリングすることによってデジタル値に変換してマイコン4に出力する。このA/D変換器3のサンプリング周期は、マイコン4による制御によって任意の値に調整可能となっている。
【0013】
マイコン4は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及び各部と各種信号の送受信を行うインターフェイス回路等から構成されている。このマイコン4は、上記ROMに記憶された各種演算制御プログラムに基づいて各種の演算処理を行うと共に各部と通信を行うことにより電圧検出装置Aの全体動作を制御する。
【0014】
次に、このように構成された電圧検出装置Aの動作について説明する。
電圧検出装置Aにおいて、マイコン4は、A/D変換器3を制御するにあたり、以下の特徴的な動作を実行する。
【0015】
マイコン4は、低周波ノイズの周期を基準として設けられた複数の異なる第1時間間隔からなる第1テーブルと、高周波ノイズの周期を基準として設けられた複数の異なる第2時間間隔からなる第2テーブルとを有し、時系列的に、第1時間間隔と第2時間間隔とを異なる組み合わせで加算し、その加算値を次回のサンプリングまでの時間間隔とする。
【0016】
すなわち、マイコン4は、低周波ノイズを除去するための第1時間間隔が登録された第1テーブルと、高周波ノイズを除去するための第2時間間隔が登録された第2テーブルとをROMに記憶し、第1時間間隔と第2時間間隔との加算値を次回のサンプリングまでの時間間隔とする。
【0017】
例えば、第1テーブルには、図2(a)に示すように、「10ms」及び「30ms」という2つの第1時間間隔が登録されている。一方、第2テーブルには、図2(b)に示すように、「0.0ms」、「0.1ms」、「0.2ms」、「0.3ms」、「0.4ms」、「0.5ms」、「0.6ms」、「0.7ms」、「0.8ms」、「0.9ms」、「−0.1ms」、「−0.2ms」、「−0.3ms」、「−0.4ms」、「−0.5ms」、「−0.6ms」、「−0.7ms」、「−0.8ms」、「−0.9ms」及び「0.0ms」という20個の第2時間間隔が登録されている。
【0018】
まず、マイコン4は、図3に示すように、「10ms」に「0.0ms」を加算した「10ms」を、次回のサンプリングまでの時間間隔(1番目の時間間隔)とする。続いて、マイコン4は、「30ms」に「0.1ms」を加算した「30.1ms」を、次回のサンプリングまでの時間間隔(2番目の時間間隔)とする。続いて、マイコン4は、「10ms」に「0.2ms」を加算した「10.2ms」を、次回のサンプリングまでの時間間隔(3番目の時間間隔)とする。続いて、マイコン4は、「30ms」に「0.3ms」を加算した「30.3ms」を、次回のサンプリングまでの時間間隔(4番目の時間間隔)とする。マイコン4は、これを繰り返し、「30ms」に「0.0ms」を加算した「30ms」を、20番目の時間間隔とする。
【0019】
つまり、マイコン4は、第1テーブルに登録される「10ms」及び「30ms」を交互に選択し、選択した「10ms」及び「30ms」に、第2テーブルに登録された第2時間間隔を順番に加算した加算値を、次回のサンプリングまでの時間間隔とする。
【0020】
そして、マイコン4は、上述した次回のサンプリングまでの時間間隔に基づいてA/D変換器3にサンプリングを実行させる。
続いて、マイコン4は、A/D変換器3から入力された複数のサンプリングデータの移動平均値を算出し、移動平均値を電池セルCの電圧値とする。なお、移動平均値は、単純移動平均値でもよいし、また加重移動平均値であってもよい。
【0021】
このように、本実施形態では、第1時間間隔を変えてサンプリングし、サンプリングデータの移動平均値を得ることによって、ある周期を有する低周波ノイズの影響を低減することができる。また、本実施形態では、第2時間間隔を変えてサンプリングし、サンプリングデータの移動平均値を得ることによって、ある周期を有する高周波ノイズの影響を低減することができる。
【0022】
また、マイコン4によって移動平均値を算出する際のサンプリングデータの数は、第1テーブルの第1時間間隔の数と、第2テーブルの第2時間間隔の数との倍数であることが望ましい。例えば、第1テーブル及び第2テーブルが図2に示すものである場合には、サンプリングデータの数は、例えば、20とする。これは、サンプリングデータを採取する際に用いられる第1テーブルの第1時間間隔や第2テーブルの第2時間間隔に偏りを生じさせないためである。
【0023】
例えば、サンプリングデータの数が19である場合、第1時間間隔として「10ms」が10回用いられるが、「30ms」が9回しか用いられないため、移動平均値に偏りが生じる可能性がある。この移動平均値の偏りを可能な限り排除するために、マイコン4によって移動平均値を算出する際のサンプリングデータの数が、第1テーブルの第1時間間隔の数と、第2テーブルの第2時間間隔の数との倍数となるようにしている。
【0024】
このような本実施形態によれば、バッテリBを構成する複数の電池セルCの電圧をサンプリングすることによってデジタル値に変換するA/D変換器3と、A/D変換器3を制御し、A/D変換器3から入力された複数のサンプリングデータの移動平均値を電池の電圧値とするマイコン4とを具備し、マイコン4は、低周波ノイズの周期を基準として設けられた複数の異なる第1時間間隔からなる第1テーブルと、高周波ノイズの周期を基準として設けられた複数の異なる第2時間間隔からなる第2テーブルとを有し、時系列的に、第1時間間隔と第2時間間隔とを異なる組み合わせで加算し、その加算値を次回のサンプリングまでの時間間隔とすることによって、低周波帯及び高周波帯のノイズを除去すると共に、コストの削減を可能とすることができる。
【0025】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることなく、例えば以下のような変形が考えられる。
上記実施形態は、移動車両に搭載されたものであるが、移動車両以外に、家電製品等の電子機器に搭載されていてもよい。」
「【図1】


「【図2】


「【図3】



(2) 引用発明の認定
前記(1)に摘記した引用文献1の記載事項を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

<引用発明>
「バッテリを構成する複数の電池セルの電圧をサンプリングすることによってデジタル値に変換するA/D変換器と、
前記A/D変換器を制御する制御手段と、
演算手段とを具備し、
前記制御手段は、低周波ノイズの周期を基準として設けられた複数の異なる第1時間間隔からなる第1テーブルと、高周波ノイズの周期を基準として設けられた複数の異なる第2時間間隔からなる第2テーブルとを有し、時系列的に、前記第1時間間隔と前記第2時間間隔とを異なる組み合わせで加算し、その加算値を次回のサンプリングまでの時間間隔とする電圧検出装置であって、(【請求項1】)
前記演算手段によって移動平均値を算出する際のサンプリングデータの数は、前記第1テーブルの第1時間間隔の数と、前記第2テーブルの第2時間間隔の数との倍数であって、(【請求項2】)
移動平均値は、加重移動平均値である、(【0020】)
電圧検出装置。」

2 対比
(1) 対比分析
本願発明と引用発明を対比する。
ア 引用発明の「電圧検出装置」は、バッテリを構成する複数の電池セルの電圧をサンプリングし、その複数のサンプリングデータの加重移動平均値を算出するものである。
よって、本願発明と引用発明は、「バッテリーセル電圧データ処理装置」の発明である点で一致する。

イ 引用発明の「A/D変換器」は、バッテリを構成する複数の電池セルの電圧をサンプリングすることによってデジタル値に変換するものであるから、本願発明の「電圧データ取得部」に相当する。
また、前記「デジタル値」は、本願発明の「電圧データ」に相当する。
よって、本願発明と引用発明は、「一つ以上のバッテリーセルから印加される電圧を測定して電圧データを取得する電圧データ取得部」を備える点で一致する。

ウ(ア) 引用発明の「演算手段」は、電池セルの電圧をサンプリングした、複数のサンプリングデータの加重移動平均値を算出するものである。
(イ) 引用発明においては、「演算手段によって移動平均値を算出する際のサンプリングデータの数は、前記第1テーブルの第1時間間隔の数と、前記第2テーブルの第2時間間隔の数との倍数であ[る]」とされており、引用文献1の【0022】、【0023】の記載も踏まえると、例えば、第1テーブルの第1時間間隔の数が2で、第2テーブルの第2時間間隔の数が20の場合、サンプリングデータの数は、2と20の倍数である、20個、40個、・・・、であると認められる。そして、引用発明においては、「移動平均」を算出しているから、算出する場合に用いられるサンプリングデータは、これまでにサンプリングされたデータのうち、直近の20個や40個のデータであることは明らかである。
そして、前記「これまでにサンプリングされたデータ」及び「直近の20個や40個のデータ」は、それぞれ本願発明の「前記取得した一つ以上の前記電圧データ」及び「選択し[た]」「いずれか一つ以上の前記電圧データ」に相当する。
(ウ) また、引用発明において「加重移動平均」は、個々のデータに異なる重みをつけて直近の20個や40個のデータの平均を計算することを意味するところ、サンプリングするデータの個数が20個と40個で異なれば、それに応じて「加重移動平均」の個々のデータに付与する重みの係数が異なることは自明である。
(エ) そうすると、前記第4の2で示した請求人の主張である「データの個数nが変わると、最新のデータに適用される加重値も変化する」ことが、「選択された電圧データの個数に基づいて算出する」ことの意味であるとしても、引用発明においても、加重移動平均を算出するに当たって、サンプリングデータの数が20個の場合と40個の場合とでは、最新のデータに適用される加重値も変化するから、引用発明も「前記選択された電圧データの個数に基づいて前記電圧データに対応する加重値を算出[する]」ものであるといえる。
(オ) 前記(ア)〜(エ)を踏まえると、引用発明の「演算手段」は、本願発明の「加重値処理部」に相当する。そして、引用発明の「演算手段」は、加重移動平均を算出しているから、前記(ウ)の決定された重みの係数をサンプリングした電圧データに付与していることは自明である。
(カ) よって、本願発明と引用発明は、次の点において一致する。
「前記取得した一つ以上の前記電圧データのうちからいずれか一つ以上の前記電圧データを選択し、前記選択された電圧データの個数に基づいて前記電圧データに対応する加重値を算出して各々の前記電圧データに付与する加重値処理部」を備える点。

エ 前記ウの検討を踏まえると、引用発明の「演算手段」は、本願発明の「移動平均処理部」にも相当する。
よって、本願発明と引用発明は、「前記加重値の付与を受けた一つ以上の前記電圧データの移動平均を算出する移動平均算出部」を備える点で一致する。

オ(ア) 前記イ及びウの検討を踏まえると、引用発明の「演算手段」は、本願発明の「電圧データ処理部」にも相当する。
(イ) 前記ウ(ウ)のとおり、引用発明の「演算手段」は、直近の20個や40個等のデータに対して、個々のデータに異なる重みをつけて平均を計算しているところ、これらのデータには、当然、「直前ステップで取得された前記電圧データ」が含まれており、算出される加重移動平均値の計算に反映されているものである。
(ウ) よって、本願発明と引用発明は、「直前ステップで取得された前記電圧データを前記移動平均に反映して現在ステップの前記電圧データを取得する電圧データ処理部」を備える点で一致する。

カ 以上のとおり、本願発明と引用発明は、全ての点において一致するから、本願発明は引用文献1に記載された発明である。また、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもある。

キ なお、請求項1においては、「加重移動平均を算出する際に、最新の電圧データに付与する加重値を一番大きくすること」は、特定されていないが、仮にこの点が特定され、本願発明の構成であるとしても、加重移動平均を算出する場合において、最新のデータの重みを一番大きくするように加重値を決定することは、あまりにも自明のことにすぎないから、引用文献1に記載されているに等しく、少なくとも、当業者が容易に想到し得たものである。

(2) 請求人の主張について
ア 請求人の主張
請求人は意見書において、概略次の主張をしている。

引用文献1には、「なお、移動平均値は、単純移動平均値でもよいし、また加重移動平均値であってもよい。」(段落0020)という記載があるにすぎず、本願発明の特徴である「前記取得した一つ以上の前記電圧データのうちからいずれか一つ以上の前記電圧データを選択し、前記選択された電圧データの個数に基づいて前記電圧データに対応する加重値を算出」するという点については、何ら記載されておらず、また示唆されていない。
これに対して本願請求項1に係る発明は、「選択された電圧データの個数に基づいて」「加重値を算出」し、「直前ステップで取得された前記電圧データを前記移動平均に反映して現在ステップの前記電圧データを取得する」(本願請求項1)ことによって、「バッテリー10の充電/放電により急激に変動する電圧データを速かに追従できるようになる」(本願段落0048)という優位な効果を奏する。

イ 請求人の主張についての検討
請求人は、引用文献1には、「前記取得した一つ以上の前記電圧データのうちからいずれか一つ以上の前記電圧データを選択し、前記選択された電圧データの個数に基づいて前記電圧データに対応する加重値を算出」するという点については、何ら記載されていないと主張しているが、前記(1)ウ(エ)で示したとおり、当該表現では、引用文献1に記載されたものと区別が付かないから、相違点がある旨の請求人の前記主張は、採用できない。


第6 むすび
以上のとおり、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法36条6項2号の要件を満たしていないから、特許を受けることができない。
また、本願発明は、引用文献1に記載された発明であり、特許法29条1項3号に該当するものであるから、同法29条1項の規定により特許を受けることができない。
さらに、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。




 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 岡田 吉美
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2023-06-29 
結審通知日 2023-07-04 
審決日 2023-07-19 
出願番号 P2019-517924
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (G01R)
P 1 8・ 121- WZ (G01R)
P 1 8・ 537- WZ (G01R)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 岡田 吉美
特許庁審判官 後藤 慎平
濱本 禎広
発明の名称 バッテリーセル電圧データ処理装置および方法  
代理人 弁理士法人RYUKA国際特許事務所  

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