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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02F
管理番号 1405346
総通号数 25 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2024-01-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-08-10 
確定日 2023-11-30 
事件の表示 特願2021− 26117「調光フィルム、及びそれを用いた調光装置並びにスクリーン」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 5月27日出願公開、特開2021− 81743〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年9月15日に出願した特願2016−180782号の一部を令和3年2月22日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は次のとおりである。
令和 3年 2月22日 :上申書
令和 4年 1月21日付け:拒絶理由通知書
令和 4年 3月23日 :意見書、手続補正書の提出
令和 4年 4月28日付け:拒絶査定
令和 4年 8月10日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 5年 6月 9日付け:拒絶理由通知書(以下「当審拒絶理由通知
書」という。)
令和 5年 7月31日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1〜9に係る発明は、令和5年7月31日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)後の請求項1〜9に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

<本願発明>
「調光層と、前記調光層の両側の面に、透明電極と、透明性フィルム基材とをこの順に備え、前記透明電極を通して前記調光層に印加可能な電圧によってヘイズ(白濁度)を2種類以上に切り替えることができる、入射光に偏光を用いられる調光フィルムであって、
前記調光層は、3次元網目構造の高分子ネットワークの内部に形成された空隙内に配置される液晶分子か、または高分子マトリックス中に分散配置される液晶材料中に含まれる液晶分子を含み、
前記透明性フィルム基材へ波長586.4nmの光を0°以上50°以下の入射角をもって入射させたときの前記透明性フィルム基材のリタデーションが4000nm以上20000nm以下であることを特徴とする調光フィルム。」

第3 当審拒絶理由通知書における拒絶の理由
本件補正前の本願の請求項1に係る発明に対する拒絶の理由は、以下の内容を含むものである。
進歩性)本件補正前の本願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である下記の引用文献1に記載された発明及び技術常識に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



1.実用新案登録第3105679号公報
2.特開2014−225122号公報(技術常識を示す文献)
3.特開2014−215509号公報(技術常識を示す文献)
4.特開2014−48528号公報(技術常識を示す文献)

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献に記載された事項
当審拒絶理由通知書で引用された引用文献1(実用新案登録第3105679号公報、以下、単に「引用文献」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当審が付した。)。

「【0008】
本考案では、分子が一方向へ規則的に配列されず光を遮断する効果の少ない、つまり電圧を印加しない状態で白色になり不透明となった状態でも映像表示装置としては投写映像の明るさが不足し、解像度が低く、狭視野角度、低コントラスト比となってしまうネマチック液晶などの液晶を原材料に使用したものではなく、明るさも充分にあり、広視野角度、高解像度、高コントラスト比を実現できる、例えば、「特許文献1」特開2002−040402による処の、強誘電性液晶および反強誘電性液晶を40重量%と高分子60重量%以上とからなる高分子組合液晶(PALC)等を使用した薄型の液晶調光フィルム(2)を用いて、既設或いは新設の透明ガラス(1)或いは透明合成樹脂製の壁面や窓や扉に、高透明度を有し、充分に密着し液晶調光フィルム(2)全体を間隙無く安定して接着固定することができ、しかも接着面にキズ跡や汚れを残さず再剥離が可能な薄型透明両面粘着フィルム(3)を「図5」のように合体させ、「図6」のように透明ガラス(1)との間に介在させて、フレームや補強板を使用せずに全面を直接接着し、調光機能により透視可能な透明状態から透視不可能な白色の状態までの間で、不透明度あるいは白度を可変調節しながら、室内に設置されたプロジェクター(12)から静止画或いは動画を投写して様々に表現し、屋外から鑑賞することができることに着目し解決の手段とした。」

「【0010】
本考案の液晶利用の調光機能付き薄型映像投写スクリーンフィルムとは前述の特性を備えた液晶調光フィルム(2)と薄型透明両面粘着フィルム(3)のそれぞれを「図5」のように合体させたもの、或いは「図6」のように、合体或いは透明ガラス(1)等との間に薄型透明両面粘着フィルム(3)が介在している状態のものを言うのであるが、液晶調光フィルム(2)と薄型透明両面粘着フィルム(3)の両方共に薄型で柔軟性を有し、かつ薄型透明両面粘着フィルム(3)は再剥離性を有しながらも充分な接着力をもつので、平面だけに限らず、貼り付け対象物が大曲面の場合でも貼り付けが可能となり、その状態でも上述の様に室内に設置されたプロジェクター(12)から静止画或いは動画を投写して様々に表現し、屋外から鑑賞することができる。
【考案の効果】
【0011】
以上のようにして本考案の課題は解決され、下記の実施例に説明されるような効果を得たが、それらの効果をより有効に利用する為に、例えば街中の商店のショーウインドーや店内を屋外から観覧できるように透明ガラス(1)を外壁に多く使用した既設或いは新設の建築物に使用すれば、液晶調光フィルム(2)と薄型透明両面粘着フィルム(3)からなる液晶利用の調光機能付き薄型映像投写スクリーンフィルムは設置工事費用も製品コストも共に、非常に低価格で供給が可能であり、しかも既設の場合でも建築物の改造や、建築部材を取り替えたりする必要もなく、迅速、簡単、安全かつ廉価に施行取り付けができると言う効果がある。
【0012】
室内の様子や陳列物を屋外の人々に通常の通り観覧して欲しい場合には液晶利用の調光機能付き薄型映像投写スクリーンフィルムの印加電圧をオンにして透明な状態にし、室内に設置されたプロジェクター(12)を作動させなければ従来通りの目的を達成でき、液晶利用の調光機能付き薄型映像投写スクリーンフィルムを取り外したり移動したりしなくても、設置したそのままの状態でその効果が得られる事となった。
【0013】
透明ガラス(1)等の面に設置された液晶利用の調光機能付き薄型映像投写スクリーンフィルムに目的の或いは好みの映像を投写し屋外の人々にその画像を観覧してもらおうと思えば、液晶利用の調光機能付き薄型映像投写スクリーンフィルムの印加電圧をオフにして不透明つまり白色の状態にしたり、もしくは単巻可変変圧器をもちいて印加電圧を調節し様々な程度の半透明状態にしたりして、室内に設置されたプロジェクター(12)を作動させ、プロジェクターから投写された映像(13)を様々な、充分に明るく、高解像度、広視野角、高コントラスト比で優れた映像を色々な演出効果を伴って披露することができることとなった。
【0014】
その映像のコンテンツは例えば自店や他社の宣伝であったり、お知らせであったり、認可された情報やニュースであってもよい。またスピーカーを併設して連動して音の効果を提供することも可能であるし、イルミネーションや照明機器と連動して映像と音響と照明のコラボレーションをもって演出する事も可能となり、大きな演出効果を得た。
【0015】
前述のとおり映像表示に適した高分子組合液晶(PALC)を調光液晶層(9)として「図3」のような構造で本考案の液晶調光フィルム(2)を準備した。この場合の液晶調光フィルム(2)の厚みは、透明ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(7)それぞれが約175マイクロメートル、両外側に合計2枚使用するので合計約350マイクロメートル、透明通電電極(ITO)フィルム(8)それぞれが約30マイクロメートル、調光液晶層(9)の両側に合計2枚使用するので合計約60マイクロメートル、中心に位置する調光液晶層(9)は約25マイクロメートル、したがって液晶調光フィルム(2)の総肉厚は約435マイクロメートルとなる。
【0016】
次に、薄型透明両面粘着フィルム(3)は「図4」のように、中心層には、表面の凹凸が非常にすくなく滑面化された基材の透明ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(11)が位置しその厚みは約25マイクロメートル。両外側には、硬化後も再剥離性を有し、且つ透明度の高いウレタン系樹脂を適度な接着力と適切な粘着力を実現する為に試行錯誤を何度も繰り返した結果最良となった割合で架橋剤を混合した物を使用し、微低接着力タイプで再剥離性に優れた透明粘着材層(10)を作る為に一定の極めて均等な厚みに、且つむら無く塗布処理を施して、さらに両側の透明粘着材層(10)の両外面の凹凸をも可能な限り滑らかにし、余分な空気や混合物を除去し高透明度を保持する為に光が屈折する要因を除外したものを準備する。片方の透明粘着材層(10)の塗布厚は約25マイクロメートル、両方を合計すると約50マイクロメートルとなり、薄型透明両面粘着フィルム(3)の総肉厚は約75マイクロメートルとなる。」

図3及び図5は、以下のとおりである。


2 引用文献から読み取れる技術的事項の認定
上記1の記載によれば、引用文献から、液晶調光フィルム(2)と薄型透明両面粘着フィルム(3)を合体させた液晶利用の調光機能付き薄型映像投射スクリーンフィルム(図5)に用いられる液晶調光フィルム(2)(図3)について、次の技術的事項を読み取ることができる。
(1)上記の液晶調光フィルム(2)は、図3及び5から、調光液晶層(9)と、調光液晶層(9)の両側の面に、透明通電電極(ITO)フィルム(8)、透明ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(7)をこの順に備えていることが見て取れる。

(2)上記の液晶利用の調光機能付き薄型映像投射スクリーンフィルムにおけるスクリーンは、プロジェクター(12)からの映像を投写する透過型スクリーンである。すなわち、当該スクリーンフィルムにおけるスクリーンは、室内に設置されたプロジェクター(12)を作動させ、プロジェクターから投写された映像(13)を屋外の人々に観覧させるものである(【0013】)ことから、そのようにいうことができる。

引用発明の認定
上記1及び2によれば、引用文献には、液晶調光フィルム(2)と薄型透明両面粘着フィルム(3)を合体させた液晶利用の調光機能付き薄型映像投射スクリーンフィルム(図5)に用いられる液晶調光フィルム(2)(図3)について、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。なお、参考までに、引用発明の認定に用いた引用文献の記載に係る段落番号等を括弧内に付してある。

<引用発明>
「液晶調光フィルム(2)と薄型透明両面粘着フィルム(3)のそれぞれを合体させた液晶利用の調光機能付き薄型映像投射スクリーンフィルムに用いられる液晶調光フィルム(2)であって、(【0010】)
前記液晶調光フィルム(2)は、調光液晶層(9)と、調光液晶層(9)の両側の面に、透明通電電極(ITO)フィルム(8)、透明ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(7)をこの順に備えた、液晶調光フィルム(2)であり、(上記2(1))
調光液晶層(9)には、映像表示に適した、強誘電性液晶および反強誘電性液晶を40重量%と高分子60重量%以上とからなる高分子組合液晶(PALC)等を使用しており、(【0015】・【0008】)
薄型透明両面粘着フィルム(3)は、中心層には透明ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(11)が位置し、両外側には透明粘着剤層(10)が位置するものであり、(【0016】)
当該調光機能付き薄型映像投写スクリーンフィルムの印加電圧をオンにして透明な状態にすると、室内の様子や陳列物を屋外の人々に通常の通り観覧することができ、(【0012】)
当該調光機能付き薄型映像投写スクリーンフィルムの印加電圧をオフにして不透明つまり白色の状態にすると、室内に設置されたプロジェクター(12)を作動させ、プロジェクターから投写された映像(13)を屋外の人々に観覧してもらうことができ、(【0013】)
当該調光機能付き薄型映像投写スクリーンフィルムにおけるスクリーンは、プロジェクター(12)からの映像を投写する透過型スクリーンである、(上記2(2))
液晶調光フィルム(2)。」

第5 本願発明と引用発明との対比・判断
1 対比、一致点及び相違点の認定
(1)本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりである。
ア 引用発明の「調光液晶層(9)」は、本願発明の「調光層」に相当し、
以下、引用発明の「透明通電電極(ITO)フィルム(8)」は、本願発明の「透明電極」に、
引用発明の「透明ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(7)」は、本願発明の「透明性フィルム基材」に、
引用発明の「液晶調光フィルム(2)」は、本願発明の「調光フィルム」に、それぞれ相当する。

イ 本願発明の「調光層と、前記調光層の両側の面に、透明電極と、透明性フィルム基材とをこの順に備え、前記透明電極を通して前記調光層に印加可能な電圧によってヘイズ(白濁度)を2種類以上に切り替えることができる、入射光に偏光を用いられる調光フィルム」との特定事項について
引用発明の「液晶調光フィルム(2)」は、「調光液晶層(9)と、調光液晶層(9)の両側の面に、透明通電電極(ITO)フィルム(8)、透明ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(7)をこの順に備え」たものであるから、本願発明の「調光フィルム」と引用発明の「液晶調光フィルム(2)」とは、「前記調光層の両側の面に、透明電極と、透明性フィルム基材とをこの順に備え」る「調光フィルム」である点で一致する。
また、引用発明の「液晶調光フィルム(2)」を用いた「液晶利用の調光機能付き薄型映像投写スクリーンフィルム」は、「印加電圧をオンに」すると「透明な状態」となり、「印加電圧をオフ」にすると「不透明つまり白色の状態」となるものであるから、本願発明の「調光フィルム」と引用発明の「液晶調光フィルム(2)」とは、「前記透明電極を通して前記調光層に印加可能な電圧によってヘイズ(白濁度)を2種類以上に切り替えることができる」「調光フィルム」である点で一致する。
そうすると、引用発明は、本願発明の上記特定事項を満たしている。

(2)以上によれば、本願発明と引用発明とは、次の点で一致し、次の点で一応相違するか、又は相違する。

【一致点】
「調光層と、前記調光層の両側の面に、透明電極と、透明性フィルム基材とをこの順に備え、前記透明電極を通して前記調光層に印加可能な電圧によってヘイズ(白濁度)を2種類以上に切り替えることができる、調光フィルム。」

【相違点1】
調光フィルムが、本願発明では、「入射光に偏光を用いられる」ものであるのに対し、引用発明では、そのようなものか明らかでない点。

【相違点2】
調光層が、本願発明は、「3次元網目構造の高分子ネットワークの内部に形成された空隙内に配置される液晶分子か、または高分子マトリックス中に分散配置される液晶材料中に含まれる液晶分子を含」むに対し、引用発明は、「映像表示に適した、強誘電性液晶および反強誘電性液晶を40重量%と高分子60重量%以上とからなる高分子組合液晶(PALC)等」である点。

【相違点3】
透明性フィルム基材が、本願発明は、「前記透明性フィルム基材へ波長586.4nmの光を0°以上50°以下の入射角をもって入射させたときの前記透明性フィルム基材のリタデーションが4000nm以上20000nm以下である」のに対し、引用発明は、透明ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(7)である点。

2 判断
(1)事案にかんがみ、相違点1及び3を合わせて検討する。
ア 引用発明は、「液晶利用の調光機能付き薄型映像投射スクリーンフィルムに用いられる液晶調光フィルム(2)」に係るものであるところ、当該「液晶調光フィルム(2)」に係る「スクリーン」は「透明ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(7)」及び「透明ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(11)」(以下、これらを総称して「透明PETフィルム」という。)を備えている。そして、透明PETフィルムは、一般に延伸されて形成されているから、所定の複屈折性を有しているのであり、このことは技術常識でもある。
また、引用発明の「液晶調光フィルム(2)」は、上記のとおり、「スクリーン」として用いられるものであるところ、スクリーンに映像を投写するための「プロジェクター(12)」として液晶プロジェクターのような偏光光を出射するものを用いることは、当業者が通常想定することであるといえる。そして、引用発明に係る上記「スクリーン」は、「室内に設置されたプロジェクター(12)を作動させ、プロジェクターから投写された映像(13)を屋外の人々に観覧してもらうことができる」ことから、偏光サングラス等を介して視認することも想定されているといえる。

イ ところで、複屈折性を有した透明PETフィルムに対して偏光光を入射させる場合、その出射光を特に偏光サングラス等を介して視認すると虹ムラ及びブラックアウトが生じるという現象が広く知られている(必要ならば、当審拒絶理由通知書で提示した特開2014−225122号公報(特に、【0002】、【0003】及び【0005】)に加えて、特開2014−157285号公報(特に、【0002】〜【0005】)を、参照されたい。)。そして、そのような場合であっても、透明PETフィルムのリタデーションを大きくすると、これらの現象が生じにくくなることも技術常識(必要ならば、当審拒絶理由通知書で提示した上記特開2014−225122号公報(特に、【0002】、【0003】、【0005】、【0012】及び【0034】)、特開2014−215509号公報(特に、【0002】、【0003】、【0005】、【0010】及び【0015】)及び特開2014−48528号公報(特に、【0088】及び【0096】)に加えて、上記特開2014−157285号公報(特に、【0002】〜【0006】、【0017】及び【0022】)を、参照されたい。)である。

ウ このように、引用発明に係る「スクリーン」は、偏光光が入射されることが通常であり、しかも、複屈折を有する透明PETフィルムを有する以上、上記イで説示した技術常識に照らせば、当業者は、当該「スクリーン」においても、虹ムラ及びブラックアウトが生じることを認識できるといえる。そして、当該「スクリーン」が、虹ムラ及びブラックアウトを生じさせないようにするのが好ましいことも、当然であるといえる。

エ そうすると、引用発明から出発した当業者であれば、上記の当然の課題を認識した上で、それを解決するために、透明PETフィルムとして、リタデーションが大きいものを採用することを容易に想到し得たことであり、その際、そのような透明PETフィルムとして、「液晶調光フィルム(2)」に含まれる透明PETフィルム(7)を選択することは、適宜選択し得たことといえる。
そして、相違点3に係る本願発明の構成においては、波長及び入射角度範囲に係る特定が存在するものの、引用発明の透明PETフィルム(7)のリタデーションを大きくすれば通常満足する程度の値にすぎない。また、当該構成においては、リタデーションの上限値についても特定されているが、透明PETフィルムの厚さを大きすぎないようにする観点から、これを20000nm以下とすることについても技術常識に照らして格別のことではない。
以上からすれば、当業者は、相違点1及び3に係る本願発明の構成に容易に至るというべきである。

(2)相違点2について
引用発明の「調光液晶層(9)」は、「映像表示に適した、強誘電性液晶および反強誘電性液晶を40重量%と高分子60重量%以上とからなる高分子組合液晶(PALC)等」であり、高分子組合液晶(PALC)は、液晶をモノマーやオリゴマーと一緒に混合し、重合させて得るものである(参考までに、引用発明を開示する引用文献の【0003】に記載された特開2002−040402号公報の【0031】〜【0039】を参照されたい。)から、高分子マトリックス中に分散配置される液晶材料中に含まれる液晶分子を含むものであると解される。そうすると、相違点2は実質的な相違点ではない。
仮に、引用発明の「調光液晶層(9)」の高分子組合液晶(PALC)が相違点2に係る構成を満たしていないとしても、調光液晶層として高分子分散型液晶を用いることは例示するまでもなく技術常識であることから、引用発明の「高分子組合液晶(PALC)等」からなる「調光液晶層(9)」として、上記の高分子分散型液晶を用いて、相違点2に係る「高分子マトリックス中に分散配置される液晶材料中に含まれる液晶分子を含」むものを採用することは、当業者が適宜になし得た事項である。

(3)本願発明の効果について
上記相違点を総合的に勘案しても、本願発明の作用効果は、本願発明の構成が奏するものとして、引用発明及び技術常識に基づいて当業者によって予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

(4)請求人の主張について
請求人の主張は判然としないところがあるが、引用発明から出発した当業者は、その2枚の透明PETフィルム(7)におけるリタデーションを大きくしようとする動機を有しない旨主張するようであり、その根拠として、(i)引用発明の液晶調光フィルム(2)に対する入射光の状態は、本願発明のものとは異なること、(ii)引用発明の液晶利用の調光機能付き薄型映像投射スクリーンフィルムと本願発明の調光フィルムとの層構成が異なること、(iii)引用発明の当該2枚の透明PETフィルム(7)のうち、調光液晶層(9)の出射側にある透明PETフィルム(7)には、調光液晶層(9)で散乱される光が入射される以上、当業者であっても虹ムラやブラックアウトという課題を生じることを予見できず、また、引用文献にもその示唆がないこと、を挙げる。
しかしながら、(i)については、上記(1)ア〜ウで説示したとおりであるし、(ii)については、上記(1)ウのとおり、引用発明に係る「スクリーン」であっても、透明PETフィルム(7)及び透明PETフィルム(11)を備えている以上、偏光光が入射されるというスクリーンにおける通常の構成においては、当業者は虹ムラ及びブラックアウトが生じることを認識できるといえる。
(iii)については、引用発明の調光液晶層(9)の出射側にある透明PETフィルム(7)には、調光液晶層(9)で散乱される光が入射されるものの、直進光などのようにほぼ散乱されない光も入射されることから、当業者であれば、調光液晶層(9)の出射側においても虹ムラ及びブラックアウトが生じることを認識できるといえる。
よって、請求人の上記主張を採用することはできない。

(5)小括
以上によれば、本願発明は、引用発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
上記のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2023-09-26 
結審通知日 2023-10-03 
審決日 2023-10-19 
出願番号 P2021-026117
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02F)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 山村 浩
特許庁審判官 野村 伸雄
廣田 かおり
発明の名称 調光フィルム、及びそれを用いた調光装置並びにスクリーン  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  

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