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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01B
管理番号 1405543
総通号数 25 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2024-01-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-12-16 
確定日 2024-01-16 
事件の表示 特願2020−500498「絶縁ワイヤ、コイル及び電気・電子機器」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 8月22日国際公開、WO2019/159922、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2019年(平成31年)2月13日(優先権主張 平成30年2月16日)を国際出願日とする出願出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和4年 4月25日付け:拒絶理由通知書
令和4年 9月 8日 :意見書、手続補正書の提出
令和4年 9月16日付け:拒絶査定
令和4年12月16日 :拒絶査定不服審判の請求、手続補正書の提出
令和5年 7月21日付け:拒絶理由通知書
令和5年 9月21日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願請求項1〜10に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」〜「本願発明10」という。)は、令和5年9月21日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜10に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1,9,10は次のとおりの発明である。
「【請求項1】
平角導体上に、被覆層として熱可塑性樹脂層(A)を有する絶縁ワイヤであって、
前記熱可塑性樹脂層(A)が、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレンナフタレート、及び/又は変性ポリエーテルエーテルケトンであり、
前記熱可塑性樹脂層(A)の、前記絶縁ワイヤ断面の少なくとも1つの辺に対応する部分の表面に前記絶縁ワイヤの長手方向に連続した少なくとも1つの突起部を有し、
前記絶縁ワイヤ断面において、前記突起部が頂点を1つ有する山形の形状であり、
前記絶縁ワイヤ断面において、前記突起部と該突起部を有する表面の平坦部とが曲率半径0.01〜0.75mmの曲部を形成し、
前記絶縁ワイヤ断面において、前記突起部の側面が、該突起部を有する表面の平坦部に対して2〜80°の傾斜面を有していることを特徴とする絶縁ワイヤ。」

「【請求項9】 請求項1〜8のいずれか1項に記載の絶縁ワイヤが、巻線加工されたことを特徴とするコイル。
【請求項10】
請求項9に記載のコイルを用いてなることを特徴とする電気・電子機器。」

なお、本願発明2〜8は、本願発明1を減縮した発明である。

第3 原査定の概要
原査定(令和4年9月16付け拒絶査定)の概要は、次のとおりである。
本願請求項1〜5,8〜10に係る発明は、以下の引用文献Aに記載された発明に基づいて、本願請求項6に係る発明は、以下の引用文献A,Bに記載された発明に基づいて、本願請求項7に係る発明は、以下の引用文献A〜Cに記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献A: 特開2008−288106号公報
引用文献B: 特開2009−266797号公報
引用文献C: 特開2006−22173号公報

第4 当審拒絶理由の概要
当審が令和5年7月21日付けで通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)の概要は次のとおりである。
本願請求項1〜10に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:国際公開第2018/025832号

第5 引用文献の記載、引用発明等
1 引用文献1、引用発明1
(1)当審拒絶理由にて引用された引用文献1には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は当審による。以下同様。)。

「[0004] 近年、各種の車両に回転電機が使用されている。回転電機によれば、車両の運転エネルギーを回生電力として回収できるとともに、車両の加速を補助できる。また、エンジンと併用される場合、エンジンの始動を行うことができる。

[0005] 車両に使用される回転電機については、耐振動性、耐衝撃性が良好であることが求められる。耐振動性、耐衝撃性を向上させるために、例えば、ステータコアのスロット内にステータコイルが装着されたコイル装着体にワニス処理(ワニスを含浸させて硬化させる)が行われている(例えば、特許文献1参照。)。」

「[0014] <絶縁電線>
図1は、本発明の絶縁電線の一実施形態を示す断面図である。また、図2は、図1に示す絶縁電線の積層状態を示す断面図である。
[0015] 図1に示されるように、絶縁電線10は、四角形状の断面(略四角柱形状)を有する平角導体11と、この平角導体11の周囲に配置される絶縁皮膜12とを備える。図2に示されるように、絶縁電線10は、例えば、積層され、回転電機のステータコイル等を形成する。以下、絶縁電線10が積層される方向(図中、上下方向)を積層方向とする。
[0016] [平角導体]
平角導体11は、四角形状の断面(第1〜第4の側面)を有する。第1〜第4の側面は、略平面である。第1、第2の側面は、例えば、積層方向(図中、上下方向)に、第3、第4の側面は、例えば、積層方向と直交する方向(図中、左右方向)に配置される。すなわち、第1、第2の側面、第3、第4の側面がそれぞれ互いに反対に配置される。
[0017] 積層方向(図中、上下方向)の長さは0.7〜3.0mmが好ましい。積層方向に垂直な方向(図中、左右方向)の長さは2.0〜7.0mmが好ましい。平角導体11の四隅は、丸みを有してもよいし、有しなくてもよい。四隅が丸みを有する場合、その半径は0.4mm以下が好ましい。コイル占積率が高くなることから、四隅の形状は丸みを有しないことが好ましい。平角導体11は、銅、アルミニウム、または、これらの合金からなる。機械的強度、導電率の観点から、銅または銅合金からなることが好ましい。通常、平角導体11は伸線加工によって形成される。
[0018] [絶縁皮膜]
絶縁皮膜12は、平角導体11の四角形状の断面に対応する四角形状の枠状の断面を有する。すなわち、絶縁皮膜12は、平角導体11の第1〜第4の側面に対応する第1〜第4の領域(第1〜第4の皮膜)を有する。この内、少なくとも1対の領域(第1、第2の領域)は、平角導体11を挟持するように配置される(例えば、積層方向(図中、上下方向)に配置される)。
[0019] 第1〜第4の領域はそれぞれ、両縁部(第1〜第4の領域の境界)に凸部12aを有する。一対の凸部12aの間に中間部が配置される。第1〜第4の領域はそれぞれ、弧状(略曲面形状)を有する。すなわち、一対の凸部12aの一方から他方に向けて厚さが徐々に薄くなり、再び厚さが徐々に厚くなる。一対の凸部12aの間に、例えば、厚みがほぼ一定の平坦部12bが配置されてもよい。
[0020] 上記した平角導体11を挟持するように配置される少なくとも1対の領域(例えば、積層方向(図中、上下方向)に配置される1対の領域)は、それぞれ、次の関係を満たす。すなわち、両縁部に配置される1対の凸部12aの頂点間における最厚部の厚み(d1)に対する最薄部の厚み(d2)の比(d2/d1)が0.50〜0.90である。
[0021] この関係を満たす場合(具体的には、1対の凸部12aを有するとともに、比(d2/d1)が0.50〜0.90の場合)、例えば、図2に示されるように、絶縁電線10どうしの間に空間Sが形成される。従って、このような空間Sにワニスが含浸されて硬化されることにより、絶縁電線10どうしが接着されて固定される。」

「[0028] 最薄部の厚み(d2)は、60〜200μmが好ましい。最薄部の厚み(d2)が60μm以上になると部分放電の開始電圧が高くなる。一方、最薄部の厚み(d2)が200μm以下になると、絶縁皮膜12が薄くなり、小型化できる。最薄部の厚み(d2)は、60〜160μmがより好ましい。」

「[0050] なお、絶縁皮膜12としては、ポリイミドとポリアミドイミドとが積層されたものでもよい。このようなものとして、例えば、平角導体11から順に、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリイミドが順に積層されたものが挙げられる。
[0051] ポリアミドイミドの使用により、機械的特性が向上する。また、ポリアミドイミドを1対のポリイミドにより挟持することにより、オイルによるポリアミドイミドの劣化も抑制できる。ポリアミドイミドとしては、以下に示すものを使用できる。また、ポリイミドとしては、それぞれ、既に説明したようなポリイミド、具体的には、第1のポリイミド、第2のポリイミドを使用できる。」

「[0062]<回転電機>
図4は、絶縁電線10を使用した回転電機の一実施形態を示す断面図である。図5は、図4に示される回転電機のステータコアを示す平面図である。図6は、図4に示される回転電機のステータコアおよびステータコイルの断面図である。なお、図6においては、図中左右方向が周方向であり、図中上下方向がステータコアの内外方向であり、図中上側がステータコアの内側、図中下側がステータコアの外側となる。
[0063] 図4に示されるように、回転電機20は、ケース21の中央付近に出力軸であるロータ軸22を有する。ロータ軸22に、回転子であるロータ23が固定されている。ロータ23の周囲に、固定子であるステータ24が配置されている。
[0064] ロータ23は、例えば、電磁鋼板が積層されたロータコアと、このロータコアに配置される複数の永久磁石とから構成されている。ロータ23は、ステータ24から受ける回転磁界により回転エネルギーを発生させる。
[0065] ステータ24は、例えば、電磁鋼板が積層されたステータコア25と、このステータコア25に配置されるステータコイル26と、を有する。図5に示されるように、ステータコア25は、全体として円環状を有する。ステータコア25の内側には、周方向に複数のティース25aが配置される。そして、これらのティース25aの間にスロット25b(空間)が配置される。
[0066] 図6に示されるように、ステータコイル26の一部がスロット25bに収容される。ステータコイル26は、例えば、スロット25bの底部から順次積層された絶縁電線10を有する。ステータ24に、ワニス処理が行われる。この結果、スロット25bとステータコイル26との間にワニス27が含浸、硬化される。また、ステータコイル26の絶縁電線10どうしの間の空間Sにワニス27が含浸、硬化される。
[0067] ワニス27により、スロット25bとステータコイル26とが固定されるとともに、ステータコイル26の絶縁電線10どうしが固定される。これにより、耐振動性、耐衝撃性が向上する。また、大気中の水分、塵、ほこり、ガス、その他の有害な物質の浸入が抑制される。さらに、金属部分の腐食が抑制される。このようなワニス27としては、各種の合成樹脂を使用できる。」

「[図1]



以上の記載から、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「四角形状の断面(略四角柱形状)を有する平角導体11と、この平角導体11の周囲に配置される絶縁皮膜12とを備える絶縁電線10であって、
絶縁電線10は、積層され、回転電機のステータコイル等を形成し、
平角導体11は、四角形状の断面(第1〜第4の側面)を有し、第1〜第4の側面は、略平面であり、
絶縁皮膜12は、平角導体11の第1〜第4の側面に対応する第1〜第4の領域(第1〜第4の皮膜)を有し、第1〜第4の領域はそれぞれ、両縁部(第1〜第4の領域の境界)に凸部12aを有し、一対の凸部12aの間に中間部が配置され、第1〜第4の領域はそれぞれ、弧状(略曲面形状)を有し、すなわち、一対の凸部12aの一方から他方に向けて厚さが徐々に薄くなり、再び厚さが徐々に厚くなり、一対の凸部12aの間に、例えば、厚みがほぼ一定の平坦部12bが配置され、
絶縁電線10どうしの間に空間Sが形成され、
絶縁皮膜12が、平角導体11から順に、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリイミドが順に積層されたものであり、ポリアミドイミドの使用により、機械的特性が向上し、また、ポリアミドイミドを1対のポリイミドにより挟持することにより、オイルによるポリアミドイミドの劣化も抑制でき、
回転電機20において、ステータコイル26の一部がスロット25bに収容され、ステータコイル26は、例えば、スロット25bの底部から順次積層された絶縁電線10を有し、ステータ24に、ワニス処理が行われ、この結果、スロット25bとステータコイル26との間にワニス27が含浸、硬化され、また、ステータコイル26の絶縁電線10どうしの間の空間Sにワニス27が含浸、硬化され、
ワニス27により、スロット25bとステータコイル26とが固定されるとともに、ステータコイル26の絶縁電線10どうしが固定され、これにより、耐振動性、耐衝撃性が向上する、絶縁電線10。」

2 引用文献A
原査定にて引用された引用文献Aには、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0009】
以下、図面を参照して本発明について詳細に説明する。
図1は、本発明の好ましい一実施態様を示す横断面図である。本発明の一つの実施態様は、断面がおおよそ四角形の導体1と、その外側に熱可塑性樹脂が被覆された熱可塑性樹脂被覆層2と、熱可塑性樹脂被覆層2の各面に少なくとも1つの突起3が設けられている絶縁電線である。
図2は、この絶縁電線の平面図である。なお、突起3は、図示されるように熱可塑性樹脂被覆層2 の表面に、連続的に設けられる必要は必ずしもなく、例えば、断続的に設けられた形状のものであっても良い。」

「【0011】
導体1の外側に設けられた被覆層2は、単層からなるものでも良いし、多層からなるものであっても良い。被覆層2の平面部分の厚さは、30〜200μmが好ましく、80〜150μmがさらに好ましい。
【0012】
本発明においては、熱可塑性樹脂被覆層2の最外層は押出被覆樹脂層とすることが好ましい。
押出被覆樹脂層に用いる熱可塑性樹脂については、押出加工が可能なものであれば何でも良いが、部分放電発生電圧を低くするためには、比誘電率が4.5以下のものが好ましい。例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリアミド(PA)、ポリエステル(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、芳香族ポリエステル、ポリイミド(PI)、脂環式オレフィン、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリメチルペンテン(PMP)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ポリケトン(PK)、ポリスルホン(PSU)、ポリフェニルサルホン(PPSU)、ポリアセタール(POM)等が挙げられる。比誘電率は4.0以下であることがさらに好ましい。」

「【0022】
本発明の絶縁電線は、被覆層2の最外層、好ましくは各面の被覆層2の最外層に少なくとも1つの突起3が絶縁電線の長手方向に設けられている。突起3は、例えば、押出成形においてダイス孔の形状を設けようとする突起に合わせた形状とすることにより、被覆層2と同時成形することで形成することができる。
【0023】
突起3は巻回されたコイルが使用される際に、絶縁電線が挿入されるスロットおよび/または隣接する絶縁電線による圧縮により受ける圧縮応力によって突起が実質失われることがない程度の強度を有することが好ましい。突起は、絶縁電線同士あるいは絶縁電線とスロット内壁との距離を一定以上に確保する機能を有している。ここで、「突起が実質失われることがない程度の強度」とは、突起としての作用効果が保持される強度であることを意味し、コイルとしての使用時に50〜200μmの高さが維持される程度の強度を意味する。使用される際の圧縮強度に対応して、熱可塑性樹脂被覆層の最外層の材質や突起のサイズを適宜選択することで上記強度を得ることができる。
【0024】
突起3の形状は特に限定されるものではないが、コロナ放電が発生する可能性のある放電開始電界を越えるような電界の集中を緩和させる点で、図示されるような、頂部の短手方向の形状は絶縁電線の短手方法に凸曲面状であることが好ましい。この頂部の凸曲面状の形状は略円弧状の滑らかな凸曲面状であることが好ましく、上記の圧縮時において変わらないことがさらに好ましい。図3に、突起部の拡大断面図を示す。符号は、図1に示すものと同じ意味である。
【0025】
また、突起の形状は、図示されるような凸曲面状を有するものに限定されるものではなく、例えば横断面が四角形であると、突起とスロットのコアが密着したときはその間に空隙ができないため、コロナ放電を抑制することに対してしては好ましい形状である。しかし、隙間があると突起のエッジ部に電界が集中してしまうため、突起を四角形にする場合には、常にコアと突起が密着するような状態にすること好ましい。
【0026】
図3においてaで示される、突起3の最上部高さは、熱可塑性樹脂被覆層2の平面部の外表面から、上記圧縮時の圧縮応力を受けた際に50〜200μmであることが好ましく、100〜150μmであることがさらに好ましい。高さaが低すぎと放電開始電圧の低下を起こしやすくなり、また、高さaが高すぎると、コイルにして、ステータスロットに入れた際の占積率が小さいものとなってしまう。
【0027】
突起2の頂部を凸曲面にした場合の電界分布は、突起の頂点に電界が集中する。凸曲面の頂点における電界集中を緩和できればより高い性能が期待できる。突起の幅が大きくなるにつれ、凸曲面端部における電界集中が緩和される。これは、幅が大きいほど凸曲面端部のなす角度が大きくなること、ならびに端部における隙間が大きくなることに起因している。
【0028】
図3においてbで示される、突起の幅は100〜300μmが好ましく、160〜200μmがさらに好ましい。幅bが小さすぎると電界緩和効果が十分に得られないことがある。また、幅bが大きすぎると、スロットの内部のデッドスペースとなる絶縁皮膜の断面積が増加する要因となる。
【0029】
図3において突起の形状を説明の便宜上、円弧とすると、その円弧の半径は、大きくなるにつれ、円弧頂点の電界はわずかに小さくなり、円弧端部の電界は大きくなることがわかる。これらは、半径を大きくすると頂点の電界集中を緩和できる反面、円弧端部のなす角度が直角に近くなり、電界集中を招くことに起因している。このように半径をパラメータにした場合、円弧頂点ならびに端部の電界はトレードオフにあるため、放電開始電界を考慮して適切な大きさに設定することが好ましい。突起の形状として凸曲面状であることが望ましいが、特に、半径が100〜200μm程度の円弧状に相当する程度に滑らかな曲面状であることが望ましい。
【0030】
突起3は平角線の各面に1つ設けても良いし、複数設けても良い。突起の数が多すぎる場合には、単純な厚肉化と変わらなくなるため、3つ以下とすることが好ましい。複数ある場合の突起間の間隔は等分することが好ましい。また、突起3は絶縁電電のどの面を合わせてもぶつからない位置に設けてあると、スロット内へ挿入された際に、デットスペース増加を抑えることができるので好ましい。


「【図1】



「【図3】



3 引用文献B
原査定にて引用された引用文献B(段落【0037】等を参照)には、絶縁電線の下地層を構成する樹脂組成物を熱硬化性樹脂で構成することが記載されていると認められる。

4 引用文献C
原査定にて引用された引用文献C(段落【0037】、【0044】等を参照)には、絶縁電線に用いられる電線絶縁膜等を用途とする、算術平均粗さが12nmのポリイミド皮膜が記載されていると認められる。

第6 当審拒絶理由について(引用発明との対比・判断)
1 本願発明1について
(1)対比
ア 請求項1に係る発明と引用発明とを対比する。

(ア)引用発明の「絶縁電線10」は、「平角導体11の周囲に配置される絶縁皮膜12」を備えるから、「平角導体11」上に「絶縁皮膜12」を有するといえる。
そして、引用発明の「平角導体11」は、本願発明1の「平角導体」に相当し、本願発明1の「被覆層として」の「熱可塑性樹脂層(A)」と、引用発明の「絶縁皮膜12」とは、「被覆層」である点で共通する。
また、引用発明の「絶縁電線10」は、後述する相違点を除き、本願発明1の「絶縁ワイヤ」に相当する。
よって、引用発明における、「平角導体11の周囲に配置される絶縁皮膜12」を備える「絶縁電線10」と、本願発明1の「平角導体上に、被覆層として熱可塑性樹脂層(A)を有する絶縁ワイヤ」とは、「平角導体上に、被覆層を有する絶縁ワイヤ」である点で共通する。

(イ)引用発明において、「凸部12a」は、「絶縁電線10」が「積層され」る際に、「絶縁電線10どうしの間に空間Sが形成される」ようにするためのものであることが理解できることから、「絶縁電線10」の長手方向に連続しているものと解され、本願発明1の「突起部」に相当する。
また、引用発明では、「絶縁皮膜12は、平角導体11の第1〜第4の側面に対応する第1〜第4の領域(第1〜第4の皮膜)を有し、第1〜第4の領域はそれぞれ、両縁部(第1〜第4の領域の境界)に凸部12aを有」するから、引用発明の「絶縁電線10」は、「絶縁皮膜12」の、「平角導体11」の断面のそれぞれの辺に対応する部分の表面(「第1〜第4の側面」のそれぞれ)に、2個ずつ「凸部12a」を有するものであり、このことは、「平角導体11」の断面の少なくとも1つの辺に対応する部分の表面に少なくとも1つの「凸部12a」を有することに含まれる。
以上の点について、上記(ア)を踏まえると、引用発明における「絶縁皮膜12は、平角導体11の第1〜第4の側面に対応する第1〜第4の領域(第1〜第4の皮膜)を有し、第1〜第4の領域はそれぞれ、両縁部(第1〜第4の領域の境界)に凸部12aを有」することと、本願発明1の「前記熱可塑性樹脂層(A)の、前記絶縁ワイヤ断面の少なくとも1つの辺に対応する部分の表面に前記絶縁ワイヤの長手方向に連続した少なくとも1つの突起部を有」することとは、「前記被覆層の、前記絶縁ワイヤ断面の少なくとも1つの辺に対応する部分の表面に前記絶縁ワイヤの長手方向に連続した少なくとも1つの突起部を有」することである点で共通する。

(ウ)引用発明は、「一対の凸部12aの一方から他方に向けて厚さが徐々に薄くなり、再び厚さが徐々に厚くなり、一対の凸部12aの間に、例えば、厚みがほぼ一定の平坦部12bが配置され」るものであること、及び、引用文献1の図1から見て取れる「凸部12a」の形状から、引用発明の「凸部12a」は、「絶縁電線10」の断面において、頂点を1つ有する山形の形状であるといえる。
よって、引用発明は、本願発明1の
「前記絶縁ワイヤ断面において、前記突起部が頂点を1つ有する山形の形状であ」る
ことに相当する構成を有するものである。

(エ)上記(ウ)と同様の理由により、引用発明では、「絶縁電線10」のワイヤ断面において、「凸部12a」と該「凸部12a」を有する表面の「平坦部12b」とが曲部を形成し、また、「凸部12a」の側面が、該「凸部12a」を有する表面の「平坦部12b」に対して、傾斜面を有しているといえる。
そして、引用発明の「平坦部12b」は、本願発明1の「平坦部」に相当する。
よって、引用発明における「一対の凸部12aの一方から他方に向けて厚さが徐々に薄くなり、再び厚さが徐々に厚くなり、一対の凸部12aの間に、例えば、厚みがほぼ一定の平坦部12bが配置され」ることと、本願発明1の
「前記絶縁ワイヤ断面において、前記突起部と該突起部を有する表面の平坦部とが曲率半径0.01〜0.75mmの曲部を形成し、
前記絶縁ワイヤ断面において、前記突起部の側面が、該突起部を有する表面の平坦部に対して2〜80°の傾斜面を有している」
こととは、
「前記絶縁ワイヤ断面において、前記突起部と該突起部を有する表面の平坦部とが曲部を形成し、
前記絶縁ワイヤ断面において、前記突起部の側面が、該突起部を有する表面の平坦部に対して傾斜面を有している」
ことである点で共通する。

イ 上記アから、本願発明1と引用発明とは、以下の点で一致する。
(一致点)
「平角導体上に、被覆層を有する絶縁ワイヤであって、
前記被覆層の、前記絶縁ワイヤ断面の少なくとも1つの辺に対応する部分の表面に前記絶縁ワイヤの長手方向に連続した少なくとも1つの突起部を有し、
前記絶縁ワイヤ断面において、前記突起部が頂点を1つ有する山形の形状であり、
前記絶縁ワイヤ断面において、前記突起部と該突起部を有する表面の平坦部とが曲部を形成し、
前記絶縁ワイヤ断面において、前記突起部の側面が、該突起部を有する表面の平坦部に対して傾斜面を有している絶縁ワイヤ。」

ウ また、本願発明1と引用発明1とは、以下の点で相違する。
(相違点1)
本願発明1の「被覆層」は、「ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレンナフタレート、及び/又は変性ポリエーテルエーテルケトン」である「熱可塑性樹脂層(A)」であるのに対して、引用発明の「絶縁皮膜12」は、材質がそのように特定されるものではない点。

(相違点2)
「曲部」の形状について、本願発明1では、「曲率半径0.01〜0.75mm」であるのに対して、引用発明では、曲率半径の数値が特定されるものではない点。

(相違点3)
「傾斜面」の角度について、本願発明1では、「該突起部を有する表面の平坦部」に対する角度が「2〜80°」であるのに対して、引用発明では、「平坦部12b」に対する角度の数値が特定されるものではない点。

(2)判断
そこで、まず相違点1について検討する。
引用発明は、「絶縁皮膜12」を「平角導体11から順に、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリイミドが順に積層されたもの」として、「ポリアミドイミドの使用により、機械的特性が向上し、また、ポリアミドイミドを1対のポリイミドにより挟持することにより、オイルによるポリアミドイミドの劣化も抑制でき」るものであり、また、「ステータコイル26の絶縁電線10どうしの間の空間S」において「含浸、硬化され」た「ワニス27」により、「スロット25bとステータコイル26とが固定されるとともに、ステータコイル26の絶縁電線10どうしが固定され、これにより、耐振動性、耐衝撃性が向上する」ものである。
これに対して、引用文献1には、引用発明の「絶縁皮膜12」の材質を「ポリイミド」等から他のものに変更し得ることについては記載や示唆がなく、特定の材質に変更した場合において「機械的特性」や「耐振動性」が引き続き向上することは自明であるとはいえない。
また、引用文献1の段落[0004]〜[0005]等の記載によれば、引用発明は車両用の回転電機を用途とすることが想定されているものと解されるところ、引用発明の「絶縁皮膜12」の材質は、そのような用途も考慮して決定すべきことは明らかである。
そうすると、仮に、絶縁ワイヤの被覆層をポリエーテルエーテルケトン等の熱可塑性樹脂層で構成することが周知技術であったとしても、引用発明に当該周知技術を適用することについて動機付けがあるとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2〜10について
本願発明2〜8は、本願発明1を減縮した発明であり、本願発明9,10は、本願発明1を(間接的に)引用する、それぞれ「コイル」、「電気・電子機器」の発明であって、いずれも相違点1に係る発明特定事項を含むことから、本願発明2〜10は、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 小括
以上から、当審拒絶理由は解消した。

第7 原査定について
引用文献Aには、上記第5の2のとおりの記載があるところ、特に、段落【0026】、【0028】、【0029】には、図3のa、b及び「半径」(段落【0029】)の各寸法の取り得る数値範囲についての記載がある。
ここで、段落【0026】に記載されている寸法a、すなわち、「突起3の最上部高さ」の数値範囲である「50〜200μm」は、「圧縮応力を受けた際」の寸法であって、その際の「突起3」の形状は真円ではないものと解されることからすれば、上記数値範囲を満足する各寸法の組み合わせに、本願発明1にいう「前記絶縁ワイヤ断面において、前記突起部と該突起部を有する表面の平坦部と」が「曲部を形成」している場合が必ずしも含まれるとはいえない。
そうすると、本願発明1と引用文献Aに記載の発明とは、少なくとも、本願発明1では、「前記絶縁ワイヤ断面において、前記突起部と該突起部を有する表面の平坦部と」が「曲部を形成」しているのに対して、引用文献Aに記載の発明では、「突起3」に関してそのように特定されるものではない点で相違しており、当該相違点に係る構成について当業者が容易に想到し得るとする根拠は見出せない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2023-12-25 
出願番号 P2020-500498
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01B)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 岩間 直純
特許庁審判官 野崎 大進
富澤 哲生
発明の名称 絶縁ワイヤ、コイル及び電気・電子機器  
代理人 飯田 敏三  
代理人 赤羽 修一  
代理人 弁理士法人イイダアンドパートナーズ  

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