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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01B |
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管理番号 | 1405655 |
総通号数 | 25 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2024-01-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2023-03-03 |
確定日 | 2024-01-09 |
事件の表示 | 特願2019− 57628「導電積層体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年10月 1日出願公開、特開2020−161259、請求項の数(16)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成31年3月26日の出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。 令和4年 9月28日付け:拒絶理由通知 令和4年10月18日 :意見書、手続補正書の提出 令和5年 1月25日付け:拒絶査定(原査定) 令和5年 3月 3日 :審判請求書・手続補正書 提出 第2 原査定の概要 原査定の概要は、次のとおりである。 1.(進歩性)この出願の請求項1ないし16に係る発明は、下記の引用文献1ないし3に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 <引用文献等一覧> 1.特開2017−212057号公報 2.特開2017−200995号公報(周知技術を示す文献) 3.国際公開第2010/082428号(周知技術を示す文献) 第3 本願発明 本願請求項1ないし16に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明16」という。)は、令和5年3月3日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定される、次のとおりの発明である。 「【請求項1】 基材フィルムの片面に導電層および硬化樹脂層をこの順に形成し、当該硬化樹脂層を導電層と共に基材フィルムから剥離することにより、硬化樹脂層上に導電層を形成することを特徴とする導電積層体の製造方法において、 前記導電層は、導電性有機材料及びナフタレン構造を有するポリエステル樹脂を含有し、 前記導電層が架橋剤を用いて形成され、 前記架橋剤として、メラミン化合物及びイソシアネート系化合物を含有する、導電積層体の製造方法。 【請求項2】 前記導電層を基材フィルム表面に直接形成する請求項1に記載の導電積層体の製造方法。 【請求項3】 前記導電性有機材料は、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)をポリスチレンスルホン酸と複合させた導電性有機高分子である請求項1または2に記載の導電積層体の製造方法。 【請求項4】 前記ナフタレン構造を有するポリエステル樹脂は、2,6−ナフタレンジカルボン酸構造を有するポリエステル樹脂である請求項1〜3のいずれか一項に記載の導電積層体の製造方法。 【請求項5】 前記ナフタレン構造を有するポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂中のジカルボン酸成分100モル%に対してナフタレンジカルボン酸を10モル%以上含むものである請求項1〜4のいずれか一項に記載の導電積層体の製造方法。 【請求項6】 前記導電層中にポリオール化合物を含有する請求項1〜5のいずれか一項に記載の導電積層体の製造方法。 【請求項7】 前記ポリオール化合物として、糖アルコールを含有する請求項6に記載の導電積層体の製造方法。 【請求項8】 前記硬化樹脂層は、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートを含有する請求項1〜7のいずれか一項に記載の導電積層体の製造方法。 【請求項9】 前記基材フィルムがポリエステルフィルムである請求項1〜8のいずれか一項に記載の導電積層体の製造方法。 【請求項10】 前記導電層の膜厚を0.001〜10μmの範囲とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の導電積層体の製造方法。 【請求項11】 前記導電層および硬化樹脂層のうち、前記硬化樹脂層のみが活性エネルギー線により硬化させて形成される請求項1〜10のいずれか一項に記載の導電積層体の製造方法。 【請求項12】 前記基材フィルムの片面に前記導電層を設けた後、前記硬化樹脂層を形成する迄の間に、当該導電層を前記基材フィルムと共に少なくとも一方向に延伸する請求項1〜11のいずれか一項に記載の導電積層体の製造方法。 【請求項13】 前記導電層を形成するための塗布液を基材フィルムの片面に塗布した後、前記硬化樹脂層を形成する迄の間に、前記基材フィルム及び前記塗布液に対して180〜270℃の熱処理を行うことにより前記導電層を形成する請求項1〜12のいずれか一項に記載の導電積層体の製造方法。 【請求項14】 粘着層を前記硬化樹脂層上に積層した後、当該粘着層および硬化樹脂層を導電層と共に基材フィルムから剥離する請求項1〜13のいずれか一項に記載の導電積層体の製造方法。 【請求項15】 前記基材フィルムの片面に前記導電層を形成し、前記硬化樹脂層を形成する前の段階での、前記導電層の表面抵抗値が1×1012Ω以下である請求項1〜14のいずれか一項に記載の導電積層体の製造方法。 【請求項16】 前記導電積層体における前記導電層の表面抵抗値が1×1012Ω以下である請求項1〜15のいずれか一項に記載の導電積層体の製造方法。」 第4 引用文献 1 引用文献1および引用発明 (1)引用文献1の記載事項 原査定の拒絶理由に引用された引用文献1(特開2017−212057号公報)には、次の事項が記載されている(下線は、当審が付加した。以下同様。)。 ア 「【技術分野】 【0001】 本開示の実施形態は、導電性基材、導電膜転写フィルム、及び表示装置に関する。 【背景技術】 【0002】 近年、導電性基材に用いられる導電材料として、ナノワイヤなどの金属粒子が注目されている。金属粒子を用いた導電性基材は、例えば、金属粒子と樹脂材料とを含む金属含有層を有する。 【0003】 このような導電性基材の多くは、基材上に形成された金属含有層を所望の形状にパターニングして用いられ、例えば表示装置や表示装置上に設けられたタッチパネル部材等の配線基材として用いられている。 上記金属粒子を用いた導電性基材は、太陽光下に長時間暴露されると、金属の酸化や形態変化に起因すると推定される抵抗率の上昇が起こる場合があった。 【0004】 耐光性を向上する手法として、特許文献1では、導電性繊維を含有し、当該導電性繊維を構成する元素と、ハロゲン元素との含有比が特定の範囲内である導電膜が開示されている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0005】 【特許文献1】 特開2012−230881号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 本開示の実施形態は、耐光性に優れた導電性基材、導電膜転写フィルム、及び、表示装置を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0007】 本開示の1実施形態は、基材と、前記基材上の第1の層と、前記第1の層上の第2の層とを有し、 前記第1の層は、樹脂と、銀粒子及び銅粒子から選ばれる少なくとも1種の金属粒子とを含み、 前記第2の層は、樹脂を含み、 前記第1の層、及び、前記第2の層の少なくとも一方が、フェノール系化合物を含む、導電性基材を提供する。 【0008】 本開示の1実施形態は、前記金属粒子が、アスペクト比が5以上である銀ナノワイヤを含む、導電性基材を提供する。 【0009】 本開示の1実施形態は、前記フェノール系化合物が、窒素原子、及び、硫黄原子より選択される1種以上の原子を有するフェノール系化合物、トコフェロール系化合物、並びに、トコトリエノール系化合物よりなる群から選択される1種以上である、導電性基材を提供する。 【0010】 本開示の1実施形態は、前記第1の層がパターン形状を有する、導電性基材を提供する。 【0011】 本開示の1実施形態は、前記実施形態に係る導電性基材であって、 前記基材が剥離可能である、導電膜転写フィルムを提供する。」 イ 「【0030】 本開示の1実施形態における第1の層は、樹脂材料中に金属粒子が分散されている。本開示の1実施形態における第1の層においては、樹脂材料に全ての金属粒子が埋め込まれておらず、金属粒子の一部が突出していても良い。本開示の1実施形態における第1の層中に含まれる金属粒子の含有量は、例えば、第1の層が所望の導電性を達成することができる程度であることが好ましい。具体的には、樹脂材料100質量部に対して、金属粒子が3質量部以上であることが好ましく、中でも4質量部以上であることが好ましい。また、樹脂材料100質量部に対して、金属粒子が100質量部以下であることが好ましく、中でも50質量部以下であることが好ましい樹脂材料中に含まれる金属粒子の含有量が、上記範囲内であることにより、充分な導電性を有する導電性基材とすることができる。」 ウ 「【0046】 (b)樹脂材料 本開示の1実施形態における樹脂材料は、導電部に含まれる材料であり、上述した金属粒子が分散される材料である。 【0047】 本開示の1実施形態における樹脂材料は、上述した金属粒子を分散させることができる樹脂材料であることが好ましく、例えば、透明性を有する材料であることが好ましい。ここで、「透明」とは、特段の断りがない限り、例えば、本開示の1実施形態における導電性基材をタッチパネル表示装置等に用いた際に、操作者からの視認を妨げない程度に透明であることをいう。したがって、「透明」は、無色透明、および視認性を妨げない程度の有色透明を含み、また厳密な透過率で定義されず、本開示の1実施形態における導電性基材の用途等に応じて透明性の度合いを決定することができる。 【0048】 このような本開示の1実施形態における樹脂材料は、例えば、電離放射線により硬化する電離放射線硬化型樹脂であることが好ましい。ここで、「電離放射線」とは、電磁波又は荷電粒子線のうち、分子を重合あるいは架橋し得るエネルギー量子を有するものを意味し、通常、紫外線又は電子線が用いられるが、その他、X線、γ線などの電磁波、α線、イオン線などの荷電粒子線も使用可能である。 【0049】 電離放射線硬化型樹脂としては、例えば、アクリレート系等の官能基を有する化合物等の1または2以上の不飽和結合を有する化合物が挙げられる。1の不飽和結合を有する化合物としては、例えば、エチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、メチルスチレン、N−ビニルピロリドン等が挙げられる。2以上の不飽和結合を有する化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート、テトラペンタエリスリトールデカ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸ジ(メタ)アクリレート、ポリエステルトリ(メタ)アクリレート、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールジ(メタ)アクリレート、ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレート、アダマンチルジ(メタ)アクリレート、イソボロニルジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタンジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等の多官能化合物等が挙げられる。中でも、ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)及びペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA)が好適に用いられる。なお、上述した「(メタ)アクリレート」は、メタクリレート及びアクリレートを指すものである。また、本開示の1実施形態においては、電離放射線硬化型樹脂として、上述した化合物をPO、EO等で変性したものも使用できる。 【0050】 本開示の1実施形態においては、上述した化合物の他にも、不飽和二重結合を有する比較的低分子量のポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂等も電離放射線硬化型樹脂として使用することができる。」 エ 図3 オ 「【0096】 [導電性基材の製造方法] 本開示の導電性基材の製造方法は、前述した本開示の導電性基材を製造することができる方法であれば良く、特に限定されない。以下、本開示の導電性基材の製造方法の具体例について、図を参照して説明する。 【0097】 図3の(a)〜(d)は、本開示の導電性基材の製造方法の他の一例を示す概略工程図である。まず、図3の(a)に示すように、基材1上に金属粒子及び樹脂材料を含有する第1の層用組成物を塗布して第1の層用塗膜2’を形成し、図3の(b)に示すように第1の層用塗膜2’を硬化することにより第1の層1を形成する。次いで、図3の(c)に示すように、第1の層1の表面に、樹脂材料を含有する第2の層用組成物を塗布して第2の層用塗膜3’を形成し、図3の(d)に示すように、第2の層用塗膜3’を硬化することにより第2の層2を形成する。これらの工程により、基材1と、基材1上の第1の層1と、第1の層1上の第2の層2とを有する導電性基材10を得ることができる。なお、フェノール系化合物は、前記第1の層用組成物、及び、前記第2の層用組成物のうち少なくとも一方に含有すればよい。」 (2)引用発明 上記(1)の、特に下線を付加した記載に着目すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「基材と、前記基材上の第1の層と、前記第1の層上の第2の層とを有し、 前記第1の層は、樹脂と、銀粒子及び銅粒子から選ばれる少なくとも1種の金属粒子とを含み、 前記第2の層は、樹脂を含み、 前記第1の層が、導電性基材を提供しており、 前記基材が剥離可能である、導電膜転写フィルムの提供であって、 第1の層は、樹脂材料中に金属粒子が分散されており、 樹脂材料は、導電部に含まれる材料であり、上述した金属粒子が分散される材料であり、樹脂材料は、例えば、電離放射線により硬化する電離放射線硬化型樹脂であることが好ましく、不飽和二重結合を有する比較的低分子量のポリエステル樹脂等も電離放射線硬化型樹脂として使用することができ、 導電性基材の製造方法であって、 基材1上に金属粒子及び樹脂材料を含有する第1の層用組成物を塗布して第1の層用塗膜を形成し、 第1の層用塗膜を硬化することにより第1の層1を形成し、 第1の層1の表面に、樹脂材料を含有する第2の層用組成物を塗布して第2の層用塗膜を形成し、 第2の層用塗膜を硬化することにより第2の層2を形成し、 これらの工程により、基材1と、基材1上の第1の層1と、第1の層1上の第2の層2とを有する導電性基材10を得ることができる 導電性基材の製造方法。」 2 引用文献2 原査定の拒絶理由において、周知技術を示す文献として引用された引用文献2(特開2017−200995号公報)には、次の事項が記載されている。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、延伸により形成される導電膜の製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 樹脂フィルムは、加工性に優れ、多種多様の特性を付与できることから、幅広い用途で使用されている。一方で、樹脂フィルムは、一般に、絶縁性であり、静電気を帯電しやすいため、不純物や粉塵の付着、放電による可燃物への引火等を引き起こしやすいとの短所を有している。特に、電気・電子分野においては、電子部品に樹脂フィルムが用いられる場合、該電子部品の破損につながるおそれもある。 このため、特に、電気・電子分野等の用途で用いられる樹脂フィルムにおいては、帯電防止性能の付与が求められる。例えば、電子部品の包装用の袋や表面保護フィルム、仮止め粘着テープ等には、従来から、導電膜で被覆した樹脂フィルムからなる帯電防止フィルムが用いられている。 【0003】 また、タッチパネルや有機エレクトロルミネッセンス素子、薄膜太陽電池等においては、透明樹脂フィルムに透明な導電膜を形成した透明電極が使用されている。 【0004】 上記のような導電膜に用いられる導電性物質としては、従来は、界面活性剤やカーボン、金属又は金属酸化物等であったが、近年では、これらに代わるものとして、導電性重合体が注目されている。 例えば、特許文献1には、一軸延伸ポリエステルフィルム上に、導電性重合体(導電性高分子樹脂)及びバインダーとしてポリウレタン樹脂を含むコーティング液を塗布して帯電防止層を形成し、該帯電防止層が形成されたポリエステルフィルムを再延伸することにより、二軸延伸された帯電防止ポリエステルフィルムを製造する方法が提案されている。 また、特許文献2には、基材と、アスペクト比が大きい導電性重合体(導電性ポリマー)粒子及びバインダー樹脂を含有する導電層とを備えた透明導電膜が記載されている。 【0005】 また、導電膜形成のためのコーティング液に用いられる導電性重合体分散液を製造する方法として、例えば、特許文献3に、共役系導電性重合体を得るための単量体を、ポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子を含む分散媒中で重合することにより、導電性重合体分散液を得る方法が提案されている。 【0006】 ところで、樹脂フィルムの加工においては、薄膜化、耐熱性及び耐寒性の向上、加熱収縮性(シュリンク性)の付与、偏光特性の付与、及び機械的強度の向上等の目的で、延伸処理が一般的に行われている。導電膜形成のためのコーティング工程と、このような延伸処理とを連続して行う、いわゆるインラインコーティングによれば、まだコーティングされていない樹脂フィルムの延伸理工程と、コーティング工程とをそれぞれ別々の設備で行う、いわゆるオフラインコーティングよりも、製造設備の縮小化及び製造コストの抑制を図ることができ、かつ、導電膜の厚みを延伸率で調整することができるとの利点を有している。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0007】 【特許文献1】 特開2010−37533号公報 【特許文献2】 特開2014−26875号公報 【特許文献3】 国際公開第2014/142133号 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 上記特許文献3に記載されている導電性重合体分散液は、シード粒子を含有していることにより、該分散液の増粘が抑制され、優れた生産性で得られるものの、該分散液をコーティング液として用いて形成された被覆層は、これを延伸して導電膜を形成した場合、延伸度に対する導電率の低下率が大きいという課題を有していた。 【0009】 本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、導電性重合体を含むコーティング液を用いて形成された被覆層を延伸して導電膜を形成する際に、該導電膜の導電率の低下を抑制することができる導電膜の製造方法を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0010】 本発明は、導電膜を形成するためのコーティング液中の導電性重合体を含む粒子の形態に着目し、該コーティング液による被覆層の延伸に伴って該粒子が変形することにより、導電膜の導電率の低下が抑制されるとの知見に基づいてなされたものである。 【0011】 すなわち、本発明は、以下の[1]〜[15]を提供するものである。 [1]ポリアニオンで保護コロイド化されたポリマーシード粒子と共役系導電性重合体との複合粒子、及びバインダーを含有するコーティング液を調製する工程と、前記コーティング液でポリマーフィルム基材を被覆し、乾燥して被覆層を形成する工程と、前記被覆層を加熱延伸し、導電膜を形成する工程とを含み、前記保護コロイド化されたポリマーシード粒子のガラス転移温度が、前記加熱延伸における延伸温度よりも低いことを特徴とする導電膜の製造方法。」 イ 「【0038】 好ましい共役系導電性重合体の具体例としては、ポリピロール、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルピロール)、ポリ(3−エチルピロール)、ポリ(3−n−プロピルピロール)、ポリ(3−ブチルピロール)、ポリ(3−オクチルピロール)、ポリ(3−デシルピロール)、ポリ(3−ドデシルピロール)、ポリ(3,4−ジメチルピロール)、ポリ(3,4−ジブチルピロール)、ポリ(3−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルピロール)、ポリ(3−ヒドロキシピロール)、ポリ(3−メトキシピロール)、ポリ(3−エトキシピロール)、ポリ(3−ブトキシピロール)、ポリ(3−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)等のポリピロール類;ポリチオフェン、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−エチルチオフェン)、ポリ(3−プロピルチオフェン)、ポリ(3−ブチルチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルチオフェン)、ポリ(3−オクチルチオフェン)、ポリ(3−デシルチオフェン)、ポリ(3−ドデシルチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルチオフェン)、ポリ(3−ブロモチオフェン)、ポリ(3−クロロチオフェン)、ポリ(3−ヨードチオフェン)、ポリ(3−シアノチオフェン)、ポリ(3−フェニルチオフェン)、ポリ(3,4−ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4−ジブチルチオフェン)、ポリ(3−ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3−エトキシチオフェン)、ポリ(3−ブトキシチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3−デシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−メトキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−エトキシチオフェン)、ポリ(3−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンオキシチアチオフェン)等のポリチオフェン類;ポリアニリン、ポリ(2−メチルアニリン)、ポリ(3−イソブチルアニリン)、ポリ(2−アニリンスルホン酸)およびポリ(3−アニリンスルホン酸)等のポリアニリン類等が挙げられる。これらは、1種単独でも、2種以上の混合物であってもよい。 これらの中でも、高導電性の観点から、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)及びポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)が好ましい。特に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)は、導電性が高い上に、耐熱性にも優れているため好ましい。」 ウ 「【0053】 バインダーとしては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂;アクリル樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリビニルアルコール樹脂;ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド12、ポリアミド11等のポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ビニルエステル樹脂;ポリスチレン樹脂;ポリ塩化ビニル樹脂;ポリオレフィン樹脂;ポリカーボネート樹脂;セルロース樹脂;ポリエーテル樹脂;ポリアミドイミド樹脂;ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン等のフッ素樹脂;ポリビニルエーテル、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル等のビニル樹脂;エポキシ樹脂;ウレア樹脂;メラミン樹脂;フェノール樹脂;オキセタン樹脂;キシレン樹脂;アラミド樹脂;ポリイミドシリコーン樹脂等が挙げられ、また、でんぷん等の多糖類も用いることができる。これらは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。ポリマーフィルム基材との密着性、導電膜の適用用途や性能等に応じて適宜選択して使用することができる。これらのうち、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹及びセルロース樹脂が好ましく、より好ましくは、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂及びポリビニルアルコール樹脂が用いられる。 以下、これらのうち、代表する樹脂について、より詳細に説明する。」 エ 「【0069】 コーティング液には、本発明の効果を損なわない範囲内において、複合粒子及びバインダー以外の添加剤を添加してもよい。添加剤としては、例えば、バインダーである樹脂の可塑剤、ポリマーフィルム基材への濡れ性を向上するための濡れ剤、増粘剤、消泡剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、難燃剤、滑剤、防腐剤等が挙げられる。」 3 引用文献3 原査定の拒絶理由において、周知技術を示す文献として引用された引用文献3(国際公開第2010/082428号)には、次の事項が記載されている。 ア 「技術分野 [0001] 本発明は、透明電極、その製造方法及び有機エレクトロルミネッセンス素子に関し、さらに詳しくは、複雑な工程を経ず、塗布により形成された透明電極、その製造方法及び有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。」 イ 「[0032] <導電層> 本発明における導電層は、金属ナノワイヤ層及び導電性高分子層から構成され、導電性高分子層は金属ナノワイヤ層表面と接した状態でも、内部に含浸した状態でもよい。 [0033] これら導電層の形成方法は、それぞれ金属ナノワイヤ、導電性高分子を含む分散液を、塗布、乾燥して膜形成する液相成膜法であれば特に制限はなく、ロールコート法、バーコート法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、キャスティング法、ダイコート法、ブレードコート法、バーコート法、グラビアコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ドクターコート法等の塗布法を用いることができる。また、インクジェット印刷法やグラビア、スクリーン印刷法等により、直接パターン形成してもよく、分散液の濃度、目的とする塗設量に応じて、印刷を複数回行ってもよい。 [0034] <金属ナノワイヤ層> 本発明に係る金属ナノワイヤ層は、金属ナノワイヤ及びバインダーとして水溶性高分子または高分子ラテックスまたは硬化性樹脂を含有する分散液を、塗布、乾燥して形成される。さらに、バインダーである水溶性高分子または高分子ラテックスは、後述する架橋剤により架橋され、また、硬化性樹脂は、熱・光・電子線・放射線により硬化され、固定化される。これにより、導電性高分子層の塗布性、及び平滑性が飛躍的に向上する。これは、導電性高分子層塗設により、下層の金属ナノワイヤ層が若干膨潤するが、前述の固定化により、膨潤が抑制され、平滑性が向上したと推定される。 [0035] また、添加剤として、可塑剤、酸化防止剤や硫化防止剤などの安定剤、界面活性剤、溶解促進剤、重合禁止剤、染料や顔料などの着色剤などが用いることができる。更に、塗布性などの作業性を高める観点から、溶媒(例えば、水や、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、ケトン類、エステル類、エーテル類、アミド類、炭化水素類等の有機溶媒)を含んでいてもよい。 [0036] また、金属ナノワイヤを含む分散液は、導電性高分子を含んでいてもよい。 [0037] <水溶性高分子> 本発明に係る水溶性高分子としては、天然高分子のデンプン、ゼラチン、寒天等、半合成高分子のカルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)等のセルロース誘導体、合成高分子のポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸系高分子、ポリアクリルアミド(PAM)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリビニルピロリドン(PVP)等から広く選択して使用することができる。また、これらの高分子は、官能基の一部が変性されていてもよい。特に、セルロース誘導体、ポリビニルアルコールが好ましい。 [0038] <高分子ラテックス> 本発明に係る高分子ラテックスとしては、アクリル系樹脂(アクリルシリコン変性樹脂、フッ素変性アクリル樹脂、ウレタン変性アクリル樹脂、エポキシ変性アクリル樹脂等)、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂等から広く選択して使用することができる。 [0039] <硬化性樹脂> 本発明に係る硬化性樹脂は、熱・光・電子線・放射線で硬化する水性硬化性樹脂を用いることができ、例えば、メラミンアクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル変性シリケート等のシリコーン樹脂等を用いることができる。 [0040] <導電性高分子層> 本発明に係る導電性高分子層は、金属ナノワイヤ層を塗布し、次いで金属ナノワイヤ層のバインダーを架橋、あるいは硬化後、導電性高分子を含有する分散液を、塗布、乾燥して形成される。 [0041] 導電性高分子層は、単一の導電性高分子を用いてもよいし、複数種の導電性高分子を混合して用いてもよい。また、導電性と透明性を両立できる範囲で、非導電性高分子や添加剤を含んでいてもよい。 [0042] 非導電性高分子としては、天然高分子樹脂または合成高分子樹脂から広く選択して使用することができる。例えば、透明な熱可塑性樹脂(例えば、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリメチルメタクリレート、ニトロセルロース、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、フッ化ビニリデン)や、前述の水溶性高分子、高分子ラテックス、硬化性樹脂を用いることができる。 [0043] また、添加剤として、可塑剤、酸化防止剤や硫化防止剤などの安定剤、界面活性剤、溶解促進剤、重合禁止剤、染料や顔料などの着色剤などが挙げられる。更に、塗布性などの作業性を高める観点から、溶媒(例えば、水や、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、ケトン類、エステル類、エーテル類、アミド類、炭化水素類等の有機溶媒)を含んでいてもよい。 [0044] 本発明において、導電性高分子層を金属ナノワイヤ層に塗設、積層することにより、金属ナノワイヤ間の接触による導電性に加え、金属ナノワイヤ間に導電性高分子が入り込み、金属ナノワイヤ及び金属ナノワイヤ間隙部の導電性を均一化することができる。さらに、導電性高分子層が造膜することにより、表面平滑性を向上することができる。 [0045] <架橋剤> 本発明に係る架橋剤は、金属ナノワイヤ層中のバインダーである水溶性高分子または高分子ラテックスの架橋に用いられ、アルデヒド系、エポキシ系、メラミン系、イソシアネート系架橋剤等を用いることができる。 [0046] 架橋剤の適用方法は、架橋剤の塗布液を予め透明基材上に塗布、乾燥しておき、そこに金属ナノワイヤ層を塗設してもよいし、金属ナノワイヤ層を塗布、乾燥した後、そこに架橋剤を塗設してもよいし、金属ナノワイヤ分散液と架橋剤を同時2層塗布してもよいし、それらの混合液を塗布、乾燥してもよい。」 第5 対比・判断 1 本願発明1 (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことが認められる。 ア 引用発明において、「基材と、前記基材上の第1の層と、前記第1の層上の第2の層とを有し、前記第1の層は、樹脂と、銀粒子及び銅粒子から選ばれる少なくとも1種の金属粒子とを含み、前記第2の層は、樹脂を含み、前記第1の層が、導電性基材を提供しており、前記基材が剥離可能である、導電膜転写フィルムの提供であって、第1の層は、樹脂材料中に金属粒子が分散されており、樹脂材料は、導電部に含まれる材料であり、上述した金属粒子が分散される材料であり、樹脂材料は、例えば、電離放射線により硬化する電離放射線硬化型樹脂であることが好ましく、不飽和二重結合を有する比較的低分子量のポリエステル樹脂等も電離放射線硬化型樹脂として使用することができ、」「導電性基材の製造方法であって、基材1上に金属粒子及び樹脂材料を含有する第1の層用組成物を塗布して第1の層用塗膜2’を形成し、第1の層用塗膜2’を硬化することにより第1の層1を形成し、第1の層1の表面に、樹脂材料を含有する第2の層用組成物を塗布して第2の層用塗膜3’を形成し、第2の層用塗膜3’を硬化することにより第2の層2を形成し、これらの工程により、基材1と、基材1上の第1の層1と、第1の層1上の第2の層2とを有する導電性基材10を得ることができる」とされている。 ここで、引用発明における「基材」、「第1の層」、「第2の層」は、それぞれ、本願発明1の「基材フィルム」、「導電層」、「硬化樹脂層」に対応するといえる。 したがって、本願発明1と引用発明とは、「基材フィルムの片面に導電層および硬化樹脂層をこの順に形成し、当該硬化樹脂層を導電層と共に基材フィルムから剥離することにより、硬化樹脂層上に導電層を形成することを特徴とする導電積層体の製造方法」である点で共通しているといえる。 イ 引用発明において、「第1の層は、樹脂材料中に金属粒子が分散されており、樹脂材料は、導電部に含まれる材料であり、上述した金属粒子が分散される材料であり、樹脂材料は、例えば、電離放射線により硬化する電離放射線硬化型樹脂であることが好ましく、不飽和二重結合を有する比較的低分子量のポリエステル樹脂等も電離放射線硬化型樹脂として使用することができ」るとされている。 ここで、引用発明の「第1の層」(導電層)に含まれる「金属粒子」は、導電性を提供する材料であるといえる。 したがって、本願発明1と引用発明とは、「前記導電層は、導電性」「材料及び」「ポリエステル樹脂を含有」している点で共通しているといえる。 しかし、本願発明1の導電層は、導電性材料として、「導電性有機材料」を含み、ポリエステル樹脂が、「ナフタレン構造を有」しているのに対して、引用発明の導電層は、導電性材料として、金属粒子を含み、ポリエステル樹脂が、ナフタレン構造を有しているのか否か不明である点で相違している。 また、本願発明1の導電層は、架橋剤を用いて形成され、前記架橋剤として、メラミン化合物及びイソシアネート系化合物を含有するのに対して、引用発明の導電層が架橋剤を用いて形成されているのか否か不明な点で相違している。 (2)一致点・相違点 本願発明1と、引用発明とは、以下アの点で一致し、以下イの点で相違する。 ア 一致点 「基材フィルムの片面に導電層および硬化樹脂層をこの順に形成し、当該硬化樹脂層を導電層と共に基材フィルムから剥離することにより、硬化樹脂層上に導電層を形成することを特徴とする導電積層体の製造方法において、 前記導電層は、導電性材料及びポリエステル樹脂を含有する、 導電積層体の製造方法。」 イ 相違点 (ア)<相違点1> 本願発明1の導電層は、導電性材料として、「導電性有機材料」を含み、ポリエステル樹脂が、「ナフタレン構造を有」しているのに対して、引用発明の導電層は、導電性材料として、金属粒子を含み、ポリエステル樹脂が、ナフタレン構造を有しているのか否か不明である点。 (イ)<相違点2> 本願発明1の導電層は、架橋剤を用いて形成され、前記架橋剤として、メラミン化合物及びイソシアネート系化合物を含有するのに対して、引用発明の導電層が架橋剤を用いて形成されているのか否か不明な点。 (3)相違点についての判断 事案に鑑みて、先に<相違点2>について検討する。 特に、本願発明1の<相違点2>に係る構成の内、特に、「導電層」に含有される「ポリエステル樹脂」が「ナフタレン構造を有する」構成について、引用文献1ないし3には、いずれも、記載も示唆もない。 また、「導電層」に含有される「ポリエステル樹脂」が「ナフタレン構造を有する」構成について、本願出願前に、周知であったとも認められない。 そして、本願発明1の<相違点2>に係る構成の内、特に、「導電層」に含有される「ポリエステル樹脂」が「ナフタレン構造を有する」構成により、「上記の中でも基材フィルムへの定着性および基材フィルムからの剥離性(硬化樹脂層への転写性)の両立を考慮するとナフタレン構造を有するポリエステル樹脂がより好ましい。」(【0038】)との、当業者が予測しえない効果を奏するといえる。 したがって、引用発明、引用文献2および引用文献3に記載の事項に基づいて、当業者は本願発明1の<相違点2>に係る構成を容易に想到することができない。 よって、本願発明1は、その他の<相違点1>について検討するまでもなく、引用発明、引用文献2および引用文献3に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 2 本願発明2ないし16 本願発明2ないし16は、いずれも、本願発明1を減縮したものであって、本願発明1と同一の構成を備えるものであるから、上記1で述べた本願発明1と同じ理由により、引用発明、引用文献2および引用文献3に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 第6 原査定について 上記第5の1(3)および2で述べたように、本願発明1ないし16はいずれも、引用発明、引用文献2および引用文献3に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえないから、原査定の拒絶の理由(進歩性)は、解消している。 よって、原査定の理由は、維持することはできない。 第7 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2023-12-19 |
出願番号 | P2019-057628 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H01B)
|
最終処分 | 01 成立 |
特許庁審判長 |
山澤 宏 |
特許庁審判官 |
野崎 大進 山内 裕史 |
発明の名称 | 導電積層体の製造方法 |
代理人 | 弁理士法人市澤・川田国際特許事務所 |