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審決分類 審判 一部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  H01L
審判 一部申し立て 発明同一  H01L
審判 一部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  H01L
審判 一部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 一部申し立て 4項(134条6項)独立特許用件  H01L
管理番号 1405806
総通号数 25 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-12-20 
確定日 2023-10-16 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第7091519号発明「配列用マスク」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7091519号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−4〕について訂正することを認める。 特許第7091519号の請求項1に係る特許を維持する。 特許第7091519号の請求項2についての申立てを却下する。 
理由 1 手続の経緯
特許第7091519号の請求項1〜4に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成27年2月26日(優先権主張 平成26年7月7日)を出願日とする特願2015−36180号の一部を、平成30年9月27日に特願2018−181130号として新たな特許出願とし、更にその一部を、令和2年1月14日に特願2020−3485号として新たな特許出願とし、更にその一部を、令和3年4月22日に新たな特許出願としたものであって、令和4年6月17日にその特許権の設定登録がされ、同年同月27日に特許掲載公報が発行された。
その後、その特許について、同年12月20日に特許異議申立人角田朗(以下「申立人角田」という。)により請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立て(以下「本件特許異議の申立て」という。)がされ、当審は、令和5年3月7日(起案日)に取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である同年4月27日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)を行い、当審は、同年7月5日(起案日)に申立人角田に訂正の請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)をし、申立人角田は、その指定期間内である同年7月31日に意見書の提出を行った。

2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(当審注:下線は訂正箇所を示すため当審が付与した。)。
ア 訂正事項1
請求項1に係る「少なくとも前記マスク本体(10)のスキージ面および前記ワーク(3)との対向面に、撥水性を有する材質で形成されたコーティング層が設けられていること」を、「少なくとも前記マスク本体(10)のスキージ面および前記ワーク(3)との対向面に、撥水性を有する材質で形成されたコーティング層が設けられており、前記コーティング層が、フッ素樹脂、シリコン樹脂、乳剤、レジスト、或いはアクリル樹脂で形成されていること」に訂正する。

イ 訂正事項2
請求項2を削除する。

ウ 訂正事項3
請求項3に係る「前記突起部(15)の先端部(15’)が円弧状に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の配列用マスク。」を、「前記突起部(15)の先端部(15’)が円弧状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の配列用マスク。」に訂正する。

エ 訂正事項4
請求項4に係る「前記突起部(15)は、下方に向かって先窄まりとなるテーパー状、或いは下方に向かって先拡がりとなるテーパー状に形成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の配列用マスク。」を、「前記突起部(15)は、下方に向かって先窄まりとなるテーパー状、或いは下方に向かって先拡がりとなるテーパー状に形成されていることを特徴とする請求項1または3に記載の配列用マスク。」に訂正する。

オ 訂正事項5
明細書の【0006】の「少なくともマスク本体10下面に、コーティング層50が形成されていることを特徴とする。」を、「少なくともマスク本体10下面に、コーティング層50が形成されており、コーティング層が、フッ素樹脂、シリコン樹脂、乳剤、レジスト、或いはアクリル樹脂で形成されていることを特徴とする。」に訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否及び独立特許要件について
ア 訂正事項1
(ア)訂正の目的
訂正事項1は、請求項1において、「コーティング層が、フッ素樹脂、シリコン樹脂、乳剤、レジスト、或いはアクリル樹脂で形成されていること」とし、コーティング層について限定するものであり、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
a 願書に添付した明細書には、以下のように記載されている。(当審注:下線は当審が付与した。以下同じ。)
「【0018】
また、本マスク1においては、図2、図4、図6に示すように、マスク本体10下面や通孔12内面にコーティング層50を設けている。コーティング層50としては、撥水性を有するものが好ましく、その材質としては、フッ素樹脂、シリコン樹脂、乳剤、レジスト(液状)などがある。」

「【0040】
また、図13(c)に示すように、コーティング層70を形成する材質のみで突起部15を形成することもできる。・・・このように、コーティング層70は、フッ素樹脂、シリコン樹脂、アクリル樹脂などといった材質を主成分として形成されている。そして、係る材質を主成分として突起部15を構成することが可能である。」

b 前記aによれば、コーティング層の材質として、フッ素樹脂、シリコン樹脂、乳剤、レジスト(液状)、アクリル樹脂が記載されているといえる。

c したがって、訂正事項1は、「コーティング層」を下位概念化する訂正であって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるといえるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。

d 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、そのカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項において準用する同法126第6項の規定に適合する。

(ウ)特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件特許異議の申立てにおいては、本件訂正前の請求項1〜2に係る発明の特許に対して特許異議の申立てがされているので、訂正事項1については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

イ 訂正事項2
(ア)訂正の目的
訂正事項2は、請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2は、請求項2を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。

(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、請求項2を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項において準用する同法126第6項の規定に適合する。

(エ)特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件特許異議の申立てにおいては、本件訂正前の請求項1〜2に係る発明の特許に対して特許異議の申立てがされているので、訂正事項2については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

ウ 訂正事項3
(ア)訂正の目的
訂正事項3は、訂正事項2により請求項2を削除したことに伴い、請求項3が引用する請求項を請求項1または2から請求項1に訂正するものであり、多数項を引用している請求項の引用請求項数の削減に該当するから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3は、多数項を引用している請求項の引用請求項数を削減するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。

(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項3は、多数項を引用している請求項の引用請求項数を削減するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項において準用する同法126第6項の規定に適合する。

(エ)特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件特許異議の申立てにおいて、本件訂正前の請求項3に対して特許異議の申立てはされておらず、前記(ア)のとおり、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるので、訂正事項3による本件訂正後の請求項3については、前記特許法第126条第7項の規定が適用される。
そこで、本件訂正後の請求項3に係る発明が前記特許法第126条第7項の規定に適合するか否かについて検討すると、後記「3 訂正後の本件発明」から「6 むすび」で述べるとおり、本件訂正後の請求項3が引用する本件訂正後の請求項1に係る特許を取り消すべき理由は発見されず、また、他に本件訂正後の請求項3に係る特許を取り消すべき理由も発見しないから、本件訂正後の請求項3に係る発明が、独立して特許を受けることができるものであることは明らかである。
したがって、本件訂正後の請求項3に係る発明は、前記特許法第126条第7項の規定に適合する。

エ 訂正事項4
(ア)訂正の目的
訂正事項4は、訂正事項2により請求項2を削除したことに伴い、請求項4が引用する請求項を請求項1ないし3から請求項1または3に訂正するものであり、多数項を引用している請求項の引用請求項数の削減に該当するから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項4は、多数項を引用している請求項の引用請求項数を削減するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。

(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項4は、多数項を引用している請求項の引用請求項数を削減するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項において準用する同法126第6項の規定に適合する。

(エ)特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件特許異議の申立てにおいて、本件訂正前の請求項4に対して特許異議の申立てはされておらず、前記(ア)のとおり、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるので、訂正事項4による本件訂正後の請求項4については、前記特許法第126条第7項の規定が適用される。
そこで、本件訂正後の請求項4に係る発明が前記特許法第126条第7項の規定に適合するか否かについて検討すると、後記「3 訂正後の本件発明」から「6 むすび」で述べるとおり、本件訂正後の請求項4が引用する本件訂正後の請求項1に係る特許を取り消すべき理由は発見されず、また、他に本件訂正後の請求項4に係る特許を取り消すべき理由も発見しないから、本件訂正後の請求項4に係る発明が、独立して特許を受けることができるものであることは明らかである。
したがって、本件訂正後の請求項4に係る発明は、前記特許法第126条第7項の規定に適合する。

オ 訂正事項5
(ア)訂正の目的
訂正事項5は、明細書の記載を、訂正事項1により訂正された本件特許の請求項1の記載と整合させるためのものであるから、訂正事項5に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項5に係る訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。

(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項5に係る訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項において準用する同法126第6項の規定に適合する。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項〜6項、及び、同条第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に適合する。
したがって、明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−4〕について訂正することを認める。

3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1〜4に係る発明(以下、順に「本件発明1」〜「本件発明4」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
所定の配列パターンに対応した通孔(12)内に半田ボール(2)を振り込むことで、ワーク(3)上の所定位置に前記半田ボール(2)を搭載する配列用マスクであって、
前記通孔(12)が多数形成されたマスク本体(10)と、該マスク本体(10)の前記ワーク(3)との対向面側に設けられた突起部(15)とを備え、
少なくとも前記マスク本体(10)のスキージ面および前記ワーク(3)との対向面に、撥水性を有する材質で形成されたコーティング層が設けられており、
前記コーティング層が、フッ素樹脂、シリコン樹脂、乳剤、レジスト、或いはアクリル樹脂で形成されていることを特徴とする配列用マスク。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記突起部(15)の先端部(15’)が円弧状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の配列用マスク。
【請求項4】
前記突起部(15)は、下方に向かって先窄まりとなるテーパー状、或いは下方に向かって先拡がりとなるテーパー状に形成されていることを特徴とする請求項1または3に記載の配列用マスク。」

4 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
訂正前の請求項1〜2に係る特許に対して、当審が令和5年3月7日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
理由1 (拡大先願)請求項1〜2に係る発明は、本件特許出願の優先日前の特許出願であって、本件特許出願後に出願公開公報の発行がされた特許出願(特願2013−249178号(出願:平成25年12月2日、出願公開:平成27年6月8日、出願人:太陽化学工業株式会社、発明者:澁澤邦彦、以下「先願」という。)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(甲第1号証:特開2015−106680号公報)に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者が本件特許出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許出願の優先日の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないから、請求項1〜2に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

(2)甲第1号証の記載及び甲1発明
ア 甲第1号証の記載
(ア)甲第1号証には次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、電気接続部材搭載用マスク及びその製造方法並びに該電気接続部材搭載用マスクを使用した電気接続部材搭載方法に関し、詳しくは、非晶質炭素膜を有する電気接続部材搭載用マスク及びその製造方法に関する。
・・・
【発明を実施するための形態】
・・・
【0023】
図1は、本発明の一実施形態に係るマスク10を模式的に表す模式図であり、 図2はマスク10をワークWに位置決めした状態の断面図である。なお、図1及び図2は、本発明の一実施形態におけるマスク10の構成を模式的に表すものであり、その寸法は必ずしも正確に図示されていない点に留意されたい。一実施形態におけるマスク10は、図示するように、アルミニウムやスチール材料よりなる枠体12と、枠体12に張られたメッシュ14と、メッシュ14にて支持され枠体12の概ね中央部に配置される基材16と、基材16に形成された複数の貫通孔18と、基材16の表面に形成された非晶質炭素膜20と、を備えている。一実施形態に係る基材16の構造としては、枠体12に貫通口や凹凸パターンの形成された板や箔を固定したもの、パターンの形成された箔または板状の基材16を直接印刷機やボール搭載機(球状はんだ接合材料搭載機)という機械にチャッキングしたもの、またはテンプレート状のもので位置決めピンなどを介して人が操作するもの、などとすることができるがこれらに限定されることはない。
・・・
【0026】
一実施形態の基材16は、被搭載体としてのワークWと対向する第1の面16Aと、第1の面16Aと対向する第2の面16Bを有しており、第2の面16B上に非晶質炭素膜20が形成されている。一実施形態の基材16には、第1の面16A及び第2の面16Bに開口する貫通孔18が複数設けられている。
・・・
【0034】
一実施形態の複数の貫通孔18は、ワークWの所望の位置に球状はんだ接合材料である電気接続部材Bを搭載可能なパターンで形成されている。一実施形態では、基材16の厚みが30μm〜40μmである場合、直径50μm前後の微細な貫通孔18を20μm程度のリブを介して(残して)狭隣接で配列される。そのため1つの基材16には、数万個〜数十万個、場合によっては百万個を超える貫通孔18からなる微細開口パターンが形成され得る。一実施形態では、このような微細開口パターンを有する基材16は、UV光などの光線にて感光するレジストなどでパターニングした(フォトリソグラフィー法など)母型に、メッキ法にて板や箔を析出させる方法で形成する。
・・・
【0038】
一実施形態に係る非晶質炭素膜20は、DLCといわれる硬度の高いもののみではなく、ポリマー状のものなどとすることができる。一実施形態に係る非晶質炭素膜20は、水素を含みプラズマCVD法で形成されるものがより望ましい。CVD法に形成される水素を含む非晶質炭素膜はPVD法に比べドロップレットなどが抑制され、表面が非常に平滑な被膜とすることがでる。
・・・
【0040】
・・・そのため、非晶質炭素膜20がマスク10の表層に厚付けされると、マスク10の表層をボールやスキージ、特に樹脂性のスキージなどの摺動体が摺動する際に発生する静電気を、マスク10の枠体12を構成する金属材料などを通じて除去することができなくなる場合がある。・・・
・・・
【0043】
一実施形態に係る非晶質炭素膜20は、ケイ素(Si)を含有する非晶質炭素膜(a−C:H:Si膜)とすることができる。この場合、Siの含有量は、例えば、0.1〜50原子%であり、好ましくは、10〜40原子%である。このような非晶質炭素膜20をプラズマCVD法を用いて形成する場合には、原料となる反応ガスとしては、例えば、テトラメチルシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、及びテトラメチルシクロテトラシロキサン等を用いることができる。
・・・
【0045】
一実施の形態の非晶質炭素膜20は、後述するフッ素含有シランカップリング剤からなる撥水撥油層を所望の位置に定着性良く保持できるように、SiやTiに加えて、又は、SiやTiに代えて、様々な元素を含有させることができる。例えば一実施形態において、Siを含む非晶質炭素膜表層に各種カップリング剤と共有結合や水素結合を行う為の官能基や極性を付与する場合に於いてSiを含む非晶質炭素膜20に酸素を含有させる場合、Siを含む非晶質炭素膜20のOの含有量は、Siを含む主原料ガスと酸素との総流量に占める酸素の流量割合を調整することによって変更される。主原料ガスと酸素との総流量に占める酸素の流量割合は、例えば0.01〜12%、好ましくは0.5〜10%となるように調整される。
・・・
【0053】
・・・一実施形態では、フラックスの付着が問題となる部分に、フラックスとの濡れ性の悪い撥水、撥油機能を備えた非晶質炭素膜20が形成されうる。・・・
・・・
【0056】
一実施形態の非晶質炭素膜20は、基材16の第1の面16Aに形成されうる。非晶質炭素膜20は、内部圧縮応力が大きいため、厚さ数十μm程度から存在する非常に薄い基材16の片面のみに形成されると、基材16に応力反りが発生し易い。そのため基材16の両面に非晶質炭素膜20を形成することが好ましい場合がある。一実施形態では、第1の面16Aと、第1の面16Aに設けられ非晶質炭素膜20との間にメッキ母型成分より成る薄膜層を備えうる。
【0057】
一実施形態では、予備フラックスの印刷塗布の工程で生じるフラックスが基材16の第1の面16Aに形成した非晶質炭素膜20に付着することを抑制するために、第1の面16AとワークWとの間に所定の間隔をあけるスペーサDをさらに備える。一実施形態でのスペーサDは、第1の面16Aに設けられた支持用突起である。
【0058】
一実施形態の第1の面16Aに形成される非晶質炭素膜20は、撥油性材料を含む非晶質炭素膜である。一実施形態の第1の面16Aの非晶質炭素膜20は、撥油性材料が表面に露出している。撥油性材料は、フッ素含有カップリング剤からなり、フラックスとの親和性が低く、フラックスが付着しても濡れが広がらず、簡単に除去することができる。そのため予備フラックスをワークWに印刷塗布する前処理においても、撥油性材料が表面に露出していると、フラックスが付着しにくく、また簡単に付着したフラックスを除去することができる。前述したように、一実施形態におけるSiやTiを含む非晶質炭素膜20は、一般に脱水縮合反応により化学結合で固定されるフッ素を含むカップリング剤との接着性が高いため、フッ素を含有するカップリング剤を確実に保持することができる。そのため、一実施形態の撥油性材料は、フッ素を含有する。なお撥油性材料は、前述のように非晶質炭素膜に強固に固定されているものが望ましいが、SiOXやTiOXなど、他の薄膜や、液体状の密着用プライマー層を介したもの、基材と物理結合するものでもよい。」

「【図2】



(イ)甲第1号証の記載事項
a 前記(ア)の【0001】には、「本発明は、電気接続部材搭載用マスク及びその製造方法並びに該電気接続部材搭載用マスクを使用した電気接続部材搭載方法に関し、詳しくは、非晶質炭素膜を有する電気接続部材搭載用マスク及びその製造方法に関する。」と記載されているから、甲第1号証の記載は、「電気接続部材搭載用マスク」に関するといえる。

b 同【0023】には、「図1は、本発明の一実施形態に係るマスク10を模式的に表す模式図であり」と記載されているから、「マスク10」は、「電気接続部材搭載用マスク」の一実施形態に係るといえる。

c 同【0023】には、「一実施形態におけるマスク10は、図示するように、アルミニウムやスチール材料よりなる枠体12と、枠体12に張られたメッシュ14と、メッシュ14にて支持され枠体12の概ね中央部に配置される基材16と、基材16に形成された複数の貫通孔18と、基材16の表面に形成された非晶質炭素膜20と、を備えている。」と記載され、前記bによれば、「マスク10」は、「電気接続部材搭載用マスク」の一実施形態であるから、「電気接続部材搭載用マスク」は、「基材16」と、「基材16」に形成された複数の「貫通孔18」と、「基材16」の表面に形成された「非晶質炭素膜20」とを備えるといえる。

d 同【0026】には、「一実施形態の基材16は、被搭載体としてのワークWと対向する第1の面16Aと、第1の面16Aと対向する第2の面16Bを有しており、第2の面16B上に非晶質炭素膜20が形成されている。」と記載されているから、「電気接続部材搭載用マスク」の「基材16」は、被搭載体としてのワークWと対向する「第1の面16A」と、「第1の面16A」と対向する「第2の面16B」を有し、「非晶質炭素膜20」は、「第2の面16B」に形成されるといえる。

e 同【0034】には、「一実施形態の複数の貫通孔18は、ワークWの所望の位置に球状はんだ接合材料である電気接続部材Bを搭載可能なパターンで形成されている。」と記載されているから、「電気接続部材搭載用マスク」の「貫通孔18」は、ワークWの所望の位置に球状はんだ接合材料である電気接続部材Bを搭載可能なパターンで形成されているといえる。

f 同【0053】には、「一実施形態では、フラックスの付着が問題となる部分に、フラックスとの濡れ性の悪い撥水、撥油機能を備えた非晶質炭素膜20が形成されうる。」と記載されている。ここで、同【0045】の「一実施の形態の非晶質炭素膜20は、後述するフッ素含有シランカップリング剤からなる撥水撥油層を所望の位置に定着性良く保持できるように、SiやTiに加えて、又は、SiやTiに代えて、様々な元素を含有させることができる。例えば一実施形態において、Siを含む非晶質炭素膜表層に各種カップリング剤と共有結合や水素結合を行う為の官能基や極性を付与する」こと、同【0058】の「一実施形態の第1の面16Aに形成される非晶質炭素膜20は、撥油性材料を含む非晶質炭素膜である。一実施形態の第1の面16Aの非晶質炭素膜20は、撥油性材料が表面に露出している。」、及び、「前述したように、一実施形態におけるSiやTiを含む非晶質炭素膜20は、一般に脱水縮合反応により化学結合で固定されるフッ素を含むカップリング剤との接着性が高いため、フッ素を含有するカップリング剤を確実に保持することができる。そのため、一実施形態の撥油性材料は、フッ素を含有する。なお撥油性材料は、前述のように非晶質炭素膜に強固に固定されているものが望ましい」の記載によれば、前記「フラックスとの濡れ性の悪い撥水、撥油機能」は、非晶質炭素膜20の上に形成された「フッ素含有シランカップリング剤からなる撥水撥油層」によりもたらされるから、「電気接続部材搭載用マスク」は、非晶質炭素膜20上に形成された、フラックスとの濡れ性の悪い撥水、撥油機能を有する撥水撥油層を備えるものであるといえる。

g 同【0056】には、「一実施形態の非晶質炭素膜20は、基材16の第1の面16Aに形成されうる。」、及び、「そのため基材16の両面に非晶質炭素膜20を形成することが好ましい場合がある。」と記載され、更に、前記dによれば、「非晶質炭素膜20」は、「第2の面16B」に形成されているから、「電気接続部材搭載用マスク」の「非晶質炭素膜20」は、「第1の面16A」及び「第2の面16B」に形成されるといえる。

h 同【0040】には、「マスク10の表層をボールやスキージ、特に樹脂性のスキージなどの摺動体が摺動する」と記載されているから、「マスク10」の表層は、スキージが摺動する面である。
また、同【図2】から、「マスク10」の表層に「第2の面16B」が形成されることが見てとれる。
更に、前記bによれば、「マスク10」は、「電気接続部材搭載用マスク」の一実施形態であるといえる。
以上によれば、「電気接続部材搭載用マスク」の「第2の面16B」は、スキージが摺動する面である。

i 同【0057】には、「一実施形態では、予備フラックスの印刷塗布の工程で生じるフラックスが基材16の第1の面16Aに形成した非晶質炭素膜20に付着することを抑制するために、第1の面16AとワークWとの間に所定の間隔をあけるスペーサDをさらに備える。一実施形態でのスペーサDは、第1の面16Aに設けられた支持用突起である。」と記載されているから、「電気接続部材搭載用マスク」の「第1の面16A」には、「支持用突起」が形成されているといえる。

(ウ)甲第1号証に記載された発明
前記(イ)の記載事項から、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「基材16と、
前記基材16に形成された複数の貫通孔18と、
前記基材16の表面に形成された非晶質炭素膜20と、
前記非晶質炭素膜20上に形成された、フラックスとの濡れ性の悪い撥水、撥油機能を有する撥水撥油層とを備え、
前記基材16は、被搭載体としてのワークWと対向する第1の面16Aと、前記第1の面16Aと対向する第2の面16Bを有し、
前記貫通孔18は、前記ワークWの所望の位置に球状はんだ接合材料である電気接続部材Bを搭載可能なパターンで形成され、
前記非晶質炭素膜20は、前記第1の面16A及び前記第2の面16Bに形成され、
前記第2の面16Bは、スキージが摺動する面であり、
前記第1の面16Aには、支持用突起が形成されている、
電気接続部材搭載用マスク。」

(3)対比
ア 甲1発明の「ワークW」は、本件発明1の「ワーク(3)」に相当する。
また、甲1発明の「電気接続部材B」は、「ワークW」の所望の位置に搭載されるものであって、球状はんだ接合材料であるから、本件発明1の「半田ボール(2)」に相当する。
さらに、甲1発明の「貫通孔18」は、「電気接続部材B」を「ワークW」の所望の位置に搭載可能なパターンで形成されるものであるから、本件発明1の「通孔(12)」に相当する。
以上によれば、本件発明1と甲1発明とは、「所定の配列パターンに対応した通孔(12)内に半田ボール(2)を振り込むことで、ワーク(3)上の所定位置に前記半田ボール(2)を搭載する」点で共通する。

イ 甲1発明の「基材16」は、複数の「貫通孔18」が形成されるものであるから、本件発明1の「マスク本体(10)」に相当する。
また、甲1発明の「基材16」の「第1の面16A」は、「ワークW」と対向する面であるから、本件発明1の「該マスク本体(10)の前記ワーク(3)との対向面」に相当する。
そして、甲1発明の「支持用突起」は、「第1の面16A」に形成されているから、本件発明1の「突起部(15)」に相当する。
以上によれば、本件発明1と甲1発明とは、「前記通孔(12)が多数形成されたマスク本体(10)と、該マスク本体(10)の前記ワーク(3)との対向面側に設けられた突起部(15)とを備え」る点で共通する。

ウ 甲1発明の「基材16」の「第2の面16B」は、スキージが摺動する面であるから、本件発明1の「前記マスク本体(10)のスキージ面」に相当する。
また、前記イによれば、甲1発明の「第1の面16A」は、「ワークW」と対向する面であるから、本件発明1の「ワーク(3)との対向面」に相当する。
さらに、甲1発明の「前記非晶質炭素膜20上に形成された、フラックスとの濡れ性の悪い撥水、撥油機能を有する撥水撥油層」は、「第1の面16A」及び「第2の面16B」に、「非晶質炭素膜20」を介して形成され、撥水性を有するから、本件発明1の「撥水性を有する材質で形成されたコーティング層」に相当する。
そして、甲1発明は、「フラックスとの濡れ性の悪い撥水、撥油機能を有する撥水撥油層」が、「基材16」の「第1の面16A」側と、「第2の面16B」側とにそれぞれ形成されているから、「基材16」の「第2の面16B」側、及び、「第1の面16A」との対向面側に「フラックスとの濡れ性の悪い撥水、撥油機能を有する撥水撥油層」が設けられているといえる。
以上によれば、本件発明1と甲1発明とは、「少なくとも前記マスク本体(10)のスキージ面」側、及び、「前記ワーク(3)」との対向面側に、「撥水性を有する材質で形成されたコーティング層が設けられている」点で共通する。

エ 甲1発明の「電気接続部材搭載用マスク」は、本件発明1の「配列用マスク」に相当する。

オ 前記ア〜エによれば、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「所定の配列パターンに対応した通孔(12)内に半田ボール(2)を振り込むことで、ワーク(3)上の所定位置に前記半田ボール(2)を搭載する配列用マスクであって、
前記通孔(12)が多数形成されたマスク本体(10)と、該マスク本体(10)の前記ワーク(3)との対向面側に設けられた突起部(15)とを備え、
少なくとも前記マスク本体(10)のスキージ面側および前記ワーク(3)との対向面側に、撥水性を有する材質で形成されたコーティング層が設けられていることを特徴とする配列用マスク。」

<相違点>
(相違点1)
本件発明1は、「少なくとも前記マスク本体(10)のスキージ面および前記ワーク(3)との対向面に、撥水性を有する材質で形成されたコーティング層が設けられ」ているのに対して、甲1発明は、「フラックスとの濡れ性の悪い撥水、撥油機能を有する撥水撥油層」が、「第1の面16A」及び「第2の面16B」に形成された非晶質炭素膜20上に形成されている点。

(相違点2)
本件発明1は、「前記コーティング層が、フッ素樹脂、シリコン樹脂、乳剤、レジスト、或いはアクリル樹脂で形成されている」のに対して、甲1発明はこの点について特定されていない点。

(4) 判断
ア 相違点1について
甲1発明の「フラックスとの濡れ性の悪い撥水、撥油機能を有する撥水撥油層」は、「第1の面16A」及び「第2の面16B」に形成された非晶質炭素膜20上に形成されるものであり、「第1の面16A」及び「第2の面16B」に設けられるものではなく、また、「第1の面16A」及び「第2の面16B」に「フラックスとの濡れ性の悪い撥水、撥油機能を有する撥水撥油層」を設けることは、本件特許出願の優先日前において、周知・慣用技術であるとはいえない。
したがって、相違点1は実質的なものである。

イ 申立人角田の意見書について
申立人角田は、令和5年7月31日に提出した意見書(第2頁第10〜13行)において、甲1発明の「非晶質炭素膜20」は、撥水性を有し、「第1の面16A」及び「第2の面16B」に形成されるものであるから、本件発明1の「撥水性を有する材質で形成されたコーティング層」に相当する旨主張している。
しかし、前記アのとおり、甲1発明の「フラックスとの濡れ性の悪い撥水、撥油機能を有する撥水撥油層」は、「第1の面16A」及び「第2の面16B」の「非晶質炭素膜20」上に形成されるものであり、甲1発明の「非晶質炭素膜20」そのものは、フラックスとの濡れ性の悪い撥水、撥油機能を有するものではないから、甲1発明の「非晶質炭素膜20」は、本件発明1の「撥水性を有する材質で形成されたコーティング層」に相当するものではない。
よって、申立人角田の主張は採用できない。

ウ 判断のまとめ
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1と甲1発明とが実質的に同一であるということはできない。

5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由1(進歩性
本件請求項1、2に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証〜甲第6号証に記載された周知技術に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1、2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

[証拠方法]
甲第2号証:特開2008−4775号公報
甲第3号証:特開2006−205563号公報
甲第4号証:特開2007−196562号公報
甲第5号証:特開2008−177264号公報
甲第6号証:特開2008−205169号公報

なお、本件訂正により請求項2は削除されたから、以下では、本件発明2については判断しない。

(2)甲号証の記載、甲号証に記載された発明等
ア 甲第2号証の記載
(ア)甲第2号証(特開2008−4775号公報)には、以下の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、微小ボールを基板の所定の位置に配置するためのボール搭載装置およびその制御方法に関するものである。
・・・
【0018】
したがって、ヘッドは、マスクに面した側が開口端となった中空のボール保持部を含むものであることが好ましい。このようなヘッドを用いる場合、開口端が吸着部を含むようにするとよい。このヘッドによれば、内部に微小ボールの集団を保持することができる。したがって、比較的少ない数の微小ボールであっても、ヘッドが通過する部分(微小ボールが振り込まれる部分)のボール密度を局所的に高くすることができる。このため、ヘッドが通過する部分のマスクの孔に対し、効率良く微小ボールを充填することができる。なお、ボール保持部には、開口端あるいはその近傍に、マスクの上において微小ボールを掃くためのスキージのような部材を設けることも可能である。
・・・
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明の一実施形態に係るボール搭載装置は、微小ボールが充填される複数の孔を備えた磁性体または磁性体を含む材料からなるマスクであって、基板側の面に凸部が形成されたような既存のマスクを用いるものである。本発明の他の実施形態に係るボール搭載装置は、平板状のマスクが基板に密着するように、吸着部と基板の一方の面(上面)との間隔を設定するものである。
・・・
【0045】
本例のボール搭載装置(マイクロボールマウンタ)1は、基板(ワークピース)100の上面100aの所定の位置に、微小ボールBを実装(搭載)するためのものである。微小ボールBは、電極として機能する導電性のボールである。微小ボールBとしては、たとえば、直径が1mm以下、具体的には、直径30〜300μm程度の半田ボール(銀(Ag)や銅(Cu)などを含む、主成分が錫(Sn)からなるボール)、金あるいは銅からなる金属製ボール、あるいは、プラスチック製のボールにメッキなどの処理が施された導電性ボールを挙げることができる。本例では、微小ボールBとして、90μm程度の半田ボールを用いている。
【0046】
本例に示す基板100は、8インチまたは12インチ程度の平面円形状の半導体ウエハである。半導体ウエハ100には、半田ボールBの搭載に先立ち、電極となる領域101の上にフラックス102が塗布されている。本例では、厚さが30μm程度、直径が90μmとなるように、ウエハ100の電極となる領域101の上にフラックス102が塗布されている。
【0047】
ボール搭載装置1は、吸引などの方法により基板100の下面(裏面)100bを吸着して基板100を水平な状態で支持するステージ10と、基板100の上面100aに導電性ボールBを搭載するためのマスク20と、マスク20の上で導電性ボールBを移動させるためのヘッド30と、ヘッド30を移動させるためのヘッド移動装置40と、マスク20の孔に充填された導電性ボールBを基板100に向けて押圧するためのプレスヘッド50と、プレスヘッド50を移動させるためのプレスヘッド移動装置60と、ヘッド移動装置40およびプレスヘッド移動装置60を制御する制御ユニット70とを備えている。
・・・
【0053】
このマスク20は、平坦な上面20aおよび下面20bを有する平板状に形成されている。なお、マスク20は、一層構造に限らず、多層構造であっても良い。例えば、ヘッド30と接触するマスク20の上面20aを含フッ素樹脂などの低摩擦の薄膜素材によりコーティングすることにより、ヘッド30がマスク20に磁力により吸着している状態であっても、ヘッド30を良好に移動させることができる。
【0054】
このマスク20は、基板100の所定の位置に導電性ボールBを配置するため、導電性ボールBのほぼ貫通する程度の直径で、導電性ボールBが充填される複数の孔21を備えている。複数の孔21は、繰り返しのあるデザイン(所定のパターン)で形成されることが多く、マスク孔、開口、開孔、パターン孔などとも称されている。また、これら孔21をまとめて、開口パターンなどと称することもある。直径90μm程度の半田ボールBをウエハ100に搭載するためのマスク20の一例は、マスク厚が50μ程度、孔21の直径がそれぞれ100μm程度である。このマスク20は、ある程度の張力(テンション)が与えられた状態で、マスク枠22に固定されている。
【0055】
マスク20の上面20aの上に導電性ボールBを供給するためのヘッド30は、マスク20に面した下側に開口端31を有する中空のボール保持部32を備えている。ボール保持部32は、鉄などの磁性体を主成分とする金属製であり、上側が閉塞された有底円筒状に形成されている。マスク20と同様に、フェライト系ステンレススチールは、ボール保持部32を形成するのに適した材料の一例である。
・・・
【0103】
さらに他の実施形態のボール搭載装置は、マスク20の下面20bに所定のパターンで凸部を形成したマスク20にフラックスを付着させたくないなどの理由により、マスク20と基板100との間に隙間を設けたものである。この実施形態に係るボール搭載装置においては、マスク20と基板100との間にボールBが迷い込まない程度の隙間が設けられるように制御される。さらに、マスク20から微小ボールBがほとんど突出しないように、ヘッド30の吸着部34と基板100との間隔Sが制御される。」

「【図3】



(イ)甲第2号証の記載事項
a 前記(ア)の【0001】によれば、甲第2号証の記載は、微小ボールを基板の所定の位置に配置するための「ボール搭載装置」に関するものである。

b 同【0045】には、「本例のボール搭載装置(マイクロボールマウンタ)1は、基板(ワークピース)100の上面100aの所定の位置に、微小ボールBを実装(搭載)するためのものである。微小ボールBは、電極として機能する導電性のボールである。微小ボールBとしては、たとえば、直径が1mm以下、具体的には、直径30〜300μm程度の半田ボール(銀(Ag)や銅(Cu)などを含む、主成分が錫(Sn)からなるボール)、金あるいは銅からなる金属製ボール、あるいは、プラスチック製のボールにメッキなどの処理が施された導電性ボールを挙げることができる。本例では、微小ボールBとして、90μm程度の半田ボールを用いている。」と記載されているから、「ボール搭載装置1」は、基板100の上面100aの所定の位置に、微小ボールBを搭載するためのものであり、微小ボールBとして、半田ボールを用いるものであるといえる。

c 同【0047】には、「ボール搭載装置1は、吸引などの方法により基板100の下面(裏面)100bを吸着して基板100を水平な状態で支持するステージ10と、基板100の上面100aに導電性ボールBを搭載するためのマスク20と、マスク20の上で導電性ボールBを移動させるためのヘッド30と、ヘッド30を移動させるためのヘッド移動装置40と、マスク20の孔に充填された導電性ボールBを基板100に向けて押圧するためのプレスヘッド50と、プレスヘッド50を移動させるためのプレスヘッド移動装置60と、ヘッド移動装置40およびプレスヘッド移動装置60を制御する制御ユニット70とを備えている。」と記載されているから、「ボール搭載装置1」は、「基板100の上面100aに導電性ボールBを搭載するためのマスク20」と、「マスク20の上で導電性ボールBを移動させるためのヘッド30」と、「マスク20の孔に充填された導電性ボールBを基板100に向けて押圧するためのプレスヘッド50」と、を備えるものである。
さらに、「プレスヘッド50」は、「マスク20の孔に充填された導電性ボールBを基板100に向けて押圧する」ものであるから、「導電性ボールB」は、「マスク20の孔に充填され」るものである。

d 同【0055】には、「マスク20の上面20aの上に導電性ボールBを供給するためのヘッド30は、マスク20に面した下側に開口端31を有する中空のボール保持部32を備えている。」との記載があり、さらに、同【0018】には、「このヘッドによれば、内部に微小ボールの集団を保持することができる。したがって、比較的少ない数の微小ボールであっても、ヘッドが通過する部分(微小ボールが振り込まれる部分)のボール密度を局所的に高くすることができる。このため、ヘッドが通過する部分のマスクの孔に対し、効率良く微小ボールを充填することができる。なお、ボール保持部には、開口端あるいはその近傍に、マスクの上において微小ボールを掃くためのスキージのような部材を設けることも可能である。」と記載されているから、「ボール搭載装置1」の「ヘッド30」は、「ボール保持部32」を備え、微小ボールが振り込まれる部分のマスク20の孔に対し、微小ボールを充填するものであり、また、「ボール保持部32」には、「マスク20の上面20a」の上において微小ボールを掃くためのスキージのような部材が設けられるものであるといえる。
そして、「ヘッド30」を用いて、「マスク20の上面20a」の上において掃かれる「微小ボール」は、マスク20の孔に充填されるものであるところ、前記cによれば、「ヘッド30」により、マスク20の上で移動させられる「導電性ボールB」は、「マスク20の孔に充填され」るものであるから、「微小ボール」は、「導電性ボールB」であるといえる。
以上によれば、「マスク20の上面20a」は、「導電性ボールB」を掃くためのスキージのような部材が掃く面であり、「導電性ボールB」は、マスク20の孔21に対して振り込まれるといえる。

e 前記bによれば、「ボール搭載装置1」は、基板100の上面100aの所定の位置に、微小ボールBを搭載するためのものであり、微小ボールBとして、半田ボールを用いるものであるから、前記c及びdの「導電性ボールB」は、「半田ボール」であるといえる。

f 同【0053】には、「このマスク20は、平坦な上面20aおよび下面20bを有する平板状に形成されている。なお、マスク20は、一層構造に限らず、多層構造であっても良い。例えば、ヘッド30と接触するマスク20の上面20aを含フッ素樹脂などの低摩擦の薄膜素材によりコーティングすることにより、ヘッド30がマスク20に磁力により吸着している状態であっても、ヘッド30を良好に移動させることができる。」と記載されているから、「マスク20」は、平坦な上面20a及び下面20bを有する平板状に形成され、「上面20a」は、含フッ素樹脂などの低摩擦の薄膜素材によりなるコーティング層を有するといえる。

g 同【0054】には、「このマスク20は、基板100の所定の位置に導電性ボールBを配置するため、導電性ボールBのほぼ貫通する程度の直径で、導電性ボールBが充填される複数の孔21を備えている。複数の孔21は、繰り返しのあるデザイン(所定のパターン)で形成されることが多く、マスク孔、開口、開孔、パターン孔などとも称されている。」と記載されているから、「マスク20」は、基板100の所定の位置に導電性ボールBを配置するため、導電性ボールBが充填される複数の孔21を備えるものである。

h 同【0103】には、「ボール搭載装置は、マスク20の下面20bに所定のパターンで凸部を形成したマスク20にフラックスを付着させたくないなどの理由により、マスク20と基板100との間に隙間を設けたものである。」と記載されているから、「マスク20」の「下面20b」は、所定のパターンの凸部を有するといえる。

i 同【図3】から、「複数の孔21」は、平坦な上面20a及び下面20bを有する平板状に形成された部分に、所定のパターンで設けられ、「マスク20」の「下面20b」は、「基板100」と対向する面であることが見てとれる。

(ウ)甲第2号証に記載された発明
「マスク20」に関する前記c、前記e〜iの記載事項から、甲第2号証には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。
「基板100の上面100aに導電性ボールBを搭載するためのマスク20であって、
前記マスク20は、平坦な上面20a及び下面20bを有する平板状に形成され、前記基板100の所定の位置に前記導電性ボールBを配置するため、前記導電性ボールBが充填される複数の孔21を備え、
前記上面20aは、前記導電性ボールBを掃くためのスキージのような部材が掃く面であり、含フッ素樹脂などの低摩擦の薄膜素材によりなるコーティング層を有し、
前記下面20bは、基板100と対向する面であり、所定のパターンの凸部を有し、
前記複数の孔21は、平坦な上面20a及び下面20bを有する平板状に形成された部分に、所定のパターンで設けられ、
前記導電性ボールBは、半田ボールであり、マスク20の孔21に対して振り込まれる、
マスク20。」

イ 甲第3号証の記載
(ア)甲第3号証(特開2006−205563号公報)には、以下の記載がある。
「【0001】
本発明は、スクリーン印刷に使用する金属印刷版、特に珪酸処理を施した金属上にフッ素系材料を積層することを特徴とする金属印刷版に関するものである。
・・・
【0040】
図1は、本発明に係るフッ素系材料8を表面部および開口部に有した第1の実施例のメタルマスク1を示している。メタルマスク1は、図2に示すようなプリント基板3のパッド4に対応した所望の印刷パターンの開口部5を有し、実施の使用のためにコンビネーション化されてメタルマスク枠2に嵌め付けられている。
【0041】
なお、前記表面部と記述しているのは、金属印刷版において、印刷時にプリント基板などの被印刷物に接する面側、すなわち基板面側を示し、同様に印刷時に半田ペーストや金属ペーストといった各種印刷物をスキージにてスキージングする面側である、いわゆるスキージ面側を示すものである。よって、本発明は、開口部及び基板面側、開口部及びスキージ面側、開口部及び基板面側及びスキージ面側に必要に応じて実施すれば良いものである。
【0042】
フッ素系材料8は、撥水、撥油性に優れる。このため半田ペースト6を図2に示すようにスキージ7によって開口部5へ充填し、プリント基板3等の所望部分に印刷、塗布する際、メタルマスク1の開口部5に充填される半田ペースト6に対し、良好な離型性を発揮するので、メタルマスク1が図3に示すようにプリント基板3等から引き離される際に、メタルマスク1の開口部5に半田ペースト6が付着して残るのを防止し、メタルマスク1の開口部5に充填されながらその一部がプリント基板3等に印刷、塗布されないようなことを回避することができ、印刷不良やこれに起因する電子回路基板に品質低下が解消される。」

「【図2】



(イ)以上の記載から、甲第3号証には、次の技術的事項が記載されている。
「スクリーン印刷に使用するメタルマスクにおいて、撥水、撥油性に優れるフッ素系材料8を、メタルマスクの基板面側に設けること。」

ウ 甲第4号証の記載
(ア)甲第4号証(特開2007−196562号公報)には、以下の記載がある。
「【0001】
本発明は、メタルマスクのクリーニング機構を備えたクリームはんだ印刷機とメタルマスクのクリーニング方法に関するものである。
・・・
【0004】
このような問題に対処するものとして、従来実施例としてはクリームはんだ印刷作業を数回行った後に、クリーニングペーパー、溶剤及びバキュームクリーナーによって、プリント基板との接触面側であるメタルマスクの裏面(印刷面)をクリーニングする方法が知られている。
・・・
【0021】
図1は、クリームはんだを清掃用フィルムから取り去ろうとする作用力F1と、クリームはんだと清掃用フィルムの間に働く力を密着力F2の関係を表した模式図、図2はクリームはんだ印刷機の実施例を概略的に示す側面図、図3はプリント基板へのクリームはんだ印刷中の状態を示した側面図、図4はメタルマスククリーニング動作前の状態を示した側面図、図5はメタルマスククリーニング中の状態を示した側面図、図6はメタルマスククリーニング後の状態を示した側面図、図7は別途クリームはんだ印刷機の実施例を概略的に示す側面図、図8はメタルマスククリーニング中の状態を示した側面図、図9はメタルマスク開口部の詰まり状態を示すパターン図、図10は清掃用フィルムに印刷を行い、メタルマスククリーニングを行う状態の主要部拡大側面図、図11は清掃用フィルム粘着剤面にメタルマスク開口部を接触させ、メタルマスククリーニングを行う状態の主要部拡大側面図である。
図2から8において、このクリームはんだ印刷機は大きく分類して、印刷を行うためのマスク1、スキージブロック2、印刷テーブル3、クリーニング機構としての清掃部4で構成されている。
【0022】
これらを詳述すると、マスク1は、印刷パターンが描画された開口をもつメタルマスク5と、これを張って保持するメタルマスクフレーム6とで構成される。
・・・
【0041】
また、実施例1と2いずれにおいてもメタルマスク5の印刷面側に撥水撥油性の特殊コーティングを施したものを本発明と併用することで、メタルマスク開口部17に存在する残留ペースト16をより効果的に除去することができる。」

「【図3】




「【図9】



(イ)以上の記載から、甲第4号証には、次の技術的事項が記載されている。
「プリント基板へのクリームはんだ印刷に用いるマスク1において、印刷パターンが描画された開口をもつメタルマスク5と、メタルマスク5を張って保持するメタルマスクフレーム6とで構成され、メタルマスク5の印刷面側に撥水撥油性の特殊コーティングを施すこと。」

エ 甲第5号証の記載
(ア)甲第5号証(特開2008−177264号公報)には、以下の記載がある。
「【背景技術】
【0001】
本発明は、被配列体にボールを搭載するために用いられるボール振込み用マスク及びこれを用いたボール搭載装置に係わり、特に電子部品等の製造において微小なボールを高密度で搭載する場合に好適なボール振込み用マスク及びこれを用いたボール搭載装置に関する。
・・・
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について、その実施態様に係るボール振込み用マスク(以下マスクと称する場合がある。)及びボール搭載装置に基づいて説明する。
以下の実施態様では、図5に示すように、導電性ボールである半田ボールを、被配列体であるウエハー3に所定のパターンで形成された電極31に配列する場合を例にして説明する。ここで、ウエハー3は、シリコン、樹脂又はセラミックなど周知の導電性材料、非導電性材料又はそれらの積層体などを用いた円板状のものであり、多数の半導体チップ32が切出される。通常、多数の半導体チップ32を効率的に製造するため、ウエハー3の内部には多数のチップ32が規則的にかつ密接して配置される。各チップ32には電極31が所定パターンで形成されるため、電極31もウエハー3の表面上の所定の区域内に集合している。以下の説明では、電極31が集合したウエハー3の表面上の区域をボール搭載領域34と言う。また、電極31の上面には、粘着性を有するフラックス(図示せず)が所定の厚みで塗布されている。
なお、以下の実施態様では被配列体としてウエハー3を例として説明するが、本発明は実施態様に限定されることなく、被配列体としては樹脂基板、セラミックス基板等の電子部材若しくは当該基板等にボールを搭載する搭載装置の部材なども含まれる。また、被配列体に搭載するボールとして導電性ボールである半田ボール2を例として説明するが、本発明は実施態様に限定されることなく例えば銅ボールその他の金属製ボール、樹脂ボール若しくはセラミックスボールその他の導電性を有しないボール又は金属が表面に被覆されたボール等に適用することができる。
・・・
【0016】
1−3.マスク
マスク22について図2〜4を参照しつつ説明する。図2は、水平面内でウエハー3に位置決めされ、鉛直方向においてウエハー3の表面に当接された状態のマスク22を示す断面図、図3は本発明の一態様であるマスク22を底面側(マスク22のウエハー3との当接面側)から見た斜視図、図3は本発明の別の態様であるマスク42を底面側から見た斜視図である。なお、図3及び図4中において破線3aは、マスク22・42がウエハー3に位置決めされたときに対応するウエハー3の外周縁部を示している。
マスク22は、図2、3に示すように、平板状の基体部132と、基体部132の一面に形成された支持部133とを備えている。基体部132には、ウエハー3の電極31の配列パターンに対応し半田ボール2が挿通可能な貫通孔状の開口部131が形成されている。・・・
【0017】
支持部133は、ほぼ同一形状の凸状体としてマスク22のほぼ全面に形成してもよいが、マスク22の強度や装着性、また製造面を考慮すると、ウエハー3のボール搭載領域34内はウエハー3との当接面積の小さな突出部135とし、ボール搭載領域34の外は当接面積の大きな面状の周辺部136として形成するとよい。図3は円柱状の突出部135でマスク22を構成した例であるが、この突出部135の形状、大きさや配列位置については、突出部135自体にフラックスが付着しないよう、また基体部132が撓んでもフラックスが基体部132に付着しない程度におさまるよう、基体部132の厚さ、形成される開口部131の位置及び磁気吸引力等に基づいて設定するとよい。このように、マスク22はフラックスが付着しないような構造としているので、マスク取外し時に、マスク22がフラックスで引張られることはない。なお、突出部は、図4において符号435で示すように、枠状のものとして構成することもできる。」

「【図2】



(イ)以上の記載から、甲第5号証には、次の技術的事項が記載されている。
「被配列体にボールを搭載するために用いられるボール振込み用マスク22において、平板状の基体部132と、基体部132の一面に形成された支持部133とを備え、前記基体部132には、ウエハー3の電極31の配列パターンに対応し半田ボール2が挿通可能な貫通孔状の開口部131が形成され、前記支持部133によってフラックスが付着しないような構造とすること。」

オ 甲第6号証の記載
(ア)甲第6号証(特開2008−205169号公報)には、以下の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、BGAやCSPパッケージ等の表面実装型の半導体装置にマイクロボールを搭載するためのマイクロボールマウンタに関し、特に、マイクロボールを基板上の端子領域に落としこむための振込みマスクに関する。
・・・
【0022】
次に、マイクロボール搭載装置に用いられる振込みマスクについて説明する。図3(a)は、本実施例の振込みマスクの上面図、図3(b)はそのB−B線断面図、図4は、振込みマスクの裏面図である。振込みマスク200は、基板100の外形より1回り大きな矩形状の外形を有し、その長手方向は、約600mm、短手方向は、約550mmである。振込みマスク200は、図3(b)に示すように、例えば、ステンレス(SUS)またはニッケル合金等から成る金属層210とその下面に形成されたアクリル又はエポキシ等から成る樹脂層220の2層構造から構成される。金属層210の厚さは、約140ミクロン、樹脂層220の厚さは約60ミクロンである。金属層210は、振込みマスクに一定の強度すなわち張力を与える。樹脂層220は、基板の端子領域に形成されたフラックスやはんだペースト等が金属層210へ付着するのを防止する。ここで、振込みマスク200の厚さはマイクロボールの約1.1倍程度が好ましく、また、振込みマスク200の樹脂層220の厚さは、マイクロボールの横ずれを防止する観点から、マイクロボール270の約1/3程度が好ましい。図3の例の場合、振込みマスク200の厚さが約200ミクロン程度であることから、マイクロボールの径は約180ミクロン程度が好ましい。」

「【図3】



「【図5】



(イ)以上の記載から、甲第6号証には、次の技術的事項が記載されている。
「振込みマスク200において、
金属層210と、前記金属層210の下面に形成された樹脂層220の2層構造から構成され、
樹脂層220は、基板の端子領域に形成されたフラックスやはんだペースト等が金属層210へ付着するのを防止すること。」

(3)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)対比
a 甲2発明の「基板100」は、本件発明1の「ワーク(3)」に相当する。
また、甲2発明の「導電性ボールB」は、「半田ボール」であるから、本件発明1の「半田ボール(2)」に相当する。
さらに、甲2発明の「孔21」は、「基板100」の所定の位置に「導電性ボールB」を配置するためのものであり、「導電性ボールB」を「基板100」の所定の位置に配置可能なパターンで形成されているといえるから、本件発明1の「所定の配列パターンに対応した通孔(12)」に相当する。
また、甲2発明において、「基板100」の所定の位置に「導電性ボールB」を配置することは、本件発明1の「ワーク(3)上の所定位置に前記半田ボール(2)を搭載する」ことに相当する。
さらに、甲2発明の「導電性ボールB」は、「マスク20の孔21に対して振り込まれる」から、甲2発明の「孔21」に「導電性ボールB」を振り込むことは、本件発明1の「通孔(12)内に半田ボール(2)を振り込むこと」に相当する。
以上によれば、本件発明1と甲2発明とは、「所定の配列パターンに対応した通孔(12)内に半田ボール(2)を振り込むことで、ワーク(3)上の所定位置に前記半田ボール(2)を搭載する」点で共通する。

b 甲2発明の「平坦な上面20a及び下面20bを有する平板状に形成された」部分は、「複数の孔21」を備えており、「孔21」が多数形成されているといえるから、本件発明1の「前記通孔(12)が多数形成されたマスク本体(10)」に相当する。
また、甲2発明の「平坦な上面20a及び下面20bを有する平板状に形成された」部分の「下面20b」は、「基板100と対向する面」であるから、本件発明1の「該マスク本体(10)の前記ワーク(3)との対向面」に相当する。
さらに、甲2発明の「所定のパターンの凸部」は、「平坦な上面20a及び下面20bを有する平板状に形成された」部分の「下面20b」に設けられるから、本件発明1の「突起部(15)」に相当する。

c 甲2発明の「平坦な上面20a及び下面20bを有する平板状に形成された」部分の「上面20a」は、スキージのような部材が掃く面、すなわち、スキージ面であるといえるから、本件発明1の「前記マスク本体(10)のスキージ面」に相当する。
また、甲2発明の「コーティング層」は、「含フッ素樹脂などの低摩擦の薄膜素材によりなる」ものであり、「フッ素樹脂」で形成されているといえる。
ここで、本件特許の願書に添付した明細書【0018】には、「コーティング層50としては、撥水性を有するものが好ましく、その材質としては、フッ素樹脂、シリコン樹脂、乳剤、レジスト(液汁)などがある。」と記載されているから、本件特許の「コーティング層50」は、「フッ素樹脂」で形成されているものである。
よって、甲2発明の「含フッ素樹脂などの低摩擦の薄膜素材によりなるコーティング層」は、本件発明1の「撥水性を有する材質で形成されたコーティング層」に相当する。
さらに、甲2発明の「コーティング層」は、「フッ素樹脂」で形成されているといえるから、本件発明1の「前記コーティング層が、フッ素樹脂」で「形成されている」点で共通する。
以上によれば、本件発明1と甲2発明とは、「少なくとも前記マスク本体(10)のスキージ面」に、「撥水性を有する材質で形成されたコーティング層が設けられており、前記コーティング層が、フッ素樹脂、シリコン樹脂、乳剤、レジスト、或いはアクリル樹脂で形成されている」点で共通する。

d 甲2発明の「マスク20」は、本件発明1の「配列用マスク」に相当する。

e 前記aからdによれば、本件発明1と甲2発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「所定の配列パターンに対応した通孔(12)内に半田ボール(2)を振り込むことで、ワーク(3)上の所定位置に前記半田ボール(2)を搭載する配列用マスクであって、
前記通孔(12)が多数形成されたマスク本体(10)と、該マスク本体(10)の前記ワーク(3)との対向面側に設けられた突起部(15)とを備え、
少なくとも前記マスク本体(10)のスキージ面に、撥水性を有する材質で形成されたコーティング層が設けられており、
前記コーティング層が、フッ素樹脂で形成されている、配列用マスク。」

<相違点>
(相違点3)
本件発明1は、「少なくとも前記マスク本体(10)」の「前記ワーク(3)との対向面に、撥水性を有する材質で形成されたコーティング層が設けられて」いるのに対して、甲2発明は、そのような構成を備えていない点。

(イ) 判断
(a)相違点3について検討する。
甲第2号証の【0103】(前記(2)ア(ア))によれば、甲2発明の「マスク20」は、マスク20にフラックスを付着させたくないなどの理由により、「マスク20の下面20b」に「所定のパターンの凸部」が形成されて、「マスク20」と「基板100」との間に隙間が設けられるものである。
一方、本件特許の願書に添付した明細書【0018】の、「また、本マスク1においては、図2、図4、図6に示すように、マスク本体10下面や通孔12内面にコーティング層50を設けている。コーティング層50としては、撥水性を有するものが好ましく、その材質としては、フッ素樹脂、シリコン樹脂、乳剤、レジスト(液状)などがある。係るコーティング層50を設けることにより、マスク本体10下面や通孔12内面にフラックスが付着してもフラックスを弾くことができ、マスク本体10下面や通孔12内面にフラックスが付着したままの状態を防止できる。・・・」との記載によれば、本件発明1の「マスク1」は、マスク本体10下面、すなわち、「ワーク(3)との対向面」にフラックスが付着したままの状態を防止するために、マスク本体10の「ワーク(3)との対向面」にコーティング層50を設けるものである。
そうすると、本件発明1と甲2発明とは、マスクの下面にフラックスが付着することを防止する点で共通する。
しかし、甲第2号証、甲第5号証、甲第6号証のいずれにも、「少なくとも前記マスク本体(10)」の「前記ワーク(3)との対向面に、撥水性を有する材質で形成されたコーティング層が設けられて」いることは記載も示唆されていない。
また、甲第3号証に記載の技術的事項(前記(2)イ(イ))によれば、甲第3号証は、「スクリーン印刷に使用するメタルマスク」に関するものであり、甲第4号証に記載の技術的事項(前記(2)ウ(イ))によれば、甲第4号証は、「プリント基板へのクリームはんだ印刷に用いるマスク1」に関するものであり、両者はいずれも、甲2発明の「マスク20」のように「半田ボール」を用いるものではないから、甲2発明に、甲第3号証〜甲第4号証に記載の技術的事項を採用する動機付けは存在しない。
したがって、甲2発明において、甲第3号証〜甲第6号証に記載の技術的事項を参酌しても、前記相違点3に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易になし得たとはいえない。

(b)よって、本件発明1は、甲2発明、及び甲第3号証〜甲第6号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。
したがって、本件発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。

6 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正を認め、また、取消理由通知に記載した前記取消理由及び特許異議申立人が主張する申立理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項2は、本件訂正により削除されたため、本件特許の請求項2に対して、申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しなくなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】配列用マスク
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半田バンプを形成するのに用いられる、配列用マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
半田バンプの形成方法としては、ウエハ・フレキシブル基板・リジッド基板などのワーク上の電極にフラックスを塗布する印刷工程と、フラックス上に半田ボールを配列する配列工程と、半田ボールを加熱・溶解する加熱工程を経てバンプを形成している。そして、前述の配列工程において、ワーク上に半田ボールを配列する方式としては、マスクを用いた振込方式がある。振込方式では、ワークの電極の配列パターンに対応して半田ボールが挿通可能な位置決め用の通孔を有する配列用マスク(以下、適宜に単に「マスク」と称す)を用いて、半田ボールをワークの電極上に搭載させている。具体的には、通孔と電極とが一致するようにワークに対しマスクを位置合わせしたうえで、マスクの上に供給された半田ボールをスキージやブラシ等で掃引して、各通孔に一つずつ半田ボールを投入する。そして、フラックスに半田ボールを固着させることにより、ワーク上の所定位置に半田ボールを仮止め的に搭載させている。
【0003】
係るマスクとしては特許文献1に開示されたものがある。特許文献1に記載のマスクは、通孔を有するマスク本体の下面に多数本の支持用の突起部を設けており、突起部の突出寸法は同一寸法に設定されている。これにより、ワーク上にマスクを設置した際に、全ての支持用の突起部の下端がワークの上面に当接され、通孔を有するマスク本体とワークとの対向間隙が確保されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】 特開2006−287215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年では電子機器の小型化に伴い、バンプの微小化が進んできている。つまり、バンプの微小化に伴って、マスクにおける通孔間隔寸法やパターン領域間隔寸法が狭くなり、通孔間やパターン領域間(パターン領域外周)に配される突起部自身の外形寸法も小さくなる傾向にあるため、マスクとワークとの対向間隔が狭まり、ワークの電極上に配されたフラックスがマスクに付着しやすくなる。特に、マスク本体の下面や通孔内面にフラックスが付着してしまうと、半田ボールの搭載不良が生じやすくなってしまう。本発明の目的は、半田ボールの搭載不良を防止できる配列用マスクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、所定の配列パターンに対応した通孔12内に半田ボール2を振り込むことで、ワーク3上の所定位置に半田ボール2を搭載する配列用マスクであって、通孔12からなるパターン領域が多数形成されたマスク本体10と、マスク本体10のワーク3との対向面側に設けられた突起部15とを備え、少なくともマスク本体10下面に、コーティング層50が形成されており、コーティング層が、フッ素樹脂、シリコン樹脂、乳剤、レジスト、或いはアクリル樹脂で形成されていることを特徴とする。また、マスク本体10と突起部15とは別体で形成されている。また、コーティング層50は、マスク本体10下面及び突起部15表面を覆うように形成されている。このコーティング層50は、1μm以下の厚さで形成すると良い。
【0007】
また本発明は、通孔12からなるパターン領域が多数形成されたマスク本体10と、マスク本体10のワーク3との対向面側に設けられた突起部15とを備え、少なくともマスク本体10下面に、コーティング層50が形成された配列用マスクの製造方法である。まず、母型40上に、レジスト体41aを有する一次パターンレジスト41を形成する。次に、レジスト体41aを用いて、母型40上に、一次電着層42を形成する。次に、一次電着層42上に、レジスト体44aを有する二次パターンレジスト44を形成する。次に、一次電着層42表面に、コーティング層50を形成する。このコーティング層50は、一次電着層42の二次パターンレジスト44を有する側の表面及び二次パターンレジスト44の表面に形成すると良い。
【発明の効果】
【0008】
本発明の配列用マスクによれば、マスク本体下面に、コーティング層が形成されているので、マスク本体下面にフラックスが付着したままの状態を防ぐことができる。また、マスク本体下面及び突起部表面を覆うようにコーティング層を形成することで、コーティング層が突起部の保護層としての機能を果たすことになり、突起部の脱落、変形、破損を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の配列用マスクとワークの全体構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る配列用マスクの縦断側面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る配列用マスクの平面図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る配列用マスクの別実施形態の縦断側面図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る配列用マスクの別実施形態の平面図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係る配列用マスクの別実施形態の縦断側面図である。
【図7】本発明の第1実施形態に係る配列用マスクの製造方法の説明図である。
【図8】本発明の第1実施形態に係る配列用マスクの製造方法の説明図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係る配列用マスクの縦断側面図である。
【図10】本発明の第2実施形態に係る配列用マスクの製造方法の説明図である。
【図11】本発明の第2実施形態に係る配列用マスクの製造方法の説明図である。
【図12】本発明の別実施形態に係る配列用マスクの部分拡大平面図である。
【図13】本発明の第2実施形態に係る配列用マスクの別実施形態の部分拡大縦断側面図である。
【図14】本発明の第2実施形態に係る配列用マスクの別実施形態の製造方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
図1乃至図3に、本発明の第1実施形態に係る半田ボールの配列用マスクを示す。この配列用マスク(以下、単にマスクと記す)1は、半田バンプ形成における半田ボール2の配列工程において使用に供されるものである。図2において、符号3は、マスク1による半田ボール2の搭載対象となるワークを示す。このワーク3は、例えば、ガラスエポキシ基板のベース4に複数個の半導体チップ5を搭載し、ワイヤボンドで配線した後トランスファモールド封止してなるものであり、半導体チップ5を囲むように、ワーク3の上面には、入出力端子である電極6が所定のパターンで形成されている。なお、ワーク3は、バンプの形成後に個片に切断され、個々のLSIチップとされる。
【0011】
図1に示すように、マスク1は、ニッケルやニッケルコバルト等のニッケル合金、銅やその他の金属を素材として形成されたマスク本体10から成り、このマスク本体10にはこれを囲むように枠体11を装着することができる。マスク本体10の盤面中央部には、各半導体チップ5に対応して、半田ボール2を投入するための多数独立の通孔12からなるパターン領域が多数形成されている。図2に示すように、通孔12は、ワーク3上における各半導体チップ5の電極6の配列位置に対応した配列パターンに対応している。半田ボール2は、50μm以下の半径寸法を有するものであり、これに合わせて各通孔12は、当該ボール2の半径寸法よりも僅かに大きな内径寸法を有する平面視で円形状に形成されている。
【0012】
枠体11は、アルミ、42アロイ、インバー材、SUS430等の材質からなる平板体であり、その盤面中央に、マスク本体10に対応する一つの四角形状の開口を備えており、本実施形態では、一枚のマスク本体10を一枚の枠体11で保持している。枠体11は、マスク本体10よりも肉厚の成形品であり、マスク本体10の外周縁と不離一体的に接合される。ここでは枠体11の厚み寸法は、例えば0.05〜1.0mm程度とし、本実施形態においては0.5mmに設定した。また、マスク本体10の厚みは、好ましくは10μm以上とし、本実施形態では200μmに設定した。
【0013】
マスク本体10(マスク1)の下面側、すなわちワーク3との対向面側には、下方向に突出状の突起部15を設けることができる。詳しくは、図2及び図3に示すように、パターン領域間(パターン領域の外周)にこのパターン領域を囲むように突起部15(桟15a)を設けることができる。この突起部15(桟15a)は、図3のような連続的に設けたものでなくても良く、断片的に設けても良い。また、図4に示すように、パターン領域内の通孔12が形成されていない位置に突起部15(支柱15b)を設けることができる。また、隣り合うパターン領域間(パターン領域の外周)にパターン領域を囲むようにして設ける突起部15の形状としては、桟15aに限らず、図5に示すように、支柱15cであっても良い。係る突起部15を設けていれば、配列作業時において、ワーク3の上面に当接してマスク本体10とワーク3との対向間隙を確保できる。各々の突起部15(桟15a、支柱15b)においては、図2および図4に示すように、マスク本体10の下面から突起部15の先端に向かって先窄まるように形成されていることが好ましく、円錐台状を呈している。
【0014】
突起部15の形状としては、この他に図6に示すように、突起部15の根元寸法がマスク本体10の下面に向かうにつれて大きくなる末拡がり形状(突起部15の根元から先端に向かうにつれて窄まっていく先窄まり形状)であって、側面が円弧状に形成されたものであっても良い。これにより、突起部15の特に根元部15”に応力が集中することにより生じる破損を防止できるとともに、マスク1をワーク3に載置した際に、仮に突起部15にフラックス17が付着したとしても、突起部15の側面が円弧となっていることにより、フラックス17の通孔12への回り込みを防止できるので、通孔12にフラックス17が付着することによる半田ボール2の搭載不良を招くおそれをなくすことができる。なお、突起部15の根元部15”の終端位置については、マスク本体10の下面の通孔12付近に位置していることが好ましく、マスク本体下面10aと通孔内面12aとの交点に位置する形態、マスク本体下面10a上の通孔12から間隙をとったところに位置する形態が考えられる。また、突起部15の側面は、凸状円弧でも凹状円弧でもどちらでも良く、凸状円弧とすれば強度の良いものになり、凹状円弧とすれば突起部15側面のどの位置においてもフラックス17が付着された電極6に近づく部分がない、つまり、フラックス17が付着された電極6から一定距離を保った状態となって良い。さらに、突起部15の先端部15’及び/又は根元部15”を円弧状に形成しても良く、これにより、突起部15にフラックス17が付着するおそれが可及的に減少する。
【0015】
本マスク1においては、突起部15の高さとマスク本体10の厚みとの比が2対1以上とするのが好ましく、上記マスク本体10の厚さが10〜300μmの範囲内においてこれを満足することがより好ましい。また、突起部15は、アスペクト比(突起部15における高さと先端寸法との比)が大きいものが好ましく、本実施形態ではアスペクト比3としている。また、突起部15の根元寸法L2は、突起部15の先端寸法L1の1.0〜1.5倍とするのが好ましく、本実施形態では1.2倍に設定している。さらに、突起部15の先端寸法L1と根元寸法L2と通孔12間の幅寸法L3との比が1対1.2対1.4以上であることが好ましい。さらに、パターン領域から突起部15(桟15a、支柱15c)の根元までの寸法L4は、0.01mm以上に設定することが好ましく、本実施形態では0.02mmとしている。係る条件により、フラックスの付着を可及的に防ぐことができる。この時、上述した突起部15の先端寸法L1と根元寸法L2との比の関係及びパターン領域から突起部15の根元までの寸法L4の関係を満足することにより、突起部15の破損防止及びフラックスの付着防止を両立させることができる。さらには、パターン領域から突起部15(桟15a、支柱15c)の先端中心までの寸法をL5とした時、L1とL2とL5との比が1対3対2.5以上とすることにより、上記両立効果を最大限に活かすことができる。
【0016】
ここでは、マスク本体10と突起部15が一体となったマスク1としているが、マスク本体10と突起部15とが別部材で一体的に形成されたものでも良い。これは、上記マスク1において、マスク本体10を磁性体で形成し、突起部15を非磁性体で形成すれば、磁石の磁力吸引によってワーク3にマスク1を固定する場合に、マスク1に対して磁力を均一に働かせることができるので、マスク1が不用意に撓むおそれがなく、ワークに良好に密着させることができ、電極6に対する通孔12の位置合わせ精度を向上することができる。また、マスク1を取り外す際には、ワーク3と突起部15が直接磁力結合しないので、版離れを良好にすることができる。係るマスク1は、例えば、マスク本体10を磁性体金属(ニッケル、鉄等)によって形成し、突起部15を非磁性体金属(銅、アルミなど)によって形成することで得られる。
【0017】
また、突起部15を非磁性体で形成するものにおいては、上記金属に限らず、樹脂やレジストによって形成したものでも良い。これにより、上記効果に加え、当該樹脂の弾力性に由来するクッション作用が発揮され、突起部15がワーク3に当接した際に、ワーク3が損傷するおそれが少なくなる。なお、係る効果を顕著に奏するためには、マスク1において、突起部15だけでなく、ワーク3と当接する部分の全てを樹脂で形成することが好ましい。また、突起部15を樹脂で形成する場合、電鋳法でマスク本体10を形成する時に使用するレジストと同じものを使用すれば、生産効率良く形成できる。
【0018】
また、本マスク1においては、図2、図4、図6に示すように、マスク本体10下面や通孔12内面にコーティング層50を設けている。コーティング層50としては、撥水性を有するものが好ましく、その材質としては、フッ素樹脂、シリコン樹脂、乳剤、レジスト(液状)などがある。係るコーティング層50を設けることにより、マスク本体10下面や通孔12内面にフラックスが付着してもフラックスを弾くことができ、マスク本体10下面や通孔12内面にフラックスが付着したままの状態を防止できる。なお、該コーティング層50は、マスク本体10上面に形成しても良いし、パターン領域間であって、突起部15(桟15a、支柱15c)間におけるマスク本体10下面においては形成しなくて良い。要は、フラックスが付着すると半田ボールの搭載不良が生じやすい部分に形成するのが望ましく、マスク1をワーク上に載置した際に、電極6上に塗布されたフラックス17と対面するマスク本体10及び突起部15の表面に形成することが望ましい。
【0019】
なお、各図面は、実際のマスク1の様子を示したものではなく、それを模式的に示している。また、各図面における通孔12の開口寸法やマスク本体10等の厚み寸法等は、図面作成の便宜上、そのような寸法に示したものである。また、図3、図5において、符号15で図示しているのは、突起部15の下端面(先端面)であり、突起部15の根元は図示していない。また、図3、図5においては、コーティング層50は図示していない。
【0020】
係るマスク1を用いた半田ボール2の配列作業は、以下のような手順で行われる。なお、この配列作業は、専用の配列装置(特許文献1の図1、図5等を参照)によって行われる。まず、ワーク3の電極6上にフラックス17(図2参照)を印刷塗布する。次に、通孔12と電極6が一致するように、ワーク3上にマスク1を位置合わせしたうえで、マスク1を固定する。かかる位置合わせ作業は、実際には枠体11とワーク3との外周縁を位置合わせすることで行われる。位置合わせ作業が終了すると、該固定状態において、突起部15の下端面がワーク3の表面に当接することで、マスク本体10は、図2、図4、図6に示すようなワーク3との対向間隙が確保された離間姿勢に姿勢保持される。この時、ワーク3の下方に磁石を配置して、この磁石の磁力作用によって、マスク1をワーク3側に吸着させることもできる。
【0021】
次に、マスク1上に多数個の半田ボール2を供給し、スキージブラシを用いてマスク1上で半田ボール2を分散させて、通孔12内に一つずつ半田ボール2を投入する。これにて、電極6上に半田ボール2がフラックス17によって仮止め状に粘着保持される。かかるスキージブラシを用いた半田ボール2の投入作業において、スキージブラシ圧がマスク1に大きくかかったとしても突起部15によってマスク1が撓むことを防止でき、投入作業を作業効率良くスムーズに進めることができる。
【0022】
以上のように、本実施形態に係るマスク1によれば、マスク本体10とワーク3との対向間隙を形成する突起部15を備えているので、突起部15によってワーク3との対向間隙を確実に確保でき、通孔12内への半田ボール2の投入作業を効率的に漏れなく進めることが可能となる。
【0023】
マスク本体10の外周縁に補強用の枠体11を設けることができ、マスク本体10をそれ自体に内方に収縮する方向の応力が作用するようなテンションを加えた状態で形成すれば、周囲温度の変化に伴うマスク本体10の膨張分を、当該収縮方向へのテンションで吸収できる。これにて、ワーク3に対するマスク本体10の位置ズレの発生を防ぐことができる。また、マスク本体10の全体に均一なテンションを与えることができるので、ワーク3に対して半田ボール2を位置精度良く搭載させることができる。
【0024】
次に、係る構成の配列用マスク1の製造方法を図7及び図8に示す。まず、例えば、導電性を有するステンレス製や真ちゅう鋼製の母型30の表面にフォトレジスト層31を形成する。このフォトレジスト層31は、ネガタイプの感光性ドライフォトレジストを、所定の高さに合わせて一枚ないし数枚ラミネートして熱圧着により形成した。ついで、図7(a)に示すごとく、フォトレジスト層31の上に、突起部15に対応する透光孔32aを有するパターンフィルム(ガラスマスク)32を密着させたのち、紫外光ランプ33で紫外線光を照射して露光を行い、現像、乾燥の各処理を行って、未露光部分を溶解除去することにより、図7(b)に示すように、先窄まり状の突起部15に対応するレジスト体34aを有する一次パターンレジスト34を母型30上に形成した。この時、紫外線が透過しにくいフォトレジストを用いたり、露光量を弱めたりして、レジスト体34aにテーパを付けることが好ましい。続いて、上記母型30を所定の条件に建浴した電鋳槽に入れ、図7(c)に示すごとく、先のレジスト体34aの高さの範囲内で、母型30のレジスト体34aで覆われていない表面にニッケルや銅等の電着金属を電鋳して、一次電鋳層35を形成した。ここでは、母型30の略全面にわたって、一次電鋳層35を形成した(第一の電鋳工程)。次に、図7(d)に示すごとく、一次パターンレジスト34を除去する。ここで、一次電鋳層35の表面に研磨処理を施しておくと良い。
【0025】
次いで、図8(a)に示すごとく、一次電鋳層35および母型30の表面の全体に、フォトレジスト層36を形成したうえで、当該フォトレジスト層36の表面に、前記通孔12に対応する透光孔37aを有するパターンフィルム(ガラスマスク)37を密着させたのち、紫外光ランプ33で紫外線光を照射して露光を行い、現像、乾燥の各処理を行って、未露光部分を溶解除去することにより、図8(b)に示すように、マスク本体10に対応するレジスト体38aを有する二次パターンレジスト38を一次電鋳層35の表面に形成した。続いて、所定の条件に建浴した電鋳槽に入れ、図8(c)に示すごとく、先のレジスト体38aの高さの範囲内で、母型30及びのレジスト体38aで覆われていない一次電鋳層35の表面にニッケルや銅等の電着金属を電鋳して、二次電鋳層39を形成した(第二の電鋳工程)。次に、二次パターンレジスト38を溶解除去し、母型30及び一次電鋳層35から二次電鋳層39を剥離する。最後に、マスク本体10下面に対応する二次電鋳層39の母型面側及び通孔12内面に対応する二次電鋳層39の二次パターンレジスト38との対向面にコーティング層50を形成することで、図8(e)および図2に示すようなマスク1を得た。
【0026】
こうして得られたマスク1に枠体11を装着すれば、図1に示すような配列用マスク1が得られる。マスク1(二次電鋳層39)は、それ自体に内方に収縮する方向の応力が作用するようなテンションを加えた状態で、枠体11に保持することが可能である。かかる応力の付与は、例えば、枠体11とマスク1との熱膨張係数の差を利用して、高温環境下でマスク1の外周縁に枠体11の装着作業を行い、常温時ではマスク1を内方側に収縮させることで実現できる。
【0027】
以上のようなマスク1の製造方法によれば、電鋳法を用いて高精度に配列用マスクを作製することができるので、半田ボール2を位置精度良くワーク3上に搭載させることができる。また、突起部15を有するマスク1を一回の電鋳(第二の電鋳工程)により、マスク本体10と突起部15とを不離一体に形成するようにすれば、マスク本体10と突起部15とを別体で形成したものに比べて、該突起部15の破損などの不都合が生じるおそれが少なく、信頼性に優れたマスク1を高精度に得ることができる点でも優れている。また、突起部15をマスク本体10の下面に近づくにつれて大きくなるよう先窄まり状に形成すれば、突起部15の特に根元に応力が集中することが回避されるため、突起部15の強度をしっかりと補強できつつ、突起部15をフラックス17が塗布された電極6から離間した状態で電極6間に当接できるので、電極6に塗布されたフラックス17がマスク本体10に付着することによる半田ボール2の搭載不良を防止することができる。この時、突起部15の先端部15’の寸法と根元部15”の寸法との比を1対3以上とすること、突起部15のアスペクト比を3以上とすることでより効果的となる。係る所望の寸法及びアスペクト比を有する突起部15の作製は、レジストパターン35の形状を調整することによって容易に得られる。
【0028】
なお、係る構成のマスク1において、通孔12及び突起部15の形状はストレート状としてもテーパ状としても良い。ここで、通孔12や突起部15をテーパ状とする場合について具体的に説明すると、通孔12においては、マスク本体10のワーク3との対向面側に向かって先窄まり状のテーパを設けることで、半田ボール2を通孔12内に誘い込みやすくなり、マスク本体10のワーク3との対向面側に向かって先拡がり状のテーパを設けることで、マスク本体10のワーク3との対向面側における通孔12周縁にフラックスが付着されることを防止できる。また、突起部15においては、マスク本体10のワーク3との対向面側に向かって先窄まり状のテーパを設けることで、ワーク3上へのマスクの載置をしっかりとすることができ、マスク本体10のワーク3との対向面側に向かって先拡がり状のテーパを設けることで、ワーク3の電極6が狭ピッチに配列された場合であっても、突起部15の強度を確保しつつ、ワーク3上への突起部15の当接をしっかりと対応することができる。かかる形状は、フォトレジスト層31・36の感光度や露光条件を変更することによって容易に得られる。
【0029】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る配列用マスクについて説明する。本実施形態では、図9に示すように、コーティング層50がマスク本体10下面だけでなく、突起部15の表面にも形成されている。
【0030】
本実施形態の配列用マスクによれば、突起部15表面にもコーティング層50が形成されているので、突起部15に対してもフラックスの付着を防止できる。また、マスク本体10下面、通孔12内面、及び突起部15表面にコーティング層50を形成することで、仮に、通孔12内面にフラックスが付着したとしても、フラックスを弾き、マスク本体10下面及び突起部15表面を介してワーク上に流すことができる。また、フラックス17の通孔12への回り込みをより確実に防止できる。
【0031】
さらに、マスク本体10下面及び突起部15表面の全面を覆うようにコーティング層50を形成することで、例えば、マスク本体10と突起部15とを別部材で形成した場合、両者間の接合強度が弱く(これは、バンプの微細化に伴って通孔間隔寸法やパターン領域間隔寸法が狭くなり、通孔間やパターン領域間(パターン領域外周)に配される突起部15自身の外形寸法も小さくなる傾向にあるため、突起部15とマスク本体10との接合面積が小さくなることに起因する)、マスク1使用時に突起部15が不用意に脱落、変形、破損するおそれがあるが、係る構成により、コーティング層50が突起部15の保護層として機能することになるので、突起部15の脱落、変形、破損の防止にも寄与できる。なお、突起部15の脱落、変形、破損を防ぐことに特化したい場合は、マスク本体10の下面及び突起部15の表面に、スパッタや無電解めっきによって金属層(Ni、Cuなど)を形成することにより、コーティング層50を設けると良い。
【0032】
図10及び図11に、本実施形態の配列用マスクの製造方法を示す。まず、図10(a)に示すごとく、母型40を用意する。母型40は導電性を有するものであれば何でも良く、本実施形態ではステンレスを用いた。次いで、母型40の表面にフォトレジスト層を形成し、周知の方法で露光、現像、乾燥の各処理を行って、未露光部分を溶解除去することにより、図10(b)に示すごとく、レジスト体41aを有する一次パターンレジスト41を母型40上に形成した。上記フォトレジスト層は、ネガタイプの感光性ドライフィルムレジストを、所定の高さに合わせて一枚ないし数枚ラミネートして形成した。次いで、上記母型40を所定の条件に建浴した電鋳槽に入れ、図10(c)に示すごとく、先のレジスト体41aの高さと同じ程度に、母型40のレジスト体41aで覆われていない表面に電着金属を電鋳して、一次電着層42を形成した。本実施形態では、Ni−Co電鋳により一次電着層42を形成した。なお、一次電着層42を形成した後に一次電着層42表面に対して、ベルト研摩などといった機械的研摩および/または電解研磨するのが好ましい。次いで、図10(d)に示すごとく、レジスト体41a(レジストパターン41)を溶解除去した。
【0033】
次いで、図11(a)に示すごとく、一次電着層42の表面上に、ソルダーレジスト層43を形成した。このソルダーレジスト層43は、所定の高さに合わせて一枚ないし数枚ラミネートして形成した。次いで、露光、現像、乾燥の各処理を行って、未露光部分を溶解除去することにより、図11(b)に示すごとく、レジスト体44aを有する二次パターンレジスト44を一次電着層42上に一体的に形成した。なお、二次パターンレジスト44を形成した後にベーキングなどといった脱落防止処理を行うのが好ましい。これにより、レジスト体44aを有する二次パターンレジスト44と一次電着層42との密着がより強固なものにできる。次いで、図11(c)に示すごとく、母型40から一次電着層42およびその表面に形成された二次パターンレジスト44を剥離する。最後に、一次電着層42の二次パターンレジスト44を有する側の表面および二次パターンレジスト44の表面にコーティング層50を形成することによって、図11(d)及び図9に示す配列用マスク1を得ることができる。なお、コーティング層50は、母型40から一次電着層42および二次パターンレジスト44を剥離する前に形成しても良い。また、コーティング層50は、一次電着層42の二次パターンレジスト44を有する側の表面に限らず、一次電着層42の表面全面に形成しても良い。もちろん、通孔12内面にもコーティング層50を形成しても良い。
【0034】
次に、第2実施形態に係る配列用マスクの別実施形態について説明する。ここでは、図13(a)に示すように、突起部15が樹脂で形成されたものであって、係る突起部15の表面にコーティング層70が形成されており、コーティング層70の材質として、突起部15の材質とは異なる材質で形成されている。
【0035】
上述のように、本マスクはワークの電極上に半田ボールを搭載するために用いられるものであるが、半田ボールの配列工程(振込搭載)時に、マスクに汚れなどが付着することがあるので、これを除去するために、必要に応じてマスクを洗浄する。マスクを洗浄する場合、溶剤を用いて行うため、この溶剤が突起部を構成する材質表面にベタツキが発生するなどの悪影響が生じる可能性があるが、突起部表面にコーティング層があるために、このような悪影響から防御している。
【0036】
そこで、本実施形態のマスクは、樹脂で形成した突起部15に対する悪影響を防御するために、突起部15の表面にコーティング層70を形成しており、コーティング層70が突起部15を構成する材質(樹脂)とは異なる材質で形成している。コーティング層70としては、上記材質に加え、例えば、アクリル系樹脂を主成分とする感光材で形成することも可能である。
【0037】
係る配列用マスクの製造方法は、母型の用意から一次電着層を形成してレジスト体を除去するまでは、前述の工程(図10参照)と同様である。次いで、一次電着層42の表面上に、ソルダーレジスト層を形成し、露光、現像、乾燥の各処理を行うことにより、図14(a)に示すごとく、レジスト体60aを有する二次パターンレジスト60を一次電着層42上に一体的に形成した。次いで、図14(b)に示すごとく、二次パターンレジスト60の表面にコーティング層70を形成する。コーティング層70は、アルカリ現像型の感光材であって、主な含有成分は、アクリル樹脂(55〜65%)、硫酸バリウム(15〜25%)、二酸化珪素(15〜25%)である。最後に、母型40から一次電着層42を、その表面に形成された二次パターンレジスト60およびコーティング層70とともに剥離することによって、図14(c)及び図13に示す配列用マスク1を得ることができる。なお、コーティング層70は、一次電着層42の二次パターンレジスト60を有する側の表面にも形成しても良い。また、一次電着層42上に二次パターンレジスト60を形成後、母型40から剥離してからコーティング層70を形成しても良い。こうすることで、一次電着層42の二次パターンレジスト60を有する側の表面だけでなく、一次電着層42の表面全面にコーティング層70を容易に形成することができる。通孔12の内壁にもコーティング層70を形成しても良い。また、二次パターンレジスト60やコーティング層70を形成した後に、ベーキングなどといった脱落防止処理を行うのが好ましい。これにより、一次電着層42と二次パターンレジスト60、および二次パターンレジスト60とコーティング層70の密着がより強固なものにできる。係る脱落防止処理は、二次パターンレジスト60とコーティング層70を形成毎に行っても良いし、二次パターンレジスト60表面にコーティング層70を形成した後に併せて行っても良い。
【0038】
係る製造方法によって得られたマスク1は、洗浄(溶剤)に強いものとなり、突起部15にベタツキが発生することを可及的に防止できる。また、図13(b)に示すように、コーティング層70を突起部15の表面全面を覆うように形成すれば、突起部15の破損・欠落を防止できる。
【0039】
ここで、突起部15とコーティング層70は同じ樹脂同士なので、突起部15とコーティング層70との密着力は強固なものであるが、マスク本体10に突起部15を形成した後(突起部15の表面にコーティング層70を形成する前)に、突起部15を洗浄して突起部15の表面にあえてベタツキを発生させ、その表面にコーティング層70を形成することで、突起部15とコーティング層70との密着力をより強固なものにすることができる。
【0040】
また、図13(c)に示すように、コーティング層70を形成する材質のみで突起部15を形成することもできる。コーティング層70を形成する材質は、フラックスが付着しにくいものであり、具体的には、アクリル樹脂に硫酸バリウム及び/又は二酸化珪素が含有された樹脂混合物が挙げられる。この樹脂混合物は、耐溶剤性に優れている。これについて具体的に説明すると、係る樹脂混合物で幅寸法が0.2〜3.0mm(0.2mm、0.4mm、0.6mm、0.8mm、1.0mm、2.0mm、3.0mmの計7製品)の突起部をニッケル−コバルト合金からなるマスク本体に設けた各マスクを、洗浄剤(化研テック株式会社製)に6〜24時間(6時間、12時間、24時間の計3回)浸漬させたが、全てのマスクにおいて突起部の剥離がなかったことが確認できた。さらに、係る樹脂混合物は、マスク本体10との相性が良く、密着性が良いので、突起部15の幅寸法を狭くすることが可能である。なお、係る樹脂混合物は硬度があるので(JIS規格の引っかき硬度試験で5H〜6H)、マスク本体の厚さが100μm以下において、突起部の幅寸法を5mmより大きくすると、マスクに反りが発生してしまう恐れがあるので、突起部の幅寸法は5mm以下とするのが好ましい。このように、コーティング層70は、フッ素樹脂、シリコン樹脂、アクリル樹脂などといった材質を主成分として形成されている。そして、係る材質を主成分として突起部15を構成することが可能である。
【0041】
上記突起部15を形成する樹脂混合物の主成分は、アクリル樹脂であるが、これに限らず、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ABS樹脂、AS樹脂、PET樹脂、EVA樹脂、フッ素樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリフェニレンスルファイド、ポリテトラフロロエチレン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、非晶ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドイミドなど(所謂、熱可塑性樹脂)が挙げられる。また、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタンなど(所謂、熱硬化性樹脂)でも良い。
【0042】
上記各実施形態において、突起部15(支柱15b)と通孔12の配置は、突起部15(支柱15b)が一つの通孔12を囲むように配置しても良いし、一つの突起部15が通孔12に囲まれるように配置しても良い。一つの通孔12を囲むように突起部15を配置する場合、突起部15の形状は、支柱のように部分的に設けたものに限らず、無端枠状に設けたものでも良い。また、突起部15の形状は、桟15aや円柱に限らず、ひし形・六角形などといった多角形や楕円でも良い。さらに、これら形状においては、図12に示すように、細長形状及び/又は角が丸みを帯びたものが好ましい。このように、これら形状の長手方向・長径方向を一定方向に合わせることで、例えば、マスク1の裏面を洗浄する際に、洗浄手段(布やスポンジなど)が突起部15に引っかかることによる洗浄手段や突起部15が破損するおそれを可及的になくすことができるとともに、スムーズに洗浄することが可能となる。よって、突起部15全ての長手方向・長径方向を一方向に合わせることが望ましい。なお、細長形状とするのはあくまでも突起部15の下端面(先端面)においてであり、突起部15の根元部15bの面においては強度等の点で必ずしも細長形状とする必要はない。
【0043】
また、上記各実施形態において、通孔12の内面とマスク本体10及び突起部15の表面とでコーティング層50・70の厚みを異ならせても良い。具体的には、通孔12の内面におけるコーティング層50の厚みをT1、マスク本体10及び突起部15の表面におけるコーティング層50の厚みをT2とした時(図9参照)、T1>T2とすれば、半田ボールの搭載不良を引き起こす通孔12内面へのフラックスの付着をより確実に防ぐことができる。また、コーティング層50を滑りやすい(摩擦が小さい)材質で形成すれば、T1の厚み分だけマスク本体10上面と通孔12内面との境目に滑りやすい領域として現れることになり、T1の厚さが厚ければ厚いほど、該領域が大きくなるので、半田ボール2をスキージブラシでかく時に、スキージブラシや半田ボール2を滑らかに移動させることができ、生産性や作業効率の向上が見込める。そして、T1<T2とすれば、マスク本体10下面に突起部15が別体形成された時に、突起部15の脱落、変形、破損をより確実に防ぐことができる。なお、このコーティング層50の形成方法としては、浸漬方式やスプレー方式など種々の方法があるが、コーティング層50を形成する際は、所望する形成個所以外の部分を保護シートで覆うと良い。また、コーティング層50を厚く形成したい時は、厚くしたい個所を局所的にスプレーしたり、マスク1の浸漬させる方向を異ならせたり(例えば、マスク本体10下面において厚くしたい場合は、マスク本体10下面と浸漬面とを平行にした状態で浸漬させると良く、通孔12内面において厚くしたい場合は、マスク本体10下面と浸漬面とを垂直にした状態で浸漬させると良い)することで実現できる。
【符号の説明】
【0044】
1 マスク
2 半田ボール
3 ワーク
6 電極
10 マスク本体
12 通孔
15 突起部
15a 桟
15b 支柱
15c 支柱
15’ 先端部
15” 根元部
30、40 母型
31、36、43 フォトレジスト層(ソルダーレジスト層)
34、41 一次パターンレジスト
34a、41a レジスト体
35、42 一次電着層
38、44、60 二次パターンレジスト
38a、44a レジスト体
39 二次電着層
50、70 コーティング層
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の配列パターンに対応した通孔(12)内に半田ボール(2)を振り込むことで、ワーク(3)上の所定位置に前記半田ボール(2)を搭載する配列用マスクであって、
前記通孔(12)が多数形成されたマスク本体(10)と、該マスク本体(10)の前記ワーク(3)との対向面側に設けられた突起部(15)とを備え、
少なくとも前記マスク本体(10)のスキージ面および前記ワーク(3)との対向面に、撥水性を有する材質で形成されたコーティング層が設けられており、
前記コーティング層が、フッ素樹脂、シリコン樹脂、乳剤、レジスト、或いはアクリル樹脂で形成されていることを特徴とする配列用マスク。
【請求項2】 (削除)
【請求項3】
前記突起部(15)の先端部(15’)が円弧状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の配列用マスク。
【請求項4】
前記突起部(15)は、下方に向かって先窄まりとなるテーパー状、或いは下方に向かって先拡がりとなるテーパー状に形成されていることを特徴とする請求項1または3に記載の配列用マスク。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2023-10-06 
出願番号 P2021-072331
審決分類 P 1 652・ 161- YAA (H01L)
P 1 652・ 856- YAA (H01L)
P 1 652・ 851- YAA (H01L)
P 1 652・ 841- YAA (H01L)
P 1 652・ 121- YAA (H01L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 河本 充雄
特許庁審判官 松永 稔
市川 武宜
登録日 2022-06-17 
登録番号 7091519
権利者 マクセル株式会社
発明の名称 配列用マスク  
代理人 森本 聡  
代理人 森本 聡  

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