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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08L 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08L 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C08L |
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管理番号 | 1405833 |
総通号数 | 25 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2024-01-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2023-07-25 |
確定日 | 2023-12-26 |
異議申立件数 | 2 |
事件の表示 | 特許第7212816号発明「樹脂組成物、ペレット、成形品、および、樹脂組成物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7212816号の請求項1ないし17に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第7212816号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし17に係る特許についての出願は、2021年(令和3年)12月8日(優先権主張 令和2年12月9日)を国際出願日とする特願2022−515600号に係るものであって、令和5年1月17日にその特許権の設定登録(請求項の数17)がされ、同年同月25日に特許掲載公報が発行され、その後、本件特許に対し、同年7月24日に特許異議申立人 村上 兄(以下、「申立人A」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし17)がされ、同年同月25日に特許異議申立人 大澤 豊(以下、「申立人B」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし17)がされたものである。 第2 本件発明 本件特許の請求項1ないし17に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明17」といい、これらを総称して「本件発明」ということがある。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 熱可塑性樹脂100質量部に対して、 再生炭素繊維10〜70質量部と、 前記熱可塑性樹脂と反応可能な官能基含有化合物0.1〜15質量部とを含み、 前記官能基含有化合物が、エポキシ基を有する化合物であり、 前記再生炭素繊維が、エポキシ樹脂と炭素繊維の複合物の焼成物であり、かつ、前記エポキシ樹脂由来の残渣を5質量%以上30質量%以下の割合で含み、 4mm厚さのISO多目的試験片に成形したときのISO178に従った曲げ最大強さが130MPa以上である、 樹脂組成物から形成されたペレットであって、 前記ペレット中の再生炭素繊維の数平均繊維長が100〜500μmである、ペレット。 【請求項2】 前記官能基含有化合物の含有量が、熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.1〜5質量部である樹脂組成物から形成された、請求項1に記載のペレット。 【請求項3】 前記再生炭素繊維が、エポキシ樹脂と炭素繊維の複合物の焼成物であり、かつ、前記エポキシ樹脂由来の残渣を10質量%以上30質量%以下の割合で含む樹脂組成物から形成された、 請求項1または2に記載のペレット。 【請求項4】 前記官能基含有化合物の含有量が、熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.1〜5質量部であり、 前記再生炭素繊維が、エポキシ樹脂と炭素繊維の複合物の焼成物であり、かつ、前記エポキシ樹脂由来の残渣を10質量%以上30質量%以下割合で含み、 4mm厚さのISO多目的試験片に成形したときのISO178に従った曲げ最大強さが170MPa以上である樹脂組成物から形成された、請求項1に記載のペレット。 【請求項5】 前記熱可塑性樹脂が、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂およびポリアミド樹脂の少なくとも1種を含む樹脂組成物から形成された、請求項1〜4のいずれか1項に記載のペレット。 【請求項6】 前記再生炭素繊維の数平均繊維径が、3μm以上10μm以下である樹脂組成物から形成された、請求項1〜5のいずれか1項に記載のペレット。 【請求項7】 前記熱可塑性樹脂が、ポリブチレンテレフタレート樹脂を含む樹脂組成物から形成された、請求項1〜6のいずれか1項に記載のペレット。 【請求項8】 前記熱可塑性樹脂の30〜100質量%がポリブチレンテレフタレート樹脂である樹脂組成物から形成された、請求項1〜7のいずれか1項に記載のペレット。 【請求項9】 前記官能基含有化合物において、[重量平均分子量]/[官能基当量(官能基当量の単位:g/eq)]が1〜30である樹脂組成物から形成された、請求項1〜8のいずれか1項に記載のペレット。 【請求項10】 前記官能基含有化合物において、[重量平均分子量]/[官能基当量(官能基当量の単位:g/eq)]が1〜10である樹脂組成物から形成された、請求項1〜9のいずれか1項に記載のペレット。 【請求項11】 前記再生炭素繊維が、前記エポキシ樹脂由来の残渣を25質量%以下の割合で含む樹脂組成物から形成された、請求項1〜10のいずれか1項に記載のペレット。 【請求項12】 請求項1〜11のいずれか1項に記載のペレットから形成された成形品。 【請求項13】 射出成形品である、請求項12に記載の成形品。 【請求項14】 前記成形品中の再生炭素繊維の数平均繊維長が100〜500μmである、請求項13に記載の成形品。 【請求項15】 車載用筐体部品である、請求項12〜14のいずれか1項に記載の成形品。 【請求項16】 熱可塑性樹脂100質量部に対して、 再生炭素繊維10〜70質量部と、 前記熱可塑性樹脂と反応可能な官能基含有化合物0.1〜15質量部とを含み、 前記官能基含有化合物が、エポキシ基を有する化合物であり、 前記再生炭素繊維が、 エポキシ樹脂と炭素繊維の複合物の焼成物であり、かつ、 前記エポキシ樹脂由来の残渣を5質量%以上30質量%以下の割合で含む樹脂組成物の製造方法であり、 前記再生炭素繊維を、押出機のシリンダー途中のサイドフィーダーから供給することを含む、 樹脂組成物の製造方法。 【請求項17】 熱可塑性樹脂100質量部に対して、 再生炭素繊維10〜70質量部と、 前記熱可塑性樹脂と反応可能な官能基含有化合物0.1〜15質量部とを含み、 前記官能基含有化合物が、エポキシ基を有する化合物であり、 前記再生炭素繊維が、 エポキシ樹脂と炭素繊維の複合物の焼成物であり、かつ、 前記エポキシ樹脂由来の残渣を5質量%以上30質量%以下の割合で含む樹脂組成物から形成されたペレットの製造方法であり、 前記ペレット中の再生炭素繊維の数平均繊維長が100〜500μmであり、 前記再生炭素繊維を、押出機のシリンダー途中のサイドフィーダーから供給することを含む、 ペレットの製造方法。」 第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 1 申立人Aが提出した特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由の概要 令和5年7月24日に申立人Aが提出した特許異議申立書(以下、「申立書A」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。 (1)申立理由A1(甲A1を主引例とする進歩性) 本件特許の請求項1ないし17に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし17に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (2)証拠方法 ・甲第A1号証:特開2019−155634号公報 ・甲第A2号証:特開2020−158581号公報 ・甲第A3号証:特開2020−196882号公報 ・甲第A4号証:特開2020−125559号公報 ・甲第A5号証:「曲げ強度はどのような強度か:プラスチックの強度(15)」、プラスチック成形材料DBホームページ、http://plabase.com/news/7853、2021年7月6日(掲載日) ・甲第A6号証:エンプラDATABOOK、エンプラ技術連合会、第13版、2017年4月、p.22-23,30-31,38-43 ・甲第A7号証:特開平7−118440号公報 ・甲第A8号証:特開2018−53117号公報 ・甲第A9号証:村山正樹ら、「短繊維型CFRTPの物性に及ぼすリサイクルの繰り返しの影響」、三重県工業研究所 研究報告、No.44、2020年、p.78-85 ・甲第A10号証:国際公開第2021/230132号 ・甲第A11号証:製品案内、三菱化学株式会社スペシャリティケミカルズ事業部、2014年4月、p.1-18 ・甲第A12号証:特開2015−81262号公報 以下、「甲第A1号証」ないし「甲第A12号証」を、「甲A1」ないし「甲A12」という。 2 申立人Bが提出した特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由の概要 令和5年7月25日に申立人Bが提出した特許異議申立書(以下、「申立書B」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。 (1)申立理由B1(実施可能要件) 本件特許の請求項1ないし17に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 エポキシ樹脂由来の残渣とは別に、官能基含有化合物を再生炭素繊維の表面に処理剤又は収束剤として新たに付着させた再生炭素繊維を使用する態様については、本件特許明細書の記載に基づいて当業者が実施できない。 (2)申立理由B2(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし17に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 エポキシ樹脂由来の残渣とは別に、官能基含有化合物を再生炭素繊維の表面に処理剤又は収束剤として新たに付着させた再生炭素繊維を使用する態様については、本願発明の意図する効果が得られることを当業者が理解できない。 (3)申立理由B3(明確性要件) 本件特許の請求項1ないし17に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 本件特許明細書では、再生炭素繊維表面には処理剤も収束剤も付着していないことを前提としているにもかかわらず、本願請求項は、エポキシ樹脂由来の残渣とは別に、官能基含有化合物を再生炭素繊維の表面に処理剤又は収束剤として新たに付着させた再生炭素繊維を使用する態様を包含している。 (4)申立理由B4(甲B1を主引例とする新規性・進歩性) 本件特許の請求項1ないし15に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第B1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし15に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (5)証拠方法 ・甲第B1号証:特開2020−180421号公報 ・甲第B2号証:特開2020−49820号公報 ・甲第B3号証:用語解説「CFRP(carbon fiber reinforced plastics)」、日経XTECH、 http://xtech.nikkei.com/dm/article/WORD/20060622/118449/、2006年6月22日(掲載日) ・甲第B4号証:「世界の炭素繊維・応用製品の市場実態と展望2017」、株式会社シーエムリサーチ、2016年10月31日第1刷発行、p.24 以下、「甲第B1号証」ないし「甲第B4号証」を、「甲B1」ないし「甲B4」という。 第4 当審の判断 以下に述べるとおり、当審は、申立人A及びBが申し立てる申立理由はいずれもその理由がないものと判断する。 1 申立人Aが申し立てた申立理由について (1)主な証拠の記載事項等 ア 甲A1に記載された事項等 (ア)甲A1に記載された事項 甲A1には、「複合材中間材料の製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。 ・「【請求項1】 マトリックス樹脂および炭素繊維を含む複合材から再生させた再生炭素繊維を、スクリュ式混練押出機によりベース樹脂と混練させて製造する複合材中間材料の製造方法であって、 炭素繊維質量の1重量%以上4重量%以下の含有量で、前記マトリックス樹脂の残渣または表面処理剤の少なくとも一方を備えた再生炭素繊維を用いる複合材中間材料の製造方法。」 ・「【0010】 本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、再生炭素繊維を用いたとしても、複合材としたときに所望の強度特性を維持できる複合材中間材料の製造方法を提供することを目的とする。」 ・「【0022】 〔第1実施形態〕 本実施形態では、図1に示すスクリュ式混練押出機を用いて複合材用ペレット(複合材中間材料)を製造する。スクリュ式混練押出機1は、混練容器2、冷却水槽3、搬送機構4および切断機(ペレタイザー)5を備えている。混練容器(シリンダ)2は、原料投入口(ホッパー)6、スクリュ7および混練物出口8を備えている。ホッパー6は1つまたは複数あってよい。 【0023】 本実施形態では、ホッパー6にベース樹脂および再生炭素繊維を投入する。スクリュ7を回転させ、ベース樹脂を溶融させながら、ベース樹脂と再生炭素繊維とを混練する。混練物9を混練物出口8から押し出し、棒状に引き伸ばしながら搬送機構4により冷却水槽3へと導く。冷却水槽3において混練物9は冷却され、ベース樹脂が固まる。ベース樹脂が固まった混練物9をペレタイザー5に導き、適当な長さに切断する。これにより、再生炭素繊維を含む複合材用ペレット(複合材中間材料)10が得られる。ホッパー6が複数ある場合には、再生炭素繊維は、ベース樹脂と別のホッパー6から投入してもよい。 【0024】 混練容器2内でスクリュ7を回転させると、混練容器2との間で摩擦が発生し、ベース樹脂にせん断力が付与される。これにより、自己発熱が生じ、ベース樹脂が溶融される。スクリュ式混練押出機1は、ヒーターと比べ、容易にかつ低エネルギーでベース樹脂を溶融させられる。スクリュ式混練押出機1は、搬送機構4も合わせ持つことから、非常に効率(仕事率)が良く、大量生産に向いている。」 ・「【0028】 <試験1> (ペレット製造) 上記実施形態に従い、ベース樹脂および再生炭素繊維を含む複合材用ペレット(実施例1〜4、比較例1〜3)を製造した。複合材ペレット中の再生炭素繊維の含有量は、20重量%とした。ベース樹脂には、ポリアミド(PA12、ダイセルポリマー社製)を使用した。 【0029】 実施例1〜4では、樹脂残渣量が異なる再生炭素繊維を使用した。ここで樹脂(マトリックス樹脂)は、エポキシ樹脂である。 比較例1では、再生炭素繊維の代わりにバージン炭素繊維(東レ株式会社製、T700)を使用した。 比較例2では、炭素繊維を使用せず、ベース樹脂のみとした。 比較例3では、樹脂残渣量が1重量%未満の再生炭素繊維を使用した。 【0030】 実施例1〜4および比較例1,2は、ペレット化できた。特に実施例4、比較例1,2は、良好にペレット化できた。比較例3はペレット化が困難であった。 【0031】 (引張強度) 実施例1〜4および比較例1,2の複合材用ペレットを射出成形機に投入し、試験片を射出成形した(JIS(日本工業規格) K7162に準拠)。各試験片の引張強度を測定した。 【0032】 表1に、ペレット化および引張試験の結果を示す。表1において「良好」は「良」よりもペレット化しやすかったことを意味する。「○」は総合評価が高く、「×」は総合評価が低いことを意味する。図2は、引張強度の結果を示すグラフである。同図において、縦軸は引張強度(MPa)であり、横軸では実施例1〜4について樹脂残渣量で示している。 【0033】 【表1】 【0034】 実施例1〜3の引張強度は、バージン炭素繊維を用いた比較例1と同程度であった。実施例4(樹脂残渣量14%)の引張強度は、樹脂のみ(比較例2)の試験片よりも高かったが、比較例1よりも低くなった。この結果から、樹脂残渣量が多すぎると複合材としたときに引張強度が低下すること、再生炭素繊維の樹脂残渣量が1重量%以上4重量%以下であれば、バージン炭素繊維を用いた場合と遜色ない引張強度を維持できることが確認された。 【0035】 マトリックス樹脂の残渣量を制御することで、再生炭素繊維を、嵩密度が高く、剛直なものにできる。このような再生炭素繊維を用いることで、混練押出機への安定供給が可能となり、ベース樹脂に絡みやすくなった結果、実施例1〜3で引張強度が維持されたものと考えられる。 【0036】 本実施形態によれば、原料(廃複合材)由来のマトリックス樹脂が所望量残った再生炭素繊維を用いることで、収束剤塗布工程および混練押出機投入時の工夫等の余分な工程が不要となる。マトリックス樹脂が所望量残った再生炭素繊維は、取扱い性がよく、ペレット製造を容易にする。これは再生炭素繊維の利用拡大につながる。再生炭素繊維の普及により、低コスト製造が可能となる。 【0037】 4重量%以下であればマトリックス樹脂残渣が存在しても、複合材としたときの強度特性は大きく低下せず、プロセス性も変わらない。」 (イ)甲A1に記載された発明 甲A1には、実施例4について着目すると、以下の発明が記載されていると認める。 「ポリアミド(PA12、ダイセルポリマー社製)及び再生炭素繊維を含み、 複合材用ペレット中の再生炭素繊維の含有量は20重量%であり、 再生炭素繊維の樹脂残渣量が14.0%であり、樹脂残渣となるマトリックス樹脂がエポキシ樹脂であり、 引張強度が71MPaである、複合材用ペレット。」(以下、「甲A1発明」という。) また、甲A1には、実施例4に係るペレットを第1実施形態に従い製造することが記載されており(【0028】)、第1実施形態において「スクリュ式混練押出機1は、混練容器2、冷却水槽3、搬送機構4および切断機(ペレタイザー)5を備えている。混練容器(シリンダ)2は、原料投入口(ホッパー)6、スクリュ7および混練物出口8を備えている。」(【0022】)こと、及び「ホッパー6にベース樹脂および再生炭素繊維を投入する。」ことが記載されている。 そうすると、甲A1には、以下の発明が記載されていると認める。 「スクリュ式混練押出機を備えているホッパーにベース樹脂及び再生炭素繊維を投入する工程を含む、甲A1発明の複合材用ペレットの製造方法。」(以下、「甲A1製法発明」という。) イ 甲A2に記載された事項 甲A2には、「プリプレグおよび成型体の製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。 ・「【0062】 炭素繊維29は、表面がサイジング剤で処理されている。マトリクス樹脂10と炭素繊維29との複合材料とした際に、サイジング剤が炭素繊維29の表面を覆っていることで、サイジング剤の置換基とマトリクス樹脂10の置換基とが相互作用し、マトリクス樹脂10と炭素繊維29の密着強度が上がると考えられる。その結果、得られるプリプレグ1の強度が向上すると考えられる。 【0063】 本実施形態のプリプレグ1においては、炭素繊維29を処理するサイジング剤は、エポキシ基を含有することが好ましい。プリプレグ1のマトリクス樹脂10がエポキシ樹脂を含むため、サイジング剤がエポキシ基を含有すると、マトリクス樹脂10と炭素繊維29とが相互作用し、マトリクス樹脂10と炭素繊維29とが強固に接着することが期待できる。また、サイジング剤とマトリクス樹脂10、とりわけエポキシ樹脂との相互作用、およびサイジング剤とマトリクス樹脂10とが反応することにより、プリプレグ1を硬化させて得られる成型体の物性が向上する。」 (2)申立理由A1(甲A1を主引例とする進歩性) ア 本件発明1について 本件発明1と甲A1発明を対比する。 甲A1発明の「ポリアミド(PA12、ダイセルポリマー社製)」及び「複合材用ペレット」は、本件発明1の「熱可塑性樹脂」及び「ペレット」に相当する。 甲A1発明の「再生炭素繊維」は、樹脂残渣量が14.0%であり、樹脂残渣となるマトリックス樹脂がエポキシ樹脂であるから、本件発明1の「前記再生炭素繊維が、エポキシ樹脂と炭素繊維の複合物」「であり、かつ、前記エポキシ樹脂由来の残渣を5質量%以上30質量%以下の割合で含」むとの特定事項を満たす。 甲A1発明は、ポリアミドと再生炭素繊維を混練した後に複合材用ペレットとすることは明らかであるから、ポリアミドと再生炭素繊維を混練したものは、本件発明1の「樹脂組成物」に相当する。 甲A1発明は、ポリアミド及び再生炭素繊維を含み、複合材用ペレット中の再生炭素繊維の含有量は20重量%であり、さらに、ポリアミド及び再生炭素繊維以外の成分の記載がないことから、ポリアミド100重量部に対する再生炭素繊維の含有量は「25重量部」(=100÷80×20)であり、本件発明1の「熱可塑性樹脂100質量部に対して、再生炭素繊維10〜70質量部」との特定事項を満たす。 そうすると、両者は次の点で一致する。 「熱可塑性樹脂100質量部に対して、 再生炭素繊維10〜70質量部と、 前記再生炭素繊維が、 エポキシ樹脂と炭素繊維の複合物であり、かつ、 前記エポキシ樹脂由来の残渣を5質量%以上30質量%以下の割合で含」む「樹脂組成物から形成されたペレット。」 そして、両者は次の点で相違する。 ・相違点A1−1 本件発明1は「熱可塑性樹脂と反応可能な官能基含有化合物0.1〜15質量部とを含み、前記官能基含有化合物が、エポキシ基を有する化合物であ」るのに対し、甲A1発明は、熱可塑性樹脂と反応可能な官能基含有化合物についての特定がない点。 ・相違点A1−2 エポキシ樹脂と炭素繊維の複合物である再生炭素繊維に関して、本件発明1は「焼成物」であるのに対し、甲A1発明はそのような特定がない点。 ・相違点A1−3 本件発明1は「4mm厚さのISO多目的試験片に成形したときのISO178に従った曲げ最大強さが130MPa以上である」のに対し、甲A1発明はそのような特定はない点。 ・相違点A1−4 本件発明1は「ペレット中の再生炭素繊維の数平均繊維長が100〜500μmである」のに対し、甲A1発明はそのような特定はない点。 そこで、相違点A1−1について検討する。 甲A2には、「炭素繊維29を処理するサイジング剤は、エポキシ基を含有することが好ましい」(【0063】)ことが記載されていることから、甲A2の記載からは、炭素繊維の表面をエポキシ基を含有するサイジング剤で処理することは、本件特許の優先日時点において公知の技術であったといえる。 なお、甲A3の公開日は令和2年12月10日であり、本件特許の優先日(令和2年12月9日)より後であるから、甲A3の記載からは本件特許の優先日時点における公知又は周知の技術を認めることはできない。 しかしながら、甲A1に記載された発明は、「再生炭素繊維を用いたとしても、複合材としたときに所望の強度特性を維持できる複合材中間材料の製造方法を提供する」(【0010】)ことを発明の課題とし、当該課題を解決するために「炭素繊維質量の1重量%以上4重量%以下の含有量で、前記マトリックス樹脂の残渣または表面処理剤の少なくとも一方を備えた再生炭素繊維を用いる」(請求項1)ことを発明特定事項として備えるものであり、さらに、甲A1には、「樹脂残渣量が多すぎると複合材としたときに引張強度が低下すること、再生炭素繊維の樹脂残渣量が1重量%以上4重量%以下であれば、バージン炭素繊維を用いた場合と遜色ない引張強度を維持できることが確認された。」(【0034】)ことも記載されている。 そうすると、甲A1には、甲A1発明において、「再生炭素繊維の樹脂残渣量が1重量%以上4重量%以下」の範囲外である「再生炭素繊維の樹脂残渣量が14.0%」の条件を変えずに、再生炭素繊維の樹脂残渣量以外の条件について最適化を図る動機付けとなる記載はないことから、甲A1発明に甲A2に記載された事項を適用し、さらに炭素繊維の表面をエポキシ基を含有するサイジング剤で処理しようとすることは、当業者といえども想到できない。 したがって、甲A1発明において、相違点A1−1に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものではない。 そして、本件発明1の奏する「熱可塑性樹脂と再生炭素繊維を用いた樹脂組成物について、機械的強度を向上させ、さらに、生産性に優れたものとすることが可能になった」(【0006】)という効果は、本件発明1の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲A1発明並びに甲A1、甲A2及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明2ないし15について 本件発明2ないし15は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て有するものである。 そして、上記アで検討したとおり、本件発明1は、甲A1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明である本件発明2ないし15は、甲A1発明並びに甲A1、甲A2及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件発明16について 本件発明16と甲A1製法発明とを対比すると、上記アと同様の相当関係が成り立ち、さらに、甲A1製法発明の「スクリュ式混練押出機に備えているホッパーにベース樹脂および再生炭素繊維を投入する」ことは、本件発明16の「再生炭素繊維を、押出機」に「供給すること」に相当し、甲A1製法発明の「複合材用ペレットの製造方法」は、ポリアミドと再生炭素繊維を混練した樹脂組成物から複合材用ペレットが製造されていることから、本件発明16の「樹脂組成物の製造方法」に相当する。 そうすると、両者は次の点で一致する。 「熱可塑性樹脂100質量部に対して、 再生炭素繊維10〜70質量部と、 前記再生炭素繊維が、 エポキシ樹脂と炭素繊維の複合物であり、かつ、 前記エポキシ樹脂由来の残渣を5質量%以上30質量%以下の割合で含む樹脂組成物の製造方法であり、 前記再生炭素繊維を、押出機から供給することを含む、 樹脂組成物の製造方法。」 そして、両者は次の点で相違する。 ・相違点A1−5 本件発明16は「熱可塑性樹脂と反応可能な官能基含有化合物0.1〜15質量部とを含み、前記官能基含有化合物が、エポキシ基を有する化合物であ」るのに対し、甲A1製法発明は、熱可塑性樹脂と反応可能な官能基含有化合物についての特定がない点。 ・相違点A1−6 エポキシ樹脂と炭素繊維の複合物である再生炭素繊維に関して、本件発明16は「焼成物」であるのに対し、甲A1製法発明はそのような特定がない点。 ・相違点A1−7 再生炭素繊維を、押出機から供給するに際し、本件発明16は「シリンダー途中のサイドフィーダー」から供給するのに対し、甲A1製法発明はそのような特定はない点。 そこで、相違点A1−5について検討すると、上記アの相違点A1−1と同旨であるから、上記アと同様に判断される。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明16は、甲A1製法発明並びに甲A1、甲A2及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 本件発明17について 本件発明17と甲A1製法発明とを対比すると、上記ア及びウと同様の相当関係が成り立ち、さらに、甲A1製法発明の「複合材用ペレットの製造方法」は、本件発明17の「ペレットの製造方法」に相当する。 そうすると、両者は次の点で一致する。 「熱可塑性樹脂100質量部に対して、 再生炭素繊維10〜70質量部と、 前記再生炭素繊維が、 エポキシ樹脂と炭素繊維の複合物であり、かつ、 前記エポキシ樹脂由来の残渣を5質量%以上30質量%以下の割合で含む樹脂組成物から形成されたペレットの製造方法であり、 前記再生炭素繊維を、押出機から供給することを含む、 ペレットの製造方法。」 そして、両者は次の点で相違する。 ・相違点A1−8 本件発明17は「熱可塑性樹脂と反応可能な官能基含有化合物0.1〜15質量部とを含み、前記官能基含有化合物が、エポキシ基を有する化合物であ」るのに対し、甲A1製法発明は、熱可塑性樹脂と反応可能な官能基含有化合物についての特定がない点。 ・相違点A1−9 エポキシ樹脂と炭素繊維の複合物である再生炭素繊維に関して、本件発明17は「焼成物」であるのに対し、甲A1製法発明はそのような特定がない点。 ・相違点A1−10 本件発明17は「ペレット中の再生炭素繊維の数平均繊維長が100〜500μmであ」るのに対し、甲A1製法発明はそのような特定はない点。 ・相違点A1−11 再生炭素繊維を、押出機から供給するに際し、本件発明17は「シリンダー途中のサイドフィーダー」から供給するのに対し、甲A1製法発明はそのような特定はない点。 そこで、相違点A1−8について検討すると、上記アの相違点A1−1と同旨であるから、上記アと同様に判断される。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明17は、甲A1製法発明並びに甲A1、甲A2及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 オ 申立理由A1についてのまとめ 上記アないしエのとおりであるから、申立理由A1はその理由がない。 2 申立人Bが申し立てた申立理由について (1)主な証拠の記載事項等 ア 甲B1に記載された事項等 (ア)甲B1に記載された事項 甲B1には、「炭素繊維集合体」に関して、おおむね次の事項が記載されている。 ・「【請求項1】 炭素繊維、繊維処理剤及び溶媒を混合して混合物を調製し、 前記混合物を、湿式押出造粒法により造粒する、 ことを特徴とする炭素繊維集合体の製造方法。 ・・・ 【請求項3】 前記繊維処理剤は、造粒促進剤、サイジング剤、集束剤のうちの少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の炭素繊維集合体の製造方法。 ・・・ 【請求項7】 前記炭素繊維は、リサイクル品又はリユース品であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の炭素繊維集合体の製造方法。 【請求項8】 母線の長さが平均1〜20mmの円柱形状を有する炭素繊維集合体であって、 複数の炭素繊維及び繊維処理剤からなり、 前記炭素繊維の全長は、前記母線の長さよりも短いことを特徴とする炭素繊維集合体。 ・・・ 【請求項10】 前記繊維処理剤は、造粒促進剤、サイジング剤、集束剤のうちの少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項8又は9に記載の炭素繊維集合体。 ・・・ 【請求項12】 前記炭素繊維は、リサイクル品又はリユース品であることを特徴とする請求項8〜11のいずれかに記載の炭素繊維集合体。 【請求項13】 請求項1〜7のいずれかに記載の方法で製造されたことを特徴とする炭素繊維集合体。」 ・「【0008】 そこで、本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたもので、気相法に代えて湿式押出造粒法を炭素繊維集合体の製造に適用することによって、繊維長分布が広いリサイクル炭素繊維に対しても、良好な円柱形状を保持しつつ、優れたフィーダーでの供給安定性や取扱性を有する炭素繊維集合体の製造方法を提供することを目的としている。 【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明者は、上記課題を解決するために、炭素繊維集合体の製造において湿式押出造粒法の適用について鋭意研究を行った結果、湿式押出造粒法に使用する原料として適切な繊維処理剤を用いることにより、繊維長分布が広いリサイクル炭素繊維に対しても、炭素繊維集合体を形成した際に、良好な形状保持能を発揮し、優れた取扱性が得られることを見出し、本発明の炭素繊維集合体の製造方法を発明するに至った。」 ・「【0030】 また、本発明に使用可能なサイジング剤としては、炭素繊維との密着性を向上させるエポキシ基、アミノ基、アミド基、ウレタン基、エステル基、ビニル基、(無水)カルボキシル基、水酸基などの官能基を有する樹脂、例えば、エポキシ樹脂(ビスフェノール型、ノボラック型、脂環族型、レゾール型、アミノ型、ビスフェノールF型、側鎖にグリシジル基を有するポリオレフィン系、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂など)、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、酸変性ポリオレフィン樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸樹脂、ポリエチレンオキシド樹脂(PEO)、ポリビニルピロリドン樹脂などまたはこれらの共重合樹脂、変性樹脂、及び混合物などが挙げられ、溶媒、好ましくはイオン交換水または脱イオン水、純水などの水に可溶または乳化剤、分散剤、界面活性剤などを用いてエマルジョン分散あるいはディスパージョン分散させるなどして液状にできる樹脂である。また、本発明においては、サイジング剤は単独で用いてもよく、反応性を抑制しない範囲内で他のサイジング剤を併用してもよい。」 ・「【実施例】 【0041】 次に、本発明の炭素繊維集合体の製造方法について、実施例を用いてさらに詳細に説明する。 <実施例1> 炭素繊維としては、ブロードな繊維長(平均繊維長約1.2mm)の解繊したリサイクル炭素繊維2次焼成品を用いた。まず、この炭素繊維500gを、繊維処理剤である酢酸ビニル樹脂系エマルジョン(商品名:ボンド木工用「605」、セメダイン社製、固形分比率25%)60g(炭素繊維比3%)、及び、溶媒である水300gとともに混合機に投入し、3分間撹拌させて上記材料を十分に混合した。次いで、直径0.8mmのスクリーン径に設定された押出造粒装置(商品名:ペレッターダブルEXDS60(横押出型)、不二パウダル社製)により、上記で得られた混合物を押出して造粒した。この造粒物を120℃の恒温槽内で5時間乾燥させて、直径0.8mm、長さ平均約1.5mmの円柱形状の炭素繊維集合体(平均繊維長約0.3mm)を得た。」 (イ)甲B1に記載された発明 甲B1には、実施例1について着目すると、以下の発明が記載されていると認める。 「ブロードな繊維長の解繊したリサイクル炭素繊維2次焼成品である炭素繊維500gを、繊維処理剤である酢酸ビニル樹脂系エマルジョン(商品名:ボンド木工用「605」、セメダイン社製、固形分比率25%)60g(炭素繊維比3%)、及び、溶媒である水300gとともに混合機に投入し、3分間撹拌させて上記材料を十分に混合し、次いで、直径0.8mmのスクリーン径に設定された押出造粒装置(商品名:ペレッターダブルEXDS60(横押出型)、不二パウダル社製)により、上記で得られた混合物を押出して造粒し、この造粒物を120℃の恒温槽内で5時間乾燥させて、得られる直径0.8mm、長さ平均約1.5mmの円柱形状の炭素繊維集合体。」(以下、「甲B1発明」という。) イ 甲B3に記載された事項 甲B3には、おおむね次の事項が記載されている。 ・「 」 ウ 甲B4に記載された事項 甲B4には、おおむね次の事項が記載されている。 ・「エポキシ樹脂はCFRPにおいて最も汎用性の広い樹脂であることから、現在生産されているCFRPの約60%に採用されており、CFRPの普及の伴いその需要量も多少は増える見込みではある。また現状、CFRPの複合材料として使われているエポキシ樹脂の量は12万トン/年程度である。」(24ページ28〜31行) (2)申立理由B4(甲B1を主引例とする新規性・進歩性) ア 本件発明1について 本件発明1と甲B1発明を対比する。 甲B1発明の「繊維処理剤である酢酸ビニル樹脂系エマルジョン(商品名:ボンド木工用「605」、セメダイン社製、固形分比率25%)」は、熱可塑性であることは明らかであるから、本件発明1の「熱可塑性樹脂」に相当する。 甲B1発明の「直径0.8mm、長さ平均約1.5mmの円柱形状の炭素繊維集合体」は、本件発明1の「ペレット」に相当する。 甲B1発明の「ブロードな繊維長の解繊したリサイクル炭素繊維2次焼成品である炭素繊維」は、本件発明1の「焼成物」である「再生炭素繊維」に相当する。 甲B1発明の「混合物」は、炭素繊維と酢酸ビニル樹脂系エマルジョンと水の混合物であるから、本件発明1の「樹脂組成物」に相当する。 そうすると、両者は次の点で一致する。 「熱可塑性樹脂に対して、 再生炭素繊維を含み、 前記再生炭素繊維が、焼成物であり、」 「樹脂組成物から形成されたペレット。」 そして、両者は次の点で相違する。 ・相違点B1−1 熱可塑性樹脂に対する再生炭素繊維の含有量について、本件発明1は「熱可塑性樹脂100質量部に対して、再生炭素繊維10〜70質量部」であるのに対し、甲B1発明はそのような特定はない点。 ・相違点B1−2 本件発明1は「熱可塑性樹脂と反応可能な官能基含有化合物0.1〜15質量部とを含み、前記官能基含有化合物が、エポキシ基を有する化合物であ」るのに対し、甲B1発明は、熱可塑性樹脂と反応可能な官能基含有化合物についての特定がない点。 ・相違点B1−3 焼成物である再生炭素繊維について、本件発明1は「エポキシ樹脂と炭素繊維の複合物」であり、かつ、「エポキシ樹脂由来の残渣を5質量%以上30質量%以下の割合で含」むのに対し、甲B1発明はそのような特定がない点。 ・相違点B1−4 本件発明1は「4mm厚さのISO多目的試験片に成形したときのISO178に従った曲げ最大強さが130MPa以上である」のに対し、甲B1発明はそのような特定はない点。 ・相違点B1−5 本件発明1は「ペレット中の再生炭素繊維の数平均繊維長が100〜500μmである」のに対し、甲B1発明はそのような特定はない点。 そこで、事案に鑑み相違点B1−3について検討する。 甲B1には、「炭素繊維は、リサイクル品又はリユース品である」(請求項7)ことが記載されているが、炭素繊維が「エポキシ樹脂と炭素繊維の複合物」であり、かつ、「エポキシ樹脂由来の残渣を5質量%以上30質量%以下の割合で含」むことについて記載されておらず、甲B1発明の「ブロードな繊維長の解繊したリサイクル炭素繊維2次焼成品である炭素繊維」が「エポキシ樹脂と炭素繊維の複合物」であり、かつ、「エポキシ樹脂由来の残渣を5質量%以上30質量%以下の割合で含」むことを示す証拠もない。 そうすると、相違点B1−3は実質的な相違点である。 ここで、申立人Bは申立書Bにおいて、「ここで、甲1号証では明示していないが、炭素繊維を用いた炭素繊維強化樹脂(FRP)のための樹脂としては、一般的にエポキシ樹脂が用いられており、したがってリサイクル炭素繊維の残留炭素は、一般的にエポキシ樹脂由来の残留炭素である。これについては、下記で引用する甲3号証及び甲4号証に記載のとおり。・・・ したがって、甲1号証には、表面にエポキシ樹脂系の処理剤又は収束剤が付着したリサイクル炭素繊維集合体であって、エポキシ樹脂に由来する残留炭素量10%前後のリサイクル炭素繊維集合体が実質的に開示されている。」(31ページ13行〜32ページ19行)と主張している。 しかしながら、甲B3には「プラスチックとしては,熱硬化性樹脂のエポキシ樹脂が主流だが,ポリイミド系やPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)系も使われる。」と記載され、甲B4には「現在生産されているCFRPの約60%に採用されており」と記載され、甲B3及び甲B4からは、FRPのための樹脂としては、エポキシ樹脂が主流であることが示唆されているといえると同時に、エポキシ樹脂以外の樹脂を用いることも示唆されているといえる。 そうすると、甲B3及び甲B4の記載をみても、甲B1発明の「ブロードな繊維長の解繊したリサイクル炭素繊維2次焼成品である炭素繊維」が「エポキシ樹脂と炭素繊維の複合物」である蓋然性が高いとはいえず、さらには、「エポキシ樹脂由来の残渣を5質量%以上30質量%以下の割合で含」む蓋然性が高いともいえないことから、当該主張は採用することができない。 そして、本件発明の課題は、本件明細書の記載からみて、「熱可塑性樹脂と再生炭素繊維を用いた樹脂組成物について、機械的強度を向上させ、さらに、生産性に優れたものとすることを目的とする」(【0003】)ことであって、さらに、「再生炭素繊維が、エポキシ樹脂と炭素繊維の複合物の焼成物であり、かつ、エポキシ樹脂由来の残渣を5質量%以上の割合で含むものである。かかる再生炭素繊維を用いることにより、環境適性に優れ、かつ、機械的強度などの各種特性および生産性良好な熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。」(【0032】)ことが記載されている。 しかしながら、甲B1には、「気相法に代えて湿式押出造粒法を炭素繊維集合体の製造に適用することによって、繊維長分布が広いリサイクル炭素繊維に対しても、良好な円柱形状を保持しつつ、優れたフィーダーでの供給安定性や取扱性を有する炭素繊維集合体の製造方法を提供すること」(【0008】)を発明の課題とすることが記載されているが、炭素繊維が複合物であること及び炭素繊維の樹脂残渣については何ら記載されておらず、機械的強度などの各種特性及び生産性良好な熱可塑性樹脂組成物を得る観点から、炭素繊維を複合物とすること及び炭素繊維の樹脂残渣を調整することは、何ら記載も示唆もされていない。 そうすると、甲B1には、甲B1発明において、相違点B1−3に係る本件発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の提出された証拠にもそのような記載はない。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲B1発明並びに甲B1及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明2ないし15について 本件発明2ないし15は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て有するものである。 そして、上記アで検討したとおり、本件発明1は、甲B1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明である本件発明2ないし15は、甲B1発明並びに甲B1及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 申立理由B4についてのまとめ 上記ア及びイのとおりであるから、申立理由B4はその理由がない。 (3)申立理由B1(実施可能要件)について ア 実施可能要件の判断基準 上記第2のとおり、本件発明1ないし15は物の発明であるところ、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、物の発明にあっては、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産でき、かつ、使用できる程度の記載があることを要する。また、本件発明16及び17は物を生産する方法であるところ、物を生産する方法の発明にあっては、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用し、その方法により生産した物の使用等をできる程度の記載があることを要する。 そこで、検討する。 イ 判断 本件特許の発明の詳細な説明には、本件発明1ないし15の物について、ペレットを形成する樹脂組成物が具体的に記載され(【0010】ないし【0068】)、樹脂組成物の物性についてもその測定方法を含めて記載されている(【0065】ないし【0068】及び【0077】ないし【0087】)。 また、本件特許の発明の詳細な説明には、本件発明16及び17の物を生産する方法について、樹脂組成物の製造方法が具体的に記載され(【0069】)、樹脂組成物の一例がペレットであることが記載されている(【0070】)。 そして、本件特許の発明の詳細な説明には、本件発明の実施例である実施例1ないし6についても、その製造方法を含め具体的に記載されている(【0073】ないし【0091】)。 したがって、本件発明1ないし15について、発明の詳細な説明に、当業者が、明細書及び図面の記載並びに本件出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産でき、かつ、使用できる程度の記載があるといえるし、本件発明16及び17について、発明の詳細な説明に、当業者が、明細書及び図面の記載並びに本件出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用し、その方法により生産した物の使用等をできる程度の記載があるといえる。 よって、本件発明1ないし17に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合する。 ウ 申立人Bの主張について 申立人Bは、上記第3 2(1)のとおり主張するが、上記イで述べたとおり、当業者であれば、本件特許の発明の詳細な説明の記載から、本件発明1ないし13のペレット並びに本件発明14及び15の成形品が得られるものと理解でき、また、本件発明16及び17の製造方法を実施できるものと理解できる。 そして、エポキシ樹脂由来の残渣とは別に、官能基含有化合物を再生炭素繊維の表面に処理剤又は収束剤として新たに付着させた再生炭素繊維を使用する態様が本件発明に包含されるか否かによって、上記実施可能要件の判断は影響されない。 エ 申立理由B1についてのまとめ 上記イ及びウのとおりであるから、申立理由B1はその理由がない。 (4)申立理由B2(サポート要件)について ア サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 そこで、検討する。 イ サポート要件の判断 本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。 本件特許の発明の詳細な説明の【0002】ないし【0004】によると、本件発明の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は「熱可塑性樹脂と再生炭素繊維を用いた樹脂組成物について、機械的強度を向上させ、さらに、生産性に優れたものとすることであり、さらに、前記樹脂組成物から形成されたペレット、成形品、および、樹脂組成物の製造方法を提供すること」である。 そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0008】及び【0009】には、「樹脂組成物の機械的強度を向上させ、かつ、生産性を向上させるメカニズム」として、「本実施形態では、官能基含有化合物を溶融混練時に添加することにより、同化合物が再生炭素繊維の表面処理剤として機能し、樹脂との親和性を向上させ、結果として機械的強度の改善を果たしたものと推定される。また、再生炭素繊維として、その表面にエポキシ樹脂由来の残渣が一定量以上残っているものを用いることにより、かかるエポキシ樹脂由来の残渣が収束剤として働き、生産性の改善が図られている。」と記載され、同【0032】には、「再生炭素繊維が、エポキシ樹脂と炭素繊維の複合物の焼成物であり、かつ、エポキシ樹脂由来の残渣を5質量%以上の割合で含むものである。かかる再生炭素繊維を用いることにより、環境適性に優れ、かつ、機械的強度などの各種特性および生産性良好な熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。」と記載され、同【0039】には、「本実施形態の樹脂組成物における再生炭素繊維の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、10質量部以上であり、11質量部以上であることが好ましく、12質量部以上であることがより好ましく、さらには用途等に応じて、15質量部以上、20質量部以上、25質量部以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、良好な強度向上効果および電磁波シールド性向上効果が得られる。また、本実施形態の樹脂組成物における再生炭素繊維の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、70質量部以下であり、60質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましく、40質量部以下であることがさらに好ましく、35質量部以下であることが一層好ましく、さらには、用途等に応じて、25質量部以下、20質量部以下、17質量部以下、16質量部以下であってもよい。」と記載され、同【0042】には、「本実施形態では、官能基含有化合物が表面処理剤の代わりの役割を果たし、機械的強度を向上させていると推測される。」と記載されており、官能基含有化合物を添加すること及び特定の再生炭素繊維を所定質量部含むことの技術的意味が具体的に記載されている。 さらに、本件特許の発明の詳細な説明の【0073】ないし【0091】には、「官能基含有化合物」及び「エポキシ樹脂と炭素繊維の複合物の焼成物であり、かつ、前記エポキシ樹脂由来の残渣を5質量%以上30質量%以下の割合で含」む「再生炭素繊維」を「熱可塑性樹脂100質量部に対して、10〜70質量部」含有する樹脂組成物から形成された本件発明に係る実施例1ないし6のペレットが、生産性、機械的強度判定、電磁波シールド性及び環境適正の評価がいずれも「A」であり、「エポキシ樹脂と炭素繊維の複合物の焼成物であり、かつ、前記エポキシ樹脂由来の残渣を5質量%以上30質量%以下の割合で含」む「再生炭素繊維」を含有しない比較例1,3,4及び7のペレット、「官能基含有化合物」を含有しない比較例2及び4のペレット、「再生炭素繊維」の含有量が「熱可塑性樹脂100質量部に対して、10〜70質量部」の範囲外である比較例5及び6のペレットと比べて、生産性、機械的強度判定、電磁波シールド性及び環境適正が優れていることを確認する記載もある。 そうすると、当業者は、ペレットを形成する樹脂組成物が「官能基含有化合物」及び「エポキシ樹脂と炭素繊維の複合物の焼成物であり、かつ、前記エポキシ樹脂由来の残渣を5質量%以上30質量%以下の割合で含」む「再生炭素繊維」を「熱可塑性樹脂100質量部に対して、10〜70質量部」含有することにより、発明の課題を解決できると認識でき、本件発明1ないし17は、当該樹脂組成物、樹脂組成物から形成されたペレット、それから成形された成形品、及びそれらの製造方法についてさらに限定したものである。 したがって、本件発明1ないし17は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件発明1ないし17に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。 ウ 申立人Bの主張について 申立人Bは、上記第3 2(2)のとおり主張するが、「本願発明の意図する効果が得られることを当業者が理解できない」ことについて、何ら具体的な証拠を示していないことから、上記イの判断に影響するものではない。 エ 申立理由B2についてのまとめ 上記イ及びウのとおりであるから、申立理由B2はその理由がない。 (5)申立理由B3(明確性要件)について ア 明確性要件の判断基準 特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 そこで、検討する。 イ 明確性要件の判断 本件特許の請求項1ないし17の記載は、上記第2のとおりであり、それ自体に不明確な記載はなく、明細書の記載とも整合する。 したがって、本件発明1ないし17に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 ウ 申立人Bの主張について 申立人Bは、上記第3 2(3)のとおり主張するが、上記イで述べたとおり、本件特許の特許請求の範囲の記載は明確であり、エポキシ樹脂由来の残渣とは別に、官能基含有化合物を再生炭素繊維の表面に処理剤又は収束剤として新たに付着させた再生炭素繊維を使用する態様が本件発明に包含されるか否かによって、上記明確性要件の判断は影響されない。 エ 申立理由B3についてのまとめ 上記イ及びウのとおりであるから、申立理由B3はその理由がない。 第5 結語 上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし17に係る特許は、申立書A及びBに記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2023-12-15 |
出願番号 | P2022-515600 |
審決分類 |
P
1
651・
536-
Y
(C08L)
P 1 651・ 537- Y (C08L) P 1 651・ 113- Y (C08L) P 1 651・ 121- Y (C08L) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
藤原 浩子 |
特許庁審判官 |
瀧澤 佳世 ▲吉▼澤 英一 |
登録日 | 2023-01-17 |
登録番号 | 7212816 |
権利者 | 三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 株式会社新菱 |
発明の名称 | 樹脂組成物、ペレット、成形品、および、樹脂組成物の製造方法 |
代理人 | 弁理士法人特許事務所サイクス |
代理人 | 弁理士法人特許事務所サイクス |