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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01S
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01S
管理番号 1406335
総通号数 26 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2024-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-10-12 
確定日 2024-01-04 
事件の表示 特願2020−506788「センシングデバイスのための保護ハウジング」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 2月14日国際公開、WO2019/030106、令和 2年10月15日国内公表、特表2020−530117〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)8月2日を国際出願日とする外国語特許出願であって(パリ条約による優先権主張 2017年8月7日 欧州特許庁)、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。

令和 2年 3月25日 :翻訳文の提出
令和 4年 2月25日付け:拒絶理由通知書
同年 5月23日 :意見書、手続補正書の提出
同年 6月17日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同月24日 :原査定の謄本の送達)
同年10月12日 :審判請求書、手続補正書の提出



第2 令和4年10月12日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年10月12日にされた手続補正を却下する。

[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の内容
令和4年10月12日にされた補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について補正するものであって、次の(1)に示す本件補正前(令和4年5月23日にされた手続補正後をいう。以下同じ。)の特許請求の範囲の請求項3のうち請求項1の記載を引用するものを、後記の(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載に補正することを含むものである。下線は、補正箇所を示す。
(1) 本件補正前の請求項1〜請求項3
「【請求項1】
a.LiDARセンシングデバイス、及び
b.前記LiDARセンシングデバイスを包囲し、且つ少なくとも1つのカバーレンズを含む保護ハウジング
を含む検出デバイスにおいて、前記カバーレンズの少なくとも一部分は、750〜1650nmの波長範囲において5m−1未満の吸収係数を有する少なくとも1つのガラスシートから作られていることを特徴とする検出デバイス。
【請求項2】
(省略)
【請求項3】
400〜700nmの可視波長範囲における前記ガラスシートの光透過率は、750〜1650nmの近赤外線透過波長範囲における光透過率より低い、請求項1又は2に記載の検出デバイス。」
(2) 本件補正後の請求項1
「【請求項1】
a.LiDARセンシングデバイス、及び
b.前記LiDARセンシングデバイスを包囲し、且つ少なくとも1つのカバーレンズを含む保護ハウジング
を含む検出デバイスにおいて、前記カバーレンズの少なくとも一部分は、750〜1650nmの波長範囲において5m−1未満の吸収係数を有する少なくとも1つのガラスシートから作られていること、及び400〜700nmの可視波長範囲における前記ガラスシートの光透過率は、10%より低く、750〜1650nmの近赤外線透過波長範囲における前記ガラスシートの光透過率は、50%より高いことを特徴とする検出デバイス。」

2 本件補正の目的
本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項3のうちの請求項1の記載を引用するものに対応し、本件補正後の請求項1に係る補正は、本件補正前の請求項3に記載された「400〜700nmの可視波長範囲における前記ガラスシートの光透過率」及び「750〜1650nmの近赤外線透過波長範囲における前記ガラスシートの光透過率」について、それぞれ、前者は10%より低いことを限定するとともに、後者は50%より高いことを限定するものである。
そして、本件補正前の請求項3に記載された発明と、本件補正後の請求項1に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
したがって、本件補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件についての当審の判断
本件補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するから、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下検討を行う。

(1) 本件補正発明
本件補正発明は、前記1(2)に摘記した本件補正後の請求項1に記載された事項により特定されるものである。

(2) 引用発明、技術事項及び技術常識の認定
ア 引用文献1に記載された事項及び引用発明の認定
(ア) 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された文献である特開平9−311181号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている(下線は合議体が付した。以下同様である。)。

a 【0009】−【0012】、図1−図6
「【0009】
【発明の実施の形態】以下、本発明の一実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係る車両用レーダ装置Rのブロック構成を示している。レーダ装置Rは、図2にて示すごとく当該車両(以下、車両Aという)の前側下部に設けた凹所Aa内に装着されており、このレーダ装置Rは、その出射面を構成するカバーガラスGを通し前方車両(以下、車両Bという)の後部に向けてレーザ光を出射し、車両Bからの反射レーザ光をカバーガラスGを通して受光するように構成されている。」
「【図1】


「【図2】


「【0010】レーダ装置Rは、図3にて示すごとく、ケーシング10を備えており、このケーシング10は、ケーシング部材10aの下方開口部に形成した環状フランジ11(図4参照)に環状パッキングを介し底板10bを複数のねじ10cの締着により組み付けて構成されている。ケーシング10は、その底板10bにて、車両Aの凹所Aaの底壁上に固定されており、ケーシング部材10aは、その上壁12に支持したブラケット13(図4乃至図6参照)により、凹所Aaの上壁に固定されている。また、ケーシング部材10aの前側開口部14には、上述したカバーガラスGが環板状の固定部材14aにより液密的に装着されている。なお、図3及び図5にて、符号20、30はコネクタを示す。また、ケーシング10の内表面は例えばアルミニウムにより形成されており、このケーシング10の外表面には黒色塗装が施されている。
【0011】また、レーダ装置Rは、図1にて示すごとく、ケーシング10内に配設した発光回路40、掃引機構50、投光レンズ60、発光モニター回路70、掃引モニター回路80を備えている。発光回路40は、レーザダイオード41と、このレーザダイオード41を駆動するレーザダイオード駆動回路42とにより構成されている。レーザダイオード駆動回路42は、後述するマイクロコンピュータ160による制御を受けてレーザダイオード41を駆動する。これにより、レーザダイオード41は、レーザ光をパルス状に発光する。なお、このレーザ光は、例えば、860nm程度の近赤外線である。」
【0012】ここで、レーザダイオード41は、図3にて示すごとく、ケーシング10の内部の左側にて支持部材16により支持されており、このレーザダイオード41は、支持部材16の筒状開口部16aを通して右方へレーザ光を発光するようになっている。掃引機構50は、図3にて示すごとく、筒状開口部16aの右側に配設した回動ミラー51を備えており、この回動ミラー51は、ケーシング10内にて鉛直軸(図示しない)により左右方向に回動可能に軸支した板状固定具52の前側開口部内に固定されている。これにより、回動ミラー51は、左右方向に回動しながら、その反射面51aにてレーザダイオード41からのレーザ光を掃引しつつ投光レンズ60に向けて反射する。」
「【図3】


「【図4】


「【図5】


「【図6】



b 【0014】
「【0014】モータ駆動回路53は、マイクロコンピュータ160による制御を受けてモータMを駆動する。投光レンズ60は、図1及び図3にて示すごとく、凸レンズからなるもので、この投光レンズ60は、カバーガラスGと回動ミラー51との間に位置している。しかして、この投光レンズ60は、回動ミラー51の反射レーザ光を受けてカバーガラスGを通して前方に出射する。」

c 【0018】−【0021】
「【0018】しかして、掃引モニター回路80は、上記直流電源からの直流電圧+Vcのもと、抵抗82を通し流れる受光素子81の受光電流に応じ、受光素子81と抵抗82との共通端子から掃引モニター電圧を発生する。また、レーダ装置Rは、ケーシング10内に配設した受光レンズ90、受光回路100、信号処理回路110、受光モニター回路120、発光素子駆動回路130、温度センサ140、結露センサ150及びマイクロコンピュータ160を備えている。
【0019】受光レンズ90は、図1及び図3にて示すごとく、例えば、フレネルレンズからなるもので、この受光レンズ90は、カバーガラスGの内側及び投光レンズ60の右方にて、支持部材17によりケーシング10内に支持されている。しかして、この受光レンズ90は、車両Aの前方からの反射レーザ光をカバーガラスGを通して受け、支持部材17の後壁開口部17aに向け投光させる。なお、受光レンズ90と投光レンズ60との間は、支持部材17の隔壁17bにより隔離されている。
【0020】受光回路100は、図3にて示すごとく、支持部材17の後壁開口部17aの直後にて配線基板18に装着されている。この受光回路100は、図1にて示すごとく、フォトトランジスタからなる受光素子101と抵抗102との直列回路により構成されており、受光素子101は、その受光部にて、受光レンズ90からレーザ光を直接受光して受光電流を発生する。
【0021】しかして、受光回路100は、上記直流電源からの直流電圧+Vcのもと、抵抗102を通し流れる受光素子101の受光電流に応じ、受光素子101と抵抗102との共通端子から受光電圧を発生する。信号処理回路110は、受光回路100の受光電圧を処理して処理電圧を発生する。」

d 【0024】、【0030】
「【0024】マイクロコンピュータ160は、図7乃至図9にて示すフローチャートに従いコンピュータプログラムを実行し、この実行中において、信号処理回路110の出力に基づく測距処理、発光回路40、掃引機構50、受光回路100の異常判定処理、ケーシング10内の結露判定処理及び各警報処理を行う。車速コントローラ170は、マイクロコンピュータ160の測距処理に基づき当該車両の車速を制御する。接近警報機180は、マイクロコンピュータ160の測距処理に基づき車両Bに対する接近警報を報知する。異常警報機190は、マイクロコンピュータ160からの異常判定処理及び警報処理に基づき異常警報を報知する。なお、操作スイッチSWは、レーダ装置による測距を必要とするとき操作されてマイクロコンピュータ160に対し測距指令を出す。」
「【0030】その後、出射レーザ光が車両Bにより反射されると、この反射レーザ光がカバーガラスG及び受光レンズ90を通り受光素子101により受光される。ついで、受光回路100がこの受光素子101からその受光により生ずる受光電流に基づき受光電圧を発生し、信号処理回路110が当該受光電圧を信号処理してマイクロコンピュータ160に出力する。これにより、車両Aと車両Bとの間隔や車速等の測距処理がなされる。」

e 【0041】
「【0041】なお、本発明の実施にあたっては、レーダ装置を例えば車両の後部に配設してもよい。また、本発明の実施にあたっては、上記カバーガラスGや透光レンズ60、受光レンズ90を、860nm程度の近赤外線を透過し可視光(例えば、400乃至700nm程度)を遮断する材料により形成したり、この材料によりカバーガラスGや透光レンズ60、受光レンズ90の表面を蒸着したりすれば、ケーシングの内側を外部から見えないようにしたり、ケーシング内に余分な光を入射出射させないようにすることができる。」

(イ) 引用発明の認定
a 引用文献1の「カバーガラスG」は、「(レーザ光の)出射面を構成する[こと]」(段落【0009】参照)及び「ケーシング部材10aの前側開口部14には、カバーガラスGが環板状の固定部材14aにより液密的に装着されている[こと]」(段落【0010】参照)並びに【図3】の「G」で示された部材の形状を参酌すると、「カバーガラスG」は平板状であることが理解できる。

b 前記(ア)において摘記した事項及び前記aにおいて認定した事項を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明]
「車両Aに装着され、出射面を構成するカバーガラスGを通し前方車両Bの後部に向けてレーザ光を出射し、前方車両Bからの反射レーザ光をカバーガラスGを通して受光するように構成されたレーダ装置Rであって、(【0009】、図2)
車両Aと前方車両Bとの間隔や車速等の測距処理をするものであり、(【0030】)
ケーシング10を備えており、このケーシング10は、ケーシング部材10aの下方開口部に形成した環状フランジ11に環状パッキングを介し底板10bを複数のねじ10cの締着により組み付けて構成されており、(【0010】)
ケーシング部材10aの前側開口部14には、カバーガラスGが環板状の固定部材14aにより液密的に装着されており、(【0010】)
カバーガラスGは、平板状であり、(前記aにおける認定事項)
ケーシング10内に配設した発光回路40、掃引機構50、投光レンズ60を備え、(【0011】)
ケーシング10内に配設した受光レンズ90、受光回路100、信号処理回路110及びマイクロコンピュータ160を備えており、(【0018】)
発光回路40は、レーザダイオード41と、このレーザダイオード41を駆動するレーザダイオード駆動回路42とにより構成され、レーザダイオード41は、レーザ光をパルス状に発光するものであり、このレーザ光は、例えば、860nm程度の近赤外線であり、(【0011】)
掃引機構50は回動ミラー51を備え、回動ミラー51は、左右方向に回動しながら、その反射面51aにてレーザダイオード41からのレーザ光を掃引しつつ投光レンズ60に向けて反射するものであり、(【0012】)
投光レンズ60は、回動ミラー51の反射レーザ光を受けてカバーガラスGを通して前方に出射するものであり、(【0014】)
受光レンズ90は、車両Aの前方からの反射レーザ光をカバーガラスGを通して受けるものであり、(【0019】)
受光回路100は、フォトトランジスタからなる受光素子101と抵抗102との直列回路により構成されており、(【0020】)
しかして、受光回路100は、受光電圧を発生するものであり、(【0021】)
信号処理回路110は、受光回路100の受光電圧を処理して処理電圧を発生するものであり、(【0021】)
マイクロコンピュータ160は、信号処理回路110の出力に基づく測距処理を行うものであり、(【0024】)
カバーガラスGや透光レンズ60、受光レンズ90を、860nm程度の近赤外線を透過し可視光(例えば、400乃至700nm程度)を遮断する材料により形成し、ケーシングの内側を外部から見えないようにしたり、ケーシング内に余分な光を入射出射させないようにしたりした、(【0041】)
レーダ装置R。」

イ 引用文献2に記載された事項及び技術常識1の認定
(ア) 引用文献2に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された文献である国際公開第2016/202689号(以下「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。括弧内に当該国際公開の対応する公表特許公報である特表2018−517656号の日本語文を示した。
a 4頁25行−5頁4行
「 3. Objectives of the invention
The objective of the invention, in at least one of its embodiments, is to provide a glass sheet with a high transmission of infrared radiation. In particular, it is an objective of the invention to provide a glass sheet with a high transmission of near infrared radiation, in particular in the range of wavelengths from 780 to 1200 nm and more particularly from 850 to 1050 nm.
Another objective of the invention, in at least one of its embodiments, is to provide a glass sheet with an attractiveness/colour/opacity suitable for the application chosen and/or market demand, while having a very good transmission of infrared radiation.」
(本発明の目的は、その実施形態の少なくとも1つにおいて、高い赤外線透過を有するガラスシートを提供することである。特に本発明の目的は、特に780〜1200nm、より特には、850〜1050nmの波長範囲において、高い近赤外線透過を有するガラスシートを提供することである。
本発明の別の目的は、その実施形態の少なくとも1つにおいて、非常に良好な赤外線透過を有しながら、選択される用途および/または市場要求のために適切な魅力/色/不透明度を有するガラスシートを提供することである。)

b 22頁22行−23頁14行
「 According to the first main embodiment of the invention, the glass sheet has a coefficient of absorption at the wavelengths of 1050, 950 and 850 nm which is lower than that of a "clear" glass from the prior art or even of an "extra-clear" glass from the prior art.
Advantageously, the glass sheet according to the first main embodiment of the invention has a coefficient of absorption at the wavelength of 1050 nm of less than 5 m-1. Preferably, it has a coefficient of absorption at the wavelength of 1050 nm of less than or equal to 2 m-1. Very preferably, it has a coefficient of absorption at the wavelength of 1050 nm of less than or equal to 1 m-1.
Advantageously again, the glass sheet according to the first main embodiment of the invention has a coefficient of absorption at the wavelength of 950 nm of less than 5 m-1. Preferably, it has a coefficient of absorption at the wavelength of 950 nm of less than or equal to 2 m-1. Very preferably, it has a coefficient of absorption at the wavelength of 950 nm of less than or equal to 1 m-1.
Advantageously again, the glass sheet according to the first main embodiment of the invention has a coefficient of absorption at the wavelength of 850 nm of less than 5 m-1. Preferably, it has a coefficient of absorption at the wavelength of 850 nm of less than or equal to 2 m-1. Very preferably, it has a coefficient of absorption at the wavelength of 850 nm of less than or equal to 1 m-1.」
(本発明の第1の主要な実施形態によると、ガラスシートは、波長1050、950および850nmで、従来技術の「透明」ガラスの、または従来技術の「エクストラ−クリア」ガラスの吸収係数より低い吸収係数を有する。
有利には、本発明の第1の主要な実施形態によるガラスシートは、波長1050nmで5m−1未満の吸収係数を有する。好ましくは、波長1050nmで2m−1以下の吸収係数を有する。非常に好ましくは、波長1050nmで1m−1以下の吸収係数を有する。
再び有利には、本発明の第1の主要な実施形態によるガラスシートは、波長950nmで5m−1未満の吸収係数を有する。好ましくは、波長950nmで2m−1以下の吸収係数を有する。非常に好ましくは、波長950nmで1m−1以下の吸収係数を有する。
再び有利には、本発明の第1の主要な実施形態によるガラスシートは、波長850nmで5m−1未満の吸収係数を有する。好ましくは、波長850nmで2m−1以下の吸収係数を有する。非常に好ましくは、波長850nmで1m−1以下の吸収係数を有する。)

(イ) 技術常識1の認定
前記(ア)において摘記した引用文献2の記載事項の例を挙げるまでもなく、次の技術事項は、技術常識である(以下「技術常識1」という。)。
[技術常識1]
「所定の波長域で高い透過率を有するガラスシートを提供するためには、当該波長域で低い吸収係数を有するガラスシートを用いるとよいこと。」

ウ 引用文献3に記載された事項及び引用文献3技術事項の認定
(ア) 引用文献3に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された文献である特開2006−194639号公報(以下「引用文献3」という。)には、次の事項が記載されている。

a 【0019】−【0025】、図1
「【0019】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態のレーダ装置の概略構成を示す図である。本実施形態におけるレーダ装置は、走査エリアにおける物体との距離を測定する装置として構成されており、例えば警報すべき領域に障害物が所定の状況で存在する場合に警報を出力したり、先行車両に合わせて車速を制御したりする車両制御装置に適用される。本実施形態の特徴部分は、後述する透過窓部の外部表面への異物の付着を低減若しくは防止する点にあり、それ以外の構成については、公知の技術を適用することができるので、以下において詳しい説明は省略する。尚、図1においては、便宜上、本実施形態の特徴部分である付着防止手段(後述する)について省略している。
【0020】
図1に示すように、レーダ装置100は、発光部10、受光部20、及びレーザレーダCPU30を主要部とし、これらが筐体40の内部に配置されて構成されている。
【0021】
発光部10は、送信波を放射する素子として、パルス状のレーザ光(例えば赤外線波長域)を後述するスキャナを介して放射するレーザダイオード(以下LDと示す)11を有している。このLD11は、レーザダイオード駆動回路(以下LD駆動回路と示す)12を介してレーザレーダCPU30に接続されており、レーザレーダCPU30からの駆動信号により、レーザ光(図1において一点鎖線で図示)を放射(発光)する。
【0022】
スキャナ13には、ポリゴンミラー14が回転可能に設けられ、レーザレーダCPU30からの駆動信号がモータ駆動回路を介して入力されると、ポリゴンミラー14は、図示しないモータの駆動力により回転する。これにより、LD11から放射されたレーザ光は、所定角度の範囲で掃引照射(スキャン)される。本実施形態においては、車両の車幅の中心軸を中心として、車両前方の左右各々約7.8度のエリア内を順次走査する。その際、例えば105本のレーザ光ビームを0.15度毎に照射して、左方向から右方向へスキャンする。
【0023】
受光部20は、図示しない反射物体(例えば先行車両等)にて反射されたレーザ光(特許請求の範囲に示す反射波に相当する)を受光し、受光した光の強さ(強度)に対応する電圧を出力するフォトダイオード(以下PDと示す)21を有している。このPD21からの受光信号は、増幅回路22を介してレーザレーダCPU30に入力される。
【0024】
レーザレーダCPU30は、LD駆動回路12及びモータ駆動回路15を制御することによりLD11からレーザ光を放射して、その反射光を受信したPD21の受信信号から先行車両との距離や相対速度を算出する。また、これらの計算結果と、図示していない車速センサから出力された車速信号に基づく自車両の速度とから、先行車両との追突危険性を判断し、外部(例えばモニタやブザーといった報知手段)に警報信号を出力する。尚、レーザレーダCPU30と、発光部10、受光部20が特許請求の範囲に示すレーダ手段に相当する。
【0025】
また、筐体40には、スキャナ13を介してLD11から放射されたレーザ光と、反射物体による反射されたレーザ光を透過する透過窓部41が設けられている。尚、本実施形態においては、透過窓部41が、LD11からのレーザ光を透過する領域に設けられたカバーガラス41aと、反射されたレーザ光を透過する領域に設けられた受光レンズ41bとにより構成されている。尚、透過窓部41の構成は上記例に限定されるものではない。ともにカバーガラスであっても良いし、ともにレンズであっても良い。」
「【図1】



b 【0064】
「【0064】
また、本実施形態においては、透過窓部41がレーザ光を放射する側のカバーガラス41aと、反射光を入射する側の受光レンズ41bとにより構成される例を示した。しかしながら、透過窓部41の構成は上記例に限定されるものではない。例えば、2つの透過窓部41a,41bが1枚のカバーガラスにより構成されても良い。」

(イ) 引用文献3技術事項の認定
前記(ア)において摘記した事項から、引用文献3には、次の技術事項が記載されていると認められる(以下「引用文献3技術事項」という。)。
[引用文献3技術事項]
「発光部10、受光部20、及びレーザレーダCPU30を主要部とし、これらが筐体40の内部に配置されて構成されたレーダ装置100において、(【0020】)
筐体40には、反射物体による反射されたレーザ光を透過する透過窓部41であって、カバーガラス41a及び受光レンズ41bにより構成された透過窓部41が設けられており、(【0025】)
透過窓部41の構成は、ともにカバーガラスであっても良く、ともにレンズであっても良いこと。(【0025】、【0064】)」

(3) 対比
ア 対比分析
本件補正発明と引用発明を対比する。
(ア) 引用発明は、「車両Aに装着され、出射面を構成するカバーガラスGを通し前方車両Bの後部に向けてレーザ光を出射し、前方車両Bからの反射レーザ光をカバーガラスGを通して受光するように構成されたレーダ装置Rであって、」「車両Aと前方車両Bとの間隔や車速等の測距処理をするもの」であるところ、「車両Aと前方車両Bとの間隔や車速等の測距処理」は、前方車両Bの検出を伴うから、引用発明の「レーダ装置R」は、検出デバイスであるといえる。
したがって、「検出デバイス」の発明である本件補正発明と「レーダ装置R」の発明である引用発明は、「検出デバイス」の発明である点において一致する。

(イ) 引用発明の「車両Aに装着され、出射面を構成するカバーガラスGを通し前方車両Bの後部に向けてレーザ光を出射し、前方車両Bからの反射レーザ光をカバーガラスGを通して受光するように構成されたレーダ装置R」は、LiDARである。
そうすると、引用発明におけるセンシングデバイスである「発光回路40」、「掃引機構50」、「受光回路100」、「信号処理回路110」及び「マイクロコンピュータ160」は、本件補正発明における「LiDARセンシングデバイス」に相当する。
したがって、本件補正発明と引用発明は、次を備える点において一致する。
「LiDARセンシングデバイス」

(ウ)a 引用発明においては、「レーダ装置Rは、ケーシング10内に配設した発光回路40、掃引機構50、投光レンズ60を備え、」「ケーシング10内に配設した受光レンズ90、受光回路100、信号処理回路110及びマイクロコンピュータ160を備えて[いる]」ところ、「ケーシング10」が、その内部にある「発光回路40、掃引機構50、受光回路100、信号処理回路110及びマイクロコンピュータ160」(「LiDARセンシングデバイス」に相当する(前記(イ)参照)。)に対して、外部環境からもたらされる影響を低減し、これらの構成を保護する機能を有するものであることは、明らかである。
したがって、引用発明の「ケーシング10」は、本件補正発明の「前記LiDARセンシングデバイスを包囲[する]」「保護ハウジング」に相当する。
b 引用発明における「ケーシング10」の「ケーシング部材10a」の「前側開口部14」に「環板状の固定部材14aにより液密的に装着されて[いる]」「カバーガラスG」と、本件補正発明の「保護ハウジング」に含まれる少なくとも一つの「カバーレンズ」は、前記aの検討結果も踏まえると、「保護ハウジングに含まれる少なくとも一つのカバー部材」である点において共通する。
c 前記a及びbの検討結果をまとめると、本件補正発明と引用発明は、次を備える点において共通する。
「前記LiDARセンシングデバイスを包囲し、且つ少なくとも1つのカバー部材を含む保護ハウジング」

(エ)a 引用発明において「カバーガラスGは、平板状であ[る]」から、前記(ウ)bの検討結果も踏まえると、本件補正発明と引用発明は、次の点において共通する。
「前記カバー部材の少なくとも一部分は、少なくとも1つのガラスシートから作られている」点。
b そして、引用発明は、「カバーガラスGや透光レンズ60、受光レンズ90を、860nm程度の近赤外線を透過し可視光(例えば、400乃至700nm程度)を遮断する材料により形成し、ケーシングの内側を外部から見えないようにしたり、ケーシング内に余分な光を入射出射させないようにしたりした」ものであって、ここで「ケーシングの内側を外部から見えないようにしたり、ケーシング内に余分な光を入射出射させないように」する「可視光」の透過率が、積極的に透過させる対象である「近赤外線」の透過率と比べて非常に小さな値であることは明らかといえる。
したがって、前記aの検討結果も踏まえると、本件補正発明と引用発明は、次の点において共通する。
「前記少なくとも1つのガラスシートは、860nm程度の近赤外線を透過し、400〜700nmの可視波長範囲における光透過率は、860nm程度の近赤外線の光透過率に比較して非常に小さい」点。

イ 一致点及び相違点の認定
前記アの対比分析の検討結果をまとめると、本件補正発明と引用発明は、次の一致点において一致し、後記の相違点1及び2において相違する。
(ア) 一致点
「a.LiDARセンシングデバイス、及び
b.前記LiDARセンシングデバイスを包囲し、且つ少なくとも1つのカバー部材を含む保護ハウジング
を含む検出デバイスにおいて、
前記カバー部材の少なくとも一部分は、少なくとも1つのガラスシートから作られており、
前記少なくとも1つのガラスシートは、860nm程度の近赤外線を透過し、400〜700nmの可視波長範囲における前記ガラスシートの光透過率は、860nm程度の近赤外線の前記ガラスシートの光透過率に比較して非常に小さい、検出デバイス」である点。

(イ) 相違点
a 相違点1
「保護ハウジング」に含まれる「カバー部材」が、
本件補正発明においては、「カバーレンズ」であるのに対して、
引用発明においては、「カバーガラス」である点。

b 相違点2
「カバー部材」が作られる、「860nm程度の近赤外線を透過し、400〜700nmの可視波長範囲における光透過率は、860nm程度の近赤外線の光透過率に比較して非常に小さい」「ガラスシート」が、
本件補正発明においては、
「750〜1650nmの波長範囲において5m−1未満の吸収係数を有する」ものであり、
「400〜700nmの可視波長範囲における光透過率は、10%より低く、750〜1650nmの近赤外線透過波長範囲における光透過率は、50%より高い」のに対して、
引用発明においては、そのような限定がない点。

(4) 相違点についての判断
ア 相違点1について
引用文献3には「筐体40には、反射物体による反射されたレーザ光を透過する透過窓部41であって、カバーガラス41a及び受光レンズ41bにより構成された透過窓部41が設けられており、透過窓部41の構成は、ともにカバーガラスであっても良く、ともにレンズであっても良[い]」旨記載されているように(「引用文献3技術事項」参照)、筐体に設けられる透過窓部がレンズを兼ねるものとして構成できることは、当業者には自明の範囲内の事項にすぎない。
したがって、引用発明の「カバーガラス」と「透光レンズ60」又は「カバーガラス」と「受光レンズ90」を一体のものとして、カバーレンズとし、相違点1に係る構成を備えるようにすることは、当業者にとっては、適宜選択し得る設計上の事項にすぎない。

イ 相違点2について
(ア) 引用発明は、「カバーガラスGや透光レンズ60、受光レンズ90を、860nm程度の近赤外線を透過し可視光(例えば、400乃至700nm程度)を遮断する材料により形成し、ケーシングの内側を外部から見えないようにしたり、ケーシング内に余分な光を入射出射させないようにしたりした」ものであるところ、可視光を遮断する、とは、可視光の透過を無視できる程度に小さなものとする、ということであるから、400〜700nmの可視波長範囲における光透過率を10%より低くすることは、当業者には自明である。

(イ)a また、反対に、860nm程度の近赤外線を透過するようにするところ、具体的に許容レベルをどの程度とするかは、当業者が適宜選択すべきことであるから、860nm程度の近赤外線の光透過率を50%より高くすることも、当業者が適宜選択できる、設計上の事項にすぎない。
b そして、「860nm程度の近赤外線」は、「例えば」という語が使われていることからも明らかなとおり、近赤外線の波長の例にすぎないのであって、利用しようとする近赤外線の波長範囲の拡大に応じて、750〜1650nmの近赤外線透過波長範囲において近赤外線を透過するようにすることが望ましいことは、明らかである。
c したがって、「750〜1650nmの近赤外線透過波長範囲における光透過率は、50%より高い」ものとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
d そして、「所定の波長域で高い透過率を有するガラスシートを提供するためには、当該波長域で低い吸収係数を有するガラスシートを用いるとよいこと」は、技術常識であるから(前記「技術常識1」)、「750〜1650nmの近赤外線透過波長範囲における光透過率は、50%より高い」ものとするためには、この波長域において吸収係数ができるだけ低い値の材料を用いれば良いことは自明であり、「750〜1650nmの波長範囲において5m−1未満の吸収係数を有する」ものとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 総合評価
前記ア及びイにおいて検討したとおり、引用発明において前記相違点1及び前記相違点2に係る本件補正発明の構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、前記相違点1及び前記相違点2を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する効果としては、当該構成のものとして当業者が予測困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。
したがって、本件補正発明は、引用発明、引用文献3技術事項及び技術常識1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5) 請求人の主張について
ア 審判請求書における請求人の主張内容
請求人は、審判請求書において、次の主張をしている。
本件補正発明は、本願発明と引用文献の発明との相違を更に明確にするために、検出デバイスのカバーレンズを構成するガラスシートの可視波長範囲における光透過率の値(10%より低い)及び近赤外線透過波長範囲における光透過率の値(50%より高い)を具体的に規定したものである。
このような構成は引用文献2には何ら開示されていない。また、本願発明では、検出デバイスのカバーレンズを構成するガラスシートとしてこのような特定の光透過プロファイルのものを使用することにより、良好なレベルの操作性能を保証しながら、外部からセンサーの美的でない素子を隠すことができる(本願明細書[0066])が、このような効果も引用文献2には何ら開示されていない。さらに、引用文献2の用途では、そもそも検出デバイスのような隠すべき素子は存在しない。
そうすると、当業者が引用文献1、引用文献2に基づいて本願発明を想到することは困難であることは、明らかである。

イ 請求人の主張に対する当審の判断
「400〜700nmの可視波長範囲における光透過率は、10%より低く、750〜1650nmの近赤外線透過波長範囲における光透過率は、50%より高い[こと]」が、引用発明から当業者が容易に想到し得たものであることは、前記(4)イにおいて検討したとおりである。
したがって、請求人の前記主張は、前記(4)ウの結論を左右するものではない。

(6) 本件補正についてのむすび
以上検討のとおり、本件補正発明は、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
よって、本件補正は、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
したがって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明について
本件補正は、前記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1−13に係る発明は、令和4年5月23日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1−13に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、そのうち、請求項1の記載を引用する請求項3に係る発明(以下「本願発明」という。)は前記第2の1(1)に摘記した請求項1及び請求項3に記載された事項により特定されるとおりのものである。

2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明についての進歩性欠如の理由2は、次のとおりである。

理由2(進歩性の欠如)
本願発明は、下記の引用文献1−3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。



引用文献1:特開平09−311181号公報
引用文献2:国際公開第2016/202689号
引用文献3:特開2006−194639号公報

3 引用文献に記載された事項及び引用発明の認定
引用文献1には、前記第2の3(2)ア(ア)において摘記したとおりの事項が記載されており、前記第2の3(2)ア(イ)において認定したとおりの引用発明が記載されていると認められる。
引用文献2及び引用文献3には、それぞれ、前記第2の3(2)イ(ア)及びウ(ア)において摘記したとおりの事項が記載されており、技術常識1及び引用文献3技術事項は、前記第2の3(2)イ(イ)及びウ(イ)において認定したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、「ガラスシート」について、「400〜700nmの可視波長範囲における光透過率は、10%より低く、750〜1650nmの近赤外線透過波長範囲における光透過率は、50%より高いこと」の限定を省いたものである(前記第2の2参照)。
そうすると、本願発明の構成を全て含み、当該構成の一部を限定したものに相当する本件補正発明が、前記第2の3において検討したとおり、引用発明、引用文献3技術事項及び技術常識1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、前記第2の3(4)において検討したように、引用発明、引用文献3技術事項及び技術常識1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上検討のとおりであるから、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 岡田 吉美
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2023-08-03 
結審通知日 2023-08-04 
審決日 2023-08-18 
出願番号 P2020-506788
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01S)
P 1 8・ 121- Z (G01S)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 岡田 吉美
特許庁審判官 九鬼 一慶
中塚 直樹
発明の名称 センシングデバイスのための保護ハウジング  
代理人 浅野 典子  
代理人 風早 信昭  

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