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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 D06N |
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管理番号 | 1406658 |
総通号数 | 26 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2024-02-22 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-07-26 |
確定日 | 2023-11-13 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6821917号発明「不燃性能を有する壁紙の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6821917号の特許請求の範囲を、令和4年11月16日の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜5〕について訂正することを認める。 特許第6821917号の請求項1、2、4、5に係る特許を取り消す。 特許第6821917号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6821917号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜5に係る特許についての出願は、平成28年2月17日の出願であって、令和3年1月12日にその特許権の設定登録(特許掲載公報令和3年1月27日発行)がされ、その後、その特許について、令和3年7月26日に特許異議申立人伊澤武登(以下「申立人1」という。)により、同年7月27日に特許異議申立人遠藤楓実(以下「申立人2」という。)により、特許異議の申立てがされ、令和4年1月28日付けで取消理由が通知され、令和4年5月2日に特許権者から意見書の提出及び訂正の請求がされ、令和4年6月13日に申立人1より、同年6月20日に申立人2より、それぞれ意見書が提出された。その後、令和4年9月14日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、令和4年11月16日に特許権者から意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、その訂正自体を「本件訂正」という。)がされ、令和4年12月20日に申立人1より、同年12月27日に申立人2より、それぞれ意見書が提出され、令和5年4月3日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、令和5年6月5日に特許権者から意見書の提出がされたものである。 なお、令和4年5月2日の訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。 第2 訂正の請求について 1.訂正の内容 本件訂正請求は、「特許第6821917号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜5について訂正することを求める」ものであり、その訂正の内容は、本件特許に係る願書に添付した特許請求の範囲を、次のように訂正するものである。 なお、下線は訂正箇所を示す。 (1)訂正事項1 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「前記樹脂フィルム層の坪量は13.4g/m2以上18.0g/m2以下であること」と記載されているのを、「前記樹脂フィルム層の坪量は13.4g/m2以上18.0g/m2以下であり、前記樹脂フィルム層のL値は70以下であること」に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項4、5も同様に訂正する。) (2)訂正事項2 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2に「前記エンボス版の版深は50μm以上200μm以下であり、前記発泡樹脂層は、」と記載されているのを、「前記エンボス版の版深は50μm以上200μm以下であり、前記樹脂フィルム層のL値は70以下であり、前記発泡樹脂層は、」に訂正する。(請求項2の記載を引用する請求項4、5も同様に訂正する。) (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 (4)訂正事項4 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4の「請求項1から請求項3のいずれか1項に」と記載されているのを、「請求項1または請求項2に」に訂正する。(請求項4の記載を引用する請求項5も同様に訂正する。) (5)訂正事項5 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5の「請求項1から請求項4のいずれか1項に」と記載されているのを、「請求項1、請求項2、または請求項4に」に訂正する。 (6)一群の請求項について 訂正前の請求項3〜5は、請求項1の記載を直接的又は間接的に引用するものであり、また、請求項2の記載も直接的又は間接的に引用するものであり、本件訂正請求は、一群の請求項ごとにされたものである。 2.訂正の適否 (1)訂正事項1、2について 訂正事項1、2は、請求項1、2において樹脂フィルム層のL値について特定されていなかったものを、「樹脂フィルム層のL値は70以下である」と特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、本件特許の明細書の段落【0014】に「樹脂フィルム層7のL値は70以下であることが好ましい。ここで、L値とは、明度のことであり、MgOの白さを100として表したものである。このL値が大きいほど明るく、L値が小さいほど暗い。樹脂フィルム層のL値が70以下であれば、エアーがみを目立たなくすることができる。」と記載されているから、訂正事項1、2は新規事項を追加するものではない。さらに、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2)訂正事項3について 訂正事項3は、請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3)訂正事項4、5について 訂正事項4、5は、請求項3を削除することに伴い、本件訂正前において請求項3を引用する請求項4、5が引用する請求項の整合をとるものであるから、明瞭でない記載の釈明に該当する。 また、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 3.訂正についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 よって、本件訂正後の請求項〔1〜5〕について訂正を認める。 第3 本件特許発明 上記のとおり、本件訂正請求が認められるから、本件特許の請求項1、2、4、5に係る発明(以下「本件発明1」等という。また、それらをまとめて「本件発明」ということがある。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、2、4、5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 原紙層上に発泡樹脂層と、絵柄印刷層と、樹脂フィルム層とがこの順で積層された積層シートの前記樹脂フィルム層の表面にエンボス版を押圧して凹凸を形成する工程を備え、 前記発泡樹脂層は塩化ビニル樹脂で構成され、 前記樹脂フィルム層を構成する樹脂はエチレン−ビニルアルコール共重合体を含み、 前記エンボス版の版深は50μm以上200μm以下であり、 前記樹脂フィルム層の坪量は13.4g/m2以上18.0g/m2以下であり、 前記樹脂フィルム層のL値は70以下であることを特徴とする、不燃性能を有する壁紙の製造方法。 【請求項2】 原紙層上に発泡樹脂層と、絵柄印刷層と、樹脂フィルム層とがこの順で積層された積層シートの前記樹脂フィルム層の表面にエンボス版を押圧して凹凸を形成する工程を備え、 前記発泡樹脂層は塩化ビニル樹脂で構成され、 前記樹脂フィルム層を構成する樹脂はエチレン−ビニルアルコール共重合体を含み、 前記エンボス版の版深は50μm以上200μm以下であり、 前記樹脂フィルム層のL値は70以下であり、 前記発泡樹脂層は、前記原紙層上に発泡剤を含む樹脂層である発泡剤含有樹脂層を形成し、前記発泡剤含有樹脂層上に前記絵柄印刷層を形成した後に、前記発泡剤を発泡させることで形成され、 前記樹脂フィルム層は、前記発泡剤を発泡させて形成した前記発泡樹脂層上に形成されることを特徴とする、不燃性能を有する壁紙の製造方法。 【請求項4】 前記原紙層は、スルファミン酸グアニジン又はリン酸グアニジンを含浸させた難燃紙である、あるいは、炭酸マグネシウム又は水酸化マグネシウムを混抄した無機質紙であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の、不燃性能を有する壁紙の製造方法。 【請求項5】 前記原紙層と前記発泡樹脂層との間に、アクリル−ブチル共重合体、又はイソシアネートとポリオールとからなるポリウレタンを塗布してなる接着処理層を設ける工程をさらに備えることを特徴とする請求項1、請求項2、または請求項4に記載の、不燃性能を有する壁紙の製造方法。」 第4 特許権者に通知した取消理由(決定の予告) 本件発明に対して、特許権者に令和5年4月3日付けで通知した取消理由(決定の予告)の要旨は以下のとおりである。 本件特許の請求項1、2、4、5に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 《引用文献一覧》 引用文献1:特開2004−43983号公報(申立人2の甲第1号証(以下「甲1」という。他も同様。)) 引用文献2:特開平9−272186号公報(同じく甲5) 引用文献3:特開平9−57914号公報(同じく甲6) 引用文献4:特開2015−81446号公報(同じく甲11) 引用文献5:特開2008−81869号公報(同じく甲2) 引用文献6:特開2001−122988号公報(同じく甲15) 第5 当審の判断 1.本件発明の「L値」について 申立人1は、本件発明の「L値」がどのような値を意味するのか技術的に特定することができず、発明が不明確である旨、特許異議申立書(30〜31頁)で申し立てており、進歩性の判断に先立ち検討する。 (1)本件特許の出願時における技術常識 ア 本件発明の「樹脂フィルム層のL値は70以下である」の「L値」とは、本件特許明細書の段落【0014】に記載されるように「明度」を意味することは明らかである。 イ この明度について、申立人1が提出した甲16(“色の数値化には、表色系を使用します。1”、[online]、KONICA MINOLTA JAPAN,INC.、[2022年6月4日検索]、インターネット<URL:https://www.konicaminolta.jp/instruments/knowledge/color/section2/02.html>)によると、1976年に国際照明委員会(CIE)で規格化され、日本でも「JIS Z 8781−4」で採用されている「L*a*b*色空間」においては、明度を「L*の値」で表す旨規定されている。 ウ また、上記甲16には、「L*a*b*色空間」の「L*の値」は、0(黒)〜100(白)の範囲の値で表し、「L*a*b*色空間」は「現在あらゆる分野で最もポピュラーに使用されている表色系」である旨、「ハンターLab色空間」は、「米国が中心で、主に塗装関係で使用されている」旨、記載されている。 (2)判断 ア 本件発明の「L値」は「明度」を表すところ、「L*a*b*色空間」が、本件特許の出願時において国際照明委員会(CIE)で規格化され、日本でも「JIS Z 8781−4」として採用されていることからすると、明度は、「L*a*b*色空間」の「L*の値」で表すことが、本件特許の属する技術分野における出願時の技術常識である。 そうすると、本件発明の「L値」とは、「L*a*b*色空間」の「L*の値」と理解でき、明確である。 イ この理解は、本件特許の明細書の段落【0014】の記載(「L値とは、明度のことであり、MgOの白さを100として表したものである。このL値が大きいほど明るく、L値が小さいほど暗い。」)、特許権者の説明(「甲16のこれらの記載からも分かるように、「L値」の測定方法については、物体の色を表すのに、現在あらゆる分野で最もポピュラーに使用されている表色系であるL*a*b*色空間を使用することが、当業者の技術常識であり、・・・当業者にとって、「明度であるL値」が「L*値」の誤記または「*」を省略したものであることは自明である。」(令和4年11月16日の意見書11頁10〜16行)とも整合する。 ウ 申立人1は、「(L*a*b*)色空間のL値なのかハンターLab色空間のL値なのか分からない」と主張している(令和4年12月20日の意見書12頁13〜14行)。 しかし、申立人1が提出した上記甲16には、「ハンターLab色空間」は、「米国が中心で、主に塗装関係で使用されている」旨記載されていることからすると、「不燃性能を有する壁紙の製造方法」(本件特許の明細書段落【0001】)を技術分野とする本件特許の「L値」は、「ハンターLab色空間」の「L値」とすることはできず、「L*a*b*色空間」におけるものであると理解するのが妥当であり、申立人1の上記主張は採用できない。 2.引用文献の記載事項等 (1)引用文献1 ア「【特許請求の範囲】 【請求項1】 内添された無機物質の含有率が30〜50質量%であり、坪量が65〜90g/m2である壁紙用裏打紙に樹脂層を積層してなる壁装材であって、前記壁装材中の有機物質の質量が170g/m2以下であることを特徴とする表面が平滑な、あるいは凹凸模様を有する壁装材。 【請求項2】 前記無機物質が、結晶水または構造水を含む無機物質であることを特徴とする請求項1に記載の壁装材。 【請求項3】 前記壁紙用裏打紙に積層された樹脂層が、塩化ビニル樹脂またはオレフィン系樹脂からなることを特徴とする請求項1または2に記載の壁装材。 【請求項4】 前記樹脂層の表面に、印刷加工により絵柄模様が形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の壁装材。 【請求項5】 前記樹脂層の表面に、合成樹脂フィルム層が積層されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の壁装材。」 イ「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、建築物の内装材として使用される壁紙等の壁装材に関するものであり、詳しくは、防火性能(難燃性)に優れた壁装材に関するものである。 【0002】 【従来の技術】 住宅の壁面や天井に使用される壁装材としての壁紙は、火災に対する安全性の面から、難燃性が要求され、建築基準法で一定の難燃性が義務づけられている場合が多い。このため従来の壁紙は、難燃性能に応じて不燃材料、準不燃材料、難燃材料に分類され、それぞれの難燃性能に応じた構成材料の選定や配合処方が取られてきた。・・・」 ウ「【0011】 【発明が解決しようとする課題】 本発明は、建築基準法の改正により自由な製品設計が可能となり、同時に防火性能を評価する試験方法が改正されたことに伴い、従来技術における問題点に着目してなされたものである。その課題とするところは、従来の無機質壁紙にみられるように、ボリューム感を出すために高コストとなり、しかも施工性が良くないという問題点を解消し、しかも不燃石膏ボードを含めた全ての不燃基材に対して不燃の性能を有する壁装材を提供することにある。 【0012】 すなわち本発明による壁装材は、内添された無機物質の含有率が30〜50質量%であり、坪量が65〜90g/m2である壁紙用裏打紙に樹脂層を積層してなる壁装材であって、前記壁装材中の有機物質の質量が170g/m2以下であることを特徴とするものである。」 エ「【0013】 【発明実施の形態】 図1は、本発明による壁装材の実施態様の断面図を模式的に示すものであり、内添された無機物質を30〜50質量%含有する壁紙用裏打紙1の表面に樹脂層2が積層され、樹脂層2の表面側に凹凸模様3が形成されている。尚、図2は、樹脂層2の上にさらに合成樹脂フィルム層4が積層された本発明による壁装材の断面図を示すものである。 ・・・ 【0015】 本発明の裏打紙1に用いられる無機物質は、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、カオリンクレー、焼成カオリン、焼成クレー、ケイ酸カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、タルク、ホワイトカーボン、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の無機粉体から、原紙の隠蔽性、強度、厚み、コスト等を考慮して適宜選定され、1種または2種以上をパルプ中に混合して用いられる。また前記無機粉体の中で結晶水または構造水を含んだものは、カオリン、クレー、カオリンクレー、ケイ酸カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、タルク、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムであり、これらの無機粉体は、加熱により結晶水または構造水を放出し、吸熱分解するため自己消化性があるので、他の無機粉体に比べて若干防火性能が向上する。従って、無機粉体を選定する場合は、一般的に製紙用に用いられ、かつ結晶水を保有した水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムの混合比率を高めるのが好ましい。 ・・・ 【0019】 本発明の壁装材は、上記のようにして得られた裏打紙1の表面に樹脂層2を積層してなるが、その際使用される樹脂材料としては、塩化ビニル樹脂またはオレフィン系樹脂等が好適に使用される。塩化ビニル樹脂には、可塑剤、安定剤、発泡剤、減粘剤その他の有機系添加剤および炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、珪砂、タルク、シリカ類、ケイ酸マグネシウム、ホウ酸亜鉛、二酸化チタン等の無機粉体を混合し、カレンダー成形法、コーティング法、スクリーン印刷法等により裏打紙1の表面にシート状もしくは絵柄模様状に樹脂組成物として積層する。・・・ 【0020】 本発明の壁装材は、目的とする防火性能を確保するため壁装材全質量中の有機物質の質量(以下有機質量)を170g/m2以下に設定する必要がある。有機質量が170g/m2を超えると、建築基準法で定められた発熱性試験で、総発熱量が基準値を超えてしまう。このため壁装材を構成する樹脂層2の有機質量は、壁装材の有機質量の上限値170g/m2から裏打紙1の有機質量の下限値32.5g/m2を減じた質量137.5g/m2以下に設定することが必要である。尚、樹脂層2上には、後述の如く、必要に応じて絵柄模様や合成樹脂フィルム層4を積層させるため、この場合の樹脂層2の有機質量は、絵柄模様又は合成樹脂フィルム層4の有機質量を減じた質量以下に設定することが必要である。 【0021】 樹脂層2上に形成される絵柄模様は、適宜、印刷インキ(非発泡性インキ)及び/または水性エマルジョン樹脂を主成分とした発泡性インキ、塩化ビニルペースト樹脂を主成分とした発泡性インキ等を用いて、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法等にて形成することができる。 【0022】 また、合成樹脂フィルム層4は、本発明の壁装材に防汚性能を付与させることを目的としたものである。合成樹脂フィルム層4に用いられる合成樹脂フィルムとしては、アクリルフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、エチレン・ビニルアルコール共重合体フィルムなどが挙げられ、熱接着もしくは接着剤を介して樹脂層2上に積層される。尚、樹脂層2上に絵柄模様を形成させる場合は、非発泡性インキにより絵柄模様を形成させてから合成樹脂フィルム層4を積層することが好ましい。 【0023】 本発明における壁装材の凹凸模様3は、裏打紙1上、または裏打紙1上に積層された樹脂層2上に、前述の如き発泡性インキを絵柄模様状に塗布乾燥した後、熱風または赤外線照射等で加熱発泡させる方法、裏打紙1上に形成された樹脂層2上に、発泡抑制インキを用いて絵柄模様状に塗布乾燥した後、熱風または赤外線照射等で絵柄模様以外の樹脂層を加熱発泡させるケミカルエンボス法、裏打紙1上に積層された樹脂層2を熱風または赤外線照射等で加熱溶融または加熱発泡させた後、エンボスロールを樹脂層2の表面側に圧接させるメカニカルエンボス法等により形成される。また合成樹脂フィルム層4を積層する場合は、樹脂層2上に合成樹脂フィルム4を積層した後、熱風または赤外線照射等で加熱溶融あるいは加熱発泡させ、エンボスロールを用いて凹凸模様3を形成させても良いし、樹脂層2を熱風または赤外線照射等で加熱溶融あるいは加熱発泡させた後、エンボスロールを用いて合成樹脂フィルム4の積層と凹凸模様3の形成を同時に行っても良い。」 オ「【0026】 [実施例1] NBKPを離解後、常法により300mlcsfまで叩解し、無機粉体として平均粒子径1μmに粉砕調整した焼成カオリン(エンゲルハード社製、商品名:ANSILEX)を裏打紙中含有率40質量%となるように添加し、湿潤紙力増強剤としてポリアミドエピクロルヒドリン樹脂(荒川化学工業(株)製、商品名:アラフィックス100)を0.5質量%、歩留向上剤としてカチオン性ポリアクリルアミド(伯東化学(株)製、商品名:ポリマスターR−623)を0.005質量%、さらに中性サイズ剤としてアルキルケテンダイマー(荒川化学工業(株)製、商品名:CS−280)を0.25質量%添加して紙料を調製した。この紙料を長網抄紙機で抄紙し、坪量70g/m2の壁紙用裏打紙を得た。 ・・・ 【0029】 次いでこの壁装材原料シート上に、水性インキを用いてグラビア印刷にて絵柄模様を形成した後、赤外線照射装置を備えた発泡エンボス機にて発泡及びエンボスを同時に行い、図1に示す構成の厚さ0.70mmの壁装材を得た。 【0030】 【表1】 ・・・ 【0035】 [実施例6] 実施例1で得られた壁紙用裏打紙の表面に、表1の樹脂組成1で示される樹脂組成物を、有機質量が108g/m2になるようコーティング法により塗布して樹脂層を積層し、樹脂層の厚み112μ、全有機質量150g/m2の壁装材原料シートを得た。 【0036】 次いでこの壁装材原料シート上に、水性インキを用いてグラビア印刷にて絵柄模様を形成し、さらに合成樹脂フィルムとして厚さ12μ、質量15g/m2の接着剤付きエチレン・ビニルアルコール共重合体フィルム((株)クラレ製、商品名:エバール)を熱接着により積層させ、全有機質量165g/m2の合成樹脂フィルム付き壁装材原料シートを得た。この壁装材原料シートを実施例1と同様にして発泡及びエンボスを同時に行い、図2に示す構成の厚さ0.55mmの壁装材を得た。」 カ「【0050】 前記実施例1〜6および比較例1〜6で得られた壁紙用裏打紙又は壁装材について、裏打紙の強度、裏打紙の隠蔽性、裏打紙のサイズ度、裏打紙の地合い、裏打紙のコスト、壁装材のボリューム感、壁装材の施工性、壁装材の防火性、壁装材の防汚性を以下の試験方法及び評価基準に従って評価した。 ・・・ 【0057】 7.壁装材の防火性能 建築基準法第68条の26第1項の規定に基づき、同法第2条第9号及び同法施行令第108条の2(不燃材料)の規定に適合するかどうかを確認する為、指定された試験(ISO 5660 part1に準拠したコーンカロリーメーターによる発熱性試験)を行い、下記の判定基準に基づいて評価した。尚、試験には不燃基材として他の不燃基材に比較して最も性能の出にくい厚さ12.5mmの不燃石膏ボード(吉野石膏(株)製)を使用した。 〈判定基準〉 ▲1▼加熱開始後20分間の総発熱量が、8MJ/m2以下であること。 ▲2▼加熱開始後20分間、最高発熱速度が、10秒以上継続して200kw/m2を超えないこと。 〈評価基準〉 ◎:総発熱量及び最高発熱速度とも適合していた(合格)。 ○:総発熱量及び最高発熱速度とも適合していたが、総発熱量又は最高発熱速度の何れかがやや高めであった(合格)。 △:最高発熱速度は適合していたが、総発熱量が不適合であった(不合格)。 ×:総発熱量及び最高発熱速度のいずれも不適合であった(不合格)。 ・・・ 【0060】 【表3】 ・・・ 【0063】 壁装材についてみると、表3に示す如く、実施例3から実施例5の壁装材は、ボリューム感、防火性能、施工性につき全て優れており満足し得るものであった。防汚性については、一般的ビニル壁紙と同等であった。合成樹脂フィルムを積層させた実施例6も防火性能、施工性は優れている。ボリューム感はやや低下するが、防汚性が大きく改善される。一方、裏打紙中の有機質量の多い比較例3及び比較例4は、積層させる樹脂層が薄くなるため壁装材のボリューム感が劣り、壁装材の全有機質量を増加させた比較例5は、防火性能が劣り不合格という結果であった。尚、参考までに市販の無機質壁紙を評価した比較例6は、不燃紙のコストが高く、壁装材とした場合、ボリューム感と施工性が劣っていた。」 キ「 」 ク 上記オの【0035】及び【0036】の記載より、引用文献1の実施例6の製造方法により得られる壁装材は、上記キの図2の構造を備えることから、合成樹脂フィルムの側からエンボスロールを用いることは明らかであり、その壁装材の防火性能の評価は、段落【0057】に記載された判定基準によると、【表3】に「○:総発熱量及び最高発熱速度とも適合していたが、総発熱量又は最高発熱速度の何れかがやや高めであった(合格)」とされていることから、「所定の防火性能を満たす壁装材」であるといえる。 そうすると、引用文献1には、合成樹脂フィルム層を積層する場合についての段落【0023】の記載及び実施例6の態様からみて、次の「引用発明」が記載されているといえる。 「無機粉体として平均粒子径1μmに粉砕調整した焼成カオリン(エンゲルハード社製、商品名:ANSILEX)を裏打紙中含有率40質量%となるように添加した壁紙用裏打紙の表面に、 塩化ビニル樹脂(商品名:PSL−675 鐘淵化学工業(株))100.0質量部、可塑剤(商品名:DINP (株)ジェイ・プラス)55.0質量部、安定剤(商品名:FL−119 旭電化工業(株))3.0質量部、着色剤(酸化チタン 大日本インキ化学工業(株))15.0質量部、発泡剤(商品名:AZH25 大塚化学(株))4.0質量部、充填剤(炭酸カルシウム 商品名:BF−300S 備北粉化工業(株))100.0質量部、及び希釈剤(商品名:エクソールD−40 エクソンモービル化学(有))からなる樹脂組成物を、有機質量が108g/m2となるように塗布して樹脂層を積層し、 その上に水性インキを用いてグラビア印刷にて絵柄模様を形成し、 さらに合成樹脂フィルムとして厚さ12μ、質量15g/m2の接着剤付きエチレン・ビニルアルコール共重合体フィルム((株)クラレ製、商品名:エバール)を熱接着により積層させ、全有機質量165g/m2の合成樹脂フィルム付き壁装材原料シートを得た後、 この壁装材原料シートについて、加熱発泡させ、合成樹脂フィルムの側からエンボスロールを用いて凹凸模様を形成する、所定の防火性能を満たす壁装材の製造方法。」 (2)引用文献2 ア「【特許請求の範囲】 【請求項1】繊維質基材シート上に、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、又はエチレン−酢酸ビニル共重合体の単独又は二種以上の混合物からなる樹脂層、及び透明エチレン−ビニルアルコール共重合体層を順次積層してなることを特徴とする壁装材シート。 【請求項2】繊維質基材シートと樹脂層との積層界面、樹脂層と透明エチレン−ビニルアルコール共重合体層との積層界面、又は透明エチレン−ビニルアルコール共重合体層の表面のうち少なくとも一面に模様層が形成された請求項1記載の壁装材シート。 【請求項3】透明エチレン−ビニルアルコール共重合体層の表面にエンボス凹凸が形成された請求項1、又は2記載の壁装材シート。」 イ「【0034】また、本発明にあっては透明エチレン−ビニルアルコール共重合体層4の表面にエンボス加工を施してエンボス凹凸を形成することができるが、エンボス加工は従来公知のエンボス加工法ならばどの様な方法でも採用でき、例えば、通常の熱プレス方式の枚葉又は輪転式エンボス機を用いて上記層4の表面に凹凸を与えることができる。 【0035】エンボス凹凸の凹部6の深さはそれによって表現される模様や、樹脂層3及び透明エチレン−ビニルアルコール共重合体層4の厚み等により多少異なるが、特に壁装材シート1表面に良好な凹凸感をもたらすためには50〜200μm程度であることが好ましい。 【0036】エンボス加工により形成するエンボス凹凸としては、木目導管溝溝、木目木肌、石材表面凹凸、布帛の表面テクスチェア、梨地、砂目、ヘアライン等を表現したもの、又はそれらを組み合わせたものが挙げられる。」 (3)引用文献4 ア「【0018】 本発明における紙基材1としては、従来ある壁紙用裏打紙といわれているものに通常使用されているものであれば得に限定されずに使用可能であるが、特には、スルファミン酸グアニジンやリン酸グアニジンなどの水溶性難燃剤を含浸させたパルプ主体の難燃紙、あるいは、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの無機質剤を混抄した無機質紙などが好適であり、その坪量としては50〜300g/m2、好ましくは60〜160g/m2である。」 イ「【0019】 また、紙基材1の表面で、後述する発泡樹脂層2を設ける側の面に、たとえば、コロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン処理等の易接着処理を施す、および/ないし、アクリル−ブチル共重合体、イソシアネートとポリオールからなるポリウレタン等を塗布した易接着処理層(図示しない)を設けてもよい。」 (4)引用文献5 「【0040】 フィルム層31と発泡樹脂層22との接着性が低い場合、例えば上記エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムを用いた場合は、必要に応じて両層間に接着剤層40を設けることが好ましい。接着剤層40に用いられる接着剤としては、特に制限はないが、本発明の製造工程より感熱接着剤が好ましい。感熱接着剤とは、一般に常温では固体であり、加熱により溶融又は軟化して接着性を発現し、冷却すると固化して強固に接着する性質を有する熱可塑性樹脂を主要成分とする接着剤のことをいう。これを適当な溶剤に溶解、もしくは加温により溶融させて、被接着体の一方又は両方の接着面に塗布し、両者を重ね合わせて加熱加圧することにより接着させるものである。具体的には、(メタ)アクリル樹脂系、ポリウレタン樹脂系、ポリエステル系、ポリアミド樹脂系、(メタ)アクリル酸エステル−オレフィン共重合体樹脂、塩化酢酸ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、アイオノマー樹脂、オレフィン−αオレフィン共重合体樹脂等の易接着樹脂単体、及びオレフィン樹脂や発泡樹脂組成物の主成分となる熱可塑性樹脂、フィルム層の主成分となる熱可塑性樹脂とのブレンド品が挙げられる。 【0041】 接着剤層40は、層間接着力の向上を図ることを目的に、上記及び図1に示すように発泡樹脂層22とフィルム層31との層間に設ける他に、必要に応じて裏打ち材21と発泡樹脂層22との層間に設けることもできる。また、接着剤層を設ける以外に、層間接着力を向上させるために、所望により、片面または両面に酸化法や凹凸化法などの物理的または化学的表面処理を施すことができる。」 (5)引用文献6 ア「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、金属、木材、紙、樹脂などの基材に貼合わせて用いられる、エンボス、折り曲げなどの加工性に優れ、かつ意匠性の付与に優れた貼合せ用ポリエステルフィルムに関するものである。さらに詳しくは、本発明は、建材用途などで化粧シートとして用いるのに好適な貼合せ用ポリエステルフィルムに関するものである。 【0002】 【従来の技術】・・・ 【0004】これらの要求を解決するためには、例えば絵柄を印刷した層の上に透明なポリエステルフィルムを貼り合わせる方法が挙げられるが、従来のポリエステルフィルムでは、エンボス性と意匠性の両立が困難であり改良が望まれていた。」 イ「【0023】また、本発明の貼合せ用ポリエステルフィルムにおいては、フィルム表面の明度L*値、色度a*値、色度b*値が、それぞれ次の[式1]、[式2]、[式3]を満足することが必要である。 【0024】10≦L*値≦90 …[式1] −30≦a*値≦60 …[式2] −30≦b*値≦60 …[式3] すなわち、本発明の貼合せ用ポリエステルフイルムにおいて、フィルム表面の明度L値を10〜90の範囲、色度a*値を−30〜60の範囲、色度b*値を−30〜60の範囲にすることで、高意匠性の着色フィルムを得ることができる。明度L*値が10未満の場合は濃いまたは暗過ぎる色調となり、逆に90を超えると薄いまたは明る過ぎる色調となる。また、色度a*値が−30未満の場合は緑ぽい色調となり、逆に60を超えると赤ぽい色調になる。さらに、色度b*値が−30未満の場合は青ぽい色調となり、逆に60を超えると黄ぽい色調となる。例えば、木質系材料が有する明度・色調を目的とする場合は、フィルム表面の明度L*値を20〜40の範囲、色度a*値を5〜10の範囲、色度b*値を15〜30の範囲にすることで、木質調の色彩のフィルムを得ることができる。」 ウ「【0059】(9)エンボス性 ポリエステルフィルムを90℃、12秒の予熱の後、ラジエーションヒーターにて180℃、3秒の加熱を行った。その直後に表面に200μmの凹凸差を有するエンボスロールを用いてエンボス加工を施し、30℃の冷却ロールにて速やかに冷却を行なった。エンボス前後のフィルム厚みを接触面積80mm2を有する厚みゲージにて測定を行ない、目視、手触りでのエンボスの状態の確認と併せてを下記基準により判定を行なった。 ◎:フィルム厚みがエンボス加工後で5μm以上上昇し、エンボスの凹凸が目視、手触りでしっかりと確認可能であるもの。 ○:エンボスの凹凸が目視、手触りで容易に確認可能であるもの。 ×:エンボスの凹凸が目視、手触りで容易には確認できないもの。」 3.本件発明1について (1)対比 ア 本件発明1と引用発明を対比する。 引用発明の「壁紙用裏打紙」は、本件発明1の「原紙層」に相当する。 引用発明の、壁紙用裏打紙の表面に「塩化ビニル樹脂(商品名:PSL−675 鐘淵化学工業(株))100.0質量部、可塑剤(商品名:DINP (株)ジェイ・プラス)55.0質量部、安定剤(商品名:FL−119 旭電化工業(株))3.0質量部、着色剤(酸化チタン 大日本インキ化学工業(株))15.0質量部、発泡剤(商品名:AZH25 大塚化学(株))4.0質量部、充填剤(炭酸カルシウム 商品名:BF−300S 備北粉化工業(株))100.0質量部、及び希釈剤(商品名:エクソールD−40 エクソンモービル化学(有))からなる樹脂組成物を、有機質量が108g/m2となるように塗布して樹脂層を積層し、」「加熱発泡させ」ることは、本件発明1の「原紙層上に発泡樹脂層」を積層し、「前記発泡樹脂層は塩化ビニル樹脂で構成され」ることに相当する。 引用発明の樹脂層の上に「水性インキを用いてグラビア印刷にて絵柄模様を形成」したものは、本件発明1の「発泡樹脂層」の上に積層した「絵柄印刷層」に相当し、引用発明の「厚さ12μ、質量15g/m2の接着剤付きエチレン・ビニルアルコール共重合体フィルム((株)クラレ製、商品名:エバール)」の「合成樹脂フィルム」は、本件発明1の「エチレン−ビニルアルコール共重合体を含」む「樹脂フィルム層」に相当し、引用発明の「合成樹脂フィルム付き壁装材原料シート」は、本件発明1の「積層シート」に相当する。 引用発明の「合成樹脂フィルムの側からエンボスロールを用いて凹凸模様を形成する」ことは、本件発明1の「樹脂フィルム層の表面にエンボス版を押圧して凹凸を形成する工程」に相当する。 引用発明の「所定の防火性能を満たす壁装材の製造方法」は、本件発明1の「不燃性能を有する壁紙の製造方法」に相当する。 イ そうすると、本件発明1と引用発明とは、 「原紙層上に発泡樹脂層と、絵柄印刷層と、樹脂フィルム層とがこの順で積層された積層シートの前記樹脂フィルム層の表面にエンボス版を押圧して凹凸を形成する工程を備え、 前記発泡樹脂層は塩化ビニル樹脂で構成され、 前記樹脂フィルム層を構成する樹脂はエチレン−ビニルアルコール共重合体を含む、不燃性能を有する壁紙の製造方法。」で一致し、以下の相違点1〜3で相違する。 《相違点1》 本件発明1の「エンボス版の版深は50μm以上200μm以下」であるのに対し、引用発明はエンボスロールの版深について特定されていない点。 《相違点2》 本件発明1の「樹脂フィルム層の坪量は13.4g/m2以上18.0g/m2以下である」のに対し、引用発明の「合成樹脂フィルム」は「厚さ12μ、質量15g/m2の接着剤付きエチレン・ビニルアルコール共重合体フィルム((株)クラレ製、商品名:エバール)」である点。 《相違点3》 本件発明1の「前記樹脂フィルム層のL値は70以下である」のに対し、引用発明の「合成樹脂フィルム」のL値は特定されていない点。 (2)判断 ア 上記相違点1について検討する。なお、以下の下線は理解のため当審で付したものである。 引用文献2の段落【0035】(上記2.(2)イ)には、「エンボス凹凸の凹部6の深さはそれによって表現される模様や、樹脂層3及び透明エチレン−ビニルアルコール共重合体層4の厚み等により多少異なるが、特に壁装材シート1表面に良好な凹凸感をもたらすためには50〜200μm程度であることが好ましい。」と記載されている。 引用発明の凹凸模様が形成される上で、良好な凹凸感が好ましいことは明らかであり、この引用文献2の記載を参考に、引用発明のエンボスロールの凹凸模様の深さを「50μm以上200μm以下」とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。 イ 上記相違点2について検討する。 引用発明の「接着剤付きエチレン・ビニルアルコール共重合体フィルム((株)クラレ製、商品名:エバール)」のフィルムは「質量15g/m2」であり、坪量に換算すると、本件発明1に特定された「13.4g/m2以上18.0g/m2以下」の範囲内のものであるから、相違点2は実質的なものではない。 ウ 上記相違点3について検討する。 (ア)本件発明1の「L値」の数値範囲について、本件特許の明細書に「樹脂フィルム層7の表面には、段差が50μm以上200μm以下の凹凸が形成されている。凹凸の平面視によるパターン(模様)としては、木目、導管、碁盤目、万線、ヘアーライン、砂目、布目等が挙げられる。樹脂フィルム層7のL値は70以下であることが好ましい。ここで、L値とは、明度のことであり、MgOの白さを100として表したものである。このL値が大きいほど明るく、L値が小さいほど暗い。樹脂フィルム層のL値が70以下であれば、エアーがみを目立たなくすることができる。」(段落【0014】)と記載されていることから、本件発明1は、明度の上限を「70」とすることにより、樹脂フィルム層の表面に段差が50μm以上200μm以下の凹凸が形成されても、エアーがみを目立たなくすることができると理解される。 他方、下限については記載されていない。 (イ)ここで、引用文献6(上記2.(5)イ)には、エンボスが施されるフィルム(貼り合せ用ポリエステルフィルム)の表面の明度L*値について、10未満の場合は濃いまたは暗過ぎる色調、90を超えると薄いまたは明る過ぎる色調となり、木質系材料が有する明度を目的とする場合は、フィルム表面の明度L*値を20〜40の範囲にすることで木質調の色彩のフィルムを得ることができると記載されている。そして、上記第5の1.で検討したように、「L値」とは「明度L*値」を意味するから、引用文献6には、フィルム表面の「L値」を20〜40の範囲にすることで、木質調の色彩のフィルムを得ることができることが記載されていると当業者は理解できる。 引用発明の壁装材は、引用文献1に「住宅の壁面や天井に使用される壁装材としての壁紙」(【0002】)と記載され、住宅の壁面や天井に使用されることが想定されるところ、住宅の壁面や天井として、木質系材料が有する色調の材料を用いることは周知である。そして、引用発明の合成樹脂フィルムと引用文献6の貼合せ用ポリエステルフィルムとは、ともに表面にエンボスを形成するものであり、引用発明のエンボスが表面に形成された合成樹脂フィルムの明度について、住宅の壁面や天井を木質系材料の色調とするために、引用文献6の明度の20〜40の範囲を採用することは、当業者が適宜成し得たものである。 (ウ)よって、上記相違点3に係る本件発明1の構成は、引用発明及び引用文献6の技術的事項に基づき、当業者が容易に想到し得たものである。 エ 以上より、本件発明1は、引用発明並びに引用文献2及び6の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.本件発明2について (1)対比 本件発明2と引用発明とを対比すると、上記3.(1)と同様に、本件発明2と引用発明とは、 「原紙層上に発泡樹脂層と、絵柄印刷層と、樹脂フィルム層とがこの順で積層された積層シートの前記樹脂フィルム層の表面にエンボス版を押圧して凹凸を形成する工程を備え、 前記発泡樹脂層は塩化ビニル樹脂で構成され、 前記樹脂フィルム層を構成する樹脂はエチレン−ビニルアルコール共重合体を含む、不燃性能を有する壁紙の製造方法。」で一致し、以下の相違点4〜6で相違する。 《相違点4》 本件発明2の「エンボス版の版深は50μm以上200μm以下」であるのに対し、引用発明はエンボスロールの版深について特定されていない点。 《相違点5》 本件発明2が、「前記発泡樹脂層は、前記原紙層上に発泡剤を含む樹脂層である発泡剤含有樹脂層を形成し、前記発泡剤含有樹脂層上に前記絵柄印刷層を形成した後に、前記発泡剤を発泡させることで形成され、前記樹脂フィルム層は、前記発泡剤を発泡させて形成した前記発泡樹脂層上に形成される」工程を備えるのに対し、 引用発明は、「壁紙用裏打紙の表面に、 塩化ビニル樹脂(商品名:PSL−675 鐘淵化学工業(株))100.0質量部、可塑剤(商品名:DINP (株)ジェイ・プラス)55.0質量部、安定剤(商品名:FL−119 旭電化工業(株))3.0質量部、着色剤(酸化チタン 大日本インキ化学工業(株))15.0質量部、発泡剤(商品名:AZH25 大塚化学(株))4.0質量部、充填剤(炭酸カルシウム 商品名:BF−300S 備北粉化工業(株))100.0質量部、及び希釈剤(商品名:エクソールD−40 エクソンモービル化学(有))からなる樹脂組成物を、有機質量が108g/m2となるように塗布して樹脂層を積層し、 その上に水性インキを用いてグラビア印刷にて絵柄模様を形成し、 さらに合成樹脂フィルムとして厚さ12μ、質量15g/m2の接着剤付きエチレン・ビニルアルコール共重合体フィルム((株)クラレ製、商品名:エバール)を熱接着により積層させ、全有機質量165g/m2の合成樹脂フィルム付き壁装材原料シートを得た後、 この壁装材原料シートについて、加熱発泡させ」る点。 《相違点6》 本件発明2の「前記樹脂フィルム層のL値は70以下であ」るのに対し、引用発明の「合成樹脂フィルム」のL値は特定されていない点。 (2)判断 ア 上記相違点4について検討する。 上記3.(2)アで述べた理由と同様に、引用文献2の記載を参考に、引用発明のエンボスロールの凹凸模様の深さを「50μm以上200μm以下」とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。 イ 上記相違点5について検討する。 引用文献1の段落【0023】には、引用発明の壁装材の凹凸模様の形成について、「また合成樹脂フィルム層4を積層する場合は、樹脂層2上に合成樹脂フィルム4を積層した後、熱風または赤外線照射等で加熱溶融あるいは加熱発泡させ、エンボスロールを用いて凹凸模様3を形成させても良いし、樹脂層2を熱風または赤外線照射等で加熱溶融あるいは加熱発泡させた後、エンボスロールを用いて合成樹脂フィルム4の積層と凹凸模様3の形成を同時に行っても良い。」と記載されている。 この記載によると、引用発明の、壁紙用裏打紙の表面に樹脂層を積層し、その上に絵柄模様を形成し、さらに合成樹脂フィルムを積層させた後、加熱発泡させる手順を、壁紙用裏打紙表面の樹脂層を加熱発泡させた後、合成樹脂フィルムの積層を行う手順に換え得るものである。 よって、引用発明の手順を、引用文献1の上記示唆に基づき、壁紙用裏打紙表面の樹脂層を加熱発泡させた後、合成樹脂フィルムの積層を行う手順に換えることは、当業者が容易に想到し得たものである。 ウ 上記相違点6について検討する。 上記3.(2)ウで述べた理由と同様に、引用発明の合成樹脂フィルムの明度について、住宅の壁面や天井を木質系材料の色調とするために、引用文献6の明度の20〜40の範囲を採用することは、当業者が適宜成し得たものである。 よって、上記相違点6に係る本件発明2の構成は、引用発明及び引用文献6の技術的事項に基づき、当業者が容易に想到し得たものである。 エ 以上より、本件発明2は、引用発明並びに引用文献1、2及び6に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 5.本件発明4について (1)対比 本件発明4と引用発明を対比すると、上記相違点1〜3、あるいは、上記相違点4〜6で相違する他、次の相違点7でも相違する。 《相違点7》 本件発明4が「前記原紙層は、スルファミン酸グアニジン又はリン酸グアニジンを含浸させた難燃紙である、あるいは、炭酸マグネシウム又は水酸化マグネシウムを混抄した無機質紙」であるのに対し、引用発明は「無機粉体として平均粒子径1μmに粉砕調整した焼成カオリン(エンゲルハード社製、商品名:ANSILEX)を裏打紙中含有率40質量%となるように添加した壁紙用裏打紙」である点。 (2)判断 ア 上記相違点1〜3は上記3.(2)ア〜ウで、上記相違点4〜6は上記4.(2)ア〜ウで、それぞれ述べたとおりである。 イ 次に相違点7について検討する。 引用文献1の段落【0015】(上記2.(1)エ)、及び、引用文献4の段落【0018】(上記2.(3)ア)には、難燃性を得るために、紙基材に、炭酸マグネシウム又は水酸化マグネシウムの無機物質を混合、あるいは、スルファミン酸グアニジンやリン酸グアニジンなどの水溶性難燃剤を含浸させることが記載されている。 よって、上記相違点7に係る本件発明4の構成は、引用発明並びに引用文献1及び4の技術的事項に基づき、当業者が容易に想到し得たものである。 ウ 以上から、本件発明4は、引用発明並びに引用文献1、2、4、6に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 6.本件発明5について (1)対比 本件発明5と引用発明を対比すると、上記相違点1〜3、あるいは、上記相違点4〜6で相違する他、次の相違点8でも相違する。 《相違点8》 本件発明5が「前記原紙層と前記発泡樹脂層との間に、アクリル−ブチル共重合体、又はイソシアネートとポリオールとからなるポリウレタンを塗布してなる接着処理層を設ける工程をさらに備える」のに対し、引用発明は、そのような工程を備えることは特定されていない点。 (2)判断 ア 上記相違点1〜3は上記3.(2)ア〜ウで、上記相違点4〜6は上記4.(2)ア〜ウで、それぞれ述べたとおりである。 イ 次に相違点8について検討する。 引用文献4の段落【0019】(上記2.(3)イ)、引用文献5の段落【0041】(上記2.(4))には、原紙層と発泡樹脂層との間に接着剤層を形成すること、さらに、その接着剤層を、アクリル−ブチル共重合体あるいはイソシアネートとポリオールとからなるポリウレタンを塗布することにより形成することが記載されている。 引用発明の壁装材内の各部材間が、より強固に接着されることが好ましいことは明らかであり、引用文献4、5の記載を参考に、壁紙用裏打紙と樹脂層の間に、アクリル−ブチル共重合体、又はイソシアネートとポリオールとからなるポリウレタンを塗布してなる接着処理層を設ける工程を加えることは、当業者が容易に想到し得たものである。 ウ 以上より、本件発明5は、引用発明並びに引用文献1、2、4〜6に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第6 むすび 以上のとおり、本件発明1、2、4、5は、特許法第29条第2項の規定に違反するものであるから、請求項1、2、4、5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 また、本件訂正により、請求項3に係る特許は削除されたため、請求項3に対して申立人1、2がした特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法第120条の8第1項で準用する特許法第135条の規定により、却下すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この決定に対する訴えは、この決定の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 原紙層上に発泡樹脂層と、絵柄印刷層と、樹脂フィルム層とがこの順で積層された積層シートの前記樹脂フィルム層の表面にエンボス版を押圧して凹凸を形成する工程を備え、 前記発泡樹脂層は塩化ビニル樹脂で構成され、 前記樹脂フィルム層を構成する樹脂はエチレン−ビニルアルコール共重合体を含み、 前記エンボス版の版深は50μm以上200μm以下であり、 前記樹脂フィルム層の坪量は13.4g/m2以上18.0g/m2以下であり、 前記樹脂フィルム層のL値は70以下であることを特徴とする、不燃性能を有する壁紙の製造方法。 【請求項2】 原紙層上に発泡樹脂層と、絵柄印刷層と、樹脂フィルム層とがこの順で積層された積層シートの前記樹脂フィルム層の表面にエンボス版を押圧して凹凸を形成する工程を備え、 前記発泡樹脂層は塩化ビニル樹脂で構成され、 前記樹脂フィルム層を構成する樹脂はエチレン−ビニルアルコール共重合体を含み、 前記エンボス版の版深は50μm以上200μm以下であり、 前記樹脂フィルム層のL値は70以下であり、 前記発泡樹脂層は、前記原紙層上に発泡剤を含む樹脂層である発泡剤含有樹脂層を形成し、前記発泡剤含有樹脂層上に前記絵柄印刷層を形成した後に、前記発泡剤を発泡させることで形成され、 前記樹脂フィルム層は、前記発泡剤を発泡させて形成した前記発泡樹脂層上に形成されることを特徴とする、不燃性能を有する壁紙の製造方法。 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 前記原紙層は、スルファミン酸グアニジン又はリン酸グアニジンを含浸させた難燃紙である、あるいは、炭酸マグネシウム又は水酸化マグネシウムを混抄した無機質紙であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の、不燃性能を有する壁紙の製造方法。 【請求項5】 前記原紙層と前記発泡樹脂層との間に、アクリルーブチル共重合体、又はイソシアネートとポリオールとからなるポリウレタンを塗布してなる接着処理層を設ける工程をさらに備えることを特徴とする請求項1、請求項2、または請求項4に記載の、不燃性能を有する壁紙の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2023-10-03 |
出願番号 | P2016-028096 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
ZAA
(D06N)
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最終処分 | 06 取消 |
特許庁審判長 |
久保 克彦 |
特許庁審判官 |
藤原 直欣 井上 茂夫 |
登録日 | 2021-01-12 |
登録番号 | 6821917 |
権利者 | 凸版印刷株式会社 |
発明の名称 | 不燃性能を有する壁紙の製造方法 |
代理人 | 廣瀬 一 |
代理人 | 田中 秀▲てつ▼ |
代理人 | 宮坂 徹 |
代理人 | 宮坂 徹 |
代理人 | 田中 秀▲てつ▼ |
代理人 | 廣瀬 一 |