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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
管理番号 1406717
総通号数 26 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-02-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-08-16 
確定日 2024-01-25 
異議申立件数
事件の表示 特許第7229197号発明「リチウム回収方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7229197号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7229197号(以下「本件特許」という。)についての出願は、令和2年4月24日に出願され、令和5年2月16日にその特許権の設定登録がされ、同年2月27日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、同年8月16日に特許異議申立人 中川 賢治(以下「申立人A」という。)が、同年8月17日に特許異議申立人 金澤 毅(以下「申立人B」という。)が、それぞれ特許異議の申立てを行った。


第2 本件発明
特許第722919号の請求項1〜6の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明6」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、後の参照の便宜のため、請求項1〜6を1A〜6Bに分説し、「発明特定事項1A」のようにして参照する。

【請求項1】
1A 少なくともリチウムを含むリチウムイオン電池廃棄物から、リチウムを回収する方法であって、
1B 焙焼工程を経て得られる焙焼済電池粉を、湿式粉砕によりリチウム浸出液中で微細化しながら、前記焙焼済電池粉中のリチウムをリチウム浸出液に浸出させるリチウム浸出工程
1C を含む、リチウム回収方法。
【請求項2】
2A 前記リチウム浸出工程の湿式粉砕に、ビーズミルを用いる、
2B 請求項1に記載のリチウム回収方法。
【請求項3】
3A 前記リチウム浸出工程で、前記湿式粉砕を1時間〜2時間にわたって行う、
3B 請求項1又は2に記載のリチウム回収方法。
【請求項4】
4A 前記リチウム浸出工程後に得られる残渣のメディアン径を、前記焙焼済電池粉のメディアン径の20%〜80%とする、
4B 請求項1〜3のいずれか一項に記載のリチウム回収方法。
【請求項5】
5A 前記リチウム浸出工程後に得られるリチウム含有溶液中のリチウムイオン濃度が、1.0g/L〜2.5g/Lである、
5B 請求項1〜4のいずれか一項に記載のリチウム回収方法。
【請求項6】
6A 前記焙焼工程で、大気雰囲気の下、リチウムイオン電池廃棄物を550℃〜900℃の温度に加熱し、該温度を4時間〜8時間にわたって保持する、
6B 請求項1〜5のいずれか一項に記載のリチウム回収方法。


第3 証拠方法、特許異議申立理由の概要
1 証拠方法
(1)申立人Aが特許異議申立書(以下「申立書A」という。)に添付した証拠方法は、以下のとおりである。

甲第1号証:特開2019−178395号公報
甲第2号証:韓国登録特許第10−1708149号公報及び部分訳
甲第3号証:特開2012−38572号公報
甲第4号証:特開2018−145449号公報
甲第5号証:特開2019−160429号公報

(2)申立人Bが特許異議申立書(以下「申立書B」という。)に添付した証拠方法は、以下のとおりである。

甲第1号証:特開2020−64855号公報
甲第2号証:特表2015−531824号公報
甲第3号証:三谷友梧 外、湿式ボールミルを用いた黄銅鉱からの銅浸出の促進、粉体工学会誌、2015年、Vol.52、No.12、第723〜729頁
甲第4号証:柴山敦 外、乾式タワーミル粉砕機の開発と粉砕特性に関する研究、素材物性学雑誌、2000年6月、第13巻、第1号、第28〜38頁
甲第5号証:B. A. Wills、Wills’ Mineral Processing Technology An Introduction to the Practical Aspects of Ore Treatment and Mineral Recovery、 2016年、Eighth Edition、第147頁、7.1 INTRODUCTION 左欄 第18行〜第26行及び訳文(当審注:申立書Bには、「第18行から第16行」と記載されているが、「第16行」は「第26行」の誤記と認める。)
甲第6号証:特開2018−172732号公報

以下、申立人Aによる「甲第1号証」〜「甲第5号証」を、それぞれ「甲A1」〜「甲A5」といい、申立人Bによる「甲第1号証」〜「甲第6号証」を、それぞれ「甲B1」〜「甲B6」という。

2 申立理由の概要
申立人A及び申立人Bが、それぞれ申立書A及び申立書Bで主張する異議申立理由の概要は、以下のとおりである。

(1)申立人Aの申立理由
ア 申立理由A1(進歩性
本件発明1〜6は、甲A1に記載された発明及び甲A1〜甲A5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1〜6に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当し取り消されるべきものである。

イ 申立理由A2(サポート要件)
本件発明3〜6に係る特許は、以下のとおり、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法113条4号に該当し取り消されるべきものである。

(ア)本件発明3の「前記リチウム浸出工程で、前記湿式粉砕を1時間〜2時間にわたって行う」(発明特定事項3A)について、本件特許の明細書(以下「本件明細書」という。)の実施例の欄には、「室温で60分間の湿式粉砕を行い」(【0048】)と記載されているのみであり、発明特定事項3Aで規定される湿式粉砕時間はサポートされていない。(申立書A15頁)

(イ)本件発明4の「前記リチウム浸出工程後に得られる残渣のメディアン径を、前記焙焼済電池粉のメディアン径の20%〜80%とする」(発明特定事項4A)について、本件明細書の実施例の欄には、「残渣のメディアン径は12.6μmであり、湿式粉砕前の焙焼済電池粉のメディアン径の67%程度に小さくなっていた。」(【0048】)と記載されているのみであり、発明特定事項4Aで規定される残渣のメディアン径の一点のみしかサポートされていない。(申立書A15頁)

(ウ)本件発明5の「前記リチウム浸出工程後に得られるリチウム含有溶液中のリチウムイオン濃度が、1.0g/L〜2.5g/Lである」(発明特定事項5A)について、本件明細書の実施例の欄には、「湿式粉砕後に濾過を行って濾液と残渣を得た。濾液のリチウムイオン濃度は0.22g/Lであり、」と記載されており、発明特定事項5Aで規定されるリチウム浸出工程後に得られるリチウム含有溶液中のリチウムイオン濃度についてサポートされていない。(申立書A15〜16頁)

(エ)本件発明6の「前記焙焼工程で、大気雰囲気の下、リチウムイオン電池廃棄物を550℃〜900℃の温度に加熱し、該温度を4時間〜8時間にわたって保持する」(発明特定事項6A)について、本件明細書の実施例の欄には、「使用済みリチウムイオン電池廃棄物の電池粉を、大気雰囲気の下、800℃の温度で2時間にわたって加熱して焙焼した。」(【0047】)と記載されており、発明特定事項6Aで規定される加熱温度、加熱時間の一点のみしかサポートされていない。(申立書A16頁)

(2)申立人Bの申立理由
ア 申立理由B1(進歩性
本件発明1、3〜6は、甲B1に記載された発明及び甲B1〜甲B6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1、3〜6に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当し取り消されるべきものである。

イ 申立理由B2(サポート要件)
本件発明1、3〜6に係る特許は、以下のとおり、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法113条4号に該当し取り消されるべきものである。

(ア)本件特許は、「リチウムイオン電池廃棄物に含まれるリチウムの浸出率を高めること」(【0010】)を課題とし、「リチウム浸出工程でのリチウムの浸出率は、好ましくは80%以上」(【0036】。なお、申立書B22頁に記載された段落番号0039は、0036の誤記と認める。)との記載、及び、実施例1では、リチウム浸出率が87.9%であるのに対し、比較例1では、リチウム浸出率は70.5%であることを踏まえると、本件特許は、80%以上のリチウム浸出率とすることを課題とするものである。
一方、本件発明1は、リチウム浸出率が80%以上であるとの限定はなく、リチウム浸出率が80%未満の場合の態様も含みうるから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものでない。(申立書B21〜22頁)

(イ)本件発明3は、「リチウム浸出工程で、前記湿式粉砕を1時間〜2時間にわたって行う」(発明特定事項3A)ことが規定されているのに対し、本件明細書に具体的に開示されているのは、「室温で60分間の湿式粉砕」(【0048】)を行ったことのみであり、本件発明3で規定された数値範囲の全ての範囲において、本件発明3の課題を解決し得ることは、発明の詳細な説明に記載されていないから、本件発明3は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。(申立書B22頁)

(ウ)本件発明4は、「リチウム浸出工程後に得られる残渣のメディアン径を、前記焙焼済電池粉のメディアン径の20%〜80%とする」(発明特定事項4A)ことが規定されているのに対し、本件明細書に具体的に開示されているのは、残渣のメディアン径が「湿式粉砕前の焙焼済電池粉のメディアン径の67%程度」(【0048】)であったことのみであり、本件発明4で規定された数値範囲の全ての範囲において、本件発明4の課題を解決し得ることは、発明の詳細な説明に記載されていないから、本件発明4は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。(申立書B23頁)

(エ)本件発明5は、「リチウム浸出工程後に得られるリチウム含有溶液中のリチウムイオン濃度が、1.0g/L〜2.5g/Lである」(発明特定事項5A)ことが規定されているのに対し、本件明細書に具体的に開示されているのは、「濾液のリチウムイオン濃度は0.22g/L」(【0048】)であったことのみであり、本件発明5で規定された数値範囲の全ての範囲において、本件発明5の課題を解決し得ることは、発明の詳細な説明に記載されていないから、本件発明5は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。(申立書B23頁)

(オ)本件発明6は、「焙焼工程で、大気雰囲気の下、リチウムイオン電池廃棄物を550℃〜900℃の温度に加熱し、該温度を4時間〜8時間にわたって保持する」(発明特定事項6A)ことが規定されているのに対し、本件明細書に具体的に開示されているのは、「大気雰囲気の下、800℃の温度で2時間にわたって加熱して焙焼し(略)焙焼済電池粉を得た」(【0047】)ことのみであり、本件発明6で規定された数値範囲の全ての範囲において、本件発明6の課題を解決し得ることは、発明の詳細な説明に記載されていないから、本件発明6は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。(申立書B23〜24頁)


第4 甲号証の記載
本件発明1について、申立人Aからは甲A1及び甲A2が、申立人Bからは甲B1及び甲B2が書証申出されているので、以下では、特に、これらの証拠について検討する。

1 甲A1
(1)甲A1の記載事項
甲A1には、次の事項が記載されている(下線は当審で付与したものである。以下、同じ。)。

「【技術分野】
【0001】
この明細書は、リチウムイオン電池スクラップからリチウムを回収する方法に関する技術を提案するものである。」

「【0005】
しかるに、上述したようにリチウムイオン電池スクラップに対して酸浸出や溶媒抽出等の各種の処理を行って得られたリチウム含有溶液から、炭酸化により炭酸リチウムを回収する場合、炭酸リチウムを得るに至るまでのプロセスが極めて複雑であり、それにより処理や設備のコストが嵩むとともに、処理効率が悪いという問題がある。
【0006】
これに関して、特許文献5には、「コバルト酸リチウム100質量部に対し、1質量部以上の炭素を混合した混合物を、大気雰囲気下、酸化雰囲気下、及び還元性雰囲気下のいずれかで焙焼してなる酸化リチウムを含有する焙焼物を水で浸出することを特徴とするリチウムの回収方法」等が提案されている。そして、この方法によれば、「リチウムイオン二次電池の正極材料であるコバルト酸リチウムから、リチウムを効率よく回収することができ、リチウムイオン二次電池の再利用を行うことができるリチウムの回収方法を提供することができる」とされている。」

「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献5の提案技術では、所定の雰囲気下で焙焼してなる焙焼物を水で浸出することによって、リチウムを効率よく回収することができるとされているが、単純に水で浸出するだけでは、焙焼物に多く含まれ得るリチウムが十分に浸出せず、それにより得られる浸出後液は、リチウム濃度が低いものとなる。この場合、当該リチウムを炭酸リチウムとして回収するには、溶媒抽出等による濃縮が必要になり、それに伴うコストの上昇、処理効率の低下が否めない。
【0009】
この明細書は、このような問題を解決するため、リチウムイオン電池スクラップを処理して得られる電池粉末中のリチウムを有効に浸出させることのできるリチウムの回収方法を提案するものである。」

「【0013】
以下に、この明細書で開示する発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態に係るリチウムイオン電池スクラップからのリチウムの回収方法は、リチウムイオン電池スクラップを処理して得られる電池粉末を、水からなる浸出液と接触させるとともに、該浸出液中に水酸化カルシウムを添加することにより、浸出液中の炭酸リチウムを水酸化リチウムとして、リチウムを浸出させるリチウム浸出工程を含むものである。
典型的には、図1に例示するように、リチウムイオン電池スクラップに対し、焙焼工程、破砕工程および篩別工程を順次に行い、それにより得られる電池粉末について上記のリチウム浸出工程を行い、次いで、固液分離工程で浸出残渣から浸出後液を分離させ、その後、リチウム炭酸化工程で、浸出後液中のリチウムを炭酸化して炭酸リチウムを得る。」

「【0027】
(リチウム浸出工程)
上述した焙焼、破砕、及び篩別の一連の工程を経た後、このリチウム浸出工程では、電池粉末を水からなる浸出液と接触させるとともに、当該浸出液に水酸化カルシウムを添加する。それにより、反応式:Li2CO3+Ca(OH)2→2LiOH+CaCO3↓に基づいて、浸出液中の炭酸リチウムが水酸化リチウムとなる反応が生じる。ここで、水酸化リチウムは、炭酸化リチウムに比して溶解度がかなり高いことから、上記の反応によって生じた水酸化リチウムは浸出液に有効に溶解し、浸出液のリチウム濃度を飛躍的に上昇させる。なお、20℃における溶解度は、炭酸リチウムが2.5g−Li/L程度、水酸化リチウムが35.5g−Li/L程度である。
また、水酸化カルシウムの添加により浸出液のpHは上昇する傾向にあることから、電池粉末中のリチウム以外の金属の溶解を抑制することができる。
【0028】
浸出液への水酸化カルシウムの添加の時期については、浸出液中で電池粉末から炭酸リチウムが溶け出した後に、浸出液に水酸化カルシウムが存在すれば上述した反応が生じるので、かかる反応が生じることになれば当該時期は特に問わない。たとえば、浸出液に電池粉末を接触させる前に、予め浸出液に水酸化カルシウムを添加しておくこと、浸出液に電池粉末を接触させると同時に、たとえば電池粉末と混合させ又は電池粉末と別に、浸出液に水酸化カルシウムを添加すること、あるいは、浸出液に電池粉末を接触させた後、浸出液に水酸化カルシウムを添加すること等が考えられる。」

「【0030】
ここで用いる水からなる浸出液は、水道水、工業用水、蒸留水、精製水、イオン交換水、純水、超純水等とすることができる。
なお、仮に浸出液を、硫酸等を添加した酸性溶液とした場合、水酸化カルシウムが硫酸の中和に消費されるため、必要以上に水酸化カルシウムが必要となる他、硫酸カルシウムが生成するという問題がある。これに対し、ここでは、浸出液を水からなるものとしたことにより、このような問題は生じない。」

「【0033】
リチウム浸出工程で、リチウムを浸出させた後の浸出液のリチウム濃度は、後述のリチウム炭酸化工程で炭酸塩の添加による炭酸リチウムの析出を有効に生じさせるために、少なくとも3.0g/L以上であると好ましく、リチウムの回収を40%以上となることを考えると5.0g/L以上であることがより好ましく、さらに10g/L以上であることが特に好ましい。なお、浸出液には、ナトリウムが100mg/L〜1000mg/L、アルミニウムが0mg/L〜100mg/Lで含まれることがある。なお、後述のリチウム炭酸化工程で炭酸ナトリウムを添加してリチウムを炭酸リチウムとして回収する場合は、浸出液のこのナトリウム濃度は全く問題にはならない。」

(2)甲A1発明
前記(1)によれば、甲A1には、次の発明(以下「甲A1発明」という。)が記載されていると認められる。

リチウムイオン電池スクラップからのリチウムの回収方法であって、(【0013】)
リチウムイオン電池スクラップを処理して得られる電池粉末を、水からなる浸出液と接触させるとともに、該浸出液中に水酸化カルシウムを添加することにより、浸出液中の炭酸リチウムを水酸化リチウムとして、リチウムを浸出させるリチウム浸出工程を含み、(【0013】)
浸出液中で電池粉末から炭酸リチウムが溶け出し、(【0028】)
浸出液中の炭酸リチウムが水酸化リチウムとなる反応が生じ、(【0027】)
リチウムイオン電池スクラップに対し、焙焼工程、破砕工程および篩別工程を順次に行い、それにより得られる電池粉末について上記のリチウム浸出工程を行い、次いで、固液分離工程で浸出残渣から浸出後液を分離させ、その後、リチウム炭酸化工程で、浸出後液中のリチウムを炭酸化して炭酸リチウムを得る(【0013】)
リチウムの回収方法。(【0013】)

2 甲A2
(1)甲A2の記載事項
甲A2には、次の事項が記載されている。

「[0001]


(当審訳:
[0001]
本発明は、廃リチウム電池の正極材料からリチウム化合物を回収する方法に関する。より詳細には、湿式粉砕法を通じて回収率及び純度の高いリチウム化合物を回収する方法に関する。)

「[0006]


(当審訳:
[0006]
有機酸を利用した浸出効率を向上させるためには、正極材料に含まれているバインダー及び塗料を熱処理工程などを利用して事前に除去しなければならない工程が必要であり、これは工程追加による時間と費用の面で非経済的な欠点が発生する。)

「[0008]


(当審訳:
[0008]
本発明は、上記のような問題点を解決するために創案されたもので、従来の廃リチウム電池正極材料溶解法に比べて環境汚染を減らし、簡単な工程と低コストでも廃リチウム電池正極材料から高価なリチウム化合物を高い回収率と高純度で回収する方法を提供することを目的とする。)

「[0016]


(当審訳:
[0016]
図1を参照すると、本発明の一側面は、廃リチウム電池から分離された正極材料と多塩基酸及び水を混合した後、湿式粉砕して水浸出物と水不溶液を生成する工程を含む、廃リチウム電池正極材料からリチウム化合物を回収する方法である。)

「[0027]


(当審訳:
[0027]
湿式粉砕は、廃リチウム電池から得られた正極材料と多塩基酸成分及び水を混合した後に行うことができる。湿式粉砕工程を通じて、上記正極材料は非常に微細な粒子サイズに粉砕され、同時に多塩基酸によってリチウム成分が浸出することができる。)

(2)甲A2技術
前記(1)によれば、甲A2には、次の技術事項(以下「甲A2技術」という。)が記載されていると認められる。

廃リチウム電池から分離された正極材料と多塩基酸及び水を混合した後、湿式粉砕して水浸出物と水不溶液を生成する工程を含む、廃リチウム電池正極材料からリチウム化合物を回収する方法であって、([0016])
湿式粉砕工程を通じて、上記正極材料は非常に微細な粒子サイズに粉砕され、同時に多塩基酸によってリチウム成分が浸出することができる([0027])
リチウム化合物を回収する方法。([0016])

3 甲B1
(1)甲B1の記載事項
甲B1には、次の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、製造過程で発生した不良品や使用機器及び電池の寿命などに伴い廃棄されるリチウムイオン二次電池の正極集電体、負極集電体、正極活物質などから有価物を回収可能なリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法に関する。」

「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
リチウムイオン二次電池を熱処理後、破砕・分級すると、粗粒産物に外装容器由来の鉄・アルミ二ウム及び負極集電体由来の銅などが回収される。また、細粒産物にはコバルト・ニッケルが濃縮するが、集電体由来の金属も一部細粒産物に混入する。コバルト・ニッケルリサイクルのため細粒産物からの集電体由来金属および負極活物質の分離回収が求められているが、特に銅とコバルト・ニッケルは溶液から同様のpH領域で沈殿するため、溶解後中和することにより沈殿を生じさせて銅を除去することは困難である。また、カーボンなどの負極活物質は数10nmの粒子であり、乾式の物理選別ではコバルト・ニッケル含有粒子-カーボン粒子間の水分の架橋を主とする付着力が生じ、カーボンを除去する事は困難である。さらに、乾式の物理選別により回収したコバルト-ニッケル含有粒子には上記特許文献1や2に記載された方法では、数%のフッ素が含まれ、フッ素の除去工程が必要となる。コバルト・ニッケル濃縮物中の銅などの負極集電体由来金属品位を0.2%未満、フッ素品位を1%未満、及びカーボンなどの負極活物質由来の物質の品位を5%未満まで低減することが困難であった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、コバルト・ニッケルといった有価物を、低い負極集電体由来金属品位、フッ素品位、及び負極活物質由来の物質品位で回収できる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明によれば、リチウムイオン二次電池を熱処理する熱処理工程と、前記熱処理工程で得られた熱処理物を破砕する破砕工程と、前記破砕工程で得られた破砕物を粗粒産物と細粒産物とに0.45mm以上の分級点で分級する分級工程と、前記分級工程で得られた細粒産物を湿式磁選する湿式磁選工程を有することを特徴とする、リチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法が提供される。なお、破砕工程と分級工程は、同時進行で行うこともできる。例えば、熱処理工程で得られた熱処理物を破砕しながら、破砕物を粗粒産物と細粒産物とに分級する破砕・分級工程として行っても良い。」

「【0027】
本発明の実施の形態では、図1に示す手順によって、リチウムイオン二次電池に含まれるアルミニウム、コバルト、ニッケル、銅等の各種有価物を効率的に分離回収する。回収に用いられるリチウムイオン二次電池としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、リチウムイオン二次電池の製造過程で発生した不良品のリチウムイオン二次電池、使用機器の不良、使用機器の寿命などにより廃棄されるリチウムイオン二次電池、寿命により廃棄される使用済みのリチウムイオン二次電池などが挙げられる。
【0028】
<熱処理工程>
図1に示すように、先ず、リチウムイオン二次電池(LIB)に対して、熱処理工程(熱処理)が行われる。熱処理温度は、正極集電体及び負極集電体のうち、低い融点の集電体の融点以上、かつ高い融点の集電体の融点未満の温度であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、670℃以上が好ましく、670℃以上1100℃以下がより好ましく、700℃以上900℃以下が特に好ましい。熱処理温度が、670℃未満であると、低い融点の集電体の脆化が十分に生じないことがあり、1100℃を超えると、低い融点の集電体、高い融点の集電体、及び外装容器のいずれもが脆化し、破砕及び分級による集電体および外装容器の分離効率が低下する。また、前記リチウムイオン二次電池の前記外装容器が前記熱処理中に溶融する場合、前記リチウムイオン二次電池の下に前記溶融金属を回収する受け皿を配置する事で、外装容器由来の金属と電極部を容易に分離する事が出来る。」

「【0042】
<湿式磁選工程>
一方、分級工程で得られた細粒産物に対しては、湿式磁選工程(湿式磁選)が行われ、磁着物としてコバルト、ニッケルが回収される。先にも説明したように、分級工程で得られた細粒産物を磁選するに際し、乾式で磁選した場合、粒子間の付着水分により粒子の凝集が生じ、負極集電体由来金属粒子および細粒産物に10%以上含まれる負極活物質微粒子とコバルト・ニッケル粒子を十分に分離できない。本発明では、湿式磁選工程において負極活物質由来の物質と負極集電体由来金属を非磁着産物スラリーに分離し、コバルトおよびニッケルを磁着物に回収する。
この磁着物中には、例えば、磁着物中に含まれる負極活物質由来のカーボンを5%未満とすることができる。また、磁着物中に含まれる負極集電体由来金属(代表的には銅)を0.2%未満とすることができる。
【0043】
一方、リチウムは原料のスラリー化および湿式磁選の間に液中に溶解し、非磁着産物スラリーに分離される。この非磁着物スラリーを固液分離することで、負極集電体由来金属および負極活物質を残渣に分離できる。また、固液分離によって分離された液中には炭酸ガスの吹込みが行われ、炭酸リチウムとして沈殿し、リチウムが回収される。なお、前記炭酸ガスの吹込み前には、不純物の除去工程やリチウム濃度の上昇を目的とした液の濃縮工程などの前処理工程を有していてもよい。一方、残った液中には例えばフッ素などが回収される。このため、磁着物中のフッ素品位は1%未満となり得る。リチウムを回収及びフッ素をコバルト・ニッケルから分離するには浸出処理が必要であるが、本発明では、湿式磁選工程において、リチウムの水浸出およびフッ素の浸出除去と負極集電体由来金属-コバルト・ニッケルの分離を同時に行える点で、工程数を減らすことができる。」

(2)甲B1発明
前記(1)によれば、甲B1には、次の発明(以下「甲B1発明」という。)が記載されていると認められる。

リチウムイオン二次電池を熱処理する熱処理工程と、前記熱処理工程で得られた熱処理物を破砕する破砕工程と、前記破砕工程で得られた破砕物を粗粒産物と細粒産物とに0.45mm以上の分級点で分級する分級工程と、前記分級工程で得られた細粒産物を湿式磁選する湿式磁選工程を有することを特徴とする、リチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法であって、(【0009】)
回収に用いられるリチウムイオン二次電池としては、寿命により廃棄される使用済みのリチウムイオン二次電池であり、(【0027】)
熱処理温度は、700℃以上900℃以下であり、(【0028】)
湿式磁選工程(湿式磁選)が行われ、磁着物としてコバルト、ニッケルが回収され、(【0042】)
リチウムは原料のスラリー化および湿式磁選の間に液中に溶解し、非磁着産物スラリーに分離され、この非磁着物スラリーを固液分離することで、負極集電体由来金属および負極活物質を残渣に分離でき、固液分離によって分離された液中には炭酸ガスの吹込みが行われ、炭酸リチウムとして沈殿し、リチウムが回収され、(【0043】)
湿式磁選工程において、リチウムの水浸出およびフッ素の浸出除去と負極集電体由来金属-コバルト・ニッケルの分離を同時に行える(【0043】)
有価物の回収方法。(【0009】)

4 甲B2
(1)甲B2の記載事項
甲B2には、次の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物、炭酸塩、鉱物および鉱石などのマンガン含有原料を処理するための方法に関する。本発明は海底または湖底から回収されたマンガン含有団塊のみならず、マンガンを含む電池などのマンガン含有工業原料を処理するのに好適である。本発明は特に、そういった原料から有用な成分、とりわけマンガンを、さらにコバルト、ニッケル、銅、及び/または鉄がもしも存在するならそれらを浸出して回収するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明によって処理されるマンガン含有原料は、二酸化マンガン内在電池を含んでいてもよく、例として亜鉛-炭素、アルカリおよびリチウム(LMOまたはLiMn2O4)電池や、鉱物または団塊を含むマンガン鉱石が挙げられる。」

「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の第一の目的は、マンガン含有原料からマンガンを回収するための改良された方法を提供することである。
【0007】
本発明の別の目的は、マンガン含有原料から、金属有価物、例えば、ニッケル、コバルト、亜鉛、銅、マグネシウム、アルミニウム、鉄、カルシウム、カドミウム、カリウム、ナトリウム、ジルコニウム、チタン、鉛、セリウム、モリブデン、リン、バリウム、及びバナジウムがもしも存在するならそれらを回収するための効果的な浸出液を提供することである。」

「【0009】
本発明の別な目的は、肥料グレードの硝酸原料を生産することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、例えば深海マンガン団塊などのマンガン含有原料を水溶液中にて重合酸化窒素(N2O3)xで処理することによって、少なくとも5%のマンガンを有するマンガン含有原料からマンガンを回収し、さらにもしも存在するなら他の金属有価物を回収するための方法である。重合酸化窒素(N2O3)xのMnO2との反応式は次の通りであり、下記の反応の後にMnOは硝酸と反応してMn(NO3)2を生成し、捕捉されていた所望の有価金属を遊離させる。
MnO2+(N2O3)x → MnO+x(NO2)」

「【発明を実施するための形態】
【0013】
本方法は、深海マンガン団塊などの、マンガン含有率が5%を超える、マンガン含有原料(10)で開始されるが、この原料は海洋、海、または他の水域から入手されてもよい。そのような団塊は大きな湖で見いだされることもある。深海団塊は20%を超えるマンガンを含有していることが多く、通常は約28%含有する。
【0014】
深海団塊は通常、マンガンに加えて、以下の金属類のうちの少なくとも1種類を含有する。
ニッケル、コバルト、亜鉛、銅、マグネシウム、アルミニウム、鉄、カルシウム、カドミウム、カリウム、ナトリウム、ジルコニウム、チタン、鉛、セリウム、モリブデン、リン、バリウム、及びバナジウム
このマンガン含有原料は、酸化物、炭酸塩および鉱石を含む群から選択される。
本発明の方法は、これらの金属有価物の多くを効率的に浸出し回収することを含む。
【0015】
浸出のための表面積を増やすために、さらに団塊を圧潰するか粉砕(12)してもよい。団塊に塩化物(塩水に由来するものなど)が含まれている場合いずれも、任意の好都合な方法、例えば、好ましくは水で、洗浄で除去するのも有利である。この工程を実施するのは圧潰の前でも圧潰中でも圧潰後でもよいが、圧潰後に行うのが好ましい。団塊の圧潰または粉砕は、湿式ミルまたは湿式粉砕器の中で浸出を実施しつつ行ってもよい。
【0016】
団塊などのマンガン含有原料(10)の浸出(14)は、好ましくは硝酸水溶液の中で行われ、そこへ重合酸化窒素(N2O3)x(16)が導入される。その代わりに、団塊を含んだ水溶液にまず重合酸化窒素(N2O3)xを導入してから、この溶液にHNO3(18)を投入して反応を完了させるようにしてもよい。
【0017】
重合酸化窒素(N2O3)xは、MnO2と反応してMnO及びNO2を生成し、他の金属類も団塊から遊離させる。この反応と同時に、またはその後に、金属硝酸塩の生成を完了させるために加熱(20)してもよい。反応を達成するために、溶液の温度は好ましくは30℃から150℃の温度範囲に加熱される。反応は発熱を伴うため、追加の加熱は必要なだけ行われる。酸不溶性物(22)は取り除かれて、マンガンや他の所望の金属を含んだ溶液(24)が残る。」

(2)甲B2技術
前記(1)によれば、甲B2には、次の技術事項(以下「甲B2技術」という。)が記載されていると認められる。

深海マンガン団塊などのマンガン含有原料を水溶液中にて重合酸化窒素(N2O3)xで処理することによって、マンガン含有原料からマンガンを回収し、他の金属有価物を回収するための方法であり、(【0010】)
マンガン含有原料は、リチウム(LiMn2O4)電池が挙げられ、(【0002】)
方法は、マンガン含有原料(10)で開始され、(【0013】)
浸出のための表面積を増やすために、さらに団塊を粉砕(12)し、団塊の粉砕は、湿式ミルまたは湿式粉砕器の中で浸出を実施しつつ行い、(【0015】)
団塊などのマンガン含有原料(10)の浸出(14)は、硝酸水溶液の中で行われ、そこへ重合酸化窒素(N2O3)x(16)が導入され、(【0016】)
酸不溶性物(22)は取り除かれて、マンガンや他の所望の金属を含んだ溶液(24)が残る(【0017】)
マンガンを回収し、他の金属有価物を回収するための方法。(【0010】)


第5 当審の判断
事案に鑑み、申立人Aの申立理由A1(進歩性)、申立人Bの申立理由B1(進歩性)の順に検討し、その後、申立人Aの申立理由A2(サポート要件)と申立人Bの申立理由B2(サポート要件)をあわせて検討する。

1 申立人Aの申立理由A1(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲A1発明とを対比する。

(ア)発明特定事項1A、1Cについて
甲A1発明は、「リチウムイオン電池スクラップ」からの「リチウム」の「回収方法」であり、該「リチウムイオン電池スクラップ」に「リチウム」が含まれていることを前提とするものである。
よって、甲A1発明の「リチウムイオン電池スクラップ」は、本件発明1の「少なくともリチウムを含むリチウムイオン電池廃棄物」に相当し、本件発明1と甲A1発明とは、「少なくともリチウムを含むリチウムイオン電池廃棄物から、リチウムを回収する方法」である点で一致する。

(イ)発明特定事項1Bについて
甲A1発明の「リチウム浸出工程」で処理される「電池粉末」は、「リチウムイオン電池スクラップ」を「焙焼工程」、「破砕工程」及び「篩別工程」を経て得られるものであるから、該「電池粉末」は、本件発明1の「焙焼工程を得て得られる焙焼済電池粉」に相当する。また、甲A1発明の上記「リチウム浸出工程」に用いられる「浸出液」は、「リチウム」が浸出されるものであるから、本件発明1の「リチウム浸出液」に相当する。
そして、甲A1発明の上記「浸出液」に浸出される「リチウム」は、前記「電池粉末」から溶け出した炭酸リチウムに由来するものであるから、甲A1発明の「リチウム浸出工程」は、本件発明1の「リチウム浸出工程」とは、「焙焼工程を経て得られる焙焼済電池粉中のリチウムをリチウム浸出液に浸出させるリチウム浸出工程」である点で共通する。
他方、甲A1発明の「リチウム浸出工程」は、「浸出液中に水酸化カルシウムを添加」して「リチウム」を浸出させるものであり、「電池粉末」を本件発明1のように「湿式粉砕によりリチウム浸出液中で微細化しながら」行うものではない。

(ウ)一致点、相違点
以上によれば、本件発明1と甲A1発明とは、次の一致点、相違点があるといえる。

〈一致点〉
「 少なくともリチウムを含むリチウムイオン電池廃棄物から、リチウムを回収する方法であって、
焙焼工程を経て得られる焙焼済電池粉中のリチウムをリチウム浸出液に浸出させるリチウム浸出工程を含む、
リチウム回収方法。」

〈相違点〉
[相違点1]
「リチウム浸出工程」が、本件発明1は、「焙焼済電池粉を、湿式粉砕によりリチウム浸出液中で微細化しながら」リチウムを浸出させるのに対し、甲A1発明は、「浸出液中に水酸化カルシウムを添加」してリチウムを浸出させる点。

イ 相違点についての検討
甲A2技術は、廃リチウム電池から分離された正極材料と多塩基酸及び水を混合して湿式粉砕することで、多塩基酸による該正極材料のリチウム成分の浸出を行うものであり、上記多塩基酸は酸性である。
これに対し、甲A1発明は、リチウムの浸出に「水酸化カルシウム」を用いるため、浸出液を酸性溶液とした場合、必要以上に水酸化カルシウムが必要となる等の問題(【0030】)が生じるものである。
そのため、甲A1発明に甲A2技術を適用することには阻害事由があるといえる。

また、甲A1発明は、従来技術におけるコストの上昇、処理効率の低下の問題(【0005】【0008】)に鑑み、「リチウム浸出工程」において、水酸化カルシウムを添加して溶解度の高い水酸化リチウムにするものである。
そのため、仮に、甲A2技術から、廃リチウム電池の材料を湿式粉砕して、リチウムを浸出するという技術が把握できたとしても、該技術を甲A1発明に適用しようとすると、コストが上昇する上、それに見合う効果が得られるかは不明であるから、上記技術を甲A1発明に適用する動機付けがあるいうことはできない。
さらに、提出されたその他の証拠を見ても、甲A1発明の「リチウム浸出工程」において、「焙焼済電池粉を、湿式粉砕によりリチウム浸出液中で微細化しながら」リチウムを浸出させるように構成する動機付けは、見当たらない。

したがって、本件発明1は、甲A1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2〜6について
本件発明2〜6は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、前記(1)で対比した、相違点1に係る構成を含むものであり、甲A3〜甲A5について検討するまでも無く、前記(1)と同様に、甲A1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明1〜6は、甲A1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、前記第3、2(1)アの申立理由(申立理由A1)は、理由がない。

2 申立人Bの申立理由B1(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲B1発明とを対比する。

(ア)発明特定事項1A、1Cについて
甲B1発明において、有価物が回収される「リチウムイオン二次電池」は、「リチウム」を含むものであり、かつ、寿命により廃棄される使用済みのものであるから、本件発明1の「少なくともリチウムを含むリチウムイオン電池廃棄物」に相当する。
甲B1発明の「リチウムイオン二次電池の有価物の回収方法」では、「コバルト、ニッケル」とともに「リチウム」も回収されるから、「リチウム」の「回収方法」ともいえる。
したがって、本件発明1と甲B1発明とは、「少なくともリチウムを含むリチウムイオン電池廃棄物から、リチウムを回収する方法」である点で一致する。

(イ)発明特定事項1Bについて
甲B1発明の「熱処理工程」の熱処理は、「700℃以上900℃以下」という高温で行われるものであり、焙焼といえるから、本件発明1の「焙焼工程」にい相当する。
甲B1発明の「細粒産物」は、「リチウムイオン二次電池」を熱処理する上記「熱処理工程」、「破砕工程」、「分級工程」を経たものであるから、本件発明1の「焙焼済電池粉」とは、「焙焼工程を得て得られる焙焼済電池材」という点で共通する一方、上記「細粒産物」が「粉」であるかは明らかでない。
甲B1発明の「湿式磁選工程」は、「細粒産物」に含まれる「コバルト・ニッケルの分離」(湿式磁選)と同時に「リチウム」の「水浸出」を行うものであるから、リチウムの浸出工程を含み、上記「水」(液)は、本件発明1の「リチウム浸出液」に相当するから、本件発明1と甲B1発明とは、「焙焼工程を経て得られる焙焼済電池材中のリチウムをリチウム浸出液に浸出させるリチウム浸出工程を含む」点で共通するといえる。
他方、リチウムの浸出工程を含む甲B1発明の「湿式磁選工程」は、「細粒産物」を本件発明1のように「湿式粉砕によりリチウム浸出液中で微細化しながら」行うものではない。

(ウ)一致点、相違点
以上によれば、本件発明1と甲B1発明とは、次の一致点、相違点があるといえる。

〈一致点〉
「 少なくともリチウムを含むリチウムイオン電池廃棄物から、リチウムを回収する方法であって、
焙焼工程を経て得られる焙焼済電池材中のリチウムをリチウム浸出液に浸出させるリチウム浸出工程を含む、
リチウム回収方法。」

〈相違点〉
[相違点2]
焙焼工程を経て得られる焙焼済電池材について、本件発明1は「焙焼済電池粉」であるのに対し、甲B1発明の「細粒産物」が「粉」であるかは明らかでない点。

[相違点3]
「リチウム浸出工程」について、本件発明1は、「焙焼済電池粉を、湿式粉砕によりリチウム浸出液中で微細化しながら」リチウムを浸出させるのに対し、甲B1発明のリチウムの浸出工程を含む「湿式磁選工程」は、「湿式粉砕によりリチウム浸出液中で微細化しながら」行うものではない点。

イ 相違点についての検討
(ア)事案に鑑み、相違点3について検討する。

甲B2技術は、浸出のための表面積を増やすために、団塊のマンガン含有原料を湿式粉砕しながら浸出を行うものであるが、該浸出は硝酸水溶液の中で行われるものであり、上記マンガン含有原料にコバルト、ニッケルが含まれる場合、該コバルト、ニッケルは該硝酸水溶液に浸出される(甲B2【0014】)。
これに対し、甲B1発明は、従来困難であった、コバルト、ニッケルの低い負極集電体由来金属品位、フッ素品位及び負極活物質由来の物質品位での回収を目的とし(甲B1【0007】)、湿式磁選によりコバルト、ニッケルを磁着物として回収するものであるから、コバルト、ニッケルを硝酸水溶液に浸出させる甲B2技術を甲B1発明に適用することには阻害事由があるといえる。

また、仮に、甲B2技術から、浸出のための表面積を増やすために浸出液の中で湿式粉砕を行うという技術が把握できるとしても、甲B1発明は、前記のとおり、コバルト、ニッケルの低い負極集電体由来金属品位、フッ素品位及び負極活物質由来の物質品位での回収を目的として、細粒産物から湿式磁選によりコバルト、ニッケルを磁着物として回収するものである。そして、上記湿式粉砕の技術は、浸出のためのものであって磁着のためのものではないから、甲B1発明のリチウムの浸出工程を含む「湿式磁選工程」を、細粒産物を湿式粉砕で微細化しながら行う動機付けがあるということはできない。この点は、湿式粉砕が周知技術であったとしても左右されない。
さらに、提出されたその他の証拠を見ても、甲B1発明の「湿式磁選工程」において、細粒産物を湿式粉砕で微細化しながら行うように構成する動機付けは、見当たらない。

したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲B1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)申立人Bは、本件発明1は、湿式粉砕の微細化工程の条件について何ら規定されておらず、湿式粉砕工程の寄与がごくわずかな場合を含むものであり、湿式粉砕技術自体は周知技術であるから、本件発明1は、甲B1発明に基づいて当業者が容易に想到できたものである旨主張するが(申立書B16〜17頁)、前記のとおり、甲B1発明に湿式粉砕技術を導入する動機付けは存在しないから、係る主張は採用することができない。
また、申立人Bは、甲B2には、金属有価物を浸出する際に、浸出のための表面積を増やすために湿式ミルまたは湿式粉砕機の中で侵出を実施することが記載され、浸出に用いるpHを調整することは適宜行われることであるから、本件発明1は、甲B1発明及び甲B2技術に基づいて当業者が容易に想到し得た旨主張するが(申立書B17〜18頁)、前記のとおり、甲B1発明に甲B2技術を適用することには阻害事由があるから、係る主張は採用することができない。

(2)本件発明3〜6について
本件発明3〜6は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、前記(1)で対比した、少なくとも相違点3に係る構成を含むものであり、甲B3〜甲B6について検討するまでも無く、前記(1)と同様に、甲B1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明1、3〜6は、甲B1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、前記第3、2(2)アの申立理由(申立理由B1)は、理由がない。

3 申立人Aの申立理由A2(サポート要件)、申立人Bの申立理由B2(サポート要件)について
(1)特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。

(2)発明の詳細な説明の記載事項
本件明細書の発明の詳細な説明には、次の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
この明細書は、リチウム回収方法に関する技術を開示するものである。」

「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1〜4に記載されているように、焙焼後のリチウムイオン電池廃棄物を単純に水等のリチウム浸出液と接触させても、リチウムイオン電池廃棄物の状態その他の条件によっては、リチウム浸出液へのリチウムの浸出率、ひいてはリチウムの回収率を十分に高めることができない場合がある。このことは、特許文献5に記載されているような超音波処理を施しても同様であった。
【0010】
この明細書では、リチウムイオン電池廃棄物に含まれるリチウムの浸出率を高めることができるリチウム回収方法を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この明細書で開示するリチウム回収方法は、少なくともリチウムを含むリチウムイオン電池廃棄物から、リチウムを回収する方法であって、焙焼工程を経て得られる焙焼済電池粉を、湿式粉砕によりリチウム浸出液中で微細化しながら、前記焙焼済電池粉中のリチウムをリチウム浸出液に浸出させるリチウム浸出工程を含むものである。
【発明の効果】
【0012】
上述したリチウム回収方法によれば、リチウムイオン電池廃棄物に含まれるリチウムの浸出率を高めることができる。」

「【0019】
(焙焼工程)
焙焼処理では、上記のリチウムイオン電池廃棄物を加熱する。焙焼工程では、上記のようなリチウムイオン電池廃棄物を加熱し、それにより焙焼粉を得る。この焙焼工程は一般に、リチウムイオン電池廃棄物の温度を上昇させ、リチウムイオン電池廃棄物に含まれるリチウムやコバルト等の金属を、水又は酸等による浸出で溶かしやすい形態に変化させること等を目的として行う。
【0020】
ここでは、大気雰囲気の下、リチウムイオン電池廃棄物を550℃〜900℃の温度に加熱し、その温度を4時間〜8時間にわたって保持することが好ましい。このような温度及び保持時間とすれば、リチウムイオン電池廃棄物中のリチウムを、水等に溶けやすい酸化リチウムや炭酸リチウム等の形態に有効に変化させることができるので、後述するリチウム浸出工程でのリチウム浸出率をさらに高めることができる。」

「【0027】
(リチウム浸出工程)
リチウム浸出工程では、焙焼済電池粉に対して湿式粉砕を行い、焙焼済電池粉をリチウム浸出液中で粉砕して微細化しながら、焙焼済電池粉中のリチウムをそのリチウム浸出液に浸出させる。なお、ここでいう焙焼済電池粉とは、破砕工程及び篩別工程を行わなかった場合は上記の焙焼粉を意味し、破砕工程を行って篩別工程を行わなかった場合は破砕粉を意味し、あるいは、破砕工程を行わずに篩別工程を行った場合や、破砕工程及び篩別工程を行った場合は篩下物を意味する。いずれの場合でも、焙焼済電池粉は、少なくとも焙焼工程を経て得られたものである。
【0028】
このようなリチウムの浸出工程では、湿式粉砕により焙焼済電池粉の新生面が表出しつつ、その新生面からリチウムがリチウム浸出液へ溶出する。これにより、リチウム浸出液へのリチウムの浸出率を高めることができると考えられる。リチウム浸出工程の後、固液分離を行うことにより、焙焼済電池粉中のリチウムが溶解したリチウム含有溶液と、微細化された粉末を含む残渣とが得られる。」

「【0033】
リチウム浸出工程における湿式粉砕は1時間〜2時間にわたって行うことが好ましい。1時間未満とした場合は、リチウムの浸出が不十分となってリチウムの浸出率がそれほど高くならないことが懸念される。2時間より長い時間で湿式粉砕を行っても、リチウムの浸出率の更なる向上はあまり見込まれず、リチウム浸出工程の効率が低下し得る。
【0034】
リチウム浸出工程においての焙焼済電池粉を添加したリチウム浸出液の液温は、10℃〜60℃とすることができる。パルプ濃度は、50g/L〜450g/Lとすることができる。このパルプ濃度は、焙焼済電池粉と接触させるリチウム浸出液の量(L)に対する焙焼済電池粉の乾燥重量(g)の比を意味する。
【0035】
リチウム浸出工程では湿式粉砕により、多くの場合、リチウム浸出工程後に得られる残渣のメディアン径(d50)は、焙焼済電池粉のメディアン径よりも小さくなる。ここで、具体的には、当該リチウム浸出工程後に得られる残渣のメディアン径が、焙焼済電池粉のメディアン径の80%以下になるように、湿式粉砕を行うことが好適である。メディアン径の減少割合がこの範囲を上回ると、焙焼済電池粉の新生面の表出によるリチウムの浸出率向上の効果があまり得られない可能性がある。たとえば、リチウム浸出工程後に得られる残渣のメディアン径が、焙焼済電池粉のメディアン径の20%〜80%になることがある。粒径は、レーザー回折・散乱法により測定する。なお、粒径が小さくなりすぎると疎水性が発現し、リチウム浸出工程でリチウム浸出液に溶けずに残った残渣からニッケルやコバルトを回収する工程において粉体の処理が困難になるため、リチウム浸出工程後のメディアン径は5μm以上であることが望ましい。たとえば、焙焼済電池粉のメディアン径は20μm〜10μmである場合があり、リチウム浸出工程後に得られるメディアン径の粒径は15μm〜8μmとなることがある。
【0036】
上述したような湿式粉砕を行うことで、リチウムイオン電池廃棄物中のリチウムがリチウム浸出液に十分に溶け出す。これにより、リチウム浸出工程後に得られるリチウム含有溶液は、リチウムイオン濃度が1.0g/L〜2.5g/Lであることが好ましい。リチウム浸出工程でのリチウムの浸出率は、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上である。リチウムの浸出率は、リチウム浸出工程前のリチウムイオン廃棄物中のリチウム含有量と、リチウム浸出工程後の残渣中のリチウム含有量から算出することができる。」

「【実施例】
【0046】
次に、上述したようなリチウム回収方法を試験的に実施したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0047】
(試験例1)
メディアン径が17.6μmでリチウムを2.2質量%で含有する未焙焼の使用済みリチウムイオン電池廃棄物の電池粉を、大気雰囲気の下、800℃の温度で2時間にわたって加熱して焙焼した。これにより焙焼済電池粉を得た。焙焼済電池粉は、メディアン径は18.7μであり、リチウム含有量が2.5質量%であった。なお粒径の測定には、マイクロトラック・ベル社製のMT3300を用いた。
【0048】
実施例1では、上記の焙焼済電池粉3gを、水300mLとともにビーズミル内に投入し、室温で60分間の湿式粉砕を行い、リチウム浸出を行った。湿式粉砕後に濾過を行って濾液と残渣を得た。濾液のリチウムイオン濃度は0.22g/Lであり、残渣のリチウム含有量は0.3質量%であった。リチウム浸出率は87.9%であった。また、残渣のメディアン径は12.6μmであり、湿式粉砕前の焙焼済電池粉のメディアン径の67%程度に小さくなっていた。」

(3)本件発明の課題
前記(2)の記載によれば、本件発明は、焙焼後のリチウムイオン電池廃棄物を単純に水等のリチウム浸出液と接触させても、リチウム浸出液へのリチウムの浸出率を十分に高めることができない場合がある(【0009】)との知見に基づき、「リチウムイオン電池廃棄物に含まれるリチウムの浸出率を高める」(【0010】)ことを課題とするものと解される。

(4)本件発明1について
ア 本件発明1は、「焙焼工程を経て得られる焙焼済電池粉を、湿式粉砕によりリチウム浸出液中で微細化しながら、前記焙焼済電池粉中のリチウムをリチウム浸出液に浸出させるリチウム浸出工程を含む」(発明特定事項1B)ものである。
これに対し、発明の詳細な説明には、「リチウム浸出工程では、焙焼済電池粉に対して湿式粉砕を行い、焙焼済電池粉をリチウム浸出液中で粉砕して微細化しながら、焙焼済電池粉中のリチウムをそのリチウム浸出液に浸出させる」(【0027】)と記載され、その作用効果として、「このようなリチウムの浸出工程では、湿式粉砕により焙焼済電池粉の新生面が表出しつつ、その新生面からリチウムがリチウム浸出液へ溶出する。これにより、リチウム浸出液へのリチウムの浸出率を高めることができる」(【0028】)との記載がある。
そうすると、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものであって、リチウム浸出液へのリチウムの浸出率を高めることができるものであるから、発明の詳細な説明の記載により、「リチウムイオン電池廃棄物に含まれるリチウムの浸出率を高める」との本件発明の課題(前記(3))を解決できると当業者が認識できる範囲のものと認められる。
したがって、本件発明1は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たさないということはできない。

イ 申立人Bは、本件発明1について、本件明細書には、「リチウム浸出工程でのリチウムの浸出率は、好ましくは80%以上」(【0036】)と記載され、実施例1では、リチウム浸出率が87.9%であるのに対し、比較例1では、リチウム浸出率は70.5%であるのであるから、本件特許は、80%以上のリチウム浸出率とすることを課題とするものであるのに対し、本件発明1は、リチウム浸出率が80%以上であるとの限定はなく、リチウム浸出率が80%未満の場合の態様も含みうるから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものでない旨主張する(前記第3、2(2)イ(ア))。
しかしながら、【0036】に記載されたリチウム浸出率は、好ましい値を記載したものであり、また、実施例1と比較例1として示される数値は、単なる例示を目的としたものであるから(【0047】)、このことをもって、本件発明の課題を、申立人Bが主張する、80%以上のリチウム浸出率とすることであると限定的に解することは妥当ではない。また、発明の詳細な説明のその他の記載を参酌しても、本件発明の課題を、80%以上のリチウム浸出率とすることと解すべき理由は見当たらない。
したがって、申立人Bの主張は、本件特許の正しい解釈に基づくものではないから、採用することができない。

(5)本件発明3について
ア 本件発明3は、「焙焼工程を経て得られる焙焼済電池粉を、湿式粉砕によりリチウム浸出液中で微細化しながら、前記焙焼済電池粉中のリチウムをリチウム浸出液に浸出させるリチウム浸出工程」(発明特定事項1B)について、「前記リチウム浸出工程で、前記湿式粉砕を1時間〜2時間にわたって行う」(発明特定事項3A)ものである。
これに対し、発明の詳細な説明には、「リチウム浸出工程における湿式粉砕は1時間〜2時間にわたって行うことが好ましい。」(【0033】)と記載され、その理由として、「1時間未満とした場合は、リチウムの浸出が不十分となってリチウムの浸出率がそれほど高くならないことが懸念され」(【0033】)、「2時間より長い時間で湿式粉砕を行っても、リチウムの浸出率の更なる向上はあまり見込まれず、リチウム浸出工程の効率が低下し得る」(【0033】)と記載されている。
そうすると、本件発明3の「前記リチウム浸出工程で、前記湿式粉砕を1時間〜2時間にわたって行う」との事項は、発明の詳細な説明に記載されたものであって、該事項は、リチウムの浸出率を高め、かつ、リチウム浸出工程を効率よく行うことに寄与するものといえるから、「リチウムイオン電池廃棄物に含まれるリチウムの浸出率を高める」との本件発明の課題(前記(3))を解決できると当業者が認識できる範囲のものと認められる。
したがって、本件発明3は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たさないということはできない。

イ 申立人Aは、本件発明3について、本件明細書の実施例の欄に「室温で60分間の湿式粉砕を行い」(【0048】)と記載されるのみであることを理由に、本件発明3の発明特定事項3Aで規定された湿式粉砕時間はサポートされていない旨主張するが(前記第3、2(1)イ(ア))、前記アのとおりであり、また、発明特定事項3Aで規定された湿式粉砕時間では本件発明の課題を解決できないことを示す証拠もないから、申立人Aの主張は採用することができない。

ウ 申立人Bは、本件発明3について、本件明細書で具体的に開示されているのは「室温で60分間の湿式粉砕」(【0048】)を行ったことのみであることを理由に、本件発明3で規定された数値範囲の全ての範囲において、本件発明3の課題を解決し得ることは、発明の詳細な説明に記載されていない旨主張するが(前記第3、2(2)イ(イ))、前記アのとおりであり、また、発明特定事項3Aで規定された湿式粉砕時間の範囲では本件発明の課題を解決できないことを示す証拠もないから、申立人Bの主張は採用することができない。

(6)本件発明4について
ア 本件発明4は、「焙焼工程を経て得られる焙焼済電池粉を、湿式粉砕によりリチウム浸出液中で微細化しながら、前記焙焼済電池粉中のリチウムをリチウム浸出液に浸出させるリチウム浸出工程」(発明特定事項1B)について、「前記リチウム浸出工程後に得られる残渣のメディアン径を、前記焙焼済電池粉のメディアン径の20%〜80%とする」(発明特定事項4A)ものである。上記「前記リチウム浸出工程後に得られる残渣のメディアン径を、前記焙焼済電池粉のメディアン径の20%〜80%とする」との事項は、「リチウム浸出工程」後に得られる残渣のメディアン径を規定することによって、残渣の該メディアン径を得るための「リチウム浸出工程」を規定していると解される。
これに対し、発明の詳細な説明には、「リチウム浸出工程後に得られる残渣のメディアン径が、焙焼済電池粉のメディアン径の20%〜80%になることがある」(【0035】)と記載され、さらに、「メディアン径の減少割合がこの範囲を上回ると、焙焼済電池粉の新生面の表出によるリチウムの浸出率向上の効果があまり得られない可能性がある」(【0035】)、「粒径が小さくなりすぎると疎水性が発現し、リチウム浸出工程でリチウム浸出液に溶けずに残った残渣からニッケルやコバルトを回収する工程において粉体の処理が困難になる」(【0035】)ことが記載されている。
そうすると、本件発明4の「前記リチウム浸出工程後に得られる残渣のメディアン径を、前記焙焼済電池粉のメディアン径の20%〜80%とする」との事項は、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。
さらに、発明の詳細な説明の記載によれば、残渣のメディアン径が、前記焙焼済電池粉のメディアン径の20%〜80%の範囲外の場合、リチウムの浸出率向上の効果があまり得られない、あるいは、粉体に疎水性が発現してリチウム浸出液に溶けにくくなるのであるから、本件発明4の「前記リチウム浸出工程後に得られる残渣のメディアン径を、前記焙焼済電池粉のメディアン径の20%〜80%とする」との事項によって規定される「リチウム浸出工程」は、「リチウムイオン電池廃棄物に含まれるリチウムの浸出率を高める」との本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものといえる。
したがって、本件発明4は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たさないということはできない。

イ 申立人Aは、本件発明4について、本件明細書の実施例の欄に「残渣のメディアン径は12.6μmであり、湿式粉砕前の焙焼済電池粉のメディアン径の67%程度に小さくなっていた。」(【0048】)と記載されるのみであることを理由に、本件発明4の発明特定事項4Aで規定された残渣のメディアン径はサポートされていない旨主張するが(前記第3、2(1)イ(イ))、前記アのとおりであり、また、残渣の上記メディアン径が得られるリチウム浸出工程では本件発明の課題を解決できないことを示す証拠もないから、申立人Aの主張は採用することができない。

ウ 申立人Bは、本件発明4について、本件明細書に具体的に開示されているのは、残渣のメディアン径が「湿式粉砕前の焙焼済電池粉のメディアン径の67%程度」(【0048】)であったことのみであることを理由に、本件発明4で規定された数値範囲の全ての範囲において、本件発明4の課題を解決し得ることは、発明の詳細な説明に記載されていない旨主張するが(前記第3、2(2)イ(ウ))、前記アのとおりであり、また、本件発明4で規定された数値範囲の残渣のメディアン径が得られるリチウム浸出工程では本件発明の課題を解決できないことを示す証拠もないから、申立人Bの主張は採用することができない。

(7)本件発明5について
ア 本件発明5は、「焙焼工程を経て得られる焙焼済電池粉を、湿式粉砕によりリチウム浸出液中で微細化しながら、前記焙焼済電池粉中のリチウムをリチウム浸出液に浸出させるリチウム浸出工程」(発明特定事項1B)について、「前記リチウム浸出工程後に得られるリチウム含有溶液中のリチウムイオン濃度が、1.0g/L〜2.5g/Lである」(発明特定事項4A)ものである。上記「前記リチウム浸出工程後に得られるリチウム含有溶液中のリチウムイオン濃度が、1.0g/L〜2.5g/Lである」との事項は、「リチウム浸出工程」後に得られるリチウム含有溶液中のリチウムイオン濃度を規定することによって、該リチウムイオン濃度を得るための「リチウム浸出工程」を規定していると解される。
これに対し、発明の詳細な説明には、「上述したような湿式粉砕を行うことで、リチウムイオン電池廃棄物中のリチウムがリチウム浸出液に十分に溶け出す。これにより、リチウム浸出工程後に得られるリチウム含有溶液は、リチウムイオン濃度が1.0g/L〜2.5g/Lであることが好ましい。」(【0036】)と記載されている。
そうすると、本件発明5の「前記リチウム浸出工程後に得られるリチウム含有溶液中のリチウムイオン濃度が、1.0g/L〜2.5g/Lである」との事項は、発明の詳細な説明に記載したものといえる。
さらに、発明の詳細な説明の記載によれば、前記事項に規定されたリチウムイオン濃度は、リチウムイオン電池廃棄物中のリチウムがリチウム浸出液に十分に溶け出したものであるから、本件発明5の「前記リチウム浸出工程後に得られるリチウム含有溶液中のリチウムイオン濃度が、1.0g/L〜2.5g/Lである」との事項により規定される「リチウム浸出工程」は、「リチウムイオン電池廃棄物に含まれるリチウムの浸出率を高める」との本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものといえる。
したがって、本件発明5は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たさないということはできない。

イ 申立人Aは、本件発明5について、本件明細書の実施例の欄に「湿式粉砕後に濾過を行って濾液と残渣を得た。濾液のリチウムイオン濃度は0.22g/Lであり、」(【0048】)と記載されていることを理由に、本件発明5の発明特定事項4Aで規定されたリチウム含有溶液中のリチウムイオン濃度はサポートされていない旨主張するが(前記第3、2(1)イ(ウ))、前記アのとおりであり、また、上記リチウムイオン濃度が得られるリチウム浸出工程が、本件発明の課題を解決できないことを示す証拠もないから、申立人Aの主張は採用することができない。

ウ 申立人Bは、本件発明5について、本件明細書に具体的に開示されているのは、「濾液のリチウムイオン濃度は0.22g/L」(【0048】)であったことのみであることを理由に、本件発明5で規定された数値範囲の全ての範囲において、本件発明5の課題を解決し得ることは、発明の詳細な説明に記載されていない旨主張するが(前記第3、2(2)イ(エ))、前記アのとおりであり、また、本件発明5で規定された数値範囲のリチウムイオン濃度が得られるリチウム浸出工程が、本件発明の課題を解決できないことを示す証拠もないから、申立人Bの主張は採用することができない。

(8)本件発明6について
ア 本件発明6は、「焙焼済電池粉」を得る「焙焼工程」(発明特定事項1B)について、「前記焙焼工程で、大気雰囲気の下、リチウムイオン電池廃棄物を550℃〜900℃の温度に加熱し、該温度を4時間〜8時間にわたって保持する」(発明特定事項6A)ものである。
これに対し、発明の詳細な説明には、「リチウムイオン電池廃棄物を550℃〜900℃の温度に加熱し、その温度を4時間〜8時間にわたって保持することが好ましい」(【0020】)と記載され、その理由として、「このような温度及び保持時間とすれば、リチウムイオン電池廃棄物中のリチウムを、水等に溶けやすい酸化リチウムや炭酸リチウム等の形態に有効に変化させることができるので、後述するリチウム浸出工程でのリチウム浸出率をさらに高めることができる」と記載されている。
そうすると、本件発明6の「前記焙焼工程で、大気雰囲気の下、リチウムイオン電池廃棄物を550℃〜900℃の温度に加熱し、該温度を4時間〜8時間にわたって保持する」との事項は、発明の詳細な説明に記載したものであって、「リチウムイオン電池廃棄物に含まれるリチウムの浸出率を高める」との本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものといえる。
したがって、本件発明6は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たさないということはできない。

イ 申立人Aは、本件発明6について、本件明細書の実施例の欄に「使用済みリチウムイオン電池廃棄物の電池粉を、大気雰囲気の下、800℃の温度で2時間にわたって加熱して焙焼した。」(【0047】)と記載されているのみであることを理由に、本件発明6の発明特定事項6で規定される焙焼工程における加熱温度、加熱時間はサポートされていない旨主張するが(前記第3、2(1)イ(エ))、前記アのとおりであり、また、上記加熱温度、加熱時間では本件発明の課題を解決できないことを示す証拠もないから、申立人Aの主張は採用することができない。

ウ 申立人Bは、本件発明6について、本件明細書に具体的に開示されているのは、「大気雰囲気の下、800℃の温度で2時間にわたって加熱して焙焼し(略)焙焼済電池粉を得た」(【0047】)ことのみであることを理由に、本件発明6で規定された数値範囲の全ての範囲において、本件発明6の課題を解決し得ることは、発明の詳細な説明に記載されていない旨主張するが(前記第3、2(2)イ(オ))、前記アのとおりであり、また、本件発明6で規定される数値範囲の加熱温度、加熱時間では本件発明の課題を解決できないことを示す証拠もないから、申立人Bの主張は採用することができない。

(9)小括
以上のとおり、本件発明1、3〜6は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たさないとはいえない。
よって、前記第3、2(1)イ及び(2)イの申立理由(申立理由A2及び申立理由B2)は、理由がない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠によっては、請求項1〜6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2024-01-15 
出願番号 P2020-077790
審決分類 P 1 651・ 537- Y (H01M)
P 1 651・ 121- Y (H01M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 土居 仁士
特許庁審判官 衣鳩 文彦
寺谷 大亮
登録日 2023-02-16 
登録番号 7229197
権利者 JX金属株式会社
発明の名称 リチウム回収方法  
代理人 アクシス国際弁理士法人  

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