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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G08G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G08G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G08G
管理番号 1407785
総通号数 27 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-03-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-02-03 
確定日 2024-01-05 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6915503号発明「ドライバモニタシステム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6915503号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし6〕について訂正することを認める。 特許第6915503号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6915503号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成29年11月9日に出願され、令和3年7月19日にその特許権の設定登録がされ、令和3年8月4日に特許掲載公報が発行された。
その後、その特許に対し、令和4年2月3日に特許異議申立人富永浩司(以下「特許異議申立人」という。)より請求項1ないし6に係る特許に対して特許異議の申立てがされ、令和4年7月6日付け(発送日:同年7月12日)で取消理由通知書が通知され、令和4年9月12日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求がされ、令和4年10月26日に特許異議申立人より意見書が提出され、令和4年12月8日付け(発送日:同年12月14日)で取消理由通知書(決定の予告)(以下「決定の予告」という。)が通知され、令和5年3月14日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求がされ、令和5年3月30日付け(発送日:同年4月4日)で手続補正指令書(方式)が通知され、令和5年4月21日に特許権者より手続補正書(方式)が提出され、令和5年8月9日に特許異議申立人より意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和5年3月14日付けで特許権者より提出され、令和5年4月21日付けで特許権者より提出された手続補正書(方式)により補正がされた訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。)による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すために当審が付したものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「 前記撮像装置によって撮像された顔画像に基づいてドライバの顔向き角度を認識する顔向き認識部と、」
と記載されているのを、
「 前記撮像装置によって撮像された顔画像に基づいて、固定された暫定基準に基づくドライバの顔のピッチ角及びヨー角を含むドライバの顔向き角度を認識する顔向き認識部と、」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2ないし6も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に、
「 車両の速度が0よりも速い所定速度以上であること並びに前記道路状況検出部によって前記車両が傾斜のない道路を走行中であること及び直線道路を走行中であることのうち少なくともいずれか一方が検出されていることを含むゼロ点設定条件が成立しているときに前記顔向き認識部によって認識されたドライバの顔向き角度に基づいて、ドライバの顔のピッチ角、ヨー角及びロール角の少なくともいずれかーつを含む顔向き角度のゼロ点を設定するゼロ点設定部と、」
と記載されているのを、
「 車両の速度が0よりも速い所定速度以上であること並びに前記道路状況検出部によって前記車両が傾斜のない道路を走行中であること及び直線道路を走行中であることのうち少なくともいずれか一方が検出されていることを含むゼロ点設定条件が成立しているときに前記顔向き認識部によって認識されたドライバの顔向き角度に基づいて、ドライバが正面を向いているときのドライバの顔のピッチ角、ヨー角及びロール角のうち少なくともピッチ角を含む顔向き角度を、角度が0°のゼロ点として設定するゼロ点設定部と、」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2ないし6も同様に訂正する。)。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に、
「 前記ゼロ点設定部によって設定されたゼロ点に対する現在の顔向き角度に基づいてドライバの状態を診断する状態診断部とを備える、ドライバモニタシステム。」
と記載されているのを、
「 前記ゼロ点設定部によって設定されたゼロ点に対する現在の顔向き角度に基づいてドライバの状態を診断する状態診断部とを備え、前記ピッチ角のゼロ点設定を行うときの前記ゼロ点設定条件は、前記ヨー角の絶対値が予め定められた所定の角度以内であることを含む、ドライバモニタシステム。」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2ないし6も同様に訂正する。)

2 一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし6について、請求項2ないし6は、それぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用しており、訂正事項1ないし訂正事項3によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1ないし6に対応する訂正後の請求項1ないし6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1の「前記撮像装置によって撮像された顔画像に基づいて、固定された暫定基準に基づくドライバの顔のピッチ角及びヨー角を含むドライバの顔向き角度を認識する顔向き認識部」という事項は、決定の予告で通知した取消理由3(明確性)を解消するために、ゼロ点が設定される前にはどのようにヨー角を含むドライバの顔向き角度を求めるのかを明確にしたものであり、また、訂正前の「前記撮像装置によって撮像された顔画像に基づいてドライバの顔向き角度を認識する顔向き認識部」との記載について、顔向き認識部によって認識されるドライバの顔向き角度を、固定された暫定基準に基づくドライバの顔のピッチ角及びヨー角を含むものに限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明及び特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1は、願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。また、願書に添付された図面を「本件図面」という。)の段落【0043】の「また、このときピッチ角θxは、例えば、ドライバの顔が上下方向(ピッチ角方向)においてドライバモニタカメラ11の方を向いている向き(すなわち、CN/LR比が最大となる向き)を暫定基準として暫定的に算出される。したがって、ドライバの顔がピッチ角方向においてドライバモニタカメラ11の方向を向いているときに、ドライバの顔のピッチ角が0°であるとしてピッチ角が暫定的に算出される。以下では、このようにして暫定基準に基づいて算出された暫定的なピッチ角を暫定ピッチ角θx’という。なお、暫定ピッチ角を算出するための暫定基準は必ずしもドライバの顔がドライバモニタカメラ11の方を向いている向きとされる必要はなく、任意の向きに設定することができる。」との記載、段落【0045】の「また、このときヨー角θyは、例えば、RC/LC比が1となる向きを暫定基準として暫定的に算出される。したがって、RC/LC比が1となるときに、ドライバの顔のヨー角が0°であるとしてヨー角が暫定的に算出される。以下では、このようにして暫定基準に基づいて算出された暫定的なヨー角を暫定ヨー角θy’という。なお、暫定ヨー角を算出するための暫定基準は必ずしもRC/LC比が1となる向きとされる必要はなく、任意の向きに設定することができる。」との記載、段落【0048】の「いずれにせよ、顔向き認識部51では、暫定基準に基づいて、暫定ピッチ角θx’、暫定ヨー角θy’及び暫定ロール角θz’(これらをまとめて「暫定顔向き角度θ’」という)が算出される。」との記載、段落【0056】の「ところで、上述した顔向き角度がゼロであるゼロ点は、予め定められた固定値に設定することができる。例えば、暫定ピッチ角θx’を算出する際の暫定基準(固定値)をピッチ角θxのゼロ点として予め設定し、暫定ヨー角θy’を算出する際の暫定基準(固定値)をヨー角θyのゼロ点として予め設定することができる。」との記載等に基づくものである(下線は当審で付した。以下同様。)。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、上記アにおいて説示したとおりであり、訂正前の請求項1に係る明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、かつ、訂正前の請求項1の発明特定事項を概念的により下位の内容とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2の「ドライバが正面を向いているときのドライバの顔のピッチ角、ヨー角及びロール角のうち少なくともピッチ角を含む顔向き角度を、角度が0°のゼロ点として設定するゼロ点設定部」という事項は、訂正前の「ドライバの顔のピッチ角、ヨー角及びロール角の少なくともいずれかーつを含む顔向き角度のゼロ点を設定するゼロ点設定部」との記載において、令和4年7月6日付け取消理由通知書で通知した取消理由3(明確性)を解消するために、本件明細書の段落【0049】の「ゼロ点設定部52は、顔向き角度のゼロ点を設定する。このゼロ点は、ドライバが正面を向いているときに、ピッチ角θx、ヨー角θy及びロール角θzが共に0°となるように設定される。」、段落【0050】の「ゼロ点設定部52は、ドライバが正面を向いているときのピッチ角θxが0°となるようにピッチ角のゼロ点を設定する。」、段落【0051】の「ヨー角方向やロール角方向についても同様なことがいえる。したがって、ゼロ点設定部52は、ドライバが正面を向いているときのヨー角θyが0°となるようにヨー角のゼロ点を設定し、ドライバが正面を向いているときのロール角θzが0°となるようにロール角のゼロ点を設定する。」との記載に基づいて、「ゼロ点」の「設定」に関し、ドライバが正面を向いているときの顔向き角度を、角度が0°のゼロ点として設定する、と明確化し、かつ、「ドライバの顔のピッチ角、ヨー角及びロール角の少なくともいずれかーつを含む顔向き角度のゼロ点を設定する」であったことを「少なくともピッチ角を含む顔向き角度を、角度が0°のゼロ点として設定する」と限定するものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明及び特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2は、上記アにおいて説示したとおり、本件明細書段落【0049】、【0050】、【0051】及び【0075】の記載に基づくものである。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、上記アにおいて説示したとおりであり、訂正前の請求項1に係る明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、かつ、訂正前の請求項1の発明特定事項を概念的により下位の内容とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的について
訂正事項3の「前記ゼロ点設定部によって設定されたゼロ点に対する現在の顔向き角度に基づいてドライバの状態を診断する状態診断部とを備え、前記ピッチ角のゼロ点設定を行うときの前記ゼロ点設定条件は、前記ヨー角の絶対値が予め定められた所定の角度以内であることを含む、ドライバモニタシステム。」という事項は、訂正前の請求項1に係る発明において、本件明細書の段落【0078】の「また、ピッチ角のゼロ点設定を行う際には、ゼロ点設定条件として、現在のヨー角の絶対値が予め定められた所定の角度(例えば、15°)以内であることが含まれていてもよい。すなわち、ドライバが横を向いた状態であると、顔向き認識部51は暫定ピッチ角θx’を正確に算出するこができない可能性がある。従って、ドライバが横を向いた状態でピッチ角のゼロ点の設定を行うと、ピッチ角のゼロ点も正確に設定できなくなる可能性がある。このため、現在のヨー角の絶対値が予め定められた所定の角度以内であるときにピッチ角のゼロ点設定を行うことにより、ピッチ角のゼロ点を正確に設定することができる。」との記載に基づいて、ピッチ角のゼロ点設定を行うときのゼロ点設定条件を限定したものである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3は、上記アにおいて説示したとおり、本件明細書段落【0078】に基づくものである。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項3は、上記アにおいて説示したとおりであり、訂正前の請求項1の発明特定事項を概念的により下位の内容とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

4 小括
本件訂正による訂正事項1ないし3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号を目的とするものであり、かつ、同条第4項の規定に適合すると共に、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、訂正後の請求項〔1ないし6〕について訂正を認める。

第3 本件訂正請求による訂正後の本件発明
上記のとおり、請求項1ないし6についての訂正は認められるから、本件訂正請求により訂正された請求項1ないし6に係る発明(以下、請求項1に係る発明を「本件発明1」、請求項2ないし6に係る発明を、各請求項の番号に対応させて、それぞれ「本件発明2」ないし「本件発明6」といい、請求項1ないし6に係る発明をまとめて「本件発明」ということがある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
ドライバの顔画像を撮像する撮像装置と、該撮像装置によって撮像された顔画像が送信される制御装置と、車両が走行している道路の状況を検出する道路状況検出部と、を備えるドライバモニタシステムであって、
前記制御装置は、
前記撮像装置によって撮像された顔画像に基づいて、固定された暫定基準に基づくドライバの顔のピッチ角及びヨー角を含むドライバの顔向き角度を認識する顔向き認識部と、
車両の速度が0よりも速い所定速度以上であること並びに前記道路状況検出部によって前記車両が傾斜のない道路を走行中であること及び直線道路を走行中であることのうち少なくともいずれか一方が検出されていることを含むゼロ点設定条件が成立しているときに前記顔向き認識部によって認識されたドライバの顔向き角度に基づいて、ドライバが正面を向いているときのドライバの顔のピッチ角、ヨー角及びロール角のうち少なくともピッチ角を含む顔向き角度を、角度が0°のゼロ点として設定するゼロ点設定部と、
前記ゼロ点設定部によって設定されたゼロ点に対する現在の顔向き角度に基づいてドライバの状態を診断する状態診断部とを備え、
前記ピッチ角のゼロ点設定を行うときの前記ゼロ点設定条件は、前記ヨー角の絶対値が予め定められた所定の角度以内であることを含む、ドライバモニタシステム。
【請求項2】
前記ゼロ点設定条件は、車両のイグニッションがオンになってから前記ゼロ点設定部による顔向き角度のゼロ点の設定が未だ行われていないことを含む、請求項1に記載のドライバモニタシステム。
【請求項3】
前記ゼロ点設定条件は、ゼロ点設定部によって顔向き角度のゼロ点の設定が前回行われてから、所定の時間が経過したこと又は車両が所定の距離を走行したことを含む、請求項1又は2に記載のドライバモニタシステム。
【請求項4】
ドライバの姿勢又はドライバの交代を検出するドライバ検出部を更に備え、
前記ゼロ点設定条件は、前記ドライバ検出部によってドライバの姿勢が変化したこと又はドライバが交代したことが検出されたことを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のドライバモニタシステム。
【請求項5】
前記ゼロ点設定部は、前記ドライバの顔のピッチ角のゼロ点を設定し、
前記ゼロ点設定条件は、前記道路状況検出部によって前記車両が傾斜のない道路を走行中であることが検出されていることを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のドライバモニタシステム。
【請求項6】
前記ゼロ点設定部は、前記ドライバの顔のヨー角のゼロ点を設定し、
前記ゼロ点設定条件は、前記道路状況検出部によって前記車両が直線道路を走行中であることが検出されていることを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のドライバモニタシステム。」

第4 決定の予告に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
当審が令和4年12月8日付けで特許権者に通知した決定の予告の概要は、以下のとおりである。

理由2(進歩性)本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

理由3(明確性)本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、請求項1ないし6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。



・請求項1ないし6に対して
・引用文献5及び4、又は、引用文献5及び2ないし4

<引用文献等一覧>
引用文献1:特開2010−67058号公報
引用文献2:特開2007−261312号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3:特開2017−4117号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4:特開2005−196567号公報(周知技術を示す文献)
引用文献5:特開2007−280375号公報
なお、引用文献1ないし5は、それぞれ、特許異議申立人:富永浩司が提出した甲第1ないし5号証である。

2 当審の判断
(1)理由3(明確性)について

請求項1には
「 前記撮像装置によって撮像された顔画像に基づいて、固定された暫定基準に基づくドライバの顔のピッチ角及びヨー角を含むドライバの顔向き角度を認識する顔向き認識部と、
車両の速度が0よりも速い所定速度以上であること並びに前記道路状況検出部によって前記車両が傾斜のない道路を走行中であること及び直線道路を走行中であることのうち少なくともいずれか一方が検出されていることを含むゼロ点設定条件が成立しているときに前記顔向き認識部によって認識されたドライバの顔向き角度に基づいて、ドライバが正面を向いているときのドライバの顔のピッチ角、ヨー角及びロール角のうち少なくともピッチ角を含む顔向き角度を、角度が0°のゼロ点として設定するゼロ点設定部と、
前記ゼロ点設定部によって設定されたゼロ点に対する現在の顔向き角度に基づいてドライバの状態を診断する状態診断部とを備え、
前記ピッチ角のゼロ点設定を行うときの前記ゼロ点設定条件は、前記ヨー角の絶対値が予め定められた所定の角度以内であることを含む、ドライバモニタシステム。」
と記載されており、「前記ヨー角の絶対値」は、ゼロ点が設定される前には、「固定された暫定基準に基づくドライバの顔の」「ヨー角」に基づいて求められることが明確となった。

よって、請求項1に係る発明及び請求項1を引用する請求項2ないし6に係る発明は明確である。

(2)理由2(進歩性)について

ア 引用文献、引用発明等
(ア)引用文献5
a 引用文献5の記載事項
引用文献5には次の記載がある。
(a)「【0002】
近年、安全運転の意識の高まりに伴い、ドライバの脇見を検出し、警告する装置が開発されている。そのような装置においては、ドライバが運転中に正面を向いている場合の顔の向きを基準として、ドライバの脇見を検出することが行われている。その基準となる正面方向は、例えば、ドライバの顔を正面から撮影できる位置に設置されたカメラを向いた方向に設定される。しかしながら、この場合、ドライバの身長、ドライビングポジション(運転姿勢)などの違いにより、カメラに対するドライバの顔の位置が異なるため、カメラの設置位置を工夫しても、設定された正面方向と実際の正面方向との間に誤差が生じる場合がある。」

(b)「【0042】
図1は、本発明を適用した車載システムの一実施の形態を示すブロック図である。車載システム1は、カメラ11、車両状態検出部12、顔向き検出装置13、および、アプリケーション装置14を含むように構成される。
【0043】
カメラ11は、車載システム1が設けられている車両を運転するドライバの顔を撮影した画像(以下、入力画像と称する)を顔向き検出装置13に供給する。なお、カメラ11は、ドライバが車両の正面方向を向いた状態において、ドライバの顔をほぼ正面から撮影できる位置に設置されることが望ましい。
【0044】
車両状態検出部12は、車両に設けられている各種の制御装置やセンサなどから構成され、車両の各種の状態を検出し、検出した状態を示す情報を顔向き検出装置13に供給する。なお、図1においては、車両状態検出部12は、車速センサ21およびギア検出部22を含むように構成されている。

(c)「【0047】
顔向き検出装置13は、ドライバが運転中に正面を向いている場合の顔の向き(以下、イニシャル方向と称する)を検出する。また、顔向き検出装置13は、イニシャル方向を基準とするドライバの顔の向きを検出し、検出した顔の向きを示す情報をアプリケーション装置14に供給する。顔向き検出装置13は、前進判定部31、トラッキング部32、顔向き検出部33、イニシャル方向検出部34、および、顔向き変換部35を含むように構成される。
【0048】
前進判定部31は、イニシャル方向の検出中に、車速センサ21およびギア検出部22からの情報に基づいて、車両が前進しているか否かを判定する。前進判定部31は、判定結果を示す情報をトラッキング部32およびイニシャル方向検出部34に供給する。」

(d)「【0052】
顔向き変換部35は、顔向き検出部33により検出された、カメラ11から見たドライバの顔の向きを、イニシャル方向を基準とする向きに変換する。顔向き変換部35は、変換した顔の向きを示す情報をアプリケーション装置14に供給する。
【0053】
アプリケーション装置14は、顔向き検出装置13により検出されたドライバの顔の向きを利用した機能を提供する装置である。例えば、アプリケーション装置14は、検出されたドライバの顔の向きに基づいて、脇見運転を検出したり、自動運転を行う機能を提供する。また、例えば、アプリケーション装置14は、検出されたドライバの顔の向きに基づいて、最適な位置において撮影された入力画像を選択して、ドライバの顔を認識したり、顔の属性(例えば、顔の各器官の位置、形など)を検出する機能を提供する。」

(e)「【0066】
ステップS21において、前進判定部31は、車両が前進しているか否かを判定する。前進判定部31は、車速センサ21の出力が0でなく、かつ、車両のトランスミッションのギアの位置が前進方向のギアに設定されている場合、車両が前進していると判定し、判定結果を示す情報をトラッキング部32およびイニシャル方向検出部34に供給する。その後、処理はステップS22に進む。
【0067】
ステップS22において、上述した図2のステップS4の処理と同様に、ドライバの顔がトラッキングされ、トラッキング結果を示す情報が、トラッキング部32から顔向き検出部33に供給される。
【0068】
ステップS23において、上述した図2のステップS5の処理と同様に、ドライバの顔の向きが検出され、ドライバの顔の向きを示す情報が、顔向き検出部33から、イニシャル方向検出部34および顔向き変換部35に供給される。イニシャル方向検出部34は、検出されたドライバの顔の向きを、イニシャル方向の検出に用いるサンプル値として、図示せぬ内部の記憶部に記憶させる。
【0069】
ステップS24において、イニシャル方向検出部33は、顔の向きの変化量が所定の範囲内であるか否かを判定する。具体的には、イニシャル方向検出部33は、内部に記憶しているサンプル値の変化量、すなわち、ドライバの顔の向きの変化量を調べ、顔の向きの変化量が所定の範囲(例えば、上下方向および左右方向において30°以内の範囲)を超えていると判定した場合、処理はステップS25に進む。
【0070】
ステップS25において、イニシャル方向検出部34は、内部に記憶しているサンプル値を消去する。その後、処理はステップS27に進む。
【0071】
ステップS24において、顔の向きの変化量が所定の範囲内であると判定された場合、ステップS25の処理はスキップされ、すなわち、サンプル値は消去されずに、処理はステップS27に進む。
【0072】
ステップS21において、前進判定部31は、車速センサ21の出力が0、または、車両のトランスミッションのギアの位置が前進方向以外のギアに設定されている場合、車両が前進していないと判定し、判定結果を示す情報をトラッキング部32およびイニシャル方向検出部34に供給する。その後、処理はステップS26に進む。
【0073】
ステップS26において、ステップS25の処理と同様に、イニシャル方向検出部34の内部に記憶されているサンプル値が消去され、処理はステップS27に進む。
【0074】
ステップS27において、上述した図2のステップS7の処理と同様に、エンジンが停止されたか否かが判定される。エンジンが停止されていないと判定された場合、処理はステップS28に進む。
【0075】
ステップS28において、イニシャル方向検出部34は、所定の時間分のサンプル値が蓄積されたか否かを判定する。イニシャル方向検出部34は、所定の時間分のサンプル値が蓄積されていないと判定した場合、処理はステップS21に戻る。その後、ステップS27において、エンジンが停止されたと判定されるか、ステップS28において、所定の時間分のサンプル値が蓄積されたと判定されるまで、ステップS21乃至S28の処理が繰返し実行され、所定の時間分のドライバの顔の向きのサンプル値が蓄積される。換言すれば、所定のサンプル数以上のドライバの顔の向きのサンプル値、さらに換言すれば、ドライバの顔の向きを所定のサンプル数以上検出した結果が蓄積される。
【0076】
ステップS28において、所定の時間分のサンプル値が蓄積されたと判定された場合、処理はステップS29に進む。
【0077】
ステップS29において、イニシャル方向検出部34は、イニシャル方向を求め、イニシャル方向検出処理は終了する。具体的には、イニシャル方向検出部34は、内部に蓄積されているサンプル値の統計、すなわち、ドライバの顔の向きの変化が所定の範囲内である状態が所定の時間継続したときの、所定の時間におけるドライバの顔の向きの統計をとることにより、イニシャル方向を求める。例えば、イニシャル方向は、サンプル値の平均値、または、サンプル値の分布における山のピークに対応する、カメラ11から見たドライバの顔の向きに設定される。イニシャル方向検出部34は、求めたイニシャル方向を示す情報を前進判定部31および顔向き変換部35に供給する。
【0078】
ステップS27において、エンジンが停止されたと判定された場合、イニシャル方向検出処理および顔向き検出処理は終了する。
【0079】
以上のようにして、イニシャル方向を簡単かつ正確に検出することができる。すなわち、ドライバの特徴、ドライビングポジションなどの個人差に関わらず、イニシャル方向を精度高く検出することができる。また、事前に各種の統計値を求めたり、先行車との車間距離を検出したりすることなく、イニシャル方向を検出することができる。
【0080】
また、カメラ11とドライバとの位置関係を事前に把握する必要がないため、カメラ11の設置位置の自由度が向上する。」

(f)「【0095】
まず、図5のフローチャートを参照して、車載システム51により実行される顔向き検出処理を説明する。なお、この処理は、例えば、車載システム51が設けられている車両のエンジンが始動されたとき開始される。
【0096】
ステップS51において、上述した図2のステップS1の処理と同様に、ドライバの顔の撮影が開始される。
【0097】
ステップS52において、車両状態検出部61は、車両の状態の検出を開始する。具体的には、車速センサ21は、車速の検出、および、検出結果を示す情報の前進判定部31への供給を開始する。また、ギア検出部22は、車両のトランスミッションのギアの位置の検出、および、検出結果を示す情報の前進判定部31への供給を開始する。
【0098】
さらに、ウインカー動作検出部71は、車両のウインカーの点滅の有無の検出、および、検出結果を示す情報の非正面状態検出部81への供給を開始する。また、舵角検出部72は、車両のステアリングホイールの舵角の検出、および、検出結果を示す情報の非正面状態検出部81への供給を開始する。さらに、機器操作検出部73は、運転中にドライバにより車両の運転とは異なる操作が行われる機器に対する操作の有無の検出、および、検出結果を示す情報の非正面状態検出部81への供給を開始する。
【0099】
また、警笛動作検出部75は、車両の警笛の動作の有無の検出、および、検出結果を示す情報の非正面状態検出部81への供給を開始する。さらに、加速度センサ75は、車両の加速度および減速度の検出、および、検出結果を示す情報の非正面状態検出部81への供給を開始する。
【0100】
ステップS53において、顔向き検出装置62は、イニシャル方向検出処理を実行する。イニシャル方向検出処理の詳細は、図6を参照して後述するが、この処理により、イニシャル方向が検出される。
【0101】
ステップS54乃至S57の処理は、上述した図2のステップS4乃至S7の処理と同様であり、その説明は繰り返しになるので省略する。
【0102】
次に、図6のフローチャートを参照して、図5のステップS53のイニシャル方向検出処理の詳細を説明する。
【0103】
ステップS71において、上述した図3のステップS21の処理と同様に、車両が前進しているか否かが判定される。車両が前進していると判定された場合、処理はステップS72に進む。
【0104】
ステップS72において、非正面状態検出部81は、非正面状態であるか否かを判定する。具体的には、非正面状態検出部81は、ウインカー動作検出部71からの情報に基づいて、ウインカーが点滅中、または、ウインカーの点滅が終了してから所定の時間が経過していないことを検出した場合、非正面状態であると判定する。すなわち、ウインカーが点滅を開始してから、点滅が終了してから所定の時間が経過するまでの間においては、車両の方向転換もしくは車線変更を行う前後、または、その最中である可能性が高く、ドライバが正面を向いていないか、または、車両の走行が安定していない可能性が高いため、非正面状態であると判定される。
【0105】
なお、以上のウインカーが点滅中の状態は、左右のウインカーが同時に点滅中の状態、いわゆるハザードランプが点滅中の状態を含む。すなわち、ハザードランプが点滅を開始してから、点滅が終了してから所定の時間が経過するまでの間においては、車両の走行が安定していない可能性が高いため、非正面状態であると判定される。
【0106】
また、非正面状態検出部81は、舵角検出部72からの情報に基づいて、車両のステアリングホイールの舵角が所定の範囲を超えていることを検出した場合、非正面状態であると判定する。すなわち、ステアリングホイールの舵角が所定の範囲を超えている場合、ドライバが正面を向いていないか、または、車両の走行が安定していない可能性が高いため、非正面状態であると判定される。
【0107】
さらに、非正面状態検出部81は、機器操作検出部73からの情報に基づいて、運転中にドライバにより車両の運転とは異なる操作が行われる機器を操作中であることを検出した場合、非正面状態であると判定する。すなわち、ドライバが、操作中の機器の方向を向き、正面を向いていない可能性が高いため、非正面状態であると判定される。
【0108】
また、非正面状態検出部81は、警笛動作検出部74からの情報に基づいて、警笛が鳴動中であることを検出した場合、非正面状態であると判定する。すなわち、警笛が鳴動中である場合、注意すべき状態、危険な状態、または、非常事態などが発生している可能性が高く、ドライバが正面を向いていないか、または、車両の走行が安定していない可能性が高いため、非正面状態であると判定される。
【0109】
さらに、非正面状態検出部81は、加速度センサ75からの情報に基づいて、車両の加速度が所定の閾値以上、または、車両の減速度が所定の閾値以上であることを検出した場合、非正面状態であると判定する。すなわち、例えば、アクセルペダルが踏み込まれたり、ブレーキがかけられたりして、車両が所定の閾値以上で加速している場合、または、車両が所定の閾値以上で減速している場合には、車両の走行が安定していないため、非正面状態であると判定される。
【0110】
以上のように、ステップS72において、非正面状態であると判定された場合、非正面状態検出部81は、非正面状態であることを示す情報をトラッキング部32およびイニシャル方向検出部82に供給する。その後、処理はステップS77に進む。
【0111】
また、ステップS71において、車両が前進していないと判定された場合、処理はステップS77に進む。
【0112】
ステップS77において、上述した図6のステップS25の処理と同様に、サンプル値が消去され、処理はステップS78に進む。
【0113】
一方、ステップS72において、非正面状態でないと判定された場合、処理はステップS73に進む。
【0114】
ステップS73乃至S76の処理は、上述した図3のステップS22乃至S25、の処理と同様であり、その説明は繰り返しになるので省略する。また、ステップS78およびS79の処理は、上述した図3のS27およびS28の処理と同様であり、その説明は省略する。
【0115】
ステップS80において、イニシャル方向検出部82は、イニシャル方向を求め、イニシャル方向検出処理は終了する。具体的には、イニシャル方向検出部82は、内部に蓄積されているサンプル値の統計、すなわち、ドライバの顔の向きの変化が所定の範囲内であり、かつ、非正面状態が検出されない状態が所定の時間継続したときの、所定の時間におけるドライバの顔の向きの統計をとることにより、イニシャル方向を求める。例えば、イニシャル方向は、サンプル値の平均値、または、サンプル値の分布における山のピークに対応する、カメラ11から見たドライバの顔の向きに設定される。イニシャル方向検出部82は、求めたイニシャル方向を示す情報を前進判定部31および顔向き変換部35に供給する。
【0116】
このように、非正面状態である場合の顔の向きがサンプル値から除かれるため、より正確にイニシャル方向を検出することができる。
【0117】
なお、以上の説明では、ステップS71において、車両が前進していないと判定された場合、または、ステップS72において、非正面状態であると判定された場合、ステップS77において、内部に記憶しているサンプル値を全て消去する例を示したが、例えば、ステップS77において、車両が前進していないと判定されるか、または、非正面状態であると判定された期間に検出されたサンプル値のみを消去するようにしてもよい。すなわち、車両が前進していない場合、または、非正面状態である場合には、サンプル値の蓄積を中断し、ドライバの顔の向きの変化量が所定の範囲を超えていても、蓄積されたサンプル値をリセットしないようにしてもよい。
【0118】
これにより、車両が前進しており、かつ、非正面状態でなく、かつ、ドライバの顔の向きの変化が所定の範囲内である状態におけるドライバの顔の向きのサンプル値が断続的に蓄積され、所定の時間分のドライバの顔の向きのサンプル値、換言すれば、所定のサンプル数以上のドライバの顔の向きのサンプル値が蓄積された時点で、蓄積されたサンプル値に基づいて、イニシャル方向が求められる。
【0119】
従って、例えば、車両が方向転換したり、ドライバが運転とは異なる操作をしても、それまでに蓄積されたサンプル値がリセットされないため、より迅速にイニシャル方向を求めることができるようになる。また、必ず、車両が前進しており、かつ、非正面状態でなく、かつ、ドライバの顔の向きの変化が所定の範囲内である状態におけるドライバの顔の向きのサンプル値が、所定のサンプル数以上蓄積されてから、イニシャル方向が求められるので、単純に所定の時間だけ、または、所定のサンプル数だけサンプル値を蓄積してからイニシャル方向を求める場合に比べて、求めたイニシャル方向の検出精度が向上する。」

(g)「【0120】
次に、図7および図8を参照して、ドライバおよびドライビングポジション(運転姿勢)の変更に対応してイニシャル方向を再検出するようにした車載システムの実施の形態について説明する。
【0121】
図7は、ドライバおよびドライビングポジションの変更に対応してイニシャル方向を再検出するようにした車載システム101の実施の形態を示すブロック図である。車載システム101は、カメラ11、アプリケーション装置14、車両状態検出部111、および、顔向き検出装置112を含むように構成される。また、車両状態検出部111は、車速センサ21、ギア検出部22、ウインカー動作検出部71、舵角検出部72、機器操作検出部73、警笛動作検出部74、加速度センサ75、ドア開閉検出部121、ミラー位置検出部122、シート位置検出部123、および、ヘッドレスト位置検出部124を含むように構成される。さらに、顔向き検出装置112は、前進判定部31、トラッキング部32、顔向き検出部33、顔向き変換部35、非正面状態検出部81、顔認識部131、ドライビングポジション検出部132、および、イニシャル方向検出部133を含むように構成される。
【0122】
なお、図中、図1または図4と対応する部分については同じ符号を付してあり、処理が同じ部分に関しては、その説明は繰り返しになるので省略する。
【0123】
ドア開閉検出部121は、車両の運転席のドアの開閉を検出し、検出結果を示す情報をドライビングポジション検出部132に供給する。ドア開閉検出部121は、例えば、ドアの開閉を検出するドア開閉センサ、ドアスイッチのオンまたはオフを検出するセンサなどにより構成される。
【0124】
ミラー位置検出部122は、車両のセンタミラー(ルームミラー)およびサイドミラーの位置を検出し、検出結果を示す情報をドライビングポジション検出部132に供給する。ミラー位置検出部122は、例えば、センタミラーまたはサイドミラーの調節されている角度を検出するミラー角度センサにより構成される。
【0125】
シート位置検出部123は、車両の運転席の位置、および、運転席の背もたれの角度を検出し、検出結果を示す情報をドライビングポジション検出部132に供給する。シート位置検出部123は、例えば、運転席の調節されている位置を検出する位置センサまたはシートポジションセンサなどにより構成される。
【0126】
ヘッドレスト位置検出部124は、車両の運転席に設けられているヘッドレストレイント(いわゆる、ヘッドレスト)の位置および角度を検出し、検出結果を示す情報をドライビングポジション検出部132に供給する。ヘッドレスト位置検出部124は、例えば、運転席のヘッドレストレイントの調節されている位置を検出する位置センサ、ヘッドレストレイントの調節されている角度を検出する角度センサなどにより構成される。
【0127】
顔認識部131は、所定の手法を用いて、トラッキング部32から供給されるトラッキング結果を示す情報に基づいて、ドライバの顔を認識する。顔認識部131は、認識結果に基づいて、ドライバの変更を検出し、検出結果を示す情報を前進判定部31、非正面状態検出部81、および、イニシャル方向検出部133に供給する。なお、顔認識部131が顔を認識する手法は、特定の手法に限定されるものではなく、より迅速かつ正確に顔を認識できる手法が望ましい。
【0128】
ドライビングポジション検出部132は、ドア開閉検出部121、ミラー位置検出部122、シート位置検出部123、または、ヘッドレスト位置検出部124からの情報に基づいて、ドライビングポジション(ドライバの運転姿勢)の変更を検出し、検出結果を示す情報を前進判定部31、非正面状態検出部81、および、イニシャル方向検出部133に供給する。
【0129】
イニシャル方向検出部133は、図1のイニシャル方向検出部34、または、図4のイニシャル方向検出部82と同様に、イニシャル方向を検出し、検出したイニシャル方向を示す情報を、前進判定部31、顔向き変換部35、非正面状態検出部81、顔認識部131、および、ドライビングポジション検出部132に供給する。また、顔認識部131によりドライバの変更が検出された場合、または、ドライビングポジション検出部132によりドライビングポジションの変更が検出された場合、すなわち、イニシャル方向が変わった可能性が高い場合、イニシャル方向を再検出する。」

(h)「【0146】
このように、ドライバまたはドライビングポジションの変更の検出に伴い、イニシャル方向を再検出することにより、イニシャル方向をより正確に検出することができる。」

b 認定事項
(a)上記a(b)より、ドライバの顔画像を撮像するカメラ11と、カメラ11によって撮像された顔画像が送信される顔向き検出装置13を備えることが記載されていると認定できる。

(b)上記a(c)、(d)及び(f)より、カメラ11によって撮像された顔画像に基づいて運転者の顔向き角度を認識することが記載されていると認定できる。

(c)上記a(f)(特に段落【0106】、【0110】及び【0112】)には、舵角検出部72からの情報に基づいて、車両のステアリングホイールの舵角が所定の範囲を超えていることを検出した場合に運転者の顔向き角度の(イニシャル方向を求めるための)サンプル値を除くことが記載されていることから、車両が直進していることを判断することが記載されていると認められる。そして、「車両が直進していることを判断すること」は、「車両が直線道路を走行中であることを判断していること」と同義であるから、引用文献5には、車両が走行している道路の状況を検出することが記載されていると認定できる。また、引用文献5には、車両が直進していること(ステアリングホイールの舵角が所定の範囲を超えていないこと)を非正面状態検出部13で判断することが記載されている。

(d)上記a(f)より、車両が前進していること、及び直線道路を走行中であることが検出されていることを含む条件が満たされる場合に運転者の顔向き角度に基づいて、運転者の顔向き角度のイニシャル方向を設定することが記載されていると認定できる。

(e)上記a(a)、(d)、(g)より、アプリケーション装置14によって、イニシャル方向に対する現在の顔向き角度の情報を用いて運転者が脇見をしていないか否かの判断を行うことが記載されていると認められる。

(f)上記a(d)、(e)、(h)より、ドライバの顔の向きの検出装置において、ドライバの脇見運転を検知する際の基準となる「ドライバが運転中に正面を向いている場合の顔の向き(イニシャル方向)」をより正確に検出するためにドライバやドライビングポディションの変更があった場合にイニシャル方向の再検出を行うことが記載されている。また、ドライバやドライビングポディションの変更を検知する手段として、ドアの開閉、ミラー位置の変更、シート位置の変更、ヘッドレスト位置の変更等が挙げられている。

(g)上記a(e)(特に段落【0069】ないし【0071】)には、「ステップS24において、イニシャル方向検出部33は、顔の向きの変化量が所定の範囲内であるか否かを判定する。具体的には、イニシャル方向検出部33は、内部に記憶しているサンプル値の変化量、すなわち、ドライバの顔の向きの変化量を調べ、顔の向きの変化量が所定の範囲(例えば、上下方向および左右方向において30°以内の範囲)を超えていると判定した場合、処理はステップS25に進む。」(【0069】)、「ステップS25において、イニシャル方向検出部34は、内部に記憶しているサンプル値を消去する。その後、処理はステップS27に進む。」(【0070】)、「ステップS24において、顔の向きの変化量が所定の範囲内であると判定された場合、ステップS25の処理はスキップされ、すなわち、サンプル値は消去されずに、処理はステップS27に進む。」(【0071】)と記載されており、イニシャル方向の検出を行うときに顔の向きの変化量が上下方向および左右方向において30°以内の範囲を超えていないことを条件とすることが記載されていると認められる。

c 引用文献5に記載された発明
上記a及びbから、引用文献5には、次の発明(以下「引用発明5」という。)が記載されていると認められる。

〔引用発明5〕
「ドライバの顔画像を撮像するカメラ11と、カメラ11によって撮像された顔画像が送信される顔向き検出装置13と、車両が走行している道路の状況を検出する非正面状態検出部81と、を備え、
顔向き検出装置13は、
カメラ11によって撮像された顔画像に基づいてドライバの顔向き角度を認識する顔向き検出部33を備え、
前進判定部31によって車両が前進していること及び非正面状態検出部81によって前記車両が直線道路を走行中であることが検出されていることを含む条件が成立しているときに顔向き検出装置13によって認識されたドライバの顔向き角度に基づいて、ドライバの顔のイニシャル方向を設定し、
アプリケーション装置14は、設定されたイニシャル方向に対する現在の顔向き角度に基づいてドライバが脇見をしているか否かの判断を行い、
イニシャル方向を設定するときに、顔の向きの変化量が上下方向および左右方向において30°以内の範囲を超えていないことを条件とする、システム。」

(イ)引用文献2
a 引用文献2の記載事項
引用文献2には、次の記載がある。
(a)「【0047】
顔向きECU12は、まず、運転者が正面を向いている状態において、顔の位置を示す座標(x1、y1)、(x2、y2)及び目の位置を示す座標(x3,y3)、(x4,y4)を検出する。運転者が正面を向いていることは、ステアリングセンサ17により検出された操舵角、ヨーレートセンサ18により検出されたヨーレート、白線検知ECU14、レーダセンサ16又はナビECU22により検出された道路形状により、運転者が操舵しておらずに直進しており(回転していない)かつ道路形状が直線である場合として特定できる。」

(ウ)引用文献3
a 引用文献3の記載事項
引用文献3には、次の記載がある。
(a)「【0019】
具体的なその判定内容は、図1Bに示すように、「運転者が特定位置を注視している状況?」(ステップS21)と推定されるか否かである。ここで、本実施形態では、その「特定位置」を「車両Cが勾配のない平坦な直線道路を直進中であると仮定した場合における運転者Dの正面方向の無限遠点」または「道路の消失点」としている。」

(b)「【0020】
すなわち、本実施形態では、かかる無限遠点(消失点)を運転者Dが注視していると推定される状況こそ、運転者Dが通常運転時の自然姿勢をとっていると見立てている。したがって、図1Bに示すように、ステップS21では、車両Cが「直進中?」か、または、運転者Dの「視線をばらつかせる要素なし?」かといった内容の判定に基づき、運転者Dが「特定位置」を注視していると推定される状況であるか否かが判定される。」

(エ)引用文献4の記載事項
a 引用文献4には、次の記載がある。
(a)「【0005】
運転者の顔の動きには、図11(a)及び図11(b)に示すように、回転運動であるロール運動、ピッチ運動、ヨー運動と、平行移動である上下、左右、前後のオフセット運動とがある。」

(b)「【0012】
<全体構成>図1に示すように、運転者1の顔7の正面やや下方に設置されたCCDカメラ等の撮像装置2を用いて運転者1の顔画像を撮影し、顔画像をビデオ信号S1として本発明の実施の形態に係わる顔向き検出装置3へ出力する。顔向き検出装置3は、運転者1の顔画像から運転者1の顔7の向きを検出し顔向き信号S2を制御装置4へ出力する。制御装置4は、顔向き信号S2とその時の車両状態や車両周辺環境状態に応じて適切な処理を行う。具体的には、制御装置4は、車外の環境5から得られる環境信号S3及び車両6から得られる車両信号S4と顔向き信号S2とに従って所定の処理を行う。外部機器としての制御装置4には、運転者1の顔向きとその時の車両状態から脇見を判断し運転者1に報知を行う脇見検出装置や、運転者1の顔向きから運転者1の顔7が正対している機器に何らかの制御を行う視線入力装置等が含まれる。」

(c)「【0021】
運転者の顔7の動きは、図11(a)及び図11(b)に示したように、回転運動であるロール運動、ピッチ運動及びヨー運動と、平行移動である上下、左右、前後のオフセット運動とからなる。図11(c)及び図11(d)に示したように、運転者の頭部を上から見ると明らかに異なる動きである。」

イ 当審の判断
(ア)本件発明1について
a 対比
本件発明1と引用発明5とを対比する。
引用発明5の「カメラ11」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件発明1の「撮像装置」に相当し、以下同様に、「顔向き検出装置13」は「制御装置」に、「イニシャル方向検出部34」は「ゼロ点設定部」に、「アプリケーション装置14」は「状態診断部」に、「システム」は「ドライバモニタシステム」に、それぞれ相当する。

引用発明5の「非正面状態検出部81」は、上記ア(ア)a(f)及びb(c)を踏まえると、「道路状況検出部」といえるから、引用発明5の「前進判定部31によって車両が前進していること及び非正面状態検出部81によって前記車両が直線道路を走行中であることが検出されていることを含む条件が成立しているときに」は、本件発明1の「車両の速度が0よりも速い所定速度以上であること並びに前記道路状況検出部によって前記車両が傾斜のない道路を走行中であること及び直線道路を走行中であることのうち少なくともいずれか一方が検出されていることを含むゼロ点設定条件が成立しているときに」に相当する。

また、引用発明5の「カメラ11によって撮像された顔画像に基づいてドライバの顔向き角度を認識する顔向き検出部33」と本件発明1の「前記撮像装置によって撮像された顔画像に基づいて、固定された暫定基準に基づくドライバの顔のピッチ角及びヨー角を含むドライバの顔向き角度を認識する顔向き認識部」とは、「前記撮像装置によって撮像された顔画像に基づいてドライバの顔向き角度を認識する顔向き認識部」という限りにおいて一致する。

さらに、引用発明5の「顔向き検出装置13によって認識されたドライバの顔向き角度に基づいて、ドライバの顔のイニシャル方向を設定」する機能と本件発明1の「前記顔向き認識部によって認識されたドライバの顔向き角度に基づいて、ドライバが正面を向いているときのドライバの顔のピッチ角、ヨー角及びロール角のうち少なくともピッチ角を含む顔向き角度を、角度が0°のゼロ点として設定するゼロ点設定部」とは、「前記顔向き認識部によって認識されたドライバの顔向き角度に基づいて、ドライバが正面を向いているときのドライバの顔の顔向き角度を、角度が0°のゼロ点として設定するゼロ点設定部」という限りにおいて一致する。

そして、引用発明5の「アプリケーション装置14は、設定されたイニシャル方向に対する現在の顔向き角度に基づいてドライバが脇見をしているか否かの判断を行」うことと本件発明1の「制御装置は」「前記ゼロ点設定部によって設定されたゼロ点に対する現在の顔向き角度に基づいてドライバの状態を診断する状態診断部とを備え」ることとは、「前記ゼロ点設定部によって設定されたゼロ点に対する現在の顔向き角度に基づいてドライバの状態を診断する状態診断部を備え」ることという限りにおいて一致する。

また、「左右方向」の角度はヨー角であるから、引用発明5の「イニシャル方向を設定するときに、顔の向きの変化量が上下方向および左右方向において30°以内の範囲を超えていないことを条件とする」ことと、本件発明1の「前記ピッチ角のゼロ点設定を行うときの前記ゼロ点設定条件は、前記ヨー角の絶対値が予め定められた所定の角度以内であることを含む」こととは、「ゼロ点設定を行うときの前記ゼロ点設定条件は、前記ヨー角の絶対値が予め定められた所定の角度以内であることを含む」という限りにおいて一致する。

そうすると、両者は、以下の一致点及び相違点を有する。

〔一致点〕
「ドライバの顔画像を撮像する撮像装置と、該撮像装置によって撮像された顔画像が送信される制御装置と、車両が走行している道路の状況を検出する道路状況検出部と、を備えるドライバモニタシステムであって、
前記制御装置は、
前記撮像装置によって撮像された顔画像に基づいてドライバの顔向き角度を認識する顔向き認識部と、
車両の速度が0よりも速い所定速度以上であること並びに前記道路状況検出部によって前記車両が直線道路を走行中であることが検出されていることを含むゼロ点設定条件が成立しているときに前記顔向き認識部によって認識されたドライバの顔向き角度に基づいて、ドライバが正面を向いているときのドライバの顔の顔向き角度を、角度が0°のゼロ点として設定するゼロ点設定部とを備え、
前記ゼロ点設定部によって設定されたゼロ点に対する現在の顔向き角度に基づいてドライバの状態を診断する状態診断部を備え、
ゼロ点設定を行うときの前記ゼロ点設定条件は、前記ヨー角の絶対値が予め定められた所定の角度以内であることを含む、ドライバモニタシステム。」

〔相違点1〕
「前記撮像装置によって撮像された顔画像に基づいてドライバの顔向き角度を認識する顔向き認識部」に関して、本件発明1では、「前記撮像装置によって撮像された顔画像に基づいて、固定された暫定基準に基づくドライバの顔のピッチ角及びヨー角を含むドライバの顔向き角度を認識する顔向き認識部」であるのに対し、引用発明5では、「カメラ11によって撮像された顔画像に基づいてドライバの顔向き角度を認識する顔向き検出部33」である点。

〔相違点2〕
「前記顔向き認識部によって認識されたドライバの顔向き角度に基づいて、ドライバが正面を向いているときのドライバの顔の顔向き角度を、角度が0°のゼロ点として設定するゼロ点設定部」に関して、本件発明1では、「前記顔向き認識部によって認識されたドライバの顔向き角度に基づいて、ドライバが正面を向いているときのドライバの顔のピッチ角、ヨー角及びロール角のうち少なくともピッチ角を含む顔向き角度を、角度が0°のゼロ点として設定するゼロ点設定部」であるのに対し、引用発明5では、「顔向き検出装置13によって認識されたドライバの顔向き角度に基づいて、ドライバの顔のイニシャル方向を設定する」ものである点。

〔相違点3〕
「前記ゼロ点設定部によって設定されたゼロ点に対する現在の顔向き角度に基づいてドライバの状態を診断する状態診断部を備え」ることに関して、本件発明1は、制御装置が状態診断部を備えるのに対し、引用発明5は、顔向き検出部13(制御装置に相当)とは別にアプリケーション装置14(状態診断部に相当)を備える点。

〔相違点4〕
「ゼロ点設定を行うときの前記ゼロ点設定条件は、前記ヨー角の絶対値が予め定められた所定の角度以内であることを含む」に関して、本件発明1では、「前記ピッチ角のゼロ点設定を行うときの前記ゼロ点設定条件は、前記ヨー角の絶対値が予め定められた所定の角度以内であることを含む」のに対し、引用発明5では、「イニシャル方向を設定するときに、顔の向きの変化量が上下方向および左右方向において30°以内の範囲を超えていないことを条件とする」点。

b 判断
事案に鑑み、相違点1及び4について検討する。
引用発明5は、「ドライバの顔画像を撮像するカメラ11と、カメラ11によって撮像された顔画像が送信される顔向き検出装置13と、車両が走行している道路の状況を検出する非正面状態検出部81と、を備え、
顔向き検出装置13は、
カメラ11によって撮像された顔画像に基づいてドライバの顔向き角度を認識する顔向き検出部33を備え、
前進判定部31によって車両が前進していること及び非正面状態検出部81によって前記車両が直線道路を走行中であることが検出されていることを含む条件が成立しているときに顔向き検出装置13によって認識されたドライバの顔向き角度に基づいて、ドライバの顔のイニシャル方向を設定し、
アプリケーション装置14は、設定されたイニシャル方向に対する現在の顔向き角度に基づいてドライバが脇見をしているか否かの判断を行い、
イニシャル方向を設定するときに、顔の向きの変化量が上下方向および左右方向において30°以内の範囲を超えていないことを条件とする、システム。」であって、引用文献5の段落【0068】の「ステップS23において、上述した図2のステップS5の処理と同様に、ドライバの顔の向きが検出され、ドライバの顔の向きを示す情報が、顔向き検出部33から、イニシャル方向検出部34および顔向き変換部35に供給される。イニシャル方向検出部34は、検出されたドライバの顔の向きを、イニシャル方向の検出に用いるサンプル値として、図示せぬ内部の記憶部に記憶させる。」との記載、段落【0069】の「ステップS24において、イニシャル方向検出部33は、顔の向きの変化量が所定の範囲内であるか否かを判定する。具体的には、イニシャル方向検出部33は、内部に記憶しているサンプル値の変化量、すなわち、ドライバの顔の向きの変化量を調べ、顔の向きの変化量が所定の範囲(例えば、上下方向および左右方向において30°以内の範囲)を超えていると判定した場合、処理はステップS25に進む。」との記載から、引用発明5の「顔の向きの変化量が上下方向および左右方向において30°以内の範囲を超えていないこと」における「顔の向きの変化量」は、検出され内部に記憶しているサンプル値の変化量であることから、本件発明1の「固定された暫定基準に基づく」ものではない。
そうすると、引用文献5には、本件発明1の「前記ピッチ角のゼロ点設定を行うときの前記ゼロ点設定条件は、」「固定された暫定基準に基づくドライバの顔の」「ヨー角」「の絶対値が予め定められた所定の角度以内であることを含む」こと(以下「本件発明1の発明特定事項1」という。)は記載も示唆もされていない。

また、引用発明5において、「顔の向きの変化量」を「固定された暫定基準に基づくドライバの顔の」「ヨー角」とし、本件発明1の発明特定事項1を含む相違点1及び4に係る本件発明1の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到できたことであるとする証拠や根拠はない。

したがって、引用発明5において、相違点1及び4に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことであるとはいえない。

また、運転者の顔画像を用いて脇見運転を検出するにあたり、運転者の顔の動きとして、ピッチ角、ヨー角及びロール角を認識することは、例えば、引用文献4にみられるように周知の技術であるとしても、当該周知技術は、本件発明1の発明特定事項1を開示ないし示唆するものではないから、当該周知技術を参照しても、引用発明5において、本件発明1の発明特定事項1を含む相違点1及び4に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。

さらに、引用文献1ないし4には、本件発明1の発明特定事項1は記載も示唆もされていないから、引用文献1ないし4に記載された事項を参照しても、引用発明5において、本件発明1の発明特定事項1を含む相違点1及び4に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。

そして、本件発明1は、本件明細書の段落【0078】記載されたように「現在のヨー角の絶対値が予め定められた所定の角度以内であるときにピッチ角のゼロ点設定を行うことにより、ピッチ角のゼロ点を正確に設定することができる。」という格別な効果を奏する。

したがって、相違点2及び3について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明5に基いて、引用発明5及び周知技術に基いて、又は、引用発明5及び引用文献1ないし4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)本件発明2ないし本件発明6について
本件発明2ないし本件発明6は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、上記(ア)において述べたものと同様の理由により、引用発明5に基いて、引用発明5及び周知技術に基いて、又は、引用発明5及び引用文献1ないし4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第5 決定の予告において採用しなかった特許異議申立理由について
1 決定の予告において採用しなかった特許異議申立理由の概要
本件発明1ないし6に対する決定の予告において採用しなかった特許異議申立理由の概要は、以下のとおりである。

(1)理由1(新規性)本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

(2)理由2(進歩性)本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

理由1(新規性
・請求項 1
・引用文献 1

理由2(進歩性
(引用文献1に記載された発明を主引用発明とする場合)
・請求項 1
・引用文献 1、又は1〜4

・請求項 2及び3
・引用文献 1、又は1〜4

・請求項 4
・引用文献 1及び5、又は1〜5

・請求項 5
・引用文献 1、3及び4、又は1〜4、又は1及び3〜5、又は1〜5

・請求項 6
・引用文献 1、又は1及び5、又は1〜4、又は1〜5

<引用文献等一覧>
引用文献1:特開2010−67058号公報
引用文献2:特開2007−261312号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3:特開2017−4117号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4:特開2005−196567号公報(周知技術を示す文献)
引用文献5:特開2007−280375号公報
なお、引用文献1ないし5は、特許異議申立人:富永浩司が提出した甲第1ないし5号証である。

2 引用文献、引用発明等
(1)引用文献1
ア 引用文献1の記載事項
引用文献1には次の記載がある。
(ア)「【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る顔向き検出装置について説明する。図1は、本実施形態における顔向き検出装置の構成を示すブロック図である。図1に示すように、顔向き検出装置1は、カメラ2、ドライバモニタECU(Electronic Control Unit)3、ドライバサポートシステムECU(以下、「DSSECU」と記載)4、ステアリングセンサ5、ブレーキECU6、および車輪速センサ7を備えている。なお、本実施形態においては、ドライバモニタECU3とDSSECU4とが第1のCAN(Controller Area Network)8に接続されており、DSSECU4とステアリングセンサ5とブレーキECU6とが第2のCAN9に接続されているが、各構成間の通信形態はどのような形態であってもよい。
【0021】
顔向き検出装置1は、車両に搭載され、車両の運転者の顔の向き(顔向き)を検出するものである。また、本実施形態においては、顔向き検出装置1は、運転者が正面を向いているか否かを判断し、判断結果に応じて、運転者の安全を確保するための動作(ブレーキ等)を行うものである。
【0022】
カメラ2は、運転者の顔を撮影する撮影手段であり、例えばCCDカメラや赤外線カメラ等である。カメラ2は、運転席に着座した運転者の顔を撮影可能な位置に設置される。カメラ2の設置場所の一例として、運転席のメーターフード内、メーターパネル内、およびステアリングコラム上等が挙げられる。また、カメラ2は、例えば、所定時間間隔で運転者の顔を撮影し、撮影した画像をドライバモニタECU3へ逐次出力する。
【0023】
ドライバモニタECU3は、カメラ2による撮影画像を用いて画像認識を行い、運転者の顔向きを検出する。さらに本実施形態では、ドライバモニタECU3は、上記撮影画像を用いて画像認識を行い、運転者の目の状態(瞼開度(目の開き具合)等)を検出する。ドライバモニタECU3は、運転者の顔向きを示す顔向き情報、および、運転者の目の状態を示す状態情報を第1のCAN8を介してDSSECU4へ逐次出力する。」

(イ)「【0025】
DSSECU4は、ドライバモニタECU3からの情報に基づいて運転者の状態を判断する。具体的には、DSSECU4は、運転者の顔向きの情報を用いて、運転者が車両の正面を向いているか否か(脇見をしていないか否か)の判断を行う。・・・また、DSSECU4は、これらの判断結果に基づき、車両に設置されている各種装置の動作を制御して運転者および乗員の安全を図る。
【0026】
ステアリングセンサ5、ブレーキECU6、および車輪速センサ7は、運転者の運転状態を検出する。具体的には、ステアリングセンサ5は、車両のステアリングの操舵角を検出する。検出された操舵角を示す操舵角情報は、第2のCAN9を介してDSSECU4へ出力される。ブレーキECU6は、車両のブレーキが運転者によって操作されているか否かを検出する。ブレーキが操作されているか否かを示すブレーキ情報は、第2のCAN9を介してDSSECU4へ出力される。車輪速センサ7は、車両の車輪の回転速度を検出する。検出された回転速度を示す速度情報はブレーキECU6および第2のCANを介してDSSECU4へ出力される。また、ブレーキECU6は、車両のブレーキの動作制御等を行う。本実施形態では、ブレーキECU6は、DSSECU4による指示に従ってブレーキを作動させる。
【0027】
以下、顔向き検出装置1の動作を説明する。図2は、本実施形態における顔向き検出装置の動作の流れを示すフローチャートである。本実施形態においては、図2に示す動作は、ドライバモニタECU3およびDSSECU4によって行われる。また、図2に示す動作は、例えば車両の走行中、あるいは、車両のイグニッションスイッチがオンである間、実行される。
【0028】
図2において、まず、ステップS1において、ドライバモニタECU3は、カメラ2による撮影画像を取得する。続くステップS2において、ドライバモニタECU3(上記メインマイコン)は、顔向き検出処理を実行する。顔向き検出処理は、上記撮影画像に基づいて運転者の顔向き(顔向きの角度)を検出する処理である。本実施形態では、運転者の顔向きを判断する判断処理として、ステップS2において顔向きが検出され、後述するステップS8において検出された顔向きが正面の向きであるか否かが判断される。したがって、本実施形態では、ステップS2を実行するドライバモニタECU3およびステップS7を実行するDSSECU4が、請求項に記載の判断処理手段に相当する。以下、図3を参照して顔向き検出処理の詳細について説明する。
【0029】
図3は、図2に示すステップS2(顔向き検出処理)の詳細を示すフローチャートである。図3におけるステップS11において、ドライバモニタECU3は、上記ステップS1で取得した撮影画像における運転者の顔における左右両端の位置を算出する。続くステップS12において、ドライバモニタECU3は、撮影画像における運転者の所定部位(ここでは、目、鼻、および口)の位置を算出する。なお、ステップS11およびS12における画像認識処理の内容はどのようなものであってもよい。ステップS12の次にステップS13の処理が実行される。
【0030】
ステップS13において、ドライバモニタECU3は、運転者の顔の中心線を算出する。顔の中心線とは、撮影画像上における顔の領域の中心(すなわち、運転者の左右両端の中心)ではなく、実際の顔における中心を通る線であり、両目の間、鼻、および口を通る線である。ドライバモニタECU3は、ステップS12で算出された各所定部位の位置を用いて上記中心線を算出する。ステップS13の次にステップS14の処理が実行される。
【0031】
ステップS14において、ドライバモニタECU3は、運転者の顔向きを算出する。顔向きは、上記ステップS11で算出された顔の左右両端の位置と、顔の中心線の位置とを用いて算出される。具体的には、ドライバモニタECU3は、顔の左端から中心線までの長さと、中心線から顔の右端までの長さの比率に基づいて顔向きを算出する。例えば、両者の長さが等しければ、顔向きは、カメラ2に対して正面の向き(0°)であると判断することができる。なお、ここでは、顔向きは、カメラ2の方向を0°とした角度(顔向き角度)で表されるものとする。以上のステップS14の完了後、ドライバモニタECU3は顔向き検出処理を終了する。なお、以上に説明した顔向き検出処理における顔向きの検出方法は一例であり、ドライバモニタECU3は、どのような方法で顔向きを検出してもよい。」

(ウ)「【0035】
ステップS6において、DSSECU4は、運転者の運転状態に基づいて、運転者が正面を向いているか否かを推測する。本実施形態では、ステップS6を実行するDSSECU4が、請求項に記載の推測手段に相当する。本実施形態では、ステップS6における推測は、上記ステップS5で取得された情報、および、ドライバモニタECU3から入力される顔向き情報を用いて行われる。具体的には、DSSECU4は、次の[条件A]〜[条件D]の全ての条件が満たされる場合に運転者が正面を向いていると推測する。
[条件A]車両の速度が所定の速度以上であること
[条件B]車両が直進走行していること
[条件C]車両のブレーキが操作中であること
[条件D]現在の顔向きが、運転者からカメラ2への方向を中心とした所定範囲内の向きであること
[条件A]は上記速度情報により判断することができ、[条件B]は上記操舵角情報により判断することができ、[条件C]は上記ブレーキ情報により判断することができ、[条件D]は最後に実行されるステップS2で得られた顔向きにより判断することができる。なお、[条件D]における「現在の顔向き」とは、運転者が正面を向いていると推測される場合にカメラ2によって撮影された画像から検出される顔向きである。DSSECU4は、運転者が正面を向いていると推測される場合、ステップS7の処理を実行する。一方、運転者が正面を向いていると推測されない場合、DSSECU4は、ステップS7の処理をスキップして後述するステップS8の処理を実行する。
【0036】
上記[条件A]〜[条件C]が満たされる場合には、運転者が正面を向いている可能性はかなり高いと考えられる。さらに、[条件D]によって、正面から大きく外れた向きを向いている場合に運転者が正面を向いていると推測されることを排除することができる。したがって、本実施形態によれば、上記[条件A]〜[条件D]が全て満たされることを条件とすることにより、運転者が正面を向いていることを正確に推測することができる。なお、他の実施形態においては、運転者が正面を向いていると推測するための条件は、上記に限らず、どのような条件であってもよい。例えば、[条件A]〜[条件D]のうちの一部の条件のみが用いられてもよいし、[条件A]〜[条件D]に加えてさらに別の条件が用いられてもよい。また、例えば、DSSECU4は、[条件D]に代えて(または[条件D]とともに)、「運転者の顔向きの(単位時間あたりにおける)変化量が所定量以下であること」を条件として用いてもよい。
【0037】
ステップS7において、DSSECU4は、後述するステップS8における判断処理に関して、現在の顔向きが正面の向きであると判断されるように学習を行う。本実施形態では、ステップS7を実行するDSSECU4が、請求項に記載の学習手段に相当する。以下、ステップS7における学習処理について、図4〜図9を参照して説明する。」

(エ)「【0040】
そこで、本実施形態では、DSSECU4は、正面を向いていると判断される範囲(正面範囲)を、ステップS7の学習処理において補正する。正面範囲とは、運転者が正面を向いているか否かを判断する処理(後述するステップS8)において用いられる情報であって、当該処理においては、ドライバモニタECU3から取得された顔向き(顔向き角度)が当該正面範囲内の値であれば、運転者は正面を向いていると判断される。図8は、正面範囲の一例を示す図である。正面範囲は、運転者Dからカメラ2への方向を基準(0°)とした角度で表され、具体的には、正面範囲の中心に対して一方の側の第1境界値Sと、他方の側の第2境界値Tとにより表される。なお、ここでは、上記基準に対して上記一方の側の角度を正の値で表し、上記基準に対して上記他方の側の角度を負の値で表す。したがって、図8においては、第1境界値Sは正の値であり、第2境界値Tは負の値である。また、本実施形態では、上記基準の方向を中心とした範囲を、正面範囲の初期値とする。
【0041】
DSSECU4は、補正後の正面範囲を次の式(1)に従って算出する。N=S+AM=T−A …(1)上式(1)において、変数Nは補正後の第1境界値であり、変数Mは補正後の第2境界値である。上式(1)によって、図9に示されるように、補正後の正面範囲は、現在の顔向き角度Aを中心とした範囲に補正される。」

(オ)「【0045】
本実施形態によれば、運転者が実際に正面を向いているか否かが推測され(ステップS6)、実際に正面を向いていると推測される場合における顔向き角度が、正面方向を向いているときの顔向き角度となるように学習が行われる(ステップS7)。したがって、運転者が正面を向いた状態が撮像手段に対して正面向きでない場合であっても、運転者にとっての実際の正面の向きを正確に検出することができ、運転者が正面を向いているか否かを正確に判断することができる。」

(カ)図9「



イ 認定事項
(ア)上記ア(ア)より、運転者の顔画像を撮影するカメラ2と、カメラ2によって撮影された顔画像が送信されるドライバモニタECU3及びDSSECU4を備えることが記載されていると認定できる。

(イ)上記ア(イ)、(ウ)、(エ)及び(カ)より、カメラ2によって撮像された顔画像に基づいて、運転者からカメラ2への方向を基準(0°)としたヨー角を含む運転者の顔向き角度を認識することが記載されていると認定できる。

(ウ)上記ア(ア)及び(ウ)より、車両が直進走行していることを判断することが認定できる。そして、「車両が直進走行していることを判断すること」は、「車両が直線道路を走行中であることを判断していること」と同義であるから、引用文献1には、車両が走行している道路の状況を検出することが記載されていると認定できる。また、引用文献1には、操舵角情報により車両が直進走行をしていることをDSSECU4で判断することが記載されていると認定できる。

(エ)上記ア(ウ)、(エ)及び(カ)より、車両の速度が所定速度以上であること、並びに直線道路を走行中であることが検出されていることを含む条件が満たされる場合に、運転者の現在の顔向き角度に基づいて、基準の方向を中心とした正面範囲が現在の顔向き角度を中心とした範囲に補正されることが記載されていると認定できる。

(オ)上記ア(ア)、(イ)及び(オ)より、顔向き角度の基準に対する現在の顔向き角度の情報を用いて運転者が脇見をしていないか否かの判断を行うことが記載されていると認定できる。

(カ)上記ア(ウ)、(エ)及び(カ)より、基準の方向を中心とした正面範囲が現在の顔向き角度Aを中心とした範囲に補正される条件は、現在の顔向きが運転者からカメラ2への方向を中心とした所定範囲内の向きであることを含むことが記載されていると認定できる。

ウ 引用文献1に記載された発明
上記ア及びイから、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

〔引用発明1〕
「運転者の顔画像を撮像するカメラ2と、カメラ2によって撮像された顔画像が送信されるドライバモニタECU3及びDSSECU4と、車両が走行している道路の状況を検出するDSSECU4と、を備え、
DSSECU4は、
カメラ2によって撮像された顔画像に基づいて、運転者からカメラ2への方向を基準(0°)としたヨー角を含む運転者の顔向き角度を認識し、
車両の速度が0よりも速い所定速度以上であること並びにDSSECU4によって前記車両が直線道路を走行中であることが検出されていることを含む条件が成立しているときに、DSSECU4によって認識された運転者の現在の顔向き角度に基づいて、基準の方向を中心とした正面範囲が現在の顔向き角度を中心とした範囲に補正され、
補正された顔向き角度の基準に対する現在の顔向き角度に基づいて運転者が脇見をしているか否かの判断を行い、
基準の方向を中心とした正面範囲が現在の顔向き角度を中心とした範囲に補正される条件は、現在の顔向きが運転者からカメラ2への方向を中心とした所定範囲内の向きであることを含む、システム。」

3 理由1(特許法第29条第1項第3号)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「運転者」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件発明1の「ドライバ」に相当し、以下同様に、「カメラ2」は「撮像装置」に、「ドライバモニタECU3及びDSSECU4」は「制御装置」に、「DSSECU4」は「道路状況検出部」に、「システム」は「ドライバモニタシステム」に、それぞれ相当する。

引用発明1の「カメラ2によって撮像された顔画像に基づいて、運転者からカメラ2への方向を基準(0°)としたヨー角を含む運転者の顔向き角度を認識」することと、本件発明1の「前記撮像装置によって撮像された顔画像に基づいて、固定された暫定基準に基づくドライバの顔のピッチ角及びヨー角を含むドライバの顔向き角度を認識する顔向き認識部」を備えることとは、「前記撮像装置によって撮像された顔画像に基づいて、固定された暫定基準に基づくドライバの顔のヨー角を含むドライバの顔向き角度を認識する顔向き認識部」という限りにおいて一致する。

上記2(1)ア及びイより、引用発明1の「基準」はヨー角を含む角度が0°のゼロ点であると解されることから、引用発明1の「車両の速度が0よりも速い所定速度以上であること並びにDSSECU4によって前記車両が直線道路を走行中であることが検出されていることを含む条件が成立しているときに、DSSECU4によって認識された運転者の現在の顔向き角度に基づいて、基準の方向を中心とした正面範囲が現在の顔向き角度を中心とした範囲に補正され」ることと本件発明1の「車両の速度が0よりも速い所定速度以上であること並びに前記道路状況検出部によって前記車両が傾斜のない道路を走行中であること及び直線道路を走行中であることのうち少なくともいずれか一方が検出されていることを含むゼロ点設定条件が成立しているときに前記顔向き認識部によって認識されたドライバの顔向き角度に基づいて、ドライバが正面を向いているときのドライバの顔のピッチ角、ヨー角及びロール角のうち少なくともピッチ角を含む顔向き角度を、角度が0°のゼロ点として設定するゼロ点設定部」を備える態様とは、「車両の速度が0よりも速い所定速度以上であること並びに前記道路状況検出部によって前記車両が直線道路を走行中であることが検出されていることを含むゼロ点設定条件が成立しているときに前記顔向き認識部によって認識されたドライバの顔向き角度に基づいて、ドライバが正面を向いているときのドライバの顔のヨー角を含む顔向き角度を、角度が0°のゼロ点として設定するゼロ点設定部」を備えるという限りにおいて一致する。

また、引用発明1の「補正された顔向き角度の基準に対する現在の顔向き角度に基づいて運転者が脇見をしているか否かの判断を行」うことは、本件発明1の「前記ゼロ点設定部によって設定されたゼロ点に対する現在の顔向き角度に基づいてドライバの状態を診断する状態診断部」を備える態様に相当する。

上記2(1)ア及びイより、引用発明1の「基準」はヨー角を含む角度が0°のゼロ点であると解されることから、引用発明1の「基準の方向を中心とした正面範囲が現在の顔向き角度を中心とした範囲に補正される条件は、現在の顔向きが運転者からカメラ2への方向を中心とした所定範囲内の向きであることを含む」ことと本件発明1の「前記ピッチ角のゼロ点設定を行うときの前記ゼロ点設定条件は、前記ヨー角の絶対値が予め定められた所定の角度以内であることを含む」こととは、「ゼロ点設定を行うときの前記ゼロ点設定条件は、前記ヨー角の絶対値が予め定められた所定の角度以内であることを含む」という限りにおいて一致する。

そうすると、両者は、
「ドライバの顔画像を撮像する撮像装置と、該撮像装置によって撮像された顔画像が送信される制御装置と、車両が走行している道路の状況を検出する道路状況検出部と、を備えるドライバモニタシステムであって、
前記制御装置は、
前記撮像装置によって撮像された顔画像に基づいて、固定された暫定基準に基づくドライバの顔のヨー角を含むドライバの顔向き角度を認識する顔向き認識部と、
車両の速度が0よりも速い所定速度以上であること並びに前記道路状況検出部によって前記車両が直線道路を走行中であることが検出されていることを含むゼロ点設定条件が成立しているときに前記顔向き認識部によって認識されたドライバの顔向き角度に基づいて、ドライバが正面を向いているときのドライバの顔のヨー角を含む顔向き角度を、角度が0°のゼロ点として設定するゼロ点設定部と、
前記ゼロ点設定部によって設定されたゼロ点に対する現在の顔向き角度に基づいてドライバの状態を診断する状態診断部とを備え、
ゼロ点設定を行うときの前記ゼロ点設定条件は、前記ヨー角の絶対値が予め定められた所定の角度以内であることを含む、ドライバモニタシステム。」の点で一致し、少なくとも以下の点で相違する。

〔相違点5〕
「前記撮像装置によって撮像された顔画像に基づいて、固定された暫定基準に基づくドライバの顔のヨー角を含むドライバの顔向き角度を認識する顔向き認識部」に関して、本件発明1では、「前記撮像装置によって撮像された顔画像に基づいて、固定された暫定基準に基づくドライバの顔のピッチ角及びヨー角を含むドライバの顔向き角度を認識する顔向き認識部」であるのに対し、引用発明1では、「カメラ2によって撮像された顔画像に基づいて、運転者からカメラ2への方向を基準(0°)としたヨー角を含む運転者の顔向き角度を認識」するものである点。

〔相違点6〕
「車両の速度が0よりも速い所定速度以上であること並びに前記道路状況検出部によって前記車両が直線道路を走行中であることが検出されていることを含むゼロ点設定条件が成立しているときに前記顔向き認識部によって認識されたドライバの顔向き角度に基づいて、ドライバが正面を向いているときのドライバの顔のヨー角を含む顔向き角度を、角度が0°のゼロ点として設定するゼロ点設定部」に関して、本件発明1では、「車両の速度が0よりも速い所定速度以上であること並びに前記道路状況検出部によって前記車両が傾斜のない道路を走行中であること及び直線道路を走行中であることのうち少なくともいずれか一方が検出されていることを含むゼロ点設定条件が成立しているときに前記顔向き認識部によって認識されたドライバの顔向き角度に基づいて、ドライバが正面を向いているときのドライバの顔のピッチ角、ヨー角及びロール角のうち少なくともピッチ角を含む顔向き角度を、角度が0°のゼロ点として設定するゼロ点設定部」であるのに対し、引用発明1では、「車両の速度が0よりも速い所定速度以上であること並びにDSSECU4によって前記車両が直線道路を走行中であることが検出されていることを含む条件が成立しているときに、DSSECU4によって認識された運転者の現在の顔向き角度に基づいて、基準の方向を中心とした正面範囲が現在の顔向き角度を中心とした範囲に補正され」る点。

〔相違点7〕
「ゼロ点設定を行うときの前記ゼロ点設定条件は、前記ヨー角の絶対値が予め定められた所定の角度以内であることを含む」ことに関して、本件発明1では、「前記ピッチ角のゼロ点設定を行うときの前記ゼロ点設定条件は、前記ヨー角の絶対値が予め定められた所定の角度以内であることを含む」のに対し、引用発明1では、「基準の方向を中心とした正面範囲が現在の顔向き角度を中心とした範囲に補正される条件は、現在の顔向きが運転者からカメラ2への方向を中心とした所定範囲内の向きであることを含む」点。

イ 判断
引用文献1には、「顔向き角度」及び「基準」が「ピッチ角」を含むことは記載されておらず、引用発明1の「顔向き角度」及び「基準」は専ら「ヨー角」についてのものであって、「ピッチ角」のゼロ点設定条件に「ヨー角」の絶対値が予め定められた所定の角度以内であることを含むことは記載も示唆もされていないから、上記相違点5ないし7は、実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は、引用発明1ではない。

ウ まとめ
上記イのとおり、上記相違点5ないし7は実質的な相違点であるから、本件発明1は、引用発明1ではない。

(2)小括
以上のとおり、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものではなく、上記理由1によっては、本件発明1に係る特許を取り消すことはできない。

4 理由2(特許法第29条第2項)について
(1)本件発明1について
ア 判断
事案に鑑み、上記相違点7について検討する。
引用文献1には、「顔向き角度」及び「基準」が「ピッチ角」を含むことは記載されておらず、引用発明1の「顔向き角度」及び「基準」は専ら「ヨー角」についてのものであって、「ピッチ角」のゼロ点設定条件に「ヨー角」の絶対値が予め定められた所定の角度以内であることを含むことは記載も示唆もされていないから、本件発明1の「前記ピッチ角のゼロ点設定を行うときの前記ゼロ点設定条件は、前記ヨー角の絶対値が予め定められた所定の角度以内であることを含む」ことは記載も示唆もされていない。
引用文献2ないし4にも、本件発明1の「前記ピッチ角のゼロ点設定を行うときの前記ゼロ点設定条件は、前記ヨー角の絶対値が予め定められた所定の角度以内であることを含む」ことは記載も示唆もされていない。
そうすると、引用文献2ないし4を参照しても、引用発明1において、相違点7に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。

また、運転者の顔画像を用いて脇見運転を検出するにあたり、運転者の顔の動きとして、ピッチ角、ヨー角及びロール角を認識することは、例えば、引用文献4にみられるよう周知の技術であるとしても、当該周知技術は「前記ピッチ角のゼロ点設定を行うときの前記ゼロ点設定条件は、前記ヨー角の絶対値が予め定められた所定の角度以内であることを含む」ことを開示ないし示唆するものではないから、当該周知技術を参照しても、引用発明1において、相違点7に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。

さらに、引用文献5には、「顔の向きの変化量が上下方向および左右方向において30°以内の範囲を超えていないこと」における「顔の向きの変化量」は、検出され内部に記憶しているサンプル値の変化量であることから、本件発明1の「固定された暫定基準に基づくドライバの顔の」「ヨー角」が記載されておらず、本件発明1の「前記ピッチ角のゼロ点設定を行うときの前記ゼロ点設定条件は、前記ヨー角の絶対値が予め定められた所定の角度以内であることを含む」ことは記載も示唆もされていない。

そのほかに、引用発明1において、相違点7に係る本件発明1の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到できたものであるとする証拠や根拠はない。

そして、本件発明1は、本件明細書の段落【0078】記載されたように「現在のヨー角の絶対値が予め定められた所定の角度以内であるときにピッチ角のゼロ点設定を行うことにより、ピッチ角のゼロ点を正確に設定することができる。」という格別な効果を奏する。

イ まとめ
したがって、相違点5及び6について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明1に基いて、引用発明1及び引用文献2ないし5に記載された事項に基いて、又は、引用発明1及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2ないし本件発明6について
本件発明2ないし本件発明6は、いずれも本件発明1の全ての発明特定事項を含んだ上で、新たに発明特定事項を追加したものであり、すなわち、相違点5ないし7に係る本件発明1の発明特定事項を含むものであるから、上記(1)に示した理由と同様の理由により、本件発明2ないし本件発明6は、引用発明1に基いて、引用発明1及び引用文献2ないし5に記載された事項に基いて、又は、引用発明1及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明1ないし6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、上記理由2によっては、本件発明1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。

第6 令和5年8月9日提出の意見書における特許異議申立人の主張について
(1)特許異議申立人は上記意見書において、概略以下のように主張している。

ア 引用文献5を主引用発明とした場合
訂正後の請求項1は、依然として、引用文献5および引用文献4に記載の発明に対する進歩性を有していない。

イ 引用文献1を主引用発明とした場合
訂正後の請求項1は、依然として、引用文献1および引用文献4に記載の発明に対する進歩性を有していない。

(2)特許異議申立人の上記主張について以下検討する。

ア 引用文献5を主引用発明とした場合
上記第4の2(2)において上述したとおりであるから、本件発明1は、引用発明5及び引用文献4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 引用文献1を主引用発明とした場合
上記第5の4において上述したとおりであるから、本件発明1は、引用発明1及び引用文献4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ したがって、上記意見書における特許異議申立人の主張は、いずれも当を得たものではなく、採用することができない。

第7 むすび
以上のとおり、決定の予告に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。また、ほかに本件発明1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバの顔画像を撮像する撮像装置と、該撮像装置によって撮像された顔画像が送信される制御装置と、車両が走行している道路の状況を検出する道路状況検出部と、を備えるドライバモニタシステムであって、
前記制御装置は、
前記撮像装置によって撮像された顔画像に基づいて、固定された暫定基準に基づくドライバの顔のピッチ角及びヨー角を含むドライバの顔向き角度を認識する顔向き認識部と、
車両の速度が0よりも速い所定速度以上であること並びに前記道路状況検出部によって前記車両が傾斜のない道路を走行中であること及び直線道路を走行中であることのうち少なくともいずれか一方が検出されていることを含むゼロ点設定条件が成立しているときに前記顔向き認識部によって認識されたドライバの顔向き角度に基づいて、ドライバが正面を向いているときのドライバの顔のピッチ角、ヨー角及びロール角のうち少なくともピッチ角を含む顔向き角度を、角度が0°のゼロ点として設定するゼロ点設定部と、
前記ゼロ点設定部によって設定されたゼロ点に対する現在の顔向き角度に基づいてドライバの状態を診断する状態診断部とを備え、
前記ピッチ角のゼロ点設定を行うときの前記ゼロ点設定条件は、前記ヨー角の絶対値が予め定められた所定の角度以内であることを含む、ドライバモニタシステム。
【請求項2】
前記ゼロ点設定条件は、車両のイグニッションがオンになってから前記ゼロ点設定部による顔向き角度のゼロ点の設定が未だ行われていないことを含む、請求項1に記載のドライバモニタシステム。
【請求項3】
前記ゼロ点設定条件は、ゼロ点設定部によって顔向き角度のゼロ点の設定が前回行われてから、所定の時間が経過したこと又は車両が所定の距離を走行したことを含む、請求項1又は2に記載のドライバモニタシステム。
【請求項4】
ドライバの姿勢又はドライバの交代を検出するドライバ検出部を更に備え、
前記ゼロ点設定条件は、前記ドライバ検出部によってドライバの姿勢が変化したこと又はドライバが交代したことが検出されたことを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のドライバモニタシステム。
【請求項5】
前記ゼロ点設定部は、前記ドライバの顔のピッチ角のゼロ点を設定し、
前記ゼロ点設定条件は、前記道路状況検出部によって前記車両が傾斜のない道路を走行中であることが検出されていることを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のドライバモニタシステム。
【請求項6】
前記ゼロ点設定部は、前記ドライバの顔のヨー角のゼロ点を設定し、
前記ゼロ点設定条件は、前記道路状況検出部によって前記車両が直線道路を走行中であることが検出されていることを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のドライバモニタシステム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2023-12-21 
出願番号 P2017-216602
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (G08G)
P 1 651・ 537- YAA (G08G)
P 1 651・ 121- YAA (G08G)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 山本 信平
特許庁審判官 倉橋 紀夫
星名 真幸
登録日 2021-07-19 
登録番号 6915503
権利者 トヨタ自動車株式会社
発明の名称 ドライバモニタシステム  
代理人 鶴田 準一  
代理人 三橋 真二  
代理人 青木 篤  
代理人 河野 努  
代理人 関根 宣夫  
代理人 伊藤 公一  
代理人 河野 努  
代理人 鶴田 準一  
代理人 青木 篤  
代理人 関根 宣夫  
代理人 伊藤 公一  
代理人 三橋 真二  

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