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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 一部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  H01M
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
審判 一部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1407800
総通号数 27 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-03-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-09-22 
確定日 2023-12-28 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第7040519号発明「固体電解質及び全固体リチウムイオン二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7040519号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−7〕について訂正することを認める。 特許第7040519号の請求項1、5、6に係る特許を維持する。 特許第7040519号の請求項2、3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7040519号の請求項1ないし7に係る発明についての出願は、2018年(平成30年)3月29日(優先権主張 2017年3月30日)を国際出願日とし、令和4年3月14日にその特許権が設定登録され、同年3月23日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和4年 9月22日 :特許異議申立人 吉川 雅也(以下、「異議申立人」という。)による請求項1ないし3、5、6に係る特許に対する特許異議の申立て
令和4年12月28日付け:取消理由通知
令和5年 3月 6日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出。
令和5年 6月14日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和5年 8月 4日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
当審は、令和5年8月16日付けで、異議申立人に対して訂正請求があった旨の通知をして意見書を提出する機会を与えたが、異議申立人から提出されなかった。
なお、令和5年8月4日提出の訂正請求書による訂正請求がされたので、令和5年3月6日提出の訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。


第2 訂正の適否
1.訂正の内容
令和5年8月4日付の訂正請求の趣旨は、特許第7040519号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし7について訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記価数変化できる元素が、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sb、Bi、Mo、Te、W、Ge、Seからなる群から選択される少なくとも一つである、固体電解質。」と記載されているのを、
「一般式LixM1yZr2−yWZP3−ZO12で表記される化合物を含み、
前記M1はMn、Niからなる群から選択される少なくとも一つであり、
前記M1におけるMnの含有量をyMn、Niの含有量をyNiとした場合に、
0≦yMn<1、0≦yNi<1、1+2yNi−z≦x≦1+2yMn+3yNi+5z、0≦y<1及び0.1≦z<1.5を満たす、固体電解質。」と訂正する。
請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2ないし7も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1〜4のいずれか一項に記載の」と記載されているのを、「請求項1に記載の」と訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に「請求項4に記載の」と記載されているのを、「請求項1に記載の」と訂正する。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
(ア)訂正の目的
訂正事項1は、「リン酸ジルコニウム系の固体電解質」が「一般式LixM1yZr2−yWZP3−ZO12で表記される化合物を含み、前記M1はMn、Niからなる群から選択される少なくとも一つであり、前記M1におけるMnの含有量をyMn、Niの含有量をyNiとした場合に、0≦yMn<1、0≦yNi<1、1+2yNi−z≦x≦1+2yMn+3yNi+5z、0≦y<1及び0.1≦z<1.5を満たす」と限定し、これにより訂正前の請求項1においてリン又はジルコニウムの一部を置換する「前記価数変化できる元素」について、「Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sb、Bi、Mo、Te、W、Ge、Seからなる群から選択される少なくとも一つ」としていたものを、「Mn、Niからなる群から選択される少なくとも一つ」である「M1」、及び「W」とに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正前の特許請求の範囲の請求項4に「一般式LixM1yZr2−yWZP3−ZO12で表記される化合物を含み、前記M1はMn、Niからなる群から選択される少なくとも一つであり、前記M1におけるMnの含有量をyMn、Niの含有量をyNiとした場合に、0≦yMn<1、0≦yNi<1、1+2yNi−z≦x≦1+2yMn+3yNi+5z、0≦y<1及び0≦z<1.5を満たす」と記載され、また、明細書の段落【0049】に「固体電解質3は、具体的には以下の一般式(1)で表記される化合物でもよい。
LixM1yZr2−yWzP3−zO12 ・・・(1)
ここでM1はMn、Niからなる群から選択される少なくとも一つである。M1におけるMnの含有量をyMn、Niの含有量をyNiとした場合に、0≦yMn<1、0≦yNi<1、1+2yNi−z≦x≦1+2yMn+3yNi+5z、0≦y<1及び0≦z<1.5を満たす。」と記載されている。さらにzの下限値「0.1」については明細書の表3の実施例3−5ないし3−7、表4の実施例3−11ないし3−16に記載されていることから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、訂正事項1は、請求項1の記載をさらに限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

イ 訂正事項2ないし4について
訂正事項2ないし4は、請求項2ないし4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

ウ 訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項5が請求項1ないし4のいずれか一項を引用していたものを、訂正事項2ないし4に伴って請求項2ないし4の引用を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

エ 訂正事項6について
訂正事項6は、訂正前の請求項7が請求項4を引用していたものを、訂正事項1及び訂正事項4による訂正に伴って請求項1を引用するように変更するものであるから、明瞭ではない記載の釈明を目的とする訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。


(2)一群の請求項、及び、独立特許要件について
訂正前の請求項1ないし7について、請求項2ないし7は、直接的又は間接的に請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1ないし7に対応する訂正後の請求項1ないし7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、上記(1)で述べたように、請求項1ないし6に係る訂正事項1ないし5は「特許請求の範囲の減縮」を目的とするところ、本件においては、請求項1ないし3、5、6について特許異議の申立てがされているから、対応する訂正後の請求項1ないし3、5、6に係る発明について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
また、特許異議の申立てがされていない本件訂正前の請求項4については、本件訂正により削除された。

3 小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし7〕について訂正することを認める。


第3 本件発明
上記「第2」のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明7」のようにいう。)は、その訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された次の事項により特定されるものである。(下線は訂正箇所を示す。)

「【請求項1】
リン酸ジルコニウム系の固体電解質であって、
前記固体電解質を構成するリン又はジルコニウムの一部が、価数変化できる元素によって置換されており、
一般式LixM1yZr2−yWZP3−ZO12で表記される化合物を含み、
前記M1はMn、Niからなる群から選択される少なくとも一つであり、
前記M1におけるMnの含有量をyMn、Niの含有量をyNiとした場合に、
0≦yMn<1、0≦yNi<1、1+2yNi−z≦x≦1+2yMn+3yNi+5z、0≦y<1及び0.1≦z<1.5を満たす、固体電解質。
【請求項2】
(削 除)
【請求項3】
(削 除)
【請求項4】
(削 除)
【請求項5】
請求項1に記載の固体電解質を有する全固体リチウムイオン二次電池。
【請求項6】
一対の電極層と、この一対の電極層の間に設けられた前記固体電解質を有する固体電解質層とが、相対密度80%以上であることを特徴とする請求項5に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記一般式LixM1yZr2−yWzP3−zO12で表記される化合物のみからなる、請求項1に記載の固体電解質。」


第4 取消理由の概要
当審が令和5年6月14日付けで、本件訂正前の本件請求項に対して特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。

理由1)下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。(新規性
理由2)下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。(進歩性

(理由1について:新規性
・請求項1、5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である。

(理由2について:進歩性
・請求項6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と甲第8号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

<引用文献等一覧>
甲第1号証 特開平5−299101号公報
甲第8号証 野村勝裕、博士論文「リン酸ジルコニウム系固体電解質に関する研究」、1993年


第5 当審の判断
1.甲第1号証の記載事項と甲1発明
甲第1号証(特開平5−299101号公報)には、次の事項が記載されている。(下線は、当審で付与したものである。以下同様。)
「【0008】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するための請求項1記載の発明に係るリチウムイオン導電性の固体電解質は、一般式(1)Li1+(4−n)xMxTi2−x(PO4)3〔式中、Mは1価又は2価の陽イオン、Mが1価の陽イオンのときn=1、Mが2価の陽イオンのときn=2、xは0.1〜0.5である。〕で表される粒状電解質(1)が焼結されてなる。
【0009】上式中のMの具体例としては、1価の陽イオンとして、Na+ 、K+ 、Rb+、Cs+ 、Cu+ が例示され、また2価の陽イオンとして、Mg2+、Fe2+、Be2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Ra2+、Mn2+、Co2+、Cu2+、Ni2+、Zn2+、Cd2+が例示される。
・・・略・・・
【0016】粒状電解質(2)の具体例としては、一般式(2)Li1+(4−n)xMxZr2−x(PO4)3〔式中、M、n及びxは上記した一般式(1)Li1+(4−n)xMxTi2−x(PO4)3中のM、n及びxと同じもの又は同じ値である。〕で表されるものが例示される。因みに、Li1+(4−n)xMxZr2−x(PO4)3で表される粒状電解質(2)の融点は約750°Cであり、Li1+(4−n)xMxTi2−x(PO4)3で表される粒状電解質(1)の融点は約950°Cである。」

上記記載によれば、段落【0016】に記載された粒状電解質(2)の一般式(2)において段落【0008】【0009】からMがNiのときn=2、xは0.1〜0.5であるから、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「一般式Li1+2xNixZr2−x(PO4)3(0.1≦x≦0.5)で表される粒状電解質。」

2.対比・判断
(1)新規性について(請求項1、5)
本件発明1と甲1発明を対比すると、
・甲1発明は粒状電解質であり固体電解質といえる。また、リン酸(PO4)とジルコニウム(Zr)を含むからリン酸ジルコニウム系の固体電解質である。したがって、甲1発明の粒状電解質は本件発明1の「リン酸ジルコニウム系の固体電解質」に相当する。

・甲1発明の一般式によれば、価数変化のできるNiによってZrが置換されているから、甲1発明は、本件発明1の「前記固体電解質を構成するリン又はジルコニウムの一部が、価数変化できる元素によって置換されて」いる構成を有する。

・本件発明1は、M1がNi(すなわち、yMn=0、y=yNi)の場合、「一般式LixNiyZr2−yWZP3−ZO12で表記される化合物を含み、
0<y<1、1+2y−z≦x≦1+3y+5z及び0.1≦z<1.5」となる場合を含む。
そこで、本件発明1のM1がNiの場合について甲1発明と対比すると、本件発明1の一般式は価数変化のできるWを有し、PをWによって置換する構成を有するところ、甲1発明は当該構成を有しない点で相違している。
しかしながら、甲1発明の化学式と本件発明1の一般式が表す粒状電解質はLi、Ni、Zr、P、Oを含む点では共通している。

・本件発明1では一般式「LixNiyZr2−yWZP3−ZO12」について各元素の係数が、「0<y<1、1+2y−z≦x≦1+3y+5z及び0.1≦z<1.5」を満たすのに対して、甲1発明では一般式「Li1+2xNixZr2−x(PO4)3」であり、各元素の係数は「0.1≦x≦0.5」を満たす点で相違する。

したがって、本件発明1と甲1発明とは以下の点で一致ないし相違する。

(一致点)
「リン酸ジルコニウム系の固体電解質であって、
前記固体電解質を構成するジルコニウムの一部が、価数変化できる元素によって置換されており、
Li、Ni、Zr、P、Oを含む、固体電解質。」

(相違点)
本件発明1では一般式「LixNiyZr2−yWZP3−ZO12」について各元素の係数が、「0<y<1、1+2y−z≦x≦1+3y+5z及び0.1≦z<1.5」を満たし、価数変化のできるWを有し、PをWによって置換する構成を有するのに対して、甲1発明では一般式「Li1+2xNixZr2−x(PO4)3」であり、PをWによって置換する構成を有さず、各元素の係数は「0.1≦x≦0.5」である点。

上記のとおり、本件発明1は甲1発明と相違点を有するものであり、本件発明1は甲1発明と同一とはいえない。
また、請求項1の構成を全て含み、更に構成を特定したものである請求項5についても同様である。
したがって、本件の請求項1、5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。

(2)進歩性について(請求項6)
請求項6は請求項1の構成を全て含み、更に構成を特定したものである。したがって、本件発明6と甲1発明とを対比すると、少なくとも上記(1)の(相違点)において相違する。

相違点について検討する。
上記相違点のうち、リン酸ジルコニウム系の固体電解質において、リン(P)の一部をタングステン(W)で置換する構成に関しては、甲第1号証には何らの記載も示唆もなく、また周知の構成であるということもできず、さらに甲第2号証ないし甲第10号証を参照しても、当該構成について何ら記載されていない。したがって、甲1発明において少なくとも相違点のうちのリン(P)の一部をタングステン(W)で置換することは当業者が容易に想到できたということはできない。
よって、本件の請求項6に係る発明は甲第1号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものはない。
したがって、本件の請求項6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。


第6 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
1.訂正前の請求項1ないし3、5、6に係る特許に対する特許異議申立理由の概要
(1)申立理由1(新規性
下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、それらの特許は特許法第29条第1項に規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
・請求項3、6 に対して、甲第1号証
・請求項1、3、5、6に対して、甲第2号証ないし甲第9号証

(2)申立理由2(進歩性
下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの特許は特許法第29条第2項に規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
・請求項1ないし3、5 に対して、甲第1号証
・請求項1ないし3、5、6に対して、甲第2号証ないし甲第9号証

(3)申立理由3(サポート要件)
下記の請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないため、それらの特許は第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
・請求項1ないし3、5、6

(4)申立理由4(実施可能要件
下記の請求項に係る発明は、発明の詳細な説明の記載がその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないため、それらの特許は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
・請求項1ないし3、5、6


2.証拠方法
異議申立人が提出した証拠は以下のとおりである。
(1)甲第1号証: 特開平5−299101号公報
(2)甲第2号証: 特開2015−49981号公報
(3)甲第3号証: 特開平4−160011号公報
(4)甲第4号証: Improving the ionic conductivity of NASICON through aliovalent cation substitution of Na3Zr2Si2PO12、Ionics 21、3031-3038(2015)<https://www.researchgate.net/profile/Gil-Cohn/publication/282546340_Improving_the_ionic_conductivity_of_NASICON_through_aliovalent_cation_substitution_of_Na3Zr2Si2PO12/links/57ac711808ae42ba52b22d94/Improving-the-ionic-conductivity-of-NASICON-through-aliovalent-cation-substitution-of-Na3Zr2Si2PO12.pdf>
(5)甲第5号証: Mixed conductivity of Na1+4xMxIIFe2xIIIZr2-3xP3O12,MII:Fe2+,Co2+andNi2+,Solid State Ionics 35, 319-322 (1989)
(6)甲第6号証: 特開2015−76324号公報
(7)甲第7号証: 特開2014−229579号公報
(8)甲第8号証: 「リン酸ジルコニウム系固体電解質に関する研究」博士論文、野村勝裕(1993)<https://nitech.repo.nii..ac.jp/?action=repository_uri&item_id=2765&file_id=13&file_no=1>
(9)甲第9号証: 特開2015−216221号公報
(10)甲第10号証: コベルコ科研ホームページ「酸化物系全固体電池の試作・評価(PDF技術資料)」<https://www.kobe1cokaken.co.jp/business/sb_prototype/oxide-based.pdf>


3.甲各号証の記載事項、記載された発明について
(1)甲第1号証の記載事項と甲1発明
甲第1号証の記載事項と甲1発明は上記「第5 1.」のとおりである。

(2)甲2号証(特開2015−49981号公報)の記載と記載された発明について
甲第2号証には次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

「【0026】
さらに、固体電解質層13に含められる固体電解質、あるいは、正極層11または負極層12に含められる固体電解質としてのナシコン型構造を有するジルコニウム含有リチウムリン酸化合物は、化学式Lix2M2y2Zrz2(PO4)3(化学式中、M2はNa、K、Ca、Mg、Ba、Sr、Al、Sc、Y、In、Ti、Ge、Ga、および、Hfからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、x2は0.6≦x2<3、y2は0≦y2<1、z2は1<z2≦2を満たす数値である)で表されることが好ましい。このようにLiZr2(PO4)3で表されるナシコン型構造を有するジルコニウム含有リチウムリン酸化合物において、Zrの一部を、Na、K、Ca、Mg、Ba、Sr、Al、Sc、Y、In、Ti、Ge、Ga、および、Hfからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素で置換することにより、高いイオン伝導度を示す菱面体晶の温度変化に対する安定性を向上させることができる。」

上記記載及び明細書の記載を総合勘案すると、甲第2号証には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。

「ジルコニウム含有リチウムリン酸化合物からなる固体電解質であって、
化学式はLix2M2y2Zrz2(PO4)3(化学式中、M2はNa、K、Ca、Mg、Ba、Sr、Al、Sc、Y、In、Ti、Ge、Ga、および、Hfからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、x2は0.6≦x2<3、y2は0≦y2<1、z2は1<z2≦2を満たす数値である)であり、
Zrの一部を、Na、K、Ca、Mg、Ba、Sr、Al、Sc、Y、In、Ti、Ge、Ga、および、Hfからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素で置換した固体電解質。」


(3)甲3号証の記載と記載された発明について
甲第3号証(特開平4−160011号公報)には次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

「【特許請求の範囲】
1.下記式
(Li)1+x(M)x(Zr)2-x(PO4)3
ここでMはInまたはCrであり、
xは、MがInであるとき、0.05−0.3の数でありそしてMがCrであるとき、
0.01−0.2の数である、
で表わされる化学組成を有する導電性固体電解質。」

上記記載及び明細書の記載を総合勘案すると、甲第3号証には次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているものと認められる。

「下記式
(Li)1+x(M)x(Zr)2-x(PO4)3
ここでMはInまたはCrであり、
xは、MがInであるとき、0.05〜0.3の数でありそしてMがCrであるとき、
0.01〜0.2の数である、
で表わされる化学組成を有する導電性固体電解質」


(4)甲4号証の記載と記載された発明について
甲第4号証には次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。
ア.「Abstract Doping the zirconium site in NASICON(Na3Zr2Si2PO12) with lower valent cations enhanced the ionic transport of the material. Both Na3.2Zr1.8M0.2Si2PO12(M=Al3+,Fe3+,Y3+)and Na3.4Zr1.8M0.2Si2PO12(M=Co2+,Ni2+,Zn2+) exhibited a higher bulk conductivity than undoped Na3Zr2Si2PO12 at room temperature. A decrease in the low temperature activation energy for all doped NASICON was observed, which helped contribute to the higher room temperature conductivity. The lower activation energy and enhanced conductivity of doped materials were a result of alterations in the NASICON structure. The charge imbalance created by aliovalent substitution in-creased the sodium in the lattice resulting in more charge carriers with better mobility. Furthermore, the conductivity was optimized by the ionic radius of the species in the zirconium site. Ultimately, NASICON doped with a +2oxidation state cation having an ionic radius of approxi-mately 0.73 A (Zn and Co) attained a maximum in con-ductivity. Zn-doped NASICON displayed the greatest room temperature bulk conductivity of 3.75×10-3S/cm, while Co-doped NASICON demonstrated the greatest total con-ductivity of 1.55× 10-3S/cm.」(1ページ左欄1ないし22行)
(当審仮訳:要旨
NASICON (Na3Zr2Si2PO12) のジルコニウムサイトに低価のカチオンをドープすることにより、材料のイオン輸送が促進された。Na3.2Zr1.8M0.2Si2PO12(M=Al3+,Fe3+,Y3+)とNa3.4Zr1.8M0.2Si2PO12(M=Co2+,Ni2+,Zn2+)はいずれも室温でドープされていないNa3Zr2Si2PO12より高いバルク導電率を示した。すべてのドープされたNASICONで低温活性化エネルギーの減少が観察され、これが高い室温導電率に寄与していることがわかった。活性化エネルギーの低下と導電性の向上は、NASICONの構造が変化した結果である。異種金属置換によって生じた電荷のアンバランスは、格子中のナトリウムを増加させ、より多くの電荷キャリアを生成し、より良い移動度をもたらした。さらに、ジルコニウムサイトに存在するイオン半径によって導電性が最適化された。最終的に、イオン半径約0.73Aの+2酸化状態カチオン(ZnとCo) をドープしたNASICONが最大導電率を達成した。ZnドープNASICONは3.75×10-3S/cmという最大の室温バルク導電率を示し、CoドープNASICONは1.55×10-3S/cmという最大の総合トータル導電率を示した。)

イ.「Introduction
Inexpensive and reliable batteries for grid-scale storage are vitalto facilitating the continued use of clean renewable energy.Alternative energy sources such as wind and solar require large energy storage devices to continue delivering electricity when the wind is not blowing, or the sun goes down. Sodium-ion batteries offer a viable, lower cost alternative to lithium-ion batteries for grid-level storage [1,2]. In particular, all-solid-state sodium-ion batteries with a ceramic Na3Zr2Si2PO12(NASICON) electrolyte were demonstrated to be a safe, inex-pensive, and reliable alternative to other battery chemistries [3,4].」(1ページ右欄1ないし12行)
(当審仮訳:はじめに
クリーンな再生可能エネルギーの継続利用を促進するには、グリッドスケールの蓄電用の安価で信頼性の高いバッテリーが不可欠だ。風力や太陽光などの代替エネルギー源では、風が吹いていないときや太陽が沈むときに電力を供給し続けるために大型のエネルギー貯蔵装置が必要だ。ナトリウムイオン電池は、グリッドレベルのストレージ用に、リチウムイオン電池に代わる実行可能で低コストの代替手段を提供する[1,2]。特に、セラミックNa3Zr2Si2PO12(NASICON)電解質を備えた全固体ナトリウムイオン電池は、他の電池の化学的性質に代わる、安全で安価、信頼性の高い代替品であることが実証されている [3,4]。)

上記ア.には「Na3.4Zr1.8M0.2Si2PO12(M=Co2+,Ni2+,Zn2+)」が記載されており、MがNiの場合、Na3.4Zr1.8Ni0.2Si2PO12が記載されているといえる。そして、上記イ.をみると、Na3.4Zr1.8Ni0.2Si2PO12が全固体ナトリウムイオン電池に用いられる電解質であることが明らかである。したがって、上記記載及び甲第4号証の記載を総合勘案すると、甲第4号証には次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されているものと認められる。

「全固体ナトリウムイオン電池に用いるNa3.4Zr1.8Ni0.2Si2PO12電解質。」


(5)甲5号証の記載と記載された発明について
甲第5号証には次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

ア.「Zirconium substituted NASICONs, Na1+4xMxIIFe2xIIIZr2-3xP3O12 (MII:Fe2+, Co2+, Ni2+) are obtainable in the range of 0≦x≦0.5, which are isostructural to NaZr2P3O12 according to powder X-ray patterns. The temperature dependences of the overall electrical conductivities of materials incorporating these three elements with x=0.5 were nearly equal to each other. These materials showed 7×10-3 S cm-1 at 300°C, and an activation energy of 37 kJ/mol. An electronic conductivity of 5×10-4 S cm-1 was observed for Na3Fe0.5IIFeIIIZr0.5P3O12 at 300°C. However, the electronic conductivity observed for Co2+ or Ni2+ substituted materials was very low.」(1ページ1ないし6行)
(当審仮訳:ジルコニウム置換NASICON, Na1+4xMxIIFe2xIIIZr2-3xP3O12 (MII:Fe2+, Co2+, Ni2+)は、粉末X線パターンによればNaZr2P3O12と等構造で、0≦x≦0.5の範囲で得ることが可能である。これら3元素を取り込んだx=0.5の材料の全ての電気伝導度の温度依存性は、互いにほぼ等しかった。これらの材料は、300℃で7×10-3 S cm-1を示し、活性化エネルギーは37kJ/molであった。Na3Fe0.5IIFeIIIZr0.5P3O12では、300℃で5×10-4S cm-1の電子伝導度が観測された。しかし、 Co2+またはNi2+置換された材料で観測された電子伝導度は非常に低かった。)

イ.「1. Introduction
Since fast sodium ion conduction in NASICON solid solutions between sodium zirconium phosphate, NaZr2P3O12(NZP), and sodium zirconium silicate, Na4Zr2Si3O12(NZS), was first reported by Goodenough et al. [l], much research has been performed in order they may be applied as sodium ion conducting electrolytes. In particular, enhancement of their Na+ ion conductivity is needed for practical use.」(1ページ左欄1ないし10行)
(当審仮訳:1. はじめに
リン酸ジルコニウムナトリウムNaZr2P3O12(NZP)とケイ酸ジルコニウムナトリウムNa4Zr2Si3O12(NZS)の間のNASICON固溶体における速いナトリウムイオン伝導は、Goodenoughらによって最初に報告されて以来[l]、ナトリウムイオン伝導性電解質として応用するために多くの研究が行われてきた。特に実用化にはNa+イオン伝導性の向上が必要だ。)

上記「ア.」の記載中の「Na1+4xMxIIFe2xIIIZr2-3xP3O12 (MII:Fe2+,Co2+,Ni2+)」(0≦x≦0.5)において、MII=Ni2+の場合、一般式はNa1+4xNiIIFe2xIIIZr2-3xP3O12(0≦x≦0.5)となる。また、上記「イ.」によれば、甲第5号証に記載のNASICONはナトリウムイオン伝導性電解質として使用されるものといえる。したがって、上記記載及び甲第5号証の記載を総合勘案すると、甲第5号証には次の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されているものと認められる。

「一般式Na1+4xNiIIFe2xIIIZr2-3xP3O12(0≦x≦0.5)で示されるナトリウムイオン伝導性電解質。」


(6)甲6号証の記載と記載された発明について
甲第6号証(特開2015−76324号公報)には次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質材料および電池に関し、詳しくは、固体電解質材料およびそれを用いた全固体電池に関する。」

「【0101】
なお、実施例21〜25の試料は、一般式、LiZr2(PO4)3で表される材料のLiサイトをM1で元素置換した試料((LiaM1b)Zr2(PO4)3で表される固体電解質材料)である。
また、表4の実施例26〜32の試料は、LiサイトをM1で元素置換したことに加えて、ZrサイトをM2で元素置換した試料(一般式(LiaM1b)(Zr2−cM2c)(PO4)3で表される固体電解質材料)である。
また、表4の比較例3の試料は、LiサイトおよびZrサイトのいずれについてもM1あるいはM2で元素置換を行っていない試料(固体電解質材料)である。」

また、表4によれば、実施例32としてM2をGeとした「Li0.90Na0.10Zr1.5Ge0.5(PO4)3」が記載されている。



上記記載及び甲第6号証の記載全体を総合勘案すると、甲第6号証には次の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されているものと認められる。

「ZrサイトをGeで元素置換した固体電解質材料であるLi0.90Na0.10Zr1.5Ge0.5(PO4)3 。」


(7)甲7号証の記載と記載された発明について
甲第7号証(特開2014−229579号公報)には次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

「【請求項3】
前記主結晶相が、Li1+x+zMxA’2-xP3-zSizO12であることを特徴とする請求項1又は2に記載の無機固体複合体。
但し、0<x≦1、0<z<1、MはAl、Sc、Y、Ga、Laの中から選ばれる1種以上、A’はTi、Zr、Ge、Snの中から選ばれる1種以上である。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン伝導性無機物質に関し、特にリチウムイオン二次電池の固体電解質や、リチウム空気電池及びリチウム海水電池のセパレータに好ましく用いられる、リチウムイオン伝導性無機物質に関する。」

請求項3に記載された「無機固体複合体」は段落【0001】によれば「固体電解質」であるといえる。また、「A’」は「Zr」の場合を含むから、上記記載及び甲第7号証の記載全体を総合勘案すると、甲第7号証には次の発明(以下、「甲7発明」という。)が記載されているものと認められる。

「Li1+x+zMxZr2-xP3-zSizO12である固体電解質。
但し、0<x≦1、0<z<1、MはAl、Sc、Y、Ga、Laの中から選ばれる1種以上。」


(8)甲8号証の記載と記載された発明について
甲第8号証には次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

「・・・このような状況に鑑み、本研究は固体電解質開発に当たっての設計指針を提供することを目的とし、リン酸ジルコニウム系固体電解質をモデルに、骨格構造と導電イオン種との関係について現象論的な検討を行なった。」(2ページ8ないし10行)

表1−1(1)(25ページ)にはLi化合物の「9.」として「LiGeIV2−xZrIVxPV3O12」が記載されている。

上記記載及び甲第8号証の記載全体を総合勘案すると、甲第8号証には次の発明(以下、「甲8発明」という。)が記載されているものと認められる。

「LiGeIV2−xZrIVxPV3O12からなるリン酸ジルコニウム系固体電解質。」


(9)甲9号証の記載と記載された発明について
甲第9号証(特開2015−216221号公報)には次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

「【請求項1】
固体電解質体と、
該固体電解質体に形成されるとともに、該固体電解質体を介して対向して配置された複数の電極と、
を備えたキャパシタであって、
前記電極は、Cu、Ni、及びFeから選択される少なくとも1種の金属材料を含み、
前記固体電解質体は、リチウムイオン伝導性固体電解質である、LiαZrβMγ(PO4)3(但し、MはMg、Ca、Ni、Cu、及びZnから選択される少なくとも1種の金属であり、α、β、γは、1.1<α≦2.3、0.01≦γ/β≦0.4、α>1+2γ)を、50体積%以上含むことを特徴とするキャパシタ。」

請求項1に記載された一般式「LiαZrβMγ(PO4)3」には、「M」が「Ni」である構成が含まれることを踏まえると、上記記載及び甲第9号証の記載全体を総合勘案すると、甲第9号証には次の発明(以下、「甲9発明」という。)が記載されているものと認められる。

「LiαZrβNiγ(PO4)3(但し、α、β、γは、1.1<α≦2.3、0.01≦γ/β≦0.4、α>1+2γ)であるリチウムイオン伝導性固体電解質。」


4.申立理由についての当審の判断
(1)申立理由1、2(新規性進歩性)について
ア.甲第1号証を主引例とする申立理由
本件発明1と甲1発明とを対比すると、上記「第5 2.」に示したとおりの以下の一致点、相違点を有する。(再掲)

(一致点)
「リン酸ジルコニウム系の固体電解質であって、
前記固体電解質を構成するジルコニウムの一部が、価数変化できる元素によって置換されており、
Li、Ni、Zr、P、Oを含む、固体電解質。」

(相違点)
本件発明1では一般式「LixNiyZr2−yWZP3−ZO12」について各元素の係数が、「0<y<1、1+2y−z≦x≦1+3y+5z及び0.1≦z<1.5」を満たし、価数変化のできるWを有し、PをWによって置換する構成を有するのに対して、甲1発明では一般式「Li1+2xNixZr2−x(PO4)3」であり、PをWによって置換する構成を有さず、各元素の係数は「0.1≦x≦0.5」である点。

上記相違点について検討する。
上記相違点のうち、リン酸ジルコニウム系の固体電解質において、リン(P)の一部をタングステン(W)で置換する構成に関しては、甲第1号証には何らの記載も示唆もなく、また周知の構成であるということもできず、さらに甲第2号証ないし甲第10号証を参照しても、当該構成について何ら記載されていない。したがって、甲1発明において少なくとも相違点のうちのリン(P)の一部をタングステン(W)で置換することは当業者が容易に想到できたということはできない。
よって、本件の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものはない。請求項1の構成を全て含み、更に構成を特定したものである請求項5についても同様である。
また、請求項1の構成を全て含み、更に構成を特定したものである請求項6は、甲1発明と少なくとも上記相違点を有するから、本件請求項6に係る発明は甲1発明と同一ではない。
したがって、本件の請求項6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではなく、請求項1、5に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。


イ.甲第2号証を主引例とする申立理由
本件発明1と甲2発明(上記「3.(2)」参照。)とを対比すると、

・甲2発明の「ジルコニウム含有リチウムリン酸化合物からなる固体電解質」は、本件発明1の「リン酸ジルコニウム系の固体電解質」に相当する。

・甲2発明では「Zrの一部を、Na、K、Ca、Mg、Ba、Sr、Al、Sc、Y、In、Ti、Ge、Ga、および、Hfからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素で置換」するものであり、この中で「Ti」「Ge」は価数変化のできる元素であることは明らかである。そうしてみると、甲2発明はZrの一部を価数変化のできる元素で置換しているといえるから、本件発明1の「前記固体電解質を構成する」「ジルコニウムの一部が、価数変化できる元素によって置換され」る構成を有しているといえる。

・甲2発明の化学式と本件発明1の一般式とを比較すると、本件発明1においてZrと置換されるM1は「Mn、Niからなる群から選択される少なくとも一つ」であるのに対して、甲2発明の化学式ではZrと置換するM2が「Na、K、Ca、Mg、Ba、Sr、Al、Sc、Y、In、Ti、Ge、Ga、および、Hfからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素」である点で相違する。

・また、甲2発明の化学式と本件発明1の一般式とを比較すると、本件発明1では「P」の一部を置換する「W」を備えているのに対して、甲2発明では「P」を置換する元素を備えておらず、また「W」を有していない点で相違する。
しかしながら、甲2発明と本件発明1の固体電解質はLi、Zr、P、Oを含む点では共通している。

・本件発明1では一般式「LixM1yZr2−yWZP3−ZO12」について各元素の係数が、「M1におけるMnの含有量をyMn、Niの含有量をyNiとした場合に、0≦yMn<1、0≦yNi<1、1+2yNi−z≦x≦1+2yMn+3yNi+5z、0≦y<1及び0.1≦z<1.5を満たす」のに対して、甲2発明では化学式「Lix2M2y2Zrz2(PO4)3」の各元素の係数は「x2は0.6≦x2<3、y2は0≦y2<1、z2は1<z2≦2を満たす」点で相違する。
したがって、本件発明1と甲2発明とは以下の点で一致ないし相違する。

(一致点)
「リン酸ジルコニウム系の固体電解質であって、
前記固体電解質を構成するジルコニウムの一部が、価数変化できる元素によって置換されており、
Li、Zr、P、Oを含む、固体電解質。」

(相違点)
本件発明1では一般式「LixM1yZr2−yWZP3−ZO12」について各元素の係数が、「M1におけるMnの含有量をyMn、Niの含有量をyNiとした場合に、0≦yMn<1、0≦yNi<1、1+2yNi−z≦x≦1+2yMn+3yNi+5z、0≦y<1及び0.1≦z<1.5を満た」し、Zrと置換されるM1は「Mn、Niからなる群から選択される少なくとも一つ」であり、Pの一部を置換するWを備えているのに対して、甲2発明では化学式「Lix2M2y2Zrz2(PO4)3」の各元素の係数は「x2は0.6≦x2<3、y2は0≦y2<1、z2は1<z2≦2を満た」し、Zrと置換するM2が「Na、K、Ca、Mg、Ba、Sr、Al、Sc、Y、In、Ti、Ge、Ga、および、Hfからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素」であり、Pを置換する元素を備えておらず、またWを有さない点。

上記相違点について検討する。
上記相違点のうち、リン酸ジルコニウム系の固体電解質において、リン(P)の一部をタングステン(W)で置換する構成に関しては、甲第2号証には何らの記載も示唆もなく、また周知の構成であるということもできない。さらに甲第1号証、甲第3号証ないし甲第10号証を参照しても、当該構成について何ら記載されておらず、リン(P)の一部をタングステン(W)で置換する動機はない。したがって、甲2発明において少なくとも相違点のうちのリン(P)の一部をタングステン(W)で置換することは当業者が容易に想到できたということはできない。
よって、本件の請求項1に係る発明は甲第2号証に記載された発明と同一ではなく、また、甲第2号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものでもない。請求項1の構成を全て含み、更に構成を特定したものである請求項5、6についても同様である。
したがって、本件の請求項1、5、6に係る特許は、特許法第29条第1項、及び第2項の規定に違反してされたものではない。


ウ.甲第3号証を主引例とする申立理由
本件発明1と甲3発明(上記「3.(3)」参照。)とを対比すると、

・甲3発明の「(Li)1+x(M)x(Zr)2-x(PO4)3」なる式をみると、リン酸とジルコニウムを含み、「リン酸ジルコニウム系」ということができるから、甲3発明の「導電性固体電解質」はリン酸ジルコニウム系の導電性固体電解質といえ、本件発明1の「リン酸ジルコニウム系の固体電解質」に相当する。

・甲3発明の「式(Li)1+x(M)x(Zr)2-x(PO4)3」において、ジルコニウム(Zr)の一部(x)が、InまたはCrである「M」に置換しているということができる。ここで、「Cr」は価数変化できる元素であることは明らかであるから、甲3発明は導電性固体電解質を構成するジルコニウムの一部が価数変化するCrによって置換される構成となっており、本件発明1の「前記固体電解質を構成する」「ジルコニウムの一部が、価数変化できる元素によって置換され」る構成を有しているいえる。

・甲3発明の式と本件発明1の一般式とを比較すると、本件発明1においてZrと置換されるM1は「Mn、Niからなる群から選択される少なくとも一つ」であるのに対して、甲3発明の化学式ではZrと置換するMが「InまたはCr」である点で相違する。

・甲3発明の式と本件発明1の一般式とを比較すると、本件発明1ではPの一部を置換するWを備えているのに対して、甲3発明ではPを置換する元素を備えておらず、またWを有していない点で相違する。
しかしながら、甲3発明と本件発明1の固体電解質はLi、Zr、P、Oを含む点では共通している。

・本件発明1では一般式「LixM1yZr2−yWZP3−ZO12」について各元素の係数が、「M1におけるMnの含有量をyMn、Niの含有量をyNiとした場合に、0≦yMn<1、0≦yNi<1、1+2yNi−z≦x≦1+2yMn+3yNi+5z、0≦y<1及び0.1≦z<1.5を満たす」のに対して、甲3発明では「M」が「Cr」のとき、式「(Li)1+x(Cr)x(Zr)2-x(PO4)3」の各元素の係数は「xは0.01〜0.2の数である」点で相違する。
したがって、本件発明1と甲3発明とは以下の点で一致ないし相違する。

(一致点)
「リン酸ジルコニウム系の固体電解質であって、
前記固体電解質を構成するジルコニウムの一部が、価数変化できる元素によって置換されており、
Li、Zr、P、Oを含む、固体電解質。」

(相違点)
本件発明1では一般式「LixM1yZr2−yWZP3−ZO12」について各元素の係数が、「M1におけるMnの含有量をyMn、Niの含有量をyNiとした場合に、0≦yMn<1、0≦yNi<1、1+2yNi−z≦x≦1+2yMn+3yNi+5z、0≦y<1及び0.1≦z<1.5を満た」し、Zrと置換されるM1は「Mn、Niからなる群から選択される少なくとも一つ」であり、Pの一部を置換するWを備えているのに対して、甲3発明では「M」が「Cr」のとき、式「(Li)1+x(Cr)x(Zr)2-x(PO4)3」の各元素の係数は「xは0.01〜0.2の数であ」り、Zrと置換するMが「InまたはCr」であり、Pを置換する元素を備えておらず、またWを有さない点。

上記相違点について検討する。
上記相違点のうち、リン酸ジルコニウム系の固体電解質において、リン(P)の一部をタングステン(W)で置換する構成に関しては、甲第3号証には何らの記載も示唆もなく、また周知の構成であるということもできず、さらに甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証ないし甲第10号証を参照しても、当該構成について何ら記載されておらず、リン(P)の一部をタングステン(W)で置換する動機はない。したがって、甲3発明において少なくとも相違点のうちのリン(P)の一部をタングステン(W)で置換することは当業者が容易に想到できたということはできない。
よって、本件の請求項1に係る発明は甲第3号証に記載された発明と同一ではなく、また、甲第3号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものでもない。請求項1の構成を全て含み、更に構成を特定したものである請求項5、6についても同様である。
したがって、本件の請求項1、5、6に係る特許は、特許法第29条第1項、及び第2項の規定に違反してされたものではない。


エ.甲第4号証を主引例とする申立理由
本件発明1と甲4発明(上記「3.(4)」参照。)とを対比する。

・甲4発明は全固体ナトリウムイオン電池に用いる電解質であるから固体電解質である。そして、組成式はNa3.4Zr1.8Ni0.2Si2PO12であるので、リン酸とジルコニウムを含む固体電解質といえ、本件発明1の「リン酸ジルコニウム系の固体電解質」に相当する。

・甲4発明の組成式は「Na3.4Zr1.8Ni0.2Si2PO12」であるから、甲4発明は価数変化できる元素である「Ni」を含んでいる。しかしながら、「Ni」によって、リン又はジルコニウムの一部が置換されているかは明らかではない。したがって、甲4発明は本件発明1と価数変化できる元素を有する点では共通するものの、本件発明1が「固体電解質を構成するリン又はジルコニウムの一部が、価数変化できる元素によって置換され」る構成を有するのに対して、甲4発明では当該構成が特定されていない点で相違している。

・甲4発明の組成式と本件発明1の一般式とを比較すると、本件発明1は「Li」を含むのに対して、甲4発明では「Li」の代わりに「Na」を含む点で相違する。

・また、本件発明1では「P」の一部を置換するWを備えているのに対して、甲4発明では当該構成を有していない点で相違している。
しかしながら、本件発明1の一般式中の「M1」は「Ni」である場合を含むから、甲4発明と本件発明1の固体電解質は、Zr、Ni、P、Oを含む点では共通している。

・本件発明1では「M1」が「Ni」である場合、M1におけるMnの含有量をyMn、Niの含有量をyNiとした場合にyMn=0、yNi=1、yNi=yとなるから、一般式は「LixNiyZr2−yWZP3−ZO12」となり、各元素の係数が「1+2y−z≦x≦1+3y+5z、0≦y<1及び0.1≦z<1.5を満たす」のに対して、甲4発明では当該事項が特定されていない点で相違する。
したがって、本件発明1と甲4発明とは以下の点で一致ないし相違する。

(一致点)
「リン酸ジルコニウム系の固体電解質であって、
価数変化できる元素を有し、
Zr、Ni、P、Oを含む、固体電解質。」

(相違点)
本件発明1では「M1」が「Ni」である場合、一般式は「LixNiyZr2−yWZP3−ZO12」となり、各元素の係数が「1+2y−z≦x≦1+3y+5z、0≦y<1及び0.1≦z<1.5を満た」し、
「固体電解質を構成するリン又はジルコニウムの一部が、価数変化できる元素によって置換され」る構成を有し、「Li」を含み、「P」の一部を置換するWを備えているのに対して、甲4発明では組成式が「Na3.4Zr1.8Ni0.2Si2PO12」であり、「固体電解質を構成するリン又はジルコニウムの一部が、価数変化できる元素によって置換され」る構成を有さず、「Li」の代わりに「Na」を含み、「P」の一部を置換するWを備えていない点。

上記相違点について検討する。
上記相違点のうち、リン酸ジルコニウム系の固体電解質において、リン(P)の一部をタングステン(W)で置換する構成に関しては、甲第4号証には何らの記載も示唆もなく、また周知の構成であるということもできず、さらに甲第1号証ないし甲第3号証、甲第5号証ないし甲第10号証を参照しても、当該構成について何ら記載されておらず、リン(P)の一部をタングステン(W)で置換する動機はない。したがって、甲4発明において少なくとも相違点のうちのリン(P)の一部をタングステン(W)で置換することは当業者が容易に想到できたということはできない。
よって、本件の請求項1に係る発明は甲第4号証に記載された発明と同一ではなく、また、甲第4号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものでもない。請求項1の構成を全て含み、更に構成を特定したものである請求項5、6についても同様である。
したがって、本件の請求項1、5、6に係る特許は、特許法第29条第1項、及び第2項の規定に違反してされたものではない。


オ.甲第5号証を主引例とする申立理由
本件発明1と甲5発明(上記「3.(5)」参照。)とを対比する。

・甲5発明はNASICONナトリウムイオン伝導性電解質であるから固体電解質といえる。そして、一般式は「Na1+4xNiIIFe2xIIIZr2-3xP3O12」であるから、リン酸とジルコニウムを含む固体電解質といえ、本件発明1の「リン酸ジルコニウム系の固体電解質」に相当する。

・甲5発明の一般式は「Na1+4xNiIIFe2xIIIZr2-3xP3O12」であるから、価数変化できる元素である「Ni」「Fe」を有するものの、これらがリン又はジルコニウムの一部を置換していることは特定されていない。したがって甲5発明と本件発明1とは価数変化できる元素を有する点では共通しているが、本件発明1が「固体電解質を構成するリン又はジルコニウムの一部が、価数変化できる元素によって置換され」る構成を有しているのに対して、甲5発明は当該構成を有しない点で相違する。

・甲5発明と本件発明1の一般式における構成元素を比較すると、本件発明1は「Li」を含むのに対して、甲5発明では「Li」の代わりに「Na」を含む点で相違する。

・また、本件発明1が有するリンの一部を置換する「W」を甲5発明が有していない点で相違する。
しかしながら、本件発明1における「M1」は「Ni」である場合を含むことを踏まえると、甲5発明と本件発明1とは「Ni」「Zr」「P」「O」を有する点では共通している。

・本件発明1では「M1」が「Ni」である場合、M1におけるMnの含有量をyMn、Niの含有量をyNiとした場合にyMn=0、yNi=1、yNi=yとなるから、一般式は「LixNiyZr2−yWZP3−ZO12」となり、各元素の係数が「1+2y−z≦x≦1+3y+5z、0≦y<1及び0.1≦z<1.5を満たす」のに対して、甲5発明では当該事項が特定されていない点で相違する。
したがって、本件発明1と甲5発明とは以下の点で一致ないし相違する。

(一致点)
「リン酸ジルコニウム系の固体電解質であって、
価数変化できる元素を有し、
Zr、Ni、P、Oを含む、固体電解質。」

(相違点)
本件発明1では「M1」が「Ni」である場合、一般式は「LixNiyZr2−yWZP3−ZO12」となり、各元素の係数が「1+2y−z≦x≦1+3y+5z、0≦y<1及び0.1≦z<1.5を満た」し、
「固体電解質を構成するリン又はジルコニウムの一部が、価数変化できる元素によって置換され」る構成を有し、「Li」を含み、「P」の一部を置換するWを備えているのに対して、甲5発明では一般式が「Na1+4xNiIIFe2xIIIZr2-3xP3O12(0≦x≦0.5)」であり、「固体電解質を構成するリン又はジルコニウムの一部が、価数変化できる元素によって置換され」る構成を有さず、「Li」の代わりに「Na」を含み、「P」の一部を置換する「W」を備えていない点。

上記相違点について検討する。
上記相違点のうち、リン酸ジルコニウム系の固体電解質において、リン(P)の一部をタングステン(W)で置換する構成に関しては、甲第5号証には何らの記載も示唆もなく、また周知の構成であるということもできず、さらに甲第1号証ないし甲第4号証、甲第6号証ないし甲第10号証を参照しても、当該構成について何ら記載されておらず、リン(P)の一部をタングステン(W)で置換する動機はない。したがって、甲5発明において少なくとも相違点のうちのリン(P)の一部をタングステン(W)で置換することは当業者が容易に想到できたということはできない。
よって、本件の請求項1に係る発明は甲第5号証に記載された発明と同一ではなく、また、甲第5号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものでもない。請求項1の構成を全て含み、更に構成を特定したものである請求項5、6についても同様である。
したがって、本件の請求項1、5、6に係る特許は、特許法第29条第1項、及び第2項の規定に違反してされたものではない。


カ.甲第6号証を主引例とする申立理由
本件発明1と甲6発明(上記「3.(6)」参照。)とを対比する。

・甲6発明は、組成式「Li0.90Na0.10Zr1.5Ge0.5(PO4)3」によればリン酸とジルコニウムを有し、また固体電解質材料であるから、本件発明1の「リン酸ジルコニウム系の固体電解質」に相当する。

・甲6発明において、Geは価数変化できる元素であり、Zrの一部と置換しているから、本件発明1の「前記固体電解質を構成する」「ジルコニウムの一部が、価数変化できる元素によって置換され」る構成を有する。

・甲6発明の組成式と本件発明1の一般式とを比較すると、本件発明1ではZrの一部を「Mn、Niからなる群から選択される少なくとも一つ」と置換するのに対して、甲6発明では「Zr」の一部を「Ge」に置換している点で相違する。また、本件発明1では「P」の一部を置換する「W」を有するのに対して、甲6発明では「W」を有さない点で相違する。
しかしながら、甲6発明の組成式と本件発明1の一般式が表す固体電解質はLi、Zr、P、Oを含む点では共通している。

・本件発明1では一般式「LixM1yZr2−yWZP3−ZO12」について各元素の係数が、「M1におけるMnの含有量をyMn、Niの含有量をyNiとした場合に、0≦yMn<1、0≦yNi<1、1+2yNi−z≦x≦1+2yMn+3yNi+5z、0≦y<1及び0.1≦z<1.5を満たす」のに対して、甲6発明では組成式「Li0.90Na0.10Zr1.5Ge0.5(PO4)3 」で表される点で相違する。
したがって、本件発明1と甲6発明とは以下の点で一致ないし相違する。

(一致点)
「リン酸ジルコニウム系の固体電解質であって、
前記固体電解質を構成するジルコニウムの一部が、価数変化できる元素によって置換されており、
Li、Zr、P、Oを含む、固体電解質。」

(相違点)
本件発明1では一般式「LixM1yZr2−yWZP3−ZO12」について各元素の係数が、「M1におけるMnの含有量をyMn、Niの含有量をyNiとした場合に、0≦yMn<1、0≦yNi<1、1+2yNi−z≦x≦1+2yMn+3yNi+5z、0≦y<1及び0.1≦z<1.5を満た」し、Zrの一部を「Mn、Niからなる群から選択される少なくとも一つ」と置換し、「P」の一部を置換する「W」を有するのに対して、甲6発明では組成式「Li0.90Na0.10Zr1.5Ge0.5(PO4)3 」で表され、「Zr」の一部を「Ge」に置換しており、「P」の一部を置換する「W」を有しない点。

上記相違点について検討する。
上記相違点のうち、リン酸ジルコニウム系の固体電解質において、リン(P)の一部をタングステン(W)で置換する構成に関しては、甲第6号証には何らの記載も示唆もなく、また周知の構成であるということもできず、さらに甲第1号証ないし甲第5号証、甲第7号証ないし甲第10号証を参照しても、当該構成について何ら記載されておらず、リン(P)の一部をタングステン(W)で置換する動機はない。したがって、甲6発明において少なくとも相違点のうちのリン(P)の一部をタングステン(W)で置換することは当業者が容易に想到できたということはできない。
よって、本件の請求項1に係る発明は甲第6号証に記載された発明と同一ではなく、また、甲第6号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものでもない。請求項1の構成を全て含み、更に構成を特定したものである請求項5、6についても同様である。
したがって、本件の請求項1、5、6に係る特許は、特許法第29条第1項、及び第2項の規定に違反してされたものではない。


キ.甲第7号証を主引例とする申立理由
本件発明1と甲7発明(上記「3.(7)」参照。)とを対比する。

・甲7発明はリン酸とジルコニウムを含む固体電解質であるから、本件発明1の「リン酸ジルコニウム系の固体電解質」に相当する。

・甲7発明の「Li1+x+zMxZr2-xP3-zSizO12」なる一般式からみて、「Zr」が「M(MはAl、Sc、Y、Ga、Laの中から選ばれる1種以上)」に、「P」が「Si」に一部置換される構成といえ、本件発明1の「前記固体電解質を構成するリン又はジルコニウムの一部が」「置換され」る構成に相当するものの、本件発明1は「価数変化できる元素によって置換され」るのに対して、甲7発明では当該事項が特定されていない点で相違する。

・甲7発明の一般式と本件発明1の一般式とを比較すると、本件発明1ではZrの一部を「Mn、Niからなる群から選択される少なくとも一つ」と置換するのに対して、甲7発明ではZrの一部を「M(Al、Sc、Y、Ga、Laの中から選ばれる1種以上)」に置換する点で相違する。また、本件発明1ではPの一部をWにより置換するのに対して、甲7発明ではPの一部をSiに置換する点で相違する。
しかしながら、甲7発明の化学式と本件発明1の一般式が表す固体電解質はLi、Zr、P、Oを含む点では共通している。

・本件発明1では一般式「LixM1yZr2−yWZP3−ZO12」について各元素の係数が、「M1におけるMnの含有量をyMn、Niの含有量をyNiとした場合に、0≦yMn<1、0≦yNi<1、1+2yNi−z≦x≦1+2yMn+3yNi+5z、0≦y<1及び0.1≦z<1.5を満たす」のに対して、甲7発明では一般式「Li1+x+zMxZr2-xP3-zSizO12」の各元素の係数は「0<x≦1、0<z<1、MはAl、Sc、Y、Ga、Laの中から選ばれる1種以上」である点で相違する。
したがって、本件発明1と甲7発明とは以下の点で一致ないし相違する。

(一致点)
「リン酸ジルコニウム系の固体電解質であって、
前記固体電解質を構成するリン又はジルコニウムの一部が、置換されており、
Li、Zr、P、Oを含む、固体電解質。」

(相違点)
本件発明1では一般式「LixM1yZr2−yWZP3−ZO12」について各元素の係数が、「M1におけるMnの含有量をyMn、Niの含有量をyNiとした場合に、0≦yMn<1、0≦yNi<1、1+2yNi−z≦x≦1+2yMn+3yNi+5z、0≦y<1及び0.1≦z<1.5を満た」し、Zrの一部を「Mn、Niからなる群から選択される少なくとも一つ」と置換し、Pの一部をWにより置換し、リン又はジルコニウムの一部が「価数変化できる元素によって置換され」るのに対して、甲7発明では一般式「Li1+x+zMxZr2-xP3-zSizO12」の各元素の係数は「0<x≦1、0<z<1、MはAl、Sc、Y、Ga、Laの中から選ばれる1種以上」で表され、Zrの一部を「M(Al、Sc、Y、Ga、Laの中から選ばれる1種以上)」に置換し、Pの一部をSiに置換しており、「価数変化できる元素によって置換され」る構成が特定されていない点。

上記相違点について検討する。
上記相違点のうち、リン酸ジルコニウム系の固体電解質において、リン(P)の一部をタングステン(W)で置換する構成に関しては、甲7発明ではリン(P)の一部をSiに置換しており、タングステンに置換する構成について甲第7号証には何らの記載も示唆もなく、また周知の技術事項であるということもできず、さらに甲第1号証ないし甲第6号証、甲第8号証ないし甲第10号証を参照しても、当該構成について何ら記載も示唆もされておらず、リン(P)の一部をタングステン(W)で置換する動機はない。したがって、甲7発明において少なくとも相違点のうちのリン(P)の一部をタングステン(W)で置換することは当業者が容易に想到できたということはできない。
よって、本件の請求項1に係る発明は甲第7号証に記載された発明と同一ではなく、また、甲第7号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものでもない。請求項1の構成を全て含み、更に構成を特定したものである請求項5、6についても同様である。
したがって、本件の請求項1、5、6に係る特許は、特許法第29条第1項、及び第2項の規定に違反してされたものではない。


ク.甲第8号証を主引例とする申立理由
本件発明1と甲8発明(上記「3.(8)」参照。)とを対比する。

・甲8発明は「LiGeIV2−xZrIVxPV3O12からなるリン酸ジルコニウム系固体電解質。」であるから、本件発明1の「リン酸ジルコニウム系の固体電解質」に相当する。

・甲8発明の「LiGeIV2−xZrIVxPV3O12」なる一般式からみて、「Zr」が「Ge」に一部置換されているということができる。ここで、「Ge」は価数変化できる元素であることは明らかであるから、甲8発明は固体電解質を構成するジルコニウムの一部が価数変化できるGeによって置換する構成となっており、本件発明1の「前記固体電解質を構成する」「ジルコニウムの一部が、価数変化できる元素によって置換され」た構成に相当する。

・甲8発明と本件発明1の一般式とを比較すると、本件発明1においてZrと置換されるM1は「Mn、Niからなる群から選択される少なくとも一つ」であるのに対して、甲8発明では「Ge」が「Zr」と置換される点で相違する。

・甲8発明と本件発明1の一般式とを比較すると、本件発明1では「P」の一部を置換する「W」を備えているのに対して、甲8発明では「P」を置換する元素を備えておらず、また「W」を有していない点で相違する。
しかしながら、甲8発明と本件発明1は、Li、Zr、P、Oを含む点では共通している。

・本件発明1では一般式「LixM1yZr2−yWZP3−ZO12」について各元素の係数が、「M1におけるMnの含有量をyMn、Niの含有量をyNiとした場合に、0≦yMn<1、0≦yNi<1、1+2yNi−z≦x≦1+2yMn+3yNi+5z、0≦y<1及び0.1≦z<1.5を満たす」のに対して、甲8発明では当該事項が規定されていない点で相違する。
したがって、本件発明1と甲8発明とは以下の点で一致ないし相違する。

(一致点)
「リン酸ジルコニウム系の固体電解質であって、
前記固体電解質を構成するジルコニウムの一部が、価数変化できる元素によって置換されており、
Li、Zr、P、Oを含む、固体電解質。」

(相違点)
本件発明1では一般式「LixM1yZr2−yWZP3−ZO12」について各元素の係数が、「M1におけるMnの含有量をyMn、Niの含有量をyNiとした場合に、0≦yMn<1、0≦yNi<1、1+2yNi−z≦x≦1+2yMn+3yNi+5z、0≦y<1及び0.1≦z<1.5を満た」し、Zrと置換されるM1は「Mn、Niからなる群から選択される少なくとも一つ」であり、「P」の一部を置換する「W」を備えるのに対して、甲8発明では一般式が「LiGeIV2−xZrIVxPV3O12」で表され、「Ge」が「Zr」と置換され、「P」を置換する元素を備えておらず、また「W」を有していない点。

上記相違点について検討する。
上記相違点のうち、リン酸ジルコニウム系の固体電解質において、リン(P)の一部をタングステン(W)に置換する構成に関しては、甲第8号証には何らの記載も示唆もなく、また周知の技術事項であるということもできず、さらに甲第1号証ないし甲第7号証、甲第9号証、甲第10号証を参照しても、当該構成について何ら記載も示唆もされておらず、リン(P)の一部をタングステン(W)で置換する動機はない。したがって、甲8発明において少なくとも相違点のうちのリン(P)の一部をタングステン(W)で置換することは当業者が容易に想到できたということはできない。
よって、本件の請求項1に係る発明は甲第8号証に記載された発明と同一ではなく、また、甲第8号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものでもない。請求項1の構成を全て含み、更に構成を特定したものである請求項5、6についても同様である。
したがって、本件の請求項1、5、6に係る特許は、特許法第29条第1項、及び第2項の規定に違反してされたものではない。


ケ.甲第9号証を主引例とする申立理由
本件発明1と甲9発明(上記「3.(9)」参照。)とを対比する。

・甲9発明の固体電解質は一般式「LiαZrβNiγ(PO4)3」をみれば、リン酸とジルコニウムを含む固体電解質であるから、本件発明1の「リン酸ジルコニウム系の固体電解質」に相当する。

・本件発明1は「固体電解質を構成するリン又はジルコニウムの一部が、価数変化できる元素によって置換されて」いるのに対して、甲9発明では価数変化できるNiを有しているものの、PやZrと係数の和が一定の関係にならないことから、リンとジルコニウムがNiによって置換されているとはいえない。

・甲9発明と本件発明1の一般式における構成元素を比較する。本件発明1における「M1」は「Ni」である場合を含むことを踏まえると、本件発明1が有するリンの一部を置換する「W」を甲9発明が有していない点で相違する。しかしながら、甲9発明と本件発明1とは、Li、Zr、Ni、P、Oを有する点では共通している。

・本件発明1では「M1」が「Ni」である場合、M1におけるMnの含有量をyMn、Niの含有量をyNiとした場合にyMn=0、yNi=1、yNi=yとなるから、一般式は「LixNiyZr2−yWZP3−ZO12」となり、各元素の係数が「1+2y−z≦x≦1+3y+5z、0≦y<1及び0.1≦z<1.5を満たす」のに対して、甲9発明では当該事項が特定されていない点で相違する。
したがって、本件発明1と甲9発明とは以下の点で一致ないし相違する。

(一致点)
「リン酸ジルコニウム系の固体電解質であって、
価数変化できる元素を有し、
Li、Zr、Ni、P、Oを含む、固体電解質。」

(相違点)
本件発明1では「M1」が「Ni」である場合、一般式は「LixNiyZr2−yWZP3−ZO12」となり、各元素の係数が「1+2y−z≦x≦1+3y+5z、0≦y<1及び0.1≦z<1.5を満た」し、「前記固体電解質を構成するリン又はジルコニウムの一部が、価数変化できる元素によって置換されて」おり、「P」の一部を置換する「W」を有しているのに対して、甲9発明は、一般式「LiαZrβNiγ(PO4)3」で表され、リン又はジルコニウムの一部が、価数変化できる元素によって置換される構成を有さず、「P」の一部を置換する「W」を有していない点。

上記相違点について検討する。
上記相違点のうち、リン酸ジルコニウム系の固体電解質において、リン(P)の一部をタングステン(W)で置換する構成に関しては、甲第9号証には何らの記載も示唆もなく、また周知の構成であるということもできず、さらに甲第1号証ないし甲第8号証、甲第10号証を参照しても、当該構成について何ら記載されておらず、リン(P)の一部をタングステン(W)で置換する動機はない。したがって、甲9発明において少なくとも相違点のうちのリン(P)の一部をタングステン(W)で置換する構成は当業者が容易に想到できたということはできない。
よって、本件の請求項1に係る発明は甲第9号証に記載された発明と同一ではなく、また、甲第9号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものでもない。請求項1の構成を全て含み、更に構成を特定したものである請求項5、6についても同様である。
したがって、本件の請求項1、5、6に係る特許は、特許法第29条第1項、及び第2項の規定に違反してされたものではない。


(2)申立理由3(サポート要件)
ア.置換可能な元素について
異議申立人は特許異議申立書(46ページ下から9行ないし49ページ21行)において、概略以下のように主張している。

「実施例1−1〜実施例1−5及び実施例2−1〜実施例2−27は、単なる理想的な固体電解質が得られていることを前提とした、シミュレーションの測定結果が示されているに過ぎない。よって、実施例3−1〜実施例3−16で検証された、ジルコニウムに対するMn及びNi以外の元素、リンに対するW以外の元素については、置換自体が可能であるか、置換前後での構造が実質変化しないかのいずれもが不明であり、本件特許の課題を解決できるかが全く不明である。
したがって、ジルコニウムに対してMn及びNi以外の元素(Ti、Cr、Fe、Co、Cu、Zn、Sb、Bi、Mo、Te、W、Ge、Se) を置換元素として用いた場合、並びにリンに対してW以外の元素(Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sb、Bi、Mo、Te、Ge、Se) を用いた場合の実施の形態に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、本件発明1−3、5及び6は、発明の詳細な説明に記載したものでない。」

上記主張について検討すると、上記「第2」で検討したとおり、令和5年8月4日付の訂正請求により、請求項1において本件固体電解質が「一般式LixM1yZr2−yWZP3−ZO12で表記される化合物を含み、前記M1はMn、Niからなる群から選択される少なくとも一つであ」ることが特定された。したがって、ジルコニウムに対してMn及びNi以外の元素、リンに対してW以外の元素を置換元素として用いた場合は請求の範囲から排除された。
したがって、請求項1に係る特許、及び請求項1を引用する請求項5、6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定するサポート要件を満たさない特許出願に対してされたものであるということはできない。

イ.リチウムの含有について
異議申立人は特許異議申立書(49ページ22行ないし50ページ下から2行)において、概略以下のように主張している。

「リチウムを含まない場合、例えばナトリウムを含むリン酸ジルコニウム系化合物の固体電解質を用いた場合に、『イオン伝導性の高い結晶構造を維持し、Li量が変動した際にも電子的な絶縁性が維持できる』との本件発明の課題を解決できるかが、リチウムを含むリン酸ジルコニウム系化合物を用いた場合についてのみ説明する本件特許明細書からは、当業者であっても理解できない。
したがって、リチウムを含まない場合、例えばナトリウムを含むリン酸ジルコニウム系化合物の固体電解質を用いた場合の実施の形態に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、本件発明1−3は、発明の詳細な説明に記載したものでない。」

上記主張について検討すると、上記「第2」で検討したとおり、令和5年8月4日付の訂正請求により、請求項1において本件固体電解質が「一般式LixM1yZr2−yWZP3−ZO12で表記される化合物を含」むことが特定され、リチウムを含まない固体電解質は請求の範囲から排除された。
したがって、請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定するサポート要件を満たさない特許出願に対してされたものであるということはできない。


(3)申立理由4(実施可能要件
ア.置換可能な元素について
異議申立人は特許異議申立書(50ページ下から1行ないし51ページ8行)において、以下のように主張している。

「上記アで説明したとおり、本件特許の詳細な説明には、当業者が出願時の技術常識を考慮しても、ジルコニウムに対してMn及びNi以外の元素(Ti、Cr、Fe、Co、Cu、Zn、Sb、Bi、Mo、Te、W、Ge、Se) を置換元素として用いた場合、並びにリンに対してW以外の元素(Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sb、Bi、Mo、Te、Ge、Se) を用いた場合に、本件発明1−3、5及び6を実施できる程度に明確かつ十分に説明されているとはいえない。」

上記主張について検討すると、上記「(2)ア.」で検討したとおり、令和5年8月4日付の訂正請求により、ジルコニウムに対してMn及びNi以外の元素、リンに対してW以外の元素を置換元素として用いた場合は請求の範囲から排除された。
したがって、発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明、及び請求項1を引用する請求項5、6に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に説明されていないとはいえず、請求項1、5、6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する実施可能要件を満たさない特許出願に対してされたものであるということはできない。

イ.リチウムの含有について
異議申立人は特許異議申立書(51ページ9行ないし14行)において、以下のように主張している。
「上記イで説明したとおり、本件特許の詳細な説明には、当業者が出願時の技術常識を考慮しても、リチウムを含まない場合、例えばナトリウムを含むリン酸ジルコニウム系化合物の固体電解質を用いた場合に、本件発明1−3を実施できる程度に明確かつ十分に説明されているとはいえない。」

上記主張について検討すると、上記「(2)イ.」で検討したとおり、令和5年8月4日付の訂正請求により、リチウムを含まない固体電解質は請求の範囲から排除された。
したがって、発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に説明されていないとはいえず、請求項1に係る特許は特許法第36条第4項第1号に規定する実施可能要件を満たさない特許出願に対してされたものであるということはできない。


第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、5、6に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1、5、6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項2、3に係る特許は、上記のとおり訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸ジルコニウム系の固体電解質であって、
前記固体電解質を構成するリン又はジルコニウムの一部が、価数変化できる元素によって置換されており、
一般式LixM1yZr2−yWzP3−zO12で表記される化合物を含み、
前記M1はMn、Niからなる群から選択される少なくとも一つであり、
前記M1におけるMnの含有量をyMn、Niの含有量をyNiとした場合に、
0≦yMn<1、0≦yNi<1、1+2yNi−z≦x≦1+2yMn+3yNi+5z、0≦y<1及び0.1≦z<1.5を満たす、固体電解質。
【請求項2】
(削 除)
【請求項3】
(削 除)
【請求項4】
(削 除)
【請求項5】
請求項1に記載の固体電解質を有する全固体リチウムイオン二次電池。
【請求項6】
一対の電極層と、この一対の電極層の間に設けられた前記固体電解質を有する固体電解質層とが、相対密度80%以上であることを特徴とする請求項5に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記一般式LixM1yZr2−yWzP3−zO12で表記される化合物のみからなる、請求項1に記載の固体電解質。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2023-12-18 
出願番号 P2019-510197
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (H01M)
P 1 652・ 536- YAA (H01M)
P 1 652・ 851- YAA (H01M)
P 1 652・ 113- YAA (H01M)
P 1 652・ 537- YAA (H01M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 井上 信一
特許庁審判官 山本 章裕
畑中 博幸
登録日 2022-03-14 
登録番号 7040519
権利者 TDK株式会社
発明の名称 固体電解質及び全固体リチウムイオン二次電池  
代理人 寺本 光生  
代理人 松本 裕幸  
代理人 及川 周  
代理人 荒 則彦  
代理人 荒 則彦  
代理人 松本 裕幸  
代理人 寺本 光生  
代理人 及川 周  

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