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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C12C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C12C
管理番号 1407833
総通号数 27 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-03-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-04-13 
確定日 2023-12-26 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第7153617号発明「ビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、及び、ビールテイスト飲料の香味向上方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7153617号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1及び2について訂正することを認める。 特許第7153617号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第7153617号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成30年5月25日に出願した特願2018−100849号の一部を令和1年7月29日に新たな特許出願(特願2019−138504号)としたものであって、令和4年10月5日にその特許権の設定登録(請求項の数3)がされ、同年同月14日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対し、令和5年4月13日に特許異議申立人 田中 眞喜子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、同年7月7日付けで取消理由が通知され、同年8月23日に特許権者 サッポロビール株式会社(以下、「特許権者」という。)より訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされるとともに意見書の提出がされ、同年同月25日付けで特許法第120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知を行ったところ、同年9月28日に特許異議申立人より意見書の提出があったものである。

第2 訂正の適否についての判断

1 本件訂正請求の趣旨
本件訂正請求における請求の趣旨は、「特許第7153617号の明細書、特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜2について訂正することを求める。」というものである。

2 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。)

(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「(ただし、とうもろこしタンパク質分解物を原料に含むビールテイスト飲料を除く)」と記載されているのを、「(ただし、とうもろこしタンパク質分解物を原料に含むビールテイスト飲料と、Cascoシロップ番号1636U(Canada Starch Co.Ltd.)を原料に含むビールテイスト飲料と、を除く)」に訂正する。

(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「(ただし、とうもろこしタンパク質分解物を原料に含むビールテイスト飲料を除く)」と記載されているのを、「(ただし、とうもろこしタンパク質分解物を原料に含むビールテイスト飲料と、Cascoシロップ番号1636U(Canada Starch Co.Ltd.)を原料に含むビールテイスト飲料と、を除く)」に訂正する。

(3) 訂正事項3
願書に添付した明細書の段落0008に、
「前記課題は、以下の手段により解決することができる。
(1)アルコール度数が8.5%以上であり、酢酸イソアミルの含有量が2.5〜4.2ppmであり、麦芽比率が66%以下であるビールテイスト飲料(ただし、とうもろこしタンパク質分解物を原料に含むビールテイスト飲料を除く)。…」
と記載されているのを、
「前記課題は、以下の手段により解決することができる。
(1)アルコール度数が8.5%以上であり、酢酸イソアミルの含有量が2.5〜4.2ppmであり、麦芽比率が66%以下であるビールテイスト飲料(ただし、とうもろこしタンパク質分解物を原料に含むビールテイスト飲料と、Cascoシロップ番号1636U(Canada Starch Co.Ltd.)を原料に含むビールテイスト飲料と、を除く)。…」
に訂正する。

(4) 訂正事項4
願書に添付した明細書の段落0008に、
「前記課題は、以下の手段により解決することができる。

(2)アルコール度数を8.5%以上とし、酢酸イソアミルの含有量を2.5〜4.2ppmとし、麦芽比率を66%以下とする工程を含むビールテイスト飲料(ただし、とうもろこしタンパク質分解物を原料に含むビールテイスト飲料を除く)の製造方法。…」
と記載されているのを、
「前記課題は、以下の手段により解決することができる。

(2)アルコール度数を8.5%以上とし、酢酸イソアミルの含有量を2.5〜4.2ppmとし、麦芽比率を66%以下とする工程を含むビールテイスト飲料(ただし、とうもろこしタンパク質分解物を原料に含むビールテイスト飲料と、Cascoシロップ番号1636U(Canada Starch Co.Ltd.)を原料に含むビールテイスト飲料と、を除く)の製造方法。…」
に訂正する。

3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
訂正事項1に係る請求項1の訂正は、ビールテイスト飲料のうち、「Cascoシロップ番号1636U(Canada Starch Co.Ltd.)を原料に含むビールテイスト飲料」を除くことで、令和5年7月7日付けで通知した取消理由における「甲1発明」を除くことを目的とするものであるから、特許請求の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1に係る請求項1の訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。

(2) 訂正事項2について
訂正事項2に係る請求項2の訂正は、ビールテイスト飲料の製造方法におけるビールテイスト飲料のうち、「Cascoシロップ番号1636U(Canada Starch Co.Ltd.)を原料に含むビールテイスト飲料」を除くことで、令和5年7月7日付けで通知した取消理由における「甲1製法発明」を除くことを目的とするものであるから、特許請求の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2に係る請求項2の訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。

(3) 訂正事項3及び4について
訂正事項3及び4に係る明細書の訂正は、上記訂正事項1及び2に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合性を図るための訂正であって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項3及び4に係る明細書の訂正が、当該訂正に係る請求項の全てについて請求が行われていること、及び、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。

4 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1及び2について訂正することを認める。

第3 本件特許発明

上記第2のとおり、訂正後の請求項1及び2について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明3」という。また、総称して「本件特許発明」という。)は、令和5年8月23日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
アルコール度数が8.5%以上であり、
酢酸イソアミルの含有量が2.5〜4.2ppmであり、
麦芽比率が66%以下であるビールテイスト飲料(ただし、とうもろこしタンパク質分解物を原料に含むビールテイスト飲料と、Cascoシロップ番号1636U(Canada Starch Co.Ltd.)を原料に含むビールテイスト飲料と、を除く)。
【請求項2】
アルコール度数を8.5%以上とし、酢酸イソアミルの含有量を2.5〜4.2ppmとし、麦芽比率を66%以下とする工程を含むビールテイスト飲料(ただし、とうもろこしタンパク質分解物を原料に含むビールテイスト飲料と、Cascoシロップ番号1636U(Canada Starch Co.Ltd.)を原料に含むビールテイスト飲料と、を除く)の製造方法。
【請求項3】
ビールテイスト飲料(ただし、とうもろこしタンパク質分解物を原料に含むビールテイスト飲料を除く)の爽快感を発揮させつつビールらしいアルコールの香味を増強する香味向上方法であって、
前記ビールテイスト飲料のアルコール度数を8.5%以上とし、酢酸イソアミルの含有量を2.5〜4.2ppmとし、麦芽比率を66%以下とするビールテイスト飲料の香味向上方法。」

第4 特許異議申立人が主張する特許異議申立理由について

特許異議申立人が特許異議申立書において、本件特許の請求項1ないし3に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の要旨は、次の1ないし3のとおりである。

1 申立理由1(新規性
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2 申立理由2(進歩性
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

3 申立理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

なお、申立理由3の具体的理由は、おおむね次のとおりである。

(1) 申立理由3−1
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、実施例として、アルコール度数9%、酢酸イソアミル1.9〜3.9ppm、酢酸エチル18.8〜38.8ppm、リナロール3.9〜30.4ppm含むビールテイスト飲料が記載されているのみで、それぞれの含有量の上限値及び下限値を本件特許発明の範囲とすることについての具体的なデータは示されていない。本件特許の明細書の発明の詳細な説明における実施例のサンプル2−5などをみても「爽快感」が得られておらず、本件特許発明の各要件(アルコール度数が8.5%以上、酢酸イソアミルの含有量が2.5〜4.2ppm、麦芽比率が66%以下)を単に満たすだけでは「爽快感を発揮しつつビールらしいアルコールの香味が増強」という、本件特許発明における発明の課題を解決できないことは明らかである。

(2) 申立理由3−2
本件特許の明細書の発明の詳細な説明の実施例のサンプル5−1とサンプル3−3に示されるように、麦芽比率が25%から40%に変わっただけで(15%変わっただけで)「ビールらしいアルコールの香味」、「爽快感」がいずれも顕著に変化していることからすれば、本件特許発明で規定する「麦芽比率66%以下」という広い範囲の全体に渡って本件特許発明における発明の課題を解決できるとは考えらない。

4 証拠方法
・甲第1号証:Gregory P. Casey, E. C. -H. Chen, and W. M. Ingledew, 「High-Gravity Brewing: Production of High Levels of Ethanol Without Excessive Concentrations of Esters and Fusel Alcohols」 Journal of the American Society of Brewing Chemists, Vol. 43, No. 4, pp. 179-182 (1985)
・甲第2号証:「醸造諸表」、pp. 232-233、244-245、大阪高等工業學校醸造會、大正6年3月17日発行
・甲第3号証:特願2018−100849号の平成30年11月13日(発送日)付け拒絶理由通知
・甲第4号証:特願2018−100849号の平成30年12月27日付け意見書

また、令和5年9月28日に提出された意見書に添付して、次の証拠を提出している。
・参考文献:「Ingredients used in the preparation of canned foods」、A Complete Course in Canning and Related Processes (2015)、Elsevier Ltd.、pp. 147-160
・参考文献2:大室繭、「ビール酵母の発酵に寄与する因子解明と産業への利用」、日本農芸化学会2019年度受賞講演要旨集、pp.49-50、2019年3月19日発行

なお、証拠の表記については、おおむね特許異議申立書及び令和5年9月28日に提出された意見書における記載に従った。

第5 令和5年7月7日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由の概要

請求項1及び2に係る特許に対して、当審が令和5年7月7日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。なお、取消理由には、申立理由1及び申立理由2のうち請求項1及び2に係る部分が包含される。

1 取消理由1(新規性
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2 取消理由2(進歩性
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

第6 当審の判断

1 令和5年7月7日付け取消理由通知で通知した取消理由についての判断

●取消理由1及び2(新規性及び進歩性)について
(1) 甲第1号証の記載事項等
ア 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、「High-Gravity Brewing: Production of High Levels of Ethanol Without Excessive Concentrations of Esters and Fusel Alcohols」について、次の記載がある。なお、甲第1号証は外国語文献であるため、抄訳のみ摘記する。

「高比重麦汁
11.5°P(副原料22.5%コーングリッツ)の商用麦汁をベースとして使用し、溶解固形分27%(w/v)の麦汁を調製した。追加の抽出物は、Cascoシロップ番号1636U(Canada Starch Co.Ltd.)の添加によるものである。このシロップについての製造業者の炭水化物仕様は、19.4% DP4+、10.7% DP3、39.0% DP2および30.9% DP1である。このシロップは事実上窒素非含有であり、0.03〜0.06%(w/v)のタンパク質のみを含む。
発酵条件
これらは、嫌気性(10,11)及び半嫌気性(11)発酵の両方について以前に記載されている。希釈前ビール中、最終エタノール濃度は9.0%(w/v)であった。」(第179頁右欄第19ないし30行)



」(第180頁 表2)

イ 甲第1号証に記載された発明
上記アの記載のうち、表2の嫌気性条件下、「非補充」または「40ppmエルゴステロール0.40%(v/v)Tween 80」ありで発酵させた高比重醸造物である希釈前ビールに着目して整理すると、甲第1号証には、次の発明が記載されているものと認める。

「麦汁とCascoシロップ番号1636U(Canada Starch Co.Ltd.)を用いて製造されるビールであって、
アルコール度数が9%であり、
酢酸イソアミルが3.40mg/L又は3.74mg/Lであり、
とうもろこしタンパク質分解物を原料に含まないビール。」(以下、「甲1発明」という。)

「甲1発明を製造する方法。」(以下、「甲1製法発明」という。)

(2) 対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「ビール」は、本件特許発明1の「ビールテイスト飲料」に相当する。
また、甲1発明の「酢酸イソアミルが3.40mg/L又は3.74mg/L含有する」、「アルコール度数が9%」は、それぞれ、本件特許発明1の「酢酸イソアミルの含有量が2.5〜4.2ppm」、「アルコール度数が8.5%以上」との特定事項を満たす。

してみると、両者は、
「アルコール度数が8.5%以上であり、
酢酸イソアミルの含有量が2.5〜4.2ppmである、
ビールテイスト飲料。」
で一致し、次の点で一応相違する。

(相違点1)
麦芽比率について、本件特許発明1は「66%以下」と特定するのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。

(相違点2)
ビールテイスト飲料に関し、本件特許発明1は「(ただし、とうもろこしタンパク質分解物を原料に含むビールテイスト飲料と、Cascoシロップ番号1636U(Canada Starch Co.Ltd.)を原料に含むビールテイスト飲料と、を除く)」と特定するのに対し、甲1発明は「Cascoシロップ番号1636U(Canada Starch Co.Ltd.)」を用いて作製されるビールである点。

事案に鑑み、相違点2について検討する。
甲1発明は、「Cascoシロップ番号1636U(Canada Starch Co.Ltd.)」を用いて製造されるビールであるから、本件特許発明1の「ビールテイスト飲料(ただし、とうもろこしタンパク質分解物を原料に含むビールテイスト飲料と、Cascoシロップ番号1636U(Canada Starch Co.Ltd.)を原料に含むビールテイスト飲料と、を除く)。」との特定事項を満たさないことは明らかである。
してみると、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明ではない。
また、甲第1号証及びその他の全ての証拠の記載を見ても、甲1発明において、「Cascoシロップ番号1636U(Canada Starch Co.Ltd.)を原料に含むビールテイスト飲料と、を除く」、とする動機付けもない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

なお、特許異議申立人は、甲1発明において、「Cascoシロップ番号1636U(Canada Starch Co.Ltd.)」に代えて、他のコーンシロップを用いて製造することは当業者が適宜なし得たことである旨主張する(意見書第2頁)。
しかしながら、その場合、異なる原料からビールを得ることとなるため、アルコール度数、酢酸イソアミルの濃度も当然変わることとなる。そして、原料を変更し得られたビールのアルコール度数、酢酸イソアミルの濃度を推認させる記載があるともいえないから、特許異議申立人の当該主張は採用することができない。

イ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、ビールテイスト飲料の製造方法に関する発明であるところ、本件特許発明2と甲1製法発明とを対比すると、結局のところ、上記アと同じことがいえる。
よって、本件特許発明2は、甲1製法発明ではなく、また、甲1製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3) 取消理由1及び2についてのまとめ
上記(2)のとおりであるから、取消理由1及び2の理由では、本件特許発明1及び2に係る特許を取消すことができない。

2 令和5年7月7日付取消理由通知で通知した取消理由において採用しなかった異議申立理由についての判断
令和5年7月7日付取消理由通知で通知した取消理由において採用しなかった異議申立理由は、申立理由1及び2のうち請求項3に係る部分、並びに、申立理由3である。
以下、順に検討する。

(1) 申立理由1及び2のうち請求項3に係る部分について
甲第1号証の記載事項は、上記1(1)アのとおりであるところ、甲第1号証の記載からは、「ビールテイスト飲料の香味向上方法」に対応する発明を認定することができない。
よって、本件特許発明3は、甲第1号証に記載された発明ではないし、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
したがって、申立理由1及び2の理由では、本件特許発明3に係る特許を取消すことができない。

(2) 申立理由3(サポート要件)について
ア サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

イ 特許請求の範囲の記載
特許請求の範囲の記載は、上記第3のとおりである。

ウ サポート要件についての判断
本件特許発明の課題(以下、「発明の課題」という。)は、「爽快感を発揮しつつビールらしいアルコールの香味が増強したビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、及び、ビールテイスト飲料の香味向上方法を提供すること」(【0007】)である。
そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「本実施形態に係るビールテイスト飲料は、アルコール度数が所定値以上であり、酢酸イソアミルの含有量が所定範囲内である飲料であり、麦芽比率が所定値以下であるのが好ましい」(【0011】)こと、「アルコール度数を所定値以上とすることによって、ビールテイスト飲料の爽快感を増強させることができるとともに、後に詳述するが酢酸イソアミルとの関係においてビールらしいアルコールの香味を増強させることもできる」(【0012】)こと、「本実施形態に係るビールテイスト飲料のアルコール度数は、8.0%(v/v%)以上が好ましく、8.0%超、8.3%以上、8.5%以上、8.7%以上がより好ましい。ビールテイスト飲料のアルコール度数が所定値以上であることによって、爽快感を増強させることができる」(【0013】)こと、「酢酸イソアミルは、アルコール度数が所定値以上のビールテイスト飲料に所定範囲で含有させることによって、爽快感の発揮という効果を奏しつつも、突出したアルコールの香味を、ビールらしいアルコールの香味(ピルスナータイプのビールを想起させるようなアルコールの香味)とし、当該香味を増強させることができる」(【0016】)こと、「本実施形態に係るビールテイスト飲料の酢酸イソアミルの含有量は、1.5ppm(mg/L)以上が好ましく、1.8ppm以上、2.0ppm以上、2.5ppm以上、2.8ppm以上、3.0ppm以上、3.5ppm以上、3.8ppm以上がより好ましい。ビールテイスト飲料の酢酸イソアミルの含有量が所定値以上であることによって、アルコールの香味をビールらしいアルコールの香味とし、当該香味を増強させることができる」(【0017】)こと、「本実施形態に係るビールテイスト飲料の酢酸イソアミルの含有量は、4.5ppm以下が好ましく、4.2ppm以下、4.0ppm以下、3.8ppm以下、3.5ppm以下、3.2ppm以下、3.0ppm以下、2.8ppm以下、2.5ppm以下がより好ましい。ビールテイスト飲料の酢酸イソアミルの含有量が所定値以下であることによって、爽快感の発揮という効果を奏しつつビールらしいアルコールの香味とすることができる」(【0017】)こと、「本実施形態に係るビールテイスト飲料の麦芽比率は、66%(重量%)以下が好ましく、50%未満、40%以下、30%以下がより好ましい。ビールテイスト飲料の麦芽比率が所定値以下(又は未満)であることによって、爽快感がより増強されるとともに、アルコールの香味がビールらしい香味から大きく離れてしまうという課題がより明確化する」(【0029】)ことが記載され、これらのことを裏付ける具体的な実施例の記載もある。
してみると、当業者であれば、「アルコール度数が8.0%以上であり、酢酸イソアミルの含有量が1.5〜4.5ppmであり、麦芽比率が66%以下」であるビールテイスト飲料(ビールテイスト飲料の製造方法、ビールテイスト飲料の香味向上方法)との特定事項を満たすことにより、発明の課題を解決できるものと認識できる。
そして、本件特許発明1ないし3はいずれも、上記の発明の課題を解決できると認識できる特定事項を全て有し、さらに限定するものであるから、当然、発明の課題を解決できると認識できる。
よって、本件特許発明1ないし3に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合する。

エ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、実施例において、アルコール度数や酢酸イソアミルの上限値及び下限値を本件特許発明の範囲とすることについての具体的なデータが示されていないこと、麦芽比率66%以下という広い範囲の全体にわたって同じ効果が得られるとは考えられない旨主張するが、サポート要件については上記アの判断基準にしたがって、上記ウのとおり判断されるものであり、特許異議申立人の上記主張はいずれも、上記ウの判断に影響を与えるものではない。

オ 申立理由3についてのまとめ
上記ウ及びエのとおりであるから、申立理由3の理由では、本件特許発明1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。

第7 結語

以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】ビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、及び、ビールテイスト飲料の香味向上方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、及び、ビールテイスト飲料の香味向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飲用者の多様な嗜好に応えるべく、多くの種類のビールテイスト飲料やその製造方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、低アルコール発酵麦芽飲料を製造する方法であって、糖化力が80〜200WKであり、かつ色度が10〜50°EBCである濃色麦芽の発酵原料全体に対する使用比率が10質量%以上であり、最終発酵度を65〜85%とし、最終製品の色度が8〜16°EBCであることを特徴とする低アルコール発酵麦芽飲料の製造方法が記載されている。
そして、特許文献1には、低アルコール発酵麦芽飲料の製造方法によって得られた最終製品中のアルコール濃度は2〜4容量%であると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5973799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、お酒に強い消費者や、手軽に酔いたいと考える消費者等から、「アルコール度数の高い飲料」に対するニーズが存在するため、本発明者は、当該ニーズに応えるべく、アルコール度数の高いビールテイスト飲料の創出を検討した。
【0006】
しかしながら、ビールテイスト飲料のアルコール度数を大きく上昇させると、アルコールの香味がビールテイストの香味から突出してしまう結果、アルコールの香味がビールらしい香味(ピルスナータイプのビールを想起させるようなアルコールの香味)から大きく離れてしまうことがわかった。
また、ビールテイスト飲料のアルコール度数を大きく上昇させることによって「爽快感」を増強させることができることがわかった。
よって、本発明者らは、この「爽快感」を大きく損なわせることなく(爽快感を発揮させつつ)、ビールらしいアルコールの香味を増強させることができれば、アルコール度数の高いビールテイスト飲料が消費者の嗜好に一層適合するような香味となるのではないかと考えた。
【0007】
そこで、本発明は、爽快感を発揮しつつビールらしいアルコールの香味が増強したビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、及び、ビールテイスト飲料の香味向上方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題は、以下の手段により解決することができる。
(1)アルコール度数が8.5%以上であり、酢酸イソアミルの含有量が2.5〜4.2ppmであり、麦芽比率が66%以下であるビールテイスト飲料(ただし、とうもろこしタンパク質分解物を原料に含むビールテイスト飲料と、Cascoシロップ番号1636U(Canada Starch Co.Ltd.)を原料に含むビールテイスト飲料と、を除く)。
(2)アルコール度数を8.5%以上とし、酢酸イソアミルの含有量を2.5〜4.2ppmとし、麦芽比率を66%以下とする工程を含むビールテイスト飲料(ただし、とうもろこしタンパク質分解物を原料に含むビールテイスト飲料と、Cascoシロップ番号1636U(Canada Starch Co.Ltd.)を原料に含むビールテイスト飲料と、を除く)の製造方法。
(3)ビールテイスト飲料(ただし、とうもろこしタンパク質分解物を原料に含むビールテイスト飲料を除く)の爽快感を発揮させつつビールらしいアルコールの香味を増強する香味向上方法であって、前記ビールテイスト飲料のアルコール度数を8.5%以上とし、酢酸イソアミルの含有量を2.5〜4.2ppmとし、麦芽比率を66%以下とするビールテイスト飲料の香味向上方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るビールテイスト飲料によると、爽快感を発揮できるとともに、ビールらしいアルコールの香味が増強している。
本発明に係るビールテイスト飲料の製造方法によると、爽快感を発揮できるとともに、ビールらしいアルコールの香味が増強したビールテイスト飲料を製造することができる。
本発明に係るビールテイスト飲料の香味向上方法によると、ビールテイスト飲料の爽快感を発揮させつつ、ビールらしいアルコールの香味を増強することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係るビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、及び、ビールテイスト飲料の香味向上方法を実施するための形態(本実施形態)について説明する。
【0011】
[ビールテイスト飲料]
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、アルコール度数が所定値以上であり、酢酸イソアミルの含有量が所定範囲内である飲料であり、麦芽比率が所定値以下であるのが好ましい。
ここで、ビールテイスト飲料とは、ビール様(風)飲料とも呼ばれ、ビールのような味わいを奏する、つまり、ビールを飲用したような感覚を飲用者に与える飲料である。
【0012】
(アルコール)
本実施形態に係るビールテイスト飲料のアルコール度数は、所定値以上である。
このアルコール度数を所定値以上とすることによって、ビールテイスト飲料の爽快感を増強させることができるとともに、後に詳述するが酢酸イソアミルとの関係においてビールらしいアルコールの香味を増強させることもできる。
【0013】
本実施形態に係るビールテイスト飲料のアルコール度数は、8.0%(v/v%)以上が好ましく、8.0%超、8.3%以上、8.5%以上、8.7%以上がより好ましい。ビールテイスト飲料のアルコール度数が所定値以上であることによって、爽快感を増強させることができる。
本実施形態に係るビールテイスト飲料のアルコール度数の上限は特に限定されないものの、20%以下が好ましく、17%以下、15%以下、13%以下、10%以下がより好ましい。ビールテイスト飲料のアルコール度数が所定値以下であることによって、よりバランスのとれた香味とすることができる。
なお、本明細書においてアルコールとは、特に明記しない限り、エタノールのことをいう。そして、ビールテイスト飲料のアルコール度数は、例えば、国税庁所定分析法(訓令)3清酒3−4アルコール分(振動式密度計法)に基づいて測定することができる。
【0014】
本実施形態に係るビールテイスト飲料のアルコールは、麦芽又は麦を原料の一部に使用して発酵させて得られたアルコール(つまり、発酵由来のアルコール)のみから構成されているのが好ましいが、蒸留アルコールを添加して構成されていてもよいし、蒸留アルコールの添加のみで構成されていてもよい。
本実施形態に係るビールテイスト飲料において、発酵由来のアルコールに基づくアルコール度数の下限は特に限定されないものの、例えば、3%以上、4%以上、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、8.1%以上、8.3%以上、8.5%以上、8.7%以上、9%以上である。発酵由来成分(発酵由来のアルコール)をより多く含むことで、よりバランスのとれた香味とすることができる。また、発酵由来のアルコールに基づくアルコール度数の上限は特に限定されないものの、例えば、20%以下、17%以下、15%以下、13%以下、10%以下である。
また、本実施形態に係るビールテイスト飲料において、添加された蒸留アルコールに基づくアルコール度数の上限は特に限定されないものの、例えば、7%以下、6%以下、5%以下、3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、0.1%以下である。
【0015】
蒸留アルコールとしては、焼酎、ブランデー、ウォッカ、ウイスキー、麦スピリッツ(例えば、大麦スピリッツ、小麦スピリッツ)等の各種スピリッツ、原料用アルコール等が挙げられる。蒸留アルコールは1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、本明細書において「スピリッツ」とは、蒸留酒であるスピリッツを指し、酒税法上のスピリッツとは異なる場合もある。
【0016】
(酢酸イソアミル)
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、酢酸イソアミル(isoamyl acetate)を含有する。そして、酢酸イソアミルは、カルボン酸エステルの一種である。
この酢酸イソアミルは、アルコール度数が所定値以上のビールテイスト飲料に所定範囲で含有させることによって、爽快感の発揮という効果を奏しつつも、突出したアルコールの香味を、ビールらしいアルコールの香味(ピルスナータイプのビールを想起させるようなアルコールの香味)とし、当該香味を増強させることができる。
なお、本発明では、非常に高いアルコール度数のビールテイスト飲料を対象としているが、そもそもアルコール度数の低いビールテイスト飲料の場合は、アルコールの香味がビールテイストの香味から突出しないとともに、アルコールの香味がビールらしい香味から大きく離れてしまうといったことが想定されないため、酢酸イソアミルをいくら含有させようとも前記した効果(ビールらしいアルコールの香味とし、当該香味を増強させる)は発揮し得ない。
【0017】
本実施形態に係るビールテイスト飲料の酢酸イソアミルの含有量は、1.5ppm(mg/L)以上が好ましく、1.8ppm以上、2.0ppm以上、2.5ppm以上、2.8ppm以上、3.0ppm以上、3.5ppm以上、3.8ppm以上がより好ましい。ビールテイスト飲料の酢酸イソアミルの含有量が所定値以上であることによって、アルコールの香味をビールらしいアルコールの香味とし、当該香味を増強させることができる。
本実施形態に係るビールテイスト飲料の酢酸イソアミルの含有量は、4.5ppm以下が好ましく、4.2ppm以下、4.0ppm以下、3.8ppm以下、3.5ppm以下、3.2ppm以下、3.0ppm以下、2.8ppm以下、2.5ppm以下がより好ましい。ビールテイスト飲料の酢酸イソアミルの含有量が所定値以下であることによって、爽快感の発揮という効果を奏しつつビールらしいアルコールの香味とすることができる。
【0018】
本実施形態に係るビールテイスト飲料の酢酸イソアミルの含有量は、例えば、添加する酢酸イソアミルの含有量で調製することもできるし、発酵工程での発酵時間の調整、使用する酵母の選択、発酵前液(麦汁、仕込液)の溶存酸素量やアミノ酸含有量の調整等によっても調製することができる。
【0019】
なお、ビールテイスト飲料の酢酸イソアミル、後記する酢酸エチルの含有量は、BCOJビール分析法(財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会(分析委員会)編集1996年4月1日発行)の「8.22 低沸点香気成分」の方法にしたがい、FID検出器付きガスクロマトグラフ(装置名:Agilent 6890 ガスクロマトグラフ)を用いて測定することができる。
また、後記するリナロールの含有量は、固相マイクロ抽出−ガスクロマトグラフ−質量分析法(SPME−GC−MS法)によって測定することができる。
【0020】
(アルコール度数に対する酢酸イソアミルの含有量)
本実施形態に係るビールテイスト飲料のアルコール度数をX%とし、酢酸イソアミルの含有量をYppmとした場合、0.15≦Y/Xを満たすのが好ましく、0.17≦Y/X、0.21≦Y/X、0.33≦Y/Xを満たすのがより好ましい。ビールテイスト飲料のY/Xの値が所定値以上となることによって、アルコール度数の上昇に伴ったアルコールの香味が突出するという事態をより確実に回避し、ビールらしいアルコールの香味をより確実に増強することができる。
なお、Y/Xの上限については特に限定されないものの、例えば、Y/X≦0.53を満たすのが好ましく、Y/X≦0.42を満たすのがより好ましい。
【0021】
(酢酸エチル)
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、酢酸エチル(ethyl acetate)を含有している。そして、酢酸エチルは、酢酸エステルの一種である。
この酢酸エチルは、アルコール度数が所定値以上のビールテイスト飲料に所定範囲で含有させることによって、爽快感の発揮という効果を奏しつつも、アルコールの戻り香(飲料を飲んだ後に感じるアルコールの香気)を増強させる。
なお、本発明では、非常に高いアルコール度数のビールテイスト飲料を対象としているが、そもそもアルコール度数の低いビールテイスト飲料の場合は、アルコールの香気が弱いために、酢酸エチルをいくら含有させようとも前記した効果(アルコールの戻り香の増強)は発揮し得ない。
【0022】
本実施形態に係るビールテイスト飲料の酢酸エチルの含有量は、17.5ppm(mg/L)以上が好ましく、19.0ppm以上、22.0ppm以上、25.0ppm以上、28.0ppm以上、35.0ppm以上、38.0ppm以上がより好ましい。ビールテイスト飲料の酢酸エチルの含有量が所定値以上であることによって、アルコールの戻り香を増強させることができる。
本実施形態に係るビールテイスト飲料の酢酸エチルの含有量は、45.0ppm以下が好ましく、43.0ppm以下、42.0ppm以下、40.0ppm、38.0ppm以下、35.0ppm以下、32.0ppm以下、30.0ppm以下がより好ましい。ビールテイスト飲料の酢酸エチルの含有量が所定値以下であることによって、爽快感の発揮という効果を奏しつつアルコールの戻り香を増強させることができる。
【0023】
本実施形態に係るビールテイスト飲料の酢酸エチルの含有量は、例えば、添加する酢酸エチルの含有量で調製することもできるし、発酵工程での発酵時間の調整、使用する酵母の選択、発酵前液(麦汁、仕込液)の溶存酸素量やアミノ酸含有量の調整等によっても調製することができる。
【0024】
(アルコール度数に対する酢酸エチルの含有量)
本実施形態に係るビールテイスト飲料のアルコール度数をX%とし、酢酸エチルの含有量をZppmとした場合、1.75≦Z/Xを満たすのが好ましく、2.05≦Z/X、2.23≦Z/X、4.47≦Z/Xを満たすのがより好ましい。ビールテイスト飲料のZ/Xの値が所定値以上となることによって、アルコール度数の上昇に応じてアルコールの戻り香をより確実に増強することができる。
なお、Z/Xの上限については特に限定されないものの、例えば、Z/X≦5.29を満たすのが好ましく、Z/X≦4.70を満たすのがより好ましい。
【0025】
(リナロール)
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、リナロール(linalool)を含有している。このリナロールは、モノテルペンアルコールの一種である。
このリナロールは、アルコール度数が所定値以上のビールテイスト飲料に所定範囲で含有させることによって、青臭い香味を抑制しつつ、爽快感をさらに増強させることができる。
【0026】
本実施形態に係るビールテイスト飲料のリナロールの含有量は、3.5ppb(μg/L)以上が好ましく、4.0ppb以上、5.0ppb以上、7.0ppb以上、10.0ppb以上、13.0ppb以上、15.0ppb以上、20ppb以上、25ppb以上が好ましい。ビールテイスト飲料のリナロールの含有量が所定値以上であることによって、爽快感をさらに増強させることができる。
本実施形態に係るビールテイスト飲料のリナロールの含有量は、45.0ppb以下が好ましく、40.0ppb以下、30.0ppb以下、25.0ppb以下、20.0ppb以下、18.0ppb以下が好ましい。ビールテイスト飲料のリナロールの含有量が所定値以下であることによって、青臭い香味を抑制しつつ、爽快感をさらに増強させるという効果をしっかりと発揮させることができる。
【0027】
本実施形態に係るビールテイスト飲料のリナロールの含有量は、例えば、添加するリナロールの含有量で調製することもできるし、使用するホップの種類、量、加工状態、添加方法(麦汁に添加するタイミング等)によっても調製することができる。
【0028】
(麦芽比率:原料)
本実施形態に係るビールテイスト飲料の麦芽比率は、所定値以下であるのが好ましい。
ここで、「麦芽比率」とは、詳細には、ビールテイスト飲料の製造に用いられる原料のうち水及びホップ以外のものの全重量に占める麦芽の重量の比率である。なお、麦芽とは、麦を発芽させ焙燥した後に根を除いたものである。また、麦とは、大麦、小麦、ライ麦、燕麦等であるが、大麦が好ましい。
この麦芽比率を所定値以下とすることによって、ビールテイスト飲料の爽快感の発揮という効果をより確実に発揮させることができるとともに、アルコールの香味がビールらしい香味から大きく離れてしまうという課題がより明確化する。
【0029】
本実施形態に係るビールテイスト飲料の麦芽比率は、66%(重量%)以下が好ましく、50%未満、40%以下、30%以下がより好ましい。ビールテイスト飲料の麦芽比率が所定値以下(又は未満)であることによって、爽快感がより増強されるとともに、アルコールの香味がビールらしい香味から大きく離れてしまうという課題がより明確化する。
本実施形態に係るビールテイスト飲料の麦芽比率の下限は特に限定されないものの、1%以上が好ましく、5%以上、10%以上、15%以上、18%以上、20%以上がより好ましい。ビールテイスト飲料の麦芽比率が所定値以上であることによって、よりビール様の香味とすることができる。
【0030】
(麦:原料)
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、原料に麦を含んでいてもよい。麦とは、発芽させていない状態の麦であり、前記と同様、大麦、小麦、ライ麦、燕麦等であるが、大麦が好ましい。
なお、本実施形態に係るビールテイスト飲料において、原料中における麦(特に、大麦)の含有比率は特に限定されないものの、例えば、1%(重量%)以上、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上であり、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下であればよい。
【0031】
(糖類:原料)
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、原料に糖類(糖質原料)を含んでいてもよい。糖類(糖質原料)とは、平成11年6月25日付けの酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達第3条において規定される糖類であれば特に制限されない。また、糖類は、単糖類、二糖類及び三糖類からなる群から選ばれる少なくとも1種であってよく、更に四糖以上の糖類を含んでいてもよい。単糖類としては、例えば、ブドウ糖、果糖、ガラクトース、キシロース、アラビノース、タガトース等が挙げられる。二糖類としては、例えば、ショ糖、ラクトース、麦芽糖、イソマルトース、トレハロース、セロビオース等が挙げられる。三糖類としては、例えば、マルトトリオース、イソマルトトリオース、ラフィノース等が挙げられる。四糖以上の糖類としては、例えば、スタキオース、マルトテトラオース等が挙げられる。糖類の形態は、例えば、粉末状、顆粒状、ペースト状、液状等であってもよい。液状の糖類としては、例えば、ブドウ糖果糖液糖、果糖ブドウ糖液糖、高果糖液糖、砂糖混合異性化液糖等の液糖であってもよい。糖類はグラニュー糖又は上白糖であってもよい。
なお、本実施形態に係るビールテイスト飲料において、原料中における糖類の含有比率は特に限定されないものの、例えば、1%(重量%)以上、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上であり、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下であればよい。
【0032】
(苦味価)
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、苦味価(Bitterness Unit:BU)が所定範囲であればよい。
本実施形態に係るビールテイスト飲料の苦味価は、特に限定されないものの、例えば、1以上、10以上、15以上、20以上であり、50以下、40以下、30以下、25以下である。
なお、ビールテイスト飲料の苦味価は、例えば改訂BCOJビール分析法(公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編集、2013年増補改訂)の「8.15 苦味価」に記載されている方法によって測定することができる。
【0033】
(発泡性)
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、発泡性であるのが好ましい。
そして、本実施形態に係るビールテイスト飲料の20℃におけるガス圧は、特に限定されないものの、例えば、2.0kg/cm2以上、2.2kg/cm2以上、2.3kg/cm2以上、2.4kg/cm2以上であり、5.0kg/cm2以下、4.0kg/cm2以下、3.0kg/cm2以下である。
【0034】
(その他)
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、本発明の所望の効果が阻害されない範囲で飲料として通常配合される甘味料、高甘味度甘味料、酸化防止剤、香料、酸味料、塩類、食物繊維など(以下、適宜「添加剤」という)を添加することもできる。甘味料としては、例えば、果糖ぶどう糖液糖、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、グリコーゲンやデンプンなどを用いることができる。高甘味度甘味料としては、例えば、ネオテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリン、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、チクロ、ズルチン、ステビア、グリチルリチン、ソーマチン、モネリン、アスパルテーム、アリテームなどを用いることができる。酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールなどを用いることができる。酸味料としては、例えば、アジピン酸、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL−酒石酸、L−酒石酸、DL−酒石酸ナトリウム、L−酒石酸ナトリウム、二酸化炭素、乳酸、乳酸ナトリウム、氷酢酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、DL−リンゴ酸、DL−リンゴ酸ナトリウム、酢酸、リン酸などを用いることができる。塩類としては、例えば、食塩、酸性りん酸カリウム、酸性りん酸カルシウム、りん酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、メタ重亜硫酸カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウムなどを用いることができる。食物繊維としては、例えば、難消化性デキストリン、ペクチン、ポリデキストロース、グアーガム分解物などを用いることができる。
そして、前記した各原料は、一般に市販されているものを使用することができる。
【0035】
(容器詰めビールテイスト飲料)
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、各種容器に入れて提供することができる。各種容器にビールテイスト飲料を詰めることにより、長期間の保管による品質の劣化を好適に防止することができる。
なお、容器は密閉できるものであればよく、金属製(アルミニウム製又はスチール製など)のいわゆる缶容器・樽容器を適用することができる。また、容器は、ガラス容器、ペットボトル容器などを適用することもできる。容器の容量は特に限定されるものではなく、現在流通しているどのようなものも適用することができる。なお、気体、水分および光線を完全に遮断し、長期間常温で安定した品質を保つことが可能な点から、金属製の容器を適用することが好ましい。
【0036】
以上説明したように、本実施形態に係るビールテイスト飲料は、アルコール度数が所定値以上であり、酢酸イソアミルの含有量が所定範囲内であることから、爽快感を発揮できるとともに、ビールらしいアルコールの香味が増強している。
また、本実施形態に係るビールテイスト飲料は、酢酸エチルの含有量が所定範囲内であることから、爽快感の発揮という効果を奏しつつアルコールの戻り香が増強している。
また、本実施形態に係るビールテイスト飲料は、リナロールの含有量が所定範囲内であることから、青臭い香味が抑制されているとともに、爽快感がさらに増強している。
【0037】
[ビールテイスト飲料の製造方法]
次に、本実施形態に係るビールテイスト飲料の製造方法について説明する。
本実施形態に係るビールテイスト飲料の製造方法は、アルコール度数を所定値以上とし、酢酸イソアミルの含有量を所定範囲内とし、麦芽比率を所定値以下とする工程を含み、詳細には、発酵前工程と、発酵工程と、発酵後工程と、を含む。
【0038】
(発酵前工程)
発酵前工程では、前記した麦芽、必要に応じて、麦、糖類、酵素、各種添加剤を混合して原料を糖化し、糖化液を得る。そして、糖化液を適宜ろ過して得られた麦汁に、必要に応じて、ホップの添加、煮沸、冷却等を行って発酵前液を調製する。
【0039】
発酵前工程において調製される発酵前液は、酵母が資化可能な窒素源及び炭素源となる麦由来原料(麦芽や麦)を含む溶液であれば特に限られない。窒素源及び炭素源は、酵母が資化可能なものであれば特に限られない。酵母が資化可能な窒素源とは、例えば、麦由来原料に含まれるアミノ酸及びペプチドのうちの少なくとも一つである。酵母が資化可能な炭素源とは、例えば、前記した糖類や麦由来原料に含まれる糖類である。
【0040】
発酵前工程で使用するホップは、特に限定されず、例えば、例えば、乾燥ホップ、ホップペレット、ホップエキスが挙げられるとともに、ローホップ、ヘキサホップ、テトラホップ、イソ化ホップエキス等のホップ加工品であってもよい。
【0041】
(発酵工程)
発酵工程は、発酵前液に酵母を添加してアルコール発酵を行う工程である。本実施形態においては、例えば、予め温度が所定の範囲内(例えば、0〜40℃の範囲)に調製された発酵前液に酵母を添加して発酵液を調製し、発酵を行う。
【0042】
発酵工程においては、さらに熟成を行うこととしてもよい。熟成は、上述のような発酵後の発酵液をさらに所定の温度で所定の時間だけ維持することにより行う。この熟成により、発酵液中の不溶物を沈殿させて濁りを取り除き、また、香味を向上させることができる。
【0043】
こうして発酵工程においては、酵母により生成されたエタノール及び各種成分を含有する発酵後液を得ることができる。発酵後液に含まれるエタノールの濃度(アルコール度数)は、例えば、1〜20%とすることができる。
【0044】
(発酵後工程)
発酵後工程は、発酵後液に所定の処理を施して最終的にビールテイスト飲料を得る工程である。発酵後工程としては、例えば、発酵工程により得られた発酵後液のろ過(いわゆる一次ろ過)が挙げられる。この一次ろ過により、発酵後液から不溶性の固形分や酵母を除去することができる。また、発酵後工程においては、さらに発酵後液の精密ろ過(いわゆる二次ろ過)を行ってもよい。二次ろ過により、発酵後液から雑菌や、残存する酵母を除去することができる。なお、精密ろ過に代えて、発酵後液を加熱することにより殺菌することとしてもよい。発酵後工程における一次ろ過、二次ろ過、加熱は、ビールテイスト飲料を製造する際に使用される一般的な設備で行うことができる。
なお、発酵後工程には、前記した容器に充填する工程も含まれる。
【0045】
発酵後工程によって得られたビールテイスト飲料のアルコール度数、酢酸イソアミル、酢酸エチル、リナロールの含有量等が前記した所定範囲内又は所定値以上となるように製造されていればよい。例えば、各工程のいずれかにおいて、蒸留アルコール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、リナロールを添加してもよいし、発酵後工程において、各指標や含有量が所定値以上になっていない場合は、適宜、蒸留アルコール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、リナロール等を添加してもよい。
【0046】
なお、本実施形態に係るビールテイスト飲料は、発酵工程を経ないで製造することもできる。つまり、本実施形態に係るビールテイスト飲料は、非発酵飲料として製造されてもよい。
この場合、本実施形態に係るビールテイスト飲料の製造方法は、混合タンクに、水、酢酸イソアミル、酢酸エチル、リナロール、添加剤、麦芽エキス、蒸留アルコールなどの原料を適宜投入する調合工程(混合工程)と、ろ過、殺菌、炭酸ガスの付加、容器への充填などの処理を行う後処理工程と、を含むこととなる。
【0047】
以上説明したように、本実施形態に係るビールテイスト飲料の製造方法は、アルコール度数を所定値以上とし、酢酸イソアミルの含有量を所定範囲内とする工程を含むことから、爽快感を発揮できるとともに、ビールらしいアルコールの香味が増強したビールテイスト飲料を製造することができる。
【0048】
[ビールテイスト飲料の香味向上方法]
次に、本実施形態に係るビールテイスト飲料の香味向上方法を説明する。
本実施形態に係るビールテイスト飲料の香味向上方法は、ビールテイスト飲料の爽快感を発揮させつつビールらしいアルコールの香味を増強する香味向上方法であって、アルコール度数を所定値以上とし、酢酸イソアミルの含有量を所定範囲内とし、麦芽比率を所定値以下とする方法である。
なお、各成分の含有量等については、前記した「ビールテイスト飲料」において説明した値と同じである。
【0049】
以上説明したように、本実施形態に係るビールテイスト飲料の香味向上方法は、アルコール度数を所定値以上とし、酢酸イソアミルの含有量を所定範囲内とすることから、ビールテイスト飲料の爽快感を発揮させつつビールらしいアルコールの香味を増強させることができる。
【0050】
次に、別実施形態1について説明する。
[別実施形態1]
本発明者らは、ビールテイスト飲料の爽快感を増強させるべく、アルコール度数を上昇させることを検討した。
さらに、本発明者らは、アルコール度数を上昇させてビールテイスト飲料を高アルコール飲料とした場合、アルコールの戻り香(飲料を飲んだ後に感じるアルコールの香気)を強くすることができれば、高アルコール飲料としての付加価値が高まると考えた。
このように、本発明者らは「爽快感を発揮しつつアルコールの戻り香を増強させる」という課題も見出しており、この課題を解決できる発明として、以下に示す発明(別実施形態1)も創出した。
【0051】
別実施形態1に係るビールテイスト飲料は、アルコール度数が8.0%超(好ましくは8.5%以上)であり、酢酸エチルの含有量が17.5〜45.0ppmである。そして、別実施形態1に係るビールテイスト飲料は、麦芽比率が66%以下であるのが好ましく、前記アルコール度数をX%とし、前記酢酸エチルの含有量をZppmとした場合、1.75≦Z/Xを満たすのが好ましい。
なお、別実施形態1に係るビールテイスト飲料について、詳細な「アルコール度数」、「酢酸エチルの含有量」、「麦芽比率」は、本実施形態に係るビールテイスト飲料の内容と同じである。また、別実施形態1に係るビールテイスト飲料は、本実施形態に係るビールテイスト飲料において説明した他の構成(酢酸イソアミル、リナロール等)を満たしてもよい。
【0052】
別実施形態1に係るビールテイスト飲料の製造方法は、アルコール度数を8.0%超(好ましくは8.5%以上)とし、酢酸エチルの含有量を17.5〜45.0ppmとする工程を含む。また、別実施形態1に係るビールテイスト飲料の香味向上方法は、ビールテイスト飲料の爽快感を発揮させつつアルコールの戻り香を増強させる香味向上方法であって、前記ビールテイスト飲料のアルコール度数を8.0%超(好ましくは8.5%以上)とし、酢酸エチルの含有量を17.5〜45.0ppmとする。
なお、別実施形態1に係るビールテイスト飲料の製造方法と香味向上方法は、本実施形態に係るビールテイスト飲料の製造方法と香味向上方法において説明した内容を適用することができる。
【0053】
次に、別実施形態2について説明する。
[別実施形態2]
本発明者らは、ビールテイスト飲料の爽快感を増強させるべく、アルコール度数を上昇させることを検討した。
そして、本発明者らは、ビールテイスト飲料らしい香味を邪魔するようなネガティブな香味(例えば、青臭い香味)をできる限り排除しつつ、ビールテイスト飲料の爽快感を増強させるべきであると考えた。
このように、本発明者らは「青臭い香味を抑制しつつ、爽快感をさらに増強させる」という課題も見出しており、この課題を解決できる発明として、以下に示す発明(別実施形態2)も創出した。
【0054】
別実施形態2に係るビールテイスト飲料は、アルコール度数が8.0%超(好ましくは8.5%以上)であり、リナロールの含有量が3.5〜45.0ppbである。そして、別実施形態2に係るビールテイスト飲料は、麦芽比率が66%以下であるのが好ましい。
なお、別実施形態2に係るビールテイスト飲料について、詳細な「アルコール度数」、「リナロールの含有量」、「麦芽比率」は、本実施形態に係るビールテイスト飲料の内容と同じである。また、別実施形態2に係るビールテイスト飲料は、本実施形態に係るビールテイスト飲料において説明した他の構成(酢酸イソアミル、酢酸エチル等)を満たしてもよい。
【0055】
別実施形態2に係るビールテイスト飲料の製造方法は、アルコール度数を8.0%超(好ましくは8.5%以上)とし、リナロールの含有量を3.5〜45.0ppbとする工程を含む。また、別実施形態2に係るビールテイスト飲料の香味向上方法は、ビールテイスト飲料の青臭い香味を抑制しつつ、爽快感をさらに増強させる香味向上方法であって、前記ビールテイスト飲料のアルコール度数を8.0%超(好ましくは8.5%以上)とし、リナロールの含有量を3.5〜45.0ppbとする。
なお、別実施形態2に係るビールテイスト飲料の製造方法と香味向上方法は、本実施形態に係るビールテイスト飲料の製造方法と香味向上方法において説明した内容を適用することができる。
【実施例】
【0056】
[実施例1]
次に、本発明の要件を満たす実施例とそうでない比較例とを例示して、本発明について説明する。
【0057】
[サンプルの準備]
麦芽比率が約25%となるように麦芽(粉砕した大麦麦芽)、大麦、糖類(液糖)、並びに、水を仕込槽に投入し、常法にしたがって糖化液を製造した。得られた糖化液を濾過して麦汁を得た。得られた麦汁にホップを添加して煮沸し、沈殿物を分離、除去した後、冷却した。得られた発酵前液(冷麦汁)にビール酵母を添加し、所定期間発酵させてビールテイスト飲料(ベース液)を得た。
【0058】
そして、ベース液に対して、適宜、酢酸イソアミル、酢酸エチル、リナロール、蒸留アルコールを添加し、各成分の含有量等が表に示す値となる各サンプルを準備した。
なお、各サンプルの製造方法は、前記した物質の添加量のみが異なる。
【0059】
[試験内容]
前記の方法により製造した各サンプルについて、選抜された識別能力のあるパネル3名が下記評価基準に則って「ビールらしいアルコールの香味」、「アルコールの戻り香」、「後に残る渋味・雑味」、「爽快感」、「青臭さ」について、1〜5点の5段階評価で独立点数付けし、その平均値を算出した。
なお、全ての評価は、サンプルを飲んで評価した。
【0060】
(ビールらしいアルコールの香味:評価基準)
ビールらしいアルコールの香味の評価については、「ビールらしいアルコールの香味が非常に強い」場合を5点、「ビールらしいアルコールの香味が非常に弱い」場合を1点として5段階で評価した。そして、ビールらしいアルコールの香味の評価については、点数が低いものは好ましくないと判断できる。
なお、ビールらしいアルコールの香味については、サンプル1−1(1点)を基準として評価した。
【0061】
(アルコールの戻り香:評価基準)
アルコールの戻り香の評価については、「アルコールの戻り香が非常に強い」場合を5点、「アルコールの戻り香が非常に弱い」場合を1点として5段階で評価した。そして、アルコールの戻り香の評価については、点数が高いほどアルコールの戻り香を強く感じることができ、好ましいと判断できる。
なお、アルコールの戻り香については、サンプル2−1(1点)を基準として評価した。
【0062】
(後に残る渋味・雑味:評価基準)
後に残る渋味・雑味の評価については、「後に残る渋味・雑味が非常に強い」場合を5点、「後に残る渋味・雑味が非常に弱い」場合を1点として5段階で評価した。そして、後に残る渋味・雑味の評価については、点数が低いほど後に残る渋味・雑味を低減できており、好ましいと判断できる。
なお、後に残る渋味・雑味については、サンプル1−1(1点)を基準として評価した。
【0063】
(爽快感:評価基準)
爽快感の評価については、「爽快感が非常に強い」場合を5点、「爽快感が非常に弱い」場合を1点として5段階で評価した。そして、爽快感の評価については、点数が高いほど爽快感が増強されており、好ましいと判断できる。
なお、爽快感については、サンプル1−1(5点)を基準として評価した。
【0064】
(青臭さ:評価基準)
青臭さの評価については、「青臭い香味が非常に強い」場合を5点、「青臭い香味が非常に弱い」場合を1点として5段階で評価した。そして、青臭さの評価については、点数が低いほど青臭さが抑制されており、好ましいと判断できる。
なお、青臭さについては、サンプル1−1(2点)を基準として評価した。
【0065】
表1〜4に、各サンプルの各評価結果を示す。そして、「麦芽比率」は、麦芽の原料中における比率であり、表における「アルコール度数」、「酢酸イソアミル」、「酢酸エチル」、「リナロール」は、最終製品の指標や含有量である。
また、表1〜4に示す各サンプルのBUは10〜20であった。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

【0069】
【表4】

【0070】
(結果の検討)
サンプル1−1〜1−5の結果から、酢酸イソアミルの含有量が所定範囲内であると、爽快感の発揮という効果を奏しつつ、アルコールの香味がビールらしいアルコールの香味となることが確認できた。
また、サンプル1−1〜1−5の結果から、酢酸イソアミルの含有量が所定値よりも低いと、後に残る渋味・雑味が抑制されることも確認できた。
なお、サンプル1−5は、ビールらしいアルコールの香味がかなり強かったため、ビールテイスト飲料の全体的な香味としては、あまり好ましくないという意見もあった。
【0071】
サンプル2−1〜2−5の結果から、酢酸エチルの含有量が所定範囲内であると、爽快感の発揮という効果を奏しつつ、アルコールの戻り香を増強させることが確認できた。
【0072】
サンプル3−1〜3−5の結果から、リナロールの含有量が所定範囲内であると、青臭い香味を抑制しつつ、爽快感をさらに増強させることができることが確認できた。
【0073】
サンプル4−1〜4−3の結果から、アルコール度数が所定値以上であると、爽快感の発揮という効果を奏しつつ、アルコールの香味がビールらしいアルコールの香味となることが確認できた。
【0074】
[実施例2]
次に、麦芽比率を変化させた場合についても本発明の効果を発揮し得るか否かの確認を行った。
【0075】
[サンプルの準備]
麦芽比率が約40%となるように麦芽(粉砕した大麦麦芽)、糖類、エンドウタンパク(使用比率1%未満)、並びに、水を仕込槽に投入し、常法にしたがって糖化液を製造した。得られた糖化液を濾過して麦汁を得た。得られた麦汁にホップを添加して煮沸し、沈殿物を分離、除去した後、冷却した。得られた発酵前液(冷麦汁)にビール酵母を添加し、所定期間発酵させてビールテイスト飲料(ベース液)を得た。
そして、ベース液に対して、適宜、酢酸イソアミル、酢酸エチル、リナロール、蒸留アルコールを添加し、各成分の含有量等が表に示す値となるサンプルを準備した。
【0076】
[試験内容]
試験内容は、実施例1と同じであった。
【0077】
【表5】

【0078】
(結果の検討)
サンプル5−1の結果から、麦芽比率が実施例1の値から変化しても、アルコール度数が所定値以上であり、酢酸イソアミルの含有量が所定範囲内(さらには、酢酸エチル、リナロールの含有量が所定範囲内)となっていれば、各効果が十分に発揮されることが確認できた。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール度数が8.5%以上であり、
酢酸イソアミルの含有量が2.5〜4.2ppmであり、
麦芽比率が66%以下であるビールテイスト飲料(ただし、とうもろこしタンパク質分解物を原料に含むビールテイスト飲料と、Cascoシロップ番号1636U(Canada Starch Co.Ltd.)を原料に含むビールテイスト飲料と、を除く)。
【請求項2】
アルコール度数を8.5%以上とし、酢酸イソアミルの含有量を2.5〜4.2ppmとし、麦芽比率を66%以下とする工程を含むビールテイスト飲料(ただし、とうもろこしタンパク質分解物を原料に含むビールテイスト飲料と、Cascoシロップ番号1636U(Canada Starch Co.Ltd.)を原料に含むビールテイスト飲料と、を除く)の製造方法。
【請求項3】
ビールテイスト飲料(ただし、とうもろこしタンパク質分解物を原料に含むビールテイスト飲料を除く)の爽快感を発揮させつつビールらしいアルコールの香味を増強する香味向上方法であって、
前記ビールテイスト飲料のアルコール度数を8.5%以上とし、酢酸イソアミルの含有量を2.5〜4.2ppmとし、麦芽比率を66%以下とするビールテイスト飲料の香味向上方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2023-12-15 
出願番号 P2019-138504
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C12C)
P 1 651・ 537- YAA (C12C)
P 1 651・ 113- YAA (C12C)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 植前 充司
中村 和正
登録日 2022-10-05 
登録番号 7153617
権利者 サッポロビール株式会社
発明の名称 ビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、及び、ビールテイスト飲料の香味向上方法  
代理人 弁理士法人磯野国際特許商標事務所  
代理人 弁理士法人磯野国際特許商標事務所  

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