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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G02B
審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G02B
管理番号 1407839
総通号数 27 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-03-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-05-16 
確定日 2024-01-10 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第7178509号発明「積層体及び有機エレクトロルミネッセンス表示装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7178509号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−13〕について訂正することを認める。 特許第7178509号の請求項1ないし13に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7178509号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜13に係る特許についての出願(特願2021−551438号)は、2020年(令和2年)9月30日の出願(先の出願に基づく優先権主張 令和元年9月30日 令和元年11月14日)であって、令和4年11月16日にその特許権の設定登録がされ、令和4年11月25日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、特許掲載公報発行の日から6月以内である令和5年5月16日に特許異議申立人 寺澤 佳奈美(以下「異議申立人」という。)から全請求項に対して特許異議の申立てがされた。その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

令和5年 8月18日付け:取消理由通知書
令和5年10月20日 :意見書の提出(特許権者)
令和5年10月20日 :訂正請求書の提出(この訂正請求書による訂正の請求を、以下「本件訂正請求」という。)
令和5年11月28日 :意見書の提出(異議申立人)


第2 本件訂正請求について
1 訂正の趣旨及び訂正の内容
(1)訂正の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第7178509号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜13について訂正することを求める、というものである。

(2)訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める訂正の内容は、以下のとおりである。
なお、下線は当合議体が付したものであり、訂正箇所を示す。

ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「 樹脂と、下記の染料A〜Dの少なくとも1種を含む染料と、染料の褪色防止剤とを含有する波長選択吸収層、及び、該波長選択吸収層の少なくとも片面に直接配されたガスバリア層を含む積層体であって、
前記ガスバリア層が結晶性樹脂を含有し、該ガスバリア層の厚みが0.1μm〜10μmであって、該ガスバリア層の酸素透過度が60cc/m2・day・atm以下である、積層体。」とあるのを、
「 樹脂と、下記の染料A〜Dの少なくとも1種を含む染料と、染料の褪色防止剤とを含有する波長選択吸収層、及び、該波長選択吸収層の少なくとも片面に直接配されたガスバリア層を含む積層体であって、
前記ガスバリア層が結晶性樹脂を含有し、該ガスバリア層の厚みが0.1μm〜10μmであって、該ガスバリア層の酸素透過度が60cc/m2・day・atm以下であり、
隣接層間の屈折率差が0.15以下である、積層体。」に訂正する(請求項1の記載を引用して記載された、請求項2、3及び5〜13についても、同様に訂正する。)。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、
「 前記のガスバリア層に含まれる結晶性樹脂の結晶化度が25%以上である、請求項1に記載の積層体。」とあるのを、
「 前記のガスバリア層に含まれる結晶性樹脂の結晶化度が25%以上であり、隣接層間の屈折率差が0.10以下である、請求項1に記載の積層体。」に訂正する(請求項2の記載を引用して記載された、請求項3及び5〜13についても、同様に訂正する。)。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、
「 前記ガスバリア層の酸素透過度が0.001cc/m2・day・atm以上60cc/m2・day・atm以下である、請求項1又は2に記載の積層体。」とあるのを、
「 前記ガスバリア層の酸素透過度が0.001cc/m2・day・atm以上60cc/m2・day・atm以下であり、隣接層間の屈折率差が0.06以下である、請求項1又は2に記載の積層体。」に訂正する(請求項3の記載を引用して記載された、請求項5〜13についても、同様に訂正する。)。

エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に、
「 前記染料B及びCの少なくとも一方が、下記一般式(1)で表されるスクアリン系色素である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層体。」とあるのを、請求項1を引用する部分について独立形式に改め、
「 樹脂と、下記の染料A〜Dの少なくとも1種を含む染料と、染料の褪色防止剤とを含有する波長選択吸収層、及び、該波長選択吸収層の少なくとも片面に直接配されたガスバリア層を含む積層体であって、
前記ガスバリア層が結晶性樹脂を含有し、該ガスバリア層の厚みが0.1μm〜10μmであって、該ガスバリア層の酸素透過度が60cc/m2・day・atm以下であり、
前記染料B及びCの少なくとも一方が、下記一般式(1)で表されるスクアリン系色素である、積層体。
染料A:波長390〜435nmに主吸収波長帯域を有する染料
染料B:波長480〜520nmに主吸収波長帯域を有する染料染料C:波長580〜620nmに主吸収波長帯域を有する染料染料D:波長680〜780nmに主吸収波長帯域を有する染料
【化1】


上記式中、A及びBは、各々独立して、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基又は−CH=Gを示す。Gは置換基を有していてもよい複素環基を示す。」
に訂正する(請求項4の記載を引用して記載された、請求項5〜13についても、同様に訂正する。)。

(3)一群の請求項
請求項2、3及び5〜13は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、上記訂正事項1によって連動して訂正される関係にあることから、請求項1〜3及び5〜13は、一群の請求項を構成する。
また、請求項5〜13は、請求項4を直接又は間接的に引用するものであって、上記訂正事項4によって連動して訂正される関係にあることから、請求項4〜13は、一群の請求項を構成する。
そして、前者の一群の請求項と後者の一群の請求項は、ともに請求項5〜13を介して一体として特許請求の範囲の全部を形成するように連関している関係にあることから、結局、請求項1〜13は、全体として特許法施行規則45条の4に規定される一群の請求項を形成するといえる。
したがって、本件訂正のうち、訂正事項1〜訂正事項4による訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する「一群の請求項」である請求項1〜13に対してされたものである。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の請求項1に記載された、「積層体」について、「隣接層間の屈折率差が0.15以下である」ものに限定する訂正である。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ 新規事項の有無
本件特許の願書に添付した明細書の【0377】には、「本発明のOLED表示装置において、本発明の積層体は、外光の反射を低減させる点から、各層の隣接層に対する屈折率の差を一定の範囲内に調節することが好ましい。隣接層とは、層同士が直接接している関係にある層を意味する。上記隣接層間の屈折率差は0.15以下が好ましく」と記載されている。
したがって、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
請求項2、3及び5〜13についてみても、同じである。

ウ 特許請求の範囲の拡張、変更の存否
訂正事項1は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、これらの訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものに該当しないことが明らかである。よって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。
請求項2、3及び5〜13についてみても、同じである。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項2による訂正は、特許請求の範囲の請求項2に記載された、「積層体」について、「隣接層間の屈折率差が0.10以下である」ものに限定する訂正である。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ 新規事項の有無
本件特許の願書に添付した明細書の【0377】には、「本発明のOLED表示装置において、本発明の積層体は、外光の反射を低減させる点から、各層の隣接層に対する屈折率の差を一定の範囲内に調節することが好ましい。隣接層とは、層同士が直接接している関係にある層を意味する。上記隣接層間の屈折率差は0.15以下が好ましく、0.10以下がより好ましく」と記載されている。
したがって、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
請求項3及び5〜13についてみても、同じである。

ウ 特許請求の範囲の拡張、変更の存否
訂正事項2は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、これらの訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものに該当しないことが明らかである。よって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。
請求項3及び5〜13についてみても、同じである。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項3による訂正は、特許請求の範囲の請求項3に記載された、「積層体」について、「隣接層間の屈折率差が0.06以下である」ものに限定する訂正である。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ 新規事項の有無
本件特許の願書に添付した明細書の【0377】には、「本発明のOLED表示装置において、本発明の積層体は、外光の反射を低減させる点から、各層の隣接層に対する屈折率の差を一定の範囲内に調節することが好ましい。隣接層とは、層同士が直接接している関係にある層を意味する。上記隣接層間の屈折率差は0.15以下が好ましく、0.10以下がより好ましく、0.06以下がさらに好ましく」と記載されている。
したがって、訂正事項3による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
請求項5〜13についてみても、同じである。

ウ 特許請求の範囲の拡張、変更の存否
訂正事項3は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、これらの訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものに該当しないことが明らかである。
よって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。
請求項5〜13についてみても、同じである。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項4の記載が訂正前の請求項1〜3の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項へ改めるための訂正であるので、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
また、訂正事項4による訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでないことは明らかである。

(5)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1〜13〕について訂正することを認める。


第3 本件特許発明
上記「第2」のとおり、本件訂正請求による訂正は認められた。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜13に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」などといい、これらの発明を総称して「本件特許発明」という。)は、本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1〜13に記載された事項により特定される、次のものである。

「【請求項1】
樹脂と、下記の染料A〜Dの少なくとも1種を含む染料と、染料の褪色防止剤とを含有する波長選択吸収層、及び、該波長選択吸収層の少なくとも片面に直接配されたガスバリア層を含む積層体であって、 前記ガスバリア層が結晶性樹脂を含有し、該ガスバリア層の厚みが0.1μm〜10μmであって、該ガスバリア層の酸素透過度が60cc/m2・day・atm以下であり、
隣接層間の屈折率差が0.15以下である、積層体。
染料A:波長390〜435nmに主吸収波長帯域を有する染料
染料B:波長480〜520nmに主吸収波長帯域を有する染料
染料C:波長580〜620nmに主吸収波長帯域を有する染料
染料D:波長680〜780nmに主吸収波長帯域を有する染料
【請求項2】
前記のガスバリア層に含まれる結晶性樹脂の結晶化度が25%以上であり、隣接層間の屈折率差が0.10以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記ガスバリア層の酸素透過度が0.001cc/m2・day・atm以上60cc/m2・day・atm以下であり、隣接層間の屈折率差が0.06以下である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
樹脂と、下記の染料A〜Dの少なくとも1種を含む染料と、染料の褪色防止剤とを含有する波長選択吸収層、及び、該波長選択吸収層の少なくとも片面に直接配されたガスバリア層を含む積層体であって、
前記ガスバリア層が結晶性樹脂を含有し、該ガスバリア層の厚みが0.1μm〜10μmであって、該ガスバリア層の酸素透過度が60cc/m2・day・atm以下であり、
前記染料B及びCの少なくとも一方が、下記一般式(1)で表されるスクアリン系色素である、積層体。
染料A:波長390〜435nmに主吸収波長帯域を有する染料
染料B:波長480〜520nmに主吸収波長帯域を有する染料
染料C:波長580〜620nmに主吸収波長帯域を有する染料
染料D:波長680〜780nmに主吸収波長帯域を有する染料
【化1】

上記式中、A及びBは、各々独立して、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基又は−CH=Gを示す。Gは置換基を有していてもよい複素環基を示す。
【請求項5】
前記染料Aが下記一般式(A1)で表される色素である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の積層体。
【化2】

上記式中、R1及びR2は、各々独立に、アルキル基又はアリール基を示し、R3〜R6は、各々独立に、水素原子又は置換基を示し、R5とR6は互いに結合して6員環を形成していてもよい。
【請求項6】
前記染料Dが、下記一般式(D1)で表される色素および下記一般式(1)で表される色素の少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層体。
【化3】


上記式中、R1AおよびR2Aは、各々独立に、アルキル基、アリール基またはヘテロアリール基を示し、R4AおよびR5Aは、各々独立に、ヘテロアリール基を示し、R3AおよびR6Aは、各々独立に、置換基を示す。X1およびX2は、各々独立に、−BR21aR22aを示し、R21aおよびR22aはそれぞれ独立に置換基を示し、R21aおよびR22aは互いに結合して環を形成していてもよい。
【化4】


上記式中、A及びBは、各々独立して、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基又は−CH=Gを示す。Gは置換基を有していてもよい複素環基を示す。
【請求項7】
前記褪色防止剤が下記一般式(IV)で表される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の積層体。
【化5】


上記式中、R10は、各々独立に、アルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロ環基又はR18CO−、R19SO2−若しくはR20NHCO−で表される基を示し、R18、R19及びR20は、各々独立に、アルキル基、アルケニル基、アリール基又はヘテロ環基を示す。R11及びR12は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基又はアルケニルオキシ基を示し、R13〜R17は、各々独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基又はアリール基を示す。
【請求項8】
前記の波長選択吸収層における樹脂がポリスチレン樹脂を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項9】
前記の波長選択吸収層における樹脂が環状ポリオレフィン樹脂を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項10】
前記波長選択吸収層が前記染料A〜Dの4種全てを含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項11】
前記積層体が、前記ガスバリア層に対して前記波長選択吸収層とは反対側に配置された紫外線吸収層と、粘着剤層及び接着剤層の少なくとも1層とを含み、該積層体中における隣接層間の屈折率差がいずれも0.05以下である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項12】
前記波長選択吸収層が、伸張性樹脂成分及び剥離性制御樹脂成分の少なくとも1種を含有していてもよく、 前記波長選択吸収層中における、前記樹脂、前記伸張性樹脂成分及び前記剥離性制御樹脂成分の含有量の合計が50〜99.90質量%である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の積層体を含む有機エレクトロルミネッセンス表示装置。」


第4 取消しの理由の概要
1 令和5年8月18日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消しの理由は、概略、以下のとおりである。
理由1(進歩性)本件特許の請求項1〜13に係る発明は、最先の出願(以下「先の出願」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

2 特許異議申立人が提示した証拠
甲第1号証:特開2014−89408号公報(以下「甲1」という。)
甲第2号証:特開2010−152374号公報(以下「甲2」という。)
甲第3号証:特開2011−2816号公報(以下「甲3」という。)
甲第4号証:特開2019−133148号公報(以下「甲4」という。)
甲第5号証:特開2013−101328号公報(以下「甲5」という。)
甲第6号証:「バリア材用PVA系樹脂」、株式会社クラレ、2011年2月、p.3〜p.6(以下「甲6」という。)
甲第7号証:「せんい」12月号、社団法人日本繊維機械学会、第55巻、2002年12月25日、p.476〜p.482(以下「甲7」という。)
甲第8号証:特開2018−22152号公報(以下「甲8」という。)
甲第9号証:国際公開第2018/164062号(以下「甲9」という。)
甲第10号証:旭化成アミダス株式会社、プラスチックス編集部共編、「プラスチック・データブック」、株式会社工業調査会、1999年12月1日、p.36(以下「甲10」という。)
(当合議体注:甲1、4及び9は、主引用例であり、甲2〜3、5〜8及び10は、副引用例、周知技術又は技術常識を示す文献である。)


第5 当合議体の判断
1 甲1を主引例とした場合の進歩性について(1)甲1の記載
取消理由で引用された甲1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当合議体が付したものであり、引用発明の認定等に用いた。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、カラーフィルタ、カラーフィルタの製造方法、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス素子および固体撮像素子に関する。
【背景技術】
【0002】
カラーフィルタは、固体撮像素子や液晶表示装置のディスプレイに不可欠な構成部品である。このようなカラーフィルタを形成するために、着色硬化性組成物が採用されている(例えば、特許文献1、2を参照)。
一方、カラーフィルタにおいても、薄膜化が求められている。
・・・省略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
カラーフィルタを薄膜化しても優れた分光特性を有するカラーレジストを作製するためには、着色層中の着色剤の濃度を高くすることが考えられる。しかしながら、本発明者が検討したところ、着色剤の濃度を高くすると、形成される着色層を高温高湿下においた際に、着色層表面における膜面荒れが発生しやすいことが分かった。膜面荒れが発生してしまうと、デバイス感度および色再現性の低下を引き起こしてしまう。
本発明の課題は、上記問題点を解決することであって、着色剤の濃度が高い着色層であって、高温高湿下においても、着色層表面における膜面荒れが起こりにくいカラーフィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる状況のもと本発明者が鋭意検討を行った結果、着色層上に酸素遮断膜を形成することにより、着色剤の濃度が高くても高温高湿下で着色層表面における膜面荒れを抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
・・・省略・・・
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、着色剤の濃度が高い着色層であって、高温高湿下においても、着色層表面における膜面荒れが起こりにくいカラーフィルタを提供することができる。」

イ 「【0010】
[積層体]
本発明の積層体は、着色硬化性組成物を硬化してなる着色層上に酸素遮断膜が形成されたものである。
【0011】
<着色硬化性組成物>
本発明で用いられる着色硬化性組成物は、着色剤、熱硬化性化合物および溶剤を含む着色硬化性組成物であって、着色剤の含有量の合計が着色硬化性組成物の全固形分に対し50〜90質量%である。
【0012】
<着色剤>
着色剤としては、特に制限されず、例えば、染料や顔料を含む色素を用いることができ、特に、染料を必須としていることが好ましい。本発明では、着色剤の合計量が、着色硬化性組成物の全固形分に対し60〜85質量%であることが好ましく、70〜80質量%であることがより好ましい。
(染料)
染料は、特に制限はなく、従来カラーフィルタ用として公知の染料が使用できる。例えば、ピラゾールアゾ系、アニリノアゾ系、トリフェニルメタン系、アントラキノン系、アンスラピリドン系、ベンジリデン系、オキソノール系、ピラゾロトリアゾールアゾ系、ピリドンアゾ系、シアニン系、フェノチアジン系、ピロロピラゾールアゾメチン系、キサテン系、フタロシアニン系、ベンゾピラン系、インジゴ系、ピロメテン系、メチン系等の染料が使用できる。また、これらの染料の多量体を用いてもよい。
【0013】
これらの染料の中でも、フタロシアニン構造を有するフタロシアニン染料、特に、ハロゲン化フタロシアニン染料が特に好ましい。ハロゲン化フタロシアニン染料は、フタロシアニン骨格を有し、かつ、その置換基としてハロゲン原子を1つ以上含む化合物をいう。本発明では、ハロゲン原子を1分子中に5〜15つ有することが好ましく、6〜14つ有することがより好ましい。ハロゲン原子としては、塩素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が例示され、塩素原子、フッ素原子または臭素原子が好ましく、塩素原子またはフッ素原子がより好ましく、塩素原子がさらに好ましい。 本発明で用いられるハロゲン化フタロシアニン染料は、通常、極大吸収波長を600〜800nmの領域に有し、好ましくは極大吸収波長を630〜750nmの領域に有する化合物である。
・・・省略・・・
【0083】
[熱硬化性化合物]
本発明の積層体を構成する着色硬化性組成物は、熱硬化性化合物を少なくとも一種を含有する。ここで、熱硬化性化合物とは、加熱により膜硬化が行なえるものをいい、通常、180℃以上の加熱で硬化する化合物をいう。
・・・省略・・・
【0131】
<各種添加物>
本発明の積層体を構成する着色硬化性組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、各種添加物、例えば、界面活性剤、酸無水物、硬化剤、硬化触媒、充填剤、密着促進剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、凝集防止剤等を配合することができる。
・・・省略・・・
【0152】
[着色層]
上述した着色硬化性組成物を硬化させることにより、本発明の積層体を構成する着色層とすることができる。着色層の形成方法については、後述する。この着色層は、カラーフィルタの着色層として好ましく用いることができる。特に、ドライエッチング用着色硬化性組成物として好ましく用いることができる。
本発明において、着色層の厚さは、0.1〜1.0μmであることが好ましく、0.3〜0.8μmであることがより好ましい。本発明では、着色層における着色剤の濃度を高めることができるので、このような薄膜化が可能になる。
【0153】
[酸素遮断膜]
本発明の積層体は、上述した着色層上に、酸素遮断膜を有する。この酸素遮断膜は、酸素遮断性化合物を用いて形成され、高い酸素遮断能、高透明性および低光散乱性を示す。
ここで、膜面荒れとは、着色層の表面に凝集物が多数発生することにより、着色層の表面に多数の凹凸が形成された状態をいう。着色層表面において膜面荒れが発生する要因としては、一重項酸素が着色層中のポリマー成分(熱硬化性化合物の硬化物)を分解し、着色剤とポリマー成分が相分離を起こして、着色剤同士が凝集体を形成することで発生すると考えられる。そして、着色剤の濃度が高いほど、着色層中のポリマー成分の量が少なくなるため、着色剤同士が凝集体をより形成しやすくなり、着色層表面における膜面荒れが発生やすくなると考えられる。特に、本願発明者が検討したところ、着色硬化性組成物中の着色剤の固形分濃度が50質量%を超える場合に、さらには60質量%を超える場合に顕著に膜面荒れが発生することを見出した。特にこの傾向は、高温高湿下において、顕著に起こりやすいことも分かった。
酸素遮断膜に含有される酸素遮断性化合物としては、無機材料および有機材料のいずれでもよく、無機材料が好ましい。具体的には、金属酸化物、金属アルコキシ基含有化合物、有機ポリマーなどを用いることができる。なお、酸素遮断膜は、酸素遮断能により優れる点で、実質的に上記酸素遮断性化合物のみで構成されることが好ましい。実質的に酸素遮断性化合物のみとは、例えば、酸素遮断膜中の酸素遮断性化合物の含有量が99質量%以上であることをいう。
・・・省略・・・
【0160】
酸素遮断層は、酸素透過率が200ml/m2・day・atm以下であることが好ましく、100ml/m2・day・atm以下であることがより好ましく、50ml/m2・day・atm以下であることが特に好ましい。酸素透過率の下限は特に限定されないが、0ml/m2・day・atmが好ましい。酸素透過率が上記範囲の場合、着色膜の膜面荒れの観点で好適に機能する。
・・・省略・・・
【0166】
ここで、固体撮像素子について、一例として図1を参照して略説する。
図1に示すように、固体撮像素子10は、シリコン基板上に設けられた受光素子(フォトダイオード)42、カラーフィルタ13、平坦化膜14、マイクロレンズ15等から構成される。本発明においては、平坦化膜14は必ずしも設ける必要はない。なお、図1では、各部を明確にするため、相互の厚みや幅の比率は無視して一部誇張して表示している。
【0167】
支持体としては、シリコン基板のほか、カラーフィルタに用いられるものであれば特に制限はなく、例えば、液晶表示素子等に用いられるソーダガラス、ホウケイ酸ガラス、石英ガラスおよびこれらに透明導電膜を付着させたものや、固体撮像素子等に用いられる光電変換素子基板、例えば酸化膜、窒化シリコン等が挙げられる。また、これら支持体とカラーフィルタ13との間には本発明を損なわない限り中間層などを設けてもよい。
【0168】
シリコン基板上には、Pウエル41を有し、このPウエルの表面の一部にフォトダイオード42を有している。フォトダイオード42は、Pウエルの表面の一部にPやAs等のN型不純物をイオン注入した後、熱処理を行うことにより形成される。また、シリコン基板のPウエル41の表面であって上記一部とは異なる領域には、フォトダイオード42よりN型不純物濃度の高い不純物拡散層43を有している。この不純物拡散層43は、PやAs等のN型不純物をイオン注入した後、熱処理を行うことにより形成され、フォトダイオード42が入射光を受けることにより発生した電荷を転送する浮遊拡散層の役割を果たす。ウエル41をP型不純物層、フォトダイオード42および不純物拡散層43をN型不純物層とする以外にも、ウエル41をN型不純物層、フォトダイオード42および不純物拡散層43をP型不純物層として実施することもできる。」

ウ 「【実施例】
【0220】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」、「%」は、質量基準である。
【0221】
<合成例1−染料Aの合成>
(中間体Aの合成)
フラスコにテトラクロロフタロニトリル(15.0g、56.4mmol)とHO−C6H4−COOC2H4OCH3(12.65g、56.4mmol)、アセトニロリル75.0gを投入し、マグネチックスターラーを用いて、内温が40℃に安定するまで30分間攪拌した後、炭酸カリウム(8.58g、62.1mmol)を投入して約3時間反応させた。冷却後、吸引ろ過して得た溶液を40℃、1時間で減圧濃縮し、溶剤を溜去した。さらに、110℃で一晩真空乾燥し、約23.0g(89.9%)の中間体Aが得られた。
【0222】
(染料Aの合成)
フラスコに中間体A(2.13g、4.7mmol)、ベンゾニトリル2.35mLを投入し、窒素気流下(10mL/min)、マグネチックスターラーを用いて内温150℃に安定するまで約1時間攪拌した後、ヨウ化亜鉛0.43g(1.3mmol)を投入して、約35時間反応させた。冷却後メタノール30mLを加え、マグネチックスターラーを用いて室温にて攪拌することで晶析溶液とした。晶析溶液をデカンテーションし、残った残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール)にて精製した。得られた精製物にメタノール20mLを加え、マグネチックスターラーを用いて60℃で1時間加熱攪拌した。冷却後、吸引ろ過し、得られた結晶にメタノール20mLを加え、マグネチックスターラーを用いて60℃で1時間加熱攪拌した。冷却後、吸引ろ過し、得られた結晶を40℃で一晩送風乾燥し、約1.95g(88.2%)の染料Aが得られた。
【0223】
<合成例2−他の染料の合成>
上記合成例1に従って、染料B〜染料Eを合成した。
【0224】
<顔料分散液の調製>
下記化合物を配合した混合液を、0.3mm径のジルコニアビーズを使用して、ビーズミル(減圧機構付き高圧分散機NANO−3000−10(日本ビーイーイー(株)製))で、3時間、混合、分散して、顔料分散液を調製した。顔料の種類は下記表に記載のものとし、また、各成分の配合量は、最終的に得られる着色硬化性組成物中の組成比が下記表に記載の割合となるように配合した。・顔料(下記表に示す顔料)・誘導体・分散剤・溶剤:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)
上記合成例1に従って、他のフタロシアニン染料を合成した。
【0225】
<着色硬化性組成物の調製>
下記表に記載の組成となるように各成分を混合し、撹拌して着色硬化性組成物を調製した。・染料(着色剤)・黄色色素(着色剤)・熱硬化性化合物・溶剤・・・最終固形分濃度が15質量%となる量【0226】ハロゲン化フタロシアニン染料A:
【化38】

・・・省略・・・
【0231】
<他の着色剤>
黄色色素A(アゾ系色素(顔料)):P.Y150
・・・省略・・・
【0232】
<誘導体>
【化44】

【0233】
<分散剤>
【化45】

上記において、aは、2.0、bは4.0、酸価10mgKOH/g、Mw20000である。また、分散剤Aにおけるa及びbは、それぞれ、括弧内で表される部分構造の数を表し、a+b=6を満たす。
【0234】
<熱硬化性化合物>
熱硬化性化合物A:エポキシ化合物:EHPE3150(ダイセル化学工業(株)製 分子量=2234)
熱硬化性化合物B:メラミン化合物:ニカラックMW−30M(三和ケミカル(株)製)
<界面活性剤>
界面活性剤:F−781(DIC(株)製 フッ素系界面活性剤)
・・・省略・・・
【0238】
得られた組成物について、以下の評価を行った。
【0239】
<膜面荒れ評価基板の作製>
7.5cm×7.5cmのガラス基板上にスピンコーターにて、上述の組成物を膜厚0.5μmの塗布膜となるように塗布した後、ホットプレートを使用して100℃で2分間加熱乾燥し、次いで200℃で5分間の加熱を行い、塗布膜の硬化を行って着色層を形成した。
【0240】
<酸素遮断膜の形成>
実施例1〜3および比較例2において、作製したガラス基板をスパッタリング装置(神港精機社製SRV−4300)を用いて、SiO2またはSiNをスパッタリングし、膜厚0.1μmの酸素遮断膜を着色層上に形成した。また、実施例4および実施例5において、作製したガラス基板をスピンコーター(ミカサ社製1H−D7)を用いて、ポリビニルアルコール(重量平均分子量:2000)水溶液またはポリビニルピロリドン(重量平均分子量:1800)水溶液をそれぞれ塗布し、膜厚1.0μmの酸素遮断膜を着色層上に形成した。結果を表1に示す。なお、表1において、無機材料AはSiO2、無機材料BはSiN、有機材料Aはポリビニルアルコール、有機材料Bはポリビニルピロリドンを示し、比較例1においては、いずれの酸素遮断膜も形成しなかった。
【0241】
<高温高湿試験>
酸素遮断膜を形成したガラス基板を、高加速度寿命試験装置(エスペック社製EHS−221)を用いて温度85℃、湿度85%の条件下で168時間、高温高湿試験を実施した。
【0242】
<膜面荒れ評価>
高温高湿試験後の酸素遮断膜を形成したガラス基板を、光学顕微鏡(オリンパス社製MX−50)を用いて反射200倍の条件で凝集異物を目視評価した。結果を以下の表に示す。下記基準で3〜5を実用上問題のないレベルと評価する。−評価基準−5:凝集異物の発生がまったく無い。
4:凝集異物が極めて小数(5視野領域に5個以上25個未満)発生した。
3:凝集異物が小数(5視野領域に25個以上100個未満)発生した。
2:凝集異物が多数(5視野領域に100個以上500個未満)発生した。
1:凝集異物が著しく(5視野領域に500個以上)発生した。
【0243】
【表1】

【0244】
上記表から明らかなように、着色剤、熱硬化性化合物および溶剤を含み、着色剤の含有量の合計が着色硬化性組成物の全固形分に対し50〜90質量%である着色硬化性組成物を用いて形成された着色層において、着色層上に酸素遮断膜が形成された積層体(実施例1〜10)は、膜面荒れが抑制されていることが分かった。
また、実施例1〜10では、優れた分光特性を有し、良好な耐光性を有することが分かった。
これに対し、酸素遮断膜を形成していない積層体(比較例1)は、膜面荒れの結果が良好ではないことが分かった。また、酸素遮断膜が形成されているが着色剤の含有量の合計が着色硬化性組成物の全固形分に対し50%未満の場合(比較例2)には、膜面荒れが抑制されていたが、着色剤の濃度が低いので、薄膜化ができない。」

エ 図1


(2)甲1発明
甲1において、【0240】の「実施例4および実施例5」は、【0242】の【表1】を参酌すると、「実施例3および実施例4」の誤記であることは明らかである。
そうすると、甲1の実施例3の積層体において、着色剤はハロゲン化フタロシアニン染料A(【0226】)を含み、熱硬化性化合物はエポキシ化合物(【0234】)であり、酸素遮断膜はポリビニルアルコール(【0240】)である。
そうしてみると、甲1には、実施例3としての「積層体」である、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
なお、「組成物」を「着色硬化性組成物」に用語を統一して用いた。

「 着色剤、熱硬化性化合物および溶剤を含む、着色硬化性組成物を用いて形成された着色層において、着色層上に酸素遮断膜が形成された積層体であって、
着色層は、ガラス基板上に着色硬化性組成物を膜厚0.5μmの塗布膜となるように塗布した後、100℃で2分間加熱乾燥し、次いで200℃で5分間の加熱を行い、塗布膜の硬化を行って形成したものであり、
着色剤は、ハロゲン化フタロシアニン染料Aを含み、熱硬化性化合物はエポキシ化合物であり、酸素遮断膜は膜厚1μmのポリビニルアルコールである、積層体。」

(3)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。

(ア)樹脂
甲1発明の「着色層」は、「ガラス基板上に着色硬化性組成物を膜厚0.5μmの塗布膜となるように塗布した後、100℃で2分間加熱乾燥し、次いで200℃で5分間の加熱を行い、塗布膜の硬化を行って形成したものであり」、「熱硬化性化合物」は、「エポキシ化合物であ」る。
上記構成からみて、甲1発明の「エポキシ化合物」は、硬化して樹脂となるものである。
そうしてみると、甲1発明の「エポキシ化合物」が硬化した樹脂は、本件特許発明1の「樹脂」に相当する。

(イ)染料
甲1発明の「着色剤」は、「ハロゲン化フタロシアニン染料Aを含」む。
上記構成からみて、甲1発明の「ハロゲン化フタロシアニン染料A」は、本件特許発明1の「染料」に相当する。

(ウ)波長選択吸収層
甲1発明の「着色層」は、「着色剤、熱硬化性化合物および溶剤を含む、着色硬化性組成物を用いて形成された」ものである。
上記構成と上記(ア)及び(イ)により、甲1発明の「着色層」は、「エポキシ化合物」が硬化した樹脂と、「ハロゲン化フタロシアニン染料A」とを含有する。
そうしてみると、甲1発明の「着色層」は、本件特許発明1の「波長選択吸収層」に相当する。また、甲1発明の「着色層」は、本件特許発明1の「波長選択吸収層」の「樹脂と」、「染料と」「含有する」との要件を満たす。

(エ)ガスバリア層
甲1発明の「酸素遮断膜」は、「膜厚1μmのポリビニルアルコールであ」り、「着色層上に」「形成された」ものである。
上記構成からみて、甲1発明の「酸素遮断膜」は、本件特許発明1の「ガスバリア層」に相当する。また、甲1発明の「酸素遮断膜」は、本件特許発明1の「ガスバリア層」の「厚みが0.1μm〜10μmであって」との要件を満たす。
また、上記構成からみて、甲1発明の「酸素遮断膜」は、「着色層」の少なくとも片面に直接配されたといえる。そうしてみると、甲1発明の「酸素遮断膜」は、本件特許発明1の「ガスバリア層」の「波長選択吸収層の少なくとも片面に直接配された」との要件を満たす。

(オ)積層体
甲1発明の「積層体」は、「着色剤 、熱硬化性化合物および溶剤を含む、着色硬化性組成物を用いて形成された着色層において、着色層上に酸素遮断膜が形成された」ものである。
上記構成より、甲1発明の「積層体」は、「着色層」及び「酸素遮断膜」を含むといえる。
また、甲1発明の「積層体」は、その文言どおり、本件特許発明1の「積層体」に相当する。そして、上記構成と上記(ア)〜(エ)を総合すると、甲1発明の「積層体」は、本件特許発明1の「積層体」の「波長選択吸収層」及び「ガスバリア層を含む」との要件を満たす。

イ 一致点
上記アによると、本件特許発明1と甲1発明は次の点で一致する。

「 樹脂と、染料とを含有する波長選択吸収層、及び、該波長選択吸収層の少なくとも片面に直接配されたガスバリア層を含む積層体であって、 前記ガスバリア層の厚みが0.1μm〜10μmである、積層体。」

ウ 相違点
本件特許発明1と甲1発明は次の点で相違するか一応相違する。

<相違点1>
「染料」について、本件特許発明1は、「下記の染料A〜Dの少なくとも1種を含む」ものであって、上記「染料A〜D」が、それぞれ「染料A:波長390〜435nmに主吸収波長帯域を有する染料」、「染料B:波長480〜520nmに主吸収波長帯域を有する染料」、「染料C:波長580〜620nmに主吸収波長帯域を有する染料」、「染料D:波長680〜780nmに主吸収波長帯域を有する染料」であるのに対して、甲1発明の「ハロゲン化フタロシアニン染料A」は、主吸収波長帯域が一応明らかでない点。

<相違点2>
「波長選択吸収層」について、本件特許発明1は、「染料の褪色防止剤とを含有する」のに対して、甲1発明の「着色層」は、染料の褪色防止剤を含有しない点。

<相違点3>
「ガスバリア層」について、本件特許発明1は、「結晶性樹脂を含有し」、「酸素透過度が60cc/m2・day・atm以下であ」るのに対して、甲1発明の「酸素遮断層」は、結晶性樹脂を含有するかどうかが明らかでなく、酸素透過度も明らかでない点。

<相違点4>
本件特許発明1は、「隣接層間の屈折率差が0.15以下である」のに対して、甲1発明は、このように特定されていない点。
エ 判断
事案に鑑み、上記相違点2について検討する。
甲1の【0131】には、「本発明の積層体を構成する着色硬化性組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、各種添加物、例えば、・・・酸化防止剤・・・等を配合することができる。」と記載されていて、酸化防止剤が例示されている。そして、本件特許明細書の【0263】においても、染料の褪色防止剤として酸化防止剤が例示されている。
しかしながら、甲1の上記記載は、単に着色硬化性組成物に酸化防止剤を配合してもよいということにとどまり、染料の褪色防止剤としての酸化防止剤が記載されているのではない。この点について、甲1の【0004】には、「本発明の課題は・・・着色剤の濃度が高い着色層であって、高温高湿下においても、着色層表面における膜面荒れが起こりにくいカラーフィルタを提供することを目的とする。」と記載されている。また、甲1の図1及び図1に対応する明細書の【0166】〜【0168】の記載から明らかなように、甲1発明の「積層体」は固体撮像素子や液晶表示装置の内部に配置されるカラーフィルタとして用いられるものである。
これに対して、本件特許明細書の【0009】には、「そこで本発明は、ガスバリア層を波長選択吸収層上に備えた積層体であって、OLED表示装置の反射防止手段として円偏光板に代えて用いた場合にも優れた耐光性を示し、また生産性にも優れた積層体、及びこれを含む有機エレクトロルミネッセンス表示装置を提供することを課題とする。」と記載されていることから明らかなように、本件特許発明1の「積層体」と甲1発明の「積層体」とは解決しようとする課題が異なるものである。この点について、令和5年10月20日に提出された意見書(特許権者)(以下「意見書(特許権者)」という。)の3頁19行〜4頁1行において、特許権者は、「甲1発明に係る積層体は、固体撮像素子や表示装置等のカラーフィルタとして用いられるものです。このカラーフィルタは、例えば表示装置に用いる場合には・・・、外光反射を抑制するため波長選択吸収フィルタよりも内部に配されて使用されるものです。実際に、甲1発明ないし甲第1号証は、外光反射を抑制するため波長選択吸収フィルタに関する技術、外光反射を抑制する旨の技術課題ないしその解決手段を一切記載しておらず、示唆すらしていません。」と主張しており、採用すべき理由がある。
そうしてみると、本件特許明細書の【0279】に記載された「褪色防止剤を上記好ましい範囲内で含有することにより・・・染料(色素)の耐光性を向上させることができる」ようにするために、甲1発明に染料の褪色防止剤としての酸化防止剤を含有するようにする動機付けはない。さらに、甲1発明に染料の褪色防止剤としての酸化防止剤を含有することを窺わせるような記載は、甲1の他の箇所や他の甲号証にも見出せず、また、記載がなくても周知技術であるともいえない。
したがって、たとえ当業者といえども、甲1発明において上記相違点1−2に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

オ 小括
以上のことから、他の相違点について検討するまでもなく、たとえ当業者といえども、本件特許発明1は、甲1発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)本件特許発明2及び3
本件特許発明2及び3は、本件特許発明1の構成を全て備えるものであるから、本件特許発明2及び3も、本件特許発明1と同じ理由により、たとえ当業者といえども、甲1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

(5)本件特許発明4
ア 対比、一致点及び相違点
本件特許発明4と甲1発明とを対比すると、本件特許発明4と甲1発明は、
「 樹脂と、染料とを含有する波長選択吸収層、及び、該波長選択吸収層の少なくとも片面に直接配されたガスバリア層を含む積層体であって、 前記ガスバリア層の厚みが0.1μm〜10μmである、積層体。」の点で一致し、次の点で相違するか一応相違する。

<相違点5>
「染料」について、本件特許発明4は、「下記の染料A〜Dの少なくとも1種を含む」ものであって、「前記染料B及びCの少なくとも一方が、下記一般式(1)で表されるスクアリン系色素であ」り、「染料A:波長390〜435nmに主吸収波長帯域を有する染料」、「染料B:波長480〜520nmに主吸収波長帯域を有する染料」、「染料C:波長580〜620nmに主吸収波長帯域を有する染料」、「染料D:波長680〜780nmに主吸収波長帯域を有する染料」であるのに対して、甲1発明の「ハロゲン化フタロシアニン染料A」は、この点が一応明らかでない点(当合議体注:一般式(1)は、「第3 本件特許発明」における請求項4に記載された一般式(1)のとおりであって、記載を省略した。)。

<相違点6>
「波長選択吸収層」について、本件特許発明4は、「染料の褪色防止剤とを含有する」のに対して、甲1発明の「着色層」は、染料の褪色防止剤を含有しない点。

<相違点7>
「ガスバリア層」について、本件特許発明4は、「結晶性樹脂を含有し」、「酸素透過度が60cc/m2・day・atm以下であ」るのに対して、甲1発明の「酸素遮断層」は、結晶性樹脂を含有するかどうかが明らかでなく、酸素透過度も明らかでない点。

エ 判断
上記相違点6は、上記(3)ウの上記相違点2と同じであるから、上記(3)エと同じの理由により、たとえ当業者といえども、甲1発明において上記相違点6に係る本件特許発明4の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、たとえ当業者といえども、本件特許発明4は、甲1発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

(6)本件特許発明5〜13
本件特許発明5〜13は、本件特許発明1又は4の構成を全て備えるものであるから、本件特許発明5〜13も、本件特許発明1又は4と同じ理由により、たとえ当業者といえども、甲1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

2 甲4を主引例とした場合の進歩性について
甲4には、技術分野として【0001】に「本発明は、重合性液晶組成物、偏光膜およびその製造方法、並びに、偏光板およびそれを備える表示装置に関する。」と記載されていて、課題として【0005】に「そこで、本発明は、太陽光に曝された場合の二色性色素の変性に対する高い抑制効果を有し、経時的な偏光性能の低下を抑制し得る偏光膜(偏光子)を形成するのに適した重合性液晶組成物を提供することを目的とする。」と記載され、実施例として【0164】〜【0180】に「偏光膜積層体」が記載されている。
これに対して、上記1(3)で示した本件特許明細書の【0009】の記載からも明らかなように、本件特許発明の「積層体」は、円偏光板に代えて用いられるものであり、本件特許発明1の「積層体」と甲4に記載された「偏光膜積層体」とは解決しようとする課題が異なるものである。この点について、意見書(特許権者)の第4頁12行〜17行において、特許権者は、「甲4発明及び甲9発明に係る積層体はいずれも偏光板に用いられるものです。外光反射を抑制するために表示装置の視認面に配する波長選択吸収フィルタとしての使用は想定されていません。それゆえ、甲4発明ないし甲第4号証及び甲9発明ないし甲第9号証は、いずれも、外光反射を抑制する旨の技術課題を一切記載しておらず、示唆すらしていません。」と主張しており、採用すべき理由がある。
そうしてみると、甲4に記載された発明は、本件特許発明とは前提となる構成が異なるものであるから、たとえ当業者といえども、甲4に記載された発明に基づいて本件特許発明に至るとはいえない。
したがって、本件特許発明は、たとえ当業者といえども、甲4に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

3 甲9を主引例とした場合の進歩性について
甲9には、技術分野として[0001]に「本発明は、色素を有する光学機能層およびポリビニルアルコール系偏光子を有する偏光フィルムを有する光学機能層付き偏光フィルムに関する。」と記載されていて、課題として[0006]に「本発明は、経時安定性が良好であり、色素による広色域化を維持することができる色素を含有する光学機能層を有する光学機能層付偏光フィルムを提供することを目的とする。」と記載されていて、実施例として[0104]〜[0107]及び[0118]に「薄型方保護偏光フィルム」が記載されている。
これに対して、上記1(3)で示した本件特許明細書の【0009】の記載からも明らかなように、本件特許発明の「積層体」は、円偏光板に代えて用いられるものであり、本件特許発明1の「積層体」と甲9に記載された「粘着剤層付片保護偏光フィルム」とは解決しようとする課題が異なるものである。この点について、特許権者は、上記2で示した意見書(特許権者)のとおり主張しており、採用すべき理由がある。
そうしてみると、甲9に記載された発明は、本件特許発明とは前提となる構成が異なるものであるから、たとえ当業者といえども、甲9に記載された発明に基づいて本件特許発明に至るとはいえない。
したがって、本件特許発明は、甲9に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。


第6 取消しの理由を通知しなかった異議申立人の主張の概要
令和5年8月18日付け取消理由通知書により特許権者に通知しなかった異議申立人の主張の概要は、次のとおりのものである。
1 異議申立書における主張の概要
(1)特許法29条1項3号新規性
異議申立人は、「本件特許の請求項1〜3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である。また、本件特許の請求項1〜3,11,13に係る発明は、甲第9号証に記載された発明である。」(異議申立書32頁4行〜6行)と主張している。

(2)特許法36条6項1号(サポート要件)
異議申立人は、「本件特許発明1〜13は、染料の有する主吸収波長帯域だけを単に特定するにとどまり、当該関係式(I)〜(VI)を規定していない。」(異議申立書29頁3行〜4行)、「本件特許明細書の実施例で用いられている褪色防止剤は、特定の化学構造を有する「褪色防止剤1」(【0408】)の僅か1種類である。この1種類の例が示されているからといって、本件特許発明1〜13に含まれている褐色防止剤のあらゆる種類がこれと同等の染料分解抑制能を奏するとはいえない。」(異議申立書29頁16行〜20行)、「本件特許発明1が規定する酸素透過度の数値範囲「60cc/m2・day・atm以下」のうち、0.6cc/m2・day・atmを超え60cc/m2・day・atm以下の範囲内で課題を解決することができるかどうかを当業者が認識することができないし、また、本件特許発明1〜13は、結晶化度に関して49%〜53%以外の範囲において課題を解決することができるかどうかも当業者が認識することができない。」(異議申立書30頁15行〜20行)と主張している。

(3)特許法36条4項1号実施可能要件
異議申立人は、「本件特許発明1〜13を実施しようとする当業者が染料B,C,Dに該当する化合物を選択しようとしたとき、当該波長帯域の範囲内にある化合物を選択するためには過度の試行錯誤が必要である。」(異議申立書31頁9行〜11行)、「本件特許発明5は、染料Aが一般式(A1)で表される色素であることを特定している。これについても・・・当業者に過度の試行錯誤を強いることになる。」(異議申立書31頁12行〜17行)、「「当業者は積層体にこのようなガスバリア層を設けることができず、また設けるには過度の試行錯誤を必要とする。」(異議申立書31頁24行〜25行)と主張している。

2 令和5年11月28日に提出された意見書(異議申立人)における主張の概要
(1)特許法36条4項1号実施可能要件
異議申立人は、「「隣接間の屈折率差が0.15以下」を達成するための具体的な技術的手段を請求項で特定すべきである。この特定がなされていない現状では、本件特許には実施可能要件36条4項1号)不備の取消理由が存すると考えられる。」(令和5年11月28日に提出された意見書(異議申立人)(以下「意見書(異議申立人)」という。)5頁5行〜8行)と主張している。

(2)特許法36条6項2号明確性
異議申立人は、「他の任意の層が更に積層された態様も考慮すると、「隣接間の屈折率差が0.15以下」の屈折率差が「波長選択吸収層と、その少なくとも片面に直接配されたガスバリア層と」の屈折率差のみを指しているのか、他に備える任意の層の全ての隣接層間の屈折率差をも指しているのか、明らかでない。」(意見書(異議申立人)5頁22行〜2行)、「一般式(1)において、染料Bと染料Cとに対してそれぞれ置換基等が切り分けられていないためであり、本件訂正特許発明4は明確であるとは言えない。」(意見書(異議申立人)7頁13行〜14行)、「本件訂正特許発明6における染料Dが一般式(1)で表されることを含んでおり、上記同様、本件訂正特許発明6もまた明確であるとは言えない。」(意見書(異議申立人)7頁21行〜22行)と主張している。


第7 取消しの理由を通知しなかった異議申立人の主張についての判断
1 特許法29条1項3号新規性)について
上記第5「1」(3)及び(4)で述べたように、甲1に記載された発明は、明らかに本件特許発明1〜3と同一であるとはいえない。また、上記第5「3」で述べたように、甲9に記載された発明は、明らかに本件特許発明1〜3、11及び13と同一であるとはいえない。
したがって、本件特許発明1〜3は、甲1に記載された発明であるとはいえない。また、本件特許発明1〜3、11及び13は、甲9に記載された発明であるとはいえない。

2 特許法36条4項1号実施可能要件)について
本件特許明細書において、染料Aについては【0026】〜【0071】に、染料B及び染料Cについては【0072】〜【0169】に記載されており、さらに染料B及び染料Cの具体例は【0073】にも例示されており、染料Dについては【0169】〜【0216】に、ガスバリア層については【0310】〜【0316】に、それぞれ記載されている。また、実施例としても積層体が【0404】〜【0488】に具体的に記載されていて、積層体の隣接間の屈折率差も【0484】の【表B】に記載されている。
そうしてみると、当業者であれば、本件特許明細書の上記記載に基づいて、本件特許発明の「積層体」及び「積層体を含む有機エレクトロルミネッセンス表示装置」であって、本件特許発明の「主吸収波長帯域」及び「酸素透過度」の要件並びに本件特許発明1〜3及び5〜13の「隣接間の屈折率差」の要件を満たすようにすることは、実施できるものである。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。

3 特許法36条6項1号(サポート要件)について
本件特許発明の課題は、「本発明は、ガスバリア層を波長選択吸収層上に備えた積層体であって、OLED表示装置の反射防止手段として円偏光板に代えて用いた場合にも優れた耐光性を示し、また生産性にも優れた積層体、及びこれを含む有機エレクトロルミネッセンス表示装置を提供することを課題とする」(本件特許明細書の【0009】)ものである。そして、本件特許発明は、「積層体」及び「積層体を含む有機エレクトロルミネッセンス表示装置」であるところ、本件特許発明は、「染料」と「褪色防止剤とを含有する波長選択吸収層」、及び、「ガスバリア層を含む」ものであって、「主吸収波長帯域」及び「酸素透過度」の要件を満たすものである。
これに対して、本件特許明細書は、上記2で示したとおりであり、褪色防止剤については【0263】〜【0279】に記載されている。そして、本件特許発明の作用効果も、【0023】に記載された関係式(I)〜(VI)を満たすかどうかに関わらず、【0431】の【表3】等から確認できる。
そうしてみると、当業者であれば、本件特許明細書の上記記載に基づいて、実施例として記載された「積層体」から本件特許発明にまで拡張ないし一般化することは可能である。
したがって、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載したものである。

4 特許法36条6項2号明確性)について
本件特許発明は、「波長選択吸収層」と「ガスバリア層を含む積層体」であるから、本件特許発明の「隣接間の屈折率差」が「波長選択吸収層」及び「ガスバリア層」の他に備える任意の全ての隣接層間の屈折率差をも指していることは、明らかである。
本件訂正特許発明4及び6について、染料B及び染料Dのそれぞれが各々の主波長吸収帯域を有すればよいことが理解できるので、置換基を特定しなくても明確である。
したがって、本件特許発明は、明確である。


第8 むすび
本件特許1〜13は、取消理由通知書に記載した取消しの理由及び特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件特許1〜13を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、下記の染料A〜Dの少なくとも1種を含む染料と、染料の褪色防止剤とを含有する波長選択吸収層、及び、該波長選択吸収層の少なくとも片面に直接配されたガスバリア層を含む積層体であって、
前記ガスバリア層が結晶性樹脂を含有し、該ガスバリア層の厚みが0.1μm〜10μmであって、該ガスバリア層の酸素透過度が60cc/m2・day・atm以下であり、
隣接層間の屈折率差が0.15以下である、積層体。
染料A:波長390〜435nmに主吸収波長帯域を有する染料
染料B:波長480〜520nmに主吸収波長帯域を有する染料
染料C:波長580〜620nmに主吸収波長帯域を有する染料
染料D:波長680〜780nmに主吸収波長帯域を有する染料
【請求項2】
前記のガスバリア層に含まれる結晶性樹脂の結晶化度が25%以上であり、隣接層間の屈折率差が0.10以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記ガスバリア層の酸素透過度が0.001cc/m2・day・atm以上60cc/m2・day・atm以下であり、隣接層間の屈折率差が0.06以下である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
樹脂と、下記の染料A〜Dの少なくとも1種を含む染料と、染料の褪色防止剤とを含有する波長選択吸収層、及び、該波長選択吸収層の少なくとも片面に直接配されたガスバリア層を含む積層体であって、
前記ガスバリア層が結晶性樹脂を含有し、該ガスバリア層の厚みが0.1μm〜10μmであって、該ガスバリア層の酸素透過度が60cc/m2・day・atm以下であり、
前記染料B及びCの少なくとも一方が、下記一般式(1)で表されるスクアリン系色素である、積層体。
染料A:波長390〜435nmに主吸収波長帯域を有する染料
染料B:波長480〜520nmに主吸収波長帯域を有する染料
染料C:波長580〜620nmに主吸収波長帯域を有する染料
染料D:波長680〜780nmに主吸収波長帯域を有する染料
【化1】

上記式中、A及びBは、各々独立して、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基又は−CH=Gを示す。Gは置換基を有していてもよい複素環基を示す。
【請求項5】
前記染料Aが下記一般式(A1)で表される色素である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の積層体。
【化2】

上記式中、R1及びR2は、各々独立に、アルキル基又はアリール基を示し、R3〜R6は、各々独立に、水素原子又は置換基を示し、R5とR6は互いに結合して6員環を形成していてもよい。
【請求項6】
前記染料Dが、下記一般式(D1)で表される色素および下記一般式(1)で表される色素の少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層体。
【化3】

上記式中、R1AおよびR2Aは、各々独立に、アルキル基、アリール基またはヘテロアリール基を示し、R4AおよびR5Aは、各々独立に、ヘテロアリール基を示し、R3AおよびR6Aは、各々独立に、置換基を示す。X1およびX2は、各々独立に、−BR21aR22aを示し、R21aおよびR22aはそれぞれ独立に置換基を示し、R21aおよびR22aは互いに結合して環を形成していてもよい。
【化4】

上記式中、A及びBは、各々独立して、置換基を有していてもよいアリール基、置換基 を有していてもよい複素環基又は−CH=Gを示す。Gは置換基を有していてもよい複素環基を示す。
【請求項7】
前記褪色防止剤が下記一般式(IV)で表される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の積層体。
【化5】

上記式中、R10は、各々独立に、アルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロ環基又はR18CO−、R19SO2−若しくはR20NHCO−で表される基を示し、R18、R19及びR20は、各々独立に、アルキル基、アルケニル基、アリール基又はヘテロ環基を示す。R11及びR12は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基又はアルケニルオキシ基を示し、R13〜R17は、各々独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基又はアリール基を示す。
【請求項8】
前記の波長選択吸収層における樹脂がポリスチレン樹脂を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項9】
前記の波長選択吸収層における樹脂が環状ポリオレフィン樹脂を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項10】
前記波長選択吸収層が前記染料A〜Dの4種全てを含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項11】
前記積層体が、前記ガスバリア層に対して前記波長選択吸収層とは反対側に配置された紫外線吸収層と、粘着剤層及び接着剤層の少なくとも1層とを含み、該積層体中における隣接層間の屈折率差がいずれも0.05以下である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項12】
前記波長選択吸収層が、伸張性樹脂成分及び剥離性制御樹脂成分の少なくとも1種を含有していてもよく、
前記波長選択吸収層中における、前記樹脂、前記伸張性樹脂成分及び前記剥離性制御樹脂成分の含有量の合計が50〜99.90質量%である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の積層体を含む有機エレクトロルミネッセンス表示装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2023-12-26 
出願番号 P2021-551438
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (G02B)
P 1 651・ 113- YAA (G02B)
P 1 651・ 121- YAA (G02B)
P 1 651・ 537- YAA (G02B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 大▲瀬▼ 裕久
井口 猶二
登録日 2022-11-16 
登録番号 7178509
権利者 富士フイルム株式会社
発明の名称 積層体及び有機エレクトロルミネッセンス表示装置  
代理人 弁理士法人イイダアンドパートナーズ  
代理人 弁理士法人イイダアンドパートナーズ  
代理人 赤羽 修一  
代理人 飯田 敏三  
代理人 赤羽 修一  
代理人 飯田 敏三  

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