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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E02F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  E02F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E02F
管理番号 1407865
総通号数 27 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-03-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-10-20 
確定日 2024-02-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第7263288号発明「ショベル及びショベル用のシステム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7263288号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7263288号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、令和2年4月28日にされた特許法第44条第1項の規定による特許出願であって、平成25年3月19日に出願した特願2013−57399号を最先の出願とする、いわゆる第3世代の分割出願であるところ、出願の分割の経緯は次のとおりである。なお、括弧内は当該出願の提出日を示す。

最先の出願:特願2013−57399号 (平成25年 3月19日)
第1世代 :特願2016−231735号(平成28年11月29日)
第2世代 :特願2018−156226号(平成30年 8月23日)
本願 :特願2020−79853号 (令和 2年 4月28日)

そして、令和5年4月14日にその特許権の設定登録がされ、同年同月24日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和5年10月20日に特許異議申立 徳田 久子(「徳」は旧字体(「心」の上に「一」)。以下「申立人」という。)は、請求項1及び2についての特許に対し特許異議の申立てを行った。
(なお、申立人が提出した特許異議申立書は、以下「申立書」という。)


第2 本件発明
特許第7263288号(以下「本件特許」という。)の請求項1及び2の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
下部走行体と、
前記下部走行体に旋回自在に搭載される上部旋回体と、
前記上部旋回体の前方中央部に備えられる掘削アタッチメントと、を含んで構成されるショベルであって、
前記ショベルの周囲における人を検出する機能を有する制御部を有し、
前記制御部は、ゲートロックレバーによって切り換えられる前記ショベルの状態が作業不可状態、及び、作業可能状態、の何れであっても前記ショベルの周囲における人を検出し、作業不可状態で前記ショベルの周囲における人を検知すると作業不可状態を継続し、操作者が前記ゲートロックレバーによって前記ショベルの状態を作業不可状態から作業可能状態へ切り換えようとしても、作業不可状態を継続する、
ショベル。
【請求項2】
下部走行体と、前記下部走行体に旋回自在に搭載される上部旋回体と、前記上部旋回体の前方中央部に備えられる掘削アタッチメントと、を含んで構成されるショベルに用いられるショベル用のシステムであって、
前記ショベルの周囲における人を検出する機能を有する制御部を有し、
前記制御部は、ゲートロックレバーによって切り換えられる前記ショベルの状態が作業不可状態、及び、作業可能状態、の何れであっても前記ショベルの周囲における人を検出し、作業不可状態で前記ショベルの周囲における人を検知すると作業不可状態を継続し、操作者が前記ゲートロックレバーによって前記ショベルの状態を作業不可状態から作業可能状態へ切り換えようとしても、作業不可状態を継続する、
ショベル用のシステム。」

第3 申立理由の概要
申立人は、概略、以下の理由を主張している。
〔申立理由1(サポート要件)〕
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、いずれも、発明の詳細な説明に記載された発明ではないため、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさない。したがって、本件特許は特許法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
〔申立理由2(明確性)〕
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、いずれも、明確でないから、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさない。したがって、本件特許は、特許法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
〔申立理由3(分割要件違反に基づく新規性進歩性
本件出願は出願分割の実体的要件を満たしておらず、かつ、本件特許の請求項1及び2に係る発明は、その現実の出願日である令和2年4月28日よりも前に日本国内又は外国において頒布された刊行物(甲第1号証)に記載された発明であり、または当該発明に基づいていわゆる当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。したがって、本件請求項1及び2に係る特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
〔申立理由4(進歩性)〕
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、原出願日である平成25年3月19日よりも前に日本国内又は外国において頒布された刊行物(甲第2号証)に基づいていわゆる当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。したがって、本件請求項1及び2に係る特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

〔証拠一覧〕
甲第1号証:特開2014−181509号公報
甲第2号証:特開平5−93431号公報
甲第3号証:特開2012−170182号公報
甲第4号証:特開2005−98101号公報
甲第5号証:特開2004−76351号公報

以下、証拠の番号に従って、「甲1」等ということがある。

第4 文献の記載
1 甲第2号証
(1)甲2の記載
甲2には、以下の記載がある。(下線は当審で付した。)
ア 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、車両系建設機械の稼働中において、その作動範囲内に障害物の存在を、その機械に搭載した検出手段により感知したとき、自動的に作動停止手段を作動させ、かつ、上記障害物が存在しなくなったときの作動停止手段の自動解除時の安全装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】車両系建設機械の作業範囲内または立入禁止範囲内に障害物が侵入したとき、運転者自らがそれを認知し、その運転操作を中止する方法のほか、かかる場合機械を自動停止させる手段が、従来から提案されており、その方法としては、上記障害物の存在を、その機械に取り付けた探査信号発信器と、該信号の障害物からの反射波を検出することのできる反射波検出器により感知したり、あるいは、障害物自体、たとえば、作業員等のような移動体に発信器を取りつけ、その発信器からの障害物信号を、機械に搭載した受信器によって感知し、それら障害物が危険範囲にあるときは自動的に機械のエンジンを停止させたり、各部作動用の操作レバーの操作を無効にしたりする方法がなされていた。
【0003】例えば、図3は上記後者に属する例であるが、図における移動性の障害物は作業員21である場合を示し、22はその頭部に取り付けられた発信器、23は車両系建設機械の代表例としてのブルドーザで、これに発信器24、24、・・・が取付けてある。図4はエンジン停止手段を示すブロック図であり、燃料カットソレノイド25に通電している状態を示し、該ソレノイド25は始動スイッチ26、リレー27の常閉接点28aを介して電源29の正極に接続されている。受信器24は、コントローラ30に接続しており、コントローラ30の出力側は、リレー27のリレーコイル28bに接続している。
【0004】以上のような構成で、始動スイッチ26をONにすると電源29の電流は、始動スイッチ26、リレー27の常閉接点28aを介してソレノイド25に通電される。ソレノイド25に通電すると図示していない燃料コントロールリンケージを介し、燃料ガバナをフリーにして燃料噴射ポンプから燃料がエンジンに流れる状態になる。このような状態で図3に示す作業員21がブルドーザ23の近傍にいると、作業員21が携帯する発信器22の発信する信号を受信器24が受信し、受信器24の信号はコントローラ30に入力され増幅されて、リレー27のリレーコイル28bに通電され、その結果、常閉接点28aはOFFとなり、ソレノイド25には電流は流れず、燃料噴射ポンプから燃料が流れずエンジンは停止するようになっている。上記の例に示す従来の技術においては、受信器24が障害物の存在を検知して信号を発すると、コントローラ30はエンジンを停止させる役目を果たすので、ブルドーザ23は、その操作レバー20の操作の有無に関係なく走行および作業装置の作動を共に停止させてしまう。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】このように、停止装置を作動させて機械の作動の全部または一部を停止させ、事故や災害を未然に防止することに関し、従来から、この例に類似の方法が提案されているが、この停止処置のあと作業を再開するにあたって、全く危険の無いことを自動的に検知したうえで停止状態の解除をする方法については提案がなされていない。かかる停止状態の解除については、建設機械の種類により多少の差異は有るが、概ね共通的に次のような停止状態の解除条件と、その時の問題点が存在するものである。すなわち、
【0006】第1の条件として、その機械の作動範囲内または立入禁止範囲内に障害物が存在する間は引続いて、作動停止状態が保持されているが、その範囲内の障害物が存在しなくなれば作動停止状態が解除されるシステムの場合においては、その解除時に運転者が操作レバーを操作状態にしていると、機械の該当部分が急に作動することとなり、甚だ危険である。
【0007】第2の条件として、障害物検出手段からの信号により作動停止状態に保持されているとき、運転者が安全であると判断して停止信号をスイッチ操作により、強制的に解除できるシステムのときでは、その作動範囲内、立入禁止範囲内に複数の障害物が存在して、運転者が安全確認をなし得る限度を超えるようなとき、未確認障害物が存在するまま、運転を再開する可能性が有るので安全とは云いきれない。
【0008】次に、第3の条件として、装置が作用して作動停止状態が保持され、これを解除するときは、その都度運転者のスイッチ操作により行うのであるが、この解除スイッチを操作しても作動範囲、立入禁止範囲に障害物が存在したときは解除無効となり、作動停止状態が持続するシステムのときは、どのような操作レバーの操作がなされていようとも、全く危険はないが、改めて何度もスイッチ操作をする必要があり、操作は複雑多岐となる。このシステムの1つとして図3、図4に例示する従来技術は障害物を感知する毎に、エンジンが停止状態となり、復帰にはかならず始動スイッチを操作しなければならない。この発明は、これらの点をすべて考慮した停止状態の解除をなし、解除後の安全な作業の再開ができる条件を自動的に得ることを課題とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決のため、本発明は次のような手段を講じた。すなわち、車両系建設機械から探査信号を発信し、所定の範囲内にある障害物からの反射波を感知する検出器、または、上記のごとき障害物からの信号を検出する検出器により当該障害物を検知して障害物信号を出力する障害物検出手段と、機械操縦用の1または複数の操作レバーが、中立位置にあるときに中立信号を出力する中立検出手段と、前記障害物信号が引続き入力されると制御信号を出力するが、該障害物信号の入力が消滅し、かつ、上記中立信号が入力していると制御信号の出力を停止するコントローラと、該コントローラからの制御信号により前記1または複数の操作レバー操作行為を無効とするが、該制御信号が消滅すると、操作レバーの無効行為を、自動的に解除する作動停止手段と、を設ける。
【0010】車両系建設機械を運転しているとき、その作動範囲内、または立入禁止範囲内に障害物が存在すると、障害物信号がコントローラに入力され、該コントローラからは作動停止手段へ制御信号が入力されるので、すべての操作レバーの操作は無効となり、機械の、移動・作業行為などを含む作動は停止する。この時、各操作レバーの総てを中立に復帰させておき、前記作動または立入禁止範囲内から障害物が取り除かれると、コントローラからの制御信号は、作動停止手段に入力しなくなるので、作動停止は自動的に解除され、操作レバーにより自由に操縦可能となる。なお、障害物が取り除かれても、総ての操作レバーが、その時に中立位置にあって、中立信号がコントローラに入力されない限り、上記制御信号は消滅しない。」

イ「【0011】
【実施例】以下、この発明の実施例を図に基づいて説明する。図1はこの発明を全油圧式車両系建設機械に適用してときの1例を示すブロック図である。そうして、油圧系統の切換制御をリモートコントロール弁からのパイロット油圧で行う方式のものについて述べる。図において、6、7、8、9は、それぞれ、走行用、作業装置作動用油圧アクチュエータに圧油を分配する油圧切換弁(いずれも図示省略)の切換操作をするリモートコントロール弁であり、それらの操作レバーを操作することにより、それぞれのパイロット管路14、14、14、・・・にパイロット圧を発生させる。15、15、15、・・・は、上記リモートコントロール弁6、7、8、9で発生し、それぞれ2つのパイロット管路14に供給されるパイロット圧油のうち高い側の有効パイロット圧を選択的に取り出し、パイロット管路で、中立検出手段1に導くシャトル弁である。
【0012】この中立検出手段は各パイロット管路からのパイロット圧油の有無を検出し、総ての管路にパイロット圧が発生していないときは、中立信号をコントローラへ入力する作用をなすもので、例えば、各シャトル弁15からのパイロット管路の端末に設けた圧力スイッチと電源とを直列に接続した従来技術のものであってもよい。10,11,12,13は機体の外周にあり、障害物が存在する可能性のある方向に向けて設けた検出器であり、障害物を検知してそれに対応する信号を出力するもので、単数の場合、複数の場合など、その機械の形態、作動条件、作業環境に応じて増減され、それぞれの信号は障害物検出手段2へ導かれる。該障害物検出手段2は、1または複数の上記検出器のうちの1つからでも障害物を検知した信号が入力されると、コントローラ3に向けて障害物信号を出力する。
【0013】4および5は作動停止手段であり、制御信号が入力されている間だけ、機械の作動を停止せしめるが、その入力が消滅すると自動的に、元の状態に復帰するような機能で、例えば、制御信号が作動停止手段4に入力されると、走行用油圧アクチュエータへの管路を閉路し、その作動を停止せしめるが、信号が消滅すると復帰したり、あるいは、作動停止手段5に入力されると、作業装置の作動の全部または1部、もしくは1方向のみを停止せしめ、信号が消滅すると自動復帰したり、上記各作動用の操作レバーの操作を無効にしたりするもので、機械の種類、作業内容に応じた作動停止手段の様々な実施態様がある。
【0014】さらに、コントローラ3は前述したように、中立検出手段1からの中立信号と、障害物検出手段2からの障害物信号と、がその都度導かれるようになっているが、このコントローラ3の機能は、図2のフローチャートにも示すとおり、障害物信号が入力しているかぎり、作動停止手段4、5は制御信号を出力し、しかも、中立検出手段1からの中立信号が入力されない限り、たとえ、障害物信号の入力が消滅しても、該制御信号を引き続き出力する機能を有している。
【0015】以上の構成と機能の説明においても明らかなように、この発明の実施例における検出器が障害物を検知すると、作動停止手段が作動して機械の作動は中止されるが操作レバーなど、操作系の総てが中立位置に設定されないかぎり、作動停止手段の機能は自動復帰しないから、前述の、発明が解決しようとする課題において述べた第1の条件、第2の条件、第3の条件における問題点の総てを満たすものであり、障害物信号が出力されず、かつ、操作系のレバー類が中立であるときに限り機械運転の再開が可能となるようにしてある。上述の実施例においては、中立検出手段1としてパイロット油圧の有無を検出する方法としたが、勿論、この他に、機械的または電気的手段により中立操作位置であることを検出すればよく、また、作動停止手段4、5として、操作用のパイロット油圧を無効にする方法以外にも、動力伝達媒体である主回路圧油を開閉したり、機械伝達系の動力断接機構を作動させたりすることも、当然含まれるものであることは当然である。
【0016】
【発明の効果】この発明にかかる安全装置を車両系建設機械に装備しておくと、機械運転中において、作業装置の作動範囲内または立入禁止範囲内など、所定範囲に障害物が存在すると、障害物検出手段により障害物信号がコントローラに入力され、該コントローラは作動停止手段に対し制御信号を出力するので、機械の総ての作動は停止する。ついで、障害物信号が消滅し、かつ、中立信号がコントローラに入力されていると制御信号の出力はなくなり、作動停止手段の機能は自動的に解除され、元の操作を可能にするようにしてあるから、障害物の接近により作動停止となり、運転者が操作レバーを操作した状態にあるとき障害物が取り除かれても、急に作動が再開されることはないので、その切換わり時点での不意な作動が原因で事故を引き起こすようなことはなく、また、複数の障害物の侵入があるとき、運転者の見落としによる危害の発生もない安全装置がえられ、かつ、総て自動的に作動の停止とその解除がなされるので、運転にあたり、特別の注意や操作も必要とせず容易、かつ、安全である。」

ウ 図面
(ア)図1




(イ)図2




(ウ)図3




(エ)図4




(2)甲2発明
上記(1)を総合すると、甲2には次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認める。
「走行用、作業装置作動用油圧アクチュエータに圧油を分配する油圧切換弁の切換操作をするリモートコントロール弁6、7、8、9と、
それらの操作レバーを操作することにより、それぞれにパイロット圧が発生するパイロット管路14、14、14・・・と、
上記リモートコントロール弁6、7、8、9で発生し、それぞれ2つのパイロット管路14に供給されるパイロット圧油のうち高い側の有効パイロット圧を選択的に取り出し、パイロット管路で、中立検出手段1に導くシャトル弁15、15、15・・・と、
各パイロット管路からのパイロット圧油の有無を検出し、総ての管路にパイロット圧が発生していないときは、中立信号をコントローラへ入力する作用をなす中立検出手段と、
機体の外周にあり、障害物が存在する可能性のある方向に向けて設けられ、障害物を検知してそれに対応する信号を出力するもので、それぞれの信号は障害物検出手段2へ導かれる検出器10,11,12,13と、
上記検出器から障害物を検知した信号が入力されると、コントローラ3に向けて障害物信号を出力する障害物検出手段2と、
制御信号が入力されている間だけ、機械の作動を停止せしめるが、その入力が消滅すると自動的に、元の状態に復帰するような機能を有しており、
制御信号が作動停止手段4に入力されると、走行用油圧アクチュエータへの管路を閉路し、その作動を停止せしめるが、信号が消滅すると復帰したり、あるいは、作動停止手段5に入力されると、作業装置の作動の全部または1部、もしくは1方向のみを停止せしめ、信号が消滅すると自動復帰したり、上記各作動用の操作レバーの操作を無効にしたりするものである、作動停止手段4および5と、
中立検出手段1からの中立信号と、障害物検出手段2からの障害物信号と、がその都度導かれるようになっているが、障害物信号が入力しているかぎり、作動停止手段4、5は制御信号を出力し、しかも、中立検出手段1からの中立信号が入力されない限り、たとえ、障害物信号の入力が消滅しても、該制御信号を引き続き出力する機能を有しているコントローラ3と、
を備える、全油圧式車両系建設機械。」

第5 当審の判断
上記第3で示した申立人が主張する理由について、以下検討する。
1 申立理由1(サポート要件)
(1)判断基準
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。

(2)判断基準に基づく判断
上記(1)の判断基準に基づいて判断する。
ア 本件発明1及び2が解決しようとする課題について
(ア)発明の詳細な説明の記載
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。
「【背景技術】
【0002】
従来、ショベルに搭載される障害物検出器の監視範囲内で作業者が検出された場合に警報音を発する周辺監視装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。また、ショベルの周囲に設定した作業エリア内に進入した作業者が共同作業者であるか否かをその作業者のヘルメットに取り付けられたLEDの発光パターンから判断して警報音を出力させるか否かを決定する警報システムが知られている(例えば、特許文献2参照。)。また、フォークリフトとその近傍(周り)で作業を行う作業者との間で通信を行い、この通信に基づいて警報音の出力を制御する安全装置が知られている(例えば、特許文献3参照。)。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1〜3の技術は何れも、所定範囲内に進入した作業者を確実に検出できることを前提としており、所定範囲内で作業する作業者を検出し損ねる場合を想定していない。そのため、ショベル等の操作者は、警報音が止めば、所定範囲内で作業していた作業者が所定範囲外に退出したものと判断し、操作者自身による確認を行うことなくショベル等による作業を開始してしまうおそれがある。
【0005】
本発明は、より安全なショベルを提供することを目的とする。」

(イ)発明の詳細な説明の記載に基づく課題と対応する構成
上記(ア)の記載から、本件発明が解決しようとする課題は、「所定範囲内に侵入した作業者を確実に検出できることを前提としており、所定範囲内で作業する作業者を検出し損ねた場合を想定していない」場合に、「ショベル等の操作者は、警報音が止めば、所定範囲内で作業していた作業者が所定範囲外に退出したものと判断し、操作者自身による確認を行うことなくショベル等による作業を開始してしまうおそれがある」ことである。
そして、上記課題からみて、「警報音」が鳴っているときは、通常作業を行ってはいけない状態であるところ、該「警報音」が止んだ状態においても、「所定範囲内で作業する作業者を検出し損ね」ないように、「操作者自身による確認を行」ってから作業を開始すべきであることが理解できる。

イ 課題を解決できると当業者が認識できるものか否かについて
本件発明1及び2は、「制御部」が「ゲートロックレバーによって切り換えられる前記ショベルの状態が作業不可状態、及び、作業可能状態、の何れであっても前記ショベルの周囲における人を検出」するものであって、「作業不可状態で前記ショベルの周囲における人を検知すると作業不可状態を継続し、操作者が前記ゲートロックレバーによって前記ショベルの状態を作業不可状態から作業可能状態へ切り替えようとしても、作業不可状態を継続する」構成を備えていることからみて、上記ア(イ)の「作業を行ってはいけない状態」である「作業不可状態」であっても、「ショベルの周囲における人を検出すると作業不可状態を継続」することにより、「操作者が」誤って「ゲートロックレバーによって前記ショベルの状態を作業不可状態から作業可能状態へ切り替えようとしても、作業不可状態を継続」することで、結果的に、「所定範囲内で作業する作業者を検出し損ね」ないように、「操作者自身による確認」を促すことができるものと認められる。
よって、本件発明1及び2は、発明の詳細な説明に記載された課題を解決し得るものと当業者が認識できるものである。

ウ 申立人の主張について
(ア)申立人は、
(a)本件明細書の発明の詳細な説明に記載されている解決課題は、所定範囲内に作業者が進入したときに警報音を出力する先行技術において、警報音が止まったときに作業者が前記所定範囲の外に退出したと操作者が判断して操作者自身による確認を行うことなく作業を開始してしまうことにあると解せられるが、本件請求項1及び2のそれぞれにおいて制御部の行う制御は、ゲートロックレバーにより切り換えられた作業不可状態において人が検知されたときに操作者の意思にかかわらず作業不可状態を継続することを特定しているに過ぎず、このような構成のみによって警報音の停止にかかわらず操作者自身に人の退出の確認を促すことができる理由は全く認められない、
(b)本件請求項1及び2において特定されているのは、ゲートロックレバーにより切り替えられた作業不可状態において人が検知されたときに操作者の意思にかかわらず作業不可状態を継続することのみであって作業可能状態での制御については何も特定されておらず、ゲートロックレバーによる作業不可状態で人を検知したときに当該作業不可状態を維持するものであれば(作業可能状態での制御如何にかかわらず)全ての態様を包含するような範囲まで発明の範囲を拡張乃至一般化することは、出願時の技術常識に照らしても不可能である、
から、本件請求項1及び2の記載は、発明の詳細な説明に記載された課題を明らかに解決し得ない態様を含む程度まで発明の範囲を不当に拡張乃至一般化するものである旨(申立書8頁8〜末行、9頁12〜16行、10頁4〜7行)、主張している。

(イ)しかしながら、本件発明1及び2の上記イの構成により、操作者自身による確認を促すこととなるし(上記(ア)(a))、また、上記課題によれば、上記の作業不可状態を維持するものであれば良いことが理解できるから(上記(ア)(b))、申立人の主張は採用できない。

(3)申立理由1のまとめ
上記(1)及び(2)のとおりであるから、本件発明1及び2は、発明の詳細な説明に記載したものである。

2 申立理由2(明確性
(1)申立人の主張について
申立人は、本件請求項1及び2の「操作者が前記ゲートロックレバーによって前記ショベルの状態を作業不可状態から作業可能状態へ切り換えようとしても」という記載は単に操作者の意思を表しているに過ぎないから、具体的にどのような場合に「作業不可状態を継続する」のかを客観的に特定することができない旨(申立書10頁15〜19行)、主張する。

(2)判断
申立人が指摘した「操作者が前記ゲートロックレバーによって前記ショベルの状態を作業不可状態から作業可能状態へ切り換えようとしても」に続いて「作業不可状態を継続する」との記載において、「作業不可状態から作業可能状態に切り替えようと」するに際し、「操作者が前記ゲートロックレバーによって」と特定されていることから、操作者がゲートロックレバーを操作し、その操作によってしても「作業不可状態」が「継続」されることを意味することは明らかであるから、単に操作者の意思を表しているものではなく、申立人の主張は採用できない。
よって、本件発明1及び2は明確である。

3 申立理由3(分割要件違反に基づく新規性進歩性
申立人は、申立理由1(サポート要件)で述べたとおり、本件請求項1及び2に係る発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明以外の発明を包含するものであるところ、本件明細書及び図面の記載(以下「明細書等の記載」と称する。)は原出願、子出願及び孫出願(以下「原出願等」と称する。)のそれぞれの明細書等の記載と同等であるから、本件請求項1及び2に係る発明は原出願等の明細書等に開示された発明以外の発明を含むものであり、よって特許法第44条第1項に規定される分割出願として出願日の遡及が認められるべきものではないことから、本件請求項1及び2に係る発明は、いずれも、本件出願の現実の出願日よりも前に公開された前記原出願の特許公開公報(甲第1号証:以下「原出願公開公報」と称する。)に記載された発明(以下「原出願開示発明」と称する。)との対比において何ら相違点を有するものではなく、新規性を欠如するものであるか、少なくとも進歩性を欠如するものである旨(申立書11頁14〜22行、13頁2〜6行)、主張する。
しかしながら、上記1(サポート要件)で検討したとおり、本件発明1及び2は、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、サポート要件違反による分割要件違反に基づいて本件特許の出願日の遡及が認められないことを前提とする新規性及び進歩性違反の主張は採用できない。
よって、本件発明1及び2は、甲第1号証に記載された発明ではなく、該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

4 申立理由4(進歩性
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明を対比する。
(ア)本件発明1の「下部走行体と、前記下部走行体に旋回自在に搭載される上部旋回体と、 前記上部旋回体の前方中央部に備えられる掘削アタッチメントと、を含んで構成されるショベル」と、甲2発明の「全油圧式車両系建設機械」とは、「車両系建設機械」において共通する。

(イ)上記第4の1(1)アの【0002】に「障害物自体、たとえば、作業員等」と記載され、同じく【0003】に「移動性の障害物は作業員21である場合を示し、」と記載されていることからみて、甲2発明の「障害物」は「人」ということができる。
また、「甲2発明の「機体の外周にあり、障害物が存在する可能性のある方向に向けて設けられ、障害物を検知してそれに対応する信号を出力するもので、それぞれの信号は障害物検出手段2へ導かれる検出器10,11,12,13と、上記検出器から障害物を検知した信号が入力されると、コントローラ3に向けて障害物信号を出力する障害物検出手段2と、」「を備える」構成において、「検出器10,11,12,13」と「障害物検出手段2」は、周囲の人を検出する機能を有する制御部」といえる。
してみると、本件発明1の「前記ショベルの周囲における人を検出する機能を有する制御部を有」することと、甲2発明の上記構成とは、「周囲における人を検出する機能を有する制御部を有」することで共通する。

(ウ)以上のことから、本件発明1と甲2発明とは、
「周囲における人を検出する機能を有する制御部を有する、
車両系建設機械。」で一致するものの、以下の2点で相違する。
〔相違点1〕
車両系建設機械について、本件発明1は「下部走行体と、前記下部走行体に旋回自在に搭載される上部旋回体と、前記上部旋回体の前方中央部に備えられる掘削アタッチメントと、を含んで構成されるショベル」であるのに対し、甲2発明は、「全油圧式車両系建設機械」であって、本件発明1のようなショベルであるとの特定がない点。
〔相違点2〕
制御部について、本件発明1は、「ゲートロックレバーによって切り換えられる前記ショベルの状態が作業不可状態、及び、作業可能状態、の何れであっても前記ショベルの周囲における人を検出し、作業不可状態で前記ショベルの周囲における人を検知すると作業不可状態を継続し、操作者が前記ゲートロックレバーによって前記ショベルの状態を作業不可状態から作業可能状態へ切り換えようとしても、作業不可状態を継続する」のに対し、甲2発明は、ゲートロックレバーを備えているか不明であって、そのために、本件発明1のようなゲートロックレバーによって切り換えられる作業不可状態及び作業可能状態の切り換えに係る制御内容も特定されていない点。

イ 判断
以下、上記相違点1及び2について検討するところ、事案に鑑み、まず相違点2から検討する。
(ア)相違点2について
a 甲2発明の「制御信号が入力されている間だけ、機械の作動を停止せしめるが、その入力が消滅すると自動的に、元の状態に復帰するような機能を有しており、
制御信号が作動停止手段4に入力されると、走行用油圧アクチュエータへの管路を閉路し、その作動を停止せしめるが、信号が消滅すると復帰したり、あるいは、作動停止手段5に入力されると、作業装置の作動の全部または1部、もしくは1方向のみを停止せしめ、信号が消滅すると自動復帰したり、上記各作動用の操作レバーの操作を無効にしたりするものである、作動停止手段4および5」は、本件発明1における「作動不可状態」及び「作動可能状態」の切り換えに関する制御を行っているが、甲2発明は、ゲートロックレバーを備えるか不明であるから、該制御とゲートロックレバーの操作との関係も不明である。

b そこで甲3〜甲5をみると、ゲートロックレバーにより操作され、操作レバーによる油圧機器の操作が不可能になるロック位置と、可能になるロック解除位置とに切り替えられるゲートロックスイッチが記載されており、該記載からみて、該記載の構成が本件特許の出願前に周知技術であったといえる。
しかしながら、上記aで述べたとおり、甲2発明において、該制御とゲートロックレバーの操作との関係は不明であり、逆に甲3〜甲5で示された上記周知技術において、周囲の人を検知することとの関係も不明であるから、甲2発明に該周知技術を適用する動機付けがあるとはいえず、仮に適用したとしても、上記相違点2に係る本件発明1の構成にはなり得ない。

c 請求人は、甲2(図4)には、前記コントローラ30は、始動スイッチ26がオフである作業不可状態において受信器24により作業員21を検知するとリレー27の常閉接点28aをオフにして回路を遮断することにより作業不可状態を継続し、操作者が前記始動スイッチ26をオンにして作業機械の状態を作業不可状態から作業可能状態へ切り換えようとしても前記常閉接点28aのオフによって作業不可状態を継続するコントローラ30が記載されており、作業可能状態と作業不可能状態との切り替える手段として、甲2発明の始動スイッチ26を、上記周知技術のゲートロックレバーに置き換えることは、当業者が容易になし得たことである旨(申立書25頁20〜25行、27頁19〜23行)、主張している。
しかしながら、甲2の図4に係る構成は、甲2において甲2発明の従来技術を示すに過ぎないものであって、甲2発明が備えるものではないから、該構成に周知技術を付加するとの主張は採用できるものではない。
また、甲2の従来技術における始動スイッチ26のオン・オフにより得られる作動不可状態及び作動可能状態は、エンジンが停止する状態とエンジンに燃料が流れる状態を意味するものであって、エンジンが停止する状態をどのように維持するのかまでは記載されていないから、始動スイッチ26をゲートロックレバーに換える動機付けは存在しないし、仮に替えたとしても上記相違点2に係る本件発明1の構成とはなり得ない。

(イ)小括
以上のとおりであるから、上記相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明及び周知技術(甲3〜甲5)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1のショベルをショベル用システムの発明にして書き下したものであるから、本件発明1と実質的に同じ発明ということができる。
よって、上記(1)で検討した理由と同じ理由により、本件発明2は、甲2発明及び周知技術(甲3〜甲5)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。


第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2024-02-08 
出願番号 P2020-079853
審決分類 P 1 651・ 113- Y (E02F)
P 1 651・ 121- Y (E02F)
P 1 651・ 537- Y (E02F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 居島 一仁
特許庁審判官 西田 秀彦
住田 秀弘
登録日 2023-04-14 
登録番号 7263288
権利者 住友重機械工業株式会社
発明の名称 ショベル及びショベル用のシステム  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  

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