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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C10B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C10B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C10B 審判 全部申し立て 2項進歩性 C10B |
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管理番号 | 1407874 |
総通号数 | 27 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2024-03-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2023-11-13 |
確定日 | 2024-02-27 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第7276044号発明「ブロック耐火物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7276044号の請求項1〜3に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許(特許第7276044号)の請求項1〜3に係る特許についての出願は、令和元年9月25日の出願であって、令和5年5月10日に特許権の設定登録(請求項の数3)がされ、同年同月18日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1〜3に係る特許に対し、令和5年11月13日に特許異議申立人 渡辺 郁子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明及び明細書の記載 1 本件発明 本件特許の請求項1〜3に係る発明(以下「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」ということもある。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 コークス炉の上部構造体として施工されるブロック耐火物であって、 ブロック1個当たりの質量が、前記ブロック耐火物の400℃における線熱膨張率xを用いて、(1)式により算出される値yの115%以下であり、 奥行きに対する高さの比である縦横比は、0.2以上0.5以下であり、 組成がSiO2≧90mass%である、ブロック耐火物。 y=24x−3・・・(1) x:400℃における線熱膨張率(%) y:ブロック1個当たりの質量(kg) 【請求項2】 前記コークス炉の炉長方向において、窯口から3m以内に施工される、請求項1に記載のブロック耐火物。 【請求項3】 前記ブロック1個当たりの質量が、(1)式により算出される値yの30%以上である、請求項1または2に記載のブロック耐火物。」 2 本件明細書の記載 本件明細書には、次の記載がある。 「【0004】 そこで、従来、プレキャストブロック工法と呼ばれる工法が提案されている(例えば、特許文献1,2)。プレキャストブロック工法は、炉外で事前に、コンクリートのように流し込み成形や振動成形により、所定サイズのブロック耐火物を製造し、このブロック耐火物を積み上げることでコークス炉が築炉される。また、コークス炉の築炉現場に直接型枠を組んで、耐火物原料を流し込んで現場施工することも考えられる(現場流し込み施工)。ただし、コークス炉の上部構造体は非常に大きく、また形状も複雑であるので、全体を一工程で流し込むことは不可能であり、前述したプレキャストブロックと同程度の所定サイズの範囲に型枠を組み、これへ耐火物原料を流し込むことになる。本発明では、このような流し込んだ所定サイズの耐火物も便宜上ブロックと呼ぶ。現場流し込み施工では、このように所定サイズのブロック耐火物を順次流し込み施工し、ブロック耐火物を積み上げたような構成のコークス炉が築炉される。 このようなプレキャストブロック工法や現場流し込み施工を採用することで、築炉期間の短縮が期待される。」 「【0006】 ところで、上記のプレキャストブロック工法や現場流し込み施工により製造されるブロック耐火物の大きさ(質量)は、ブロック耐火物の製造時の施工性や運搬性で決められることが一般的であった。ブロック耐火物をコークス炉へ据付ける際には、ブロック耐火物を大きくした方が据付けるブロック数が減るため効率が良い。しかし、ブロック耐火物を大きくするとコークス炉昇温時に亀裂を生じることが散見される問題があった。 そこで、本発明は、以上の点を鑑みてなされたものであり、コークス炉昇温時において亀裂を生じることが無いブロック耐火物を提供することを目的とする。」 「【0012】 コークス炉1の新設や大規模修繕時においてコークス炉1を昇温する際には、40日から80日の日数をかけて燃焼室の温度を、常温から約800℃まで徐々に昇温する。この理由は、急速な昇温によって珪石れんがに亀裂を生じさせないため、及び炉体の異常変形を生じさせないためである。この日数は一般的な珪石れんがの質量である約10kg/個のれんがを使用した場合であり、長年の経験値により定められたものである。したがって、れんがの大きさが変わった時の最適な昇温日数は不明である。昇温日数を極端に長くすれば、れんがの亀裂や炉体の異常変形を防ぐことができると考えられるが、その分操業開始が遅くなり非効率となる。 【0013】 そこで、本実施形態では従来と同様に40日から80日の日数で昇温することを前提とする。 一般的に、コークス炉昇温時の耐火物に生じる亀裂は、耐火物に生じる熱応力によるものが主である。 コークス炉の昇温時には、炉長方向の中央部は温度が上がりやすく、窯口31は温度が上がりにくい傾向がある。ここで、本発明者は、一般的なコークス炉の寸法やれんが形状において昇温時における伝熱解析を行った。伝熱解析の結果、炭化室3の炉壁の耐火物の温度差が最も大きくなるのは、炉長方向の中央側の温度が約400℃になる時点であることがわかった。温度差が最大となるときの伝熱解析による温度分布を図4に示す。図4は、炭化室3の炉壁を炉長方向に2分割した1/2対象モデルにおける温度分布であり、右端が炉長方向の中央、左端が窯口31である。また、図4において、炉壁の厚みは、400mmとした。この時の最高温度は399.3℃であり、その部位は中央部付近であった。一方最低温度は、窯口下部の168.3℃であり、中央部と窯口下部との温度差は約230℃と大きい。また、炉壁の高さ方向よりも奥行方向(図4の左右方向である炉長方向)の方が、温度差が大きいことがわかる。 【0014】 そこで、本発明者は、ブロックの大きさ(質量)や線熱膨張率を変えて、炭化室3の炉壁の中央部温度が約400℃となった時に発生する応力を熱応力解析により求めた。その結果、窯口31付近の熱応力は、ブロックの大きさや線熱膨張率によって大きく変わることがわかった。線熱膨張率は、JISR 2207−3「耐火物の熱膨張の試験方法−第3部:棒状試験片を用いる接触法」により測定されるものである。なお、本発明においては、線熱膨張率は、起点温度を100℃として測定されるものとする。 【0015】 さらに、本発明者は、従来の大きさの珪石れんがを用いた積み仕様において発生する熱応力を計算し、その熱応力と同等となるブロックの質量と線熱膨張率との関係を求めた。その結果を表1及び図5に示す。図5において、横軸は100℃から400℃に昇温した際の線熱膨張率(%)を示す。表1及び図5に示すように、ブロックの質量と400℃における線熱膨張率との関係は、累乗近似で表せることがわかった。さらに、この数式は、以下の(1)式のようになる。なお、(1)式において、xは400℃における線熱膨張率(%)を示し、yはブロック1個当たりの質量(kg)を示す。 y=24x−3・・・(1) 【0016】 【表1】 【0017】 (1)式により求めた400℃における線熱膨張率毎のブロック1個当たりの質量を、表1に合わせて示す。熱応力が一般的な大きさの珪石れんがと同等となるブロックの質量と(1)式により求めたブロック1個当たりの質量は、類似した値となることがわかる。すなわち、ブロック1個当たりの質量を(1)式により算定される質量以下とすることにより、発生する熱応力値は、従来の大きさの珪石れんがを用いた積み仕様において発生する熱応力値以下となる。その結果、コークス炉昇温時のブロックに亀裂を生じることが無くなる。 【0018】 なお、(1)式で算定されるブロック1個当たりの質量とした場合の熱応力値と一般的な大きさの珪石れんがの質量とした場合の熱応力値は、表1に示すように若干の誤差がある。その誤差はおおよそ±15%である。したがって、(1)式により算出される質量を15%程度上回った場合でも、実用上問題とはならない。つまり、ブロック1個当たりの質量を(1)式により算出される値yの115%以下としてもよい。好ましくは、ブロック1個当たりの質量xを(1)式により算出される値y以下とする。 【0019】 一方、解析の結果から、窯口31から3mよりも奥の位置では、ブロックが10トン/個と大きい場合でも線熱膨張率によらず熱応力が小さいことがわかった。すなわち、窯口31から3mよりも奥の位置では、ブロックの大きさの影響が小さいと言える。この理由は、温度差が小さいためである。例えば、炭化室3の炉壁の中央部の最高温度が約400℃の時、窯口31から3mの位置における温度は約380℃であり、中央部とは約20℃しか変わらない。したがって、ブロックの質量を(1)式により算出される質量以下とするのは、窯口31から3m以内に設置するブロックとすれば良い。 なお、窯口31から3mよりも奥に設置するブロックの質量は、製造効率や据付効率を考慮して決定すれば良い。したがって、炉長方向に対して窯口31から3m以内の位置に設置するブロックの質量と同じでも特に問題は無い。」 「【0022】 ブロック耐火物は、長方体状に形成された耐火物のブロックであり、上下方向、炉幅方向または炉長方向に、各辺がそれぞれ平行となるように配された状態で、上部構造体4に設けられる。なお、上部構造体4に設けられる状態における、ブロック耐火物の上下方向、炉幅方向及び炉長方向のそれぞれに対する長さを、高さ、厚み及び奥行きともいう。ブロック耐火物の炉幅方向の長さである厚みは、特に限定されず、コークス炉1の使用に基づいて適宜設定される。例えば、ブロック耐火物の厚みは、400mm程度に設定されてもよい。ブロック耐火物の上下方向の長さである高さ及び炉長方向の長さである奥行きは、特に限定されないが、奥行きに対する高さの比(高さ/奥行き)である縦横比が1以下、すなわち奥行きよりも高さが大きい横長であることが好ましい。また、縦横比は、0.2以上0.5以下であることがより好ましい。これは、縦横比が1超となる縦長の場合、ブロック耐火物をクレーンで吊った際のブロックの据え付け性や据え付け後の安定性が悪くなるためである。つまり、縦横比を1以下、好ましくは0.5以下とすることで、据え付け時の容易性や安定性を向上することができる。また、図4に示す解析結果より、炉壁の高さ方向よりも奥行方向の方が、温度差が大きくなることから、奥行きを大きくすることで熱応力が大きくなる。このため、縦横比を0.2以上とすることが好ましい。さらに、ブロック耐火物の組成は、SiO2≧90mass%とすることが好ましい。」 「【0026】 次に、本発明者が行った実施例について説明する。実施例では、表2に示すように400℃における線熱膨張率が0.13%、0.24%、0.35%または0.95%で、質量が25kgから10,000kgのプレキャストブロックをブロック耐火物として準備した。ブロックの縦横比は0.2〜0.5の範囲である。これらのプレキャストブロックを既存のコークス炉1の上部構造体4の窯口31の炉壁(炉璧の炉長方向の端部)に、積み替え用として所定数を設置した。そして、新設や大規模修繕時のコークス炉1を昇温する際と同様に、常温から800℃まで50日間とした条件で、コークス炉1を昇温させた。その後、昇温後に各ブロックの亀裂の有無を観察した。 【0027】 実施例の条件及び結果を表2に示す。表2に示すように、(1)式により算出される値yの115%を超える質量のブロックとした比較例1〜3では、亀裂の発生が確認された。一方、(1)式により算出される値yの115%以下の質量のブロックとした実施例1〜4では、亀裂の発生が全く無く、良好な結果が得られた。 【0028】 【表2】 」 「【図5】 」 第3 特許異議申立理由の概要 1 証拠方法の一覧 申立人は、次の甲第1号証〜甲第11号証を提出した。甲第1号証〜甲第11号証を、以下「甲1」〜「甲11」ともいう。 甲1:特開2017−137447号公報 甲2:特開2018−28030号公報 甲3:登録実用新案第3213337号公報[門1] 甲4:特開2019−112503号公報 甲5:特開2016−222758号公報 甲6:特開2016−210643号公報 甲7:東川夏海、「低膨張シリカ質キャスタブル」、品川技報、第56号、第101〜104頁、品川リフラクトリーズ株式会社技術研究所、2013年3月1日発行 甲8:小杉昌徳、「2.化学組成による耐火物の分類と材質の特徴」、耐火物手帳 改訂12版、第128〜131頁、耐火物技術協会、2015年8月31日発行 甲9:特開2001−26781号公報 甲10の1:日本規格協会編、「耐火物の熱膨張の試験方法−第1部:非接触法」、JISハンドブック 34 耐火物、第189〜190頁、財団法人日本規格協会、2010年6月22日発行 甲10の2:日本規格協会編、「耐火物の熱膨張の試験方法−第3部:棒状試験片を用いる接触法」、JISハンドブック 34 耐火物、第215〜216頁、財団法人日本規格協会、2010年6月22日発行 甲11:M.Sakai et al.、「Viscoelastic Indentation of Silicate Glasses」、Journal of the American Ceramic Society、85(5)、第1210〜1216頁、アメリカセラミック協会、2002年発行 2 申立理由1(新規性欠如) 本件発明1は、甲3に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 3 申立理由2(進歩性欠如) 本件発明1〜3は、甲1〜甲3に記載された発明、並びに甲3、5、6、9、10の2に記載された事項及び慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 4 申立理由3(サポート要件違反) 本件発明1〜3は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 5 申立理由4(実施可能要件違反) 本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明3について、実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないため、本件発明3は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 第4 甲号証の記載 1 甲1の記載 甲1には、次の記載がある。 「【請求項1】 コークス炉の燃焼室を補修する補修方法において、前記燃焼室を形成する壁体を複数個のブロックに分割して耐熱材で一体的に成形した一体成形ブロックを予め製作しておき、前記壁体を解体して炉外へ搬出した後、前記一体成形ブロックを搬入して、既存の前記壁体の端部に直角をなすように設けた2つの面に前記一体成形ブロックの端部を当接させて配置していき、前記壁体を新たに構築することを特徴とするコークス炉の燃焼室の補修方法。」 「【0008】 そこで、固着材からなる目地を減らすために、耐火煉瓦よりも大きい型枠に混練耐火物を流し込んで小型ブロック(高さ300mm程度)を成形する技術が検討されている。しかし、その小型ブロックを用いて補修工事を行なう場合には、寸法が小さい故に目地を減らす効果は十分に得られない。さらに、混練耐火物として使用するシリカ(SiO2)は、アモルファスが90質量%程度、結晶化成分が10質量%程度であるから、コークス炉の操業中に発生する熱膨張を抑制できず、0.2〜0.4%程度の熱膨脹が生じる。したがって、目地や小型ブロックに亀裂が生じる、あるいは小型ブロックが変形する等の問題が生じ易い。」 「【0011】 本発明者は、補修工事を効率良く行ない、工期の短縮、作業負荷の軽減、安全性の向上を図るためには煉瓦集合体ブロックが有効であることから、その煉瓦集合体ブロックに生じる亀裂、変形、破損を防止する技術について検討した。そして、煉瓦集合体ブロックが2種類の材料(すなわち耐火煉瓦、固着材)からなることが、亀裂、変形、破損が生じる原因であることに着目して研究した結果、従来の煉瓦集合体ブロックと同様の形状のブロックを単一の材料で成形すれば、耐火煉瓦の接合部(いわゆる目地)を減らすことができ、ひいては亀裂、変形、破損を防止できることを見出した。つまり、単一の材料で一体的に成形したブロック(以下、一体成形ブロックという)は、目地での亀裂、変形、破損を防止できる。」 「【0016】 図2は、図1の壁体3を解体して炉外へ搬出した例を模式的に示す垂直断面図、図3は、一体成形ブロック5を用いて燃焼室の壁体を構築した例を模式的に示す垂直断面図である。 【0017】 壁体3用の一体成形ブロック5は、耐熱材として溶融シリカ(純度99質量%以上)を96〜99質量%、バインダー(リン酸塩および/または酸化カルシウム)を2.5〜3.5質量%含有し、残部が不可避的に混入する不純物(以下、不可避的不純物という)からなる混合物を型枠に流し込んで、自然乾燥、強制乾燥を経て、昇温速度10〜25℃/時で900〜1100℃の温度範囲まで昇温し、さらに24時間以上保持した後、室温まで自然冷却することによって、一体的に成形したものである。なお以下では、溶融シリカは、アモルファスが95質量%以上のシリカ(SiO2)を指すものとする。また、自然乾燥は常温の大気中で乾燥させること、強制乾燥は加熱しながら乾燥させることを意味する。 【0018】 このようにして製作した壁体3用の一体成形ブロック5は、熱膨張率が0.01〜0.20%と極めて小さく、かつ冷間圧縮強度が30MPa以上かつ荷重軟化点が1400℃以上(通常は1500〜1600℃)と十分な強度を備えているので、亀裂や変形が発生せず、優れた耐用性を有する。しかも、高さが300mmを超えるような大型の一体成形ブロック5を製作できる。 【0019】 また、壁体3用の一体成形ブロック5の1個分の重量が小さすぎると、炉内へ搬入する回数が増えるので、燃焼室の補修工事の効率が低下する。一方で、重量が大きすぎると、炉内への搬入に長時間を要するので、燃焼室の補修工事の効率が低下する。したがって、壁体用の一体成形ブロック5の1個分の重量は300〜3000kg/個の範囲内が好ましい。 【0020】 そして一体成形ブロック5を炉内に搬入し、高さ方向に複数個の一体成形ブロック5を積み上げて(図3参照)、奥行き方向にも複数個の一体成形ブロック5を配列する。一体成形ブロック5の端部には直角をなすように2つの面6(以下、ブロック接合面という)が設けられており、奥行き方向に一体成形ブロック5を配列する際には、一体成形ブロック5の他方の端部をそのブロック接合面6に当接させて、順次、配置していく。」 「【0026】 また、一体成形ブロック5を長手方向に積み上げる際には、図7に示すように上段と下段の一体成形ブロック5の接合面6の位置をずらして千鳥配列にすることによって、壁体3全体の強度を向上することができる。」 「【0028】 図2に示すように、コークス炉(炉高6m、炉長34フリュー)の1燃焼室の壁体を解体して炉外へ搬出(上記(A)の工程)した後、図3に示すように、体成形ブロックを積み上げ、奥行き方向にも配列して壁体を構築した。 【0029】 使用した一体成形ブロック(重量2200kg/個)は、純度99.5質量%の溶融シリカ:96.0質量%、リン酸塩と酸化カルシウムからなるバインダー:3.0質量%を含有し、残部が不可避的不純物である混合物を型枠に流し込んで、72時間自然乾燥し、150℃で72時間強制乾燥させた後、昇温速度20.0℃/時で1020℃まで昇温し、さらに48時間保持した後、室温まで自然冷却することによって、一体的に成形したものである。これを発明例とする。」 「 」 2 甲2の記載 甲2には、次の記載がある。 「【請求項1】 コークス炉の燃焼室と蓄熱室を補修する補修方法において、前記燃焼室を形成する壁体、前記蓄熱室を形成する柱体、および該柱体の間に積み上げられて熱を蓄える蓄熱体を、それぞれ複数個のブロックに分割して耐熱材で一体的に成形した一体成形ブロックを予め製作しておき、前記壁体、前記柱体、および前記蓄熱体を解体して炉外へ搬出した後、前記一体成形ブロックを搬入して新たに前記壁体、前記柱体、および前記蓄熱体をそれぞれ構築することを特徴とするコークス炉の補修方法。」 「【0025】 図4は、図3の蓄熱室の上部の空間に一体成形ブロック7を積み上げて、燃焼室の壁体を構築した例を模式的に示す垂直断面図である。図6は、壁体用の一体成形ブロック7の例を模式的に示す平面図である。 【0026】 壁体用の一体成形ブロック7は、耐熱材として溶融シリカ(純度97質量%以上)を96〜99質量%、バインダー(リン酸塩および/または酸化カルシウム)を2.5〜3.5質量%含有し、残部が不可避的に混入する不純物(以下、不可避的不純物という)からなる混合物を型枠に流し込んで、昇温速度10〜25℃/時で1000〜1200℃の温度範囲まで昇温し、さらに24時間以上保持した後、冷却速度10〜25℃/時で室温まで冷却することによって、一体的に成形したものである。 【0027】 このようにして製作した壁体用の一体成形ブロック7は、熱膨張率が0.01〜0.20%と極めて小さく、しかも冷間圧縮強度が30MPa以上かつ荷重軟化点が1400℃以上と十分な強度を備えているので、亀裂や変形が発生せず、優れた耐用性を有する。 【0028】 また、壁体用の一体成形ブロック7の1個分の重量が小さすぎると、炉内へ搬入する回数が増えるので、燃焼室の補修工事の効率が低下する。一方で、重量が大きすぎると、炉内への搬入に長時間を要するので、燃焼室の補修工事の効率が低下する。したがって、壁体用の一体成形ブロック7の1個分の重量は300〜3000kg/個の範囲内が好ましい。」 「【0030】 使用した柱体用の一体成形ブロック(重量1500kg/個)は、純度98.4質量%の溶融シリカ:97.3質量%、リン酸塩と酸化カルシウムからなるバインダー:2.6質量%を含有し、残部が不可避的不純物である混合物を型枠に流し込んで、昇温速度17.7℃/時で1120℃まで昇温し、さらに27時間保持した後、冷却速度17.1℃/時で室温まで冷却することによって、一体的に成形したものである。 【0031】 また、使用した蓄熱体用の一体成形ブロック(重量610kg/個)の成分と成形方法は、上記の柱体用の一体成形ブロックと同じである。 次いで、図4に示すように、蓄熱室の上部の空間に壁体用の一体成形ブロックを積み上げて、燃焼室の壁体を構築した。 使用した壁体用の一体成形ブロック(重量2200kg/個)の成分と成形方法は、上記の柱体用の一体成形ブロックと同じである。 これを発明例とする。」 「 」 3 甲3の記載 甲3には、次の記載がある。 「【請求項1】 コークス炉の水平焔道を形成するための成形ブロックであって、前記水平焔道の下部を形成する下ブロックと前記水平焔道の上部を形成する上ブロックとからなり、前記下ブロックが長さ1300〜2300mm、幅600〜1200mm、高さ310〜480mm、厚さ150〜210mmのU字形状を呈し、かつ底床部に前記コークス炉の燃焼室に連通してガスの通路となるガス流通孔を有し、前記上ブロックが長さ1300〜2300mm、幅600〜1200mm、高さ400〜800mm、厚さ150〜210mmの逆U字形状を呈し、かつ天井部に点検孔を有することを特徴とする成形ブロック。 【請求項2】 前記下ブロックおよび前記上ブロックが、いずれもアモルファスが95質量%以上の溶融シリカからなることを特徴とする請求項1に記載の成形ブロック。」 「【0009】 本考案者は、水平焔道を形成する工事を効率良く行ない、工期の短縮、作業負荷の軽減、安全性の向上を図るためには煉瓦集合体ブロックが有効であることから、その煉瓦集合体ブロックに生じる亀裂や変形を防止する技術について検討した。そして、煉瓦集合体ブロックが2種類の材料(すなわち耐火煉瓦、固着材)からなることが、亀裂、変形、破損が生じる原因であることに着目して研究した結果、従来の煉瓦集合体ブロックと同様の形状のブロックを単一の材料で成形すれば、亀裂、変形、破損を防止できることを見出した。 【0010】 つまり、材料としてシリカ(アモルファス:95質量%以上)とバインダーからなる混合材を使用し、その混合材を型枠に流し込んで成形したブロック(以下、成形ブロックという)は、全体の熱膨張量が0.04%以下であるから、亀裂、変形、破損を防止できる。しかも、高さが300mmを超える大型の成形ブロックを製作することができる。 【0011】 本考案は、このような知見に基づいてなされたものである。 すなわち本考案は、コークス炉の水平焔道を形成するための成形ブロックであって、水平焔道の下部を形成する下ブロックと水平焔道の上部を形成する上ブロックとからなり、下ブロックが長さ1300〜2300mm、幅600〜1200mm、高さ310〜480mm、厚さ150〜210mmのU字形状を呈し、かつ底床部にコークス炉の燃焼室に連通してガスの通路となるガス流通孔を有し、上ブロックが長さ1300〜2300mm、幅600〜1200mm、高さ400〜800mm、厚さ150〜210mmの逆U字形状を呈し、かつ天井部に点検孔を有する成形ブロックである。 【0012】 本考案の成形ブロックにおいては、下ブロックおよび上ブロックが、いずれもアモルファスが95質量%以上のシリカ(以下、溶融シリカという)からなることが好ましい。」 「【0015】 図1は、本考案の成形ブロックの例を模式的に示す斜視図である。成形ブロック2は、水平焔道の下部を形成する下ブロック3と、水平焔道の上部を形成する上ブロック4とからなり、図1に示すように下ブロック3と上ブロック4を組み合わせて水平焔道を形成する。 【0016】 まず、下ブロック3について説明する。 下ブロック3は、溶融シリカとバインダーの混合材を所定の形状の型枠に流し込んで製作する。下ブロック3の形状は、コークス炉ごとに水平焔道の設計仕様に応じて決まるものであるが、その一例を図2に示す。図2の(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は(a)中のA−A矢視の断面図である。 【0017】 下ブロック3はU字形状を呈し、その底床部にガス流通孔5を有する。ガス流通孔5は、コークス炉の燃焼室に連通するように配置され、燃焼室から水平焔道へのガスの通路となる。 【0018】 下ブロック3が大きすぎると、その製作が困難になるばかりでなく、工事現場へ搬送するのも困難になる。また、工事が終了した後、コークス炉が稼動して高温に曝されることによって、亀裂や変形が発生し易くなる。一方で、下ブロック3が小さすぎると、工事現場にて積み上げる回数を十分に減らせないので、工期の短縮、作業負荷の軽減、安全性の向上の効果が損なわれる。また、目地も十分に減らせないので、稼動した後に目地の亀裂が生じて、耐用性を高める効果が乏しくなる。したがって下ブロック3の寸法は、長さLB:1300〜2300mm、幅WB:600〜1200mm、高さHB:310〜480mm、厚さTB:150〜210mmの範囲内が好ましい。 【0019】 次に、上ブロック4について説明する。 上ブロック4は、溶融シリカとバインダーの混合材を所定の形状の型枠に流し込んで製作する。上ブロック4の形状は、コークス炉ごとに水平焔道の設計仕様に応じて決まるものであるが、その一例を図3に示す。図3の(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は(a)中のB−B矢視の断面図である。 【0020】 上ブロック4は逆U字形状を呈し、その天井部に点検孔6を有する。点検孔6は燃焼室の燃焼状態を確認するためのものである。 【0021】 上ブロック4が大きすぎると、その製作が困難になるばかりでなく、工事現場へ搬送するのも困難になる。また、工事が終了した後、コークス炉が稼動して高温に曝されることによって、亀裂や変形が発生し易くなる。一方で、上ブロック4が小さすぎると、工事現場にて積み上げる回数を十分に減らせないので、工期の短縮、作業負荷の軽減、安全性の向上の効果が損なわれる。また、目地も十分に減らせないので、稼動した後に目地の亀裂が生じて、耐用性を高める効果が乏しくなる。したがって上ブロック4の寸法は、長さLU:1300〜2300mm、幅WU:600〜1200mm、高さHU:400〜800mm、厚さTU:150〜210mmの範囲内が好ましい。 【0022】 なお、下ブロック3と上ブロック4を製作する際に、アモルファスが95質量%以上の溶融シリカを使用することによって、上記したような大きい寸法の成形ブロックを得ることができる。しかも、冷間圧縮強度が30MPa以上かつ荷重軟化点が1500℃以上と十分な強度を備えており、かつ熱膨張量を0.04%以下に抑えることができるので、操業中に変形、亀裂、破損が生じるのを防止できる。 【実施例】 【0023】 コークス炉(炉高6m、炉長34フリュー)の補修工事において、水平焔道を解体して炉外へ搬出した後、図1に示すように、成形ブロック2(すなわち上ブロック4と下ブロック3)を組み合わせて、水平焔道を形成した。 【0024】 使用した下ブロック3(長さLB:1816mm、幅WB:925mm、高さHB:381mm、厚さTB:182mm)と上ブロック4(長さLU:1816mm、幅WU:925mm、高さHU:605mm、厚さTU:182mm)は、純度98.4質量%の溶融シリカ:97.6質量%、リン酸塩と酸化カルシウムからなるバインダー:2.3質量%を含有し、残部が不可避的不純物である混合物を型枠に流し込んで、昇温速度17.7℃/時で1120℃まで昇温し、さらに27時間保持した後、冷却速度17.1℃/時で室温まで冷却することによって、一体的に成形したものである。これを本考案例とする。 【0025】 一方、従来は、当該コークス炉の補修工事において、水平焔道を全て解体して炉外へ搬出した後、作業員が耐火煉瓦を積み上げて、水平焔道を形成していた。これを従来例とする。 【0026】 発明例と従来例について、水平焔道の形成に要した日数を比較したところ、本考案例の所要日数Mは、従来例の所要日数Nに対してM/Nが約1/2であった。 【0027】 さらに、本考案例では、補修工事が終了した後、再び稼動を開始して6ケ月が経過した時に点検孔から炉内を点検したところ、成形ブロックの亀裂、変形、損傷は認められなかった。」 「 」 「 」 「 」 4 甲4の記載 甲4には、次の記載がある。 「【請求項1】 炭化室と燃焼室が炉団長方向に交互に配列され、炭化室と燃焼室の下部には蓄熱室が配列された室炉式コークス炉の築炉方法であって、燃焼室を構成する耐火物の90%(質量比)以上について、燃焼室大型プレキャスト耐火物ブロックを用いて築炉することを特徴とする室炉式コークス炉の築炉方法。 ここで燃焼室大型プレキャスト耐火物ブロックとは、高さが炭化室高さの1/20以上、長さ(炉長方向)が燃焼室1フリュー長以上、幅(炉団長方向)が燃焼室の幅に等しく、不定形耐火物を一体成形してなる耐火物ブロックである。」 「【0002】 室炉式コークス炉においては、炭化室と燃焼室とが炉団長方向に交互に配置され、炭化室と燃焼室の上部には炉頂部、下部には蓄熱室が配列されている。燃焼室と蓄熱室との間の部分は蛇腹部ともいわれる。蓄熱室の下部にはソールフリューが配置されている。通常、炭化室の寸法は、炉高4〜7.5m余、炉幅350〜550mm、炉長13〜17m程度である。燃焼室は炉長方向に配列された燃焼室フリュー列からなる。炭化室と燃焼室との隔壁及び燃焼室フリュー同士の隔壁、炉頂部、蛇腹部、蓄熱室、ソールフリューは、いずれも煉瓦積み構造で形成される。」 「【0034】 50室の室炉式コークス炉の耐火物を老朽更新するに際し、本発明の室炉式コークス炉の築炉方法を適用し、本発明の室炉式コークス炉の耐火物構造を構築した。 炭化室10室分については、燃焼室3の耐火物のみ、燃焼室3を構成する耐火物の95%(質量比)以上について、本発明の燃焼室大型プレキャスト耐火物ブロック7を適用した。燃焼室大型プレキャスト耐火物ブロック7は、高さが炭化室高さの1/20、幅が燃焼室の幅(炉団長方向32)に等しい。炉長方向31には、燃焼室フリュー2個分を1個の燃焼室大型プレキャスト耐火物ブロック7で対応した。燃焼室については、従来の硅石煉瓦を積み上げる方式に比較し、耐火物の個数が1/20に減少した。 炭化室10室分については、燃焼室耐火物に加え、蓄熱室4を構成する耐火物の95%(質量比)について蓄熱室大型プレキャスト耐火物ブロック8を用いた。蓄熱室大型プレキャスト耐火物ブロック8は、高さが蓄熱室高さの1/5、幅が蓄熱室の幅(炉団長方向32)の1/2とした。蓄熱室4については、従来の硅石煉瓦を積み上げる方式に比較し、耐火物の個数が1/40に減少した。 炭化室10室分については、燃焼室3、蓄熱室4に加え、ソールフリュー5を構成する耐火物の100%(質量比)についてソールフリュー大型プレキャスト耐火物ブロック9を用いた。ソールフリュー大型プレキャスト耐火物ブロック9は、高さがソールフリュー高さの1/1、幅が1組のソールフリューの幅(炉団長方向32)の1/1である。ソールフリュー5については、従来の硅石煉瓦を積み上げる方式に比較し、耐火物の個数が1/80に減少した。 炭化室20室分については、燃焼室3、蓄熱室4、ソールフリュー5に加え、炉頂部11、蛇腹部13を構成する耐火物の100%(質量比)について、炉頂部大型プレキャスト耐火物ブロック、蛇腹部大型プレキャスト耐火物ブロックを用いた。炉頂部大型プレキャスト耐火物ブロックは、高さが炉頂部高さの1/1、幅が燃焼室幅(炉団長方向32)の1/1であり、蛇腹部大型プレキャスト耐火物ブロックは、高さが蛇腹部高さの1/1、長さが燃焼室1フリュー長の1/1である。炉頂部11、蛇腹部13については、従来の硅石煉瓦を積み上げる方式に比較し、耐火物の個数が1/30に減少した。」 「【0035】 それぞれの大型プレキャスト耐火物ブロック6は、主成分としてのSiO2成分の含有量は98質量%、結合材成分としてのP2O5成分を1質量%含有する。SiO2成分源として、溶融シリカの配合量は90質量%、珪石の配合量は0質量%、ヒュームドシリカの配合量は8質量%である。また、アルカリ土類金属化合物として、マグネシア微粉を0.1質量%含有する。これら成分に加え、有機繊維、分散剤、硬化促進剤、硬化遅延剤、焼結補助剤等を配合し、得られた原料配合物に施工水を添加したうえで、混練、成形、養生、脱型することにより、大型プレキャスト耐火物ブロックを製造した。」 5 甲5の記載 甲5には、次の記載がある。 「【請求項1】 コークス炉の建設方法において、コークス炉基礎上に、蓄熱室内の仕切り壁とギッターれんがを除いて、少なくとも炉床、ソールフリュー部、蓄熱室及び蛇腹部を、耐火物ブロックを使用して施工した後、蓄熱室内の仕切り壁とギッターれんがの施工を行うことを特徴とするコークス炉の建設方法。 【請求項2】 炉床、ソールフリュー部、蓄熱室及び蛇腹部を施工する耐火物ブロックとして、コークス炉を炉長方向及び/又は高さ方向に分割した形状を有する大型ブロックを使用し、さらに炭化室及び燃焼室、並びに炉頂部もコークス炉を炉長方向及び/又は高さ方向に分割した形状を有する大型ブロックを使用して施工する、請求項1に記載のコークス炉の建設方法。」 「【0021】 本発明において「大型ブロック」とは、コークス炉を炉長方向及び/又は高さ方向に分割した形状を有する耐火物ブロックであり、具体例としては、プレライニングブロック、プレキャストブロック、又はこれらの一体化物が挙げられる。「プレライニングブロック」とは、コークス炉とは別の場所で複数のれんがをモルタルなどを介して接合したれんがの集合体(耐火物ブロック)である。「プレキャストブロック」とは、不定形耐火物を型枠に充填して成形し、脱枠後、乾燥された耐火物ブロックである。 【0022】 分割の単位は、大きい程、施工時の作業者の足場を少なくすることができ、しかも工期短縮に効果があるが、製造設備、施工作業環境などに応じて適切な大きさに分割することができる。 【0023】 例えば、炉長方向においては、フリュー単位で1個又は2個以上に分割することができる。このようにフリュー単位とすると、大型ブロックは炉頂方向にほぼ同じ形状となるため、ブロックの製造管理が容易になる。 【0024】 また、高さ方向においては、例えば、炉床、炉床とソールフリュー部、炉床とソールフリュー部と蓄熱室の一部、蓄熱室、蛇腹部、炭化室及び燃焼室、並びに炉頂部をそれぞれ1個又は2個以上に分割することができる。この場合、大型ブロックの形状が類似した形状になるため、ブロックの製造管理が容易になる。」 「【0044】 図5は、炉頂部の施工に使用する大型ブロックの斜視図である。この大型ブロックは、炉頂部を高さ方向に6個、炉長方向に15個に分割した形状を有し、その大きさは縦1050mm、横1350mm、高さ360mmである。なお、図5には示していないが、搬送前に側面に幅約15mmのポリプロピレン製のバンドで締め付けて拘束し、コークス炉内へ施工直後にバンドを引抜いた。」 「 」 6 甲6の記載 甲6には、次の記載がある。 「【請求項1】 水を添加して使用する粉状の耐火組成物であって、 溶融石英粉粒体60〜90質量%と、 クォーツ相のシリカを90質量%以上含有しかつアルミナの含有量が1質量%以下である高純度クォーツ粉末1〜30質量%と、 シリカ質超微粉末1〜10質量%と、 ポルトランドセメント1〜8質量%と、 減水剤0.05〜0.5質量%と、 結晶安定化剤0.1〜3質量%とを含有する耐火組成物。 【請求項2】 請求項1に記載した粉状の耐火組成物に水を加えて混練し、型枠に流し込んで、乾燥させてなる耐火コンクリートブロック。 【請求項3】 以下の方法で求めた常温から1350℃における0.2MPa荷重下での線熱膨張率が−0.5〜0.5%の範囲内であり、JIS−R−2207−1に基づいて求めた常温から1350℃における無拘束状態での線熱膨張率が−0.1〜0.5%の範囲内である請求項2に記載の耐火コンクートブロック; 前記0.2MPa荷重下での線熱膨張率は、試験片の高さ方向に0.2MPaの圧力をかけた状態で加熱速度5℃/分で試験片を常温から1500℃に至るまで加熱し、各温度における試験片の高さ(L1)から常温での試験片の高さ(L0)を引いて高さの変化(δL)を求め、δLを常温での試験片の高さ(L0)で除して、算出された数値に100を掛けて求める。」 「【0016】 本発明の耐火コンクリートブロックは、常温から1350℃程度の高温に到る温度域において、スポーリングが生じにくいので、例えば、炉蓋の開け閉めなどに起因する温度の急激な変化によるスポーリングが生じやすいコークス炉の窯口付近の炉壁を構築する材料として好適に使用することができる。また、高温域においてクリープ変形が生じにくいので、例えば、コークス炉の中心付近の炉壁を構築する材料としても好適に使用することができる。すなわち、本発明の耐火コンクリートブロックによれば、炉の中心付近や窯口周辺など炉の場所に応じて炉材を使い分ける必要がなくなる。」 「【0031】 従来の耐火れんがには、種々の寸法があるが、せいぜい長さが114mm〜400mm、幅が57mm〜300mm、厚さが30mm〜114mmである。例えば、コークス炉を補修する場合を想定すると、炉壁が損耗した場合に炉の熱を完全に落とすと、再度昇温させて操業を再開するのに多大な時間を要する。このため炉の温度を少し下げて炉を熱間で補修することが一般的に行われている。上記のような比較的に小さい耐火れんがの場合は、体積が小さいので炉壁などの構造物を構築するのに時間を要する。このため、耐火煉瓦の場合は、熱間で作業を行う作業員の負担が大きいし、炉の操業停止時間が長くなってしまう。このような観点から、耐火コンクリートブロックを熱間補修用材として好適に採用することができる。すなわち、耐火コンクリートブロックは、焼成工程を省略することができるため成型が容易であるし、中空形状や梁を有する形状を採用するなどして軽量化を図っても成形時にひび割れが生じにくいだけでなく、大型にしても必要十分な強度を確保することができるからである。例えば、耐火コンクリートブロックは、長さが500〜1200mm、幅が250〜950mm、厚さが150〜400mmの大型コンクリートブロックとすることができる。」 「【0053】 実施例1から3並びに比較例1及び2の粉末組成物の配合と、上記のようにして解析した各物性を表4にまとめる。表4において、丸印を付したものは、各物性について表3の範囲内に該当するものである。一方、バツ印を付したものは、下部物性について、表3の範囲を逸脱したものである(表5から10についても同様である。)。そして、0.2MPa荷重下での線熱膨張率については1200℃における値を一例として示し、無拘束状態における線熱膨張率については1000℃における値を一例として示した(表5から10についても同様である。)。」 「【0069】 上記の実施例1の耐火組成物100重量部に対して、長さ5mm、20dtexのポリエチレン繊維を0.1重量部配合し、水を6.0重量部配合して、よく混錬し、型枠に流し込んで自然乾燥させて、図2の形状を有する耐火コンクリートブロックを製作した。この耐火コンクリートブロックは、側壁14と、正面側の壁面11と、背面側の壁面12と、壁面12及び13を繋ぐ梁13とを備える大型の中空耐火ブロック1である。大きさは、幅907mm、長さ1118mm、厚み390mmである。 【0070】 上記の耐火ブロックは、寸法が大きく複雑な形状であるが養生中のひび割れが生じるようなことはなかった。冷間における圧縮強度及び曲げ強度に優れておりクレーンで懸架して運搬する際にブロックが破損するようなこともなく、壁などの炉の構造物を熱間作業で速やかに構築することができた。熱間における曲げ強度と対クリープ性においても優れており、熱間における破損やクリープ変形は問題とならなかった。また、従来の珪石煉瓦と同等の熱伝導率を備えており、従来の耐火れんがに比較してより速やかに炉の温度を上昇させることができた。また、従来の耐火煉瓦に比較して見かけ気孔率が小さく、炉内のガスによってブロックが化学的な変化を受け難い。常温から1350℃までの耐熱スポーリング性に優れており、窯口周辺及び炉の中心部のいずれにも好適に使用することができた。」 7 甲7の記載 甲7には、次の記載がある。 「 」 「 」 「 」 8 甲8の記載 甲8には、次の記載がある。 「 」 9 甲9の記載 甲9には、次の記載がある。 「【図8】蓄熱室と燃焼室内のガス流れの一例を示す説明図である。」 「 」 10 甲10の1の記載 甲10の1には、次の記載がある。 「 」 「 」 「 」 「 」 11 甲10の2の記載 甲10の2には、次の記載がある。 「 」 「 」 12 甲11の記載 甲11には、次の記載がある。なお、日本語訳は甲11添付の翻訳文による。 「 」 (表I.ケイ酸ガラスの化学組成) 「 」 (表II.ケイ酸ガラスの特徴) 第5 当審の判断 1 申立理由1(新規性欠如)及び申立理由2(進歩性欠如)について (1)甲1に記載された発明を主引用発明とする場合 ア 甲1に記載された発明 甲1の【0018】を参酌しつつ、【0028】、【0029】の実施例に着目すると、甲1には、以下の発明が記載されているといえる。 (甲1発明) 「コークス炉の燃焼室を形成する壁体を構築するために用いる一体成形ブロックであって、重量2200kg/個であり、純度99.5質量%の溶融シリカ:96.0質量%、リン酸塩と酸化カルシウムからなるバインダー:3.0質量%、残部が不可避的不純物である混合物を型枠に流し込んで、72時間自然乾燥し、150℃で72時間強制乾燥させた後、昇温速度20.0℃/時で1020℃まで昇温し、さらに48時間保持した後、室温まで自然冷却することによって、一体的に成形したものであり、熱膨張率が0.01〜0.20%、冷間圧縮強度が30MPa以上、荷重軟化点が1400℃以上である、一体成形ブロック。」 イ 対比 甲1発明と本件発明1を対比する。 甲1発明の「コークス炉の燃焼室を形成する壁体を構築するために用いる一体成形ブロック」は、コークス炉において、「燃焼室」は「上部構造体」であること、当該ブロックの原料がシリカを主としたものであることから、本件発明1の「コークス炉の上部構造体として施工されるブロック耐火物」に相当する。 甲1発明の「一体成形ブロック」は、「純度99.5質量%の溶融シリカ:96.0質量%」を原料とするものであるから、本件発明1の「組成がSiO2≧90mass%である、ブロック耐火物」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。 (一致点) 「コークス炉の上部構造体として施工されるブロック耐火物であって、 組成がSiO2≧90mass%である、ブロック耐火物。」 (相違点1−1) ブロック1個当たりの質量について、本件発明1は、「前記ブロック耐火物の400℃における線熱膨張率xを用いて、(1)式により算出される値yの115%以下であり」、「y=24x−3・・・(1)」、「x:400℃における線熱膨張率(%)」、「y:ブロック1個当たりの質量(kg)」であると特定するのに対し、甲1発明は、そのような特定がされていない点。 (相違点1−2) ブロック耐火物の奥行きに対する高さの比である縦横比について、本件発明1は、「0.2以上0.5以下であり」と特定するのに対し、甲1発明ではそのような特定がされていない点。 ウ 相違点の検討 相違点1−1について検討する。 本件発明1は、「400℃における線熱膨張率x」を用いてブロック耐火物の質量を特定するものであり、【0014】には、「線熱膨張率は、JISR 2207−3「耐火物の熱膨張の試験方法−第3部:棒状試験片を用いる接触法」により測定されるものである。なお、本発明においては、線熱膨張率は、起点温度を100℃として測定されるものとする。」と記載されている。 一方、甲1の【0018】には、一体成形ブロックは、「熱膨張率が0.01〜0.20%である」と記載されているが、熱膨張率を測定する際の起点温度及び測定温度が記載されていない。そうすると、甲1発明が「熱膨張率が0.01〜0.20%である」としても、起点温度及び測定温度が不明である以上、甲1発明における「400℃における線熱膨張率x」の値は不明であるといわざるを得ず、甲1発明における「y=24x−3・・・(1)」という「(1)式により算出される値y」の値も不明であるため、甲1発明において、ブロック1個当たりの質量が、「(1)式により算出される値yの115%以下」を充足するとまでは認められない。よって、相違点1−1は実質的な相違点であると認められる。 そして、甲1発明において、ブロック1個当たりの質量を、「前記ブロック耐火物の400℃における線熱膨張率xを用いて、(1)式により算出される値yの115%以下」とする動機付けは記載されておらず、また甲3、5、6の記載及び慣用技術にも動機付けとなるものはないから、当業者が容易になし得たものとはいえない。 したがって、相違点1−2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、並びに甲1、3、5、6に記載された事項及び慣用技術に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。 エ 申立人の主張 (ア)申立人は、特許異議申立書(第19頁)において、甲10の1の「JIS R 2207−1」に「熱膨張結果のとりまとめ上の起点となる温度(20℃)」と記載されていることから、甲1記載の熱膨張率の起点温度が20℃であるとしている。 しかしながら、甲1〜3には、熱膨張率を「JIS R 2207−1」に従って測定したことが記載されているわけではないから、「JIS R 2207−1」に起点温度が20℃であることが記載されているからといって、甲1〜3の熱膨張率を測定する際の起点温度が20℃であるとまでは認められない。よって、前記申立人の主張は採用できない。 (イ)申立人は、特許異議申立書(第19〜24頁)において、甲7のFig.1にCST−K57(低膨張シリカ質キャスタブル)の温度(℃)と熱膨張率(%)の関係曲線が記載されており、当該関係曲線において400〜1000℃で熱膨張率が高くなっているため、甲1発明における熱膨張率の評価温度は400〜1000℃の範囲内で測定していると考えることが妥当である旨を主張し、さらに甲1発明の温度(℃)と熱膨張率(%)の関係曲線が、甲7のFig.1のCST−K57(低膨張シリカ質キャスタブル)の温度(℃)と熱膨張率(%)の関係曲線又は甲8の図II.2.1−2に記載されている溶融シリカ質のシリカ系耐火物の温度(℃)と熱膨張率(%)の関係曲線と相似形を有すると仮定し、甲1発明の「熱膨張率が0.01〜0.20%である」という記載の熱膨張率の評価温度がいずれの場合でも、起点温度100℃、評価温度400℃の熱膨張率は、0.20%以下となる旨を主張している。 しかしながら、甲7のCST−K57(低膨張シリカ質キャスタブル)又は甲8のシリカ系耐火物と、甲1発明の一体成形ブロックの組成及び結晶構造が同様であるとはいえず、温度と熱膨張率の関係曲線が相似形を有する根拠も示されていないため、甲7の記載から、甲1発明における熱膨張率の評価温度が400〜1000℃の範囲内であるとはいえず、また甲1発明の温度と熱膨張率の関係曲線が、甲7又は甲8と相似形を有するともいえないので、前記申立人の主張は採用できない。 (ウ)申立人は、特許異議申立書(第27〜28頁)において、甲1発明における起点温度100℃、評価温度400℃の線熱膨張率が最大で0.20%とすると、(1)式におけるyの値は3000kg、yの値の115%は3450kgとなり、甲1発明の一体成形ブロックは2200kg/個であるから、甲1発明は、ブロック1個当たりの質量が、「(1)式により算出される値yの115%以下」を充足する旨を主張している。 しかしながら、前記(イ)のとおり、甲1発明において、起点温度100℃、評価温度400℃の線熱膨張率は不明であるから、「最大で0.20%」であるということは到底できないから、前記申立人の主張は採用できない。 オ 小括 以上のとおり、本件発明1は、甲1発明、並びに甲1、3、5、6に記載された事項及び慣用技術に基づいて当業者が容易になし得たものであるとすることはできないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。 カ 本件発明2〜3について 本件発明2〜3は、いずれも本件発明1を引用して特定するものであり、本件発明1に発明特定事項をさらに追加したものである。 したがって、本件発明2〜3は、前記ア〜オで検討した理由と同様の理由により、甲1発明に対して進歩性を有するものであり、本件発明2〜3に係る特許は、申立理由2によって取り消されるべきものとすることはできない。 (2)甲2に記載された発明を主引用発明とする場合 ア 甲2に記載された発明 甲2の【請求項1】、【0027】、【0030】を参酌しつつ、【0031】の実施例に着目すると、甲2には、以下の発明が記載されているといえる。 (甲2発明) 「コークス炉の燃焼室の壁体用の一体成形ブロック(重量2200kg/個)であって、純度98.4質量%の溶融シリカ:97.3質量%、リン酸塩と酸化カルシウムからなるバインダー:2.6質量%を含有し、残部が不可避的不純物である混合物を型枠に流し込んで、昇温速度17.7℃/時で1120℃まで昇温し、さらに27時間保持した後、冷却速度17.1℃/時で室温まで冷却することによって、一体的に成形したものであり、熱膨張率が0.01〜0.20%、冷間圧縮強度が30MPa以上かつ荷重軟化点が1400℃以上である、一体成形ブロック。」 イ 対比 甲2発明と本件発明1を対比する。 甲2発明の「コークス炉の燃焼室の壁体用の一体成形ブロック」は、コークス炉において、「燃焼室」は「上部構造体」であること、当該ブロックの原料が溶融シリカを主としたものであることから、本件発明1の「コークス炉の上部構造体として施工されるブロック耐火物」に相当する。 甲2発明の「一体成形ブロック」は、「純度98.4質量%の溶融シリカ:97.3質量%」を原料とするものであるから、本件発明1の「組成がSiO2≧90mass%である、ブロック耐火物」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲2発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。 (一致点) 「コークス炉の上部構造体として施工されるブロック耐火物であって、 組成がSiO2≧90mass%である、ブロック耐火物。」 (相違点2−1) ブロック1個当たりの質量について、本件発明1は、「前記ブロック耐火物の400℃における線熱膨張率xを用いて、(1)式により算出される値yの115%以下であり」、「y=24x−3・・・(1)」、「x:400℃における線熱膨張率(%)」、「y:ブロック1個当たりの質量(kg)」であると特定するのに対し、甲2発明は、そのような特定がされていない点。 (相違点2−2) ブロック耐火物の奥行きに対する高さの比である縦横比について、本件発明1は、「0.2以上0.5以下であり」と特定するのに対し、甲2発明ではそのような特定がされていない点。 ウ 相違点の検討 相違点2−1について検討する。 本件発明1は、「400℃における線熱膨張率x」を用いてブロック耐火物の質量を特定するものであり、【0014】には、「線熱膨張率は、JISR 2207−3「耐火物の熱膨張の試験方法−第3部:棒状試験片を用いる接触法」により測定されるものである。なお、本発明においては、線熱膨張率は、起点温度を100℃として測定されるものとする。」と記載されている。 一方、甲2の【0027】には、一体成形ブロックは、「熱膨張率が0.01〜0.20%と極めて小さく」と記載されているが、熱膨張率を測定する際の起点温度及び測定温度が記載されていない。そうすると、甲2発明が「熱膨張率が0.01〜0.20%」であるとしても、起点温度及び測定温度が不明である以上、甲2発明における「400℃における線熱膨張率x」の値は不明であるといわざるを得ず、甲2発明における「y=24x−3・・・(1)」という「(1)式により算出される値y」の値も不明であるため、甲2発明が、ブロック1個当たりの質量が、「(1)式により算出される値yの115%以下」を充足するとまでは認められない。よって、相違点2−1は実質的な相違点であると認められる。 そして、甲2発明において、ブロック1個当たりの質量を、「前記ブロック耐火物の400℃における線熱膨張率xを用いて、(1)式により算出される値yの115%以下」とする動機付けは記載されておらず、また甲3、5、6の記載及び慣用技術にも動機付けとなるものはないから、当業者が容易になし得たものとはいえない。 したがって、相違点2−2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明、並びに甲2、3、5、6に記載された事項及び慣用技術に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。 エ 申立人の主張 申立人は、特許異議申立書(第31頁)において、前記(1)エでの検討と同様に、甲2発明において、線熱膨張率(起点温度:100℃、評価温度:400℃)は最大で0.20%を超えないと推認されるので、甲2発明は、「(1)式により算出される値yの115%以下」を充足する旨を主張している。 しかしながら、前記(1)エで検討したとおり、甲2発明において、線熱膨張率(起点温度:100℃、評価温度:400℃)は最大で0.20%を超えないとは認められないから、前記申立人の主張は採用できない。 オ 小括 以上のとおり、本件発明1は、甲2発明、並びに甲2、3、5、6に記載された事項及び慣用技術に基づいて当業者が容易になし得たものであるとすることはできないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。 カ 本件発明2〜3について 本件発明2〜3は、いずれも本件発明1を引用して特定するものであり、本件発明1に発明特定事項をさらに追加したものである。 したがって、本件発明2〜3は、前記ア〜オで検討した理由と同様の理由により、甲2発明に対して進歩性を有するものであり、本件発明2〜3に係る特許は、申立理由2によって取り消されるべきものとすることはできない。 (3)甲3に記載された発明を主引用発明とする場合 ア 甲3に記載された発明 甲3の【請求項1】、【0022】を参酌しつつ、【0024】の実施例に着目すると、甲3には、以下の発明が記載されているといえる。 (甲3発明) 「コークス炉の水平焔道を形成するための成形ブロックであって、前記水平焔道の下部を形成する下ブロックであり、長さLB:1816mm、幅WB:925mm、高さHB:381mm、厚さTB:182mmであり、純度98.4質量%の溶融シリカ:97.6質量%、リン酸塩と酸化カルシウムからなるバインダー:2.3質量%を含有し、残部が不可避的不純物である混合物を型枠に流し込んで、昇温速度17.7℃/時で1120℃まで昇温し、さらに27時間保持した後、冷却速度17.1℃/時で室温まで冷却することによって、一体的に成形したものであり、冷間圧縮強度が30MPa以上かつ荷重軟化点が1500℃以上と十分な強度を備えており、かつ熱膨張量が0.04%以下である、成形ブロック。」 イ 対比 甲3発明と本件発明1を対比する。 甲3発明の「コークス炉の水平焔道を形成するための成形ブロック」は、コークス炉において、「水平焔道」は「上部構造体」であること、当該ブロックの原料が溶融シリカを主としたものであることから、本件発明1の「コークス炉の上部構造体として施工されるブロック耐火物」に相当する。 甲3発明の「成形ブロック」は、「純度98.4質量%の溶融シリカ:97.6質量%」を原料とするものであるから、本件発明1の「組成がSiO2≧90mass%である、ブロック耐火物」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲3発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。 (一致点) 「コークス炉の上部構造体として施工されるブロック耐火物であって、 組成がSiO2≧90mass%である、ブロック耐火物。」 (相違点3−1) ブロック1個当たりの質量について、本件発明1は、「前記ブロック耐火物の400℃における線熱膨張率xを用いて、(1)式により算出される値yの115%以下であり」、「y=24x−3・・・(1)」、「x:400℃における線熱膨張率(%)」、「y:ブロック1個当たりの質量(kg)」であると特定するのに対し、甲3発明は、そのような特定がされていない点。 (相違点3−2) ブロック耐火物の奥行きに対する高さの比である縦横比について、本件発明1は、「0.2以上0.5以下であり」と特定するのに対し、甲3発明ではそのような特定がされていない点。 ウ 相違点の検討 相違点3−1について検討する。 本件発明1は、「400℃における線熱膨張率x」を用いてブロック耐火物の質量を特定するものであり、【0014】には、「線熱膨張率は、JISR 2207−3「耐火物の熱膨張の試験方法−第3部:棒状試験片を用いる接触法」により測定されるものである。なお、本発明においては、線熱膨張率は、起点温度を100℃として測定されるものとする。」と記載されている。 一方、甲3の【0022】には、成形ブロックについて、「熱膨張量を0.04%以下に抑えることができる」と記載されているが、熱膨張量を測定する際の起点温度及び測定温度が記載されていない。そうすると、甲3発明が「熱膨張量を0.04%以下に抑える」ものであるとしても、起点温度及び測定温度が不明である以上、甲3発明における「400℃における線熱膨張率x」の値は不明であるといわざるを得ず、甲3発明における「y=24x−3・・・(1)」という「(1)式により算出される値y」の値も不明であるため、甲3発明が、ブロック1個当たりの質量が、「(1)式により算出される値yの115%以下」を充足するとまでは認められない。よって、相違点3−1は実質的な相違点であると認められる。 そして、甲3発明において、ブロック1個当たりの質量を、「前記ブロック耐火物の400℃における線熱膨張率xを用いて、(1)式により算出される値yの115%以下」とする動機付けは記載されておらず、また甲10の2の記載及び慣用技術にも動機付けとなるものはないから、当業者が容易になし得たものとはいえない。 したがって、相違点3−2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明、並びに甲3、10の2に記載された事項及び慣用技術に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。 エ 申立人の主張 申立人は、特許異議申立書(第34〜35頁)において、前記(1)エでの検討と同様に、甲3発明において、線熱膨張率(起点温度:100℃、評価温度:400℃)は0.04%を超える場合は想定できないので、甲3発明は、「(1)式により算出される値yの115%以下」を充足する旨を主張している。 しかしながら、前記(1)エで検討したとおり、甲3発明において、線熱膨張率(起点温度:100℃、評価温度:400℃)は0.04%を超えないとは認められないから、前記申立人の主張は採用できない。 オ 小括 以上のとおり、本件発明1は、甲3に記載された発明ではなく、甲3発明、並びに甲10の2に記載された事項及び慣用技術に基づいて当業者が容易になし得たものであるとすることはできないから、特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。 カ 本件発明2について 本件発明2は、本件発明1を引用して特定するものであり、本件発明1に発明特定事項をさらに追加したものである。 したがって、本件発明2は、前記ア〜オで検討した理由と同様の理由により、甲3発明に対して進歩性を有するものであり、本件発明2に係る特許は、申立理由2によって取り消されるべきものとすることはできない。 2 申立理由3(サポート要件違反)について (1)判断手法について 特許請求の範囲の記載がサポート要件を満たすか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (2)本件への当てはめ ア 本件特許発明が解決しようとする課題は、本件明細書の【0006】の記載から、「コークス炉昇温時において亀裂を生じることが無いブロック耐火物を提供すること」であると認められる。 イ 本件明細書の【0028】【表2】には、ブロック1個当たりの質量が、「前記ブロック耐火物の400℃における線熱膨張率xを用いて、(1)式により算出される値yの115%以下」である実施例1〜4は、炉の昇温時の亀裂発生が無かったことが具体的な実験により示されており、前記課題を解決できることが記載されている。そして、【0006】には、ブロック耐火物を大きくするとコークス炉昇温時に亀裂を生じることが記載され、【0012】〜【0017】、【図5】には、(1)式は、耐火物に生じる熱応力が、従来の大きさの珪石れんがを用いた積み仕様において発生する熱応力と同等となる、すなわち亀裂が生じない程度となる、線熱膨張率とブロック質量との関係を示していることが記載されている。また【0018】には、誤差範囲として15%とすることが記載されている。そうすると、ブロック質量が「(1)式により算出される値yの115%以下」であることにより、亀裂が発生せず、前記課題を解決できるものと認められる。 ウ したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。 エ また、本件発明2〜3は、本件発明1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、いずれも本件発明1を全て包含し、それぞれ個別の技術事項を追加したものである。そうすると、本件発明2〜3は、前記アに記載した課題を解決できるものである。したがって、本件発明2〜3も、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。 (3)申立人の主張について 申立人は、特許異議申立書(第37〜38頁)において、本件発明1は、xの数値範囲について規定されていないため、例えば甲3の記載からxが0.04%とすると、yは375,000kgとなるが、ブロック1個当たりの質量が375,000kgである場合にコークス炉昇温時に亀裂を生じないことが何ら実証されていない旨を主張している。 しかしながら、線熱膨張率が小さいほど熱応力が小さくなり、ブロック質量を大きくしても亀裂が生じにくくなることは技術的に理解でき、また本件明細書には、亀裂が生じない線熱膨張率とブロック質量との関係式が示されていることから、xが0.04%、yが375,000kgである場合にも亀裂が生じず、前記課題を解決できるものと認められる。また申立人は、xが0.04%、yが375,000kgである場合には亀裂が生じるという具体例や根拠を示していない。よって、前記申立人の主張は採用できない。 (4)小括 以上で検討したとおり、本件発明1〜3は、発明の詳細な説明及び技術常識に基づいて、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。 3 申立理由4(実施可能要件違反)について (1)判断手法 特許法36条4項1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載は、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定める。そして、物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法2条3項1号)、同法36条4項1号の「その実施をすることができる」とは、その物を作ることができ、かつ、その物を使用できることであり、物の発明については、明細書にその物を生産する方法及び使用する方法についての具体的な記載が必要であるが、そのような記載がなくても、明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき、当業者がその物を作ることができ、かつ、その物を使用できるのであれば、上記の実施可能要件を満たすということができる。さらに、ここにいう「使用できる」といえるためには、特許発明に係る物について、例えば発明が目的とする作用効果等を奏する態様で用いることができるなど、少なくとも何らかの技術上の意義のある態様で使用することができることを要するというべきである。 (2)本件への当てはめ ア 前記(1)の考え方を本件発明についてみると、本件発明は、前記第2の1に記載のとおりの「ブロック耐火物」であるから、本件発明は物の発明であり、本件発明が実施可能であるというためには、本件明細書の記載並びに本件出願当時の技術常識に基づき、当業者が、本件発明に係る「ブロック耐火物」を作ることができ、かつ、当該「ブロック耐火物」を使用できる必要があるとともに、それで足りるというべきである。 イ 「ブロック耐火物」を作ることができるかについて 本件明細書の【0026】には、実施例1〜4として、質量が25kgから10,000kgのプレキャストブロックを準備したことが記載されている。また、【0021】には、ブロック耐火物をプレキャストブロック工法や現場流し込み施工により製造することが記載され、【0004】には、これら製造方法について説明がされ、従来から行われている製造方法であることも記載されている。 そうすると、当業者であれば、本件明細書の記載を参考に、本件発明の発明特定事項を充足する「ブロック耐火物」を実際に作ることができるというべきである。 ウ 「ブロック耐火物」を使用できるかについて 本件明細書の【0026】には、「ブロック耐火物」をコークス炉の上部構造体として施工することが記載されており、本件発明の「ブロック耐火物」を使用できるといえる。 (3)申立人の主張について 申立人は、特許異議申立書(第38〜39頁)において、xが0.04%とすると、yは375,000kgとなり、「値yの30%以上」は、112,500kg以上となるが、コークス炉の燃焼室1窯分を分割せずに1個のブロックとしたとしても、その質量はせいぜい100,000kg程度であり、112,500kg以上のブロックをいかにして形成するか何ら記載されていないため、発明の詳細な説明は、本件発明3を実施できる適程度に明確かつ十分に記載されていない旨を主張している。 しかしながら、コークス炉の燃焼室の大きさは調整可能なものであり、燃焼室の大きさに応じて、プレキャストブロック工法や現場流し込み施工により、所望の大きさのブロック耐火物を製造できるといえる。また、申立人は、コークス炉の燃焼室1窯分の質量の上限が100,000kg程度であるという具体的な根拠を示しているとはいえない。よって、前記申立人の主張は採用できない。 (4)小括 したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載が、本件発明3を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないということはできない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、申立人による特許異議申立書の理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1〜3に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1〜3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2024-02-15 |
出願番号 | P2019-173962 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(C10B)
P 1 651・ 121- Y (C10B) P 1 651・ 537- Y (C10B) P 1 651・ 536- Y (C10B) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
塩見 篤史 |
特許庁審判官 |
門前 浩一 安積 高靖 |
登録日 | 2023-05-10 |
登録番号 | 7276044 |
権利者 | JFEスチール株式会社 |
発明の名称 | ブロック耐火物 |
代理人 | 宮坂 徹 |
代理人 | 廣瀬 一 |
代理人 | 田中 秀▲てつ▼ |
代理人 | 森 哲也 |