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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 H02M 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H02M 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H02M 審判 全部申し立て 特174条1項 H02M 審判 全部申し立て 2項進歩性 H02M |
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管理番号 | 1407889 |
総通号数 | 27 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2024-03-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2023-12-04 |
確定日 | 2024-03-07 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第7288206号発明「ノイズ低減回路、電力変換装置及び冷凍装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7288206号の請求項1ないし14に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第7288206号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜14に係る特許についての出願は、令和3年9月30日に出願され、令和4年9月28日及び令和5年1月19日に手続補正書が提出され、令和5年5月30日にその特許権の設定登録がされ、令和5年6月7日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和5年12月4日に特許異議申立人角田 朗(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。 第2 本件特許発明 特許第7288206号の請求項1〜14の特許に係る発明(以下「本件特許発明1」〜「本件特許発明14」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜14に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「 【請求項1】 商用電源に接続されるスイッチング素子を備えた電力変換器から電力ライン及びアースを通じて当該商用電源に流れるコモンモードノイズ電流を、補償電流を当該電力ライン及び当該アースに注入することによって低減するノイズキャンセラと、 前記補償電流が流れる補償電流経路に設けられ、前記ノイズキャンセラ外から当該ノイズキャンセラへの過電流の流入を抑制する過電流抑制手段と を備える、ノイズ低減回路。 【請求項2】 前記過電流抑制手段は、前記補償電流が流れる補償電流経路の電路上に直列に接続されている、請求項1に記載のノイズ低減回路。 【請求項3】 前記過電流抑制手段は、前記商用電源と前記電力変換器を結ぶ前記電力ライン及び前記アースに向けて前記ノイズキャンセラが前記補償電流を注入する経路に設けられている、請求項1又は請求項2に記載のノイズ低減回路。 【請求項4】 前記過電流抑制手段は、前記補償電流経路の導通及び遮断、又は高インピーダンス及び低インピーダンスを切り替える切り替え手段である、請求項1乃至請求項3の何れかに記載のノイズ低減回路。 【請求項5】 前記ノイズキャンセラに電力を供給する直流電源部の電圧は、前記電力変換器のDCリンク電圧である、請求項1乃至請求項4の何れかに記載のノイズ低減回路。 【請求項6】 前記ノイズキャンセラに電力を供給する直流電源部の電圧は、前記電力変換器のDCリンク電圧のピーク値よりも低い、請求項1乃至請求項4の何れかに記載のノイズ低減回路。 【請求項7】 前記直流電源部は、カップリングコンデンサを介して前記電力ラインに接続されている、請求項6に記載のノイズ低減回路。 【請求項8】 前記ノイズキャンセラに電力を供給する直流電源部を備え、 前記ノイズキャンセラは、 前記電力ラインに流れるコモンモードノイズ電流を検出する検出回路と、 前記直流電源部を電源として前記検出回路の検出信号を増幅する増幅器と、 前記増幅器の出力部から前記電力ライン又は前記アースに前記補償電流を流すための出力コンデンサと を備え、 前記直流電源部は、前記電力ライン及び前記アースの一方と導電路を形成し、 前記出力コンデンサは、前記電力ライン及び前記アースの他方と前記増幅器の出力部の間に接続され、 前記過電流抑制手段は、前記補償電流経路の導通及び遮断、又は高インピーダンス及び低インピーダンスを切り替える切り替え手段であり、 前記切り替え手段は、前記電力ライン及び前記アースの一方と前記直流電源部との間、又は、前記電力ライン及び前記アースの他方と前記増幅器の出力部との間に接続されている、請求項3に記載のノイズ低減回路。 【請求項9】 前記切り替え手段は、前記増幅器に前記直流電源部から直流電圧が印加された場合に前記補償電流経路を導通状態とし、前記増幅器に前記直流電源部から直流電圧が印加されていない場合に前記補償電流経路を遮断状態とする、請求項8に記載のノイズ低減回路。 【請求項10】 前記切り替え手段は、前記増幅器に前記直流電源部から直流電圧が印加された場合に前記補償電流経路を低インピーダンス状態とし、前記増幅器に前記直流電源部から直流電圧が印加されていない場合に前記補償電流経路を高インピーダンス状態とする、請求項8に記載のノイズ低減回路。 【請求項11】 商用電源に接続されるスイッチング素子を備えた電力変換器から電力ライン及びアースを通じて当該商用電源に流れるコモンモードノイズ電流を、補償電流を当該電力ライン及び当該アースに注入することによって低減するノイズキャンセラと、 前記補償電流が流れる補償電流経路のうち、前記商用電源と前記電力変換器を結ぶ前記電力ライン及び前記アースに向けて前記ノイズキャンセラが当該補償電流を注入する経路に設けられ、当該ノイズキャンセラへの過電流の印加を抑制する過電流抑制手段と、 前記ノイズキャンセラに電力を供給する直流電源部と を備え、 前記ノイズキャンセラは、 前記電力ラインに流れるコモンモードノイズ電流を検出する検出回路と、 前記直流電源部を電源として前記検出回路の検出信号を増幅する増幅器と、 前記増幅器の出力部から前記電力ライン又は前記アースに前記補償電流を流すための出力コンデンサと を備え、 前記直流電源部は、前記電力ライン及び前記アースの一方と導電路を形成し、 前記出力コンデンサは、前記電力ライン及び前記アースの他方と前記増幅器の出力部の間に接続され、 前記過電流抑制手段は、前記補償電流経路の導通及び遮断を切り替える切り替え手段であり、 前記切り替え手段は、前記電力ライン及び前記アースの一方と前記直流電源部との間、又は、前記電力ライン及び前記アースの他方と前記増幅器の出力部との間に接続され、 前記切り替え手段は、前記増幅器に前記直流電源部から直流電圧が印加された場合に前記補償電流経路を導通状態とし、前記増幅器に前記直流電源部から直流電圧が印加されていない場合に前記補償電流経路を遮断状態とし、 前記切り替え手段は、前記補償電流経路が導通状態の場合において、前記アースに対する、前記電力ラインの中性点電圧の絶対値が、前記商用電源における定格電圧の√2×1.1倍である電圧を超えて変動した場合、及び、前記増幅器に過電流が印加された場合の何れか一方で前記補償電流経路を遮断状態とする、ノイズ低減回路。 【請求項12】 商用電源に接続されるスイッチング素子を備えた電力変換器から電力ライン及びアースを通じて当該商用電源に流れるコモンモードノイズ電流を、補償電流を当該電力ライン及び当該アースに注入することによって低減するノイズキャンセラと、 前記補償電流が流れる補償電流経路のうち、前記商用電源と前記電力変換器を結ぶ前記電力ライン及び前記アースに向けて前記ノイズキャンセラが当該補償電流を注入する経路に設けられ、当該ノイズキャンセラへの過電流の印加を抑制する過電流抑制手段と、 前記ノイズキャンセラに電力を供給する直流電源部と を備え、 前記ノイズキャンセラは、 前記電力ラインに流れるコモンモードノイズ電流を検出する検出回路と、 前記直流電源部を電源として前記検出回路の検出信号を増幅する増幅器と、 前記増幅器の出力部から前記電力ライン又は前記アースに前記補償電流を流すための出力コンデンサと を備え、 前記直流電源部は、前記電力ライン及び前記アースの一方と導電路を形成し、 前記出力コンデンサは、前記電力ライン及び前記アースの他方と前記増幅器の出力部の間に接続され、 前記過電流抑制手段は、前記補償電流経路の高インピーダンス及び低インピーダンスを切り替える切り替え手段であり、 前記切り替え手段は、前記電力ライン及び前記アースの一方と前記直流電源部との間、又は、前記電力ライン及び前記アースの他方と前記増幅器の出力部との間に接続され、 前記切り替え手段は、前記増幅器に前記直流電源部から直流電圧が印加された場合に前記補償電流経路を低インピーダンス状態とし、前記増幅器に前記直流電源部から直流電圧が印加されていない場合に前記補償電流経路を高インピーダンス状態とし、 前記切り替え手段は、前記補償電流経路が低インピーダンス状態の場合において、前記アースに対する、前記電力ラインの中性点電圧の絶対値が、前記商用電源における定格電圧の√2×1.1倍である電圧を超えて変動した場合、及び、前記増幅器に過電流が印加された場合の何れか一方で前記補償電流経路を高インピーダンス状態とする、ノイズ低減回路。 【請求項13】 前記商用電源と前記電力変換器との間に接続されたノイズフィルタと、 前記ノイズフィルタよりも前記商用電源側に接続された請求項1乃至請求項12の何れかに記載のノイズ低減回路と を備える、電力変換装置。 【請求項14】 請求項1乃至請求項12の何れかに記載のノイズ低減回路、又は、請求項13に記載の電力変換装置を備える、冷凍装置。」 第3 申立理由の概要 申立人による申立理由の概要及び申立人が提出した証拠は以下のとおりである。 1 申立理由1−1(新規性) 本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明と同一であるから、本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 2 申立理由1−2(新規性) 本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明と同一であるから、本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 3 申立理由2−1(進歩性) 本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許発明2〜14は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2、4〜10号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1〜14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 4 申立理由2−2(進歩性) 本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1、3号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許発明2〜14は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1、3〜10に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1〜14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 5 申立理由2−3(進歩性) 本件特許発明1は、甲第3号証に記載された発明及び甲第1〜2号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許発明2〜14は、甲第3号証に記載された発明及び甲第1〜2、4〜10号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1〜14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 6 申立理由3(新規事項追加) 令和4年9月28日提出の手続補正書により追加された請求項2及び段落0164の記載は新規事項追加であり、令和5年1月19日提出の手続補正書による請求項1の補正は新規事項追加であるから、本件特許の請求項1〜14に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであり、同法第113条第1号に該当し、取り消すべきものである。 7 申立理由4(実施可能要件違反) 本件特許発明11〜12に対応する発明の詳細な説明の記載は、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、本件特許の請求項11〜12に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 8 申立理由5(明確性要件違反) 本件特許発明1〜14は明確でなく、本件特許の請求項1〜14に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 9 申立理由6(サポート要件違反) 本件特許発明1〜10、13〜14は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないから、本件特許の請求項1〜10、13〜14に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 10 証拠方法 甲第1号証:特開2016−73034号公報 甲第2号証:特開2010−57268号公報 甲第3号証:国際公開第2021/166018号 甲第4号証:特開2007−282313号公報 甲第5号証:特開2009−254188号公報 甲第6号証:特開2002−252985号公報 甲第7号証:特表2004−534500号公報 甲第8号証:特開2016−96686号公報 甲第9号証:欧州規格EN50160 甲第10号証:特開2017−38500号公報 第4 甲第1号証〜甲第10号証の記載 1 甲第1号証 (1)甲第1号証に記載された事項 甲第1号証には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付加。以下同様。) ア 「【背景技術】 【0002】 インバータ回路とコンバータ回路を有した電力変換装置には、負荷(例えばモータ)からの漏洩電流(例えばコモンモードノイズ)を低減するために、いわゆる漏洩電流キャンセラを備えたものがある(例えば特許文献1を参照)。特許文献1では、直列接続されたトランジスタを有したプッシュプル回路によって、漏洩電流の経路に漏洩電流とは逆方向の電流を供給することで、漏洩電流を低減している。」 イ 「【0021】 電力変換装置(1)は、図1に示すように、コンバータ回路(10)、力率改善部(20)、平滑コンデンサ(30)、インバータ回路(40)、制御部(50)、ラインフィルタ(60)、漏洩電流検出部(70)、及び補償電流出力部(80)を備え、単相の交流電源(2)から供給された交流電力を所定の周波数、電圧の交流電力に変換して、モータ(3)に供給する。モータ(3)には、例えば、いわゆるIPM(Interior Permanent Magnet)モータを採用する。 【0022】 このモータ(3)のケーシング(3b)は、圧縮機のケーシングが兼用されている。ケーシング(3b)(すなわち圧縮機)は、空気調和装置の室外機(図示は省略)のケーシング内に固定される。このとき、モータ(3)のケーシング(3b)と空気調和装置の室外機とは電気的にも接続される。そして、室外機のケーシングにはアース線が接続されて接地される。 【0023】 〈コンバータ回路〉 コンバータ回路(10)は、交流電源(2)からの交流を直流に整流する。本実施形態では、コンバータ回路(10)は、4つのダイオード(10a〜10d)がブリッジ状に結線されたダイオードブリッジ回路である。これらのダイオード(10a〜10d)によって、交流電源(2)の交流電圧を全波整流して、直流電圧に変換する。 【0024】 〈力率改善部〉 力率改善部(20)は、図1に示すように、コンバータ回路(10)と平滑コンデンサ(30)の間に設けられている。本実施形態の力率改善部(20)は、2相のインターリーブ方式で構成された2相の昇圧チョッパ回路であり、2つのリアクタ(L6,L7)、2つのスイッチング素子(21,22)、及び4つのダイオード(23,24,25,26)を備えている。力率改善部(20)では、スイッチング素子(21,22)のオンとオフを所定のデューティー比で繰り返すことで昇圧が行われ、それによりダイオード(10a〜10d)の導通角が増大して力率が改善する。 【0025】 〈コンデンサ〉 平滑コンデンサ(30)は、力率改善部(20)によって昇圧された直流を平滑化する。この例では、平滑コンデンサ(30)には電解コンデンサを採用している。 【0026】 〈インバータ回路〉 インバータ回路(40)は、入力ノードが平滑コンデンサ(30)に接続され、供給された直流をスイッチングして三相交流(U,V,W)に変換し、接続された負荷(この例ではモータ(3))に供給する。 【0027】 本実施形態のインバータ回路(40)は、三相交流をモータ(3)に出力するために、ブリッジ結線された6個のスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)を備えている。詳しくは、インバータ回路(40)は、2つのスイッチング素子を互いに直列接続した3つのスイッチングレグを備え、各スイッチングレグにおける上アームのスイッチング素子(Su,Sv,Sw)と下アームのスイッチング素子(Sx,Sy,Sz)との中点が、それぞれモータ(3)の各相のコイル(後述)に接続されている。また、各スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)には、還流ダイオード(Du,Dv,Dw,Dx,Dy,Dz)が逆並列接続されている。 【0028】 インバータ回路(40)は、これらのスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のスイッチング動作によって、供給された直流をスイッチングして三相交流電圧に変換し、モータ(3)へ供給する。このスイッチング動作の制御は制御部(50)が行う。 【0029】 〈制御部〉 制御部(50)は、マイクロコンピュータ(図示は省略)とそれを動作させるプログラムを格納したメモリデバイス(マイクロコンピュータに内蔵してもよい)を有している。制御部(50)は、インバータ回路(40)の各スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)に制御信号(G)を出力してスイッチング動作を制御することによって、モータ(3)を制御する。この例では、制御部(50)は、モータ(3)の制御にd−q軸ベクトル制御を用いる。 【0030】 〈ラインフィルタ〉 ラインフィルタ(60)は、2つのリアクタ(L1,L2)と、2つのコンデンサ(61,62)を備えている。リアクタ(L1,L2)は、交流電源(2)の電力を受ける交流入力線(Pl)上に設けられている。また、コンデンサ(61,62)同士は直列接続され、2つの交流入力線(Pl)間に接続されている。2つのコンデンサ(61,62)の中点(M1)は、アース線を介して、グランドに接続されている。 【0031】 〈漏洩電流検出部〉 漏洩電流検出部(70)は、モータ(3)からの漏洩電流(Ia)(後に詳述)に相関する検出電流(Ib)を検出する。この例では、図1に示すように、漏洩電流検出部(70)は、1対のコモンモードチョークコイル(L3,L4)、及び検出コイル(L5)を備えている。コモンモードチョークコイル(L3,L4)は、ラインフィルタ(60)とコンバータ回路(10)の間の交流入力線(Pl)上に設けられている。また、検出コイル(L5)は、コモンモードチョークコイル(L3,L4)に誘導結合されている。それにより、検出コイル(L5)には、交流入力線(Pl)間の電流の差分に応じた検出電流(Ib)が流れることになる。この差分は漏洩電流(Ia)によって変動し、検出電流(Ib)は漏洩電流(Ia)に相関する。 【0032】 〈補償電流出力部〉 補償電流出力部(80)は、後に詳述するプッシュプル回路(81)によって、漏洩電流(Ia)を打ち消すための補償電流(Ic)を、漏洩電流(Ia)の電流経路(CP)(後述)に供給する。具体的には、補償電流出力部(80)は、検出電流(Ib)をプッシュプル回路(81)によって増幅し、それを漏洩電流(Ia)に重畳する。 【0033】 プッシュプル回路(81)は、図1に示すように、2つのトランジスタ(Tr1,Tr2)、4つのダイオード(D1,D2,D3,D4)、及びカップリングコンデンサ(Cb)を備えている。カップリングコンデンサ(Cb)は直流を遮断するためのものであり、一例として、4700pFのコンデンサを用いた。このカップリングコンデンサ(Cb)は、本発明の第1コンデンサの一例である。 【0034】 トランジスタ(Tr1)は本発明の第1トランジスタの一例であり、トランジスタ(Tr2)は本発明の第2トランジスタの一例である。この例では、トランジスタ(Tr1)はNPN型のトランジスタであり、トランジスタ(Tr2)はPNP型のトランジスタである。そして、トランジスタ(Tr1)とトランジスタ(Tr2)とは直列接続されている。具体的には、トランジスタ(Tr1)の電流流出側の被制御端子と、トランジスタ(Tr2)の電流流入側の被制御端子とが、互いに接続されている。これらのトランジスタ(Tr1,Tr2)の中点(M2)は、カップリングコンデンサ(Cb)を介して、後に詳述するように、漏洩電流(Ia)の電流経路(CP)に接続されている。 【0035】 また、トランジスタ(Tr1)には、ダイオード(D1)が逆並列接続され、トランジスタ(Tr2)には、ダイオード(D2)が逆並列接続されている。トランジスタ(Tr1)やトランジスタ(Tr2)には、逆バイアス電圧が作用する場合があり、その電圧がトランジスタ(Tr1,Tr2)の耐圧を超えると破損に到る。そこで、これらのダイオード(D1,D2)によって、各トランジスタ(Tr1,Tr2)を過電圧から保護しているのである。ダイオード(D1)は本発明の第1ダイオードの一例であり、ダイオード(D2)は本発明の第2ダイオードの一例である。 【0036】 −ダイオード(D3,D4)− また、トランジスタ(Tr1)の電流流入側の被制御端子は、ダイオード(D3)を介してコンバータ回路(10)の正側出力に接続されている。詳しくは、トランジスタ(Tr1)の電流流入側の被制御端子は、ダイオード(D3)のカソードに接続され、ダイオード(D3)のアノードは、コンバータ回路(10)とインバータ回路(40)間の、正側の直流母線(P)に接続されている。すなわち、ダイオード(D3)は、トランジスタ(Tr1)に直列接続されており、ダイオード(D1)を通過してコンバータ回路(10)に向かう電流を阻止する。ダイオード(D3)は、本発明の第3ダイオードの一例である。 【0037】 一方、トランジスタ(Tr2)の電流流出側の被制御端子は、ダイオード(D4)を介してコンバータ回路(10)の負側出力に接続されている。詳しくは、トランジスタ(Tr2)の電流流出側の被制御端子は、ダイオード(D4)のアノードに接続され、ダイオード(D4)のカソードは、コンバータ回路(10)とインバータ回路(40)間の負側の直流母線(N)に接続されている。すなわち、ダイオード(D4)は、トランジスタ(Tr2)に直列接続されており、ダイオード(D2)を通過して中点(M2)に向かう電流を阻止する。ダイオード(D4)は、本発明の第4ダイオードの一例である。 【0038】 そして、両トランジスタ(Tr1,Tr2)の制御端子には、検出電流(Ib)が供給されている。これにより、プッシュプル回路(81)では、漏洩電流(Ia)に相関した大きさの補償電流(Ic)を出力することができる。なお、検出電流(Ib)の極性は、補償電流(Ic)が漏洩電流(Ia)とは逆相となるように設定されている。 【0039】 −補償電流出力部(80)の出力の接続− モータ(3)では、コイル(3a)とそのケーシング(3b)との間には浮遊容量(3c)が形成されている(図1参照)。そのため、インバータ回路(40)のスイッチングにともなってモータ(3)のコイル(3a)に電圧変動(dv/dt)を生ずると、モータ(3)のケーシング(3b)からは漏洩電流(Ia)が流出する。そして、漏洩電流(Ia)は、モータ(3)のケーシング(3b)(この例では圧縮機のケーシング)、室外機のケーシング、及び室外機のアース線を電流経路(CP)としてグランドに流れる。 【0040】 そこで、本実施形態では、補償電流出力部(80)の出力(カップリングコンデンサ(Cb))は、一例として、モータ(3)のケーシング(3b)に接続してある。勿論、この接続点は例示であり、電流経路(CP)上の他の部位も選択可能である。 【0041】 〈電力変換装置の動作〉 インバータ回路(40)がスイッチング動作を行うと、モータ(3)からは漏洩電流(Ia)が流れ出す。漏洩電流(Ia)が流れると、交流入力線(Pl)間の電流の差分が変動し、漏洩電流検出部(70)の検出コイル(L5)には、その差分に応じた電流が流れる。漏洩電流検出部(70)は、検出電流(Ib)を補償電流出力部(80)に出力する。 【0042】 補償電流出力部(80)では、検出電流(Ib)が両トランジスタ(Tr1,Tr2)の制御端子に入力される。そうすると、検出電流(Ib)の極性に応じて何れかのトランジスタ(Tr1,Tr2)が増幅動作を行い、補償電流(Ic)が電流経路(CP)に出力される。この補償電流(Ic)は漏洩電流(Ia)とは逆相の電流であり、トランジスタ(Tr1,Tr2)の増幅率や検出コイル(L5)の巻数などを適宜設定しておくことで、漏洩電流(Ia)を十分に低減できる大きさの電流となる。そのため、補償電流(Ic)が漏洩電流(Ia)と合流すると、アースに流れ込む電流(Io)(図1参照)が低減する。 【0043】 −ダイオード(D3,D4)の作用− 負側の直流母線(N)において電圧変動(dv/dt)を生ずると、プッシュプル回路(81)の中点(M2)には、電流が流入若しくは流出しようとする。このような電流が実際に流れると、補償電流出力部(80)による漏れ電流の低減が不十分になる。しかしながら本実施形態では、以下のように、ダイオード(D3,D4)の作用により、そのような電流が阻止されて補償電流出力部(80)の性能低下が防止される。 【0044】 例えば、上記電圧変動(dv/dt)に応じて負側の直流母線(N)の電位が所定以上低くなった場合には、漏洩電流(Ia)が中点(M2)に向かって流れ込もうとする。もし仮に、ダイオード(D3)を設けていなかったとすれば、その漏洩電流(Ia)は、ダイオード(D1)を介して直流母線(P)に入り、力率改善部(20)、平滑コンデンサ(30)、ダイオード(10c,10d)、コモンモードチョークコイル(L3,L4)、リアクタ(L1,L2)、及び中点(M1)を介してグランドに流れる。しかしながら、本実施形態では、ダイオード(D3)を設けたことによって、漏洩電流(Ia)がコンデンサ(61,62)の中点(M1)から流出することはない。 【0045】 また、上記電圧変動(dv/dt)に応じて負側の直流母線(N)の電位が所定以上高くなった場合には、直流母線(N)側からトランジスタ(Tr2)に向かって電流が流れようとする。もし仮に、ダイオード(D4)を設けていなかったとすれば、その電流は、ダイオード(D2)、中点(M2)、及びカップリングコンデンサ(Cb)を介して、グランドに流れる。しかしながら、本実施形態では、ダイオード(D4)を設けたことによって、その電流がグランドに流出することはない。 ・・・中略・・・ 【0047】 《発明の実施形態2》 図2は、本発明の実施形態2に係る電力変換装置(1)の構成を示す。この電力変換装置(1)は、実施形態1の電力変換装置(1)における、コンバータ回路(10)、及び補償電流出力部(80)に変更を加えたものである。 ・・・中略・・・ 【0050】 また、本実施形態の補償電流出力部(80)は、実施形態1の補償電流出力部(80)にコンデンサ(Cn)を追加したものである。このコンデンサ(Cn)は、本発明の第2コンデンサの一例である。すなわち、コンデンサ(Cn)は、トランジスタ(Tr1)とトランジスタ(Tr2)との直列接続体に並列接続されている。また、コンデンサ(Cn)の容量は、カップリングコンデンサ(Cb)の容量以下である。本実施形態では、コンデンサ(Cn)の容量をカップリングコンデンサ(Cb)の容量の1/2〜1/3とすることによって、後述の作用を顕著に発揮することができた。勿論、この数値は例示であり、カップリングコンデンサ(Cb)の容量以下の範囲で、適宜、実験等を行って設定すればよい。 ・・・中略・・・ 【0054】 《発明の実施形態3》 図3は、本発明の実施形態3に係る電力変換装置(1)の構成を示す。この電力変換装置(1)は、実施形態2の補償電流出力部(80)に変更を加えたものである。具体的には、コンデンサ(Cn)に、該コンデンサ(Cn)のサージ電圧を吸収するサージ吸収素子(90)を並列接続してある。この例のサージ吸収素子(90)は、バリスタである。 【0055】 例えば、雷などの影響でコンデンサ(Cn)の電圧が高くなると、トランジスタ(Tr1)及びトランジスタ(Tr2)に過電圧が印加される可能性がある。しかしながら、サージ吸収素子(90)を設けたことで、そのような過電圧の印加が防止され、各トランジスタ(Tr1,Tr2)の破損が防止される。」 ウ 「【図3】 ![]() 」 (2)甲1発明 上記(1)ア〜ウの記載から、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。なお、実施形態3の電力変換装置(1)は、実施形態2の補償電流出力部(80)に変更を加えたものであり(段落0054)、実施形態2は、実施形態1の電力変換装置(1)における、コンバータ回路(10)、及び補償電流出力部(80)に変更を加えたものである(段落0047)から、甲第1号証に記載されている発明として実施形態3の発明を認定するにあたり、実施形態3についての説明が省略されている部分については、適宜実施形態1及び実施形態2についての説明も参照した。 「負荷(例えばモータ)からの漏洩電流は例えばコモンモードノイズであり(段落0002)、 交流電源(2)からの交流を直流に整流するコンバータ回路(10)から供給された直流をスイッチングして三相交流電圧に変換しモータ(3)へ供給するスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)を備えたインバータ回路(40)がスイッチング動作を行うとモータ(3)からアースに流れる漏洩電流(Ia)を打ち消すための補償電流(Ic)を、漏洩電流(Ia)の電流経路(CP)に供給するプッシュプル回路(81)であって、2つのトランジスタ(Tr1,Tr2)及びカップリングコンデンサ(Cb)を備え、トランジスタ(Tr1)の電流流出側の被制御端子と、トランジスタ(Tr2)の電流流入側の被制御端子とがカップリングコンデンサ(Cb)を介して漏洩電流(Ia)の電流経路(CP)に接続されており、カップリングコンデンサ(Cb)はモータ(3)のケーシング(3b)に接続してあり、トランジスタ(Tr2)の電流流出側の被制御端子は、ダイオード(D4)を介してコンバータ回路(10)とインバータ回路(40)間の負側の直流母線(N)に接続されている、プッシュプル回路(81)(段落0023、0027〜0028、0032〜0034、0037、0040〜0042、図3)と、 トランジスタ(Tr1)とトランジスタ(Tr2)との直列接続体に並列接続されているコンデンサ(Cn)に並列接続してあり、該コンデンサ(Cn)のサージ電圧を吸収し、雷などの影響でコンデンサ(Cn)の電圧が高くなるとトランジスタ(Tr1)及びトランジスタ(Tr2)に印加される可能性がある過電圧の印加を防止し、各トランジスタ(Tr1,Tr2)の破損を防止するサージ吸収素子(90)(段落0050、0054〜0055、図3)と を備える、電力変換装置(1)(段落0021、0047、0054、図3)。」 2 甲第2号証 (1)甲第2号証に記載された事項 甲第2号証には、以下の事項が記載されている。 ア 「【0017】 以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。 図1は、本発明に係る伝導性ノイズフィルタの第1の実施形態を示す回路構成図である。本実施形態に係るノイズフィルタは、電圧形PWMインバータにより誘導電動機を制御するシステムに適用されている。 【0018】 図1において、三相交流電源1の交流出力は、伝導性ノイズを測定するために設けられたLISN (line impedance stabilization network; 擬似電源回路網)2と、ケーブル3とを介して整流器4に入力され、この整流器4によって直流に変換される。そして、整流器4の直流出力は、平滑用コンデンサ5によって平滑された後、電圧形PWMインバータ6に入力され、このPWMインバータ6に設けられた電力用半導体素子のスイッチング動作によって三相の交流電圧に変換される。そして、このインバータ6の三相交流出力が誘導電動機7に供給される。なお、誘導電動機7のフレームは接地線を介して接地端子に接続されている。 【0019】 制御電圧源8は、コモンモードトランス9と、プッシュプル形のエミッタフォロワ回路10と、オペレーショナルアンプ11と、エミッタフォロワ回路10およびオペレーショナルアンプ11に電源を供給する正側電源12、負側電源13とを備えている。 コモンモードトランス9は、一次コイルが電源12、13の中性点とエミッタフォロワ回路10の出力との間に介装され、二次コイルがケーブル3の途中に介装されている。エミッタフォロワ回路10は、コンプリメンタリトランジスタTr1、Tr2によって構成され、その入力にオペレーショナルアンプ11の出力が接続されている。オペレーショナルアンプ11は、接地ラインが電源12、13の中性点と接続されている。 【0020】 次に、保護回路15について説明する。上記三相ケーブル3には、互いに等しい容量を有する3つの接地コンデンサ14の一端が接続されている。保護回路15は、上記各接地コンデンサ14の他端と接地点との間に介装された分圧用コンデンサ16と、この分圧用コンデンサ16に並列接続された分圧用コンデンサ17、18の直列回路と、分圧用コンデンサ17に並列接続されたツェナダイオード19、20の直列回路とを備えている。ツェナダイオード19、20は、互いの方向が逆となる形態で接続されているので、正負の過大電圧がオペレーショナルアンプ11の入力に加わるのを防止する。なお、接地コンデンサ14は、通常は設置点に直接接続されるが、本実施形態ではこの接地コンデンサ14をコモンモード電圧の検出手段として用いているので、上記するように、分圧用コンデンサ16〜18を介して接地されている。 なお、この保護回路15は、接地コンデンサ14で検出されるコモンモード電圧によってオペレーショナルアンプ11、トランジスタTr1、Tr2などの能動素子が破壊されるのを防止するために設けられている。 【0021】 図1において、三相交流電源1の交流出力は、LISN2、ケーブル3を介して整流器4に入力され、ここで直流に変換される。この整流器4の直流出力は、平滑用コンデンサ5によって平滑された後、電圧形PWMインバータ6に入力される。電圧形PWMインバータ6は、入力される直流電圧を電力用半導体素子のスイッチング動作によって三相の交流電圧に変換し、この三相交流電圧を誘導電動機7に出力する。なお、誘導電動機7のフレームは、接地線を介して接地端子に接続されている。 【0022】 上記PWMインバータ6は、スイッチング動作する毎にEd/3の大きさでステップ状に変化する零相電圧、すなわちコモンモード電圧Vinvを出力する。接地コンデンサ14は、このコモンモード電圧Vinvに基づいてケーブル3に発生するコモンモード電圧(後述するように、コモンモード電圧Vinvよりも低い値を示す)を検出し、また保護回路15は、この接地コンデンサ14が検出した電圧をコンデンサ16〜18によって分圧する。 【0023】 保護回路15から出力される分圧電圧は、オペレーショナルアンプ11によって反転増幅された後、エミッタフォロワ回路10を介してコモンモードトランス9の一次巻線に入力される。オペレーショナルアンプ11には、差動増幅型のものや反転増幅型のものなどを用いることができる。コモンモードトランス9は、このときに、接地コンデンサ14で検出される電圧とは極性が逆で大きさが等しい電圧が二次巻線に誘起されるようにその巻線比が設定されている。コモンモードトランス9の二次巻線に誘起されたこの電圧は、ケーブル3におけるコモンモード電圧に重畳され、この結果、このコモンモード電圧が相殺されて、電源1側への漏れ電流が補償される。 ここで、オペレーショナルアンプ11のゲイン値を調整することにより、コモンモードトランス9の巻数比を変更することができる。 例えば、オペレーショナルアンプ11のゲイン値を1、コモンモードトランスの一次側:二次側の巻数比を1:4としていたものに対し、オペレーショナルアンプ11のゲイン値を2に変更すれば、コモンモードトランス9の一次側:二次側の巻数比を1:2とすることができる。 このように、オペレーショナルアンプ11のゲインの変更により、コモンモードトランス9の巻数比を変更することができるため、コモンモードトランス9の設計の自由度が高くなる。特に、巻数が少ないとトランスが設計しやすい。 【0024】 図2は、浮遊容量を考量した等価回路を示している。この図2において、符号Lmは上記コモンモードトランス9の励磁インダクタンスを、符号Cyは接地コンデンサ14の容量を、符号CbはPWMインバータ6の浮遊容量を、Cmは誘導電動機7の浮遊容量をそれぞれ示し、また、符号lおよびrは経路全体の配線のインダクタンス分および抵抗分をそれぞれ示している。 【0025】 上記PWMインバータ6の浮遊容量Cbは非常に小さいので、接地コンデンサ14と電動機の浮遊容量Cmは直列に繋がっていると見なすことができる。従って、接地コンデンサ14で検出されるコモンモード電圧をV1とすると、このコモンモード電圧V1は、PWMインバータ6から出力されるコモンモード電圧Vinvを接地コンデンサ14(Cy)と電動機の浮遊容量Cmとで分圧したものとなる。つまり、電圧V1とVinvにはV1<Vinvという関係が成立する。 コモンモードトランス9は、接地コンデンサ14で検出される電圧V1とは極性が逆で大きさが等しい電圧V2を二次巻線に誘起し、この電圧V2によって電圧V1を打ち消すので、電源1側への漏れ電流I1、I2およびI3(伝導性ノイズ)を低減もしくはなくすことができる。そして、図2の等価回路から明らかなように、電源1側での漏れ電流の低減は、結果的に電動機7の漏れ電流Imも低減することになる。 【0026】 本実施形態に係る伝導性ノイズフィルタは、コモンモード電圧をコモンモードトランスの出力で打ち消すという原理において、図11に示したノイズキャンセラ107と共通している。しかし、電源1側のケーブル3に接続された接地コンデンサ14をコモンモード電圧の検出手段として用いているので、上述したように、接地コンデンサ14(Cy)と電動機の浮遊容量Cmとの分圧作用によって打ち消すべきコモンモード電圧V1がPWMインバータ6から出力されるコモンモード電圧Vinvよりも低電圧になる。 【0027】 この結果、コモンモード電圧V1を打ち消すためのコモンモードトランス9の出力電圧V2も低電圧で良いことになり、これは、エミッタフォロワ回路10に印加する電源電圧が低くて良いこと、換言すれば、トランジスタTr1、Tr2に低耐圧のものを使用できることを意味している。低耐圧のトランジスタTr1、Tr2の使用は、コストの低減を図る上でかつ制御電圧源8等の集積化を図る上で有利となる。もちろん、打消し電圧V2が低圧で良いことは、コモンモードトランス9の小型化にも寄与する。 なお、本実施形態に係る伝導性ノイズフィルタによれば、前記従来のノイズキャンセラ回路では補償できない、デバイスの浮遷容量Cbを介して流れる漏れ電流をも検出して補償することができるため、高いノイズの低減効果が得られる.」 イ 「【図1】 ![]() 」 ウ 「【図2】 ![]() 」 (2)甲2発明 上記(1)アの段落0020及び上記(1)イの図1に記載されているとおり保護回路15は接地コンデンサ14の他端と接地点との間にあり、上記(1)アの段落0024に記載されているとおり上記(1)ウの図2において符号Cyは接地コンデンサ14の容量を示しており、同図2には漏れ電流I3が符号Cyを介して流れる漏れ電流であることが示されていることからすると、上記(1)アの段落0025及び上記(1)ウの図2に記載された漏れ電流I3は、保護回路15を流れるものである。これを踏まえると、上記(1)ア〜ウの記載から、甲第2号証には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。 「三相交流電源1の交流出力は、LISN2、ケーブル3を介して整流器4に入力され、ここで直流に変換され、この整流器4の直流出力は、平滑用コンデンサ5によって平滑された後、電圧形PWMインバータ6に入力され、電圧形PWMインバータ6は、入力される直流電圧を電力用半導体素子のスイッチング動作によって三相の交流電圧に変換し、この三相交流電圧を誘導電動機7に出力し、誘導電動機7のフレームは、接地線を介して接地端子に接続されているシステムに適用されている伝導性ノイズフィルタ(段落0017、0021、図1)であって、 電源1側への漏れ電流I1、I2およびI3(伝導性ノイズ)を低減もしくはなくし、結果的に電動機7の漏れ電流Imも低減することになるコモンモードトランス9と、トランジスタTr1、Tr2と、オペレーショナルアンプ11とを備える制御電圧源8(段落0019、0025、図1)と、 接地コンデンサ14で検出されるコモンモード電圧によってオペレーショナルアンプ11、トランジスタTr1、Tr2などの能動素子が破壊されるのを防止し、漏れ電流I3が流れる保護回路15(段落0020、0024〜0025、図1〜2)と を備え、保護回路15は、分圧用コンデンサ17に並列接続されたツェナダイオード19、20の直列回路を備え、正負の過大電圧がオペレーショナルアンプ11の入力に加わるのを防止する(段落0020)、伝導性ノイズフィルタ。」 3 甲第3号証 (1)甲第3号証に記載された事項 甲第3号証には、以下の事項が記載されている。 ア 「[0015] 実施の形態1. 図1は、本願に係るノイズ抑制装置の適用対象である電力変換システム100の回路を示す概要図である。交流電源1と、被制御装置である電力変換装置80と、その負荷90と、交流電源1と電力変換装置80の間を接続する交流電源と電力変換装置間の電源線2と、電力変換装置80の動作により生じ交流電源1へ流出するノイズを抑制するために設けられ交流電源1と電力変換装置80間の電源線に挿入されるノイズフィルタ10と、で構成される、電力変換システム100を示したものである。 [0016] 電力変換装置80の一例として、図2に典型的な2レベルの三相インバータの回路図を示す。負荷としては、例えば電動機などが接続される。半導体スイッチ82aと半導体スイッチ82bの組合せでU相上下アーム83を構成し、同様に、半導体スイッチ84aと半導体スイッチ84bの組合せでV相上下アーム85を構成し、半導体スイッチ86aと半導体スイッチ86bの組合せでW相上下アーム87を構成している。これら3種類の上下アーム83、85、87がスイッチング動作を行うことにより、インバータ出力端88に交流電力を出力する。このとき、U相V相W相の各アームの出力電位はインバータ直流電源89の正電圧ないしは負電圧のいずれか一方をとるため、インバータのコモンモード電圧Vcmは、ゼロではない一定の値である、(Vu+Vv+Vw)/3で示される。 [0017] 図3は、上述の電力変換システム100の、コモンモード等価回路である。ノイズフィルタ10に含まれる接地コンデンサ11、あるいは電力変換装置80の対地寄生容量81、負荷90の対地寄生容量91、および接地線3を介するコモンモードループに、前記コモンモード電圧が印加され、コモンモード電流が流れる。なお、交流電源1とノイズフィルタ10の間に示した矢印は発生するコモンモードノイズ4を示す。 [0018] 図4は、実施の形態1に係るノイズ抑制装置20の回路である。ノイズ抑制装置20(図の内側の点線の枠を参照)は、かかる電力変換システムのコモンモードノイズを低減させることを目的とし、ノイズフィルタ10(図の外側の点線の枠を参照)の一部ないしは全てを構成する。本実施の形態では、接地コンデンサ11とノイズ抑制装置20によってノイズフィルタ10を構成している。 [0019] このノイズ抑制装置20は、ノイズなどの特定の信号を検出する検出回路30と、この検出回路30から検出された成分をもとに所望の波形信号を形成する波形信号形成回路40と、形成した波形信号をコモンモードへ送信する注入トランス50などで構成される信号送信器と、電力変換装置80、あるいは波形信号形成回路40自身の動作状態を検知する状態検知器60と、検知した信号に応じて所定の量、あるいは所定のタイミングだけゲインを調整するゲイン調整器70で構成される。 [0020] 図5は、実施の形態1、2、3、4、5に係る検出回路30の構成例であり、検出回路をコモンモードトランスで構成した場合を示す。検出トランスは、交流電源1と被制御装置である電力変換装置80間のRST相動力線に挿入され、R相巻線31、S相巻線32、T相巻線33は同相に巻かれている。このとき、ノーマルモードの発生磁束は相殺され、コモンモードの発生磁束は強め合うため、検出コイルは、コモンモードのみ高いインダクタンス値を備え、コモンモードチョークコイルとして働く。さらに、検出トランスを通過するコモンモードノイズ4によって、補助巻線34の両端に、ノイズ検出信号35が生じる。補助巻線の出力両端は、波形信号形成回路40へと接続される。 [0021] 図6は、実施の形態1、2、3、4、5に係る波形信号形成回路の一例であり、帯域制限回路41と高周波増幅回路42で構成した場合を示す。帯域制限回路41はたとえば抵抗とコンデンサで構成されるパッシブフィルタにより、ノイズ補償に不要となる低周波成分を減衰させる。高周波増幅回路42は、たとえばオペアンプ45を用いて反転ないしは非反転増幅回路を形成し、帯域制限回路41によって不要成分をカットされた信号を、入力抵抗43と帰還抵抗44の比に応じて増幅させる。 [0022] 図7は、実施の形態1、2、3、4、5に係る信号送信器の構成例であり、信号送信器をコモンモードトランスで構成した場合を示す。注入トランス50は、検出回路30と電力変換装置80間のRST相動力線に挿入され、R相巻線51、S相巻線52、T相巻線53は同相に巻かれている。ここで補助巻線54にノイズ注入信号55が入力され、R相巻線51、S相巻線52、T相巻線53のコモンモードに対して、(図示しない)コモンモードノイズを相殺するようなコモンモード注入電圧56が入力される。 [0023] ここで、電力変換装置80が負荷急変などにより一時的な過負荷あるいは不平衡状態になる場合、負荷電流値が一時的に上昇するため、信号送信器に生じるノーマル成分の磁束が一時的に上昇する。信号送信器の1つである注入トランス50に生じる磁束は、漏れインダクタンスとノーマル電流の積により発生するノーマル成分の磁束と、ノイズ抑制装置の能動的な動作により生じるコモンモード成分の磁束の和である。このうちノーマル成分の磁束が上昇し、コア内の磁束密度が上昇する。 [0024] 換言すると、コアの磁気飽和を生じさせないためには、一時的な過負荷あるいは不平衡状態のノーマル成分磁束の上昇を考慮してコモンモードトランスのコア磁気設計を行わねばならず、コアのサイズは大きくなり、小型化、あるいは低コスト化の妨げとなる課題があった。 [0025] 本実施の形態では、ノイズ抑制装置に備えた(図示しない)注入電流センサから出力される、注入電流の電流状態信号68aを状態検知器60に入力し、入力値が所定の閾値を超えた場合(例えば過電流の場合)に、ゲイン調整器70を用いてゲインを所定の時間だけ低下させることができる。これにより、コアに生じる磁束のうち、ノイズ抑制装置の能動的な動作により生じるコモンモード成分の磁束が一時的に減少し、コアの磁気飽和を回避することができる。なお、上記電流状態信号、及び後述する保護状態信号、特定状態信号、動作状態信号を総称して状態信号と呼ぶ。 [0026] 本願の構成要素を示す図8、および図9に従い、本実施の形態1の動作を説明する。 図8は、実施の形態1、2、3、4、5に係るゲイン調整器70の構成例であり、ゲイン調整器70をアップダウン式のデジタルポテンショメータで構成した場合を示す。ここでは、ゲイン調整器70は、制御IC71とデジタルポテンショメータ72で構成される。 [0027] 図9は、実施の形態1、2、3、4、5に係る図8のゲイン調整器70の構成例の動作の一例を示すものである。図8および図9中では状態検知器60が検知する信号の1つである状態検知信号60aを(ローレベルで有効となる)ローアクティブ信号DETECTで表記している。ローアクティブ信号DETECTは、タイミングt1でハイからローになって任意状態を検知し、タイミングt2でローからハイになって任意状態の検知を終了する。 [0028] ここで、制御IC71は、タイミングt1でデジタルポテンショメータ72のチップセレクト信号73をハイ(抵抗値の切り替え不可状態)からロー(抵抗値の切り替え可能状態)に切り替えて、アップダウン制御入力74をハイ(アップカウント)からロー(ダウンカウント)に切り替える。ここで、制御IC71の3つの信号の論理はすべて負論理であり、ローレベルで有効となる。 [0029] このときデジタルポテンショメータ72は、インクリメント制御入力75のハイからローの立下りに同期し、抵抗値76が、アップダウン制御入力74のハイ状態、あるいはロー状態に従って所定の分解能幅で上昇または低下する。 ここではアップダウン制御入力74がロー(ダウンカウント)のため、抵抗値76が低下し、高周波増幅回路42の増幅ゲインは低下する。その後、タイミングt2となり、インクリメント制御入力75がカウント停止しハイとなった後、チップセレクタ信号を所定の復帰時間77だけ遅延させてローからハイへと切り替え、低下した抵抗値76をデジタルポテンショメータの不揮発メモリへ記録することなく、抵抗値76を初期値へと復帰させる動作を行う。この復帰動作により、一時的に増加した増幅ゲインが、過電流状態の解除に伴い、所定の復帰時間後に再び元の値に復帰する。 [0030] ここで、電力変換装置80において負荷変動などの要因により、一時的な過負荷状態が生じるとき、信号送信器の1つである注入トランス50におけるコア磁束について、ノーマルモード成分の磁束が一時的に増加してしまうため、コアの磁束飽和を避けるためには、一時的な過負荷状態も考慮のうえ、コアの磁束設計をしなければならなかった。 [0031] 本願では、被制御装置である電力変換装置80から得られる電流状態信号68bを状態検知器60に入力し、入力値が所定の閾値を超えた場合に、ゲイン調整器70を用いてゲインを所定の時間低下させ、保護状態が解除されたのちに所定の復帰時間をもって増幅ゲインを再び元の値に戻すことができる。これにより、信号送信器の1つである注入トランス50のコアの磁束設計において、一時的な過負荷状態による設計制約を生じさせず、ノイズ補償動作を実現することができる。 [0032] 以上より、電力変換装置80が一時的な過電流になり、コモンモードとノーマルモードの和で示されるコア磁束のうちノーマルモード成分の磁束が一時的に増加した場合、波形信号形成回路によって注入トランスに送信されるコモンモード成分の磁束を一時的に低下させることによってコアの最大磁束密度を低減することで、コアサイズを小型化することができ、ノイズ抑制装置の小型化および低コスト化を実現することができる。 [0033] なお、電流センサ出力は、ノイズ抑制装置が備えるものでもよく、直接的な電流の検出量でなく、装置からのI/O信号(たとえば過電流状態通知信号、負荷急変通知信号など)であってもよい。 [0034] なお、帯域制限回路は低周波を抑制するハイパスフィルタのみならず、高周波を抑制するローパスフィルタ、特定帯域を抑制するノッチフィルタ、特定帯域を通過させるバンドパスフィルタなど、本願の趣旨を逸脱しない範囲で自由に構成することができる。また、高周波増幅回路は、オペアンプをもちいた反転増幅回路、非反転増幅回路など、本願の趣旨を逸脱しない範囲で自由に構成することができる。 [0035] また、本実施の形態の構成は、三相三線式の電力変換システムのみならず、三相四線式の電力変換システムであってもよい。さらに、ゲイン調整器は、制御ICと通信インターフェースを持つデジタルポテンショメータの組合せ、アナログ回路網とアップダウン式デジタルポテンショメータの組合せ、あるいは半導体スイッチを用いた抵抗短絡回路ないしは異なるアナログ制御回路網同士のロードスイッチの切り替えによる抵抗およびコンデンサ容量値の切り替え、抵抗値を可変できる電子抵抗による抵抗値の切り替えなど、本願の趣旨を逸脱しない範囲で自由に構成することができる。 [0036] 実施の形態2. 図10は、実施の形態2に係るノイズ抑制装置20の回路である。 実施の形態2に係るノイズ抑制装置20が、実施の形態1に係るノイズ抑制装置20と異なる点は、状態検知器60に入力される信号が、電流状態信号68aの代わりに保護状態信号65となる点である。 [0037] ここで、波形信号形成回路40において何らかの理由で注入電流が過電流となる場合(たとえば雷サージ等の外来ノイズ侵入によりノイズ注入手段である信号送信器のコモンモードトランスが瞬時磁気飽和を起こした場合)、波形信号形成回路40の回路部品保護のために、装置動作を停止する必要がある。しかし、波形信号形成回路40の回路部品に保護回路内蔵の部品を選定することで、この動作を実現する場合、一般に保護回路内蔵部品は高価であることと、ラインナップ上の制約があり、設計制約が生じてしまう課題があった。 [0038] 図11は、実施の形態1、2、3、4、5に係る状態検知器60の構成例であり、状態検知器60を、単体の注入電流の過電流検出回路で構成した場合を示す。ここでは、波形信号形成回路40の出力と信号送信器の1つである注入トランス50の入力に対して、直列に挿入されたシャント抵抗61と、注入電流値に比例してシャント抵抗の両端に生じる注入電流検出電圧を所定の閾値と比較するコンパレータ62と、コンパレータ62に所定の閾値を供給する閾値作成回路63とで構成され、コンパレータ62の出力が注入電流の過電流検出信号となる。 [0039] この他、状態検知器60には、被制御装置である電力変換装置80から特定の状態を示す特定状態信号66(たとえば装置が過負荷状態であることを示す過負荷状態検出信号)をI/Oポートより受け取るインターフェース回路が追加されていてもよい。さらには、注入回路の発熱部品を冷却するための冷却フィンに具備したサーミスタからの過熱状態検出信号を受け取るインターフェース回路が追加されてもよい。 [0040] 本実施の形態のノイズ抑制装置では、波形信号形成回路40に備えた安価なシャント抵抗61などの適宜の手段によって得られる保護状態信号65を状態検知器60に入力し、入力値が所定の閾値を超えた場合に、ゲイン調整器70を用いてゲインを所定の時間低下させ、保護状態が解除されたのちに所定の復帰時間をもって増幅ゲインを再び元の値に戻すことができる。 [0041] これにより、波形信号形成回路40の回路部品の選定において、設計制約を生じさせず、保護動作を実現することができる。 [0042] 以上より、コアの磁気飽和が生じてノイズ補償用の注入電流が過電流になったときに、コモンモード成分とノーマルモード成分の和で示されるコア磁束のうち、コモンモード成分の磁束を一時的に減少させることによってコアの最大磁束密度を低減することで、コアサイズを小型化することができ、ノイズ抑制装置の小型化および低コスト化を実現することができる。」 イ 「[図3] ![]() 」 ウ 「[図4] ![]() 」 エ「[図7] ![]() 」 (2)甲3発明 上記(1)エの図7の注入トランス50は、上記(1)ウの図4を参照すれば、ノイズフィルタ10を構成するものであるから、これを踏まえると、上記(1)ア〜エの記載から、甲第3号証には次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。 「ノイズフィルタ10に含まれる接地コンデンサ11、あるいは電力変換装置80の対地寄生容量81、負荷90の対地寄生容量91、および接地線3を介するコモンモードループに発生するコモンモードノイズ4を低減させるために、R相巻線51、S相巻線52、T相巻線53のコモンモードに対してコモンモードノイズを相殺するようなコモンモード注入電圧56を入力するノイズフィルタ10(段落0017〜0018、0022、図3、4、7)。」 4 甲第4号証 甲第4号証には、次の事項(以下、「甲4記載事項」という。)が記載されているといえる。 「インバータ回路6の出力端子側に配置する遮断機構を、ブレーカ21によって構成し、過電流状態となった場合はブレーカ21が開離することで、インバータ回路6とモータジェネレータ3との間を開放状態にすること(段落0022〜0023)。」 5 甲第5号証 甲第5号証には、次の事項(以下、「甲5記載事項」という。)が記載されているといえる。 「何らかの原因で、反転増幅器34の出力が異常に増加した場合には、少なくとも一方のヒューズ39、45が溶断するので、フォトカプラ41、47がオフとなり、リレー44はオン(通電)状態を維持できなくオフとなり、その結果、リレー44の常閉接点44aは開放し、よって、この高出力用ノイズ低減回路31から異常な打消し電流IQ1が電動機7のアース線8aに印加されることがないこと(段落0053)。」 6 甲第6号証 甲第6号証には、次の事項(以下、「甲6記載事項」という。)が記載されているといえる。 「ノイズ補償電流供給回路6を構成するトランジスタTr1、Tr2は、何れもコレクタが平滑コンデンサC0に接続されているので、インバータ回路3の直流電圧相当の電圧に耐えることができるように高耐圧であること(段落0009)、 直流定電圧源としてのツェナーダイオードをノイズ補償電流供給回路に接続すること(段落0053)。」 7 甲第7号証 甲第7号証には、次の事項(以下、「甲7記載事項」という。)が記載されているといえる。 「三相電源と増幅器電源の間を高周波から短絡させるために三相の各相に連結されたカップリングキャパシタ(C0)を介して増幅器電源に連結し、インダクタLCMが機器の電源入力と機器内部の入力端整流器(またはコンバータ)の間に設けられ、機器は大地と接地され、インダクタLCMを介して流れるコモンモード漏洩電流を検出して増幅器をしてカップリングキャパシタ(C0)、出力端キャパシタ(Cc)を介して反対方向の補償電流を発生させて機器の接地とフィルタ回路の間にのみ漏洩電流が循環するようにし、電源からの漏洩電流の流入を抑制すること(段落0023)。」 8 甲第8号証 甲第8号証には、次の事項(以下、「甲8記載事項」という。)が記載されているといえる。 「外部電源系統3の公称相電圧は「200V」であり、通常状態の電圧変動が±10%の範囲であるとすると、通常状態の最高電圧は「220V」になり、その√2倍である電圧の波高値「311V」に対して若干の余裕を見ること(段落0019〜0020)。」 9 甲第9号証 甲第9号証には、次の事項(以下、「甲9記載事項」という。)が記載されているといえる。 「実効値と波高値の両方に対して1.1倍すること(図1)。」 10 甲第10号証 甲第10号証には、次の事項(以下、「甲10記載事項」という。)が記載されているといえる。 「伝導性ノイズであるノーマルモードノイズ及びコモンモードノイズを抑制する抑制部10(段落0049)が、第1のコイル部11、検出コイルL1A、コンデンサ部12、第2のコイル部13及び演算増幅器(オペアンプ)141を備える増幅部14を備え、第1のコイル部11、コンデンサ部12、第2のコイル部13は、交流電源200側から、この順に接続され(段落0032、0045)、第2のコイル部13のコイルL2R、L2S、L2Tが交流的には抵抗として機能することによって、演算増幅器141の負荷は、インピーダンスが高く、演算増幅器141の出力端子は、高い電圧でコモンモードノイズを打ち消す(相殺する)電流を出力できること(段落0053)、 抑制部10を備えるインバータ装置100は、例えばエアコンや冷蔵庫等の圧縮機に用いられるモータなどに電力を供給するために用いられること(段落0021、0024)。」 第5 当審の判断 1 申立理由1−1(新規性)について (1)本件特許発明1と甲1発明との対比 ア 甲1発明の「交流電源(2)」と本件特許発明1の「商用電源」は、“電源”である点で共通し、甲1発明の「スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)」は、本件特許発明1の「スイッチング素子」に相当し、甲1発明の「コンバータ回路(10)」及び「インバータ回路(40)」は、本件特許発明1の「電力変換器」に相当し、甲1発明の「直流母線」及び「アース」は、それぞれ、本件特許発明1の「電力ライン」及び「アース」に相当する。甲1発明の「負荷(例えばモータ)からの漏洩電流は例えばコモンモードノイズであ」るから、甲1発明の「漏洩電流(Ia)」は、本件特許発明1の「コモンモードノイズ電流」に相当する。甲1発明の「補償電流(Ic)」は、本件特許発明1の「補償電流」に相当する。 イ 甲1発明の「コンバータ回路(10)」は、「交流電源(2)からの交流を直流に整流する」ものであるところ、「交流電源(2)」に“接続される”ものである。したがって、上記アの検討を踏まえると、甲1発明の「コンバータ回路(10)」及び「スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)を備えたインバータ回路(40)」と本件特許発明1の「商用電源に接続されるスイッチング素子を備えた電力変換器」とは、「電源に接続されるスイッチング素子を備えた電力変換器」である点で共通する。 ウ 甲1発明の「漏洩電流(Ia)」は、「インバータ回路(40)がスイッチング動作を行うとモータ(3)からアースに流れる」ものであるところ、「コンバータ回路(10)」から「直流母線」及び「アース」を通じて「交流電源(2)」に流れるともいえる。したがって、上記アの検討を踏まえると、甲1発明の「漏洩電流(Ia)」と本件特許発明1の「電力ライン及びアースを通じて当該商用電源に流れるコモンモードノイズ電流」とは、「電力ライン及びアースを通じて当該電源に流れるコモンモードノイズ電流」である点で共通する。 エ 甲1発明の「補償電流(Ic)」は「漏洩電流(Ia)を打ち消すための」ものであることからすると、甲1発明は、「補償電流(Ic)を、漏洩電流(Ia)の電流経路(CP)に供給する」“ことによって”「漏洩電流(Ia)」を“低減する”ものであるといえる。そして、甲1発明において、「トランジスタ(Tr1)の電流流出側の被制御端子と、トランジスタ(Tr2)の電流流入側の被制御端子とがカップリングコンデンサ(Cb)を介して漏洩電流(Ia)の電流経路(CP)に接続されており、カップリングコンデンサ(Cb)はモータ(3)のケーシング(3b)に接続してあり、トランジスタ(Tr2)の電流流出側の被制御端子は、ダイオード(D4)を介してコンバータ回路(10)とインバータ回路(40)間の負側の直流母線(N)に接続されている」から、「補償電流(Ic)」は、「直流母線」及び「アース」に“注入”されることとなる。したがって、上記ア、ウの検討を踏まえると、甲1発明の「漏洩電流(Ia)を打ち消すための補償電流(Ic)を、漏洩電流(Ia)の電流経路(CP)に供給する」ことは、本件特許発明1の「コモンモードノイズ電流を、補償電流を当該電力ライン及び当該アースに注入することによって低減する」ことに相当する。 オ 上記ア〜エの検討を踏まえると、甲1発明の「プッシュプル回路(81)」が備える「2つのトランジスタ(Tr1,Tr2)及びカップリングコンデンサ(Cb)」と本件特許発明1の「商用電源に接続されるスイッチング素子を備えた電力変換器から電力ライン及びアースを通じて当該商用電源に流れるコモンモードノイズ電流を、補償電流を当該電力ライン及び当該アースに注入することによって低減するノイズキャンセラ」とは、「電源に接続されるスイッチング素子を備えた電力変換器から電力ライン及びアースを通じて当該電源に流れるコモンモードノイズ電流を、補償電流を当該電力ライン及び当該アースに注入することによって低減するノイズキャンセラ」である点で共通する。 カ 甲1発明において、「補償電流(Ic)」は、「トランジスタ(Tr1)」と「カップリングコンデンサ(Cb)」を流れるか、「トランジスタ(Tr2)」と「カップリングコンデンサ(Cb)」を流れるのであって、「サージ吸収素子(90)」を流れるのではない。そうすると、甲1発明の「サージ吸収素子(90)」は「補償電流(Ic)」の経路にはならないところ“補償電流経路”に設けられているとはいえないから、甲1発明の「トランジスタ(Tr1)とトランジスタ(Tr2)との直列接続体に並列接続されているコンデンサ(Cn)に並列接続してあり、該コンデンサ(Cn)のサージ電圧を吸収し、雷などの影響でコンデンサ(Cn)の電圧が高くなるとトランジスタ(Tr1)及びトランジスタ(Tr2)に印加される可能性がある過電圧の印加を防止し、各トランジスタ(Tr1,Tr2)の破損を防止するサージ吸収素子(90)」は、本件特許発明1の「前記補償電流が流れる補償電流経路に設けられ、前記ノイズキャンセラ外から当該ノイズキャンセラへの過電流の流入を抑制する過電流抑制手段」であるとはいえない。 キ 甲1発明の「各トランジスタ(Tr1,Tr2)」が「破損」する場合に「各トランジスタ(Tr1,Tr2)」に流れる「各トランジスタ(Tr1,Tr2)の破損」に係る電流は“過電流”であり、上記オの検討を踏まえれば、甲1発明の「該コンデンサ(Cn)のサージ電圧を吸収し、雷などの影響でコンデンサ(Cn)の電圧が高くなるとトランジスタ(Tr1)及びトランジスタ(Tr2)に印加される可能性がある過電圧の印加を防止し、各トランジスタ(Tr1,Tr2)の破損を防止する」ことは、本件特許発明1の「前記ノイズキャンセラ外から当該ノイズキャンセラへの過電流の流入を抑制する」ことに相当する。 ク 上記カ〜キの検討を踏まえると、甲1発明の「サージ吸収素子(90)」と本件特許発明1の「前記補償電流が流れる補償電流経路に設けられ、前記ノイズキャンセラ外から当該ノイズキャンセラへの過電流の流入を抑制する過電流抑制手段」とは、「前記ノイズキャンセラ外から当該ノイズキャンセラへの過電流の流入を抑制する過電流抑制手段」である点で共通する。 ケ 上記ア〜クの検討を踏まえると、甲1発明の「電力変換装置(1)」は、本件特許発明1の「ノイズ低減回路」に対応する。 コ 上記ア〜ケのことから、本件特許発明1と甲1発明とは、次の点で一致し、また、相違する。 <一致点> 「電源に接続されるスイッチング素子を備えた電力変換器から電力ライン及びアースを通じて当該電源に流れるコモンモードノイズ電流を、補償電流を当該電力ライン及び当該アースに注入することによって低減するノイズキャンセラと、 前記ノイズキャンセラ外から当該ノイズキャンセラへの過電流の流入を抑制する過電流抑制手段と を備える、ノイズ低減回路。」 <相違点1−1> 電源に関し、本件特許発明1は「商用電源」であるのに対して、甲1発明の「交流電源(2)」は商用であることが限定されていない点。 <相違点1−2> 過電流抑制手段に関し、本件特許発明1は、「前記補償電流が流れる補償電流経路に設けられ」るのに対して、甲1発明は、そのようなものではない点。 (2)判断 上記(1)のとおり、本件特許発明1と甲1発明とは、相違点1−1及び相違点1−2の点で相違するものであるから、本件特許発明1は甲1発明ではない。 2 申立理由1−2(新規性)について (1)本件特許発明1と甲2発明との対比 ア 甲2発明の「三相交流電源1」と本件特許発明1の「商用電源」は、“電源”である点で共通する。甲2発明の「電力用半導体素子」は、「電圧型PWMインバータ6」が“備え”るものであって、本件特許発明1の「スイッチング素子」に相当する。甲2発明の「整流器4」及び「電圧形PWMインバータ6」は、本件特許発明1の「電力変換器」に相当し、甲2発明の「ケーブル3」及び「接地線」は、それぞれ、本件特許発明1の「電力ライン」及び「アース」に相当する。甲2発明の「漏れ電流」は、本件特許発明1の「コモンモードノイズ電流」に相当する。 イ 甲2発明の「整流器4」は、「三相交流電源1の交流出力」が、「LISN2、ケーブル3を介して」「入力され」るものであるところ、「三相交流電源1」に“接続される”ものである。したがって、上記アの検討を踏まえると、甲2発明の「整流器4」及び「電圧形PWMインバータ6」と本件特許発明1の「商用電源に接続されるスイッチング素子を備えた電力変換器」とは、「電源に接続されるスイッチング素子を備えた電力変換器」である点で共通する。 ウ 甲2発明は、「三相交流電源1の交流出力は、LISN2、ケーブル3を介して整流器4に入力され、ここで直流に変換され、この整流器4の直流出力は、平滑用コンデンサ5によって平滑された後、電圧形PWMインバータ6に入力され、電圧形PWMインバータ6は、入力される直流電圧を電力用半導体素子のスイッチング動作によって三相の交流電圧に変換し、この三相交流電圧を誘導電動機7に出力し、誘導電動機7のフレームは、接地線を介して接地端子に接続されているシステムに適用されている」ところ、甲2発明の「漏れ電流」は、「整流器4」及び「電圧型PWMインバータ6」から「ケーブル3」及び「接地線」を通じて「三相交流電源1」に流れるともいえる。したがって、上記アの検討を踏まえると、甲2発明の「漏れ電流」と本件特許発明1の「電力ライン及びアースを通じて当該商用電源に流れるコモンモードノイズ電流」とは、「電力ライン及びアースを通じて当該電源に流れるコモンモードノイズ電流」である点で共通する。 エ 甲2発明は、「電源1側への漏れ電流I1、I2およびI3(伝導性ノイズ)を低減もしくはなくし、結果的に電動機7の漏れ電流Imも低減することになる」ものであるところ、漏れ電流の低減は、漏れ電流を相殺する“補償電流”が“注入”され、漏れ電流と補償電流が重ね合わせられた結果であるとも解することができる。よって、甲2発明の「制御電圧源8」は、「漏れ電流」“を、補償電流を”「ケーブル3」“に注入することによって低減する”ものといえる。一方で、甲2発明の「制御電圧源8」は、“補償電流を”“アースに注入する”ものとはいえない。 オ 上記ア〜エの検討を踏まえると、甲2発明の「・・・コモンモードトランス9と、トランジスタTr1、Tr2と、オペレーショナルアンプ11とを備える制御電圧源8」と本件特許発明1の「商用電源に接続されるスイッチング素子を備えた電力変換器から電力ライン及びアースを通じて当該商用電源に流れるコモンモードノイズ電流を、補償電流を当該電力ライン及び当該アースに注入することによって低減するノイズキャンセラ」とは、「電源に接続されるスイッチング素子を備えた電力変換器から電力ライン及びアースを通じて当該電源に流れるコモンモードノイズ電流を、補償電流を当該電力ラインに注入することによって低減するノイズキャンセラ」である点で共通する。 カ 上記エの検討のとおり、甲2発明は、「制御電圧源8」が“補償電流”を「ケーブル3」“に注入する”ものではあるものの、“アースに注入”するものではないところ、甲2発明の“補償電流”が流れる“経路”は、「制御電圧源8」によって「ケーブル3」“に注入”される“補償電流が流れる補償電流経路”であって、本件特許発明1の「前記補償電流が流れる補償電流経路」すなわち「補償電流を当該電力ライン及び当該アースに注入することによって低減するノイズキャンセラ」によって「当該電力ライン及び当該アースに注入」される「補償電流が流れる補償電流経路」とは異なる。したがって、甲2発明の「保護回路15」には「漏れ電流I3が流れる」としても、「漏れ電流I3が流れる」“経路”は「前記補償電流が流れる補償電流経路」とはいえないから、甲2発明の「保護回路15」が、「前記補償電流が流れる補償電流経路に設けられ」ているとはいえない。 キ 甲2発明の「接地コンデンサ14で検出されるコモンモード電圧によってオペレーショナルアンプ11、トランジスタTr1、Tr2などの能動素子が破壊される」場合に「オペレーショナルアンプ11、トランジスタTr1、Tr2」に流れる「破壊」に係る電流は“過電流”であり、上記オの検討を踏まえれば、甲2発明の「保護回路15」が「接地コンデンサ14で検出されるコモンモード電圧によってオペレーショナルアンプ11、トランジスタTr1、Tr2などの能動素子が破壊されるのを防止」することは、本件特許発明1の「前記ノイズキャンセラ外から当該ノイズキャンセラへの過電流の流入を抑制する」ことに相当する。 ク 上記オ〜キの検討を踏まえると、甲2発明の「保護回路15」と本件特許発明1の「前記補償電流が流れる補償電流経路に設けられ、前記ノイズキャンセラ外から当該ノイズキャンセラへの過電流の流入を抑制する過電流抑制手段」とは、「前記ノイズキャンセラ外から当該ノイズキャンセラへの過電流の流入を抑制する過電流抑制手段」である点で共通する。 ケ 上記ア〜クのことから、本件特許発明1と甲2発明とは、次の点で一致し、また、相違する。 <一致点> 「電源に接続されるスイッチング素子を備えた電力変換器から電力ライン及びアースを通じて当該電源に流れるコモンモードノイズ電流を、補償電流を当該電力ラインに注入することによって低減するノイズキャンセラと、 前記ノイズキャンセラ外から当該ノイズキャンセラへの過電流の流入を抑制する過電流抑制手段と を備える、ノイズ低減回路。」 <相違点2−1> 電源に関し、本件特許発明1は「商用電源」であるのに対して、甲2発明の「三相交流電源1」は商用であることが限定されていない点。 <相違点2−2> ノイズキャンセラに関し、本件特許発明1は、「補償電流を当該電力ライン及び当該アースに注入する」のに対して、甲2発明は、そのようなものではない点。 <相違点2−3> 過電流抑制手段に関し、本件特許発明1は、「前記補償電流が流れる補償電流経路に設けられ」るのに対して、甲2発明は、そのようなものではない点。 (2)判断 上記(1)のとおり、本件特許発明1と甲2発明とは、相違点2−1、相違点2−2及び相違点2−3の点で相違するものであるから、本件特許発明1は甲2発明ではない。 3 申立理由2−1(進歩性)について (1)本件特許発明1について ア 本件特許発明1と甲1発明の一致点及び相違点 上記1(1)のとおり、本件特許発明1と甲1発明とは、次の点で一致し、また、相違する。 <一致点> 「電源に接続されるスイッチング素子を備えた電力変換器から電力ライン及びアースを通じて当該電源に流れるコモンモードノイズ電流を、補償電流を当該電力ライン及び当該アースに注入することによって低減するノイズキャンセラと、 前記ノイズキャンセラ外から当該ノイズキャンセラへの過電流の流入を抑制する過電流抑制手段と を備える、ノイズ低減回路。」 <相違点1−1> 電源に関し、本件特許発明1は「商用電源」であるのに対して、甲1発明の「交流電源(2)」は商用であることが限定されていない点。 <相違点1−2> 過電流抑制手段に関し、本件特許発明1は、「前記補償電流が流れる補償電流経路に設けられ」るのに対して、甲1発明は、そのようなものではない点。 イ 判断 事案に鑑み、まず、相違点1−2について検討する。 過電流抑制手段を電流経路に設けることが、甲4記載事項及び甲5記載事項のとおり、当業者にとって周知の事項であるとしても、甲1発明の「サージ吸収素子(90)」は、「コンデンサ(Cn)に並列接続」されることによって、サージを吸収するという機能を発揮するものであるから、これを補償電流経路に設けるように変更することはできない。 また、甲2発明は、「接地コンデンサ14で検出されるコモンモード電圧によってオペレーショナルアンプ11、トランジスタTr1、Tr2などの能動素子が破壊されるのを防止し、漏れ電流I3が流れる保護回路15」を備え、「保護回路15は、分圧用コンデンサ17に並列接続されたツェナダイオード19、20の直列回路を備え、正負の過大電圧がオペレーショナルアンプ11の入力に加わるのを防止する」ものであるから、甲2発明の「ツェナダイオード19、20の直列回路」は、過電圧の印加を防止するために保護対象と並列に接続されるものである点で、甲1発明の「サージ吸収素子(90)」と変わらない。そうすると、甲1発明に甲2発明を適用しても、過電圧の印加を防止するための手段は依然として保護対象と並列に接続されるものにしかならない。 そして、「前記補償電流が流れる補償電流経路に設けられ、前記ノイズキャンセラ外から当該ノイズキャンセラへの過電流の流入を抑制する過電流抑制手段」は、甲2発明、甲4記載事項及び甲5記載事項を参酌しても、技術常識であるとはいえない。 よって、上記相違点1−2に係る本件特許発明1の構成は、甲1発明と甲2発明並びに甲4記載事項及び甲5記載事項のような周知の事項とに基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。 したがって、上記相違点1−1について検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者であっても、甲1発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。 (2)本件特許発明2〜10について 本件特許発明2〜10は、本件特許発明1の構成をすべて含むものである。 よって、本件特許発明2〜10は、本件特許発明1と同様の理由により、当業者であっても、甲1発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件特許発明11〜12について ア 本件特許発明11〜12と甲1発明との対比 本件特許発明11〜12と甲1発明とは、少なくとも次の点で相違する。 <相違点1−3> 過電流抑制手段に関し、本件特許発明11〜12は、「前記補償電流が流れる補償電流経路のうち、前記商用電源と前記電力変換器を結ぶ前記電力ライン及び前記アースに向けて前記ノイズキャンセラが当該補償電流を注入する経路に設けられ」るのに対して、甲1発明は、そのようなものではない点。 イ 判断 上記相違点1−3について、「前記補償電流が流れる補償電流経路のうち、前記商用電源と前記電力変換器を結ぶ前記電力ライン及び前記アースに向けて前記ノイズキャンセラが当該補償電流を注入する経路に設けられ」との事項は、上記相違点1−2として検討した「前記補償電流が流れる補償電流経路に設けられ」との事項を更に限定するものである。 また、甲7〜9記載事項は、上記相違点1−3に係る事項を開示するものではない。 そうすると、上記(1)イと同様に、本件特許発明11〜12は、当業者であっても、甲1発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)本件特許発明13〜14について 本件特許発明13〜14は、本件特許発明1、本件特許発明11又は本件特許発明12の構成をすべて含むものである。 よって、本件特許発明13〜14は、本件特許発明1、11〜12と同様の理由により、当業者であっても、甲1発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。 4 申立理由2−2(進歩性)について (1)本件特許発明1について ア 本件特許発明1と甲2発明の一致点及び相違点 上記2(1)のとおり、本件特許発明1と甲2発明とは、次の点で一致し、また、相違する。 <一致点> 「電源に接続されるスイッチング素子を備えた電力変換器から電力ライン及びアースを通じて当該電源に流れるコモンモードノイズ電流を、補償電流を当該電力ラインに注入することによって低減するノイズキャンセラと、 前記ノイズキャンセラ外から当該ノイズキャンセラへの過電流の流入を抑制する過電流抑制手段と を備える、ノイズ低減回路。」 <相違点2−1> 電源に関し、本件特許発明1は「商用電源」であるのに対して、甲2発明の「三相交流電源1」は商用であることが限定されていない点。 <相違点2−2> ノイズキャンセラに関し、本件特許発明1は、「補償電流を当該電力ライン及び当該アースに注入する」のに対して、甲2発明は、そのようなものではない点。 <相違点2−3> 過電流抑制手段に関し、本件特許発明1は、「前記補償電流が流れる補償電流経路に設けられ」るのに対して、甲2発明は、そのようなものではない点。 イ 判断 事案に鑑み、まず、相違点2−3について検討する。 過電流抑制手段を電流経路に設けることが、甲4記載事項及び甲5記載事項のとおり、当業者にとって周知の事項であるとしても、甲2発明にはそもそも「前記補償電流が流れる補償電流経路」がないから、甲2発明において、過電流抑制手段を「前記補償電流が流れる補償電流経路に設け」ることが、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 また、「前記補償電流が流れる補償電流経路に設けられ、前記ノイズキャンセラ外から当該ノイズキャンセラへの過電流の流入を抑制する過電流抑制手段」は、甲1発明、甲3発明、甲4記載事項及び甲5記載事項を参酌しても、技術常識であるとはいえない。 よって、上記相違点2−3に係る本件特許発明1の構成は、甲2発明と甲1発明及び甲3発明並びに甲4記載事項及び甲5記載事項のような周知の事項とに基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。 したがって、上記相違点2−1〜2−2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者であっても、甲2発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。 (2)本件特許発明2〜10について 本件特許発明2〜10は、本件特許発明1の構成をすべて含むものである。 よって、本件特許発明2〜10は、本件特許発明1と同様の理由により、当業者であっても、甲2発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件特許発明11〜12について ア 本件特許発明11〜12と甲2発明との対比 本件特許発明11〜12と甲2発明とは、少なくとも次の点で相違する。 <相違点2−4> 過電流抑制手段に関し、本件特許発明11〜12は、「前記補償電流が流れる補償電流経路のうち、前記商用電源と前記電力変換器を結ぶ前記電力ライン及び前記アースに向けて前記ノイズキャンセラが当該補償電流を注入する経路に設けられ」るのに対して、甲2発明は、そのようなものではない点。 イ 判断 上記相違点2−4について、「前記補償電流が流れる補償電流経路のうち、前記商用電源と前記電力変換器を結ぶ前記電力ライン及び前記アースに向けて前記ノイズキャンセラが当該補償電流を注入する経路に設けられ」との事項は、上記相違点2−3として検討した「前記補償電流が流れる補償電流経路に設けられ」との事項を更に限定するものである。 また、甲7〜9記載事項は、上記相違点2−4に係る事項を開示するものではない。 そうすると、上記(1)イと同様に、本件特許発明11〜12は、当業者であっても、甲2発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)本件特許発明13〜14について 本件特許発明13〜14は、本件特許発明1、本件特許発明11又は本件特許発明12の構成をすべて含むものである。 よって、本件特許発明13〜14は、本件特許発明1、11〜12と同様の理由により、当業者であっても、甲2発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。 5 申立理由2−3(進歩性)について (1)本件特許発明1について ア 本件特許発明1と甲3発明との対比 (ア)甲3発明は、「R相巻線51、S相巻線52、T相巻線53のコモンモードに対してコモンモードノイズを相殺するようなコモンモード注入電圧56を入力する」ものであるが、“補償電流を”“アースに注入する”ものではない。そうすると、甲3発明における“補償電流経路”は、本件特許発明1の「前記補償電流が流れる補償電流経路」すなわち「補償電流を当該電力ライン及び当該アースに注入することによって低減するノイズキャンセラ」によって「当該電力ライン及び当該アースに注入」される「補償電流が流れる補償電流経路」とは異なる。 (イ)甲3発明は「前記ノイズキャンセラ外から当該ノイズキャンセラへの過電流の流入を抑制する過電流抑制手段」を備えるものではない。 (ウ)したがって、本件特許発明1と甲3発明とは、少なくとも次の点で相違する。 <相違点3−1> 本件特許発明1は、「前記補償電流が流れる補償電流経路に設けられ、前記ノイズキャンセラ外から当該ノイズキャンセラへの過電流の流入を抑制する過電流抑制手段」を備えるのに対して、甲3発明は、そのようなものではない点。 イ 判断 上記相違点3−1について検討する。 過電流抑制手段を電流経路に設けることが、甲4記載事項及び甲5記載事項のとおり、当業者にとって周知の事項であるとしても、甲3発明にはそもそも「前記補償電流が流れる補償電流経路」がないから、甲3発明において、過電流抑制手段を「前記補償電流が流れる補償電流経路に設け」ることが、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 また、「前記補償電流が流れる補償電流経路に設けられ、前記ノイズキャンセラ外から当該ノイズキャンセラへの過電流の流入を抑制する過電流抑制手段」は、甲1発明、甲2発明、甲4記載事項及び甲5記載事項を参酌しても、技術常識であるとはいえない。 よって、上記相違点3−1に係る本件特許発明1の構成は、甲3発明と甲1発明及び甲2発明並びに甲4記載事項及び甲5記載事項のような周知の事項とに基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。 したがって、本件特許発明1は、当業者であっても、甲3発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。 (2)本件特許発明2〜10について 本件特許発明2〜10は、本件特許発明1の構成をすべて含むものである。 よって、本件特許発明2〜10は、本件特許発明1と同様の理由により、当業者であっても、甲3発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件特許発明11〜12について ア 本件特許発明11〜12と甲3発明との対比 本件特許発明11〜12と甲3発明とは、少なくとも次の点で相違する。 <相違点3−2> 本件特許発明11〜12は、「前記補償電流が流れる補償電流経路のうち、前記商用電源と前記電力変換器を結ぶ前記電力ライン及び前記アースに向けて前記ノイズキャンセラが当該補償電流を注入する経路に設けられ、当該ノイズキャンセラへの過電流の印加を抑制する過電流抑制手段」を備えるのに対して、甲3発明は、そのようなものではない点。 イ 判断 過電流抑制手段を電流経路に設けることが、甲4記載事項及び甲5記載事項のとおり、当業者にとって周知の事項であるとしても、甲3発明にはそもそも「前記補償電流が流れる補償電流経路」がないから、甲3発明において、過電流抑制手段を「前記補償電流が流れる補償電流経路のうち、前記商用電源と前記電力変換器を結ぶ前記電力ライン及び前記アースに向けて前記ノイズキャンセラが当該補償電流を注入する経路に設け」ることが、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 また「前記補償電流が流れる補償電流経路のうち、前記商用電源と前記電力変換器を結ぶ前記電力ライン及び前記アースに向けて前記ノイズキャンセラが当該補償電流を注入する経路に設けられ、当該ノイズキャンセラへの過電流の印加を抑制する過電流抑制手段」は、甲1発明、甲2発明、甲4記載事項及び甲5記載事項を参酌しても、技術常識であるとはいえない。 よって、上記相違点3−2に係る本件特許発明11〜12の構成は、甲3発明と甲1発明及び甲2発明並びに甲4記載事項及び甲5記載事項のような周知の事項とに基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。 また、甲7〜9記載事項は、上記相違点3−2に係る事項を開示するものではない。 したがって、本件特許発明11〜12は、当業者であっても、甲3発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)本件特許発明13〜14について 本件特許発明13〜14は、本件特許発明1、本件特許発明11又は本件特許発明12の構成をすべて含むものである。 よって、本件特許発明13〜14は、本件特許発明1、11〜12と同様の理由により、当業者であっても、甲3発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。 6 申立理由3(新規事項)について (1)申立人の主張 申立人は、異議申立書の3(4)エ(pp.102〜103)において、概略下記ア、イのとおり、請求項2及び段落0164についてした補正及び請求項1について「設けられ、前記ノイズキャンセラ外から当該」との事項を追加する補正が新規事項追加であると主張する。 ア 請求項2及び段落0164についてした補正について 本件特許の請求項2は、令和4年9月28日提出の手続補正書により追加された内容であり、段落0164に記載された「本実施形態において、遮断部37a〜37c、371d〜371f、372d〜372f、373e、373f、37gは、補償電流が流れる補償電流経路の電路上に直列に接続されている、ものであってよい。」も、令和4年9月28日提出の手続補正書により追加されている。 「本実施形態において、遮断部37a〜37c、371d〜371f、372d〜372f、373e、373f、37gは、補償電流が流れる補償電流経路の電路上に直列に接続されている、もの」は、「審査基準第IV部第2章新規事項を追加する補正」の3.3.2の「(5)具体例を追加する補正の場合」でいう「具体例」にあたり、これを追加する補正は、審査基準に記載されているとおり、発明の具体例を追加する補正であって、新たな技術的事項を導入するものであるので許されない。 イ 請求項1についてした補正について 令和5年1月19日提出の手続補正書により請求項1が補正され、「商用電源に接続されるスイッチング素子を備えた電力変換器から電力ライン及びアースを通じて当該商用電源に流れるコモンモードノイズ電流を、補償電流を当該電力ライン及び当該アースに注入することによって低減するノイズキャンセラと、前記補償電流が流れる補償電流経路[に設けられ、前記ノイズキャンセラ外から当該]ノイズキャンセラへの過電流の[流入]を抑制する過電流抑制手段[と]を備える、ノイズ低減回路。」の記載の[ ]内の文言が追加されている。 しかし、補正の根拠とされた明細書の段落0023には「このようにすれば、ノイズキャンセラが機能している状態で、電力ラインに雷サージや電源ノイズが重畳された場合に、ノイズキャンセラへの過電流の流入を阻止することができる。」との記載があるだけで、上記の「設けられ、前記ノイズキャンセラ外から当該」については記載がない。 (2)当審の判断 ア 請求項2及び段落0164についてした補正について 令和4年9月28日提出の手続補正書による補正により請求項2及び段落0164に追加された事項は、図1〜7及び段落0060に記載されている。すなわち、図1〜7には、遮断部37a〜37c、371d〜371f、372d〜372f、373e、373f、37gが補償電流経路の電路上に直列に接続されていることが示されている。また、段落0060には「例えば、遮断部37aは、補償電流経路の導通及び遮断を切り替える遮断リレーでよい。」との事項が記載されており、遮断リレーが電流経路の電路上に直列に接続されることは本件特許の出願時の技術常識であるから、段落0060には、遮断部37aが補償電流経路の電路上に直列に接続されることが記載されているといえる。したがって、請求項2及び段落0164についてした補正は、具体例を追加するものではなく、図1〜7及び段落0060に記載されている具体例を表現する記載を追加するにすぎない。よって、当該補正が新規事項を追加するものとはいえない。 イ 請求項1についてした補正について 令和5年1月19日提出の手続補正書による補正により請求項1に追加された事項は、段落0023、0058〜0059、0156及び図1に記載されている。段落0023には「ノイズキャンセラへの過電流の流入を阻止すること」が記載されているところ、「流入」という用語の意味から、「過電流の流入」がノイズキャンセラ外から当該ノイズキャンセラへの流入を意味することは自明である。また、段落0156には「上記各実施形態では、交流電源100側を補償電流経路とし、この経路上に遮断部を設けた。」と記載されており、更に、段落0058〜0059に記載されているとおり「検出回路34aと増幅器35aと出力コンデンサ部36aとがノイズキャンセラを構成」し、「遮断部37aは、補償電流経路に過電流が流れるのを抑制する」ものであって「遮断部37aは、過電流抑制手段の一例であ」るところ、段落0058〜0059、0156及び図1には、過電流抑制手段が「補償電流経路に設けられ、前記ノイズキャンセラ外から当該ノイズキャンセラへの過電流の流入を抑制する」ことが記載されているといえる。したがって、当該補正が新規事項を追加するものとはいえない。 7 申立理由4(実施可能要件)について (1)申立人の主張 申立人は、異議申立書の3(4)オ(pp.103〜104)において、請求項11〜12に記載の「定格電圧」が実効値なのか波高値なのかが不明確であることを理由として、実施可能要件に違反すると主張する。 (2)当審の判断 請求項11〜12に記載の「定格電圧」に関し、発明の詳細な説明に記載されている「定格電圧」は実効値と解釈できる。すなわち、「定格電圧の√2×1.1倍」を用いる技術的意義が段落0062に記載されており、特に「一般に、アースに対する電力ラインの中性点電圧の絶対値は、正常時においては商用電源の電圧を超えることはない」ことから、「アースに対する電力ラインの中性点電圧の絶対値が、商用電源における定格電圧のピーク値である定格電圧の√2倍の110%を超えた場合に異常と」することとしたことからすれば、当該「定格電圧」が実効値であることは明らかである。 以上のとおり、申立人の主張は理由がない。したがって、発明の詳細な説明の記載は、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないとはいえない。 8 申立理由5(明確性要件違反)について (1)申立人の主張 申立人は、異議申立書の3(4)カ(pp.104〜105)において、概略下記ア、イのとおり、請求項1の「キャンセラ外」及び請求項11〜12の「定格電圧」との記載が明確でないと主張する。 ア 請求項1の「キャンセラ外」について 請求項1に「ノイズキャンセラ外」と記載されている。しかし、この記載では「電力変換装置300」の内側なのか外側なのかが明確ではない。 イ 請求項11〜12の「定格電圧」について 請求項11〜12に記載の「定格電圧」が実効値なのか波高値なのかが不明確である。 (2)当審の判断 ア 請求項1の「キャンセラ外」について 請求項1の「前記ノイズキャンセラ外から当該ノイズキャンセラへの過電流の流入を抑制する」との記載において、「ノイズキャンセラ外」との記載は、過電流が流れる経路とノイズキャンセラとの関係を特定するための記載であるところ、その関係において「ノイズキャンセラ外」との記載は一義的に解釈でき、明確でないとはいえない。 なお、申立人は「「電力変換装置300」の内側なのか外側なのかが明確ではない」と主張するが、「ノイズキャンセラ外」との記載は、過電流が流れる流路と電力変換装置300との関係を特定するためのものではないから、当該主張は採用することができない。 イ 請求項11〜12の「定格電圧」について 上記7(2)において検討したとおり、「定格電圧」は実効値と解釈でき、明確でないとはいえない。 9 申立理由6(サポート要件違反)について (1)申立人の主張 申立人は、異議申立書の3(4)キ(pp.105〜106)において、請求項1の「設けられ、前記ノイズキャンセラ外から当該」との事項、請求項2に記載された事項及び「電力変換装置300の内側に発生する過電流」との事項が、発明の詳細な説明に記載したものでないと主張する。 (2)当審の判断 ア 請求項1の「設けられ、前記ノイズキャンセラ外から当該」との事項について 請求項1の「設けられ、前記ノイズキャンセラ外から当該」との事項は、発明の詳細な説明の段落0058〜0059、0156及び図1に記載されている。段落0156には「上記各実施形態では、交流電源100側を補償電流経路とし、この経路上に遮断部を設けた。」と記載されており、更に、段落0058〜0059に記載されているとおり「検出回路34aと増幅器35aと出力コンデンサ部36aとがノイズキャンセラを構成」し、「遮断部37aは、補償電流経路に過電流が流れるのを抑制する」ものであって「遮断部37aは、過電流抑制手段の一例であ」るところ、段落0058〜0059、0156及び図1には、過電流抑制手段が「補償電流経路に設けられ、前記ノイズキャンセラ外から当該ノイズキャンセラへの過電流の流入を抑制する」ことが記載されている。 したがって、請求項1に係る発明が、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。 イ 請求項2に記載された事項について 請求項2に記載された事項は、発明の詳細な説明の段落0164等に記載されている。 したがって、請求項2に係る発明が、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。 ウ 「電力変換装置300の内側に発生する過電流」との事項について 「過電流」の発生原因については、確かに、発明の詳細な説明には「雷サージ」と「電源ノイズ」だけが記載されているものの、当該発生原因の記載が、電力変換装置300の内側に発生原因がある場合を排除するものであると解釈すべき理由はない。段落0005には「電力ラインに雷サージや電源ノイズが重畳された場合でもノイズキャンセラが破壊される可能性を低下させることを目的とする」ことが記載されているが、発明の詳細な説明に記載された発明が、電力変換装置300の内側に過電流の発生原因がある場合にノイズキャンセラが破壊される可能性を低下させることができないものと認める理由もない。 したがって、「電力変換装置300の内側に発生する過電流」との事項が、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。 よって、「過電流」の発生原因が「雷サージ」と「電源ノイズ」であることが特定されていないことにより請求項1−14に係る発明の「過電流」が「電力変換装置300の内側に発生する過電流」を含むこととなるとしても、そのことによって、請求項1−14に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものでない、とはいえない。 10 まとめ 以上のとおり、本件特許発明1は、甲1発明でも甲2発明でもないから、本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるとはいえない。 また、本件特許発明1〜14は、当業者であっても、甲1発明、甲2発明、甲3発明及び甲第4〜10号証に記載の事項に基づいて容易に発明することができたものとはいえないから、請求項1〜14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。 また、令和4年9月28日提出の手続補正書による補正及び令和5年1月19日提出の手続補正書による補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしているから、本件特許の請求項1〜14に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるとはいえない。 また、本件特許発明11〜12は実施可能要件を満たしているから、本件特許の請求項11〜12に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。 また、本件特許発明1〜14は明確性要件を満たしているから、本件特許の請求項1〜14に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。 また、本件特許発明1〜2はサポート要件を満たしているから、本件特許の請求項1〜14に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1〜14に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1〜14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2024-02-27 |
出願番号 | P2021-162110 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(H02M)
P 1 651・ 536- Y (H02M) P 1 651・ 55- Y (H02M) P 1 651・ 121- Y (H02M) P 1 651・ 537- Y (H02M) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
須田 勝巳 |
特許庁審判官 |
打出 義尚 山崎 慎一 |
登録日 | 2023-05-30 |
登録番号 | 7288206 |
権利者 | ダイキン工業株式会社 |
発明の名称 | ノイズ低減回路、電力変換装置及び冷凍装置 |
代理人 | 久保 洋之 |
代理人 | 古部 次郎 |
代理人 | 岸 真太郎 |