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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04N
管理番号 1408637
総通号数 28 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2024-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2023-01-05 
確定日 2024-03-12 
事件の表示 特願2021−502878「ビデオコーディング用の制約付きコーディングツリー」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 1月23日国際公開、WO2020/018267、令和 3年11月25日国内公表、特表2021−532643〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、令和元年7月1日(パリ条約による優先権主張 2018年7月17日、米国)を国際出願日とするものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。

令和 3年 3月18日 :手続補正書の提出
令和 4年 4月 7日付け:拒絶理由通知
令和 4年 7月19日 :手続補正書及び意見書の提出
令和 4年 8月26日付け:拒絶査定
令和 5年 1月 5日 :拒絶査定不服審判請求および手続補正書の提出
令和 5年 2月 6日付け:前置報告
令和 5年 5月18日 :上申書の提出
令和 5年 5月31日付け:拒絶理由通知(最後)
令和 5年 8月 9日 :意見書及び手続補正書の提出

第2 令和5年8月9日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
令和5年8月9日にされた手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
令和5年8月9日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)は、令和5年1月5日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし19を、本件補正による特許請求の範囲の請求項1ないし18に補正するものであり、補正前の請求項15を補正後の請求項15とする補正事項を含むものである(下線は補正箇所を示す。記号A〜Fは分説するために審判合議体が付した。以下、「構成A」〜「構成F」等という。)。

(補正前の請求項15)
【請求項15】
A 画像の画像データを含むビットストリームを受信するための受信ユニットと、
B 少なくとも1つのコーディングツリーノードを備えた少なくとも1つのコーディングツリーユニット(CTU)を取得するために、前記画像を区分するための区分ユニットと、
C 前記コーディングツリーノードの高さが64を超えず、前記コーディングツリーノードの幅が64より大きいかどうかを決定するためのサイズ決定ユニットと、
D 前記コーディングツリーノードが分割されるべき場合に1つまたは複数のコーディングユニット(CU)を取得するために、前記コーディングツリーノードに垂直二分木分割を適用し、前記コーディングツリーノードの前記高さが64を超えず、前記コーディングツリーノードの前記幅が64より大きいと決定するための分割モード適用ユニットと、
E 前記画像の再構築された画像を生成するために、前記ビットストリームに基づいて、前記CUの再構築されたブロックを生成するためのデコーディングユニットであって、
E1 前記垂直二分木分割が前記コーディングツリーノードに適用される場合、mtt_split_cu_vertical_flagと、mtt_split_cu_binary_flagとが、前記ビットストリームにおいてシグナリングされない、デコーディングユニットと、
を備える、
F デコーダ。

(補正後の請求項15)
【請求項15】
A 画像の画像データを含むビットストリームを受信するための受信ユニットと、
B 少なくとも1つのコーディングツリーノードを備えた少なくとも1つのコーディングツリーユニット(CTU)を取得するために、前記画像を区分するための区分ユニットと、
C 前記コーディングツリーノードの高さが64を超えず、前記コーディングツリーノードの幅が64より大きいかどうかを決定するためのサイズ決定ユニットと、
D 前記コーディングツリーノードが分割されるべき場合に1つまたは複数のコーディングユニット(CU)を取得するために、前記コーディングツリーノードに垂直二分木分割を適用し、前記コーディングツリーノードの前記高さが64を超えず、前記コーディングツリーノードの前記幅が64より大きいと決定するための分割モード適用ユニットと、
E 前記画像の再構築された画像を生成するために、前記ビットストリームに基づいて、前記CUの再構築されたブロックを生成するためのデコーディングユニットであって、
E1 前記垂直二分木分割が前記コーディングツリーノードに適用される場合、mtt_split_cu_vertical_flagと、mtt_split_cu_binary_flagとが、前記ビットストリームにおいてシグナリングされない、デコーディングユニットと、
を備え、
D1 前記コーディングツリーノードから区分された前記CUは、二分木分割によって分割することが許可される、
F デコーダ。

2 補正の適合性
(1)補正の目的について
請求項15に係る補正は、補正前の請求項15に係る発明の構成E1の後に、構成D1として、「前記コーディングツリーノードから区分された前記CUは、二分木分割によって分割することが許可される、」という事項を追加することで、構成Dの「分割モード適用ユニット」によって「前記コーディングツリーノードの前記高さが64を超えず、前記コーディングツリーノードの前記幅が64より大きい」場合に、「前記コーディングツリーノードに垂直二分木分割を適用し」て得られた「前記コーディングツリーノードから区分された前記CU」が、当該「分割モード適用ユニット」ないしは構成Fの「デコーダ」によってさらに「二分木分割によって分割することが許可される」ことを特定するように限定する補正であり、「コーディングツリーノード」の分割モードを適用することに関して、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正ということができ、本件補正前の請求項15に記載された発明と本件補正後の請求項15に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正といえる。
そして、請求項15に係る補正は、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たすものである。
そこで、本件補正後の請求項15に記載された発明が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

3 本件補正発明
本件の請求項15に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)は、上記1の補正後の請求項15、すなわち、令和5年8月9日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項15、に記載のとおりのものである。

4 引用文献及び引用発明、引用文献記載事項の認定
(1) 引用文献1の記載
当審が令和5年5月31日付けで通知した拒絶の理由に引用された引用文献1である、Chih-Wei Hsu, et al.,CE1-related: Constraint for binary and ternary partitions,Joint Video Experts Team (JVET) of ITU-T SG 16 WP 3 and ISO/IEC JTC 1/SC 29/WG 11 11th Meeting: Ljubljana, SI,10-18 July 2018, Document:JVET-K0556-v1,2018年7月16日,pp.1-3には、以下の記載がある。(下線は強調のために当審で付した。)

ア 「Abstract
In typical hardware decoder designs, virtual pipeline data unit (VPDU) size is set to MxM luma samples and NxN chroma samples, where MxM and NxN are maximum luma transform block (TB) size and maximum chroma TB size respectively.」(第1頁第1〜4行)
(仮訳:概要
典型的なハードウェアデコーダ設計では、仮想パイプラインデータユニット(VPDU)サイズは、M×Mのルマ・サンプルとN×Nのクロマ・サンプルに設定される。ここで、M×MとN×Nは、それぞれ最大ルマ変換ブロック(TB)サイズと最大クロマTBサイズである。)

イ 「The VPDU size is roughly proportional to the buffer size in most pipeline stages, so it is very important to keep the VPDU size small. Enlarging maximum luma TB size / maximum chroma TB size from 32x32-luma/16x16-chroma samples (as in HEVC) to 64x64-luma/32x32-chroma samples (as in the current VVC) can bring coding gains, which results in 4X of DU size (64x64-luma/32x32-chroma) expectedly in comparison with HEVC.」(第1頁第4〜8行)
(仮訳:VPDUサイズはほとんどのパイプラインステージでバッファサイズにほぼ比例するため、VPDUサイズを小さく保つことは非常に重要である。最大ルマTBサイズ/最大クロマTBサイズを(HEVCのように)32×32−ルマ/16×16−クロマサンプルから、(現在のVVCのように)64×64−ルマ/32×32−クロマサンプルに拡大することで符号化利得をもたらすことができ、HEVCと比較してDUサイズ(64×64−ルマ/32×32−クロマ)が4倍になることが期待される。)

ウ 「However, in addition to quadtree (QT) coding unit (CU) partitioning, ternary tree (TT) and binary tree (BT) are adopted in VVC for achieving additional coding gains, and TT and BT splits can be applied to 128x128-luma/64x64-chroma coding tree blocks (CTUs) recursively, which leads to 16X of VPDU size (128x128-luma/64x64-chroma) in comparison with HEVC.」(第1頁第8〜12行)
(仮訳:しかしながら、VVCでは、更なる符号化利得を達成するために4分木(QT)符号化単位(CU)分割に加えて、3分木(TT)および2分木(BT)が採用され、TT分割およびBT分割は128×128−ルマ/64×64−クロマコーディングツリーブロック(CTU)に再帰的に適用することができ、これはHEVCと比較して16倍のVPDUサイズ(128×128−ルマ/64×64−クロマ)をもたらす。)

エ 「To reduce the VPDU size in VVC, one constraint for TT and BT is proposed, and the VPDU size is defined as 64x64-luma/32x32-chroma samples for the following.
Cond. 1: For each VPDU containing one or multiple CUs, the CUs are completely contained in the VPDU.
Cond. 2: For each CU containing one or more VPDUs, the VPDUs are completely contained in the CU.
Proposed constraint: For each CTU, the above two conditions shall not be violated,...」(第1頁第12〜16行)
(仮訳:VVCのVPDUサイズを削減するために、TTとBTについての1つの制約が提案され、VPDUサイズは以下の条件や制約のある64×64−ルマ/32×32−クロマサンプルとして定義される。
条件1:1つまたは複数のCUを含む各VPDUについて、CUはVPDUに完全に含まれる。
条件2:1つ以上のVPDUを含む各CUについて、VPDUはCUに完全に含まれる。
提案された制約:各CTUについて、上記2つの条件に違反してはならない。...)

オ 「1 Introduction
Figure 1 shows examples of TT and/or BT splits that cause problems for 64x64-luma/32x32-chroma pipelining.

Figure 1. Examples of undesirable TT and BT splits for hardware decoder pipelining (VPDUs indicated by dashed lines)」(第1頁第18行〜第2頁第2行)
(仮訳:1 イントロダクション
図1は64×64―ルマ/32×32―クロマパイプライニングに問題が引き起こされるTT分割及び/又はBT分割の例を示す。
図1.ハードウェアデコーダパイプライニングにとって望ましくないTT分割とBT分割(VPDUが破線で示されている)の例)

(2)引用発明の認定
ア 上記(1)のアから、引用文献1には、「仮想パイプラインデータユニット(VDPU)サイズ」が「M×Mのルマ・サンプル」「に設定される」「ハードウェアデコーダ」であることが記載されているといえる。

イ 上記(1)のウから、引用文献1には、「VVCでは、」「四分木(QT)符号化単位(CU)分割に加えて、三分木(TT)および二分木(BT)が採用され、TT分割およびBT分割は128×128−ルマ」「コーディングツリーブロック(CTU)に再帰的に適用することができ」ることが記載されているといえる。

ウ 上記(1)のエから、引用文献1には、VVCのVPDUサイズを削減するために、TT分割とBT分割について制約がなされること、VPDUサイズは以下の条件や制約のある64×64−ルマサンプルとして定義されること、その条件や制約として、「条件1:1つまたは複数のCUを含む各VPDUについて、CUはVPDUに完全に含まれ」ること、「条件2:1つ以上のVPDUを含む各CUについて、VPDUはCUに完全に含まれ」ること、「提案された制約:各CTUについて、上記2つの条件に違反してはならない」ことが記載されているといえる。
ここで、条件1はVDPUがCUを含むことを前提とし、条件2はCUがVDPUを含むことを前提とすることから、VDPUとCUの大きさが一致する場合を除き、条件1と条件2のいずれかが成り立てばよいことは自明であるといえる。

エ 上記(1)のオ、とりわけ図1の上段の一番右側、下段の左から2番目及び一番右側の図から、ハードウェアデコーダパイプライニングに問題が引き起こされるために望ましくないTT分割とBT分割の例として、128×128−ルマを示す矩形領域を水平二分割した横128×縦64ルマの領域に対して、さらに水平二分割、水平三分割、及び垂直三分割することが含まれることが読み取れる。

上記のアないしエから、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

a 仮想パイプラインデータユニット(VDPU)サイズがM×Mのルマ・サンプルに設定されるハードウェアデコーダであって、
b 128×128−ルマのコーディングツリーブロック(CTU)に対して、四分木(QT)符号化単位(CU)分割に加えて、三分木(TT)分割及び二分木(BT)分割を再帰的に適用できる、VVCに関して、VVCのVDPUサイズを削減するために、TT分割及びBT分割の制約がなされ、VDPUサイズを64×64−ルマのサンプルと定義した場合に、
条件1:1つまたは複数のCUを含む各VPDUについて、CUはVPDUに完全に含まれ、
条件2:1つ以上のVPDUを含む各CUについて、VPDUはCUに完全に含まれ、
制約:VPDUとCUの大きさが一致する場合を除き、条件1と条件2のいずれかが成り立つものであって、各CTUについて、上記2つの条件に違反してはならない、
ように構成し、
b1 ハードウェアデコーダパイプライニングに問題が引き起こされるために望ましくないTT分割とBT分割の例として、128×128−ルマを示す矩形領域を水平二分割した横128×縦64ルマの領域に対して、さらに水平二分割、水平三分割、及び垂直三分割することが含まれる、
a ハードウェアデコーダ。

(3)引用文献2の記載、引用文献2記載事項の認定
また、引用発明が構成bに特定されるように、その態様として含んでいる、VVCの最初のドラフトである、Benjamin Bross,Versatile Video Coding (Draft 1), Joint Video Experts Team (JVET) of ITU-T SG 16 WP 3 and ISO/IEC JTC 1/SC 29/WG 11 10th Meeting: San Diego, US, 10-20 Apr. 2018, Document:JVET-J1001-v2, 2018年6月15日(以下、「引用文献2」という。)には、特にp.27において以下の記載がある。

上記記載において、変数allowSplitBtVerに1、変数allowSplitBtHor、allowSplitTtVer、allowSplitTtHorにそれぞれ0を設定した場合を考えると、構文要素multi_type_tree中に構文要素mtt_split_cu_vertical_flagとmtt_split_cu_binary_flagが存在するか否かを判断する条件となる2つのif文は、いずれもfalse(偽)となる。
以上から、引用文献2には、引用発明がその態様として含むVVCの前提として、
マルチタイプツリー分割において、変数allowSplitBtVerが1となり、変数allowSplitBtHor、allowSplitTtVer、allowSplitTtHorがそれぞれ0になる場合、構文要素mtt_split_cu_vertical_flagとmtt_split_cu_binary_flagは、いずれも構文要素multi_type_treeに含まれないこと
について記載されているといえる(以下、「引用文献2記載事項」という。)。

5 本件補正発明と引用発明との対比
ア 引用発明は構成aのように「ハードウェアデコーダ」に関するものであり、本件補正発明の構成Fの「デコーダ」に相当するといえる。
ここで、引用発明は構成bのとおり、動画像標準規格案VVCに関する態様を含むところ、画像の画像データを含みビットストリームを受信するための受信ユニットを備えることは、VVCに限らず広く動画像のデコーダにおける技術的前提である。
また、VVCにおける技術的前提として、画像を区分して少なくとも1つのCTUを取得するために、受信した画像を区分すること、CTUを分割してCUを取得し、CUを復号して再構築されたブロックを生成することで、再構築された画像を生成することから、引用発明の「デコーディングユニット」は、本件補正発明の構成Aの「画像の画像データを含むビットストリームを受信するための受信ユニット」、構成Bの「少なくとも1つのコーディングツリーノードを備えた少なくとも1つのコーディングツリーユニット(CTU)を取得するために、前記画像を区分するための区分ユニット」、構成Eの「画像の再構築された画像を生成するために、前記ビットストリームに基づいて、前記CUの再構築されたブロックを生成するためのデコーディングユニット」を具備するものといえる。

イ 引用発明の構成b、b1は、128×128−ルマのCTUに対して三分木分割及び二分木分割を再帰的に適用でき、構成aのM×Mのルマ・サンプルの具体的なサイズとして64×64−ルマのVDPUを得るにあたり、例として横128×縦64ルマのCTUが得られた場合に、これを水平二分割、水平三分割及び垂直三分割すると問題が引き起こされるために望ましくないことを示すものであることから、得られたCTUが横128×縦64ルマのCTUであるかどうかを判断するための構成を備えるといえる。
そうすると、引用発明における「CTU」は本件補正発明の「コーディングツリーノード」に相当し、上記得られたCTUが横128×縦64ルマのCTUであるかどうかを判断するための構成は、構成Cの「前記コーディングツリーノードの高さが64を超えず、前記コーディングツリーノードの幅が64より大きいかどうかを決定するためのサイズ決定ユニット」に相当する。
一方、得られたコーディングツリーノードに対して三分木分割や二分木分割を適用するかどうかについて、
本件補正発明は、構成Dのように「前記コーディングツリーノードが分割されるべき場合に1つまたは複数のコーディングユニット(CU)を取得するために、前記コーディングツリーノードに垂直二分木分割を適用し、前記コーディングツリーノードの前記高さが64を超えず、前記コーディングツリーノードの前記幅が64より大きいと決定するための分割モード適用ユニット」を備えるのに対して、
引用発明は構成bの条件1、条件2、制約を満たすようにすること、及び構成b1に例示されるように、横128×縦64ルマのCTUが得られた場合に、これを水平二分割、水平三分割及び垂直三分割すると問題が引き起こされるために望ましくないことを特定するにすぎず、横128×縦64ルマのCTUが得られた場合に、「コーディングツリーノードが分割されるべき場合に1つまたは複数のコーディングユニット(CU)を取得するために、垂直二分割を適用」するかどうかは不明である点で相違する。

ウ 本件補正発明は、構成Eの「デコーディングユニット」について、構成E1に特定されるように、「前記垂直二分木分割が前記コーディングツリーノードに適用される場合」、すなわち、構成Dにおいて特定される、「前記コーディングツリーノードが分割されるべき場合」であり、「前記コーディングツリーノードの前記高さが64を超えず、前記コーディングツリーノードの前記幅が64より大きい」場合、「mtt_split_cu_vertical_flagと、mtt_split_cu_binary_flagとが、前記ビットストリームにおいてシグナリングされない」のに対して、
引用発明は、構成aの「ハードウェアデコーダ」について、構成bの分割を行う場合、構成b1の分割をすると問題が引き起こされるために望ましくないことが特定されているにすぎないことから、垂直二分木分割が横128×縦64のコーディングツリーノードに適用されるかどうかは不明であり、「mtt_split_cu_vertical_flagと、mtt_split_cu_binary_flagとが、前記ビットストリームにおいてシグナリング」されるかどうかについても不明な点で相違する。

そうすると、本件補正発明と引用発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
A 画像の画像データを含むビットストリームを受信するための受信ユニットと、
B 少なくとも1つのコーディングツリーノードを備えた少なくとも1つのコーディングツリーユニット(CTU)を取得するために、前記画像を区分するための区分ユニットと、
C 前記コーディングツリーノードの高さが64を超えず、前記コーディングツリーノードの幅が64より大きいかどうかを決定するためのサイズ決定ユニットを備え、
E 前記画像の再構築された画像を生成するために、前記ビットストリームに基づいて、前記CUの再構築されたブロックを生成するためのデコーディングユニットを有する、
F デコーダ。

(相違点1)
得られたCTUに対して三分木分割や二分木分割を適用するかどうかについて、
本件補正発明は、構成Dに特定される「前記コーディングツリーノードが分割されるべき場合に1つまたは複数のコーディングユニット(CU)を取得するために、前記コーディングツリーノードに垂直二分木分割を適用し、前記コーディングツリーノードの前記高さが64を超えず、前記コーディングツリーノードの前記幅が64より大きいと決定するための分割モード適用ユニット」を備えるのに対して、
引用発明は、構成bの条件1、条件2、制約を満たすようにすること、及び構成b1のように、例として横128×縦64ルマのCTUが得られた場合に、これを水平二分割、水平三分割及び垂直三分割すると問題が引き起こされるために望ましくないことを特定するにすぎず、「コーディングツリーノードが分割されるべき場合に1つまたは複数のコーディングユニット(CU)を取得するために、垂直二分割を適用」するかどうかは不明である点。

(相違点2)
コーディングツリーノードに垂直二分木分割を適用して取得されたCUについて、
本件補正発明は、構成D1に特定されるように「前記コーディングツリーノードから区分された前記CUは、二分木分割によって分割することが許可される」のに対して、
引用発明は、上記相違点1のとおり、「コーディングツリーノードが分割されるべき場合に1つまたは複数のコーディングユニット(CU)を取得するために、垂直二分割を適用」するかどうかは不明である以上、「前記コーディングツリーノードから区分された前記CUは、二分木分割によって分割することが許可される」かどうか不明である点。

(相違点3)
デコーディングユニットについて、
本件補正発明は、「前記垂直二分木分割が前記コーディングツリーノードに適用される場合」、すなわち、「前記コーディングツリーノードが分割されるべき場合」であって、「前記コーディングツリーノードの前記高さが64を超えず、前記コーディングツリーノードの前記幅が64より大きい」場合、「mtt_split_cu_vertical_flagと、mtt_split_cu_binary_flagとが、前記ビットストリームにおいてシグナリングされない」のに対して、
引用発明は、前記コーディングツリーノードの高さが64を超えず、前記コーディングツリーノードの幅が64より大きいという条件を満たす、横128×縦64のコーディングツリーノードに垂直二分木分割が適用されるかどうかは不明であることから、「mtt_split_cu_vertical_flagと、mtt_split_cu_binary_flagとが、前記ビットストリームにおいてシグナリングされない」かどうかについても不明である点。

6 相違点に対する判断
(1)まず、相違点1について検討する。
引用発明は、受信した画像を区分することで得られる特定の大きさ(例えば横128×縦64)のCTUを与えた時に、構成bの条件1、条件2、制約を満たす、許容される分割ないし許容されない分割についての具体的なルールを実行するデコーダであり、その具体的ルールの例が構成b1として特定されているものであるといえる。
ここで、横128×縦64ルマの大きさのCTUが入力された場合、これを分割することで構成bの条件1、条件2、制約を満たす64×64−ルマのVDPUが得られるような、引用発明の「ハードウェアデコーダ」を実現するに当たって、
当該デコーダが実行する上記の具体的なルールとして、三分木分割や二分木分割の具体的な態様について、分割の適用の可否をすべて検討すること、
上記検討の際に、水平二分木分割や水平三分割及び垂直三分割とは異なり分割をすると問題が引き起こされるために望ましくないか否かが判明しているわけではない、垂直二分木分割の適用の可否を検討することで、
引用発明に対して、横128×縦64ルマの大きさのCTUに対して、上記垂直二分木分割の適用の可否を検査するという処理を実行し、適用可であれば垂直二分木分割を適用して分割処理を行うための構成を具備する「ハードウェアデコーダ」を想到すること、
は、当業者が通常発揮する創作能力の範囲にすぎないものといえる。
このような「ハードウェアデコーダ」において、横128×縦64ルマの大きさのCTUに対して上記垂直二分木分割の適用の可否を検査し、適用可であれば垂直二分木分割する処理を行った場合、構成bの条件1、条件2、制約を満たすものとして、最終的に垂直二分木分割の適用を可として分割処理を行うことで、2つの64×64−ルマのサンプルが得られることは明らかであり、さらに、VVCに関する技術的前提から、この64×64−ルマのサンプルはCUに他ならない。
したがって、引用発明に対して、横128×縦64ルマの大きさのCTUに対して、上記垂直二分木分割の適用の可否を検討した結果、適用可であれば垂直二分木分割を適用して64×64−ルマのサンプルへの分割処理を行うための構成を具備した上記「ハードウェアデコーダ」は、本件補正発明の構成Dの「前記コーディングツリーノードが分割されるべき場合に1つまたは複数のコーディングユニット(CU)を取得するために、前記コーディングツリーノードに垂直二分木分割を適用し、前記コーディングツリーノードの前記高さが64を超えず、前記コーディングツリーノードの前記幅が64より大きいと決定するための分割モード適用ユニット」に相当する構成を有するものといえる。

(2)次に、(1)を踏まえて相違点2について検討する。
(1)のとおり、横128×縦64ルマのCTUに対して垂直二分木分割の可否の適用を検討し、その結果分割処理を行って得られる64×64−ルマのサンプル(以下、「当該サンプル」という。)は、構成b1の条件1、条件2、制約を満たすことがいえるが、当該サンプルは、構成bのとおり、1つのVDPUでもある。
そうすると、当該サンプルをさらに(二分木、三分木、四分木のいずれでも)分割したサンプルは、当然に条件1や制約を満たすといえる。
(なお、当該サンプルを分割したサンプルはVDPUより小さくなり、CUがVDPUを含むことはありえないことから、条件2は考慮する必要が無いことは明らかである。)
したがって、当該サンプルは、構成D1同様に「前記コーディングツリーノードから区分された前記CUは、二分木分割によって分割することが許可される」といえる。

(3)さらに、相違点3について検討する。
引用文献2記載事項にあるように、
マルチタイプツリー分割において、変数allowSplitBtVerが1となり、変数allowSplitBtHor、allowSplitTtVer、allowSplitTtHorがそれぞれ0になる場合、構文要素mtt_split_cu_vertical_flagとmtt_split_cu_binary_flagは、いずれも構文要素multi_type_treeに含まれないこと、
は引用発明がその態様として含むVVCの前提の技術にすぎない。

そして、同じくVVCを前提とする上記(1)の「ハードウェアデコーダ」に対して、処理の対象となるCTUについて、上記変数が所定の値をとる場合は、当該CTUとともに、引用文献2記載事項のシンタックス要素を与えて処理を行うようにすることは、上記(1)の「ハードウェアデコーダ」において通常想定される処理にすぎない。

ところで、上記変数名から明らかなように、変数allowSplitBtVer、allowSplitBtHor、allowSplitTtVer、allowSplitTtHorとは、それぞれ垂直二分木分割、水平二分木分割、垂直三分木分割、水平三分木分割が許容されるか否かを意味するものと認められる。
そうすると、上記変数が所定の値をとる場合、すなわち、
変数allowSplitBtVerが1となり、変数allowSplitBtHor、allowSplitTtVer、allowSplitTtHorがそれぞれ0になる場合とは、垂直二分木分割が許容され、水平二分木分割、垂直三分木分割、水平三分木分割のそれぞれが許容されない場合であるといえる。

したがって、上記(1)の「ハードウェアデコーダ」に対して、引用文献2記載事項のシンタックス要素を与えて処理を行う場合とは、処理の対象となるCTUが、垂直二分木分割が許容され、水平二分木分割、垂直三分木分割、水平三分木分割のそれぞれが許容されない場合であり、横128×縦64ルマが入力される場合である。
この場合、構文要素mtt_split_cu_vertical_flagとmtt_split_cu_binary_flagは、いずれも構文要素multi_type_treeに含まれないことになるが、これは、本件補正発明の構成E1の
「前記垂直二分木分割が前記コーディングツリーノードに適用される場合、mtt_split_cu_vertical_flagと、mtt_split_cu_binary_flagとが、前記ビットストリームにおいてシグナリングされない」状態を満たす。
すなわち、上記(1)の「ハードウェアデコーダ」に対して、引用文献2記載事項のシンタックス要素を与えた場合、本件補正発明の構成E1を満たすように処理を行うといえる。

以上から、上記(1)の「ハードウェアデコーダ」において、VVCに関する技術的前提である上記引用文献2記載事項のシンタックス要素を与えた場合は、本件補正発明の構成E1に相当する構成を具備するといえる。

(4)小括
以上(1)から(3)を踏まえると、本件補正発明は、引用発明および引用文献2記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものではない。

7 審判請求人の主張について
審判請求人は、令和5年8月9日付け意見書の「3.拒絶理由1(進歩性)について」において、以下のとおり主張している。

「本願発明によれば、64を超えない高さと64より大きい幅を有するコーディングツリーノードを分割するために垂直二分木分割を使用することが許可される場合に、コーディングツリーノードから区分されたCUは、二分木分割によって分割することが許可されます。
一方、引用文献1の図2(Figure 2)に示されるように、引用文献1には、128×128のコーディングツリーノードから区分された64×64のCUは、三分木分割によって分割することが許可されることが開示されております(図2の下段の2つの図を参照)。しかしながら、引用文献1は、128×128のコーディングツリーノードから区分された64×64のCUが、二分木分割によって分割することが許可されることを開示しておりません。
もし引用文献1が、128×128のコーディングツリーノードから区分された64×64のCUを分割するために二分木分割を使用することを許可するのであれば、引用文献1の図2には、CUを分割するために二分木分割を使用する1つ以上の例が示されているはずです。しかしながら、そのような例は、引用文献1の図2に示されておりません。従いまして、引用文献1は、128×128のコーディングツリーノードから区分された64×64のCUを分割するために二分木分割を使用することを禁止していると考えられます。
(中略)むしろ、当業者は、引用文献1の教示に基づいて、コーディングツリーノードから区分されたCUを分割するために三分木分割を使用することを許可することを検討しただろうと思料致します。」

上記主張について検討する。
上記5(2)のとおり、横128×縦64ルマのサンプルを分割することによって得られる64×64−ルマのサンプルは、引用発明のVDPUに関する構成b1の条件1、条件2、制約を満たす以上、これを(二分木、三分木、四分木のいずれでも)分割したサンプルは、当然に条件1や制約を満たすものであって、構成D1同様に「前記コーディングツリーノードから区分された前記CUは、二分木分割によって分割することが許可される」ということができる。
そうすると、引用文献1の図2に記載されている、分割することが許可される三分木の例は、引用文献1の第2頁第10行目に”Figure 2 shows some examples that are allowed.”(下線は合議体が付した)と記載されるように、単なる例示にすぎないといえる。
以上のとおり、意見書の主張は採用できない。

8 補正の却下の決定のまとめ
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本件発明について
1 本件発明
令和5年8月9日にされた手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和5年1月5日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし19に記載された事項により特定されるものであり、そのうち、請求項15に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記第2の1に示した(補正前の請求項15)に記載された事項により特定されるとおりのものである。

2 当審における拒絶の理由
当審における令和5年5月31日付け拒絶理由のうち、理由1の内容は、概略、以下のとおりである。

1.(進歩性)この出願の請求項1−19に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.Chih-Wei Hsu, et al.,CE1-related: Constraint for binary and ternary partitions,Joint Video Experts Team (JVET) of ITU-T SG 16 WP 3 and ISO/IEC JTC 1/SC 29/WG 11 11th Meeting: Ljubljana, SI,10-18 July 2018, Document:JVET-K0556-v1,2018年7月16日,pp.1-3
2. Benjamin Bross,Versatile Video Coding (Draft 1), Joint Video Experts Team (JVET) of ITU-T SG 16 WP 3 and ISO/IEC JTC 1/SC 29/WG 11 10th Meeting: San Diego, US, 10-20 Apr. 2018, Document:JVET-J1001-v2, 2018年6月15日

3 引用発明、引用文献2記載事項
当審における拒絶の理由に引用された引用文献1には、上記第2の4(1)に示したとおりの事項が記載されており、これから認定される引用文献1に記載された発明(引用発明)は、上記第2の4(2)に示したとおりである。
また、当審における拒絶の理由に引用された引用文献2には、上記第2の4(3)に示したとおりの事項が記載されており、これから認定される引用文献2記載事項は、上記第2の4(3)に示したとおりである。

4 判断
本件発明は、上記第2の5の(相違点3)に関する、本件補正発明の構成D1の「前記コーディングツリーノードから区分された前記CUは、二分木分割によって分割することが許可される、」という限定事項を除いたものである。
ここで、上記第2の5、6の「本件補正発明と引用発明との対比」及び「相違点に対する判断」において示したとおり、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2記載事項に基づいて当業者が容易になし得たものである以上、本件発明も引用発明及び引用文献2記載事項に基づいて当業者が容易になし得たものであるといえる。

第4 むすび
以上のとおり、本件発明は、引用発明及び引用文献2記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 畑中 高行
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2023-10-10 
結審通知日 2023-10-16 
審決日 2023-10-27 
出願番号 P2021-502878
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04N)
P 1 8・ 575- WZ (H04N)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 畑中 高行
特許庁審判官 川崎 優
高橋 宣博
発明の名称 ビデオコーディング用の制約付きコーディングツリー  
代理人 野村 進  
代理人 実広 信哉  

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