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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1408673
総通号数 28 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2024-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2023-01-26 
確定日 2024-03-27 
事件の表示 特願2019−570522「毛髪の運動特性を測定する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年12月27日国際公開、WO2018/234412、令和2年8月20日国内公表、特表2020−524563〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)6月20日(優先権主張外国庁受理 2017年6月23日(以下「優先日」という。))を国際出願日とする特許出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
令和4年 2月22日付け:拒絶理由通知
令和4年 8月30日 :意見書提出
令和4年 8月30日 :手続補正書提出(以下、この手続補正書を「査定前補正書」という。)
令和4年 9月21日付け:拒絶査定
令和5年 1月26日:手続補正書提出(以下、この手続補正書を「本件補正書」、これによる手続補正を「本件補正」という。)
令和5年 1月26日:審判請求書提出

第2.本件補正について

1 本件補正の内容

(1)査定前補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件補正前発明」という。)は、以下のとおりである。各構成単位冒頭の「pA」などは当審にて付した分説番号であり、以下、該各構成単位について前記分説番号を用いて「構成pA」などという。以下、他の発明の構成についても同様。

「 【請求項1】
pA 消費者の反応を予測させる毛髪の運動特性の変化を測定する方法であって、
pB i)毛髪の運動特性を測定する装置を提供するステップと、
pC ii)前記装置を使用して毛髪の前記運動特性を測定するステップと、
pD iii)前記毛髪にトリートメント又は攻撃を適用するステップと、
pE iv)ステップiii)の結果から生じる前記毛髪の前記運動特性を測定するステップと、
pF v)ステップiv)から得られた前記運動特性とステップii)の前記運動特性を比較するステップと、
pG vi)前記トリートメント又は攻撃の適用の結果生じた前記運動特性の変化を評価するステップと、
を含み、
pH1 ここで、前記装置は、前記毛髪が取り付けられるバーを有する装備を備え、
pH2 該装備は、水平軸の強制振動をバーに加えるモータを含み、
pH3 バーはライトボックスの前に位置し、
pH4 強制振動中の毛髪の画像に加え、強制振動が適用されなくなった後の運動の減衰の画像もとらえるために、動画機能のあるカメラが、ライトボックスから固定された距離に取り付けられること、を特徴とする
pI 前記方法。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の構成(以下「本件補正発明」という。)は、以下のとおりである。(下線は、補正箇所を示すべく当審で付した。)

「 【請求項1】
A 毛髪の運動特性の変化を測定する方法であって、
B i)毛髪の運動特性を測定する装置を提供するステップと、
C ii)前記装置を使用して毛髪の前記運動特性を測定するステップと、
D iii)前記毛髪にトリートメント又は攻撃を適用するステップと、
E iv)ステップiii)の結果から生じる前記毛髪の前記運動特性を測定するステップと、
F v)ステップiv)から得られた前記運動特性とステップii)の前記運動特性を比較するステップと、
G vi)前記トリートメント又は攻撃の適用の結果生じた前記運動特性の変化を評価するステップと、
を含み、
H1 ここで、前記装置は、前記毛髪が取り付けられるバーを有する装備を備え、
H2 該装備は、水平軸の強制振動をバーに加えるモータを含み、
H3 バーはライトボックスの前に位置し、
H4 強制振動中の毛髪の画像に加え、強制振動が適用されなくなった後の運動の減衰の画像もとらえるために、動画機能のあるカメラが、ライトボックスから固定された距離に取り付けられること、を特徴とする
I 前記方法。」

2 補正の適否について
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲について補正しようとするものであり、拒絶理由通知及び拒絶査定における、構成pAの「毛髪」が「消費者の反応を予測させる」との特定事項に関する明確性要件違反の指摘を受けて、「毛髪」についての前記特定事項を削除する補正を行ったものである。よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる、明瞭でない記載の釈明を目的とする補正である。
したがって、請求項1に係る本件補正は適法になされたものである。

第3.原査定の拒絶理由

1 引用文献等
拒絶理由通知及び拒絶査定において引用された引用文献は次のとおりである。当該引用文献は、本件出願の優先日前に公知となったものである。

引用文献1.特表2014−518254号公報

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、概略次のものを含む。

(1)理由1(明確性要件)について
構成pAの「消費者の反応を予測させる毛髪の運動特性の変化を測定する」との記載について「消費者の反応を予測させる」との特定事項がその意味範囲や客観性において不明瞭であるため、本件特許出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(2)理由2(進歩性)について
本件補正前発明は、本件出願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前(優先日前)にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4.引用文献の記載及び引用発明

1 引用文献1の記載
引用文献1には次の記載がある。

「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーソナルケア組成物、より具体的にはヘアケア組成物に関する。特には、本発明は、健康に見える髪および/または皮膚を増進するための組成物に関する。本組成物は、毛髪繊維の表面摩擦を低下させ、髪の房が互いに自由に動くことを可能にすることに特に効果的である。
・・・
【0094】
< 用途例>
例13
<髪の動き試験>
例10および比較例AとBの配合物を試験して、それぞれの配合物の適用の後の髪の動きの性質を測定した。
【0095】
<実験>
<装置>
髪の房の動きを、高トルク攪拌機(ZR2000、Heidolph Instruments GmbH、( Schwabach、独国))によって動かされる(turned by)、滑り棒機構からなるヘアダイナミクス試験機(特別注文の設備)を用いて作り出した。この髪は、滑り棒に、ブルドック型クリップを用いて、髪の房の頂部で、ワックスの細片を掴むことによって取付けた。
【0096】
髪の動きを、高解像度の、1920×1080ピクセルのビデオカメラ(Sanyo XactiHD2000、SANYO Europe GmbH SANYO、Hertfordshire)を用いて、デジタルで記録した。このビデオ画像が鮮明であることを確実にするために、写真用の、不変のD65光源を用いて、髪の房と背景に亘って、均一に拡散した光を投射した。このビデオファイルを、次いで、OjoSoftファイル変換ソフトウエア(www.ojosoft.com( 2010年9月16日現在では正確)から入手可能)およびMencoder AVIファイル変換ソフトウエア(http://www.mplayerhq.hu/design7/dload.html(2011年3月14日現在では正確)から入手可能)を用いて、解析するのに好適なフォーマットに変換した。変換したビデオファイルは、次いで、特別に開発したソフトウエア(ブラッドフォード大学(ブラッドフォード)のCentre for VisualComputingによって開発された)を用いて解析した。
【0097】
<材料>
ワックスで取付けた、ヨーロッパ人の、バージンヘアスワッチ(swatches)、中間の褐色、25cm長さ(InternationalHair Importers and Products、Glendale、New York)を、50mm幅の房を形成するように切断した。
【0098】
房が洗浄された(washed/cleaned)場合には、標準の10%活性のラウリルエーテル硫酸ナトリウム(SLES)溶液を、洗浄用に用いた。
【0099】
漂白での損傷は、テーブル9のように、商業的に入手可能な粉末漂白剤およびクリーム状の過酸化物漂白系を用いて、生じさせた。
【0100】
【表8】



・・・

【0106】
髪に損傷を起こすように房を漂白する場合には、約15gの粉末漂白剤混合物を、初めに、色付けブラシ(tinting brush)を用いて、そして次いで更に手によるマッサージによって房の長さ全体に沿って均一な被覆を確実にするように、適用した。漂白剤は、バージンヘアに40分間の最大推奨時間に亘って放置し、その時間によって、髪の色は目に見えて明るくなり、漂白プロセスが成功したことを示していた。漂白用製品を、次いで水中でのすすぐこと、そして次いで上記の手順を用いて洗い落とすことにより、取り除いた。
【0107】
<試験方法>
一度、これらの房が乾燥されたら、それらを、個々に、ヘアダイナミクス試験機に掛けた。房は、試験する前に器械で激しく動かされ、乾燥プロセスの一部で発生したいずれかの塊った繊維が解された。器械を、所望の試験速度にリセットし、そしてビデオカメラを記録するように調整した。器械を始動させ、そして髪の動きを20回の揺れに亘って記録し、その後、器械を停止した。ビデオカメラは、全ての動きを捕捉されることを確実にするために、30秒間が過ぎるまで、記録を続けた。
【0108】
<ビデオファイルの解析>
ヘアダイナミクス試験機を用いて髪の動きを捕捉した後に、ビデオファイルを、上記のファイル変換ソフトウエアを用いて変換した。この変換されたファイルを、次いでヘアダイナミクス解析ソフトウエア中で開いたが、それは房を自動的に認識し、そしてビデオのフレーム内で、その位置を、房の動きとしてプロットすることができる。揺れの高さの座標がテキストファイルにアウトプットされ、これをスプレッドシート内で開き、そこでデータ解析を実行することができる。
【0109】
<結果>
負の対照試料としての試験のための準備として、2組の3つの房を漂白した。髪の漂白に当たっては、色が明るくなり、漂白が成功裏に髪に損傷を与えていることを示していた。また、髪の肌理も、漂白前の状態に比べて、変化し、予期したように肌理が粗くそしてざらざらした感触であった。
【0110】
比較例Bと例10のコンディショニング製品での処理の前および後の両方で、漂白で損傷した髪の房について、揺れの高さの結果を、図1に示した。これらの製品の観察された揺れの高さは、下記のテーブル10の通りである。
【0111】
【表9】



【0112】
漂白剤で損傷を与え、そして10%活性のSLESで洗浄した房の2つの異なる組の間で観察された揺れの高さは、互いに比較した場合には僅かな差異を示した。房の間の差異は予期されたものであり、そして観察された差異は比較的に小さかったので、懸念の材料とはならなかった。
【0113】
房を、比較例Bの市販のコンディショナーで処理した場合には、揺れの高さは77から208ピクセルに増加したが、これは未処理の髪を基準にして2.7倍の増加に合致する。1600×900ピクセルの解像度では、3.8ピクセルが1mmに等しい。
【0114】
房の第2の組を、例10をコンディショニング剤として処理した。これらの房の揺れの高さは、60から269ピクセルに、ほぼ4.5倍(4.48倍の増加)増加した。これらの結果は、例10の配合物が、カチオン性のコンディショニング剤およびシリコーン誘導体を含み、最適化されていて、完全に配合されているコンディショニング系に比べて、髪の動きを有意に向上させることができることを示している。
【0115】
対照として、比較例Aの配合物を漂白で損傷した髪に適用して、そして髪の動きを向上させる効果について試験した。結果を図2に示した。この製品の観察された揺れの高さは、テーブル11の通りである。」

2 引用発明
上記1に摘記した記載の、特に下線部(当審にて付加)の記載から、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。各構成単位末尾括弧内には、主たる認定の根拠とした記載箇所を示す。

「a 毛髪繊維の表面摩擦を低下させ、髪の房が互いに自由に動くことを可能にする組成物であるコンディショニング製品での処理の前及び後の両方で髪の動きの性質を測定する方法であって、(【0001】・【0094】・【0110】)
b 髪の房の動きを作り出すヘアダイナミクス試験機と、髪の動きをデジタルで記録するビデオカメラと、ビデオカメラのビデオファイルを解析するソフトウエアとからなる装置を用い、(【0095】・【0096】)
c1 髪の房に損傷を起こすように髪の房を、商業的に入手可能な粉末漂白剤およびクリーム状の過酸化物漂白系を用いて漂白した後、10%活性のSLESで洗浄し、(【0098】・【0099】・【0100】・【0106】)
c2 前記損傷した髪の房について、コンディショニング製品での処理の前に、前記装置を用いて、髪の房の揺れの高さを解析し、(【0107】・【0108】・【0110】)
c3 髪の房は、長さ25cm、幅50mmの房であり、(【0097】)
d 前記損傷した髪の房について、コンディショニング製品で処理した後に、(【0110】)
e 前記装置を用いて、髪の房の揺れの高さを解析し、(【0107】・【0108】・【0110】)
f コンディショニング製品での処理の前および後での、前記漂白した髪の房について、揺れの高さの解析結果を比較し、(【0110】〜【0114】、【表9】)
g 前記漂白した髪の房に前記コンディショニング製品での処理をした前に対し、該処理の後での該髪の房の揺れの高さが何倍の増加に合致するかによってコンディショニング製品による髪の動きを向上させる効果について試験し、(【0110】〜【0115】)
h1 前記装置のヘアダイナミクス試験機は、髪の房を、ブルドック型クリップを用いてその頂部でワックスの細片を掴むことで取り付ける、滑り棒機構を備え、(【0095】)
h2 前記滑り棒機構は、高トルク攪拌機によって動かされ、(【0095】)
h3 ビデオ画像が鮮明であることを確実にするために、髪の房とその背景にわたって、写真用のD65光源を用いて均一に拡散した光が照射されるものであり、(【0096】)
h4a 髪の房をヘアダイナミクス試験機に掛けたあと、所望の試験速度にリセットし、試験機を始動させ、その髪の動きを20回の揺れにわたってビデオカメラで記録し、その後、試験機を停止し、ビデオカメラは、全ての動きを捕捉されることを確実にするために、30秒が過ぎるまで記録を続けるものであり、(【0107】)
h4b ビデオカメラの1600×900ピクセルの解像度では、3.8ピクセルが1mmに等しいものである、(【0113】)
i 方法。」

第5.対比

1 対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。

(1)構成aの「髪」は構成Aの「毛髪」に相当する。
また、「コンディショニング製品での処理の前及び後の両方で髪の動きの性質を測定する」ことは、コンディショニング製品での処理の前の髪の動きと、同後の髪の動きとの双方の性質を測定することであるから、構成Aの「毛髪の運動特性の変化を測定する」ことに相当する。
よって、引用発明は構成Aに相当する「方法」の構成を備える。
また、同様に、引用発明は構成Iの「方法」に相当する構成を備える。

(2)構成bの「髪の房の動きを作り出すヘアダイナミクス試験機と、髪の動きをデジタルで記録するビデオカメラと、ビデオカメラのビデオファイルを解析するソフトウエアとからなる装置」は、「試験機」・「ビデオカメラ」・「ソフトウェア」が協働して髪(の房)の動きを作り出し、それを記録・解析する機能を有する装置であるといえるから、構成Bの「毛髪の運動特性を測定する装置」に相当する機能を備える。
そして、引用発明の方法は、前記構成bの装置が事前に準備されていることを前提とする方法であるから、よって、引用発明は、構成Bに相当するステップを備えるといえる。

(3)構成Dの「トリートメント」は、本件出願の明細書【0027】において
「好ましい毛髪のトリートメント(ステップvi)は、洗い流す製品及び洗い流さない製品である。好ましい毛髪トリートメント組成物はシャンプー、洗い流すヘアコンディショナー、ヘアマスク、洗い流さないコンディショナー組成物及びプレトリートメント組成物から選択され、より好ましくは洗い流すヘアコンディショナー、ヘアマスク、洗い流さないコンディショナー組成物及びプレトリートメント組成物、例えばオイルトリートメントから選択され、最も好ましくは洗い流すヘアコンディショナー、ヘアマスク及び洗い流さないコンディショナー組成物から選択される。」
と定義づけられる処理であり、該記載から、前記「トリートメント」処理を担う製品として「ヘアコンディショナー」を定義上含むものである。
そうすると、構成dの「髪の房について、コンディショニング製品で処理」することは、構成Dの「前記毛髪にトリートメント…を適用する」ことに相当するといえる。
よって、引用発明は構成Dに相当する構成を備える。

(4)ア 構成c2の「髪の房の揺れの高さ」は、「揺れ」という髪の房の運動の動的な特徴を表す一つのパラメータであるといえるから、構成Cの「毛髪の前記運動特性」に相当する。

イ また、構成Cは、構成D・Eとの関係から見て、構成Dにおける「トリートメント」の適用前に、「前記装置を使用して毛髪の前記運動特性を測定する」ことを特定するものと解される。

ウ よって、構成c2において、構成Cの「前記装置を使用して毛髪の前記運動特性を測定する」工程に相当する「前記装置を用いて、髪の房の揺れの高さを解析」する工程が、上記(3)で説示したとおり構成Dの「トリートメント…を適用するステップ」に相当する「コンディショニング製品での処理」の「前に」行われることは、構成Dに先行する構成Cの、「前記装置を使用して毛髪の前記運動特性を測定するステップ」に相当するといえる。

(5)上記(3)・(4)の説示を踏まえると、構成eの「前記装置を用いて、髪の房の揺れの高さを解析」する工程が、構成dの「前記損傷した髪の房について、コンディショニング製品で処理した後に」行われることは、構成Eの「ステップiii)の結果から生じる前記毛髪の前記運動特性を測定するステップ」に相当するといえる。

(6)構成fの「コンディショニング製品での処理の前および後での、前記漂白した髪の房について、揺れの高さの解析結果を比較」する工程は、上記(3)〜(5)の説示を踏まえると、構成Fの「ステップiv)から得られた前記運動特性とステップii)の前記運動特性を比較するステップ」に相当するといえる。

(7)上記(3)の説示をふまえれば、構成gの「前記漂白した髪の房に前記コンディショニング製品での処理をした前に対し、該処理の後での該髪の房の揺れの高さが何倍の増加に合致するか」は、構成Gの「前記トリートメント」「の適用の結果生じた前記運動特性の変化」に相当するひとつの指標であるといえる。
そうすると、構成gで、「前記漂白した髪の房に前記コンディショニング製品での処理をした前に対し、該処理の後での該髪の房の揺れの高さが何倍の増加に合致するか」「によってコンディショニング製品による髪の動きを向上させる効果について試験」することは、構成Gにおける前記「運動特性の変化」に相当する指標について、コンディショニング製品の効果を検討、すなわち評価することであるといえるから、構成gは、構成Gの「前記トリートメント又は攻撃の適用の結果生じた前記運動特性の変化を評価するステップ」に相当する構成を備えるといえる。

(8)ア 構成h1において、「滑り棒機構」は、「滑り棒」を備える「機構」を意味すると理解される。

イ 上記アを踏まえると、構成h1「滑り棒機構」に含まれる「滑り棒」は、「棒」であるから、構成H1の「バー」に相当する。

ウ 上記ア・イを踏まえると、構成h1の「髪の房を、ブルドック型クリップを用いてその頂部でワックスの細片を掴むことで取り付ける、滑り棒機構」は、構成H1の「前記毛髪が取り付けられるバーを有する装備」に相当する。

(9)ア 構成h2の「高トルク攪拌機」とは、一般に、撹拌棒の後端に設けた動力源であるモータによって前記撹拌棒を回転させる器具を表す名称である、というのが技術常識である。

イ また、構成h2において「滑り棒」が「滑り運動を行う(ように支承された)棒」を意味することは名称から自明である。

ウ さらに、構成h1・h4aによれば、「高トルク攪拌機」を備える「ヘアダイナミクス試験機」は、その「始動」により「髪」の「20回の揺れ」を生起するものである。ここで、「滑り棒(機構)」にブルドッグ型クリップで取り付けられた髪に「揺れ」を生起するのには、髪に対する(「滑り棒機構」を介した)外部強制による加速度印加を要することが物理法則から自明であるところ、該「揺れ」の回数が「20回」と計数可能であるためには、一回の加速度印加による減衰振動ではなく、20回の離散的な加速度印加が強制される必要があり、そのような計数可能に離散的な加速度を生じる運動であって、滑り運動可能な(有限長さの)棒を介して生起可能で、かつ、モータに類する回転動力源により生起可能な運動としては、棒の往復(を伴う)運動、つまり振動運動を措いて他にない。
仮に、振動(往復)運動以外にも運動生起形態が考え出し得るとしても、引用発明において、前記振動運動がその最も一般的かつ単純な一態様として含まれることは明らかであるといえる。

エ 上記ア〜ウを踏まえると、構成h2の、「滑り棒機構」が「高トルク攪拌機」(の動力源であるモータ)「によって動かされ」る形態は、「滑り棒機構」(の滑り棒の)振動運動であるか、少なくとも振動運動である態様が第一義的に含まれるといえるから、構成h2は、構成H2と、「該装備は、」「強制振動をバーに加えるモータを含」む点で共通する。

(10)ア 構成H3の「ライトボックス」について、本件出願の明細書においては、構成H3・H4と同様の記載(【0131】)を除くと、【0181】に「背景画像のライトボックス領域は切り取り座標の特定により特定され、これはライトボックス領域に相当する」との説明があるのみであり、どのような具体的構成を持つ装置であるのかについては特段の説明がない。

イ 一方、「ライトボックス」とは、
タイプA:光拡散板を照明装置で照明することで均一の背景光を発生させる装置(下記(ア)が対応;特表2000−505207号公報・特表平10−511473号公報の記載により周知性は裏付けられる)、
タイプB:前方が開口した直方体からなる箱状体の内壁面を光散乱体とし、該内壁面を照明装置で照明することで箱状体の開口部内に載置した物品に均一な照明光を与え、背景となる内壁面が均一な背景光を与えるようにする装置(下記(イ)が対応)、又は、
タイプC:内壁面が光拡散体である前面開口したフード状で、光源の前に取り付けることで光源光を均一な照明光として前方の物品に照射する装置(下記(ウ)が対応)、
として、本件出願の優先日より充分前から、種々の形態のものが広く市販され認知された製品の名称である。
参考として、下記(ア)〜(ウ)に、審決起案時に市販される各種周知の、「ライトボックス」と称する製品の外観例を示す。
(ア)「ライトボックスLEDビュアー」と称する、均一な背景光を与えるための製品の外観例(タイプA)


(イ)撮影ボックス(ライトボックス)と称する、内壁面が光拡散体である前方が開口した箱状体の内壁面に均一な背景光を生じさせ、開口部に載置した物品にも均一な照明光を与えるための製品の外観例(タイプB)


(ウ)ライトボックス(ソフトボックス)と称する、内壁面が光拡散体とされたフード状を成し、光源の前面に取り付けて均一な照明光を前方へ向けて発生させるための製品の外観例(タイプC)





ウ(ア)本件補正発明の「ライトボックス」がいずれの形態のものを指すか、本件出願の発明の詳細な説明において明記はないが、上記アで摘記した【0181】の記載によれば、毛髪をカメラで撮影した画像の背景画像にライトボックス領域が写し込まれているのであり、かつ、同【0103】及び構成H3によれば、「バー」(よって、バーに取り付けられた毛髪も)は、「ライトボックス」の前に位置するという、撮影対象物品と「ライトボックス」との位置関係からみて、均一な背景光(領域)を、前方に位置する物品に対して与える上記「タイプA」に類する装置、または、タイプAのほかタイプBも含め、均一な背景光を与える機能を備える装置、であることが推察される。
(イ)尤も、「ライトボックス」と称する製品には上記タイプA〜C以外にも異なる形態のものが(本件出願の優先日前に)存在するかもしれない。しかし、いずれにせよ、本件出願の発明の詳細な説明における記載によれば、カメラに映り込む背景画像を与える形態の製品であれば足りるといえる。

エ 以上ア〜ウによれば、構成h3と構成H3とは、「バーは照明された背景の前に位置」する点で共通するといえる。

(11)ア 構成h4aにおける、「試験機を始動させ、その髪の動きを20回の揺れにわたってビデオカメラで記録」する工程で記録されるのは、上記(9)で検討・説示したとおり、モータにより強制された結果の「髪の動き」である一方、「その後、試験機を停止し、ビデオカメラは、全ての動きを捕捉されることを確実にするために、30秒が過ぎるまで記録を続ける」工程は、「試験機を停止」すなわちモータによる強制が終了した後の髪の(房の)動きを記録するものと理解される。
そうすると、構成h4aは、構成H4の「強制振動中の毛髪の画像に加え、強制振動が適用されなくなった後の運動」「の画像もとらえる」工程(または目的)に相当する構成を備えるといえる。
イ 構成h4bの「ビデオカメラ」は、構成H4の「動画機能のあるカメラ」に相当する。
ウ 上記ア・イのとおりであるから、構成H4と引用発明とは、「強制振動中の毛髪の画像に加え、強制振動が適用されなくなった後の運動」「の画像もとらえるために、動画機能のあるカメラが取り付けられる」点で共通する。

2 一致点と相違点
上記1の対比から、本件補正発明と引用発明とは、下記(1)の点で一致し、下記(2)の各点で相違する。

(1)一致点
「A 毛髪の運動特性の変化を測定する方法であって、
B i)毛髪の運動特性を測定する装置を提供するステップと、
C ii)前記装置を使用して毛髪の前記運動特性を測定するステップと、
D iii)前記毛髪にトリートメント又は攻撃を適用するステップと、
E iv)ステップiii)の結果から生じる前記毛髪の前記運動特性を測定するステップと、
F v)ステップiv)から得られた前記運動特性とステップii)の前記運動特性を比較するステップと、
G vi)前記トリートメント又は攻撃の適用の結果生じた前記運動特性の変化を評価するステップと、
を含み、
H1 ここで、前記装置は、前記毛髪が取り付けられるバーを有する装備を備え、
H2’ 該装備は、強制振動をバーに加えるモータを含み、
H3’ バーは照明された背景の前に位置し、
H4’ 強制振動中の毛髪の画像に加え、強制振動が適用されなくなった後の運動の画像もとらえるために、動画機能のあるカメラが取り付けられる、
I 前記方法。」

(2)相違点

ア 相違点1(構成H2)
毛髪が取り付けられるバーを有する装備のモータがバーに加える強制振動が、本件補正発明では「水平軸の」振動であるのに対し、引用発明では振動の軸が不明である点。

イ 相違点2(構成H3)
バーが位置するのが、本件補正発明では「ライトボックスの前」であるのに対し、引用発明では、バーに取り付けられた毛髪の背景画像が照明された背景である、すなわち、ビデオカメラからみて、照明された背景の前にバー(に取り付けられた毛髪)が存在するものの、該背景がライトボックスであるか不明である点。

ウ 相違点3(構成H4)
動画機能のあるカメラの取り付け位置が、本件補正発明では「ライトボックスから固定された距離」であるのに対し、引用発明においては、ライトボックス(照明された背景)とカメラ位置との距離について特定されていない点。

エ 相違点4(構成H4)
強制振動が適用されなくなった後にとらえる画像が、本件補正発明では「運動の減衰の画像」であるのに対し、引用発明ではどのような運動の画像であるか不明である点。

第6.判断

1 相違点1について
(1)構成h1・h4aによれば、引用発明において、髪の房はその頂部、すなわちその一端でブルドッグ型クリップにより掴んで滑り棒機構に取り付けられ、ヘアダイナミクス試験機の始動により「20回の揺れ」を起こさせるものである。

(2)ここで、ブルドッグ型クリップとは、下記写真に示すとおりの、周知の事務用のクリップを指す用語である。


(3)ア また、「揺れ」を起こされる、すなわち「揺れる」の字義は、「上下・前後・左右などに動く」である(デジタル大辞泉)。

イ(ア)上記「揺れる」の字義には、前後・左右、すなわち水平方向への揺れが含まれる。
(イ)上端部が固定され鉛直下方に垂下された物体が起こす、水平方向に繰り返す揺れは、振り子運動またはそれに準じる運動であること、前記物体に前記振り子運動を起こさせるためには、物体の支点以外を直接水平方向に変位させるか、支点を水平方向に振動させることを要すること、はいずれも技術常識である。
(ウ)また、振り子運動は、不動の支点から垂下された非伸縮性・質量0のひもの下端におもりを取り付けた物体において最も単純かつ理想的に定義されることが技術常識である。
(エ)振り子運動を支点の上下(鉛直方向)の運動のみにより安定的に起こさせることが容易でないことも、技術常識である。特に、上記(ウ)に挙げた理想的な物体を想定した場合、支点の上下方向の振動のみによって振り子運動を生起することは不可能である。よって、髪の束に振り子運動を生起させる目的で、髪の束を鉛直方向に振動させることは技術常識に照らし選択され得ない。
(オ)上記(ウ)に関し、前記物体が、構成c3・h1のとおり、上端部がブルドッグ式クリップで掴まれ、滑り棒機構に取り付けられた、(鉛直下方に垂下する複数本の毛髪からなる)長さ25cm・幅50mmの髪の房であっても、振り子運動に準じた水平の揺動運動を生じ得ることは、例えば上端部が頭皮に固定された髪の束からなる髪型であるポニーテールが、歩行による左右の体動に応じて左右に振り子状に揺動すること、及び、ポニーテールのサイズとして、長さ25cm・幅50mm程度のものが存在することが、日常的に観察されることからも、容易に想定される。
(カ)また、振り子運動は、励振を停止しても、摩擦による減衰を受けながら一定時間揺動を続ける性質があることは、技術常識である。
(キ)また、振り子運動には、その動的な状態を示す指標として、(先端のおもりまたは重心について)「(振り子静止時の基準面・基準位置からの)高さ」、「加速度」、「速度」等が用いられることも技術常識である。
よって、構成e〜gの「揺れの高さ」は、前記「高さ」に準じるものとして技術常識に照らし理解することが可能である。

ウ(ア)一方、「揺れを起こ」される(揺れる)の字義には、上記アのとおり、上下への動きも含む。
(イ)しかし、上記ブルドッグ型クリップにより髪の房の一端(上端)が掴まれた状態で滑り棒に取り付けて鉛直下方へ垂下した、つまり、上端部が固定された髪の房における上下方向への「揺れ」とはどのような運動を意味するのか、直ちに観念できない。
(ウ)例えば、髪の房をその支点である上端部を鉛直方向に強く振動させることによって、髪の房の鉛直軸線に沿って髪の房が撓みと伸長とを繰り返す(ことで重心位置や先端位置が上下動する)ような躍動運動は想定可能である。
(エ)しかし、上記(ウ)のような運動を「揺れ」といい得るかは疑問であるし、揺れの「高さ」をどのように定義し得るのかも、照らすべき技術常識に乏しく、自明であるとはいえない。
(オ)また、毛髪は弾性体というに足るほどの弾性を備える物体ではないことが技術常識であるから、上記(ウ)の鉛直方向への支点の振動が停止することにより、速やかに前記躍動を停止することが容易に想定され、構成h4aに特定されるような、「全ての動きを捕捉されることを確実にするために、30秒が過ぎるまで記録」することを要するとはいえない。

エ 上記ア〜ウのとおりであるから、引用発明の構成h2において、「高トルク攪拌機」により起こされる「滑り棒機構」の動きは、「髪の房」に水平方向の振り子運動を生起させてその「高さ」を測定するための、水平軸方向の強制振動であるか、少なくとも水平軸方向の振動成分を含む強制振動であると理解される。
よって、相違点1は実質的な相違点であるとはいえない。

オ 仮に、上記エのとおりとまでいえないとしても、上記ア〜ウのとおりであるから、引用発明に接した当業者が、構成h2を具体化する際に、水平軸方向の強制振動を選択し、相違点1の構成とすることは、技術常識に照らし容易になし得たことであるといえる。

2 相違点2について

(1)タイプCの場合
ア(ア)ライトボックスと称する製品には、上記第5.1(10)イのタイプCのように、単に照明装置の前面(非照射物側)に設ける、内壁面が光拡散性のフードからなり、照明装置の光を均一化して前方の被照射物(被写体)に照射するためのものも存在する。
(イ)そして、該タイプCのライトボックスを設けた照明装置を用いる場合、被照射物は、照射方向である該照明装置の前に位置することになる。
(ウ)そうすると、構成h3の「ビデオ画像が鮮明であることを確実にするために、髪の房とその背景にわたって、写真用のD65光源を用いて均一に拡散した光が照射される」照明手段は、前記タイプCのライトボックス(を備えた照明装置)と、その機能において相違なく、引用発明に接した当業者は、本件出願の発明の詳細な説明において特段の説明もなく「ライトボックス」なる名称が用いられるほどに周知慣用であることに照らせば、構成h3は市販の前記タイプCのライトボックス(を設けた照明装置)である場合をその態様に含むと理解するといえる。よって、相違点2は実質的な相違点であるとはいえない。

イ 上記アにおいて、構成h3が上記タイプCのライトボックス(を設けた照明装置)である態様を含むとまでいえないとしても、構成h3の照明手段を、機能が共通する、市販の周知である前記タイプCのライトボックスによって実現し、相違点2の構成とすることは、周知の市販品の選択に関する設計事項であるともいえ、当業者が容易になし得たことである。

(2)タイプBについて
ア(ア)また、上記第5.1(10)ウ(ア)のとおり、構成H3の「ライトボックス」が、バー(に取り付けた毛髪)をカメラで撮影した場合に、背景画像に写し込まれるものに限定解釈されるとすると、撮影対象物に対する照明を担う上記タイプCのライトボックスは、原則として撮影画像の背景に映り込むことがないものであるから、構成H3のライトボックスに相当しないこととなる。
(イ)しかし、引用発明は、構成h3において、髪の房と共に、光源から均一に拡散した光が照射される「背景」要素を備えるものである。
そして、背景となるべき内壁面と、その前に配置された被写体とに均一な光を照射する上記1(10)イのタイプBに属する周知慣用のライトボックス製品は、構成h3の構成に合致するといえる。
よって、引用発明に接した当業者は、本件出願の発明の詳細な説明において特段の説明もなく「ライトボックス」なる名称が用いられるほどに周知慣用であることに照らせば、構成h3は市販の前記タイプBのライトボックス(を設けた照明装置)である場合をその態様に含むと理解するといえる。よって、相違点2は実質的な相違点であるとはいえない。

イ 上記アにおいて、構成h3が上記タイプBのライトボックスにより実現される態様を含むとまでいえないとしても、構成h3を、背景及び光源を含め、機能が共通する、市販の周知である前記タイプBのライトボックスによって実現し、相違点2の構成とすることは、発明の具体化における周知の市販品の選択に関する設計事項であるともいえ、当業者が容易になし得たことである。

(3)タイプAについて
ア 引用発明は、構成h3において、髪の房と共に、光源から均一に拡散した光が照射される「背景」要素を備えるものである。
一方、「ライトボックス」と称する製品として、上記第5.1(10)イのタイプAのような、白色照明された拡散板からなる製品も、引用文献を示すまでもなく、本件出願の優先日のはるか前より周知慣用のものであり、「ライトボックス」という商品名はこのような製品群を表す一般名詞として通用しているといえる。
また、必要であれば、その周知性の裏付けとして、特表2000−505207号公報及び特表平10−511473号公報の記載を参照することができる。
よって、引用発明において、構成h3の「均一に拡散した光を照射される」「背景」として、前記周知のタイプAのライトボックスを採用することは、発明の具体化における周知の市販品の選択に関する設計事項であるともいえ、当業者が容易になし得たことである。

(4)小括
上記のとおりであるから、本件補正発明における「ライトボックス」が市販品として周知であるいずれのタイプのものを意味するとしても、相違点2は実質的な相違点ではないか、仮に実質的な相違点であるとしても、引用発明において相違点2の構成とすることは、発明の具体化における周知の市販品の選択に関する設計事項ということもでき、当業者が容易になし得たことである。

3 相違点3について

(1)引用発明は、構成h4bのとおり、「ビデオカメラの1600×900ピクセルの解像度では、3.8ピクセルが1mmに等しい」というビデオカメラのピクセル数と被写体の実際長との換算関係が特定されるものである。構成c2及びeにおける「髪の房の揺れの高さ」の「解析」をビデオカメラの画像をもとに行うためには、被検体である「髪の房」について前記換算関係が既知である必要があることは自明であり、また、前記換算関係が、ビデオカメラの拡大率(レンズの焦点距離)、ビデオカメラの撮像素子の解像度(撮像素子の大きさと画素数とから決まる画素密度)、及びビデオカメラと被写体との距離に依存することは技術常識である。
少なくとも髪の動きをビデオカメラで連続撮影(構成b)している期間内において、前記拡大率と解像度とが一定であることは自明であるから、前記換算関係が引用発明において構成4hbのとおり固定値をとるということは、引用発明において、少なくとも前記期間内において、ビデオカメラと髪の房との距離が一定であることを示すといえる(このことは、前記拡大率、解像度、距離を撮影中に変化させることについて引用発明1中に言及がないことのほか、仮に前記拡大率、解像度、距離の少なくとも一つを撮影中に変じるなら、前記換算関係が撮影期間内に変動し、いたずらに前記「髪の房の揺れの高さ」の計算を複雑化させることとなるから、当業者が引用発明を実施するにあたりあえて採用される動機を欠くといえることによっても裏付けられる。)。
よって、主として構成c2・e・h4bから、引用発明において、ビデオカメラと髪の房との距離は撮影期間内において一定であるといえるし、引用発明において前記距離を撮影期間内において変化させる理由がなく、少なくとも引用発明は撮影期間内において前記距離が一定である態様を第一義的に含むといえる。

(2)一方、引用発明の構成h3は「ビデオ画像が鮮明であることを確実にするために、髪の房とその背景にわたって、写真用のD65光源を用いて均一に拡散した光が照射される」というものである。
ここで、撮影期間内で光源の光量や照射方向、及び/又は光源と髪の房や背景との距離が変化すると、髪の房や背景の輝度が撮影期間内に変化し、それによって髪の房の動態をビデオ画像から自動又は手動で解析する際の解析・観察条件が変化する可能性が生じることは、当業者であれば容易に想定できること、および、引用文献1において、前記光源・髪の房・背景の位置関係を撮影期間内で変化させることについて言及がない。
よって、引用発明において、前記光源・髪の房・背景の位置関係は撮影期間内で固定されるといえるし、引用発明において前記位置関係を撮影期間内に変化させる理由がなく、少なくとも前記位置関係が撮影期間内において固定される態様を第一義的に含むといえる。

(3)また、引用発明において、背景とビデオカメラとの距離や位置関係についても、それらを撮影期間内に変更した場合、画像における背景の明るさ等が変化する可能性がある点を考慮した場合、あえて撮影期間内に前記距離や位置関係を変更する理由が存在しないし、引用文献1において前記変更を行うことについて言及もない。
よって、引用発明において、ビデオカメラと背景との距離や位置関係についても、撮影期間内において固定されるといえるし、少なくとも前記固定される態様を引用発明は第一義的に含むといえる。

(4)ア タイプCの場合
上記(1)・(2)から、引用発明において、ビデオカメラと髪の房との位置関係、及び光源・髪の房・背景の位置関係が撮影期間内で一定であるといえるから、撮影期間内において光源とビデオカメラとの位置関係もまた一定であるといえる。
そうすると、上記第5.1(10)イに説示したうち、本件補正発明の「ライトボックス」がタイプC(光源の拡散フード)である場合、引用発明は、実質的に相違点3に相当する構成を備えるといえるから、上記2(1)で説示したとおりの、相違点2の説示事項を前提とした場合、両発明間に、カメラとライトボックスとの距離が固定であることに関する相違点3がさらに存在するとはいえず、相違点3は実質的な相違点とはいえない。

イ タイプBの場合
上記(1)・(2)から、引用発明において、ビデオカメラと髪の房との位置関係、及び光源・髪の房・背景の位置関係が撮影期間内で一定であるといえるから、撮影期間内においてビデオカメラと背景との距離を含む位置関係もまた一定であるといえる。
そうすると、上記第5.1(10)イに説示したうち、本件補正発明の「ライトボックス」がタイプB(照明された拡散反射面からなる撮影用背景を備える撮影用器具)である場合、引用発明の「背景」は本件補正発明の「ライトボックス」(の撮影用背景部分)に相当し、引用発明は、実質的に相違点3に相当する構成を備えるといえるから、上記2(2)で説示したとおりの、相違点2の説示事項を前提とした場合、両発明間に、カメラとライトボックスとの距離が固定であることに関する相違点3がさらに存在するとはいえず、相違点3は実質的な相違点であるとはいえない。

ウ タイプAの場合
上記(1)・(2)から、引用発明において、ビデオカメラと髪の房との位置関係、及び光源・髪の房・背景の位置関係が撮影期間内で一定であるといえるから、撮影期間内においてビデオカメラと背景との距離を含む位置関係もまた一定であるといえる。
そうすると、上記第5.1(10)イに説示したうち、本件補正発明の「ライトボックス」がタイプA(照明された拡散板からなる背景照明器具)である場合、引用発明の「背景」は本件補正発明の「ライトボックス」に相当し、引用発明は、実質的に相違点3に相当する構成を備えるといえるから、上記2(3)で説示したとおりの、相違点2の説示事項を前提とした場合、両発明間に、カメラとライトボックスとの距離が固定であることに関する相違点3がさらに存在するとはいえず、相違点3は実質的な相違点であるとはいえない。

4 相違点4について
上記1(11)で説示したとおり、構成h4aにおける、「その後、試験機を停止し、ビデオカメラは、全ての動きを捕捉されることを確実にするために、30秒が過ぎるまで記録を続ける」工程は、「試験機を停止」すなわちモータによる強制が終了した後の髪の(房の)動きを記録するものである。
そして、構成h1によれば「前記装置のヘアダイナミクス試験機は、髪の房を、ブルドック型クリップを用いてその頂部でワックスの細片を掴むことで取り付ける、滑り棒機構を備え」るから、前記髪の房は、その頂部を試験機の滑り棒に固定され垂下した振り子様の懸垂物であると理解される。
ここで、地上大気中に設置された振り子は、強制振動されることにより揺動を開始・継続する一方、揺動中は揺動を抑制する摩擦力が働くこと、よって、強制振動(力の印加)を停止すると、前記摩擦力のみが働くことで、徐々に前記揺動が抑制されてゆく、すなわち減衰してゆくこと、が技術常識である。
そして、構成h4aでは、「全ての動きを捕捉されることを確実にするために」との目的を謳っていることから、前記「30秒」という時間で前記揺動運動を含む「全ての動き」を「確実に」「捕捉」できることが見積もられた上での前記「30秒」という記録期間の設定であるといえることからすると、構成h4aでは、前記30秒間の記録により、引用発明で用いる髪の房について、その揺動運動の期間の全て、すなわち、「試験機を停止」したことにより前記強制振動力の印加が停止したあと揺動運動が減衰してゆく過程における揺動運動について、概ね揺動停止に到るまでの「全ての動き」を実質的に記録可能であることが期待・想定されているといえる。
以上のとおりであるから、構成h4aにおいて「30秒が過ぎるまで」の期間「続け」られた「ビデオカメラ」による「記録」は、前記髪の房の揺動運動が、「試験機を停止」すなわちモータによる強制振動が終了したあとに減衰してゆく期間の少なくとも一部を記録するものであるといえる。
よって、構成h4aは、相違点4に係る、構成H4の「強制振動中の毛髪の画像に加え、強制振動が適用されなくなった後の運動の減衰の画像もとらえる」工程(または目的)に相当する構成を実質的に備えるといえる。
したがって、相違点4は実質的な相違点とはいえない。

5 効果について
本件補正発明により奏される効果は、当業者が、引用発明及び技術常識項から予測し得た範囲内のものであって、格別のものではない。

6 請求人の主張について

(1)請求人の主張
請求人は審判請求書において概略次のとおり主張する
「相違点2について、審査官殿は、「引用文献1に記載の発明は、20回の揺れを終了した後の髪の動きも捕捉するから(段落0107)、強制振動が適用されなくなった後の運動の減衰の画像をとらえるものであると認められる」とのご認定である。引用文献1の段落0107の記載は以下のとおりである。
『<試験方法>
一度、これらの房が乾燥されたら、それらを、個々に、ヘアダイナミクス試験機に掛けた。房は、試験する前に器械で激しく動かされ、乾燥プロセスの一部で発生したいずれかの塊った繊維が解された。器械を、所望の試験速度にリセットし、そしてビデオカメラを記録するように調整した。器械を始動させ、そして髪の動きを20回の揺れに亘って記録し、その後、器械を停止した。ビデオカメラは、全ての動きを捕捉されることを確実にするために、30秒間が過ぎるまで、記録を続けた。』
しかし、引用文献の記載内容は、特定の記載のみに基づいて解釈されるべきではなく、引用文献の他の記載と併せてその内容を理解すべきである。この点について、引用文献1は、段落0107以外の記載において、器械を停止させた後の毛髪の動きの測定または解釈についてさらに言及するものではない。実際、実施例13の<結果>(段落0109〜0118)を参照すると、揺れの高さについてのみ言及されている。ここでは、揺れの高さは、最大値のみが議論されており、また、必要な試験速度での機器の動作中にのみ関連することが示されている。
以上のことは、逆に言えば、引用文献1は、必要な試験速度で機器を操作した後に行われる揺れの高さの測定は、毛髪の特性を示すものではないことを示している。即ち、引用文献1は、モーション減衰時間(器機の停止後)に観察される揺れの高さが誤った情報を提供する可能性があることを示唆している。
これとは対照的に、本発明では、減衰時間における特性の測定が明確に記述されている。当業者は、減衰時間中の毛髪の動きが毛髪特性を示すことを即座に理解するであろう。さらに、この減衰時間中の毛髪の動きは、本発明の教示に従って測定することができる。
・・・
引用文献1は、強制振動が適用されなくなった後の動きの減衰中の毛髪の動きの測定、および、その測定結果の分析を明示的に説明することも、当業者に示唆することもしていない。したがって、引用文献1は、髪の動きの特徴を変えるために適用される可能性のある処置の有効性の評価において、強制振動が適用されなくなった後の動きの減衰中の毛髪の動きに関する情報の有用性について何ら教示、示唆するものではない。」

(2)当審の見解
ア(ア)上記(1)の主張に関する本件補正発明の構成は、構成H4の
「強制振動中の毛髪の画像に加え、強制振動が適用されなくなった後の運動の減衰の画像もとらえるために、動画機能のあるカメラが、ライトボックスから固定された距離に取り付けられる」
というものである。
当該構成においては「強制振動中の毛髪の画像に加え、強制振動が適用されなくなった後の運動の減衰の画像もとらえる」とされているものの、該とらえた「減衰の画像」について、その使用目的や「運動特性の測定」との関連については何ら特定されていない。

(イ)また、発明の詳細な説明においても、運動特性については、【0072】に「単一又は複数のヘアピースの定量測定は、x振幅、y振幅、ヘアピースの最高点と最低点間の相対位相、減衰時間、自然周波数、ヘアピースの2D領域、運動前と運動後のヘアピースの2D領域の変化の1つ以上を含んでいてよい。」、【0096】に「本発明の方法で使用される装置は、図1、図2及び図3を参照してさらに詳細に以下で説明するように、好ましくは1つ以上のヘアピースの運動の特性を測定するように構成される。これらの特性(「運動パラメータ」としても知られる)は、x振幅、y振幅、ヘアピースの最高点と最低点間の相対位相、減衰時間、自然周波数、ヘアピースの2D領域、運動前と運動後のヘアピースの2D領域の変化の定量測定値を含み得る。」などと例示的、択一的に列挙されているにすぎず、「減衰の画像」に関連しうる「減衰時間」は必須のパラメータとして記載されていない。

(ウ)以上(ア)・(イ)から、上記(1)の主張は、本件補正発明の構成に基づくものとはいえず、失当である。

イ(ア)一方、引用文献1においては、構成h4aとして認定したとおり、【0107】に「器械を、所望の試験速度にリセットし、そしてビデオカメラを記録するように調整した。器械を始動させ、そして髪の動きを20回の揺れに亘って記録し、その後、器械を停止した。ビデオカメラは、全ての動きを捕捉されることを確実にするために、30秒間が過ぎるまで、記録を続けた。」と記載されており、本件出願の発明の詳細な説明の記載と同様に、髪の動きの解析に実際に使用するか否かを明示しないまま、本件補正発明の構成H4の「強制振動が適用されなくなった後の運動の減衰の画像もとらえる」ことに相当するカメラの動作について言及されている。

(イ)また、髪の房は剛体ではなく、柔軟な毛髪の集合体であって、髪の房全体としてもまた柔軟な連続体であるから、髪の房やそれを構成する個々の毛髪が強制振動によって局所的に振動したり任意の箇所で屈曲することで、髪の房の長さ方向への波動の伝搬や局所的な変形・揺動が生じ得ることが技術常識から明らかであるところ、髪の房全体としての波動の伝搬や、房を構成する個々の毛髪の独立した運動・波動の結果、強制振動によって種々のモードの波動・振動が生じる得ることが、想定される。そうすると、強制振動が停止した後であっても、複数のモードの重なり合いの結果、最大振幅が生じることがあり得ることは、当業者であれば容易に想定される。よって、引用文献において測定されるのが揺れの高さのみであるとしても、強制振動停止後に最大の揺れ高さが観測される場合がありうるといえるのであり、引用発明において、「試験機を停止し、ビデオカメラは、全ての動きを捕捉されることを確実にするために、30秒が過ぎるまで記録を続ける」(構成h4a)ことが髪の房の運動特性の測定に寄与しないとはいえない。

(ウ)以上(ア)・(イ)のとおりであるから、上記(1)の請求人の主張は失当である。

第7.むすび
以上のとおり、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 加々美 一恵
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2023-10-30 
結審通知日 2023-10-31 
審決日 2023-11-15 
出願番号 P2019-570522
審決分類 P 1 8・ 537- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 加々美 一恵
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
樋口 宗彦
発明の名称 毛髪の運動特性を測定する方法  
代理人 市川 英彦  
代理人 櫻田 芳恵  
代理人 川嵜 洋祐  
代理人 小野 誠  
代理人 重森 一輝  
代理人 金山 賢教  
代理人 市川 祐輔  
代理人 飯野 陽一  
代理人 城山 康文  
代理人 岩瀬 吉和  
代理人 安藤 健司  
代理人 坪倉 道明  

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