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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1408956
総通号数 28 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2024-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2023-07-14 
確定日 2024-04-09 
事件の表示 特願2019− 64148「圧電性ポリアミドフィルムの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年10月 8日出願公開、特開2020−167203、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成31年 3月28日を出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 4年10月14日付け :拒絶理由通知
令和 4年12月26日 :意見書、手続補正書の提出
令和 5年 4月11日付け :拒絶査定
令和 5年 7月14日 :審判請求書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和5年4月11日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


・請求項 :1〜2,4,7
・引用文献等 :1〜3

・請求項 :5〜6
・引用文献等 :1〜4

<引用文献等一覧>
1.特表平01−503614号公報
2.特開2011−018682号公報
3.特開平10−138379号公報
4.国際公開第2010/018694号

第3 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1〜7に係る発明は、令和4年12月26日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された以下のとおりのものである。
「 【請求項1】
脂肪族ポリアミドを有機溶剤に溶解させた樹脂溶液を基材に塗布し乾燥させて樹脂膜を形成する工程Aと、
形成された前記樹脂膜を、150℃超250℃未満の温度で熱処理する工程Bと、
熱処理後の前記樹脂膜を、降温速度を10℃/秒以上200℃/秒以下として冷却する工程Cと、
冷却された前記樹脂膜を一軸延伸する工程Dと、
を有し、
前記有機溶剤の溶解度パラメーターと前記脂肪族ポリアミドの溶解度パラメーターとの差の絶対値が、3以下である圧電性ポリアミドフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記有機溶剤が、フェノール系溶剤である請求項1に記載の圧電性ポリアミドフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記フェノール系溶剤が、クレゾールである請求項2に記載の圧電性ポリアミドフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記工程Aは、前記乾燥を0.1MPa未満の真空条件下、25℃以上200℃以下の温度域で行う工程を含む、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の圧電性ポリアミドフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記工程Aは、前記乾燥を不活性雰囲気中において行う工程を含む、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の圧電性ポリアミドフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記工程Dは、冷却された前記樹脂膜を、延伸倍率を3倍〜5倍として一軸延伸する請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の圧電性ポリアミドフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記脂肪族ポリアミドが、奇数個の炭素原子を含む奇数ナイロンである請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の圧電性ポリアミドフィルムの製造方法。」

第4 引用文献、引用発明
1 引用文献1、引用発明
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、以下の事項が記載されている(なお、下線は当審にて付与した。以下、同じ。)。
ア 「技術上の分野
本発明は、正味の分極を有する分極した物質を製造する方法に関する。本発明は、このような物質を製造するための改良された、より効率的な方法を提供し、特に、圧電特性や焦電特性を有する重合体物質又はこのような物質からなる生成物を製造するのに有用である。さらに本発明により、結晶融点までは本質的に安定な、また分極した物質が非晶質の場合には軟化点までは本質的に安定な分極した物質が提供される。分極した物質は、機械的に誘起された配向を実質的に含まず、ポーリング電界の方向に垂直な面において等方性の機械的及び電気機械的特性を有する。」(第3頁右上欄第9行〜同欄第19行)

イ 「背景となる技術
種々の重合体物質のようなある種の物質は、機械的又は電気的応力を受けたときに分極しうる。ポリ(フッ化ビニリデン)のような重合体物質は、シートを約70℃の温度にて元の長さの少なくとも3倍の長さに延伸し、そして延伸されたシートを少なくとも1MV/cmのDC電界に暴露することによって分極できることがこれまでに見出されている。・・・(中略)・・・
フルオロ、クロロ、アミド、エステル、シアニド、カーボネート、ニトリル、及びエーテル等のような各種の基を存する他の種々の分極可能な重合体、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニル(PVF) 、フッ化ビニリデン共重合体、及び他の多くの重合体物質は、例えばある種のセラミック物質等の種々の非重合体物質が有しているような、分極しうる能力を有している。
フィルム方向に通常の延伸を行うと、横断方向(y−y’)よりも延伸方向すなわち軸方向(x−x’)において、等しくない(すなわち異方性の)弾性率が生じる。これは望ましくないことである。このような機械的に誘起された配向を含まないかあるいは実質的に含まず、結晶融点までは安定な、また分極した物質が非晶質の場合には軟化点までは安定な分極を有するような物質が得られるのが望ましい。こうした物質は、前記の異方性の機械的特性を実質的に有していない。このような分極した物質の提供及びこのような分極した物質を製造する方法の確立が強く求められている。」(第3頁右上欄第20行〜同頁右下欄第21行)

ウ 「実施例3
1重量部のナイロン11を、150℃にて4部の2−エチル−ヘキサン−1,3−ジオールに溶解する。本溶液をトレーに移し、真空オーブン中に置く。約50重量%のナイロン11を含むナイロン11溶液が得られるまで、オーブンを約10−3トルの減圧及び50℃の温度に保持する。ナイロン11溶液をフィルムとしてプレスに移し、1000psiの圧力を加え、200℃に加熱する。次いで、フィルムを氷浴中に浸漬することによって速やかに冷却する。このときナイロン11溶液のフィルムは、70重量%のナイロン11と30重量%の2−エチル−ヘキサン−1,3−ジオールを含む。約1ミルの厚さを有するこのフィルムを、第1図に示したタイプのポーリング装置における研磨した2つの銅板間に移し、高電圧DC電源に接続し、そして高真空(−10−6 トル)下に置く。ナイロン11溶液のフィルムを、ほぼ第2図に示したような方法に従ってポーリングする。温度を22℃に保持しながら、電界を10分間でゼロから35KV/cmまで直線的に増大させる。この電界強度でのポーリングをさらに10分間継続し、この時点で電界を低下させてゼロにする。」(第6頁右上欄第13行〜同頁左下欄第5行)

(2)上記(1)より、引用文献1には以下の技術事項が記載されている。
ア 上記(1)アの「本発明は」「分極した物質を製造する方法に関する。」「特に、圧電特性」「を有する重合体物質」「からなる生成物を製造するのに有用である。」との記載によれば、上記(1)ウに挙げた「実施例3」は、分極した圧電特性を有する重合体物質からなる生成物を製造する方法の実施例であるといえる。

イ 上記(1)ウの「ナイロン11」が重合体物質であることは、本願の出願日前における技術常識であること、並びに、上記(1)ウ及び上記アによれば、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「1重量部のナイロン11を150℃にて4部の2−エチル−ヘキサン−1,3−ジオールに溶解させた溶液を、トレーに移して真空オーブン中に置き、約50重量%のナイロン11を含むナイロン11溶液が得られるまで、オーブンを約10−3トルの減圧及び50℃の温度に保持し、
得られたナイロン11溶液をフィルムとしてプレスに移し、1000psiの圧力を加え、200℃に加熱し、
次いで、フィルムを氷浴中に浸漬することによって速やかに冷却し、
約1ミルの厚さを有するこのフィルムを、ポーリング装置における研磨した2つの銅板間に移し、高電圧DC電源に接続し、高真空(10−6 トル)下に置き、温度を22℃に保持しながら、電界を10分間でゼロから35KV/cmまで直線的に増大させ、この電界強度でのポーリングをさらに10分間継続し、この時点で電界を低下させてゼロにして、
分極した圧電特性を有する重合体物質からなる生成物を製造する方法。」

2 引用文献2
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、以下の事項が記載されている。
「【0030】
(有機圧電材料)
本発明の超音波振動子を構成する圧電材料の構成材料としての有機圧電材料としては低分子材料、高分子材料を問わず採用でき、低分子の有機圧電材料であれば、例えば、フタル酸エステル系化合物、スルフェンアミド系化合物、フェノール骨格を有する有機化合物などが挙げられる。高分子の有機圧電材料であれば、例えば、ポリフッ化ビニリデン、あるいはポリフッ化ビニリデン系共重合体、ポリシアン化ビニリデンあるいはシアン化ビニリデン系共重合体あるはナイロン9、ナイロン11などの奇数ナイロンや、芳香族ナイロン、脂環族ナイロン、あるいはポリ乳酸や、ポリヒドロキシブチレートなどのポリヒドロキシカルボン酸、セルロース系誘導体、ポリウレアなどが挙げられる。良好な圧電特性、加工性、入手容易性等の観点から、高分子の有機圧電材料、特にフッ化ビニリデンを主成分として含有する高分子材料であることが好ましい。」

「【0040】
(有機圧電材料の作製方法)
本発明に係る有機圧電材料は、上記高分子材料を主たる構成成分として有する室温以上、融点から10℃低い温度以下の温度において、延伸可能なフィルム状であり、張力を一定の範囲に保ちながら熱処理され、続いて室温まで冷却される間に二段階目の延伸をして作製することができる。
【0041】
本発明に係るフッ化ビニリデンを含む有機圧電材料を振動子とする場合、フィルム状に形成し、ついで電気信号を入力するための表面電極を形成する。
【0042】
フィルム形成は、溶融法、流延法など一般的な方法を用いることができる。ポリフッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体の場合、フィルム状にしたのみで自発分極をもつ結晶型を有することが知られているが、さらに特性を上げるには、分子配列を揃える処理を加えることが有用である。手段としては、延伸処理、分極処理などが挙げられる。」

(2)上記(1)より、引用文献2には、以下の技術事項が記載されている。
「ナイロン9、ナイロン11などの奇数ナイロンを主たる構成成分として有し、流延法を用いて形成されるフィルム状の有機圧電材料を、張力を一定の範囲に保ちながら熱処理し、続いて室温まで冷却される間に二段階目の延伸をして作製すること。」

3 引用文献3について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、以下の事項が記載されている。
「【0035】構成要素[B]は成形後の製品においてはマトリックスである構成要素[C]中に混合、拡散することになる。すなわち、構成要素[B]と構成要素[C]がより混合されやすい組合せであれば、構成要素[B]の含浸・分散助剤として働きが優れていることになる。より具体的には構成要素[B]と構成要素[C]が化学的親和性を持っており、望ましくは相溶するものであれば効果が大きい。また、非相溶となる組合せであっても適度な化学的親和性、反応性を有するもの同士であれば、構成要素[B]が構成要素[C]中にミクロ分散するなどして、実質上は十分な含浸・分散助剤としての効果を発揮する。構成要素[B]と構成要素[C]が化学的な親和性をもち、相溶しやすい傾向を持つかどうかは溶解度パラメーターを用いてある程度判断できる。溶解度パラメーターについての詳しい説明は秋山三郎、井上隆、西敏夫共著「ポリマーブレンド」(シーエムシー)に記述されている。ポリマーの溶解度パラメーターの決定法は幾種類か知られるが、比較においては同一の決定法を用いればよい。具体的には算出の容易なHoyの方法を用いることが望ましい(前掲書参照)。2つの液体の溶解度パラメーターの値が近いほど相溶しやすい組合せと言える。かかる観点から、構成要素[B]の溶解度パラメーターをδ1、構成要素[C]の溶解度パラメータをδ2としたときに、溶解度パラメーター値の差の絶対値|δ1−δ2|が3.5より小さいことが好ましい。」

「【0043】特に構成要素[B]として優れているものとしては、フェノールもしくはフェノールの置換基誘導体(前駆体a)と、二重結合を2個有する脂肪族炭化水素(前駆体b)の縮合により得られるオリゴマーが挙げられる。縮合反応は、強酸もしくは、ルイス酸の存在下に行うことができる。また、構成要素[B]は、前駆体aと、系内で前駆体bを生成する化合物を同様の条件で反応させて得ることもできる。」

「【0057】次に、構成要素[C]として用いる熱可塑性樹脂は重量平均分子量が10,000以上のものである。重量平均分子量が10,000未満では最終的に得られる複合材料成形品の力学特性が低くなる。構成要素[C]は重量平均分子量が10,000以上であれば特に限定されない。構成要素[C]として、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66等)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリカーボネート、ポリアミドイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリスチレン、ABS、液晶ポリエステルや、アクリロニトリルとスチレンの共重合体等を用いることができる。これらの混合物でもよい。また、ナイロン6とナイロン66との共重合ナイロンのように共重合したものであってもよい。さらに得たい成形品の要求特性に応じて、構成要素[C]には難燃剤、耐候性改良剤、その他酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤、相溶化剤、導電性フィラー等を添加しておくことができる。」

(2)上記(1)より、引用文献3には以下の技術事項が記載されている。
「フェノールを含む構成要素Bの溶解度パラメーターδ1と、ナイロン6等のポリアミドからなる構成要素Cの溶解度パラメーターδ2との差の絶対値が小さいほど、化学的な親和性が高く、相溶しやすく、また、前記絶対値は、3.5より小さい構成が望ましいこと。」

第5 当審の判断
1 本願発明について
(1)対比、判断
ア 本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「ナイロン11」が脂肪族ポリアミドの一種であることは技術常識である。よって、引用発明の「ナイロン11」は、本願発明の「脂肪族ポリアミド」に相当する。

(イ)引用発明の「ナイロン11」及び「2−エチル−ヘキサン−1,3−ジオール」が有機物質であることは技術常識であるから、上記(ア)を踏まえると、引用発明の「1重量部のナイロン11を150℃にて4部の2−エチル−ヘキサン−1,3−ジオールに溶解させた溶液」は、本願発明の「脂肪族ポリアミドを有機溶剤に溶解させた樹脂溶液」に相当する。

(ウ)引用発明は「1重量部のナイロン11を150℃にて4部の2−エチル−ヘキサン−1,3−ジオールに溶解させた溶液を、トレーに移して真空オーブン中に置き、約50重量%のナイロン11を含むナイロン11溶液が得られるまで、オーブンを約10−3トルの減圧及び50℃の温度に保持し、得られたナイロン11溶液をフィルムとしてプレスに移」すものであるから、「1重量部のナイロン11を150℃にて4部の2−エチル−ヘキサン−1,3−ジオールに溶解させた溶液を、トレーに移して真空オーブン中に置き、約50重量%のナイロン11を含むナイロン11溶液が得られるまで、オーブンを約10−3トルの減圧及び50℃の温度に保持」することによって得られたナイロン11溶液は、「フィルム」すなわち膜であり、上記(イ)の技術常識を踏まえると、樹脂膜であるといえる。そうすると、引用発明は、「1重量部のナイロン11を150℃にて4部の2−エチル−ヘキサン−1,3−ジオールに溶解させた溶液を、トレーに移して真空オーブン中に置き、約50重量%のナイロン11を含むナイロン11溶液が得られるまで、オーブンを約10−3トルの減圧及び50℃の温度に保持」することが、「脂肪族ポリアミドを有機溶剤に溶解させた樹脂溶液」から「樹脂膜を形成する工程」である点で、本願発明と一致する。
しかし、本願発明は、「樹脂溶液を基材に塗布し乾燥させて樹脂膜を形成する工程A」を有するのに対し、引用発明は、その様な工程を有さず、「溶液を、トレーに移して真空オーブン中に置き、約50重量%のナイロン11を含むナイロン11溶液が得られるまで、オーブンを約10−3トルの減圧及び50℃の温度に保持」するものである点で、両者は相違する。

(エ)引用発明の「得られたナイロン11溶液をフィルムとしてプレスに移し、1000psiの圧力を加え、200℃に加熱」することは、本願発明の「形成された前記樹脂膜を、150℃超250℃未満の温度で熱処理する工程B」に相当する。

(オ)本願明細書の段落0053には、「熱処理時間が1時間経過した後、真空乾燥機からガラス基板を取り出し、取り出した直後に塗膜を氷水に浸漬し、降温速度を50℃/秒として急冷した(工程C)。」と記載されており、塗膜を氷水に浸漬することにより、降温速度を50℃/秒として急冷することができるといえる。
そうすると、引用発明の「次いで、フィルムを氷浴中に浸漬することによって速やかに冷却」することは、降温速度を50℃/秒として急冷することと同程度の速やかさで冷却するものであるといえるから、本願発明の「熱処理後の前記樹脂膜を、降温速度を10℃/秒以上200℃/秒以下として冷却する工程C」に相当する。

(カ)本願発明は、「冷却された前記樹脂膜を一軸延伸する工程D」を有するのに対し、引用発明は、そのような工程を有さない点で、両者は相違する。

(キ)本願発明は、「前記有機溶剤の溶解度パラメーターと前記脂肪族ポリアミドの溶解度パラメーターとの差の絶対値が、3以下である」のに対し、引用発明は、「2−エチル−ヘキサン−1,3−ジオール」の溶解度パラメーターと、「ナイロン11」の溶解度パラメーターとの差の絶対値が不明である点で、両者は相違する。

(ク)引用発明において、「重合体物質からなる生成物」は、「ナイロン11溶液をフィルムとしてプレスに移し、1000psiの圧力を加え、200℃に加熱し、次いで、フィルムを氷浴中に浸漬することによって速やかに冷却し、約1ミルの厚さを有するこのフィルムを、ポーリング装置における研磨した2つの銅板間に移し、高電圧DC電源に接続し、高真空(10−6 トル)下に置き、温度を22℃に保持しながら、電界を10分間でゼロから35KV/cmまで直線的に増大させ、この電界強度でのポーリングをさらに10分間継続し、この時点で電界を低下させてゼロにして」製造されるものであるから、ナイロン11溶液をフィルムとしたものであるといえ、本願発明の「ポリアミドフィルム」に対応する。

(ケ)上記(ア)〜(ク)より、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、相違する。
<一致点>
「 脂肪族ポリアミドを有機溶剤に溶解させた樹脂溶液から樹脂膜を形成する工程Aと、
形成された前記樹脂膜を、150℃超250℃未満の温度で熱処理する工程Bと、
熱処理後の前記樹脂膜を、降温速度を10℃/秒以上200℃/秒以下として冷却する工程Cと、
を有する圧電性ポリアミドフィルムの製造方法。」

<相違点1>
本願発明は、「脂肪族ポリアミドを有機溶剤に溶解させた樹脂溶液を基材に塗布し乾燥させて樹脂膜を形成する工程A」を有するのに対し、引用発明は、その様な工程を有さず、「溶液を、トレーに移して真空オーブン中に置き、約50重量%のナイロン11を含むナイロン11溶液が得られるまで、オーブンを約10−3トルの減圧及び50℃の温度に保持」するものである点。

<相違点2>
本願発明は、「冷却された前記樹脂膜を一軸延伸する工程D」を有するのに対し、引用発明は、そのような工程を有さない点。

<相違点3>
本願発明は、「前記有機溶剤の溶解度パラメーターと前記脂肪族ポリアミドの溶解度パラメーターとの差の絶対値が、3以下である」のに対し、引用発明は、「2−エチル−ヘキサン−1,3−ジオール」の溶解度パラメーターと、「ナイロン11」の溶解度パラメーターとの差の絶対値が特定されていない点。

イ 事案に鑑み、相違点2から検討する。
上記第4の1(1)イによれば、引用文献1には、「種々の重合体物質のようなある種の物質は、機械的」「応力を受けたときに分極しうる。」「アミド」「のような」「基を存する」「分極可能な重合体」「は、」「分極しうる能力を有している。フィルム方向に通常の延伸を行うと、横断方向(y−y’)よりも延伸方向すなわち軸方向(x−x’)において、等しくない(すなわち異方性の)弾性率が生じる。これは望ましくないことである。このような機械的に誘起された配向を含まないかあるいは実質的に含まず、結晶融点までは安定な」「物質が得られるのが望ましい。こうした物質は、前記の異方性の機械的特性を実質的に有していない。このような分極した物質の提供及びこのような分極した物質を製造する方法の確立が強くめられている。」と記載されている。
よって、引用発明は、フィルム方向に延伸を行う際に、横断方向よりも延伸方向において異方性の弾性率が生じることを防ぐため、機械的に誘起された配向を含まないか実質的に含まない、分極した物質を製造する方法であるといえる。
そうすると、上記第4の2(2)の技術事項が本願の出願日前に公知であったとしても、引用発明において「フィルム」を延伸し、機械的に配向を誘起させることには、阻害要因がある。そのことは、上記第4の3(2)の技術事項及び原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4に記載された事項を参酌しても変わらない。
よって、引用発明を相違点2に係る本願発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得たことではない。

(2)小括
したがって、相違点1及び3について判断するまでもなく、本願発明は、引用発明及び引用文献2〜4に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 請求項2〜7に係る発明について
請求項2〜7は、請求項1に従属する請求項であり、相違点2に係る本願発明の構成を備えるものであるから、請求項2〜7に係る発明は、本願発明と同じ理由により、引用発明及び引用文献2〜4に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
以上のとおり、本願の請求項1〜7に係る発明は、引用発明及び引用文献2〜4に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2024-03-25 
出願番号 P2019-064148
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 瀧内 健夫
特許庁審判官 棚田 一也
中野 浩昌
発明の名称 圧電性ポリアミドフィルムの製造方法  
代理人 福田 浩志  
代理人 加藤 和詳  

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