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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08F 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C08F 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08F 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08F |
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管理番号 | 1409069 |
総通号数 | 28 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2024-04-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-08-12 |
確定日 | 2024-02-05 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第7015834号発明「変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7015834号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1―15〕について訂正することを認める。 特許第7015834号の請求項1ないし9、11、14及び15に係る特許を維持する。 特許第7015834号の請求項10、12及び13に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第7015834号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし15に係る特許についての出願は、平成30年6月28日に国際出願(優先日 平成29年6月30日 日本国)された特願2019−527021号に係る出願であって、令和4年1月26日にその特許権の設定登録(請求項の数15)がされ、同年2月15日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和4年8月12日に申立人 大村 豊(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 その後、令和4年12月19日付けで取消理由通知が通知され、令和5年2月17日に特許権者である株式会社クラレ(以下、「特許権者」という。)により訂正請求がされると共に意見書が提出され、同年同月27日付けで特許法第120条の5第5項の通知をしたものの、申立人より意見書の提出はなかった。その後、令和5年6月22日付けで取消理由通知(決定の予告)が通知され、同年8月25日に特許権者により訂正請求がされると共に意見書が提出され、同年9月4日付けで特許法第120条の5第5項の通知をしたものの、申立人より意見書の提出はなかった。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 令和5年8月25日付けの訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の(1)ないし(14)のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。」と記載されているのを、「変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法であって、前記ポリビニルアルコール粒子の平均粒子径が770umであり、前記ポリビニルアルコール粒子に含まれるポリビニルアルコール樹脂のけん化度が80モル%以上であり、該ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度が500以上4500以下であり、前記有機溶媒がジアルキルケトン、ニトリル、アルコールおよびエーテルからなる群より選択される少なくとも1つであり、かつ前記カルボニル化合物がアルデヒドである、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。」に訂正する。 また、請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項3に「前記溶媒が水を5〜95質量%含む、請求項1または2に記載の変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。」とあるうち、請求項2を引用するものについて、独立形式に改め、「ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒の存在下、該溶媒で膨潤したポリビニルアルコール粒子をカルボニル化合物および/またはカルボニル化合物のアセタール化体と反応させてアセタール化する工程(A)を含み、前記工程(A)終了時の反応液において生成物である変性ポリビニルアルコール樹脂が粒子状であり、前記工程(A)終了後にろ過又は脱液により該変性ポリビニルアルコール樹脂を反応液から取り出す工程をさらに含む、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法であって、前記ポリビニルアルコール粒子に含まれるポリビニルアルコール樹脂のけん化度が80モル%以上であり、該ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度が500以上4500以下であり、前記溶媒が水を5〜95質量%および有機溶媒を5〜95質量%含み、前記溶媒のハンセン溶解度パラメータδDが15.0以上20.0以下であり、δPが1.0以上20.0以下であり、δHが3.0以上41.0以下であり、前記有機溶媒がジアルキルケトン、ニトリル、アルコールおよびエーテルからなる群より選択される少なくとも1つであり、かつ前記カルボニル化合物がアルデヒド(但し、オレフィン系不飽和二重結合を有するものを除く)である、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。」 と訂正する。 また、請求項3の記載を引用する請求項5〜9、11、14及び15も同様に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項4に「前記有機溶媒がジアルキルケトン、ニトリル、アルコールおよびエーテルからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1〜3のいずれかに記載の変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、「ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒の存在下、該溶媒で膨潤したポリビニルアルコール粒子をカルボニル化合物および/またはカルボニル化合物のアセタール化体と反応させてアセタール化する工程(A)を含み、上記溶媒中の有機溶媒の含有量が5質量%以上であり、前記工程(A)終了時の反応液において生成物である変性ポリビニルアルコール樹脂が粒子状であり、前記工程(A)終了後にろ過又は脱液により該変性ポリビニルアルコール樹脂を反応液から取り出す工程をさらに含む、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法であって、前記ポリビニルアルコール粒子が多孔質体であり該粒子に含まれる細孔のメジアン径が0.01〜20μmであり、前記ポリビニルアルコール粒子に含まれるポリビニルアルコール樹脂のけん化度が80モル%以上であり、該ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度が500以上4500以下であり、前記有機溶媒がジアルキルケトン、ニトリル、アルコールおよびエーテルからなる群より選択される少なくとも1つであり、かつ前記カルボニル化合物がアルデヒドである、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。」と訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項5に「請求項1〜4のいずれかに記載の変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。」と記載されているのを、「請求項3に記載の変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。」に訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項6に「請求項1〜5のいずれかに記載の変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。」と記載されているのを、「請求項3または5に記載の変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。」に訂正する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項7に「請求項1〜6のいずれかに記載の変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。」と記載されているのを、「請求項3、5、6のいずれかに記載の変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。」に訂正する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項8に「請求項1〜7のいずれかに記載の変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。」と記載されているのを、「請求項3、5〜7のいずれかに記載の変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。」に訂正する。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項9に「請求項1〜8のいずれかに記載の変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。」と記載されているのを、「請求項3、5〜8のいずれかに記載の変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。」に訂正する。 (9)訂正事項9 特許請求の範囲の請求項10を削除する。 (10)訂正事項10 特許請求の範囲の請求項11に「請求項1〜10のいずれかに記載の変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。」と記載されているのを、「請求項3、5〜9のいずれかに記載の変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。」に訂正する。 (11)訂正事項11 特許請求の範囲の請求項12を削除する。 (12)訂正事項12 特許請求の範囲の請求項13を削除する。 (13)訂正事項13 特許請求の範囲の請求項14に「請求項1〜13のいずれかに記載の変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。」と記載されているのを、「請求項3、5〜9、11のいずれかに記載の変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。」に訂正する。 (14)訂正事項14 特許請求の範囲の請求項15に「請求項1〜14のいずれかに記載の変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。」と記載されているのを、「請求項3、5〜9、11、14のいずれかに記載の変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。」に訂正する。 2 一群の請求項について 訂正事項1ないし14による訂正は、訂正前の請求項1ないし15を訂正するものであるところ、本件訂正前の請求項2ないし15は、訂正請求の対象である請求項1の記載を直接又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前の請求項1ないし15は一群の請求項であって、訂正事項1ないし14による訂正は、一群の請求項〔1−15〕について請求されたものである。 3 別の訂正単位とする求め 訂正後の請求項1〜9、11、14及び15については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求める。 4 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1による訂正について (訂正事項1−1) 訂正事項1のうち、「前記ポリビニルアルコール粒子の平均粒子径が770μmであり、」とするのは、訂正前の請求項1において当該ポリビニルアルコール粒子の平均粒子径を限定していなかったものを、新たに限定するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (訂正事項1−2) 訂正事項1のうち、「前記ポリビニルアルコール粒子に含まれるポリビニルアルコール樹脂のけん化度が80モル%以上であり、」とするのは、訂正前の請求項1において当該ポリビニルアルコール粒子に含まれるポリビニルアルコール樹脂のけん化度を限定していなかったものを、新たに限定するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (訂正事項1−3) 訂正事項1のうち、「該ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度が500以上4500以下であり、」とするのは、訂正前の請求項1において当該ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度を限定していなかったものを、新たに限定するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (訂正事項1−4) 訂正事項1のうち、「前記有機溶媒がジアルキルケトン、ニトリル、アルコールおよびエーテルからなる群より選択される少なくとも1つであり、」とするのは、訂正前の請求項1に記載されていた当該有機溶媒を「ジアルキルケトン、ニトリル、アルコールおよびエーテルから選択されるもの」に限定するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (訂正事項1−5) 訂正事項1のうち、「前記カルボニル化合物がアルデヒドである、」とするのは、訂正前の請求項1に記載されていたカルボニル化合物を「アルデヒド」に限定するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、上記訂正事項1−1は本件特許明細書の段落【0041】、上記訂正事項1−2は同段落【0013】、上記訂正事項1−3は同段落【0012】、上記訂正事項1−4は同段落【0020】、上記訂正事項1−5は同段落【0024】に記載されているため、本件特許の明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲の拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2による訂正について (訂正事項2−1) 訂正事項2のうち訂正事項2−1は、訂正前の請求項3が請求項1または2の記載を引用する記載であるところ、請求項1を引用しないものとする訂正であるとともに、請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項へ改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするとともに、同ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明又は同ただし書第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。 (訂正事項2−2) 訂正事項2のうち、「前記ポリビニルアルコール粒子に含まれるポリビニルアルコール樹脂のけん化度が80モル%以上であり、」とするのは、訂正前の請求項3において当該ポリビニルアルコール粒子に含まれるポリビニルアルコール樹脂のけん化度を限定していなかったものを、新たに限定するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (訂正事項2−3) 訂正事項2のうち、「該ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度が500以上4500以下であり、」とするのは、訂正前の請求項3において当該ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度を限定していなかったものを、新たに限定するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (訂正事項2−4) 訂正事項2のうち、訂正前の請求項3が引用する請求項1の「上記溶媒の有機溶媒の含有量が5質量%以上であり」及び訂正前の請求項3の「前記溶媒が水を5〜95質量%含む」と記載されていたのを、「前記溶媒が水を5〜95質量%および有機溶媒を5〜95質量%含み、」とするのは、有機溶媒の含有量の上限を規定して範囲を狭めるものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (訂正事項2−5) 訂正事項2のうち、「前記有機溶媒がジアルキルケトン、ニトリル、アルコールおよびエーテルからなる群より選択される少なくとも1つであり、」とするのは、訂正前の請求項1に記載されていた有機溶媒を「ジアルキルケトン、ニトリル、アルコールおよびエーテルから選択されるもの」に限定するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (訂正事項2−6) 訂正事項2のうち、「前記カルボニル化合物がアルデヒド(但し、オレフィン系不飽和二重結合を有するものを除く)である、」とするのは、訂正前の請求項1に記載されていたカルボニル化合物を下位概念の「アルデヒド」に限定するものであり、さらにアルデヒドとして、オレフィン系不飽和二重結合を有するものを除くものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、上記訂正事項2−2は同段落【0013】、上記訂正事項2−3は同段落【0012】、上記訂正事項2−4は同段落【0019】、上記訂正事項2−5は同段落【0020】、上記訂正事項2−6は同段落【0024】に記載されているため、本件特許の明細書、特許請求の範囲又は、図面に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲の拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項3による訂正について (訂正事項3−1) 訂正事項3のうち訂正事項3−1は、訂正前の請求項4が請求項1〜3のいずれかの記載を引用する記載であるところ、請求項2及び3を引用しないものとする訂正であるとともに、請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項へ改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするとともに、同ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明又は同ただし書第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。 (訂正事項3−2) 訂正事項3のうち、「前記ポリビニルアルコール粒子が多孔質体であり該粒子に含まれる細孔のメジアン径が0.01〜20μmであり、」とするのは、訂正前の請求項4において当該ポリビニルアルコール粒子が多孔質体であるか否かについて限定していなかったものを、新たに限定し、その上で細孔のメジアン径を限定するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (訂正事項3−3) 訂正事項3のうち、「前記ポリビニルアルコール粒子に含まれるポリビニルアルコール樹脂のけん化度が80モル%以上であり、」とするのは、訂正前の請求項4において当該ポリビニルアルコール粒子に含まれるポリビニルアルコール樹脂のけん化度を限定していなかったものを、新たに限定するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (訂正事項3−4) 訂正事項3のうち、「該ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度が500以上4500以下であり、」とするのは、訂正前の請求項4において当該ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度を限定していなかったものを、新たに限定するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (訂正事項3−5) 訂正事項3のうち、「前記カルボニル化合物がアルデヒドである、」とするのは、訂正前の請求項1に記載されていたカルボニル化合物を下位概念の「アルデヒド」に限定するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、上記訂正事項3−2は同段落【0014】、上記訂正事項3−3は同段落【0013】、上記訂正事項3−4は同段落【0012】、上記訂正事項3−5は同段落【0024】に記載されているため、本件特許の明細書、特許請求の範囲又は、図面に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲の拡張し、又は変更するものではない。 (4)訂正事項4ないし8、10、13及び14による訂正について 訂正事項4は、訂正前の請求項5が請求項1〜4のいずれかの記載を引用する記載であるところ、請求項3のみを引用するものに限定するものである。 訂正事項5は、訂正前の請求項6が請求項1〜5のいずれかの記載を引用する記載であるところ、請求項3または5のみを引用するものに限定するものである。 訂正事項6は、訂正前の請求項7が請求項1〜6のいずれかの記載を引用する記載であるところ、請求項3、5、6のいずれかのみを引用するものに限定するものである。 訂正事項7は、訂正前の請求項8が請求項1〜7のいずれかの記載を引用する記載であるところ、請求項3、5〜7のいずれかのみを引用するものに限定するものである。 訂正事項8は、訂正前の請求項9が請求項1〜8のいずれかの記載を引用する記載であるところ、請求項3、5〜8のいずれかのみを引用するものに限定するものである。 訂正事項10は、訂正前の請求項11が請求項1〜10のいずれかの記載を引用する記載であるところ、請求項3、5〜9のいずれかのみを引用するものに限定するものである。 訂正事項13は、訂正前の請求項14が請求項1〜13のいずれかの記載を引用する記載であるところ、請求項3、5〜9、11のいずれかのみを引用するものに限定するものである。 訂正事項14は、訂正前の請求項15が請求項1〜14のいずれかの記載を引用する記載であるところ、請求項3、5〜9、11、14のいずれかのみを引用するものに限定するものである。 よって、訂正事項4ないし8、10、13及び14による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、当該訂正は、本件特許の明細書、特許請求の範囲又は、図面に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲の拡張し、又は変更するものではない。 (5)訂正事項9、11及び12による訂正について 訂正事項9による請求項10についての訂正、訂正事項11による請求項12についての訂正及び訂正事項12による請求項13についての訂正は、特許請求の範囲の請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項9、11及び12は、本件特許の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲の拡張し、又は変更するものではない。 5 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件訂正は適法なものであり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−15〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記第2で示したとおり、本件訂正は認められるため、本件特許の請求項1ないし15に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、本件特許発明1ないし15を総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。 「【請求項1】 ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒の存在下、該溶媒で膨潤したポリビニルアルコール粒子をカルボニル化合物および/またはカルボニル化合物のアセタール化体と反応させてアセタール化する工程(A)を含み、上記溶媒中の有機溶媒の含有量が5質量%以上であり、前記工程(A)終了時の反応液において生成物である変性ポリビニルアルコール樹脂が粒子状であり、前記工程(A)終了後にろ過又は脱液により該変性ポリビニルアルコール樹脂を反応液から取り出す工程をさらに含む、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法であって、前記ポリビニルアルコール粒子の平均粒子径が770μmであり、前記ポリビニルアルコール粒子に含まれるポリビニルアルコール樹脂のけん化度が80モル%以上であり、該ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度が500以上4500以下であり、前記有機溶媒がジアルキルケトン、ニトリル、アルコールおよびエーテルからなる群より選択される少なくとも1つであり、かつ前記カルボニル化合物がアルデヒドである、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。 【請求項2】 前記溶媒のハンセン溶解度パラメータδDが15.0以上20.0以下であり、δPが1.0以上20.0以下であり、δHが3.0以上41.0以下である、請求項1に記載の変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。 【請求項3】 ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒の存在下、該溶媒で膨潤したポリビニルアルコール粒子をカルボニル化合物および/またはカルボニル化合物のアセタール化体と反応させてアセタール化する工程(A)を含み、前記工程(A)終了時の反応液において生成物である変性ポリビニルアルコール樹脂が粒子状であり、前記工程(A)終了後にろ過又は脱液により該変性ポリビニルアルコール樹脂を反応液から取り出す工程をさらに含む、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法であって、前記ポリビニルアルコール粒子に含まれるポリビニルアルコール樹脂のけん化度が80モル%以上であり、該ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度が500以上4500以下であり、前記溶媒が水を5〜95質量%および有機溶媒を5〜95質量%含み、前記溶媒のハンセン溶解度パラメータδDが15.0以上20.0以下であり、δPが1.0以上20.0以下であり、δHが3.0以上41.0以下であり、前記有機溶媒がジアルキルケトン、ニトリル、アルコールおよびエーテルからなる群より選択される少なくとも1つであり、かつ前記カルボニル化合物がアルデヒド(但し、オレフィン系不飽和二重結合を有するものを除く)である、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。 【請求項4】 ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒の存在下、該溶媒で膨潤したポリビニルアルコール粒子をカルボニル化合物および/またはカルボニル化合物のアセタール化体と反応させてアセタール化する工程(A)を含み、上記溶媒中の有機溶媒の含有量が5質量%以上であり、前記工程(A)終了時の反応液において生成物である変性ポリビニルアルコール樹脂が粒子状であり、前記工程(A)終了後にろ過又は脱液により該変性ポリビニルアルコール樹脂を反応液から取り出す工程をさらに含む、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法であって、前記ポリビニルアルコール粒子が多孔質体であり該粒子に含まれる細孔のメジアン径が0.01〜20μmであり、前記ポリビニルアルコール粒子に含まれるポリビニルアルコール樹脂のけん化度が80モル%以上であり、該ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度が500以上4500以下であり、前記有機溶媒がジアルキルケトン、ニトリル、アルコールおよびエーテルからなる群より選択される少なくとも1つであり、かつ前記カルボニル化合物がアルデヒドである、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。 【請求項5】 前記有機溶媒がアセトン、2−ブタノン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2-プロパノール、tert−ブタノール、1,4−ジオキサンおよびテトラヒドロフランからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項3に記載の変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。 【請求項6】 前記溶媒中の酢酸アルキルエステルの含有量が、上記ポリビニルアルコール粒子に含まれるポリビニルアルコールを構成する構成単位数に対して90モル%以下である、請求項3または5に記載の変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。 【請求項7】 前記ポリビニルアルコール粒子0.5gに前記溶媒15gを添加し、60℃において200rpmで1時間撹拌したときの体積の増加率を膨潤度としたとき、該膨潤度が105〜1000体積%である、請求項3、5、6のいずれかに記載の変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。 【請求項8】 前記ポリビニルアルコール粒子の使用量が、ポリビニルアルコール粒子添加後の反応液の総質量に対して1質量%以上95質量%以下である、請求項3、5〜7のいずれかに記載の変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。 【請求項9】 前記工程(A)を酸触媒の存在下で行う、請求項3、5〜8のいずれかに記載の変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。 【請求項10】 (削除) 【請求項11】 アセタール化度が1モル%以上90モル%以下である変性ポリビニルアルコール樹脂を製造する、請求項3、5〜9のいずれかに記載の変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。 【請求項12】 (削除) 【請求項13】 (削除) 【請求項14】 前記ポリビニルアルコール粒子の平均粒子径が1000μm以下である、請求項3、5〜9、11のいずれかに記載の変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。 【請求項15】 得られた変性ポリビニルアルコール樹脂10gを前記溶媒90gに対して添加し、前記工程(A)の反応温度と同じ温度において200rpmで2時間撹拌したときの未溶解分が8g以上である、請求項3、5〜9、11、14のいずれかに記載の変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。」 第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由、証拠方法等及び取消理由(決定の予告)の概要 1 申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 令和4年8月12日に申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要は、以下のとおりである。 (1)申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性) 本件特許の請求項1、2、4ないし13、15に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1ないし15に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (2)申立理由2(甲第2号証に基づく新規性・進歩性) 本件特許の請求項1、2、4ないし13、15に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1ないし15に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (3)申立理由3(甲第3号証に基づく新規性・進歩性) 本件特許の請求項1ないし13、15に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1ないし15に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (4)申立理由4(甲第4号証に基づく新規性・進歩性) 本件特許の請求項1、2、4ないし13、15に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1ないし15に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (5)申立理由5(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし15に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 具体的理由の概略は以下のとおり。 「本件明細書において、具体的に上記課題を解決したものと認められるのは、前記のように、極めて限定された実施例の条件のもの(アセタールに供するPVAの種類、また、溶媒の種類 割合、アセタール化度等、さらにはこれらの特定の組み合わせ等)のみである。・・・とりわけ、PVAの種類(けん化度等や、これに関連して大きく変動する溶媒に対する膨潤の程度等)は、課題の解決に大きく影響を与えるものと考えられるし、そもそも、本件発明で規定する構成要件だけでは、「アセタール化反応の全体にわたって変性PVA粒子が溶解しないこと」を規定したことにはならず(例えば、本件発明は、甲4の実施例3のような態様までをも包含している)、そうすると、いずれにせよ、本件発明が、その全範囲において、課題を解決できるものとは到底認識しえない。」(申立書の第53ページ) (6)申立理由6(実施可能要件) 本件特許の請求項1ないし15に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 具体的理由の概略は以下のとおり。 「本件特許明細書の実施例の条件は、前記のようにごく限定されたもののみであり、本件発明の構成要件を充足するものの中でも、当該実施例のごく限定された条件以外に、「アセタール化反応の全体にわたって変性PVA粒子が溶解しない」条件の選択には、過度の試行錯誤を要する。」(申立書の第53〜54ページ) (7)申立理由7(明確性要件) 本件特許の請求項1ないし15に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 具体的理由の概略は以下のとおり。 「ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒」と「カルボニル化合物および/またはカルボニル化合物のアセタール化体」との棲み分け(区別)が、本件明細書を見ても明らかではなく、これらの棲み分けの仕方によって、本件発明1の構成要件の充足 非充足も変動し、一義的に確定しない。」(申立書の第54〜56ページ) 2 証拠方法 (1)申立人が提出した証拠方法 申立書に添付して提出した証拠方法は以下のとおり。 甲第1号証:特公昭49−41349号公報 甲第2号証:特開昭56−76405号公報 甲第3号証:国際公開第2015/182567号 甲第4号証:特公昭49−26953号公報 甲第5号証:特開平10−101729号公報 甲第6号証:特開平8−301936号公報 以下、順に「甲1」ないし「甲6」という。 (2)特許権者が提出した証拠方法 令和5年2月17日付けの意見書に添付された証拠方法は以下のとおり。 乙第1号証:Charles M. Hansen著、「HANSEN SOLUBILITY PARAMETERS, A USER'S HANDBOOK」、CRC Press LLC刊、2000年 表紙、前付 p.180, 185 以下、「乙1」という。 3 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要 当審が令和5年6月22日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 (1)取消理由3(甲3に基づく新規性・進歩性) 本件特許の請求項3、5ないし9、11、14及び15に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲3に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項3、5ないし9、11、14及び15に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲3に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 第5 当審の判断 1 取消理由3(甲3に基づく新規性・進歩性)及び申立理由3(甲3に基づく新規性・進歩性)について 申立理由3(甲3に基づく新規性・進歩性)は、令和5年6月22日付け取消理由通知(決定の予告)における取消理由3(甲3に基づく新規性・進歩性)と証拠を同じくするものであるため、併せて検討する。 (1)引用発明の認定 甲3の実施例10ないし13に着目すると、甲3には次の発明が記載されていると認める。 「JIS K 6726で規定されているPVAのケン化度測定方法により求められるケン化度80.0モル%、JIS K 6726で規定されているPVAの平均重合度測定方法により求められる平均重合度2200のPVA系重合体(A)の粉末100重量部を、クロトンアルデヒド1重量部をメタノール400重量部に溶解させた溶液に60分間浸漬した後、1N塩酸水溶液25重量部を添加し、40℃の温度で2時間反応を行い、1N水酸化ナトリウム水溶液25重量部で中和し、次いで、遠心分離により溶媒を除去した後、窒素雰囲気下にて80℃で4時間乾燥する、クロトンアルデヒドの変性量が1モル%であるPVA系重合体(B)の製造方法。」(以下、「甲3実施例10発明」という。) 「JIS K 6726で規定されているPVAのケン化度測定方法により求められるケン化度88.0モル%、JIS K 6726で規定されているPVAの平均重合度測定方法により求められる平均重合度2400のPVA系重合体(A)の粉末100重量部を、クロトンアルデヒド1重量部をメタノール400重量部に溶解させた溶液に60分間浸漬した後、1N塩酸水溶液25重量部を添加し、40℃の温度で2時間反応を行い、1N水酸化ナトリウム水溶液25重量部で中和し、次いで、遠心分離により溶媒を除去した後、窒素雰囲気下にて80℃で4時間乾燥する、クロトンアルデヒドの変性量が9モル%であるPVA系重合体(B)の製造方法。」(以下、「甲3実施例11発明」という。) 「JIS K 6726で規定されているPVAのケン化度測定方法により求められるケン化度98.5モル%、JIS K 6726で規定されているPVAの平均重合度測定方法により求められる平均重合度2000のPVA系重合体(A)の粉末100重量部を、クロトンアルデヒド1重量部をメタノール400重量部に溶解させた溶液に60分間浸漬した後、1N塩酸水溶液25重量部を添加し、40℃の温度で2時間反応を行い、1N水酸化ナトリウム水溶液25重量部で中和し、次いで、遠心分離により溶媒を除去した後、窒素雰囲気下にて80℃で4時間乾燥する、クロトンアルデヒドの変性量が13モル%であるPVA系重合体(B)の製造方法。」(以下、「甲3実施例12発明」という。) 「JIS K 6726で規定されているPVAのケン化度測定方法により求められるケン化度80.0モル%、JIS K 6726で規定されているPVAの平均重合度測定方法により求められる平均重合度600のPVA系重合体(A)の粉末100重量部を、クロトンアルデヒド1重量部をメタノール400重量部に溶解させた溶液に60分間浸漬した後、1N塩酸水溶液25重量部を添加し、40℃の温度で2時間反応を行い、1N水酸化ナトリウム水溶液25重量部で中和し、次いで、遠心分離により溶媒を除去した後、窒素雰囲気下にて80℃で4時間乾燥する、クロトンアルデヒドの変性量が0.3モル%であるPVA系重合体(B)の製造方法。」(以下、「甲3実施例13発明」という。) (2)対比・判断 ア 本件特許発明1について (ア)甲3実施例12発明との対比 本件特許発明1と甲3実施例12発明とを対比する。 甲3実施例12発明の「PVA系重合体(A)」は、本件特許発明1の「ポリビニルアルコール樹脂」に相当し、甲3実施例12発明の「PVA系重合体(A)の粉末」は、本件特許発明1の「ポリビニルアルコール粒子」に相当する。そして、甲3実施例12発明の「PVA系重合体(A)」の「JIS K 6726で規定されているPVAのケン化度測定方法により求められるケン化度98.5モル%」及び「JIS K 6726で規定されているPVAの平均重合度測定方法により求められる平均重合度2000」は、それぞれ本件特許発明1の「ポリビニルアルコール樹脂」の「けん化度が80モル%以上」及び「平均重合度が500以上4500以下」と重複一致する。 甲3実施例12発明の「クロトンアルデヒド」は、本件特許発明1の「カルボニル化合物」である「アルデヒド」に相当する。甲3実施例12発明の「クロトンアルデヒドの変性量が13モル%であるPVA系重合体(B)」は、本件特許発明1の「変性ポリビニルアルコール樹脂」に相当する。 本件特許明細書の段落【0020】に、「ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒」について、有機溶媒として「メタノール」が例示されており、また、同段落に、「・・・工程(A)で用いられる溶媒は水を含んでいてもよい・・・」と記載されている。甲3実施例12発明の溶液には「メタノール」が含有されているところ、甲3実施例12発明では、「クロトンアルデヒド1重量部をメタノール400重量部に溶解させた溶液」に「1N塩酸水溶液25重量部」を加えており、この「1N塩酸水溶液25重量部」には、「水」が24重量部(=25×(100−3.58)質量%)含有されているため、計算すると、甲3実施例12発明の「メタノール400重量部」と「1N塩酸水溶液25重量部」を加えた溶液には、「メタノール」の含有割合は94.1質量%(=400/(400+25)×100)であり、「水」の含有割合は5.6質量%( =24/(400+25)×100)となる。 そうすると、甲3実施例12発明の「メタノール400重量部」と「1N塩酸水溶液25重量部」を加えた溶液は、本件特許発明1の「上記溶媒中の有機溶媒の含有量が5質量%以上」である事項を充足する。 そして、甲3実施例12発明の「JIS K 6726で規定されているPVAのケン化度測定方法により求められるケン化度98.5モル%、JIS K 6726で規定されているPVAの平均重合度測定方法により求められる平均重合度2000のPVA系重合体(A)の粉末100重量部を、クロトンアルデヒド1重量部をメタノール400重量部に溶解させた溶液に60分間浸漬した後、1N塩酸水溶液25重量部を添加し、40℃の温度で2時間反応を行」うことは、本件特許発明1の「ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒の存在下、ポリビニルアルコール粒子をカルボニル化合物のアセタール化体と反応させてアセタール化する工程(A)」に相当し、甲3実施例12発明の「遠心分離により溶媒を除去」することは、本件特許発明1の「前記工程(A)終了後に脱液により該変性ポリビニルアルコール樹脂を反応液から取り出す工程」に相当する。 また、甲3の段落[0032]に、「(ii)スラリー状又は粉末状のPVA系重合体(A)に、モノアルデヒドを直接添加、あるいはモノアルデヒドをメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコールもしくは水に溶解又は分散させた液体を添加し、酸触媒を加えて反応させ、反応後塩基性物質で中和し、さらに余分な溶媒を乾燥してPVA系重合体(B)を得る方法等が挙げられる。・・・(ii)のスラリー状態で反応させる方法は、PVA系重合体を固体として得ることができるため取り扱いやすい。」と記載され、当該(ii)の方法は、甲3実施例12発明の方法であるから、甲3実施例12発明は、「前記工程(A)終了時の反応液において生成物である変性ポリビニルアルコール樹脂が粒子状」である特定事項を満たすものである。 してみると、両者は、 「ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒の存在下、ポリビニルアルコール粒子をカルボニル化合物および/またはカルボニル化合物のアセタール化体と反応させてアセタール化する工程(A)を含み、上記溶媒中の有機溶媒の含有量が5質量%以上であり、前記工程(A)終了時の反応液において生成物である変性ポリビニルアルコール樹脂が粒子状であり、前記工程(A)終了後にろ過又は脱液により該変性ポリビニルアルコール樹脂を反応液から取り出す工程をさらに含む、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法であって、前記ポリビニルアルコール粒子に含まれるポリビニルアルコール樹脂のけん化度が80モル%以上であり、該ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度が500以上4500以下であり、前記有機溶媒がジアルキルケトン、ニトリル、アルコールおよびエーテルからなる群より選択される少なくとも1つであり、かつ前記カルボニル化合物がアルデヒドである、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。」の点で一致し、以下の相違点で相違する。 <相違点3−12−1−1> ポリビニルアルコール粒子の平均粒子径が、本件特許発明1は「770μm」であるのに対し、甲3実施例12発明はそのようなものであるか不明である点 <相違点3−12−1−2> アセタール化する工程(A)におけるポリビニルアルコール粒子が、本件特許発明1は「該溶媒で膨潤した」ものであるのに対し、甲3実施例12発明はそのようなものであるか不明である点 そこで、上記相違点について検討する。 <相違点3−12−1−1>について まず、当該相違点は実質的な相違点であるから、本件特許発明1は、甲3実施例12発明ではなく、新規性を有するものである。 ついで、上記相違点の容易想到性について検討する。 甲6の段落【0002】に、「従来、一般にポリビニルアルコール系重合体(以下PVAと略する)としては平均粒径200〜1000μmのPVAが工業的に生産されている。」と記載されているように、ポリビニルアルコール粒子の平均粒子径が1000μm以下のものは一般的なものである。また、甲5の段落【0005】に、「本発明で使用されるPVA系樹脂粉末は、アセタ−ル化の反応温度における水膨潤度が1.2倍以上、好ましくは1.5倍以上のものであればよく、重合度、鹸化度、立体規則性等は目的によって変えることができる。・・・PVA系樹脂粉末の大きさは、細かい方が有利であり、好ましくは500μm以下、」と記載され、アセタール化に際し、PVA系樹脂粉末の粒径を500μm以下とすることが示されてはいる。 しかしながら、上記甲5及び甲6に記載されるポリビニルアルコール粒子の平均粒子径は、「乾燥状態」のものであって、アセタール化する工程(A)終了時の反応液において生成された、いわゆる「スラリー状態」における平均粒子径の情報を提示するものではない。 そうすると、甲3実施例12発明において、当該相違点に係る発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3実施例12発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 そして、本件特許発明1は、「幅広いカルボニル化合物に適用可能であり、かつ工業的な生産性が高くできる。」(本件特許明細書段落【0009】)という効果を奏するものである。 (イ)甲3実施例10、11、13発明との対比 甲3実施例10、11、13発明は、甲3実施例12発明と「ケン化度、平均重合度の点で異なるものの、甲3実施例10、11、13発明も、それぞれ本件特許発明1の「ポリビニルアルコール樹脂」の「けん化度が80モル%以上」及び「平均重合度が500以上4500以下」である範囲と重複一致するものの、本件特許発明1と甲3実施例12発明と同様の相違点を有する。 そうすると、上記(ア)で説示したのと同様、本件特許発明1は、甲3実施例10、11、13発明ではなく、また、甲3実施例10、11、13発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (ウ)小括 よって、本件特許発明1は、甲3に記載された発明ではなく、また、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 本件特許発明2について 本件特許発明2は、請求項1を引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、本件特許発明2は、甲3に記載された発明ではないし、また、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 ウ 本件特許発明3について (ア)甲3実施例12発明との対比 本件特許発明3と甲3実施例12発明とを対比する。 甲3実施例12発明の溶液には「メタノール」が含有されているところ、甲3実施例12発明では、「クロトンアルデヒド1重量部をメタノール400重量部に溶解させた溶液」に「1N塩酸水溶液25重量部」を加えており、この「1N塩酸水溶液25重量部」には、「水」が24重量部(=25×(100−3.58)質量%)含有されているため、計算すると、甲3実施例12発明の「メタノール400重量部」と「1N塩酸水溶液25重量部」を加えた溶液には、「メタノール」の含有割合は94.1質量%(=400/(400+25)×100)であり、「水」の含有割合は5.6質量%( =24/(400+25)×100)となる。 そうすると、甲3実施例12発明の「メタノール400重量部」と「1N塩酸水溶液25重量部」を加えた溶液は、本件特許発明3の「水を5〜95質量%および有機溶媒を5〜95質量%含」む「ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒」に相当する。 その他の点は、上記ア(ア)で対比したとおりある。 そうすると、両者は、 「ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒の存在下、ポリビニルアルコール粒子をカルボニル化合物と反応させてアセタール化する工程(A)を含み、前記工程(A)終了時の反応液において生成物である変性ポリビニルアルコール樹脂が粒子状であり、前記工程(A)終了後に脱液により該変性ポリビニルアルコール樹脂を反応液から取り出す工程をさらに含む、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法であって、 前記ポリビニルアルコール粒子に含まれるポリビニルアルコール樹脂のけん化度が80モル%以上であり、該ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度が500以上4500以下であり、前記溶媒が水を5〜95質量%および有機溶媒を5〜95質量%含み、前記有機溶媒がアルコールであり、かつ前記カルボニル化合物がアルデヒドである、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。」の点で一致し、以下の相違点で相違する。 <相違点3−12−3−1> 溶媒のハンセン溶解度パラメータが、本件特許発明3は、「δDが15.0以上20.0以下であり、δPが1.0以上20.0以下であり、δHが3.0以上41.0以下」であるのに対し、甲3実施例12発明はその点不明である点 <相違点3−12−3−2> アセタール化する工程(A)におけるポリビニルアルコール粒子が、本件特許発明3は「該溶媒で膨潤した」ものであるのに対し、甲3実施例12発明はそのようなものであるか不明である点 <相違点3−12−3−3> アルデヒドが、本件特許発明3は、「(但し、オレフィン系不飽和二重結合を有するものを除く)」ものであるのに対し、甲3実施例12発明は「クロトンアルデヒド」である点 そこで、上記相違点について検討する。 事案に鑑み、<相違点3−12−3−3>から検討する。 まず、当該相違点は実質的な相違点であるから、本件特許発明3は、甲3実施例12発明ではなく、新規性を有するものである。 ついで、上記相違点の容易想到性について検討する。 甲3の請求項1は、「オレフィン系不飽和二重結合を有するモノアルデヒドによりポリビニルアルコール系重合体(A)をアセタール化して得られる、側鎖に二重結合を有するポリビニルアルコール系重合体(B)を含有することを特徴とする懸濁重合用分散安定剤。」であるように、甲3は、アルデヒドとして、「オレフィン系不飽和二重結合を有するもの」を必須とするものである。そうすると、甲3実施例12発明において、アルデヒドを、「(但し、オレフィン系不飽和二重結合を有するものを除く)」とすることの動機付けはなく、むしろ阻害要因があるというべきである。 そうすると、甲3実施例12発明において、当該相違点に係る事項とすることは当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明3は、甲3実施例12発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 そして、本件特許発明3は、「幅広いカルボニル化合物に適用可能であり、かつ工業的な生産性が高くできる」(本件特許明細書段落【0009】)という効果を奏するものである。 (イ)甲3実施例10、11、13発明との対比 甲3実施例10、11、13発明は、甲3実施例12発明と「ケン化度、平均重合度の点で異なるものの、甲3実施例10、11、13発明も、それぞれ本件特許発明1の「ポリビニルアルコール樹脂」の「けん化度が80モル%以上」及び「平均重合度が500以上4500以下」である範囲と重複一致するものの、本件特許発明3と甲3実施例12発明と同様の相違点を有する。 そうすると、上記(ア)で説示したのと同様、本件特許発明3は、甲3実施例10、11、13発明ではなく、また、甲3実施例10、11、13発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (ウ)小括 よって、本件特許発明3は、甲3に記載された発明ではなく、また、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 エ 本件特許発明5ないし9、11、14及び15について 本件特許発明5ないし9、11、14及び15は、請求項3を直接的又は間接的に引用するものであり、本件特許発明3の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明3と同様の理由で、本件特許発明5ないし9、11、14及び15は、甲3に記載された発明ではないし、また、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 オ 本件特許発明4について (ア)甲3実施例12発明との対比 本件特許発明4と甲3実施例12発明とを対比するに、上記ア(ア)で対比したのと同様、両者は、 「ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒の存在下、ポリビニルアルコール粒子をカルボニル化合物および/またはカルボニル化合物のアセタール化体と反応させてアセタール化する工程(A)を含み、上記溶媒中の有機溶媒の含有量が5質量%以上であり、前記工程(A)終了時の反応液において生成物である変性ポリビニルアルコール樹脂が粒子状であり、前記工程(A)終了後にろ過又は脱液により該変性ポリビニルアルコール樹脂を反応液から取り出す工程をさらに含む、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法であって、前記ポリビニルアルコール粒子に含まれるポリビニルアルコール樹脂のけん化度が80モル%以上であり、該ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度が500以上4500以下であり、前記有機溶媒がジアルキルケトン、ニトリル、アルコールおよびエーテルからなる群より選択される少なくとも1つであり、かつ前記カルボニル化合物がアルデヒドである、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。」の点で一致し、以下の相違点で相違する。 <相違点3−12−4−1> ポリビニルアルコール粒子が、本件特許発明4は「多孔質体であり該粒子に含まれる細孔のメジアン径が0.01〜20μm」であるのに対し、甲3実施例12発明はそのようなものであるか不明である点 <相違点3−12−4−2> アセタール化する工程(A)におけるポリビニルアルコール粒子が、本件特許発明4は「該溶媒で膨潤した」ものであるのに対し、甲3実施例12発明はそのようなものであるか不明である点 そこで、上記相違点について検討する。 <相違点3−12−4−1>について まず、当該相違点は実質的な相違点であるから、本件特許発明4は、甲3実施例12発明ではなく、新規性を有するものである。 ついで、上記相違点の容易想到性について検討する。 申立人の提出した甲1ないし甲6を参酌しても、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法において、ポリビニルアルコール粒子として、「多孔質体であり該粒子に含まれる細孔のメジアン径が0.01〜20μm」を使用することは記載も示唆もされていない。 そうすると、甲3実施例12発明において、当該相違点に係る事項とすることは当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲3実施例12発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 そして、本件特許発明4は、「幅広いカルボニル化合物に適用可能であり、かつ工業的な生産性が高く、また、ポリビニルアルコール粒子の内部まで均一にアセタール化できる。」(本件特許明細書段落【0009】)という効果を奏するものである。 (イ)甲3実施例10、11、13発明との対比 甲3実施例10、11、13発明は、甲3実施例12発明と「ケン化度、平均重合度の点で異なるものの、甲3実施例10、11、13発明も、それぞれ本件特許発明4の「ポリビニルアルコール樹脂」の「けん化度が80モル%以上」及び「平均重合度が500以上4500以下」である範囲と重複一致するものの、本件特許発明4と甲3実施例12発明と同様の相違点を有する。 そうすると、上記(ア)で説示したのと同様、本件特許発明4は、甲3実施例10、11、13発明ではなく、また、甲3実施例10、11、13発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (ウ)小括 よって、本件特許発明4は、甲3に記載された発明ではなく、また、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)取消理由3(甲3に基づく新規性・進歩性)及び申立理由3(甲3に基づく新規性・進歩性)についてのむすび したがって、本件特許発明1ないし9、11及び15は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、また、本件特許発明1ないし9、11、14及び15は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし9、11、14及び15に係る特許は、取消理由3及び申立理由3によっては取り消すことはできない。 2 申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)について (1)甲1に記載された発明の認定 甲1の実施例1に着目すると、甲1には次の発明が記載されていると認める。 「ポリ酢酸ビニルのメタノールペーストにアルカリを加えてアルコーリシスを行なって得た重合度1100の完全ケン化ポリビニルアルコール約140gを含有するスラリー640gに50%の硫酸22gを加え、60℃にてn−ブチルアルデヒド11gを2時間かけて滴下し、滴下終了後60℃に3時間保ち、計5時間反応させ、反応終了後スラリーを濾別して乾燥する、アセタール化度9.5モル%の粉末状のアセタール化ポリビニルアルコールの製造方法。」(以下、「甲1発明」という。) (2)対比・判断 ア 本件特許発明1について 本件特許発明1と甲1発明とを対比する。 (ア)甲1発明の「重合度1100の完全ケン化ポリビニルアルコール」は、スラリーに含有されていることから、「粒子」であると解するのが相当である。よって、甲1発明の「完全ケン化ポリビニルアルコール」は、本件特許発明1の「ポリビニルアルコール粒子」に相当する。 また、甲1発明の「重合度1100の完全ケン化ポリビニルアルコール」は、完全ケン化されていることから、本件特許発明1の「けん化度が80モル%以上」である事項を満たし、また、「重合度」とは出願時の技術常識を参酌すると、「平均重合度」であると解するのが相当であるから、本件特許発明1の「該ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度が500以上4500以下」である事項を満たすものである。 (イ)甲1発明の「アセタール化ポリビニルアルコール」は、本件特許発明1の「変性ポリビニルアルコール樹脂」に相当する。 (ウ)甲1発明の「n−ブチルアルデヒド」は、本件特許発明1の「カルボニル化合物」に相当する。 (エ)甲1発明の「スラリー」には、アルコーリシスを行った後も、「ポリ酢酸ビニルのメタノールペースト」中の「メタノール」が含有されている。そして、本件特許明細書の段落【0020】に、「ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒」について、「メタノール」が例示されており、また、実施例7においても「メタノール」が使用されている。そうすると、甲1発明の「メタノール」は、本件特許発明1の「ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒」である「有機溶媒」に相当する。 甲1発明には、スラリー640g中、重合度1100の完全ケン化ポリビニルアルコールが約140g含有されている。甲1発明では、アルコーリシスのアルカリが不明であるところ、仮にNaOHである場合、1モルのポリ酢酸ビニルから1モルの完全ケン化ポリビニルアルコールと1モルの酢酸Naが脱離することとなる。当該ポリビニルアルコールが約140g生成しているとすると、酢酸Naの生成量は0.2319g=82(酢酸Naの分子量)/44×1100(完全ケン化ポリビニルアルコールの分子量)×140gとなる。このため、スラリーには、「ポリ酢酸ビニルのメタノールペースト」の「メタノール」が、約499g(=640−140−0.2319)含有されていることとなる。そして、甲1発明では、スラリー640gに50%の硫酸22gを加えていることから、水が11g(=22g×50%)加わっている。 そうすると、甲1発明の溶媒中、有機溶媒である「メタノール」の含有割合は97.8質量%(=499/(499+11)×100)となる。 よって、甲1発明の「ポリ酢酸ビニルのメタノールペーストにアルカリを加えてアルコーリシスを行なって得た重合度1100の完全ケン化ポリビニルアルコール約140gを含有するスラリー640gに50%の硫酸22gを加え、60℃にてn−ブチルアルデヒド11gを2時間かけて滴下し、滴下終了後60℃に3時間保ち、計5時間反応させ」ることは、本件特許発明1の「ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒の存在下、ポリビニルアルコール粒子をカルボニル化合物と反応させてアセタール化する工程(A)を含み、上記溶媒中の有機溶媒の含有量が5質量%以上であり」に相当する。 (オ)また、甲1発明の「反応終了後スラリーを濾別して乾燥する」ことは、本件特許発明1の「前記工程(A)終了後にろ過により該変性ポリビニルアルコール樹脂を反応液から取り出す工程」に相当する。そして、甲1発明は、「反応終了後スラリーを濾別して」、粉末状のアセタール化ポリビニルアルコールが得られているのであるから、本件特許発明1の「前記工程(A)終了時の反応液において生成物である変性ポリビニルアルコール樹脂が粒子状」である特定事項を満たすものである。 してみると、両者は、 「ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒の存在下、ポリビニルアルコール粒子をカルボニル化合物および/またはカルボニル化合物のアセタール化体と反応させてアセタール化する工程(A)を含み、上記溶媒中の有機溶媒の含有量が5質量%以上であり、前記工程(A)終了時の反応液において生成物である変性ポリビニルアルコール樹脂が粒子状であり、前記工程(A)終了後にろ過又は脱液により該変性ポリビニルアルコール樹脂を反応液から取り出す工程をさらに含む、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法であって、前記ポリビニルアルコール粒子に含まれるポリビニルアルコール樹脂のけん化度が80モル%以上であり、該ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度が500以上4500以下であり、前記有機溶媒がジアルキルケトン、ニトリル、アルコールおよびエーテルからなる群より選択される少なくとも1つであり、かつ前記カルボニル化合物がアルデヒドである、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。」の点で一致し、以下の相違点で相違する。 <相違点1−1−1> ポリビニルアルコール粒子の平均粒子径が、本件特許発明1は「770μm」であるのに対し、甲1発明はそのようなものであるか不明である点 <相違点1−1−2> アセタール化する工程(A)におけるポリビニルアルコール粒子が、本件特許発明1は「該溶媒で膨潤した」ものであるのに対し、甲1発明はそのようなものであるか不明である点 そこで、上記相違点について検討する。 <相違点1−1−1>について まず、当該相違点は実質的な相違点であるから、本件特許発明1は、甲1発明ではなく、新規性を有するものである。 ついで、上記相違点の容易想到性について検討する。 上記1(2)アで説示したように、甲5及び甲6に記載されるポリビニルアルコール粒子の平均粒子径は、「乾燥状態」のものであって、アセタール化する工程(A)終了時の反応液において生成された、いわゆる「スラリー状態」における平均粒子径の情報を提示するものではない。 そうすると、甲1発明において、当該相違点に係る事項とすることは当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 そして、本件特許発明1は、「幅広いカルボニル化合物に適用可能であり、かつ工業的な生産性が高くできる。」(本件特許明細書段落【0009】)という効果を奏するものである。 したがって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 本件特許発明2について 本件特許発明2は、請求項1を引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、本件特許発明2は、甲1に記載された発明ではないし、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 ウ 本件特許発明3について 本件特許発明3と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「n−ブチルアルデヒド」は、オレフィン系不飽和二重結合を有するものではないから、本件特許発明1の「カルボニル化合物(但し、オレフィン系不飽和二重結合を有するものを除く)」に相当する。 そして、上記アで示したように、甲1発明の溶媒中、有機溶媒である「メタノール」の含有割合は97.8質量%(=499/(499+11)×100)で、水が2.2質量%(100―97.8)となる。 そうすると、上記アで対比したのと同様、両者は、 「ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒の存在下、ポリビニルアルコール粒子をカルボニル化合物と反応させてアセタール化する工程(A)を含み、前記工程(A)終了時の反応液において生成物である変性ポリビニルアルコール樹脂が粒子状であり、前記工程(A)終了後に脱液により該変性ポリビニルアルコール樹脂を反応液から取り出す工程をさらに含む、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法であって、 前記ポリビニルアルコール粒子に含まれるポリビニルアルコール樹脂のけん化度が80モル%以上であり、該ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度が500以上4500以下であり、前記有機溶媒がジアルキルケトン、ニトリル、アルコールおよびエーテルからなる群より選択される少なくとも1つであり、かつ前記カルボニル化合物がアルデヒド(但し、オレフィン系不飽和二重結合を有するものを除く)である、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。」の点で一致し 、以下の相違点で相違する。 <相違点1−3−1> 溶媒の組成が、本件特許発明3は、「水を5〜95質量%および有機溶媒を5〜95質量%」含むものであるのに対し、甲1発明は「水を2.2質量%及びメタノールを97.8質量%」含むものである点 <相違点1−3−2> アセタール化する工程(A)におけるポリビニルアルコール粒子が、本件特許発明3は「該溶媒で膨潤した」ものであるのに対し、甲1発明はそのようなものであるか不明である点 <相違点1−3−3> 溶媒のハンセン溶解度パラメータが、本件特許発明3は、「δDが15.0以上20.0以下であり、δPが1.0以上20.0以下であり、δHが3.0以上41.0以下」であるのに対し、甲1発明はその点不明である点 そこで、上記相違点について検討する。 <相違点1−3−1>について 甲5には、「工業的に有利であって、かつ所望の量のスルホン酸基をPVA系樹脂へ導入することが可能な方法を提供すること」(段落【0003】)を目的とする「水膨潤度が1.2倍以上のポリビニルアルコール系樹脂粉末を反応混合物の総重量に対して20〜60重量%の水の存在下で膨潤させ、スルホン酸基含有アルデヒド類でアセタール化することを特徴とするスルホン酸基含有ポリビニルアルコール系樹脂の製造方法。」(【特許請求の範囲】【請求項1】)について記載されている。 甲5の溶媒は「水」のみであって、有機溶媒を全く使用しないものである。すなわち、甲5には、溶媒として、「水を5〜95質量%および有機溶媒を5〜95質量%」含むもの使用することは記載も示唆もされていない。 また、甲5は、スルホン酸基をPVA系樹脂へ導入するために、アルデヒドとして、スルホン酸基含有アルデヒド類を使用するものであるところ、甲1発明のアルデヒドは、「n−ブチルアルデヒド」であって、「スルホン酸基」を含有するものではない。 してみると、甲1発明において、溶媒として、「水を2.2質量%及びメタノールを97.8質量%」含むものを、「水を5〜95質量%および有機溶媒を5〜95質量%」とすることは当業者が容易に想到し得たものではない。 よって、本件特許発明3は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 エ 本件特許発明5ないし9、11、14及び15について 本件特許発明5ないし9、11、14及び15は、請求項3を直接的又は間接的に引用するものであり、本件特許発明3の発明特定事項を全て有するものである。 そして、上記ウの<相違点1−3−1>は実質的な相違点であるから、本件特許発明5ないし9、11及び15は、甲1に記載された発明ではない。 また、本件特許発明3と同様の理由で、本件特許発明5ないし9、11、14及び15は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 オ 本件特許発明4について 本件特許発明4と甲1発明とを対比するに、上記アで対比したのと同様、両者は、 「ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒の存在下、ポリビニルアルコール粒子をカルボニル化合物および/またはカルボニル化合物のアセタール化体と反応させてアセタール化する工程(A)を含み、上記溶媒中の有機溶媒の含有量が5質量%以上であり、前記工程(A)終了時の反応液において生成物である変性ポリビニルアルコール樹脂が粒子状であり、前記工程(A)終了後にろ過又は脱液により該変性ポリビニルアルコール樹脂を反応液から取り出す工程をさらに含む、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法であって、前記ポリビニルアルコール粒子に含まれるポリビニルアルコール樹脂のけん化度が80モル%以上であり、該ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度が500以上4500以下であり、前記有機溶媒がジアルキルケトン、ニトリル、アルコールおよびエーテルからなる群より選択される少なくとも1つであり、かつ前記カルボニル化合物がアルデヒドである、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。」の点で一致し 、以下の相違点で相違する。 <相違点1−4−1> ポリビニルアルコール粒子が、本件特許発明4は「多孔質体であり該粒子に含まれる細孔のメジアン径が0.01〜20μm」であるのに対し、甲1発明はそのようなものであるか不明である点 <相違点1−4−2> アセタール化する工程(A)におけるポリビニルアルコール粒子が、本件特許発明4は「該溶媒で膨潤した」ものであるのに対し、甲1発明はそのようなものであるか不明である点 そこで、上記相違点について検討する。 <相違点1−4−1>について まず、当該相違点は実質的な相違点であるから、本件特許発明4は、甲1発明ではなく、新規性を有するものである。 ついで、上記相違点の容易想到性について検討する。 申立人の提出した甲1ないし甲6を参酌しても、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法において、ポリビニルアルコール粒子として、「多孔質体であり該粒子に含まれる細孔のメジアン径が0.01〜20μm」を使用することは記載も示唆もされていない。 そうすると、甲1発明において、当該相違点に係る事項とすることは当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 そして、本件特許発明4は、「幅広いカルボニル化合物に適用可能であり、かつ工業的な生産性が高く、また、ポリビニルアルコール粒子の内部まで均一にアセタール化できる。」(本件特許明細書段落【0009】)という効果を奏するものである。 (3)申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)についてのむすび したがって、本件特許発明1、2、4ないし9、11及び15は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、また、本件特許発明1ないし9、11、14及び15は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし9、11、14及び15に係る特許は、申立理由1によっては取り消すことはできない。 3 申立理由2(甲2に基づく新規性・進歩性)について (1)甲2に記載された発明の認定 甲2の実施例2に着目すると、甲2には次の発明が記載されていると認める。 「平均重合度1000、ケン化度88.5モル%のポリビニルアルコール100g、ブチルアルデヒド7.0g、20重量%硫酸2.5g及びイソプロピルアルコール500gから混合物を1l容量のガラス製反応器に仕込み、35℃の温度で2時間攪拌し、固形分をろ(当審注:公報上の表記は、さんずいへんに戸)別し、イソプロピルアルコールで洗滌し、乾燥して得られるアセタール化度8.6モル%のポリビニルアセタールの製造方法。」(以下、「甲2発明」という。) (2)対比・判断 ア 本件特許発明1について 本件特許発明1と甲2発明を対比する。 (ア)甲2発明の「平均重合度1000、ケン化度88.5モル%のポリビニルアルコール」は、本件特許発明1の「けん化度が80モル%以上であり、該ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度が500以上4500以下」である「ポリビニルアルコール樹脂」に相当する。また、一般に生産されているポリビニルアルコール樹脂は粒子状(甲6の段落【0002】)であることから、甲2発明の「ポリビニルアルコール」は、本件特許発明1の「ポリビニルアルコール粒子」に相当する。 (イ)甲2発明の「ポリビニルアセタール」は、本件特許発明1の「変性ポリビニルアルコール樹脂」に相当する。 (ウ)甲2発明の「ブチルアルデヒド」は、本件特許発明1の「カルボニル化合物」に相当する。 (エ)本件特許明細書の段落【0020】に、「ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒」について、「1,4−ジオキサン」、「2−プロパノール」(別名イソプロピルアルコール)、「2−ブタノン」(別名メチルエチルケトン)が例示されていることから、甲2発明の「イソプロピルアルコール」は、本件特許発明1の「ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒」である「有機溶媒」に相当する。また、甲2発明では20重量%硫酸2.5gを加えているところ、酸中には「水」が含有されており、当該「水」も「ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒」に相当する。 甲2発明では、20重量%硫酸2.5gを使用していることから、水が2g(=2.5g×80%)加わっている。そうすると、甲2発明の溶媒中、有機溶媒である「イソプロピルアルコール」の含有割合は99.6質量%(=500/(500+2)×100)となる。 そうすると、甲2発明の「平均重合度1000、ケン化度88.5モル%のポリビニルアルコール100g、ブチルアルデヒド7.0g、20重量%硫酸2.5g及びイソプロピルアルコール500gから混合物を1l容量のガラス製反応器に仕込み、35℃の温度で2時間攪拌」することは、本件特許発明1の「ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒の存在下、ポリビニルアルコール粒子をカルボニル化合物と反応させてアセタール化する工程(A)を含み、上記溶媒中の有機溶媒の含有量が5質量%以上であり」に相当し、甲2発明の「固形分をろ過」することは、本件特許発明1の「前記工程(A)終了後にろ過により該変性ポリビニルアルコール樹脂を反応液から取り出す工程」に相当する。そして、甲2発明は、「固形分をろ過」してポリビニルアセタールが得られているのであるから、本件特許発明1の「前記工程(A)終了時の反応液において生成物である変性ポリビニルアルコール樹脂が粒子状」である特定事項を満たすものである。 してみると、両者は、 「ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒の存在下、ポリビニルアルコール粒子をカルボニル化合物および/またはカルボニル化合物のアセタール化体と反応させてアセタール化する工程(A)を含み、上記溶媒中の有機溶媒の含有量が5質量%以上であり、前記工程(A)終了時の反応液において生成物である変性ポリビニルアルコール樹脂が粒子状であり、前記工程(A)終了後にろ過又は脱液により該変性ポリビニルアルコール樹脂を反応液から取り出す工程をさらに含む、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法であって、前記ポリビニルアルコール粒子に含まれるポリビニルアルコール樹脂のけん化度が80モル%以上であり、該ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度が500以上4500以下であり、前記有機溶媒がジアルキルケトン、ニトリル、アルコールおよびエーテルからなる群より選択される少なくとも1つであり、かつ前記カルボニル化合物がアルデヒドである、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。」の点で一致し、以下の相違点で相違する。 <相違点2−1−1> ポリビニルアルコール粒子の平均粒子径が、本件特許発明1は「770μm」であるのに対し、甲2発明はそのようなものであるか不明である点 <相違点2−1−2> アセタール化する工程(A)におけるポリビニルアルコール粒子が、本件特許発明1は「該溶媒で膨潤した」ものであるのに対し、甲2発明はそのようなものであるか不明である点 そこで、上記相違点について検討する。 <相違点2−1−1>について まず、当該相違点は実質的な相違点であるから、本件特許発明1は、甲2発明ではなく、新規性を有するものである。 ついで、上記相違点の容易想到性について検討する。 上記1(2)アで説示したように、甲5及び甲6に記載されるポリビニルアルコール粒子の平均粒子径は、「乾燥状態」のものであって、アセタール化する工程(A)終了時の反応液において生成された、いわゆる「スラリー状態」における平均粒子径の情報を提示するものではない。 そうすると、甲2発明において、当該相違点に係る事項とすることは当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 そして、本件特許発明1は、「幅広いカルボニル化合物に適用可能であり、かつ工業的な生産性が高くできる。」(本件特許明細書段落【0009】)という効果を奏するものである。 したがって、本件特許発明1は、甲2に記載された発明ではなく、また、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 本件特許発明2について 本件特許発明2は、請求項1を引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、本件特許発明2は、甲2に記載された発明ではないし、また、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 ウ 本件特許発明3について 本件特許発明3と甲2発明とを対比する。 甲2発明の「ブチルアルデヒド」は、オレフィン系不飽和二重結合を有するものではないから、本件特許発明1の「カルボニル化合物(但し、オレフィン系不飽和二重結合を有するものを除く)」に相当する。 そして、上記アで示したように、甲2発明の溶媒中、有機溶媒である「イソプロピルアルコール」の含有割合は99.6質量%(=500/(500+2)×100)で、水は0.04質量%(=100−99.6)となる。 そうすると、上記アで対比したのと同様、両者は、 「ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒の存在下、ポリビニルアルコール粒子をカルボニル化合物と反応させてアセタール化する工程(A)を含み、前記工程(A)終了時の反応液において生成物である変性ポリビニルアルコール樹脂が粒子状であり、前記工程(A)終了後に脱液により該変性ポリビニルアルコール樹脂を反応液から取り出す工程をさらに含む、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法であって、 前記ポリビニルアルコール粒子に含まれるポリビニルアルコール樹脂のけん化度が80モル%以上であり、該ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度が500以上4500以下であり、前記有機溶媒がジアルキルケトン、ニトリル、アルコールおよびエーテルからなる群より選択される少なくとも1つであり、かつ前記カルボニル化合物がアルデヒド(但し、オレフィン系不飽和二重結合を有するものを除く)である、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。」の点で一致し 、以下の相違点で相違する。 <相違点2−3−1> 溶媒の組成が、本件特許発明3は、「水を5〜95質量%および有機溶媒を5〜95質量%」含むものであるのに対し、甲2発明は「水を0.04質量%及びイソプロピルアルコールを99.6質量%」含むものである点 <相違点2−3−2> アセタール化する工程(A)におけるポリビニルアルコール粒子が、本件特許発明3は「該溶媒で膨潤した」ものであるのに対し、甲2発明はそのようなものであるか不明である点 <相違点2−3−3> 溶媒のハンセン溶解度パラメータが、本件特許発明3は、「δDが15.0以上20.0以下であり、δPが1.0以上20.0以下であり、δHが3.0以上41.0以下」であるのに対し、甲2発明はその点不明である点 そこで、上記相違点について検討する。 <相違点2−3−1>について 上記2(2)ウで示したように、甲5の溶媒は「水」のみであって、有機溶媒を全く使用しないものである。すなわち、甲5には、溶媒として、「水を5〜95質量%および有機溶媒を5〜95質量%」含むもの使用することは記載も示唆もされていない。 また、甲5は、スルホン酸基をPVA系樹脂へ導入するために、アルデヒドとして、スルホン酸基含有アルデヒド類を使用するものであるところ、甲2発明のアルデヒドは、「ブチルアルデヒド」であって、「スルホン酸基」を含有するものではない。 そうしてみると、甲2発明において、溶媒として、「水を2.2質量%及びメタノールを97.8質量%」含むものを、「水を5〜95質量%および有機溶媒を5〜95質量%」とすることは当業者が容易に想到し得たものではない。 よって、本件特許発明3は、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 エ 本件特許発明5ないし9、11、14及び15について 本件特許発明5ないし9、11、14及び15は、請求項3を直接的又は間接的に引用するものであり、本件特許発明3の発明特定事項を全て有するものである。 そして、上記ウの<相違点2−3−1>は実質的な相違点であるから、本件特許発明5ないし9、11及び15は、甲2に記載された発明ではない。 また、本件特許発明3と同様の理由で、本件特許発明5ないし9、11、14及び15は、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 オ 本件特許発明4について 本件特許発明4と甲2発明とを対比するに、上記アで対比したのと同様、両者は、 「ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒の存在下、ポリビニルアルコール粒子をカルボニル化合物および/またはカルボニル化合物のアセタール化体と反応させてアセタール化する工程(A)を含み、上記溶媒中の有機溶媒の含有量が5質量%以上であり、前記工程(A)終了時の反応液において生成物である変性ポリビニルアルコール樹脂が粒子状であり、前記工程(A)終了後にろ過又は脱液により該変性ポリビニルアルコール樹脂を反応液から取り出す工程をさらに含む、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法であって、前記ポリビニルアルコール粒子に含まれるポリビニルアルコール樹脂のけん化度が80モル%以上であり、該ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度が500以上4500以下であり、前記有機溶媒がジアルキルケトン、ニトリル、アルコールおよびエーテルからなる群より選択される少なくとも1つであり、かつ前記カルボニル化合物がアルデヒドである、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。」の点で一致し、以下の相違点で相違する。 <相違点2−4−1> ポリビニルアルコール粒子が、本件特許発明4は「多孔質体であり該粒子に含まれる細孔のメジアン径が0.01〜20μm」であるのに対し、甲2発明はそのようなものであるか不明である点 <相違点2−4−2> アセタール化する工程(A)におけるポリビニルアルコール粒子が、本件特許発明4は「該溶媒で膨潤した」ものであるのに対し、甲2発明はそのようなものであるか不明である点 そこで、上記相違点について検討する。 <相違点2−4−1>について まず、当該相違点は実質的な相違点であるから、本件特許発明4は、甲2発明ではなく、新規性を有するものである。 ついで、上記相違点の容易想到性について検討する。 申立人の提出した甲1ないし甲6を参酌しても、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法において、ポリビニルアルコール粒子として、「多孔質体であり該粒子に含まれる細孔のメジアン径が0.01〜20μm」を使用することは記載も示唆もされていない。 そうすると、甲2発明において、当該相違点に係る事項とすることは当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 そして、本件特許発明4は、「幅広いカルボニル化合物に適用可能であり、かつ工業的な生産性が高く、また、ポリビニルアルコール粒子の内部まで均一にアセタール化できる。」(本件特許明細書段落【0009】)という効果を奏するものである。 (3)申立理由2(甲2に基づく新規性・進歩性)についてのむすび したがって、本件特許発明1、2、4ないし9、11及び15は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、また、本件特許発明1ないし9、11、14及び15は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし9、11、14及び15に係る特許は、申立理由2によっては取り消すことはできない。 4 申立理由4(甲4に基づく新規性・進歩性)について (1)甲4に記載された発明の認定 甲4の実施例3のExp.3に着目すると、甲4には次の発明が記載されていると認める。 「メタノール29mlの媒体中に分散せしめた、重合度1720、鹸化度99.7%のポリビニルアルコール(PVA)10gとブチルアルデヒド9.4gを、35%塩酸0.9mlを用い60℃で初期反応1時間、次いでメタノール61mlを添加して6時間反応させ、得られた溶液を酢酸ソーダで中和後水中に投じてポリビニルブチラール(PVB)粉末を得る、PVBの製造方法。」(以下、「甲4発明」という。) (2)対比・判断 ア 本件特許発明1について 本件特許発明1と甲4発明とを対比する。 (ア)甲4発明の「重合度1720、鹸化度99.7%のポリビニルアルコール」は、メタノールの媒体中に分散されていることから、「粒子」であると解するのが相当である。よって、甲4発明の「ポリビニルアルコール」は、本件特許発明1の「ポリビニルアルコール粒子」に相当する。 また、甲1発明の「重合度1720、鹸化度99.7%のポリビニルアルコール」は、本件特許発明1の「けん化度が80モル%以上」である事項を満たし、また、「重合度」とは出願時の技術常識を参酌すると、「平均重合度」であると解するのが相当であるから、本件特許発明1の「該ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度が500以上4500以下」である事項を満たすものである。 (イ)甲4発明の「ポリビニルブチラール(PVB)」は、本件特許発明1の「変性ポリビニルアルコール樹脂」に相当する。 (ウ)甲4発明の「ブチルアルデヒド」は、本件特許発明1の「カルボニル化合物」に相当する。 (エ)本件特許明細書の段落【0020】に、「ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒」について、「メタノール」が例示されており、また、実施例7においても「メタノール」が使用されている。そうすると、甲4発明の「メタノール」は、本件特許発明1の「ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒」である「有機溶媒」に相当する。 また、甲4発明では35%塩酸0.9mlを加えているところ、酸中には「水」が含有されており、当該「水」も「ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒」に相当する。 甲4発明では、35%塩酸0.9mlを使用していることから、水が0.585g(=0.9g×65%)加わっている。そうすると、甲4発明の溶媒中、有機溶媒である「メタノール」の含有割合は99.4質量%(=90/(29+61+0.585)×100)となる。 そうすると、甲4発明の「メタノール29mlの媒体中に分散せしめた、重合度1720、鹸化度99.7%のポリビニルアルコール(PVA)10gとブチルアルデヒド9.4gを、35%塩酸0.9mlを用い60℃で初期反応1時間、次いでメタノール61mlを添加して6時間反応させ」ることは、本件特許発明1の「ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒の存在下、ポリビニルアルコール粒子をカルボニル化合物と反応させてアセタール化する工程(A)を含み、上記溶媒中の有機溶媒の含有量が5質量%以上であり」に相当する。 してみると、両者は、 「ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒の存在下、ポリビニルアルコール粒子をカルボニル化合物および/またはカルボニル化合物のアセタール化体と反応させてアセタール化する工程(A)を含み、上記溶媒中の有機溶媒の含有量が5質量%以上であり、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法であって、前記ポリビニルアルコール粒子に含まれるポリビニルアルコール樹脂のけん化度が80モル%以上であり、該ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度が500以上4500以下であり、前記有機溶媒がジアルキルケトン、ニトリル、アルコールおよびエーテルからなる群より選択される少なくとも1つであり、かつ前記カルボニル化合物がアルデヒドである、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。」の点で一致し、以下の相違点で相違する。 <相違点4−1−1> ポリビニルアルコール粒子の平均粒子径が、本件特許発明1は「770μm」であるのに対し、甲4発明はそのようなものであるか不明である点 <相違点4−1−2> アセタール化する工程(A)におけるポリビニルアルコール粒子が、本件特許発明1は「該溶媒で膨潤した」ものであるのに対し、甲4発明はそのようなものであるか不明である点 <相違点4−1−3> 本件特許発明1は、「前記工程(A)終了時の反応液において生成物である変性ポリビニルアルコール樹脂が粒子状」であるのに対し、甲4発明はその点不明である点 <相違点4−1−4> 本件特許発明1は「前記工程(A)終了後にろ過又は脱液により該変性ポリビニルアルコール樹脂を反応液から取り出す工程をさらに含む」のに対し、甲4発明は「得られた溶液を酢酸ソーダで中和後水中に投じてポリビニルブチラール(PVB)粉末を得る」点 そこで、上記相違点について検討する。 事案に鑑み、<相違点4−1−3>から検討する。 まず、6時間反応させて得られた直後のポリビニルブチラールは、「溶液」状態であるから、溶媒に分散されて「粒子状」にはなっていないものと認められる。 そうすると、当該相違点は実質的な相違点であるから、本件特許発明1は、甲4発明ではなく、新規性を有するものである。 ついで、上記相違点の容易想到性について検討する。 甲4には、「溶解法は媒体中に分散したPVAとブチルアルデヒドが不均一相で反応し、ある一定のブチラール化度に到達した分子が順次、媒体中に溶解することにより均一系に移行していく方法」と記載されているように、甲4発明は、溶液法によるものである。そうすると、一定のブチラール化度に到達して溶液状態になる前、すなわち、PVAが溶媒に分散された状態で反応を終了させることは阻害要因があるというべきである。 そうすると、甲4発明において、6時間反応させて得られた直後のポリビニルブチラールを「粒子状」とすることは当業者が容易になし得たものとはいえない。 よって、本件特許発明1は、甲4に記載された発明ではなく、また、甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 本件特許発明2について 本件特許発明2は、請求項1を引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、本件特許発明2は、甲4に記載された発明ではないし、また、甲4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 ウ 本件特許発明3について 本件特許発明3と甲4発明とを対比する。 甲4発明の「ブチルアルデヒド」は、オレフィン系不飽和二重結合を有するものではないから、本件特許発明1の「カルボニル化合物(但し、オレフィン系不飽和二重結合を有するものを除く)」に相当する。 そして、上記アで示したように、甲4発明の溶媒中、有機溶媒である「メタノール」の含有割合は99.4質量%(=90/(29+61+0.585)×100)で、水は0.06質量%(=100−99.4)となる。 そうすると、上記アで対比したのと同様、両者は、 「ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒の存在下、ポリビニルアルコール粒子をカルボニル化合物と反応させてアセタール化する工程(A)を含む、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法であって、 前記ポリビニルアルコール粒子に含まれるポリビニルアルコール樹脂のけん化度が80モル%以上であり、該ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度が500以上4500以下であり、前記有機溶媒がジアルキルケトン、ニトリル、アルコールおよびエーテルからなる群より選択される少なくとも1つであり、かつ前記カルボニル化合物がアルデヒド(但し、オレフィン系不飽和二重結合を有するものを除く)である、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。」の点で一致し、以下の相違点で相違する。 <相違点4−3−1> 溶媒の組成が、本件特許発明3は、「水を5〜95質量%および有機溶媒を5〜95質量%」含むものであるのに対し、甲4発明は「水を0.06質量%及びイソプロピルアルコールを99.4質量%」含むものである点 <相違点4−3−2> アセタール化する工程(A)におけるポリビニルアルコール粒子が、本件特許発明3は「該溶媒で膨潤した」ものであるのに対し、甲4発明はそのようなものであるか不明である点 <相違点4−3−3> 溶媒のハンセン溶解度パラメータが、本件特許発明3は、「δDが15.0以上20.0以下であり、δPが1.0以上20.0以下であり、δHが3.0以上41.0以下」であるのに対し、甲4発明はその点不明である点 <相違点4−3−4> 本件特許発明3は、「前記工程(A)終了時の反応液において生成物である変性ポリビニルアルコール樹脂が粒子状」であるのに対し、甲4発明はその点不明である点 <相違点4−3−5> 本件特許発明3は「前記工程(A)終了後にろ過又は脱液により該変性ポリビニルアルコール樹脂を反応液から取り出す工程をさらに含む」のに対し、甲4発明は「得られた溶液を酢酸ソーダで中和後水中に投じてポリビニルブチラール(PVB)粉末を得る」点 そこで、上記相違点について検討する。 事案に鑑み、<相違点4−3−4>から検討する。 <相違点4−3−4>は、上記アの<相違点4−1−3>と実質的に同じであるから、上記アで説示したとおり、甲4発明において、6時間反応させて得られた直後のポリビニルブチラールを「粒子状」とすることは当業者が容易になし得たものとはいえない。 よって、本件特許発明3は、甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 エ 本件特許発明5ないし9、11、14及び15について 本件特許発明5ないし9、11、14及び15は、請求項3を直接的又は間接的に引用するものであり、本件特許発明3の発明特定事項を全て有するものである。 そして、上記ウの<相違点4−3−4>は実質的な相違点であるから、本件特許発明5ないし9、11及び15は、甲4に記載された発明ではない。 また、本件特許発明3と同様の理由で、本件特許発明5ないし9、11、14及び15は、甲4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 オ 本件特許発明4について 本件特許発明4と甲4発明とを対比するに、上記アで対比したのと同様、両者は、 「ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒の存在下、ポリビニルアルコール粒子をカルボニル化合物および/またはカルボニル化合物のアセタール化体と反応させてアセタール化する工程(A)を含み、上記溶媒中の有機溶媒の含有量が5質量%以上である、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法であって、前記ポリビニルアルコール粒子に含まれるポリビニルアルコール樹脂のけん化度が80モル%以上であり、該ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度が500以上4500以下であり、前記有機溶媒がジアルキルケトン、ニトリル、アルコールおよびエーテルからなる群より選択される少なくとも1つであり、かつ前記カルボニル化合物がアルデヒドである、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。」の点で一致し、以下の相違点で相違する。 <相違点4−4−1> ポリビニルアルコール粒子が、本件特許発明4は「多孔質体であり該粒子に含まれる細孔のメジアン径が0.01〜20μm」であるのに対し、甲4発明はそのようなものであるか不明である点 <相違点4−4−2> アセタール化する工程(A)におけるポリビニルアルコール粒子が、本件特許発明4は「該溶媒で膨潤した」ものであるのに対し、甲4発明はそのようなものであるか不明である点 <相違点4−4−3> 本件特許発明4は、「前記工程(A)終了時の反応液において生成物である変性ポリビニルアルコール樹脂が粒子状」であるのに対し、甲4発明はその点不明である点 <相違点4−4−4> 本件特許発明4は「前記工程(A)終了後にろ過又は脱液により該変性ポリビニルアルコール樹脂を反応液から取り出す工程をさらに含む」のに対し、甲4発明は「得られた溶液を酢酸ソーダで中和後水中に投じてポリビニルブチラール(PVB)粉末を得る」点 そこで、上記相違点について検討する。 事案に鑑み、<相違点4−4−3>から検討する。 <相違点4−4−3>は、上記アの<相違点4−1−3>と実質的に同じであるから、上記アで説示したとおり、当該相違点は実質的な相違点である。 また、上記アで説示したとおり、甲4発明において、6時間反応させて得られた直後のポリビニルブチラールを「粒子状」とすることは当業者が容易になし得たものとはいえない。 よって、本件特許発明4は、甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)申立理由4(甲4に基づく新規性・進歩性)についてのむすび したがって、本件特許発明1、2、4ないし9、11及び15は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、また、本件特許発明1ないし9、11、14及び15は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし9、11、14及び15に係る特許は、申立理由4によっては取り消すことはできない。 5 申立理由5(サポート要件)について (1)サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (2)検討 ア 本件特許発明の課題 本件特許発明の課題は、本件特許明細書の段落【0004】等からみて、「幅広い種類のカルボニル化合物に適用可能であり、かつ工業的な生産性の高い、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法を提供すること、また、ポリビニルアルコール粒子の内部まで均一にアセタール化できる、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法を提供すること」である。 イ 本件特許明細書の発明の詳細な説明の一般的な記載 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。なお、下線は当審により付した。 ・段落【0016】「工程(A)におけるポリビニルアルコール粒子の使用量は特に限定されず、反応容積効率やポリビニルアルコール粒子の膨潤度を考慮して調整される。上記ポリビニルアルコール粒子の使用量は、ポリビニルアルコール粒子添加後の反応液の総質量に対して好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上であり、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下である。上記ポリビニルアルコールの使用量が上記下限値以上であると、生産性が優れる傾向にある。ポリビニルアルコール粒子を溶解させずに溶媒により膨潤させて用いる本発明の製造方法においては、ポリビニルアルコールを溶解させた場合と比較して溶液粘度が低いため、上記ポリビニルアルコールの使用量をより高く設定できる。上記ポリビニルアルコールの使用量が上記上限値以下であると、撹拌(例えば、撹拌翼を用いた撹拌)や混練時に支障が生じにくい。」 ・段落【0017】「工程(A)で用いられる溶媒は、ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能であり、かつ有機溶媒の含有量が5質量%以上である限り特に制限されない。工程(A)においてポリビニルアルコール粒子が膨潤するか否かは、溶媒の組成のみならず溶媒の温度や用いられるポリビニルアルコール粒子の組成等によっても影響されるため、工程(A)で用いられる溶媒の組成は一義的には定義し難いが、例えば、次に述べるハンセン溶解度パラメータを用いて選択してもよい。」 ・段落【0019】「工程(A)で用いられる溶媒中の有機溶媒の含有量は5質量%以上である。上記有機溶媒の含有量が5質量%未満であると、上記ポリビニルアルコール粒子の一部が溶媒に溶解する。このとき、溶解したポリビニルアルコールと溶解していないポリビニルアルコールとでカルボニル化合物との反応性が異なるため、得られる変性ポリビニルアルコール樹脂はアセタール化度や立体規則性の異なる変性ポリビニルアルコール樹脂の混合物となる。また、上記有機溶媒の含有量が5質量%未満であると、上記ポリビニルアルコール粒子が溶媒中で過度に膨潤するため、反応容器の容積効率が低下し、生産効率が低くなる。したがって、上記有機溶媒の含有量が5質量%以上であることが重要である。」 ・段落【0034】「本発明の製造方法により得られる変性ポリビニルアルコール樹脂は、上記工程(A)終了時の反応液において粒子状、塊状、ペースト状であることが好ましく、粒子状であることが好ましい。すなわち、上記工程(A)の終了時、反応液中に粒子、塊、またはペースト(好ましくは粒子)が目視で観測されることが好ましい。上記態様を満たすとき、得られる変性ポリビニルアルコール樹脂の収率が高くなる傾向にあり、また変性ポリビニルアルコール樹脂を反応液から取り出す工程がより簡便になる。なお、本発明において「工程(A)の終了時」とは、反応液の冷却や水酸化ナトリウム等の塩基の添加等によりアセタール化反応を停止したり、ろ過や脱液等により生成物である変性ポリビニルアルコール樹脂を反応液から取り出したりする直前を意味する。」 ウ 本件特許明細書の実施例の記載 実施例では、溶媒中の有機溶媒の含有量が6.8質量%(実施例8)〜93.8質量%(実施例3)の36個の実施例(カルボニル化合物としては、1−ブタナール、1−オクタナール、1−ノナナール、グリオキシル酸一水和物、フルフラール、3−(1,3−ジオキサラン−2−イル)−2−メチル−1−プロペン、オルトベンズアルデヒドスルホン酸ナトリウム、アミノアセトアルデヒドジメチルアセタール、3−メチル−2−ブテナール、7−オクテナール)と溶媒中の有機溶媒の含有量が0質量%(水のみ)の比較例1、2と、溶媒として、ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることができないヘキサンを使用した比較例3が示されている。 実施例1〜36によれば、ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒の存在下、該溶媒で膨潤したポリビニルアルコール粒子をカルボニル化合物および/またはカルボニル化合物のアセタール化体と反応させてアセタール化する工程(A)を含み、上記溶媒中の有機溶媒の含有量が5質量%以上である製造方法は、幅広い種類のカルボニル化合物に適用可能であり、また工程(A)後、ろ過によって反応液から簡便に変性ポリビニルアルコール樹脂を取り出すことができるため生産性に優れることが把握できる。 一方、比較例1及び比較例2のように溶媒中の有機溶媒の含有量が5質量%以下である場合、生成する変性ポリビニルアルコール樹脂が反応液に溶解してしまうため、反応溶液中に含まれる溶媒を全て乾燥する等により変性ポリビニルアルコール樹脂を反応液から取り出す工程が必要となり、製造工程が煩雑となっている。また、比較例3のようにポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒を用いない場合、アセタール化反応が進行していない。 エ 本件特許発明1、3及び4について 上記本件特許明細書の発明の詳細な説明の一般的な記載と実施例の記載から、「ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒の存在下、該溶媒で膨潤したポリビニルアルコール粒子をカルボニル化合物および/またはカルボニル化合物のアセタール化体と反応させてアセタール化する工程(A)を含み、上記溶媒中の有機溶媒の含有量が5質量%以上あり、前記工程(A)終了時の反応液において生成物である変性ポリビニルアルコール樹脂が粒子状」である技術的事項により、本件特許発明の課題が解決できるものと認められる。 そして、本件特許発明1、3及び4は、当該技術的事項を備えるものであるから、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できるものである。 よって、本件特許発明1、3及び4は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。 オ 本件特許発明2、5ないし9、11、14及び15について 本件特許発明2は、本件特許発明1を直接引用するものであり、本件特許発明5ないし9、11、14及び15は、本件特許発明3を直接又は間接的に引用するものである。 そうすると、上記エで説示したのと同様に、本件特許発明2、5ないし9、11、14及び15は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。 カ 申立人の主張について 上記エで説示したように、「ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒の存在下、該溶媒で膨潤したポリビニルアルコール粒子をカルボニル化合物および/またはカルボニル化合物のアセタール化体と反応させてアセタール化する工程(A)を含み、上記溶媒中の有機溶媒の含有量が5質量%以上あり、前記工程(A)終了時の反応液において生成物である変性ポリビニルアルコール樹脂が粒子状」である技術的事項により、本件特許発明の課題が解決できるものと認められる。 一方、申立人は、「PVAの種類(けん化度等や、これに関連して大きく変動する溶媒に対する膨潤の程度等)は、課題の解決に大きく影響を与えるものと考える」と主張するにとどまり、具体的な証拠を示して、本件特許発明の課題が解決できないことを立証しているわけではない。 よって、申立人の申立書による主張は首肯できない。 (3)申立理由5についてのむすび したがって、本件特許の請求項1ないし9、11、14及び15に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、申立理由5によっては取り消すことはできない。 6 申立理由6(実施可能要件)について (1)実施可能要件の判断基準 実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、方法の発明の場合には、その方法を使用することができる程度の記載があるか、物の発明の場合には、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。 (2)検討 ア 本件特許明細書の発明の詳細な説明の一般的な記載 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。なお、下線は当審により付した。 ・段落【0012】「上記ポリビニルアルコールの平均重合度は特に制限されないが、取扱いやすさの観点から、4500以下が好ましく、2500以下がより好ましい。一方、得られる変性ポリビニルアルコール樹脂の力学特性の観点からは、500以上が好ましく、1000以上がより好ましく、1500以上がさらに好ましい。ポリビニルアルコールの平均重合度は、例えばJIS K 6726に準拠した方法により測定できる。」 ・段落【0013】「上記ポリビニルアルコールは、市販品を用いてもよいし、種々の公知の製造方法により製造したものを用いてもよい。かかる製造方法としては、例えば(i)酢酸ビニル等のビニルエステルおよび必要に応じて他のモノマーの共存下、重合開始剤を用いて重合反応を行い、次いでけん化する方法;(ii)ビニルエーテルのカチオン重合反応とそれに続く加水分解反応を経る方法;(iii)アセトアルデヒドの直接重合法;等が挙げられる。中でも、(i)の方法が好ましく、酢酸ビニルを重合し、得られるポリ酢酸ビニルをけん化する方法がより好ましい。上記ポリビニルアルコールのけん化度は30モル%以上が好ましく、60モル%以上がより好ましく、カルボニル化合物との反応を良好に行う観点からは、80モル%以上がさらに好ましい。」 ・段落【0019】「工程(A)で用いられる溶媒中の有機溶媒の含有量は5質量%以上である。上記有機溶媒の含有量が5質量%未満であると、上記ポリビニルアルコール粒子の一部が溶媒に溶解する。このとき、溶解したポリビニルアルコールと溶解していないポリビニルアルコールとでカルボニル化合物との反応性が異なるため、得られる変性ポリビニルアルコール樹脂はアセタール化度や立体規則性の異なる変性ポリビニルアルコール樹脂の混合物となる。また、上記有機溶媒の含有量が5質量%未満であると、上記ポリビニルアルコール粒子が溶媒中で過度に膨潤するため、反応容器の容積効率が低下し、生産効率が低くなる。したがって、上記有機溶媒の含有量が5質量%以上であることが重要である。」 ・段落【0020】「上記有機溶媒は特に限定されないが、例えば、アセトン、2−ブタノン等のジアルキルケトン;アセトニトリル等のニトリル;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、アミルアルコール、イソアミルアルコール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、オクタノール、tert−ブタノール等のアルコール;1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、ジグライム等のエーテル;エチレングリコール、トリエチレングリコール等のジオール化合物;アセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のカルボン酸アミド;ジメチルスルホキシド、フェノールなどが挙げられる。中でも、工程(A)後に得られた変性ポリビニルアルコール樹脂からの溶媒の除去の容易さ、溶媒に対するカルボニル化合物および酸触媒の溶解性、および溶媒の工業的入手性を考慮すると、上記有機溶媒は、ジアルキルケトン、ニトリル、アルコールおよびエーテルからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましく、アセトン、2−ブタノン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、tert−ブタノール、1,4−ジオキサンおよびテトラヒドロフランからなる群より選択される少なくとも1つであることがより好ましく、アセトン、2−ブタノン、アセトニトリル、メタノール、2−プロパノール、1,4−ジオキサンおよびテトラヒドロフランからなる群より選択される少なくとも1つであることがさらに好ましい。これらの有機溶媒は一種を単独で用いてもよく、二種以上混合して用いてもよい。後述するように工程(A)で用いられる溶媒は水を含んでいてもよいが、工程(A)で用いられる溶媒が水を含まない場合は、上記有機溶媒はジアルキルケトン、ニトリル、アルコールおよびエーテルからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、ジアルキルケトンおよび/またはニトリルがより好ましく、アセトンおよび/またはアセトニトリルであることがさらに好ましい。なお、アセタール化反応が進行するにつれて変性ポリビニルアルコール樹脂と溶媒の相互作用が変化するため、膨潤度を制御することを目的とし、反応途中で溶媒を添加してもよい。」 イ 本件特許明細書の実施例の記載 本件特許明細書には、溶媒中の有機溶媒の含有量が6.8質量%(実施例8)〜93.8質量%(実施例3)の36個の実施例が示されている。有機溶媒としては、アセトン、アセトニトリル、メタノールが使用されている。また、ポリビニルアルコール樹脂としては、けん化度98モル%、平均重合度が500〜4200のものが使用されている。 そして、カルボニル化合物としては、1−ブタナール、1−オクタナール、1−ノナナール、グリオキシル酸一水和物、フルフラール、3−(1,3−ジオキサラン−2−イル98−2−メチル−1−プロペン、オルトベンズアルデヒドスルホン酸ナトリウム、アミノアセトアルデヒドジメチルアセタール、3−メチル−2−ブテナール、7−オクテナールと幅広い種類のカルボニル化合物で実施がされている。 ウ 本件特許発明1、3及び4について 訂正により、本件特許発明1、3及び4は、「ポリビニルアルコール粒子に含まれるポリビニルアルコール樹脂」が、「けん化度が80モル%以上」であり、「平均重合度が500以上4500以下」のものに限定され、「前記有機溶媒がジアルキルケトン、ニトリル、アルコールおよびエーテルからなる群より選択される少なくとも1つ」に限定され、実施例は当該範囲のものが使用されている。 そして、上記実施例では、溶媒の種類や有機溶媒の含有量を変更させた36個のもの実施例があり、それらすべてがポリビニルアルコール粒子が溶媒により膨潤し、幅広い種類のカルボニル化合物によりアセタール化が行われ、アセタール化終了時の反応液において生成物である変性ポリビニルアルコール樹脂が「粒子状」のものが得られている。 そうすると、当業者は、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、溶媒の種類や有機溶媒の含有量やポリビニルアルコール樹脂のけん化度や平均重合度を適宜変更することにより、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1、3及び4を実施することができるものといえる。 エ 本件特許発明2、5ないし9、11、14及び15について 本件特許発明2は、本件特許発明1を直接引用するものであり、本件特許発明5ないし9、11、14及び15は、本件特許発明3を直接又は間接的に引用するものである。 そうすると、上記ウで説示したのと同様に、当業者は、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明本件特許発明2、5ないし9、11、14及び15を実施することができるものといえる。 オ 申立人の主張について 上記ウで検討したとおり、当業者は、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、溶媒の種類や有機溶媒の含有量やポリビニルアルコール樹脂のけん化度や平均重合度を適宜変更することにより過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明を実施することができるものといえる。 よって、申立人の申立書における主張は首肯できない。 (3)申立理由6についてのむすび したがって、本件特許の請求項1ないし9、11、14及び15に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、申立理由6によっては、取り消すことはできない。 7 申立理由7(明確性要件)について (1)明確性要件の判断基準 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきものである。 (2)判断 本件特許発明1、3及び4は、訂正により「前記有機溶媒がジアルキルケトン、ニトリル、アルコールおよびエーテルからなる群より選択される少なくとも1つであり、かつ前記カルボニル化合物がアルデヒドである」ことが特定された。 このため、申立人の主張する「ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒」と「カルボニル化合物および/またはカルボニル化合物のアセタール化体」とが明確に区別できることとなった。 よって、本件特許発明1、本件特許発明1を引用する本件特許発明2、本件特許発明3、本件特許発明3を直接又は間接的に引用する本件特許発明5ないし9、11、14及び15、さらに本件特許発明4は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確とはいえない。 (3)申立理由7についてのむすび したがって、本件特許の請求項1ないし9、11、14及び15に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、申立理由7によっては取り消すことはできない。 第6 むすび 上記第5のとおり、本件特許の請求項1ないし9、11、14及び15に係る特許は、当審が通知した取消理由(決定の予告)及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。 さらに、他に本件特許の請求項1ないし9、11、14及び15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また、本件特許の請求項10、12及び13に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒の存在下、該溶媒で膨潤したポリビニルアルコール粒子をカルボニル化合物および/またはカルボニル化合物のアセタール化体と反応させてアセタール化する工程(A)を含み、上記溶媒中の有機溶媒の含有量が5質量%以上であり、前記工程(A)終了時の反応液において生成物である変性ポリビニルアルコール樹脂が粒子状であり、前記工程(A)終了後にろ過又は脱液により該変性ポリビニルアルコール樹脂を反応液から取り出す工程をさらに含む、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法であって、前記ポリビニルアルコール粒子の平均粒子径が770μmであり、前記ポリビニルアルコール粒子に含まれるポリビニルアルコール樹脂のけん化度が80モル%以上であり、該ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度が500以上4500以下であり、前記有機溶媒がジアルキルケトン、ニトリル、アルコールおよびエーテルからなる群より選択される少なくとも1つであり、かつ前記カルボニル化合物がアルデヒドである、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。 【請求項2】 前記溶媒のハンセン溶解度パラメータδDが15.0以上20.0以下であり、δPが1.0以上20.0以下であり、δHが3.0以上41.0以下である、請求項1に記載の変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。 【請求項3】 ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒の存在下、該溶媒で膨潤したポリビニルアルコール粒子をカルボニル化合物および/またはカルボニル化合物のアセタール化体と反応させてアセタール化する工程(A)を含み、前記工程(A)終了時の反応液において生成物である変性ポリビニルアルコール樹脂が粒子状であり、前記工程(A)終了後にろ過又は脱液により該変性ポリビニルアルコール樹脂を反応液から取り出す工程をさらに含む、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法であって、前記ポリビニルアルコール粒子に含まれるポリビニルアルコール樹脂のけん化度が80モル%以上であり、該ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度が500以上4500以下であり、前記溶媒が水を5〜95質量%および有機溶媒を5〜95質量%含み、前記溶媒のハンセン溶解度パラメータδDが15.0以上20.0以下であり、δPが1.0以上20.0以下であり、δHが3.0以上41.0以下であり、前記有機溶媒がジアルキルケトン、ニトリル、アルコールおよびエーテルからなる群より選択される少なくとも1つであり、かつ前記カルボニル化合物がアルデヒド(但し、オレフィン系不飽和二重結合を有するものを除く)である、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。 【請求項4】 ポリビニルアルコール粒子を膨潤させることが可能な溶媒の存在下、該溶媒で膨潤したポリビニルアルコール粒子をカルボニル化合物および/またはカルボニル化合物のアセタール化体と反応させてアセタール化する工程(A)を含み、上記溶媒中の有機溶媒の含有量が5質量%以上であり、前記工程(A)終了時の反応液において生成物である変性ポリビニルアルコール樹脂が粒子状であり、前記工程(A)終了後にろ過又は脱液により該変性ポリビニルアルコール樹脂を反応液から取り出す工程をさらに含む、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法であって、前記ポリビニルアルコール粒子が多孔質体であり該粒子に含まれる細孔のメジアン径が0.01〜20μmであり、前記ポリビニルアルコール粒子に含まれるポリビニルアルコール樹脂のけん化度が80モル%以上であり、該ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度が500以上4500以下であり、前記有機溶媒がジアルキルケトン、ニトリル、アルコールおよびエーテルからなる群より選択される少なくとも1つであり、かつ前記カルボニル化合物がアルデヒドである、変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。 【請求項5】 前記有機溶媒がアセトン、2−ブタノン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、tert−ブタノール、1,4−ジオキサンおよびテトラヒドロフランからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項3に記載の変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。 【請求項6】 前記溶媒中の酢酸アルキルエステルの含有量が、上記ポリビニルアルコール粒子に含まれるポリビニルアルコールを構成する構成単位数に対して90モル%以下である、請求項3または5に記載の変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。 【請求項7】 前記ポリビニルアルコール粒子0.5gに前記溶媒15gを添加し、60℃において200rpmで1時間撹拌したときの体積の増加率を膨潤度としたとき、該膨潤度が105〜1000体積%である、請求項3、5、6のいずれかに記載の変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。 【請求項8】 前記ポリビニルアルコール粒子の使用量が、ポリビニルアルコール粒子添加後の反応液の総質量に対して1質量%以上95質量%以下である、請求項3、5〜7のいずれかに記載の変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。 【請求項9】 前記工程(A)を酸触媒の存在下で行う、請求項3、5〜8のいずれかに記載の変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。 【請求項10】 (削除) 【請求項11】 アセタール化度が1モル%以上90モル%以下である変性ポリビニルアルコール樹脂を製造する、請求項3、5〜9のいずれかに記載の変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。 【請求項12】 (削除) 【請求項13】 (削除) 【請求項14】 前記ポリビニルアルコール粒子の平均粒子径が1000μm以下である、請求項3、5〜9、11のいずれかに記載の変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。 【請求項15】 得られた変性ポリビニルアルコール樹脂10gを前記溶媒90gに対して添加し、前記工程(A)の反応温度と同じ温度において200rpmで2時間撹拌したときの未溶解分が8g以上である、請求項3、5〜9、11、14のいずれかに記載の変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2024-01-25 |
出願番号 | P2019-527021 |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(C08F)
P 1 651・ 121- YAA (C08F) P 1 651・ 536- YAA (C08F) P 1 651・ 113- YAA (C08F) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
近野 光知 |
特許庁審判官 |
瀧澤 佳世 細井 龍史 |
登録日 | 2022-01-26 |
登録番号 | 7015834 |
権利者 | 株式会社クラレ |
発明の名称 | 変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法 |
代理人 | 弁理士法人せとうち国際特許事務所 |
代理人 | 弁理士法人せとうち国際特許事務所 |