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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C22C
管理番号 1409134
総通号数 28 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-04-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-08-14 
確定日 2024-04-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第7296756号発明「ステンレス鋼板およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7296756号の請求項1〜3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許7296756号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜3に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、平成31年 3月28日を出願日とする出願であって、令和 5年 6月15日にその特許権の設定登録がなされ、同年 6月23日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後、同年 8月14日に、その請求項1〜3に係る特許に対して、特許異議申立人である富樫 智章(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1〜3に係る発明(以下、これらを「本件特許発明1」〜「本件特許発明3」という。また、これらをまとめて「本件特許発明」という。)は、本件特許の願書に添付された特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
質量%で、C:0.08%以下、N:0.06%以下、Si:1.00%以下、Mn:2.50%以下、Ni:7.00〜15.00%、およびCr:16.00〜20.00%を含有し、かつ
下記(1)式により定まるX値が3未満であり、残部がFeおよび不可避的不純物である化学組成を有するステンレス鋼板であって、
Niが偏析した偏析層を有し、
前記偏析層は、前記ステンレス鋼板の表面について、前記ステンレス鋼板の圧延方向に対して垂直な方向に設定した直線上でNi濃度をライン分析した結果において、Ni濃度が最大となる部分と、Ni濃度が最小となる部分とのNi濃度差が1.5質量%以上であり、
前記Ni濃度が最大となる部分と、前記Ni濃度が最小となる部分との間の距離が300μm以下である、ステンレス鋼板。
X=30(C+N)+0.5Mn+Ni−1.3Cr+11.8 (1)
ここで、(1)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量が代入され、無添加の元素については0(ゼロ)が代入される。
【請求項2】
質量%で、Mo:2.00〜3.00%、Cu:2.50〜4.00%、 P:0.045%以下、S:0.030%以下、およびB:0.01%以下からなる群から選択される1種以上をさらに含有する、請求項 1に記載のステンレス鋼板。
【請求項3】
Niが偏析した偏析層を有するステンレス鋼板の製造方法であって、
前記ステンレス鋼板は、質量%で、C:0.08%以下、N:0.06%以下、Si:1.00%以下、Mn:2.50%以下、Ni:7.00〜15.00%、およびCr:16.00〜20.00%を含有し、かつ
下記(1)式により定まるX値が3未満であり、残部がFeおよび不可避的不純物である化学組成を有し、
前記偏析層は、前記ステンレス鋼板の表面について、前記ステンレス鋼板の圧延方向に対して垂直な方向に設定した直線上でNi濃度をライン分析した結果において、Ni濃度が最大となる部分と、Ni濃度が最小となる部分とのNi濃度差が1.5質量%以上であり、
前記Ni濃度が最大となる部分と、前記Ni濃度が最小となる部分との間の距離が300μm以下であり、
巻取り温度を400℃以上700℃以下とし、圧延率を97%以下とする熱間圧延工程と、
焼鈍温度を900℃以上1000℃以下とする焼鈍工程と、を含む、ステンレス鋼板の製造方法。
X=30(C+N)+0.5Mn+Ni−1.3Cr+11.8 (1)
ここで、(1)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量が代入され、無添加の元素については0(ゼロ)が代入される。」

第3 特許異議申立理由の概要
申立人は、次の甲第1号証〜甲第4号証(以下、それぞれ「甲1」〜「甲4」という。)を提出し、以下の特許異議申立理由を主張している。
なお、特許異議申立書5ページの「(3)申立の根拠」において、「請求項2」の「条文」に「特許法第36条第4項第1号」、「証拠」に「甲第1−4号証」と記載されている。
しかし、特許異議申立書1ページの「(1)申立ての理由の要約」の欄と、3ページの表中の「請求項2」の箇所と、5ページの表中の「理由の要点」の欄の「請求項2」の箇所と、14ページの「(ii)本件特許発明2」の項目と、15ページの「(5)むすび」の「本件特許発明2」の項目には、請求項2については、甲4を根拠とする実施可能要件についての記載はないので、「(3)申立の根拠」における記載は誤記であると判断し、以下のとおり申立理由を認定した。

(証拠方法)
甲1:特開2005−314772号公報
甲2:特開2005−320586号公報
甲3:特開2005−320587号公報
甲4:日本学術振興会製鋼第19委員会凝固プロセス研究会編,「鉄鋼の凝固」,松香堂書店,2015年3月20日,p.10−11

1 申立理由1(進歩性
(1)申立理由1−1(甲1を主たる引用例とするもの)
本件特許の請求項1〜3に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明及び甲2〜3に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)申立理由1−2(甲2を主たる引用例とするもの)
本件特許の請求項1〜3に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明及び甲1、3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)申立理由1−3(甲3を主たる引用例とするもの)
本件特許の請求項1〜3に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明及び甲1〜2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 申立理由2(実施可能要件
本件特許の請求項1、3に係る発明は、「前記偏析層は、前記ステンレス鋼板の表面について、前記ステンレス鋼板の圧延方向に対して垂直な方向に設定した直線上でNi濃度をライン分析した結果において、Ni濃度が最大となる部分と、Ni濃度が最小となる部分とのNi濃度差が1.5質量%以上であ」るという発明特定事項を有するが、甲4の記載事項に照らして、技術常識と異なり、相反するものである。
よって、同発明に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

第4 当審の判断
上記申立理由1、2はいずれも採用できない。その理由は以下のとおりである。
1 申立理由1(進歩性
(1)甲1〜甲3の記載事項、及び甲1〜甲3に記載された発明
ア 甲1の記載
本願の出願前に公知となった甲1には、「フォトエッチング加工用ステンレス鋼板およびその製造方法」(発明の名称)に関し、次の記載がある。
(ア)「【請求項1】
質量%で、C:0.08%以下、Mn:2.0%以下、Ni:5.0%以上15%以下、Cr:15%以上20%以下の範囲でそれぞれの元素を含有し、
また、Si:1.0%以下、P:0.045%以下、S:0.05%以下にそれぞれの元素が制限され、
残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
平均結晶粒径が15μm以下であり、
かつ、板厚方向におけるNi成分の平均偏析量CNiSが0.40%以下、最大偏析量CNiMAXが1.0%以下、Cr成分の平均偏析量CCrSが0.60%以下、最大偏析量CCrMAXが2.0%以下であることを特徴とするフォトエッチング加工用ステンレス鋼板。」
【請求項2】
さらに、質量%で、Mo:3.0%以下、Cu:3.0%以下、N:0.30%以下の範囲でそれぞれの元素を含有することを特徴とする請求項1に記載のフォトエッチング加工用ステンレス鋼板。
【請求項3】
質量%で、C:0.08%以下、Mn:2.0%以下、Ni:5.0%以上15%以下、Cr:15%以上20%以下、Mo:3.0%以下、Cu:3.0%以下、N:0.30%以下の範囲でそれぞれの元素を含有し、
また、Si:1.0%以下、P:0.045%以下、S:0.05%以下にそれぞれの元素が制限され、
残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
平均結晶粒径が15μm以下であるステンレス鋼板を製造するにあたり、
該ステンレス鋼板の材料である鋼塊を、1200℃以上1400℃以下の温度で少なくとも10時間以上の熱処理を行うことを特徴とするフォトエッチング加工用ステンレス鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記鋼塊に代えて、熱延材を用いることを特徴とする請求項3に記載のフォトエッチング加工用ステンレス鋼板の製造方法。」

(イ)「【0014】
上記の偏析量について、Niを代表して説明する。平均偏析量CNiS,最大偏析量CNiMAXは、以下のように定義される値である。
(1)平均偏析量
CNiS(%)=Ni成分分析値(%)×CiNiS(c.p.s)/CiNiave.(c.p.s)
(2)最大偏析量
CNiMAX(%)=Ni成分分析値(%)×CiNiMAX(c.p.s)/CiNiave.(c.p.s)
ここで、CiNiS :X線強度の標準偏差(c.p.s)
CiNiave. :全X線強度の平均強度(c.p.s)
CiNiMAX:最大X線強度(c.p.s)(=X線強度の最大値−最小値)
【0015】
Ni成分分析値(%)とは、素材のNi含有量であり、化学的あるいは物理的手法などにより分析される値である。なお、板厚方向におけるいわゆる板断面の成分偏析量は、製品の板断面(板厚方向を言う)を研磨した後、製品の板厚方向にわたりX線マイクロアナライザーにて線分析を行って求められる。その測定条件は表1の通りであり、測定長さは素材の板厚とする。測定された線分析のX線強度(c.p.s)をもとに、次の式により偏析量を計算する。
【0016】



(ウ)「【0034】
次に、本発明の効果を実証する実施例を説明する。
表2に示す合金成分A,B,C,D,E,F,Gをそれぞれ有する7種の鋼塊20kgを必要数製造し、次いで、これら鋼塊を熱間加工して7mmの厚さの熱延材とした。次に、これら熱延材を、1100°で固溶化熱処理した後、冷間圧延により2.5mmの厚さとし、さらに、1100℃で1分間の熱処理後、水冷して、試験用のステンレス鋼板(素材)を得た。なお、この一連の工程の中では、偏析低減のための拡散熱処理を、鋼塊の段階で行ったもの、鍛造材の段階で行ったものに分けて、素材を製造した。その拡散熱処理の条件と鋼種との組み合わせ条件を、表3のNo.1〜15に示す。
【0035】
【表2】


【0036】
【表3】

【0037】
上記各素材を1mmの厚さまで冷間圧延した後、850℃で30秒の条件で焼鈍し、さらに必要に応じて圧延率30%の調質圧延と650℃で30秒の条件で応力除去焼鈍を行い、試験片を得た。
【0038】
次に、それぞれの試験片について、Ni、Crの最大偏析量および平均偏析量、平均結晶粒径、ビッカース硬さ、エッチング面粗さを調べた。
最大偏析量および平均偏析量は、前述の(1)式および(2)式により求めた。なお、X線マイクロアナライザーは、日本電子社製:JXA−8600MXを用いた。」

(エ)「【0041】
以上の試験結果を表3に併記する。
表3によれば、本発明例であるによるNo.1〜7のステンレス鋼板は、いずれもエッチング面粗さ(Ra)が0.20μm以下で平滑なエッチング面となっている。しかしながら、No.8〜15のステンレス鋼板のエッチング面粗さ(Ra)は、0.20μmを超えており、粗面化が認められた。
【0042】
その理由としては、No.8,9の場合は、拡散熱処理温度が本発明の条件より低温のため、NiとCrの偏析が十分に解消されていないことによると推測される。また、No.10,11のステンレス鋼板は、拡散熱処理時間が本発明の条件より短時間なため、偏析が十分に解消されていないことによると推測される。また、No.12〜15のステンレス鋼板は、本発明による拡散熱処理を実施し、NiおよびCrの偏析量も本発明の範囲内となってはいるものの、CおよびNの含有量が本発明より多いので、エッチング時にスマットが発生してエッチング面が粗面化したと推測される。」

イ 甲1に記載された発明
上記アで摘記した事項、特に請求項1〜4、【0034】、【0037】、表2の合金C、D、表3のNo.5、6によれば、甲1には次の発明が記載されていると認められる。

「質量%で、C:0.013%、Si:0.7%、Mn:1.4%、P:0.02%、S:0.002%、Ni:10.2%、Cr:18.4%、Mo:0.1%、Cu:0.1%、N:0.06%を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
平均結晶粒径が8μmであり、
かつ、板厚方向におけるNi成分の平均偏析量CNiSが0.20%、最大偏析量CNiMAXが0.73%、Cr成分の平均偏析量CCrSが0.31%、最大偏析量CCrMAXが0.93%である、試験片であるステンレス鋼板。」(以下、「甲1−1発明」という。)

「質量%で、C:0.013%、Si:0.7%、Mn:1.4%、P:0.02%、S:0.002%、Ni:10.2%、Cr:18.4%、Mo:0.1%、Cu:0.1%、N:0.06%を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
平均結晶粒径が8μmであり、
かつ、板厚方向におけるNi成分の平均偏析量CNiSが0.20%、最大偏析量CNiMAXが0.73%、Cr成分の平均偏析量CCrSが0.31%、最大偏析量CCrMAXが0.93%である、試験片であるステンレス鋼板を製造するにあたり、
上記合金成分の鋼塊を製造し、該鋼塊を1300℃で12時間、拡散熱処理し、該鋼塊を熱間加工して7mmの厚さの熱延材とし、該熱延材を1100°で固溶化熱処理した後、冷間圧延により2.5mmの厚さとし、さらに、1100℃で1分間の熱処理後、水冷して、試験用のステンレス鋼板(素材)を得て、
上記素材に1mmの厚さまで冷間圧延した後、800℃で30秒の条件で焼鈍する、
試験片であるステンレス鋼板の製造方法。」(以下、「甲1−1方法発明」という。)

「質量%で、C:0.055%、Si:0.5%、Mn:1.2%、P:0.03%、S:0.004%、Ni:8.2%、Cr:18.2%、Mo:0.1%、Cu:0.2%、N:0.04%を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
平均結晶粒径が7μmであり、
かつ、板厚方向におけるNi成分の平均偏析量CNiSが0.16%、最大偏析量CNiMAXが0.61%、Cr成分の平均偏析量CCrSが0.25%、最大偏析量CCrMAXが0.76%である、試験片であるステンレス鋼板。」(以下、「甲1−2発明」という。)

「質量%で、C:0.055%、Si:0.5%、Mn:1.2%、P:0.03%、S:0.004%、Ni:8.2%、Cr:18.2%、Mo:0.1%、Cu:0.2%、N:0.04%を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
平均結晶粒径が7μmであり、
かつ、板厚方向におけるNi成分の平均偏析量CNiSが0.16%、最大偏析量CNiMAXが0.61%、Cr成分の平均偏析量CCrSが0.25%、最大偏析量CCrMAXが0.76%である、試験片であるステンレス鋼板を製造するにあたり、
上記合金成分の鋼塊を製造し、該鋼塊を熱間加工して7mmの厚さの熱延材とし、該熱延材を1300℃で12時間、拡散熱処理し、該熱延材を1100°で固溶化熱処理した後、冷間圧延により2.5mmの厚さとし、さらに、1100℃で1分間の熱処理後、水冷して、試験用のステンレス鋼板(素材)を得て、
上記素材に1mmの厚さまで冷間圧延した後、800℃ で30秒の条件で焼鈍する、
試験片であるステンレス鋼板の製造方法。」(以下、「甲1−2方法発明」という。)

ウ 甲2の記載事項
本願の出願前に公知となった甲2には、「フォトエッチング加工用ステンレス鋼板およびその製造方法」(発明の名称)に関し、次の記載がある。
(ア)「【請求項1】
質量%で、C:0.03%以下、Mn:2.0%以下、Ni:5.0%以上15%以下、Cr:15%以上20%以下、N:0.30%以下の範囲でそれぞれの元素を含有し、
また、Si:1.0%以下、P:0.045%以下、S:0.05%以下にそれぞれの元素が制限され、
残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
かつ、圧延方向に直交する断面での板幅方向の平均結晶粒径が10μm以下であり、
さらに、ビッカース硬さが300以上で、かつ、表面粗さ(Ra)が0.15μm以下であることを特徴とするフォトエッチング加工用ステンレス鋼板。
【請求項2】
質量%で、C:0.03%以下、Mn:2.0%以下、Ni:5.0%以上15%以下、Cr:15%以上20%以下、N:0.30%以下の範囲でそれぞれ含有し、
また、Si:1.0%以下、P:0.045%以下、S:0.05%以下にそれぞれ制限され、
残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレス鋼板を、
圧延率が30%以上で冷間圧延した後、700℃以上900℃以下の温度で熱処理することによって平均結晶粒径を10μm以下とし、
次いで、最終圧延時に、表面粗さ(Ra)が0.2μm以下の圧延ロールを用いて20%以上80%以下の圧延率で冷間圧延する圧延工程を経た後、
さらに、550℃以上700℃以下の温度で熱処理することを特徴とするフォトエッチング加工用ステンレス鋼板の製造方法。」

(イ)「【0031】
次に、本発明の効果を実証する実施例を説明する。
表1に示す合金成分A,B,C,Dをそれぞれ有する4種の鋼塊10kgを7mmの厚さに鍛造した後、固溶化熱処理、冷間圧延により2.5mmの厚さとし、さらに、1100℃で1分間の熱処理後、水冷して、試験用のステンレス鋼板(素材)を得た。
【0032】
【表1】

【0033】
上記各素材を1mmの厚さまで冷間圧延した後、表2に示す条件で、焼鈍−調質圧延−SR処理(応力除去焼鈍)を施し、試験片を得た。なお、調質圧延に用いた圧延ロールは、表面粗さ(Ra)が0.2μm以下のものを使用した。
【0034】
【表2】



エ 甲2に記載された発明
上記ウで摘記した事項、特に請求項1〜2、【0031】、【0033】、表1の合金B、表2のNo.4によれば、甲2には次の発明が記載されていると認められる。

「質量%で、C:0.015%、Si:0.7%、Mn:1.5%、P:0.02%、S:0.005%、Ni:10.3%、Cr:18.3%、N:0.05%の範囲でそれぞれの元素を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
かつ、圧延方向に直交する断面での板幅方向の平均結晶粒径が6μmであり、
さらに、ビッカース硬さが363で、かつ、表面粗さ(Ra)が0.14μmである、試験片であるステンレス鋼板。」(以下、「甲2発明」という。)

「質量%で、C:0.015%、Si:0.7%、Mn:1.5%、P:0.02%、S:0.005%、Ni:10.3%、Cr:18.3%、N:0.05%の範囲でそれぞれの元素を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
かつ、圧延方向に直交する断面での板幅方向の平均結晶粒径が6μmであり、
さらに、ビッカース硬さが363で、かつ、表面粗さ(Ra)が0.14μmである、試験片であるステンレス鋼板を製造するにあたり、
上記合金成分の鋼塊10kgを7mmの厚さに鍛造した後、固溶化熱処理、冷間圧延により2.5mmの厚さとし、さらに、1100℃で1分間の熱処理後、水冷して、試験用のステンレス鋼板(素材)を得て、
上記素材に1mmの厚さまで冷間圧延した後、700℃ の条件で焼鈍を施し、圧延率60%で調質圧延を施し、500℃でSR処理(応力除去焼鈍)を施す、
試験片であるステンレス鋼板の製造方法。」(以下、「甲2方法発明」という。)

オ 甲3の記載事項
本願の出願前に公知となった甲3には、「フォトエッチング加工用ステンレス鋼板およびその製造方法」(発明の名称)に関し、次の記載がある。
(ア)「【請求項1】
質量%で、C:0.03%以下、Mn:2.0%以下、Ni:5.0%以上15%以下、Cr:15%以上20%以下、Nb:0.01%以上0.03%以下、V:0.03%以上0.2%以下、N:0.30%以下の範囲でそれぞれの元素を含有し、
また、Si:1.0%以下、P:0.045%以下、S:0.05%以下にそれぞれの元素が制限され、
残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
かつ、圧延方向に直交する断面での板幅方向の平均結晶粒径が10μm以下であることを特徴とするフォトエッチング加工用ステンレス鋼板。
【請求項2】
さらに、ビッカース硬さが300以上であることを特徴とする請求項1に記載のフォトエッチング加工用ステンレス鋼板。
【請求項3】
質量%で、C:0.03%以下、Mn:2.0%以下、Ni:5.0%以上15%以下、Cr:15%以上20%以下、Nb:0.01%以上0.03%以下、V:0.03%以上0.2%以下、N:0.30%以下の範囲でそれぞれの元素を含有し、
また、Si:1.0%以下、P:0.045%以下、S:0.05%以下にそれぞれの元素が制限され、
残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレス鋼板を、
圧延率が30%以上で冷間圧延した後、700℃以上900℃以下の温度で熱処理することによって平均結晶粒径を10μm以下とすることを特徴とするフォトエッチング加工用ステンレス鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記ステンレス鋼板を、前記熱処理の後、20%以上80%以下の圧延率で冷間圧延し、この後、さらに、550℃以上700℃以下の温度で熱処理することを特徴とする請求項3に記載のフォトエッチング加工用ステンレス鋼板の製造方法。」

(イ)「【0030】
次に、本発明の効果を実証する実施例を説明する。
表1に示す合金成分A,B,C,D,E,Fをそれぞれ有する6種の鋼塊10kgを7mmの厚さに鍛造した後、固溶化熱処理、冷間圧延により2.5mmの厚さとし、さらに、1100℃で1分間の熱処理後、水冷して、試験用のステンレス鋼板(素材)を得た。
【0031】
【表1】

【0032】
上記各素材を1mmの厚さまで冷間圧延した後、表2に示す条件で、焼鈍−調質圧延−SR処理(応力除去焼鈍)を施し、試験片を得た。
【0033】
【表2】



カ 甲3に記載された発明
上記オで摘記した事項、特に請求項1〜4、【0030】、【0032】、表1の合金B、表2のNo.5によれば、甲3には次の発明が記載されていると認められる。

「質量%で、C:0.014%、Si:0.6%、Mn:1.6%、P:0.02%、S:0.003%、Ni:10.4%、Cr:18.5%、Nb:0.02%、V:0.05%、N:0.04%でそれぞれの元素を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
かつ、圧延方向に直交する断面での板幅方向の平均結晶粒径が6μmである、試験片であるステンレス鋼板。」(以下、「甲3発明」という。)

「質量%で、C:0.014%、Si:0.6%、Mn:1.6%、P:0.02%、S:0.003%、Ni:10.4%、Cr:18.5%、Nb:0.02%、V:0.05%、N:0.04%でそれぞれの元素を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
かつ、圧延方向に直交する断面での板幅方向の平均結晶粒径が6μmである、試験片であるステンレス鋼板を製造するにあたり、
上記合金成分の鋼塊10kgを7mmの厚さに鍛造した後、固溶化熱処理、冷間圧延により2.5mmの厚さとし、さらに、1100℃で1分間の熱処理後、水冷して、試験用のステンレス鋼板(素材)を得て、
上記素材に1mmの厚さまで冷間圧延した後、725℃ の条件で焼鈍を施し、圧延率70%で調質圧延を施し、575℃でSR処理(応力除去焼鈍)を施す、試験片であるステンレス鋼板の製造方法。」(以下、「甲3方法発明」という。)

(2)申立理由1−1について
ア 本件特許発明1について
(ア)本件特許発明1と甲1−1発明との対比・判断
a 対比
(a)甲1−1発明のC、N、Si、Mn、Ni、Crの含有量は、本件特許発明1のC、N、Si、Mn、Ni、Crの含有量の数値範囲に包含される。

(b)本件特許発明1の(1)式で定義されるX値について、甲1−1発明の化学組成で計算すると、0.97(=30×(0.013+0.06)+0.5×1.4+10.2−1.3×18.4+11.8)であるから、甲1−1発明の化学組成は、本件特許発明1の化学組成と、「下記(1)式により定まるX値が3未満であ」る点で一致する。

(c)甲1−1発明の「試験片であるステンレス鋼板」は、本件特許発明1の「ステンレス鋼板」に相当する。

(d)本件特許発明1と甲1−1発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点1−1−1>
「質量%で、C:0.08%以下、N:0.06%以下、Si:1.00%以下、Mn:2.50%以下、Ni:7.00〜15.00%、およびCr:16.00〜20.00%を含有し、かつ
下記(1)式により定まるX値が3未満である化学組成を有するステンレス鋼板。
X=30(C+N)+0.5Mn+Ni−1.3Cr+11.8 (1)
ここで、(1)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量が代入され、無添加の元素については0(ゼロ)が代入される。」

<相違点1−1−1−1>
本件特許発明1は、C、N、Si、Mn、Ni、Crを含有し、「残部がFeおよび不可避的不純物である」のに対し、甲1−1発明は、C、N、Si、Mn、Ni、Crに、さらに、「P:0.02%」、「S:0.002%」、「Mo:0.1%」、「Cu:0.1%」を含有し、「残部がFeおよび不可避的不純物からな」る点。

<相違点1−1−1−2>
本件特許発明1は、「Niが偏析した偏析層を有し」、「前記偏析層は、前記ステンレス鋼板の表面について、前記ステンレス鋼板の圧延方向に対して垂直な方向に設定した直線上でNi濃度をライン分析した結果において、Ni濃度が最大となる部分と、Ni濃度が最小となる部分とのNi濃度差が1.5質量%以上であり」、「前記Ni濃度が最大となる部分と、前記Ni濃度が最小となる部分との間の距離が300μm以下である」のに対し、甲1−1発明は、そうした「Niが偏析した偏析層」を有するか、不明である点。

b 相違点についての検討
(a)事案に鑑み、上記相違点1−1−1−2について検討する。
甲1−1発明は、「板厚方向におけるNi成分の平均偏析量CNiSが0.20%、最大偏析量CNiMAXが0.73%」と規定されるものであり、Ni成分が偏析していると解されるが、当該偏析量は、甲1【0015】にも記載されているように、板厚方向における成分偏析を計測して求めたものである。
それに対し、本件特許発明1の所定のNi濃度差を有する「Niが偏析した偏析層」は、「前記ステンレス鋼板の表面について、前記ステンレス鋼板の圧延方向に対して垂直な方向に設定した直線上でNi濃度をライン分析した結果」によるものであり、板表面方向におけるNiの偏析である。
そうすると、甲1−1発明におけるNi成分の偏析は、本件特許発明1の「Niが偏析した偏析層」と同じものとはいえない。

(b)また、甲1−1発明の「試験片であるステンレス鋼板」に対して、本件特許発明1と同様の方法でNi濃度をライン分析することの直接的な記載や、これを示唆するような記載は、甲1に見当たらない。甲1−1発明の「試験片であるステンレス鋼板」を本件特許発明1と同様の方法でNi濃度をライン分析した場合、「Ni濃度が最大となる部分と、Ni濃度が最小となる部分とのNi濃度差が1.5質量%以上」、「前記Ni濃度が最大となる部分と、前記Ni濃度が最小となる部分との間の距離が300μm以下」となるかどうかは、不明である。

(c)甲1の【0034】〜【0037】によると、甲1−1発明の試験片であるステンレス鋼板は、甲1−1方法発明のとおり、鋼塊を製造し、該鋼塊を1300℃で12時間、拡散熱処理し、該鋼塊を熱間加工して7mmの厚さの熱延材とし、該熱延材を1100°で固溶化熱処理した後、冷間圧延により2.5mmの厚さとし、さらに、1100℃で1分間の熱処理後、水冷して、試験用のステンレス鋼板(素材)を得て、上記素材に1mmの厚さまで冷間圧延した後、800℃ で30秒の条件で焼鈍することにより得られたものである。
これに対し、本件特許発明1のステンレス鋼板の製法は、本件明細書の【0018】〜【0022】、【0035】〜【0038】、【0042】、【0043】によると、X値が3未満である化学組成を有し、凝固組織が初晶δフェライト+オーステナイトの二相凝固組織(FAモード)またはオーステナイト単相凝固組織(Aモード)である素材スラブに、圧延率97%以下で熱間圧延処理を施し、得られた熱延鋼板を水冷で400℃以上700℃以下の温度まで冷却した後にコイル状に巻取り、次に熱延鋼板に焼鈍温度900℃以上1000℃以下で焼鈍を施すことで、Ni偏析が消失しないようにして熱延焼鈍鋼板とするか、その後、さらに従来一般的な冷間圧延工程を実施して冷延焼鈍鋼板とするものである。
以上によれば、甲1−1発明の製法と、本件特許発明1の製法とは、熱間圧延処理を施す点と、その後、熱処理を施す点で共通するものの、甲1−1発明の製法における熱間加工(熱間圧延)の圧延率や巻取り温度は不明であり、その後の熱処理の条件も本件特許発明1と異なるため、両発明の製法が同じとはいえない。
さらに、甲1−1発明の製法は、鋼塊を1300℃で12時間、拡散熱処理するものであるから、甲1の【0031】に示されるように、成分偏析が低減されている蓋然性が高い。
そうすると、甲1−1発明は、X値は確かに0.97であり、本件特許発明1の「3未満」を満たすものの、甲1−1発明の製法は本件特許発明1の製法と同じとはいえないので、甲1−1発明の試験片であるステンレス鋼板が、本件特許発明1と同じ「Niが偏析した偏析層」を有するとはいえない。

(d)上記(a)〜(c)で検討した結果によると、上記相違点1−1−1−2は実質的な相違点である。

(e)上記相違点1−1−1−2の容易想到性について検討すると、甲1には、ステンレス鋼板の表面について、ステンレス鋼板の圧延方向に対して垂直な方向に設定した直線上でNi濃度をライン分析した結果におけるNi濃度を制御することについての直接的な記載や、これを示唆するような記載は見当たらないから、甲1−1発明において、本件特許発明1のような「Niが偏析した偏析層」を備えさせる動機付けがあるとはいえない。また、このことは、甲2〜3の記載を考慮しても、変わるものではない。

(f)そうすると、甲1−1発明において、上記相違点1−1−1−2に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

(g)よって、他の相違点、及び本件特許発明1によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1−1発明及び甲2〜3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ)本件特許発明1と甲1−2発明との対比・判断
a 対比
(a)甲1−2発明のC、N、Si、Mn、Ni、Crの含有量は、本件特許発明1のC、N、Si、Mn、Ni、Crの含有量の数値範囲に包含される。

(b)本件特許発明1の(1)式で定義されるX値について、甲1−2発明の化学組成で計算すると、−0.21(=30×(0.055+0.04)+0.5×1.2+8.2−1.3×18.2+11.8)であるから、甲1−2発明の化学組成は、本件特許発明1の化学組成と、「下記(1)式により定まるX値が3未満であ」る点で一致する。

(c)甲1−2発明の「試験片であるステンレス鋼板」は、本件特許発明1の「ステンレス鋼板」に相当する。

(d)本件特許発明1と甲1−2発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点1−2−1>
「質量%で、C:0.08%以下、N:0.06%以下、Si:1.00%以下、Mn:2.50%以下、Ni:7.00〜15.00%、およびCr:16.00〜20.00%を含有し、かつ
下記(1)式により定まるX値が3未満である化学組成を有するステンレス鋼板。
X=30(C+N)+0.5Mn+Ni−1.3Cr+11.8 (1)
ここで、(1)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量が代入され、無添加の元素については0(ゼロ)が代入される。」

<相違点1−2−1−1>
本件特許発明1は、C、N、Si、Mn、Ni、Crを含有し、「残部がFeおよび不可避的不純物である」のに対し、甲1−2発明は、C、N、Si、Mn、Ni、Crに、さらに、「P:0.03%」、「S:0.004%」、「Mo:0.1%」、「Cu:0.2%」を含有し、「残部がFeおよび不可避的不純物からな」る点。

<相違点1−2−1−2>
本件特許発明1は、「Niが偏析した偏析層を有し」、「前記偏析層は、前記ステンレス鋼板の表面について、前記ステンレス鋼板の圧延方向に対して垂直な方向に設定した直線上でNi濃度をライン分析した結果において、Ni濃度が最大となる部分と、Ni濃度が最小となる部分とのNi濃度差が1.5質量%以上であり」、「前記Ni濃度が最大となる部分と、前記Ni濃度が最小となる部分との間の距離が300μm以下である」のに対し、甲1−2発明は、そうした「Niが偏析した偏析層」を有するか、不明である点。

b 相違点についての検討
事案に鑑み、上記相違点1−2−1−2について検討する。
相違点1−2−1−2は、相違点1−1−1−2と同様の相違点であるから、上記(ア)b(a)〜(f)で検討したのと同様、相違点1−2−1−2は実質的な相違点であり、さらに甲1−2発明において、上記相違点1−2−1−2に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
よって、他の相違点、及び本件特許発明1によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1−2発明及び甲2〜3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件特許発明2について
(ア)本件特許発明2と甲1−1発明との対比・判断
a 対比
(a)甲1−1発明のC、N、Si、Mn、P、S、Ni、Crの含有量は、本件特許発明2のC、N、Si、Mn、P、S、Ni、Crの含有量の数値範囲に包含される。

(b)甲1−1発明は、Mo、Cuを含有する限りにおいて、本件特許発明2と共通する。

(c)甲1−1発明において、「残部がFeおよび不可避的不純物からな」ることは、本件特許発明2において、「残部がFeおよび不可避的不純物である」ことに相当する。

(d)本件特許発明2の(1)式で定義されるX値について、甲1−1発明の化学組成で計算すると、0.97であるから、甲1−1発明の化学組成は、本件特許発明2の化学組成と、「下記(1)式により定まるX値が3未満であ」る点で一致する。

(e)甲1−1発明の「試験片であるステンレス鋼板」は、本件特許発明2の「ステンレス鋼板」に相当する。

(f)本件特許発明2と甲1−1発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点1−1−2>
「質量%で、C:0.08%以下、N:0.06%以下、Si:1.00%以下、Mn:2.50%以下、Ni:7.00〜15.00%、およびCr:16.00〜20.00%を含有し、かつ
下記(1)式により定まるX値が3未満であり、
質量%で、Mo、Cu、 P:0.045%以下、S:0.030%以下、およびB:0.01%以下からなる群から選択される1種以上をさらに含有し、残部がFeおよび不可避的不純物である化学組成を有するステンレス鋼板。
X=30(C+N)+0.5Mn+Ni−1.3Cr+11.8 (1)
ここで、(1)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量が代入され、無添加の元素については0(ゼロ)が代入される。」

<相違点1−1−2−1>
本件特許発明2は、「Mo:2.00〜3.00%、Cu:2.50〜4.00%」を含有するのに対し、甲1−1発明は、「Mo:0.1%、Cu:0.1%」を含有する点。

<相違点1−1−2−2>
本件特許発明2は、「Niが偏析した偏析層を有し」、「前記偏析層は、前記ステンレス鋼板の表面について、前記ステンレス鋼板の圧延方向に対して垂直な方向に設定した直線上でNi濃度をライン分析した結果において、Ni濃度が最大となる部分と、Ni濃度が最小となる部分とのNi濃度差が1.5質量%以上であり」、「前記Ni濃度が最大となる部分と、前記Ni濃度が最小となる部分との間の距離が300μm以下である」のに対し、甲1−1発明は、そうした「Niが偏析した偏析層」を有するか、不明である点。

b 相違点についての検討
事案に鑑み、上記相違点1−1−2−2について検討する。
相違点1−1−2−2は、相違点1−1−1−2と同様の相違点であるから、上記ア(ア)b(a)〜(f)で検討したのと同様、相違点1−1−2−2は実質的な相違点であり、さらに甲1−1発明において、上記相違点1−1−2−2に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
よって、他の相違点、及び本件特許発明2によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲1−1発明及び甲2〜3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ)本件特許発明2と甲1−2発明との対比・判断
a 対比
(a)甲1−2発明のC、N、Si、Mn、P、S、Ni、Crの含有量は、本件特許発明2のC、N、Si、Mn、P、S、Ni、Crの含有量の数値範囲に包含される。

(b)甲1−2発明は、Mo、Cuを含有する限りにおいて、本件特許発明2と共通する。

(c)甲1−2発明において、「残部がFeおよび不可避的不純物からな」ることは、本件特許発明2において、「残部がFeおよび不可避的不純物である」ことに相当する。

(d)本件特許発明2の(1)式で定義されるX値について、甲1−2発明の化学組成で計算すると、−0.21であるから、甲1−2発明の化学組成は、本件特許発明2の化学組成と、「下記(1)式により定まるX値が3未満であ」る点で一致する。

(e)甲1−2発明の「試験片であるステンレス鋼板」は、本件特許発明2の「ステンレス鋼板」に相当する。

(f)本件特許発明2と甲1−2発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点1−2−2>
「質量%で、C:0.08%以下、N:0.06%以下、Si:1.00%以下、Mn:2.50%以下、Ni:7.00〜15.00%、およびCr:16.00〜20.00%を含有し、かつ
下記(1)式により定まるX値が3未満であり、
質量%で、Mo、Cu、 P:0.045%以下、S:0.030%以下、およびB:0.01%以下からなる群から選択される1種以上をさらに含有し、残部がFeおよび不可避的不純物である化学組成を有するステンレス鋼板。
X=30(C+N)+0.5Mn+Ni−1.3Cr+11.8 (1)
ここで、(1)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量が代入され、無添加の元素については0(ゼロ)が代入される。」

<相違点1−2−2−1>
本件特許発明2は、「Mo:2.00〜3.00%、Cu:2.50〜4.00%」を含有するのに対し、甲1−2発明は、「Mo:0.1%、Cu:0.2%」を含有する点。

<相違点1−2−2−2>
本件特許発明2は、「Niが偏析した偏析層を有し」、「前記偏析層は、前記ステンレス鋼板の表面について、前記ステンレス鋼板の圧延方向に対して垂直な方向に設定した直線上でNi濃度をライン分析した結果において、Ni濃度が最大となる部分と、Ni濃度が最小となる部分とのNi濃度差が1.5質量%以上であり」、「前記Ni濃度が最大となる部分と、前記Ni濃度が最小となる部分との間の距離が300μm以下である」のに対し、甲1−2発明は、そうした「Niが偏析した偏析層」を有するか、不明である点。

b 相違点についての検討
事案に鑑み、上記相違点1−2−2−2について検討する。
相違点1−2−2−2は、相違点1−1−1−2と同様の相違点であるから、上記ア(ア)b(a)〜(f)で検討したのと同様、相違点1−2−2−2は実質的な相違点であり、さらに甲1−2発明において、上記相違点1−2−2−2に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
よって、他の相違点、及び本件特許発明2によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲1−2発明及び甲2〜3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件特許発明3について
(ア)本件特許発明3と甲1−1方法発明との対比・判断
a 対比
(a)甲1−1方法発明の「試験片であるステンレス鋼板の製造方法」は、本件特許発明3の「Niが偏析した偏析層を有するステンレス鋼板の製造方法」と、「ステンレス鋼板の製造方法」である限りにおいて共通する。

(b)甲1−1方法発明のC、N、Si、Mn、Ni、Crの含有量は、本件特許発明3のC、N、Si、Mn、Ni、Crの含有量の数値範囲に包含される。

(c)本件特許発明3の(1)式で定義されるX値について、甲1−1方法発明の化学組成で計算すると、0.97であるから、甲1−1方法発明の化学組成は、本件特許発明3の化学組成と、「下記(1)式により定まるX値が3未満であ」る点で一致する。

(d)甲1−1方法発明の「該鋼塊を熱間加工して7mmの厚さの熱延材と」する工程は、本件特許発明3の「巻取り温度を400℃以上700℃以下とし、圧延率を97%以下とする熱間圧延工程」と、「熱間圧延工程」である限りにおいて共通する。

(e)甲1−1方法発明の「該熱延材を1100°で固溶化熱処理」する工程は、本件特許発明3の「焼鈍温度を900℃以上1000℃以下とする焼鈍工程」と、「熱処理工程」である限りにおいて共通する。

(f)本件特許発明3と甲1−1方法発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点1−1−3>
「ステンレス鋼板の製造方法であって、
前記ステンレス鋼板は、質量%で、C:0.08%以下、N:0.06%以下、Si:1.00%以下、Mn:2.50%以下、Ni:7.00〜15.00%、およびCr:16.00〜20.00%を含有し、かつ
下記(1)式により定まるX値が3未満である化学組成を有し、
熱間圧延工程と、
熱処理工程と、を含む、ステンレス鋼板の製造方法。
X=30(C+N)+0.5Mn+Ni−1.3Cr+11.8 (1)
ここで、(1)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量が代入され、無添加の元素については0(ゼロ)が代入される。」

<相違点1−1−3−1>
本件特許発明3のステンレス鋼板は、「Niが偏析した偏析層を有する」ものであり、「前記偏析層は、前記ステンレス鋼板の表面について、前記ステンレス鋼板の圧延方向に対して垂直な方向に設定した直線上でNi濃度をライン分析した結果において、Ni濃度が最大となる部分と、Ni濃度が最小となる部分とのNi濃度差が1.5質量%以上であり」、「前記Ni濃度が最大となる部分と、前記Ni濃度が最小となる部分との間の距離が300μm以下である」のに対し、甲1−1方法発明における試験片であるステンレス鋼板は、そうした「Niが偏析した偏析層」を有するか、不明である点。

<相違点1−1−3−2>
本件特許発明3は、C、N、Si、Mn、Ni、Crを含有し、「残部がFeおよび不可避的不純物である」のに対し、甲1−1方法発明は、C、N、Si、Mn、Ni、Crに、さらに、「P:0.02%」、「S:0.002%」、「Mo:0.1%」、「Cu:0.1%」を含有し、「残部がFeおよび不可避的不純物からな」る点。

<相違点1−1−3−3>
本件特許発明3は、「熱間圧延工程」において、「巻取り温度を400℃以上700℃以下とし、圧延率を97%以下とする」と規定されているのに対し、甲1−1方法発明の「該鋼塊を熱間加工して7mmの厚さの熱延材と」する工程において、巻取り温度や圧延率が不明である点。

<相違点1−1−3−4>
本件特許発明3は、「熱処理工程」において、「焼鈍温度を900℃以上1000℃以下とする焼鈍工程」を実施するのに対し、甲1−1方法発明は、「1100°で固溶化熱処理」する点。

b 相違点についての検討
事案に鑑み、上記相違点1−1−3−1について検討する。
相違点1−1−3−1は、相違点1−1−1−2と同様の相違点であるから、上記ア(ア)b(a)〜(f)で検討したのと同様、相違点1−1−3−1は実質的な相違点であり、さらに甲1−1方法発明において、上記相違点1−1−3−1に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
よって、他の相違点、及び本件特許発明3によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明3は、甲1−1方法発明及び甲2〜3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ)本件特許発明3と甲1−2方法発明との対比・判断
a 対比
(a)甲1−2方法発明の「試験片であるステンレス鋼板の製造方法」は、本件特許発明3の「Niが偏析した偏析層を有するステンレス鋼板の製造方法」と、「ステンレス鋼板の製造方法」である限りにおいて共通する。

(b)甲1−2方法発明のC、N、Si、Mn、Ni、Crの含有量は、本件特許発明3のC、N、Si、Mn、Ni、Crの含有量の数値範囲に包含される。

(c)本件特許発明3の(1)式で定義されるX値について、甲1−2方法発明の化学組成で計算すると、−0.21であるから、甲1−2方法発明の化学組成は、本件特許発明3の化学組成と、「下記(1)式により定まるX値が3未満であ」る点で一致する。

(d)甲1−2方法発明の「該鋼塊を熱間加工して7mmの厚さの熱延材と」する工程は、本件特許発明3の「巻取り温度を400℃以上700℃以下とし、圧延率を97%以下とする熱間圧延工程」と、「熱間圧延工程」である限りにおいて共通する。

(e)甲1−2方法発明の「該熱延材を1100°で固溶化熱処理」する工程は、本件特許発明3の「焼鈍温度を900℃以上1000℃以下とする焼鈍工程」と、「熱処理工程」である限りにおいて共通する。

(f)本件特許発明3と甲1−2方法発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点1−2−3>
「ステンレス鋼板の製造方法であって、
前記ステンレス鋼板は、質量%で、C:0.08%以下、N:0.06%以下、Si:1.00%以下、Mn:2.50%以下、Ni:7.00〜15.00%、およびCr:16.00〜20.00%を含有し、かつ
下記(1)式により定まるX値が3未満である化学組成を有し、
熱間圧延工程と、
熱処理工程と、を含む、ステンレス鋼板の製造方法。
X=30(C+N)+0.5Mn+Ni−1.3Cr+11.8 (1)
ここで、(1)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量が代入され、無添加の元素については0(ゼロ)が代入される。」

<相違点1−2−3−1>
本件特許発明3のステンレス鋼板は、「Niが偏析した偏析層を有」し、「前記偏析層は、前記ステンレス鋼板の表面について、前記ステンレス鋼板の圧延方向に対して垂直な方向に設定した直線上でNi濃度をライン分析した結果において、Ni濃度が最大となる部分と、Ni濃度が最小となる部分とのNi濃度差が1.5質量%以上であり」、「前記Ni濃度が最大となる部分と、前記Ni濃度が最小となる部分との間の距離が300μm以下である」のに対し、甲1−2方法発明における試験片であるステンレス鋼板は、そうした「Niが偏析した偏析層」を有するか、不明である点。

<相違点1−2−3−2>
本件特許発明3は、C、N、Si、Mn、Ni、Crを含有し、「残部がFeおよび不可避的不純物である」のに対し、甲1−2方法発明は、C、N、Si、Mn、Ni、Crに、さらに、「P:0.03%」、「S:0.004%」、「Mo:0.1%」、「Cu:0.2%」を含有し、「残部がFeおよび不可避的不純物からな」る点。

<相違点1−2−3−3>
本件特許発明3は、「熱間圧延工程」において、「巻取り温度を400℃以上700℃以下とし、圧延率を97%以下とする」と規定されているのに対し、甲1−2方法発明の「該鋼塊を熱間加工して7mmの厚さの熱延材と」する工程において、巻取り温度や圧延率が不明である点。

<相違点1−2−3−4>
本件特許発明3は、「熱処理工程」において、「焼鈍温度を900℃以上1000℃以下とする焼鈍工程」を実施するのに対し、甲1−2方法発明は、「1100°で固溶化熱処理」する点。
b 相違点についての検討
事案に鑑み、上記相違点1−2−3−1について検討する。
相違点1−2−3−1は、相違点1−1−1−2と同様の相違点であるから、上記ア(ア)b(a)〜(f)で検討したのと同様、相違点1−2−3−1は実質的な相違点であり、さらに甲1−2方法発明において、上記相違点1−2−3−1に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
よって、他の相違点、及び本件特許発明3によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明3は、甲1−2方法発明及び甲2〜3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)申立理由1−2について
ア 本件特許発明1と甲2発明との対比・判断
(ア)対比
a 甲2発明のC、N、Si、Mn、Ni、Crの含有量は、本件特許発明1のC、N、Si、Mn、Ni、Crの含有量の数値範囲に包含される。

b 本件特許発明1の(1)式で定義されるX値について、甲2発明の化学組成で計算すると、1.01(=30×(0.015+0.05)+0.5×1.5+10.3−1.3×18.3+11.8)であるから、甲2発明の化学組成は、本件特許発明1の化学組成と、「下記(1)式により定まるX値が3未満であ」る点で一致する。

c 甲2発明の「試験片であるステンレス鋼板」は、本件特許発明1の「ステンレス鋼板」に相当する。

d 本件特許発明1と甲2発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点2−1>
「質量%で、C:0.08%以下、N:0.06%以下、Si:1.00%以下、Mn:2.50%以下、Ni:7.00〜15.00%、およびCr:16.00〜20.00%を含有し、かつ
下記(1)式により定まるX値が3未満である化学組成を有するステンレス鋼板。
X=30(C+N)+0.5Mn+Ni−1.3Cr+11.8 (1)
ここで、(1)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量が代入され、無添加の元素については0(ゼロ)が代入される。」

<相違点2−1−1>
本件特許発明1は、C、N、Si、Mn、Ni、Crを含有し、「残部がFeおよび不可避的不純物である」のに対し、甲2発明は、C、N、Si、Mn、Ni、Crに、さらに、「P:0.02%」、「S:0.005%」を含有し、「残部がFeおよび不可避的不純物からな」る点。

<相違点2−1−2>
本件特許発明1は、「Niが偏析した偏析層を有し」、「前記偏析層は、前記ステンレス鋼板の表面について、前記ステンレス鋼板の圧延方向に対して垂直な方向に設定した直線上でNi濃度をライン分析した結果において、Ni濃度が最大となる部分と、Ni濃度が最小となる部分とのNi濃度差が1.5質量%以上であり」、「前記Ni濃度が最大となる部分と、前記Ni濃度が最小となる部分との間の距離が300μm以下である」のに対し、甲2発明は、そうした「Niが偏析した偏析層」を有するか、不明である点。

(イ)相違点についての検討
a 事案に鑑み、上記相違点2−1−2について検討する。
甲2の【0031】〜【0034】によると、甲2発明の試験片であるステンレス鋼板は、甲2方法発明のとおり、鋼塊10kgを7mmの厚さに鍛造した後、固溶化熱処理、冷間圧延により2.5mmの厚さとし、さらに、1100℃で1分間の熱処理後、水冷して、試験用のステンレス鋼板(素材)を得て、上記素材に1mmの厚さまで冷間圧延した後、700℃ の条件で焼鈍を施し、圧延率60%で調質圧延を施し、500℃でSR処理(応力除去焼鈍)を施すことにより得られたものである。
これに対し、本件特許発明1のステンレス鋼板の製法は、本件明細書の【0018】〜【0022】、【0035】〜【0038】、【0042】、【0043】によると、X値が3未満である化学組成を有し、凝固組織が初晶δフェライト+オーステナイトの二相凝固組織(FAモード)またはオーステナイト単相凝固組織(Aモード)である素材スラブに、圧延率97%以下で熱間圧延処理を施し、得られた熱延鋼板を水冷で400℃以上700℃以下の温度まで冷却した後にコイル状に巻取り、次に熱延鋼板に焼鈍温度900℃以上1000℃以下で焼鈍を施すことで、Ni偏析が消失しないようにして熱延焼鈍鋼板とするか、その後、さらに従来一般的な冷間圧延工程を実施して冷延焼鈍鋼板とするものである。
以上によれば、甲2発明の製法と、本件特許発明1の製法とは、加工を施す点と、その後、熱処理を施す点で共通するものの、甲2発明の製法における「鋼塊10kgを7mmの厚さに鍛造」する工程の加工率や巻取りの有無が不明であり、その後、固溶化熱処理を施すため、甲2発明の製法が本件特許発明1の製法と同じということはできない。
そうすると、甲2発明は、X値は確かに1.01であり、本件特許発明1の「3未満」を満たすものの、甲2発明の製法は本件特許発明1の製法と異なるため、甲2発明の試験片であるステンレス鋼板が、本件特許発明1のステンレス鋼板と同じ「Niが偏析した偏析層」を有するとはいえない。

b よって、上記相違点2−1−2は実質的な相違点である。

c 上記相違点2−1−2の容易想到性について検討すると、甲2には、ステンレス鋼板の表面について、ステンレス鋼板の圧延方向に対して垂直な方向に設定した直線上でNi濃度をライン分析した結果におけるNi濃度を制御することについての直接的な記載や、これを示唆するような記載は見当たらないから、甲2発明において、本件特許発明1のような「Niが偏析した偏析層」を備えさせる動機付けがあるとはいえない。
また、上記(2)ア(ア)b(a)、(b)で述べたとおり、甲1におけるNi成分の偏析は、本件特許発明1の「Niが偏析した偏析層」と同じものとはいえないから、やはり、甲2発明において、本件特許発明1のような「Niが偏析した偏析層」を備えさせる動機付けがあるとはいえない。また、このことは、甲3の記載を考慮しても、変わるものではない。

d そうすると、甲2発明において、上記相違点2−1−2に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

e よって、他の相違点、及び本件特許発明1によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明及び甲1、3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件特許発明2と甲2発明との対比・判断
(ア)対比
a 甲2発明のC、N、Si、Mn、Ni、Cr、P、Sの含有量は、本件特許発明2のC、N、Si、Mn、Ni、Cr、P、Sの含有量の数値範囲に包含される。

b 本件特許発明2の(1)式で定義されるX値について、甲2発明の化学組成で計算すると、1.01であるから、甲2発明の化学組成は、本件特許発明2の化学組成と、「下記(1)式により定まるX値が3未満であ」る点で一致する。

c 甲2発明で「残部がFeおよび不可避的不純物からなる」ことは、本件特許発明2において「残部がFeおよび不可避的不純物である」ことに相当する。

d 甲2発明の「試験片であるステンレス鋼板」は、本件特許発明2の「ステンレス鋼板」に相当する。

e 本件特許発明2と甲2発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点2−2>
「質量%で、C:0.08%以下、N:0.06%以下、Si:1.00%以下、Mn:2.50%以下、Ni:7.00〜15.00%、およびCr:16.00〜20.00%を含有し、
かつ
下記(1)式により定まるX値が3未満であり、
質量%で、Mo:2.00〜3.00%、Cu:2.50〜4.00%、P:0.045%以下、S:0.030%以下、およびB:0.01%以下からなる群から選択される1種以上をさらに含有し、残部がFeおよび不可避的不純物である化学組成を有するステンレス鋼板。
X=30(C+N)+0.5Mn+Ni−1.3Cr+11.8 (1)
ここで、(1)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量が代入され、無添加の元素については0(ゼロ)が代入される。」

<相違点2−2−1>
本件特許発明2は、「Niが偏析した偏析層を有し」、「前記偏析層は、前記ステンレス鋼板の表面について、前記ステンレス鋼板の圧延方向に対して垂直な方向に設定した直線上でNi濃度をライン分析した結果において、Ni濃度が最大となる部分と、Ni濃度が最小となる部分とのNi濃度差が1.5質量%以上であり」、「前記Ni濃度が最大となる部分と、前記Ni濃度が最小となる部分との間の距離が300μm以下である」のに対し、甲2発明は、そうした「Niが偏析した偏析層」を有するか、不明である点。

(イ)相違点についての検討
上記相違点2−2−1について検討する。
相違点2−2−1は、相違点2−1−2と同様の相違点であるから、上記ア(イ)a〜dで検討したのと同様、相違点2−2−1は実質的な相違点であり、さらに甲2発明において、上記相違点2−2−1に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
よって、本件特許発明2によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲2発明及び甲1、3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件特許発明3と甲2方法発明との対比・判断
(ア)対比
a 甲2方法発明の「試験片であるステンレス鋼板の製造方法」は、本件特許発明3の「Niが偏析した偏析層を有するステンレス鋼板の製造方法」と、「ステンレス鋼板の製造方法」である限りにおいて共通する。

b 甲2方法発明のC、N、Si、Mn、Ni、Crの含有量は、本件特許発明3のC、N、Si、Mn、Ni、Crの含有量の数値範囲に包含される。

c 本件特許発明3の(1)式で定義されるX値について、甲2方法発明の化学組成で計算すると、1.01であるから、甲2方法発明の化学組成は、本件特許発明3の化学組成と、「下記(1)式により定まるX値が3未満であ」る点で一致する。

d 甲2方法発明の「鋼塊10kgを、」「7mmの厚さに鍛造」する工程は、本件特許発明3の「圧延率を97%以下とする熱間圧延工程」と、「加工工程」である限りにおいて共通する。

e 甲2方法発明の「固溶化熱処理」する工程は、本件特許発明3の「焼鈍温度を900℃以上1000℃以下とする焼鈍工程」と、「熱処理工程」である限りにおいて共通する。

f 本件特許発明3と甲2方法発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点2−3>
「ステンレス鋼板の製造方法であって、
前記ステンレス鋼板は、質量%で、C:0.08%以下、N:0.06%以下、Si:1.00%以下、Mn:2.50%以下、Ni:7.00〜15.00%、およびCr:16.00〜20.00%を含有し、かつ
下記(1)式により定まるX値が3未満である化学組成を有し、
加工工程と、
熱処理工程と、を含む、ステンレス鋼板の製造方法。
X=30(C+N)+0.5Mn+Ni−1.3Cr+11.8 (1)
ここで、(1)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量が代入され、無添加の元素については0(ゼロ)が代入される。」

<相違点2−3−1>
本件特許発明3のステンレス鋼板は、「Niが偏析した偏析層を有する」ものであり、「前記偏析層は、前記ステンレス鋼板の表面について、前記ステンレス鋼板の圧延方向に対して垂直な方向に設定した直線上でNi濃度をライン分析した結果において、Ni濃度が最大となる部分と、Ni濃度が最小となる部分とのNi濃度差が1.5質量%以上であり」、「前記Ni濃度が最大となる部分と、前記Ni濃度が最小となる部分との間の距離が300μm以下である」のに対し、甲2方法発明における試験片であるステンレス鋼板は、そうした「Niが偏析した偏析層」を有するか不明である点。

<相違点2−3−2>
本件特許発明3のステンレス鋼板は、C、N、Si、Mn、Ni、Crを含有し、「残部がFeおよび不可避的不純物である」のに対し、甲2方法発明の試験片であるステンレス鋼板は、C、N、Si、Mn、Ni、Crに、さらに、「P:0.02%」、「S:0.005%」を含有し、「残部がFeおよび不可避的不純物からな」る点。

<相違点2−3−3>
本件特許発明3は、「加工工程」において、「圧延率を97%以下とする熱間圧延工程」を有し、「巻取り温度を400℃以上700℃以下と」するのに対し、甲2方法発明は、「鋼塊10kgを」、「7mmの厚さに鍛造」する工程の条件が不明である点。

<相違点2−3−4>
本件特許発明3は、「熱処理工程」において、「焼鈍温度を900℃以上1000℃以下とする焼鈍工程」を実施するのに対し、甲2方法発明は、「固溶化熱処理」する点。

b 相違点についての検討
事案に鑑み、上記相違点2−3−1について検討する。
相違点2−3−1は、相違点2−1−2と同様の相違点であるから、上記ア(イ)a〜dで検討したのと同様、相違点2−3−1は実質的な相違点であり、さらに甲2方法発明において、上記相違点2−3−1に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
よって、他の相違点、及び本件特許発明3によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明3は、甲2方法発明及び甲1、3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)申立理由1−3について
ア 本件特許発明1と甲3発明との対比・判断
(ア)対比
a 甲3発明のC、N、Si、Mn、Ni、Crの含有量は、本件特許発明1のC、N、Si、Mn、Ni、Crの含有量の数値範囲に包含される。

b 本件特許発明1の(1)式で定義されるX値について、甲3発明の化学組成で計算すると、0.57(=30×(0.014+0.04)+0.5×1.6+10.4−1.3×18.5+11.8)であるから、甲3発明の化学組成は、本件特許発明1の化学組成と、「下記(1)式により定まるX値が3未満であ」る点で一致する。

c 甲3発明の「試験片であるステンレス鋼板」は、本件特許発明1の「ステンレス鋼板」に相当する。

d 本件特許発明1と甲3発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点3−1>
「質量%で、C:0.08%以下、N:0.06%以下、Si:1.00%以下、Mn:2.50%以下、Ni:7.00〜15.00%、およびCr:16.00〜20.00%を含有し、かつ
下記(1)式により定まるX値が3未満である化学組成を有するステンレス鋼板。
X=30(C+N)+0.5Mn+Ni−1.3Cr+11.8 (1)
ここで、(1)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量が代入され、無添加の元素については0(ゼロ)が代入される。」

<相違点3−1−1>
本件特許発明1は、C、N、Si、Mn、Ni、Crを含有し、「残部がFeおよび不可避的不純物である」のに対し、甲3発明は、C、N、Si、Mn、Ni、Crに、さらに、「P:0.02%」、「S:0.003%」、「Nb:0.02%」、「V:0.05%」を含有し、「残部がFeおよび不可避的不純物からな」る点。

<相違点3−1−2>
本件特許発明1は、「Niが偏析した偏析層を有し」、「前記偏析層は、前記ステンレス鋼板の表面について、前記ステンレス鋼板の圧延方向に対して垂直な方向に設定した直線上でNi濃度をライン分析した結果において、Ni濃度が最大となる部分と、Ni濃度が最小となる部分とのNi濃度差が1.5質量%以上であり」、「前記Ni濃度が最大となる部分と、前記Ni濃度が最小となる部分との間の距離が300μm以下である」のに対し、甲3発明は、そうした「Niが偏析した偏析層」を有するか、不明である点。

(イ)相違点についての検討
a 事案に鑑み、上記相違点3−1−2について検討する。
甲3の【0030】〜【0033】によると、甲3発明の試験片であるステンレス鋼板は、甲3方法発明のとおり、鋼塊10kgを7mmの厚さに鍛造した後、固溶化熱処理、冷間圧延により2.5mmの厚さとし、さらに、1100℃で1分間の熱処理後、水冷して、試験用のステンレス鋼板(素材)を得て、上記素材に1mmの厚さまで冷間圧延した後、725℃ の条件で焼鈍を施し、圧延率70%で調質圧延を施し、575℃でSR処理(応力除去焼鈍)を施すことにより得られたものである。
これに対し、本件特許発明1のステンレス鋼板の製法は、本件明細書の【0018】〜【0022】、【0035】〜【0038】、【0042】、【0043】によると、X値が3未満である化学組成を有し、凝固組織が初晶δフェライト+オーステナイトの二相凝固組織(FAモード)またはオーステナイト単相凝固組織(Aモード)である素材スラブに、圧延率97%以下で熱間圧延処理を施し、得られた熱延鋼板を水冷で400℃以上700℃以下の温度まで冷却した後にコイル状に巻取り、次に熱延鋼板に焼鈍温度900℃以上1000℃以下で焼鈍を施すことで、Ni偏析が消失しないようにして熱延焼鈍鋼板とするか、その後、さらに従来一般的な冷間圧延工程を実施して冷延焼鈍鋼板とするものである。
以上によれば、甲3発明の製法と、本件特許発明1の製法とは、加工を施す点と、その後、熱処理を施す点で共通するものの、甲3発明の製法における「鋼塊10kgを7mmの厚さに鍛造」する工程の加工率や巻取りの有無が不明であり、その後、固溶化熱処理を施すため、甲3発明の製法が本件特許発明1の製法と同じということはできない。
そうすると、甲3発明は、X値は確かに0.57であり、本件特許発明1の「3未満」を満たすものの、甲3発明の製法は本件特許発明1の製法と異なるため、甲3発明の試験片であるステンレス鋼板が、本件特許発明1のステンレス鋼板と同じ「Niが偏析した偏析層」を有するとはいえない。

b よって、上記相違点3−1−2は実質的な相違点である。

c 上記相違点3−1−2の容易想到性について検討すると、甲3には、ステンレス鋼板の表面について、ステンレス鋼板の圧延方向に対して垂直な方向に設定した直線上でNi濃度をライン分析した結果におけるNi濃度を制御することについての直接的な記載や、これを示唆するような記載は見当たらないから、甲3発明において、本件特許発明1のような「Niが偏析した偏析層」を備えさせる動機付けがあるとはいえない。
また、上記(2)ア(ア)b(a)、(b)で述べたとおり、甲1におけるNi成分の偏析は、本件特許発明1の「Niが偏析した偏析層」と同じものとはいえないから、やはり、甲3発明において、本件特許発明1のような「Niが偏析した偏析層」を備えさせる動機付けがあるとはいえない。また、このことは、甲2の記載を考慮しても、変わるものではない。

d そうすると、甲3発明において、上記相違点3−1−2に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

e よって、他の相違点、及び本件特許発明3によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明3は、甲3発明及び甲1〜2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件特許発明2と甲3発明との対比・判断
(ア)対比
a 甲3発明のC、N、Si、Mn、Ni、Cr、P、Sの含有量は、本件特許発明2のC、N、Si、Mn、Ni、Cr、P、Sの含有量の数値範囲に包含される。

b 本件特許発明2の(1)式で定義されるX値について、甲3発明の化学組成で計算すると、0.57であるから、甲3発明の化学組成は、本件特許発明2の化学組成と、「下記(1)式により定まるX値が3未満であ」る点で一致する。

c 甲3発明の「試験片であるステンレス鋼板」は、本件特許発明2の「ステンレス鋼板」に相当する。

d 本件特許発明2と甲3発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点3−2>
「質量%で、C:0.08%以下、N:0.06%以下、Si:1.00%以下、Mn:2.50%以下、Ni:7.00〜15.00%、およびCr:16.00〜20.00%を含有し、
かつ
下記(1)式により定まるX値が3未満であり、
質量%で、Mo:2.00〜3.00%、Cu:2.50〜4.00%、P:0.045%以下、S:0.030%以下、およびB:0.01%以下からなる群から選択される1種以上をさらに含有する化学組成を有するステンレス鋼板。
X=30(C+N)+0.5Mn+Ni−1.3Cr+11.8 (1)
ここで、(1)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量が代入され、無添加の元素については0(ゼロ)が代入される。」

<相違点3−2−1>
本件特許発明2は、C、N、Si、Mn、Ni、Crを含有し、さらに、Mo、Cu、P、S、およびBからなる群から選択される1種以上を含有し、「残部がFeおよび不可避的不純物である」のに対し、甲3発明は、C、N、Si、Mn、Ni、Crと、さらに、P、Sに、「Nb:0.02%」、「V:0.05%」を含有し、「残部がFeおよび不可避的不純物からな」る点。

<相違点3−2−2>
本件特許発明2は、「Niが偏析した偏析層を有し」、「前記偏析層は、前記ステンレス鋼板の表面について、前記ステンレス鋼板の圧延方向に対して垂直な方向に設定した直線上でNi濃度をライン分析した結果において、Ni濃度が最大となる部分と、Ni濃度が最小となる部分とのNi濃度差が1.5質量%以上であり」、「前記Ni濃度が最大となる部分と、前記Ni濃度が最小となる部分との間の距離が300μm以下である」のに対し、甲3発明は、そうした「Niが偏析した偏析層」を有するか、不明である点。

(イ)相違点についての検討
事案に鑑み、上記相違点3−2−2について検討する。
相違点3−2−2は、相違点3−1−2と同様の相違点であるから、上記ア(イ)a〜dで検討したのと同様、相違点3−2−2は実質的な相違点であり、さらに甲3発明において、上記相違点3−2−2に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
よって、本件特許発明2によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲3発明及び甲1〜2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件特許発明3と甲3方法発明との対比・判断
(ア)対比
a 甲3方法発明の「試験片であるステンレス鋼板の製造方法」は、本件特許発明3の「Niが偏析した偏析層を有するステンレス鋼板の製造方法」と、「ステンレス鋼板の製造方法」である限りにおいて共通する。

b 甲3方法発明のC、N、Si、Mn、Ni、Crの含有量は、本件特許発明3のC、N、Si、Mn、Ni、Crの含有量の数値範囲に包含される。

c 本件特許発明3の(1)式で定義されるX値について、甲3方法発明の化学組成で計算すると、0.57であるから、甲3方法発明の化学組成は、本件特許発明3の化学組成と、「下記(1)式により定まるX値が3未満であ」る点で一致する。

d 甲3方法発明の「鋼塊10kgを、」「7mmの厚さに鍛造」する工程は、本件特許発明3の「圧延率を97%以下とする熱間圧延工程」と、「加工工程」である限りにおいて共通する。

e 甲3方法発明の「固溶化熱処理」する工程は、本件特許発明3の「焼鈍温度を900℃以上1000℃以下とする焼鈍工程」と、「熱処理工程」である限りにおいて共通する。

f 本件特許発明3と甲3方法発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点3−3>
「ステンレス鋼板の製造方法であって、
前記ステンレス鋼板は、質量%で、C:0.08%以下、N:0.06%以下、Si:1.00%以下、Mn:2.50%以下、Ni:7.00〜15.00%、およびCr:16.00〜20.00%を含有し、かつ
下記(1)式により定まるX値が3未満である化学組成を有し、
加工工程と、
熱処理工程と、を含む、ステンレス鋼板の製造方法。
X=30(C+N)+0.5Mn+Ni−1.3Cr+11.8 (1)
ここで、(1)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量が代入され、無添加の元素については0(ゼロ)が代入される。」

<相違点3−3−1>
本件特許発明3のステンレス鋼板は、「Niが偏析した偏析層を有する」ものであり、「前記偏析層は、前記ステンレス鋼板の表面について、前記ステンレス鋼板の圧延方向に対して垂直な方向に設定した直線上でNi濃度をライン分析した結果において、Ni濃度が最大となる部分と、Ni濃度が最小となる部分とのNi濃度差が1.5質量%以上であり」、「前記Ni濃度が最大となる部分と、前記Ni濃度が最小となる部分との間の距離が300μm以下である」のに対し、甲3方法発明における試験片であるステンレス鋼板は、そうした「Niが偏析した偏析層」を有するか不明である点。

<相違点3−3−2>
本件特許発明3のステンレス鋼板は、C、N、Si、Mn、Ni、Crを含有し、「残部がFeおよび不可避的不純物である」のに対し、甲3方法発明の試験片であるステンレス鋼板は、C、N、Si、Mn、Ni、Crに、さらに、「P:0.02%」、「S:0.003%」、「Nb:0.02%」、「V:0.05%」を含有し、「残部がFeおよび不可避的不純物からな」る点。

<相違点3−3−3>
本件特許発明3は、「加工工程」において、「圧延率を97%以下とする熱間圧延工程」を有し、「巻取り温度を400℃以上700℃以下と」するのに対し、甲3方法発明は、「鋼塊10kgを」、「7mmの厚さに鍛造」する工程の条件が不明である点。

<相違点3−3−4>
本件特許発明3は、「熱処理工程」において、「焼鈍温度を900℃以上1000℃以下とする焼鈍工程」を実施するのに対し、甲3方法発明は、「固溶化熱処理」する点。

(イ)相違点についての検討
事案に鑑み、上記相違点3−3−1について検討する。
相違点3−3−1は、相違点3−1−2と同様の相違点であるから、上記ア(イ)a〜dで検討したのと同様、相違点3−3−1は実質的な相違点であり、さらに甲3方法発明において、上記相違点3−3−1に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
よって、他の相違点、及び本件特許発明3によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明3は、甲3方法発明及び甲1〜2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)小括
したがって、申立理由1−1〜1−3によっては、本件特許の請求項1〜3に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由2(実施可能要件
(1)申立人は、甲4を提出し、特許異議申立書11ページにおいて、「本願発明の範囲となるのは四角で囲った範囲の組成であり、*の注釈がある特別な場合を除いて、Niのミクロ偏析比は1.06〜1.07であることが明らかである」、「しかしながら、本願発明の通りNi濃度の最小と最大値の差が1.5質量%以上となるとして、ミクロ偏析値を計算すると、添付図の通り1.10〜1.22の値を取らなければならず、事実とは相反するものである」と述べ、14ページの9〜12行目において、「甲第4号証に記載のミクロ偏析比(%Nimax/%Nimin)から、本件発明1のNi濃度差を求めることができるが、ステンレス鋼においては濃度差が1.5質量%以上となることはない」、15ページの5〜6行目において、「また、表面特性は、甲4号証から技術常識とは異なり矛盾する」と主張している。

(2)しかし、甲4の記載を参照しても、甲4に記載されたステンレス鋼のミクロ偏析が、本件特許の請求項1、3に係る発明の「Niが偏析した偏析層」と同じものであるかは不明である。
仮に、甲4におけるステンレス鋼のミクロ偏析が、本件特許の請求項1、3に係る発明の「Niが偏析した偏析層」と同種のものと解したとしても、ステンレス鋼板の偏析の具体的な程度は製法やその条件に影響を受けるのは技術常識であるから、ステンレス鋼の化学組成が同じであるからといって、本件特許の請求項1、3に係る発明におけるステンレス鋼板のNiのミクロ偏析比が、甲4と同じ値になると断定することもできないし、このことが、事実と相反するともいえない。

(3)よって、上記(1)の主張は採用できず、申立理由2によっては、本件特許の請求項1、3に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1〜3に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては取り消すことはできず、また、他に本件特許の請求項1〜3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2024-03-29 
出願番号 P2019-064829
審決分類 P 1 651・ 536- Y (C22C)
P 1 651・ 121- Y (C22C)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 井上 猛
特許庁審判官 佐藤 陽一
山口 大志
登録日 2023-06-15 
登録番号 7296756
権利者 日鉄ステンレス株式会社
発明の名称 ステンレス鋼板およびその製造方法  
代理人 弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  

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