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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B32B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B32B |
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管理番号 | 1409161 |
総通号数 | 28 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2024-04-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2023-11-24 |
確定日 | 2024-03-26 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第7282478号発明「保護層転写シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7282478号の請求項1〜3に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第7282478号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜3に係る特許についての出願は、平成29年6月15日の出願であって、令和5年5月19日にその特許権の設定登録がされ、令和5年5月29日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和5年11月24日:特許異議申立人 藤江桂子(以下「申立人」という。)による請求項1〜3に係る特許に対する特許異議の申立て(この申立てに係る特許異議申立書は以下「申立書」という。) 第2 本件発明 本件特許の請求項1〜3に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 基材の一方の面の少なくとも一部に熱転写性保護層を有する保護層転写シートであって、 前記熱転写性保護層は、前記基材上に形成された剥離層と前記剥離層上に形成された接着層からなり、 前記剥離層は単一の層であり、 前記剥離層は第一の樹脂と第二の樹脂とを含有し、 前記第一の樹脂は、ISO306のB50法により測定されたビカット軟化温度が75℃以上110℃以下の樹脂であって、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、セルロース系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、またはスチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂からなり、 前記第二の樹脂はポリエステル樹脂であり、 前記第一の樹脂と前記第二の樹脂との配合比は、質量比で第一の樹脂:第二の樹脂=1:0.01〜0.05である保護層転写シート。 【請求項2】 前記接着層は、ガラス転移温度(Tg)が100℃以下の樹脂で形成されている請求項1に記載の保護層転写シート。 【請求項3】 前記基材の他方の面に耐熱滑性層を有する請求項1または2に記載の保護層転写シート。」 第3 申立理由の概要 1.(進歩性)本件発明1〜3は、甲第3号証に記載された発明、甲第10号証に記載された発明、甲第12号証に記載された発明、甲第13号証に記載された発明、甲第14号証に記載された発明、甲第16号証に記載された発明、甲第18号証に記載された発明、又は甲第19号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1〜3に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 2.(サポート要件)本件発明1の「前記剥離層は第一の樹脂と第二の樹脂とを含有し」という記載は、オープンクレームと理解され、本件発明1は、種々の態様の発明を含むものと理解され、本件発明1は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるから、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 3.(明確性)本件発明1の「前記剥離層は第一の樹脂と第二の樹脂とを含有し」という記載は、オープンクレームと理解され、本件発明1の「剥離層」は、「第一の樹脂」及び「第二の樹脂」以外の樹脂を含んでよく、実施例の記載と整合せず、発明の課題との関係においても整合せず、本件発明1は、剥離層に関して、権利者がどの範囲において独占権を有するのかについて予測可能性を奪い、第二者に不測の不利益を及ぼすほどのものといえる。 また、本件発明1の「前記熱転写性保護層は、前記基材上に形成された剥離層と前記剥離層上に形成された接着層からなり」という記載は、本件特許明細書の【0013】の「熱転写性保護層6は、少なくとも剥離層4および接着層5で構成される」とは、本件発明1よりも広い範囲の態様が示唆され、本件発明1は、熱転写性保護層に関して、第二者に不測の不利益を及ぼすものといえる。 以上のとおり、本件発明1〜3は明確でなく、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (引用文献等) 甲第3号証 :特開2015−66919号公報 甲第9号証 :PSジャパン株式会社、「PSJ−ポリスチレン GPPS」、[online]、2013年7月19日、[2023年9月18日検索]、PSジャパン株式会社、インターネットアーカイブ<URL:https://web.archive.org/web/20160527222858/http://www.psjp.com/products/pdf/GPPS.pdf> 甲第10号証:特開2014−198434号公報 甲第12号証:特開2010−120282号公報 甲第13号証:特開2009−196194号公報 甲第14号証:特開平11−227344号公報 甲第16号証:特開2004−291310号公報 甲第18号証:特開2017−87669号公報 甲第19号証:特開2005−67071号公報 (以下、甲第○号証を単に「甲○」という。) 第4 当審の判断 1 甲3に記載された事項・発明 甲3の実施例1(【0060】〜【0064】)の保護層転写シートとして、【0016】、【0020】及び図2を総合すると、甲3には、以下の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。 「基材として厚さ5μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを用い、 基材の一方の面に以下に特定する保護層用塗工液1を乾燥時塗布量が1.0g/m2になるように塗布し保護層を形成し、 次いで、保護層上に以下に特定するプライマー層用塗工液を乾燥時塗布量が0.1g/m2になるように塗布しプライマー層を形成し、 次いで、プライマー層上に以下に特定する接着層用塗工液を乾燥時塗布量が1.0g/m2になるように塗布し接着層を形成し、 また、基材の他方の面に以下に特定する背面層用塗工液を乾燥時塗布量が0.5g/m2になるように塗布し背面層を形成した、 保護層転写シート。 <保護層用塗工液1> ・アクリル樹脂 5.965部 (BR−52 三菱レイヨン(株)) ・アクリル樹脂 13.919部 (BR−87 三菱レイヨン(株)) ・ポリエステル樹脂 0.06部 (V220 東洋紡(株)) ・リン酸エステル 0.199部 (A208N 第一工業製薬(株)) ・MEK 79.857部 <プライマー層用塗工液> ・アルミナゾル(平均1次粒子径10×100nm(固形分10%)) 30部 (アルミナゾル200 日産化学工業(株)) ・ポリビニルピロリドン樹脂 3部 (K−90 ISP社) 50部 ・イソプロピルアルコール 17部 <接着層用塗工液> ・ポリエステル樹脂 20部 (バイロン200 東洋紡(株)) ・紫外線吸収剤共重合樹脂 10部 (UVA−635L BASF社) ・メチルエチルケトン/トルエン(質量比1:1) 80部 <背面層用塗工液> ・ポリビニルブチラール樹脂 13.6部 (エスレックBX−1 積水化学工業(株)) ・ポリイソシアネート硬化剤 0.6部 (タケネートD218 武田薬品工業(株)) ・リン酸エステル 0.8部 (プライサーフA208S 第一工業製薬(株)) ・メチルエチルケトン 42.5部 ・トルエン 42.5部」 2 甲9に記載された事項 甲9には、次の事項が記載されている。 「 」 3 甲10に記載された事項・発明 甲10の実施例1(【0068】〜【0072】)の保護層転写シートとして、【0019】、【0034】及び図1を総合すると、甲10には、以下の発明(以下「甲10発明」という。)が記載されていると認められる。 「基材として厚さ4.5μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを用い、 この上に、以下に特定する剥離層用塗工液1を乾燥時塗布量が1.5g/ m2になるように塗布し転写性保護層を構成する剥離層を形成し、 次いで、剥離層上に以下に特定する接着層用塗工液1を乾燥時塗布量が1 .5g/m2になるように塗布し転写性保護層を構成する接着層を形成し 、 また、基材の転写性保護層が形成される面とは異なる面上に以下に特定す る背面層用塗工液を乾燥時塗布量が1.0g/m2になるように塗布し背 面層を形成してなる、 保護層転写シート。 <剥離層用塗工液1> ・アクリル樹脂 29.7部 (ダイヤナールBR−87、三菱レイヨン(株)) ・ポリエステル樹脂 0.3部 (バイロン220 東洋紡(株)) ・イオン液体(カチオン:BMP、アニオン:TFSI) 1.25部 ・トルエン 34.38部 ・メチルエチルケトン 34.37部 <接着層用塗工液1> ・ポリエステル樹脂 22.5部 (バイロン290、東洋紡(株)) ・紫外線吸収剤 2.5部 (チヌビン928、BASFジャパン(株)) ・トルエン 37.5部 ・メチルエチルケトン 37.5部 (背面層用塗工液) ・ポリビニルブチラール樹脂 2.5部 (エスレックBX−1、積水化学工業(株)) ・リン酸エステル系界面活性剤 1.2部 (プライサーフA208N、第一工業製薬(株)) ・タルク 0.4部 (ミクロエースP−3、日本タルク工業(株)) ・ポリイソシアネート(固形分75%) 5.1部 (バーノックD750、大日本インキ化学工業(株)) ・メチルエチルケトン 45.4部 ・トルエン 45.4部」 4 甲12に記載された事項・発明 甲12の実施例1(【0043】)の熱転写シートとして、【0020】、【0031】、【0042】及び図1を総合すると、甲12には、以下の発明(以下「甲12発明」という。)が記載されていると認められる。 「グラビアコート法により、厚さ4.5μmのポリエステルフィルムの一方の面に、以下に特定する耐熱滑性層形成用インク−1を用いて、耐熱滑性層を乾燥厚0.9μmで形成し、その後40℃で5日間エージングすることで、耐熱滑性層付き基材シートAを作製し、 グラビアコート法により、基材シートAの耐熱滑性層非形成面に、長手方向に面順次に重ならないように、熱転写層1は、以下に特定する剥離層形成用インクを用いて、剥離層を乾燥厚0.5μmで形成したのち、剥離層上に以下に特定する接着層形成用インク−1を用いて、接着層を乾燥厚1.5μmで形成して、総厚2.0μmの保護層を形成し、 熱転写層2は、以下に特定する熱転写層形成用シアンインク−1を用いて、乾燥厚0.7μmの熱転写層を形成した、 熱転写層1、熱転写層2からなる熱転写シート。 <耐熱滑性層形成用インク−1> アクリルポリオール樹脂 15.0部 ステアリン酸亜鉛 1.5部 ポリオキシアルキレンアルキルエーテル 1.5部 タルク 1.0部 2,6−トリレンジイソシアネート 5.0部 トルエン 50.0部 メチルエチルケトン 20.0部 酢酸エチル 6.0部 <剥離層形成用インク> アクリル樹脂 18.0部 ポリエステル樹脂 1.0部 ポリエチレンパウダー 1.0部 トルエン 40.0部 メチルエチルケトン 40.0部 <接着層形成用インク−1> アクリル樹脂 10.0部 ポリエステル樹脂 10.0部 エポキシ樹脂 5.0部 トルエン 35.0部 メチルエチルケトン 40.0部 <熱転写層形成用シアンインク−1> C.I.ソルベントブルー63 1.5部 C.I.ソルベントブルー36 1.5部 ポリビニルブチラール樹脂 3.8部 シリコーン変性樹脂 1.0部 2,6−トリレンジイソシアネート 0.2部 テトラヒドロフラン 60.0部 メチルエチルケトン 31.0部」 5 甲13に記載された事項・発明 甲13の実施例1(【0053】)の保護層熱転写シートとして、【0022】、【0033】及び図2を総合すると、甲13には、以下の発明(以下「甲13発明」という。)が記載されていると認められる。 「グラビアコート法により、基材シートの一方の面に、以下に特定する耐熱滑性層形成用インクを用いて、耐熱滑性層を乾燥厚0.8μmで形成し、他方の面に、以下に特定する剥離層形成用インクを用いて、剥離層を乾燥厚0.8μmで形成した後、 剥離層上に、接着層形成用インクを用いて、接着層を乾燥厚2.0μmで形成して保護層を形成し、 さらに引き続いて、光沢調整層形成用インク−1と半径5μmのレンチキュラー表面からなるロールを用いて、電離放射線照射により、光沢調整層を平均乾燥厚6.0μmで面順次に形成することで、光沢調整層の表面光沢度7.8%の保護層熱転写シート。 <耐熱滑性層形成用インク> エポキシアクリレート 45.0部 ヘキサンジオールジアクリレート 20.0部 開始剤 1.0部 シリコーンオイル 6.0部 シリカ 3.0部 メチルアルコール 25.0部 <剥離層形成用インク> アクリル樹脂 18.0部 ポリエステル樹脂 1.0部 ポリエチレンパウダー 1.0部 トルエン 40.0部 メチルエチルケトン 40.0部 <接着層形成用インク> アクリル樹脂 10.0部 ポリエステル樹脂 5.0部 エポキシ樹脂 5.0部 ベンゾフェノン系紫外線吸収剤 5.0部 トルエン 35.0部 メチルエチルケトン 40.0部 <光沢調整層形成用インク−1> ウレタンアクリレート 50.0部 ヘキサンジオールジアクリレート 30.0部 シリコーンオイル 2.0部 メチルアルコール 18.0部」 6 甲14に記載された事項・発明 甲14の保護層熱転写シートとして、請求項1、請求項2、【0023】及び図1を総合すると、甲14には、以下の発明(以下「甲14発明」という。)が記載されていると認められる。 「耐熱性ベースフィルム上に、このベースフィルムから剥離容易な剥離層、紫外線吸収剤を含む接着層が順次積層してあり、該剥離層は熱可塑性樹脂と耐摩擦剤とが使用されてあって、該熱可塑性樹脂が85〜95重量部に対して、該耐摩擦剤は15〜5重量部であり、 前記剥離層の熱可塑性樹脂には、ポリメチルメタアクリレートか、ニトロセルロース、あるいはポリメチルメタアクリレートとニトロセルロースとの混合物のいずれかが使用されており、 前記剥離層には転写時の切れを向上するために剥離改善剤を混合し、剥離改善剤は線状飽和ポリエステル樹脂であり、前記熱可塑性樹脂が85〜95重量部に対して、耐摩擦剤が15〜5重量部をおよその基準とし、剥離改善剤の割合を3重量部以内に抑えておくべきである、 転写箔。」 7 甲16に記載された事項・発明 甲16の保護層用熱転写リボンとして、【0029】、【0030】、【0038】及び図2を総合すると、甲16には、以下の発明(以下「甲16発明」という。)が記載されていると認められる。 「厚さ6μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製ルミラー)の一方の面に、以下で特定する耐熱滑性層用インキをワイヤーバーコーティング法により塗布、乾燥後、さらに加熱熟成して硬化処理を施し、乾燥時で1g/m2の塗工量で耐熱滑性層を形成し、耐熱滑性層付基材シートを用意し、 以下で特定する剥離層用インキを作製し、耐熱滑性層付基材シートの耐熱滑性層とは反対面に、乾燥時で1g/m2の塗工量で、ワイヤーバーにて塗工し、ドライヤーで仮乾燥後、剥離層を形成し、 その剥離層上に下記の接着層用インキで、乾燥時で1g/m2の塗工量で塗工し、ドライヤーで仮乾燥後80℃のオーブン中で2分間乾燥し、接着層を形成してなる、 保護層用熱転写リボン。 (耐熱滑性層用インキの組成) ・ポリビニルブチラール樹脂 3.6部 (積水化学工業(株)製 エスレックBX−1) ・ポリイソシアネート 19.2部 (大日本インキ化学工業(株)製バーノックD750−45) ・リン酸エステル系界面活性剤 2.9部 (第一工業製薬(株)製 プライサーフA208S) ・リン酸エステル系界面活性剤 0.3部 (東邦化学(株)製 フォスファノールRD720) ・タルク 0.2部 (日本タルク(株)製:Y/X=0.03) ・メチルエチルケトン 33.0部 ・トルエン 33.0部 (剥離層用インキの組成) ・アクリル樹脂 100部 BR−87(三菱レイヨン(株)製) ・ポリエステル樹脂 2部 バイロン200(東洋紡績(株)製) ・トルエン/メチルエチルケトン=1/1 400部」 8 甲18に記載された事項・発明 甲18の保護層転写シートとして、実施例1(【0033】〜【0036】)、【0017】、【0020】、【0022】、【0023】及び図2を総合すると、甲18には、以下の発明(以下「甲18発明」という。)が記載されていると認められる。 「以下で特定する耐熱滑性層用インキ組成物を調整し、厚み4.5μmのポリエチレンテレフタレートフィルムに、乾燥後の耐熱滑性層の膜厚が1.0μmになるように塗布及び乾燥を行い、 以下で特定する組成の第一剥離層用インキ組成物を調製し、基材の耐熱滑性層を形成した面とは反対側の面に、乾燥後の第一剥離層の膜厚が0.2μmになるように塗布及び乾燥し、熱転写性保護層を設ける領域における第一剥離層の塗布部分面積は、グラビア版によるパターニング印刷により、5%となるように調整し、 以下で特定する組成の第二剥離層用インキ組成物を調製し、基材の第一剥離層を形成した面に、乾燥後の第二剥離層の膜厚が0.6μmになるように塗布及び乾燥し、 以下で特定する組成の接着層用インキ組成物を調製し、基材の第二剥離層を形成した面に、乾燥後の接着層の膜厚が0.8μmになるように塗布及び乾燥してなる、 保護層転写シート。 〔耐熱滑性層用インキ〕 ・アクリルポリオール樹脂 15部 ・2−6,トリレンジイソシアネート 5部 ・シリコーンフィラー(粒径1.0μm) 0.2部 ・アミノ変性シリコーンオイル 1部 ・メチルエチルケトン 40部 ・トルエン 40部 〔第一剥離層用インキ〕 ・BR−87 20.0部 (アクリル樹脂、Mw:25,000、三菱レイヨン(株)) ・バイロン200 0.06部 (ポリエステル樹脂、東洋紡(株)) ・メチルエチルケトン 39.97部 ・トルエン 39.97部 〔第二剥離層用インキ〕 ・BR−52 20.0部 (アクリル樹脂、Mw:85,000、三菱レイヨン(株)) ・バイロン200 0.06部 (ポリエステル樹脂、東洋紡(株)) ・メチルエチルケトン 39.97部 ・トルエン 39.97部 〔接着層用インキ〕 ・バイロン220 20.0部 (ポリエステル樹脂、東洋紡(株)) ・メチルエチルケトン 80.0部」 9 甲19に記載された事項・発明 甲19の保護層転写シートとして、実施例1、【0087】〜【0095】及び図4を総合すると、甲19には、以下の発明(以下「甲19発明」という。)が記載されていると認められる。 「厚さ6μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製 易接着処理品)の一方の面に、以下で特定する背面層形成用インキをグラビコート法により塗布(塗布量1.0g/m2(乾燥時))し、乾燥した後、加熱熟成して背面層を形成し、 次いで、背面層を形成したポリエチレンテレフタレートフィルムの他方の面に、グラビアコート法により以下で特定する離型層形成用インキを塗布(塗布量0.7g/m2(乾燥時))し、乾燥して離型層を形成し、 上記で形成された離型層の上に、グラビアコート法により以下で特定する剥離層形成用インキを、乾燥後の膜厚が1.0μmになるように塗布し、乾燥して剥離層を形成し、 次いで、上記で形成された剥離層の上に、グラビアコート法により以下で特定する耐可塑剤層形成用インキを、乾燥後の膜厚が1.5μmになるように塗布し、乾燥して耐可塑剤層を形成し、 更に、上記で形成された耐可塑剤層の上に、グラビアコート法により以下で特定する熱接着性樹脂層形成用インキを、乾燥後の膜厚が1.5μmになるように塗布し、乾燥して熱接着性樹脂層を形成した、 保護層転写シート。 (背面層形成用インキ) ・ポリビニルブチラール(積水化学工業(株)製、エスレックBX−1):15重量部 ・ポリイソシアネート(大日本インキ化学工業(株)製、バーノックD450):35重量部 ・燐酸エステル界面活性剤(第一工業製薬(株)製、プライサーフA208S):10重量部 ・タルク(日本タルク(株)製、ミクロエースP−3):3重量部 (離型層形成用インキ) ・シリコーン変性アクリル系樹脂(ダイセル化学工業(株)製、セルトップ226、固形分50%):16重量部 ・アルミニウム触媒(ダイセル化学工業(株)製、セルトップCAT−A、固形分10%):3重量部 ・メチルエチルケトン:8重量部 ・トルエン:8重量部 (剥離層形成用インキ) ・アクリル樹脂(三菱レーヨン(株)製、BR−85):40重量部 ・ポリエステル樹脂(東洋紡(株)製、バイロン200):2重量部 ・メチルエチルケトン:50重量部 ・トルエン:50重量部 (耐可塑剤層形成用インキ) ・共重合体(共重合体1〜共重合体8のいずれか1種):100重量部 ・メチルエチルケトン:50重量部 ・イソプロピルアルコール:50重量部 (熱接着性樹脂層形成用インキ) ・塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(電気化学工業(株)製、1000ALK):40重量部 ・メチルエチルケトン:50重量部 ・トルエン:50重量部」 10 理由1(進歩性)について (1) 甲3発明との対比・判断 ア 本件発明1について 本件発明1と甲3発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。 甲3発明の「基材」、「接着層」は、それぞれ、本件発明1の「基材」、「接着層」に相当する。甲3発明の「保護層」は、「基材の一方の面に」設けられるもので、「剥離層」の素材と同様なものであるので(【0021】)、本件発明1の「剥離層」に相当する。 また、本件発明1は、「剥離層」と「接着層」とで「熱転写性保護層」としているので(【0013】、図1)、甲3発明の「基材の一方の面に以下に特定する保護層用塗工液1を乾燥時塗布量が1.0g/m2になるように塗布し保護層を形成し、 次いで、保護層上に以下に特定するプライマー層用塗工液を乾燥時塗布量が0.1g/m2になるように塗布しプライマー層を形成し、 次いで、プライマー層上に以下に特定する接着層用塗工液を乾燥時塗布量が1.0g/m2になるように塗布し接着層を形成」されたものは、本件発明1の「熱転写性保護層」に相当する。 また、甲3発明の「熱転写性保護層」が「保護層」、「プライマー層」及び「接着層」の順に形成されていることと、本件発明1の「前記熱転写性保護層は、前記基材上に形成された剥離層と前記剥離層上に形成された接着層からな」ることとは、「前記熱転写性保護層は、前記基材上に形成された剥離層と接着層からな」る限りで一致する。 甲3発明の「基材の一方の面に以下に特定する保護層用塗工液1を乾燥時塗布量が1.0g/m2になるように塗布し保護層を形成し」たことは、層が一つで単一の層といえるものなので、本件発明1の「前記剥離層は単一の層であ」ることに相当する。 さらに、甲3発明の「保護層」を形成する「保護層用塗工液1」のうち、「・アクリル樹脂 5.965部 (BR−52 三菱レイヨン(株))」、「・ポリエステル樹脂 0.06部 (V220 東洋紡(株))」は、それぞれ、本件発明1の「剥離層」に「含有」される「第一の樹脂」、「第二の樹脂」に相当する。そうすると、その配合比は、5.965部:0.06部=1:0.01となり、甲3発明は、本件発明1の「前記第一の樹脂と前記第二の樹脂との配合比は、質量比で第一の樹脂:第二の樹脂=1:0.01〜0.05である」ことを満たすものである。 また、甲3発明の「<保護層用塗工液1> ・アクリル樹脂 5.965部 (BR−52 三菱レイヨン(株)) ・アクリル樹脂 13.919部 (BR−87 三菱レイヨン(株)) ・ポリエステル樹脂 0.06部 (V220 東洋紡(株)) ・リン酸エステル 0.199部 (A208N 第一工業製薬(株)) ・MEK 79.857部」であることと、本件発明1の「前記第一の樹脂は、ISO306のB50法により測定されたビカット軟化温度が75℃以上110℃以下の樹脂であって、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、セルロース系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、またはスチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂からな」ることとは、「前記第一の樹脂は、樹脂からな」る限りで一致する。 以上のことから、本件発明1と甲3発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 【一致点】 「基材の一方の面の少なくとも一部に熱転写性保護層を有する保護層転写シートであって、 前記熱転写性保護層は、前記基材上に形成された剥離層と接着層からなり、 前記剥離層は単一の層であり、 前記剥離層は第一の樹脂と第二の樹脂とを含有し、 前記第一の樹脂は、樹脂からなり、 前記第二の樹脂はポリエステル樹脂であり、 前記第一の樹脂と前記第二の樹脂との配合比は、質量比で第一の樹脂:第二の樹脂=1:0.01〜0.05である保護層転写シート。」 【相違点1】 熱転写性保護層は、基材上に形成された剥離層と接着層からなることについて、本件発明1は、「剥離層上に形成された接着層」とされているのに対して、甲3発明は、「基材の一方の面に以下に特定する保護層用塗工液1を乾燥時塗布量が1.0g/m2になるように塗布し保護層を形成し、次いで、保護層上に以下に特定するプライマー層用塗工液を乾燥時塗布量が0.1g/m2になるように塗布しプライマー層を形成し、次いで、プライマー層上に以下に特定する接着層用塗工液を乾燥時塗布量が1.0g/m2になるように塗布し接着層を形成」されていて、保護層と接着層の間にプライマー層と有している点。 【相違点2】 第一の樹脂は、樹脂からなることについて、本件発明1は、「ISO306のB50法により測定されたビカット軟化温度が75℃以上110℃以下の樹脂であって、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、セルロース系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、またはスチレン−アクリロニトリル共重合体」であるのに対して、甲1発明は、「・アクリル樹脂 5.965部 (BR−52 三菱レイヨン(株))」であって、そのビカット軟化温度が不明である点。 事案に鑑み、先ず相違点2について検討する。 本件発明1が、「前記剥離層は第一の樹脂と第二の樹脂とを含有し、前記第一の樹脂は、ISO306のB50法により測定されたビカット軟化温度が75℃以上110℃以下の樹脂であって、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、セルロース系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、またはスチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂からなり、」としているのは、「前記樹脂のビカット軟化温度が75℃未満であると、マット調の印画物を得るためにプリンタにて高い熱エネルギー(例えば10msec/line、0.60mJ/dot)を印加した際に、基材2と剥離層との融着が発生し、基材2が剥離層4から剥離できず、剥離中にプリンタが異常停止を起こしてしまう。」(【0014】)、「一方、前記樹脂のビカット軟化温度が110℃より大きくなると、光沢調の印画物を得るためにプリンタにて熱エネルギー(例えば10msec/line、0.40mJ/dot)を印加した際に、剥離層4が軟化することがなく、基材2と密着したまま剥離しないため、剥離中にプリンタが異常停止を起こしてしまう。」(【0015】)と、基材2と剥離層4との融着や剥離しないことについて着目して特定したものである。 これに対して、甲3発明は、「転写性保護層を転写するときに印加する熱エネルギーを高くしていった場合であっても、受容層と転写性保護層とが融着を起こすことや、受容層から転写性保護層を剥がす時に剥離痕を生ずることを防止でき、高品質な印画物を得ることができる保護層転写シートを提供することを主たる課題とする。」(【0008】)とあるように、保護層と受容層との融着、剥がれについて着目するもので、対象とする部位が本件発明1とは異なるもので、また、ビカット軟化温度に着目するところもない。 そうすると、甲9に、ポリスチレンのいくつかの製品について、ビカット軟化温度について記載があるとしても、製品によっては、ビカット軟化温度は異なるものであり(甲9の各ビカット軟化温度参照。)、甲3発明において用いられている第一の樹脂に相当するアクリル樹脂(BR−52(三菱レイヨン(株)))について、ポリスチレンに変更して、さらに、基材と剥離層との融着、剥がれについて着目して、ポリスチレンのビカット軟化温度を特定の温度範囲に調整することを当業者が容易になし得たこととはいえない。 したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明2及び3について 本件発明2及び3は、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記アで検討したのと同じ理由により、本件発明2及び3は、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2) 甲10発明との対比・判断 ア 本件発明1について 本件発明1と甲10発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。 甲10発明の「基材」、「接着層」、「保護層転写シート」は、それぞれ、本件発明1の「基材」、「接着層」、「保護層転写シート」に相当する。 甲10発明の「転写性保護層を構成する剥離層」は、本件発明1の「剥離層」に相当する。 また、本件発明1は、「剥離層」と「接着層」とで「熱転写性保護層」としているので(【0013】、図1)、甲10発明の「以下に特定する剥離層用塗工液1を乾燥時塗布量が1.5g/m2になるように塗布し転写性保護層を構成する剥離層を形成し、次いで、剥離層上に以下に特定する接着層用塗工液1を乾燥時塗布量が1.5g/m2になるように塗布し転写性保護層を構成する接着層を形成し」たものは、本件発明1の「熱転写性保護層」に相当する。そうすると、甲10発明の「基材として厚さ4.5μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを用い、この上に、以下に特定する剥離層用塗工液1を乾燥時塗布量が1.5g/m2になるように塗布し転写性保護層を構成する剥離層を形成し、次いで、剥離層上に以下に特定する接着層用塗工液1を乾燥時塗布量が1.5g/m2になるように塗布し転写性保護層を構成する接着層を形成し」したものは、本件発明1の「基材の一方の面の少なくとも一部に熱転写性保護層を有する保護層転写シート」に相当する。 また、甲10発明の「基材として厚さ4.5μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを用い、この上に、以下に特定する剥離層用塗工液1を乾燥時塗布量が1.5g/m2になるように塗布し転写性保護層を構成する剥離層を形成し、 次いで、剥離層上に以下に特定する接着層用塗工液1を乾燥時塗布量が1.5g/m2になるように塗布し転写性保護層を構成する接着層を形成し」したものは、本件発明1の「前記熱転写性保護層は、前記基材上に形成された剥離層と前記剥離層上に形成された接着層からな」ることに相当する。 甲10発明の「以下に特定する剥離層用塗工液1を乾燥時塗布量が1.5g/m2になるように塗布し転写性保護層を構成する」ことは、層が一つで単一の層といえるものなので、本件発明1の「前記剥離層は単一の層であ」ることに相当する。 さらに、甲10発明の「保護層」を形成する「保護層用塗工液1」のうち、「・アクリル樹脂 29.7部 (ダイヤナールBR−87、三菱レイヨン(株))」、「・ポリエステル樹脂 0.3部 (バイロン220 東洋紡(株))」は、それぞれ、本件発明1の「剥離層」に「含有」される「第一の樹脂」、「第二の樹脂」に相当する。 そうすると、その配合比は、29.7部:0.3部=1:0.01となり、甲10発明は、本件発明1の「前記第一の樹脂と前記第二の樹脂との配合比は、質量比で第一の樹脂:第二の樹脂=1:0.01〜0.05である」ことを満たすものである。 また、甲10発明の「<剥離層用塗工液1> ・アクリル樹脂 29.7部 (ダイヤナールBR−87、三菱レイヨン(株)) ・ポリエステル樹脂 0.3部 (バイロン220 東洋紡(株)) ・イオン液体(カチオン:BMP、アニオン:TFSI) 1.25部 ・トルエン 34.38部 ・メチルエチルケトン 34.37部」であることと、本件発明1の「前記第一の樹脂は、ISO306のB50法により測定されたビカット軟化温度が75℃以上110℃以下の樹脂であって、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、セルロース系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、またはスチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂からな」ることとは、「前記第一の樹脂は、樹脂からな」る限りで一致する。 以上のことから、本件発明1と甲10発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 【一致点】 「基材の一方の面の少なくとも一部に熱転写性保護層を有する保護層転写シートであって、 前記熱転写性保護層は、前記基材上に形成された剥離層と前記剥離層上に形成された接着層からなり、 前記剥離層は単一の層であり、 前記剥離層は第一の樹脂と第二の樹脂とを含有し、 前記第二の樹脂はポリエステル樹脂であり、 前記第一の樹脂と前記第二の樹脂との配合比は、質量比で第一の樹脂:第二の樹脂=1:0.01〜0.05である保護層転写シート。」 【相違点3】 第一の樹脂は、樹脂からなることについて、本件発明1は、「ISO306のB50法により測定されたビカット軟化温度が75℃以上110℃以下の樹脂であって、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、セルロース系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、またはスチレン−アクリロニトリル共重合体」であるのに対して、甲10発明は、「・アクリル樹脂 29.7部 (ダイヤナールBR−87、三菱レイヨン(株))」であって、そのビカット軟化温度が不明である点。 以下に、相違点3について検討する。 本件発明1が、「前記剥離層は第一の樹脂と第二の樹脂とを含有し、前記第一の樹脂は、ISO306のB50法により測定されたビカット軟化温度が75℃以上110℃以下の樹脂であって、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、セルロース系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、またはスチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂からなり、」としているのは、「前記樹脂のビカット軟化温度が75℃未満であると、マット調の印画物を得るためにプリンタにて高い熱エネルギー(例えば10msec/line、0.60mJ/dot)を印加した際に、基材2と剥離層との融着が発生し、基材2が剥離層4から剥離できず、剥離中にプリンタが異常停止を起こしてしまう。」(【0014】)、「一方、前記樹脂のビカット軟化温度が110℃より大きくなると、光沢調の印画物を得るためにプリンタにて熱エネルギー(例えば10msec/line、0.40mJ/dot)を印加した際に、剥離層4が軟化することがなく、基材2と密着したまま剥離しないため、剥離中にプリンタが異常停止を起こしてしまう。」(【0015】)と、基材2と剥離層4との融着や剥離しないことについて着目して特定したものである。 他方、甲10発明は、「転写性保護層に要求される光沢度、保存性、転写性等の基本機能を妨げることなく、転写性保護層の転写時における帯電防止性能を向上させることができる、或いは、転写性保護層の基本機能を妨げることなく、転写性保護層を転写後の印画物に帯電防止性能を付与することができる保護層転写シートを提供することを主たる課題とする。」(【0010】)とあるように、転写性保護層の転写時における帯電防止性能を向上させることについて着目するもので、また、ビカット軟化温度に着目するところもない。 そうすると、甲9に、ポリスチレンのいくつかの製品について、ビカット軟化温度について記載があるとしても、製品によっては、ビカット軟化温度は異なるものであり(甲9の各ビカット軟化温度参照。)、甲10発明において用いられている第一の樹脂に相当するアクリル樹脂(ダイヤナールBR−87、三菱レイヨン(株))について、ポリスチレンに変更して、さらに、基材と剥離層との融着、剥がれについて着目して、ポリスチレンのビカット軟化温度を特定の温度範囲に調整することを当業者が容易になし得たこととはいえない。 したがって、本件発明1は、甲10発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明2及び3について 本件発明2及び3は、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記アで検討したのと同じ理由により、本件発明2及び3は、甲10発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3) 甲12発明との対比・判断 ア 本件発明1について 本件発明1と甲12発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。 甲12発明の「耐熱滑性層付き基材シートA」、「剥離層」、「接着層」は、それぞれ、本件発明1の「基材」、「剥離層」、「接着層」に相当する。 また、本件発明1は、「剥離層」と「接着層」とで「熱転写性保護層」としているので(【0013】、図1)、甲12発明の「グラビアコート法により、基材シートAの耐熱滑性層非形成面に、長手方向に面順次に重ならないように、熱転写層1は、以下に特定する剥離層形成用インクを用いて、剥離層を乾燥厚0.5μmで形成したのち、剥離層上に以下に特定する接着層形成用インク−1を用いて、接着層を乾燥厚1.5μmで形成して、総厚2.0μmの保護層」は、本件発明1の「熱転写性保護層」に相当する。 そうすると、甲12発明の「熱転写シート」は、本件発明1の「基材の一方の面の少なくとも一部に熱転写性保護層を有する保護層転写シート」に相当する。 また、甲12発明の「グラビアコート法により、基材シートAの耐熱滑性層非形成面に、長手方向に面順次に重ならないように、熱転写層1は、以下に特定する剥離層形成用インクを用いて、剥離層を乾燥厚0.5μmで形成したのち、剥離層上に以下に特定する接着層形成用インク−1を用いて、接着層を乾燥厚1.5μmで形成し」たものは、本件発明1の「前記熱転写性保護層は、前記基材上に形成された剥離層と前記剥離層上に形成された接着層からな」ることに相当する。 甲12発明の「グラビアコート法により、基材シートAの耐熱滑性層非形成面に、長手方向に面順次に重ならないように、熱転写層1は、以下に特定する剥離層形成用インクを用いて、剥離層を乾燥厚0.5μmで形成し」たことは、層が一つで単一の層といえるものなので、本件発明1の「前記剥離層は単一の層であ」ることに相当する。 さらに、甲12発明の「剥離層」を形成する「剥離層形成用インク」のうち、「アクリル樹脂 18.0部」、「ポリエステル樹脂 1.0部」は、それぞれ、本件発明1の「剥離層」に「含有」される「第一の樹脂」、“「第二の樹脂」及び「前記第二の樹脂はポリエステル樹脂」であること”に相当する。 また、甲12発明の「<剥離層形成用インク> アクリル樹脂 18.0部 ポリエステル樹脂 1.0部 ポリエチレンパウダー 1.0部 トルエン 40.0部 メチルエチルケトン 40.0部」であることと、本件発明1の「前記第一の樹脂は、ISO306のB50法により測定されたビカット軟化温度が75℃以上110℃以下の樹脂であって、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、セルロース系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、またはスチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂からな」ることとは、「前記第一の樹脂は、樹脂からな」る限りで一致する。 以上のことから、本件発明1と甲12発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 【一致点】 「基材の一方の面の少なくとも一部に熱転写性保護層を有する保護層転写シートであって、 前記熱転写性保護層は、前記基材上に形成された剥離層と前記剥離層上に形成された接着層からなり、 前記剥離層は単一の層であり、 前記剥離層は第一の樹脂と第二の樹脂とを含有し、 前記第一の樹脂は、樹脂からなり、 前記第二の樹脂はポリエステル樹脂である、 保護層転写シート。」 【相違点4】 第一の樹脂は、樹脂からなることについて、本件発明1は、「ISO306のB50法により測定されたビカット軟化温度が75℃以上110℃以下の樹脂であって、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、セルロース系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、またはスチレン−アクリロニトリル共重合体」であるのに対して、甲12発明は、「アクリル樹脂 18.0部」であって、そのビカット軟化温度が不明である点。 【相違点5】 第一樹脂、第二樹脂について、本件発明1は、「前記第一の樹脂と前記第二の樹脂との配合比は、質量比で第一の樹脂:第二の樹脂=1:0.01〜0.05である」のに対して、甲12発明は、「アクリル樹脂 18.0部 ポリエステル樹脂 1.0部」である点。 先ず相違点4について検討する。 本件発明1が、「前記剥離層は第一の樹脂と第二の樹脂とを含有し、前記第一の樹脂は、ISO306のB50法により測定されたビカット軟化温度が75℃以上110℃以下の樹脂であって、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、セルロース系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、またはスチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂からなり、」としているのは、「前記樹脂のビカット軟化温度が75℃未満であると、マット調の印画物を得るためにプリンタにて高い熱エネルギー(例えば10msec/line、0.60mJ/dot)を印加した際に、基材2と剥離層との融着が発生し、基材2が剥離層4から剥離できず、剥離中にプリンタが異常停止を起こしてしまう。」(【0014】)、「一方、前記樹脂のビカット軟化温度が110℃より大きくなると、光沢調の印画物を得るためにプリンタにて熱エネルギー(例えば10msec/line、0.40mJ/dot)を印加した際に、剥離層4が軟化することがなく、基材2と密着したまま剥離しないため、剥離中にプリンタが異常停止を起こしてしまう。」(【0015】)と、基材2と剥離層4との融着や剥離しないことについて着目して特定したものである。 他方、甲12発明は、「複数の熱転写層をもつ熱転写シートを用いることで、熱転写層毎に熱転写シートを使用する場合と比べて、プリンタ内の熱転写シートが占めるスペースが小型化されるうえ、熱転写層の一層として保護層を設けることで、印画物への耐久性を付与することができ、高速化と低コスト化に関しては、複数の膜厚の異なる熱転写層と耐熱滑性層の動摩擦係数の差に起因した歪みや皺を防止することで、プリンタにおける高速走行を安定化させ、その結果非印画部領域を極力少なくすることができる熱転写シートを提供すること」(【0009】)とあるように、「複数の熱転写層をもつ熱転写シートを用いること」、「複数の膜厚の異なる熱転写層と耐熱滑性層の動摩擦係数の差に起因した歪みや皺を防止すること」について着目するもので、また、ビカット軟化温度に着目するところもない。 そうすると、甲9に、ポリスチレンのいくつかの製品について、ビカット軟化温度について記載があるとしても、製品によっては、ビカット軟化温度は異なるものであり(甲9の各ビカット軟化温度参照。)、甲12発明において用いられている第一の樹脂に相当するアクリル樹脂について、ポリスチレンに変更して、さらに、基材と剥離層との融着、剥がれについて着目して、ポリスチレンのビカット軟化温度を特定の温度範囲に調整することを当業者が容易になし得たこととはいえない。 したがって、本件発明1は、甲12発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明2及び3について 本件発明2及び3は、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記アで検討したのと同じ理由により、本件発明2及び3は、甲12発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4) 甲13発明との対比・判断 ア 本件発明1について 本件発明1と甲13発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。 甲13発明の「基材シート」、「剥離層」、「接着層」は、それぞれ、本件発明1の「基材」、「剥離層」、「接着層」に相当する。 また、本件発明1は、「剥離層」と「接着層」とで「熱転写性保護層」としているので(【0013】、図1)、甲13発明の「グラビアコート法により、基材シートの一方の面に、以下に特定する耐熱滑性層形成用インクを用いて、耐熱滑性層を乾燥厚0.8μmで形成し、他方の面に、剥離層形成用インクを用いて、剥離層を乾燥厚0.8μmで形成した後、剥離層上に、接着層形成用インクを用いて、接着層を乾燥厚2.0μmで形成して保護層」は、本件発明1の「熱転写性保護層」に相当する。 そうすると、甲13発明の「保護層熱転写シート」は、本件発明1の「基材の一方の面の少なくとも一部に熱転写性保護層を有する保護層転写シート」に相当する。 また、甲13発明の「グラビアコート法により、基材シートの一方の面に、以下に特定する耐熱滑性層形成用インクを用いて、耐熱滑性層を乾燥厚0.8μmで形成し、他方の面に、剥離層形成用インクを用いて、剥離層を乾燥厚0.8μmで形成した後、 剥離層上に、接着層形成用インクを用いて、接着層を乾燥厚2.0μmで形成し」たものは、本件発明1の「前記熱転写性保護層は、前記基材上に形成された剥離層と前記剥離層上に形成された接着層からな」ることに相当する。 甲13発明の「剥離層形成用インクを用いて、剥離層を乾燥厚0.8μmで形成し」たことは、層が一つで単一の層といえるものなので、本件発明1の「前記剥離層は単一の層であ」ることに相当する。 さらに、甲13発明の「剥離層」を形成する「剥離層形成用インク」のうち、「アクリル樹脂 18.0部」、「ポリエステル樹脂 1.0部」は、それぞれ、本件発明1の「剥離層」に「含有」される「第一の樹脂」、“「第二の樹脂」及び「前記第二の樹脂はポリエステル樹脂」であること”に相当する。 また、甲13発明の「<剥離層形成用インク> アクリル樹脂 18.0部 ポリエステル樹脂 1.0部 ポリエチレンパウダー 1.0部 トルエン 40.0部 メチルエチルケトン 40.0部」であることと、本件発明1の「前記第一の樹脂は、ISO306のB50法により測定されたビカット軟化温度が75℃以上110℃以下の樹脂であって、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、セルロース系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、またはスチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂からな」ることとは、「前記第一の樹脂は、樹脂からな」る限りで一致する。 以上のことから、本件発明1と甲13発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 【一致点】 「基材の一方の面の少なくとも一部に熱転写性保護層を有する保護層転写シートであって、 前記熱転写性保護層は、前記基材上に形成された剥離層と前記剥離層上に形成された接着層からなり、 前記剥離層は単一の層であり、 前記剥離層は第一の樹脂と第二の樹脂とを含有し、 前記第一の樹脂は、樹脂からなり、 前記第二の樹脂はポリエステル樹脂である、 保護層転写シート。」 【相違点6】 第一の樹脂は、樹脂からなることについて、本件発明1は、「ISO306のB50法により測定されたビカット軟化温度が75℃以上110℃以下の樹脂であって、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、セルロース系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、またはスチレン−アクリロニトリル共重合体」であるのに対して、甲13発明は、「アクリル樹脂 18.0部」であって、そのビカット軟化温度が不明である点。 【相違点7】 第一樹脂、第二樹脂について、本件発明1は、「前記第一の樹脂と前記第二の樹脂との配合比は、質量比で第一の樹脂:第二の樹脂=1:0.01〜0.05である」のに対して、甲13発明は、「アクリル樹脂 18.0部 ポリエステル樹脂 1.0部」である点。 先ず相違点6について検討する。 本件発明1が、「前記剥離層は第一の樹脂と第二の樹脂とを含有し、前記第一の樹脂は、ISO306のB50法により測定されたビカット軟化温度が75℃以上110℃以下の樹脂であって、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、セルロース系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、またはスチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂からなり、」としているのは、「前記樹脂のビカット軟化温度が75℃未満であると、マット調の印画物を得るためにプリンタにて高い熱エネルギー(例えば10msec/line、0.60mJ/dot)を印加した際に、基材2と剥離層との融着が発生し、基材2が剥離層4から剥離できず、剥離中にプリンタが異常停止を起こしてしまう。」(【0014】)、「一方、前記樹脂のビカット軟化温度が110℃より大きくなると、光沢調の印画物を得るためにプリンタにて熱エネルギー(例えば10msec/line、0.40mJ/dot)を印加した際に、剥離層4が軟化することがなく、基材2と密着したまま剥離しないため、剥離中にプリンタが異常停止を起こしてしまう。」(【0015】)と、基材2と剥離層4との融着や剥離しないことについて着目して特定したものである。 他方、甲13発明は、「印画物上に形成される保護層表面を印画画像に応じて光沢調整可能にすることで印画画像を高品位化させ、しかも、耐久性の面でも従来からの単調な保護層と大差ない印画物を得ることが可能な光沢調整層を有する保護層付き熱転写シートおよび印画物を提供すること」(【0010】)とあるように、「光沢調整層」について着目するもので、また、ビカット軟化温度に着目するところもない。 そうすると、甲9に、ポリスチレンのいくつかの製品について、ビカット軟化温度について記載があるとしても、製品によっては、ビカット軟化温度は異なるものであり(甲9の各ビカット軟化温度参照。)、甲13発明において用いられている第一の樹脂に相当するアクリル樹脂について、ポリスチレンに変更して、さらに、基材と剥離層との融着、剥がれについて着目して、ポリスチレンのビカット軟化温度を特定の温度範囲に調整することを当業者が容易になし得たこととはいえない。 したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲13発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明2及び3について 本件発明2及び3は、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記アで検討したのと同じ理由により、本件発明2及び3は、甲13発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (5) 甲14発明との対比・判断 ア 本件発明1について 本件発明1と甲14発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。 甲14発明の「耐熱性ベースフィルム」、「剥離層」、「接着層」は、それぞれ、本件発明1の「基材」、「剥離層」、「接着層」に相当する。 また、本件発明1は、「剥離層」と「接着層」とで「熱転写性保護層」としているので(【0013】、図1)、甲14発明の「このベースフィルムから剥離容易な剥離層、紫外線吸収剤を含む接着層が順次積層してあ」るものは、本件発明1の「熱転写性保護層」に相当する。 そうすると、甲14発明の「転写箔」は、本件発明1の「基材の一方の面の少なくとも一部に熱転写性保護層を有する保護層転写シート」に相当する。 また、甲14発明の「耐熱性ベースフィルム上に、このベースフィルムから剥離容易な剥離層、紫外線吸収剤を含む接着層が順次積層してあ」るものは、本件発明1の「前記熱転写性保護層は、前記基材上に形成された剥離層と前記剥離層上に形成された接着層からな」ることに相当する。 甲14発明の「このベースフィルムから剥離容易な剥離層」は「熱可塑性樹脂と耐摩擦剤とが使用され」たもので、図1を参照すると、層が一つで単一の層といえるものなので、本件発明1の「前記剥離層は単一の層であ」ることに相当する。 さらに、甲14発明の「剥離層」を形成する「熱可塑性樹脂」及び「ポリメチルメタアクリレートか、ニトロセルロース、あるいはポリメチルメタアクリレートとニトロセルロースとの混合物」は、本件発明1の「剥離層」に「含有」される「第一の樹脂」に相当する。また、甲14発明の「剥離層」に混合される「剥離改善剤」及び「線状飽和ポリエステル樹脂」は、本件発明1の「第二の樹脂」及び「前記第二の樹脂はポリエステル樹脂」に相当する。 また、甲14発明の「前記剥離層の熱可塑性樹脂には、ポリメチルメタアクリレートか、ニトロセルロース、あるいはポリメチルメタアクリレートとニトロセルロースとの混合物のいずれかが使用されてお」ることと、本件発明1の「前記第一の樹脂は、ISO306のB50法により測定されたビカット軟化温度が75℃以上110℃以下の樹脂であって、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、セルロース系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、またはスチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂からな」ることとは、「前記第一の樹脂は、樹脂からな」る限りで一致する。 以上のことから、本件発明1と甲14発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 【一致点】 「基材の一方の面の少なくとも一部に熱転写性保護層を有する保護層転写シートであって、 前記熱転写性保護層は、前記基材上に形成された剥離層と前記剥離層上に形成された接着層からなり、 前記剥離層は単一の層であり、 前記剥離層は第一の樹脂と第二の樹脂とを含有し、 前記第一の樹脂は、樹脂からなり、 前記第二の樹脂はポリエステル樹脂である、 保護層転写シート。」 【相違点8】 第一の樹脂は、樹脂からなることについて、本件発明1は、「ISO306のB50法により測定されたビカット軟化温度が75℃以上110℃以下の樹脂であって、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、セルロース系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、またはスチレン−アクリロニトリル共重合体」であるのに対して、甲14発明は、「前記剥離層の熱可塑性樹脂には、ポリメチルメタアクリレートか、ニトロセルロース、あるいはポリメチルメタアクリレートとニトロセルロースとの混合物のいずれかが使用されてお」る点。 【相違点9】 第一樹脂、第二樹脂について、本件発明1は、「前記第一の樹脂と前記第二の樹脂との配合比は、質量比で第一の樹脂:第二の樹脂=1:0.01〜0.05である」のに対して、甲14発明は、「前記熱可塑性樹脂が85〜95重量部に対して、耐摩擦剤が15〜5重量部をおよその基準とし、剥離改善剤の割合を3重量部以内に抑えておくべきである」とされている点。 先ず相違点8について検討する。 本件発明1が、「前記剥離層は第一の樹脂と第二の樹脂とを含有し、前記第一の樹脂は、ISO306のB50法により測定されたビカット軟化温度が75℃以上110℃以下の樹脂であって、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、セルロース系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、またはスチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂からなり、」としているのは、「前記樹脂のビカット軟化温度が75℃未満であると、マット調の印画物を得るためにプリンタにて高い熱エネルギー(例えば10msec/line、0.60mJ/dot)を印加した際に、基材2と剥離層との融着が発生し、基材2が剥離層4から剥離できず、剥離中にプリンタが異常停止を起こしてしまう。」(【0014】)、「一方、前記樹脂のビカット軟化温度が110℃より大きくなると、光沢調の印画物を得るためにプリンタにて熱エネルギー(例えば10msec/line、0.40mJ/dot)を印加した際に、剥離層4が軟化することがなく、基材2と密着したまま剥離しないため、剥離中にプリンタが異常停止を起こしてしまう。」(【0015】)と、基材2と剥離層4との融着や剥離しないことについて着目して特定したものである。 他方、甲14発明は、「昇華性染料で染色されたプラスチック表面に保護層を設けることにより、染色画像の化学的及び機械的損傷をよく防止でき、かつ光による変褪色もよく防止できる保護層を容易に形成可能な転写箔を提供すること、並びに、性能が高く、染色画像の化学的及び機械的損傷をよく防止でき、かつ光による変褪色もよく防止できる保護層を有する画像記録媒体を提供すること」(【0008】)とあるように、「昇華性染料で染色されたプラスチック表面に保護層を設ける」ことについて着目するもので、また、ビカット軟化温度に着目するところもない。 そうすると、甲9に、ポリスチレンのいくつかの製品について、ビカット軟化温度について記載があるとしても、製品によっては、ビカット軟化温度は異なるものであり(甲9の各ビカット軟化温度参照。)、甲14発明において用いられている第一の樹脂に相当する“ポリメチルメタアクリレートか、ニトロセルロース、あるいはポリメチルメタアクリレートとニトロセルロースとの混合物”について、ポリスチレンに変更して、さらに、基材と剥離層との融着、剥がれについて着目して、ポリスチレンのビカット軟化温度を特定の温度範囲に調整することを当業者が容易になし得たこととはいえない。 したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲14発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明2及び3について 本件発明2及び3は、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記アで検討したのと同じ理由により、本件発明2及び3は、甲14発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (6) 甲16発明との対比・判断 ア 本件発明1について 本件発明1と甲16発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。 甲16発明の「耐熱滑性層付基材シート」、「剥離層」、「接着層」は、それぞれ、本件発明1の「基材」、「剥離層」、「接着層」に相当する。 また、本件発明1は、「剥離層」と「接着層」とで「熱転写性保護層」としているので(【0013】、図1)、甲16発明の「以下で特定する剥離層用インキを作製し、耐熱滑性層付基材シートの耐熱滑性層とは反対面に、乾燥時で1g/m2の塗工量で、ワイヤーバーにて塗工し、ドライヤーで仮乾燥後、剥離層を形成し、その剥離層上に下記の接着層用インキで、乾燥時で1g/m2の塗工量で塗工し、ドライヤーで仮乾燥後80℃のオーブン中で2分間乾燥し、接着層を形成してなる」ものは、本件発明1の「熱転写性保護層」に相当する。 そうすると、甲16発明の「保護層用熱転写リボン」は、本件発明1の「基材の一方の面の少なくとも一部に熱転写性保護層を有する保護層転写シート」に相当する。 また、甲16発明の「以下で特定する剥離層用インキを作製し、耐熱滑性層付基材シートの耐熱滑性層とは反対面に、乾燥時で1g/m2の塗工量で、ワイヤーバーにて塗工し、ドライヤーで仮乾燥後、剥離層を形成し、 その剥離層上に下記の接着層用インキで、乾燥時で1g/m2の塗工量で塗工し、ドライヤーで仮乾燥後80℃のオーブン中で2分間乾燥し、接着層を形成してなる」ものは、本件発明1の「前記熱転写性保護層は、前記基材上に形成された剥離層と前記剥離層上に形成された接着層からな」ることに相当する。 甲16発明の「以下で特定する剥離層用インキを作製し、耐熱滑性層付基材シートの耐熱滑性層とは反対面に、乾燥時で1g/m2の塗工量で、ワイヤーバーにて塗工し、ドライヤーで仮乾燥後、剥離層を形成」されたものなので、単一の層といえ、本件発明1の「前記剥離層は単一の層であ」ることに相当する。 さらに、甲16発明の「剥離層」を形成する「・アクリル樹脂 100部 BR−87(三菱レイヨン(株)製)」は、本件発明1の「剥離層」に「含有」される「第一の樹脂」に相当する。また、甲16発明の「剥離層」に混合される「・ポリエステル樹脂 2部 バイロン200(東洋紡績(株)製)」は、本件発明1の「第二の樹脂」及び「前記第二の樹脂はポリエステル樹脂」に相当する。 また、甲16発明の「(剥離層用インキの組成) ・アクリル樹脂 100部 BR−87(三菱レイヨン(株)製) ・ポリエステル樹脂 2部 バイロン200(東洋紡績(株)製) ・トルエン/メチルエチルケトン=1/1 400部」であることと、本件発明1の「前記第一の樹脂は、ISO306のB50法により測定されたビカット軟化温度が75℃以上110℃以下の樹脂であって、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、セルロース系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、またはスチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂からな」ることとは、「前記第一の樹脂は、樹脂からな」る限りで一致する。 以上のことから、本件発明1と甲16発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 【一致点】 「基材の一方の面の少なくとも一部に熱転写性保護層を有する保護層転写シートであって、 前記熱転写性保護層は、前記基材上に形成された剥離層と前記剥離層上に形成された接着層からなり、 前記剥離層は単一の層であり、 前記剥離層は第一の樹脂と第二の樹脂とを含有し、 前記第一の樹脂は、樹脂からなり、 前記第二の樹脂はポリエステル樹脂である、 保護層転写シート。」 【相違点10】 第一の樹脂は、樹脂からなることについて、本件発明1は、「ISO306のB50法により測定されたビカット軟化温度が75℃以上110℃以下の樹脂であって、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、セルロース系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、またはスチレン−アクリロニトリル共重合体」であるのに対して、甲16発明は、「・アクリル樹脂 100部 BR−87(三菱レイヨン(株)製)」である点。 【相違点11】 第一樹脂、第二樹脂について、本件発明1は、「前記第一の樹脂と前記第二の樹脂との配合比は、質量比で第一の樹脂:第二の樹脂=1:0.01〜0.05である」のに対して、甲16発明は、「・アクリル樹脂 100部 BR−87(三菱レイヨン(株)製) ・ポリエステル樹脂 2部 バイロン200(東洋紡績(株)製)」とされている点。 先ず相違点10について検討する。 本件発明1が、「前記剥離層は第一の樹脂と第二の樹脂とを含有し、前記第一の樹脂は、ISO306のB50法により測定されたビカット軟化温度が75℃以上110℃以下の樹脂であって、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、セルロース系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、またはスチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂からなり、」としているのは、「前記樹脂のビカット軟化温度が75℃未満であると、マット調の印画物を得るためにプリンタにて高い熱エネルギー(例えば10msec/line、0.60mJ/dot)を印加した際に、基材2と剥離層との融着が発生し、基材2が剥離層4から剥離できず、剥離中にプリンタが異常停止を起こしてしまう。」(【0014】)、「一方、前記樹脂のビカット軟化温度が110℃より大きくなると、光沢調の印画物を得るためにプリンタにて熱エネルギー(例えば10msec/line、0.40mJ/dot)を印加した際に、剥離層4が軟化することがなく、基材2と密着したまま剥離しないため、剥離中にプリンタが異常停止を起こしてしまう。」(【0015】)と、基材2と剥離層4との融着や剥離しないことについて着目して特定したものである。 他方、甲16発明は、「熱転写プリントシステムを用いて、任意の物品に装飾を施す際に、手間や費用がかからずに必要な画像形成材料を作製でき、かつ容易に任意の物品に画像を形成して装飾をすることができる画像形成材料及びそれを用いた装飾方法を提供すること」(【0005】)を課題とし、「被転写体への密着性を考慮し、ガラス転移温度Tgが50℃〜100℃の熱可塑性樹脂からなることが好ましい。ここにおける被転写体とは、アクリルフィルムやポリエステルフィルム等の上記に説明した印刷シートの基材シートである」(【0015】)とあるように、被転写体への密着性について着目するもので、また、ビカット軟化温度に着目するところもない。 そうすると、甲9に、ポリスチレンのいくつかの製品について、ビカット軟化温度について記載があるとしても、製品によっては、ビカット軟化温度は異なるものであり(甲9の各ビカット軟化温度参照。)、甲16発明において用いられている第一の樹脂に相当するアクリル樹脂(BR−87(三菱レイヨン(株)製))について、ポリスチレンに変更して、さらに、基材と剥離層との融着、剥がれについて着目して、ポリスチレンのビカット軟化温度を特定の温度範囲に調整することを当業者が容易になし得たこととはいえない。 したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲16発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明2及び3について 本件発明2及び3は、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記アで検討したのと同じ理由により、本件発明2及び3は、甲16発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (7) 甲18発明との対比・判断 ア 本件発明1について 本件発明1と甲18発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。 甲18発明の「ポリエチレンテレフタレートフィルム」、「第一剥離層」及び「第二剥離層」、「接着層」は、それぞれ、本件発明1の「基材」、「剥離層」、「接着層」に相当する。 また、本件発明1は、「剥離層」と「接着層」とで「熱転写性保護層」としているので(【0013】、図1)、甲18発明の「以下で特定する組成の第一剥離層用インキ組成物を調製し、基材の耐熱滑性層を形成した面とは反対側の面に、乾燥後の第一剥離層の膜厚が0.2μmになるように塗布及び乾燥し、熱転写性保護層を設ける領域における第一剥離層の塗布部分面積は、グラビア版によるパターニング印刷により、5%となるように調整し、 以下で特定する組成の第二剥離層用インキ組成物を調製し、基材の第一剥離層を形成した面に、乾燥後の第二剥離層の膜厚が0.6μmになるように塗布及び乾燥し、 以下で特定する組成の接着層用インキ組成物を調製し、基材の第二剥離層を形成した面に、乾燥後の接着層の膜厚が0.8μmになるように塗布及び乾燥してなる」ものは、は、本件発明1の「熱転写性保護層」に相当する。 そうすると、甲18発明の「保護層転写シート」は、本件発明1の「基材の一方の面の少なくとも一部に熱転写性保護層を有する保護層転写シート」に相当する。 また、甲18発明の「以下で特定する組成の第一剥離層用インキ組成物を調製し、基材の耐熱滑性層を形成した面とは反対側の面に、乾燥後の第一剥離層の膜厚が0.2μmになるように塗布及び乾燥し、熱転写性保護層を設ける領域における第一剥離層の塗布部分面積は、グラビア版によるパターニング印刷により、5%となるように調整し、 以下で特定する組成の第二剥離層用インキ組成物を調製し、基材の第一剥離層を形成した面に、乾燥後の第二剥離層の膜厚が0.6μmになるように塗布及び乾燥し、 以下で特定する組成の接着層用インキ組成物を調製し、基材の第二剥離層を形成した面に、乾燥後の接着層の膜厚が0.8μmになるように塗布及び乾燥してなる」ものは、本件発明1の「前記熱転写性保護層は、前記基材上に形成された剥離層と前記剥離層上に形成された接着層からな」ることに相当する。 以上のことから、本件発明1と甲18発明との一致点及び相違点は、次のとおりである 【一致点】 「基材の一方の面の少なくとも一部に熱転写性保護層を有する保護層転写シートであって、 前記熱転写性保護層は、前記基材上に形成された剥離層と前記剥離層上に形成された接着層からなる、 保護層転写シート。」 【相違点12】 剥離層について、本件発明1は、「前記剥離層は単一の層であり、 前記剥離層は第一の樹脂と第二の樹脂とを含有し、 前記第一の樹脂は、ISO306のB50法により測定されたビカット軟化温度が75℃以上110℃以下の樹脂であって、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、セルロース系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、またはスチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂からなり、 前記第二の樹脂はポリエステル樹脂であり、 前記第一の樹脂と前記第二の樹脂との配合比は、質量比で第一の樹脂:第二の樹脂=1:0.01〜0.05である」とされているのに対して、甲18発明は、「以下で特定する組成の第一剥離層用インキ組成物を調製し、基材の耐熱滑性層を形成した面とは反対側の面に、乾燥後の第一剥離層の膜厚が0.2μmになるように塗布及び乾燥し、熱転写性保護層を設ける領域における第一剥離層の塗布部分面積は、グラビア版によるパターニング印刷により、5%となるように調整し、 以下で特定する組成の第二剥離層用インキ組成物を調製し、基材の第一剥離層を形成した面に、乾燥後の第二剥離層の膜厚が0.6μmになるように塗布及び乾燥し」たものである点。 以下に相違点12について検討する。 本件発明1が、「前記剥離層は第一の樹脂と第二の樹脂とを含有し、前記第一の樹脂は、ISO306のB50法により測定されたビカット軟化温度が75℃以上110℃以下の樹脂であって、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、セルロース系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、またはスチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂からなり、」としているのは、「前記樹脂のビカット軟化温度が75℃未満であると、マット調の印画物を得るためにプリンタにて高い熱エネルギー(例えば10msec/line、0.60mJ/dot)を印加した際に、基材2と剥離層との融着が発生し、基材2が剥離層4から剥離できず、剥離中にプリンタが異常停止を起こしてしまう。」(【0014】)、「一方、前記樹脂のビカット軟化温度が110℃より大きくなると、光沢調の印画物を得るためにプリンタにて熱エネルギー(例えば10msec/line、0.40mJ/dot)を印加した際に、剥離層4が軟化することがなく、基材2と密着したまま剥離しないため、剥離中にプリンタが異常停止を起こしてしまう。」(【0015】)と、基材2と剥離層4との融着や剥離しないことについて着目して特定したものである。 他方、甲18発明は、「同一の保護層転写シートでありながら、熱エネルギーの印加条件に応じて、光沢調の印画物やセミグロス調の印画物、マット調の印画物を得ることができる、優れた保護層転写シートを提供すること」(【0012】)を課題とするものの、そのために「以下で特定する組成の第一剥離層用インキ組成物を調製し、基材の耐熱滑性層を形成した面とは反対側の面に、乾燥後の第一剥離層の膜厚が0.2μmになるように塗布及び乾燥し、熱転写性保護層を設ける領域における第一剥離層の塗布部分面積は、グラビア版によるパターニング印刷により、5%となるように調整し、 以下で特定する組成の第二剥離層用インキ組成物を調製し、基材の第一剥離層を形成した面に、乾燥後の第二剥離層の膜厚が0.6μmになるように塗布及び乾燥」するものでであって、剥離層を第一剥離層、第二剥離層の複数から構成するものである。 また、ビカット軟化温度に着目するところもない。 そうすると、甲18発明において、剥離層を本件発明1のように「単一の層」とすることの動機はなく、さらに、「単一の層」としての第一の樹脂と第二の樹脂とを考慮することはない。 甲9に、ポリスチレンのいくつかの製品について、ビカット軟化温度について記載があるとしても、製品によっては、ビカット軟化温度は異なるものであり(甲9の各ビカット軟化温度参照。)、「単一の層」における第一の樹脂についてそのビカット軟化温度や配合比について検討することはない。 したがって、本件発明1は、甲18発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明2及び3について 本件発明2及び3は、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記アで検討したのと同じ理由により、本件発明2及び3は、甲18発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (8) 甲19発明との対比・判断 ア 本件発明1について 本件発明1と甲19発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。 甲19発明の「ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製 易接着処理品)」、「剥離層」、「熱接着性樹脂層」は、それぞれ、本件発明1の「基材」、「剥離層」、「接着層」に相当する。 また、本件発明1は、「剥離層」と「接着層」とで「熱転写性保護層」としているので(【0013】、図1)、甲19発明の「上記で形成された離型層の上に、グラビアコート法により以下で特定する剥離層形成用インキを、乾燥後の膜厚が1.0μmになるように塗布し、乾燥して剥離層を形成し、次いで、上記で形成された剥離層の上に、グラビアコート法により以下で特定する耐可塑剤層形成用インキを、乾燥後の膜厚が1.5μmになるように塗布し、乾燥して耐可塑剤層を形成し、 更に、上記で形成された耐可塑剤層の上に、グラビアコート法により以下で特定する熱接着性樹脂層形成用インキを、乾燥後の膜厚が1.5μmになるように塗布し、乾燥して熱接着性樹脂層を形成した」ものは、本件発明1の「熱転写性保護層」に相当する。 そうすると、甲19発明の「保護層転写シート」は、本件発明1の「基材の一方の面の少なくとも一部に熱転写性保護層を有する保護層転写シート」に相当する。 また、甲19発明の「背面層を形成したポリエチレンテレフタレートフィルムの他方の面に、グラビアコート法により以下で特定する離型層形成用インキを塗布(塗布量0.7g/m2(乾燥時))し、乾燥して離型層を形成し、 上記で形成された離型層の上に、グラビアコート法により以下で特定する剥離層形成用インキを、乾燥後の膜厚が1.0μmになるように塗布し、乾燥して剥離層を形成し、 次いで、上記で形成された剥離層の上に、グラビアコート法により以下で特定する耐可塑剤層形成用インキを、乾燥後の膜厚が1.5μmになるように塗布し、乾燥して耐可塑剤層を形成し、 更に、上記で形成された耐可塑剤層の上に、グラビアコート法により以下で特定する熱接着性樹脂層形成用インキを、乾燥後の膜厚が1.5μmになるように塗布し、乾燥して熱接着性樹脂層を形成した」ものと、本件発明1の「前記熱転写性保護層は、前記基材上に形成された剥離層と前記剥離層上に形成された接着層からな」るものとは、「前記熱転写性保護層は、剥離層と接着層とを備える」限りで一致する。 甲19発明の「上記で形成された離型層の上に、グラビアコート法により以下で特定する剥離層形成用インキを、乾燥後の膜厚が1.0μmになるように塗布し、乾燥して剥離層を形成」されたものなので、単一の層といえ、本件発明1の「前記剥離層は単一の層であ」ることに相当する。 さらに、甲19発明の「剥離層」を形成する「・アクリル樹脂(三菱レーヨン(株)製、BR−85):40重量部」は、本件発明1の「剥離層」に「含有」される「第一の樹脂」に相当する。また、甲19発明の「剥離層」に混合される「・ポリエステル樹脂(東洋紡(株)製、バイロン200):2重量部」は、本件発明1の「第二の樹脂」及び「前記第二の樹脂はポリエステル樹脂」に相当する。 また、甲19発明の「(剥離層形成用インキ) ・アクリル樹脂(三菱レーヨン(株)製、BR−85):40重量部 ・ポリエステル樹脂(東洋紡(株)製、バイロン200):2重量部 ・メチルエチルケトン:50重量部 ・トルエン:50重量部」であることと、本件発明1の「前記第一の樹脂は、ISO306のB50法により測定されたビカット軟化温度が75℃以上110℃以下の樹脂であって、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、セルロース系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、またはスチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂からな」ることとは、「前記第一の樹脂は、樹脂からな」る限りで一致する。 以上のことから、本件発明1と甲19発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 【一致点】 「基材の一方の面の少なくとも一部に熱転写性保護層を有する保護層転写シートであって、 前記熱転写性保護層は、前記基材上に形成された剥離層と前記剥離層上に形成された接着層からなり、 前記剥離層は単一の層であり、 前記剥離層は第一の樹脂と第二の樹脂とを含有し、 前記第一の樹脂は、樹脂からなり、 前記第二の樹脂はポリエステル樹脂である、 保護層転写シート。」 【相違点13】 第一の樹脂は、樹脂からなることについて、本件発明1は、「ISO306のB50法により測定されたビカット軟化温度が75℃以上110℃以下の樹脂であって、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、セルロース系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、またはスチレン−アクリロニトリル共重合体」であるのに対して、甲19発明は、「・アクリル樹脂(三菱レイヨン(株)製、BR−85):40重量部」である点。 【相違点14】 第一樹脂、第二樹脂について、本件発明1は、「前記第一の樹脂と前記第二の樹脂との配合比は、質量比で第一の樹脂:第二の樹脂=1:0.01〜0.05である」のに対して、甲19発明は、「・アクリル樹脂(三菱レイヨン(株)製、BR−85):40重量部 ・ポリエステル樹脂(東洋紡(株)製、バイロン200):2重量部」とされている点。 先ず相違点13について検討する。 本件発明1が、「前記剥離層は第一の樹脂と第二の樹脂とを含有し、前記第一の樹脂は、ISO306のB50法により測定されたビカット軟化温度が75℃以上110℃以下の樹脂であって、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、セルロース系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、またはスチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂からなり、」としているのは、「前記樹脂のビカット軟化温度が75℃未満であると、マット調の印画物を得るためにプリンタにて高い熱エネルギー(例えば10msec/line、0.60mJ/dot)を印加した際に、基材2と剥離層との融着が発生し、基材2が剥離層4から剥離できず、剥離中にプリンタが異常停止を起こしてしまう。」(【0014】)、「一方、前記樹脂のビカット軟化温度が110℃より大きくなると、光沢調の印画物を得るためにプリンタにて熱エネルギー(例えば10msec/line、0.40mJ/dot)を印加した際に、剥離層4が軟化することがなく、基材2と密着したまま剥離しないため、剥離中にプリンタが異常停止を起こしてしまう。」(【0015】)と、基材2と剥離層4との融着や剥離しないことについて着目して特定したものである。 他方、甲19発明は、「被転写体に形成された画像の耐久性を一段と向上させ得る保護層転写シートを提供すること」(【0010】)を課題とし、「耐可塑剤層を構成する樹脂が特定のSP及びTgを有するメタクリル系共重合体である保護層転写シートを使用した場合に、被転写体上に形成された画像に一段と優れた耐久性を付与できること」(【0011】)とあるように、耐可塑剤層を構成する樹脂が特定のSP及びTgを有するメタクリル系共重合体について着目するもので、また、ビカット軟化温度に着目するところもない。 そうすると、甲9に、ポリスチレンのいくつかの製品について、ビカット軟化温度について記載があるとしても、製品によっては、ビカット軟化温度は異なるものであり(甲9の各ビカット軟化温度参照。)、甲19発明において用いられている第一の樹脂に相当する・アクリル樹脂(三菱レイヨン(株)製、BR−85):40重量部について、ポリスチレンに変更して、さらに、基材と剥離層との融着、剥がれについて着目して、ポリスチレンのビカット軟化温度を特定の温度範囲に調整することを当業者が容易になし得たこととはいえない。 したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲19発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明2及び3について 本件発明2及び3は、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記アで検討したのと同じ理由により、本件発明2及び3は、甲19発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 11 理由2(サポート要件)について (1) 本件発明の課題は、「光沢調の印画物とマット調の印画物の両方を得ることができる保護層転写シートを提供すること」(【0006】)である。 そして、本件特許明細書には、次の事項が記載されている。 「【0014】 〔剥離層4〕 剥離層4は、ビカット軟化温度(ISO306/B50)が75℃以上110℃以下である樹脂とポリエステル樹脂とを含有する材料からなる。 前記樹脂のビカット軟化温度が75℃未満であると、マット調の印画物を得るためにプリンタにて高い熱エネルギー(例えば10msec/line、0.60mJ/dot)を印加した際に、基材2と剥離層との融着が発生し、基材2が剥離層4から剥離できず、剥離中にプリンタが異常停止を起こしてしまう。 【0015】 一方、前記樹脂のビカット軟化温度が110℃より大きくなると、光沢調の印画物を得るためにプリンタにて熱エネルギー(例えば10msec/line、0.40mJ/dot)を印加した際に、剥離層4が軟化することがなく、基材2と密着したまま剥離しないため、剥離中にプリンタが異常停止を起こしてしまう。 ビカット軟化温度が75℃以上110℃以下である樹脂としては、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチルやアクリル−スチレン共重合体等のアクリル系樹脂、ABS樹脂、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)等のセルロース系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、スチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂等を用いることが可能である。 【0016】 剥離層4を構成するポリエステル樹脂は、ビカット軟化温度が75℃以上110℃以下である樹脂と基材2を、未転写時に密着させておく機能を有する。また、剥離層4と基材2の密着性を高めることにより箔切れ性が向上し、熱転写時に不要な熱転写性保護層6が熱転写受像シートに転写されなくなる効果がある。剥離層4の主成分樹脂に応じて、含有させるポリエステル樹脂の種類や分子量を選択する必要がある。 前記ポリエステル樹脂は、前記剥離層4に含有するビカット軟化温度が75℃以上110℃以下の樹脂に対して0.1%以上5.0%以下の割合で添加することが好ましい。ポリエステル樹脂の配合比が0.1%未満であると、剥離層4と基材2との密着力が安定しなくなり、密着力が不十分となる可能性がある。 【0017】 一方、ポリエステル樹脂の配合比が5%を超えると、剥離層4の主成分樹脂の配合比が過小となり、マット調の印画物を得るためにプリンタにて高い熱エネルギー(例えば10msec/line、0.60mJ/dot)を印加した際に、基材2と剥離層4との融着が若干発生し、基材2の剥離が不安定になることがある。 つまり、剥離層4を構成する第一の樹脂(ビカット軟化温度が75℃以上110℃以下の樹脂)と、第二の樹脂(ポリエステル樹脂)との配合比が、質量比で第一の樹脂:第二の樹脂=1:0.001〜0.05であると、未転写時には剥離層4と基材2との密着力が十分となり、熱転写時の基材2の剥離も安定的に行うことができる。 【0018】 剥離層4の形成量(塗布液を塗布、乾燥した後に残った固形分量)は0.1g/m2以上2.0g/m2以下であることが好ましい。 また、剥離層4には、上述した性能を損なわない範囲内で、樹脂以外の公知の添加剤を用いることが可能である。前記添加剤としては、例えば、無機顔料微粒子、イソシアネート化合物、シランカップリング剤、分散剤、粘度調整剤、離型剤、ワックス・樹脂フィラーに代表される滑り剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、蛍光増白剤、帯電防止剤等を用いることが可能である。」 以上の記載事項によると、光沢調の印画物とマット調の印画物の両方を得るために、剥離層4は、ビカット軟化温度(ISO306/B50)が75℃以上110℃以下である樹脂とポリエステル樹脂とを含有する材料を用いることで得ることができ、剥離層4を構成する第一の樹脂(ビカット軟化温度が75℃以上110℃以下の樹脂)と、第二の樹脂(ポリエステル樹脂)との配合比が、質量比で第一の樹脂:第二の樹脂=1:0.001〜0.05であると、未転写時には剥離層4と基材2との密着力が十分となり、熱転写時の基材2の剥離も安定的に行うことが分かる。 また、実施例において、ビカット軟化温度(ISO306/B50)が75℃以上110℃以下の範囲の94℃〜101℃のものが、光沢度として、熱エネルギー0.4[mJ/dot]において、81〜90となり、0.6[mJ/dot]において37〜40のものが得られている(【0047】表1)。 そして、本件発明1は、「基材の一方の面の少なくとも一部に熱転写性保護層を有する保護層転写シート」であり、 「前記熱転写性保護層は、前記基材上に形成された剥離層と前記剥離層上に形成された接着層からなり」、 「前記剥離層は第一の樹脂と第二の樹脂とを含有し、 前記第一の樹脂は、ISO306のB50法により測定されたビカット軟化温度が75℃以上110℃以下の樹脂であって、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、セルロース系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、またはスチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂」からなり、 「前記第二の樹脂はポリエステル樹脂」であり、 「前記第一の樹脂と前記第二の樹脂との配合比は、質量比で第一の樹脂:第二の樹脂=1:0.01〜0.05である」ことが特定されており、上記課題を解決できるものと理解できる。 (2) 申立人は、「前記剥離層は第一の樹脂と第二の樹脂とを含有し」という記載は、オープンクレームと理解され、本件発明1は、種々の態様の発明を含むものと理解され、本件発明1は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであると主張するが、上記(1)で検討したとおり、「前記剥離層は第一の樹脂と第二の樹脂とを含有し、 前記第一の樹脂は、ISO306のB50法により測定されたビカット軟化温度が75℃以上110℃以下の樹脂であって、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、セルロース系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、またはスチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂」からなり、 「前記第二の樹脂はポリエステル樹脂」であり、 「前記第一の樹脂と前記第二の樹脂との配合比は、質量比で第一の樹脂:第二の樹脂=1:0.01〜0.05である」とする範囲で、剥離層における第一の樹脂と第二の樹脂の量を適宜調整すれば、その効果において調整できるから、その範囲が当業者が認識できる範囲を超えているといえるものでもない。 (3) そうすると、本件発明1〜3は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。 12 理由3(明確性)について 本件発明1の特定事項において、日本語としても、技術的にも不明確とするところはない。 申立人は、本件発明1の「前記剥離層は第一の樹脂と第二の樹脂とを含有し」という記載は、いわゆるオープンクレームと理解されるから、本件発明1の「剥離層」は、「第一の樹脂」及び「第二の樹脂」以外の樹脂を含んでよいものであるが、これが実施例の記載と整合しないばかりか、発明の課題との関係においても整合しない旨主張するが、本件発明1において、その記載が日本語としても、技術的にも不明確とするところはないことは上述のとおりであって、申立人の主張は採用できない。 第5 むすび 以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜3に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1〜3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2024-03-15 |
出願番号 | P2017-117611 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(B32B)
P 1 651・ 537- Y (B32B) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
井上 茂夫 |
特許庁審判官 |
山崎 勝司 藤井 眞吾 |
登録日 | 2023-05-19 |
登録番号 | 7282478 |
権利者 | TOPPANホールディングス |
発明の名称 | 保護層転写シート |
代理人 | 廣瀬 一 |
代理人 | 宮坂 徹 |
代理人 | 田中 秀▲てつ▼ |