• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  B22F
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B22F
管理番号 1409166
総通号数 28 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-04-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-12-05 
確定日 2024-04-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第7288133号発明「銀粉及び銀粉の製造方法ならびに導電性ペースト」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7288133号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許7288133号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜9に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、令和 4年12月 1日(優先権主張 令和 3年12月 6日)を出願日とする出願であって、令和 5年 5月29日にその特許権の設定登録がなされ、同年 6月 6日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後、同年12月 5日に、その請求項1〜9に係る特許のうち、請求項1、2に係る特許に対して、特許異議申立人である山崎 浩一郎(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。(「崎」の字の右上は、「大」ではなく「立」の上半分)

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1〜9に係る発明(以下、これらを「本件特許発明1」〜「本件特許発明9」という。また、これらをまとめて「本件特許発明」という。)は、本件特許の願書に添付された特許請求の範囲の請求項1〜9に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布において、累積50%径が3μm以上、且つ、10μm以上の粒子の比率が10%以下であり、
SEM像に基づく画像解析によって観察した粒子形状に関し、
長径が6μm以上の粒子と、長径が6μm未満の粒子と、を含み、
前記長径が6μm以上の粒子100個以上における平均長径と平均厚さとの比である平均アスペクト比は8以上であり、
前記長径が6μm未満の粒子400個以上における平均最大長を直径とした円の面積と平均粒子面積との比である形状係数が1.7以上1.9以下であり、
強熱減量値が0.1wt%以上0.4wt%である銀粉。
【請求項2】
前記粒度分布における、累積90%径から累積10%径を引いた差の値と累積50%径との比が2以上である請求項1に記載の銀粉。
【請求項3】
銀アンミン錯体水溶液に還元剤を添加して第一液を得る還元工程と、
前記第一液に表面処理剤を添加して第二液を得る表面処理剤添加工程と、
前記第二液から分離し乾燥して第一銀粉を得る分離工程と、
前記第一銀粉と滑剤とメディアとを容器内で撹拌して前記第一銀粉を扁平化した第二銀粉を得 る工程と、を含み、
前記表面処理剤添加工程における前記表面処理剤の添加量は、前記銀アンミン錯体水溶液に含まれる銀の重量に対して0.05wt%以上0.15wt%以下であり、
前記第一銀粉を前記滑剤と混合後にBET法で求めた比表面積から計算される比表面積径は、1.3μm以上2.0μm以下であり、
前記第一銀粉を前記滑剤と混合後にレーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布における累積50%径が、前記比表面積径の1.5倍以上3倍以下であり、
前記第二銀粉を得る工程における前記滑剤の添加量と前記表面処理剤の添加量との合計は、前記第一銀粉中の銀の重量に対して0.1wt%以上0.4wt%以下とする銀粉の製造方法。
【請求項4】
表面処理剤で被覆されている第一銀粉と滑剤とメディアとを容器内で撹拌して前記第一銀粉を扁平化した第二銀粉を得 る工程と、を含み、
前記第一銀粉を前記滑剤と混合後にBET法で求めた比表面積から計算される比表面積径は、1.3μm以上2.0μm以下であり、
前記第一銀粉を前記滑剤と混合後にレーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布における累積50%径が、前記比表面積径の1.5倍以上3倍以下であり、
前記第二銀粉を得る工程における前記滑剤の添加量と前記表面処理剤の付着量との合計は、前記第一銀粉中の銀の重量に対して0.1wt%以上0.4wt%以下とする銀粉の製造方法。
【請求項5】
前記第二銀粉は、
SEM像に基づく画像解析によって観察した粒子形状に関し、前記第一銀粉の前記比表面積径の4倍以上の長径を有 し、かつ、長径が6μm以上の粒子の個数が、前記画像解析の対象とした粒子の全個数の1%以上13%以下であり、
レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布において、累積50%径が3μm以上、且つ、10μm以上の粒子の比率を10%以下とする請求項3又は4に記載の銀粉の製造方法。
【請求項6】
前記滑剤の添加量は前記第一銀粉の重量に対して0.05wt%以上0.3wt%以下である請求項3又は4に記載の銀粉の製造方法。
【請求項7】
前記第一銀粉を前記滑剤と混合後にレーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布における10μm以上の粒子の比率が10%以下である請求項3又は4に記載の銀粉の製造方法。
【請求項8】
請求項1または2に記載の銀粉と、樹脂と、溶剤とを含有する導電性ペースト。
【請求項9】
さらに球状銀粉を含有する請求項8に記載の導電性ペースト。」

第3 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、いずれも本願の優先日前に、公知となった次の甲第1号証〜甲第7号証(以下、それぞれ「甲1」〜「甲7」という。)を提出し、以下の特許異議申立理由を主張している。

(証拠方法)
甲1:特開2020−152961号公報
甲2:特開2010−236039号公報
甲3:特開2007−254845号公報
甲4:特開2011−208278号公報
甲5:特開2014−51590号公報
甲6:特開2005−285673号公報
甲7:特開2015−10256号公報

1 申立理由1(進歩性
本件特許の請求項1に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲5〜7に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
本件特許の請求項1に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2、5〜7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
本件特許の請求項1に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲3、5〜7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
本件特許の請求項2に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲4〜7に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
本件特許の請求項2に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2、4〜7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
本件特許の請求項2に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲3〜7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 申立理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1に係る発明は、「前記長径が6μm未満の粒子400個以上における平均最大長を直径とした円の面積と平均粒子面積との比である形状係数が1.7以上1.9以下であり」との構成要件を有するが、本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)には、長径が6μm未満の粒子400個以上について粒子外形を計測することは記載されていない。よって、上記構成要件を有する本件特許の請求項1に係る発明は、本件明細書に記載された発明ではない。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

第4 当審の判断
上記申立理由1、2はいずれも採用できない。その理由は以下のとおりである。
1 申立理由1(進歩性
(1)甲1の記載
甲1には次の記載がある。なお、「・・・」は記載の省略を表し、甲号証に記載された発明の認定に関連する箇所には、当審で下線を付した。以下、同じ。
ア 「【請求項1】
50%累積体積粒子径D50が1μm以上10μm以下であり、かつ平均厚さが10nm以上80nm以下であり、
液相置換法による真密度が9g/cm3以下であることを特徴とする薄片状銀粒子。」

イ 「【0010】
(薄片状銀粒子)
本発明の薄片状銀粒子は、50%累積体積粒子径D50が1μm以上10μm以下であり、かつ平均厚さが10nm以上80nm以下であり、液相置換法による真密度が9g/cm3以下である。
・・・
【0012】
本発明の銀粒子は、薄片状粒子である。前記薄片状粒子は、鱗片状粒子、平板状粒子、フレーク状粒子などと称されることもある。
本発明において、薄片状粒子とは、略平坦な面を有し、かつ該略平坦な面に対して垂直方向の厚さが略均一である粒子を意味する。また、前記薄片状粒子とは、前記厚さが非常に薄く、その厚さに比較して略平坦な面の長さが非常に長い形状の粒子を意味する。なお、略平坦な面の長さは、前記薄片状粒子の投影面積と同じ投影面積を持つ円の直径である。
略平坦な面の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、略円形、略楕円形、略三角形、略四角形、略五角形、略六角形、略七角形、略八角形等の多角形、ランダムな不定形などが挙げられる。
なお、薄片状銀粒子は純度95%以上の銀からなり、微量の不純物を含んでいてもよい。
【0013】
前記薄片状銀粒子の累積50%体積粒子径D50としては、1μm以上10μm以下であり、1μm以上7μm以下が好ましく、1μm以上5μm以下がより好ましい。
累積50%体積粒子径D50が1μm未満では、銀粒子の厚さに対する平坦さの比(アスペクト比)が小さくなる。それによって、銀分散液や導電性ペーストの乾燥後の銀粉配向性が悪くなり、銀粒子間の接触面積が少なくなることで、硬化膜の導電性が低下する。一方、累積50%体積粒子径D50が10μmを超えると、銀分散液や導電性ペースト中の銀粒子の相互作用が大きくなることから、それらの粘性体としての流動性が落ち、基材上への塗布性が低下する。
前記累積50%体積粒子径(D50)は、レーザー回折法により得られる粒径分布曲線の体積分布累積量の50%に相当する粒径であり、非球形の銀粒子を完全な球体と仮定して測定した場合の、銀粒子の長径及び短径を平均化した長さである。しかし、実際の銀粒子は、球形ではなく、長辺及び短辺を有する薄片状である。したがって、前記D50は、銀粒子の実際の長辺方向の長さ(長径)及び短辺方向の長さ(短径)とは異なる値である。
前記レーザー回折法を用いた手段としては、例えば、レーザー回折・散乱式粒度分布測定器などが挙げられる。
【0014】
薄片状銀粒子の平均厚さは10nm以上80nm以下であり、15nm以上50nm以下が好ましく、20nm以上45nm以下がより好ましい。前記薄片状銀粒子の平均厚さが10nm未満では、薄片状銀粒子の平坦性低下と薄片状銀粒子の平坦面における銀膜欠損のポーラス部が多くなる。それによって、銀分散液や導電性ペーストの乾燥後の粒子間接触性が悪くなり、導電性を低下させる。一方、前記薄片状銀粒子の平均厚さが80nmを超えると、薄片状銀粒子の格子欠陥が少なくなり、銀分散液や導電性ペーストの乾燥後の薄片状銀粒子間の接触部における銀原子の拡散を抑制することになり、導電性を低下させる。
本発明における薄片状銀粒子の「平均厚さ」とは、薄片状銀粒子の3次元方向において、最も短い部分の長さであると定義する。
前記平均厚さは、例えば、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)を用いて、観察される画像から任意に5個の粒子を抽出し、厚さを測定した後、5個の粒子の厚さを平均することにより、薄片状銀粒子の平均厚さを求めることができる。
【0015】
本発明の薄片状銀粒子の液相置換法による真密度は、9g/cm3以下であり、8g/cm3以下が好ましく、7g/cm3以下がより好ましい。
薄片状銀粒子の液相置換法による真密度が9g/cm3以下であると、薄片状銀粒子中に、欠陥が多く存在し、薄片状銀粒子同士の接触部における銀原子拡散が進み、薄片状銀粒子同士が焼結しやすいという利点がる。
ここで、真密度は、液相置換法により求めた値である。液相置換法は、別名「ピクノメータ法」と言われ、ピクノメータというガラスセルを用いて密度を求める測定方法である。
真密度Pdは、図3に示すように4つの状態の質量を測定し、下記数式1により算出することができる。
【0016】
[数式1]

ただし、前記数式1中、Pdは真密度、Waはガラスセルの風袋の質量、Wbはガラスセル+測定試料の質量、Wcはガラスセル+測定試料+レベル位置まで媒液を入れたときの質量、Wdはガラスセル+レベル位置まで媒液を入れたときの質量、LdはWc状態の媒液の密度である。なお、銀の真密度は10.5g/cm3である。
【0017】
薄片状銀粒子の液相置換法による真密度は、例えば、自動湿式真密度測定器(オートトゥルーデンサーMAT−7000、株式会社セイシン企業製)を用いて測定することができる。」

ウ 「【0046】
(実施例1)
まず、平均厚さが12μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、5質量%のセルロースアセテートブチレート(CAB)を含む溶液をグラビアコート法で塗工し、110℃以上120℃以下で乾燥して、剥離層を形成した。セルロースアセテートブチレート(CAB)の塗工量は0.06g/m2±0.01g/m2であった。
次に、剥離層上に、高周波誘導加熱・真空蒸着法によって、蒸着レート50nm/secで平均蒸着厚さが20nm狙いで銀蒸着薄膜を形成した。
次に、剥離層及び銀蒸着薄膜を形成したPETフィルム面に酢酸ブチルをスプレーして剥離層を溶解し、銀蒸着薄膜をドクターブレードで掻き落とした。得られた銀粒子は薄片状であった。
次に、得られた銀粒子と酢酸ブチルの混合物に対して、ジェットミルを用いて目的の平均粒径になるまで粉砕し、実施例1の薄片状銀粒子の分散液を得た。」

エ 「【0053】
次に、得られた銀粒子について、以下のようにして、諸特性を測定した。結果を表1及び表2に示した。
【0054】
<銀粒子の平均厚さ>
各金属粒子について、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)を用いて、観察される画像から任意に5個の粒子を抽出し、厚さを測定した後、5個の粒子の厚さを平均することにより、作製した金属粒子の平均厚さを求めた。
【0055】
[銀粒子の粒度分布(D10、D50、D90)]
各薄片状銀粒子の粒度分布(D10、D50、D90)は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定器(装置名:レーザーマイクロンサイザーLMS−2000e、株式会社セイシン企業製、湿式分散ユニット)を用いて、エタノールを分散媒とし、スターラーで撹拌しながら、金属粒子を含むサンプルを測定セルへ送り、銀粒子の粒度分布(D10、D50、D90)を測定した。
【0056】
<真密度>
各薄片状銀粒子の真密度は、自動湿式真密度測定器(オートトゥルーデンサーMAT−7000、株式会社セイシン企業製)を用いて、測定した。
・・・
【0058】
<強熱減量試験>
各薄片状銀粒子の強熱減量(Ignition Loss)は、以下に示す強熱減量試験(Ignition Loss test)で測定した。得られた強熱減量を下記式(1)で換算することにより強熱減量の相対値を求めた。
(1)まず、15mLの遠心分離用シリンダー中に銀スラリーを3gとイソプロピルアルコール(IPA)を8g秤量後、均一分散するまでハンドミキシングを行う。
(2)次に、超音波撹拌を1分間行う。
(3)次に、遠心分離器を用い、3,000rpmで30分間固液分離を行う。
(4)次に、アルミニウムパンの重量測定後、固液分離による沈殿物を1g〜2g秤量する。
(5)次に、乾燥オーブン中で、60℃で20分間、80℃で10分間、100℃で10分間の順に予備乾燥する。
(6)乾燥オーブン中で、180℃で60分間、200℃で30分間の順に本乾燥(薄片状銀粒子表面の吸着溶剤の除去)後、本乾燥後重量を測定する(W1(g))。
(7)ホットプレート上にて、300℃で10分間(脱灰)、450℃で10分間(焼成)放置後、アルミニウムパンの温度を室温に戻し、焼成後重量を測定する(W2(g))。
(8)銀スラリーの本乾燥後重量と焼成後重量から、下記式(2)により薄片状銀粒子の強熱減量(質量%)を求める。
(W1−W2)/W2×100・・・式(2)
・・・」

オ 「【0066】
【表1】



(2)甲1に記載された発明
上記(1)で摘記した事項によれば、特に、請求項1、【0017】、【0055】〜【0056】、【0058】、表1の実施例1(【0046】)に注目すると、甲1には次の発明が記載されていると認められる。

「レーザー回折・散乱式粒度分布測定器を用いて測定した50%累積体積粒子径D50が3.0μm、D10が1.2μm、D90が6.4μmであり、かつ走査型電子顕微鏡の画像から任意に抽出された5個の粒子の平均厚さが21nmであり、
液相置換法による真密度が5.1g/cm3であり、
下記式(2)により求めた強熱減量が、0.119質量%である、
薄片状銀粒子。
(W1−W2)/W2×100・・・式(2)
ここで、W1は本乾燥後重量、W2は焼成後重量を示す。」(以下、「甲1発明」という。)

(3)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「レーザー回折・散乱式粒度分布測定器を用いて測定した50%累積体積粒子径D50が3.0μm」であることは、本件特許発明1の「レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布において、累積50%径が3μm以上」であることに相当する。

(イ)甲1発明の「レーザー回折・散乱式粒度分布測定器を用いて測定した」「D90が6.4μmであ」ることは、甲1の【0013】を踏まえれば、体積分布累積量の90%に相当する粒径が6.4μmとなるから、10μm以上の粒子の比率は、10%よりも低いと認められる。
よって、甲1発明の「レーザー回折・散乱式粒度分布測定器を用いて測定した」「D90が6.4μmであ」ることは、本件特許発明1の「レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布において」、「10μm以上の粒子の比率が10%以下であ」ることに相当する。

(ウ)甲1の【0013】の「累積50%体積粒子径(D50)は、・・・、非球形の銀粒子を完全な球体と仮定して測定した場合の、銀粒子の長径及び短径を平均化した長さである」という記載を参酌すれば、実施例1のD90=6.4μmに分布する銀粒子の長径が6μmを超えていることは明らかであり、さらに、D10=1.2μmの粒子が存在することから、長径が6μm未満の粒子が存在することも明らかであるから、観察手段が異なることを考慮したとしても、甲1の「レーザー回折・散乱式粒度分布測定器を用いて測定した」「D10が1.2μm、D90が6.4μmであ」ることは、本件特許発明1の「SEM像に基づく画像解析によって観察した粒子形状に関し」、「長径が6μm以上の粒子と、長径が6μm未満の粒子と、を含」むことに相当する。

(エ)甲1発明の「薄片状銀粒子」は、本件特許発明1の「銀粉」に相当する。

(オ)本件特許発明1における強熱減量値は、本件明細書の【0028】〜【0029】によれば、加熱前の銀粉試料の秤量値をw1、加熱後の銀粉試料の秤量値をw2としたとき、(w1−w2)/w1×100で求めたものであるのに対し、甲1発明における強熱減量は、本乾燥後重量をW1とし、焼成後重量をW2としたとき、「(W1−W2)/W2×100」で表される式(2)により求めたものであり、計算方法が異なる。よって、甲1発明の「強熱減量が、0.119質量%である」点は、下記に示すように相違点となる。

(カ)本件特許発明1と甲1発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
「レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布において、累積50%径が3μm以上、且つ、10μm以上の粒子の比率が10%以下であり、
SEM像に基づく画像解析によって観察した粒子形状に関し、
長径が6μm以上の粒子と、長径が6μm未満の粒子と、を含む銀粉。」

<相違点1>
本件特許発明1は、「SEM像に基づく画像解析によって観察した粒子形状に関し」、「前記長径が6μm以上の粒子100個以上における平均長径と平均厚さとの比である平均アスペクト比は8以上であ」るのに対し、甲1発明は、SEM像に基づく画像解析によって観察した粒子形状に基づく、長径が6μm以上の粒子100個以上における平均長径と平均厚さとの比である平均アスペクト比が不明である点。

<相違点2>
本件特許発明1は、「SEM像に基づく画像解析によって観察した粒子形状に関し」、「前記長径が6μm未満の粒子400個以上における平均最大長を直径とした円の面積と平均粒子面積との比である形状係数が1.7以上1.9以下であ」るのに対し、甲1発明は、SEM像に基づく画像解析によって観察した粒子形状に基づく、長径が6μm未満の粒子400個以上における平均最大長を直径とした円の面積と平均粒子面積との比である形状係数が不明である点。

<相違点3>
強熱減量値が、本件特許発明1では、(w1−w2)/w1×100(w1:加熱前の銀粉試料の秤量値、w2:加熱後の銀粉試料の秤量値)により求めた「0.1wt%以上0.4wt%」であるのに対し、甲1発明では、(W1−W2)/W2×100(W1:本乾燥後重量、W2:焼成後重量)により求めた「0.119質量%」である点。

イ 相違点についての検討
事案に鑑み、上記相違点2について検討する。
(ア)まず、上記相違点2が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
甲1の【0014】や【0054】において、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)を用いて、観察される画像から任意に5個の粒子を抽出し、金属粒子の平均厚さを求める旨の記載はあるものの、SEM像に基づく画像解析によって、400個以上の粒子の外形から、平均最大長及び平均粒子面積を求め、形状係数を算出し、当該形状係数を所定の範囲とすることについての直接的な記載や、これを示唆するような記載は見当たらない。また、本願優先日当時の技術常識を考慮しても、そうしたことが自明であるともいえないから、上記相違点2は実質的な相違点である。

(イ)次に、上記相違点2の容易想到性について検討する。
上記(1)に摘記した箇所を含め、甲1の記載事項及び甲2〜7を参照しても、「長径が6μm未満の粒子400個以上における平均最大長を直径とした円の面積と平均粒子面積との比である形状係数」を、所定の範囲に制御することを動機付ける記載は見当たらず、甲1発明において、上記相違点2に係る発明特定事項を備えようすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

(ウ)なお、上記相違点2に関して、申立人は、甲5〜7を提出し、特許異議申立書44ページにおいて、「1.7以上1.9以下という形状係数は、銀粒子としては一般的な形状であることから、当業者が甲1号証に記載の銀粉の形状係数を1.7以上1.9以下とすることに何ら困難性はない」と主張している。

(エ)異議申立書38〜42ページに示された甲5〜7の銀粒子・銀粉について検討する。甲5の図6に示される銀粒子cは、甲5【0099】によれば、硝酸銀溶液に還元剤を加え、撹拌しながらアンモニア水溶液を加え、銀粉を含むスラリーを生成し、これを乾燥して得られた銀粉に、分散剤を加えてよく混ぜ、SUSボールとともに転動ボールミルに入れてフレーク化処理して得たものである。甲6の図3に示される比較例の混合銀粉は、甲6【0071】〜【0073】、【0088】によれば、銀アンミン錯体水溶液から微小球状銀粉を還元析出させた微粒球状銀粉と、通常のフレーク銀粉を混合させて作製したものである。甲7の図1〜図3に示される実施例1〜2、比較例1のフレーク状銀粉は、甲7【0031】〜【0036】によれば、銀アンミン錯体水溶液に還元剤及び分散剤を加え、得られたスラリーをろ過、水洗、乾燥熱処理した銀粉を、SUSボールとともに転動ボールミルに入れて作製したものである。

(オ)そうすると、確かに、甲5〜7の製法による銀粒子・銀粉において、形状係数が1.7以上1.9以下であることが一般的な性質であると解する余地がある。

(カ)しかし、甲1発明の薄片状銀粒子は、甲1【0046】に記載されているように、剥離層上に、高周波誘導加熱・真空蒸着法によって銀蒸着薄膜を形成してから、剥離層を溶解し、銀蒸着薄膜をドクターブレードで掻き落として薄片状の銀粒子を得たのち、ジェットミルを用いて目的の平均粒径になるまで粉砕することによって作製されたものであり、甲5〜7の製法による銀粒子・銀粉と、甲1発明の薄片状銀粒子とは大きく製法が異なる。

(キ)そうすると、甲5〜7の形状係数に基づいたとしても、甲1発明の薄片状銀粒子の形状係数が実際に1.7以上1.9以下になっているかどうかは不明である。また、甲5〜7とは異なる製法で銀粒子を製造する甲1発明の銀粒子の形状係数を、甲5〜7における形状係数の範囲に制御する動機付けがあるとはいえないし、仮にそのように形状係数を制御する動機付けがあったとしても、本件明細書【0156】に記載されているライン抵抗の低減に寄与するという効果は当業者が予測し得ないものである。よって、上記(ウ)における申立人の主張は採用しない。

(ク)したがって、上記相違点1、3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明及び甲5〜7に記載された事項、甲1に記載された発明及び甲2、5〜7に記載された事項、又は、甲1に記載された発明及び甲3、5〜7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えたものであるから、上記(3)で述べた理由と同様の理由により、本件特許発明2は、甲1に記載された発明及び甲4〜7に記載された事項、甲1に記載された発明及び甲2、4〜7に記載された事項、甲1に記載された発明及び甲3〜7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)小括
したがって、申立理由1によっては、本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由2(サポート要件)
(1)本件特許発明の解決しようとする課題は、「ライン抵抗を低減可能な銀粉及びその製造方法を提供すること」(【0007】)であると認められる。

(2)本件明細書の記載(【0027】、【0153】、【0156】〜【0157】)によれば、上記(1)の課題は、銀粉が、
ア レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布において、D50が適度に小さく、また、粗大な10μm以上の粒子の割合が少ないものであり、
イ SEM像に基づく画像解析によって観察した粒子形状に関し、長径が6μm以上のフレーク状粒子と、長径が6μm未満の不定形粒子と、を含み、フレーク状粒子の平均アスペクト比はいずれも8以上であり、不定形粒子の形状係数は、1.7以上1.9以下であり、
ウ Ig−Loss(強熱減量値)の値が0.1wt%以上0.4wt%である
ことによって、解決できることが理解できる。

(3)そうすると、本件特許の請求項1に係る発明は、「レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布において、累積50%径が3μm以上、且つ、10μm以上の粒子の比率が10%以下であ」るという発明特定事項、「SEM像に基づく画像解析によって観察した粒子形状に関し」、「長径が6μm以上の粒子と、長径が6μm未満の粒子と、を含み」、「前記長径が6μm以上の粒子100個以上における平均長径と平均厚さとの比である平均アスペクト比は8以上であり」、「前記長径が6μm未満の粒子400個以上における平均最大長を直径とした円の面積と平均粒子面積との比である形状係数が1.7以上1.9以下であ」るという発明特定事項、「強熱減量値が0.1wt%以上0.4wt%である」という発明特定事項を有していることから、上記(1)の課題、すなわち、「ライン抵抗を低減可能な銀粉及びその製造方法」を提供するという課題を解決できると、当業者が認識できる範囲のものといえる。

(4)したがって、本件特許の請求項1に係る発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって、当業者が出願時の技術常識に照らして、発明の詳細な説明の記載により上記課題を解決できると認識できる範囲のものである。

(5)申立人は、特許異議申立書49〜50ページにおいて、「本件明細書には、合計400個以上の粒子外形の計測を行い、長径が6μm未満である粒子のデータを抽出し不定形粒子とすることのみが記載されており、長径が6μm未満である粒子の数が400以上であることは記載されていない。」、「以上より、「E 前記長径が6μm未満の粒子400個以上における平均最大長を直径とした円の面積と平均粒子面積との比である形状係数が1.7以上1.9以下であり、」は、明細書に記載された発明ではない。」と主張している。

(6)ここで、本件明細書には、以下のように記載されている。なお、下線は当審で付した。
「【0036】
計測においては、SEM像の1視野(一つのSEM像中)には30個以上の測定粒子が含まれるようにSEMで撮像する。SEM像は複数視野を撮像する。外形全体が観察される合計400個以上の粒子の外形をなぞることで、これら粒子の最大長、長径、短径及び粒子面積を計測する。平均最大長、平均長径、平均短径、平均粒子面積及び平均円形度は、評価の対象とした粒子の最大長、長径、短径、粒子面積及び円形度の平均値である。
【0037】
本実施形態において、形状係数とは、上記の平均最大長を直径とした仮想的な円の面積と銀粒子の平均粒子面積との比であり、当該仮想的な円の面積を平均粒子面積で除した値である。形状係数の計算式は、π(平均最大長/2)2/平均粒子面積で表される。」

(7)そうすると、「平均最大長」及び「平均粒子面積」は、「外形全体が観察される合計400個以上の粒子の外形をなぞることで」、個々の粒子の「最大長」及び「粒子面積」を計測して得られた数値の平均値であり、「形状係数」はそれらの数値に基づいて計算したものと理解できる。

(8)ここで、本件明細書の【0139】には、「長径が6μm未満である」「不定形粒子」の「形状係数」が、【表4】に示されている。「形状係数」が算出されている以上、400個以上の、長径が6μm未満である粒子から、「最大長」及び「粒子面積」を計測している、と解することができる。

(9)よって、上記(5)の主張は採用できない。

(10)したがって、申立理由2によって本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1、2に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては取り消すことはできず、また、他に本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2024-03-29 
出願番号 P2022-193053
審決分類 P 1 652・ 537- Y (B22F)
P 1 652・ 121- Y (B22F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 井上 猛
特許庁審判官 池渕 立
山口 大志
登録日 2023-05-29 
登録番号 7288133
権利者 DOWAエレクトロニクス株式会社
発明の名称 銀粉及び銀粉の製造方法ならびに導電性ペースト  
代理人 福井 敏夫  
代理人 杉村 憲司  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ