• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12N
審判 全部申し立て 2項進歩性  C12N
管理番号 1409185
総通号数 28 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-04-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-12-26 
確定日 2024-03-14 
異議申立件数
事件の表示 特許第7298844号発明「細胞培養物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7298844号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7298844号(請求項の数11。以下、「本件特許」という。)は、平成30年 6月 5日(優先権主張 平成29年 6月 5日)を出願日とする特願2019−523536号の請求項1〜11に係る発明について、令和 5年 6月19日に特許権の設定登録がされ、特許掲載公報が令和 5年 6月27日に発行されたものである。その後、その請求項1〜11に係る特許について、令和 5年12月26日に特許異議申立人である鈴木敏明(以下、「申立人」という。)より特許異議の申立てがされたものである。
よって、本件特許異議の申立てに係る審理対象は、全ての請求項に係る特許についてであり、審理対象外の請求項は存しない。

第2 本件発明
本件特許第7298844号の請求項1〜11の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜11に記載された事項により特定されるとおりのものである(以下、請求項1〜11に係る発明を、項番に従い、「本件発明1」〜「本件発明11」といい、それらを総称して、「本件発明」という。また、本件特許の設定登録時の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。

「【請求項1】
多能性幹細胞から分化誘導された心筋細胞を含む細胞培養物を製造する方法であって、前記多能性幹細胞から前記心筋細胞へと分化誘導して得られた胚様体を分散させた、前記心筋細胞および該心筋細胞に対して相対的に増殖速度の早い細胞を含む細胞集団を、コンフルエントに達する密度またはそれ以上の密度で播種することを含み、コンフルエントに達する密度またはそれ以上の密度が、1.0×106個/cm2〜1.875×106個/cm2である、前記方法。
【請求項2】
多能性幹細胞から分化誘導された心筋細胞を含む細胞培養物を製造する方法であって、前記多能性幹細胞から前記心筋細胞へと分化誘導して得られた胚様体を分散させた、前記心筋細胞および該心筋細胞に対して相対的に増殖速度の早い細胞を含む細胞集団を、コンフルエントに達する密度またはそれ以上の密度で播種することを含み、コンフルエントに達する密度またはそれ以上の密度が、1.875×106個/cm2である、前記方法。
【請求項3】
細胞培養物が、心筋細胞を、播種前の細胞集団よりも高い割合で含有する細胞培養物である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
細胞培養物が、心筋細胞に対して相対的に増殖速度の早い細胞群を、播種前の細胞集団よりも低い割合で含有する細胞培養物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
腫瘍形成能を有する細胞を除去することをさらに含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
腫瘍形成能を有する細胞を除去することが、ブレンツキシマブ・ベドチンを用いて処理することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
多能性幹細胞が、iPS細胞である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
多能性幹細胞が、ヒト細胞である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
培養日数5日後におけるトロポニン陽性率が、50%〜90%である細胞培養物が得られる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
培養日数5日後におけるLin28陽性率が、0.30%以下である細胞培養物が得られる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
シート状細胞培養物を製造する方法であって、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法により得られた細胞培養物をシート化することを含む、前記方法。」

第3 申立人が申し立てた特許異議申立理由
申立人が申し立てた特許異議申立の理由(以下、「申立理由」という。)の概要及び証拠方法は以下のとおりである。

1 申立理由の概要
(1)申立理由1(特許法第29条第2項進歩性))
本件発明1〜11は甲第1号証に記載された発明、及び、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)申立理由2(特許法第36条第6項第1号(サポート要件))
本願の実施例1に記載された特定の分化誘導方法で得られた胚様体を解離して得られた細胞集団以外を用いた場合に「心筋分化させた胚様体を解離させ、コンフルエントに達する密度またはそれ以上の密度、すなわち、1.0×106個/cm2〜1.875×106個/cm2の密度で播種することにより、目的細胞、すなわち、心筋細胞の含有率を播種前の細胞集団よりも高めることができる。」という発明の効果を発揮できるように発明を実施できると当業者は理解することができない。したがって、胚様体を得るための分化誘導方法が実施例の特定の方法に限定されていない本件発明1〜11は発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

2 証拠方法
甲第1号証:特開2016-077159号公報
甲第2号証:特開2015-077135号公報
甲第3号証:Int Heart J., 2009, Vol.50(5), pp.653-662
(以下、「甲第1号証」〜「甲第3号証」を「甲1」〜「甲3」という。)

第4 当審の判断
1 申立理由1(甲1に基づく進歩性欠如)について
(1)証拠の記載事項
ア 甲1
甲1(特開2016-077159号公報)には、以下の事項が記載されている。また、下線は当審で付したものである。

甲1a
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
多能性幹細胞を培養し、胚様体を形成する胚様体形成工程と、
前記胚様体を培養し、中胚葉を誘導する中胚葉誘導工程と、
前記中胚葉誘導後の胚様体を培養し、心筋細胞を誘導する心筋細胞誘導工程と、
前記心筋細胞誘導後の胚様体を解離する胚様体解離工程とを含み、
前記胚様体解離工程が、前記中胚葉誘導工程開始から40日目までの間に行われることを特徴とする心筋細胞の製造方法。
・・・
【請求項5】
胚様体解離工程後の心筋細胞を培養し、成熟化させる心筋細胞成熟化工程を含む請求項1から4のいずれかに記載の心筋細胞の製造方法。」

甲1b
「【背景技術】
・・・
【0006】
また、上記提案の技術で製造される心筋細胞には、多くの非心筋細胞が混入してしまうという問題や、心筋細胞の非均質性という問題もある。
前記心筋細胞の非均質性とは、異なる性質を有するペースメーカー型心筋細胞、心房型心筋細胞、心室型心筋細胞が混在していることを言う。
前記非心筋細胞の混入や、心筋細胞の非均質性によって、例えば、前記心筋細胞を再生医療に利用した際には、不整脈源性や発がん性が問題となり、創薬研究や薬物安全性試験に利用した際には不正確な結果が得られてしまう可能性があるという問題がある。
【0007】
そのため、非心筋細胞の混入や、心筋細胞の非均質性を低減することができる心筋細胞の製造方法も求められているのが現状である。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、高品質な心筋細胞を製造することが可能な心筋細胞の製造方法、非心筋細胞の混入や、心筋細胞の非均質性が低減されており、高品質である心室型心筋細胞及びその製造方法、並びに心筋細胞及び心室型心筋細胞の少なくともいずれかを用いた肥大型心筋症、心肥大、及びヌーナン症候群の少なくともいずれかに対する予防乃至治療薬のスクリーニング方法を提供することを目的とする。」

甲1c
「【0077】
<胚様体解離工程>
前記胚様体解離工程は、前記心筋細胞誘導後の胚様体を解離する工程である。
・・・
【0084】
前記胚様体解離工程は、前記解離処理を行った後の細胞を培養する処理を含むことが好ましい。
前記解離処理を行った後の細胞を培養する処理における培地としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、DMEMに、血清を添加した培地などが挙げられる。前記血清の含有量としては、例えば、20質量%などが挙げられる。
【0085】
前記解離処理を行った後の細胞を培養する処理における培養は、接着培養が好ましい。
前記接着培養の方法としては、特に制限はなく、公知の方法を選択することができる。
・・・
【0089】
前記接着培養における細胞の播種密度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2.5×104細胞/cm2〜2×105細胞/cm2が好ましく、8×104細胞/cm2〜1.2×105細胞/cm2がより好ましい。
・・・
【0112】
−−培養−−
前記心筋細胞成熟化工程における培養は、接着培養が好ましい。
前記接着培養の方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができる。
・・・
【0115】
−−培養条件−−
前記心筋細胞成熟化工程における培養条件としては、特に制限はなく、公知の培養条件を適宜選択することができ、例えば、上記胚様体形成工程の培養条件の項目に記載したものと同様とすることができる。
【0116】
前記接着培養における細胞の播種密度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2.5×104細胞/cm2〜2×105細胞/cm2が好ましく、8×104細胞/cm2〜1.2×105細胞/cm2がより好ましい。」

甲1d
「【0142】
本発明の心室型心筋細胞の製造方法によれば、ペースメーカー型心筋細胞、心房型心筋細胞、心室型心筋細胞などが混在した細胞集団から、心室型心筋細胞を生きたまま分取することができる。前記心室型心筋細胞は、重症心不全などの再生医療の対象となる疾患に対し、より特異性が高いため、再生医療の実現へ向けて非常に有用である。また、心室筋型心筋細胞のみをスクリーニングに用いることで、心不全、心筋症、ヌーナン症候群などの心室筋型心筋細胞が異常を呈する疾患に対してより有用な新規薬剤を開発することが可能となる。
【0143】
(スクリーニング方法)
本発明のスクリーニング方法は、肥大型心筋症、心肥大、及びヌーナン症候群の少なくともいずれかに対する予防乃至治療薬のスクリーニング方法である。
【0145】
前記スクリーニングの方法としては、心筋細胞、及び心室型心筋細胞の少なくともいずれかを用いる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、被験物質投与工程と、測定工程と、判定工程とを含む方法が好ましい。
前記心筋細胞を用いる場合には、心室型心筋細胞と、心房型心筋細胞とを区別する工程を更に含むことが好ましい。
・・・
【0148】
−培養−
前記被験物質を投与される前記心筋細胞、及び前記心室型心筋細胞の少なくともいずれかの培養方法としては、特に制限はなく、後述する測定工程で用いる方法に応じて適宜選択することができる。
例えば、パッチクランプ法を用いる場合には、前記心筋細胞、及び前記心室型心筋細胞の少なくともいずれかを低密度で播種することで単細胞の状態で培養する必要があり、播種密度としては、500細胞/cm2〜10,000細胞/cm2が好ましい。
例えば、ハイコンテンツ解析機器を用いて測定する場合には、前記心筋細胞、及び前記心室型心筋細胞の少なくともいずれかを培養容器の底面積を50%〜80%程度覆う状態で培養する必要があり、播種密度としては、15,000細胞/cm2〜60,000細胞/cm2が好ましく、15,000細胞/cm2〜35,000細胞/cm2がより好ましい。
例えば、カルシウムイメージングや細胞の動きの解析を行う場合には、前記心筋細胞、及び前記心室型心筋細胞の少なくともいずれかを高密度に播種することでシート状に培養する必要があり、播種密度としては、1×105細胞/cm2〜2×105細胞/cm2が好ましい。
前記播種密度が好ましい範囲外であると、評価を適切に行うことが困難となることがある。
前記培養における培地としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、DMEMに、血清を添加した培地などが挙げられる。前記血清の含有量としては、例えば、5質量%〜10質量%などが挙げられる。
前記培養の方法、条件としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができる。」

甲1e
「【実施例】
・・・
【0161】
(製造例1:心筋細胞の製造)
<胚様体形成工程>
多能性幹細胞として、国立大学法人 東京大学医学部付属病院にて樹立したヒトiPS細胞を用いた。
常法に則って未分化状態で維持されている前記ヒトiPS細胞をコロニー状に解離し、下記培地(以下、「胚様体形成工程用培養液」と称することがある)に懸濁した後、低接着加工を行った培養皿(Corning超低接着加工表面(コーニング社製))で浮遊培養(培養条件:37℃、5%CO2、5%O2)を開始し(0日目)、1日間培養することで、前記ヒトiPS細胞の凝集体(胚様体(Embryoid Body:EB)を形成させた。
・・・
【0165】
<中胚葉誘導工程>
前記洗浄工程後、下記培地(以下、「中胚葉誘導工程用培養液」と称することがある)を加え、前記培養皿で、浮遊培養を再開した(胚様体形成工程開始1日目〜3日目)。
・・・
【0168】
<心筋細胞誘導工程>
<<第1の心筋細胞誘導処理>>
前記洗浄工程後、下記培地(以下、「第1の心筋細胞誘導処理用培養液」と称することがある)を加え、前記培養皿で、浮遊培養を再開した(胚様体形成工程開始3日目〜6日目)。
−第1の心筋細胞誘導処理用培養液−
前記中胚葉誘導工程用培養液において調製した第2の分化誘導培地に、IWP2(シグマ社製、5μM)、SB431542(シグマ社製、5μM)、及びエストラジオール(シグマ社製、100nM)を添加した培地を第1の心筋細胞誘導処理用培養液とした。
・・・
【0175】
<胚様体解離工程>
前記非心筋細胞成長抑制用培養液で培養した後の胚様体を以下のようにして、解離した(胚様体形成工程開始28日目、中胚葉誘導工程開始27日目)。
【0176】
(1) 胚様体が、ピペットや回収チューブの容器内面に接着しないように、ピペットや回収チューブの容器内面に、血清(Biowest社製)を1質量%含むPBSを接触させた。
(2) 前記胚様体を回収チューブに回収し、沈殿させた後に上清を除去した。次いで、PBSを加え、再度沈殿させた後に上清を除去する作業を2回繰り返した。
(3) 下記組成の解離溶液を3mL加え、37℃で5分間保持した後にピペッティングを行い、更に37℃で5分間保持した。
−解離溶液−
2.5mg/L−Trypsin/1mmol/L−EDTAsolution(ナカライテスク株式会社製)に、DNaseI(ミリポア社製)を20mg/L添加した溶液を解離溶液として利用した。
(4) ピペッティングを行った後に、下記組成のタンパク質分解反応停止液を3mL加え、37℃で5分間保持し、タンパク質分解反応を停止させるとともに、細胞が破壊されることで溶液中に漏出したゲノムDNAを分解した。
−タンパク質分解反応停止液−
DMEM(ナカライテスク株式会社製)に、血清(Biowest社製)を20質量%、及びDNaseI(ミリポア社製)を20mg/L添加した溶液をタンパク質分解反応停止液として用いた。
(5) 上清に含まれる解離した細胞を別のチューブに回収した。
(6) 前記(4)で沈殿していた残渣にPBSを加え、再度沈殿させた後に上清を除去した。
(7) 前記(3)と同様の作業を行った。
(8) 前記(4)と同様の作業を行った。
(9) 前記(5)と同様の作業を行った。
(10) 前記(6)〜(9)の作業を残渣がなくなるまで繰り返し行った。
(11) 前記(5)、及び(9)で別のチューブに回収した細胞をまとめて40μmのフィルタ(BD社製(352340))に通し、解離した細胞から細胞の凝集体を除去した。前記フィルタを通した後の細胞を遠心して上清を除去した。
【0177】
前記(11)で上清を除去した後にペレットとなって沈殿している細胞を、培地(DMEM(ナカライテスク株式会社製)に血清(Biowest社製)を20質量%加えた培養液)に懸濁し、播種密度100,000細胞/cm2となるようにゼラチンコートを行った培養皿(グライナー社製)に播き、接着培養を行った(培養条件:37℃、5%CO2、胚様体形成工程開始28日目〜30日目)。
なお、前記ゼラチンコートは、PBSにゼラチン(シグマ社製)を0.1質量%加えた溶液を培養皿の表面に30分間以上接触させた後、該溶液を除去することで可能である。」

イ 甲2
甲2(特開2015-077135号公報)には、以下の事項が記載されている。また、下線は当審で付したものである。

甲2a
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状細胞培養物の製造方法であって、
細胞を凍結するステップ、
凍結した細胞を解凍するステップ、および
シート状細胞培養物を形成するステップ
を含み、前記細胞がヒト骨格筋芽細胞であり、前記細胞を解凍するステップの後、細胞を実質的に増殖させずに、シート状細胞培養物を形成する、前記方法。」

甲2b
「【実施例】
・・・
【0086】
例7
凍結保存されたヒト心筋細胞を37℃で解凍し、0.5%血清アルブミンを含む緩衝液を用いて2回洗浄する。5×106〜3×107個の細胞を血清含有培地に懸滑し、フラスコに播種した後、2〜3日間培養する。
UpCell(3.5cmディッシュまたは24穴マルチウェル、CellSeed Inc)に、培養表面が全て覆われる程度の血清含有培地を添加し、37℃、5%CO2の環境で3時間〜3日間処理を行う。処理後、添加した培地は廃棄する。
培養した細胞を回収し、血消含有培地に懸襴し、処理済みUpCell(R)に2〜20×105個/cm2の密度で播種し、37℃、5%CO2の環境で約1日間シート化培養を行う。」

ウ 甲3
甲3(Int Heart J., 2009, Vol.50(5), pp.653-662)には、以下の事項が記載されている。なお、甲3は英文で記載されているため、申立人が提出した抄訳の記載事項を翻訳文として使用する。また、下線は当審で付したものである。

甲3a
「天然の心臓組織では、細胞密度は1.0×108/cm3程度であり、細胞の代謝は非常に活発である。したがって、心臓細胞を3次元的に高密度に培養し、人工心臓組織をinvitroで構築することは非常に困難である。本研究の目的は、心臓細胞の3次元培養をシミュレートし、人工心臓組織をinvitroで構築する新しい方法を追求することである。分離した新生児ラット心室細胞を1×106/cm2の高播種密度で培養した。高密度の細胞は活発に代謝し、心室細胞のグルコース消費量と乳酸産生量は、同じ密度で培養した線維芽細胞よりもはるかに大きかった。心室細胞の培養液のpH値は一貫して、より急速に低下した。これらの培養心室細胞は、血管内皮細胞、心筋細胞、平滑筋細胞を含み、互いに近接して見え、核が重なり合い、細胞外コラーゲンが豊富であった。高密度の細胞を0.2%トリプシンで処理し、足場なしの人工心筋細胞シートを構築した。この人工心筋細胞シートは、自発的に拍動し、巻き上がることができ、各シートの厚さは3〜5細胞で、豊富な心筋細胞と細胞外コラーゲンを含んでいた。結論として、invitroで高密度に培養した細胞は、2次元培養環境でも良好に増殖し、「擬似3次元」培養を形成し、数層の細胞からなる人工心筋細胞シートを形成した。この研究は、心臓組織工学の指針を示すとともに、足場を用いずに人工心臓細胞を構築する新しい方法を提供するものである。」(要約)

(2)甲1に記載された発明
甲1aには多能性幹細胞を培養し、胚様体を形成する胚様体形成工程と、前記胚様体を培養し、中胚葉を誘導する中胚葉誘導工程と、前記中胚葉誘導後の胚様体を培養し、心筋細胞を誘導する心筋細胞誘導工程と、前記心筋細胞誘導後の胚様体を解離する胚様体解離工程とを含み、前記胚様体解離工程が、前記中胚葉誘導工程開始から40日目までの間に行われることを特徴とする心筋細胞の製造方法が記載され(【請求項1】)、胚様体解離工程後に心筋細胞を培養し、成熟化させる心筋細胞成熟化工程を含むことも記載されている(【請求項5】)。
また、甲1bには多能性幹細胞から製造される心筋細胞には多くの非心筋細胞が混入してしまうという問題が生じることから、高品質な心筋細胞を製造することが可能な心筋細胞の製造方法、非心筋細胞の混入や、心筋細胞の非均質性が低減されており、高品質である心室型心筋細胞及びその製造方法を提供することが発明の目的であること(【0006】、【0007】、【0009】)が記載されている。

したがって、甲1には、次のとおりの発明が記載されていると認められる。
「多能性幹細胞を培養し、胚様体を形成する胚様体形成工程と、
前記胚様体を培養し、中胚葉を誘導する中胚葉誘導工程と、
前記中胚葉誘導後の胚様体を培養し、心筋細胞を誘導する心筋細胞誘導工程と、
前記心筋細胞誘導後の胚様体を解離する胚様体解離工程と、
前記胚様体解離工程後の心筋細胞を培養し、成熟化させる心筋細胞成熟化工程を含み、前記胚様体解離工程が、前記中胚葉誘導工程開始から40日目までの間に行われる心筋細胞の製造方法」(以下、「甲1発明」という。)

(3)本件発明1、2について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
甲1発明では、多能性幹細胞を培養して胚様体を形成し、心筋細胞に誘導するように胚様体を培養しているから、甲1発明における「胚様体」、「心筋細胞」は、それぞれ、本件発明1における「多能性幹細胞から心筋細胞へと分化誘導して得られた胚様体」、「多能性幹細胞から分化誘導された心筋細胞を含む細胞培養物」に相当する。
また、甲1発明の心筋細胞の製造方法は、「心筋細胞誘導後に胚様体を解離する胚様体解離工程」を含むところ、本件明細書の【0030】には、「本発明において、「胚様体を分散させる」とは、胚様体(凝集体)をより細かな構成体にすることを意味する」ことが記載されるので、甲1発明における「胚様体解離工程」は、本件発明1の「胚様体を分散させた」工程に相当し、こうした工程を経た甲1発明の「胚様体解離工程後の心筋細胞」には、上記の甲1bに記載された非心筋細胞、すなわち、心筋細胞より増殖速度が早い細胞等が混入すると認められる。
よって、甲1発明における「胚様体解離工程後の心筋細胞」は、本件発明1における「多能性幹細胞から心筋細胞へと分化誘導して得られた胚様体を分散させた、前記心筋細胞および該心筋細胞に対して相対的に増殖速度の早い細胞を含む細胞集団」に相当する。
そして、甲1cによると、甲1発明の「胚様体解離工程」には、前記解離処理を行った後の細胞を培養する処理を含み(【0084】)、かかる培養は、接着培養が好ましいこと(【0085】)、甲1発明の「心筋細胞成熟化工程」の培養も、接着培養が好ましいこと(【0112】、【0116】)が記載されるので、甲1発明の「胚様体解離工程後の心筋細胞を培養」は、培養に供する心筋細胞を「播種」する工程を当然に含むものと解される。
また、本件発明1は、細胞培養物の製造期間を規定するものではないから、甲1発明の「前記胚様体解離工程が、前記中胚葉誘導工程開始から40日目までの間に行われる」は、本件発明1との相違点にはならない。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「多能性幹細胞から分化誘導された心筋細胞を含む細胞培養物を製造する方法であって、前記多能性幹細胞から前記心筋細胞へと分化誘導して得られた胚様体を分散させた、前記心筋細胞および該心筋細胞に対して相対的に増殖速度の早い細胞を含む細胞集団を播種することを含む、前記方法。」で一致し、以下の相違点1で相違する。

<相違点1>
本件発明1では心筋細胞および該心筋細胞に対して相対的に増殖速度の早い細胞を含む細胞集団を、コンフルエントに達する密度またはそれ以上の密度で播種することを含み、コンフルエントに達する密度またはそれ以上の密度が、1.0×106個/cm2〜1.875×106個/cm2であることを特定しているのに対し、甲1発明においては細胞培養の密度について特定されていない点。

イ 相違点1についての判断
甲1cには、接着培養における細胞の播種密度として、2.5×104細胞/cm2〜2×105細胞/cm2が好ましく、8×104細胞/cm2〜1.2×105細胞/cm2がより好ましいこと(【0089】、【0116】)が記載されているが、それ以上の播種密度で胚様体解離工程を経た(分散させた)心筋細胞を接着培養することは記載も示唆もされていない。
一方、シート状細胞培養物の製造方法を示す甲2bには、ヒト心筋細胞を2〜20×105個/cm2の密度で播種し、シート化培養を行ったこと(【0086】)、心室細胞を高い密度で含む心筋細胞シートの製造を示す甲3aには、分離した新生児ラット心室細胞を1×106/cm2の高密度播種で培養したこと(要約)が記載されているが、甲2、3のいずれにも、多能性幹細胞を分化誘導して得られた胚様体について、胚様体解離工程を経た(分散させた)後に、心筋細胞を培養することについては記載も示唆もされていない。
また、甲1dによると、心筋細胞をシート状に培養する播種密度として、甲2、甲3に記載された密度よりも低い1×105細胞/cm2〜2×105細胞/cm2が記載されているので(【0148】)、甲2、甲3に記載された播種密度は、心筋細胞をある特定の目的でシート状に培養する際に採用される特定の条件に過ぎないと解するのが相当であり、甲2に記載される「2〜20×105個/cm2」における上限付近の「20×105個/cm2」や甲3に記載される「1×106/cm2」等が、多能性幹細胞を分化誘導して得られた胚様体について、胚様体解離工程を経た(分散させた)後の心筋細胞を含め心筋細胞一般に適用される通常の播種密度であるとは認められない。
そうすると、多能性幹細胞に由来する胚様体からの心筋細胞を培養することを技術主題とする甲1発明と、心筋細胞をシート状に培養する際の特定の播種密度を示すに過ぎない甲2、甲3の記載を組み合わせる動機付けが存在するとはいえない。
そして、本件明細書の本aの【0010】、本bの【0026】、本cの【0079】、【表1】、本dの【図1】によれば(下記の2(1))、本件発明1は、「1.0×106個/cm2〜1.875×106個/cm2」という高密度で、多能性幹細胞に由来する胚様体からの心筋細胞を播種し、培養することにより、細胞培養物中の心筋細胞の割合や回収可能な心筋細胞量が高まるという、甲1〜3の記載からでは当業者が予測できない効果を奏するものである。
そうすると、甲1発明において、甲1〜3の記載に接した当業者が、上記の相違点1として挙げた本件発明1の発明特定事項を採用することを容易に想到し得るとはいえない。
以上のとおり、本件発明1は、甲1に記載された発明、及び、甲1〜3に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の「1.0×106個/cm2〜1.875×106個/cm2」について、上限の「1.875×106個/cm2」のみとしたものであるため、本件発明1と同様の理由により、甲1に記載された発明、及び、甲1〜3に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明3〜11について
本件発明3〜11は、本件発明1又は2を直接又は間接的に引用し、さらに限定しようとするものであるから、上記(3)イ、ウと同様の理由により、進歩性を否定することはできない。

(5)申立人の主張について
申立人は、甲2、甲3に記載されているように心筋細胞を1.0×106個/cm2〜2.0×106個/cm2の密度で播種して培養することは普通に行われていることであるから、甲1に開示された心筋細胞を含む細胞集団について1.0×106個/cm2〜2.0×106個/cm2の密度で播種して培養することは当業者であれば容易になし得たものである、本件発明の効果についても、実施例1の表1には記載されたロットでは播種前と比べた増加の割合が小さく、培養4日後にはトロポニン陽性率が低下している例が存在し、実施例1と比較例1の効果を対比することは科学的に妥当でないと主張している。
しかしながら、上記(3)イで述べたとおり、甲2、3のいずれにも、多能性幹細胞を分化誘導して得られた胚様体について、胚様体解離工程を経た(分散させた)後に、心筋細胞を培養することは、記載も示唆もされていないし、甲2に記載される「2〜20×105個/cm2」における上限付近の「20×105個/cm2」や甲3に記載される「1×106/cm2」等は、心筋細胞一般に適用される通常の播種密度であるとは認められないので、多能性幹細胞に由来する胚様体から心筋細胞を培養することを技術主題とする甲1発明と甲2、甲3の記載を組み合わせる動機付けが存在するとはいえない。
したがって、本件発明は、その効果を論ずるまでもなく、進歩性を否定することができないので、申立人の主張は理由がない。
なお、本件発明の効果について付言すると、本件明細書の実施例1の図1及び表1に記載された播種前のトロポニン陽性率が30%〜81.5%の全てのロットについて培養5日後にはトロポニン陽性率が上昇しており、令和5年1月25日に提出された審判請求書において提出されたCM−140620(Day5)のデータを参照すると、低密度培養を行った場合には、培養5日後においてトロポニン陽性率が76%から59%に低下したことが把握できるから、本件発明が本件明細書の本aの【0010】に記載される効果を奏することを当業者は理解できたものと認められる。

(6)小括
以上に述べたとおり、本件発明1〜11は、甲1に記載された発明、及び、甲1〜3に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立理由1(甲1に基づく進歩性欠如)は理由がない。

2 申立理由2(サポート要件)について
(1)本件明細書に記載された事項
本件明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審にて付与した。)

本a
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、多能性幹細胞から分化誘導された目的細胞を含む細胞培養物を製造する方法、当該細胞培養物を含むシート状細胞培養物を製造する方法、当該細胞培養物またはシート状細胞培養物を含む組成物、移植片および医療製品、当該目的細胞培養物またはシート状細胞培養物を用いた疾患の処置方法、ならびに当該細胞培養物またはシート状細胞培養物を製造するためのキットなどの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
多能性幹細胞から分化誘導された細胞を移植に用いる場合、目的の細胞を高い割合で含む細胞集団を効率よく得ることが肝要となる。従来の目的細胞の割合を高める方法は、目的細胞の割合を高めるものの、細胞の回収率は低く、いずれの方法も効率的な方法であるとは言えない。
【0008】
本発明者らは、多能性幹細胞から心筋細胞を効率的に調製する方法について鋭意研究に取り組む中で、胚様体を分散させた細胞集団を、コンフルエントに達する密度またはそれ以上の密度で播種して培養すると、驚くべきことに、心筋細胞の含有率が播種前の細胞集団よりも高くなり、それ以外の細胞の含有率が、播種前の細胞集団よりも低くなることを見出した。そしてかかる知見に基づいてさらに研究を続けた結果、本発明を完成させた。
・・・
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法は、多能性幹細胞から目的細胞へと分化誘導して得られた胚様体を分散させた細胞集団に含まれる目的細胞およびその他の細胞の中で、目的細胞が相対的に増殖速度の遅い細胞である場合に、前記細胞集団を、高密度、例えばコンフルエントに達する密度またはそれ以上の密度で播種することにより、目的細胞の含有率を播種前の細胞集団よりも高め、かつ目的細胞に対して相対的に増殖速度の早い、目的細胞以外の細胞の含有率を、播種前の細胞集団よりも低下せしめることを可能とし、それにより細胞培養物中の目的細胞の割合を高めることができる。さらに本発明の方法によれば、回収可能な生存細胞の割合が従来よりも高まるため、最終的に回収可能な目的細胞量が飛躍的に高まる。また、本発明の方法は、腫瘍形成能を有する細胞を除去することをさらに含むことにより、腫瘍化のリスクが低減した細胞培養物を得ることが可能である。本発明における細胞培養物は、従来のシート状細胞培養物の製造方法と親和性が高く、手間やコストが軽微であるため、本発明の方法は、シート状細胞培養物の製造に広く利用することができる。本発明の方法により得られた細胞培養物を、任意で凍結・解凍操作を経た後、シート化させることにより、シート状細胞培養物を製造することが可能である。」

本b
「【0026】
特定の理論に拘束されることは望まないが、コンフルエントに達する密度で細胞を播種することにより、目的細胞に対して相対的に増殖速度の早い細胞群の増殖が、接触阻害により抑えられる一方で、目的細胞の細胞間コミュニケーションは、低密度で播種した場合よりも高密度で播種した場合の方が好適であるため、結果として、目的細胞を、播種前の細胞集団における割合よりも高い割合で含有し、目的細胞に対して相対的に増殖速度の早い細胞群を、播種前の細胞集団における割合よりも低い割合で含有する細胞培養物が得られるものと考えられる。」

本c
「【実施例】
【0074】
本発明を以下の例を参照してより詳細に説明するが、これらは本発明の特定の具体例を示すものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0075】
実施例1 高密度培養による方法
(1)ヒトiPS細胞の維持培養・分化誘導
臨床用ヒトiPS細胞株は京都大学Ciraで樹立されたものを用い、Nakagawa M.et al.、Scientific Reports、4:3594(2014)を参考に、フィーダーフリー法で維持培養した。分化誘導法はMiki K. Cell Stem Cell(2015)、WO2014/185358A1およびWO2017/038562を参考に実施した。
具体的には、フィーダー細胞を含まない培養液で維持培養したヒトiPS細胞を、EZ sphere(旭硝子)上で10μM Y27632(和光純薬)を含有するStemFitAK03培地(味の素)中で1日培養し、得られた胚様体をアクチビンA、骨形成タンパク質(BMP)4および塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含有する培養液中で培養し、さらにWnt阻害剤(IWP3)およびBMP4阻害剤(Dorsomorphin)およびTGFβ阻害剤(SB431542)を含む培養液中で培養し、その後VEGFおよびbFGFを含む培養液中で培養を行った。
【0076】
(2)胚様体の単一細胞への分散
分化誘導後の心筋細胞を含む胚様体に対して、TrypLE(登録商標)Select Enzyme(10X)、no phenol red(Thermo Fisher Scientific)を1mM EDTAにて3×の濃度に希釈した溶液を用い、37℃で10分間インキュベートすることにより、単一細胞へと分散した。残存する細胞凝集物をストレイナー(BD Bioscience)で除去し、その後の実験に供した。
【0077】
(3)高密度での播種・培養
ゼラチンコートした6wellプレート(培養面積9.6cm2)に、DMEM High Glucose培地(ナカライテスク、08458−16)にFBS(Moregate、55304423)を10%含む培地(以下、DMEM−10%FBS培地)に10μMのY27632(ROCK阻害剤)を入れ、分散させた心筋細胞を、1.8×107個播種した。アドセトリス(登録商標)処理を行う場合、その翌日よりアドセトリス(登録商標)処理を行ない、5μg/ml、48時間の処理をした。その後、DMEM−10%FBS培地に培地交換して、48時間培養を継続した。
【0078】
(4)評価
トリパンブルー染色を行うことにより、細胞数を算出し、播種細胞数に対する回収した生細胞数から細胞回収率を算出した。心筋細胞純度は、分散した細胞をBD Cytofix/Cytoperm(登録商標)Fixation/Permeabilization Solution Kit(BD Bioscience)を用いて固定、透過処理した後、抗ヒトトロポニン抗体(Thermo Fisher Scientific)、標識2次抗体(Thermo Fisher Scientific)を順次反応させた後、フローサイトメーターにより測定を行った。未分化細胞マーカーであるLin28を発現する細胞数の割合は定量PCRで測定した。
【0079】
(5)結果
結果を図1に示す。播種前の細胞集団のトロポニン陽性率は30%であったが、アドセトリス(登録商標)処理を行なわなかったものについては、合計培養日数5日後、播種後のトロポニン陽性率が64%となり、回収細胞数は7.7×106個で、細胞回収率は約43%、未分化細胞マーカーであるLin28陽性率は0.4%であった。アドセトリス(登録商標)処理を行ったものについては、合計培養日数5日後、トロポニン陽性率は62%となり、回収細胞数は9.9×106個で、回収率は約56%、Lin28陽性率は0.2%であった。
同様に行った他のロットにおける結果を表1に示す。いずれのロットにおいても、合計培養日数5日後、トロポニン陽性率は、播種前の値と比較して増加した。
本方法は、トロポニン陽性率が上昇した細胞培養物を高い回収率で得ることができるという、驚くべき、予想外の結果を示すものであった。
【表1】



本d


」(【図1】)

(2)本件発明が解決しようとする課題
本件発明1〜11の記載及び本aの【0006】の記載によると、本件発明が解決しようとする課題は、多能性幹細胞から分化誘導された目的細胞を含む細胞培養物を製造する方法を提供することにあると認められる。

(3)判断
本件明細書の【0008】(本a)には胚様体を分散させた細胞集団を、コンフルエントに達する密度またはそれ以上の密度で播種して培養すると心筋細胞の含有率が播種前の細胞集団よりも高くなり、それ以外の細胞の含有率が、播種前の細胞集団よりも低くなること、【0026】(本b)にはコンフルエントに達する密度で細胞を播種することにより、目的細胞に対して相対的に増殖速度の早い細胞群の増殖が、接触阻害により抑えられる一方で、目的細胞の細胞間コミュニケーションは、低密度で播種した場合よりも高密度で播種した場合の方が好適であるため、結果として、目的細胞を、播種前の細胞集団における割合よりも高い割合で含有し、目的細胞に対して相対的に増殖速度の早い細胞群を、播種前の細胞集団における割合よりも低い割合で含有する細胞培養物が得られるものと考えられることが記載されている。そして、実施例1の【0079】、図1、表1(本c、d)の記載から、播種前のトロポニン陽性率が30%〜81.5%の5つのロットについて、培養5日後には播種前と比較してトロポニン陽性率が上昇した細胞培養物が、高い回収率で得られたことが裏付けられている。
そうすると、本件発明1〜11は、当業者が、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、上記(2)の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。

(4)申立人の主張について
申立人は、申立理由1で効果について述べたとおり、実施例1に記載された特定の分化誘導方法で得られた胚様体を解離して得られた細胞集団以外を用いた場合に本件発明の効果を発揮できるように発明を実施できると当業者は理解することができないから、胚様体を得るための分化誘導方法が実施例の特定の方法に限定されていない本件発明1〜11は発明の詳細な説明に記載された発明ではないと主張している。
しかしながら、上記(3)で述べたとおり、播種前のトロポニン陽性率が様々に異なる5つのロットのすべてについて、培養5日後には播種前と比較してトロポニン陽性率が上昇した細胞培養物が、高い回収率で得られたことが裏付けられているので、本件発明の効果が特定の細胞集団に限られないことは本件明細書の実施例の記載から明らかである。また、申立人は、実施例1に記載された分化誘導方法で得られた胚様体を解離して得られた細胞集団以外では本件発明の効果を発揮できないことを端的に示す反証等も提示していない。
そうすると、本件発明1〜11は、当業者が、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、上記課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえるから、申立人の主張は理由がない。

(5)小括
以上のとおり、本件発明1〜11について、特許請求の範囲の記載がサポート要件に違反しているとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、本件特許に係る特許異議申立てにおいて申立人が主張する申立理由は、いずれも理由がないから、本件発明1〜11に係る特許は、取り消すことができない。
ほかに、本件発明1〜11に係る特許を取り消すべき理由も発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2024-03-05 
出願番号 P2019-523536
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C12N)
P 1 651・ 537- Y (C12N)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 福井 悟
特許庁審判官 松本 淳
天野 貴子
登録日 2023-06-19 
登録番号 7298844
権利者 国立大学法人大阪大学 テルモ株式会社
発明の名称 細胞培養物の製造方法  
代理人 弁理士法人葛和国際特許事務所  
代理人 弁理士法人葛和国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ