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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01F 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F |
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管理番号 | 1409811 |
総通号数 | 29 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2024-05-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2023-02-09 |
確定日 | 2024-04-03 |
事件の表示 | 特願2020−570547「磁性粉末の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年12月26日国際公開、WO2019/243136、令和 3年10月14日国内公表、特表2021−527961〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2019年(令和元年)6月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2018年6月18日 欧州特許庁)を国際出願日とする特許出願であって、その後の手続の経緯は以下のとおりである。 令和3年 2月15日 手続補正書の提出 令和4年 3月28日 拒絶理由通知書(起案日) 令和4年 6月28日 意見書、手続補正書の提出 令和4年10月21日 拒絶査定(原査定)(起案日) 令和5年 2月 9日 審判請求書、手続補正書の提出 第2 令和5年2月9日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和5年2月9日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について(補正の内容) (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線は、補正箇所である。) 「【請求項1】 磁性粉末の製造方法であって、 a)廃磁性化学組成を含む廃磁性材料を提供することと、 b)前記廃磁性材料を分析して、前記廃磁性化学組成に関する情報を得ることと、 c)前記廃磁性化学組成を目標磁性化学組成に調整して、調整された廃磁性材料を得ることと、 d)ステップc)で得られた前記調整された廃磁性材料を霧化して前記磁性粉末を得ることとを含み、 前記ステップc)で前記調整された廃磁性材料を得るために、前記廃磁性化学組成を目標磁性化学組成に調整することは、さらに、 c1)前記廃磁性化学組成中の少なくとも1つの化学元素と前記目標磁性化学組成中の前記少なくとも1つの化学元素との間の少なくとも1つの差分量を計算するステップ、および c2)前記少なくとも1つの化学元素の前記差分量を前記廃磁性材料に添加するステップ を含み、 前記廃磁性材料は、永久磁石の製造中に生じる材料損失、機械加工(テーリング)、および非効率性の結果として廃棄される材料、または最終製品磁性材料の本来の目的にもはや有用ではないかまたは部分的にのみ有用である磁場を示す電気デバイスからの最終製品磁性材料であり、および 前記差分量は、前記廃磁性材料中および目標磁性材料中の少なくとも1つの化学元素の相対的割合の比較の結果から得られる不同性の量である、磁性粉末の製造方法。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲の記載 本件補正前の請求項1の記載は、令和4年6月28日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものである。 「【請求項1】 磁性粉末の製造方法であって、 a)廃磁性化学組成を含む廃磁性材料を提供することと、 b)前記廃磁性材料を分析して、前記廃磁性化学組成に関する情報を得ることと、 c)前記廃磁性化学組成を目標磁性化学組成に調整して、調整された廃磁性材料を得ることと、 d)ステップc)で得られた前記調整された廃磁性材料を霧化して前記磁性粉末を得ることとを含み、 前記ステップc)で前記調整された廃磁性材料を得るために、前記廃磁性化学組成を目標磁性化学組成に調整することは、さらに、 c1)前記廃磁性化学組成中の少なくとも1つの化学元素と前記目標磁性化学組成中の前記少なくとも1つの化学元素との間の少なくとも1つの差分量を計算するステップ、および c2)前記少なくとも1つの化学元素の前記差分量を前記廃磁性材料に添加するステップ を含む、磁性粉末の製造方法。」 2 補正の適否 本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲を補正するものであるところ、そのうちの請求項1についての補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「廃磁性材料」について、「前記廃磁性材料は、永久磁石の製造中に生じる材料損失、機械加工(テーリング)、および非効率性の結果として廃棄される材料、または最終製品磁性材料の本来の目的にもはや有用ではないかまたは部分的にのみ有用である磁場を示す電気デバイスからの最終製品磁性材料であり」との限定を付加し、同様に「差分量」について、「前記差分量は、前記廃磁性材料中および目標磁性材料中の少なくとも1つの化学元素の相対的割合の比較の結果から得られる不同性の量である」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。 (2)引用文献の記載事項 ア 引用文献2の記載と引用発明 (ア)引用文献2の記載 原査定の拒絶理由で引用された本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった刊行物である、特開2005−302745号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の記載がある。(下線は当審で付した。以下同じ。) 「【0001】 【発明の属する技術分野】 この発明は、希土類ボンド磁石粉末の製造方法及びそれを用いたボンド磁石の製造方法に関する。」 「【0006】 本発明の課題は、より少ない工数及び投入エネルギーにより希土類磁石スクラップを希土類ボンド磁石粉末に効率的に転換することができ、ひいては希土類資源の有効利用に寄与する希土類ボンド磁石粉末の製造方法と、それを用いた希土類ボンド磁石の製造方法を提供することにある。 【0007】 【課題を解決するための手段及び作用・効果】 上記の課題を解決するために、本発明に係る希土類ボンド磁石粉末の製造方法の第一は、一軸磁気異方性を有した、希土類元素と遷移金属元素との金属間化合物により硬磁性主相が構成された希土類磁石の、製造不良品ないし廃棄品(以下、両者を総称して希土類磁石スクラップという)を合金原料の一部または全部として用い、該合金原料を溶解して溶湯となし、希土類元素と遷移金属元素との金属間化合物からなる硬磁性主相が平均粒径にて1μm以下に微細粒子化された結晶質組織が得られるように、溶湯を急冷して急冷原料となし、当該結晶質急冷原料をそのまま又は粉砕して希土類ボンド磁石用粉末となすことを特徴とする。」 「【0010】 そして、いずれの方法においても共通している点は、希土類磁石スクラップを一旦溶解して、これを急冷することにより、希土類ボンド磁石粉末を簡単に得られることにある。その結果、少ない工数及び投入エネルギーにより希土類磁石スクラップを希土類ボンド磁石粉末に効率的に転換することができ、ひいては希土類資源の有効利用に寄与する。溶解は、例えば高周波誘導溶解、アーク溶解等公知の溶解方法を用いることができる。 【0011】 本発明において、希土類磁石スクラップは、製造段階で生じた不良品あるいはロットアウト品、加工工程で発生する切り屑や研磨ダストなどである。具体的には、希土類焼結磁石の製造工程において発生する焼結体の焼結不良や亀裂不良、切断時の欠けや端材、研磨屑、メッキや樹脂塗装での外観不良や膜厚不良、検査工程での寸法や磁気特性不良品などがある。また、希土類ボンド磁石の不良品から樹脂分を有機溶剤で分離除去した残材もスクラップとして使用できる。また、これら製造上の理由で発生するスクラップのほか、電気製品等の市中製品に組み込まれた磁石で廃棄処分となったものを有効に活用できる。 【0012】 希土類磁石スクラップは、単独で溶解して急冷することによりボンド磁石とすることもできるが、例えば焼結磁石(後述)をボンド磁石に転換する場合は、両者の組成が必ずしも一致しない場合がある。このように、最終的に得るべき希土類ボンド磁石用粉末は希土類磁石スクラップと組成の相違する場合は、合金原料として、希土類磁石スクラップに、該希土類磁石スクラップと希土類ボンド磁石用粉末との組成差を解消するための組成調整用原料を配合してなるものを使用することができる。これにより、使用可能な希土類磁石スクラップの種類を大幅に増やすことができ、より効果的なリサイクルを計ることができる。 【0013】 また、組成の異なる希土類磁石スクラップは、図1に示すように、組成毎に分別して回収し、各々異なる組成の希土類ボンド磁石用粉末の合金原料として用いることができる。これにより、目的とする組成の希土類ボンド磁石用粉末に最も近い組成のスクラップを使用することが可能となり、組成調整用原料を用いないか、あるいは用いる場合でも、その使用量を最小限にとどめることができるようになる。 【0014】 また、図2に示すように、組成の異なる希土類磁石スクラップを組成毎に分別して回収し、異なる組成の2種以上の希土類磁石スクラップを配合して希土類ボンド磁石用粉末の合金原料として用いることもできる。複数種類組成の希土類磁石スクラップを配合することにより、希土類磁石スクラップのみで目的とする希土類ボンド磁石用粉末の組成により近い組成を得ることが可能となり、組成調整用原料の使用量をより少なくすること(ゼロを含む)が可能となる。 【0015】 希土類磁石スクラップは、特に、周知かつ一般に広く使用されているR−Fe−B系(ただし、RはNdを主成分とする希土類元素)希土類磁石スクラップ又はR’−Co系(ただし、R’はSmを主成分とする希土類元素)希土類磁石スクラップのいずれかとすることが、リサイクル効果を高める意味で有効であることはいうまでもない。希土類ボンド磁石用粉末は、R−Fe−B系希土類ボンド磁石粉末又はR’−Co系希土類ボンド磁石粉末のいずれかとされる。R−Fe−B系希土類磁石は、硬磁性主相がR2Fe14B相にて構成される。他方、R’−Co系希土類磁石は、周知のごとく、硬磁性主相がR’Co5相にて構成されるニュークリエーション型のものと、硬磁性主相をR’2Co17相とし、これよりも若干希土類リッチの組成を採用して熱処理によりR’Co5相を網目上に析出させた磁壁ピンニング型のものの2種類があり、いずれも本発明に使用することができる。なお、R’−Co系希土類磁石スクラップの場合、構成元素として少量のCu,Fe,Zr,Tiなどを含んでいても差し支えない。」 「【0027】 溶湯を急冷する方法としては、図3に示すように、溶融合金を回転する急冷ロールの上に直接噴出させて薄片あるいは薄帯を得る方法(単ロール法:ロールは例えばCu製)が採用できる。この他、双ロール法、スプラットクエンチ法、遠心急冷法、ガスあるいは水アトマイズ法等、各種方法が適用できる。これらのうち、特に単ロール法は、溶湯の冷却効率が高く、またロール周速による冷却速度の調整が容易で、均質で高性能の急冷原料を大量生産するのに好適である。この場合、ロール周速を5〜35m/秒、望ましくは10〜30m/秒とすることが、微細で均一な結晶粒を有し、磁気特性に優れた急冷原料を得る上で望ましい。 【0028】 急冷原料は、最終的に平均粒子径が500μm以下となるように調整されてボンド磁石用粉末とすることができる。平均粒子径が500μm以上であると、ボンド磁石内における磁石粉末及び樹脂の分布が不均一となり、ボンド磁石の表面磁束分布のばらつきを生ずる原因となる。一方、平均粒子径が細かくなりすぎると、例えば圧縮成形によりボンド磁石を製造する場合、磁石粉末の流れ性が低下し、その金型へのスムーズな充填が困難になり生産性の低下を引き起こすので、所定の平均粒径以上に設定される。なお、磁石粉末の平均粒子径は、望ましくは50〜400μm、さらに望ましくは100〜300μmの範囲内で設定するのがよい。 【0029】 急冷後にボンド磁石の製造に適した適当な粒度分布の粉末が得られる場合には、そのままボンド磁石用粉末として利用できるし、薄片や薄帯の場合は二次粉砕を行うことにより粒度調整した後、ボンド磁石用粉末として使用することができる。粉砕の方法としては、スタンプミル、フェザーミル、ディスクミル等を用いる公知の粉砕方法により、前述の平均粒子径となるように粉砕され、ボンド磁石用粉末とされる。なお、粗粉砕した後にさらに微粉砕する二段階(あるいはそれ以上の多段階)により粉砕を行ってもよい。なお、粉砕後の粉末は、適宜メッシュ等により整粒して粒度調整することが望ましい。」 「【図3】 」 (イ)引用発明 上記(ア)より、引用文献2には、以下の事項が記載されているといえる。 a 引用文献2には、段落【0001】より、「希土類ボンド磁石粉末の製造方法」に関する発明が記載されている。 b 段落【0013】には、「各々異なる組成の希土類ボンド磁石用粉末の合金原料として用いることができる」、「組成の異なる希土類磁石スクラップ」を「組成毎に分別して回収」することが記載されている。 c 段落【0012】には、「最終的に得るべき希土類ボンド磁石用粉末」が「希土類磁石スクラップと組成の相違する場合は、合金原料として、希土類磁石スクラップに、該希土類磁石スクラップと希土類ボンド磁石用粉末との組成差を解消するための組成調整用原料を配合してなるものを使用すること」が記載されている。そして、段落【0012】、【0013】から、「最終的に得るべき希土類ボンド磁石用粉末」は、「目的とする組成の希土類ボンド磁石用粉末」であるといえる。 d 段落【0007】には、「該合金原料を溶解して溶湯となし、希土類元素と遷移金属元素との金属間化合物からなる硬磁性主相が平均粒径にて1μm以下に微細粒子化された結晶質組織が得られるように、溶湯を急冷して急冷原料となし、当該結晶質急冷原料をそのまま又は粉砕して希土類ボンド磁石用粉末となすこと」が記載されている。 e 上記dの「溶湯を急冷して急冷原料とな」すことについて、段落【0027】に記載され、また図3から看取できるとおり、「ガスアトマイズ法が適用できる」といえる。 f 上記bの「希土類磁石スクラップ」は、段落【0011】より、「製造段階で生じた不良品あるいはロットアウト品、加工工程で発生する切り屑や研磨ダストなど」であり、「具体的には、希土類焼結磁石の製造工程において発生する焼結体の焼結不良や亀裂不良、切断時の欠けや端材、研磨屑、メッキや樹脂塗装での外観不良や膜厚不良、検査工程での寸法や磁気特性不良品など」があり、「これら製造上の理由で発生するスクラップのほか、電気製品等の市中製品に組み込まれた磁石で廃棄処分となったもの」のことといえる。 g 上記a〜fより、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 (引用発明) 「希土類ボンド磁石粉末の製造方法であって、(上記a) 各々異なる組成の希土類ボンド磁石用粉末の合金原料として用いることができる、組成の異なる希土類磁石スクラップを組成毎に分別して回収することと、(上記b) 最終的に得るべき、目的とする組成の希土類ボンド磁石用粉末が希土類磁石スクラップと組成の相違する場合は、合金原料として、希土類磁石スクラップに、該希土類磁石スクラップと最終的に得るべき、目的とする組成の希土類ボンド磁石用粉末との組成差を解消するための組成調整用原料を配合してなるものを使用することと、(上記c) 該合金原料を溶解して溶湯となし、希土類元素と遷移金属元素との金属間化合物からなる硬磁性主相が平均粒径にて1μm以下に微細粒子化された結晶質組織が得られるように、溶湯を急冷して急冷原料となし、当該結晶質急冷原料をそのまま又は粉砕して希土類ボンド磁石用粉末となすこと、(上記d) を備え、 溶湯を急冷して急冷原料となすことにガスアトマイズ法が適用され、(上記e) 希土類磁石スクラップは、製造段階で生じた不良品あるいはロットアウト品、加工工程で発生する切り屑や研磨ダストなどであり、具体的には、希土類焼結磁石の製造工程において発生する焼結体の焼結不良や亀裂不良、切断時の欠けや端材、研磨屑、メッキや樹脂塗装での外観不良や膜厚不良、検査工程での寸法や磁気特性不良品などがあり、これら製造上の理由で発生するスクラップのほか、電気製品等の市中製品に組み込まれた磁石で廃棄処分となったもののことである、(上記f) 希土類ボンド磁石粉末の製造方法。」 (3)引用発明との対比 本件補正発明と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「希土類ボンド磁石粉末」は「磁性粉末」といえるから、引用発明の「希土類ボンド磁石粉末の製造方法」は、本件補正発明の「磁性粉末の製造方法」に相当する。 イ 引用発明の「希土類磁石スクラップ」及びその「組成」は、それぞれ本件補正発明の「廃磁性材料」及び「廃磁性化学組成」に相当する。そうすると、引用発明の「組成の異なる希土類磁石スクラップを」「回収すること」は、本件補正発明の「a)廃磁性化学組成を含む廃磁性材料を提供すること」に相当する。 ウ さらに、引用発明において、「組成の異なる希土類磁石スクラップを組成毎に分別して回収する」には、該希土類磁石スクラップの組成に関する情報を得る必要があることは明らかである。そして、引用発明のこの「該希土類磁石スクラップの組成に関する情報を得ること」と、本件補正発明の「b)前記廃磁性材料を分析して、前記廃磁性化学組成に関する情報を得ること」とは、「b)」「前記廃磁性化学組成に関する情報を得ること」である点で共通する。 エ 引用発明の「最終的に得るべき、目的とする組成の希土類ボンド磁石用粉末」の「組成」は、本件補正発明の「目標磁性化学組成」に相当する。 そして、引用発明の「最終的に得るべき、目的とする組成の希土類ボンド磁石用粉末が希土類磁石スクラップと組成の相違する場合は、合金原料として、希土類磁石スクラップに、該希土類磁石スクラップと最終的に得るべき、目的とする組成の希土類ボンド磁石用粉末との組成差を解消するための組成調整用原料を配合してなるものを使用すること」は、「合金原料」を「使用する」前提として、該「合金原料を得ること」を当然に含み、さらに該「合金原料」は、「希土類磁石スクラップに、該希土類磁石スクラップと最終的に得るべき、目的とする組成の希土類ボンド磁石用粉末との組成差を解消するための組成調整用原料を配合」することで調整されたものといえるから、本件補正発明の「調整された廃磁性材料」に相当する。 そうすると、引用発明が当然に備える前記「合金原料を得ること」、すなわち、「希土類磁石スクラップに、該希土類磁石スクラップと最終的に得るべき、目的とする組成の希土類ボンド磁石用粉末との組成差を解消するための組成調整用原料を配合して」「合金原料を得ること」は、本件補正発明の「c)前記廃磁性化学組成を目標磁性化学組成に調整して、調整された廃磁性材料を得ること」に相当する。 オ 本件補正発明の「d)ステップc)で得られた前記調整された廃磁性材料を霧化して前記磁性粉末を得ること」について、本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。 「【0064】 調整された廃磁性材料を霧化して磁性粉末を得るステップ105は、気体霧化プロセス、遠心霧化プロセス、回転電極プロセス、真空プロセス、衝撃プロセス、または任意の他の好適なプロセスを適用することによって行われ得る。」 「【0067】 調整された廃磁性材料を霧化して磁性粉末を得るステップ105は、溶融状態の調整された廃磁性材料を、溶融炉から融液ノズルを介して霧化室に排出してもよい。さらに、溶融状態の調整された廃磁性材料は、不活性雰囲気を含む冷却ガスに通されてもよく、ここで、冷却ガスは、霧化室内に放出される。その後、周囲の不活性雰囲気によって除熱される間に、調整された廃磁性材料のいくつかの小液滴を形成することができる。その結果、霧化室から磁性粉末が形成され回収され得る。磁性粉末は、球状磁性粒子を含むことができる。」 上記段落【0067】に記載された、調整された廃磁性材料を溶融状態とし、溶融状態の調整された廃磁性材料を、溶融炉から融液ノズルを介して霧化室に排出し、霧化室で形成された磁性粉末を回収する工程は、段落【0064】に記載された「気体霧化プロセス」を適用したものといえる。 そうすると、引用発明の「該合金原料を溶解して溶湯となし」、「溶湯を急冷して急冷原料となし、当該結晶質急冷原料をそのまま又は粉砕して希土類ボンド磁石用粉末となすこと」は、「溶湯を急冷して急冷原料となすことにガスアトマイズ法が適用され」たものであるから、本件補正発明の「d)ステップc)で得られた前記調整された廃磁性材料を霧化して前記磁性粉末を得ること」に相当する。 カ 引用発明は、「最終的に得るべき、目的とする組成の希土類ボンド磁石用粉末が希土類磁石スクラップと組成の相違する場合は、」「合金原料」を得るために、「希土類磁石スクラップ」に、「該希土類磁石スクラップと最終的に得るべき、目的とする組成の希土類ボンド磁石用粉末との組成差を解消するための組成調整用原料を配合するもの」であるところ、「組成差を解消するための組成調整用原料」に含まれる化学元素及びその重量について、「希土類磁石スクラップ」に含まれる化学元素とその相対的割合(すなわち「希土類磁石スクラップの組成」)と、「最終的に得るべき、目的とする組成の希土類ボンド磁石用粉末」に含まれる化学元素とその相対的割合(すなわち「最終的に得るべき、目的とする組成の希土類ボンド磁石用粉末の組成」)を比較することで、「組成調整用原料」に含める化学元素が決定され、さらに、用いる「希土類磁石スクラップ」の重量も考慮することで、決定された化学元素ごとに配合する重量が算出されるものであることは、当業者にとって自明なことである。そして、決定された化学元素ごとに算出された重量の化学元素を組成調整用原料として希土類磁石スクラップに配合することは明らかである。このとき、「決定された化学元素」についての「算出された重量」が、本件補正発明の「差分量」に相当する。 そうすると、引用発明において当然に実行される「組成調整用原料として決定された化学元素を配合する重量を算出すること」は、本件補正発明の「c1)前記廃磁性化学組成中の少なくとも1つの化学元素と前記目標磁性化学組成中の前記少なくとも1つの化学元素との間の少なくとも1つの差分量を計算するステップ」に相当する。 また、引用発明において当然に実行される「決定された化学元素ごとに算出された重量の化学元素を組成調整用原料として希土類磁石スクラップに配合すること」は、本件補正発明の「c2)前記少なくとも1つの化学元素の前記差分量を前記廃磁性材料に添加するステップ」に相当する。 さらに、引用発明の「該希土類磁石スクラップと最終的に得るべき、目的とする組成の希土類ボンド磁石用粉末との組成差」は、上述の「希土類磁石スクラップ」に含まれる化学元素とその相対的割合(希土類磁石スクラップの組成)と、「最終的に得るべき、目的とする組成の希土類ボンド磁石用粉末」に含まれる化学元素とその相対的割合(最終的に得るべき、目的とする組成の希土類ボンド磁石用粉末の組成)を比較したものであるから、本件補正発明の「前記廃磁性材料中および目標磁性材料中の少なくとも1つの化学元素の相対的割合の比較の結果」に相当し、引用発明の比較の結果に基づく「決定された化学元素」についての「算出された重量」は、本件補正発明の「不同性の量」に相当する。そして、この「決定された化学元素」についての「算出された重量」が、本件補正発明の「差分量」に相当することは、前述のとおりである。 キ 引用発明の「希土類磁石スクラップ」が、「製造段階で生じた不良品あるいはロットアウト品、加工工程で発生する切り屑や研磨ダストなどであり、具体的には、希土類焼結磁石の製造工程において発生する焼結体の焼結不良や亀裂不良、切断時の欠けや端材、研磨屑、メッキや樹脂塗装での外観不良や膜厚不良、検査工程での寸法や磁気特性不良品など」であること、及び、「電気製品等の市中製品に組み込まれた磁石で廃棄処分となったもの」であることは、それぞれ本件補正発明の「廃磁性材料」が、「永久磁石の製造中に生じる材料損失、機械加工(テーリング)、および非効率性の結果として廃棄される材料」であること、及び、「最終製品磁性材料の本来の目的にもはや有用ではないかまたは部分的にのみ有用である磁場を示す電気デバイスからの最終製品磁性材料」であることに相当する。 ク 以上より、本件補正発明と引用発明とは、以下の点で一致し、また相違する。 <一致点> 「【請求項1】 磁性粉末の製造方法であって、 a)廃磁性化学組成を含む廃磁性材料を提供することと、 b)前記廃磁性化学組成に関する情報を得ることと、 c)前記廃磁性化学組成を目標磁性化学組成に調整して、調整された廃磁性材料を得ることと、 d)ステップc)で得られた前記調整された廃磁性材料を霧化して前記磁性粉末を得ることとを含み、 前記ステップc)で前記調整された廃磁性材料を得るために、前記廃磁性化学組成を目標磁性化学組成に調整することは、さらに、 c1)前記廃磁性化学組成中の少なくとも1つの化学元素と前記目標磁性化学組成中の前記少なくとも1つの化学元素との間の少なくとも1つの差分量を計算するステップ、および c2)前記少なくとも1つの化学元素の前記差分量を前記廃磁性材料に添加するステップ を含み、 前記廃磁性材料は、永久磁石の製造中に生じる材料損失、機械加工(テーリング)、および非効率性の結果として廃棄される材料、または最終製品磁性材料の本来の目的にもはや有用ではないかまたは部分的にのみ有用である磁場を示す電気デバイスからの最終製品磁性材料であり、および 前記差分量は、前記廃磁性材料中および目標磁性材料中の少なくとも1つの化学元素の相対的割合の比較の結果から得られる不同性の量である、磁性粉末の製造方法。」 <相違点> (相違点1) 本件補正発明では、「b)前記廃磁性材料を分析して、前記廃磁性化学組成に関する情報を得る」のに対し、引用発明では、廃磁性化学組成に関する情報を得るにあたり、希土類磁石スクラップを分析することは特定されていない点。 (4)判断 引用発明は、再利用を行うための希土類磁石スクラップとして「電気製品等の市中製品に組み込まれた磁石で廃棄処分となったもの」を含み、廃棄処分となった磁石は、組成が不明であるものを含むから、このような組成の不明な磁石についても再利用を行うべく、該磁石の組成を分析し、該磁石の組成に関する情報を得ることは、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に想到し得るものである。 したがって、本件補正発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (5)請求人の主張について 請求人は、審判請求書の「発明が特許されるべき理由」の2.(2−1)(7頁6行〜10頁5行)において、本件補正発明と引用文献2に記載された発明との相違点について述べ、「引用文献2は、本願請求項1に記載の少なくとも1つの化学元素の差分量を廃磁性材料に添加するステップを開示していません。」(10頁2〜3行)と主張する。 しかしながら、引用発明は、上記(3)カで説示するとおり、「決定された化学元素」についての「算出された重量」、すなわち本件補正発明の「組成差」を算出しているといえるから、請求人の上記主張を採用することはできない。 3 本件補正についてのむすび よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 令和5年2月9日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和4年6月28日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1〜15に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2の[理由]1(2)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、又は、同引用文献2に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから同法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものを含むものである。 引用文献2:特開2005−302745号公報 3 引用文献 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2の記載及び引用発明は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「前記廃磁性材料は、永久磁石の製造中に生じる材料損失、機械加工(テーリング)、および非効率性の結果として廃棄される材料、または最終製品磁性材料の本来の目的にもはや有用ではないかまたは部分的にのみ有用である磁場を示す電気デバイスからの最終製品磁性材料であり」及び「前記差分量は、前記廃磁性材料中および目標磁性材料中の少なくとも1つの化学元素の相対的割合の比較の結果から得られる不同性の量である」という限定事項を削除したものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由2]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 審判長 恩田 春香 出訴期間として在外者に対し90日を附加する。 |
審理終結日 | 2023-11-01 |
結審通知日 | 2023-11-07 |
審決日 | 2023-11-22 |
出願番号 | P2020-570547 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01F)
P 1 8・ 575- Z (H01F) |
最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
恩田 春香 |
特許庁審判官 |
中野 浩昌 市川 武宜 |
発明の名称 | 磁性粉末の製造方法 |
代理人 | 弁理士法人深見特許事務所 |