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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
管理番号 1410211
総通号数 29 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-05-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-05-26 
確定日 2024-03-04 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第7183550号発明「化粧シート及び化粧部材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7183550号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜4〕について訂正することを認める。 特許第7183550号の請求項3、4に係る特許を維持する。 特許第7183550号の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続きの経緯
特許第7183550号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜4に係る特許についての出願は、平成30年3月14日に出願され、令和4年11月28日にその特許権の設定登録がなされ、令和4年12月6日に特許掲載公報が発行された。その特許についての特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和5年 5月26日 :特許異議申立人 下河あい(以下「申立人」
という。)による請求項1〜4に係る特許に
対する特許異議の申立て
同年 9月22日付け:取消理由通知
同年11月22日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」といい、本件訂正の請求を「本件訂正請求」という。)の内容は、以下のとおりである(当審注:下線は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「前記表面保護層の全質量に対して、前記トリアジン系紫外線吸収剤の比率が5質量%以上20質量%以下であり、前記ヒンダードアミン系光ラジカル捕捉剤の比率が2.5質量%以上10質量%以下であり、前記透明熱可塑性樹脂層の全質量に対して、前記トリアジン系紫外線吸収剤の比率が0.1質量%以上1質量%以下であり、前記ヒンダードアミン系光ラジカル捕捉剤の比率が0.1質量%以上1質量%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の化粧シート。」と記載されているのを、独立形式に改め、
「基材、絵柄層、透明接着性樹脂層、透明熱可塑性樹脂層、及び透明性を有する表面保護層がこの順に積層された化粧シートであって、前記透明熱可塑性樹脂層、前記透明接着性樹脂層及び前記表面保護層は、トリアジン系紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系光ラジカル捕捉剤を含み、前記透明接着性樹脂層及び前記透明熱可塑性樹脂層は、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂を含み、前記透明接着性樹脂層の全質量に対して、前記トリアジン系紫外線吸収剤の比率が0.1質量%以上1質量%以下であり、前記ヒンダードアミン系光ラジカル捕捉剤の比率が0.1質量%以上1質量%以下であり、前記表面保護層の全質量に対して、前記トリアジン系紫外線吸収剤の比率が5質量%以上20質量%以下であり、前記ヒンダードアミン系光ラジカル捕捉剤の比率が2.5質量%以上10質量%以下であり、前記透明熱可塑性樹脂層の全質量に対して、前記トリアジン系紫外線吸収剤の比率が0.1質量%以上1質量%以下であり、前記ヒンダードアミン系光ラジカル捕捉剤の比率が0.1質量%以上1質量%以下であることを特徴とする化粧シート。」に訂正する。
(請求項3の記載を引用する請求項4も同様に訂正する。)

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1から3の何れか1項に記載の化粧シートと、を備える」と記載されているのを、「請求項3に記載の化粧シートと、を備える」に訂正する。

なお、本件訂正前の請求項2〜4は、本件訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用しているから、本件訂正前の請求項1〜4は、一群の請求項であり、訂正事項1〜4の訂正は、当該一群の請求項〔1〜4〕に対して請求されたものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存

(1)訂正事項1及び2について
訂正事項1は本件訂正前の請求項1を、訂正事項2は本件訂正前の請求項2をそれぞれ削除するものであるから、訂正事項1及び2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、請求項1及び2を削除する訂正が、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものに該当しないことは明らかである。

(2)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項3が請求項1又は2を引用していたのを、請求項2を引用するものについて独立形式に改めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとともに、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
また、訂正事項3によって訂正された請求項3は、訂正前の請求項2を引用する請求項3と内容に変更がない。そうすると、訂正事項3は、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものに該当しないことは明らかである。

(3)訂正事項4について
訂正事項4は、本件訂正前の請求項1及び2が削除されたことに伴い、引用する請求項の数を減少させるとともに、削除された請求項1又は2を引用しているという不明瞭な状態を解消させるものである。
そうすると、訂正事項4は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。また、訂正事項4は、複数項を引用している請求項の引用請求項数を削減するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項4は、訂正前の請求項4が引用していた請求項1及び2を引用しないものとしたにすぎないから、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものに該当しないことは明らかである。

3 小括
本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜4〕について、訂正することを認める。

第3 本件発明
上記「第2」で説示したように本件訂正請求は認められるから、本件訂正請求により訂正された訂正後の請求項3、4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明3」、「本件発明4」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項3、4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項3】
基材、絵柄層、透明接着性樹脂層、透明熱可塑性樹脂層、及び透明性を有する表面保護層がこの順に積層された化粧シートであって、
前記透明熱可塑性樹脂層、前記透明接着性樹脂層及び前記表面保護層は、トリアジン系紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系光ラジカル捕捉剤を含み、
前記透明接着性樹脂層及び前記透明熱可塑性樹脂層は、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂を含み、
前記透明接着性樹脂層の全質量に対して、前記トリアジン系紫外線吸収剤の比率が0.1質量%以上1質量%以下であり、前記ヒンダードアミン系光ラジカル捕捉剤の比率が0.1質量%以上1質量%以下であり、
前記表面保護層の全質量に対して、前記トリアジン系紫外線吸収剤の比率が5質量%以上20質量%以下であり、前記ヒンダードアミン系光ラジカル捕捉剤の比率が2.5質量%以上10質量%以下であり、
前記透明熱可塑性樹脂層の全質量に対して、前記トリアジン系紫外線吸収剤の比率が0.1質量%以上1質量%以下であり、前記ヒンダードアミン系光ラジカル捕捉剤の比率が0.1質量%以上1質量%以下であることを特徴とする化粧シート。
【請求項4】
金属系材料により形成された基板と、
前記基板の表面側に設けられた請求項3に記載の化粧シートと、を備えることを特徴とする化粧部材。」

第4 取消理由通知の概要
取消理由通知で通知した取消理由の概要は次のとおりである。

進歩性)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。


・請求項1〜4
・引用文献等 甲第1号証及び甲第2号証

<引用文献等一覧>
甲第1号証:特開2006−88349号公報
甲第2号証:特開2014−88026号公報

第5 各甲号証及びその記載事項等
申立人が、特許異議申立書とともに提出した甲第1号証〜甲第5号証は、次のとおりである。なお、甲第1号証〜甲第4号証は、新規性進歩性に関する証拠として提出されたものであり、甲第5号証は、記載不備に関する証拠として提出されたものである。

甲第1号証:特開2006−88349号公報(取消理由通知で用いた甲
第1号証)
甲第2号証:特開2014−88026号公報(取消理由通知で用いた甲
第2号証)
甲第3号証:特開2004−291432号公報
甲第4号証:特開平10−211638号公報
甲第5号証:特開2009−172781号公報

なお、「甲第1号証」〜「甲第5号証」を、以下、「甲1」〜「甲5」という。

1 甲1について
(1)甲1の記載事項
甲1には次の事項が記載されている。なお、下線は当審が付した。

「【0025】
また、一般的なポリプロピレン樹脂は同種または異種の樹脂との接着性に乏しいため、押出しラミネーション法により充分なラミネート強度を得るためには、図2に示すような構成、すなわち隠蔽模様層2を有した基材シート1の上にアンカーコート層3を塗布し、酸変性樹脂層4を介して透明ポリプロピレン層5を共押出しし、なおかつ酸変性樹脂4にオゾン濃度10〜50g/m3、オゾン流量1〜20m3/時間程度の処理量でオゾンガスを吹き付ける方法が公知である。酸変性樹脂層4に用いる材料としては、マレイン酸変性ポリエチレン樹脂やエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂などが一般的であるが、これらの樹脂を使用すると、耐熱性、特に90℃以上のでのラミネート強度が著しく低下してしまう。特に、鋼板基材に化粧シートを貼り合わせる際には、接着剤を活性化させるために120〜250℃の熱を接着剤にかける場合があり、一時的にではあるが120〜200℃程度の熱が化粧シートにかかることがある。このような場合には、化粧シートに高温がかかった場合においても充分なラミネート強度を保持するために、酸変性樹脂耐熱性に耐熱性の高いマレイン酸変性ポリプロピレン樹脂を採用するのが好ましい。」

「【0027】
化粧シートへの耐候性の付与の為、透明ポリプロピレン樹脂層5への紫外線吸収剤及び光安定剤等の添加が好適に行われる。紫外線吸収剤としては、所望する紫外線吸収効果を有する範囲内で、かつ化粧シートの耐候性以外の特性に大きな影響を与えない範囲であれば、特にその成分や添加量に制限はないが、例えば、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α、α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3、5−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−t−オクチルフェニル)−ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール等のトリアジン系紫外線吸収剤、酸化セリウム、酸化チタン等の無機系紫外線吸収剤等の中から1種あるいは1種以上を任意に組み合わせて添加することが可能である。」

「【実施例1】
【0036】
基材シートとして厚み70μmのポリプロピレンシートを用い、この上に、グラビア印刷法により隠蔽模様層として木質柄模様を施した。
透明ポリプロピレン樹脂層のうちの少なくとも1層に用いる樹脂として、ペンタッド分率にて規定される結晶化度が70%のホモポリプロピレン(出光興産(株)製:出光TPO、MFR4.5g/10min)を用い、これに、耐候処方として、ヒンダードアミン系光安定剤を0.5重量部とベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を0.5重量部をそれぞれ添加したものを用意した。
酸変性樹脂層に用いる樹脂として、ランダムポリプロピレンを不飽和カルボン酸あるいはその無水物で変性したマレイン酸変性ランダムポリプロピレン樹脂70重量部に対してエチレンプロピレンゴムを30重量部添加したものを用意した。
【0037】
前記透明ホモポリプロピレン樹脂層の厚みを80μm、酸変性樹脂層の厚みを10μmとして、共押出しラミネーション法を用いて基材シートと積層した。この際に、該酸変性樹脂とインキ層との間の密着力を高める為に、ウレタン変成ポリエステルポリオール100重量部に対してエポキシを5重量部添加した主剤と、イソシアネート成分としてヘキサメチレンジイソシアネート及びイソホロンジイソシアネートを1:1の割合で混合した硬化剤とを、4:1の割合で混合してなるアンカーコート剤を、厚み1μmで、酸変性樹脂層とインキ層との間に、インキ層表面にグラビアコート法を用いて塗布した。さらにラミネート直前に、酸変性樹脂とアンカーコート層の間に、オゾンガスをオゾン濃度20g/m3、オゾン流量3.0m3/時間の量で吹き付けた。最後に、このシートの最外表面に、表面保護層として、前記と同様に光安定剤と紫外線吸収剤を添加した2液硬化型ウレタン系表面保護剤(大日本インキ化学工業(株)製「UCクリヤー」)を厚み約9μmで塗布し、化粧シートとした。これをオレフィン・鋼板接着用接着剤(日立化成ポリマー(株)製「ハイボン」)を用いて鋼板基材に貼り合わせ、化粧板を得た。」

(2)甲1の認定事項
ア 甲1の段落【0037】を総合するに、基材シート、インキ層、アンカーコート層、酸変性樹脂層、透明ホモポリプロピレン樹脂層、表面保護層の順に積層された化粧シートが記載され、一方、段落【0036】の、基材シートとしてのポリプロピレンシートの上に、隠蔽模様層がグラビア印刷法により施されていること等を勘案すると、当該「インキ層」は「隠蔽模様層」のことと解される。
そうすると、甲1の実施例1(段落【0036】、【0037】)に記載される化粧シートは、基材シート、隠蔽模様層(インキ層)、アンカーコート層、酸変性樹脂層、透明ホモポリプロピレン樹脂層、表面保護層が、この順に積層されたものと認められる。
また、隠蔽模様層の模様を視認可能とするため、隠蔽模様層より表面側の層である酸変性樹脂層及び表面保護層が透明性を有することは明らかである。

イ 甲1の段落【0025】から、酸変性樹脂層は、ポリプロピレン樹脂の接着性が乏しいために、十分なラミネート強度を得るために設けるものと認められる。

(3)甲1に記載された発明
以上を踏まえ、特に実施例1に着目すると、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「基材シート、隠蔽模様層、アンカーコート層、透明性を有する酸変性樹脂層、透明ホモポリプロピレン樹脂層、透明性を有する表面保護層が、この順に積層された化粧シートであって、
透明ホモポリプロピレン樹脂層の少なくとも1層に用いる樹脂として、ペンタッド分率にて規定される結晶化度が70%のホモポリプロピレンを用い、耐候処方として、ヒンダードアミン系光安定剤を0.5重量部とベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を0.5重量部を添加したものを用い、
酸変性樹脂層は、ポリプロピレン樹脂の接着性が乏しいために、十分なラミネート強度を得るために設けるものであり、酸変性樹脂層に用いる樹脂として、マレイン酸変性ランダムポリプロピレン樹脂70重量部に対してエチレンプロピレンゴムを30重量部添加したものを用い、
表面保護層として、前記と同様に光安定剤と紫外線吸収剤を添加した2液硬化型ウレタン系表面保護材とした
化粧シート。」

2 甲2について
(1)甲2の記載事項
甲2には次の事項が記載されている。

「【請求項1】
基材上に、柄印刷層、透明樹脂層及び表面保護層を順に積層し、該透明樹脂層がポリプロピレン樹脂とα−オレフィンエラストマーとを含有し、該表面保護層がカプロラクトン系ウレタンアクリレート、トリアジン系紫外線吸収剤、及びカプロラクトン系ウレタンアクリレートと反応性を有する反応性官能基Aを有するヒンダードアミン系光安定剤を含むコーティング剤組成物を架橋硬化してなるものであり、該ポリプロピレン樹脂100質量部に対するα−オレフィンエラストマーの配合量が10〜120質量部である化粧シート。
【請求項2】
トリアジン系紫外線吸収剤の含有量が、カプロラクトン系ウレタンアクリレート100質量部に対して1〜10質量部である請求項1に記載の化粧シート。
【請求項3】
反応性官能基Aを有するヒンダードアミン系光安定剤の含有量が、カプロラクトン系ウレタンアクリレート100質量部に対して1〜10質量部である請求項1又は2に記載の化粧シート。
【請求項4】
透明樹脂層が、さらにトリアジン系紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤とを含有する請求項1〜3のいずれかに記載の化粧シート。」

「【0035】
紫外線吸収剤としては、無機系、有機系のいずれでもよく、無機系紫外線吸収剤としては、平均粒径が5〜120nm程度の酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛などを好ましく用いることができる。また、有機系紫外線吸収剤としては、例えばベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾフェノン系、サリチレート系、アクリロニトリル系などが好ましく挙げることができる。なかでも、紫外線吸収能が高く、また紫外線などの高エネルギーに対しても劣化しにくいトリアジン系がより好ましい。」

「【0037】
透明樹脂層4における紫外線吸収剤の含有量は、透明樹脂層4を形成する樹脂100質量部に対して、通常0.1〜1質量部の範囲であり、好ましくは0.3〜0.8質量部の範囲である。0.1質量部以上であると本発明の化粧シートに十分な耐候性を付与することができ、1質量部以下であると、ブリードアウトすることがない。
透明樹脂層4における光安定剤の含有量は、透明樹脂層4を形成する樹脂100質量部に対して、通常0.05〜0.8質量部の範囲であり、好ましくは0.1〜0.5質量部の範囲である。0.05質量部以上であると本発明の化粧シートに十分な耐候性を付与することができ、0.8質量部以下であると、ブリードアウトすることがない。」

「【0059】
トリアジン系紫外線吸収剤の含有量は、カプロラクトン系ウレタンアクリレート100質量部に対して、1〜10質量部が好ましく、3〜10質量部がより好ましく、5〜10質量部がさらに好ましい。トリアジン系紫外線吸収剤の含有量が上記範囲内であれば、該吸収剤がブリードアウトすることなく、また十分な紫外線吸収能が得られるので、優れた耐候性が得られる。これまで一般的には、バインダー樹脂100質量部に対して紫外線吸収剤を1質量部以上加えると、該吸収剤がブリードアウトする場合があるため、より優れた紫外線吸収能を得ようとしても得られなかった。しかし、本発明によって、トリアジン系紫外線吸収剤とカプロラクトン系ウレタンアクリレート及び所定の光安定剤との組合せにより、1質量部以上という多量の紫外線吸収剤を添加しても、該吸収剤がブリードアウトすることなく、優れた耐候性を得ることが可能となった。」

「【0062】
反応性官能基Aを有するヒンダードアミン系光安定剤の含有量は、カプロラクトン系ウレタンアクリレート100質量部に対して、1〜10質量部が好ましく、3〜10質量部がより好ましく、5〜10質量部がさらに好ましい。ヒンダードアミン系光安定剤の含有量が上記範囲内であれば、該光安定剤がブリードアウトすることなく、また十分な光安定性が得られるので、優れた耐候性が得られる。」

「【0079】
《接着層8》
接着剤層8は、柄印刷層3による凹凸をならし、基材2と透明樹脂層4の接着性を向上させるために、所望により設けられる層であり、透明の樹脂からなる層である。
接着剤層8の形成に用いられるインキとしては、バインダーに必要に応じて、体質顔料、溶剤、安定剤、可塑剤、触媒、紫外線吸収剤、光安定剤及び硬化剤などを適宜混合したものが使用される。該バインダーとしては特に制限はないが、アクリル/ポリウレタン系共重合体が、柔軟性、強靭性及び弾性を兼ね備えており好ましい。なお、環境を考慮した場合には、塩素を含有する樹脂系は使用しないことが好ましい。」

(2)甲2の認定事項
ア 甲2の請求項1及び段落【0079】を参照すると、化粧シートは、基材上に、柄印刷層、接着剤層、透明樹脂層及び表面保護層を順に積層したものと認められる。

イ 請求項1及び請求項4を参照すると、透明樹脂層及び表面保護層は、トリアジン系紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤を含有するものであり、段落【0035】を参照すると、トリアジン系紫外線吸収剤は、紫外線吸収能が高く、紫外線などの高エネルギーに対しても劣化しにくいものとして好ましいものである。

ウ 段落【0079】を参照すると、接着剤層は、必要に応じて、体質顔料、溶剤、安定剤、可塑剤、触媒、紫外線吸収剤、光安定剤及び硬化剤などが適宜混合されるものである。

エ 段落【0037】を参照すると、透明樹脂層における紫外線吸収剤及び光安定剤の含有量について、十分な耐候性を付与することと、ブリードアウトがないことから、透明樹脂層4を形成する樹脂100質量部に対して、紫外線吸収剤の含有量は0.1〜1質量部の範囲内であり、光安定剤の含有量は0.05〜0.8質量部の範囲内である。
また、請求項2、請求項3、段落【0059】、【0062】を参照すると、表面保護層における紫外線吸収剤及び光安定剤の含有量について、十分な紫外線吸収能が得られ、ブリードアウトがないことから、表面保護層を形成するカプロラクトン系ウレタンアクリレート100質量部に対して、トリアジン系紫外線吸収剤の含有量は1〜10質量部であり、ヒンダードアミン光安定剤の含有量は1〜10質量部である。

(3)甲2に記載された技術事項
以上を踏まえると、甲2には次の技術事項(以下「甲2記載の技術事項」という。)が記載されていると認められる。
「基材上に、柄印刷層、接着剤層、透明樹脂層及び表面保護層を順に積層した化粧シートにおいて、
透明樹脂層及び表面保護層は、トリアジン系紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤を含有するものであり、トリアジン系紫外線吸収剤は、紫外線吸収能が高く、紫外線などの高エネルギーに対しても劣化しにくいものとして好ましいものであり、
接着剤層は、必要に応じて、体質顔料、溶剤、安定剤、可塑剤、触媒、紫外線吸収剤、光安定剤及び硬化剤などが適宜混合されるものであり、
紫外線吸収剤及び光安定剤の含有量について、十分な耐候性を付与することと、ブリードアウトがないことから、透明樹脂層4を形成する樹脂100質量部に対して、紫外線吸収剤の含有量は0.1〜1質量部の範囲内であり、光安定剤の含有量は0.05〜0.8質量部の範囲内であり、十分な紫外線吸収能が得られ、ブリードアウトがないことから、表面保護層を形成するカプロラクトン系ウレタンアクリレート100質量部に対して、トリアジン系紫外線吸収剤の含有量は1〜10質量部であり、ヒンダードアミン光安定剤の含有量は1〜10質量部であること。」

3 甲3について
甲3には次の事項が記載されている。

「【請求項1】
基材シートと、ベタインキ層及び/又は絵柄インキ層を有するインキ層と、接着剤層と、透明樹脂層と、表面保護層とを少なくとも有し、当該各層を順次積層してなる化粧シートにおいて、
前記インキ層、接着剤層および表面保護層が、水性ウレタン樹脂を含有する水性塗工剤で形成されていることを特徴とする化粧シート。」

「【0072】
透明樹脂層6を構成する樹脂としては、上述した接着剤層5を介してインキ層11上に密着よく形成される透明な樹脂であれば特に限定されるものではないが、例えば、透明ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂を好ましく挙げることができる。透明樹脂層用の樹脂として使用できるオレフィン樹脂以外の樹脂としては、上述の基材シート2の構成材料と同じものを使用することができ、こうした透明樹脂層6を形成する樹脂には、必要に応じて、着色剤、充填剤、紫外線吸収剤、光安定剤、マット剤等の公知の添加剤を添加して形成することができ、着色された透明樹脂層としたり、紫外線吸収特性を有する透明樹脂層とすることができる。
【0073】
透明樹脂層6の形成方法としては、接着剤層5上に、別個に形成された透明樹脂シートを積層したり、溶融押出し塗工法によって成膜したり、その他公知の方法で積層することができる。
【0074】
また、図2に示すように、透明樹脂層6を2層以上の複層構造にしてもよい。2層以上積層させてなる透明樹脂層16は、基材シート2側の透明樹脂層6’と表面保護層側の透明樹脂層6”とに異なる作用効果を持たせることができる点で有利である。具体的には、表面保護層側の透明樹脂層6”をフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂を主成分とした樹脂で形成することにより、優れた耐汚染性等の表面機能を付与することができ、基材シート側の透明樹脂層6’を熱可塑性アクリル樹脂等で形成することにより、接着剤層5との間の密着性等を向上させることができるように積層可能である。また、表面保護層側の透明樹脂層6”を耐候剤を添加したポリプロピレン系樹脂で形成することにより、優れた耐候性を付与することができ、基材シート側の透明樹脂層6’をエラストマーを含有したポリプロピレン系樹脂で形成することにより、耐候性と密着性の向上を図ることができるように積層可能である。
【0075】
2層以上の透明樹脂層16は、複数の樹脂組成物を溶融共押出しして形成したり、ドライラミネーションや熱ラミネーション等の各種のラミネート法で形成することができる。このとき、図3に示すように、プライマー層またはアンカー層として作用する接着剤層12を介して2以上の層からなる透明樹脂層16を形成することもできる。なお、この場合における接着剤層12は、透明樹脂層6’、6”と共に溶融共押出しして形成したり、上述した水性ウレタン樹脂を含有する水性塗工剤で塗布形成することもでき、その場合には、VOCの発生をより一層抑制することができる。」

「【0094】
こうして形成される表面保護層9は、耐擦傷性等の表面物性の向上のほか、シリカ等の公知の艶消し剤を添加して艶調整したり、塗装感等の意匠性を付与させたりすることもできる。また、表面保護層9には、より良好な耐候性または耐光性を付与するために、必要に応じて紫外線吸収剤、光安定剤を添加して形成することができる。そうした紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、サリチル酸エステル等の有機物、または、0.2μm径以下の微粒子状の酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化チタン等の無機物、を用いることができる。光安定剤としては、ビス−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケート等のヒンダードアミン系ラジカル捕捉剤、ピペリジン系ラジカル捕捉剤等のラジカル捕捉剤等を用いることができる。これらの紫外線吸収剤、光安定剤とも、通常、0.5〜10重量%程度となるように添加するが、一般的には紫外線吸収剤と光安定剤とを併用するのが好ましい。難燃剤としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の粉末が用いられる。難燃剤の添加量は、高密度ポリエチレンと熱可塑性エラストマーとの合計量を100重量部に対し、10〜150重量部程度が好ましい。」

「【0111】
さらにその接着剤層5上に、マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(10μm)と、ランダム共重合ポリプロピレンに、フェノール系酸化防止剤0.2重量%、ヒンダードアミン系光安定剤0.3重量%、ブロッキング防止剤0.2重量%をそれぞれ添加した樹脂(70μm)を接着剤層側がマレイン酸変性ポリプロピレンになるようにTダイにて180℃の熱で、オゾン照射化で共押し出して約80μmの透明樹脂層6を積層した。この透明樹脂層6の表面に、約180℃で熱エンボスにより凹凸7を施し、さらに、凹凸7が施された表面にコロナ放電処理を行なった後、表面保護層用水性塗工液Eを線数48線/インチ、版深60μmのグラビア版を用いてグラビア印刷法にて塗布、乾燥し、約3g/m2の表面保護層9を形成した。その後、25℃の温度で7日間養生処理(エージング)して実施例1の化粧シートを得た。」

4 甲4について
甲4には、次の事項が記載されている。

「【請求項1】オレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂からなる基材シート上に印刷インキ層を設けて印刷シートとした後、貼り合わせ側が易接着性の樹脂である2層以上の透明オレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂層を多層押出機により溶融状態で前記印刷シートにおける印刷面の上に押し出して積層し、その後オフラインで熱エンボス加工を行うことを特徴とする化粧シートの製造方法。」

「【0019】また、これらのオレフィン系熱可塑性エラストマーには、所望により、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、発泡剤等が添加される。」

「【0021】紫外線吸収剤、光安定剤は、樹脂により良好な耐候性(耐光性)を付与するためのものであり、その添加量は紫外線吸収剤、光安定剤とも通常0.5〜10重量%程度である。一般的には紫外線吸収剤と光安定剤とを併用するのが好ましい。紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、サリチル酸エステル等の有機物、又は0.2μm径以下の微粒子状の酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化チタン等の無機物を用いることができる。光安定剤としては、ビス−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケート等のヒンダードアミン系ラジカル捕捉剤、ピペリジン系ラジカル捕捉剤等のラジカル捕捉剤を用いることができる。」

「【0035】易接着性透明オレフィン系熱可塑性エラストマーは、上記透明オレフィン系熱可塑性エラストマーにおいて、オレフィン系エラストマーとオレフィン系樹脂、例えば、ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブチレンの如きポリα−オレフィン及びポリブタジエン、ポリイソプレンの如きポリジオレフィン或いはこれらの共重合体等と、例えばカルボン酸、カルボン酸塩、カルボン酸無水物、カルボン酸エステル、カルボン酸アミド乃至イミド、アルデヒド、ケトン等に基づくカルボニル基を単独で、或いはシアノ基、ヒドロキシ基、エーテル基、オキシラン環基等との組合せで有するエチレン系不飽和単量体の1種又は2種以上との共重合体等のエチレン系不飽和単量体との共重合体等が挙げられる。一般的には厚さ10μm程度に形成されていれば十分である。」

第6 当審の判断
1 取消理由通知について
(1)本件発明3について
ア 対比
本件発明3と甲1発明と対比する。
(ア)後者の「基材シート」は前者の「基材」に相当し、同様に「隠蔽模様層」は「絵柄層」に、「透明ホモポリプロピレン樹脂層」は「透明熱可塑性樹脂層」に、「表面保護層」は「表面保護層」に、それぞれ相当する。
後者の「透明性を有する酸変性樹脂層」は、「ポリプロピレン樹脂の接着性が乏しいために、十分なラミネート強度を得るために設けるものであ」るから、接着性を備えるものと認められ、前者の「透明接着性樹脂層」に相当する。
そうすると、後者の「基材シート、隠蔽模様層、」「透明性を有する酸変性樹脂層、透明ホモポリプロピレン樹脂層、透明性を有する表面保護層が、この順に積層された化粧シート」の構成は、前者の「基材、絵柄層、透明接着性樹脂層、透明熱可塑性樹脂層、及び透明性を有する表面保護層がこの順に積層された化粧シート」の構成に相当する。

(イ)後者の「ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤」は前者の「トリアジン系紫外線吸収剤」と「紫外線吸収剤」の点に限り一致し、後者の「ヒンダードアミン系光安定剤」は前者の「ヒンダードアミン系光ラジカル捕捉剤」に相当する。
そうすると、後者の「透明ホモポリプロピレン樹脂層の少なくとも1層に用いる樹脂として」、「耐候処方として、ヒンダードアミン系光安定剤を0.5重量部とベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を0.5重量部を添加したものを用い、」「表面保護層として、前記と同様に光安定剤と紫外線吸収剤を添加した」構成は、
前者の「前記透明熱可塑性樹脂層、前記透明接着性樹脂層及び前記表面保護層は、トリアジン系紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系光ラジカル捕捉剤を含み、」
「前記透明接着性樹脂層の全質量に対して、前記トリアジン系紫外線吸収剤の比率が0.1質量%以上1質量%以下であり、前記ヒンダードアミン系光ラジカル捕捉剤の比率が0.1質量%以上1質量%以下であり、
前記表面保護層の全質量に対して、前記トリアジン系紫外線吸収剤の比率が5質量%以上20質量%以下であり、前記ヒンダードアミン系光ラジカル捕捉剤の比率が2.5質量%以上10質量%以下であり、
前記透明熱可塑性樹脂層の全質量に対して、前記トリアジン系紫外線吸収剤の比率が0.1質量%以上1質量%以下であり、前記ヒンダードアミン系光ラジカル捕捉剤の比率が0.1質量%以上1質量%以下である」構成と、
「透明熱可塑性樹脂層及び表面保護層は、紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系光ラジカル捕捉剤を含」む構成に限り一致する。

(ウ)ポリプロピレンは、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂であることを踏まえると、後者の「透明ホモポリプロピレン樹脂層」及び「マレイン酸変性ランダムポリプロピレン樹脂を含む」「酸変性樹脂層」の構成は、前者の「前記透明接着性樹脂層及び前記透明熱可塑性樹脂層は、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂を含む」構成に相当する。

(エ)そうすると、本件発明3及び甲1発明との一致点及び相違点は次のとおりである。

・一致点
「基材、絵柄層、透明接着性樹脂層、透明熱可塑性樹脂層、及び透明性を有する表面保護層がこの順に積層された化粧シートであって、
前記透明熱可塑性樹脂層、前記表面保護層は、紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系光ラジカル捕捉剤を含み、
前記透明接着性樹脂層及び前記透明熱可塑性樹脂層は、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂を含む化粧シート。」

・相違点1(紫外線吸収剤の種類について)
「紫外線吸収剤」について、本件発明3では「トリアジン系紫外線吸収剤」であるのに対し、甲1発明では「ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤」である点。

・相違点2(紫外線吸収剤と光ラジカル捕捉剤の比率について)
「透明熱可塑性樹脂層及び表面保護層は、紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系光ラジカル捕捉剤を含む」点について、
本件発明3では、「前記透明熱可塑性樹脂層、前記透明接着性樹脂層及び前記表面保護層は、トリアジン系紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系光ラジカル捕捉剤を含み、」「前記透明接着性樹脂層の全質量に対して、前記トリアジン系紫外線吸収剤の比率が0.1質量%以上1質量%以下であり、前記ヒンダードアミン系光ラジカル捕捉剤の比率が0.1質量%以上1質量%以下であり、
前記表面保護層の全質量に対して、前記トリアジン系紫外線吸収剤の比率が5質量%以上20質量%以下であり、前記ヒンダードアミン系光ラジカル捕捉剤の比率が2.5質量%以上10質量%以下であり、
前記透明熱可塑性樹脂層の全質量に対して、前記トリアジン系紫外線吸収剤の比率が0.1質量%以上1質量%以下であり、前記ヒンダードアミン系光ラジカル捕捉剤の比率が0.1質量%以上1質量%以下である」のに対し、
甲1発明では、「透明ホモポリプロピレン樹脂層の少なくとも1層に用いる樹脂として、耐候処方として、ヒンダードアミン系光安定剤を0.5重量部とベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を0.5重量部を添加したものを用い、」「表面保護層として、前記と同様に光安定剤と紫外線吸収剤を添加した」構成である点。

イ 判断
相違点1及び2は、互いに関連するものであるので合わせて検討する。

甲1発明は、透明ホモポリプロピレン樹脂層及び表面保護層に、ヒンダードアミン系光安定剤とベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を添加するものの、紫外線吸収剤としてトリアジン系紫外線吸収剤を含むものではない。この点について、甲1の段落【0027】には、紫外線吸収剤の例として、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤と列挙する形で、トリアジン系紫外線吸収剤も記載されているから、甲1には、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤に代えてトリアジン系紫外線吸収剤を採用することの示唆があると認められる。しかしながら、トリアジン系紫外線吸収剤を採用した場合の配合量は示されていない。
また、甲1発明の酸変性樹脂層(本件発明の「透明接着性樹脂層」に相当)は、紫外線吸収剤及び光安定剤を含むことは特定されていない。この点について、甲1発明の酸変性樹脂層は、接着性を備えるものと認められ(上記ア(ア)参照)、甲2には、上記甲2記載の技術事項のとおり「接着剤層は、必要に応じて、体質顔料、溶剤、安定剤、可塑剤、触媒、紫外線吸収剤、光安定剤及び硬化剤などが適宜混合されるものであ」ることが記載されているものの、甲2記載の技術事項において、接着剤層への紫外線吸収剤及び光安定剤は、必要に応じて適宜含有させる種々の添加剤の例のひとつにすぎず、その上、紫外線吸収剤及び光安定剤の具体的な種類や含有量は示されていない。さらに、甲2には、接着剤層に紫外線吸収剤及び光安定剤を含ませることによる作用効果についての記載も見当たらない。
一方、本件発明3では、表面保護層、透明熱可塑性樹脂層及び透明接着性樹脂層の全てにトリアジン系紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系光ラジカル捕捉剤を含み、それら3層における各含有量が特定されており、それにより、「透明接着性樹脂層133の裏面側への紫外線の照射量を低減でき、より耐候性に優れた化粧シート13を提供できる。」(段落【0032】)ものである。
そうすると、甲1発明において、透明ホモポリプロピレン樹脂層及び表面保護層に添加される紫外線吸収剤を甲1の上記示唆に基づきトリアジン系紫外線吸収剤とすることとし、酸変性樹脂層には、甲2記載の技術事項を適用して紫外線吸収剤及び光安定剤を含ませるものとした上で、酸変成樹脂層への添加剤の種類としてもトリアジン系紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系光ラジカル捕捉剤を選択し、さらに、透明接着性樹脂層の裏側への紫外線の照射量を低減することで耐候性向上させるという課題を見出して、この課題を解決するために、酸変性樹脂層、透明ホモプロピレン樹脂層、表面保護層の3つの層のトリアジン系紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系ラジカル捕捉剤の含有量を、本件発明3の数値範囲内に調整することは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

よって、本件発明3は、甲1発明及び甲2記載の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明4について
本件発明4は、本件発明3の発明特定事項を全て含み、さらに限定を付加したものである。そうすると、上記のとおり、本件発明3が、当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明4についても同様に、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由について
(1)新規性(特許法第29条第1項第3号)について
申立人は、訂正前の請求項1及びこれを引用する請求項4に係る発明について、甲1から新規性を有しない旨を主張する。
しかしながら、上記「第2」のとおり、本件訂正により本件特許の請求項1は削除され、その対象が存在しないものとなったから、申立人の主張する新規性についての申立理由は、理由がない。

(2)進歩性(特許法第29条第2項)について
ア 申立理由の概要
申立人は、進歩性についての申立理由として、次の(ア)〜(ウ)を主張する。
(ア)甲1に基づく進歩性についての申立理由
a 本件発明の「透明接着性樹脂層」及び「透明熱可塑性樹脂層」に関
して
甲1には「複層の透明ポリプロピレン樹脂層」を備えることを含む化粧シートの発明が記載されており、「複層の透明ポリプロピレン樹脂層」は、本件発明の「透明接着性樹脂層」及び「透明熱可塑性樹脂層」に相当する。

b 本件発明の透明接着性樹脂層及び熱可塑性樹脂層におけるトリアジ
ン系紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系光ラジカル捕捉剤の配合
量に関して
甲1には、化粧シートへの耐候性付与のため、透明ポリプロピレン樹脂層(本件発明の「透明接着性樹脂層」及び「透明熱可塑性樹脂層」に相当)に、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤や、トリアジン系紫外線吸収剤などを任意に組み合わせて添加することが可能であること(甲1の段落【0026】〜【0028】、【0033】)及び透明ポリプロピレン樹脂層におけるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の含有量が0.5%であること(段落【0036】)が示されており、甲1の透明ポリプロピレン樹脂層(「透明接着性樹脂層」及び「透明熱可塑性樹脂層」に相当)において、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の代わりに、トリアジン系紫外線吸収剤を用い、この配合量を0.5重量部とすることは単なる設計的事項であり、容易になし得る。

c 本件発明の表面保護層におけるトリアジン系紫外線吸収剤及びヒン
ダードアミン系光ラジカル捕捉剤の配合量に関して
甲1には、表面保護層に添加される添加剤として、透明ポリプロピレン樹脂層に添加される添加剤(紫外線吸収剤及び光安定剤等)が参照されており(段落【0033】)、実施例1で得られた化粧板における表面保護層においても、透明ポリプロピレン樹脂層に添加されたヒンダードアミン系光安定剤及びベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が、同配合量で添加されたことが示されている(段落【0037】)。ここで、表面保護層において用いられる紫外線吸収剤としてトリアジン系紫外線吸収剤は示されているため、当業者であればベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の代わりに、トリアジン系紫外線吸収剤を用いることは容易になし得る。さらに、表面保護層におけるトリアジン系紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系光安定剤の含有量を耐候性の効果を得るために適宜調整することは、当業者が容易になし得ることであり、単なる設計的事項である。

(イ)甲1及び甲2に基づく進歩性についての申立理由
a 本件発明の「透明接着性樹脂層」及び「透明熱可塑性樹脂層」に関
して
甲1には「複層の透明ポリプロピレン樹脂層」を備えることを含む化粧シートの発明が記載されており、「複層の透明ポリプロピレン樹脂層」は、本件発明の「透明接着性樹脂層」及び「透明熱可塑性樹脂層」に相当する(上記(ア)aと同じ)。

b 本件発明の透明接着性樹脂層、熱可塑性樹脂層及び表面保護層にお
けるトリアジン系紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系光ラジカル
捕捉剤の配合量に関して
甲2には、透明樹脂層がポリプロピレン樹脂を含有し、表面保護層がカプロラクトン系ウレタンアクリレート、トリアジン系紫外線吸収剤及び特定のヒンダードアミン系光安定剤を含む化粧シートが開示され、表面保護層におけるトリアジン系紫外線吸収剤の含有量が、カプロラクトン系ウレタンアクリレート100質量部に対して1〜10質量部であること、特定のヒンダードアミン系光安定剤の含有量が、カプロラクトン系ウレタンアクリレート100質量部に対して1〜10質量部であることが開示されている(【請求項1】〜【請求項3】)。また、ポリプロピレン樹脂を含有する透明樹脂層における紫外線吸収剤の含有量は透明樹脂を形成する樹脂100質量部に対して、0.1〜1質量部の範囲であると化粧シートに十分な耐候性を付与しブリードアウトすることがないこと、透明樹脂層における光安定剤の含有量は、透明樹脂層を形成する樹脂100質量部に対して0.05〜0.8質量部の範囲であると化粧シートに十分な耐候性を付与することができることが開示されている(段落【0037】)。
甲1は、化粧シートの耐候性も課題として挙げているから、耐候性をさらに向上させるために、複層の透明ポリプロピレン樹脂層及び表面保護層における、紫外線吸収剤や光安定剤の種類、及び、これらの配合量について、甲2に記載の透明樹脂層及び表面保護層における紫外線吸収剤や光安定剤の種類及び配合量を参照し、複層の透明ポリプロピレン樹脂層に添加される紫外線吸収剤としてトリアジン系紫外線吸収剤を用い、配合量を樹脂100質量部に対して、0.1〜1質量部の範囲とすること、また、表面保護層に添加される紫外線吸収剤としてトリアジン系紫外線吸収剤を用い、配合量を樹脂100質量部に対して、1〜10質量部の範囲とすること、表面保護層に添加される紫外線吸収剤としてヒンダードアミン系光安定剤を用い、配合量を樹脂100質量部に対して、0.1〜1質量部の範囲とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。
また、甲1の透明ポリプロピレン樹脂層及び表面保護層におけるトリアジン系紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系光安定剤の含有量を、ブリードアウトを避けることを考慮し、配合量を適宜のものとすることは、当業者が通常の創作能力を発揮し、適宜なし得る設計事項であって、甲1の透明ポリプロピレン樹脂層及び表面保護層におけるトリアジン系紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系光安定剤の含有量を、甲2に記載の透明樹脂層及び表面保護層における添加剤の含有量の範囲を超えて調整することも当業者が適宜なし得ることである。

(ウ)甲1〜甲4に基づく進歩性についての申立理由
a 本件発明の「透明接着性樹脂層」及び「透明熱可塑性樹脂層」に関
して
甲1の透明ポリプロピレン樹脂層が単相である場合、「透明ポリプロピレン樹脂層」が本件発明の「透明熱可塑性樹脂層」に相当し、甲1の「酸変性樹脂層4」が、透明ポリプロピレン層5の接着性の向上のために用いられており、本件発明の「透明接着性樹脂層」に該当する。

b 本件発明の透明接着性樹脂層にトリアジン系紫外線吸収剤及びヒン
ダードアミン系光ラジカル捕捉剤を含ませること及びその配合量に
関して
甲2を参照すると、基材2と、ポリプロピレン樹脂及びα−オレインエラストマーを含有する透明性着樹脂層4との接着性を向上させるために、接着層8が設けられており、紫外線吸収剤や光安定剤などを必要に応じて混合する旨が記載されている(段落【0079】)。すなわち、「ポリプロピレン樹脂を含む透明樹脂層の接着性向上のために設けられる接着剤層へ紫外線吸収剤や光安定剤を添加する」ことは周知技術であり、甲1の酸変性樹脂層に当該周知技術を適用することは、当業者が容易になし得るものである。
また、甲3(段落【0072】、【0074】)及び甲4(段落【0019】、【0021】、【0035】)の記載から、化粧シートにおいて、基材上にオレフィン系熱可塑性樹脂を含む透明樹脂層を設ける場合に、この透明樹脂層を2層以上の多層構造とすること、及び、用いられるオレフィン系熱可塑性樹脂に紫外線吸収剤や光安定剤などの添加剤を添加することは周知技術であり、甲1における透明ポリプロピレン樹脂層及び酸変性樹脂層は、甲3における透明樹脂層、甲4における2層以上の透明オレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂層に相当するから、当業者であれば、酸変性樹脂層に透明ポリプロピレン樹脂層に添加される添加剤を同程度の配合量で添加することは通常の創作能力の範囲内で適宜なし得る設計的事項である。よって、当業者であれば、甲1において、酸変性樹脂層4に、透明ポリプロピレン樹脂層5に添加される添加剤を同程度の配合量で添加することは通常の創作能力の範囲内で適宜なし得る設計的事項であり、酸変性樹脂層にトリアジン系紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系光安定剤を含有させ、これらの配合量を透明ポリプロピレン樹脂層に添加される添加剤の配合量と同程度にすることは、設計的事項である。

c 本件発明の透明熱可塑性樹脂層におけるトリアジン系紫外線吸収剤
及びヒンダードアミン系光安定剤の配合量に関して
上記(ア)b及び(イ)bに示したのと同様の理由により、当業者が容易になし得たものであるか、通常の創作能力の範囲内でなし得る設計的事項である。

d 本件発明の表面保護層におけるトリアジン系紫外線吸収剤及びヒン
ダードアミン系光ラジカル捕捉剤の配合量に関して
上記(ア)c及び(イ)bに示したのと同様の理由により、当業者が容易になし得たものであるか、通常の創作能力の範囲内でなし得る設計的事項である。

イ 判断
申立人は、上記ア(ア)及び(イ)の申立理由において、甲1の「複層の透明ポリプロピレン樹脂層」が本件発明の「透明接着性樹脂層」及び「透明熱可塑性樹脂層」に相当すると主張する。しかしながら、甲1の複層の透明ポリプロピレン樹脂層において、複数の層同士の組成や機能が異なるものであることは記載も示唆もないから、そのうち表面保護層側の一つの層が透明熱可塑性樹脂層に相当し、絵柄層側の一つ層が接着性樹脂層に相当するものとはいえない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

また、申立人は、上記ア(ウ)の申立理由において、本件発明が、甲1及び甲2〜甲4から容易想到であると主張する。しかしながら、本件発明3が、甲1及び甲2に基づいて、容易想到でないことは上記「1(1)イ」で説示したとおりである。加えて、甲3及び甲4にも、本件発明3の「透明接着性樹脂層」、「透明熱可塑性樹脂層」及び「表面保護層」の3層のトリアジン系紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系光ラジカル捕捉剤の含有量をいかにすべきかについて記載も示唆もされていない。特に本件発明3の「透明接着性樹脂層」に着目すると、甲3には、基材シート側の透明樹脂層6’や接着剤層12(いずれも本件発明の「透明接着性樹脂層」に相当)が記載され(段落【0073】、【0074】等)ており、甲4には、易接着性透明オレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂層(本件発明の「透明接着性樹脂層」に相当)が記載される(段落【0035】等)ものの、これらの層に紫外線吸収剤や光安定剤を含ませることは記載も示唆もされていない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

さらに、申立人は、上記ア(ア)〜(ウ)の申立理由において、「透明接着性樹脂層」、「透明熱可塑性樹脂層」及び「表面保護層」の3層のトリアジン系紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系光ラジカル捕捉剤の含有量を調整して本件発明3の構成とすることは、耐候性をさらに向上させるという課題及びブリードアウトを避けるという課題から、当業者が適宜なしうる設計的事項と主張するものと解される。
しかしながら、上記「1(1)イ」で説示したのと同様に、甲1発明において、紫外線吸収剤としてトリアジン系を選択し、酸変性樹脂層、透明ホモプロピレン樹脂層、表面保護層の3つの層にトリアジン系紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系光ラジカル捕捉剤を含有させた上で、さらに、耐候性をさらに向上させるという課題及びブリードアウトを避けるという課題を見出して、各層の含有量を、本件発明3の数値範囲内に調整することは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

以上のとおりであるから、申立人の主張する進歩性についての申立理由は、理由がない。

(3)サポート要件(特許法第36条第6項第1号)について
ア 申立理由の概要
(ア)訂正前の請求項1、4について
本件特許の明細書には、単に透明熱可塑性樹脂層、透明接着性樹脂層及び表面保護層に、トリアジン系紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系光ラジカル捕捉剤を添加するのみで、耐候性に優れた化粧シートを得られると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されていないため、請求項1の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえない。
(イ)訂正前の請求項2〜4について
透明接着性樹脂層はポリオレフィン系熱可塑性樹脂層と示されているのみであり具体的な樹脂は示されていない。また、厚みも何ら示されていない。耐候性を付与するために、紫外線吸収剤や光安定剤等の添加剤を添加する場合、添加剤が添加される層を形成する樹脂の種類、添加剤の種類、添加剤が添加される層の厚み及び添加剤の配合量等が重要になる。なぜなら添加剤が添加される層を形成する樹脂の種類として熱可塑性樹脂を用いると、熱可塑性樹脂に結合する添加剤でない限り、経時ブリードアウトしたり、洗い流されたりして、樹脂劣化を引き起こすことがある(甲5の段落【0029】等)。ブリードアウトが生じない添加剤の配合量は、添加剤が添加される層の厚みによっても変化する。
請求項2に記載された発明は、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂を含むこと、トリアジン系紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系光ラジカル捕捉剤の配合量が示されていても、具体的な樹脂、添加剤の具体的な種類、厚みが何ら示されていない。よって、発明の詳細な説明に記載された具体例又は説明を超えた範囲についても耐候性に優れた化粧シートを得られるか不明であり、請求項3に記載された発明についても同様である。

イ 判断
訂正により、訂正前の請求項1及び2に記載された事項は請求項3に含まれるものとなったから、訂正後の請求項3に記載された発明について検討する。
本件特許の明細書段落【0002】〜【0004】によれば、従来、表面保護層に紫外線吸収剤を添加した化粧シートが提案されていること、この従来の化粧シートでは、表面保護層よりも下側の層の層間で剥離や浮きが発生することが記載され、これに対して、本件特許は「耐候性に優れた化粧シートを提供する」ことを、その解決しようとする課題とするものである。
そして、請求項3では、表面保護層のみならず、表面保護層より下方の透明熱可塑性樹脂層や透明接着性樹脂層に紫外線吸収剤及び光ラジカル捕捉剤を含めるものとしている。このような構成とすることにより、請求項3に記載された発明では、表面保護層に紫外線吸収剤を添加していた従来の化粧シートに比べて耐候性が向上することは明らかである。そうすると、請求項3に記載された発明は、本件特許の明細書に記載された上記解決しようとする課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものである。
申立人は、耐候性に優れた化粧シートを得るためには、透明熱可塑性樹脂層、透明接着性樹脂層及び表面保護層の具体的な樹脂の種類や添加される添加剤の種類及び配合量、層の厚み等が重要である旨主張するが、本件特許の明細書に記載された上記解決しようとする課題は、上記のとおり、請求項3に記載された事項により解決できると当業者が認識できるものであって、具体的な樹脂の種類や添加剤等の詳細の特定を要するとはいえない。
よって、申立人の主張するサポート要件についての申立理由は、理由がない。

(4)明確性(特許法第36条第6項第2号)について
ア 申立理由の概要
(ア)本件特許の明細書の実施例を確認すると、透明接着性樹脂層にトリアジン系紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系光ラジカル捕捉剤を含む実施例1に係る化粧シートと、透明接着性樹脂層にそれらを含まない実施例2に係る化粧シートでは、いずれも耐候性試験の評価結果が〇になっており、その構成の差による効果の差は何ら示されていない。よって、本件特許発明は、全ての構成を含むことによる技術的意義が示されておらず、不明確である。
(イ)透明接着性樹脂層、透明熱可塑性樹脂層、透明性を有する表面保護層について、いずれも「透明」であることが示されているが、本件特許の明細書には「透明」に関する説明がなく、「透明」と「不透明」との境界が不明である。
(ウ)訂正前の請求項1について、表面保護層について樹脂の種類が特定されておらず、また、透明接着性樹脂層、透明熱可塑性樹脂層及び表面保護層のいずれも、トリアジン系紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系光ラジカル捕捉剤の含有量が何ら特定されていないため、どのような接着性樹脂層、熱可塑性樹脂層及び表面保護層が、本件特許発明を構成する接着性樹脂層、熱可塑性樹脂層及び表面保護層であるのか不明である。

イ 判断
請求項3の記載は、技術的にも日本語的にも不明確な点はなく、請求項3及びこれを引用する請求項4に記載された発明は、明確である。
上記ア(ア)の申立理由において、申立人は、請求項3に係る発明に含まれる実施例1に係る化粧シートと、請求項3に係る発明に含まれない実施例2に係る化粧シートが、いずれも耐候性試験の評価結果が○となっており、効果の差がないことを根拠に、本件特許発明の技術的意義が示されていないと主張する。しかしながら、上述のとおり、請求項3の記載は技術的にも日本語的にも不明確な点はなく、効果の差の有無によって請求項に記載された発明が明確であるか否かが左右されるものではない。
上記ア(イ)の申立理由において、申立人は「透明」と「不透明」の境界が不明であると主張する。しかしながら、「透明」という用語自体、技術的にも日常的にもごく普通に用いられる用語であって、これが不明確であるということはできない。
上記ア(ウ)の申立理由において、申立人は、表面保護層の樹脂の種類が特定されていないと主張する。しかしながら、樹脂の種類が特定されていない表面保護層は、あらゆる樹脂を含み得ると解されるのであって、不明確であるとはいえない。また、請求項1は削除され、請求項3では、各層におけるトリアジン系紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系光ラジカル捕捉剤の含有量が特定されている。
よって、申立人の主張する明確性についての申立理由は、理由がない。

第7 まとめ
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項3、4に係る特許を取り消すことはできない。また、他に請求項3、4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項1、2に係る特許は、本件訂正により削除されたから、請求項1、2に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
基材、絵柄層、透明接着性樹脂層、透明熱可塑性樹脂層、及び透明性を有する表面保護層がこの順に積層された化粧シートであって、
前記透明熱可塑性樹脂層、前記透明接着性樹脂層及び前記表面保護層は、トリアジン系紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系光ラジカル捕捉剤を含み、
前記透明接着性樹脂層及び前記透明熱可塑性樹脂層は、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂を含み、
前記透明接着性樹脂層の全質量に対して、前記トリアジン系紫外線吸収剤の比率が0.1質量%以上1質量%以下であり、前記ヒンダードアミン系光ラジカル捕捉剤の比率が0.1質量%以上1質量%以下であり、
前記表面保護層の全質量に対して、前記トリアジン系紫外線吸収剤の比率が5質量%以上20質量%以下であり、前記ヒンダードアミン系光ラジカル捕捉剤の比率が2.5質量%以上10質量%以下であり、
前記透明熱可塑性樹脂層の全質量に対して、前記トリアジン系紫外線吸収剤の比率が0.1質量%以上1質量%以下であり、前記ヒンダードアミン系光ラジカル捕捉剤の比率が0.1質量%以上1質量%以下であることを特徴とする化粧シート。
【請求項4】
金属系材料により形成された基板と、
前記基板の表面側に設けられた請求項3に記載の化粧シートと、を備えることを特徴とする化粧部材。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2024-02-20 
出願番号 P2018-047222
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (B32B)
P 1 651・ 537- YAA (B32B)
P 1 651・ 121- YAA (B32B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 山崎 勝司
特許庁審判官 稲葉 大紀
筑波 茂樹
登録日 2022-11-28 
登録番号 7183550
権利者 TOPPANホールディングス株式会社
発明の名称 化粧シート及び化粧部材  
代理人 田中 秀▲てつ▼  
代理人 田中 秀▲てつ▼  
代理人 宮坂 徹  
代理人 廣瀬 一  
代理人 宮坂 徹  
代理人 廣瀬 一  

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