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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H02J 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H02J 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 H02J |
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管理番号 | 1410263 |
総通号数 | 29 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2024-05-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2024-02-07 |
確定日 | 2024-04-26 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第7324653号発明「指令生成装置および指令生成方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7324653号の請求項1〜6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第7324653号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜6に係る特許についての出願は、令和元年8月9日に出願され、令和5年8月2日にその特許権の設定登録がされ、同年8月10日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1〜6に係る特許に対し、令和6年2月7日に特許異議申立人 田中 貞嗣、及び小山 卓志(以下、合わせて「申立人」という。)は、連名で特許異議の申立てを行い、同年3月4日に申立人は手続補正書を提出した。 第2 本件発明 本件特許の請求項1〜6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明6」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、請求項1における符号A〜Gは、発明特定事項の分説のために当審で付したものであり、以下、分説した発明特定事項を、それぞれ「特定事項A」〜「特定事項G」のように参照する。 「【請求項1】 A 直流電源装置が出力する直流電力を交流電力に変換して母線に供給するとともに、母線の交流電力を直流電力に変換して直流電源装置に供給する電力変換装置の制御指令を生成する指令生成装置であって、 B 仮想発電機の駆動を模擬し、前記仮想発電機の回転数を算出するロータモデルに基づいて、前記仮想発電機の実効電圧値および位相を算出する仮想発電算出部と、 C 前記電力変換装置と前記母線との接続点における電圧および位相を算出する母線算出部と、 D 前記仮想発電機の位相と前記接続点の位相との相差角を算出する相差角算出部と、 E 前記仮想発電機の実効電圧値、前記接続点における電圧、および前記相差角に基づいて、前記電力変換装置の有効電力の目標値を決定する目標電力決定部と、 F 決定した前記有効電力の目標値に基づいて、前記電力変換装置の制御指令を生成する指令生成部と、 G を備える指令生成装置。 【請求項2】 前記目標電力決定部は、前記仮想発電機の実効電圧値と前記接続点における電圧と前記相差角の正弦の積を、前記仮想発電機のリアクタンスより大きい所定の直列リアクタンスで除算することで、前記電力変換装置の有効電力の目標値を決定する 請求項1に記載の指令生成装置。 【請求項3】 仮想発電機の角速度指令値を受け付ける指令受付部と、 前記相差角がゼロに近づくように前記角速度指令値を補正する相差角低減部と、 を備え、 前記仮想発電算出部は、前記ロータモデルと補正された前記角速度指令値とに基づいて、前記仮想発電機の実効電圧値および位相を算出する 請求項1または請求項2に記載の指令生成装置。 【請求項4】 算出された前記相差角を−π/2から+π/2の範囲の値に制限するリミッタを備え、 前記目標電力決定部は、制限された前記相差角に基づいて、前記電力変換装置の有効電力の目標値を決定する 請求項1から請求項3の何れか1項に記載の指令生成装置。 【請求項5】 前記目標電力決定部は、前記仮想発電機の実効電圧値、前記接続点における電圧、および前記相差角に基づいて、前記電力変換装置の無効電力の目標値をさらに決定する 請求項1から請求項4の何れか1項に記載の指令生成装置。 【請求項6】 直流電源装置が出力する直流電力を交流電力に変換して母線に供給するとともに、母線の交流電力を直流電力に変換して直流電源装置に供給する電力変換装置の制御指令を生成する指令生成方法であって、 仮想発電機の駆動を模擬し、前記仮想発電機の回転数を算出するロータモデルに基づいて、前記仮想発電機の実効電圧値および位相を算出するステップと、 前記電力変換装置と前記母線との接続点における電圧および位相を計測するステップと、 前記仮想発電機の位相と前記接続点の位相との相差角を算出するステップと、 前記仮想発電機の実効電圧値、前記接続点における電圧、および前記相差角に基づいて、前記電力変換装置の有効電力の目標値を決定するステップと、 決定した前記有効電力の目標値に基づいて、前記電力変換装置の制御指令を生成するステップと、 を備える指令生成方法。」 第3 申立ての理由の概要 令和6年2月7日に申立人が提出した特許異議申立書(以下「異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要、及び証拠方法は次のとおりである。 1 申立理由1(進歩性) 請求項1、3〜6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る発明についての特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。(特許法113条2号) 請求項4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、周知技術、及び甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る発明についての特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。(特許法113条2号) 2 申立理由2(明確性要件) 請求項1〜6に係る発明は、明確でないから、当該請求項に係る発明についての特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(特許法113条4号) 3 申立理由3(サポート要件) 請求項1〜6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、当該請求項に係る発明についての特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(特許法113条4号) 4 申立理由4(実施可能要件) 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、請求項1〜6に係る発明を、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、当該請求項に係る発明についての特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(特許法113条4号) 5 証拠方法 甲第1号証:特開2019−80476号公報 甲第2号証:特開2015−132988号公報 甲第3号証:国際公開第2012/063800号 甲第4号証:国際公開第2017/037925号 甲第5号証:酒井祐之、“送電・配電”、一般社団法人電気学会、2001年8月20日、pp.48〜51、索引、奥付、カバー 甲第6号証:特開2009−225599号公報 以下、「甲第1号証」〜「甲第6号証」を、それぞれ「甲1」〜「甲6」という。 第4 甲1〜甲6の記載 1 甲1に記載された事項及び甲1発明 (1)甲1には、次の事項が記載されている。なお、下線は強調のため付与したものである。 「【0001】 本発明は、同期発電機及び蓄電池が連系された電力系統に蓄電池の電力を充放電する交直変換器を制御する交直変換器制御装置に関する。」 「【0007】 本発明の目的は、同期発電機のように制御特性として、慣性力や同期化力を擬似的に持ち、電力系統との並列・解列が容易に行えることで単独運転を可能とし、また電力系統に短絡事故が発生しても過電流による保護停止することなく運転継続が可能な交直変換器制御装置を有する交直変換器を提供することである。」 「【0013】 請求項1の発明によれば、蓄電池から出力される電力が同期発電機の特性と同等な特性となるように仮想同期発電機の同期発電機特性を演算し、蓄電池の交直変換器の出力電力が仮想同期発電機の出力指令値として、電圧源としての特性を有するように蓄電池の交直変換器の電圧指令値を出力する回路構成とし、交直変換器の出力電流が電流制限値を超えないように仮想同期発電機の内部インピーダンスを変化させる。このため、電力系統に短絡事故が発生したとしても蓄電池から電力系統に出力される電流が電流制限値以上になることを防止できる。また、仮想同期発電機の内部インピーダンスを変化させる構成としているので、同期発電機をモデル化した発電機特性演算部を有していても蓄電池を制御する交直変換器の制御回路を簡素化でき、電力系統の負荷が急変した場合に蓄電池の交直変換器を制御し同期発電機と同等の周波数変化での抑制ができる。」 「【0019】 以下、本発明の実施形態を説明する。図1は本発明の第1実施形態に係る交直変換器制御装置11の構成図である。図1では、電力系統12に遮断器13を介して交直変換器蓄電池システム14が接続されたものを示しており、交直変換器蓄電池システム14は、蓄電池15の電力をリアクトル16を介して充放電する交直変換器17とから構成されている。なお、太陽光発電設備などの再生可能エネルギー電源の図示は省略している。 【0020】 交直変換器蓄電池システム14の交直変換器17は、本発明の第1実施形態に係る交直変換器制御装置11で制御される。交直変換器制御装置11は、制御演算部18と発電機特性演算部19とから構成され、発電機特性演算部19は電圧指令値演算部20と回転子角速度演算部21とから構成されている。 【0021】 制御演算部18は、発電機特性演算部19の電圧指令値演算部20で演算された電圧指令値Vm(=va、vb、vc)をPWM制御部22でPWM制御しゲートパルス発生部23を介して交直変換器17に出力し、蓄電池15から出力される電力が発電機特性演算部19で演算された仮想同期発電機の出力電力となるように蓄電池15からの出力電力を制御する。発電機特性演算部19は、蓄電池15から出力される電力が同期発電機の特性と同等な特性となるように仮想同期発電機の発電機特性を演算するものであり、制御演算部18の交直変換器17の制御により、蓄電池15から同期発電機の特性と同等な特性の出力電力を出力でき、電力系統の周波数変動に対して同期発電機の慣性力による周波数維持効果を高められるようにしている。 【0022】 発電機特性演算部19の回転子角速度演算部21は、仮想同期発電機の回転子角速度ωを求めるものである。仮想同期発電機の出力指令値(出力目標値)Pmは比例器24aに入力され、1/ωが乗算されてトルク指令値(トルク目標値)Tmが演算され加算器25aに入力される。加算器25aには、仮想同期発電機の出力トルクTe、制動トルクTd、調速機トルクTgも入力され、トルク偏差ΔT(=Tm−Te−Td−Tg)が演算される。トルク偏差ΔTは比例器24bに入力され、1/Mが乗算されて角加速度偏差ΔT/Mが演算され積分器26aに入力される。Mは仮想同期発電機の回転子の慣性定数である。角加速度偏差ΔT/Mは積分器26aで積分されて角速度偏差Δωが求められる。 【0023】 角速度偏差Δωは比例器24cで制動係数Dが乗算されて制動トルクTdとなり加算器25aへ負帰還される。同様に、角速度偏差Δωは比例器24dで調速係数Kが乗算されて調速トルクTgとなり加算器25aへ負帰還される。また、角速度偏差Δωは加算器25bに入力され角速度基準値ω0に加算されて仮想同期発電機の回転子角速度ωとなる。ここで、出力トルクTeは、電圧指令値演算部19の除算器27にて仮想同期発電機の出力電力Peを回転子角速度ωで除算して求められ加算器25aへ負帰還される。 【0024】 このように、回転子角速度演算部21は、仮想同期発電機の出力電力Peに相当する出力トルクTeと出力指令値Pmに相当するトルク指令値Tm及び前記仮想同期発電機の慣性定数Mと制動係数Dに基づいて仮想同期発電機の回転子角速度ωを求める。 【0025】 発電機特性演算部19の電圧指令値演算部20は、交直変換器17への電圧指令値Vmを演算するものである。電圧指令値Vmは3相であるので、Vm(=va、vb、vc)と表している。前述したように、電圧指令値Vm(=va、vb、vc)は制御演算部18のPWM制御部22及びゲートパルス発生部23を介して交直変換器17に出力される。 【0026】 回転子角速度演算部21で得られた回転子角速度ωは、電圧指令値演算部20の積分器26bに入力され、積分器26bで積分されて回転子位相θが求められる。回転子位相θは正弦波発生器28に入力され、正弦波発生器28で3相の正弦波{sinθ、sin(θ−2π/3)、sin(θ+2π/3)}が演算され乗算器29aに入力される。 【0027】 一方、電圧検出器30で検出された系統電圧V1は、発電機特性演算部19の加算器25cに入力され、加算器25cでは電圧基準値Vrと系統電圧V1の差分を演算し電圧調整器31に入力される。電圧調整器31は系統電圧V1が電圧基準値Vrとなるように3相の正弦波{sinθ、sin(θ−2π/3)、sin(θ+2π/3)}の波高値Eiを演算し、乗算器29aに出力する。 【0028】乗算器29aは、波高値Eiと3相の正弦波{sinθ、sin(θ−2π/3)、sin(θ+2π/3)}とを乗算し、仮想同期発電機の内部誘起電圧eiを演算する。内部誘起電圧eiは、3相の正弦波として、ei={Ei・sinθ、Ei・sin(θ−2π/3)、Ei・sin(θ+2π/3)}で表される。仮想同期発電機の内部誘起電圧eiは乗算器29b及び加算器25dに入力される。 【0029】 乗算器29bには電流検出器31で検出された交直変換器蓄電池システム14の交直変換器17の出力電流I1も入力され、乗算器29bでは仮想同期発電機の内部誘起電圧eiと交直変換器17の出力電流I1とが乗算され、交直変換器蓄電池システム14から電力系統12に出力される仮想同期発電機の出力電力Pe(=ei・I1)が演算される。前述したように、仮想同期発電機の出力電力Peは除算器27にて回転子角速度ωで除算され出力トルクTe(=Pe/ω)が求められ、回転子角速度演算部21の加算器25aへ負帰還される。 【0030】 一方、加算器25dには仮想同期発電機の内部誘起電圧eiに加え、比例器24eからの仮想同期発電機の内部インピーダンスZの抵抗Rの電圧VRが入力されるとともに、比例器24fからの仮想同期発電機の内部インピーダンスZのリアクタンスLの電圧VLが入力される。これにより、系統電圧V1及び仮想同期発電機の出力指令値Pmを維持した交直変換器17の電圧指令値Vm(=va、vb、vc)が演算される。」 「【図1】 」 「【0039】 次に、本発明の第2実施形態を説明する。図5は本発明の第2実施形態に係る交直変換器制御装置11の構成図である。この第2実施形態は、図1に示した第1実施形態に対し、仮想同期発電機の内部誘起電圧eiの位相θを電力系統12の系統電圧V1の位相に同期させる同期検定部33を設けたものである。図1と同一要素には同一符号を付し重複する説明は省略する。」 「【0041】 仮想同期発電機の出力電圧の大きさは電圧指令値演算部20の加算器25dから出力される交直変換器17の電圧指令値Vmであり、電圧指令値Vmの大きさは系統電圧V1と同じ大きさの電圧値である。仮想同期発電機の出力電圧の周波数は、回転子角速度演算部21の加算器25bから出力される回転子角速度ω(=2πf:fは周波数)であり、角速度基準値ω0(=2πf0:f0は周波数基準値)に角速度偏差を加算した値である。角速度偏差Δωは微少であることから、仮想同期発電機の出力電圧の周波数は系統電圧V1の周波数とほぼ等しい。一方、仮想同期発電機の出力電圧の位相θは回転子角速度ωを積分して得られるが、系統電圧V1の位相と同じであるかどうかは分からない。 【0042】 そこで、第1実施形態では、同期検定器または位相同期回路PLLにより、仮想同期発電機の出力電圧の位相θと系統電圧V1の位相とを一致させて、仮想同期発電機を電力系統12に同期併入させることになる。 【0043】 一方、第2実施形態では、同期検定部33により仮想同期発電機の出力電圧の位相θと系統電圧V1の位相とを一致させて、仮想同期発電機を電力系統12に同期併入させる。同期検定部33の位相差検出部34は、系統電圧V1の位相と仮想同期発電機の出力電圧の位相θとの位相偏差Δθを演算しスイッチ35を介して比例積分器36に入力する。比例積分器36は位相偏差Δθに相当する角速度偏差Δω1を加算器25eに出力する。加算器25eは、加算器25bから出力される回転子角速度ωに角速度偏差Δω1を加算して積分器26bに入力する。これにより、位相偏差Δθが0になるように調整され、仮想同期発電機の出力電圧の位相θは系統電圧V1の位相とほぼ同じとなる。」 「【図5】 」 (2)前記(1)において、図1、【0030】の記載より、交直変換器17の電圧指令値Vmの演算は、加算器25dにおいて、仮想同期発電機の内部誘起電圧eiから、仮想同期発電機の内部インピーダンスZの抵抗Rの電圧VR、及び仮想同期発電機の内部インピーダンスZのリアクタンスLの電圧VLを減算するものである。 また、図1、図5より、「電圧検出器30」は「電力系統12」と「交直変換器17」との間に接続されていることが見てとれる。 (3)甲1発明 前記(1)の「第2実施形態は、図1に示した第1実施形態に対し、仮想同期発電機の内部誘起電圧eiの位相θを電力系統12の系統電圧V1の位相に同期させる同期検定部33を設けたものである」(【0039】)ことを踏まえると、前記(1)、(2)より、甲1には、第2実施形態に関して、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。なお、符号a〜oにより分説し、それぞれ「構成a」〜「構成o」として、以下参照する。 「a 電力系統に蓄電池の電力を充放電する交直変換器を制御する交直変換器制御装置であって、(【0001】) b 電力系統12に遮断器13を介して交直変換器蓄電池システム14が接続され、交直変換器蓄電池システム14は、蓄電池15の電力をリアクトル16を介して充放電する交直変換器17とから構成され、(【0019】) c 交直変換器蓄電池システム14の交直変換器17は、交直変換器制御装置11で制御されるものであり、(【0020】) d 交直変換器制御装置11は、制御演算部18と発電機特性演算部19とから構成され、発電機特性演算部19は電圧指令値演算部20と回転子角速度演算部21とから構成され、(【0020】) e 発電機特性演算部は、同期発電機をモデル化したものであり、(【0013】) f 発電機特性演算部19の回転子角速度演算部21は、仮想同期発電機の回転子角速度ωを求めるものであり、(【0022】) g 発電機特性演算部19の電圧指令値演算部20は、交直変換器17への電圧指令値Vmを演算するものであり、【0025】 h 得られた回転子角速度ωは、電圧指令値演算部20の積分器26bに入力され、積分されて回転子位相θが求められ、回転子位相θは正弦波発生器28に入力され、3相の正弦波が演算され、(【0026】) i 系統電圧V1は、電力系統12と交直変換器17との間に接続された電圧検出器30で検出され、系統電圧V1が電圧基準値Vrとなるように3相の正弦波の波高値Eiを演算し、(【0027】、前記(2)) j 波高値Eiと3相の正弦波とを乗算し、仮想同期発電機の内部誘起電圧eiを演算し、(【0028】) k 仮想同期発電機の内部誘起電圧eiと交直変換器17の出力電流I1とが乗算され、交直変換器蓄電池システム14から電力系統12に出力される仮想同期発電機の出力電力Pe(=ei・I1)が演算され、(【0029】) l 同期検定部33により仮想同期発電機の出力電圧の位相θと系統電圧V1の位相とを一致させるものであり、同期検定部33の位相差検出部34は、系統電圧V1の位相と仮想同期発電機の出力電圧の位相θとの位相偏差Δθを演算し、位相偏差Δθに相当する角速度偏差Δω1を回転子角速度ωに加算して積分器26bに入力することにより、位相偏差Δθが0になるように調整され、仮想同期発電機の出力電圧の位相θは系統電圧V1の位相とほぼ同じとなり、(【0043】) m 仮想同期発電機の内部誘起電圧eiから、仮想同期発電機の内部インピーダンスZの抵抗Rの電圧VR、及び仮想同期発電機の内部インピーダンスZのリアクタンスLの電圧VLを減算することで、交直変換器17の電圧指令値Vmが演算され、(前記(2)、【0030】) n 制御演算部18は、電圧指令値VmをPWM制御部22でPWM制御しゲートパルス発生部23を介して交直変換器17に出力し、蓄電池15から出力される電力が発電機特性演算部19で演算された仮想同期発電機の出力電力となるように蓄電池15からの出力電力を制御する、(【0021】) o 交直変換器制御装置」 2 甲2に記載された事項 甲2には、次の事項が記載されている。 「【0002】 近年、太陽光発電設備等を、パワーコンディショナを介して配電系統に連系させて負荷に電力を供給することが行われている。この種の発電設備が配電系統に無秩序に連系されると、系統を介して発電設備に及ぼす影響が大きくなると共に、電力品質の維持、保守運用の対応が困難になることが予想される。そこで、所定の電力品質を保ちながら発電設備を系統に連系可能とするために必要な技術要件が、経済産業省により「系統連系規程」(JEAC9701−2006(社団法人日本電気協会))として策定されている。 【0003】 上記「系統連系規程」によれば、逆潮流がない場合の受電点の力率は原則85[%]以上とされ、系統の電圧上昇を防止するために系統側から見て進み力率(発電設備側から見て遅れ力率)にならないようにすることが規定されている。 これらの原則を遵守しつつ、より多くの有効電力を系統に供給するために、発電設備の運転力率を85[%]付近に保とうとする動きが見られる。」 「【0021】 そこで、本実施形態では、パワーコンディショナの低出力時には系統電圧も上昇しないため運転力率を100[%]としても問題なく、この期間は所定の力率制御開始電力設定値まで有効電力を出力させ、力率制御開始電力設定値を超える範囲については無効電力を出力させて系統電圧を低下させ、その低下分に応じた有効電力を出力させて定格出力時の運転力率が設定値以上になるように制御することとした。」 3 甲3に記載された事項 甲3には、次の事項が記載されている。 「[0008] この電圧逸脱問題を回避するため、分散型電源には有効電力制御(P制御)及び無効電力制御(Q制御)と呼ばれる電圧上昇を自律的に抑制する機能を搭載することが義務付けられている。」 「[0044]PVシステム224及び225は、不図示の電圧計測部、PVパネル及びPCS等を備えている。電圧計測部は、PVシステム224または225の連系点における配電線電圧を測定する。電圧計測部で測定された配電線電圧は、分散処理装置221を介して集中制御装置240に通知される。PVパネルは、太陽光から得られるエネルギーで発電する発電設備である。PCSはPVパネルで発電された電力を電力系統に連系可能な電圧・周波数に変換する。PVシステム224及び225は、集中制御装置240の指示にしたがって無効電力または有効電力を制御する機能を備えている。図2に示すPVシステム225は無効電力制御(Q制御)機能を有するシステムであり、PVシステム224はQ制御機能を持たないシステムである。」 4 甲4に記載された事項 甲4には、次の事項が記載されている。 「[0006] しかし、従来の方式は、配電系統のインピーダンスを予め計測して、その計測した抵抗とリアクタンスの値を、有効電力制御および無効電力制御に使用するため、インピーダンス計測用の機器が別途必要となり、配電系統の構成が変更になった際には再びインピーダンス測定が必要になる等の問題点があった。 [0007] 本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、配電系統のインピーダンスを計測することなく、実際に運用されている配電系統に適合させて適切に有効電力と無効電力を制御して配電系統の電圧変動を抑制可能な電圧変動抑制装置及び方法を提供することを目的としている。」 「[0013] そして、蓄電池制御コントローラ5は、自然エネルギー発電装置131全体の発電電力を検出し、この発電電力が配電系統102へ及ぼす影響を緩和するために、蓄電池システム3を制御するために、変動抑制量を算出し、蓄電池システム3に対する充放電指令を出力している。 [0014] 図2は、実施形態の蓄電池システムの概要構成ブロック図である。 蓄電池システム3は、大別すると、電力を蓄える蓄電池装置11と、蓄電池装置11から供給された直流電力を所望の電力品質を有する交流電力に変換して負荷132に供給する電力変換装置(PCS:Power Conditioning System)12と、を備えている。」 「[0043] この場合において、電力変換装置12が停止していた場合、P0=P1,Q0=Q1となる。 そして、図4に示した制御が機能すると、P2=P1,Q2=Q1とすることができ、結果として、交流電源101から接続点Xに流れる電力はP0=0,Q0=0とすることができる。すなわち、配電系統102の構成にかかわらず、有効電力及び無効電力の制御を行えることとなるのである。」 「[0056] すなわち、電力変換装置12の出力する有効電力P2と無効電力Q2の比率を自然エネルギー発電装置131および負荷132への有効電力P1と無効電力Q1の比率と同一にすることで、(5)式で表される交流電源101の有効電力P0と無効電力Q0のベクトル和が最も小さくなることがわかる。」 5 甲5に記載された事項 甲5には、次の事項が記載されている。 (49頁) 6 甲6に記載された事項 甲6には、次の事項が記載されている。 「【0029】 電力変換部3は、それぞれ逆並列接続されたダイオードを備えた6個のスイッチング素子3a〜3fにより構成されている。この電力変換部3は半導体素子で形成され、各スイッチング素子3a〜3fには例えばIGBTが用いられる。制御部12は、それぞれのスイッチング素子3a〜3fの制御端子(例えばIGBTのゲート端子)に入力される制御信号からなる制御信号群Scを電力変換部3へ出力し、各スイッチング素子3a〜3fをオンオフ動作させることにより、電力変換部3をインバータとして機能させ、二次電池1の直流電力を交流電力に変換して出力させ、また、電力変換部3を整流器として機能させ、マイクログリッドの配電線9から変圧器8等を介して入力される交流電力を直流電力に変換して二次電池1に貯蔵する。 【0030】 制御部12は、仮想発電装置モデル部13と、電流フィードバック制御によって電力変換部3を制御する制御信号生成部(電力変換制御部)20とを有している。仮想発電装置モデル部13では、予めマイクログリッドの配電線9に電力貯蔵装置PSに代えて発電装置(仮想発電装置)が接続されていると想定し、その想定された仮想発電装置が出力するべき電流値を算出し、その電流値をd軸電流指令値Id-ref及びq軸電流指令値Iq-refとして制御信号生成部20へ与える。制御信号生成部20では、d軸電流指令値Id-ref及びq軸電流指令値Iq-refに対応する電流が電力変換部3から出力されるように、電力変換部3の各スイッチング素子3a〜3fを制御するための制御信号群Scを生成し出力する。すなわち、制御部12では、電力変換部3の出力電流が仮想発電装置の出力電流(計算値)と同じになるように、電力変換部3を制御する。」 「【0054】 そこで、本発明では、仮想発電装置モデル部13は、発電機モデル30における負荷角δの絶対値が所定角以下となるように発電機内部位相角ωeを制限する位相角制限手段を備えている。この位相角制限手段は種々考えられるが、本実施の形態では以下のようなリミッタ回路93で構成されている。 【0055】 図4に示すように、リミッタ回路93は、相間電圧演算回路98と、PLL99と、リミッタ97とを備えている。相間電圧演算回路98には、電圧センサ6で検出される出力電圧va,vb,vcが入力される。電圧センサ6が設けられる出力線は変圧器8を介してマイクログリッドの配電線9に接続されているので、この出力電圧va,vb,vcは系統電圧に相当する。相間電圧演算回路98は出力電圧va,vb,vcから相間電圧を算出する。PLL99は、相間電圧演算回路98で算出される相間電圧から系統電圧(出力電圧)の位相(位相角)θsを推定する。リミッタ97は、積分器64から入力される発電機内部位相角θmを、上限値θs+δmaxと下限値θs-δmaxとの間の範囲に制限する。すなわち、リミッタ97は、その時点における系統電圧の位相θsに対し、その時点における発電機内部位相角θmが±δmaxの範囲内に収まるように、当該発電機内部位相角θmの値を制限する。ここでδmaxは、発電機モデル30が脱調しないような負荷角δの最大値として予めリミッタ97に設定される。最大負荷角δmaxの絶対値は通常はπ/2に設定される。理論上、負荷角δの絶対値がπ/2を超えると脱調が発生するからである。但し、最大負荷角δmaxの絶対値をπ/2より小さい所定の角度に設定してもよい。例えば、発電機モデル30の定格出力に応じて定めてもよい。発電機モデル30の出力は負荷角δの正弦(sinδ)に比例するので、このようにすると、この位相角制限手段は、有効電力を所定の限度内に制限することになり、安全器として機能する。また、ソフトウエアにより、リミッタ97において、この最大負荷角δmaxを発電機モデルの定格出力に応じて自動的に設定するように構成してもよい。 【0056】 このような構成によれば、系統電圧の位相θsと発電機内部位相角θmとの差角である負荷角δの絶対値が、許容される負荷角δの最大値であるδmaxの絶対値未満に制限されるので、脱調を防止することができる。その結果、脱調防止のために電力変換装置PCをトリップさせる必要性を減じることができる。なお、発電機内部位相角θmは、あくまで計算上のものであるから、本来、任意の値を与えることができる。それ故、このように発電機内部位相角θmを制限しても仮想発電装置モデル部13の機能を損なうことはない。」 第5 申立理由1(進歩性)についての当審の判断 1 本件発明1について (1)対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 ア 特定事項A、Gについて (ア)甲1発明の「交直変換器17」は、電力系統12に蓄電池15の「電力」を充放電する(構成a、b)から、交流電力と直流電力の変換を行う電力変換装置である。 そして、「電力系統12」が交流電力を用いることは明らかであるから、甲1発明の「蓄電池15」の出力する電力は直流電力であり、甲1発明の「蓄電池15」は、本件発明1の「直流電源装置」に相当する。 (イ)甲1発明の「交直変換器17」は、「電力系統に蓄電池の電力を充放電する」(構成a)ものであるから、蓄電池が出力する電力を電力系統に放電、すなわち供給するとともに、電力系統の電力を蓄電池に充電、すなわち供給するものである。 そして、甲1発明は、「電力系統12に遮断器13を介して交直変換器蓄電池システム14が接続され」(構成b)るから、「電力系統12」は蓄電池15の外部に位置するものであり、本件発明1の「母線」も直流電源装置の外部に位置するから、甲1発明の「電力系統12」と本件発明1の「母線」とは、「外部」である点で共通する。 (ウ)甲1発明の「交直変換器制御装置」(構成d)は、「発電機特性演算部19の電圧指令値演算部20」で「交直変換器17への電圧指令値Vmを演算」し(構成g)、「制御演算部18」が、「電圧指令値VmをPWM制御部22でPWM制御しゲートパルス発生部23を介して交直変換器17に出力」(構成n)することで、「蓄電池15からの出力電力を制御」(構成n)する。 そして、甲1発明の「電圧指令値Vm」は、「蓄電池15からの出力電力を制御」するから、本件発明1の「制御指令」に相当する。 また、「電圧指令値Vm」を演算し、「交直変換器17」に「電圧指令値Vm」を出力する「直交変換器制御装置」は、本件発明1の「指令生成装置」に対応する。 (エ)以上より、本件発明1と甲1発明とは、「直流電源装置が出力する直流電力を交流電力に変換して外部に供給するとともに、外部の交流電力を直流電力に変換して直流電源装置に供給する電力変換装置の制御指令を生成する指令生成装置」である点で共通する。 イ 特定事項Bについて (ア)甲1発明の「発電機特性演算部」は「同期発電機をモデル化したもの」(構成e)であり、「発電機特性演算部19」は、「回転子角速度演算部21」で「仮想同期発電機の回転子角速度ωを求め」(構成f)、「電圧指令値演算部20」で「仮想同期発電機の内部誘起電圧eiを演算」(構成g〜j)するから、「発電機特性演算部」は「仮想同期発電機の駆動を模擬」したものといえる。 (イ)甲1発明の「回転子角速度演算部21」で求める「仮想同期発電機の回転子角速度ω」は、仮想同期発電機の回転子の状態を示す値であり、本件発明1の「仮想発電機の回転数」とは、「仮想発電機の回転子の状態を示す値」である点で共通する。 また、甲1発明の「仮想同期発電機」は、本件発明1の「仮想発電機」に相当する。 甲1発明の「発電機特性演算部」は「同期発電機をモデル化したもの」(構成e)であり、「発電機特性演算部19」は、「回転子角速度演算部21」で「仮想同期発電機の回転子角速度ωを求め」(構成f)るから、「回転子角速度演算部21」での「仮想同期発電機の回転子角速度ωを求め」る演算は、仮想同期発電機の回転子のモデル、すなわちロータモデルに基づいたものである。 (ウ)甲1発明の「電圧指令値演算部20」において演算される「仮想同期発電機の内部誘起電圧ei」(構成j)と、本件発明1の「仮想発電機の実効電圧値」とは、いずれも「仮想発電機の電圧値」である点で共通する。 また、甲1発明の「回転子位相θ」(構成h)は、本件発明1の「位相」に相当する。 そして、「仮想同期発電機の内部誘起電圧ei」は「波高値Eiと3相の正弦波と」に基づいて演算され(構成j)、「3相の正弦波」は「回転子位相θ」を「正弦波発生器28に入力」して演算される(構成h)から、「仮想同期発電機の内部誘起電圧ei」は、「回転子位相θ」に基づいているといえる。 また、「回転子位相θ」は、回転子角速度ωが「積分されて」「求められ」(構成h)るから、「発電機特性演算部19の回転子角速度演算部21」で求められる「仮想同期発電機の回転子角速度ω」(構成f)に基づいているといえる。 そうすると、甲1発明の「仮想同期発電機の内部誘起電圧ei」および「回転子位相θ」は、「回転子角速度演算部21」での「仮想同期発電機の回転子角速度ωを求め」る演算に基づいて算出されているといえる。 (エ)前記(ア)〜(ウ)より、甲1発明は、「仮想発電機の駆動を模擬し、前記仮想発電機の回転子の状態を示す値を算出するロータモデルに基づいて、前記仮想発電機の電圧値および位相を算出する」構成を備えたものといえ、当該構成を「仮想発電算出部」と称することは任意である。 よって、本件発明1と甲1発明とは、「仮想発電機の駆動を模擬し、前記仮想発電機の回転子の状態を示す値を算出するロータモデルに基づいて、前記仮想発電機の電圧値および位相を算出する仮想発電算出部」を備える点で共通する。 ウ 特定事項Cについて 甲1発明においては、「系統電圧V1は、電力系統12と交直変換器17との間に接続された電圧検出器30で検出され」(構成i)る。 そして、甲1発明の「電力系統12と交直変換器17との間」と、本件発明1の「前記電力変換装置と前記母線との接続点」とは、前記アを踏まえると、「前記電力変換装置と前記外部との間」である点で共通する。 また、甲1発明は「同期検定部33の位相差検出部34は、系統電圧V1の位相と仮想同期発電機の出力電圧の位相θとの位相偏差Δθを演算」(構成l)するから、系統電圧V1の位相の検出を行っているといえる。 そうすると、甲1発明は、前記電力変換装置と前記外部との間における電圧および位相を算出する構成を備えたものといえ、当該構成を「外部算出部」と称することは任意である。 よって、本件発明1と甲1発明とは、「前記電力変換装置と前記外部との間における電圧および位相を算出する外部算出部」を備える点で共通する。 エ 特定事項Dについて 甲1発明は、「同期検定部33の位相差検出部34は、系統電圧V1の位相と仮想同期発電機の出力電圧の位相θとの位相偏差Δθを演算」(構成l)するものであり、「仮想同期発電機の出力電圧の位相θ」は、「仮想同期発電機の内部誘起電圧ei」の「回転子位相θ」である(構成h、j)から、本件発明1の「仮想発電機の位相」に相当する。 また、「系統電圧V1の位相」と本件発明1の「接続点の位相」とは、前記ウを踏まえると、「前記電力変換装置と前記外部との間の位相」である点で共通する。 そうすると、甲1発明の「位相差検出部34」で演算される「位相偏差Δθ」は、本件発明1の「相差角」に相当し、本件発明1と甲1発明の「位相差検出部34」とは、「前記仮想発電機の位相と前記電力変換装置と前記外部との間における位相との相差角を算出する相差角算出部」である点で共通する。 オ 特定事項Eについて (ア)甲1発明において、「蓄電池15から出力される電力」は、「発電機特性演算部19で演算された仮想同期発電機の出力電力となるように」制御される(構成n)から、「発電機特性演算部19で演算された仮想同期発電機の出力電力」は、「蓄電池15から出力される電力」の目標値といえる。 また、「蓄電池15から出力される電力」は、「電圧指令値Vmを」「直交変換器17に出力」することで制御される(構成n)から、「蓄電池15から出力される電力」は、「直交変換器17」の電力であり、「蓄電池15から出力される電力」の目標値は、直交変換器17の電力の目標値といえる。 そうすると、「発電機特性演算部19で演算された仮想同期発電機の出力電力」は、直交変換器17の電力の目標値ということができる。 (イ)甲1発明において、「発電機特性演算部19で演算された仮想同期発電機の出力電力」は、「仮想同期発電機の内部誘起電圧eiと交直変換器17の出力電流I1とが乗算され」ることにより演算される(構成k)ものである。 (ウ)前記(ア)、(イ)より、甲1発明は、発電機特性演算部19で演算された仮想同期発電機の出力電力に基づいて、直交変換器17の電力の目標値を決定しているといえるから、甲1発明は、「直交変換器17の電力の目標値を決定」する構成を備えたものということができ、当該構成を「目標電力決定部」と称することは任意である。 よって、本件発明1と甲1発明とは、前記ア、イを踏まえれば、「前記電力変換器の電力の目標値を決定する目標電力決定部」を備える点で共通する。 カ 特定事項Fについて 甲1発明は、「交直変換器17への電圧指令値Vmを演算する」(構成g)から、直交変換器17の電圧指令値Vmを生成する構成を備えたものといえ、当該構成を「指令生成部」と称することは任意である。 そして、甲1発明において、電圧指令値Vmは、「仮想同期発電機の内部誘起電圧eiから、仮想同期発電機の内部インピーダンスZの抵抗Rの電圧VR、及び仮想同期発電機の内部インピーダンスZのリアクタンスLの電圧VLを減算することで」演算される(構成m)ものであり、直交変換器17の電力の目標値は、前記オのとおり、発電機特性演算部19で演算された仮想同期発電機の出力電力に基づいて、決定されるから、電圧指令値Vmは、直交変換器17の電力の目標値に基づいて演算されるものではない。 よって、本件発明1と甲1発明とは、前記アを踏まえれば、「前記電力変換装置の制御指令を生成する指令生成部」を備える点で共通する。 (2)一致点、相違点 以上より、本件発明1と甲1発明とは、次の点で一致し、相違する。 <一致点> 「直流電源装置が出力する直流電力を交流電力に変換して外部に供給するとともに、外部の交流電力を直流電力に変換して直流電源装置に供給する電力変換装置の制御指令を生成する指令生成装置であって、 仮想発電機の駆動を模擬し、前記仮想発電機の回転子の状態を示す値を算出するロータモデルに基づいて、前記仮想発電機の電圧値および位相を算出する仮想発電算出部と、 前記電力変換装置と前記外部との間における電圧および位相を算出する外部算出部と、 前記仮想発電機の位相と前記電力変換装置と前記外部との間における位相との相差角を算出する相差角算出部と、 前記電力変換器の電力の目標値を決定する目標電力決定部と、 前記電力変換装置の制御指令を生成する指令生成部と、 を備える指令生成装置」 <相違点> 相違点1:「外部」について、本件発明1は「母線」であるのに対して、甲1発明は「電力系統」である点 相違点2:仮想発電機の「回転子の状態を示す値」について、本件発明1は「回転数」であるのに対して、甲1発明は「回転子角速度ω」である点 相違点3:仮想発電機の「電圧値」について、本件発明1は「実効電圧値」であるのに対して、甲1発明は「内部誘起電圧ei」である点 相違点4:「前記電力変換装置と前記外部との間」について、本件発明1は「前記電力変換装置と前記母線との接続点」であるのに対して、甲1発明は「電力系統12と直交変換器17との間」である点 相違点5:本件発明1は、「目標電力決定部」が、「前記仮想発電機の実効電圧値、前記接続点における電圧、および前記相差角に基づいて、前記電力変換装置の有効電力の目標値を決定する」のに対して、甲1発明は、発電機特性演算部19で演算された仮想同期発電機の出力電力に基づいて、直交変換器17の電力の目標値を決定している点 相違点6:本件発明1は、「指令生成部」が、「決定した前記有効電力の目標値に基づいて」制御指令を生成しているのに対して、甲1発明は、「仮想同期発電機の内部誘起電圧eiから、仮想同期発電機の内部インピーダンスZの抵抗Rの電圧VR、及び仮想同期発電機の内部インピーダンスZのリアクタンスLの電圧VLを減算する」ことで、電圧指令値Vmを演算している点 (3)判断 事案に鑑み、相違点5及び6について検討する。 ア 相違点5について 甲5には、発電機の送信電力Pを、 の式で算出することが記載(前記第4の5)されている。 ここで、発電機端子の電圧がVtejδであり、無限大母線の電圧がVbであるから、「δ」は、発電機端子の電圧と無限大母線の電圧との相差角であるといえる。 甲1発明は、「直交変換器17の電力の目標値」を「仮想同期発電機の出力電力に基づいて」決定するものであるところ、「仮想同期発電機の出力電力」は、「仮想同期発電機の内部誘起電圧eiと交直変換器17の出力電流I1とが乗算され」ることにより演算される(構成k)ものである。 ここで、「仮想同期発電機の内部誘起電圧ei」は、「波高値Eiと3相の正弦波とを乗算」(構成j)するものであり、「波高値Ei」は、「電力系統12と交直変換器17との間に接続された電圧検出器30で検出され」る「系統電圧V1が電圧基準値Vrとなるように」「演算」されている。 また、「3相の正弦波」は、「回転子位相θ」が「正弦波発生器28に入力され」ることで演算され(構成i)、さらに、「回転子位相θ」は、「位相偏差Δθが0になるように調整され」たもの(構成l)である。 そうすると、甲1発明は、「仮想同期発電機の内部誘起電圧ei」が、「系統電圧V1、および位相偏差Δθ」に基づいたものであり、「仮想同期発電機の出力電圧の位相θは系統電圧V1の位相とほぼ同じ」(構成l)となっているものであるから、発電機の送信電力Pを甲5の上記式により求めることができるとしても、甲1発明において、「仮想同期発電機の内部誘起電圧ei」と「相差角」に基づいて、「仮想同期発電機の出力電力」を求める理由がない。 また、相違点5に係る構成は、提出されたその他の証拠に記載されるものではなく、技術常識であるともいえないから、当該相違点に係る構成は、当業者が容易になし得たものではない。 イ 相違点6について 甲1発明において、「仮想同期発電機の内部誘起電圧eiから、仮想同期発電機の内部インピーダンスZの抵抗Rの電圧VR、及び仮想同期発電機の内部インピーダンスZのリアクタンスLの電圧VLを減算する」ことで演算される電圧指令値Vmを、電力変換装置の有効電力の目標値に基づいて生成することは、提出されたいずれの証拠にも記載されておらず、技術常識ともいえないから、当該相違点に係る構成は、当業者が容易になし得たものではない。 ウ 小括 したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。 (4)異議申立書の主張について 申立人は、上記相違点5に係る本件発明1の構成について、甲1発明を、「E 仮想同期発電機の内部誘起電圧、系統電圧、および位相偏差に基づいて、直交変換器の出力電圧の目標値を決定する発電機特性演算部と、」を備えると認定(異議申立書14〜15葉)した上で、「甲1発明の構成Eにおける「仮想同期発電機の内部誘起電圧、系統電圧、および位相偏差」」は、「本件特許発明1の構成要件Eにおける「前記仮想発電機の実効電圧値、前記接続点における電圧、および前記相差角」に相当する。」と主張する(異議申立書23葉)。 しかしながら、甲1には、「仮想同期発電機の内部誘起電圧」、「系統電圧」、および「位相偏差」は記載されているが、「仮想同期発電機の内部誘起電圧、系統電圧、および位相偏差に基づいて」決定されるものが記載されているとは認められない。 さらに、「仮想同期発電機の内部誘起電圧、系統電圧、および位相偏差に基づいて、直交変換器の出力電圧の目標値を決定する」ことが記載されているとも認められない。 よって、異議申立書の甲1発明の構成Eは、甲1に記載されたものとはいえず、これを前提とした上記主張は、採用することができない。 また、上記相違点6に係る本件発明1の構成について、甲1発明を、「F 決定した出力電圧の目標値に基づいて、交直変換器の制御指令を生成する制御演算部と、」を備えると認定(異議申立書14〜15葉)した上で、「本件特許発明1の構成要件Fにおける目標電力決定部が決定した目標値に基づいて、「前記電力変換装置の制御指令を生成する」との事項に相当する。」と主張する(異議申立書23〜24葉)。 しかしながら、上記するように、甲1には、「仮想同期発電機の内部誘起電圧、系統電圧、および位相偏差に基づいて、直交変換器の出力電圧の目標値を決定する」ことが記載されているとは認められないから、異議申立書の甲1発明の構成Fを前提とする上記主張は、採用することができない。 2 本件発明3〜6について 本件発明3〜5は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに別の発明特定事項を付加したものである。 そうすると、本件発明3〜5と甲1発明とは、少なくとも、前記1(2)に示した相違点5及び6において相違し、当該相違点は、前記1(3)と同様の理由により、当業者が容易になし得たものではない。 本件発明6は、本件発明1の「指令生成装置」を方法の発明で特定したものであり、カテゴリーが相違するのみで実質的な相違はない。 また、甲1より、甲1発明の構成a〜構成oからなる、方法の発明を認定することができる。 そうすると、本件発明6は、甲1から認定される方法の発明と対比すると、少なくとも、前記1(2)に示した相違点5に対応する、「目標値を決定するステップ」が、「前記仮想発電機の実効電圧値、前記接続点における電圧、および前記相差角に基づいて、前記電力変換装置の有効電力の目標値を決定するステップ」である点、及び相違点6に対応する、「電力変換装置の制御指令を生成するステップ」が、「決定した前記有効電力の目標値に基づいて、前記電力変換装置の制御指令を生成するステップ」である点で、甲1から認定される方法の発明と相違するものであり、当該相違点は、前記1(3)と同様の理由により、当業者が容易になし得たものではない。 3 申立理由1のまとめ よって、申立理由1は理由がない。 第6 申立理由2〜4についての当審の判断 1 申立理由2(明確性要件) (1)申立理由2は、概略次のとおりである。 請求項1において、「電力変換装置の制御指令を生成する指令生成装置」及び「電力変換装置の制御指令を生成する指令生成部」との記載において、「制御指令」に関して、具体的にどのような指令値(電圧、電流、電力、周波数、力率、等)であるのか記載されておらず、「制御指令」の意味内容が不明確である。 請求項1を引用する本件発明2〜5、請求項1における上記記載と実質的に同じ記載を有する本件発明6についても同様である。 (2)当審の判断 請求項1の記載は、「電力変換装置の制御指令を生成する」であり、生成される「制御指令」は、電力変換装置を制御する指令であると明確に理解することができるから、不明確な点はない。 申立人は、「「制御指令」に関して、具体的にどのような指令値(電圧、電流、電力、周波数、力率、等)であるのか記載されておらず、「制御指令」の意味内容が不明確である。」旨、主張するが、請求項1の「制御指令」は上記のとおり明確であり、「制御指令」がどのような指令値であるかの具体的な特定をしないことが、「制御指令」の意味内容を不明確にするものではない。 本件発明1を引用する本件発明2〜5、請求項1の特定事項A〜Gと実質的に同じ発明特定事項を有する本件発明6についても同様である。 よって、本件発明は明確であり、申立理由2は、理由がない。 2 申立理由3(サポート要件) (1)申立理由3は、次のとおりである。 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載においては、「電力変換装置32は、P−Q制御に係る制御指令によって動作する汎用の電流制御型インバータである。なお、他の実施形態に係る電力変換装置32は、皮相電力の目標値と力率角度の目標値と電圧周波数の目標値とに係る制御指令によって動作するものであってもよい。」と記載されているように、「電流制御型インバータ」を「制御指令」によって制御する方法のみが記載されている(例えば段落0013)。 これに対し、請求項1では、「電力変換装置の制御指令を生成する指令生成装置」及び「電力変換装置の制御指令を生成する指令生成部」と記載されるにとどまり、請求項1において「電流制御型インバータ」以外の「電力変換装置」を、どのようなパラメータの「制御指令」でどのように制御するかについて、本件特許明細書において一切の開示がない。インバータである「電力変換装置」としては、「電流制御型インバータ」以外の制御方式のインバータ(例えば「電圧制御型インバータ」)が存在するという本件特許の出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明において開示された内容を、「電流制御型インバータ」以外の「電力変換装置」を含むような請求項1に係る発明の範囲まで、拡張ないし一般化できるとは言えない。 請求項1を引用する本件発明2〜5、請求項1に於ける上記記載と実質的に同じ記載を有する本件発明6についても同様である。 (2)当審の判断 本件特許明細書には、次の事項が記載されている。(下線は強調のため付与) 「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 ところで、自立運転により電力を供給するいわゆるマイクログリッドシステム、またはオフグリッドシステムでは、母線に接続されている負荷の変動により母線の電力が変動しやすい。そのため、特許文献1に記載の技術では、母線の電力需給の変動により、電力変換装置を安定的に制御することができない可能性がある。また、母線の電力需給の関係を安定化させるためには、電力変換装置による母線への電力供給だけでなく、母線からの電力消費についても適切に制御する必要がある。 本開示の目的は、母線に接続された電力変換装置を安定的に制御することができる指令生成装置および指令生成方法を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0005】 第1の態様によれば、指令生成装置は、直流電源装置が出力する直流電力を交流電力に変換して母線に供給するとともに、母線の交流電力を直流電力に変換して直流電源装置に供給する電力変換装置の制御指令を生成する指令生成装置であって、仮想発電機の駆動を模擬し、前記仮想発電機の回転数を算出するロータモデルに基づいて、前記仮想発電機の実効電圧値および位相を算出する仮想発電算出部と、前記電力変換装置と前記母線との接続点における電圧および位相を算出する母線算出部と、前記仮想発電機の位相と前記接続点の位相との相差角を算出する相差角算出部と、前記仮想発電機の実効電圧値、前記接続点における電圧、および前記相差角に基づいて、前記電力変換装置の有効電力の目標値を決定する目標電力決定部と、決定した前記有効電力の目標値に基づいて、前記電力変換装置の制御指令を生成する指令生成部と、を備える。」 「【0013】 蓄電装置30は、二次電池31と、電力変換装置32を備える。電力変換装置32の制御指令は、有効電力の目標値、無効電力の目標値を含む。電力変換装置32は、指令生成装置33からの指令に基づいて、二次電池31が出力する直流電力を、母線の電圧周波数に同期した交流電力に変換して母線に供給する。電力変換装置32は、PLL制御により、出力電力を母線の電圧周波数に同期させる。また電力変換装置32は、電力制御装置40からの指令に基づいて指令生成装置33が生成した制御指令に基づいて、母線に流れる交流電力の一部を直流電力に変換して二次電池31を充電する。二次電池31としては、例えばリチウムイオン二次電池を用いることができる。電力変換装置32は、P−Q制御に係る制御指令によって動作する汎用の電流制御型インバータである。なお、他の実施形態に係る電力変換装置32は、皮相電力の目標値と力率角度の目標値と電圧周波数の目標値とに係る制御指令によって動作するものであってもよい。 なお、電力変換装置32と二次電池31とは必ずしも一対一に設けられなくてよい。例えば、1つの電力変換装置32に複数の二次電池31が接続されてもよい。 指令生成装置33は、電力制御装置40からの指令に基づいて蓄電装置30の電力変換装置32を制御するための制御指令を生成し、蓄電装置30に出力する。指令生成装置33は、蓄電装置30と別個に設けられた装置である。」 「【0023】 指令生成部3329は、目標電力決定部3328が決定した有効電力の目標値と、指令受付部が電力制御装置40から受付けた充放電指令に基づいて、電力変換装置32の制御指令を生成する。指令生成部3329は、生成した制御指令を電力変換装置32に出力する。」 「【0027】 《作用・効果》 第1の実施形態に係る指令生成装置33は、接続点における瞬時電圧値の計測値から母線の実効電圧値および位相を求め、仮想発電機の実効電圧値、接続点における電圧、および相差角に基づいて、電力変換装置32の有効電力の目標値を決定する。これにより、指令生成装置33は、母線の周波数および電圧の変動に応じて電力変換装置32を制御することで、電力変換装置32の安定的な制御を実現することができる。」 上記記載によれば、本件発明が解決しようとする課題は、「母線に接続された電力変換装置を安定的に制御することができる指令生成装置および指令生成方法を提供する」(【0004】)ことであり、当該課題は、「接続点における瞬時電圧値の計測値から母線の実効電圧値および位相を求め、仮想発電機の実効電圧値、接続点における電圧、および相差角に基づいて、電力変換装置32の有効電力の目標値を決定」(【0027】)し、「目標電力決定部3328が決定した有効電力の目標値」「に基づいて、電力変換装置32の制御指令を生成する」(【0023】)ことにより解決されるものと理解できる。 そして、本件発明1は、前記第2のとおりであり、特定事項A〜Gで特定される発明特定事項を備えたものであるから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではない。 申立人は、電流制御型インバータ以外の電力変換装置の記載が無いことを理由に、拡張ないし一般化できないと主張するが、発明の詳細な説明には、電力変換装置の制御指令を生成する指令生成装置が記載されるものであり、【0013】における「電力変換装置32は、P−Q制御に係る制御指令によって動作する汎用の電流制御型インバータである。」との記載は、電力変換装置32の一例と理解することができるから、当該主張は採用できない。 また、「電流制御型インバータ」以外の「電力変換装置」を、どのようなパラメータの「制御指令」でどのように制御するかについて、開示がない旨、主張するが、本件特許明細書には、「電力変換装置32の制御指令は、有効電力の目標値、無効電力の目標値を含む。」(【0013】)と記載され、有効電力の目標値を含む電力変換装置の制御指令によっては、「電流制御型インバータ」以外の「電力変換装置」を制御できないとの技術常識はないから、当該主張は採用できない。 本件発明1を引用する本件発明2〜5、請求項1の特定事項A〜Gと実質的に同じ発明特定事項を有する本件発明6についても同様である。 よって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではないから、申立理由3は、理由がない。 3 申立理由4(実施可能要件) (1)申立理由4は、次のとおりである。 本件特許明細書の発明の詳細な説明においては、「電流制御型インバータ」を「制御指令」によって制御する方法のみが記載されている。インバータである「電力変換装置」としては、「電流制御型インバータ」以外の制御方式のインバータ(例えば「電圧制御型インバータ」)が存在するという本件特許の出願時の技術常識を勘案すると、本件の発明の詳細な説明は、当業者が、請求項1に係る発明の「電流制御型インバータ」以外の「電力変換装置」について、実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。 請求項1を引用する本件発明2〜5、請求項1における上記記載と実質的に同じ記載を有する本件発明6についても同様である。 (2)当審の判断 電力変換装置を制御することは技術常識(甲2【0021】、甲3[0044]、甲4[0013]-[0014])であるから、電力変換装置を制御指令により制御することに、過度の試行錯誤を要するものとはいえない。 本件特許明細書には、「接続点における瞬時電圧値の計測値から母線の実効電圧値および位相を求め、仮想発電機の実効電圧値、接続点における電圧、および相差角に基づいて、電力変換装置32の有効電力の目標値を決定」(【0027】)し、「目標電力決定部3328が決定した有効電力の目標値」「に基づいて、電力変換装置32の制御指令を生成する」(【0023】)ことが記載されており、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、電力変換装置の制御指令を生成することについて、発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものである。 申立人は、「電流制御型インバータ」以外の「電力変換装置」について、実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない、旨主張するが、上記のとおりであり、また、有効電力の目標値を含む電力変換装置の制御指令によっては、「電流制御型インバータ」以外の「電力変換装置」を制御できないとの技術常識はないから、当該主張は採用できない。 本件発明1を引用する本件発明2〜5、請求項1の特定事項A〜Gと実質的に同じ発明特定事項を有する本件発明6についても同様である。 よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が、本件発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから、申立理由4は、理由がない。 第7 まとめ 前記第5及び第6によれば、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1〜6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2024-04-18 |
出願番号 | P2019-148070 |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(H02J)
P 1 651・ 121- Y (H02J) P 1 651・ 536- Y (H02J) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
土居 仁士 |
特許庁審判官 |
衣鳩 文彦 丸山 高政 |
登録日 | 2023-08-02 |
登録番号 | 7324653 |
権利者 | 三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社 |
発明の名称 | 指令生成装置および指令生成方法 |
代理人 | 松沼 泰史 |
代理人 | 古都 智 |
代理人 | 橋本 宏之 |
代理人 | 伊藤 英輔 |
代理人 | 鎌田 康一郎 |