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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1410858
総通号数 30 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2024-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2023-02-10 
確定日 2024-05-09 
事件の表示 特願2019− 9126「ヘッドアップディスプレイ装置およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 8月 6日出願公開、特開2020−118827〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成31年1月23日の出願であって、その手続の経緯の概要は、以下のとおりである。

令和 4年 8月23日付け:拒絶理由通知書
同年10月28日 :意見書の提出
同年11月 1日付け:拒絶査定
( 同月15日 :原査定の謄本の送達)
令和 5年 2月10日 :審判請求書の提出
同年11月 6日付け:拒絶理由通知書(以下「当審拒絶理由通知
書」という。)
同年12月28日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1〜7に係る発明は、令和5年12月28日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)後の請求項1〜7に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

<本願発明>
「【請求項1】
投影光を出射する表示器と;
該投影光を反射する少なくとも1つの反射器と;
開口部を有し、かつ、該表示器および該反射器を内部に収容する筐体と;
該開口部を覆うカバー部材と;
該カバー部材の筐体内部側に設けられた、該カバー部材側から順に粘着剤層と偏光子とを含む偏光板と;を有し、
該カバー部材と該粘着剤層との層間接着力が30N/25mm以上50N/25mm以下である、
ヘッドアップディスプレイ装置。」

第3 当審拒絶理由通知書における拒絶の理由
本願発明は本件補正前の請求項1に係る発明を補正したものであるところ、当審拒絶理由通知書で本件補正前の請求項1に係る発明に対して通知した拒絶の理由の概要は、以下の理由を含むものである。
進歩性)本件補正前の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2〜4に例示される周知技術に基いて、出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



1.特開2018−72488号公報
2.特開2013−72951号公報(周知技術を示す文献)
3.特開2007−226016号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2018−180407号公報(周知技術を示す文献)

第4 引用文献の記載事項及び引用発明等の認定
1 引用文献1について
(1) 引用文献1の記載事項
当審拒絶理由通知書で引用された引用文献1(特開2018−72488号公報)には、次の事項が記載されている(下線は、当合議体が付した。以下同じ。)。

ア 請求項1及び請求項2
「【請求項1】
投影光を出射する表示器と、
前記投影光を反射する反射器と、
開口部を有し且つ前記表示器及び前記反射器を内部に収容する筐体と、を有し、
前記投影光の光路上であって、前記表示器による出射から前記反射器による反射及び前記開口部の通過を経て前記筐体の外部に至るまでの間に、下記一般式(1)で表される芳香族ジスアゾ化合物を含む偏光子が設けられていることを特徴とする投影装置。
【化1】


一般式(1)において、Q1は、置換若しくは無置換のアリール基を表し、Q2は、置換若しくは無置換のアリーレン基を表し、R1は、独立して、水素原子、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアセチル基、置換若しくは無置換のベンゾイル基、置換若しくは無置換のフェニル基を表し、Mは、対イオンを表し、mは、0〜2の整数を表し、nは、0〜6の整数を表す。ただし、m及びnの少なくとも何れか一方は、0でなく、1≦m+n≦6である。前記mが2である場合、各R1は、同一又は異なる。
【請求項2】
前記筐体の開口部が、投影光が透過するカバー部材によって覆われている、請求項1に記載の投影装置。」

イ 【0003】
「【0003】
図12に示すように、通常、ヘッドアップディスプレイ用の投影装置10A(以下、単に「投影装置」と称する)は、投影光を出射する表示器1Aと、前記投影光を反射する反射器2Aと、表示器1A及び反射器2Aを収容する筐体3Aと、を有する。
筐体3Aは、開口部31Aを有している。表示器1Aによって出射された投影光Pは、反射器2Aによって反射され、筐体3Aの開口部31Aを介して筐体の外部に放たれた後、透光反射体(図示せず)に投影される。筐体3Aの開口部31Aは、筐体3Aの内部に塵芥が入り込まないように、カバー部材4Aによって覆われている。
このような投影装置10Aを自動車に搭載する場合、その設置場所は、ダッシュボードなど太陽光に曝され易い部分であることが多い。太陽光は、筐体3Aの外面のみならず、カバー部材4Aを透過して筐体3Aの内部に入射する。従って、投影装置10Aは、その内外両方から太陽光によって加熱されるため、昇温し易い。しかしながら、投影装置10Aの構成部材は、十分な耐熱性を有さない場合が多く、徐々に劣化し易い。
特に、投影装置10Aの構成部材のうち、電子機器を含む表示器1Aは、熱によって劣化し易い。筐体3Aの内部に入射した一部の太陽光Sは、反射器2Aによって反射され、この反射した太陽光Sが表示器に入射する。即ち、太陽光の一部は、投影光Pの光路を逆行し、この逆行した太陽光Sによって表示器1Aが照射される。そのため、表示器1Aは昇温し易く、それ故、故障し易いという問題がある。
なお、図12では、便宜上、投影光Pの光路と、この光路を逆行する太陽光Sの光路をずらして描写している(他図についても同様)。また、投影光Pの光路を逆行せずに筐体3Aの内部に無秩序に入射する太陽光については描写を省略している(図10を除き、他図についても同様)。」

ウ 【0072】−【0076】
「【0072】
[第7実施形態]
図10は、第7実施形態に係る投影装置10が有するカバー部材4及び筐体3を表す。
第7実施形態では、カバー部材4に偏光子6が設けられており、具体的には、カバー部材4の下面(筐体3の内部側の面)に偏光子6が積層されている。本実施形態では、カバー部材4に偏光子6が設けられているため、投影光Pの光路を逆行する太陽光Sのみならず、投影光Pの光路を逆行せずに筐体3の内部に入射する太陽光(図10におけるL1やL2)を減殺できる。即ち、カバー部材4に偏光子6を設けることにより、筐体3の内部に入射する太陽光の全体量を減らすことができる。従って、投影光Pの光路を逆行する太陽光Sの入射による表示器1の直接的な加熱のみならず、筐体3の内部が太陽光L1,L2によって昇温することに伴う表示器1の間接的な加熱をも防止することができ、より効果的に表示器1の昇温を防止することができる。
【0073】
仮に、上述した吸着型偏向子をカバー部材に設けた場合、加熱による偏光子の吸収軸及び透過軸の歪みによって投影光の透過率が下がる虞があるだけでなく、吸着型偏光子の収縮力によってカバー部材が反り、その結果、(i)筐体とカバー部材との間に間隙が生じ、この間隙から筐体の内部に塵芥が入り込む、(ii)投影光の光路がカバー部材の反りにより歪められ、透光反射体に投影光を適切に投影できなくなる、などの問題が発生する。
この点、本発明では、上述した一般式(1)で表される芳香族ジスアゾ化合物を含む偏光子を用いている。そのため、カバー部材に偏光子を設けても、偏光子が加熱により収縮し難く、それ故、カバー部材が反り難いため上記(i)及び(ii)の問題が生じ難い。
【0074】
本発明者が鋭意研究したところ、カバー部材が下記の(A)乃至(C)の条件下である場合、吸着型偏向子を用いた場合に比して、特に顕著にカバー部材の反りを防止できることを見出した。
(A)カバー部材の材料が、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アミド系樹脂、イミド系樹脂から選択される少なくとも1種を含み、好ましくは、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、及びオレフィン系樹脂から選択される少なくとも1種を含み、より好ましくは、ポリカーボネート系樹脂及びアクリル系樹脂から選択される少なくとも1種を含む場合。
(B)カバー部材の厚みの下限値が、100μmであり、好ましくは200μmであり、特に好ましくは300μmである場合。
(C)カバー部材の厚みの上限値が、700μmであり、好ましくは600μmであり、特に好ましくは500μmである場合。
【0075】
なお、本実施形態では、偏光子6は、カバー部材4の下面に設けられているが、カバー部材4の上面(筐体3の外部側の面)に設けられていてもよく、カバー部材4の上面及び下面の両方に設けられていてもよい。
また、カバー部材4に偏光子6を設ける場合、カバー部材4の下面及び/又は上面をコーティング液の塗布面として偏光子6を形成してもよく、他の塗布面上に形成された偏光子6を剥離し、この剥離した偏光子6を接着剤又は粘着剤を介してカバー部材4の下面及び/又は上面に接着してもよく、第1実施形態と同様の偏光板8を、接着剤又は粘着剤を介してカバー部材4の下面及び/又は上面に接着してもよい。
もっとも、接着剤又は粘着剤が偏光子6とカバー部材4の間に介在すると、投影光Pの一部が接着剤又は粘着剤によって吸収され、投影光Pの光損失が多くなる虞がある。従って、偏光子6は、カバー部材4の下面及び/又は上面をコーティング液の塗布面として形成されることが好ましい。
【0076】
これまで、本発明の第1乃至第7実施形態に係る投影装置を説明したが、これらの実施形態のうち、投影光Pの光損失を考慮すると、第6及び第7実施形態が好ましい。通常、投影光Pがある部材を透過又はある部材に反射される場合、空気と投影光Pが入射するある部材の界面において光損失が発生する。そのため、表示器1から出射された投影光Pの全てが筐体3の外部に放たれるわけではない。投影光Pの光損失をなるべく少なくするため、投影光Pが透過又は反射する部材の数を少なくすることが望ましい。この点、本発明の第6実施形態及び第7実施形態は、偏光子6が反射器2又はカバー部材4に積層されている(即ち、反射器2と偏光子6の間、又は、カバー部材4と偏光子6の間に間隙がない)ため、投影光Pの光損失を少なくすることができる。
また、投影光Pの光損失に加え、筐体3の内部に入射する太陽光の全体量を考慮すると、第7実施形態が最も好ましい。第7実施形態では、カバー部材4に偏光子6が設けられているため、投影光Pの光路を逆行する太陽光Sのみならず筐体3の内部に入射するその他の太陽光をも減殺できる。」

エ 【0082】−【0084】
「【0082】
[実施例1]
ノルボルネン系樹脂フィルム(日本ゼオン(株)製:製品名「ゼオノア」)を用意し、このフィルムの表面にラビング処理及び親水化処理(コロナ処理)を施した。
上記構造式(4)の芳香族ジスアゾ化合物をイオン交換水に溶解させ、濃度4重量%のコーティング液を調製した。
ラビング処理及び親水化処理を施した基板の表面にコーティング液をバーコータ(BUSHMAN社製:製品名「Mayer rot HS4」を用いて塗布し、塗布液を23℃の恒温室内で自然乾燥することで、基板の表面に乾燥塗膜(偏光子)を形成した。なお、偏光子の厚みは300nmであった。
【0083】
続いて、ノルボルネン系樹脂フィルムから偏光子を剥離し、得られた偏光子を耐水化処理液に2秒間浸漬した。耐水化処理液としては、1,3−プロパンジアミン塩酸塩(東京化成工業(株)製)、1,2−エチレンジアミン塩酸塩(東京化成工業(株)製)、及びビスヘキサメチレントリアミン(東京化成工業(株)製)を質量比55:15:30で含む水溶液を用いた。
耐水化処理液から取り出した偏光子を水洗し、乾燥させることにより耐水性偏光フィルムを得た。
【0084】
耐水性偏光フィルムを、アクリル系粘着剤(日東電工(株)製:製品名「CS9862UA」)を介して、厚さ300μmのポリカーボネート系樹脂シート(三菱ガス化学(株)製:製品名「MRF08U」)と貼り合わせ、光学積層体を作製した。
作製した光学積層体に対し、上述の反り量の測定方法に従って、加熱後の反り量を測定した。この結果を下記表1に表す。」

オ 図10




(2) 引用文献1の記載事項から読み取れる事項
引用文献1では、その第7実施形態において、カバー部材の反りが問題となり得ることが記載されており(【0073】)、また、カバー部材の反りを防止するためのカバー部材のより好ましい材料として、ポリカーボネート系樹脂が挙げられている(【0074】)。
一方、実施例1の光学積層体は、耐水性偏光フィルムをアクリル系粘着剤を介してポリカーボネート系樹脂シートと貼り合わせて作成したものであるところ、作成した光学積層体に対し、加熱後の反り量を測定している(【0084】)。
以上を総合すれば、当業者は、実施例1の光学積層体におけるポリカーボネート系樹脂シートが、第7実施形態でいうカバー部材であることを理解できるといえる。

(3) 引用発明の認定
前記(1)で摘記した引用文献1の記載事項及び前記(2)で認定した引用文献1の記載事項から読み取れる事項から、引用文献1には、実施例1の光学積層体を用いた第7実施形態について、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる(以下、引用発明の認定に用いた箇所の段落番号等を参考までに括弧内に付した。以下同じ。)。

<引用発明>
「投影光を出射する表示器と、
前記投影光を反射する反射器と、
開口部を有し且つ前記表示器及び前記反射器を内部に収容する筐体と、を有し、(【請求項1】)
前記筐体の開口部が、投影光が透過するカバー部材によって覆われており、(【請求項2】)
偏光子を粘着剤を介してカバー部材の下面に接着し、(【0075】)
粘着剤は、アクリル系粘着剤(日東電工(株)製:製品名「CS9862UA」)であり、(【0084】)
カバー部材は、ポリカーボネート系樹脂シートである、(前記(2))
ヘッドアップディスプレイ用の投影装置。(【0003】及び【0072】)」

第5 本願発明と引用発明との対比・判断
1 対比
(1) 対比分析
ア 引用発明の「投影光を出射する表示器」は、本願発明の「投影光を出射する表示器」に、
引用発明の「前記投影光を反射する反射器」は、本願発明の「該投影光を反射する少なくとも1つの反射器」に、
引用発明の「開口部を有し且つ前記表示器及び前記反射器を内部に収容する筐体」は、本願発明の「開口部を有し、かつ、該表示器および該反射器を内部に収容する筐体」に、
引用発明の「前記筐体の開口部」を「覆」う「カバー部材」は、本願発明の「該開口部を覆うカバー部材」に、
引用発明の「偏光子」は、本願発明の「偏光子」に、
引用発明の「ヘッドアップディスプレイ用の投影装置」は、本願発明の「ヘッドアップディスプレイ装置」に、
それぞれ相当する。

イ 本願発明の「該カバー部材の筐体内部側に設けられた、該カバー部材側から順に粘着剤層と偏光子とを含む偏光板」との特定事項について
引用発明の「ヘッドアップディスプレイ用の投影装置」は、「筐体の開口部が、投影光が透過するカバー部材によって覆われており」、「偏光子を粘着剤を介してカバー部材の下面に接着し[た]」ものであるところ、カバー部材と偏光子の間にある粘着剤は、カバー部材の下面に偏光子を接着していることから、層になっているといえる。よって、引用発明の「粘着剤」は、本願発明の「粘着剤層」に相当する。そして、引用発明の「偏光子」及び「粘着剤」からなる構成は、本願発明の「偏光板」に相当する。
以上を踏まえると、引用発明においては、偏光板に相当する偏光子と粘着剤はカバー部材の筐体内部側に設けられたものであり、カバー部材側から順に粘着剤と偏光子とを含むものであるといえる。
したがって、引用発明は上記特定事項を満たす。

(2) 一致点及び相違点
以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「投影光を出射する表示器と;
該投影光を反射する少なくとも1つの反射器と;
開口部を有し、かつ、該表示器および該反射器を内部に収容する筐体と;
該開口部を覆うカバー部材と;
該カバー部材の筐体内部側に設けられた、該カバー部材側から順に粘着剤層と偏光子とを含む偏光板と;を有する、
ヘッドアップディスプレイ装置。」

【相違点】
カバー部材と粘着剤層との層間接着力について、本願発明は、30N/25mm以上50N/25m以下であるのに対し、引用発明は、偏光子を粘着剤を介してカバー部材の下面に接着しているものの、カバー部材と粘着剤層との層間接着力は不明である点。

2 判断
(1) 相違点について
ア(ア) 引用発明は、「偏光子を粘着剤を介してカバー部材の下面に接着し」ているものであり、当該接着しているものが剥がれないように粘着剤と偏光子及びカバー部材との密着性を高めるとの課題を有することを、当業者は認識できるといえる。

(イ) 一方、粘着剤に関する技術分野において、密着性を向上させるために、粘着剤層に接する表面をコロナ処理する技術は、周知技術(必要ならば、当審拒絶理由で提示した引用文献2(特に、【0105】及び【0136】)、引用文献3(特に、【0096】)及び引用文献4(特に、【0075】)を参照されたい。)である。
しかるに、上記(ア)の課題を認識している当業者は、同じ技術分野に属する当該周知技術に接することができるところ、粘着剤層に接する表面をコロナ処理することは、上記課題の解決に役立つことを認識できるといえる。

(ウ) このように、引用発明から出発した当業者は、上記周知技術に係るコロナ処理が、上記課題を解決するために役立つとことを認識できるから、引用発明に上記周知技術を適用し、粘着剤層に接する表面であるカバー部材の表面をコロナ処理して密着性を高めるようになすことは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ そして、上記ア(ウ)のように引用発明に周知技術に係るコロナ処理が採用された構成(以下「容易想到構成」)は、以下のとおり、相違点に係る本願発明の構成を自然に満たすことになるといえる。
(ア) ここで、容易想到構成のカバー部材と粘着剤層との層間接着力について検討すると、引用発明は、アクリル系粘着剤として、本願の発明の詳細な説明の【0089】に記載されている実施例における粘着剤と同一の日東電工(株)製:製品名「CS9862UA」を用いること、及びカバー部材に対応する部材としても、本願の発明の詳細な説明の【0089】に記載されている実施例におけるカバー部材であるポリカーボネート系樹脂シートと同様にポリカーボネート系樹脂シートを用いることから、粘着剤層に接する表面であるカバー部材に対して、密着力を向上させるためにコロナ処理する際の一般的な条件でコロナ処理すると、容易想到構成のカバー部材と粘着剤層との層間接着力は、本願明細書に記載されている実施例1〜3と同様に、30N/25mm以上50N/25mm以下となるといえる。すなわち本願明細書の実施例1〜3及び比較例1(【0089】〜【0093】)についてみると、相違点1に係る本願発明の構成である、層間接着力が30N/25mm以上50N/25mm以下という範囲を満たさないものはコロナ処理を行わない比較例1のみであり、それぞれ所定の条件でコロナ処理を行う実施例1〜3はすべて当該範囲を満たしていることからみて、そのようにいえる。

(イ)a なお、本願発明におけるカバー部材と粘着剤層との層間接着力の上限である50N/25mm以下については、本願の発明の詳細な説明(【0014】等)を参酌しても、格別の技術上の意義は認められず、また、本願明細書の実施例1〜3(【0089】〜【0093】)を参照すると、アクリル系粘着剤として日東電工(株)製:製品名「CS9862UA」を用い、ポリカーボネート系樹脂シートである(株)シャインテクノ製:製品名「AW−10U」からなるカバー部材をコロナ処理している実施例1〜3のカバー部材と粘着剤層との層間接着力は、全て、50N/25mm以下であるため、カバー部材と粘着剤層との層間接着力が50N/25mmを越える場合と比較した本願発明の作用効果を評価することはできない。したがって、当該上限は設計事項といえるものである。

b また、コロナ処理が過剰であると傷がつく等の問題が発生することは技術常識であることから、コロナ処理が過剰とならないようにコロナ処理の放電出力に上限を、カバー部材の移動速度に下限を設けることは当業者が当然認識することであり、容易想到構成においてもコロナ処理の放電出力に上限を、カバー部材の移動速度に下限を設け、当該層間接着力を50N/25mm以下とすることは、当業者が通常至ることができることにすぎないものといえる。

ウ したがって、相違点に係る本願発明の構成は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に至るといえる。

(2) 総合検討
そして、上記相違点を勘案しても、本願発明の作用効果は、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

(3) 審判請求人の主張について
ア 審判請求人の主張内容
審判請求人は、本願発明は、カバー部材と該粘着剤層との層間接着力を特定の範囲に調整することで、ヘッドアップディスプレイ装置の耐熱性を向上し得、かつ、高温環境下における気泡の発生を抑制し得るという顕著な効果を奏するものであり、引用発明には、ヘッドアップディスプレイ装置の耐熱性を向上し、かつ、高温環境下における気泡の発生を抑制するという技術的思想は記載も示唆も一切されておらず、本願発明の効果は、引用発明とは、異質な効果であり、出願時の技術水準から当業者が予測しうるものではない旨を主張している。

イ 審判請求人の主張についての検討
上記主張について検討する。
本願発明の上記顕著な効果は、相違点に係る本願発明の構成により生じるものといえるところ、容易想到構成によりカバー部材と粘着剤層との層間接着力は、30N/25mm以上50N/25m以下となるので、容易想到構成により必然的に生じる効果にすぎない。また、コロナ処理により、気泡の巻き込みが低減できることは知られており(必要ならば、特開2013−107997号公報【0034】参照)、引用発明の粘着剤層に接する表面をコロナ処理すると、気泡の発生が抑制されるという効果も予想し得る程度のものである。
以上のとおり、審判請求人の上記主張は、上記(1)の判断を左右するものではない。

(4) 小括
以上によれば、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2024-03-11 
結審通知日 2024-03-12 
審決日 2024-03-28 
出願番号 P2019-009126
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 波多江 進
特許庁審判官 野村 伸雄
安藤 達哉
発明の名称 ヘッドアップディスプレイ装置およびその製造方法  
代理人 籾井 孝文  

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