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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C12Q 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12Q 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C12Q |
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管理番号 | 1411636 |
総通号数 | 31 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2024-07-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2022-04-14 |
確定日 | 2024-06-12 |
事件の表示 | 特願2019−226650「画像ベースのヒト胚細胞分類のための装置、方法、およびシステム」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 3月12日出願公開、特開2020− 36625〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成26年2月28日(パリ条約による優先権主張 2013年2月28日 米国、2013年2月28日 米国、2013年3月14日 米国、2013年3月14日 米国、2013年3月14日 米国、2013年3月14日 米国)を国際出願日とする特願2015−560375号の一部を新たな特許出願として令和1年12月16日に出願されたものであって、以降の主な手続の経緯は以下のとおりである。 令和3年 2月25日付け 拒絶理由通知 令和3年 7月30日 意見書及び手続補正書の提出 令和3年12月 9日 拒絶査定 令和4年 4月14日 審判請求書及び手続補正書の提出 令和5年 7月26日付け 拒絶理由通知 令和5年11月10日 意見書及び手続補正書の提出 なお、当審による令和5年7月26日付け拒絶理由の通知は、令和4年4月14日付け手続補正書の請求項1に記載されていた発明特定事項(「細胞特徴は配偶子合体から第1の細胞質分裂までの時間間隔を含む」こと、及び、「胚発生に関する結果として前記細胞特徴を分類する工程」)が明確性要件を欠くため、本願と引用文献1の対比・検討を十分に行うことができず、原査定の拒絶理由(新規性・進歩性)の判断を留保した上で行ったものである。 第2 本願発明 本願の請求項1〜13に係る発明は、令和5年11月10日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜13に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「【請求項1】 画像ベースで結果を決定するための方法であって、前記方法は: システムを提供する工程aであって、 前記システムは1つ以上の時間連続的な一連の胚細胞の画像を含む撮像デバイス、プロセッサを含むコンピュータ装置、及び前記プロセッサに実装される分類モジュールであって、少なくとも1つの分類器を前記1つ以上の時間連続的な一連の胚細胞の画像に適用する、分類モジュール、を備える、工程a; 前記時間連続的な一連の胚細胞の画像から細胞特徴を取得する工程b; 細胞段階ベースの分類又は画像ベースの分類に基づいて前記1つ以上の時間連続的な一連の胚細胞の画像のうち少なくとも1つについて、前記少なくとも1つの分類器を用いて前記細胞特徴を分類する工程c、 を包含する方法。」 第3 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本願優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特表2013−502233号公報(引用文献1)に記載された発明であるか、特表2013−502233号公報(引用文献1)に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当するか、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができない、との理由を含むものである。 第4 引用文献の記載事項及び引用発明の認定 原査定で引用された特表2013−502233号公報(引用文献1)には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付与した。)。 1.引用文献1の記載事項 引1a 「【請求項15】 相互に対してヒトの胚または多能性細胞をランク付けするための方法であって、 (a)各ヒトの胚または多能性細胞について少なくとも1つの細胞パラメータを測定して、各胚または多能性細胞の細胞パラメータ測定値を導き出すステップと、 (b)前記胚または多能性細胞のそれぞれからの前記少なくとも1つの細胞パラメータ測定値を利用して、相互に対して前記ヒトの胚または多能性細胞をランク付けするステップと、を含む、方法。 【請求項16】 前記少なくとも1つの細胞パラメータは、微速度顕微鏡検査により測定可能である、請求項15に記載の方法。 【請求項17】 胚がランク付けされ、前記少なくとも1つの細胞パラメータは、 (i)細胞質分裂事象の持続時間、 (ii)細胞質分裂1と細胞質分裂2との間の時間間隔、および (iii)細胞質分裂2と細胞質分裂3との間の時間間隔から成る群から選択される、 請求項16に記載の方法。 ・・・ 【請求項22】 前記利用するステップは、前記胚または多能性細胞のそれぞれからの前記細胞パラメータ測定値を基準の胚または多能性細胞からの細胞パラメータ測定値と比較して、各胚または多能性細胞の発達の可能性を判定することにより、および各胚または多能性細胞の発達の可能性を比較して、相互に比較して胚または多能性細胞の発達の可能性を判定することにより達成される、請求項15に記載の方法。 ・・・ 【請求項34】 胚細胞または幹細胞を成長させる発達の可能性を判定するためのシステムであって、 (a)顕微鏡と、 (b)前記顕微鏡から画像を取得するための撮像カメラと、 (c)前記カメラからの画像を保存するためのコンピュータと、 (d)(i)細胞質分裂の持続時間、(ii)有糸分裂事象間の時間、のうちの少なくとも1つを測定するために、前記細胞のモデルを作製するためのソフトウェアと、 を備える、システム。」 引1b 「【0056】 パラメータは、手動で測定されるか、または自動的に、例えば、画像分析ソフトウェアにより測定され得る。画像分析ソフトウェアが利用される場合、例えば、仮定される胚/多能性細胞モデルの分布を生成する、単純な光学モデルに基づき画像をシュミレーションする、およびこれらのシミュレーションを観測した画像データと比較する、遂次モンテカルロ法に基づく確率的モデル推定技法を利用する画像分析アルゴリズムが使用され得る。そのような確率的モデルによる推定が利用される場合、細胞は、あらゆる適切な形状として、例えば、2D空間における楕円の集まり、3D空間における楕円体の集まり等としてモデル化され得る。遮蔽および深度の不明確さに対処するために、方法は、予想された物理的挙動に対応する幾何学的制約を強化することができる。確実性を改善させるために、画像は、1つ以上の焦点面で捕捉され得る。」 引1c 「【0077】 一部の実施形態において、細胞パラメータ測定値は、それを基準もしくは対照の胚/多能性細胞からの細胞パラメータ測定値と比較し、この比較の結果を使用して、胚/多能性細胞の発達の可能性の判定を提供することにより利用される。本明細書に使用される、「基準」および「対照」という用語は、所与の胚/多能性細胞の細胞パラメータ測定値を解釈し、それに対して発達の可能性の判定を行うために使用される、規格化された胚または細胞を意味する。基準または対照は、所望の表現型、例えば、良好な発達の可能性を有することが知られている胚/多能性細胞であり得、したがって、陽性基準または対照の胚/多能性細胞であり得る。代替的に、基準/対照の胚/多能性細胞は、所望の表現型を有さないことが知られている胚/多能性細胞であり得、したがって、陰性基準/対照の胚/多能性細胞であり得る。」 引1d 「【0131】 実施例1 胚の発達の可能性を判定するための撮像分析 ・・・ 【0135】 結果 培養における健康なヒトの着床前の胚の発達時系列は、微速度撮像により6日間にわたり記録された(図2)。正常なヒトの接合体は、2日目の初期に第1分裂を受けることが観測された。続いて、胚は、4日目に桑実胚に密集する前に、それぞれ、2日目と3日目の後期に4細胞および8細胞に分裂する。第1の形態学的に明らかな細胞分化は、胚盤胞形成中の5及び6日目に観測され、その時、全能性卵割球は、胎盤のような胚外構造をもたらす栄養外胚葉細胞、または生体内で胎児に、そして生体外で多能性胚幹細胞に発達する、内細胞塊のいずれかに分化する。 【0136】 我々は、次に、4つの独立した実験組で242個の普通に受精させた胚の発達を追跡し、5または6日目まで培養された試料の中で、正常な胚および停止した胚の分布を記録した。242個の胚のうち、100個は、5または6日目まで培養され、胚盤胞形成率は、33%〜53%の間であることが観測され、通常のIVFクリニックでの胚盤胞形成率と類似した(図3)。残りの胚は、異なる発達期で停止し、最も一般的には、2細胞と8細胞期との間であり、異常と定義された(図3)胚盤胞期への胚の発達の成功を予測する定量的撮像パラメータを識別するために、我々は、卵割球の大きさ、透明帯の厚さ、断片化の程度、第1細胞周期の長さ、最初のいくつかの有糸分裂間の時間間隔、および第1細胞質分裂の持続時間を含む、微速度ビデオからいくつかのパラメータを抽出し、分析した。発達的に正常な胚と異常な胚の双方のビデオ画像分析中、我々は、多くの停止した胚が第1細胞分割中、異常な細胞質分裂を受けたことを観測した。正常な胚は、速やかに制御された様式で、分裂溝の出現から娘細胞の完全分離まで14.3+/−6.0分の狭い時間枠で細胞質分裂を完了した。これは図4の上部に示される。逆に、異常な胚は、一般に、2つの異常な細胞質分裂表現型のうちの1つを示した。軽度の表現型において、細胞質分裂の形態およびメカニズムは、正常のように見えたが、プロセスを完了するのに必要とした時間は長く、さらに数分から1時間の範囲であった(図4)。時折、わずかに延長した細胞質分裂を受けた胚でも、胚盤胞に発達した。より重度の表現型において、細胞質分裂の形態およびメカニズムは撹乱された。例えば、図4の下部パネルの例に示されるように、胚は、片側だけ分裂溝を形成し、最終的により小さい構成要素に断片化する前に、数時間、異常な一連の膜ラフリング事象を受けた。そのような挙動の他の変形が観測された。加えて、これらのより重度の表現型を示す異常な胚は断片化され、胚の断片化が後に異常な胚発達をもたらす異常な細胞質分裂の副産物の可能性がある直接的な証拠を提供する。 【0137】 ・・・特に、我々は、厳密に制御された初期の胚の細胞周期において、3つの一次的な間隔:(1)第1細胞質分裂の持続時間、(2)第1と第2との間の有糸分裂の時間間隔、および(3)第2と第3との間の有糸分裂の同時発生に留意した。これらの3つの時間間隔と形態変化との間の関係を図5に示す。正常な胚において、我々は、パラメータがそれぞれ約14.3+/−6.0分、11.1+/−2.1時間、および1.0+/−1.6時間であると測定した(ここで、平均+/−標準偏差として与えられる)。 ・・・ 【0139】 0〜33分の間の第1細胞質分裂、7.8〜14.3時間の間の第1と第2の有糸分裂の間の時間、および0〜5.8時間の間の第2と第3の有糸分裂との間の時間を有することにより、それぞれ94%および93%の感度および特異性で、胚盤胞期に達した胚を予測することができた(図6)。逆に、これらの枠のうちの1つ以上外の値を示した胚は、停止することが予測された。胚盤胞の発達に成功した全ての正常な胚は、3つ全てのパラメータにおいて、類似する値を示した。逆に、異常な胚は、それらが間隔を完了するのに費やした時間の長さにおいて、かなりの量のばらつきを示した(図6)。我々は、(1)第1細胞質分裂を完了する期間が正常より長いと、不良な発達の可能性を示す、(2)第1と第2の細胞分割との間の間隔が正常より長い、もしくは短いと、不良な発達の可能性を示す、および(3)第2と第3の細胞分割との間の間隔が正常より長いと、不良な発達の可能性を示すことを観測した。よって、これらのパラメータは、胚が胚盤胞形成に進む能力、および胚盤胞の質を予測した。 【0140】 最後に、我々は、各パラメータは自動的に胚の発達の可能性を予測したが、3つ全てのパラメータの使用は、双方が90%を超えた感度および特異性を提供し、標準偏差の3倍のカットオフ点であったことに留意した。これらのパラメータの受信者操作特性(ROC)曲線を図7に示す。この図の曲線は、種々の標準偏差カットオフの真の陽性率(感度)対偽の陽性率(1−特異性)を示す。・・・ 【0141】 考察 我々の分析は、最初の3つの卵割の間の有糸分裂および細胞質分裂において、厳密なタイミングに従う胚は、胚盤胞期に発達すること、拡張内細胞塊(ICM)を伴う高品質の胚盤胞を形成することの双方の可能性が非常に高いことを示す。動的形態パラメータは、IVF処置中、移植または凍結保存に最適な胚を選択するために使用され得る。これらのパラメータは、異なる質の胚盤胞を区別するためにも使用され得、群内の相対的な胚の発達の可能性のランク付けを可能にする。」 「【図4】 」 「【図5】 」 「【図6】 」 引1e 「【0168】 実施例5 【0169】 自動化分析による撮像パラメータの検証 【0170】 我々の微速度画像データによって明らかなように、ヒトの胚の発達は、コホート内の胚間で高度に変動するプロセスであり、胚は、細胞分割中に広範な挙動を示し得る。よって、高度に異常な細胞質分裂(図4)の持続時間等のある発達事象の手動特徴付けは、解釈に左右され得る。我々の撮像パラメータおよび胚盤胞形成を系統的に予測する機能を検証するために、我々は、最大4細胞期までの細胞分割の自動化追跡用のアルゴリズムを開発した。我々の追跡アルゴリズムは、遂次モンテカルロ法に基づく確率モデル推定技法を利用する。この技法は、仮定された胚モデルの分布を生成し、単純な光学モデルに基づき画像をシミュレーションし、これらのシミュレーションを観測された画像データと比較することにより機能する(図21a)。 【0171】 胚は、位置、配向、および重複インデックスを伴う楕円の集まりとして(細胞の相対的高さを表すため)モデル化された。これらのモデルを用いて、細胞質分裂の持続時間および有糸分裂間の時間を抽出することができる。細胞質分裂は、通常、最初の細胞質分裂溝の出現(ここで、双極陥凹が分裂軸に沿って形成される)から娘細胞の完全分離までにより定義される。我々は、1細胞から2細胞分割前の細胞伸長の持続時間として、細胞質分裂を近似することにより問題を簡素化した。軸長の相違が15%を超えた場合(経験的に選択される)、細胞が伸長したと判断される。有糸分裂間の時間は、各モデルの細胞数を数えることにより容易に抽出される。 【0172】 我々は、14個一組のヒトの胚(図21b)に対して我々のアルゴリズムを試験し、自動化測定値を手動画像分析と比較した(図21c、図21d)。このデータ組において、14個の胚のうちの8つが良好な形態で胚盤胞期に達した(図21e上部)。自動化測定値は、手動測定値と密接に一致し、8つの胚全てが、胚盤胞に達するように正確に予測された。14個の胚のうちの2つが不良な形態で胚盤胞に達した(不良な質の内細胞塊、図21e下部)。これらの胚において、手動評価は、1つが胚盤胞に達し、1つが停止するであろうと示され、一方、自動化評価は、双方が停止するであろうと予測された。最後に、14個の胚のうちの4つが胚盤胞期前に停止し、双方の方法により、停止することが正確に予測された。 ・・・ 【0190】 細胞分割をモデル化するために、我々は以下のアプローチを使用する。所与の時間点で、各粒子において、我々は、細胞のうちの1つが分割するという50%の確率を割り当てる。この値は、経験的に選択され、現在の構成を良好に網羅しながら、広範な可能な細胞分割に及ぶ。分割が予測される場合、分割細胞は無作為に選択される。より複雑なモデルには、粒子中の細胞の数、およびそれらの分割パターンの履歴等のさらなる要因を考慮に入れ、実際のデータから観測された挙動に基づき、モデルを作製することが可能である。 【0191】 細胞が分割することが選択される時、楕円の主軸に沿った対称分割が適用され、同じ大きさおよび形状の2つの娘細胞が産生される。次いで、娘細胞の各値は、無作為に撹乱される。撹乱は、正規分布から、しかし、新しい細胞形状における大きな変動に対処するためにより大きな分散(初期値の10%)で再度サンプリングされる。最後に、残りの細胞に対してそれらの集合的重複を維持しながら、2つの娘細胞の重複インデックスを無作為に選択する。 【0192】 画像シミュレーション 【0193】 対照入力を各粒子に適用した後、粒子表示は、実際の画像と比較され得るシミュレーション画像に変換されなければならない。正確な画像シミュレーションは、難しい作業であり得、光線追跡技法および光学モデルの使用を必要とする場合が多い。現実的な画像のシミュレーションを試みるより、本発明の方法は、画像において容易に識別可能である特色をシミュレーションすることに焦点をあてる。具体的に、細胞膜の画像をシミュレーションする。 ・・・ 【0210】 細胞活性の程度を測定するために、新しい画像(顕微鏡によって取得)と前の画像との間の画素強度の2乗和の差(SSD)を計算する。ノイズを削減するために、最初に画像をガウスフィルタで平滑化し、SSD値を因果的移動平均で経時的に平滑化する。次いで、この値に比例して粒子の数を動的に調節し、100<M<1000の範囲内に収まるように切り捨てる。 図30は、粒子の数がどのように1細胞期から4細胞期に分割する胚に割り当てられ得るかを示すグラフである。この方法は、事前画像登録は実施されなかったため、単に画像における「活性」量の基準を提供するだけであり、細胞分割と胚運動(翻訳および/または回転)を区別しないことに留意するべきである。この状況において(粒子の数を判定する)、粒子の数はいずれかの事象においても増加するはずであるため、これは許容される。実践において、我々は、最も可能性のある胚モデルの細胞の数に基づき、粒子の数も調節する。つまり、より多くの細胞が画像に存在すると考えられる時に、より多くの粒子が生成される。 ・・・ 【0234】 予測パラメータの抽出 【0235】 前述の方法を使用して、胚がモデル化されたら、特定のパラメータがモデルから抽出され得る。通常、最適なモデルまたは最も高確率のモデルが使用される。これらのパラメータは、例えば、第1細胞質分裂の持続時間、第1と第2の細胞分割との間の時間、および第2と第3の細胞分割との間の時間を含む。細胞質分裂の持続時間は、細胞のモデルが2つの細胞に分裂する前にどのくらい長く伸長したかを測定することにより近似され得る。伸長は、楕円の主軸対短軸の比率を調べることにより測定され得る。モデルから抽出され得る他のパラメータは、受精と第1細胞分割との間の時間、細胞および分割プロセスの形状および対称性、分割の角度、断片化等を含む。パラメータは、2D細胞追跡アルゴリズムまたは3D細胞追跡アルゴリズムのいずれかを使用して抽出され得る。」 「【図21】 」 「【図30】 」 (2)引用文献1に記載された発明(引用発明)の認定 引用文献1の請求項15〜17、22には、微速度顕微鏡検査により測定可能な請求項17に記載の(i)〜(iii)から選択される細胞パラメータの測定値を、基準の細胞パラメータ測定値と比較して、胚または多能性細胞の発達の可能性を判定することでヒトの胚または多能性細胞をランク付けする方法が記載されている(いずれも引1a)。 一方、引用文献1の請求項34には、胚細胞を成長させる発達の可能性を判定するシステムとして、(a)顕微鏡、(b)前記顕微鏡から画像を取得するための撮像カメラ、(c)前記カメラからの画像を保存するコンピュータ、(d)(i)細胞質分裂の持続時間、(ii)有糸分裂事象間の時間のうちの少なくとも1つを測定するために細胞のモデルを作製するソフトウェアを備えるシステムが記載されている(引1a)。 そして、上記システムの細胞のモデルについて、本願明細書の【0171】には、位置、配向、および重複インデックスを伴う楕円の集まり(細胞の相対的高さを表すため)のモデル化細胞を用いること、同【0193】には、細胞膜の画像をシミュレーションに用いること、同【0235】には、細胞のモデルは2つの細胞に分裂する前にどのくらい長く伸長(楕円の主軸対短軸の比率により測定され得る)したかを測定すること、同【0170】には、仮定された胚モデルで画像をシミュレーションし、これらのシミュレーションを観測された画像データと比較することが記載されている(いずれも引1e)。 以上の記載からすると、引用文献1には、以下の発明(引用発明)が記載されていると認められる。 「顕微鏡と、 前記顕微鏡から画像を取得する撮像カメラと、 前記カメラからの画像を保存するコンピュータと、 (i)細胞質分裂の持続時間、(ii)有糸分裂事象間の時間、のうちの少なくとも1つを測定するために、細胞のモデルを作製するソフトウェアと、を備える、システムを用いて、胚細胞を成長させる発達の可能性を判定し、ヒトの胚をランク付けする方法であって、 各ヒトの胚について、微速度顕微鏡検査により、(i)細胞質分裂事象の持続時間、(ii)細胞質分裂1と細胞質分裂2との間の時間間隔、および(iii)細胞質分裂2と細胞質分裂3との間の時間間隔から成る群から選択される、各胚の細胞パラメータ測定値を導き出すステップと、 前記胚の前記細胞パラメータ測定値を、基準の胚の細胞パラメータ測定値と比較して、各胚の発達の可能性を判定することにより、前記ヒトの胚をランク付けするステップと、 を含む、方法。」 第5 当審の判断 1.本願発明と引用発明の対比 引用発明の「顕微鏡と、前記顕微鏡から画像を取得するための撮像カメラ」は「ヒトの胚について、微速度顕微鏡検査」するデバイスであるから、本願発明の「1つ以上の時間連続的な一連の胚細胞の画像を含む撮像デバイス」に相当し、引用発明の「画像」から、(i)細胞質分裂の持続時間、(ii)有糸分裂事象間の時間、のうちの少なくとも1つを測定するために必要な細胞の特徴(例えば、2つの細胞に分裂する前にどのくらい長く伸長したか等)に関する情報が取得されるので、引用発明の「顕微鏡から画像を取得する」は、本願発明の「時間連続的な一連の胚細胞の画像から細胞特徴を取得する」に相当する。 コンピュータは、通常プロセッサを含むものなので、引用発明の「前記カメラからの画像を保存するコンピュータ」は、本願発明の「プロセッサを含むコンピュータ装置」に相当する。 本件特許の請求項3によると本願発明の「画像ベースの分類」は「細胞活性パラメータ分類、細胞分裂タイミングパラメータ分類および細胞分裂非タイミングパラメータ分類からなる群より選択される」ものであり、本願明細書の【0021】の(項目16)によると、「細胞活性パラメータは、第1の細胞質分裂の持続時間、第1細胞質分裂と第2細胞質分裂との間の時間間隔、第2細胞質分裂と第3細胞質分裂との間の時間間隔、第1の有糸分裂と第2の有糸分裂との間の時間間隔、第2の有糸分裂と第3の有糸分裂との間の時間間隔、受精から5つの細胞を有する胚までの時間間隔、および配偶子合体と前記第1の細胞質分裂との間の時間間隔のうちの1つ以上のものを含む」ので、引用発明の「(i)細胞質分裂事象の持続時間、(ii)細胞質分裂1と細胞質分裂2との間の時間間隔、および(iii)細胞質分裂2と細胞質分裂3との間の時間間隔から成る群から選択される、各胚の細胞パラメータ」は、本願発明の「画像ベース」に相当する。 引用発明は、「微速度顕微鏡検査」で得られた画像に基づき「各胚の発達の可能性を判定」して「ヒトの胚をランク付け」、すなわち、ヒトの胚を分類しているので、引用発明の「胚細胞を成長させる発達の可能性を判定し、ヒトの胚をランク付けする方法」は、本願発明の「画像ベースで結果を決定するための方法」であって「分類する工程c、を包含する方法」に相当する。 そうすると、本願発明と引用発明は、 「画像ベースで結果を決定するための方法であって、前記方法は: システムを提供する工程aであって、 前記システムは1つ以上の時間連続的な一連の胚細胞の画像を含む撮像デバイス、プロセッサを含むコンピュータ装置、を備える、工程a; 前記時間連続的な一連の胚細胞の画像から細胞特徴を取得する工程b; 画像ベースに基づいて分類する工程c、 を包含する方法。」で一致し、以下の点で一応相違している。 <一応の相違点> 本願発明では、 システムにおいて、「少なくとも1つの分類器を前記1つ以上の時間連続的な一連の胚細胞の画像に適用する、分類モジュール」が「プロセッサに実装され」、「画像ベースの分類に基づいて前記1つ以上の時間連続的な一連の胚細胞の画像のうち少なくとも1つについて、前記少なくとも1つの分類器を用いて前記細胞特徴を分類」しているのに対し 引用発明では、「システム」が「(i)細胞質分裂の持続時間、(ii)有糸分裂事象間の時間、のうちの少なくとも1つを測定するために、細胞のモデルを作製するソフトウェア」を備え、「各ヒトの胚について」「(i)細胞質分裂事象の持続時間、(ii)細胞質分裂1と細胞質分裂2との間の時間間隔、および(iii)細胞質分裂2と細胞質分裂3との間の時間間隔から成る群から選択される、各胚の細胞パラメータ測定値」を導きだし、「基準の胚の細胞パラメータ測定値と比較して、各胚の発達の可能性を判定することにより、前記ヒトの胚をランク付け」している点 2.一応の相違点の検討 上記1で検討したとおり、本願発明の「画像ベース」は、引用発明の「(i)細胞質分裂事象の持続時間、(ii)細胞質分裂1と細胞質分裂2との間の時間間隔、および(iii)細胞質分裂2と細胞質分裂3との間の時間間隔から成る群から選択される、各胚の細胞パラメータ」に相当するところ、分類とは、事物を一定の基準に従って種類別に分けることであるので、引用発明の「胚の前記細胞パラメータ測定値を、基準の胚の細胞パラメータ測定値と比較して、各胚の発達の可能性を判定することにより、前記ヒトの胚をランク付けする」ことは、各胚を、基準となる細胞パラメータ測定値に従って、各胚の発達の可能性に応じて分類することを意味するものと認められる。 一方、引用発明の各胚の細胞パラメータ測定値は、微速度顕微鏡検査で得られた経時的画像から導き出されるものであり、本願明細書の【0170】〜【0171】、【0235】によると、ソフトウェアにより作製された細胞のモデル(仮定された胚モデルのシミュレーション)と、2つの細胞に分裂する前にどのくらい長く伸長(楕円の主軸対短軸の比率により測定され得る)したか等の画像データから得られる細胞特徴とを比較することにより得られるものである。 そうであれば、相違点1において、引用発明の発明特定事項として挙げた、「各ヒトの胚について」「(i)細胞質分裂事象の持続時間、(ii)細胞質分裂1と細胞質分裂2との間の時間間隔、および(iii)細胞質分裂2と細胞質分裂3との間の時間間隔から成る群から選択される、各胚の細胞パラメータ測定値」を導きだし、「基準の胚の細胞パラメータ測定値と比較して、各胚の発達の可能性を判定することにより、前記ヒトの胚をランク付け」することは、本願発明の「画像ベース」、「分類」という用語を用いると、各ヒトの胚について、ソフトウェアにより作製されたヒトの胚の細胞のモデルと、微速度顕微鏡検査による経時的な画像データから得られた各ヒトの胚の細胞特徴との比較により導き出した各胚の細胞パラメータ(画像ベース)を、画像ベース(細胞パラメータ)の分類に基づき各ヒトの胚を分類することと表現することができる。 そして、本願明細書の【0012】によると、「分類モジュール」は、細胞を自動分類するために用いられるものであり、各画像を、「分類器」、すなわち、事物を種類別に分ける際の一定の「基準」に適用して、分類確率を決定するものなので、本願発明の「分類確率を決定」は、引用発明の「基準の胚の細胞パラメータ測定値と比較して、各胚の発達の可能性を判定」(いずれも下線は当審で付与した。)と実質的に相違するとはいえない。 そうすると、上記の一応の相違点は、表現上の差異はあるものの、実質的には、同じ操作を意図したものであると認められるから、本願発明は、引用文献1に記載された発明である。 また、「分類器」や自動分類に用いられる「分類モジュール」は、細胞の自動分類に限らず、分類操作一般に用いられるものなので、引用文献1に「分類器」や「分類モジュール」の文言がなくても、一応の相違点として挙げた本願発明の発明特定事項は、当業者であれば容易に想到し得たものであり、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。 3.審判請求人の主張 審判請求人は、令和5年11月10日付け意見書で、「引例1(特表2013−502233)の発明は、細胞特徴を用いて細胞を分類する方法または装置に関連する記載がありません。また、本願発明における、「前記時間連続的な一連の胚細胞の画像から」取得される「細胞特徴」(補正後の請求項1の工程b)と、引例1に記載された発明におけるパラメータは明確に区別されるべきものです。」と主張している。 しかしながら、上記2.で示したとおり、引用文献1には、微速度顕微鏡検査による経時的な画像データから得られた各ヒトの胚の細胞特徴(2つの細胞に分裂する前にどのくらい長く伸長したか等の特徴)を用いて導き出した各胚の細胞パラメータ(画像ベース)を、画像ベース(細胞パラメータ)の分類に基づいて各ヒトの胚を分類することが記載されているといえる。 また、細胞パラメータは、上記2.で示したとおり、2つの細胞に分裂する前にどのくらい長く伸長(楕円の主軸対短軸の比率により測定され得る)したか等の細胞特徴より得られるから、両者が無関係なものであるとはいえないし、そもそも、細胞特徴という用語は、縁の種類、テクスチャの種類、および形状の種類に限られない広範な概念なので、本願発明の「細胞特徴」と引用発明の「細胞パラメータ」が明確に区別されるものとはいえない。 したがって、審判請求人の主張は、理由がない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、または、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないので、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 審判長 加々美 一恵 出訴期間として在外者に対し90日を附加する。 |
審理終結日 | 2024-01-10 |
結審通知日 | 2024-01-16 |
審決日 | 2024-01-31 |
出願番号 | P2019-226650 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C12Q)
P 1 8・ 113- Z (C12Q) P 1 8・ 537- Z (C12Q) |
最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
加々美 一恵 |
特許庁審判官 |
福井 悟 高堀 栄二 |
発明の名称 | 画像ベースのヒト胚細胞分類のための装置、方法、およびシステム |
代理人 | 三好 玲奈 |
代理人 | 高橋 香元 |
代理人 | 小田 直 |
代理人 | 岩堀 明代 |
代理人 | 高岡 亮一 |