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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1411727
総通号数 31 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2024-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-09-15 
確定日 2024-06-05 
事件の表示 特願2019−536978「膵癌の治療」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 7月12日国際公開、WO2018/127082、令和 2年 2月 6日国内公表、特表2020−504138〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)1月 4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2017年1月 5日、米国)を国際出願日とする出願であって、その主な手続の経緯は、次のとおりである。

令和3年 1月 4日 手続補正書の提出
同年10月 7日付け 拒絶理由通知書
令和4年 3月18日 意見書及び手続補正書の提出
同年 5月11日付け 拒絶査定
同年 9月15日 手続補正書及び審判請求書の提出
令和5年12月 8日 上申書の提出

第2 令和4年9月15日提出の手続補正書による手続補正についての補正却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年9月15日提出の手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正前(令和4年3月18日提出の手続補正書)の特許請求の範囲の記載
「【請求項1】
対象の難治性または抵抗性の膵癌を治療する用の薬剤の製造における1つ以上のカチオン性脂質及び治療有効量のパクリタキセルを含むカチオン性リポソーム製剤の使用であって、
前記難治性または抵抗性の膵癌が、フルオロウラシルベースの併用療法に対して難治性または抵抗性である、カチオン性リポソーム製剤の使用。
【請求項2】
前記難治性または抵抗性の膵癌が、オキサリプラチン、ロイコボリン、イリノテカン、およびフルオロウラシルの併用に対して難治性または抵抗性である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記難治性または抵抗性の膵癌が、ゲムシタビンベースの併用療法に対して難治性または抵抗性である、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記難治性または抵抗性の膵癌が、増殖因子阻害薬または有糸分裂阻害薬に対して難治性または抵抗性である、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記増殖因子阻害薬が、エルロチニブ、セツキシマブ、ゲフィチニブ、イマチニブ、パニツムマブ、スニチニブ、またはベムラフェニブであり、
前記有糸分裂阻害薬が、パクリタキセル、ドセタキセル、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、またはビノレルビンである、
請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記対象が、以前に、約70mg/m2〜100mg/m2のオキサリプラチンの静脈内注入、次いで約90mg/m2〜270mg/m2のイリノテカンの静脈内注入と同時の、約300mg/m2〜500mg/m2のロイコボリンの静脈内注入、次いで約300mg/m2〜800mg/m2のフルオロウラシルの静脈内ボーラスおよび約1200mg/m2〜3600mg/m2のフルオロウラシルの静脈内注入で治療されている、請求項2に記載の使用。
【請求項7】
前記対象が、以前に、約85mg/m2のオキサリプラチンの静脈内注入、次いで約180mg/m2のイリノテカンの静脈内注入と同時の、約400mg/m2のロイコボリンの静脈内注入、次いで約400mg/m2のフルオロウラシルの静脈内ボーラスおよび約2400mg/m2のフルオロウラシルの静脈内注入で治療されている、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記対象が、以前に、約70mg/m2〜100mg/m2のオキサリプラチンの静脈内注入、次いで約90mg/m2〜180mg/m2のイリノテカンの静脈内注入と同時の、約300mg/m2〜500mg/m2のロイコボリンの静脈内注入、次いで約1200mg/m2〜3600mg/m2のフルオロウラシルの静脈内注入で治療されている、請求項2に記載の使用。
【請求項9】
前記対象が、以前に、約85mg/m2のオキサリプラチンの静脈内注入、次いで、約130mg/m2〜150mg/m2のイリノテカンの静脈内注入と同時の、約400mg/m2のロイコボリンの静脈内注入、次いで約2400mg/m2のフルオロウラシルの静脈内注入で治療されている、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
ゲムシタビンの治療有効量がさらに対象に投与される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
約1mg/m2〜約60mg/m2のパクリタキセルを含む前記カチオン性リポソーム製剤と、約300mg/m2〜約1500mg/m2のゲムシタビンとが、前記対象に投与される、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
約11mg/m2〜約22mg/m2のパクリタキセルを含む前記カチオン性リポソーム製剤と、約500mg/m2〜約1000mg/m2のゲムシタビンとが、前記対象に投与される、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記カチオン性リポソーム製剤が、1週間に2回投与され、ゲムシタビンが1週間に1回投与される、請求項10に記載の使用。
【請求項14】
7週間の第1の治療サイクルの、1、4、8、11、15、18、22、25、29、32、36、39、43、および46日目に、前記カチオン性リポソーム製剤が投与され、4、11、18、25、32、39、および46日目に、ゲムシタビンが投与される、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記第1の治療サイクルの後に、1つ以上の後続の治療サイクルを行い、3週間の後続の治療サイクルの、1、4、8、11、15および18日目に、前記カチオン性リポソーム製剤が投与され、4、11、および18日目に、ゲムシタビンが投与され、第1の治療 サイクルと後続の治療サイクルとの間の投与間隔または2つの後続の治療サイクルの間の投与間隔が、1週間である、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記カチオン性リポソーム製剤が、最初の15分間に0.5mL/分の速度、次いで次の15分間に1.0mL/分の速度、次いで30分後に1.5mL/分の速度で、前記対象に投与される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項17】
前記カチオン性リポソーム製剤が、約30モル%〜約99.9モル%のカチオン性脂質、少なくとも0.1モル%の量のパクリタキセル、および30モル%〜55モル%の中性またはアニオン性の脂質を含み、前記カチオン性リポソーム製剤が、室温、約pH7.5の、約0.05MのKCl溶液において正のゼータ電位を有する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項18】
前記カチオン性リポソーム製剤が、DOTAP、DOPC、およびパクリタキセルを含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項19】
前記カチオン性リポソーム製剤が、DOTAP、DOPC、およびパクリタキセルを、約50:47:3のモル比で含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項20】
前記カチオン性脂質が、N−[1−(2,3−ジオレオイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウム塩(DOTAP);ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDAB);1,2−ジアシルオキシ−3−トリメチルアンモニウムプロパン N−[1−(2,3−ジオレオイル(dioloyl)オキシ)プロピル]−N,N−ジメチルアミン(DODAP);1,2−ジアシルオキシ−3−ジメチルアンモニウムプロパン;N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA);1,2−ジアルキルオキシ−3−ジメチルアンモニウムプロパン;ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン(DOGS);3β−[N −(N’,N’−ジメチルアミノ−エタン)カルバモイル]コレステロール(DC−Ch ol);2,3−ジオレオイルオキシ−N−(2−(スペルミンカルボキシアミド)−エ チル)−N,N−ジメチル−1−プロパンアミニウムトリフルオロアセタート(DOSPA);β−アラニルコレステロール;セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB);ジC14−アミジン;N−tert−ブチル−N’−テトラデシル−3−テトラデシルアミノ−プロピオンアミジン;14Dea2;N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)ジドデシル−D−グルタマートクロリド(TMAG);O,O’−ジテトラデカノイル−N−(トリメチルアンモニオアセチル)ジエタノールアミンクロリド;1,3−ジオレオイルオキシ−2−(6−カルボキシ−スペルミル(spermyl))−プロピルアミド(DOSPER);N,N,N’,N’−テトラメチル−N,N’−ビス(2−ヒドロキシルエチル)−2,3−ジオレオイルオキシ−1,4−ブタンジアンモニウムヨージド;1−[2−(アシルオキシ)エチル]2−アルキル(アルケニル)−3−(2−ヒドロキシエチル)−イミダゾリニウムクロリド;1,2−ジオレオイル−3−ジメチル−ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DORI);1,2−ジオレイルオキシプロピル−3−ジメチルヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DORIE);1,2−ジオレイルオキシプロピル−3−ジメチルヒドロキシプロピルアンモニウムブロミド(DORIE−HP);1,2−ジオレイルオキシプロピル−3−ジメチルヒドロキシブチルアンモニウムブロミド(DORIE−HS);1,2−ジオレイルオキシプロピル−3−ジメチルヒドロキシペンチルアンモニウムブロミド(DORIE−Hpe);1,2−ジミリスチルオキシプロピル−3−ジメチルヒドロキシルエチルアンモニウムブロミド(DMRIE);1,2−ジパルミチルオキシプロピル−3−ジメチルヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DPRIE);1,2−ジステリルオキシプロピル−3−ジメチルヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DSRIE);または1,2−ジアシル−sn−グリセロール−3−エチルホスホコリンである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項21】
1−[2−(アシルオキシ)エチル]2−アルキル(アルケニル)−3−(2−ヒドロキシエチル)−イミダゾリニウムクロリドが、1−[2−(9(Z)−オクタデセノイルオキシ)エチル]−2−(8(Z)−ヘプタデセニル−3−(2−ヒドロキシエチル)−イミダゾリニウムクロリド(DOTIM)または1−[2−(ヘキサデカノイルオキシ)エチル]−2−ペンタデシル−3−(2−ヒドロキシエチル)イミダゾリニウムクロリド(DPTIM)である、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記中性の脂質が、中性の電荷を有する、コレステロール、リン脂質、リゾ脂質(lysolipid)、スフィンゴ脂質、PEG化脂質、またはリゾリン脂質である、請求項17に記載の使用。
【請求項23】
前記中性の脂質が、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、またはスフィンゴミエリンで ある、請求項17に記載の使用。
【請求項24】
1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンが、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DOPE)である、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンが、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DOPC)である、請求項23に記載の使用。
【請求項26】
多剤耐性(MDR)膵臓細胞の増殖を阻害する用の薬剤の製造における1つ以上のカチオン性脂質と治療有効量のパクリタキセルとを含むカチオン性リポソーム製剤の使用であって、前記カチオン性リポソーム製剤を、MDR膵臓細胞に投与するステップを含み、
前記MDR膵臓細胞が、フルオロウラシル、ブレオマイシン、ボルテゾミブ、カルボプラチン、シスプラチン、シタラビン、ドセタキセル、ドキソルビシン、エルムスチン(elmustin)、エルロチニブ、エトポシド、ゲムシタビン、イダルビシン、イマチニブ、ロムスチン、メトトレキサート、マイトマイシン、ミトキサントロン、オキサリプラチン、ペメトレキセド、スニチニブ、トポテカン、トレオスルファン、ベムラフェニブ、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、またはビノレルビンを含む1つ以上の抗腫瘍薬に対して抵抗性である、使用。
【請求項27】
前記使用が、治療有効量のゲムシタビンを投与するステップをさらに含む、請求項26に記載の使用。」

(2)本件補正後(令和4年9月15日提出の手続補正書)の特許請求の範囲の記載
上記(1)の本件補正前の特許請求の範囲の記載は、以下のとおり、本件補正後の特許請求の範囲の記載に補正された。
「【請求項1】
対象の難治性または抵抗性の膵癌を治療する用の薬剤の製造における1つ以上のカチオン性脂質及び治療有効量のパクリタキセルを含むカチオン性リポソーム製剤の使用であって、
前記難治性または抵抗性の膵癌が、フルオロウラシルベースの併用療法に対して難治性または抵抗性であり、
前記難治性または抵抗性の膵癌が、オキサリプラチン、ロイコボリン、イリノテカン、およびフルオロウラシルの併用に対して難治性または抵抗性であり、
ゲムシタビンの治療有効量がさらに対象に投与される、カチオン性リポソーム製剤の使用。
【請求項2】
前記対象が、以前に、約70mg/m2〜100mg/m2のオキサリプラチンの静脈内注入、次いで約90mg/m2〜270mg/m2のイリノテカンの静脈内注入と同時の、約300mg/m2〜500mg/m2のロイコボリンの静脈内注入、次いで約300mg/m2〜800mg/m2のフルオロウラシルの静脈内ボーラスおよび約1200mg/m2〜3600mg/m2のフルオロウラシルの静脈内注入で治療されている、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記対象が、以前に、約85mg/m2のオキサリプラチンの静脈内注入、次いで約180mg/m2のイリノテカンの静脈内注入と同時の、約400mg/m2のロイコボリンの静脈内注入、次いで約400mg/m2のフルオロウラシルの静脈内ボーラスおよび約2400mg/m2のフルオロウラシルの静脈内注入で治療されている、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記対象が、以前に、約70mg/m2〜100mg/m2のオキサリプラチンの静脈内注入、次いで約90mg/m2〜180mg/m2のイリノテカンの静脈内注入と同時の、約300mg/m2〜500mg/m2のロイコボリンの静脈内注入、次いで約1200mg/m2〜3600mg/m2のフルオロウラシルの静脈内注入で治療されている、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記対象が、以前に、約85mg/m2のオキサリプラチンの静脈内注入、次いで、約130mg/m2〜150mg/m2のイリノテカンの静脈内注入と同時の、約400mg/m2のロイコボリンの静脈内注入、次いで約2400mg/m2のフルオロウラシルの静脈内注入で治療されている、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
約1mg/m2〜約60mg/m2のパクリタキセルを含む前記カチオン性リポソーム製剤と、約300mg/m2〜約1500mg/m2のゲムシタビンとが、前記対象に投与される、請求項1に記載の使用。
【請求項7】
約11mg/m2〜約22mg/m2のパクリタキセルを含む前記カチオン性リポソーム製剤と、約500mg/m2〜約1000mg/m2のゲムシタビンとが、前記対象に投与される、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記カチオン性リポソーム製剤が、1週間に2回投与され、ゲムシタビンが1週間に1回投与される、請求項1に記載の使用。
【請求項9】
7週間の第1の治療サイクルの、1、4、8、11、15、18、22、25、29、32、36、39、43、および46日目に、前記カチオン性リポソーム製剤が投与され、4、11、18、25、32、39、および46日目に、ゲムシタビンが投与される、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記第1の治療サイクルの後に、1つ以上の後続の治療サイクルを行い、3週間の後続の治療サイクルの、1、4、8、11、15および18日目に、前記カチオン性リポソーム製剤が投与され、4、11、および18日目に、ゲムシタビンが投与され、第1の治療サイクルと後続の治療サイクルとの間の投与間隔または2つの後続の治療サイクルの間の投与間隔が、1週間である、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記カチオン性リポソーム製剤が、最初の15分間に0.5mL/分の速度、次いで次の15分間に1.0mL/分の速度、次いで30分後に1.5mL/分の速度で、前記対象に投与される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
前記カチオン性リポソーム製剤が、約30モル%〜約99.9モル%のカチオン性脂質、少なくとも0.1モル%の量のパクリタキセル、および30モル%〜55モル%の中性またはアニオン性の脂質を含み、前記カチオン性リポソーム製剤が、室温、約pH7.5の、約0.05MのKCl溶液において正のゼータ電位を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項13】
前記カチオン性リポソーム製剤が、DOTAP、DOPC、およびパクリタキセルを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
前記カチオン性リポソーム製剤が、DOTAP、DOPC、およびパクリタキセルを、約50:47:3のモル比で含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
前記カチオン性脂質が、N−[1−(2,3−ジオレオイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウム塩(DOTAP);ジメチルジオクタデシルアンモニウ ムブロミド(DDAB);1,2−ジアシルオキシ−3−トリメチルアンモニウムプロパン N−[1−(2,3−ジオレオイル(dioloyl)オキシ)プロピル]−N,N−ジメチルアミン(DODAP);1,2−ジアシルオキシ−3−ジメチルアンモニウムプロパン;N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA);1,2−ジアルキルオキシ−3−ジメチルアンモニウムプロパン;ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン(DOGS);3β−[N−(N’,N’−ジメチルアミノ−エタン)カルバモイル]コレステロール(DC−Chol);2,3−ジオレオイルオキシ−N−(2−(スペルミンカルボキシアミド)−エチル)−N,N−ジメチル−1−プロパンアミニウムトリフルオロアセタート(DOSPA);β−アラニルコレステロール;セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB);ジC14−アミジン;N−tert−ブチル−N’−テトラデシル−3−テトラデシルアミノ−プロピオンアミジン;14Dea2;N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)ジドデシル−D−グルタマートクロリド(TMAG);O,O’−ジテトラデカノイル−N−(トリメチルアンモニオアセチル)ジエタノールアミンクロリド;1,3−ジオレオイルオキシ−2−(6−カルボキシ−スペルミル(spermyl))−プロピルアミド(DOSPER);N,N,N’,N’−テトラメチル−N,N’−ビス(2−ヒドロキシルエチル)−2,3−ジオレオイルオキシ−1,4−ブタンジアンモニウムヨージド;1−[2−(アシルオキシ)エチル]2−アルキル(アルケニル)−3−(2−ヒドロキシエチル)−イミダゾリニウムクロリド;1,2−ジオレオイル−3−ジメチル−ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DORI);1,2−ジオレイルオキシプロピル−3−ジメチルヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DORIE);1,2−ジオレイルオキシプロピル−3−ジメチルヒドロキシプロピルアンモニウムブロミド(DORIE−HP);1,2−ジオレイルオキシプロピル−3−ジメチルヒドロキシブチルアンモニウムブロミド(DORIE−HS);1,2−ジオレイルオキシプロピル−3−ジメチルヒドロキシペンチルアンモニウムブロミド(DORIE−Hpe);1,2−ジミリス チルオキシプロピル−3−ジメチルヒドロキシルエチルアンモニウムブロミド(DMRIE);1,2−ジパルミチルオキシプロピル−3−ジメチルヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DPRIE);1,2−ジステリルオキシプロピル−3−ジメチルヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DSRIE);または1,2−ジアシル−sn−グリセロール−3−エチルホスホコリンである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項16】
1−[2−(アシルオキシ)エチル]2−アルキル(アルケニル)−3−(2−ヒドロキシエチル)−イミダゾリニウムクロリドが、1−[2−(9(Z)−オクタデセノイルオキシ)エチル]−2−(8(Z)−ヘプタデセニル−3−(2−ヒドロキシエチル)−イミダゾリニウムクロリド(DOTIM)または1−[2−(ヘキサデカノイルオキシ)エチル]−2−ペンタデシル−3−(2−ヒドロキシエチル)イミダゾリニウムクロリド(DPTIM)である、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
前記中性の脂質が、中性の電荷を有する、コレステロール、リン脂質、リゾ脂質(lysolipid)、スフィンゴ脂質、PEG化脂質、またはリゾリン脂質である、請求項12に記載の使用。
【請求項18】
前記中性の脂質が、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、またはスフィンゴミエリンである、請求項12に記載の使用。
【請求項19】
1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンが、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DOPE)である、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンが、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DOPC)である、請求項18に記載の使用。」(下線部は補正箇所を示す。)


2 補正の目的について
本件補正は、
(1)本件補正前の請求項1に記載された「難治性または抵抗性の膵癌」について、本件補正前の請求項2及び10の記載に基づき、「オキサリプラチン、ロイコボリン、イリノテカン、およびフルオロウラシルの併用に対して難治性または抵抗性であ」ることを特定するとともに、「ゲムシタビンの治療有効量がさらに対象に投与される」という特定事項を付加する補正、
(2)本件補正前の請求項2〜5、10、26及び27を削除し、これに伴い、残る請求項6〜9、11〜25において引用する請求項を変更する補正
を含む。
そして、上記(1)の補正は、「難治性または抵抗性の膵癌」の種類を「オキサリプラチン、ロイコボリン、イリノテカン、およびフルオロウラシルの併用」に対するものに限定し、さらに、「パクリタキセルを含むカチオン性リポソーム製剤」の使用態様について、「ゲムシタビン」と併用する態様に限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当する。
また、上記(2)の補正は、同項第1号の請求項の削除を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件について
そこで、本件補正後の、請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するかについて、以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載した、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
対象の難治性または抵抗性の膵癌を治療する用の薬剤の製造における1つ以上のカチオン性脂質及び治療有効量のパクリタキセルを含むカチオン性リポソーム製剤の使用であって、
前記難治性または抵抗性の膵癌が、フルオロウラシルベースの併用療法に対して難治性または抵抗性であり、
前記難治性または抵抗性の膵癌が、オキサリプラチン、ロイコボリン、イリノテカン、およびフルオロウラシルの併用に対して難治性または抵抗性であり、
ゲムシタビンの治療有効量がさらに対象に投与される、カチオン性リポソーム製剤の使用。」

(2)引用文献
ア 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶理由で引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である特表2007−508353号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審により付したものである(以下、他の文献の摘記事項における下線についても同様である。)。

(ア)「【請求項17】
薬剤耐性細胞の発生に関連しかつ/または付随する疾病の予防又は治療のための、例えば薬剤耐性腫瘍の予防又は治療のための医薬組成物の製造のための、少なくとも1つのカチオン脂質約30〜約99.9モル%、少なくとも約0.1モル%の量で活性成分及び少なくとも1つの中性及び/又はアニオン脂質約0〜約70モル%を含有するカチオンリポソーム製剤の使用。
【請求項18】
二次治療又は三次治療としての、特に癌のための二次治療又は三次治療としての請求項17記載の使用。
【請求項19】
前記カチオンリポソーム製剤が、DOTAP、DOPC、及びパクリタキセル、50:47:3モル%を含有する、請求項17又は18記載の使用。
・・・
【請求項22】
転移の発現及び/又は進行、例えば腫瘍に関連しかつ/または付随する転移の発現及び/又は進行に抗する、少なくとも1つの更なる活性成分の有効量及び/又は温熱療法及び/又は放射線療法及び/又は寒冷療法との共同での、同時の、別々の又は一連の併用療法のための医薬組成物の製造のための、少なくとも1つのカチオン脂質約30〜約99.9モル%、少なくとも約0.1モル%の量で活性成分及び少なくとも1つの中性及び/又はアニオン脂質約0〜約70モル%を含有するカチオンリポソーム製剤の使用。
・・・
【請求項26】
前記活性成分が、タキサン、カンプトテシン、スタチン、デプシペプチド、サリドマイド、微小管と相互作用するその他の薬剤、例えばジスコデルモリド、ラウリマリド、イソラウリマリド、エレウテロビン、サルコジクチンA及びBから選択され、最も有利な実施態様においては、パクリタキセル、ドセタキセル、カンプトテシン又はこれらの全ての誘導体から選択される、請求項20から25までのいずれか1項記載の使用。
・・・
【請求項28】
前記の更なる活性成分は、抗腫瘍剤、特に有糸分裂阻害剤、例えばパクリタキセル、アルキル化剤、特に白金含有化合物、例えばシスプラチン、カルボプラチン、DNAトポイソメラーゼ阻害剤、例えばカンプトテシン、又はドキソルビシン、RNA/DNA代謝拮抗物質、特に5−フルオロウラシル又はゲムシタビン、及び抗腫瘍活性を有するその他の化合物から選択される、請求項9、22、又は27記載の使用。
・・・
【請求項32】
癌、特に膵癌、手術不可能な膵癌、消化管癌、肺癌、結腸直腸癌又は胃癌、乳癌、前立腺癌、及びメラノーマの治療のための、請求項1から31までのいずれか1項記載の使用。」(特許請求の範囲、請求項17〜32)

(イ)「【0009】
様々なデリバリー系がパクリタキセルの効果を促進するため及び/又は毒性を減少させるために使用されてきた。リポソームは、水溶性、かくしてより低い毒性と組み合わさった効率を促進するために開発された多数のキャリヤーのうちの1つである。
・・・
【0011】
McDonald etal.,U.S.Pat.No.5,837,283,の開示から、正に帯電したリポソームは血管新生内皮細胞を特異的に標的とすることが公知である。ヒト患者に関する臨床データは提示されていない。
【0012】
従って、本発明の基礎をなす課題は、パクリタキセルの、これを必要とする被験体への治療有効量での、深刻な副作用のない投与方法を提供することである。特に、公知技術の製剤、例えばクレモホール製剤の適用におけるパクリタキセルの高い初期治療量を用いる必要性によって引き起こされる副作用の発生は、避けることが望ましい。
【0013】
本出願発明において、パクリタキセルを含有するカチオンリポソーム製剤の投与のヒトに関する臨床データが提示される。
【0014】
意外にも、活性成分であるパクリタキセルの高含量を有するカチオンリポソーム製剤の投与が、これを必要とするヒト患者の血管新生内皮細胞に選択的に影響を与えることが見出された。・・・
【0017】
上述した製剤は、多剤耐性の腫瘍及び/又は腫瘍転移の予防及び/又は治療に、場合により、その他の治療プロトコルと併用した多剤耐性の腫瘍及び/又は腫瘍転移の予防及び/又は治療に特に適する。」(【0009】〜【0017】)

(ウ)「【0038】
本発明の前記カチオンリポソームの処方は変化してよい。特に有利な実施態様において、DOTAP、DOPC、及びパクリタキセルのモル比は、50:47:3モル%である。この処方は、MBT−0206又はEndoTAG−1とも命名される。」(【0038】)

(エ)「【0043】
本発明のカチオンリポソーム製剤は、上述した癌、特に膵癌、手術不可能な膵癌、消化管癌、肺癌、結腸直腸癌又は胃癌、乳癌、前立腺癌、及びメラノーマの治療に、単独療法として、又は更なる治療療法、例えば以下に詳細に示した更なる活性成分との、特に化学療法剤、例えばDNA/RNA代謝拮抗産物、例えばゲムシタビンとの併用療法として、特に適する。
【0044】
意外にも、カチオンリポソーム中に負荷した活性成分は、内皮性又は非内皮性薬剤耐性細胞、特に薬剤耐性の内皮性又は非内皮性腫瘍細胞に対して直接的に作用することが見出された。従って、この新しい知見は非内皮性薬剤耐性細胞を更なる標的として定義し、これによりカチオンリポソームの抗腫瘍性の適用を強める。これは本発明の更なる観点である。
・・・
特に、癌、特に膵癌、手術不可能な膵癌、消化管癌、肺癌、結腸直腸癌又は胃癌、乳癌、前立腺癌及びメラノーマのための二次治療又は三次治療としての使用を意味する。
【0047】
初期治療の失敗の主な原因は、薬剤耐性細胞クローンの出現である。二次治療は、この開始投与が失敗した後に投与される。二次化学療法は、様々な作用様式を有する様々な化学療法剤を用いた単独療法又は複数の更なる薬物又は治療の併用であってよい。しかし、二次治療は、多剤耐性細胞クローンの発生により、同様に失敗する可能性もある。従って、このような腫瘍再発のために三次治療が存在してよい。前記カチオンリポソーム製剤は上述したように二次治療又は三次治療として特に適する。」(【0043】〜【0047】)

(オ)「【0089】
4.症例報告#1
患者:
−喉頭の粘膜表皮癌の、大きな治療耐性再発を有する49歳の患者
−頸部、鎖骨上、腋窩、縦隔及び肺の転移
−最初の腫瘍切除の5年後、頸部腫瘍切開及び補助放射線療法
−複数回の切除、形成外科手術、放射線療法及び化学療法を用いた再発の繰り返した治療後。
投与スケジュール:
−MBT−0206:50/47/3(DOTAP/DOPC/パクリタキセル)
−リポソーム状パクリタキセル 0.06、0.25、0.5及び1.0mg/kg bwの投与、i.v.
−1週間に3回の1サイクル(1、3、及び5日目)
結果:
−注入時及び後の心臓血管、肺、及び血清のパラメーター観察の間の良好な認容性
−急性又は慢性毒性の徴候なし
−腫瘍の血液循環の減少
−3ヶ月の間、腫瘍成長の強力に減少した進行。
【0090】
5.症例報告#2
多重化学療法後に疾病進行を有した、肝臓細胞癌腫を有する一患者をMBT−0206で治療した。
【0091】
凍結乾燥したMBT−0206を、注射のために水により再構成し、総注入体積300〜400mlのMBT−0206(リポソーム状パクリタキセル1.0mg/体重kgの用量に相当)を、中心又は末梢静脈注入により2〜4hの期間にわたり投与した。この注入率を、最大速度2.5ml/minにまでゆっくりと上昇させた。前投薬は、前記患者の性別、年齢又は条件に依存した。上述した患者の特定の場合には、デキサメタゾン及び抗ヒスタミン剤が投与されている。
【0092】
MBT−0206を、1週間に1回、2回のリポソーム状パクリタキセル0.25mg/kg bw 1回のリポソーム状パクリタキセル0.5mg/kg bw)で開始し、次に19回のリポソーム状パクリタキセル1.0mg/kg bwの強化用量にする、用量漸増スケジュールでもって投与した。前記治療は22週間の投与後にいまだ進行中であり、かつ今現在まで、薬物有害反応は報告されていない。好ましい安全特性の他に、肝臓のCT−スキャンによって実施された腫瘍サイズの最後の評価では、安定した疾病を示した。」(【0089】〜【0092】)


(カ)「【0105】
9.L3.6pl膵臓腫瘍中のゲムシタビン(100mg/kg)と併用したMBT−0206の抗腫瘍性効能
動物モデル
種:雄Bald/c nu/nuマウス
腫瘍モデル:正所性L3.6pl膵臓充実性腫瘍(極めて転移性)
供給者:Charles River France。
【0106】
治療
治療開始:腫瘍接種後8日目(01.05.03)
最後の治療:腫瘍接種後26日目(19.05.03)
スケジュール:
MBT−0206、パクリタキセル、トレハロース:d9、12、14、16、19、21、23、26
ゲムシタビン:d8、12、15、19、22、26
併用:併用した単独治療。
・・・
【0108】
結果(図1及び2参照)
全ての治療的療法の明らかな抗腫瘍効果が、併用療法の顕著な効能と共に、腫瘍接種後23日目に観察された(図1)。腫瘍阻害の順位:パクリタキセル<MBT−0206=Gemzar−50<MBT−0206+Gemzar。この対照群と比較して、前記の最終的な腫瘍体積は、MBT−0206によって46%(p<0.05)にまで、Gemzatによって47%(p<0.01)にまで、及び併用療法によって22%(p<0.01)にまで、27日目には有意に減少した。パクリタキセル治療は、最終的な腫瘍体積を68%にまで減少させたが、これは有意でなかった。興味深いことに、MBT−0206及び併用療法の効能は、23日目でより顕著であった。この原因は、23日目と27日目との週末の間に延長した治療間隔である可能性がある。前記データは、パクリタキセル、Gemzar、及びMBT−0206の前記動物モデル中での明らかな抗腫瘍性効能を明らかにした。MBT−0206の抗腫瘍性作用は、パクリタキセルよりわずかに強力であったが、Gemzarに類似していた。MBT−0206及びGemzarとの併用の両方共に、転移形成を阻害した(図2)。肝転移は、前記の2つの群でのみ存在しなかった。更に、併用群においてのみ、このリンパ節転移がほとんどなかった。前記データは、MBT−0206とGemzarとの併用が、いずれかの単独療法の抗腫瘍性効能を促進することを明らかにした。」(【0105】〜【0108】)

(キ)「

」(図1)

(ク)
「【0059】
図の説明
図1:治療後の腫瘍体積
治療開始後19日目のL3.6pl膵臓腫瘍の腫瘍サイズ。10%トレハロース、パクリタキセル、MBT−0206、Gemzar(ゲムシタビン)及びMBT−0206とGemzarとの両方の併用での治療を腫瘍細胞接種後8日目に開始した。Gemzarをi.p.で100mg/kgの用量で、1週間に2回(月、木)適用した。パクリタキセル及びMBT−0206は、i.v.で、月、水、金スケジュールで、5mg/kg bwのパクリタキセル用量で適用した。前記併用グループは、それぞれのスケジュールでMBT−0206及びGemzar両方を得た。腫瘍をキャリパーを用いた触診によって、23日目及び27日目に測定した。平均±SEM;グループにつきn=9。」

(ケ)「【0122】
1.極めてパクリタキセル耐性である誘導体(Mes−SA/Dx−5MBT、IC50、0.87μg/ml)を、前記の市販のヒト子宮肉腫由来の細胞Mes−SA/Dx−5(ECACC)から選択した。前記の適度に耐性である系統は、極めて感受性である親系統のMes−SAから生じる。・・・in vivo実験のために、Mes−SA/Dx−5MBT細胞をNMRIヌードマウス中に皮下注射(s.c.)した。MBT−0206又はパクリタキセルでの治療を12日目に開始し、21日目まで、1週間に3回の用量で延長した(5mg/kg b.w.のパクリタキセル)。MBT−0206処置動物の平均腫瘍サイズを、パクリタキセル処置動物の腫瘍サイズと、この最後の治療後2日目(治療開始後23日目)に比較した。MBT−0206が誘導した減少を、パクリタキセルと比較して%で示した(下の表参照)。下記表及び図9中に示したように、MBT−0206は、パクリタキセルよりも、前記腫瘍モデル中で、前記腫瘍成長を〜1/3だけ減少させることにおいて明らかにより効果があった。
【0123】
2.ヒトの皮膚メラノーマ系統Sk−Mel28に関して、市販の系統は既に高いパクリタキセル耐性(IC50、5.8μg/ml、図10)を示し、かつ感受性の誘導体の系統は比較のためには使用可能でなかった。in vivoにおいて、前記細胞を、ヒトの皮膚の移植とマウスのアクセプター皮膚との間でのヒトの皮膚の移植を有するSCIDマウス中に注射した。治療を腫瘍細胞注射後17日目に開始し、2日毎に用量(12.5mg/kg b.w.)で28日目まで延長した。MBT−0206及びパクリタキセルの治療能力を、治療開始後7日目に比較した(下の表参照)。前記腫瘍モデル中で、MBT−0206は腫瘍発達をほぼ完全にブロックし、その一方でパクリタキセルは完全に効果がなかった。MBT−0206で処理すると、腫瘍はパクリタキセル(パクリタキセル)−処理腫瘍の大きさの約1/10へとほんのわずかになった。・・・
【表6】

Mes−SA/Dx−5MBT腫瘍モデル:治療開始後23日目の腫瘍体積(9つの治療、即ち腫瘍細胞注射後週に3回、12日目から31日目まで)
Sk−Mel腫瘍モデル:治療開始後7日目の腫瘍体積(一日おきの6つの治療、即ち、腫瘍細胞注入後17日目から28日目まで)。」(【0122】〜【0125】)

イ 引用文献3の記載事項
原査定の拒絶査定において引用された、本願優先日前に頒布された刊行物であるBritish Journal of Cancer、2015年、Vol.113、p.989〜995(以下「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、引用文献3は外国語の文献であるため、当審合議体による翻訳文で示す。

(ア)「Folfirinox失敗後の転移性膵臓腺癌のためのNab−パクリタキセルとゲムシタビンの併用:AGEO前向き多施設共同コホート」(989頁表題)

(イ)「背景:現在、転移性膵臓腺癌(MPA)に対する標準的な二次治療はなく、この状況では、無増悪生存期間は一貫して4ヶ月未満である。本研究の目的はMPAにおけるFolfirinox失敗後Nab−パクリタキセルとゲムシタビンの併用(A+G)の有効性と忍容性を評価することであった。
方法:2013年2月から2014年7月まで、組織学的にForfirinox失敗後のMPAを証明されたために、A+Gで処置した継続的患者全員を、フランスの12のセンターで前向きに登録した。A+GはMPACT試験で記述されたように疾患進行、患者の拒否又は認容できない毒性を示すまで送達された。
結果:57人の患者は、(1−12サイクルの範囲)中央値4サイクルを、Nab−パクリタキセルとゲムシタビンで処置された。疾病制御率は58%、客観的な応答率は17.5%であった。全生存期間(OS)中央値は8.8月(95%CI:6.2−9.7)、無増悪生存期間の中央値は5.1月(95%CI:3.2−6.2)であった。第一選択化学療法の開始から、OS中央値は18月(95%CI;16−21)であった。中毒死は発生しなかった。グレード3−4の毒性は、40%の患者で報告され、好中球減少症(12.5%)、神経毒性(12.5%)、無力症(9%)及び血小板減少症(6.5%)からなる。
結論:A+Gは、MPA患者におけるForfirinox失敗後に、管理可能な毒性プロファイルを有し、有効であると考えられる。」(989頁要約)

(ウ)「膵臓腺癌は頻度の高い悪性腫瘍であり、全体の5年生存率はわずか約6%である。・・・転移性膵臓腺癌(MPA)は、最も急速に致死性の消化器系腫瘍の1つである。治療を行わない場合、生存期間の中央値は一貫して6ヶ月未満(Hidalgo,2010)であるため、新しい治療選択肢が必要とされている。1997年以来、ゲムシタビンはMPAの標準治療法となっており、生存期間の中央値は約7ヶ月である。過去4年間にいくつかの進歩が見られ、第一選択のFolfirinox(5−フルオロウラシル、オキサリプラチン、イリノテカン、ロイコボリン)(Conroyら、2011)及びNab−パクリタキセルとゲムシタビンの併用(Von Hoffら、2013)の2つの第III相試験における肯定的な結果が含まれる。Forfirinox及びNab−パクリタキセルとゲムシタビンの併用はともに、無増悪生存期間(PFS)及び全生存期間(OS)の点で、ゲムシタビン単独よりも有効であり、治療の選択と順序に関して疑問を生じている。そこで、我々は、MPA患者における第一選択のFolfirinoxに失敗した後のNab−パクリタキセルとゲムシタビンの有効性と忍容性を評価するために、多施設共同、前向きコホート研究を実施した。Folfirinoxが最初に投与されたのは、現在フランスでの標準的な第一選択治療であるためであり、そして、東部協同的腫瘍学グループ活動指標(ECOG−PS)スコアが0又は1で、正常なビリルビン血症である必要があるとガイドラインで規定されている一方で、Nab−パクリタキセルとゲムシタビン併用は、虚弱な患者に投与できるためである。」(990頁左欄1〜27行)

ウ 引用文献4の記載事項
当審において、周知技術を示す文献として新たに引用する、本願優先日前に頒布された刊行物である、癌と化学療法、2015年、第42巻第4号、403〜407頁(https://mol.medicalonline.jp/library/journal/download?GoodsID=ab8gtkrc/2015/004204/004&name=0403-0407j&UserID=101.102.211.200)には、以下の事項が記載されている。

(ア)「切除不能進行膵癌のセカンドライン化学療法」(表題)

(イ)「要旨 切除不能進行膵癌の二次化学療法の有用性についてエビデンスは十分でないものの,ほぼコンセンサスとなっている。治療内容をgemcitabine−based regimenと5−FU−based regimenに分けて,一次治療に用いられていないregimenを二次治療として選択することになる。本邦では5−FU−based regimenとしてはS−1が頻用されている。現在,注目されているFOLFIRINOX療法が一次治療であれば二次治療はgemcitabineが推奨され,nab−paclitaxel+gemcitabine併用療法が一次治療であればS−1が推奨される。(合議体注:5−FUは5−フルオロウラシルの略)」(403頁、要旨)

(ウ)「膵臓癌の化学療法はこれまでgemcitabineと5−FUを中心に進歩してきた。ただし,これまでの比較試験結果からは,両剤を併用することでは生存期間に統計的有意差を示す結果は得られなかった。現在は,一次化学療法,二次化学療法として互いに交差して使用する戦略が一般的である。」(405頁左欄10〜15行)

エ 引用文献5の記載事項
当審において、周知技術を示す文献として新たに引用する、本願優先日前に頒布された刊行物である、胆と膵、2016年、Vol.37、Vol.6、p.525〜529(https://mol.medicalonline.jp/library/journal/download?GoodsID=aa6tnsid/2016/003706/007&name=0525-0529j&UserID=101.102.211.200)(以下「引用文献5」という。)には、以下の事項が記載されている。

(ア)「FOLFIRINOX療法耐性後の治療選択」(表題)

(イ)「要約:転移性膵癌に対するFOLFIRINOXの延命効果が示され,日本でも進行膵癌の初回治療として汎用されている。このFOLFIRINOXに耐性になった患者に対する二次化学療法をどうすべきかは明らかになっていない。一般にFOLFIRINOX耐性後は,5-FUベースの化学療法が施行された後と考え,ゲムシタビン(GEM)ベースの治療であるGEM単剤,GEM+エルロチニブ,GEM+ナブパクリタキセルなどが選択肢となる。また,新薬の開発治験なども選択肢の一つになりうる。これまでに,GEM+ナブパクリタキセルの前向き研究において,良好な治療成績が報告されているが,まだしっかりとしたエビデンスは示されておらず,今後,臨床試験や臨床研究を行い,明らかにしていくことが必要である。」(525頁要約)

(ウ)「2010年に遠隔転移を有する膵癌患者を対象として,FOLFIRINOX療法(5-フルオロウラシル(5-FU)+オキサリプラチン+イリノテカン+ロイコボリン(LV))とゲムシタビン(GEM)を比較した第III相試験(ACCORD11試験)結果が報告された1,2)。・・・このように,FOLFIRINOX療法の有用性が示され,保険適応も承認されたことで,日本でも進行膵癌の初回治療として汎用されるようになった。」(525頁左欄2〜最終行)

(エ)「国立がん研究センター東病院でのFOLFIRINOX耐性後の二次化学治療の選択を図3に示す。2014年12月31日までに,FOLFIRINOXによる治療を行った129人中,初回化学療法としてFOLFIRINOXを施行した87人,その中で治療を中止し,二次化学治療に移行した55人の二次化学治療の内訳は,やはりGEMベースの化学療法が96%を超えており,FOLFIRINOX療法後の二次化学療法としてはGEMベースの治療が選択されている。ただし,FOLFIRINOXとGEM+ナブパクリタキセルは,ともに有害事象として末梢神経障害が出現しやすい。FOLFIRINOX療法後,Grade2以上の末梢神経障害が残存する症例ではGEM+ナブパクリタキセル療法が選択しにくく,GEM単剤による治療が選択されやすいのも現状である。」(527頁右欄下から3行〜528頁左欄12行)

(オ)「


」(528頁、図3)

(3)引用発明
上記(2)アに摘記した引用文献1の記載事項に基づけば、引用文献1には、パクリタキセルとカチオン脂質を含むカチオンリポソーム製剤が記載され(上記(2)ア(ア)、(ウ))、カチオンリポソーム製剤は血管新生内皮細胞を特異的に標的とすることができることが公知であり、従来公知のクレモホール製剤によって引き起こされる副作用の発生は、避けることが望ましいこと(上記(2)ア(イ))、高含有量のパクリタキセルを含有するカチオンリポソーム製剤である「MBT−0206」が、薬剤耐性のヒト癌患者(症例報告#1、#2)の二次以降の治療において、認容性と治療効果を示したこと(上記(2)ア(オ))、極めて転移性のL3.6pl膵臓充実性腫瘍株を移植した膵臓癌モデルマウスにおいて、MBT−0206とGemzar(ゲムシタビン)の併用療法が、MBT−0206又はGemzar単独療法より抗腫瘍効果が高いこと(上記(2)ア(カ)〜(ク))、パクリタキセル耐性腫瘍株であっても、MBT−0206は抗腫瘍効果を示すこと(上記(2)ア(ケ))から、上記製剤が、膵癌、切除不可能な膵癌の治療において、特にゲムシタビンとの併用療法として、及び、二次又は三次治療として、特に適すること(上記(2)ア(ア)、(エ))が、実験的な裏付けをもって記載されている。
そうすると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

「転移性膵臓癌の治療における、ゲムシタビンとの併用療法のための医薬組成物の製造のための、少なくとも1つのカチオン脂質及びパクリタキセルを含有するカチオンリポソーム製剤の使用。」

(4)対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「転移性膵臓癌」、「医薬組成物の製造」、「カチオン脂質」及び「カチオンリポソーム」は、本件補正発明における「膵癌」、「薬剤の製造」、「カチオン脂質」及び「カチオン性リポソーム製剤」にそれぞれ相当する。
また、引用文献1(上記(2)ア(カ)〜(ク))では、パクリタキセルを含有するカチオンリポソーム製剤である「MBT−0206」とゲムシタビンの併用療法で抗腫瘍効果が示されていることから、引用発明におけるゲムシタビン及びパクリタキセルは「治療有効量」が含まれるものであることは明らかである。
そして、引用発明における「ゲムシタビンとの併用療法のための」は、本件補正発明における「ゲムシタビン」「がさらに対象に投与される」ことに相当する。

そうすると、本件補正発明と引用発明とは以下の点で一致し、また以下の点で相違する。
<一致点>
「膵癌を治療する用の薬剤の製造における1つ以上のカチオン性脂質及び治療有効量のパクリタキセルを含むカチオン性リポソーム製剤の使用であって、
ゲムシタビンの治療有効量がさらに対象に投与される、カチオン性リポソーム製剤の使用。」である点。

<相違点>
本件補正発明では、「膵癌」が「難治性または抵抗性の膵癌」であって、「フルオロウラシルベースの併用療法に対して難治性または抵抗性であり、前記難治性または抵抗性の膵癌が、オキサリプラチン、ロイコボリン、イリノテカン、およびフルオロウラシルの併用に対して難治性または抵抗性であ」るのに対し、引用発明ではそのような「膵癌」に特定されていない点。

(5)判断
ア 上記相違点について検討する。
引用文献1には、パクリタキセル含有カチオンリポソーム製剤は、耐性癌患者における二次以降の治療において認容性が高く、治療効果を示したことや、パクリタキセル耐性腫瘍株においても抗腫瘍効果が示されていること(上記(2)ア(オ)及び(ク))から、薬剤耐性腫瘍の二次又は三次治療において使用することが示唆されている(上記(2)ア(ア)特に、請求項17〜19、及び(エ))。
そして、引用発明における「転移性膵臓癌」の治療法としては、従来からゲムシタビンベース(合議体注:ゲムシタビンを含む多剤併用、NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN GuidelinesTM)(NCCN腫瘍学臨床診療ガイドライン)膵腺癌、2012年 第1版NCCN.org、MS−22頁、https://www2.tri-kobe.org/nccn/guideline/archive/pancreas2012/japanese/pancreatic.pdf)の治療法と5−フルオロウラシルベースの治療法を中心に開発が進められてきたが、本願優先日当時、5−フルオロウラシルベースの化学療法であるFOLFIRINOX(5−フルオロウラシル、オキサリプラチン、イリノテカン、ロイコボリンの併用)が一次治療として汎用されていた(上記(2)イ(ウ)、ウ(ウ)、エ(ウ))。
また、FOLFIRINOX耐性後の二次治療においては、一次治療で使用されていないゲムシタビンベースの二次治療を行うこと(上記(2)イ(イ)、ウ(イ)、エ(イ)、(エ)、(オ))、ゲムシタビンとNabパクリタキセル(ナブパクリタキセル)(合議体注:パクリタキセルにアルブミンを結合させたナノ粒子製剤、上記NCCN腫瘍学臨床診療ガイドライン、MS−24頁)との併用療法がFORFIRONOX耐性癌の二次治療おいて良好な成績であったことや(上記(2)イ(イ)、エ(イ))、切除不能進行性膵癌の二次化学療法の有用性(上記(2)ウ(イ))も本願優先日当時に周知の事項であった。
ここで、引用発明はパクリタキセルを含有するカチオンリポソーム製剤と、ゲムシタビンとを併用するものであるから、ゲムシタビンベース(ゲムシタビンを含む多剤併用)の治療法の一つであるといえる。
そうすると、引用発明における「転移性膵臓癌」患者について、その一次治療として汎用されるFOLFIRINOX療法に対して難治性又は抵抗性となった二次又は三次治療の患者を選択することは、当業者が容易に想到し得たものである。

イ 本件補正発明の効果について
本願明細書の実施例1では、1つ以上の抗腫瘍薬に対して抵抗性である膵癌細胞株8種について、本件補正発明のパクリタキセル含有カチオン性リポソーム製剤、EndoTAG(登録商標)−1が増殖阻害効果を示したことが確認されている。
しかしながら、上記実施例には、本件補正発明で特定するFOLFIRINOXに耐性の腫瘍に対する効果を確認したことは記載されていない。

他方、引用文献4(上記(2)ウ(イ)及び(ウ))にも記載されるとおり、一次治療で用いられていない薬剤を二次治療で用いることが技術常識であるように、ある抗腫瘍薬に対して抵抗性となっても、異なる種類の抗腫瘍薬に対しては感受性を示すことは一般的に知られていることである。

さらに、引用文献1には、他の化学療法に耐性を示す癌患者に対してパクリタキセルを含有するカチオンリポソーム製剤が抗腫瘍効果を示したことや、パクリタキセル耐性の腫瘍株に対して、活性成分が同じパクリタキセルを含有するカチオンリポソーム製剤であっても抗腫瘍効果を示すことも記載されている(上記(2)ア(オ)及び(ケ))。

そうすると、本件補正発明が、引用文献1の記載及び上記技術常識から予測し得ない格別な効果を奏するものとは認められない。

ウ 審判請求書における審判請求人の主張について
令和4年9月15日提出の審判請求書において、審判請求人は、以下の点を主張している。

(ア)引用文献1は、ゲムシタビンとリポソームパクリタキセルとの組み合わせが、5−FUに耐性のある膵臓癌の治療に有効であることを教示も示唆もしていない。膵臓がん細胞が5−FU、オキサリプラチン、イリノテカンに対する耐性を獲得した後、膵臓がん細胞はパクリタキセル、ゲムシタビンに対する耐性も獲得することが知られており、当業者は、5−FU、オキサリプラチンおよびイリノテカンの併用療法が失敗した後、パクリタキセルまたはゲムシタビンで膵臓癌を治療することから遠ざけることを教示される。

(イ)本出願の実施例2によれば、局所進行および/または転移性膵臓腺癌を有する患者がSyncoreの研究に含まれる。引用文献3の臨床研究によって募集された患者群は、Syncore(本発明)、Zhang H.らおよびZhang Y.らの患者群とは異なる。進行性および/または転移性膵臓癌の患者から得られたデータを比較する、つまり、SyncoreとZhang H.ら/Zhang Y.らを比較する方が合理的であり、先行技術(Zhang H.ら/Zhang Y.ら)と比較して、本発明は、FOLFIRINOX治療後に疾患が進行した進行性および/または転移性膵臓癌を有する患者の治療において改善された予想外の有効性を示している。

(ウ)上記主張(ア)について検討する。
上記(4)で説示したとおり、一次治療としてのFOLFIRINOX療法後に、ゲムシタビンベースの二次治療を行うことは周知技術であり、当業者にとって、FOLFIRINOX療法の失敗が、パクリタキセル又はゲムシタビンによる二次治療を遠ざける事情となり得ないことは明らかである。

(エ)上記(イ)の主張について検討する。
審判請求人が主張している効果は、審判請求人の引用する先行技術(Zhang H.ら/Zhang Y.ら)である、Nab−パクリタキセルとゲムシタビンとの併用療法と、本件補正発明とを比較した効果であって、本件補正発明と同じパクリタキセルを含むカチオン性リポソーム製剤とゲムシタビンとの併用療法を開示する引用発明に対して、本件補正発明が奏する有利な効果を主張するものではない。
また、本願明細書の実施例2にはEndoTAG(登録商標)−1+ゲムシタビンの併用療法を評価する臨床試験のプロトコルが示されるのみであって、試験結果は記載されていない。
したがって、本願明細書に記載のない、本願出願後に提出されたSyncore試験の結果に基づく効果について、本件補正発明の進歩性を推認する有利な効果として参酌することはできない。
さらに、仮にSyncore試験の結果を参酌したとしても、上記(2)ウ及びエに記載されるように、本願優先日当時、難治性膵臓癌における二次化学療法の有用性はコンセンサスとなっており、FOLFIRINOXによる一次治療後のゲムシタビンベースの二次治療も、治療効果があることが知られていたのであるから、Syncore試験においてある程度の有用性が示されたとしても、引用発明及び引用文献1の記載並びに本願優先日当時の周知技術から予測できない効果であるとはいえない。

(オ)以上であるから、審判請求書の主張はいずれも採用することはできない。

エ 令和5年12月8日提出の上申書における審判請求人の主張について
上記上申書において、審判請求人は添付資料A〜Gを提出し、本件補正発明の進歩性を主張している。
しかしながら、当該上申書における主張は審判請求書における主張と同じ趣旨であり、上記ウで検討したとおり採用することはできない。

(6)小括
以上のとおりであるから、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献1に記載された事項並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 まとめ
以上のとおりであるから、本件補正発明は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明1
上記第2のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、令和4年3月18日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項1】
対象の難治性または抵抗性の膵癌を治療する用の薬剤の製造における1つ以上のカチオン性脂質及び治療有効量のパクリタキセルを含むカチオン性リポソーム製剤の使用であって、
前記難治性または抵抗性の膵癌が、フルオロウラシルベースの併用療法に対して難治性または抵抗性である、カチオン性リポソーム製剤の使用。」

2 原査定の理由
原査定の拒絶の理由は、本願の請求項1に係る発明は、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

3 引用文献の記載事項及び引用発明
引用文献1、3〜5の記載事項は、上記第2の3(2)に記したとおりである。また、引用発明についても、上記第2の3(3)に記したとおりである。

4 本願発明1と引用発明との対比・判断
上記第2の2で検討したとおり、本件補正発明は、本願発明1の「難治性または抵抗性の膵癌」の種類を「オキサリプラチン、ロイコボリン、イリノテカン、およびフルオロウラシルの併用」に対するものに限定し、さらに、「パクリタキセルを含むカチオン性リポソーム製剤」の使用態様について、「ゲムシタビン」と併用する態様に限定したものであるから、本願発明1は本件補正発明を包含するものである。
したがって、本件補正発明を包含する本願発明1は、上記第2の3において本件補正発明について説示したのと同様の理由により、引用発明及び引用文献1の記載事項並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献1に記載された事項、並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 原田 隆興
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2023-12-22 
結審通知日 2024-01-09 
審決日 2024-01-23 
出願番号 P2019-536978
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61K)
P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 原田 隆興
特許庁審判官 田中 耕一郎
吉田 佳代子
発明の名称 膵癌の治療  
代理人 高岡 亮一  
代理人 岩堀 明代  
代理人 高橋 香元  
代理人 小田 直  

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