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審決分類 |
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H03F 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H03F 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H03F |
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管理番号 | 1412198 |
総通号数 | 31 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2024-07-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2023-11-08 |
確定日 | 2024-06-06 |
事件の表示 | 特願2019−137089「低雑音増幅器とレーダ装置の受信モジュール」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 2月18日出願公開、特開2021− 22784〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、令和元年7月25日の出願であって、令和5年4月4日付けで拒絶の理由が通知され、令和5年6月12日に手続補正がされたが、令和5年8月1日付けで拒絶査定がされたものである。これを不服として令和5年11月8日に本件審判請求がされ、同時に手続補正がされた。 第2 令和5年11月8日にされた手続補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和5年11月8日にされた手続補正を却下する。 [理由] 1 補正の内容 令和5年11月8日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲を補正対象とし、本件補正前の請求項1の記載を、本件補正後の請求項1の記載にする補正を含むものであり、補正前後の請求項1の記載は次のとおりである。(下線部は、補正により変更された箇所である。) [本件補正前] 【請求項1】 高周波信号が入力される高周波入力端子と、 前記高周波入力端子に入力される高周波信号を低雑音で増幅する増幅回路素子と、 前記増幅回路素子で増幅された高周波信号を出力する高周波出力端子と、 前記高周波入力端子に第1の被制御電極が接続され、前記増幅回路素子の入力端に第2の被制御電極が接続され、制御電極に供給される制御電圧に応じて前記第1の被制御電極及び前記第2の被制御電極の間を断続する第1の電界効果トランジスタと、 前記増幅回路素子の出力端に第1の被制御電極が接続され、前記高周波出力端子に第2の被制御電極が接続され、制御電極に供給される制御電圧に応じて前記第1の被制御電極及び前記第2の被制御電極の間を断続する第2の電界効果トランジスタと、 前記高周波入力端子に第3の電界効果トランジスタの第1の被制御電極が接続され、前記第3の電界効果トランジスタの第2の被制御電極に第4の電界効果トランジスタの第1の被制御電極が接続され、前記高周波出力端子に前記第4の電界効果トランジスタの第2の被制御電極が接続され、前記第3の電界効果トランジスタと前記第4の電界効果トランジスタのそれぞれの制御電極に供給される制御電圧に応じて前記高周波入力端子及び前記高周波出力端子間の接続を断続するスイッチ回路と、 前記第1乃至第4の電界効果トランジスタのそれぞれの制御電極に供給する制御電圧を生成する制御回路と を具備し、 前記第1の電界効果トランジスタ及び前記第2の電界効果トランジスタは、それぞれ前記第3の電界効果トランジスタ及び前記第4の電界効果トランジスタのそれぞれの制御電極の電極幅より2倍以上大きい電極幅の制御電極を備え、 前記制御回路は、 通常時に、前記第1の電界効果トランジスタと前記第2の電界効果トランジスタのそれぞれの制御電極に供給する制御電圧を短絡モードの電圧に設定し、同時に前記第3の電界効果トランジスタと前記第4の電界効果トランジスタのそれぞれの制御電極に供給する制御電圧を開放モードの電圧に設定して、前記高周波入力端子に供給された高周波信号が前記増幅回路素子で増幅されて前記高周波出力端子から出力されるように制御し、 前記増幅回路素子の飽和回避時に、前記第1の電界効果トランジスタと前記第2の電界効果トランジスタのそれぞれの制御電極に供給する制御電圧を開放モードの電圧に設定し、同時に前記第3の電界効果トランジスタと前記第4の電界効果トランジスタのそれぞれの制御電極に供給する制御電圧を短絡モードの電圧に設定して、前記高周波入力端子に供給された高周波信号が前記第3の電界効果トランジスタと前記第4の電界効果トランジスタを経由して前記高周波出力端子から出力されるように制御する、 低雑音増幅器。 [本件補正後] 【請求項1】 アンテナで捕捉された高周波の受信信号が入力される高周波入力端子と、 前記高周波入力端子に入力される高周波の受信信号を低雑音で増幅する増幅回路素子と、 前記増幅回路素子で増幅された高周波の受信信号を出力する高周波出力端子と、 前記高周波入力端子に第1の被制御電極が接続され、前記増幅回路素子の入力端に第2の被制御電極が接続され、制御電極に供給される制御電圧に応じて前記第1の被制御電極及び前記第2の被制御電極の間を断続する第1の電界効果トランジスタと、 前記増幅回路素子の出力端に第1の被制御電極が接続され、前記高周波出力端子に第2の被制御電極が接続され、制御電極に供給される制御電圧に応じて前記第1の被制御電極及び前記第2の被制御電極の間を断続する第2の電界効果トランジスタと、 前記高周波入力端子に第3の電界効果トランジスタの第1の被制御電極が接続され、前記第3の電界効果トランジスタの第2の被制御電極に第4の電界効果トランジスタの第1の被制御電極が接続され、前記高周波出力端子に前記第4の電界効果トランジスタの第2の被制御電極が接続され、前記第3の電界効果トランジスタと前記第4の電界効果トランジスタのそれぞれの制御電極に供給される制御電圧に応じて前記高周波入力端子及び前記高周波出力端子間の接続を断続するスイッチ回路と、 前記第1乃至第4の電界効果トランジスタのそれぞれの制御電極に供給する制御電圧を生成する制御回路と を具備し、 前記第1の電界効果トランジスタ及び前記第2の電界効果トランジスタは、それぞれ前記第3の電界効果トランジスタ及び前記第4の電界効果トランジスタのそれぞれの制御電極の電極幅より2倍以上大きい電極幅の制御電極を備え、 前記制御回路は、 通常時に、前記第1の電界効果トランジスタと前記第2の電界効果トランジスタのそれぞれの制御電極に供給する制御電圧を短絡モードの電圧に設定し、同時に前記第3の電界効果トランジスタと前記第4の電界効果トランジスタのそれぞれの制御電極に供給する制御電圧を開放モードの電圧に設定して、前記高周波入力端子に供給された高周波の受信信号が前記増幅回路素子で増幅されて前記高周波出力端子から出力されるように制御し、 前記増幅回路素子の飽和回避時に、前記第1の電界効果トランジスタと前記第2の電界効果トランジスタのそれぞれの制御電極に供給する制御電圧を開放モードの電圧に設定し、同時に前記第3の電界効果トランジスタと前記第4の電界効果トランジスタのそれぞれの制御電極に供給する制御電圧を短絡モードの電圧に設定して、前記高周波入力端子に供給された高周波の受信信号が前記第3の電界効果トランジスタと前記第4の電界効果トランジスタを経由して前記高周波出力端子から出力されるように制御する、 低雑音増幅器。 2 補正の適否 (1)本件補正前の請求項1の記載を、本件補正後の請求項1の記載にする補正について ア 補正の目的 上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明特定事項である「高周波信号」を、「アンテナで捕捉された高周波の受信信号」、又は、「高周波の受信信号」と限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ 独立特許要件 本件補正は特許法第17条の2第5項第2号に該当するので、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。 (ア)本件補正発明 本件補正発明は、上記本件補正後の請求項1の記載により特定される次のとおりのものである。 [本件補正発明] アンテナで捕捉された高周波の受信信号が入力される高周波入力端子と、 前記高周波入力端子に入力される高周波の受信信号を低雑音で増幅する増幅回路素子と、 前記増幅回路素子で増幅された高周波の受信信号を出力する高周波出力端子と、 前記高周波入力端子に第1の被制御電極が接続され、前記増幅回路素子の入力端に第2の被制御電極が接続され、制御電極に供給される制御電圧に応じて前記第1の被制御電極及び前記第2の被制御電極の間を断続する第1の電界効果トランジスタと、 前記増幅回路素子の出力端に第1の被制御電極が接続され、前記高周波出力端子に第2の被制御電極が接続され、制御電極に供給される制御電圧に応じて前記第1の被制御電極及び前記第2の被制御電極の間を断続する第2の電界効果トランジスタと、 前記高周波入力端子に第3の電界効果トランジスタの第1の被制御電極が接続され、前記第3の電界効果トランジスタの第2の被制御電極に第4の電界効果トランジスタの第1の被制御電極が接続され、前記高周波出力端子に前記第4の電界効果トランジスタの第2の被制御電極が接続され、前記第3の電界効果トランジスタと前記第4の電界効果トランジスタのそれぞれの制御電極に供給される制御電圧に応じて前記高周波入力端子及び前記高周波出力端子間の接続を断続するスイッチ回路と、 前記第1乃至第4の電界効果トランジスタのそれぞれの制御電極に供給する制御電圧を生成する制御回路と を具備し、 前記第1の電界効果トランジスタ及び前記第2の電界効果トランジスタは、それぞれ前記第3の電界効果トランジスタ及び前記第4の電界効果トランジスタのそれぞれの制御電極の電極幅より2倍以上大きい電極幅の制御電極を備え、 前記制御回路は、 通常時に、前記第1の電界効果トランジスタと前記第2の電界効果トランジスタのそれぞれの制御電極に供給する制御電圧を短絡モードの電圧に設定し、同時に前記第3の電界効果トランジスタと前記第4の電界効果トランジスタのそれぞれの制御電極に供給する制御電圧を開放モードの電圧に設定して、前記高周波入力端子に供給された高周波の受信信号が前記増幅回路素子で増幅されて前記高周波出力端子から出力されるように制御し、 前記増幅回路素子の飽和回避時に、前記第1の電界効果トランジスタと前記第2の電界効果トランジスタのそれぞれの制御電極に供給する制御電圧を開放モードの電圧に設定し、同時に前記第3の電界効果トランジスタと前記第4の電界効果トランジスタのそれぞれの制御電極に供給する制御電圧を短絡モードの電圧に設定して、前記高周波入力端子に供給された高周波の受信信号が前記第3の電界効果トランジスタと前記第4の電界効果トランジスタを経由して前記高周波出力端子から出力されるように制御する、 低雑音増幅器。 (イ)引用文献 a 引用文献1 原査定の拒絶の理由に引用された特開2013−90263号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次に掲げる事項が記載されている。なお、下線は当審により付与したものである。 「【0009】 本実施形態によれば、フェーズドアレーレーダ用受信回路は、受信アンテナ、リミッタ回路、高周波スイッチ、低雑音増幅器および検波回路を備える。受信アンテナは、送信アンテナから目標物に対して送信波が送信された際に、目標物から反射された受信波を受信し、高周波信号を出力する。リミッタ回路は、受信アンテナから出力された高周波信号を所定の許容電力レベルに基づいて抑圧して出力する。低雑音増幅器は、入力した高周波信号を増幅させて出力する。検波回路は、低雑音増幅器から出力された高周波信号を分岐し、その一方に基づいて低雑音増幅器の飽和状態を判定すると共に、飽和状態に基づいて高周波信号の経路に係る制御信号を出力する。高周波スイッチは、検波回路から出力された制御信号または送信波と受信波の送受信タイミングに基づいて、リミッタ回路から出力された高周波信号の経路を低雑音増幅器を含む経路に切り換える。」 「【0011】 以下、実施形態について図面を用いて詳細に説明する。 <実施形態1> 図1は、実施形態1に係るフェーズドアレーレーダ用送受信モジュールの回路構成例を示す図である。同図に示されるように、このフェーズドアレーレーダ用送受信モジュールの受信回路は、送受信アンテナ1、サーキュレータ2、リミッタ回路3、低雑音増幅器4、検波回路5、反射型SPDT(単極/双投)スイッチ8a、反射型SPDTスイッチ(単極/双投)8bおよび高周波減衰器9を備えている。また、破線の枠で表された送信回路は、送信系電力増幅器10を備えている。この送信系電力増幅器10の出力端子は、サーキュレータ2を介して送受信アンテナ1に接続されている。送信系電力増幅器10の入力端子は送信波生成回路(図示省略する)に接続されており、この生成回路で生成された送信波を増幅して送受信アンテナ1へ出力する。 【0012】 送受信アンテナ1は、サーキュレータ2を介してリミッタ回路3の入力端子に接続されており、送受信アンテナ1から目標物に対して送信波が送信されると、目標物から反射された受信波を受信し、サーキュレータ2を介して接続されたリミッタ回路3側へ出力する。 【0013】 また、リミッタ回路3の出力端子は、反射型SPDTスイッチ8aの入力端子Aに接続されている。反射型SPDTスイッチ8a,8bは、高周波信号の経路切換用の高周波スイッチである。低雑音増幅器4の入力端子は、反射型SPDTスイッチ8aの一方の出力端子Bに、低雑音増幅器4の出力端子は、反射型SPDTスイッチ8bの一方の入力端子Eに接続されている。また、高周波減衰器9の入力端子は、反射型SPDTスイッチ8aの他方の出力端子Cに、高周波減衰器9の出力端子は、反射型SPDTスイッチ8bの他方の入力端子Fに接続されており、この経路が迂廻路11として配置されている。そして、反射型SPDTスイッチ8bの出力端子Dは検波回路5の入力端子に接続されている。これにより、送受信アンテナ1での受信波は、送受信アンテナ1から検波回路5の方向に進行し、検波回路5を経て受信用の信号処理回路(図示省略する)へ到達する。検波回路5は、低雑音増幅器4側から伝わった受信波(高周波信号)を分岐し、その一方の信号レベルに基づいて経路を切り換えるための制御信号を生成し、反射型SPDTスイッチ8a,8bに出力する。これにより、低雑音増幅器4や後続の受信用の信号処理回路(図示省略する)の破壊が防止される。」 「【0016】 また、後者の場合には、リミッタ回路3は線形動作を保つように設定する。具体的には、想定する信号レベルよりもリミッタ回路3が飽和し始める入力レベルが大きくなるようにし、またリミッタ回路3の漏れ電力(抑圧度)は、反射型SPDTスイッチ8a,8bの定格電力を下回るように設定すればよい。一般的に、反射型SPDTスイッチ8a,8bの最大定格電力(例えば、0.5W程度)は、低雑音増幅器4の最大定格電力(例えば、10mW程度)よりも遥かに大きい。したがって、リミッタ回路3はダイオードを縦続接続する必要もなく、ダイオード1個で構成するなど、極めて簡便な回路構成で済む。反射型SPDTスイッチ8a,8bは、経路切換制御が簡単なFETスイッチを使えば制御回路は簡便であり、また、低損失な部品を選択すれば低雑音性を損なうこともないので好適である。」 「【符号の説明】 【0032】 1…送受信アンテナ 1a…送信アンテナ 1b…受信アンテナ 2…サーキュレータ 3…リミッタ回路 4…低雑音増幅器 5…検波回路 6…吸収型SPSTスイッチ 7…終端抵抗器 8a,8b…反射型SPDTスイッチ 9…高周波減衰器 10…送信系電力増幅器 11…迂廻路」 「 ![]() 」 b 引用発明の認定 (a)受信回路 引用文献1の段落【0011】の下線部によれば、「図1は、実施形態1に係るフェーズドアレーレーダ用送受信モジュールの回路構成例を示す図」であり、「このフェーズドアレーレーダ用送受信モジュールの受信回路」は、「低雑音増幅器4」、「検波回路5」、「反射型SPDT(単極/双投)スイッチ8a」、「反射型SPDTスイッチ(単極/双投)8b」、「高周波減衰器9」を備えている。 そこで、上記フェーズドアレーレーダ用送受信モジュールの受信回路の低雑音増幅器4、検波回路5、反射型SPDT(単極/双投)スイッチ8a、反射型SPDTスイッチ(単極/双投)8b、高周波減衰器9から構成される部分を、引用文献1に記載された「低雑音増幅器4、検波回路5、反射型SPDTスイッチ8a、反射型SPDTスイッチ8b、高周波減衰器9を備えたフェーズドアレーレーダ用送受信モジュールの受信回路」の発明(以下、「引用発明」という。)として認定する。 (b)入力端子A 段落【0012】、【0013】の下線部によれば、「送受信アンテナ1は」、「目標物から反射された受信波を受信し、サーキュレータ2を介して接続されたリミッタ回路3側へ出力」し、「リミッタ回路3の出力端子は、反射型SPDTスイッチ8aの入力端子Aに接続されている」から、引用文献1に記載された受信回路は、「送受信アンテナ1で受信した受信波を入力する反射型SPDTスイッチ8aの入力端子A」を備える。 (c)低雑音増幅器4 段落【0013】の下線部によれば、「低雑音増幅器4の入力端子は、反射型SPDTスイッチ8aの一方の出力端子Bに、低雑音増幅器4の出力端子は、反射型SPDTスイッチ8bの一方の入力端子Eに接続されている」から、引用文献1に記載された受信回路は、「反射型SPDTスイッチ8aの一方の出力端子Bに入力端子が接続され、反射型SPDTスイッチ8bの一方の入力端子Eに出力端子が接続されている、低雑音増幅器4」を備える。 (d)高周波減衰器9 段落【0013】の下線部によれば、「高周波減衰器9の入力端子は、反射型SPDTスイッチ8aの他方の出力端子Cに、高周波減衰器9の出力端子は、反射型SPDTスイッチ8bの他方の入力端子Fに接続されており、この経路が迂廻路11として配置されている」から、引用文献1に記載された受信回路は、「反射型SPDTスイッチ8aの他方の出力端子Cに入力端子が接続され、反射型SPDTスイッチ8bの他方の入力端子Fに出力端子が接続されており、この経路が迂廻路11として配置されている、高周波減衰器9」を備える。 (e)検波回路5 段落【0013】の下線部によれば、「反射型SPDTスイッチ8bの出力端子Dは検波回路5の入力端子に接続」されており、「検波回路5は、低雑音増幅器4側から伝わった受信波(高周波信号)を分岐し、その一方の信号レベルに基づいて経路を切り換えるための制御信号を生成し、反射型SPDTスイッチ8a,8bに出力する」ものであり、また、段落【0009】の下線部によれば、「検波回路は、低雑音増幅器から出力された高周波信号を分岐し、その一方に基づいて低雑音増幅器の飽和状態を判定すると共に、飽和状態に基づいて高周波信号の経路に係る制御信号を出力する」ものであるから、引用文献1に記載された受信回路は、「反射型SPDTスイッチ8bの出力端子Dが入力端子に接続され、低雑音増幅器4側から伝わった受信波(高周波信号)を分岐し、その一方の信号レベルに基づいて低雑音増幅器の飽和状態を判定すると共に、飽和状態に基づいて高周波信号の経路を切り換えるための制御信号を生成し、反射型SPDTスイッチ8a,8bに出力する、検波回路5」を備える。 (f)FETスイッチ 段落【0016】の下線部によれば、引用文献1に記載された受信回路は、「反射型SPDTスイッチ8a,8bは、経路切換制御が簡単なFETスイッチを使えば制御回路は簡便であり、また、低損失な部品を選択すれば低雑音性を損なうこともないので好適である」ものである。 (g)引用発明 以上の(a)〜(f)をまとめると、引用文献1には、次の引用発明が記載されていると認められる。 [引用発明] 低雑音増幅器4、検波回路5、反射型SPDTスイッチ8a、反射型SPDTスイッチ8b、高周波減衰器9を備えたフェーズドアレーレーダ用送受信モジュールの受信回路であって、 送受信アンテナ1で受信した受信波を入力する反射型SPDTスイッチ8aの入力端子Aと、 反射型SPDTスイッチ8aの一方の出力端子Bに入力端子が接続され、反射型SPDTスイッチ8bの一方の入力端子Eに出力端子が接続されている、低雑音増幅器4と、 反射型SPDTスイッチ8aの他方の出力端子Cに入力端子が接続され、反射型SPDTスイッチ8bの他方の入力端子Fに出力端子が接続されており、この経路が迂廻路11として配置されている、高周波減衰器9と、 反射型SPDTスイッチ8bの出力端子Dが入力端子に接続され、低雑音増幅器4側から伝わった受信波(高周波信号)を分岐し、その一方の信号レベルに基づいて低雑音増幅器の飽和状態を判定すると共に、飽和状態に基づいて高周波信号の経路を切り換えるための制御信号を生成し、反射型SPDTスイッチ8a,8bに出力する、検波回路5と、 を備え、 反射型SPDTスイッチ8a,8bは、経路切換制御が簡単なFETスイッチを使えば制御回路は簡便であり、また、低損失な部品を選択すれば低雑音性を損なうこともないので好適である、 フェーズドアレーレーダ用送受信モジュールの受信回路。 c 引用文献2 原査定の拒絶の理由で引用された特開平9−23101号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに次に掲げる事項が記載されている。 「【0016】 【実施例】本発明による高周波スイッチ装置の第1の実施例の構成を図1に示す。この実施例の高周波スイッチ装置はデジタルコードレス電話機のアンテナスイッチとして用いられ、デプレッション型FET11およびインダクタ21からなる第1のフィルタ回路と、デプレッション型FET12およびインダクタ22からなる第2のフィルタ回路と、抵抗31,32,33とを備えている。第1および第2のフィルタ回路は直列に接続されており、この共通接続点8にアンテナ端子2が接続されている。また、第1のフィルタ回路の他端には送信側端子3が接続され、第2のフィルタ回路の他端には受信側端子4が接続されている。」 「【0031】次に本発明による高周波スイッチ装置の第2の実施例について説明する。この第2の実施例の高周波スイッチ装置は図1に示す第1の実施例と同じ構成であって、第1の実施例の高周波スイッチ装置において、送信側のフィルタ回路のFET11のゲート幅Wgを1mmから2mmにするとともに、インダクタ21のインダクタンスを15.5nHから7.3nHにしたものである。なお、この時、FET11のしきい値電圧Vthは第1の実施例の場合と同じ−1.0Vである。この第2の実施例の高周波スイッチ装置の挿入損失の測定結果を図3の白三角で示す。この第2の実施例の挿入損失は周波数1.0GHzで0.9dB、周波数1.9GHzで0.3dB、周波数3.0GHzで0.75dBであり、第1の実施例よりも損失が小さい特性となっている。これは送信側のFET11のゲート幅が増したことにより、FET11のON抵抗が小さくなったためと考えられる。」 「 ![]() 」 「 ![]() 」 以上の記載(特に、下線部及び図3)によれば、引用文献2には、2つのFETを用いた高周波スイッチにおいて、一方のFETのゲート幅を、他方のFETのゲート幅の2倍にすることにより、ON抵抗を小さくして挿入損失を小さくする技術が記載されている。 (ウ)本件補正発明と引用発明との対比 a 高周波入力端子 引用発明は、「送受信アンテナ1で受信した受信波を入力する反射型SPDTスイッチ8aの入力端子A」を備えており、「受信波」は「レーダ用」の高周波信号であるから、引用発明の「送受信アンテナ1で受信した受信波を入力する反射型SPDTスイッチ8aの入力端子A」は、本件補正発明が具備する「アンテナで捕捉された高周波の受信信号が入力される高周波入力端子」に相当する。 よって、本件補正発明と引用発明は、「アンテナで捕捉された高周波の受信信号が入力される高周波入力端子」を具備する点で一致する。 b 増幅回路素子 引用発明の「送受信アンテナ1で受信した受信波を入力する反射型SPDTスイッチ8aの入力端子A」は、「経路切換制御」により、「反射型SPDTスイッチ8aの一方の出力端子B」に接続されるから、引用発明の「反射型SPDTスイッチ8aの一方の出力端子Bに入力端子が接続され・・・ている、低雑音増幅器4」は、本件補正発明の「前記高周波入力端子に入力される高周波の受信信号を低雑音で増幅する増幅回路素子」に相当する。 よって、本件補正発明と引用発明は、「前記高周波入力端子に入力される高周波の受信信号を低雑音で増幅する増幅回路素子」を具備する点で一致する。 c 高周波出力端子 引用発明における、「低雑音増幅器4」は、「反射型SPDTスイッチ8bの一方の入力端子Eに出力端子が接続」されており、「反射型SPDTスイッチ8bの一方の入力端子E」は、「経路切換制御」により、「反射型SPDTスイッチ8bの出力端子D」に接続されるから、引用発明の「反射型SPDTスイッチ8bの出力端子D」は、本願補正発明の「前記増幅回路素子で増幅された高周波の受信信号を出力する高周波出力端子」に相当する。 よって、本件補正発明と引用発明は、「前記増幅回路素子で増幅された高周波の受信信号を出力する高周波出力端子」を具備する点で一致する。 d 第1の電界効果トランジスタ、第2の電界効果トランジスタ、スイッチ回路 引用発明の「反射型SPDTスイッチ8a」の「入力端子A」と「出力端子B」の間の接続は、「検波回路5」からの「経路を切り換えるための制御信号」により制御される制御端を有するスイッチといえる。 したがって、引用発明の「反射型SPDTスイッチ8a」の「入力端子A」と「出力端子B」の間の接続は、本件補正発明の「前記高周波入力端子に第1の被制御電極が接続され、前記増幅回路素子の入力端に第2の被制御電極が接続され、制御電極に供給される制御電圧に応じて前記第1の被制御電極及び前記第2の被制御電極の間を断続する第1の電界効果トランジスタ」とは、「前記高周波入力端子に入力端が接続され、前記増幅回路素子の入力端に出力端が接続され、制御端に供給される制御電圧に応じて前記入力端及び前記出力端の間を断続する第1のスイッチ」といえる点で共通するものである。 引用発明の「反射型SPDTスイッチ8b」の「入力端子E」と「出力端子D」の間の接続は、「検波回路5」からの「経路を切り換えるための制御信号」により制御される制御端を有するスイッチといえる。 したがって、引用発明の「反射型SPDTスイッチ8b」の「入力端子E」と「出力端子D」の間の接続は、本件補正発明の「前記増幅回路素子の出力端に第1の被制御電極が接続され、前記高周波出力端子に第2の被制御電極が接続され、制御電極に供給される制御電圧に応じて前記第1の被制御電極及び前記第2の被制御電極の間を断続する第2の電界効果トランジスタ」とは、「前記増幅回路素子の出力端に入力端が接続され、前記高周波出力端子に出力端が接続され、制御端に供給される制御電圧に応じて前記入力端及び前記出力端の間を断続する第2のスイッチ」といえる点で共通するものである。 引用発明の「反射型SPDTスイッチ8a」の「入力端子A」と「出力端子C」の間の接続は、「検波回路5」からの「経路を切り換えるための制御信号」により制御される制御端を有するスイッチといえ、「反射型SPDTスイッチ8a」の「出力端子C」と「反射型SPDTスイッチ8b」の「入力端子F」は、「高周波減衰器9」を介して接続され、「反射型SPDTスイッチ8b」の「入力端子F」と「出力端子D」の間の接続は、「検波回路5」からの「経路を切り換えるための制御信号」により制御される制御端を有するスイッチといえる。 したがって、引用発明の「反射型SPDTスイッチ8a」の「入力端子A」と「反射型SPDTスイッチ8b」の「出力端子D」の間の接続は、本件補正発明の「前記高周波入力端子に第3の電界効果トランジスタの第1の被制御電極が接続され、前記第3の電界効果トランジスタの第2の被制御電極に第4の電界効果トランジスタの第1の被制御電極が接続され、前記高周波出力端子に前記第4の電界効果トランジスタの第2の被制御電極が接続され、前記第3の電界効果トランジスタと前記第4の電界効果トランジスタのそれぞれの制御電極に供給される制御電圧に応じて前記高周波入力端子及び前記高周波出力端子間の接続を断続するスイッチ回路」とは、「前記高周波入力端子に第3のスイッチの入力端が接続され、前記第3のスイッチの出力端に第4のスイッチの入力端が接続され、前記高周波出力端子に前記第4のスイッチの出力端が接続され、前記第3のスイッチと前記第4のスイッチのそれぞれの制御端に供給される制御電圧に応じて前記高周波入力端子及び前記高周波出力端子間の接続を断続するスイッチ回路」といえる点で共通するものである。 よって、本件補正発明と引用発明は、「前記高周波入力端子に第3のスイッチの入力端が接続され、前記第3のスイッチの出力端に第4のスイッチの入力端が接続され、前記高周波出力端子に前記第4のスイッチの出力端が接続され、前記第3のスイッチと前記第4のスイッチのそれぞれの制御端に供給される制御電圧に応じて前記高周波入力端子及び前記高周波出力端子間の接続を断続するスイッチ回路」を具備する点で共通する。 e 制御回路 引用発明は、「反射型SPDTスイッチ8bの出力端子Dが入力端子に接続され、低雑音増幅器4側から伝わった受信波(高周波信号)を分岐し、その一方の信号レベルに基づいて低雑音増幅器の飽和状態を判定すると共に、飽和状態に基づいて高周波信号の経路を切り換えるための制御信号を生成し、反射型SPDTスイッチ8a,8bに出力する、検波回路5」を備える。 上記経路を切り換えるための制御信号は、反射型SPDTスイッチ8a,8bの上述した第1乃至第4のスイッチの制御端に出力されるものであるから、引用発明の上記したような「検波回路5」は、本件補正発明の「前記第1乃至第4の電界効果トランジスタのそれぞれの制御電極に供給する制御電圧を生成する制御回路」と、「前記第1乃至第4のスイッチのそれぞれの制御端に供給する制御電圧を生成する制御回路」である点で共通する。 また、「高周波減衰器9」は、「反射型SPDTスイッチ8aの他方の出力端子Cに入力端子が接続され、反射型SPDTスイッチ8bの他方の入力端子Fに出力端子が接続されており、この経路が迂廻路11として配置されて」おり、「検波回路5」は、「低雑音増幅器の飽和状態を判定すると共に、飽和状態に基づいて高周波信号の経路を切り換えるための制御信号を生成し、反射型SPDTスイッチ8a,8bに出力する」のであるから、「経路を切り換えるための制御信号」は、「低雑音増幅器」が「飽和状態」と「判定」されないときの、「反射型SPDTスイッチ8a」の「入力端子A」と「出力端子B」が接続され、「反射型SPDTスイッチ8b」の「入力端子E」と「出力端子D」が接続され、「低雑音増幅器4」で「受信波」が増幅される経路と、「低雑音増幅器」が「飽和状態」と「判定」されるときの、「反射型SPDTスイッチ8a」の「入力端子A」と「出力端子C」が接続され、「反射型SPDTスイッチ8b」の「入力端子F」と「出力端子D」が接続され、「受信波」が「迂廻路11」を通る経路とを切り換えるためのものである。前者の経路を通る場合と後者の経路を通る場合は、それぞれ、本件補正発明の「通常時」、「増幅回路素子の飽和回避時」に相当する。 よって、本件補正発明と引用発明は、「前記第1乃至第4のスイッチのそれぞれの制御端に供給する制御電圧を生成する制御回路」を具備し、「前記制御回路は、通常時に、前記第1のスイッチと前記第2のスイッチのそれぞれの制御端に供給する制御電圧を短絡モードの電圧に設定し、同時に前記第3のスイッチと前記第4のスイッチのそれぞれの制御端に供給する制御電圧を開放モードの電圧に設定して、前記高周波入力端子に供給された高周波の受信信号が前記増幅回路素子で増幅されて前記高周波出力端子から出力されるように制御し、前記増幅回路素子の飽和回避時に、前記第1のスイッチと前記第2のスイッチのそれぞれの制御端に供給する制御電圧を開放モードの電圧に設定し、同時に前記第3のスイッチと前記第4のスイッチのそれぞれの制御端に供給する制御電圧を短絡モードの電圧に設定して、前記高周波入力端子に供給された高周波の受信信号が前記第3のスイッチと前記第4のスイッチを経由して前記高周波出力端子から出力されるように制御する」点で共通する。 f 電界効果トランジスタの制御電極の電極幅 本件補正発明と引用発明は、上記d、eで述べた共通点を有する。 しかしながら、共通点である、第1乃至第4の「スイッチ」、及び、その「入力端」、「出力端」、「制御端」が、本件補正発明では、第1乃至第4の「電界効果トランジスタ」、及び、その「第1の被制御電極」、「第2の被制御電極」、「制御電極」であり、「前記第1の電界効果トランジスタ及び前記第2の電界効果トランジスタは、それぞれ前記第3の電界効果トランジスタ及び前記第4の電界効果トランジスタのそれぞれの制御電極の電極幅より2倍以上大きい電極幅の制御電極」を備えるのに対し、引用発明では、「反射型SPDTスイッチ8a,8bは、経路切換制御が簡単なFETスイッチを使えば制御回路は簡便であり、また、低損失な部品を選択すれば低雑音性を損なうこともないので好適である」ものであることは示唆されているものの、その具体的な構成は特定されていない点で両者は相違する。 g 低雑音増幅器 引用発明の「フェーズドアレーレーダ用送受信モジュールの受信回路」は、「低雑音増幅器4」を備え、「送受信アンテナ1で受信した受信波」を「低雑音増幅」するから、本件補正発明の「低雑音増幅器」に相当する。 よって、本件補正発明と引用発明は、「低雑音増幅器」である点で一致する。 h 一致点、相違点 以上によれば、本件補正発明と引用発明との間には、次の一致点及び相違点があるといえる。 [一致点] アンテナで捕捉された高周波の受信信号が入力される高周波入力端子と、 前記高周波入力端子に入力される高周波の受信信号を低雑音で増幅する増幅回路素子と、 前記増幅回路素子で増幅された高周波の受信信号を出力する高周波出力端子と、 前記高周波入力端子に入力端が接続され、前記増幅回路素子の入力端に出力端が接続され、制御端に供給される制御電圧に応じて前記入力端及び前記出力端の間を断続する第1のスイッチと、 前記増幅回路素子の出力端に入力端が接続され、前記高周波出力端子に出力端が接続され、制御端に供給される制御電圧に応じて前記入力端及び前記出力端の間を断続する第2のスイッチと、 前記高周波入力端子に第3のスイッチの入力端が接続され、前記第3のスイッチの出力端に第4のスイッチの入力端が接続され、前記高周波出力端子に前記第4のスイッチの出力端が接続され、前記第3のスイッチと前記第4のスイッチのそれぞれの制御端に供給される制御電圧に応じて前記高周波入力端子及び前記高周波出力端子間の接続を断続するスイッチ回路と、 前記第1乃至第4のスイッチのそれぞれの制御端に供給する制御電圧を生成する制御回路と を具備し、 前記制御回路は、 通常時に、前記第1のスイッチと前記第2のスイッチのそれぞれの制御端に供給する制御電圧を短絡モードの電圧に設定し、同時に前記第3のスイッチと前記第4のスイッチのそれぞれの制御端に供給する制御電圧を開放モードの電圧に設定して、前記高周波入力端子に供給された高周波の受信信号が前記増幅回路素子で増幅されて前記高周波出力端子から出力されるように制御し、 前記増幅回路素子の飽和回避時に、前記第1のスイッチと前記第2のスイッチのそれぞれの制御端に供給する制御電圧を開放モードの電圧に設定し、同時に前記第3のスイッチと前記第4のスイッチのそれぞれの制御端に供給する制御電圧を短絡モードの電圧に設定して、前記高周波入力端子に供給された高周波の受信信号が前記第3のスイッチと前記第4のスイッチを経由して前記高周波出力端子から出力されるように制御する、 低雑音増幅器。 [相違点] 共通点である、第1乃至第4の「スイッチ」、及び、その「入力端」、「出力端」、「制御端」が、本件補正発明では、第1乃至第4の「電界効果トランジスタ」、及び、その「第1の被制御電極」、「第2の被制御電極」、「制御電極」であり、「前記第1の電界効果トランジスタ及び前記第2の電界効果トランジスタは、それぞれ前記第3の電界効果トランジスタ及び前記第4の電界効果トランジスタのそれぞれの制御電極の電極幅より2倍以上大きい電極幅の制御電極」を備えるのに対し、引用発明では、「反射型SPDTスイッチ8a,8bは、経路切換制御が簡単なFETスイッチを使えば制御回路は簡便であり、また、低損失な部品を選択すれば低雑音性を損なうこともないので好適である」ものであることは示唆されているものの、その具体的な構成は特定されていない点。 (エ)判断 引用発明の「反射型SPDTスイッチ8a」は、入力端子Aと出力端子Bとの間の接続、又は、入力端子Aと出力端子Cとの間の接続のいずれかが選択されるスイッチであり、「反射型SPDTスイッチ8b」は、入力端子Eと出力端子Dとの間の接続、又は、入力端子Fと出力端子Dとの間の接続のいずれかが選択されるスイッチである。 また、上述したように、引用発明は、「反射型SPDTスイッチ8a,8bは、経路切換制御が簡単なFETスイッチを使えば制御回路は簡便」であるものであり、FETスイッチとは、FET(電界効果トランジスタ)のソース、ドレイン間の接続をゲートに供給する制御電圧で制御するスイッチである。 これらのことを併せると、入力端子Aと出力端子Bとの間の接続にFETスイッチを使って、入力端子Aと出力端子Bとの間にFETのソース、ドレインを接続し、ゲートに供給する制御電圧で入力端子Aと出力端子Bとの間の接続を制御するようにし、入力端子Aと出力端子Cとの間、入力端子Eと出力端子Dとの間、入力端子Fと出力端子Dとの間も同様にすることは、引用発明において、当業者が即座に想起することである。 また、上述したように、引用発明は、「(FETスイッチとして)低損失な部品を選択すれば低雑音性を損なうこともないので好適である」ものであり、また、「低雑音増幅器4」の経路の部品が、(迂廻路11の経路に比べて)低損失な部品が要求されることは、低雑音で増幅するというその目的から当業者に明らかである。 さらに、引用文献2には、2つのFETを用いた高周波スイッチにおいて、一方のFETのゲート幅を、他方のFETのゲート幅の2倍にすることにより、ON抵抗を小さくして挿入損失を小さくする技術が記載されている。 したがって、引用発明において、低損失なFETスイッチを選択するために、引用文献2に記載された技術を適用し、「低雑音増幅器4」の経路のFETのゲート幅を、迂廻路11の経路のFETのゲート幅の2倍にすることにより、ON抵抗を小さくして挿入損失を小さくするようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 以上のことは、本件補正発明の文言を用いれば、引用発明において、「反射型SPDTスイッチ8a、8b」に、第1乃至第4の「電界効果トランジスタ」を用い、「前記第1の電界効果トランジスタ及び前記第2の電界効果トランジスタは、それぞれ前記第3の電界効果トランジスタ及び前記第4の電界効果トランジスタのそれぞれの制御電極の電極幅より2倍以上大きい電極幅の制御電極」を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得ることを意味している。 よって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 ウ 独立特許要件のまとめ 以上のとおりであるから、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 補正却下の決定の理由のまとめ 本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 令和5年11月8日にされた手続補正は上述のとおり却下されたので、本願の請求項1、2に係る発明は、令和5年6月12日に補正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。 [本願発明] 高周波信号が入力される高周波入力端子と、 前記高周波入力端子に入力される高周波信号を低雑音で増幅する増幅回路素子と、 前記増幅回路素子で増幅された高周波信号を出力する高周波出力端子と、 前記高周波入力端子に第1の被制御電極が接続され、前記増幅回路素子の入力端に第2の被制御電極が接続され、制御電極に供給される制御電圧に応じて前記第1の被制御電極及び前記第2の被制御電極の間を断続する第1の電界効果トランジスタと、 前記増幅回路素子の出力端に第1の被制御電極が接続され、前記高周波出力端子に第2の被制御電極が接続され、制御電極に供給される制御電圧に応じて前記第1の被制御電極及び前記第2の被制御電極の間を断続する第2の電界効果トランジスタと、 前記高周波入力端子に第3の電界効果トランジスタの第1の被制御電極が接続され、前記第3の電界効果トランジスタの第2の被制御電極に第4の電界効果トランジスタの第1の被制御電極が接続され、前記高周波出力端子に前記第4の電界効果トランジスタの第2の被制御電極が接続され、前記第3の電界効果トランジスタと前記第4の電界効果トランジスタのそれぞれの制御電極に供給される制御電圧に応じて前記高周波入力端子及び前記高周波出力端子間の接続を断続するスイッチ回路と、 前記第1乃至第4の電界効果トランジスタのそれぞれの制御電極に供給する制御電圧を生成する制御回路と を具備し、 前記第1の電界効果トランジスタ及び前記第2の電界効果トランジスタは、それぞれ前記第3の電界効果トランジスタ及び前記第4の電界効果トランジスタのそれぞれの制御電極の電極幅より2倍以上大きい電極幅の制御電極を備え、 前記制御回路は、 通常時に、前記第1の電界効果トランジスタと前記第2の電界効果トランジスタのそれぞれの制御電極に供給する制御電圧を短絡モードの電圧に設定し、同時に前記第3の電界効果トランジスタと前記第4の電界効果トランジスタのそれぞれの制御電極に供給する制御電圧を開放モードの電圧に設定して、前記高周波入力端子に供給された高周波信号が前記増幅回路素子で増幅されて前記高周波出力端子から出力されるように制御し、 前記増幅回路素子の飽和回避時に、前記第1の電界効果トランジスタと前記第2の電界効果トランジスタのそれぞれの制御電極に供給する制御電圧を開放モードの電圧に設定し、同時に前記第3の電界効果トランジスタと前記第4の電界効果トランジスタのそれぞれの制御電極に供給する制御電圧を短絡モードの電圧に設定して、前記高周波入力端子に供給された高周波信号が前記第3の電界効果トランジスタと前記第4の電界効果トランジスタを経由して前記高周波出力端子から出力されるように制御する、 低雑音増幅器。 2 原査定における拒絶の理由の概要(請求項1に関するもの) 原査定の拒絶の理由の概要は、この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 記 引用文献1 特開2013−90263号公報 引用文献2 特開平9−23101号公報 3 引用発明 引用文献1には、上記「第2 2(1)イ(イ)b 引用発明の認定」で認定した引用発明が記載されている。 4 対比・判断 本願発明は、上記「第2 2(1)イ 独立特許要件」で検討した本件補正発明における「アンテナで捕捉された高周波の受信信号」、「高周波の受信信号」を「高周波信号」として限定を省いた発明である。 そうすると、本願発明と引用発明は、上記「第2 2(1)イ(ウ)本件補正発明と引用発明との対比」と同様に対比することができ、両者の間の相違点は、本件補正発明と引用発明との間の相違点と同じものであるから、上記「第2 2(1)イ(エ)判断」と同様に判断することができる。 したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 請求人の主張について 1 スイッチ構成 請求人は、審判請求書において、以下のように主張している。 「本件発明では、高周波の受信信号を低雑音増幅する低雑音増幅器において、増幅回路素子の飽和回避のためのバイパス経路を形成するために、通常時の増幅回路素子への高周波の受信信号の第1及び第2の電界効果トランジスタによる入出力経路とは別に、飽和回避時のバイパス経路を切り換えるための第3及び第4の電界効果トランジスタによるスイッチ回路とを備える構成とし、さらに、第1及び第2の電界効果トランジスタの制御電極の電極幅を、それぞれ第3及び第4の電界効果トランジスタのそれぞれの制御電極の電極幅より2倍以上大きくすることで、第1及び第2の電界効果トランジスタの挿入損失を低減し、増幅回路素子の雑音指数を低減することを実現している。 これに対して、引用文献1には、一対の反射型SPDTスイッチ8a,8bで低雑音増幅器4と高周波減衰器9で構成されるバイパス経路を切り替えているにすぎず、増幅回路素子の入出力経路を断続する第1及び第2の電界効果トランジスタとは別に、増幅回路素子をバイパスする経路を断続する第3及び第4の電界効果トランジスタによるスイッチ回路を備える本件発明の構成とは明らかに異なる。 ここで、引用文献1には、「反射型SPDTスイッチ8a,8bは、経路切換制御が簡単なFETスイッチを使えば制御回路は簡便であり、また、低損失な部品を選択すれば低雑音性を損なうこともないので好適である」旨(段落[0016]参照。)、が開示されているが、引用文献1におけるSPDTスイッチはあくまでも経路の選択切換を行うスイッチであるのに対して、本件発明は増幅回路素子側の経路の断続とバイパス経路側の断続を独立して行うスイッチ構成であり、引用文献1に示される反射型SPDTスイッチにFETスイッチを使用するにしても、本願発明のような経路別に断続するスイッチ構成とはならないものと思料される。」(審判請求書「(3)本願発明と引用例との対比」) 請求人の主張する、本件発明の増幅回路素子側の経路の断続とバイパス経路側の断続を独立して行うスイッチ構成とは、増幅回路素子側の経路の断続を行うスイッチ(例えば、図1の14−a、請求項1でいう「第1の電界効果トランジスタ」)とバイパス経路側の断続を行うスイッチ(例えば、図1の15−a、請求項1でいう「第3の電界効果トランジスタ」)との2つのスイッチの構成を指していると考えられるが、これら2つのスイッチは、制御回路により制御されるものであって、「通常時に、前記第1の電界効果トランジスタ・・・の制御電極に供給する制御電圧を短絡モードの電圧に設定し、同時に前記第3の電界効果トランジスタ・・・の制御電極に供給する制御電圧を開放モードの電圧に設定して、・・・制御し、前記増幅回路素子の飽和回避時に、前記第1の電界効果トランジスタ・・・の制御電極に供給する制御電圧を開放モードの電圧に設定し、同時に前記第3の電界効果トランジスタ・・・の制御電極に供給する制御電圧を短絡モードの電圧に設定して、・・・制御する」(請求項1)ものであるから、いずれか一方が短絡(オン)のときには他方は解放(オフ)になるもの、すなわち、増幅回路素子を通る経路(図1の経路16)と通らない経路(図1の経路17)との経路の選択切換を行うものであるといえる。 したがって、引用文献1におけるSPDTスイッチの構成と本件発明のスイッチ構成とは、経路の選択切換を行うものである点で共通するものであり、引用文献1に示される反射型SPDTスイッチにFETスイッチを使用すると、本件発明のような経路別に断続するスイッチ構成となるものであるから、請求人の主張は当を得ないものである。 2 FETのゲート幅 請求人は、審判請求書において、以下のように主張している。 「また、引用文献1には、受信系において、電界効果トランジスタによる増幅器に対する入出力経路とバイパス経路とを切換制御する構成が示されていることから、引用文献2に開示されるFETのゲート幅を適宜大きく設定する構成と組み合わせることで、本件発明の構成を容易に案出できるように見える。 しかしながら、引用文献1には、電界効果トランジスタの介在によって低雑音性が損なわれることを考慮して、低損失な部品の選択を示唆しているが、FETの挿入損失を低減するためにFETのゲート幅を変更することについて示唆する記載はない。一方、引用文献2には、FETとインダクタ、コンデンサとの組み合わせによるフィルタ回路に用いられるFETのゲート幅を大きく設定することで、FETのインピーダンスを低下させ、インダクタまたはコンデンサとのフィルタ回路の挿入損失を低減することが示されているのであって、FETそのものの挿入損失を低減するためにゲート幅を大きくする点を示唆する記載はない。よって、引用文献1に記載の発明に引用文献2に記載の構成を結び付けて適用することは、いかに当業者といえども困難であると思料される。 なお、引用文献3、4には、いずれも第1及び第2の電界効果トランジスタの制御電極の電極幅を、それぞれ第3及び第4の電界効果トランジスタのそれぞれの制御電極の電極幅より2倍以上大きくすることで、第1及び第2の電界効果トランジスタの挿入損失を低減し、増幅回路素子の雑音指数を低減することを示唆する記載はなく、引用文献1−4の組み合わせにおいても本件発明を案出することは極めて困難であると思料される。」 しかしながら、引用文献2に記載の「FET11のゲート幅が増したことにより、FET11のON抵抗が小さくなった」とは、FET11がONとなっていてコンデンサとして機能していないとき、すなわち、フィルタ回路としては働いていないときFET11の抵抗が小さくなったことを意味しているから、引用文献2には、フィルタ回路の挿入損失を低減することが示されているのではなく、FETそのものの挿入損失を低減するためにゲート幅を大きくすることが開示されているといえる。 したがって、請求人の主張は当を得ないものである。 第5 むすび 以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 |
審理終結日 | 2024-04-05 |
結審通知日 | 2024-04-09 |
審決日 | 2024-04-22 |
出願番号 | P2019-137089 |
審決分類 |
P
1
8・
572-
Z
(H03F)
P 1 8・ 575- Z (H03F) P 1 8・ 121- Z (H03F) |
最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
高野 洋 |
特許庁審判官 |
寺谷 大亮 千葉 輝久 |
発明の名称 | 低雑音増幅器とレーダ装置の受信モジュール |
代理人 | 弁理士法人スズエ国際特許事務所 |
代理人 | 弁理士法人スズエ国際特許事務所 |