• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G02B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G02B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02B
審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
管理番号 1412277
総通号数 31 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-07-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-02-02 
確定日 2024-04-11 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第7114664号発明「位相差層付偏光板およびそれを用いた画像表示装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7114664号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−13〕について訂正することを認める。 特許第7114664号の請求項1ないし4、6ないし13に係る特許を維持する。 特許第7114664号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続等の経緯
特許第7114664号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜13に係る特許についての出願は、令和2年9月25日(優先権主張 令和2年1月24日)に特許出願され、令和4年7月29日にその特許権の設定登録がされ、令和4年8月8日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、令和5年2月2日に、特許異議申立人 寺澤佳奈美(以下「申立人」という。)から全請求項に対して特許異議の申立がされた。その後の手続き等の概要は以下のとおりである。

令和 5年 5月30日付け:取消理由通知書
令和 5年 7月28日 :訂正請求書の提出
意見書(特許権者)の提出
令和 5年 9月20日 :意見書(申立人)の提出
令和 5年10月31日付け:取消理由通知書<決定の予告>
令和 5年12月27日 :訂正請求書(以下「本件訂正請求」
という。)の提出
意見書(特許権者)の提出

なお、申立人に対し、令和6年1月12日に提出された訂正請求書による訂正請求があった旨の通知をしたが、指定した期間内に、申立人からの意見書の提出はなかった。
また、令和5年7月28日に提出された訂正請求書は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。


第2 本件訂正請求
1 訂正の趣旨及び訂正の内容
(1)訂正の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第7114664号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜13について訂正することを求める、というものである。

(2)訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める訂正の内容は、以下の通りである。

ア 訂正事項1−1
特許請求の範囲の請求項1に、
「偏光子を含む偏光板と、位相差層と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し、
該位相差層が、該偏光子と組み合わされて円偏光機能または楕円偏光機能を奏する液晶化合物の配向固化層であり、
該偏光子はヨウ素を含有し、
該偏光子と該粘着剤層との間に、有機溶媒に溶解可能な熱可塑性樹脂から構成されているヨウ素透過抑制層(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)が設けられており、
該ヨウ素透過抑制層を構成する樹脂のガラス転移温度が85℃以上であり、かつ、重量平均分子量Mwが25000以上である、
位相差層付偏光板。」
と記載されているのを、
「 偏光子を含む偏光板と、位相差層と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し、
該位相差層が、該偏光子と組み合わされて円偏光機能または楕円偏光機能を奏する液晶化合物の配向固化層であり、
該偏光子はヨウ素を含有し、
該偏光子と該粘着剤層との間に、有機溶媒に溶解可能な熱可塑性樹脂から構成されているヨウ素透過抑制層(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)が設けられており、
該熱可塑性樹脂は、エポキシ系樹脂のみからなり、
該熱可塑性樹脂のガラス転移温度が110℃以上であり、かつ、重量平均分子量Mwが25000以上150000以下である、
位相差層付偏光板。」
に訂正する(請求項1の記載を引用して記載された請求項2、4、7〜13についても、同様に訂正する。)。

イ 訂正事項1−2
特許請求の範囲の請求項3に、
「前記ヨウ素透過抑制層が、前記位相差層と前記粘着剤層との間に設けられている、請求項1に記載の位相差層付偏光板。」
と記載されているのを、
「 偏光子を含む偏光板と、位相差層と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し、
該位相差層が、該偏光子と組み合わされて円偏光機能または楕円偏光機能を奏する液晶化合物の配向固化層であり、
該偏光子はヨウ素を含有し、
該偏光子と該粘着剤層との間に、有機溶媒に溶解可能な熱可塑性樹脂から構成されているヨウ素透過抑制層(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)が設けられており、
該熱可塑性樹脂は、アクリル系樹脂および/またはエポキシ系樹脂を含み、
該熱可塑性樹脂のガラス転移温度が110℃以上であり、かつ、重量平均分子量Mwが25000以上150000以下であり、
該ヨウ素透過抑制層が、該位相差層と該粘着剤層との間に設けられている、位相差層付偏光板。」
に訂正する(請求項3の記載を引用して記載された請求項4、7〜13についても、同様に訂正する。)

ウ 訂正事項1−3
特許請求の範囲の請求項6に、
「前記ヨウ素透過抑制層を構成する樹脂が、50重量部を超える(メタ)アクリル系単量体と0重量部を超えて50重量部未満の式(1)で表される単量体とを含むモノマー混合物を重合することにより得られる共重合体を含む、請求項1から5のいずれかに記載の位相差層付偏光板:」
と記載されているのを、
「 偏光子を含む偏光板と、位相差層と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し、
該位相差層が、該偏光子と組み合わされて円偏光機能または楕円偏光機能を奏する液晶化合物の配向固化層であり、
該偏光子はヨウ素を含有し、
該偏光子と該粘着剤層との間に、有機溶媒に溶解可能な熱可塑性樹脂から構成されているヨウ素透過抑制層(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)が設けられており、
該熱可塑性樹脂は、アクリル系樹脂および/またはエポキシ系樹脂を含み、
該熱可塑性樹脂のガラス転移温度が110℃以上であり、かつ、重量平均分子量Mwが25000以上150000以下であり、
該ヨウ素透過抑制層を構成する樹脂が、50重量部を超える(メタ)アクリル系単量体と0重量部を超えて50重量部未満の式(1)で表される単量体とを含むモノマー混合物を重合することにより得られる共重合体を含む、位相差層付偏光板:」
に訂正する(請求項6の記載を引用して記載された請求項7〜13についても、同様に訂正する。)

エ 訂正事項1−4
特許請求の範囲の請求項5を削除する。併せて、請求項7〜12において、従属関係を整える訂正を行う。

オ 訂正事項2
明細書の段落【0102】、【0119】、及び、【0120】における「実施例4」の記載を「参考例4」に訂正する。

(3)一群の請求項
本件訂正請求は、一群の請求項〔1〜13〕に対して請求されたものである。

(4)訂正の適否
ア 訂正事項1−1
(ア)訂正の目的
訂正事項1−1は、「熱可塑性樹脂」について、「エポキシ系樹脂」のみからなる点を限定し、ガラス転移温度の範囲を、「85℃以上」から「110℃以上」に変更し、重量平均分子量Mwの範囲について「150000以下」であることを特定する訂正事項を含んでいる。これらの訂正事項は、いずれも、訂正前の請求項1に係る発明の構成要件である「熱可塑性樹脂」の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものといえる。
また、訂正事項1−1は、訂正前の「該ヨウ素透過抑制層を構成する樹脂」を「該熱可塑性樹脂」に変更する訂正事項を含んでいる。当該訂正事項は、ガラス転移温度等が特定される樹脂について、ヨウ素透過抑制層を構成する「熱可塑性樹脂」であることを明確にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものといえる。
請求項1の記載を引用する各請求項についても同様である。

(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること
訂正事項1−1は、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0051】及び【0052】に記載された範囲内においてしたものといえる。

(ウ)実質上特許請求の範囲の拡張し又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1−1は、前記(ア)に記載したとおり、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そうすると、特許請求の範囲を拡張又は変更するものでないことは明らかである。

イ 訂正事項1−2
(ア)訂正の目的
訂正事項1−2は、訂正前の請求項3が、訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消して、独立項に改める訂正事項を含んでいる。そうすると、訂正事項1−2は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号の「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものといえる。
また、訂正事項1−2は、「熱可塑性樹脂」について、「アクリル系樹脂および/またはエポキシ系樹脂」を含む点を限定し、ガラス転移温度の範囲を、「85℃以上」から「110℃以上」に変更し、重量平均分子量Mwの範囲について「150000以下」であることを特定する訂正事項を含んでいる。これらの訂正事項は、いずれも、訂正前の請求項3に係る発明の構成要件である「熱可塑性樹脂」の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものといえる。
さらに、訂正事項1−2は、訂正前の「該ヨウ素透過抑制層を構成する樹脂」を「該熱可塑性樹脂」に変更する訂正事項を含んでいる。当該訂正事項は、ガラス転移温度等が特定される樹脂について、ヨウ素透過抑制層を構成する「熱可塑性樹脂」であることを明確にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものといえる。
請求項3の記載を引用する各請求項についても同様である。

(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること
訂正事項1−2は、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0051】及び【0052】に記載された範囲内においてしたものといえる。

(ウ)実質上特許請求の範囲の拡張し又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1−2は、前記(ア)に記載したとおり、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そうすると、特許請求の範囲を拡張又は変更するものでないことは明らかである。

ウ 訂正事項1−3
(ア)訂正の目的
訂正事項1−3は、訂正前の請求項6が、訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消して、独立項に改める訂正事項を含んでいる。そうすると、訂正事項1−3は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号の「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものといえる。
また、訂正事項1−3は、「熱可塑性樹脂」について、「アクリル系樹脂および/またはエポキシ系樹脂」を含む点を限定し、ガラス転移温度の範囲を、「85℃以上」から「110℃以上」に変更し、重量平均分子量Mwの範囲について「150000以下」であることを特定する訂正事項を含んでいる。これらの訂正事項は、いずれも、訂正前の請求項6に係る発明の構成要件である「熱可塑性樹脂」の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものといえる。
さらに、訂正事項1−3は、訂正前の「該ヨウ素透過抑制層を構成する樹脂」を「該熱可塑性樹脂」に変更する訂正事項を含んでいる。当該訂正事項は、ガラス転移温度等が特定される樹脂について、ヨウ素透過抑制層を構成する「熱可塑性樹脂」であることを明確にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものといえる。
請求項6の記載を引用する各請求項についても同様である。

(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること
訂正事項1−3は、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0051】及び【0052】に記載された範囲内においてしたものといえる。

(ウ)実質上特許請求の範囲の拡張し又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1−3は、前記(ア)に記載したとおり、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そうすると、特許請求の範囲を拡張又は変更するものでないことは明らかである。

エ 訂正事項1−4
(ア)訂正の目的
訂正事項1−4は、訂正前の特許請求の範囲の請求項5を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものといえる。また、請求項5の記載を引用していた各請求項について、請求項5が削除されたことにより、整合しなくなった従属関係を、整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものといえる。

(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項
訂正事項1−4は、請求項5を削除し、それに併せて、従属関係を整えるものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。

(ウ)特許請求の範囲の拡張又は変更
訂正事項1−4は、請求項5を削除し、それに併せて、従属関係を整えるものであるから、特許請求の範囲の拡張又は変更するものでないことは明らかである。

オ 訂正事項2
(ア)訂正の目的
訂正事項2は、訂正前の特許請求の範囲の請求項5が削除されたことにより、実施例4が特許請求の範囲に含まれないことになったことに伴い、「参考例4」と変更するものである。したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものといえる。

(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項
訂正事項2は、前記(ア)に記載したとおり、明瞭でない記載の釈明をするものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。

(ウ)特許請求の範囲の拡張又は変更
訂正事項2は、前記(ア)に記載したとおり、明細書の記載について、明瞭でない記載の釈明をするものであるから、特許請求の範囲の拡張又は変更するものでないことは明らかである。

(5)小括
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、本件特許の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜13〕について訂正することを認める。


第3 本件特許発明
前記「第2」のとおり、本件訂正請求による訂正は認められることになったから、本件特許の請求項1〜4、6〜13にかかる発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」等という。)は、本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲1〜4、6〜13に記載された事項により特定される、次のとおりのものであると認める。
なお、請求項5は、訂正により削除された。
「【請求項1】
偏光子を含む偏光板と、位相差層と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し、
該位相差層が、該偏光子と組み合わされて円偏光機能または楕円偏光機能を奏する液晶化合物の配向固化層であり、
該偏光子はヨウ素を含有し、
該偏光子と該粘着剤層との間に、有機溶媒に溶解可能な熱可塑性樹脂から構成されているヨウ素透過抑制層(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)が設けられており、
該熱可塑性樹脂は、エポキシ系樹脂のみからなり、
該熱可塑性樹脂のガラス転移温度が110℃以上であり、かつ、重量平均分子量Mwが25000以上150000以下である、
位相差層付偏光板。
【請求項2】
前記ヨウ素透過抑制層が、前記偏光子と前記位相差層との間に設けられている、請求項1に記載の位相差層付偏光板。
【請求項3】
偏光子を含む偏光板と、位相差層と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し、
該位相差層が、該偏光子と組み合わされて円偏光機能または楕円偏光機能を奏する液晶化合物の配向固化層であり、
該偏光子はヨウ素を含有し、
該偏光子と該粘着剤層との間に、有機溶媒に溶解可能な熱可塑性樹脂から構成されているヨウ素透過抑制層(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)が設けられており、
該熱可塑性樹脂は、アクリル系樹脂および/またはエポキシ系樹脂を含み、
該熱可塑性樹脂のガラス転移温度が110℃以上であり、かつ、重量平均分子量Mwが25000以上150000以下であり、
該ヨウ素透過抑制層が、該位相差層と該粘着剤層との間に設けられている、位相差層付偏光板。
【請求項4】
前記ヨウ素透過抑制層の厚みが0.05μm〜10μmである、請求項1から3のいずれかに記載の位相差層付偏光板。
【請求項6】
偏光子を含む偏光板と、位相差層と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し、
該位相差層が、該偏光子と組み合わされて円偏光機能または楕円偏光機能を奏する液晶化合物の配向固化層であり、
該偏光子はヨウ素を含有し、
該偏光子と該粘着剤層との間に、有機溶媒に溶解可能な熱可塑性樹脂から構成されているヨウ素透過抑制層(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)が設けられており、
該熱可塑性樹脂は、アクリル系樹脂および/またはエポキシ系樹脂を含み、
該熱可塑性樹脂のガラス転移温度が110℃以上であり、かつ、重量平均分子量Mwが25000以上150000以下であり、
該ヨウ素透過抑制層を構成する樹脂が、50重量部を超える(メタ)アクリル系単量体と0重量部を超えて50重量部未満の式(1)で表される単量体とを含むモノマー混合物を重合することにより得られる共重合体を含む、位相差層付偏光板:
【化1】

(式中、Xはビニル基、(メタ)アクリル基、スチリル基、(メタ)アクリルアミド基、ビニルエーテル基、エポキシ基、オキセタン基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルデヒド基、および、カルボキシル基からなる群より選択される少なくとも1種の反応性基を含む官能基を表し、R1およびR2はそれぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよいアリール基、または、置換基を有していてもよいヘテロ環基を表し、R1およびR2は互いに連結して環を形成してもよい)。
【請求項7】
前記位相差層が単一層であり、
該位相差層のRe(550)が100nm〜190nmであり、
該位相差層の遅相軸と前記偏光子の吸収軸とのなす角度が40°〜50°である、
請求項1から4および6のいずれかに記載の位相差層付偏光板。
【請求項8】
前記位相差層が、第1の液晶化合物の配向固化層と第2の液晶化合物の配向固化層との積層構造を有し、
該第1の液晶化合物の配向固化層のRe(550)が200nm〜300nmであり、その遅相軸と前記偏光子の吸収軸とのなす角度が10°〜20°であり、
該第2の液晶化合物の配向固化層のRe(550)が100nm〜190nmであり、その遅相軸と該偏光子の吸収軸とのなす角度が70°〜80°である、
請求項1から4および6のいずれかに記載の位相差層付偏光板。
【請求項9】
前記位相差層と前記粘着剤層との間に別の位相差層をさらに有し、該別の位相差層の屈折率特性がnz>nx=nyの関係を示す、請求項1から4および6から8のいずれかに記載の位相差層付偏光板。
【請求項10】
前記ヨウ素透過抑制層と前記粘着剤層との間に導電層または導電層付等方性基材をさらに有する、請求項1から4および6から9のいずれかに記載の位相差層付偏光板。
【請求項11】
総厚みが60μm以下である、請求項1から4および6から10のいずれかに記載の位相差層付偏光板。
【請求項12】
請求項1から4および6から11のいずれかに記載の位相差層付偏光板を備える、画像表示装置。
【請求項13】
有機エレクトロルミネセンス表示装置または無機エレクトロルミネセンス表示装置である、請求項12に記載の画像表示装置。」


第4 取消理由に記載した取消理由
1 取消理由の概要
(1)令和5年10月31日付け取消理由<決定の予告>
令和5年7月31日付けの訂正請求書の訂正特許請求の範囲に記載された発明に対して、令和5年10月31日付け取消理由通知書で通知した取消理由は、概略次のとおりである。

甲13発明を主引用発明とする進歩性違反
本件特許の請求項1,2,4,7〜13に係る発明は、本件特許の優先権主張に係る先の出願前に、日本国内又は外国において頒布された、以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

引用文献等一覧
甲13:国際公開第2007/032304号
甲7 :国際公開第2013/137464号(周知技術を示す文献)
甲8 :特開2018−17996号公報 (周知技術を示す文献)
甲9 :特開2014−123099号公報 (周知技術を示す文献)
甲11:特開2015−207377号公報 (周知技術を示す文献)

(2)令和5年5月30日付け取消理由
訂正前の特許請求の範囲に記載された発明に対して、令和5年5月30日付け取消理由通知で通知した取消理由は、概略以下のとおりである

委任省令要件違反
本件特許のヨウ素透過抑制層を構成する樹脂の「ガラス転移温度」及び「重量平均分子量」について、数値範囲を特定することの技術上の意義が不明であり、当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が発明の詳細な説明に記載されているとはいえない(委任省令要件を満たしているとはいえない。)から、発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

甲1発明を主引用発明とする進歩性違反
本件特許の請求項1〜5、7〜13に係る発明は、本件特許の優先権主張に係る先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。

引用文献等一覧
甲1:国際公開第2014/199934号
甲2:木津巧一、「環状オレフィン系樹脂「アペル」の特徴と用途展開」
、日本画像学会誌、2016年、第55巻、第2号、第236〜2
42頁
甲3:特開2007−301986号公報 (周知技術を示す文献)
甲4:特開2018−54999号公報 (周知技術を示す文献)
甲5:特開2017−68235号公報 (周知技術を示す文献)
甲6:特開2016−224307号公報 (周知技術を示す文献)
甲7:国際公開第2013/137464号(周知技術を示す文献)
甲8:特開2018−17996号公報 (周知技術を示す文献)
甲9:特開2014−123099号公報 (周知技術を示す文献)
甲10:特開2015−163938号公報(周知技術を示す文献)
甲11:特開2015−207377号公報(周知技術を示す文献)

2 甲13発明を主引用発明とする進歩性違反についての当審の判断
(1)甲13発明
甲13には、請求項1、請求項12、及び、請求項15の記載を引用する請求項16に係る発明として、次の発明(以下「甲13発明」という。)が記載されていると認められる。
「 偏光板と第1の光学補償層と第2の光学補償層とをこの順に有し、
該偏光板が、ポリビニルアルコール系樹脂から形成される偏光子の少なくとも片面に、下記一般式(1)で表される構造単位と下記一般式(2)で表される構造単位とを含んでなるアクリル樹脂を含む偏光子保護フィルムを有し、
[化1]

(一般式(1)中、R1は、水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表し、R2は、炭素数1〜5の脂肪族または脂環式炭化水素基を表す。)
[化2]

(一般式(2)中、R3、R4は、同一または相異なる水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。)
該第1の光学補償層が、λ/2板として機能し、該偏光子の吸収軸と該第1の光学補償層の遅相軸とのなす角度αが+8°〜+38°または−8°〜−38°であり、面内位相差Δnd1が180〜300nmであり、
該第2の光学補償層が、λ/4板として機能し、該偏光子の吸収軸と該第2の光学補償層の遅相軸とのなす角度βが+61°〜+121°または−31°〜+29°であり、面内位相差Δnd2が90〜180nmであり、
前記偏光子の両面に前記偏光子保護フィルムを有し、
最外層の少なくとも一方として粘着剤層をさらに有し、
最外層の一方にハードコート層をさらに有する、光学補償層付偏光板。」

(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲13発明とを対比する。

(ア)偏光板
甲13発明は、偏光子の少なくとも片面に、一般式(1)で表される構造単位と一般式(2)で表される構造単位とを含んでなるアクリル樹脂を含む偏光子保護フィルムを有する「偏光板」を具備しており、さらに、「前記偏光子の両面に前記偏光子保護フィルムを有」するとされている。そうすると、甲13発明は、偏光子の片面に偏光子保護フィルムを有する「偏光板」と、当該「偏光板」の偏光子側に別途設けられた「偏光子保護フィルム」を有していると理解できる。
ここで、甲13発明の、偏光子の片面に偏光子保護フィルムを有する「偏光板」は、偏光子を含んでなり、偏光機能を有する板であるといえるから、本件特許発明1の「偏光子を含む偏光板」に相当する。

(イ)位相差層
甲13発明の「第1の光学補償層」及び「第2の光学補償層」は、それぞれ、「λ/2板」及び「λ/4板」として機能するものであって、面内位相差Δnd1及びΔnd2を有するものである。そうすると、甲13発明の「第1の光学補償層」及び「第2の光学補償層」は、いずれも、位相差層として機能するものであると理解できる。したがって、甲13発明の「第1の光学補償層」及び「第2の光学補償層」は、いずれも、本件特許発明1の「位相差層」に相当する。

(ウ)位相差層付偏光板
甲13発明は「光学補償層付偏光板」である。そして、甲13発明の「光学補償層」は、上記のとおり、位相差層として機能するものである。そうすると、甲13発明の「光学補償層付偏光板」は、本件特許発明1の「位相差層付偏光板」に相当するといえる。

(エ)各層の配置順
甲13発明の「粘着剤層」及び「ハードコート層」は、いずれも、「光学補償層付偏光板」の最外層として構成されるものであるから、必然的に、「ハードコート層」と「粘着剤層」とは、それぞれ、「光学補償層付偏光板」の別の面に配置されると理解できる。
ここで、甲13発明の「粘着剤層」は、技術的にみて、本件特許発明の「粘着剤層」に相当する。
そして、「ハードコート層」は、通常、視認側に設けられるものであるから、甲13発明は、視認側から順に、「ハードコート層」、「偏光子の片面に偏光子保護フィルムを有する偏光板」、「偏光子保護フィルム」、「粘着剤層」が設けられていると理解できる。そうすると、甲13発明は、本件特許発明1の「偏光子を含む偏光板と、位相差層と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し、」とする要件のうち、「偏光子を含む偏光板と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し、」とする要件を満たす点で共通するといえる。

(オ)熱可塑性樹脂から構成されている層
甲13発明の偏光子の両面に配置された偏光子保護フィルムのうち、「ハードコート層」側の偏光子保護フィルムを「偏光板」に含まれる偏光子保護フィルムとすると、「偏光板」とは別に設けられた「偏光子保護フィルム」は、「偏光子」と「粘着剤層」との間に配置されることになる。また、甲13発明の「偏光子保護フィルム」は、一般式(1)で表される構造単位と一般式(2)で表される構造単位とを含んでなるアクリル樹脂を含むものである。当該構造単位を含むアクリル樹脂は、技術的にみて、熱可塑性樹脂であるといえる。したがって、甲13発明において、「偏光板」とは別に設けられた「偏光子保護フィルム」に含まれる「アクリル樹脂」は、本件特許発明1の「熱可塑性樹脂」に相当する。そして、当該「偏光子保護フィルム」は、技術的にみて、熱可塑性樹脂から構成される層を構成するものの、液晶化合物を配向させるための配向膜には該当しない。
そうすると、本件特許発明1の「該偏光子と該粘着剤層との間に、有機溶媒に溶解可能な熱可塑性樹脂から構成されているヨウ素透過抑制層(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)」と甲13発明の「偏光板」とは別に設けられた「偏光子保護フィルム」とは、「該偏光子と該粘着剤層との間に、熱可塑性樹脂から構成されている層(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)」である点で共通する。

(カ)一致点及び相違点
以上より、本件特許発明1と甲13発明とは、次の点で一致し、以下の点で相違する。
一致点
「偏光子を含む偏光板と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し、
位相差層を有し、
該偏光子と該粘着剤層との間に、熱可塑性樹脂から構成されている層(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)が設けられている、
位相差層付偏光板。」

[相違点13−1−1]
本件特許発明1では、偏光子を含む偏光板と、位相差層と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有するのに対し、甲13発明では、第1の光学補償層及び第2の光学補償層が、偏光板及び粘着剤層に対し、どのような順で配置されるのかを特定していない点。
[相違点13−1−2]
本件特許発明1の位相差層が、「該偏光子と組み合わされて円偏光機能または楕円偏光機能を奏する液晶化合物の配向固化層」であるのに対し、甲13発明の「第1の光学補償層」及び「第2の光学補償層」が、偏光子と組み合わされて円偏光機能または楕円偏光機能を奏するものであること、及び、液晶化合物の配向固化層であることが、特定されていない点。
[相違点13−1−3]
偏光子について、本件特許発明1では「偏光子はヨウ素を含有」すると特定されるのに対し、甲13発明ではヨウ素を含有することが、特定されていない点。
[相違点13−1−4]
偏光子と粘着剤層との間に設けられた層について、本件特許発明1は「ヨウ素透過抑制」層であるのに対し、甲13発明の一般式(1)で表される構造単位と一般式(2)で表される構造単位とを含んでなるアクリル樹脂を含む偏光子保護フィルムであって、ヨウ素透過抑制層であるとされていない点。
[相違点13−1−5]
偏光子と粘着剤層との間に設けられた層を構成する熱可塑性樹脂について、本件特許発明1では、「有機溶媒に溶解可能」であって「エポキシ系樹脂のみ」からなり、「ガラス転移温度が110℃以上であり、かつ、重量平均分子量Mwが25000以上150000以下である」とされているのに対し、甲13発明では、有機溶媒に溶解可能であることが特定されておらず、アクリル樹脂を含むものであり、ガラス転移温度及び重量平均分子量も特定されていない点。

イ 判断
事案に鑑みて、[相違点13−1−5]について検討する。
甲13には、発明が解決しようとする課題として、段落[0004]に、「本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、薄型化に寄与し、耐久性が高く、カラーシフトが小さく、色ムラが少なく、黒表示における光漏れを良好に防止してコントラストが向上し得る光学補償層付偏光板、および、そのような光学補償層付偏光板を用いた液晶パネル、画像表示装置を提供することである。」と記載されている。そして、課題を解決するための手段として、段落[0005]に、「該偏光板が、ポリビニルアルコール系?脂から形成される偏光子の少なくとも片面に、下記一般式(1)で表される構造単位と下記一般式(2)で表される構造単位とを含んでなるアクリル?脂を含む偏光子保護フィルム」(一般式(1)及び一般式(2)は、前記2(1)において認定した甲13発明の[化1]及び[化2]であり、ここでは省略する。)を有することが記載されている。
当該記載に基づけば、甲13発明は、一般式(1)で表される構造単位と一般式(2)で表される構造単位とを含んでなるアクリル樹脂を、課題解決のための必須の手段とするものである。そうすると、当業者といえども、甲13発明の熱可塑性樹脂を「エポキシ系樹脂のみ」とし、課題解決のための必須の手段とされた上記アクリル樹脂を含まないものとする動機付けがあるとはいえない。そして、甲13発明から、一般式(1)で表される構造単位と一般式(2)で表される構造単位とを含んでなるアクリル樹脂に代えて「エポキシ系樹脂のみ」を採用すると、上記課題が解決できなくなるから、そのような材料変更には阻害要因があるといえる。
したがって、甲13発明において、上記[相違点13−1−5]に係る本件特許発明1の構成を採用することは、当業者であっても容易になし得たことではないから、本件特許発明1に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものとはいえない。

(3)本件特許発明1の記載を引用する本件特許発明2、4、7〜13について
本件特許発明1の記載を引用する本件特許発明2、4、7〜13は、いずれも、本件特許発明1に限定を付した発明に該当する。そうすると、本件特許発明2、4、7〜13と甲13発明とを対比した場合、両者は少なくとも上記[相違点13−1−5]で相違し、上記のとおり、甲13発明において、上記[相違点13−1−5]に係る本件発明発明1の構成を採用することは、当業者であっても容易になし得たことではない。したがって、本件特許発明2、4、7〜13に係る特許も、同じ理由により、特許法29条2項の規定に違反してされたものとはいえない。

(4)本件特許発明3について
ア 対比
本件特許発明3と甲13発明とを対比する。

(ア)偏光板
前記(2)ア(ア)と同様のことがいえる。

(イ)位相差層
前記(2)ア(イ)と同様のことがいえる。

(ウ)位相差層付偏光板
前記(2)ア(ウ)と同様のことがいえる。

(エ)各層の配置順
甲13発明の「粘着剤層」及び「ハードコート層」は、いずれも、「光学補償層付偏光板」の最外層として構成されるものであるから、必然的に、「ハードコート層」と「粘着剤層」とは、それぞれ、「光学補償層付偏光板」の別の面に構成されると理解できる。
ここで、甲13発明の「粘着剤層」は、技術的にみて、本件特許発明の「粘着剤層」に相当する。
そして、「ハードコート層」は、通常、視認側に設けられるものであるから、甲13発明は、視認側から順に、「ハードコート層」、「偏光子の片面に偏光子保護フィルムを有する偏光板」、「偏光子保護フィルム」、「粘着剤層」が設けられていると理解できる。そうすると、甲13発明は、本件特許発明1の「偏光子を含む偏光板と、位相差層と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し、」とする要件のうち、「偏光子を含む偏光板と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し、」とする要件を満たす点で共通するといえる。

(オ)熱可塑性樹脂から構成されている層
甲13発明の偏光子の両面に配置された偏光子保護フィルムのうち、「ハードコート層」側の偏光子保護フィルムを「偏光板」に含まれる偏光子保護フィルムとすると、「偏光板」とは別に設けられた「偏光子保護フィルム」は、「偏光子」と「粘着剤層」との間に配置されることになる。また、甲13発明の「偏光子保護フィルム」は、一般式(1)で表される構造単位と一般式(2)で表される構造単位とを含んでなるアクリル樹脂を含むものである。当該構造単位を含むアクリル樹脂は、技術的にみて、熱可塑性樹脂であるといえる。したがって、甲13発明において、「偏光板」とは別に設けられた「偏光子保護フィルム」に含まれる「アクリル樹脂」は、本件特許発明3の「該熱可塑性樹脂は、アクリル系樹脂および/またはエポキシ系樹脂を含み、」とする要件を満たしている。そして、当該「偏光子保護フィルム」は、技術的にみて、熱可塑性樹脂から構成される層を構成するものの、液晶化合物を配向させるための配向膜には該当しない。
そうすると、本件特許発明3の「該偏光子と該粘着剤層との間に、有機溶媒に溶解可能な熱可塑性樹脂から構成されているヨウ素透過抑制層(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)」と甲13発明の偏光子側に別途設けられた「偏光子保護フィルム」とは、「該偏光子と該粘着剤層との間に、熱可塑性樹脂から構成されている層(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)」である点で共通する。

(カ)一致点及び相違点
以上より、本件特許発明3と甲13発明とは、次の点で一致し、以下の点で相違する。
[一致点]
「 偏光子を含む偏光板と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し、
位相差層を有し、
該偏光子と該粘着剤層との間に、熱可塑性樹脂から構成されているヨウ素透過抑制層(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)が設けられており、
該熱可塑性樹脂は、アクリル系樹脂および/またはエポキシ系樹脂を含む、
位相差層付偏光板。」
[相違点13−3−1]
本件特許発明3では、偏光子を含む偏光板と、位相差層と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し、ヨウ素透過抑制層が、該位相差層と該粘着剤層との間に設けられているのに対し、甲13発明では、第1の光学補償層及び第2の光学補償層が、偏光板、偏光子保護フィルム及び粘着剤層に対し、どのような順で配置されるのかを特定していない点。
[相違点13−3−2]
本件特許発明3の位相差層が、「該偏光子と組み合わされて円偏光機能または楕円偏光機能を奏する液晶化合物の配向固化層」であるのに対し、甲13発明の「第1の光学補償層」及び「第2の光学補償層」が、偏光子と組み合わされて円偏光機能または楕円偏光機能を奏するものであること、及び、液晶化合物の配向固化層であることが、特定されていない点。
[相違点13−3−3]
偏光子が、本件特許発明3では「ヨウ素」を含有するのに対し、甲13発明ではヨウ素を含有すると限定されていない点。
[相違点13−3−4]
偏光子と粘着剤層との間に設けられた層を構成する熱可塑性樹脂について、本件特許発明3では、「有機溶媒に溶解可能」であって、「ガラス転移温度が110℃以上であり、かつ、重量平均分子量Mwが25000以上150000以下である」とされているのに対し、甲13発明では、有機溶媒に溶解可能であることが特定されておらず、ガラス転移温度及び重量平均分子量も特定されていない点。

イ 判断
事案に鑑みて、[相違点13−3−1]について検討する。
甲13には、「本発明の光学補償層付偏光板は、各種画像表示装置(例えば、液晶表示装置、自発光型表示装置)に好適に使用され得る。」(段落[0255])との記載がある。また、液晶パネルとした実施形態における、ハードコート層を備える光学補償層付偏光板300’の層構成について、「液晶セル20側から順に、粘着剤層38’、易接着層39’、第2の光学補償層13’、第1の光学補償層12’、粘着剤層37’特定の構造単位を含んでなるポリメチルメタタリレート系?脂を含む偏光子保護フィルム34’、易接着層33’、接着剤層32’、偏光子31’、接着剤層35’、セルロース系?脂フィルム36’、ハードコート層500を備える。」(段落[0258])と記載されている。
上記記載事項に基づけば、甲13には、最外層の少なくとも一方として粘着剤層を有し、最外層の一方にハードコート層をさらに有する、光学補償層付偏光板の層構成として、ハードコート層、偏光子、特定の構造単位を含んでなるポリメチルメタタリレート系?脂を含む偏光子保護フィルム、第1の光学補償層、第2の光学補償層、粘着剤層の順に配置することが開示されている。
しかし、第2の光学補償層と粘着剤層との間に、何らかの層を設けることについて、甲13には、記載も示唆もなく、第2の光学補償層と粘着剤層との間にヨウ素の透過を抑制する層を設けることが知られていたことを示す証拠はない。
そうすると、当業者といえども、甲13発明の「第2の光学補償層」と「粘着剤層」との間に、「ヨウ素透過抑制層」を設けることが容易になし得たということができない。
したがって、本件特許発明3に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものとはいえない。

(5)本件特許発明3の記載を引用する本件特許発明7〜13について
本件特許発明3の記載を引用する本件特許発明7〜13は、いずれも、本件特許発明3に限定を付した発明に該当する。そうすると、本件特許発明7〜13と甲13発明とを対比した場合、両者は少なくとも上記[相違点13−3−1]で相違し、上記のとおり、甲13発明において、上記[相違点13−3−1]に係る本件特許発明3の構成を採用することは、当業者であっても容易になし得たことではない。したがって、本件特許発明7〜13に係る特許も、同じ理由により、特許法29条2項の規定に違反してされたものとはいえない。

(6)本件特許発明6について
ア 対比
本件特許発明6と甲13発明とを対比すると、前記(4)ア(カ)に記載した[一致点]で一致し、以下の点で相違する。
[相違点13−6−1]
本件特許発明6では、偏光子を含む偏光板と、位相差層と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有するのに対し、甲13発明では、第1の光学補償層及び第2の光学補償層が、偏光板及び粘着剤層に対し、どのような順で配置されるのかを特定していない点。
[相違点13−6−2]
本件特許発明6の位相差層が、「該偏光子と組み合わされて円偏光機能または楕円偏光機能を奏する液晶化合物の配向固化層」であるのに対し、甲13発明の「第1の光学補償層」及び「第2の光学補償層」が、偏光子と組み合わされて円偏光機能または楕円偏光機能を奏するものであること、及び、液晶化合物の配向固化層であることが、特定されていない点。
[相違点13−6−3]
偏光子が、本件特許発明6では「ヨウ素」を含有するのに対し、甲13発明ではヨウ素を含有すると限定されていない点。
[相違点13−6−4]
偏光子と粘着剤層との間に設けられた層について、本件特許発明6は「ヨウ素透過抑制」層であるのに対し、甲13発明の一般式(1)で表される構造単位と一般式(2)で表される構造単位とを含んでなるアクリル樹脂を含む偏光子保護フィルムは、ヨウ素透過抑制層であるとされていない点。
[相違点13−6−5]
偏光子と粘着剤層との間に設けられた層を構成する熱可塑性樹脂について、本件特許発明6では、「有機溶媒に溶解可能」であって、「ガラス転移温度が110℃以上であり、かつ、重量平均分子量Mwが25000以上150000以下である」とされており、さらに「該ヨウ素透過抑制層を構成する樹脂が、50重量部を超える(メタ)アクリル系単量体と0重量部を超えて50重量部未満の式(1)で表される単量体とを含むモノマー混合物を重合することにより得られる共重合体」であるのに対し、甲13発明では、有機溶媒に溶解可能であることが特定されておらず、式(1)で表される単量体を含むものでなく、ガラス転移温度及び重量平均分子量も特定されていない点。

イ 判断
事案に鑑みて[相違点13−6−5]について検討する。
甲13には、偏光子保護フィルムについて、本件特許発明6の式(1)で表される単量体を含む共重合体とすることについて、記載も示唆もない。また、偏光子保護フィルムについて、本件特許発明6の式(1)で表される単量体を含む共重合体とすることが、当業者に知られていたことを示す証拠はない。
そうすると、当業者といえども、甲13発明の「偏光子保護フィルム」について、本件特許発明6の式(1)で表される単量体を含む共重合体とすることを容易になし得たということができない。
したがって、本件特許発明6に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものとはいえない。

(7)本件特許発明6の記載を引用する本件特許発明7〜13について
本件特許発明6の記載を引用する本件特許発明7〜13は、いずれも、本件特許発明6に限定を付した発明に該当する。そうすると、本件特許発明7〜13と甲13発明とを対比した場合、両者は少なくとも上記[相違点13−6−5]で相違し、上記のとおり、甲13発明において、上記[相違点13−6−5]に係る本件特許発明6の構成を採用することは、当業者であっても容易になし得たことではない。したがって、本件特許発明7〜13に係る特許も、同じ理由により、特許法29条2項の規定に違反してされたものとはいえない。

3 委任省令要件違反についての当審の判断
本件特許の明細書段落【0006】には、「本発明の実施形態によれば、薄型の位相差層付偏光板の所定の位置に特定のヨウ素透過抑制層を設けることにより、当該位相差層付偏光板を画像表示装置に適用した場合に金属部材の腐食を抑制することができる。本発明の実施形態に用いられ得るヨウ素透過抑制層は、樹脂の有機溶媒溶液の塗布膜の固化物または熱硬化物であり、当該ヨウ素透過抑制層を構成する樹脂のガラス転移温度は85℃以上であり、かつ、重量平均分子量Mwは25000以上である。」と記載されている。また、段落【0016】には、「ヨウ素透過抑制層は、樹脂の有機溶媒溶液の塗布膜の固化物または熱硬化物である。さらに、ヨウ素透過抑制層を構成する樹脂のガラス転移温度(Tg)は85℃以上であり、かつ、重量平均分子量Mwは25000以上である。このようなヨウ素透過抑制層を位相差層付偏光板の所定の位置に設けることにより、位相差層付偏光板を画像表示装置に適用した場合に偏光子中のヨウ素が画像表示装置(実質的には、画像表示セル)に移行することを顕著に抑制することができる。その結果、画像表示装置の金属部材(例えば、電極、センサー、配線、金属層)の腐食を顕著に抑制することができる。…本発明者らは、薄型の位相差層付偏光板を画像表示装置に適用した場合に画像表示装置の金属部材が腐食する場合があるという問題を新たに発見し、腐食部分にヨウ素が存在することから、このような金属部材の腐食はヨウ素に起因し得ることを解明した。そして、試行錯誤の結果、ヨウ素の画像表示装置(実質的には、画像表示セル)への移行を防止する手段として、上記のようなヨウ素透過抑制層(特定のTgおよびMwを有する樹脂の有機溶媒溶液の塗布膜の固化層または熱硬化層)が有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。」と記載されている。
これらの記載に基づけば、画像表示装置の金属部材(例えば、電極、センサー、配線、金属層)にヨウ素が移行することを抑制できる層を、位相差層付偏光板の所定の位置に設けることによって、結果として、金属部材の腐食を抑制することができるのであるから、本件特許発明1〜4、6〜13の発明特定事項のうち、位相差層付偏光板の所定の位置に設けられた特定の「ヨウ素透過抑制層」が課題解決手段として機能するものと理解できる。そうすると、本件特許発明1〜4、6〜13の技術的意義は、位相差層付偏光板の所定の位置に設けられた特定の「ヨウ素透過抑制層」にあるといえる。そして、特定のTgおよびMwを有する特定の樹脂を用いた場合に、その効果が良好であることが、実施例の記載から確認されているから、特定のTgおよびMwを有する特定の樹脂であることは、それ自体が技術的意義を有するのではなく、実際に「ヨウ素透過抑制層」として用いた場合に、良好な効果を奏することが確認できた範囲に限定するための要件であると理解できる。
したがって、本件特許発明1〜4、6〜13は、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、画像表示装置に適用した場合に金属部材の腐食を抑制するという課題を、位相差層付偏光板の所定の位置に設けられた特定の「ヨウ素透過抑制層」によって解決することを理解できるものであるから、委任省令要件違反には当たらない。

申立人は、特許異議申立書の3(3−4−3)(i)(第23〜24頁)において、ガラス転移温度を特定する技術上の意義が不明である旨、特許異議申立書の3(3−4−3)(ii)(第24頁)において、樹脂の重量平均]分子量を特定する技術上の意義が不明である旨、主張している。また、令和5年9月20日付けの意見書の3(3−1−1)(第1〜5頁)においても同様の主張をしている。
しかし、本件特許の明細書の記載に基づけば、上記のとおり、位相差層付偏光板の所定の位置に設けられた特定の「ヨウ素透過抑制層」によって課題を解決することが理解できる。また、実施例の記載から、特定のTgおよびMwを有する特定の樹脂を用いた場合に、その効果が良好であることも確認されている。
したがって、本件特許の明細書の記載が、委任省令要件に違反しているということはできないから、申立人の当該主張は採用できない。

4 甲1発明を主引用発明とする進歩性違反についての当審の判断
(1)甲1発明
甲1には、その請求項1及び請求項3を引用する請求項8に係る製造方法により得られる請求項9に係る偏光板の実施例として、次の「偏光板5」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「仮支持体上に、シクロオレフィンポリマー(アペル、三井化学製)及びシクロヘキサンからなるシクロオレフィンポリマー塗布液を塗布、乾燥させて、乾燥後の膜厚は7μmであるシクロオレフィンポリマー含有層を形成して、([0104])
シクロオレフィンポリマー含有層側表面に、アクリル層形成用塗布液を塗布、乾燥して、紫外線を照射して塗布層を硬化させて、膜厚は2.6μmのアクリルポリマー層を形成して、([0108])
アクリルポリマー層側表面に重合性液晶化合物を含む塗布液を塗布して、塗布液の溶媒の乾燥および棒状液晶化合物の配向熟成のために加熱して、その後、紫外線照射を行い、液晶化合物の配向を固定化して、厚みは1.9μmである光学異方性層を形成して、([0111]〜[0114])
ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素水溶液中で延伸し、乾燥して厚さ20μmの偏光膜(偏光子)を得て、([0119])
接着剤を用いて液晶面と偏光膜の片側とを貼り合わせて、貼り合わせた後、仮支持体をシクロオレフィンポリマー含有層との界面で剥離した、厚みは31.5μmである、([0123])
偏光板5。」

(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。

(ア)偏光板
甲1発明の「偏光膜(偏光子)」は、本件特許発明1の「偏光子」に相当し、甲1発明の「偏光膜(偏光子)」(「偏光子」)及び「接着剤」は、あわせて本件特許発明1の「偏光子を含む偏光板」に相当する。また、甲1発明の「偏光膜(偏光子)」(「偏光子」)は、「ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素水溶液中で延伸し、・・・偏光膜(偏光子)を得」るものであるから、本件特許発明1の「該偏光子はヨウ素を含有し、」との要件を満たす。

(イ)位相差層
甲1発明の「光学異方性層」は、本件特許発明1の「位相差層」に相当する。また、甲1発明の「光学異方性層」(「位相差層」)は、「液晶化合物の配向を固定化して、・・・光学異方性層を形成」するものであるから、本件特許発明1の「該位相差層が、」「液晶化合物の配向固化層であり、」との要件を満たす。

(ウ)ヨウ素透過抑制層
本件特許出願時の請求項1の記載及び本件特許明細書の【0050】の記載に基づけば、「樹脂の有機溶媒溶液の塗布膜の固化物または熱硬化物である」ことが「ヨウ素透過抑制層」の定義といえる。
ここで、甲1発明の「シクロオレフィンポリマー含有層」は、「シクロオレフィンポリマー(アペル、三井化学製)」から構成されるものであるから、その構成材料からみて、本件特許発明1の「有機溶媒に溶解可能な熱可塑性樹脂から構成されている」との要件を満たす。また、甲1発明の「シクロオレフィンポリマー含有層」が、液晶化合物を配向させるための配向膜に該当しないことは、甲1発明の偏光板5の全体構成からみて明らかである。
してみれば、上記「ヨウ素透過抑制層」の定義に鑑みて、甲1発明の「シクロオレフィンポリマー含有層」は、本件特許発明1の「ヨウ素透過抑制層(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)」に相当する。

(エ)位相差層付偏光板及び各層の配置順
甲1発明である「偏光板5」は、「偏光膜(偏光子)」(「偏光子」)、「接着剤」、「光学異方性層」(「位相差層」)、「アクリルポリマー層」及び「シクロオレフィンポリマー層」(「ヨウ素透過抑制層」)をこの順に有するものであるから、本件特許発明1の「位相差層付偏光板」に相当し、本件特許発明1の「偏光子を含む偏光板と、位相差層と、」「を」「この順に有し、」との要件を満たす。

(オ)一致点及び相違点
以上より、本件特許発明1と甲1発明とは、次の点で一致し、以下の点で相違する。
[一致点]
「 偏光子を含む偏光板と、位相差層と、をこの順に有し、
該位相差層が、液晶化合物の配向固化層であり、
該偏光子はヨウ素を含有し、
有機溶媒に溶解可能な熱可塑性樹脂から構成されているヨウ素透過抑制層(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)が設けられている、
位相差層付偏光板。」
[相違点1−1−1]
「位相差層」について、本件特許発明1は、「該偏光子と組み合わされて円偏光機能または楕円偏光機能を奏する」ものであるのに対して、甲1発明は「光学異方性層」(「位相差層」)の機能が明らかでない点。
[相違点1−1−2]
「粘着剤層」について、本件特許発明1は、「偏光子を含む偏光板と、位相差層と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し」、また、「該偏光子と該粘着剤層との間に、・・・ヨウ素透過抑制層・・・が設けられて」いるのに対して、甲1発明はそもそも「粘着剤層」を有していることが明らかでない点。
[相違点1−1−3]
ヨウ素透過抑制層を構成する「熱可塑性樹脂」について、本件特許発明1は、「エポキシ系樹脂のみ」からなり、「ガラス転移温度が110℃以上であり、かつ、重量平均分子量Mwが25000以上150000以下である」と特定されるのに対して、甲1発明は「シクロオレフィンポリマー層」(「ヨウ素透過抑制層」)を構成する「シクロオレフィンポリマー(アペル、三井化学製)」が「エポキシ系樹脂」ではなく、「ガラス転移温度」及び「重量平均分子量」が明らかでない点。

イ 判断
事案に鑑みて、[相違点1−1−3]について検討する。
甲1には、発明が解決しようとする課題として、段落[0004]に「本発明は膜厚が小さい偏光板の提供を課題とする。本発明は、特に低複屈折性の薄膜ポリマーフィルムを保護フィルムとして有する偏光板の製造方法の提供を課題とする。」と記載されている。そして、課題を解決するための手段として、段落[0005]に「仮支持体上に塗布製膜することにより、シクロオレフィン系ポリマーフィルムが薄膜で形成可能であり、かつ、仮支持体から欠陥なく剥離可能であることを見出し、その後、さらに検討を重ね、本発明を完成させた。」と記載されている。
当該記載に基づけば、甲1発明は、シクロオレフィン系ポリマーフィルムを保護フィルムとすることを、課題解決手段とするものである。そうすると、当業者といえども、甲1発明のシクロオレフィン系ポリマーを、「エポキシ系樹脂のみ」に変更し、課題解決手段を含まないものとする動機付けがあるとはいえない。そして、甲1発明から、シクロオレフィン系ポリマーを除外すると、課題を解決できないものとなるため、阻害要因があるといえる。
したがって、甲1発明において、上記[相違点1−1−3]に係る本件特許発明1の構成を採用することは、当業者であっても容易になし得たことではないから、本件特許発明1に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものとはいえない。

(3)本件特許発明1の記載を引用する本件特許発明2、4、7〜13について
本件特許発明1の記載を引用する本件特許発明2、4、7〜13は、いずれも、本件特許発明1に限定を付した発明に該当する。そうすると、本件特許発明2、4、7〜13と甲1発明とを対比した場合、両者は少なくとも上記[相違点1−1−3]で相違し、上記のとおり、甲1発明において、上記[相違点1−1−3]に係る本件発明発明1の構成を採用することは、当業者であっても容易になし得たことではない。したがって、本件特許発明2、4、7〜13に係る特許も、同じ理由により、特許法29条2項の規定に違反してされたものとはいえない。

(4)本件特許発明3について
ア 対比
本件特許発明3と甲1発明とを対比すると、前記(2)ア(オ)に記載した[一致点]で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1−3−1]
「位相差層」について、本件特許発明3は、「該偏光子と組み合わされて円偏光機能または楕円偏光機能を奏する」ものであるのに対して、甲1発明は「光学異方性層」(「位相差層」)の機能が明らかでない点。
[相違点1−3−2]
「粘着剤層」について、本件特許発明3は、「偏光子を含む偏光板と、位相差層と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し」、また、「該偏光子と該粘着剤層との間に、・・・ヨウ素透過抑制層・・・が設けられて」おり、さらに「該ヨウ素透過抑制層が、該位相差層と該粘着剤層との間に設けられている」のに対して、甲1発明はそもそも「粘着剤層」を有していることが明らかでない点。
[相違点1−3−3]
ヨウ素透過抑制層を構成する「熱可塑性樹脂」について、本件特許発明1は、「アクリル系樹脂および/またはエポキシ系樹脂」を含み、「ガラス転移温度が110℃以上であり、かつ、重量平均分子量Mwが25000以上150000以下である」と特定されるのに対して、甲1発明は「シクロオレフィンポリマー層」(「ヨウ素透過抑制層」)を構成する「シクロオレフィンポリマー(アペル、三井化学製)」が「アクリル系樹脂」及び「エポキシ系樹脂」のいずれでもなく、「ガラス転移温度」及び「重量平均分子量」が明らかでない点。

イ 判断
事案に鑑みて、[相違点1−3−3]について検討する。
前記(2)イに記載したとおり、甲1の段落[0004]及び段落[0005]の記載に基づけば、甲1発明は、シクロオレフィン系ポリマーフィルムを保護フィルムとすることを、課題解決手段とするものである。そうすると、当業者といえども、甲1発明のシクロオレフィン系ポリマーを、「アクリル系樹脂および/またはエポキシ系樹脂」を含むものに変更する動機付けがあるとはいえない。そして、甲1発明から、シクロオレフィン系ポリマー以外のものを採用すると、課題を解決できないものとなるため、阻害要因があるといえる。
したがって、甲1発明において、上記[相違点1−3−3]に係る本件特許発明3の構成を採用することは、当業者であっても容易になし得たことではないから、本件特許発明1に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものとはいえない。

(5)本件特許発明3の記載を引用する本件特許発明7〜13について
本件特許発明3の記載を引用する本件特許発明7〜13は、いずれも、本件特許発明3に限定を付した発明に該当する。そうすると、本件特許発明7〜13と甲1発明とを対比した場合、両者は少なくとも上記[相違点1−3−3]で相違し、上記のとおり、甲1発明において、上記[相違点1−3−3]に係る本件特許発明3の構成を採用することは、当業者であっても容易になし得たことではない。したがって、本件特許発明7〜13に係る特許も、同じ理由により、特許法29条2項の規定に違反してされたものとはいえない。

(6)本件特許発明6について
ア 対比
本件特許発明6と甲1発明とを対比すると、前記(2)ア(オ)に記載した[一致点]で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1−6−1]
「位相差層」について、本件特許発明6は、「該偏光子と組み合わされて円偏光機能または楕円偏光機能を奏する」ものであるのに対して、甲1発明は「光学異方性層」(「位相差層」)の機能が明らかでない点。
[相違点1−6−2]
「粘着剤層」について、本件特許発明6は、「偏光子を含む偏光板と、位相差層と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し」、また、「該偏光子と該粘着剤層との間に、・・・ヨウ素透過抑制層・・・が設けられて」いるのに対して、甲1発明はそもそも「粘着剤層」を有していることが明らかでない点。
[相違点1−6−3」
ヨウ素透過抑制層を構成する「熱可塑性樹脂」について、本件特許発明6は、「アクリル系樹脂および/またはエポキシ系樹脂」を含み、「ガラス転移温度が110℃以上であり、かつ、重量平均分子量Mwが25000以上150000以下である」とされており、さらに「0重量部を超えて50重量部未満の式(1)で表される単量体とを含むモノマー混合物を重合することにより得られる共重合体」であると特定されるのに対して、甲1発明は「シクロオレフィンポリマー層」(「ヨウ素透過抑制層」)を構成する「シクロオレフィンポリマー(アペル、三井化学製)」が「アクリル系樹脂および/またはエポキシ系樹脂」を含むものでも式(1)で表される単量体を含むものでもなく、「ガラス転移温度」及び「重量平均分子量」が明らかでない点。

イ 判断
事案に鑑みて、[相違点1−6−3]について検討する。
甲1号証には、偏光板の保護フィルムについて、本件特許発明6の式(1)で表される単量体を含む共重合体とすることについて、記載も示唆もない。また、偏光子保護フィルムについて、本件特許発明6の式(1)で表される単量体を含む共重合体とすることが、当業者に知られていたことを示す証拠はない。
そうすると、当業者といえども、甲1発明のシクロオレフィン系ポリマーを、本件特許発明6の式(1)で表される単量体を含む共重合体とすることを容易になし得たということができない。
したがって、本件特許発明6に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものとはいえない。

(7)本件特許発明6の記載を引用する本件特許発明7〜13について
本件特許発明6の記載を引用する本件特許発明7〜13は、いずれも、本件特許発明6に限定を付した発明に該当する。そうすると、本件特許発明7〜13と甲1発明とを対比した場合、両者は少なくとも上記[相違点1−6−3]で相違し、上記のとおり、甲1発明において、上記[相違点1−6−3]に係る本件特許発明6の構成を採用することは、当業者であっても容易になし得たことではない。したがって、本件特許発明7〜13に係る特許も、同じ理由により、特許法29条2項の規定に違反してされたものとはいえない。


第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
明確性要件(特許法36条6項2号
(1)申立人の主張の概要
申立人は、特許異議申立書の3(3−4−2)(第22〜23頁)において、「ヨウ素透過抑制層」について、ヨウ素が透過する程度についてその基準が不明であり、金属腐食性試験が良好であるという結果がヨウ素の透過を抑制することによってもたらされたものであるのか不明である旨主張している。

(2)当合議体の判断
本件特許における「ヨウ素透過抑制層」は、その文言から見て、ヨウ素の透過を抑制する層であれば足りるといえる。本件特許の明細書の記載をみても、「ヨウ素透過抑制層」の範囲を、ヨウ素透過が抑制される程度によって定義する記載は存在しないため、ヨウ素が透過する程度によってその範囲が定められたものではない。ヨウ素透過の抑制が生じるものであればその要件を満たすものと理解できる。
そうすると、ヨウ素が通過する程度についての基準が不明であったとしても、そのことが直ちに「ヨウ素透過抑制層」の範囲の解釈を不明確にするものではない。また、金属腐食性試験とヨウ素透過抑制との因果関係が明らかでないとしても、そのことによって「ヨウ素透過抑制層」の意味が不明確になるものでもない。
したがって、本件特許における「ヨウ素透過抑制層」の範囲は明確であるから、本件特許発明1〜4、6〜13に係る特許が、特許法36条6項2号の規定に違反してなされたものということはできない。

2 サポート要件(特許法36条6項1号
(1)ヨウ素透過抑制層の厚さ
ア 申立人の主張の概要
申立人は、特許異議申立書の3(3−4−4)(i)(第24〜25頁)において、ヨウ素透過抑制層の厚さについての特定が不十分な点があり、ヨウ素の透過を抑制できない態様や、課題である薄型化を達成できない態様を含んでいると主張している。

イ 当合議体の判断
本件特許の明細書段落【0002】には、背景技術として、「最近、画像表示装置の薄型化への要望が強くなるに伴って、位相差層付偏光板についても薄型化の要望が強まっている。位相差層付偏光板の薄型化を目的として、厚みに対する寄与の大きい偏光子の保護層の薄型化(または省略)ならびに位相差フィルムの薄型化が進んでいる。しかし、薄型の位相差層付偏光板を画像表示装置に適用すると、画像表示装置の金属部材(例えば、電極、センサー、配線、金属層)が腐食する場合がある。このような金属部材の腐食は、高温高湿環境下で顕著である。」と記載されており、段落【0004】には、発明が解決しようとする課題として、「本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、画像表示装置に適用した場合に金属部材の腐食を抑制し得る薄型の位相差層付偏光板を提供することにある。」と記載されている。また、段落【0121】には、「さらに、参考例1から明らかなように、このような金属腐食性は、非常に薄型の位相差層付偏光板に特有の課題であることがわかる。」と記載されている。
これらの記載に基づけば、発明が解決しようとする課題における「薄型」の位相差層付偏光板との記載は、「金属部材の腐食」が発生する前提条件を説明したものであることは明らかであり、従来から進んでいたとされる薄膜化を、本件特許が課題としていると理解することはできない。そうすると、本件特許が解決しようとする課題は、画像表示装置に適用した場合に金属部材の腐食を抑制し得ることである。そして、本件特許において特定された「ヨウ素透過抑制層」を薄型の位相差層付偏光板の所定の位置に設けた場合に、金属部剤の腐食が抑制できることは、実施例によって確認されている。また、極めて薄い「ヨウ素透過抑制層」であったとしても、「ヨウ素透過抑制層」が存在しないものと比較してヨウ素透過が抑制されることは容易に理解できるから、本件特許における効果を奏すると推認できる。
したがって、本件特許発明1〜4、6〜13が、発明が解決しようとする課題を解決することができると理解できるから、本件特許発明1〜4、6〜13に係る特許が、特許法36条6項1号の規定に違反してされたものとはいえない。

(2)ヨウ素透過抑制層を設ける態様
ア 申立人の主張の概要
申立人は、特許異議申立書の3(3−4−4)(ii)(第25頁)において、ヨウ素透過抑制層は、本件特許明細書中に記載のない、Tダイによって形成されたフィルムを貼り合わせることによって形成された層も含まれるから、本件特許発明は本件特許明細書に記載された範囲を超えると主張している。

イ 当合議体の判断
本件特許発明1、本件特許発明3、及び、本件特許発明6は、「有機溶媒に溶解可能な熱可塑性樹脂から構成されているヨウ素透過抑制層(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)」を構成要件としている。本件特許発明1、本件特許発明3、又は、本件特許発明6の記載を引用する本件特許発明2、4、7〜13についても同様である。
一方、本件特許の明細書における段落【0052】には、「ヨウ素透過抑制層を構成する樹脂としては、有機溶媒溶液の塗布膜の固化物または熱硬化物を形成可能であり、かつ上記のようなTgおよびMwを有する限りにおいて、任意の適切な熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を用いることができる。」と記載されている。技術的にみて、特定のTg及びMwを有する熱可塑性樹脂からなる「ヨウ素透過抑制層」がTダイによって形成されたフィルムであったとしても、「ヨウ素透過抑制層」が存在しないものと比較してヨウ素透過が抑制されることは、塗布膜の固化物または熱硬化物からなる「ヨウ素透過抑制層」を用いた場合と同じであるから、新たな技術的事項を導入するものではなく、また、このような態様が裏付けられていないともいえない。そして、熱可塑性樹脂が有機溶媒溶液の塗布膜から形成可能であることは、熱可塑性樹脂が有機溶媒に溶解可能であることを意味することは明らかである。そうすると、本件特許の明細書には、「有機溶媒に溶解可能な熱可塑性樹脂」から「ヨウ素透過抑制層」が構成されることが開示されていたといえる。
したがって、本件特許発明1〜4、6〜13における「有機溶媒に溶解可能な熱可塑性樹脂から構成されているヨウ素透過抑制層(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)」は、発明の詳細な説明に記載された範囲のものであるから、本件特許発明1〜4、6〜13に係る特許は、特許法36条6項1号の規定に違反してされたものとはいえない。

なお、申立人は、特許異議申立書の3(3−4−4)(ii)(第25頁)において、「なお、このことから当該補正は、発明の範囲が広がる、いわゆる新規事項の追加に該当するとも言える。」と主張しており、令和4年7月1日付けの手続補正が、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正であると主張するようにも解釈できる。
そこで、当該手続補正が新規事項を追加するものであったかについて念のため検討すると、当該手続補正は、本件特許発明1〜4、6〜13は、位相差層付偏光板、又は、位相差層付偏光板を備える画像表示装置に係る発明の構成である「ヨウ素透過抑制層」の要件を変更するものであるが、「ヨウ素透過抑制層」の要件を変更したことにより、補正後の「ヨウ素透過抑制層」が、明細書に記載のない新たな機能や効果を備えたものとなるとはいえない(新たな技術的事項を導入するものとはいえない)。そうすると、当該手続補正による補正は、「(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)」とする手続補正と同様に、位相差層付偏光板、又は、位相差層付偏光板を備える画像表示装置に係る発明に、新たな技術的事項を導入したということができない。
したがって、仮に申立人の主張が、令和4年7月1日付けの手続補正が、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正であると主張するものであったと解釈しても、請求項1〜4、6〜13に係る特許が、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものということはできない。


第6 むすび
以上のとおり、取消理由に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許発明1〜4、6〜13に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件特許発明1〜4、6〜13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項5に係る特許は、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てのうち、請求項5に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】位相差層付偏光板およびそれを用いた画像表示装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差層付偏光板およびそれを用いた画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置およびエレクトロルミネセンス(EL)表示装置(例えば、有機EL表示装置、無機EL表示装置)に代表される画像表示装置が急速に普及している。画像表示装置には、代表的には偏光板および位相差板が用いられている。実用的には、偏光板と位相差板とを一体化した位相差層付偏光板が広く用いられているところ(例えば、特許文献1)、最近、画像表示装置の薄型化への要望が強くなるに伴って、位相差層付偏光板についても薄型化の要望が強まっている。位相差層付偏光板の薄型化を目的として、厚みに対する寄与の大きい偏光子の保護層の薄型化(または省略)ならびに位相差フィルムの薄型化が進んでいる。しかし、薄型の位相差層付偏光板を画像表示装置に適用すると、画像表示装置の金属部材(例えば、電極、センサー、配線、金属層)が腐食する場合がある。このような金属部材の腐食は、高温高湿環境下で顕著である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】 特許第3325560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、画像表示装置に適用した場合に金属部材の腐食を抑制し得る薄型の位相差層付偏光板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の位相差層付偏光板は、偏光子を含む偏光板と、位相差層と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し、該位相差層は円偏光機能または楕円偏光機能を有する液晶化合物の配向固化層である。位相差層付偏光板においては、該偏光子と該粘着剤層との間に、樹脂の有機溶媒溶液の塗布膜の固化物または熱硬化物であるヨウ素透過抑制層が設けられており、該ヨウ素透過抑制層を構成する樹脂のガラス転移温度は85℃以上であり、かつ、重量平均分子量Mwは25000以上である。
1つの実施形態においては、上記ヨウ素透過抑制層は、上記偏光子と上記位相差層との間に設けられている。別の実施形態においては、上記ヨウ素透過抑制層は、上記位相差層と上記粘着剤層との間に設けられている。
1つの実施形態においては、上記ヨウ素透過抑制層は、上記偏光子と上記粘着剤層との間に2層以上設けられている。
1つの実施形態においては、上記ヨウ素透過抑制層の厚みは0.05μm〜10μmである。
1つの実施形態においては、上記ヨウ素透過抑制層を構成する樹脂のガラス転移温度は90℃以上である。
1つの実施形態においては、上記ヨウ素透過抑制層を構成する樹脂は、50重量部を超える(メタ)アクリル系単量体と0重量部を超えて50重量部未満の式(1)で表される単量体とを含むモノマー混合物を重合することにより得られる共重合体を含む:
【化1】

(式中、Xはビニル基、(メタ)アクリル基、スチリル基、(メタ)アクリルアミド基、ビニルエーテル基、エポキシ基、オキセタン基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルデヒド基、および、カルボキシル基からなる群より選択される少なくとも1種の反応性基を含む官能基を表し、R1およびR2はそれぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよいアリール基、または、置換基を有していてもよいヘテロ環基を表し、R1およびR2は互いに連結して環を形成してもよい)。
1つの実施形態においては、上記位相差層は単一層であり、該位相差層のRe(550)は100nm〜190nmであり、該位相差層の遅相軸と上記偏光子の吸収軸とのなす角度は40°〜50°である。
1つの実施形態においては、上記位相差層は、第1の液晶化合物の配向固化層と第2の液晶化合物の配向固化層との積層構造を有し;該第1の液晶化合物の配向固化層のRe(550)は200nm〜300nmであり、その遅相軸と上記偏光子の吸収軸とのなす角度は10°〜20°であり;該第2の液晶化合物の配向固化層のRe(550)は100nm〜190nmであり、その遅相軸と該偏光子の吸収軸とのなす角度は70°〜80°である。
1つの実施形態においては、上記位相差層付偏光板は、上記位相差層と上記粘着剤層との間に別の位相差層をさらに有し、該別の位相差層の屈折率特性はnz>nx=nyの関係を示す。
1つの実施形態においては、上記位相差層付偏光板は、上記ヨウ素透過抑制層と上記粘着剤層との間に導電層または導電層付等方性基材をさらに有する。
1つの実施形態においては、上記位相差層付偏光板は、総厚みが60μm以下である。
本発明の別の局面によれば、画像表示装置が提供される。この画像表示装置は、上記の位相差層付偏光板を備える。
1つの実施形態においては、上記画像表示装置は、有機エレクトロルミネセンス表示装置または無機エレクトロルミネセンス表示装置である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の実施形態によれば、薄型の位相差層付偏光板の所定の位置に特定のヨウ素透過抑制層を設けることにより、当該位相差層付偏光板を画像表示装置に適用した場合に金属部材の腐食を抑制することができる。本発明の実施形態に用いられ得るヨウ素透過抑制層は、樹脂の有機溶媒溶液の塗布膜の固化物または熱硬化物であり、当該ヨウ素透過抑制層を構成する樹脂のガラス転移温度は85℃以上であり、かつ、重量平均分子量Mwは25000以上である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1A】
本発明の1つの実施形態による位相差層付偏光板の概略断面図である。
【図1B】
本発明の別の実施形態による位相差層付偏光板の概略断面図である。
【図2】
本発明のさらに別の実施形態による位相差層付偏光板の概略断面図である。
【図3】
本発明のさらに別の実施形態による位相差層付偏光板の概略断面図である。
【図4】
本発明のさらに別の実施形態による位相差層付偏光板の概略断面図である。
【図5】
本発明のさらに別の実施形態による位相差層付偏光板の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0009】
(用語および記号の定義)
本明細書における用語および記号の定義は下記の通りである。
(1)屈折率(nx、ny、nz)
「nx」は面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、「ny」は面内で遅相軸と直交する方向(すなわち、進相軸方向)の屈折率であり、「nz」は厚み方向の屈折率である。
(2)面内位相差(Re)
「Re(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定した面内位相差である。例えば、「Re(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した面内位相差である。Re(λ)は、層(フィルム)の厚みをd(nm)としたとき、式:Re(λ)=(nx−ny)×dによって求められる。
(3)厚み方向の位相差(Rth)
「Rth(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定した厚み方向の位相差である。例えば、「Rth(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した厚み方向の位相差である。Rth(λ)は、層(フィルム)の厚みをd(nm)としたとき、式:Rth(λ)=(nx−nz)×dによって求められる。
(4)Nz係数
Nz係数は、Nz=Rth/Reによって求められる。
(5)角度
本明細書において角度に言及するときは、当該角度は基準方向に対して時計回りおよび反時計回りの両方を包含する。したがって、例えば「45°」は±45°を意味する。
【0010】
A.位相差層付偏光板の全体構成
図1Aは、本発明の1つの実施形態による位相差層付偏光板の概略断面図であり;図1Bは、本発明の別の実施形態による位相差層付偏光板の概略断面図である。図1Aおよび図1Bの位相差層付偏光板100、101はそれぞれ、偏光板10と位相差層20と粘着剤層30とを視認側からこの順に有する。偏光板10は、代表的には、偏光子11と、偏光子11の視認側に配置された保護層12と、を含む。目的に応じて、偏光子11の視認側(保護層12)と反対側に別の保護層(図示せず)が設けられてもよい。位相差層20は、円偏光機能または楕円偏光機能を有する液晶化合物の配向固化層(以下、単に液晶配向固化層と称する場合がある)である。粘着剤層30は最外層として設けられ、位相差層付偏光板は画像表示装置(実質的には、画像表示セル)に貼り付け可能とされている。
【0011】
本発明の実施形態においては、偏光子11と粘着剤層30との間に、ヨウ素透過抑制層40が設けられている。ヨウ素透過抑制層40は、図1Aに示すように偏光子11と位相差層20との間に(すなわち、偏光子11に隣接して)設けられてもよく、図1Bに示すように位相差層20と粘着剤層30との間に設けられてもよい。ヨウ素透過抑制層を偏光子と位相差層との間に設ける場合(特に、偏光子にヨウ素透過抑制層を隣接させる場合)には、高温高湿環境下における偏光子からのヨウ素移行抑制が可能となり信頼性が向上するという利点がある。ヨウ素透過抑制層を位相差層と粘着剤層との間に設ける場合(特に、粘着剤層にヨウ素透過抑制層を隣接させる場合)には、ヨウ素以外の金属腐食に影響すると考えられる成分(例えば、紫外線硬化接着剤中の残渣モノマー成分、光開始剤の分解物)についても同時に粘着剤中への移行を防止可能であり、金属腐食抑制効果がさらに高まるという利点がある。
【0012】
位相差層付偏光板においては、偏光子と粘着剤層との間に、ヨウ素透過抑制層が2層以上設けられてもよい(例えば、図4および図5)。位相差層付偏光板が2層以上のヨウ素透過抑制層を有することにより、位相差層付偏光板を画像表示装置に適用した場合に金属部材の腐食を顕著に抑制することができる。
【0013】
図4に示す位相差層付偏光板においては、偏光子と粘着剤層との間に、ヨウ素透過抑制層が2層設けられている。図4に示す例においては、ヨウ素透過抑制層は、偏光子11と位相差層20との間、および、位相差層20と粘着剤層30との間に2層が設けられている。1つの実施形態においては、ヨウ素透過抑制層は偏光子に隣接して設けられている。別の実施形態においては、ヨウ素透過抑制層は位相差層に隣接して設けられている。本明細書において「隣接している」とは、接着層等を介さず直接積層されていることをいう。
【0014】
図5に示す位相差層付偏光板においては、偏光子と粘着剤層との間に、ヨウ素透過抑制層が3層設けられている。図5に示す例においては、ヨウ素透過抑制層は、偏光子11と位相差層20との間に2層が設けられ、位相差層20と粘着剤層30との間に1層が設けられている。偏光子11と位相差層20との間の2層のヨウ素透過抑制層は、一方は偏光子に隣接して設けられ、もう一方は位相差層に隣接して設けられている。
【0015】
位相差層付偏光板においては、ヨウ素透過抑制層が4層以上(例えば、4層、5層、6層)であってもよい。ヨウ素透過抑制層の数が多いほど、金属腐食抑制効果を高めることができる。ヨウ素透過抑制層の数は、コスト、製造効率、位相差層付偏光板の総厚み等を考慮して設定され得る。
【0016】
ヨウ素透過抑制層は、樹脂の有機溶媒溶液の塗布膜の固化物または熱硬化物である。さらに、ヨウ素透過抑制層を構成する樹脂のガラス転移温度(Tg)は85℃以上であり、かつ、重量平均分子量Mwは25000以上である。このようなヨウ素透過抑制層を位相差層付偏光板の所定の位置に設けることにより、位相差層付偏光板を画像表示装置に適用した場合に偏光子中のヨウ素が画像表示装置(実質的には、画像表示セル)に移行することを顕著に抑制することができる。その結果、画像表示装置の金属部材(例えば、電極、センサー、配線、金属層)の腐食を顕著に抑制することができる。このような効果は、薄型の位相差層付偏光板(代表的には、位相差層が液晶配向固化層である位相差層付偏光板)に特有の効果である。すなわち、本発明者らは、薄型の位相差層付偏光板を画像表示装置に適用した場合に画像表示装置の金属部材が腐食する場合があるという問題を新たに発見し、腐食部分にヨウ素が存在することから、このような金属部材の腐食はヨウ素に起因し得ることを解明した。そして、試行錯誤の結果、ヨウ素の画像表示装置(実質的には、画像表示セル)への移行を防止する手段として、上記のようなヨウ素透過抑制層(特定のTgおよびMwを有する樹脂の有機溶媒溶液の塗布膜の固化層または熱硬化層)が有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、このような効果は、従来知られていなかった新たな課題を解決するものであり、予期せぬ優れた効果である。さらに、後述するように、ヨウ素透過抑制層は非常に薄く形成することができ、かつ、ヨウ素透過抑制層を設けることにより視認側と反対側の保護層を省略することができるので、これらの相乗的な効果により、位相差層付偏光板のさらなる薄型化にも寄与し得る。
【0017】
図2に示すように、さらに別の実施形態による位相差層付偏光板102においては、別の位相差層50ならびに/あるいは導電層または導電層付等方性基材60が設けられてもよい。別の位相差層50は、代表的には、位相差20と粘着剤層30との間(すなわち、位相差層20の外側)に設けられる。別の位相差層は、代表的には、屈折率特性がnz>nx=nyの関係を示す。導電層または導電層付等方性基材60は、代表的には、ヨウ素透過抑制層40と粘着剤層30との間(すなわち、ヨウ素透過抑制層40の外側)に設けられる。別の位相差層50ならびに導電層または導電層付等方性基材60は、代表的には、位相差層20側からこの順に設けられる。図示例においては、ヨウ素透過抑制層40、位相差層20、別の位相差層50、ならびに導電層または導電層付等方性基材60が視認側からこの順に設けられているが、別の位相差層50が位相差20と粘着剤層30との間に設けられ、導電層または導電層付等方性基材60がヨウ素透過抑制層40と粘着剤層30との間に設けられる限りにおいて、任意の適切な配置順序が採用され得る。別の位相差層50ならびに導電層または導電層付等方性基材60は、代表的には、必要に応じて設けられる任意の層であり、いずれか一方または両方が省略されてもよい。なお、便宜上、位相差層20を第1の位相差層と称し、別の位相差層50を第2の位相差層と称する場合がある。導電層または導電層付等方性基材が設けられる場合、位相差層付偏光板は、画像表示セル(例えば、有機ELセル)と偏光板との間にタッチセンサが組み込まれた、いわゆるインナータッチパネル型入力表示装置に適用され得る。本発明の実施形態においては、導電層または導電層付等方性基材60をヨウ素透過抑制層40の外側に設けることにより、導電層の腐食が顕著に抑制され得る。
【0018】
上記のとおり、第1の位相差層20は液晶配向固化層である。第1の位相差層20は図1A、図1Bおよび図2に示すような単一層であってもよく、図3に示すような第1の液晶配向固化層21と第2の液晶配向固化層22との積層構造を有していてもよい。
【0019】
上記の実施形態は適宜組み合わせてもよく、上記の実施形態における構成要素に当業界で自明の改変を加えてもよい。例えば、図1Bの位相差層付偏光板101に第2の位相差層50ならびに/あるいは導電層または導電層付等方性基材60が設けられてもよく;図1Bの位相差層付偏光板101の位相差層20が図3のような2層構造を有していてもよく;図3の位相差層付偏光板103に第2の位相差層50ならびに/あるいは導電層または導電層付等方性基材60が設けられてもよく;図2の位相差層付偏光板102のヨウ素透過抑制層40が位相差層20と導電層または導電層付等方性基材60との間に設けられてもよい。
【0020】
本発明の実施形態による位相差層付偏光板は、その他の位相差層をさらに含んでいてもよい。その他の位相差層の光学的特性(例えば、屈折率特性、面内位相差、Nz係数、光弾性係数)、厚み、配置位置等は、目的に応じて適切に設定され得る。
【0021】
本発明の実施形態による位相差層付偏光板は、枚葉状であってもよく長尺状であってもよい。本明細書において「長尺状」とは、幅に対して長さが十分に長い細長形状を意味し、例えば、幅に対して長さが10倍以上、好ましくは20倍以上の細長形状を含む。長尺状の位相差層付偏光板は、ロール状に巻回可能である。
【0022】
位相差層付偏光板の総厚みは、好ましくは60μm以下であり、より好ましくは55μm以下であり、さらに好ましくは50μm以下であり、特に好ましくは40μm以下である。総厚みの下限は、例えば28μmであり得る。本発明の実施形態によれば、このようにきわめて薄い位相差層付偏光板を実現することができ、さらに、このようなきわめて薄い位相差層付偏光板を画像表示装置に適用した場合であっても、画像表示装置の金属部材(例えば、電極、センサー、配線、金属層)の腐食を顕著に抑制することができる。また、このような位相差層付偏光板は、きわめて優れた可撓性および折り曲げ耐久性を有し得る。したがって、このような位相差層付偏光板は、湾曲した画像表示装置および/または折り曲げもしくは折り畳み可能な画像表示装置に特に好適に適用され得る。なお、位相差層付偏光板の総厚みとは、偏光板、位相差層(第1の位相差層および存在する場合には第2の位相差層)、ヨウ素透過抑制層およびこれらを積層するための接着剤層または粘着剤層の厚みの合計をいう(すなわち、位相差層付偏光板の総厚みは、導電層または導電層付等方性基材60、ならびに、粘着剤層30およびその表面に仮着され得る剥離フィルムの厚みを含まない)。
【0023】
実用的には、粘着剤層30の表面には、位相差層付偏光板が使用に供されるまで、剥離フィルムが仮着されていることが好ましい。剥離フィルムを仮着することにより、粘着剤層を保護するとともに、位相差層付偏光板のロール形成が可能となる。
【0024】
以下、位相差層付偏光板の構成要素について、より詳細に説明する。なお、粘着剤層30については業界で周知の構成が採用され得るので、粘着剤層の詳細な構成については記載を省略する。
【0025】
B.偏光板
B−1.偏光子
偏光子は、代表的には、二色性物質を含むポリビニルアルコール(PVA)系樹脂フィルムで構成される。偏光子の厚みは、好ましくは1μm〜8μmであり、より好ましくは1μm〜7μmであり、さらに好ましくは2μm〜5μmである。偏光子の厚みがこのような範囲であれば、位相差層付偏光板の薄型化に大きく貢献し得る。さらに、このような偏光子を用いる薄型の位相差層付偏光板において、本発明の効果が顕著である。
【0026】
偏光子のホウ酸含有量は、好ましくは10重量%以上であり、より好ましくは13重量%〜25重量%である。偏光子のホウ酸含有量がこのような範囲であれば、後述のヨウ素含有量との相乗的な効果により、貼り合わせ時のカール調整の容易性を良好に維持し、かつ、加熱時のカールを良好に抑制しつつ、加熱時の外観耐久性を改善することができる。ホウ酸含有量は、例えば、中和法から下記式を用いて、単位重量当たりの偏光子に含まれるホウ酸量として算出することができる。
【数1】

【0027】
偏光子のヨウ素含有量は、好ましくは2重量%以上であり、より好ましくは2重量%〜10重量%である。偏光子のヨウ素含有量がこのような範囲であれば、上記のホウ酸含有量との相乗的な効果により、貼り合わせ時のカール調整の容易性を良好に維持し、かつ、加熱時のカールを良好に抑制しつつ、加熱時の外観耐久性を改善することができる。本明細書において「ヨウ素含有量」とは、偏光子(PVA系樹脂フィルム)中に含まれるすべてのヨウ素の量を意味する。より具体的には、偏光子中においてヨウ素はヨウ素イオン(I−)、ヨウ素分子(I2)、ポリヨウ素イオン(I3−、I5−)等の形態で存在するところ、本明細書におけるヨウ素含有量は、これらの形態をすべて包含したヨウ素の量を意味する。ヨウ素含有量は、例えば、蛍光X線分析の検量線法により算出することができる。なお、ポリヨウ素イオンは、偏光子中でPVA−ヨウ素錯体を形成した状態で存在している。このような錯体が形成されることにより、可視光の波長範囲において吸収二色性が発現し得る。具体的には、PVAと三ヨウ化物イオンとの錯体(PVA・I3−)は470nm付近に吸光ピークを有し、PVAと五ヨウ化物イオンとの錯体(PVA・I5−)は600nm付近に吸光ピークを有する。結果として、ポリヨウ素イオンは、その形態に応じて可視光の幅広い範囲で光を吸収し得る。一方、ヨウ素イオン(I−)は230nm付近に吸光ピークを有し、可視光の吸収には実質的には関与しない。したがって、PVAとの錯体の状態で存在するポリヨウ素イオンが、主として偏光子の吸収性能に関与し得る。
【0028】
偏光子は、好ましくは、波長380nm〜780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光子の単体透過率Tsは、好ましくは40%〜48%であり、より好ましくは41%〜46%である。偏光子の偏光度Pは、好ましくは97.0%以上であり、より好ましくは99.0%以上であり、さらに好ましくは99.9%以上である。上記単体透過率は、代表的には、紫外可視分光光度計を用いて測定し、視感度補正を行なったY値である。上記偏光度は、代表的には、紫外可視分光光度計を用いて測定して視感度補正を行なった平行透過率Tpおよび直交透過率Tcに基づいて、下記式により求められる。
偏光度(%)={(Tp−Tc)/(Tp+Tc)}1/2×100
【0029】
偏光子は、代表的には、二層以上の積層体を用いて作製され得る。積層体を用いて得られる偏光子の具体例としては、樹脂基材と当該樹脂基材に塗布形成されたPVA系樹脂層との積層体を用いて得られる偏光子が挙げられる。樹脂基材と当該樹脂基材に塗布形成されたPVA系樹脂層との積層体を用いて得られる偏光子は、例えば、PVA系樹脂溶液を樹脂基材に塗布し、乾燥させて樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成して、樹脂基材とPVA系樹脂層との積層体を得ること;当該積層体を延伸および染色してPVA系樹脂層を偏光子とすること;により作製され得る。延伸は、代表的には積層体をホウ酸水溶液中に浸漬させて延伸することを含む。さらに、延伸は、必要に応じて、ホウ酸水溶液中での延伸の前に積層体を高温(例えば、95℃以上)で空中延伸することをさらに含み得る。得られた樹脂基材/偏光子の積層体はそのまま用いてもよく(すなわち、樹脂基材を偏光子の保護層としてもよく)、樹脂基材/偏光子の積層体から樹脂基材を剥離し、当該剥離面に目的に応じた任意の適切な保護層を積層して用いてもよい。このような偏光子の製造方法の詳細は、例えば特開2012−73580号公報、特許第6470455号に記載されている。これらの公報は、その全体の記載が本明細書に参考として援用される。
【0030】
偏光子の製造方法は、代表的には、長尺状の熱可塑性樹脂基材の片側に、ハロゲン化物とポリビニルアルコール系樹脂とを含むポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層体とすること、および、上記積層体に、空中補助延伸処理と、染色処理と、水中延伸処理と、長手方向に搬送しながら加熱することにより幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理と、をこの順に施すことを含む。これにより、非常に薄型で、優れた光学特性を有するとともに光学特性のバラつきが抑制された偏光子が提供され得る。すなわち、補助延伸を導入することにより、熱可塑性樹脂上にPVAを塗布する場合でも、PVAの結晶性を高めることが可能となり、高い光学特性を達成することが可能となる。また、同時にPVAの配向性を事前に高めることで、後の染色工程や延伸工程で水に浸漬された時に、PVAの配向性の低下や溶解などの問題を防止することができ、高い光学特性を達成することが可能になる。さらに、PVA系樹脂層を液体に浸漬した場合において、PVA系樹脂層がハロゲン化物を含まない場合に比べて、ポリビニルアルコール分子の配向の乱れ、および配向性の低下が抑制され得る。これにより、染色処理および水中延伸処理など、積層体を液体に浸漬して行う処理工程を経て得られる偏光子の光学特性を向上し得る。さらに、乾燥収縮処理により積層体を幅方向に収縮させることにより、光学特性を向上させることができる。
【0031】
B−2.保護層
保護層12は、偏光子の保護層として使用できる任意の適切なフィルムで形成される。当該フィルムの主成分となる材料の具体例としては、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂や、ポリエステル系、ポリビニルアルコール系、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテルスルホン系、ポリスルホン系、ポリスチレン系、ポリノルボルネン系、ポリオレフィン系、(メタ)アクリル系、アセテート系等の透明樹脂等が挙げられる。また、(メタ)アクリル系、ウレタン系、(メタ)アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂等も挙げられる。この他にも、例えば、シロキサン系ポリマー等のガラス質系ポリマーも挙げられる。また、特開2001−343529号公報(WO01/37007)に記載のポリマーフィルムも使用できる。このフィルムの材料としては、例えば、側鎖に置換または非置換のイミド基を有する熱可塑性樹脂と、側鎖に置換または非置換のフェニル基ならびにニトリル基を有する熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物が使用でき、例えば、イソブテンとN−メチルマレイミドからなる交互共重合体と、アクリロニトリル・スチレン共重合体とを有する樹脂組成物が挙げられる。当該ポリマーフィルムは、例えば、上記樹脂組成物の押出成形物であり得る。
【0032】
位相差層付偏光板は、後述するように代表的には画像表示装置の視認側に配置され、保護層12は、代表的にはその視認側に配置される。したがって、保護層12には、必要に応じて、ハードコート処理、反射防止処理、スティッキング防止処理、アンチグレア処理等の表面処理が施されていてもよい。さらに/あるいは、保護層12には、必要に応じて、偏光サングラスを介して視認する場合の視認性を改善する処理(代表的には、(楕)円偏光機能を付与すること、超高位相差を付与すること)が施されていてもよい。このような処理を施すことにより、偏光サングラス等の偏光レンズを介して表示画面を視認した場合でも、優れた視認性を実現することができる。したがって、位相差層付偏光板は、屋外で用いられ得る画像表示装置にも好適に適用され得る。
【0033】
保護層の厚みは、好ましくは10μm〜50μm、より好ましくは10μm〜30μmである。なお、表面処理が施されている場合、外側保護層の厚みは、表面処理層の厚みを含めた厚みである。
【0034】
C.第1の位相差層
第1の位相差層20は、上記のとおり、液晶配向固化層である。液晶化合物を用いることにより、得られる位相差層のnxとnyとの差を非液晶材料に比べて格段に大きくすることができるので、所望の面内位相差を得るための位相差層の厚みを格段に小さくすることができる。その結果、位相差層付偏光板のさらなる薄型化を実現することができる。本明細書において「液晶配向固化層」とは、液晶化合物が層内で所定の方向に配向し、その配向状態が固定されている層をいう。なお、「配向固化層」は、後述のように液晶モノマーを硬化させて得られる配向硬化層を包含する概念である。本実施形態においては、代表的には、棒状の液晶化合物が第1の位相差層の遅相軸方向に並んだ状態で配向している(ホモジニアス配向)。
【0035】
液晶化合物としては、例えば、液晶相がネマチック相である液晶化合物(ネマチック液晶)が挙げられる。このような液晶化合物として、例えば、液晶ポリマーや液晶モノマーが使用可能である。液晶化合物の液晶性の発現機構は、リオトロピックでもサーモトロピックでもどちらでもよい。液晶ポリマーおよび液晶モノマーは、それぞれ単独で用いてもよく、組み合わせてもよい。
【0036】
液晶化合物が液晶モノマーである場合、当該液晶モノマーは、重合性モノマーおよび架橋性モノマーであることが好ましい。液晶モノマーを重合または架橋(すなわち、硬化)させることにより、液晶モノマーの配向状態を固定できるからである。液晶モノマーを配向させた後に、例えば、液晶モノマー同士を重合または架橋させれば、それによって上記配向状態を固定することができる。ここで、重合によりポリマーが形成され、架橋により3次元網目構造が形成されることとなるが、これらは非液晶性である。したがって、形成された第1の位相差層は、例えば、液晶性化合物に特有の温度変化による液晶相、ガラス相、結晶相への転移が起きることはない。その結果、第1の位相差層は、温度変化に影響されない、極めて安定性に優れた位相差層となる。
【0037】
液晶モノマーが液晶性を示す温度範囲は、その種類に応じて異なる。具体的には、当該温度範囲は、好ましくは40℃〜120℃であり、さらに好ましくは50℃〜100℃であり、最も好ましくは60℃〜90℃である。
【0038】
上記液晶モノマーとしては、任意の適切な液晶モノマーが採用され得る。例えば、特表2002−533742(WO00/37585)、EP358208(US5211877)、EP66137(US4388453)、WO93/22397、EP0261712、DE19504224、DE4408171、およびGB2280445等に記載の重合性メソゲン化合物等が使用できる。このような重合性メソゲン化合物の具体例としては、例えば、BASF社の商品名LC242、Merck社の商品名E7、Wacker−Chem社の商品名LC−Sillicon−CC3767が挙げられる。液晶モノマーとしては、例えばネマチック性液晶モノマーが好ましい。
【0039】
液晶配向固化層は、所定の基材の表面に配向処理を施し、当該表面に液晶化合物を含む塗工液を塗工して当該液晶化合物を上記配向処理に対応する方向に配向させ、当該配向状態を固定することにより形成され得る。1つの実施形態においては、基材は任意の適切な樹脂フィルムであり、当該基材上に形成された液晶配向固化層は、隣接層(例えば、偏光子、ヨウ素透過抑制層)の表面に転写され得る。
【0040】
上記配向処理としては、任意の適切な配向処理が採用され得る。具体的には、機械的な配向処理、物理的な配向処理、化学的な配向処理が挙げられる。機械的な配向処理の具体例としては、ラビング処理、延伸処理が挙げられる。物理的な配向処理の具体例としては、磁場配向処理、電場配向処理が挙げられる。化学的な配向処理の具体例としては、斜方蒸着法、光配向処理が挙げられる。各種配向処理の処理条件は、目的に応じて任意の適切な条件が採用され得る。
【0041】
液晶化合物の配向は、液晶化合物の種類に応じて液晶相を示す温度で処理することにより行われる。このような温度処理を行うことにより、液晶化合物が液晶状態をとり、基材表面の配向処理方向に応じて当該液晶化合物が配向する。
【0042】
配向状態の固定は、1つの実施形態においては、上記のように配向した液晶化合物を冷却することにより行われる。液晶化合物が重合性モノマーまたは架橋性モノマーである場合には、配向状態の固定は、上記のように配向した液晶化合物に重合処理または架橋処理を施すことにより行われる。
【0043】
液晶化合物の具体例および配向固化層の形成方法の詳細は、特開2006−163343号公報に記載されている。当該公報の記載は本明細書に参考として援用される。
【0044】
1つの実施形態においては、第1の位相差層20は、図1A、図1Bおよび図2に示すように単一層である。第1の位相差層20が単一層で構成される場合、その厚みは、好ましくは0.5μm〜7μmであり、より好ましくは1μm〜5μmである。液晶化合物を用いることにより、樹脂フィルムよりも格段に薄い厚みで樹脂フィルムと同等の面内位相差を実現することができる。
【0045】
第1の位相差層は、上記のとおり円偏光機能または楕円偏光機能を有する。第1の位相差層は、代表的には、屈折率特性がnx>ny=nzの関係を示す。第1の位相差層は、代表的には偏光板に反射防止特性を付与するために設けられ、第1の位相差層が単一層である場合にはλ/4板として機能し得る。この場合、第1の位相差層の面内位相差Re(550)は、好ましくは100nm〜190nm、より好ましくは110nm〜170nm、さらに好ましくは130nm〜160nmである。なお、ここで「ny=nz」はnyとnzが完全に等しい場合だけではなく、実質的に等しい場合を包含する。したがって、本発明の効果を損なわない範囲で、ny>nzまたはny<nzとなる場合があり得る。
【0046】
第1の位相差層のNz係数は、好ましくは0.9〜1.5であり、より好ましくは0.9〜1.3である。このような関係を満たすことにより、得られる位相差層付偏光板を画像表示装置に用いた場合に、非常に優れた反射色相を達成し得る。
【0047】
第1の位相差層は、位相差値が測定光の波長に応じて大きくなる逆分散波長特性を示してもよく、位相差値が測定光の波長に応じて小さくなる正の波長分散特性を示してもよく、位相差値が測定光の波長によってもほとんど変化しないフラットな波長分散特性を示してもよい。1つの実施形態においては、第1の位相差層は、逆分散波長特性を示す。この場合、位相差層のRe(450)/Re(550)は、好ましくは0.8以上1未満であり、より好ましくは0.8以上0.95以下である。このような構成であれば、非常に優れた反射防止特性を実現することができる。
【0048】
第1の位相差層20の遅相軸と偏光子11の吸収軸とのなす角度θは、好ましくは40°〜50°であり、より好ましくは42°〜48°であり、さらに好ましくは約45°である。角度θがこのような範囲であれば、上記のように第1の位相差層をλ/4板とすることにより、非常に優れた円偏光特性(結果として、非常に優れた反射防止特性)を有する位相差層付偏光板が得られ得る。
【0049】
別の実施形態においては、第1の位相差層20は、図3に示すように第1の液晶配向固化層21と第2の液晶配向固化層22との積層構造を有し得る。この場合、第1の液晶配向固化層21および第2の液晶配向固化層22のいずれか一方がλ/4板として機能し、他方がλ/2板として機能し得る。したがって、第1の液晶配向固化層21および第2の液晶配向固化層22の厚みは、λ/4板またはλ/2板の所望の面内位相差が得られるよう調整され得る。例えば、第1の液晶配向固化層21がλ/2板として機能し、第2の液晶配向固化層22がλ/4板として機能する場合、第1の液晶配向固化層21の厚みは例えば2.0μm〜3.0μmであり、第2の液晶配向固化層22の厚みは例えば1.0μm〜2.0μmである。この場合、第1の液晶配向固化層の面内位相差Re(550)は、好ましくは200nm〜300nmであり、より好ましくは230nm〜290nmであり、さらに好ましくは250nm〜280nmである。第2の液晶配向固化層の面内位相差Re(550)は、単一層に関して上記で説明したとおりである。第1の液晶配向固化層の遅相軸と偏光子の吸収軸とのなす角度は、好ましくは10°〜20°であり、より好ましくは12°〜18°であり、さらに好ましくは約15°である。第2の液晶配向固化層の遅相軸と偏光子の吸収軸とのなす角度は、好ましくは70°〜80°であり、より好ましくは72°〜78°であり、さらに好ましくは約75°である。このような構成であれば、理想的な逆波長分散特性に近い特性を得ることが可能であり、結果として、非常に優れた反射防止特性を実現することができる。第1の液晶配向固化層および第2の液晶配向固化層を構成する液晶化合物、第1の液晶配向固化層および第2の液晶配向固化層の形成方法、光学特性等については、単一層に関して上記で説明したとおりである。
【0050】
D.ヨウ素透過抑制層
ヨウ素透過抑制層は、上記のとおり、樹脂の有機溶媒溶液の塗布膜の固化物または熱硬化物である。このような構成であれば、厚みを非常に薄く(例えば、10μm以下に)することができる。ヨウ素透過抑制層の厚みは、好ましくは0.05μm〜10μmであり、より好ましくは0.08μm〜5μmであり、さらに好ましくは0.1μm〜1μmであり、特に好ましくは0.2μm〜0.7μmである。さらに、このような構成であれば、ヨウ素透過抑制層を隣接層(例えば、偏光子、位相差層)に直接(すなわち、接着剤層または粘着剤層を介することなく)形成することができる。本発明の実施形態によれば、上記のとおり偏光子、位相差層およびヨウ素透過抑制層が非常に薄く、かつ、ヨウ素透過抑制層を積層するための接着剤層または粘着剤層を省略することができるので、位相差層付偏光板の総厚みをきわめて薄くすることができる。さらに、このようなヨウ素透過抑制層は、水溶液または水分散体のような水系の塗布膜の固化物に比べて吸湿性および透湿性が小さいので加湿耐久性に優れるという利点を有する。その結果、高温高湿環境下においても光学特性を維持し得る、耐久性に優れた位相差層付偏光板を実現することができる。また、このようなヨウ素透過抑制層は、例えば紫外線硬化性樹脂の硬化物に比べて紫外線照射による偏光板(偏光子)に対する悪影響を抑制することができる。ヨウ素透過抑制層は、好ましくは、樹脂の有機溶媒溶液の塗布膜の固化物である。固化物は、硬化物に比べてフィルム成形時の収縮が小さい、および、残存モノマー等が含まれないのでフィルム自体の劣化が抑制され、かつ、残存モノマー等に起因する偏光板(偏光子)に対する悪影響を抑制することができる。
【0051】
さらに、ヨウ素透過抑制層を構成する樹脂のガラス転移温度(Tg)は85℃以上であり、かつ、重量平均分子量Mwは25000以上である。当該樹脂のTgおよびMwがこのような範囲であれば、ヨウ素透過抑制層を樹脂の有機溶媒溶液の塗布膜の固化物または熱硬化物で構成することによる効果との相乗的な効果により、非常に薄いにもかかわらず、偏光子中のヨウ素の画像表示セルへの移行を顕著に抑制することができる。結果として、位相差層付偏光板を画像表示装置に適用した場合に金属部材の腐食を顕著に抑制することができる。当該樹脂のTgは、好ましくは90℃以上であり、より好ましくは100℃以上であり、さらに好ましくは110℃以上であり、特に好ましくは120℃以上である。Tgの上限は、例えば200℃であり得る。また、当該樹脂のMwは、好ましくは30000以上であり、より好ましくは35000以上であり、さらに好ましくは40000以上である。Mwの上限は、例えば150000であり得る。
【0052】
ヨウ素透過抑制層を構成する樹脂としては、有機溶媒溶液の塗布膜の固化物または熱硬化物を形成可能であり、かつ上記のようなTgおよびMwを有する限りにおいて、任意の適切な熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を用いることができる。好ましくは、熱可塑性樹脂である。熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂が挙げられる。アクリル系樹脂とエポキシ系樹脂とを組み合わせて用いてもよい。以下、ヨウ素透過抑制層に用いられ得るアクリル系樹脂およびエポキシ系樹脂の代表例を説明する。
【0053】
アクリル系樹脂は、代表的には、直鎖または分岐構造を有する(メタ)アクリル酸エステル系単量体由来の繰り返し単位を主成分として含有する。本明細書において、(メタ)アクリルとは、アクリルおよび/またはメタクリルをいう。アクリル系樹脂は、目的に応じた任意の適切な共重合単量体由来の繰り返し単位を含有し得る。共重合単量体(共重合モノマー)としては、例えば、カルボキシル基含有モノマー、ヒドロキシル基含有モノマー、アミド基含有モノマー、芳香環含有(メタ)アクリレート、複素環含有ビニル系モノマーが挙げられる。モノマー単位の種類、数、組み合わせおよび共重合比等を適切に設定することにより、上記所定のMwを有するアクリル系樹脂が得られ得る。
【0054】
〈ホウ素含有アクリル系樹脂〉
アクリル系樹脂は、1つの実施形態においては、50重量部を超える(メタ)アクリル系単量体と0重量部を超えて50重量部未満の式(1)で表される単量体(以下、共重合単量体と称する場合がある)とを含むモノマー混合物を重合することにより得られる共重合体(以下、ホウ素含有アクリル系樹脂と称する場合がある)を含む:
【化2】

(式中、Xはビニル基、(メタ)アクリル基、スチリル基、(メタ)アクリルアミド基、ビニルエーテル基、エポキシ基、オキセタン基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルデヒド基、および、カルボキシル基からなる群より選択される少なくとも1種の反応性基を含む官能基を表し、R1およびR2はそれぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよいアリール基、または、置換基を有していてもよいヘテロ環基を表し、R1およびR2は互いに連結して環を形成してもよい)。
【0055】
ホウ素含有アクリル系樹脂は、代表的には下記式で表される繰り返し単位を有する。式(1)で表される共重合単量体と(メタ)アクリル系単量体とを含むモノマー混合物を重合することにより、ホウ素含有アクリル系樹脂は側鎖にホウ素を含む置換基(例えば、下記式中kの繰り返し単位)を有する。これにより、ヨウ素透過抑制層を偏光子に隣接して配置した場合に偏光子との密着性が向上し得る。このホウ素を含む置換基は、ホウ素含有アクリル系樹脂に連続して(すなわち、ブロック状に)含まれていてもよく、ランダムに含まれていてもよい。
【化3】

(式中、R6は任意の官能基を表し、jおよびkは1以上の整数を表す)。
【0056】
〈(メタ)アクリル系単量体〉
(メタ)アクリル系単量体としては任意の適切な(メタ)アクリル系単量体を用いることができる。例えば、直鎖または分岐構造を有する(メタ)アクリル酸エステル系単量体、および、環状構造を有する(メタ)アクリル酸エステル系単量体が挙げられる。
【0057】
直鎖または分岐構造を有する(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n一ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸メチル2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル等が挙げられる。好ましくは、(メタ)アクリル酸メチルが用いられる。(メタ)アクリル酸エステル系単量体は、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
環状構造を有する(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸1−アダマンチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、ビフェニル(メタ)アクリレート、o−ビフェニルオキシエチル(メタ)アクリレート、o−ビフェニルオキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、m−ビフェニルオキシエチルアクリレート、p−ビフェニルオキシエチル(メタ)アクリレート、o−ビフェニルオキシ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、p−ビフェニルオキシ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、m−ビフェニルオキシ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N−(メタ)アクリロイルオキシエチル−o−ビフェニル=カルバマート、N−(メタ)アクリロイルオキシエチル−p−ビフェニル=カルバマート、N−(メタ)アクリロイルオキシエチル−m−ビフェニル=カルバマート、o−フェニルフェノールグリシジルエーテルアクリレート等のビフェニル基含有モノマー、ターフェニル(メタ)アクリレート、o−ターフェニルオキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。好ましくは、(メタ)アクリル酸1−アダマンチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニルが用いられる。これらの単量体を用いることにより、ガラス転移温度の高い重合体が得られる。これらの単量体は1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
また、上記(メタ)アクリル酸エステル系単量体に代えて、(メタ)アクリロイル基を有するシルセスキオキサン化合物を用いてもよい。シルセスキオキサン化合物を用いることにより、ガラス転移温度が高いアクリル系重合体が得られる。シルセスキオキサン化合物は、種々の骨格構造、例えば、カゴ型構造、ハシゴ型構造、ランダム構造などの骨格を持つものが知られている。シルセスキオキサン化合物は、これらの構造を1種のみを有するものでもよく、2種以上を有するものでもよい。シルセスキオキサン化合物は1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
(メタ)アクリロイル基を含有するシルセスキオキサン化合物として、例えば、東亜合成株式会社SQシリーズのMACグレード、および、ACグレードを用いることができる。MACグレードは、メタクリロイル基を含有するシルセスキオキサン化合物であり、具体的には、例えば、MAC−SQ TM−100、MAC−SQ SI−20、MAC−SQ HDM等が挙げられる。ACグレードは、アクリロイル基を含有するシルセスキオキサン化合物であり、具体的には、例えば、AC−SQ TA−100、AC−SQ SI−20等が挙げられる。
【0061】
(メタ)アクリル系単量体は、モノマー混合物100重量部に対して、50重量部を超えて用いられる。
【0062】
〈共重合単量体〉
共重合単量体としては、上記式(1)で表される単量体が用いられる。このような共重合単量体を用いることにより、得られる重合体の側鎖にホウ素を含む置換基が導入される。共重合単量体は1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
上記式(1)における脂肪族炭化水素基としては、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20の環状アルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基が挙げられる。上記アリール基としては、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のフェニル基、置換基を有していてもよい炭素数10〜20のナフチル基等が挙げられる。ヘテロ環基としては、置換基を有していてもよい少なくとも1つのヘテロ原子を含む5員環基または6員環基が挙げられる。なお、R1およびR2は互いに連結して環を形成してもよい。R1およびR2は、好ましくは水素原子、もしくは、炭素数1〜3の直鎖または分岐のアルキル基であり、より好ましくは水素原子である。
【0064】
Xで表される官能基が含む反応性基は、ビニル基、(メタ)アクリル基、スチリル基、(メタ)アクリルアミド基、ビニルエーテル基、エポキシ基、オキセタン基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルデヒド基、および、カルボキシル基からなる群より選択される少なくとも1種である。好ましくは、反応性基は(メタ)アクリル基および/または(メタ)アクリルアミド基である。これらの反応性基を有することにより、ヨウ素透過抑制層を偏光子に隣接して配置した場合に偏光子との密着性がさらに向上し得る。
【0065】
1つの実施形態においては、Xで表される官能基は、Z−Y−で表される官能基であることが好ましい。ここで、Zはビニル基、(メタ)アクリル基、スチリル基、(メタ)アクリルアミド基、ビニルエーテル基、エポキシ基、オキセタン基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルデヒド基、および、カルボキシル基からなる群より選択される少なくとも1種の反応性基を含む官能基を表し、Yはフェニレン基またはアルキレン基を表す。
【0066】
共重合単量体としては、具体的には以下の化合物を用いることができる。
【化4】

【化5】

【0067】
共重合単量体は、モノマー混合物100重量部に対して、0重量部を超えて50重量部未満の含有量で用いられる。好ましくは0.01重量部以上50重量部未満であり、より好ましくは0.05重量部〜20重量部であり、さらに好ましくは0.1重量部〜10重量部であり、特に好ましくは0.5重量部〜5重量部である。
【0068】
〈ラクトン環等含有アクリル系樹脂〉
【0069】
アクリル系樹脂は、別の実施形態においては、ラクトン環単位、無水グルタル酸単位、グルタルイミド単位、無水マレイン酸単位およびマレイミド(N−置換マレイミド)単位から選択される環構造を含む繰り返し単位を有する。環構造を含む繰り返し単位は、1種類のみがアクリル系樹脂の繰り返し単位に含まれていてもよく、2種類以上が含まれていてもよい。
【0070】
ラクトン環単位は、好ましくは、下記一般式(2)で表される:
【0071】
【化6】

一般式(2)において、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。アクリル系樹脂には、単一のラクトン環単位のみが含まれていてもよく、上記一般式(2)におけるR2、R3およびR4が異なる複数のラクトン環単位が含まれていてもよい。ラクトン環単位を有するアクリル系樹脂は、例えば特開2008−181078号公報に記載されており、当該公報の記載は本明細書に参考として援用される。
【0072】
グルタルイミド単位は、好ましくは、下記一般式(3)で表される:
【0073】
【化7】

【0074】
一般式(3)において、R11およびR12は、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R13は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数6〜10のアリール基を示す。一般式(3)において、好ましくは、R11およびR12は、それぞれ独立して水素またはメチル基であり、R13は水素、メチル基、ブチル基またはシクロヘキシル基である。より好ましくは、R11はメチル基であり、R12は水素であり、R13はメチル基である。アクリル系樹脂には、単一のグルタルイミド単位のみが含まれていてもよく、上記一般式(3)におけるR11、R12およびR13が異なる複数のグルタルイミド単位が含まれていてもよい。グルタルイミド単位を有するアクリル系樹脂は、例えば、特開2006−309033号公報、特開2006−317560号公報、特開2006−328334号公報、特開2006−337491号公報、特開2006−337492号公報、特開2006−337493号公報、特開2006−337569号公報に記載されており、当該公報の記載は本明細書に参考として援用される。なお、無水グルタル酸単位については、上記一般式(3)におけるR13で置換された窒素原子が酸素原子となること以外は、グルタルイミド単位に関する上記の説明が適用される。
【0075】
無水マレイン酸単位およびマレイミド(N−置換マレイミド)単位については、名称から構造が特定されるので、具体的な説明は省略する。
【0076】
アクリル系樹脂における環構造を含む繰り返し単位の含有割合は、好ましくは1モル%〜50モル%、より好ましくは10モル%〜40モル%、さらに好ましくは20モル%〜30モル%である。なお、アクリル系樹脂は、主たる繰り返し単位として、上記の(メタ)アクリル系単量体由来の繰り返し単位を含む。
【0077】
〈エポキシ樹脂〉
エポキシ樹脂としては、好ましくは芳香族環を有するエポキシ樹脂が用いられる。芳香族環を有するエポキシ樹脂をエポキシ樹脂として用いることにより、ヨウ素透過抑制層を偏光子に隣接して配置した場合に偏光子との密着性が向上し得る。さらに、ヨウ素透過抑制層に隣接して粘着剤層を配置した場合に、粘着剤層の投錨力が向上し得る。芳香族環を有するエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂、ヒドロキシベンズアルデヒドフェノールノボラックエポキシ樹脂などのノボラック型のエポキシ樹脂;テトラヒドロキシフェニルメタンのグリシジルエーテル、テトラヒドロキシベンゾフェノンのグリシジルエーテル、エポキシ化ポリビニルフェノールなどの多官能型のエポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂などが挙げられる。好ましくは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂が用いられる。エポキシ樹脂は1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
ヨウ素透過抑制層は、上記のような樹脂の有機溶媒溶液を塗布して塗布膜を形成し、当該塗布膜を固化または熱硬化させることにより形成され得る。有機溶媒としては、アクリル系樹脂を溶解または均一に分散し得る任意の適切な有機溶媒を用いることができる。有機溶媒の具体例としては、酢酸エチル、トルエン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロペンタノン、シクロヘキサノンが挙げられる。溶液の樹脂濃度は、溶媒100重量部に対して、好ましくは3重量部〜20重量部である。このような樹脂濃度であれば、均一な塗布膜を形成することができる。
【0079】
溶液は、任意の適切な基材に塗布してもよく、隣接層(例えば、偏光子、位相差層)に塗布してもよい。溶液を基材に塗布する場合には、基材上に形成された塗布膜の固化物(ヨウ素透過抑制層)が隣接層に転写される。溶液を隣接層に塗布する場合には、塗布膜を乾燥(固化)させることにより、隣接層上に保護層が直接形成される。好ましくは、溶液は隣接層に塗布され、隣接層上に保護層が直接形成される。このような構成であれば、転写に必要とされる接着剤層または粘着剤層を省略することができるので、位相差層付偏光板をさらに薄くすることができる。溶液の塗布方法としては、任意の適切な方法を採用することができる。具体例としては、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ナイフコート法(コンマコート法等)が挙げられる。
【0080】
溶液の塗布膜を固化または熱硬化させることにより、ヨウ素透過抑制層が形成され得る。固化または熱硬化の加熱温度は、好ましくは100℃以下であり、より好ましくは50℃〜70℃である。加熱温度がこのような範囲であれば、偏光子に対する悪影響を防止することができる。加熱時間は、加熱温度に応じて変化し得る。加熱時間は、例えば1分〜10分であり得る。
【0081】
ヨウ素透過抑制層(実質的には、上記樹脂の有機溶媒溶液)は、目的に応じて任意の適切な添加剤を含んでいてもよい。添加剤の具体例としては、紫外線吸収剤;レベリング剤;ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤等の安定剤;ガラス繊維、炭素繊維等の補強材;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモン等の難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤等の帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料等の着色剤;有機フィラーまたは無機フィラー;樹脂改質剤;有機充填剤や無機充填剤;可塑剤;滑剤;帯電防止剤;難燃剤;などが挙げられる。添加剤の種類、数、組み合わせ、添加量等は、目的に応じて適切に設定され得る。
【0082】
E.第2の位相差層
第2の位相差層は、上記のとおり、屈折率特性がnz>nx=nyの関係を示す、いわゆるポジティブCプレートであり得る。第2の位相差層としてポジティブCプレートを用いることにより、斜め方向の反射を良好に防止することができ、反射防止機能の広視野角化が可能となる。この場合、第2の位相差層の厚み方向の位相差Rth(550)は、好ましくは−50nm〜−300nm、より好ましくは−70nm〜−250nm、さらに好ましくは−90nm〜−200nm、特に好ましくは−100nm〜−180nmである。ここで、「nx=ny」は、nxとnyが厳密に等しい場合のみならず、nxとnyが実質的に等しい場合も包含する。すなわち、第2の位相差層の面内位相差Re(550)は10nm未満であり得る。
【0083】
nz>nx=nyの屈折率特性を有する第2の位相差層は、任意の適切な材料で形成され得る。第2の位相差層は、好ましくは、ホメオトロピック配向に固定された液晶材料を含むフィルムからなる。ホメオトロピック配向させることができる液晶材料(液晶化合物)は、液晶モノマーであっても液晶ポリマーであってもよい。当該液晶化合物および当該位相差層の形成方法の具体例としては、特開2002−333642号公報の[0020]〜[0028]に記載の液晶化合物および当該位相差層の形成方法が挙げられる。この場合、第2の位相差層の厚みは、好ましくは0.5μm〜10μmであり、より好ましくは0.5μm〜8μmであり、さらに好ましくは0.5μm〜5μmである。
【0084】
F.導電層または導電層付等方性基材
導電層は、任意の適切な成膜方法(例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法、イオンプレーティング法、スプレー法等)により、任意の適切な基材上に、金属酸化物膜を成膜して形成され得る。金属酸化物としては、例えば、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、インジウム−スズ複合酸化物、スズ−アンチモン複合酸化物、亜鉛−アルミニウム複合酸化物、インジウム−亜鉛複合酸化物が挙げられる。なかでも好ましくは、インジウム−スズ複合酸化物(ITO)である。
【0085】
導電層が金属酸化物を含む場合、該導電層の厚みは、好ましくは50nm以下であり、より好ましくは35nm以下である。導電層の厚みの下限は、好ましくは10nmである。
【0086】
導電層は、上記基材から第1の位相差層(あるいは、ヨウ素透過抑制層または存在する場合には第2の位相差層)に転写されて導電層単独で位相差層付偏光板の構成層とされてもよく、基材との積層体(導電層付基材)として第1の位相差層(あるいは、ヨウ素透過抑制層または存在する場合には第2の位相差層)に積層されてもよい。好ましくは、上記基材は光学的に等方性であり、したがって、導電層は導電層付等方性基材として位相差層付偏光板に用いられ得る。
【0087】
光学的に等方性の基材(等方性基材)としては、任意の適切な等方性基材を採用し得る。等方性基材を構成する材料としては、例えば、ノルボルネン系樹脂やオレフィン系樹脂などの共役系を有さない樹脂を主骨格としている材料、ラクトン環やグルタルイミド環などの環状構造をアクリル系樹脂の主鎖中に有する材料などが挙げられる。このような材料を用いると、等方性基材を形成した際に、分子鎖の配向に伴う位相差の発現を小さく抑えることができる。等方性基材の厚みは、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは35μm以下である。等方性基材の厚みの下限は、例えば20μmである。
【0088】
上記導電層および/または上記導電層付等方性基材の導電層は、必要に応じてパターン化され得る。パターン化によって、導通部と絶縁部とが形成され得る。結果として、電極が形成され得る。電極は、タッチパネルへの接触を感知するタッチセンサ電極として機能し得る。パターニング方法としては、任意の適切な方法を採用し得る。パターニング方法の具体例としては、ウエットエッチング法、スクリーン印刷法が挙げられる。
【0089】
G.画像表示装置
上記A項からF項に記載の位相差層付偏光板は、画像表示装置に適用され得る。したがって、本発明の実施形態は、そのような位相差層付偏光板を用いた画像表示装置を包含する。画像表示装置の代表例としては、液晶表示装置、エレクトロルミネセンス(EL)表示装置(例えば、有機EL表示装置、無機EL表示装置)が挙げられる。本発明の実施形態による画像表示装置は、その視認側に上記A項からF項に記載の位相差層付偏光板を備える。位相差層付偏光板は、位相差層が画像表示セル(例えば、液晶セル、有機ELセル、無機ELセル)側となるように(偏光子が視認側となるように)積層されている。このような画像表示装置は、非常に薄型でありながら金属部材の腐食が顕著に抑制されている。1つの実施形態においては、画像表示装置は、湾曲した形状(実質的には、湾曲した表示画面)を有し、および/または、折り曲げもしくは折り畳み可能である。
【実施例】
【0090】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。各特性の測定方法は以下の通りである。なお、特に明記しない限り、実施例および比較例における「部」および「%」は重量基準である。
【0091】
(1)厚み
10μm以下の厚みは、干渉膜厚計(大塚電子社製、製品名「MCPD−3000」)を用いて測定した。10μmを超える厚みは、デジタルマイクロメーター(アンリツ社製、製品名「KC−351C」)を用いて測定した。
【0092】
(2)金属腐食性(48時間)
50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの片面に、銀ナノワイヤー液(MERCK社製、ナノワイヤーサイズ:直径115nm、長さ20μm〜50μm、固形分0.5%のイソプロピルアルコール(IPA)溶液)をワイヤーバーでウェット膜厚が15μmになるように塗工し、100℃のオーブンで5分間乾燥し、銀ナノワイヤー塗膜を形成した。次いで、メチルイソブチルケトン(MIBK)99部、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETA)1部、および光重合開始剤(BASF社製、製品名「イルガキュア907」)0.03部を含むオーバーコート液(固形分濃度:約1%)を、銀ナノワイヤー塗膜の表面にワイヤーバーを用いてウェット膜厚が10μmになるように塗工し、100℃のオーブンで5分間乾燥した。次いで、活性エネルギー線を照射してオーバーコート塗膜を硬化させ、PETフィルム/銀ナノワイヤー層/オーバーコート層(厚み100nm)の構成を有する金属フィルムを作製した。この金属フィルムを、粘着剤(15μm)を用いて厚さ0.5mmのガラス板に貼り合わせ、金属フィルム/粘着剤/ガラス板の積層体を得た。得られた積層体を非接触式抵抗測定器(ナプソン社製、製品名「EC−80」)にて抵抗値を測定したところ、50Ω/□であった。
【0093】
実施例および比較例で得られた位相差層付偏光板を積層体の金属フィルムのオーバーコート層表面に貼り合わせ、試験サンプルとした。この試験サンプルの抵抗値を非接触式抵抗測定器にて測定し、初期抵抗値とした。さらに、試験サンプルを信頼性試験(85℃・85%RHの環境下に48時間置き、その後23℃・55%RHの環境下で2時間放置)に供した後、上記と同様にして抵抗値を測定した。以下の式により抵抗値上昇率を算出した。なお、測定値(抵抗値)が非接触式抵抗測定器の測定限界(1000Ω/□)を超える場合には、測定値を1500Ω/□として仮定した。
抵抗値上昇率(%)={(信頼性試験後の抵抗値−初期抵抗値)/初期抵抗値}×100
さらに、以下の基準で評価した。
良好:抵抗値上昇率が200%未満
不良:抵抗値上昇率が200%以上
【0094】
(3)金属腐食性(200時間)
実施例および比較例で得られた位相差層付偏光板を、(2)で得られた積層体の金属フィルムのオーバーコート層形成面に貼り合わせ、試験サンプルとした。この試験サンプルの抵抗値を非接触式抵抗測定器にて測定し、初期の抵抗値とした。さらに、試験サンプルを信頼性試験(85℃・85%RHの環境下に200時間置き、その後23℃・55%RHの環境下で2時間放置)に供した後、上記と同様にして抵抗値を測定した。以下の式により抵抗値上昇率を算出した。なお、測定値(抵抗値)が非接触式抵抗測定器の測定限界(1000Ω/□)を超える場合には、測定値を1500Ω/□として仮定した。
抵抗値上昇率(%)={(信頼性試験後の抵抗値−初期抵抗値)/初期抵抗値}×100
さらに、以下の基準で評価した。
優:抵抗値上昇率が200%未満
良:抵抗値上昇率が200%以上2000%未満
不良:抵抗値上昇率が2000%以上
【0095】
[実施例1]
1.偏光子の作製
熱可塑性樹脂基材として、長尺状で、吸水率0.75%、Tg約75℃である、非晶質のイソフタル共重合ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み:100μm)を用いた。樹脂基材の片面に、コロナ処理を施した。
ポリビニルアルコール(重合度4200、ケン化度99.2モル%)およびアセトアセチル変性PVA(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマーZ410」)を9:1で混合したPVA系樹脂100重量部に、ヨウ化カリウム13重量部を添加したものを水に溶かし、PVA水溶液(塗布液)を調製した。
樹脂基材のコロナ処理面に、上記PVA水溶液を塗布して60℃で乾燥することにより、厚み13μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製した。
得られた積層体を、130℃のオーブン内で周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に2.4倍に自由端一軸延伸した(空中補助延伸処理)。
次いで、積層体を、液温40℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化処理)。
次いで、液温30℃の染色浴(水100重量部に対して、ヨウ素とヨウ化カリウムを1:7の重量比で配合して得られたヨウ素水溶液)に、最終的に得られる偏光子の単体透過率(Ts)が43.0%以上となるように濃度を調整しながら60秒間浸漬させた(染色処理)。
次いで、液温40℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を5重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋処理)。
その後、積層体を、液温70℃のホウ酸水溶液(ホウ酸濃度4.0重量%、ヨウ化カリウム濃度5重量%)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に総延伸倍率が5.5倍となるように一軸延伸を行った(水中延伸処理)。
その後、積層体を液温20℃の洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを4重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた(洗浄処理)。
その後、90℃に保たれたオーブン中で乾燥しながら、表面温度が75℃に保たれたSUS製の加熱ロールに約2秒接触させた(乾燥収縮処理)。乾燥収縮処理による積層体の幅方向の収縮率は5.2%であった。
このようにして、樹脂基材上に厚み5μmの偏光子を形成した。
【0096】
2.偏光板の作製
上記で得られた偏光子の表面(樹脂基材とは反対側の面)に、保護層としてHC−COPフィルムを、紫外線硬化型接着剤を介して貼り合せた。具体的には、硬化型接着剤の総厚みが1.0μmになるように塗工し、ロール機を使用して貼り合わせた。その後、UV光線を保護層側から照射して接着剤を硬化させた。なお、HC−COPフィルムは、シクロオレフィン(COP)フィルム(日本ゼオン社製、製品名「ZF12」、厚み25μm)にハードコート(HC)層(厚み2μm)が形成されたフィルムであり、COPフィルムが偏光子側となるようにして貼り合わせた。次いで、樹脂基材を剥離し、保護層(HC層/COPフィルム)/接着剤層/偏光子の構成を有する偏光板を得た。
【0097】
3.位相差層を構成する第1の配向固化層および第2の配向固化層の作製
ネマチック液晶相を示す重合性液晶(BASF社製:商品名「PaliocolorLC242」、下記式で表される)10gと、当該重合性液晶化合物に対する光重合開始剤(BASF社製:商品名「イルガキュア907」)3gとを、トルエン40gに溶解して、液晶組成物(塗工液)を調製した。
【化8】

ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚み38μm)表面を、ラビング布を用いてラビングし、配向処理を施した。配向処理の方向は、偏光板に貼り合わせる際に偏光子の吸収軸の方向に対して視認側から見て15°方向となるようにした。この配向処理表面に、上記液晶塗工液をバーコーターにより塗工し、90℃で2分間加熱乾燥することによって液晶化合物を配向させた。このようにして形成された液晶層に、メタルハライドランプを用いて1mJ/cm2の光を照射し、当該液晶層を硬化させることによって、PETフィルム上に液晶配向固化層Aを形成した。液晶配向固化層Aの厚みは2.5μm、面内位相差Re(550)は270nmであった。さらに、液晶配向固化層Aは、nx>ny=nzの屈折率分布を有していた。
塗工厚みを変更したこと、および、配向処理方向を偏光子の吸収軸の方向に対して視認側から見て75°方向となるようにしたこと以外は上記と同様にして、PETフィルム上に液晶配向固化層Bを形成した。液晶配向固化層Bの厚みは1.5μm、面内位相差Re(550)は140nmであった。さらに、液晶配向固化層Bは、nx>ny=nzの屈折率分布を有していた。
【0098】
4.位相差層の形成
上記2.で得られた偏光板の偏光子表面に、上記3.で得られた液晶配向固化層Aおよび液晶配向固化層Bをこの順に転写した。このとき、偏光子の吸収軸と液晶配向固化層Aの遅相軸とのなす角度が15°、偏光子の吸収軸と液晶配向固化層Bの遅相軸とのなす角度が75°になるようにして転写(貼り合わせ)を行った。なお、それぞれの転写(貼り合わせ)は、上記2.で用いた紫外線硬化型接着剤(厚み1.0μm)を介して行った。このようにして、保護層(HC層/COPフィルム)/接着剤層/偏光子/接着剤層/位相差層(第1の液晶配向固化層/接着剤層/第2の液晶配向固化層)の構成を有する積層体を作製した。
【0099】
5.位相差層付偏光板の作製
アクリル系樹脂(楠本化成社製、製品名「B−811」、Tg:110℃、Mw:40000)20部をメチルエチルケトン80部に溶解し、樹脂溶液(20%)を得た。この樹脂溶液を、上記4.で得られた積層体の第2の液晶配向固化層表面にワイヤーバーを用いて塗布し、塗布膜を60℃で5分間乾燥して、樹脂の有機溶媒溶液の塗布膜の固化物として構成されるヨウ素透過抑制層(厚み0.5μm)を形成した。次いで、ヨウ素透過抑制層表面に粘着剤層(厚み15μm)を設け、保護層(HC層/COPフィルム)/接着剤層/偏光子/接着剤層/位相差層(第1の液晶配向固化層/接着剤層/第2の液晶配向固化層)/ヨウ素透過抑制層/粘着剤層の構成を有する位相差層付偏光板を得た。得られた位相差層付偏光板の総厚みは39.5μmであった。得られた位相差層付偏光板を上記(2)および(3)の評価に供した。さらに、金属腐食性に関して、ヨウ素透過抑制層を形成しなかった比較例1(後述)と比較した。結果を表1および表2に示す。
【0100】
[実施例2]
メタクリル酸メチル(MMA、富士フイルム和光純薬社製、商品名「メタクリル酸メチルモノマー」)97.0部、上記一般式(1e)で表される共重合単量体3.0部、重合開始剤(富士フイルム和光純薬社製、商品名「2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)」)0.2部をトルエン200部に溶解した。次いで、窒素雰囲気下で70℃に加熱しながら5.5時間重合反応を行い、ホウ素含有アクリル系樹脂溶液(固形分濃度:33%)を得た。得られたホウ素含有アクリル系重合体のTgは110℃、Mwは80000であった。このホウ素含有アクリル系重合体をアクリル系樹脂「B−811」の代わりに用いたこと、および、ヨウ素透過抑制層の厚みを0.3μmとしたこと以外は実施例1と同様にして位相差層付偏光板を作製した。得られた位相差層付偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1および表2に示す。
【0101】
[実施例3]
ヨウ素透過抑制層の厚みを0.5μmとしたこと以外は実施例2と同様にして位相差層付偏光板を作製した。得られた位相差層付偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1および表2に示す。
【0102】
[参考例4]
アクリル系樹脂「B−811」の代わりに熱可塑性エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、商品名「jER(登録商標)1256B40」、Tg:100℃、Mw:45000)を用いたこと以外は実施例1と同様にして位相差層付偏光板を作製した。得られた位相差層付偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1および表2に示す。
【0103】
[実施例5]
アクリル系樹脂「B−811」の代わりに熱可塑性エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、商品名「jER(登録商標)YX7200B35」、Tg:150℃、Mw:30000)を用いたこと、および、ヨウ素透過抑制層の厚みを0.3μmとしたこと以外は実施例1と同様にして位相差層付偏光板を作製した。得られた位相差層付偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1および表2に示す。
【0104】
[実施例6]
ヨウ素透過抑制層の厚みを0.5μmとしたこと以外は実施例5と同様にして位相差層付偏光板を作製した。得られた位相差層付偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1および表2に示す。
【0105】
[実施例7]
アクリル系樹脂「B−811」の代わりに、「B−811」15部と熱可塑性エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、商品名「jER(登録商標)YX6954BH30」)85部(固形分換算)とのブレンドを用いたこと以外は実施例1と同様にして位相差層付偏光板を作製した。当該ブレンドのTgは125℃、Mwは38000であった。得られた位相差層付偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1および表2に示す。
【0106】
[実施例8]
実施例1の2.で得られた保護層(HC層/COPフィルム)/接着剤層/偏光子の構成を有する偏光板の偏光子側に、実施例7で使用した樹脂ブレンドを塗布および乾燥して、樹脂の有機溶媒溶液の塗布膜の固化物として構成されるヨウ素透過抑制層(厚み0.5μm)を形成した。ヨウ素透過抑制層の表面に実施例1と同様にして液晶配向固化層Aおよび液晶配向固化層Bをこの順に転写し、保護層(HC層/COPフィルム)/接着剤層/偏光子/ヨウ素透過抑制層/接着剤層/位相差層(第1の液晶配向固化層/接着剤層/第2の液晶配向固化層)/粘着剤層の構成を有する位相差層付偏光板を得た。得られた位相差層付偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1および表2に示す。
【0107】
[実施例9]
実施例2におけるホウ素含有アクリル系重合体を用いたこと以外は実施例8と同様にして、保護層(HC層/COPフィルム)/接着剤層/偏光子/ヨウ素透過抑制層の構成を有する積層体を作製した。次いで、実施例2におけるホウ素含有アクリル系重合体15部と熱可塑性エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、商品名「jER(登録商標)YX6954BH30」)85部(固形分換算)とのブレンドを用いたこと以外は実施例1と同様にして、保護層(HC層/COPフィルム)/接着剤層/偏光子/ヨウ素透過抑制層/接着剤層/位相差層(第1の液晶配向固化層/接着剤層/第2の液晶配向固化層)/ヨウ素透過抑制層/粘着剤層の構成を有する位相差層付偏光板を得た。得られた位相差層付偏光板の総厚みは40μmであった。得られた位相差層付偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表2に示す。
【0108】
[実施例10]
偏光子と位相差層との間であって、偏光子に隣接した位置に設けられたヨウ素透過抑制層に、実施例2で得られたホウ素含有アクリル系重合体15部と熱可塑性エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、商品名「jER(登録商標)YX6954BH30」)85部(固形分換算)とのブレンドを用いたこと以外は実施例9と同様にして、位相差層付偏光板を得た。得られた位相差層付偏光板の総厚みは40μmであった。得られた位相差層付偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表2に示す。
【0109】
[実施例11]
偏光子と位相差層との間であって、偏光子に隣接した位置に形成されたヨウ素透過抑制層を、偏光子と位相差層との間であって、位相差層に隣接した位置に形成したこと以外は実施例10と同様にして、保護層(HC層/COPフイルム)/接着剤層/偏光子/接着剤層/ヨウ素透過抑制層/位相差層(第1の液晶配向固化層/接着剤層/第2の液晶配向固化層)/ヨウ素透過抑制層/粘着剤層の構成を有する位相差層付偏光板を得た。得られた位相差層付偏光板の総厚みは40μmであった。得られた位相差層付偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表2に示す。
【0110】
[実施例12]
実施例9と同様に、偏光子と位相差層との間であって、偏光子に隣接した位置にヨウ素透過抑制層をさらに形成したこと以外は実施例11と同様にして、保護層(HC層/COPフィルム)/接着剤層/偏光子/ヨウ素透過抑制層/接着剤層/ヨウ素透過抑制層/位相差層(第1の液晶配向固化層/接着剤層/第2の液晶配向固化層)/ヨウ素透過抑制層/粘着剤層の構成を有する位相差層付偏光板を得た。得られた位相差層付偏光板の総厚みは40.5μmであった。得られた位相差層付偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表2に示す。
【0111】
[比較例1]
ヨウ素透過抑制層を形成しなかったこと以外は実施例1と同様にして位相差層付偏光板を作製した。得られた位相差層付偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1および表2に示す。
【0112】
[比較例2]
アクリル系樹脂「B−811」の代わりにアクリル系樹脂「B−723」(楠本化成社製、Tg:54℃、Mw:200000)を用いたこと以外は実施例1と同様にして位相差層付偏光板を作製した。得られた位相差層付偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1および表2に示す。
【0113】
[比較例3]
アクリル系樹脂「B−811」の代わりに光硬化性エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、商品名「jER(登録商標)828」、光重合開始剤としてサンアプロ社製「CPI100P」を使用)を用いたこと以外は実施例1と同様にして位相差層付偏光板を作製した。得られた位相差層付偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1および表2に示す。
【0114】
[比較例4]
アクリル系樹脂「B−811」の代わりにPVA系樹脂(三菱ケミカル株式会社製、商品名「ゴーセノールZ200」、Tg:80℃、Mw:8800)を用いたこと以外は実施例1と同様にして位相差層付偏光板を作製した。得られた位相差層付偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1および表2に示す。
【0115】
[参考例1]
1.偏光板の作製
実施例1と同様にして保護層(HC層/COPフィルム)/偏光子の構成を有する偏光板を得た。
【0116】
2.位相差層を構成する位相差フィルムの作製
2−1.ポリエステルカーボネート系樹脂の重合
撹拌翼および100℃に制御された還流冷却器を具備した縦型反応器2器からなるバッチ重合装置を用いて重合を行った。ビス[9−(2−フェノキシカルボニルエチル)フルオレン−9−イル]メタン29.60質量部(0.046mol)、イソソルビド(ISB)29.21質量部(0.200mol)、スピログリコール(SPG)42.28質量部(0.139mol)、ジフェニルカーボネート(DPC)63.77質量部(0.298mol)及び触媒として酢酸カルシウム1水和物1.19×10−2質量部(6.78×10−5mol)を仕込んだ。反応器内を減圧窒素置換した後、熱媒で加温を行い、内温が100℃になった時点で撹拌を開始した。昇温開始40分後に内温を220℃に到達させ、この温度を保持するように制御すると同時に減圧を開始し、220℃に到達してから90分で13.3kPaにした。重合反応とともに副生するフェノール蒸気を100℃の還流冷却器に導き、フェノール蒸気中に若干量含まれるモノマー成分を反応器に戻し、凝縮しないフェノール蒸気は45℃の凝縮器に導いて回収した。第1反応器に窒素を導入して一旦大気圧まで復圧させた後、第1反応器内のオリゴマー化された反応液を第2反応器に移した。次いで、第2反応器内の昇温および減圧を開始して、50分で内温240℃、圧力0.2kPaにした。その後、所定の攪拌動力となるまで重合を進行させた。所定動力に到達した時点で反応器に窒素を導入して復圧し、生成したポリエステルカーボネート系樹脂を水中に押し出し、ストランドをカッティングしてペレットを得た。
【0117】
2−2.位相差フィルムの作製
得られたポリエステルカーボネート系樹脂(ペレット)を80℃で5時間真空乾燥をした後、単軸押出機(東芝機械社製、シリンダー設定温度:250℃)、Tダイ(幅200mm、設定温度:250℃)、チルロール(設定温度:120〜130℃)および巻取機を備えたフィルム製膜装置を用いて、厚み135μmの長尺状の樹脂フィルムを作製した。得られた長尺状の樹脂フィルムを、幅方向に、延伸温度133℃、延伸倍率2.8倍で延伸し、厚み53μmの位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムのRe(550)は141nmであり、Re(450)/Re(550)は0.82であり、Nz係数は1.12であった。
【0118】
3.位相差層付偏光板の作製
上記1.で得られた偏光板の偏光子表面に、上記2.で得られた位相差フィルムを、アクリル系粘着剤(厚み5μm)を介して貼り合わせた。このとき、偏光子の吸収軸と位相差フィルムの遅相軸とが45°の角度をなすようにして貼り合わせた。さらに、位相差層の表面に実施例1と同様の粘着剤層を設けた。このようにして、保護層/接着剤層/偏光子/粘着剤層/位相差層(樹脂フィルムの延伸フィルム)/粘着剤層の構成を有する位相差層付偏光板を得た。得られた位相差層付偏光板の総厚みは91μmであった。得られた位相差層付偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1および表2に示す。
【0119】
【表1】

【0120】
【表2】

【0121】
[評価]
表1から明らかなように、本発明の実施例の位相差層付偏光板は、所定のTgおよびMwを有する樹脂の有機溶媒溶液の塗布物の固化物で構成されたヨウ素透過抑制層を形成することにより、高温高湿環境下における金属腐食性を顕著に抑制できる。したがって、本発明の実施例の位相差層付偏光板は、画像表示装置に適用した場合に金属部材の腐食を抑制し得ることがわかる。さらに、参考例1から明らかなように、このような金属腐食性は、非常に薄型の位相差層付偏光板に特有の課題であることがわかる。
【0122】
表2から明らかなように、本発明の実施例9〜12の位相差層付偏光板は、ヨウ素透過抑制層を2層または3層含むことにより、高温高湿環境下に長時間(200時間)投入された場合においても金属腐食性を顕著に抑制できる。したがって、本発明の実施例9〜12の位相差層付偏光板は、画像表示装置に適用した場合に金属部材の腐食を顕著に抑制し得ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明の位相差層付偏光板は、液晶表示装置、有機EL表示装置および無機EL表示装置用の円偏光板として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0124】
10 偏光板
11 偏光子
12 保護層
20 位相差層
30 粘着剤層
40 ヨウ素透過抑制層
100 位相差層付偏光板
101 位相差層付偏光板
102 位相差層付偏光板
103 位相差層付偏光板
104 位相差層付偏光板
105 位相差層付偏光板
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光子を含む偏光板と、位相差層と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し、
該位相差層が、該偏光子と組み合わされて円偏光機能または楕円偏光機能を奏する液晶化合物の配向固化層であり、
該偏光子はヨウ素を含有し、
該偏光子と該粘着剤層との間に、有機溶媒に溶解可能な熱可塑性樹脂から構成されているヨウ素透過抑制層(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)が設けられており、
該熱可塑性樹脂は、エポキシ系樹脂のみからなり、
該熱可塑性樹脂のガラス転移温度が110℃以上であり、かつ、重量平均分子量Mwが25000以上150000以下である、
位相差層付偏光板。
【請求項2】
前記ヨウ素透過抑制層が、前記偏光子と前記位相差層との間に設けられている、請求項1に記載の位相差層付偏光板。
【請求項3】
偏光子を含む偏光板と、位相差層と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し、
該位相差層が、該偏光子と組み合わされて円偏光機能または楕円偏光機能を奏する液晶化合物の配向固化層であり、
該偏光子はヨウ素を含有し、
該偏光子と該粘着剤層との間に、有機溶媒に溶解可能な熱可塑性樹脂から構成されているヨウ素透過抑制層(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)が設けられており、
該熱可塑性樹脂は、アクリル系樹脂および/またはエポキシ系樹脂を含み、
該熱可塑性樹脂のガラス転移温度が110℃以上であり、かつ、重量平均分子量Mwが25000以上150000以下であり、
該ヨウ素透過抑制層が、該位相差層と該粘着剤層との間に設けられている、位相差層付偏光板。
【請求項4】
前記ヨウ素透過抑制層の厚みが0.05μm〜10μmである、請求項1から3のいずれかに記載の位相差層付偏光板。
【請求項5】(削除)
【請求項6】
偏光子を含む偏光板と、位相差層と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し、
該位相差層が、該偏光子と組み合わされて円偏光機能または楕円偏光機能を奏する液晶化合物の配向固化層であり、
該偏光子はヨウ素を含有し、
該偏光子と該粘着剤層との間に、有機溶媒に溶解可能な熱可塑性樹脂から構成されているヨウ素透過抑制層(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)が設けられており、
該熱可塑性樹脂は、アクリル系樹脂および/またはエポキシ系樹脂を含み、
該熱可塑性樹脂のガラス転移温度が110℃以上であり、かつ、重量平均分子量Mwが25000以上150000以下であり、
該ヨウ素透過抑制層を構成する樹脂が、50重量部を超える(メタ)アクリル系単量体と0重量部を超えて50重量部未満の式(1)で表される単量体とを含むモノマー混合物を重合することにより得られる共重合体を含む、位相差層付偏光板:
【化1】

(式中、Xはビニル基、(メタ)アクリル基、スチリル基、(メタ)アクリルアミド基、ビニルエーテル基、エポキシ基、オキセタン基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルデヒド基、および、カルボキシル基からなる群より選択される少なくとも1種の反応性基を含む官能基を表し、R1およびR2はそれぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよいアリール基、または、置換基を有していてもよいヘテロ環基を表し、R1およびR2は互いに連結して環を形成してもよい)。
【請求項7】
前記位相差層が単一層であり、
該位相差層のRe(550)が100nm〜190nmであり、
該位相差層の遅相軸と前記偏光子の吸収軸とのなす角度が40°〜50°である、
請求項1から4および6のいずれかに記載の位相差層付偏光板。
【請求項8】
前記位相差層が、第1の液晶化合物の配向固化層と第2の液晶化合物の配向固化層との積層構造を有し、
該第1の液晶化合物の配向固化層のRe(550)が200nm〜300nmであり、その遅相軸と前記偏光子の吸収軸とのなす角度が10°〜20°であり、
該第2の液晶化合物の配向固化層のRe(550)が100nm〜190nmであり、その遅相軸と該偏光子の吸収軸とのなす角度が70°〜80°である、
請求項1から4および6のいずれかに記載の位相差層付偏光板。
【請求項9】
前記位相差層と前記粘着剤層との間に別の位相差層をさらに有し、該別の位相差層の屈折率特性がnz>nx=nyの関係を示す、請求項1から4および6から8のいずれかに記載の位相差層付偏光板。
【請求項10】
前記ヨウ素透過抑制層と前記粘着剤層との間に導電層または導電層付等方性基材をさらに有する、請求項1から4および6から9のいずれかに記載の位相差層付偏光板。
【請求項11】
総厚みが60μm以下である、請求項1から4および6から10のいずれかに記載の位相差層付偏光板。
【請求項12】
請求項1から4および6から11のいずれかに記載の位相差層付偏光板を備える、画像表示装置。
【請求項13】
有機エレクトロルミネセンス表示装置または無機エレクトロルミネセンス表示装置である、請求項12に記載の画像表示装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2024-04-01 
出願番号 P2020-160882
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (G02B)
P 1 651・ 536- YAA (G02B)
P 1 651・ 121- YAA (G02B)
P 1 651・ 537- YAA (G02B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 神谷 健一
宮澤 浩
登録日 2022-07-29 
登録番号 7114664
権利者 日東電工株式会社
発明の名称 位相差層付偏光板およびそれを用いた画像表示装置  
代理人 籾井 孝文  
代理人 籾井 孝文  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ