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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B25F |
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管理番号 | 1412812 |
総通号数 | 32 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2024-08-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2023-02-15 |
確定日 | 2024-06-27 |
事件の表示 | 特願2018−41146「電動工具」拒絶査定不服審判事件〔令和1年9月19日出願公開、特開2019−155485〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 出願手続の経緯 本件審判に係る出願は、平成30年3月7日にされた特許出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。 令和3年 6月11日付け:拒絶理由の通知 同年 8月23日 :意見書・手続補正書の提出 同年11月 5日付け:拒絶理由の通知 令和4年 1月17日 :意見書・手続補正書の提出 同年 5月24日付け:最後の拒絶理由の通知 同年 8月 1日 :意見書の提出 同年11月 8日付け:拒絶査定 令和5年 2月15日 :本件審判(拒絶査定不服審判)の請求 本件審判の請求と同時:手続補正書の提出 同年12月19日付け:当審による拒絶理由の通知 令和6年 2月19日 :意見書の提出 第2 本件発明 本件の請求項1〜5に係る発明は、令和5年2月15日に提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定されるとおりのものであって、本件の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、次の記載のとおりである。 「 【請求項1】 先端刃具と、 前記先端刃具を回転軸周りに往復回転させる往復回転機構と、 前記往復回転機構を駆動する電動機と、 前記電動機に電力を供給する電池パックであって電池性能が異なる電池パックが着脱可能に装着される電池装着部と、 前記電池装着部に装着された前記電池パックからの電力の供給を受けて前記電動機を制御する制御回路と、 前記先端刃具の往復回転速度を調整する変速スイッチと、 を備え、 前記制御回路は、前記電池装着部に装着された前記電池パックから前記電動機への給電をオンオフするスイッチング素子を有し、 前記制御回路は、前記電池装着部に装着された前記電池パックの電池性能に関する情報を用いずに、前記変速スイッチの調整量に応じて前記スイッチング素子のデューティ比を制御することで、前記変速スイッチの調整量が同じであれば、前記電池装着部に装着された前記電池パックの電池性能が高いほど、前記電動機の回転速度を大きくして前記先端刃具の往復回転の速さを大きくし、 前記電池性能は、前記電池パックの定格出力電圧である 電動工具。」 第3 当審拒絶理由 当審が、令和5年12月19日付けで通知した拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)のうち、本件発明に対する理由の概要は、以下のとおりである。 (進歩性)本件発明は、以下の引用文献1に記載された発明、例えば引用文献2に示される周知の電動工具、及び引用文献3記載の技術的事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 引用文献1:特開2011−201003号公報 引用文献2:特開2017−144539号公報(周知技術を示す文献) 引用文献3:特開2008−161050号公報 第4 引用文献1に記載された発明 1 引用文献1には、電動工具に関して、以下の事項が記載されている。 (1)特許請求の範囲 「【請求項1】 1本乃至複数本の電池セルを直列もしくは並列に接続しているとともに電池セルの直列接続本数が異なることで定格出力電圧が異なっている複数種の電池パックと、上記電池パックが着脱自在に装着される被装着部をハウジングに備えた複数種の工具本体とからなり、各工具本体は、動力源としてのモータと、このモータによって駆動される駆動部と、上記電池パックに電池端子を介して接続される操作入力部としてのスイッチと、該スイッチの操作に応じて上記モータの駆動制御を行う制御回路とを上記ハウジングに納めている電動工具であって、電圧による特性が異なるモータを備えている上記複数種の工具本体が有している上記被装着部は、定格出力電圧が異なっている上記複数種の電池パックのうちの任意の一つを装着可能なものとして形成されて、該被装着部に接続された電池パックは上記電池端子を介して工具本体側に給電するものであることを特徴とする電動工具。」 (2)発明の詳細な説明 「【技術分野】 【0001】 本発明は、着脱自在な電池パックを電源としている電動工具に関するものである。 【背景技術】 【0002】 電動工具はその用途に応じた出力を持つモータを備えており、着脱自在な電池パックを電源とする場合、上記モータ出力に応じた電圧及び容量の電池パックを用いるものとして構成されている。このために、複数種の電動工具がある場合、各電動工具に応じた電圧及び容量の電池パックが存在することになる。 ・・・ 【0006】 しかし、本来の電池パックの電圧よりも高い電圧の上位の電池パックを用いることができないということは、安全性の点からは好ましいものの、本来の電池パックを使いきった時点で上位の電池パックしか周囲にない時に、上位の電池パックを用いて短時間だけでも作業を行いたいことがあっても、このような要望に応えることはできない。 【0007】 本発明はこのような点に鑑みなされたものであって、利用することができる電池パックの範囲を広げて利便性を高くした電動工具を提供することを課題とするものである。 ・・・ 【発明を実施するための形態】 【0017】 本発明を実施の形態の一例に基づいて詳述すると、本発明に係る電動工具は、インパクトドライバー等の工具本体1と、該工具本体1に着脱自在に装着される電池パック2とからなるもので、複数の直列接続された電池セル13を内蔵している電池パック2は、電池セル13を覆う内ケース15に外ケース14を被せた二重構造となっており、外ケース14の上部が工具本体1への装着部2aとなっている。なお、この装着部2aは充電器への装着に際しても用いられる。 【0025】 一方、電動工具本体1は、図示省略したモータと減速部と出力部とからなり、前記電池パック2が装着される被装着部1aをハンドル部の下面に備え、被装着部1a内には、信号コネクタ91を装着した本体制御回路90や、上記複数の雄端子などが配設されている。 ・・・ 【0032】 すなわち、電池パック2として、直列接続された電池セル13の本数が異なることで定格出力電圧が異なっている複数種のものがあり、工具本体1にしても、電圧による特性が異なるモータを内蔵した複数種のものがある時、工具本体1には適合する定格出力電圧を有する電池パック2を装着して使用することになるが、ここでは適合する定格出力電圧を有する電池パック2の電池容量が無くなった場合に備えて、あるいは一時的に高出力な作業が必要であり、適合する定格出力電圧の電池パック2を装着した状態ではその高出力作業を行うことができない場合に備えて、上記適合する定格出力電圧の電池パック2のほかに、適合する定格出力電圧よりも電池セル13一つ分の電圧差だけ高い定格出力電圧の電池パック2も装着することができるようにしているとともに、他の定格出力電圧の電池パック2は装着することができないようにしている。 ・・・ 【0036】 左右方向幅の広い被係合部5,5’は、左右方向幅の広い係合部4,4’のみに係合させることができ、左右方向幅の狭い係合部4,4’には係合させることができないために、図5に示す例では、適合する電池パック2が14.4Vのものである工具本体1には、定格出力電圧が14.4Vの電池パック2を装着することができる上に、定格出力電圧が18Vの電池パック2も装着することができる。しかし、定格出力電圧が21.6Vの電池パック2は装着することができない。 ・・・ 【0040】 工具本体1に適合する定格出力電圧より高い定格出力電圧の電池パック2を装着した場合、長時間使用するとモータMの焼損などを招く虞があるが、電池セル12一つ分の電圧差程度であれば、短時間での作業であれば問題となることはない。 【0041】 電動工具は高電圧になるほど出力が大きくなるものの、高電圧対応の電動工具は構造的な耐久性の確保の点からどうしても大きく重くなってしまう。一方、電動工具のユーザーは、使用頻度が高い作業に用いるものについては小型軽量を望むことから、低電圧の電動工具を用いることが多い。しかし、ごくまれに低電圧の電動工具では性能が不足してしまうような高負荷の作業が必要となることがある。この時、本例における電動工具ならば、定格出力電圧が一段高い電池パック2も利用することができるために、高い定格出力電圧の電池パック2に交換することで応ずることができるものである。 【0045】 ところで、本来の対応する電池パック2の定格出力電圧と異なる定格出力電圧の電池パック2を装着することができるようにしたものにおいては、電池パック2の過放電防止対策もこの点に応じたものとしなくてはならない。 【0046】 このために、ここでは電池パック2を工具本体1に装着した時、電池パック2の種別を工具本体1側で識別して、過放電防止を電池パック2の種別に応じて切り換えることができるようにしている。 【0047】 すなわち、図4に示すように、駆動源としてのモータMを内蔵するとともに電池パック2を電源として動作する工具本体1は、操作用のトリガースイッチSWや上記モータMの動作を制御する制御回路CPUと駆動用のスイッチング素子Q1のほかに、回転数センサーNSと温度センサーTSとをハウジング内に備えており、温度センサーTSはスイッチング素子Q1やモータMの近傍に設置されている。 【0048】 上記制御回路CPUは、回転数センサーNSから回転数情報を、温度センサーTSから温度情報を取得するほか、モータMの負荷を電流検出抵抗Rcの両端電圧から負荷電流値として検出するものであり、また装着される電池パック2の種別情報と、負荷時の電池電圧とを検出することができるものとなっている。 【0049】 内蔵する電池セル13の直列本数が異なる複数種の電池パック2は、内蔵する電池セル13の直列本数に応じた抵抗値を有する抵抗R2を備えており、工具本体1に電池パック2を装着した時、工具本体1の制御回路CPUは、抵抗R1と上記抵抗R2との分圧抵抗から、装着された電池パック2の電池セル13の直列本数(定格出力電圧)の違いによる種別を識別することができるものとなっている。この電池パック2の種別識別は、電池パック2側に設けた不揮発性メモリに種別毎の識別コードを書き込んでおき、電池パック2を工具本体1に装着した時、電池電圧種類識別手段を兼ねている制御回路CPUが上記識別コードを読み出すことで行うものであってもよい。 【0050】 そして、この工具本体1の制御回路CPUは、放電時の電池パック2の出力電圧を検出してこの電圧が閾値まで低下すればモータMを停止させることで過放電防止を工具本体1側でも行っているのであるが、上記制御回路CPUには、電池パック2の種別毎の閾値をテーブルとして持たせており、装着された電池パック2の種別情報を基に、制御回路CPUは上記テーブルから装着された電池パック2に適合した閾値を読み出し、この閾値を基に上記過放電防止制御を行う。装着された電池パック2の定格出力電圧に応じた閾値で放電停止制御を行うために、どの定格出力電圧の電池パック2を装着した時にも、各電池パック2の容量一杯を用いて作業を行うことができる また、適合する定格出力電圧よりも高い定格出力電圧の電池パック2を装着した場合、高出力を得られるだけでなく、モータMの発熱量の増加やモータMによって駆動される駆動部の負担が大きくなり、この状態で長時間動作させたならば、工具本体1の寿命が短くなってしまう。この点からすれば、適合する定格出力電圧よりも高い定格出力電圧の電池パック2が装着された時には、制御回路CPUは上記識別情報からこの点を検出してモータMの出力を制限した駆動を行うものとするのが好ましい。この制限は、モータMがブラシモータである場合、PWM制御で行うことができる。 【0051】 図6はモータMの回転数−トルク(NT)特性と電流−トルク(IT)特性とを示しており、図中HNTは高電圧で駆動した時のNT特性、HITは高電圧で駆動した時のIT特性、LHTは低電圧(適合する定格出力電圧)で駆動した時のNT特性、LITは低電圧で駆動した時のIT特性である。高電圧で駆動した時の方が回転数もトルクも大きくなり、その分、出力だけでなく発熱も大きくなる。 【0052】 このために通常であれば、モータMや駆動部分の設計を高電圧でも耐える構造にしなくてはならないが、この場合、工具本体1の大型化を招いてしまう。このために、高電圧の電池パック2が装着された時には、PWM制御によって入力電圧の平均が適合する電圧の電池パック2を装着した時の入力電圧と同じになるようにする。 【0053】 具体的には、電池パックPの識別情報を取得した制御回路CPUは、モータ電流及び電池電圧を測定し、適合する電圧の電池パック2(及びそれよりも定格出力電圧が低い電池パック2)が装着されている時は、特に制限を行わず、高電圧の電池パック2が装着されている時は、適合する電池パック2が装着されている時に得られる最大出力付近の出力になるようにPWM制御を行うことで、図7に示すように、NT特性及びIT特性が図6におけるLHT及びLITと同じにするのである。 【0054】 上記のような制限を加えることは、予め電圧と電流のテーブルを設けておき、このテーブルを元にNT特性やIT特性のどの位置にあるかを判断し、電圧に対する電流をPWM制御で制限したり、あるいは予め回転数と電流のテーブルを設けておき、このテーブルを元にNT特性やIT特性のどの位置にあるかを判断し、回転数に対する電流をPWM制御で制限することで行うことができる。また温度情報を参照して、温度が所定値を越えた時のみ、上記制限を行うものとしてもよい。 【0055】 このほか、検出されたモータ電流から発熱が低電圧の電池パック2の装着時と同等になるようにPWM制御したり、出力トルクが低電圧パック2の装着時と同等になるようにPWM制御するものであってもよい。発熱の抑止が重要であれば前者が好ましく、トルクを低減して駆動部分のストレスを低減することを重要視するのであれば後者が好ましい。図8は高負荷による発熱を抑えるために出力を制限(負荷電流の上限を制限)した場合を示しており、図9はトルクを抑えるために出力を制限(トルクの上限を制限)した場合を示している。 【0056】 更には、高電圧の電池パック2を装着して高電圧をモータMに印加する場合、高回転による回転軸の焼き付きや騒音の低減のために回転数の上限を制限するようにしてもよい。 【0057】 回転数の制限は、予め電圧と電流のテーブルを設けておき、このテーブルを基にNT特性やIT特性のどの位置にあるかを判断し、電圧に対する電流をPWM制御で制限することや、予め回転数と電流のテーブルを設けておき、このテーブルを基にNT特性やIT特性のどの位置にあるかを判断し、回転数に対する電流をPWM制御で制限することで行うこともできる。 【0058】 また回転数のみを測定し、回転数が所定回転数を超えないようにPWM制御で制限していくようにしてもよい。図10は最高回転数を低減させた場合を示している。 ・・・ 【0065】 温度センサーTSで検出される温度が所定値を越える時のみ上記制限を行うようにしてもよい。図11は高電圧の電池パック2が装着された時に高負荷による発熱を抑えるためにオーバーラップ通電角制御や進角制御による出力制限を行い、さらに負荷が大きくなった時は停止させる場合を示している。 ・・・ 【0068】 適合する定格出力電圧の電池パック2が装着された時の長時間駆動による発熱等の防止という点では、装着された電池パック2が適合する定格出出力電圧よりも高い定格出力電圧のものであることを判別できた時点で、連続するモータMの駆動時間に制限を加えるようにしてもよい。」 (3)図面 「【図1】 【図4】 【図6】 【図7】 【図8】 【図9】 【図10】 【図11】 」 2 上記1から、引用文献1には、以下の事項が記載されている、といえる。 (1)段落【0017】の記載、図1から、引用文献1に記載された電動工具は、インパクトドライバー等の工具本体1と、工具本体1に着脱自在に装着される電池パック2とからなるものである。また、請求項1、段落【0017】、【0025】、【0032】、【0040】、【0047】の記載、図1、4から、工具本体1は、インパクトドライバー等の出力部と、減速部と、モータMと、モータMに電力を供給する電池パック2であって電池性能が異なる電池パック2が着脱自在に装着される被装着部1aと、被装着部1aに装着された電池パック2からの電力の供給を受けてモータMを制御する制御回路CPUと、モータMを駆動するために操作されるトリガースイッチSWと、を備えているといえる。なお、請求項1、段落【0050】、【0052】及び【0055】に記載される「駆動部分」又は「駆動部」は、モータMによって駆動されるものであるから、「インパクトドライバー等の出力部」及び「減速部」を指すといえ、以下「駆動部」と総称する場合がある。 (2)段落【0047】の記載、図4から、引用文献1に記載された電動工具の制御回路CPUは、被装着部1aに装着された電池パック2からモータMへの給電をオンオフするスイッチング素子Q1とともに設けられている、といえる。 (3)請求項1、段落【0032】、【0040】〜【0041】の記載から、引用文献1に記載された電動工具は、適合する定格出力電圧の電池パック2のほかに、適合する定格出力電圧よりも電池セル13一つ分の電圧差だけ高い定格出力電圧の電池パック2も装着することができるものである。そして、短時間での作業であれば、当該高い定格出力電圧の電池パック2を装着してもモータMの焼損などの問題となることがなく、ごくまれに低電圧の電動工具では性能が不足してしまうような高負荷の作業に応ずることを可能にするものである。また、段落【0051】の記載、図6(NHTの太実線)から、高電圧で駆動した時には、回転数もトルクも大きくなることも開示されている。 (4)他方、段落【0050】〜【0051】には、引用文献1に記載された電動工具では、高電圧で駆動した時の方が回転数もトルクも大きくなるものの、その分、出力だけでなくモータMの発熱量が増加し、モータMによって駆動される駆動部の負担も大きくなり、この状態で長時間動作させたならば、工具本体1の寿命が短くなってしまうため、モータMの出力を制限した駆動を行う必要があることが示唆されている。そして、段落【0052】〜【0053】、図7には、その具体例として、電池パック2の識別情報を取得し、高電圧の電池パック2が装着された時には、入力電圧の平均(又は出力)が、適合する電圧の電池パック2を装着した時の入力電圧(又は最大出力付近の出力)と同じになるようにPWM制御を行うことも記載される。 (5)しかしながら、上記(3)のとおり、短時間での作業であれば、上記(4)に記載したモータMの焼損などの問題が生じないことから、短時間での作業との条件下では、高負荷の作業に応ずることを可能とするために、上記(4)の制御を行うことなく、すなわち、工具本体1側で識別した電池パック2の定格出力電圧に応じて制限することなく、被装着部1aに装着された電池パック2の定格出力電圧が高いほど、モータMの回転数を大きくする(図7の態様ではなく、図6における、高電圧で駆動した時のNT特性(HNT)及び高電圧で駆動した時のIT特性(HIT)を維持する)ことが、引用文献1には開示されているといえる。 (6)また、段落【0054】の「また温度情報を参照して、温度が所定値を越えた時のみ、上記制限を行うものとしてもよい。」との記載に鑑みれば、引用文献1には、温度が所定値を越えた時のみ電池パック2の識別情報を取得し、高電圧の電池パック2が装着された時には、適合する電圧の電池パック2を装着した時と同じになるようにPWM制御を行う、言い換えれば、モータM等の温度が適温の条件下では、高負荷の作業に応ずることを可能とするために、識別した電池パック2の定格出力電圧に応じてモータMの出力を制限する制御は行わず、被装着部1aに装着された電池パック2の定格出力電圧が高いほど、モータMの回転数を大きくする電動工具も開示されている(モータの出力制限制御に係る前提は異なるものの、段落【0065】にて説明される図11における、高電圧で駆動した時のNT特性(HNT)の、トルクTが小さく、出力(回転数N)が制限されていない領域(図11の左側の領域)を参照。)、といえる。 (7)さらに、段落【0056】の「更には、高電圧の電池パック2を装着して高電圧をモータMに印加する場合、高回転による回転軸の焼き付きや騒音の低減のために回転数の上限を制限するようにしてもよい。」との記載や、段落【0058】の「また回転数のみを測定し、回転数が所定回転数を超えないようにPWM制御で制限していくようにしてもよい。」との記載から、引用文献1には、モータMの回転数が所定回転数を超えない条件下では、高負荷の作業に応ずることを可能とするために、識別した電池パック2の定格出力電圧に応じて制限することなく、被装着部1aに装着された電池パック2の定格出力電圧が高いほど、モータMの回転数を大きくする電動工具も開示されている(図10における、高電圧で駆動した時のNT特性(HNT)の、回転数が上限に制限されていない領域(図10の中央〜右側の、HNTが右肩下がりでLNTよりも回転数Nが大きい領域)を参照。)、といえる。 (8)すると、上記(3)〜(7)のとおり、安全性を考慮したいずれの態様においても、安全性の制限値内の領域においては、引用文献1に記載された電動工具の制御回路CPUは、被装着部1aに装着された電池パック2の定格出力電圧に応じて制限することなく、トリガースイッチSWの操作に応じて制御することで、トリガースイッチSWの操作が同じであれば、被装着部1aに装着された電池パック2の定格出力電圧が高いほど、モータMの回転数を大きくするもの、といえる。 (9)なお、段落【0045】〜【0046】、【0050】には、引用文献1に記載された電動工具では、電池パック2の過放電防止対策のため、電池パック2の種別を工具本体1側で識別して、電池パック2に適合した閾値を基に、放電時に検出した電池パック2の出力電圧が閾値まで低下すればモータMを停止させる過放電防止制御についても記載される。しかしながら、電池パック2の種別に関する識別情報を用いて行われる当該制御は、電池パックが十分に充電された状態にあるときには行われず、上記(3)及び(5)〜(8)に示した制御がそのまま行われることは、明らかである。 3 上記1及び2から、引用文献1に記載された事項を本件発明に合わせて整理すると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている、といえる。 「インパクトドライバー等の出力部と、 出力部を駆動させる減速部と、 減速部を駆動するモータMと、 前記モータMに電力を供給する電池パック2であって定格出力電圧が異なる電池パック2が着脱可能に装着される被装着部1aと、 前記被装着部1aに装着された前記電池パック2からの電力の供給を受けて前記モータMを制御する制御回路CPUと、 モータMを駆動するために操作されるトリガースイッチSWと、 を備え、 前記制御回路CPUは、前記被装着部1aに装着された前記電池パック2から前記モータMへの給電をオンオフするスイッチング素子Q1と併設され、 前記制御回路CPUは、前記被装着部1aに装着された前記電池パック2の定格出力電圧に応じて制限することなく、前記トリガースイッチSWの操作に応じて制御することで、前記トリガースイッチSWの操作が同じであれば、前記被装着部1aに装着された前記電池パック2の定格出力電圧が高いほど、前記モータMの回転数を大きくし、 前記定格出力電圧は、前記電池パック2の定格出力電圧である 電動工具本体1を含む電動工具。」 第5 引用文献2に例示される周知の電動工具 1 引用文献2には、作業工具としての振動工具100に関して、以下の事項が記載されている。 (1)発明の詳細な説明 「【0027】 本発明に係る作業工具の実施形態を図1〜図15に基づき説明する。図1に示す通り、本発明に係る作業工具は電動式の振動工具100である。振動工具100は、例えば、ブレードや研磨パッド等の複数種類の先端工具を選択的に装着し、当該先端工具を振動させることによって被加工材に対して工具の種類に応じた加工を行う。なお先端工具の一例として、図1においてはブレード145が装着されている。このブレード145が本発明に係る「先端工具」の一例である。 (アウタハウジング) 図1に示す通り振動工具100は、振動工具100の外郭を構成するアウタハウジング102を有する。アウタハウジング102は合成樹脂製であり、図2および図3に示す通り、駆動機構ハウジング106とインナハウジング104を収容する収容空間1021を形成する。なお、図3は図2におけるI−I線断面図である。このアウタハウジング102が本発明に係る「アウタハウジング」の一例であり、インナハウジング104が本発明に係る「インナハウジング」の一例である。 ・・・ 【0033】 図1に示す通り短尺部107における上壁部102A1にはスライドスイッチ108aが、側壁部102A2にはダイヤルスイッチ108bがそれぞれ設けられる。スライドスイッチ108a、ダイヤルスイッチ108bおよびバッテリ装着部109は、コントローラ180と電気的に接続される。コントローラ180はブラシレスモータ115に設けられた複数のコイルを制御するためのスイッチング素子、中央演算処理装置(CPU)、コンデンサなどを基板に配置して構成される。 【0034】 短尺部107が上述の構成を有することから、使用者は、掌にアウタハウジング接合部102Cが当接しない状態でスライドスイッチ108aまたはダイヤルスイッチ108bを操作することができる。 なお図2に参照される通り、スライドスイッチ108aが操作された場合には、コントローラ180がブラシレスモータ115を駆動することによりブレード145が振動される。また、ダイヤルスイッチ108bが操作された場合には、コントローラ180がブラシレスモータ115の回転数を変更することによりブレード145の振動速度が変更される。 【0035】 (インナハウジング) 図2に示す通りインナハウジング104は、駆動機構ハウジング106と固定部材105aにより一体化される。インナハウジング104は合成樹脂製であり、駆動機構ハウジング106は金属製である。固定部材105aはネジにより構成される。図2に示す通り、駆動機構ハウジング106は、ブラシレスモータ115の出力によりブレード145を駆動する駆動機構120を収容する。 ・・・ 【0041】 図6に示す通り、モータ収容空間1041には、ブラシレスモータ115を配置するためのリブ(モータ配置部)が設けられる。接続部収容空間1042には、ブラシレスモータ115とコントローラ180とを電気的に接続する接続部を配置するためのリブ119a(接続部配置部)が設けられる。当該接続部(図示省略)は、給電ケーブルと信号伝達ケーブルにより構成される。当該接続部は本発明に係る「接続部」の一例である。コントローラ収容空間1043には、コントローラ180を配置するためのリブ(コントローラ配置部)が設けられる。バッテリ装着部収容空間1044には、バッテリ装着部109を配置するためのリブ(バッテリ装着部配置部)が設けられる。このバッテリ装着部109が本発明に係る「バッテリ装着部」の一例である。図2に示されるバッテリ装着部109は、バッテリ190の給電端子と電気的に接続される受電端子が設けられる。またバッテリ装着部109は、バッテリ190を上下方向にスライド移動することにより当該バッテリ190を着脱可能とするよう構成される。なお図2に示す通りコントローラ180は、バッテリ190をバッテリ装着部109に装着する際のスライド移動方向(上下方向)に延在状に配置されている。当該構成によって、前後方向におけるアウタハウジング102の後方領域の短尺化を図ることができる。 ・・・ 【0052】 (駆動機構) 図2、図13、図14および図15に基づき、駆動機構120の構成を説明する。なお、図13は駆動機構120を示す拡大断面図、図14は図2のVI−VI線断面図、図15は図1のVII−VII線断面図である。 図2および図13に示す通り、駆動機構120は、偏心軸部121と、駆動ベアリング122と、被駆動アーム123と、スピンドル124とを主体として構成される。このスピンドル124が本発明に係る「スピンドル」の一例である。なお、スピンドル124は円筒状に構成されており、当該スピンドル124内にクランプシャフト127が着脱自在に配置される。また振動工具100は、振動工具100に対するクランプシャフト127のロックおよびロック解除を行うロック機構130と、当該ロック機構130を使用者が手動操作するためのロック操作機構150を有する。 【0053】 図13に示す通り駆動機構ハウジング106は、第1駆動機構ハウジング106Aと、第2駆動機構ハウジング106Bとを有し、当該第1駆動機構ハウジング106Aと第2駆動機構ハウジング106Bとの間に、駆動機構120と、ロック機構130と、ロック操作機構150とが配置される。第1駆動機構ハウジング106Aと第2駆動機構ハウジング106Bは固定部材1061により一体化される。固定部材1061はネジにより構成される。 図13に示す通りスピンドル124の回動軸方向は、ブラシレスモータ115の出力軸部115aと平行とされる。出力軸部115aの先端に取り付けられた偏心軸部121は、上側のベアリング121bと下側のベアリング121cによって回転可能に支持されている。このベアリング121bと121cは、駆動機構ハウジング106に保持される。 【0054】 図13および図14に示す通り被駆動アーム123は、偏心軸部121の偏心部121aに取り付けられた駆動ベアリング122の外周部に当接するよう構成されたアーム部123aと、スピンドル124の所定領域を包囲するとともに、当該スピンドル124に固定される固定部123bとを有する。被駆動アーム123とスピンドル124は、ブラシレスモータ115よりも下側に配置される。当該構成によって、スピンドル124の必要寸法を低減することができ、上下方向におけるスピンドル124の短尺化を図ることができる。また、当該構成によって、上下方向におけるブレード145と被駆動アーム123の位置を近づけることが可能となる。そのため、被駆動アーム123とブレード145の距離に応じて生じる偶力が低減される。これにより、加工作業時に、被加工材に対するブレード145の作用によって生じる振動が抑制される。 図13に示す通りスピンドル124は、クランプシャフト127とともにブレード145を挟持するためのフランジ状の工具保持部126を有する。スピンドル124は、上側のベアリング124aと下側のベアリング124bによって回転可能に支持されている。 【0055】 図13に示されるクランプシャフト127は、スピンドル124に挿入可能とされる略円柱状の部材である。クランプシャフト127の上側には係合溝部127aが、下側にはフランジ状のクランプヘッド127bがそれぞれ設けられる。クランプシャフト127がスピンドル124に挿入された状態にあっては、係合溝部127aがロック機構130に保持され、クランプヘッド127bと工具保持部126の間にブレード145が挟持される。 【0056】 ブラシレスモータ115が駆動されると、出力軸部115aの回転によって偏心軸部121の偏心部121aと駆動ベアリング122がモータ回動軸方向の周りを回転移動する。これにより被駆動アーム123がスピンドル124の回動軸を中心として円弧状に往復駆動される。その結果、スピンドル124とクランプシャフト127に挟持されたブレード145が円弧状に往復駆動され、所定の加工作業(例えば、切断等)が遂行可能となる。 ・・・ 【0069】 (振動工具の動作) 次に図1、図2および図13に基づき、加工作業を行う場合の振動工具100の動作を説明する。使用者は、短尺部107を把持するとともにスライドスイッチ108aをオンに切り替える。これによって、コントローラ180がブラシレスモータ115を回転駆動することに伴い、駆動ベアリング122が偏心軸部121とともに回転される。この結果、駆動ベアリング122が被駆動アーム123を駆動することにより、スピンドル124とともにブレード145が回動軸部を中心として往復回動を行う。当該状態において、使用者がブレード145を被加工材に当接させることにより、加工作業を行うことが可能となる。なお当該一連の加工作業にあっては、アウタハウジング接合部102Cの上壁部102A1(短尺部107の上部を含む)への形成が回避されていることから、当該上壁部使用者は掌に違和感を覚えることがなく、加工作業時の作業性を向上させることが可能とされる。」 (2)図面 「【図1】 【図2】 【図6】 【図13】 【図14】 」 2 上記1及び技術常識から、引用文献2には、以下の振動工具100が記載されている、といえる。 「ブレード145と、 前記ブレード145をスピンドル124の回動軸周りに円弧状に往復駆動させる駆動機構120と、 前記駆動機構120を駆動するブラシレスモータ115と、 前記ブラシレスモータ115に電力を供給するバッテリ190が着脱可能に装着されるバッテリ装着部109と、 前記バッテリ装着部109に装着された前記バッテリ190からの電力の供給を受けて前記ブラシレスモータ115を制御するコントローラ180と、 前記ブレード145の振動速度を変更するダイヤルスイッチ108bと、 を備え、 前記ダイヤルスイッチ108bの操作に応じて制御することで、前記ブラシレスモータ115の回転数を大きく変更して前記ブレード145の振動速度を大きく変更する、 振動工具100。」 3 上記2に例示されるように、以下の電動工具は、本件出願前において周知(以下「周知の電動工具」という。)であった、といえる。 「先端刃具と、 前記先端刃具を回転軸周りに往復回転させる往復回転機構と、 前記往復回転機構を駆動する電動機と、 前記電動機に電力を供給する電池パックが着脱可能に装着される電池装着部と、 前記電池装着部に装着された前記電池パックからの電力の供給を受けて前記電動機を制御する制御回路と、 前記先端刃具の往復回転速度を調整する変速スイッチと、備え、 変速スイッチの調整量に応じて制御することで、電動機の回転数を大きくすることにより先端刃具の往復速度を大きくすることができる電動工具。」 第6 引用文献3に記載された技術的事項 1 引用文献3には、電動工具(12)に関して、以下の事項が記載されている。 (1)発明の詳細な説明 「【0010】 図1及び2において、本発明による二モード式ポータブル型電動工具(12)が示されている。本発明は往復動のこぎり(12)を用いて説明されているけれど、特定の工具が例示されているもので、本発明の教示にもとづいて作られた、円形のこぎり、ドリル、サンダーあるいは他の同様なポータブル型工具であってもよいことは理解されるであろう。 【0011】 電動工具(12)は、歯車列(図示されていない)を介して直流モータ(11)により駆動される工具インターフェース(図示されていない)を含んでいる。モータ(11)は、ハウジング(91)の中に取りつけられていて、そのハウジングからハンドル(92)が延伸している。トリガスイッチ(93)がモータ(11)の背後におけるハンドル(92)に取りつけられている。本実施例において、直流モータ(11)は24V直流源により給電されるようになっていて、他の直流電圧系統18Vあるいは100Vのような直流電圧装置が使用されてもよい。図1に示す第一操作モードにおいて、電動工具(12)は着脱式バッテリ電力モジュールにより給電されている。・・・ 【0012】 図3に、本発明の教示にもとづく工具電力システムの第一実施例を示す。・・・ 【0013】 図4は、モータ(11)に使用するチョップされた電圧(Vm)と、モータインダクタンス(22)の作用で平均化によりもたらされるモータ電流(Im)とを示している。出力電圧をフィルタするためにモータ(11)のインダクタンス(22)を使用することは、チョッパ・モジュール(21a)における出力フィルタの必要性を省き、従って電動工具(12)のコストを低減し、かつ電力分配器(18)の容積が小さくなる。チョッパ・モジュールの選択されたスイッチング周波数はインダクタンス(22)の値に大きく影響を受ける。チョッパ・モジュールのスイッチング周波数は、好ましくは、モータインダクタンス(22)を流れる電流値がスイッチング周波数における平均電流の約10%未満で変動するように選択されている。しかしながら、モータインダクタンス(22)を流れる電流が約40%未満で変動するように、スイッチング周波数を選択することは本発明の範囲内である。操作量(19)はチョッパ・モジュール(21a)のデュティサイクル設定用の信号を提供していて、直流モータ(11)に使用される平均直流電圧はモータ(11)の使用範囲内に維持される。実施例において、操作量(19)は電動工具におけるトリガスイッチにより提供されたオープンループ信号である。・・・ 【0014】 チョッパ・モジュール(21a)はバッテリパック(図示されていない)から直流電圧を供給するバッテリ電力モジュール(14)により給電されている。バッテリ電力モジュール(14)が電力分配器(18)に代わってチョッパ・モジュール(21)へ接続している。使用にあたって、バッテリ電力モジュール(14)からの直流電圧は、操作量(19)に応答してチョッパ・モジュール(21a)によりチョップされ、かつ直流モータ(11)へ供給される。同様に交流ラインからの使用にあたって、チョップされた電圧は、モータ(11)の内部インダクタンス(22)を通してフィルタされ、モータ(11)の使用範囲内の平均直流電圧を提供する。 【0015】 図5は本発明にもとづいて作られた、電動工具(12)用の電力サブシステムの好適な実施例のブロック線図である。電力サブシステムは、ライン電力を工具モジュール(20)へ供給するチョップされた電圧に変換する、ライン電力モジュール(16a)を含んでいる。代りに、バッテリ電力モジュール(14)はバッテリパック(図示されていない)から、直流電圧を工具モジュール(20)へ提供している。工具モジュール(20)は二つの使用モードを有している。工具モジュール(20)が、ライン電力モジュール(16)へ接続された場合、チョップされた電圧をライン電力モジュール(16)から直流モータ(11)へ供給する。さらに、工具モジュール(20)は、トリガスイッチ位置(図示されていない)に対応する操作量(19)を受け取り、対応するPWM制御信号(24)を、チョップされた電圧のデューティサイクルを制御するために、ライン電力モジュール(16)へ送る。工具モジュール(20)は、バッテリ電力モジュール(14)へ接続された場合、バッテリパックからの直流電圧をチョップし、チョップした電圧を直流モータ(11)へ供給する。チョップされた電圧のデューティサイクルは操作量(19)により制御される。 ・・・ 【0018】 図6において、工具モジュール(20)は二つの使用モードを有している。工具モジュール(20a)がライン電力モジュール(16a)へ接続された場合、チョップされた電圧をライン電力モジュール(16a)から直流モータ(11)へ供給する。さらに、工具モジュール(20a)はトリガスイッチ位置(図示されていない)に対応する操作量(19)を受け取り、対応するデューティサイクル信号(24)を、ライン電力モジュール(16a)へチョップされた電圧のデューティサイクルを制御するために送る。工具モジュール(20a)は、バッテリ電力モジュール(14)へ接続された場合(図3)、バッテリパックからの直流電圧をチョップし、チョップした電圧を直流モータ(11)へ供給する。チョップされた電圧のデューティサイクルは操作量(19)により制御される。 ・・・ 【0021】 バッテリ電力モードの間、ライン電力モジュール(16a)はバッテリ電力モジュール(図示されていない)に交換される。再度使用者が工具モジュールコントローラ(36)への所望する操作量(19)を提供するためにトリガスイッチ位置を調節する。操作量に応答して、工具モジュールコントローラが、交互にターンオン、ターンオフする工具モジュールの直列スイッチ(34)の動作を制御する。本実施例において、パルス巾の変調が採用されているけれども、周波数変調のような他の変調方法を使用することも本発明の範囲内である。スイッチ(34)がターンオンすると、電流がバッテリ電力モジュールから内部インダクタンスを通ってモータ(11)へ流れ、バッテリ電力モジュールへ戻る前にバッテリ電力モジュールの直列スイッチ(34)へ流れる。直列スイッチ(34)がターンオフすると、内部インダクタンス(22)を介してランプアップしつつあった電流が、内部インダクタンス(22)からモータ(11)、ライン電力モジュールのフリー・ホィーリングダイオード(40)、さらにバッテリ電力モジュールのジャンパ線(101)を通って流れるようにランプダウンし始める。ジャンパ線(101)が、低電圧ダイオード(40)と高電圧ダイオード(38)との相反するレーティングに対する解決への鍵である。」 (2)図面 「【図1】 【図3】 【図4】 【図5】 【図6】 」 2 上記1及び技術常識から、引用文献3には、以下の技術的事項(以下「引用文献3記載の技術的事項」という。)が記載されている、といえる。 「着脱式バッテリ電力モジュール(14)により給電される電動工具(12)において、 直流モータ(11)に供給される直流電圧を制御するための操作量(19)を、トリガスイッチ位置に対応して提供するトリガスイッチ(93)を備え、 チョッパ・モジュール(21a)、又は、工具モジュール(20、20a)の工具モジュールコントローラ(36)は、トリガスイッチ(93)のトリガスイッチ位置に対応する操作量(19)に応じたデューティサイクル信号(24)により、バッテリ電力モジュール(14)から給電される直流電圧をチョップするように、チョッパ・モジュール(21a)又は直列スイッチ(34)を制御すること。」 第7 本件発明と引用発明1との対比 1 本件発明と引用発明1とを対比する。 引用発明1における「モータM」は、その機能・構造等からみて、本件発明における「電動機」に相当し、以下同様に、「電池パック2」は「電池パック」に、「被装着部1a」は「電池装着部」に、「制御回路CPU」は「制御回路」に、「スイッチング素子Q1」は「スイッチング素子」に、それぞれ相当する。 また、引用発明1における「定格出力電圧」は、本件発明における「電池性能」及び「定格出力電圧」に相当し、そして前者の「電池パック2の定格出力電圧に応じて制限することなく、」は、その機能・作用からみて、後者の「電池パックの電池性能に関する情報を用いずに、」に相当する。 また、引用発明1における「インパクトドライバー等の出力部」は、電動工具の「出力部」である限りにおいて、本件発明における「先端刃具」に相当し、引用発明1における「出力部を駆動させる減速部」は、電動工具の「出力部を駆動させる伝達機構」である限りにおいて、本件発明における「先端刃具を回転軸周りに往復回転させる往復回転機構」に一致する。 さらに、引用発明1における「モータMを駆動するために操作されるトリガースイッチSW」は、「出力部を所定の状態で駆動させるスイッチ」である限りにおいて、本件発明における「先端刃具の往復回転速度を調整する変速スイッチ」に一致する。 また、引用発明1における「トリガースイッチSWの操作に応じて制御することで、トリガースイッチSWの操作が同じであれば、被装着部1aに装着された電池パック2の定格出力電圧が高いほど、モータMの回転数を大きく」することは、 「スイッチの操作に応じて制御することで、スイッチの操作が同じであれば、電池装着部に装着された電池パックの電池性能が高いほど、電動機の回転速度を大きく」する限りにおいて、 本件発明における「前記変速スイッチの調整量に応じて前記スイッチング素子のデューティ比を制御することで、前記変速スイッチの調整量が同じであれば、前記電池装着部に装着された前記電池パックの電池性能が高いほど、前記電動機の回転速度を大きくして前記先端刃具の往復回転の速さを大きく」することに一致する。 2 上記1から、本件発明と引用発明1とは、以下の一致点で一致する。 <一致点> 「出力部と、 前記出力部を駆動させる伝達機構と、 前記伝達機構を駆動する電動機と、 前記電動機に電力を供給する電池パックであって電池性能が異なる電池パックが着脱可能に装着される電池装着部と、 前記電池装着部に装着された前記電池パックからの電力の供給を受けて前記電動機を制御する制御回路と、 前記出力部を所定の状態で駆動させるスイッチと、 を備え、 前記電池装着部に装着された前記電池パックから前記電動機への給電をオンオフするスイッチング素子を有し、 前記制御回路は、前記電池装着部に装着された前記電池パックの電池性能に関する情報を用いずに、前記スイッチの操作に応じて制御することで、前記スイッチの操作が同じであれば、前記電池装着部に装着された前記電池パックの電池性能が高いほど、前記電動機の回転速度を大きくし、 前記電池性能は、前記電池パックの定格出力電圧である 電動工具。」 3 他方、本件発明と引用発明1とは、以下の相違点1〜3で相違する。 (1)相違点1 電動工具に関し、 本件発明における電動工具は、 「先端刃具と、 前記先端刃具を回転軸周りに往復回転させる往復回転機構と、 前記往復回転機構を駆動する電動機と、 前記先端刃具の往復回転速度を調整する変速スイッチと」を備え、 「電動機の回転速度を大きく」して「先端刃具の往復回転の速さを大きく」することができるものであるのに対し、 引用発明1における電動工具は、インパクトドライバー等の出力部と、減速部と、モータMと、モータMを駆動するために操作されるトリガースイッチSWを備えるものの、出力部及び減速部がどのように駆動されるものであるか不明であり、モータMの回転数を大きくした際に出力部がどのように駆動されるかも不明である点。 (2)相違点2 制御回路とスイッチング素子との関係に関し、 本件発明においては、制御回路がスイッチング素子を有するのに対し、 引用発明1においては、制御回路CPUとスイッチング素子Q1とは併設されている点。 (3)相違点3 変速スイッチに関し、 本件発明1における電動工具においては、変速スイッチが先端刃具の往復回転速度を調整するものであり、制御回路が「変速スイッチの調整量に応じてスイッチング素子のデューティ比を制御する」ものであるのに対し、 引用発明1における電動工具においては、トリガースイッチSWがモータMを駆動するために操作されるものであって、速度を調整する機能を有するか不明であり、制御回路CPUがその調整量に応じてスイッチング素子Q1のデューティ比を制御するかも不明である点。 第8 相違点に対する当審の判断 上記相違点について検討する。 1 相違点1について (1)上記第5にて引用文献2を例として示した電動工具は、本件出願前において周知の電動工具であった、といえる。 引用文献1には、電動工具の一例としてインパクトドライバーが示される(段落【0017】)ものの、例えば段落【0001】〜【0002】に記載されるように、着脱自在な電池パックを電源としている電動工具であって、様々な用途に応じた複数種の電動工具を想定して、引用発明1が開示されていることが理解できる。 してみると、引用発明1における電動工具の用途を、例えば引用文献2に示される上記周知の電動工具とすることで、上記相違点1に係る本件発明のようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。 2 相違点2について 制御回路とスイッチング素子との関係に関し、例えば、1つの回路基板上に制御回路素子とスイッチング素子とを併設した場合に、当該回路基板自体を広義に「制御回路」と定義して、制御回路がスイッチング素子を有すると特定するか、制御回路素子を狭義に「制御回路」と定義し、制御回路(素子)とスイッチング素子とを併設すると特定するかは、単なる表現の違いにすぎず、構造上、両者に実質的な差異はない。 また、引用発明1における制御回路がスイッチング素子を有するものでないとしても、例えば部品点数の削減や作業の効率化といった一般的な課題を解決する手段として制御回路がスイッチング素子を有するように一体化することで、上記相違点2に係る本件発明のようにすることも、当業者であれば容易に想到し得たことである。 3 相違点3について 引用発明1と引用文献3記載の技術的事項(上記第6の2参照)とは、いずれも、電動工具に関する技術である点で技術分野が関連し、引用発明1における「トリガースイッチSW」と引用文献3記載の技術的事項における「トリガスイッチ」とはいずれも電動工具を駆動するために操作されるスイッチである点で作用・機能が共通する。したがって、引用発明1に引用文献3記載の技術的事項を適用し、上記相違点3に係る本件発明1のようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。 また、上記1のとおり、引用発明1の用途を周知の電動工具とした場合に、引用文献3記載の技術的事項を考慮し、周知の電動工具が備える先端刃具の往復回転速度を調整する変速スイッチの調整量に応じて、引用発明1のスイッチング素子Q1のデューティ比を制御することで、上記相違点3に係る本件発明のようにすることも、引用文献1にはスイッチング素子Q1をPWM制御する思想が開示され(上記第4の1(2)の段落【0050】、【0058】等を参照。)、周知例として示した引用文献2にはダイヤルスイッチ108bが操作された場合には、コントローラ180がブラシレスモータ115の回転数を変更することによりブレード145の振動速度を変更することが開示される(上記第5の1(2)の段落【0034】を参照。)ことからみて、当業者であれば容易に想到し得たことである。その場合、変速スイッチの調整量が同じであれば、電池装着部に装着された電池パックの電池性能が高いほど、電動機の回転速度が大きくなり、先端刃具の往復回転の速さも大きくなることも、引用発明1が行う制御(上記第4の2(8)、3を参照。)からみて、必然である。 4 本件発明により奏する効果 本件発明により奏する効果についても、引用発明1、例えば引用文献2に示される周知の電動工具、及び引用文献3記載の技術的事項からみて、格別顕著なものであるとはいえず、当業者であれば予測し得た範囲内のものである。 第9 請求人による意見書による主張について 本件請求人は、令和6年2月19日に提出の意見書において、当審拒絶理由に対し、引用文献1には、モータの焼損の問題の他に、過放電防止の問題、及び、モータの発熱・駆動部の負荷の問題も記載されており、モータの制御としては、作業時間が短時間であるか否かに係わらず、常に電池パックの種別情報を用いてモータを制御する必要がある点で引用発明1の認定は誤りである、旨主張する。 しかしながら、上記第4の2(3)〜(8)のとおり、安全性を考慮したいずれの制御の態様も、安全性の制限値内の領域では、高負荷運転を可能とするために、被装着部1aに装着された電池パック2の定格出力電圧に応じて制限することなく、定格出力電圧が高ければ、モータMの回転数を大きくするものであるから、引用発明1の認定に誤りがあるとはいえない。 なお、本件発明も、発明の詳細な説明を参酌すると、「電池パック4の定格出力電圧が高いほど電動モータ7の回転速度を大きくする制御では、電池パック4の情報保持部334に保持された定格出力電圧を用いずに電動モータ7が制御される」とともに、「電動モータ7を、温度閾値を超えないようにする制御では、情報保持部334に保持された定格出力電圧の情報に基づいて、電動モータ7が制御される」(本件明細書の段落【0075】)ものであって、温度閾値を超えない範囲内において、「制御回路8は、装着された電池パック4の定格出力電圧に応じて温度閾値を設定し、電動モータ7の発熱温度が、設定した温度閾値を超えないように、電動モータ7への給電を制御する」ものである。 したがって、本件請求人の上記主張を採用することができない。 第10 むすび 以上のとおり、本件発明は、引用発明1、例えば引用文献2に示される周知の電動工具、及び引用文献3記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 |
審理終結日 | 2024-04-23 |
結審通知日 | 2024-04-30 |
審決日 | 2024-05-14 |
出願番号 | P2018-041146 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(B25F)
|
最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
渋谷 善弘 |
特許庁審判官 |
菊地 牧子 鈴木 貴雄 |
発明の名称 | 電動工具 |
代理人 | 弁理士法人北斗特許事務所 |