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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B |
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管理番号 | 1412814 |
総通号数 | 32 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2024-08-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2023-02-17 |
確定日 | 2024-07-04 |
事件の表示 | 特願2021−116592「位相差層付偏光板および有機EL表示装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年10月28日出願公開、特開2021−170130〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件出願は、平成28年7月29日に出願した特願2016−149769号の一部を令和元年7月23日に新たな特許出願とした特願2019−135197号の一部を、さらに新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯の概要は、以下のとおりである。 令和 4年 7月13日付け:拒絶理由通知 令和 4年 9月16日提出:意見書 令和 4年11月 9日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 令和 5年 2月17日提出:審判請求書 令和 5年 2月17日提出:手続補正書 第2 本件補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 本件補正を却下する。 [理由] 1 本件補正について(補正の内容) (1)本件補正前の請求項1に係る発明 令和5年2月17日に提出された手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、次のとおりである。 「 偏光子と第1位相差層と第2位相差層とをこの順に備え、 前記偏光子と前記第1位相差層とが第1接着剤層を介して貼り合わされ、 前記第1位相差層と前記第2位相差層とが第2接着剤層を介して貼り合わされ、 前記第1位相差層および前記第2位相差層の厚みが5μm以下であり、 前記第1位相差層および前記第2位相差層の平均屈折率が1.50〜1.70であり、 前記第2接着剤層の平均屈折率は、1.55以上であるとともに、前記第1位相差層の平均屈折率との差、および前記第2位相差層の平均屈折率との差が0.08未満である、 位相差層付偏光板。」 (2)本件補正後の請求項1に係る発明 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、次のとおりである(下線部は補正箇所を示す。)。 「 偏光子と第1位相差層と第2位相差層とをこの順に備え、 前記偏光子が二色性物質を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、 前記偏光子と前記第1位相差層とが第1接着剤層を介して貼り合わされ、 前記第1位相差層と前記第2位相差層とが第2接着剤層を介して貼り合わされ、 前記第1位相差層および前記第2位相差層の厚みが5μm以下であり、 前記第1位相差層および前記第2位相差層の平均屈折率が1.50〜1.70であり、 前記第2接着剤層の平均屈折率は、1.55以上であるとともに、前記第1位相差層の平均屈折率との差、および前記第2位相差層の平均屈折率との差が0.08未満である、 位相差層付偏光板。」 2 補正の適否 本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「偏光子」について、「二色性物質を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され」るものとする限定を付加する補正事項を含むものである。そして、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、当該補正事項は、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 3 本件補正発明 本件補正発明は、前記1(2)に記載したとおりのものである。 4 引用文献 原査定の拒絶の理由で引用された文献のうち、引用文献1,2,3,7は、以下のとおりである。 引用文献1:特開2015−34851号公報 引用文献2:特開2004−233872号公報 引用文献3:特開平11−149015号公報 引用文献7:村越裕、村田則夫、光学接着剤の基礎、精密工学会誌、日本、精密工学会、2013年8月5日、Vol.79、No.8、p.735-p.738 (当合議体注:主引用例は引用文献1であり、引用文献2及び引用文献3は副引用例、引用文献7は周知技術を例示する文献である。) (1)引用文献1 ア 引用文献の記載事項 原査定の拒絶の理由において引用文献1として引用された刊行物である、特開2015−34851号公報には、図面とともに、以下の記載事項がある。なお、合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。他の文献についても同様である。 (ア)「【請求項1】 支持体基材と、転写層とを備えた光学フィルム用転写体であって、 前記転写層は、 少なくとも透過光に1/4波長分の位相差を付与する1/4波長位相差層と、透過光に1/2波長分の位相差を付与する1/2波長位相差層と、前記1/4波長位相差層及び前記1/2波長位相差層とを接着する接着層とを備え、 前記支持体基材に対して、最外層の硬度が大きい 光学フィルム用転写体。 ・・・中略・・・ 【請求項4】 前記転写層は、 前記支持体基材側より、前記1/4波長位相差層、前記接着層、前記1/2波長位相差層であり、 前記最外層が前記1/2波長位相差層である 請求項1又は請求項2に記載の光学フィルム用転写体。 ・・・中略・・・ 【請求項6】 請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5の何れかに記載の光学フィルム用転写体の前記転写層を、直線偏光板と貼り合せた 光学フィルム。」 (イ)「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、例えば1/4波長板を1/2波長位相差層及び1/4波長位相差層の積層により構成する光学フィルムに関する。 【背景技術】 【0002】 従来、画像表示装置に関して、画像表示パネルのパネル面(視聴者側面)に円偏光板による光学フィルムを配置し、この光学フィルムにより外来光の反射を低減する方法が提案されている。ここでこの光学フィルムは、直線偏光板、1/4波長板の積層により構成され、画像表示パネルのパネル面に向かう外来光を直線偏光板により直線偏光に変換し、続く1/4波長板により円偏光に変換する。ここでこの円偏光による外来光は、画像表示パネルの表面等で反射するものの、この反射の際に偏光面の回転方向が逆転する。その結果、この反射光は、到来時とは逆に、1/4波長板により、直線偏光板で遮光される方向の直線偏光に変換された後、続く直線偏光板により遮光され、その結果、外部への出射が著しく抑制される。 ・・・中略・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、位相差層を接着層等により貼り合せて光学フィルムを作製する構成において、位相差層等の傷付きを有効に回避することができるようにする。 【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ね、転写法により1/2波長位相差層及び1/4波長位相差層の積層体を直線偏光板に貼り合せるようにして、この転写法の適用により取り除かれる支持体基材が傷付くように設定して位相差層の傷つきを有効に回避するとの着想に至り、本発明を完成するに至った。 ・・・中略・・・ 【発明の効果】 【0026】 本発明は、位相差層を接着層等により貼り合せて光学フィルムを作製する構成において、位相差層等の傷付きを有効に回避することができるようにすることができる。 【図面の簡単な説明】 【0027】 【図1】本発明の第1実施形態に係る画像表示装置を示す断面図である。 ・・・中略・・・ 【図9】本発明の第1実施形態に係る画像表示装置を示す断面図である。 【図10】図1の画像表示装置に係る転写フィルムを示す断面図である。」 (ウ)「【発明を実施するための形態】 【0028】 〔第1実施形態〕 〔光学フィルム及び画像表示装置〕 図1は、本発明の第1実施形態に係る画像表示装置を示す図である。この画像表示装置11は、画像表示パネル12のパネル面(視聴者側面)に、光学フィルム13が配置される。ここで画像表示パネル12は、例えば有機ELパネルであり、所望のカラー画像を表示する。なお画像表示パネル12にあっては、有機ELパネルに限らず、液晶表示パネル等、種々の画像表示パネルを広く適用することができる。 【0029】 光学フィルム13は、円偏光板の機能により画像表示パネル12に到来する外来光の反射を抑圧する光学フィルムである。このため光学フィルム13は、直線偏光板15、1/4波長板16を積層して構成される。光学フィルム13は、図示しないセパレータフィルムを剥離して感圧接着剤による粘着層14を露出させた後、この粘着層14により、画像表示パネル12のパネル面に貼り付けられて保持される。なお感圧接着剤に代えて例えば紫外線硬化性樹脂等の各種の接着剤、粘着剤により光学フィルム13を配置してもよい。また直線偏光板15及び1/4波長板16は、接着層17を介して一体化される。ここで接着層17は、紫外線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、感圧接着剤等、各種の接着剤を広く適用することができるものの、全体の厚みを薄くする観点から、紫外線硬化性樹脂を適用することが好ましく、この場合は厚み1μm程度により作成することができる。 【0030】 1/4波長板16は、透過光に1/4波長分の位相差を付与する1/4波長位相差層18と、透過光に1/2波長分の位相差を付与する1/2波長位相差層19とを接着層20により貼合した積層体により構成される。これにより光学フィルム13は、カラー画像の表示に供する広い波長帯域で十分に外来光の反射を抑圧する。 【0031】 また1/4波長板16は、1/4波長位相差層18、1/2波長位相差層19の作製に供する1/4波長位相差層用配向膜22、1/2波長位相差層用配向膜23が、それぞれ画像表示パネル12側、直線偏光板15側に設けられ、これにより転写法を適用して光学フィルム13を作製して全体の厚みを薄くすると共に、1/4波長位相差層用配向膜22、1/2波長位相差層用配向膜23を保護層として機能させて1/4波長位相差層18、1/2波長位相差層19の傷つきを低減する。 【0032】 これらにより画像表示装置11では、画像表示パネル12の表示画面側より、順次、1/4波長位相差層18、1/2波長位相差層19、直線偏光板15が配置される。また図2に示すように、矢印により示す直線偏光板15の透過軸に対して、1/2波長位相差層19及び1/4波長位相差層18の遅相軸(それぞれ矢印により示す)が、それぞれ反時計回りに15度、73度の角度を成すように配置される。 【0033】 1/4波長位相差層用配向膜22、1/2波長位相差層用配向膜23は、表面に微細な凹凸形状を作成して形成され、この微細な凹凸形状による配向規制力により1/4波長位相差層18、1/2波長位相差層19に係る液晶材料を配向させる。なお1/4波長位相差層用配向膜22、1/2波長位相差層用配向膜23は、十点平均粗さ(Rz)が、10nm以上、45nm以下であり、またさらに平均面粗さ(Ra)が、1nm以上、4nm以下である。これにより1/4波長位相差層用配向膜22、1/2波長位相差層用配向膜23は、対応する1/4波長位相差層18、1/2波長位相差層19との間で十分な密着強度を確保して、いわゆる黒輝度に係る1/4波長位相差層18、1/2波長位相差層19のばらつきを十分に小さくすることができる。 【0034】 この実施形態において、1/4波長位相差層用配向膜22、1/2波長位相差層用配向膜23は、微細な凹凸形状の賦型に供する賦型用樹脂層が形成された後、賦型処理によりこの賦型樹脂層の表面に微細な凹凸形状を作成して形成される。この実施形態ではこの賦型用樹脂に紫外線硬化性樹脂が適用されて、アクリル系の紫外線硬化性樹脂が使用されるものの、これに限らず賦型処理に供する各種の樹脂を広く適用することができる。 【0035】 また、これら1/2波長位相差層用配向膜23及び1/4波長位相差層用配向膜22に係る微細な凹凸形状は、一方向に延長するライン状(線)の凹凸形状により形成され、この一方向に延長する方向が直線偏光板15の透過軸に対して、それぞれ反時計回りに15度、73度の角度を成す方向となるように作成される。 【0036】 1/4波長位相差層18及び1/2波長位相差層19は、対応する配向膜22、23の配向規制力により屈折率異方性を保持した状態で固化(硬化)された液晶材料により形成される。より具体的に1/4波長位相差層18及び1/2波長位相差層19は、重合性液晶モノマーを配向膜22、23上に積層した後、相転移点まで昇温し、その後、紫外線照射より重合性液晶モノマーを重合させて液晶の配向状態を固定することにより作製される。1/4波長位相差層18及び1/2波長位相差層19は、この種の光学フィルムに適用可能な各種の液晶材料を広く適用することができるものの、この実施形態では、同一の材料が適用される。 ・・・中略・・・ 【0038】 接着層20は、紫外線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、感圧接着剤等、各種の接着剤を広く適用することができるものの、全体の厚みを薄くする観点から、紫外線硬化性樹脂を適用することが好ましく、この場合は厚み1μm程度により作成することができる。この実施形態では、配向膜の作製に適用した紫外線硬化性樹脂を適用する。なお接着層20には粘着層を適用してもよい。 【0039】 直線偏光板15は、TAC(トリアセチルセルロース)等の透明フィルムからなる基材15Aの下面側が鹸化処理された後、光学機能層15Bが配置される。なお基材15Aは、これに代えてポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、(メタ)アクリル酸メチル−スチレン共重合体等のアクリル樹脂等の樹脂、ソーダ硝子、カリ硝子、鉛硝子、石英硝子等の硝子等を適用することができる。 【0040】 光学機能層15Bは、直線偏光板としての光学的機能を担う部位であり、例えばポリビニルアルコール(PVA)によるフィルム材に、ヨウ素化合物分子を吸着配向させて作製される。 【0041】 しかして光学フィルム13においては、1/4波長位相差層18と1/2波長位相差層19とを接着層20により貼合した積層体により1/4波長板16を構成することにより、それぞれ別工程により作成された1/4波長位相差層18と1/2波長位相差層19とを使用して作成することができ、これにより順次、配向膜、位相差層を積層して作成する場合のはじき、密着力不足を有効に回避して作成することができ、その結果、安定かつ高い信頼性により作成することができる。 【0042】 またこれら1/4波長位相差層18、1/2波長位相差層19の作製に供する1/4波長位相差層用配向膜22、1/2波長位相差層用配向膜23を、それぞれ画像表示パネル12側、直線偏光板15側に設け、これにより転写法を適用して光学フィルム13を作製して全体の厚みを薄くすると共に、1/4波長位相差層用配向膜22、1/2波長位相差層用配向膜23を保護層として機能させ、1/4波長位相差層18、1/2波長位相差層19の傷つきを低減することができる。なお転写法とは、例えば基材の上に所望の層を形成する場合に、この層を直接当該基材上に形成するのでは無く、一旦、離型性の支持体上に剥離可能に該層を積層形成して転写体を作製した後、工程、需要等に応じて、該支持体上に形成した層を、最終的に該層を積層すべき基材(被転写基材)上に接着、積層し、その後、該支持体を剥離除去することにより、該基材上に所望の層を形成する方法である。 【0043】 なお光学フィルム13においては、直線偏光板15に設けられる基材15Aの光学機能層15Bとは逆側面に、必要に応じて反射防止コート層、ハードコート層等の各種機能層10が設けられる。 【0044】 〔転写体〕 光学フィルム13は、接着層17により1/4波長板16、直線偏光板15が一体化され、この一体化に係る一連の処理に転写法が適用される。これによりこの実施形態では、被転写基材は、直線偏光板15であり、転写に供する層(転写層)は、1/4波長位相差層用配向膜22、1/4波長位相差層18、接着層20、1/2波長位相差層19、1/2波長位相差層用配向膜23の積層体である。 ・・・中略・・・ 【0050】 〔製造工程〕 図4は、転写フィルム21の製造工程の説明に供する図である。この製造工程は、基材24に1/2波長位相差層用配向膜23、1/2波長位相差層19を作成する(図4(A))。また基材25に、1/4波長位相差層用配向膜22、1/4波長位相差層18を作成する(図4(B))。製造工程は、透過光によりそれぞれ1/2波長位相差層19、1/4波長位相差層18の光学特性を検査した後、接着層20により1/2波長位相差層19、1/4波長位相差層18を貼合わせ、これにより転写フィルム21を作成する(図4(C))。 【0051】 なおこの実施形態のように、1/2波長位相差層19、1/4波長位相差層18をそれぞれ個別に作成して一体化する場合には、1/2波長位相差層19、1/4波長位相差層18の光学特性をそれぞれ検査することができる。これにより品質を向上し、これによっても安定に光学フィルム13を生産することができる。 【0052】 図5は、続く光学フィルム13の製造工程の説明に供する図である。この製造工程は、転写フィルム21から基材24のみを剥離させた後(図5(A))、接着層17を介して直線偏光板15に貼り付け(図5(B))、これにより支持体基材25、1/4波長位相差層用配向膜22と一体に、また1/2波長位相差層用配向膜23を取り残して光学フィルム13を作成する。なお基材24を剥離する工程は、この実施形態では転写フィルム21の製造工程に設けられるものの、光学フィルム13の製造工程に設けるようにしてもよい。 【0053】 これらにより1/2波長位相差層用配向膜23は、基材24を剥離した後、直線偏光板15と貼り合わせるまでの間、その下層の1/2波長位相差層19を保護する。 【0054】 続いてこの工程は、図6に示すように、光学フィルム13から支持体基材25を剥離させた後(図6(A))、粘着層14、セパレータフィルムを配置し、所望の大きさに切断して光学フィルム13を作製する。続く画像表示装置11の製造工程では、最終工程において、セパレータフィルムを剥離して粘着層14を露出させ、粘着層14を介して画像表示パネル12のパネル面に光学フィルム13を貼り付ける(図6(B))。なお支持体基材25を剥離する処理等を画像表示装置の製造工程で実行してもよい。 【0055】 これらにより1/4波長位相差層用配向膜22は、基材25を剥離した後、画像表示パネル12と貼り合わせるまでの間、その上層の1/4波長位相差層18を保護する。 【0056】 図7は、図4(A)及び図4(B)について上述した製造工程を示す図である。なおこの図7においては、図4(B)に係る基材25に1/4波長位相差層用配向膜22、1/4波長位相差層18を作成する構成は、括弧書により記号を付して示す。 【0057】 この製造工程は、基材24を供給リール31から引き出し、ダイ32により紫外線硬化性樹脂の塗工液を塗工した後、乾燥炉33により乾燥させる。なおこの塗工液の塗工にあっては、ダイによる場合に限らず、種々の手法を適用することができる。この製造工程において、ロール版34は、1/2波長位相差層用配向膜23に係る微細凹凸形状が周側面に形成された賦型用金型である。この製造工程は、紫外線硬化性樹脂が塗工された基材24を加圧ローラ35によりロール版34に押圧し、高圧水銀燈からなる紫外線照射装置36による紫外線の照射により紫外線硬化性樹脂を硬化させる。これにより製造工程は、ロール版34の周側面に形成された凹凸形状を基材24に転写する。その後、剥離ローラ37によりロール版34から硬化した紫外線硬化性樹脂と共に基材24を剥離し、ダイ39により液晶材料の塗工液を塗工する。またその後、乾燥炉40により乾燥させた後、紫外線照射装置41による紫外線の照射により液晶材料を硬化させ、巻き取りリール42に巻き取る。この一連の処理により基材24の上に、1/2波長位相差層用配向膜23、1/2波長位相差層19が形成される。 【0058】 またこの製造工程は、ロール版34に代えて、1/4波長位相差層用配向膜22の作製に供するロール版44を配置して、同様に、基材25を供給リール31から引き出し、ダイ32により紫外線硬化性樹脂の塗工液を塗工した後、乾燥炉33により乾燥させ、ロール版44により1/4波長位相差層用配向膜22を作成する。またその後、液晶材料を塗工して乾燥させた後、液晶材料を硬化させて、巻き取りリール52に巻き取り、これにより基材25の上に、1/4波長位相差層用配向膜22、1/4波長位相差層18を形成する。 【0059】 図8は、1/4波長位相差層18及び1/2波長位相差層19の貼り合わせ工程(図4(C))の説明に供する図である。この製造工程は、巻き取りリール42から、基材24、1/2波長位相差層用配向膜23、1/2波長位相差層19の積層体を引き出し、ダイ55により接着剤である紫外線硬化性樹脂を塗工した後、乾燥炉56により乾燥させ、巻き取りリール52から引き出した基材25、1/4波長位相差層用配向膜22、1/4波長位相差層18の積層体と積層する。その後、紫外線照射装置57により紫外線を照射して塗工した紫外線硬化性樹脂を硬化させた後、基材24を剥離し、巻き取りリール58に巻き取る。なおこのような紫外線硬化性樹脂による一体化に代えて、熱硬化性樹脂を使用したドライラミネート等により一体化してもよく、さらにPSA(Pressure Sensitive Adhesive)粘着剤により一体化してもよい。 【0060】 〔傷付き対策〕 ところでこのように基材25を剥離してロールに巻き取る場合、支持体基材25と転写層最外層との接触により転写層最外層が傷付き、この傷が光学フィルムの歩留まりを劣化させる恐れがある。そこでこの実施形態では、転写層最外層の硬度が支持体基材25の硬度より大きくなるように設定する。このようにすれば、ロール状に積層する場合の傷つきを支持体基材25側とすることができ、最外層の傷付きを有効に回避することができる。 【0061】 具体的に、この実施形態では、最外層が1/2位相差層用配向膜23であることにより、この配向膜23の作製に係る条件の設定により、支持体基材25より1/2位相差層用配向膜23の硬度を大きくする。なおこの条件は、紫外線照射量の増大、塗工液に添加する反応開始剤等の増量による反応度の増大等である。 ・・・中略・・・ 【0063】 〔第2実施形態〕 図9は、図1との対比により本発明の第2実施形態に係る画像表示装置を示す図である。この画像表示装置61では、光学フィルム13に代えて光学フィルム63が適用される点を除いて第1実施形態と同一に構成される。また光学フィルム63は、転写層66が、1/2波長位相差層19、接着層20、1/4波長位相差層18により構成される点を除いて光学フィルム13と同一に構成される。 【0064】 図10は、この光学フィルム61に係る転写フィルムを示す断面図である。光学フィルム63は、この転写フィルム71を適用して作製され、この転写フィルム71では、各層間の密着力の設定により、転写層66が、1/2波長位相差層19、接着層20、1/4波長位相差層18により構成され、これにより基材24及び支持体基材25を剥離する際に、それぞれ1/2波長位相差層用配向膜23、1/4波長位相差層用配向膜2が一体に剥離される。 【0065】 この実施形態では、このように転写層66を、1/2波長位相差層19、接着層20、1/4波長位相差層18により構成して、最外層である1/2波長位相差層19の硬度が支持体基材25の硬度より大きくなるように設定され、これにより1/2波長位相差層19の傷付きが有効に回避される。」 (エ)「【図9】 」 (当合議体注:便宜のため、右方向に90度回転して掲記した。) イ 引用文献1に記載された発明 上記記載事項に基づけば、引用文献1には、以下の技術的事項が記載されているものと認められる。 (ア)光学フィルム13発明 上記アによれば、引用文献1の【0028】〜【0029】及び図1には、第1実施形態として、「画像表示パネル12のパネル面(視認者側面)に」「配置され」、「円偏光の機能により画像表示パネル12に到来する外来光の反射を抑圧する」「光学フィルム13」が記載されている。 さらに、引用文献1には、上記「光学フィルム13」を構成する各層の機能及び積層構造について、以下の記載がある。 (a)「光学フィルム13は、直線偏光板15、1/4波長板16を積層して構成される。また直線偏光板15及び1/4波長板16は、接着層17を介して一体化される。」(【0029】) (b)「1/4波長板16は、透過光に1/4波長分の位相差を付与する1/4波長位相差層18と、透過光に1/2波長分の位相差を付与する1/2波長位相差層19とを接着層20により貼合した積層体により構成される。」(【0030】) (c)「1/4波長位相差層18及び1/2波長位相差層19は、対応する配向膜22、23の配向規制力により屈折率異方性を保持した状態で固化(硬化)された液晶材料により形成される。」(【0036】) (d)「直線偏光板15は、TAC(トリアセチルセルロース)等の透明フィルムからなる基材15Aの下面側が鹸化処理された後、光学機能層15Bが配置される。」(【0039】) (e)光学機能層15Bは、直線偏光板としての光学的機能を担う部位であり、例えばポリビニルアルコール(PVA)によるフィルム材に、ヨウ素化合物分子を吸着配向させて作製される。」(【0040】) 以上(a)〜(e)によれば、引用文献1には、次の「光学フィルム13」の発明(以下「光学フィルム13発明」という。)が記載されていると認められる。 「画像表示パネル12のパネル面(視聴者側面)に配置され、円偏光板の機能により画像表示パネル12に到来する外来光の反射を抑圧する光学フィルム13であって、 光学フィルム13は、直線偏光板15、1/4波長板16を積層して構成され、 直線偏光板15及び1/4波長板16は、接着層17を介して一体化され、 直線偏光板15は、透明フィルムからなる基材15Aの下面側が鹸化処理された後、光学機能層15Bが配置され、 光学機能層15Bは、ポリビニルアルコール(PVA)によるフィルム材に、ヨウ素化合物分子を吸着配向させて作製され、 1/4波長板16は、透過光に1/4波長分の位相差を付与する1/4波長位相差層18と、透過光に1/2波長分の位相差を付与する1/2波長位相差層19とを接着層20により貼合した積層体により構成され、1/4波長位相差層18及び1/2波長位相差層19は、対応する配向膜22、23の配向規制力により屈折率異方性を保持した状態で固化(硬化)された液晶材料により形成される、 光学フィルム13。」 (当合議体注:「光学フィルム」及び「光学フィルム13」は、後者に用語を統一した。) (イ)引用発明 また、引用文献1の図9には、第2実施形態として、「光学フィルム63」の発明が記載されている。また、引用文献1の【0063】には、「光学フィルム63」について「転写層66が、1/2波長位相差層19、接着層20、1/4波長位相差層18により構成される点を除いて、光学フィルム13と同一に構成される」と記載されている。さらに、図9からは、1/4波長板66の1/2波長位相差層19側が接着層17を介して、直線偏光板15と一体化されている構造が看取される。 上記(ア)と総合すれば、引用文献1には、次の「光学フィルム63」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「画像表示パネル12のパネル面(視聴者側面)に、配置され、円偏光板の機能により画像表示パネル12に到来する外来光の反射を抑圧する光学フィルム63であって、 光学フィルム63は、直線偏光板15、1/4波長板66を積層して構成され、 直線偏光板15及び1/4波長板66は、接着層17を介して一体化され、 直線偏光板15は、透明フィルムからなる基材15Aの下面側が鹸化処理された後、光学機能層15Bが配置され、 光学機能層15Bは、ポリビニルアルコール(PVA)によるフィルム材に、ヨウ素化合物分子を吸着配向させて作製され、 1/4波長板66は、透過光に1/4波長分の位相差を付与する1/4波長位相差層18と、透過光に1/2波長分の位相差を付与する1/2波長位相差層19とを接着層20により貼合した積層体により構成され、 1/4波長板66は、1/2波長位相差層19側が接着層17を介して、直線偏光板15と一体化されており、 1/4波長位相差層18及び1/2波長位相差層19は、屈折率異方性を保持した状態で固化(硬化)された液晶材料により形成される、 光学フィルム63。」 (当合議体注:「光学フィルム」及び「光学フィルム63」は、後者に用語を統一した。) (2)引用文献2 原査定の拒絶の理由において引用文献2として引用された刊行物である、特開2004−233872号公報には、図面とともに、以下の記載事項がある。 ア 「【特許請求の範囲】 ・・・中略・・・ 【請求項3】 ポリビニルアルコールからなる偏光膜の片面に保護膜を貼合し、他方の面に、λ/4板を貼合した円偏光フィルム、または、ポリビニルアルコールからなる偏光膜の両面に保護膜を貼合し、一方の面に、λ/4板を貼合した円偏光フィルムであって、 (a)該λ/4板が透明支持体上に光学異方性層を有し、該光学異方性層が、水平配向した棒状液晶性化合物を含む第1光学異方性層および第2光学異方性層の二層からなり、 (b)第1光学異方性層および第2光学異方性層に含まれる水平配向した棒状液晶性化合物の少なくともいずれかが下記一般式(I)で表され、 (c)第1光学異方性層の測定波長550nmにおける位相差が実質的にπであり、第2光学異方性層の測定波長550nmにおける位相差が実質的にπ/2であり、 (d)第2光学異方性層の面内の遅相軸と第1光学異方性層の面内の遅相軸との角度が60±5°であり、そして (e)該偏光膜の吸収軸と保護膜の遅相軸とのなす角度が20〜70°の方位角であり、該偏光膜の厚さが5μm以上20μm未満であることを特徴とする円偏光フィルム。 一般式(I):Q1−L1−A1−L3−M−L4−A2−L2−Q2 上記一般式(I)中: Q1およびQ2は、それぞれ独立に、重合性基を表す。 L1、L2、L3およびL4は、それぞれ独立に、単結合または二価の連結基を表し、かつL3およびL4の少なくとも一方が−O−CO−O−基を表す。 A1およびA2は、炭素原子数2から20を有するスペーサー基を表す。 Mはメソゲン基を表す。」 イ 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、偏光フィルム(偏光板)、楕円偏光フィルム、円偏光フィルム、及び液晶表示装置に関する。 ・・・中略・・・ 【0005】 【発明が解決しようとする課題】 ・・・中略・・・ したがって、本発明の目的は、LCD製造時や使用時における温度変化に対しても一定の品質を保持することのでき、特にLCDに用いた場合に額縁状光洩れが改善された偏光フィルム、ならびに該偏光フィルムを用いた楕円偏光フィルムおよび円偏光フィルムを提供することである。また、本発明の異なる目的は、額縁状光洩れが改善された液晶表示装置を提供することにある。」 ウ 「【0009】 【発明の実施の形態】 ・・・中略・・・ 【0070】 <円偏光フィルム> 本発明の円偏光フィルムは、ポリビニルアルコールからなる偏光膜の片面に保護膜を貼合し、他方の面に、λ/4板を貼合した円偏光フィルム、または、ポリビニルアルコールからなる偏光膜の両面に保護膜を貼合し、一方の面に、λ/4板を貼合した円偏光フィルムであって、 (a)該λ/4板が透明支持体上に光学異方性層を有し、該光学異方性層が、水平配向した棒状液晶性化合物を含む第1光学異方性層および第2光学異方性層の二層からなり、 (b)第1光学異方性層および第2光学異方性層に含まれる水平配向した棒状液晶性化合物の少なくともいずれかが下記一般式(I)で表され、 (c)第1光学異方性層の測定波長550nmにおける位相差が実質的にπであり、第2光学異方性層の測定波長550nmにおける位相差が実質的にπ/2であり、 (d)第2光学異方性層の面内の遅相軸と第1光学異方性層の面内の遅相軸との角度が60±5°であり、そして (e)該偏光膜の吸収軸と透明支持体の遅相軸とのなす角度が20〜70°の方位角であり、該偏光膜の厚さが5μm以上20μm未満である。 さらに、偏光膜の吸収軸と透明基材フィルムの長手方向のなす角は20〜70°であり、棒状液晶性化合物はそれぞれ水平に配向している。棒状液晶性化合物の長軸方向が、光学異方性層(第1および第2)の面内の遅相軸に相当する。 【0071】 一般式(I):Q1−L1−A1−L3−M−L4−A2−L2−Q2 上記一般式(I)中: Q1およびQ2は、それぞれ独立に、重合性基を表す。L1、L2、L3およびL4は、それぞれ独立に、単結合または二価の連結基を表し、かつL3およびL4の少なくとも一方が−O−CO−O−基を表す。 A1およびA2は、炭素原子数2から20を有するスペーサー基を表す。Mはメソゲン基を表す。 【0072】 (棒状液晶性化合物) 本発明の円偏光板では、λ/4板の第1光学異方性層および第2光学異方性層の少なくともどちらか一方に含まれる水平配向した棒状液晶性化合物として、上記一般式(I)の棒状液晶性化合物を用いる。・・・中略・・・ 【0078】 以下に本発明の一般式(I)で表される化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、一般式(I)で表される化合物は特表平11−513019号公報に記載の方法で合成することができる。 【0079】 【化3】 ・・・中略・・・ 【0082】 上記棒状液晶性化合物は、光学異方性層中において、実質的に均一に配向していることが好ましく、実質的に均一に配向している状態で固定されていることがさらに好ましく、重合反応により液晶性化合物が固定されていることが最も好ましい。本発明の棒状液晶性化合物は、ホモジニアス配向にすることが好ましい。」 エ 「【0117】 [実施例3]円偏光フィルムの作製 (λ/4板(イ)の作製) ▲1▼第1光学異方性層の形成 厚さ80μm、幅680mm、長さ500mの光学的に等方性のトリアセチルセルロースフィルム(酢化度60.9%)を透明支持体として用いた。この透明支持体の両面をケン化処理した後、下記組成の配向膜塗布液を透明支持体の片面に連続的に塗布、乾燥し、厚さ1μmの配向膜を形成した。次いで、透明支持体の長手方向に対し左手30°の方向に連続的に配向膜上にラビング処理を実施した。 【0118】 配向膜塗布液組成 下記の変性ポリビニルアルコール 10重量% 水 371重量% メタノール 119重量% グルタールアルデヒド 0.5重量% 【0119】 【化8】 【0120】 上記で形成した配向膜の上に、下記の組成の第1光学異方性層用塗布液をバーコーターを用いて連続的に塗布、乾燥、および加熱(配向熟成)し、さらに紫外線照射して厚さ2.0μmの第1光学異方性層用塗布液を形成した。第1光学異方性層用塗布液は透明支持体の長手方向に対して30°の方向に遅相軸を有していた。また、KOBRA21DH(王子計測(株)製)を用いてレターデーション測定したところ、第1光学異方層の550nmにおけるレターデーション(面内位相差)値(Re550)は265nmであった。 【0121】 第1光学異方性層用塗布液組成 本発明の棒状液晶性化合物(例示化合物 I−2) 38.1重量% 下記の増感剤 0.38重量% 下記の光重合開始剤 1.14重量% 下記の添加剤 0.38重量% グルタールアルデヒド 0.04重量% メチルエチルケトン 60.0重量% 【0122】 【化9】 【0123】 ▲2▼第2光学異方性層の形成 上記で作製した第1光学的異方性層の遅相軸に対し右手60°、透明支持体の長手方向に対し右手30°となるように連続的に第1光学的異方性層上にラビング処理を施した。 ラビング処理した第1光学的異方性層の上に、下記の組成の塗布液を、バーコーターを用いて連続的に塗布、乾燥、および加熱(配向熟成)し、さらに紫外線照射して厚さ1.0μmの第2光学的異方性層を形成して、λ/4板(イ)を作製した。 【0124】 第2光学異方性層用塗布液組成 本発明の棒状液晶性化合物(例示化合物 I−2) 38.4重量% 実施例1の増感剤 0.38重量% 実施例1の光重合開始剤 1.15重量% 例示化合物(V−1) 0.06重量% メチルエチルケトン 60.0重量% 【0125】 上記と同様にレターデーションを測定したところ、λ/4板(イ)のレターデーションは測定波長450nmにおいて111nm、測定波長550nmにおいて135nm、測定波長630nmにおいて144nmであった。なお、第2光学異方性層の550nmにおけるレターデーション値(面内位相差)値(Re550)は132.5nmであった。」 (3)引用文献3 原査定の拒絶の理由において引用文献3として引用された刊行物である、特開平11−149015号公報には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、判断等に活用した箇所を示す。 ア 「【特許請求の範囲】 ・・・中略・・・ 【請求項2】 複屈折率差△n1、△n2の波長依存性が400nm(△n1)と550nm(△n2)の波長光に基づいて△n1/△n2<1.05である複数の延伸フィルムをそれらの光軸を交差させて積層してなり、その延伸フィルムが単色光に対して1/2波長の位相差を与えるものと、1/4波長の位相差を与えるものとの組合せからなることを特徴とする積層波長板。 ・・・中略・・・ 【請求項4】 請求項1〜3において、延伸フィルムを屈折率差が0.1以下の粘着層を介して接着してなる積層波長板。 【請求項5】 請求項2〜4に記載の1/4波長板を有する積層波長板と偏光板との積層体からなることを特徴とする円偏光板。」 イ 「【0001】 【発明の技術分野】本発明は、広い波長域にわたり1/2波長や1/4波長等の所定の位相差を与える積層波長板、及び広い波長域にわたり反射を防止して耐久性に優れる円偏光板、並びに視認特性に優れる液晶表示装置に関する。 【0002】 【従来の技術】従来、1枚の延伸フィルムを用いてなる1/2波長板や1/4波長板が知られていた。しかしながら、その位相差が波長毎に異なり、1/2波長板や1/4波長板として機能しうる波長が特定のものに限られる問題点があった。すなわち例えば、波長が550nmの光に対して1/4波長板として機能するものの場合、波長が450nmや650nmの光に対しては1/4波長板として機能しない。そのため、例えば偏光板に接着して円偏光板とし、それをディスプレイ等の表面反射を抑制するための反射防止フィルターとして用いた場合、波長が550nmでない光に対しては充分な反射防止機能を発揮せず、特に青色系の光に対する反射防止機能に乏しくて、ディスプレイ等が青く見える問題点があった。 【0003】 ・・・中略・・・しかしながら、積層波長板では特定の波長域で異なる位相差特性を与えたり、円偏光板では積層界面での反射が大きくて充分な遮光特性が得られなかったり、熱による部分的な位相差変化を生じて不均一な視覚となる難点のあることが判明した。 【0004】 【発明の技術的課題】本発明は、全可視光域等の広い波長域にわたって1/2波長板や1/4波長板としてほぼ機能しうる特徴を維持しつつ、特定の波長域で異なる位相差特性となることを抑制した波長板、及び界面反射が少なくて反射防止の広帯域性、耐熱性等に優れる円偏光板の開発を目的とする。」 ウ 「【0024】本発明の積層波長板や円偏光板を形成する延伸フィルムや偏光板等の各層は、分離状態にあってもよいが、層間の屈折率調節による反射の抑制や光学系のズレ防止、ゴミ等の異物の侵入防止などの点よりその一部、就中、全部が固着処理されていることが好ましい。その固着処理には、例えば透明な接着剤などの適宜なものを用いることができ、接着剤等の種類について特に限定はない。構成部材の光学特性の変化防止などの点より、接着処理時の硬化や乾燥の際に高温のプロセスを要しないものが好ましく、長時間の硬化処理や乾燥時間を要しないものが望ましい。かかる点よりは、粘着層が好ましく用いうる。 【0025】粘着層の形成には、例えばアクリル系重合体やシリコーン系ポリマー、ポリエステルやポリウレタン、ポリエーテルや合成ゴムなどの適宜なポリマーを用いてなる透明粘着剤を用いることができる。就中、光学的透明性や粘着特性、耐候性などの点よりアクリル系粘着剤が好ましい。 【0026】また積層界面での反射の抑制などの点より好ましく用いうる粘着層は、延伸フィルム等の接着対象との屈折率差が0.1以下、就中0.08以下、特に0.06以下のものである。粘着層の屈折率の調節は、ベースポリマーの種類や屈折率調節剤の配合などにより行うことができる。その屈折率調節剤としては、例えばベースポリマーよりも高屈折率又は低屈折率のポリマー類などの適宜なものを用いうる。」 (4)引用文献7 原査定の拒絶の理由において引用文献7として引用された刊行物である、村越裕、村田則夫、光学接着剤の基礎、精密工学会誌、日本、精密工学会、2013年8月5日、Vol.79、No.8、p.735-p.738には、以下の記載がある。 ア 「光部品の組立に使用される接着剤は,光の通路以外の部分を固める接着剤(光部品固定用)と光が通過する部分を接着する接着剤(光路結合用)に分類できる.・・・中略・・・光路結合用接着剤は,良好な光透過性と精密な屈折率整合性など光学的に最適な結合を形成するための機能が必要とされる.・・・中略・・・屈折率を精密に制御できる光学接着技術について,その技術概要を述べる.」(735頁左「はじめに」欄) イ 図5 光路結合用接着剤の屈折率制御範囲 「 」(736頁右欄) ウ 「接着剤の屈折率は,・・・中略・・・屈折率1.37から1.70の範囲,±0.005の精度で,屈折率を精密にコントロールできる(図5).」(737頁左欄8〜13行) 5 本件補正発明と引用発明との対比及び判断 (1)対比 本件補正発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。 ア 偏光子、偏光板 引用発明の「直線偏光板15」は、「透明フィルムからなる基材15Aの下面側が鹸化処理された後、光学機能層15Bが配置され」、「光学機能層15B」は、「ポリビニルアルコール(PVA)によるフィルム材に、ヨウ素化合物分子を吸着配向させて作製され」たものである。 上記の構成及び技術常識からみて、引用発明の「光学機能層15B」は、本件補正発明の「二色性物質を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され」た「偏光子」に相当する。また、引用発明の「直線偏光板15」は、本件補正発明の「偏光板」に相当する。 イ 第1位相差層、第2位相差層 引用発明の「1/2波長位相差層19」及び「1/4波長位相差層18」は、それぞれ「透過光に1/2波長分の位相差を付与する」層及び「透過光に1/4波長分の位相差を付与する」層である。また、引用発明の「光学フィルム63」において、「直線偏光板15及び1/4波長板66は、接着層17を介して一体化され」、「1/4波長板66は、1/2波長位相差層19側が接着層17を介して、直線偏光板15と一体化され」たものである。 上記光学的機能及び積層構造からみて、引用発明の「1/2波長位相差層19」及び「1/4波長位相差層18」は、それぞれ、本件補正発明の「第1位相差層」及び「第2位相差層」に相当する。 ウ 第1接着剤層、第2接着剤層 引用発明の「光学フィルム63」において、「1/4波長板66は、1/2波長位相差層19側が接着層17を介して、直線偏光板15と一体化されており」、「1/4波長位相差層18と」、「1/2波長位相差層19とを接着層20により貼合した積層体により構成され」たものである。 ここで、引用発明の「貼合」は、その文言どおりの意味であり、本件補正発明の「貼り合わ」せることと同義である。 そうすると、引用発明の「接着層17」及び「接着層20」は、その積層位置からみて、本件補正発明の「第1接着剤層」及び「第2接着剤層」に相当する。 エ 位相差層付偏光板 引用発明の「光学フィルム63」は、「直線偏光板15、1/4波長板66を積層して構成され」たものである。 そうしてみると、引用発明の「光学フィルム63」は、本件補正発明の「位相差層付偏光板」に相当する。 オ 貼り合わせ 引用発明の「光学フィルム63」において、「1/4波長板66は、透過光に1/4波長分の位相差を付与する1/4波長位相差層18と、透過光に1/2波長分の位相差を付与する1/2波長位相差層19とを接着層20により貼合した積層体により構成され」、「1/4波長板66は、1/2波長位相差層19側が接着層17を介して、直線偏光板15と一体化されて」いる。 上記構成から理解される積層順及び上記ア〜エで述べた相当関係からみて、引用発明の「光学フィルム63」は、本件補正発明の「位相差層付偏光板」における、「偏光子と第1位相差層と第2位相差層とをこの順に備え」、「前記偏光子と前記第1位相差層とが第1接着剤層を介して貼り合わされ」、「前記第1位相差層と前記第2位相差層とが第2接着剤層を介して貼り合わされ」との要件を満たす。 (2)一致点及び相違点 ア 一致点 上記(1)から、本件補正発明と引用発明は、次の構成で一致する。 「 偏光子と第1位相差層と第2位相差層とをこの順に備え、 前記偏光子が二色性物質を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、 前記偏光子と前記第1位相差層とが第1接着剤層を介して貼り合わされ、 前記第1位相差層と前記第2位相差層とが第2接着剤層を介して貼り合わされた、 位相差層付偏光板。」 イ 相違点 本件補正発明と引用発明は、以下の点で相違する。 (相違点1) 「第1位相差層」及び「第2位相差層」が、本件補正発明は、「厚みが5μm以下であ」るのに対して、引用発明では、厚みが特定されていない点 (相違点2) 「第1位相差層」、「第2位相差層」、及び、「第2接着剤層」が、本件補正発明は、「前記第1位相差層および前記第2位相差層の平均屈折率が1.50〜1.70であり、」「前記第2接着剤層の平均屈折率は、1.55以上であるとともに、前記第1位相差層の平均屈折率との差、および前記第2位相差層の平均屈折率との差が0.08未満であ」るという要件を満たすものであるのに対して、引用発明は、平均屈折率が特定されておらず、また、「接着層20」と「1/2波長位相差層19」の平均屈折率との差及び「1/4波長位相差層」の平均屈折率との差も明らかでない点。 (3)判断 ア 相違点1について 引用文献2(特に、請求項3及び【0117】〜【0125】(実施例3)参照。)に記載された、「円偏光フィルム」に用いられる、位相差が実質的にπである第1光学異方性層(厚さ2.0μm)及び位相差が実質的にπ/2である第2光学異方性層(厚さ1.0μm)は、棒状液晶化合物を用いて形成したものである。(上記「4(2)」参照。) ここで、引用発明の「1/4波長位相差層18」及び「1/2波長位相差層19」は、「屈折率異方性を保持した状態で固化(硬化)された液晶材料により形成され」るから、引用文献2の「第2光学異方性層」及び「第1光学異方性層」とは、機能、材料及び形成方法が類似している。 そうすると、引用文献2の上記記載に接した当業者が、引用発明の「光学フィルム63」を薄型化するにあたり、「1/4波長位相差層18」及び「1/2波長位相差層19」として、引用文献2に記載されているような、厚みが1.0μm〜2.0μm程度となる液晶材料を選択し、相違点2に係る構成に想到することは容易である。 (当合議体注:引用文献2の【0121】及び【0124】で用いられている例示化合物I−2(LC242)のΔnは、約0.13であり、厚さ1μm程度の1/4波長位相差層及び厚さ2μm程度の1/2位相差層を作成するのに適したものである。) イ 相違点2について 引用文献3には、1/2波長の位相差を与えるものと、1/4波長の位相差を与えるものとの組合せからなる積層波長板と偏光板との積層体からなる円偏光板の発明について、「積層界面での反射の抑制などの点より好ましく用いうる粘着層は、延伸フィルム等の接着対象との屈折率差が・・・中略・・・特に0.06以下のものである。粘着層の屈折率の調節は、ベースポリマーの種類や屈折率調節剤の配合などにより行うことができる。その屈折率調節剤としては、例えばベースポリマーよりも高屈折率又は低屈折率のポリマー類などの適宜なものを用いうる。」と記載されている(上記「4(3)」参照。特に、請求項2、請求項4、【0001】及び【0026】)。 そして、引用発明の「光学フィルム63」と、引用文献3の上記円偏光板とは、いずれも画像表示パネルの視認側に配置されるものであるから、積層界面での反射を抑制し、視認性を向上させるという共通の課題を有しているといえる。 そうすると、引用発明の「光学フィルム63」において、視認性を向上させるために、当業者が、引用文献3に記載された上記下線部の課題解決手段を採用し、「接着層20」の平均屈折率と「1/4波長位相差層18」の平均屈折率との差及び「接着層20」の平均屈折率と、「1/2波長位相差層19」の平均屈折率との差が「0.06以下」となるように「第2接着剤層」の材料を選択し、相違点3に係る「第2接着剤層の平均屈折率は」、「前記第1位相差層の平均屈折率との差、および前記第2位相差層の平均屈折率との差が0.08未満であ」るとの構成に到ることは容易である。 また、相違点2に係る構成のうち、「前記第1位相差層および前記第2位相差層の平均屈折率が1.50〜1.70であり、」「第2接着剤層の平均屈折率は、1.55以上である」との構成については、以下のように考えることができる。 本件出願前において、重合性液晶を固化(硬化)して形成された位相差フィルムとして、平均屈折率が1.55以上のものは周知である(例えば、長谷部浩史、高津晴義、「光硬化性液晶モノマー」、光学、2001年、30巻、1号、第21頁〜第22頁、表1の組成物C〜E、図3に記載された位相差フィルム等を参照。)。さらに、本願出願前において、接着剤の屈折率は、低屈折率のフッ素原子や高屈折率の臭素原子を含む樹脂をベースレジンとして利用することによって、屈折率を1.37から1.70の範囲で精密にコントロールできることも周知技術である(例えば、引用文献7の737頁左欄8行〜13行及び図5等参照。)。 ここで、引用発明の「光学フィルム63」における、「1/4波長位相差層18」及び「1/2波長位相差層19」の平均屈折率は、所定の(面内)位相差値や硬度が維持できる限り(引用発明の目的を阻害しない限り)任意である。 そして、引用文献2の【0121】及び【0124】で用いられている例示化合物I−2(LC242)の進相軸方向の屈折率は1.523、遅相軸方向の屈折率は1.654であり(特開2009−276533号公報の【0048】 「下記式(VI)で表される重合性液晶化合物(BASF社製、商品名「Paliocolor LC242」(異常光屈折率=1.654、正常光屈折率=1.523))」、及び、【0050】 「 」の記載参照。)、平均屈折率は1.57程度と見込まれ、引用文献3に記載されるように、接着対象との屈折率差ができるだけ小さくなるように調整すれば、接着剤層の平均屈折率は1.55以上となり得る。 したがって、上記周知技術を心得た当業者が、引用発明の「1/4波長位相差層18」及び「1/2波長位相差層19」の平均屈折率を、必要に応じて、1.55以上のものとすることは適宜なし得る設計変更である。そして、このように選択された、「1/4波長位相差層18」及び「1/2波長位相差層19」を備える光学フィルムに対して、引用文献3の上記課題解決手段を具体的に適用する際に、接着剤に関する上記周知技術を心得た当業者が、「前記第1位相差層および前記第2位相差層の平均屈折率が1.50〜1.70であり、」「第2接着剤層」として「平均屈折率は、1.55以上」を満たすものを採用することは容易になし得たことである。 ウ 本件補正発明の効果について 本件出願の明細書の【0007】には、発明の効果として、「反射光のムラを抑制し、視認性を改善し得る位相差層付偏光板および上記位相差層付偏光板を備えた有機EL表示装置を提供することができる。」と記載されている。 しかしながら、上記効果は、本件出願当時、本件補正発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができたものであり、格別顕著なものということはできない。 (4)審判請求人の主張について 請求人は、令和5年2月17日提出の審判請求書4頁において、次の点を主張する。 「引用文献3には接着層(実質的には、粘着剤層)の屈折率として1.47しか記載されていないとの主張に対し、原査定によれば、「1.55以上の屈折率を有する光学用接着剤を用いることは周知技術(例えば、引用文献7の図5参照。)である」とされています。しかし、引用文献7には、画像表示装置用の非常に薄い光学フィルムを積層するための接着剤は開示も示唆もされていません。引用文献7には「光学接着剤」という非常に広い概念の用語が用いられていますが、実質的には、光ファイバーやコネクタの光軸を合わせて精密固定するための接着剤が記載されているにすぎません。」(請求書4頁<引用文献3の接着層の屈折率について>) しかしながら、引用文献3に記載された上記課題解決手段は、光学フィルムにおける積層界面の屈折率差を小さくすることによって、界面での反射を抑制して視認性を改善するものであるから、積層界面に隣接する各層の屈折率や厚さ(例えば、数十μm程度)によっては適用できないというものではない。また、引用文献7で示される技術が画像表示装置用の非常に薄い光学フィルムを積層するための接着剤として使用できない根拠も見いだせない。そして、干渉ムラの抑制という効果は、本件出願当時、本件補正発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができたものであり、格別顕著なものということはできない。 したがって、審判請求人の上記主張を採用することができない。 6 むすび 以上のとおり、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2、3に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条7項の規定に違反するものであり、同法第159条1項で読み替えて準用する同法第53条1項の規定により却下されるべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本件発明 1 本件発明 本件補正は、前記第2に記載したとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、前記第2の1(1)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 本件発明に対する原査定の拒絶の理由は、本件発明は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 3 引用文献 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献のうち引用文献1,2,3,7の記載事項は、前記第2の4に記載したとおりである。 4 対比・判断 本件発明は、前記第2の2において検討したとおり、本件補正発明から、「偏光子」に係る限定事項を削除したものである。 そうすると、本件発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の6に記載したとおり、引用文献1に記載された発明、引用文献2、3に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、引用文献1に記載された発明、引用文献2、3に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本件発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 |
審理終結日 | 2024-04-30 |
結審通知日 | 2024-05-07 |
審決日 | 2024-05-20 |
出願番号 | P2021-116592 |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B) |
最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
里村 利光 |
特許庁審判官 |
関根 洋之 神谷 健一 |
発明の名称 | 位相差層付偏光板および有機EL表示装置 |
代理人 | 籾井 孝文 |