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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08L 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08L 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08L |
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管理番号 | 1413291 |
総通号数 | 32 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2024-08-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2023-01-27 |
確定日 | 2024-05-30 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第7108565号発明「導電性高分子組成物、被覆品、及びパターン形成方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7108565号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−7〕、〔8−10〕、11について訂正することを認める。 特許第7108565号の請求項1〜11に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第7108565号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし11に係る特許についての出願は、平成31年3月11日を出願日とする特許出願であって、令和4年7月20日にその特許権の設定登録(請求項の数11)がされ、同年同月28日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和5年1月27日に特許異議申立人 中川 賢治(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 その後の経緯は、以下のとおりである。 令和5年 4月24日付け: 取消理由通知 同年 6月16日 : 特許権者による意見書の提出及び訂正請求 同年 6月26日付け: 訂正請求があった旨の申立人への通知 同年 7月26日 : 申立人による意見書の提出 同年 9月29日付け: 取消理由通知(決定の予告) 同年11月22日 : 特許権者による意見書の提出及び訂正請求 同年12月 7日付け: 手続補正指令書(方式)(特許権者宛) 同年12月21日 : 特許権者による手続補正書(方式)の提出 及び既納手数料返還請求 令和6年 1月11日付け: 訂正請求があった旨の申立人への通知 同年 2月14日 : 申立人による意見書の提出 同年 3月28日付け: 手続補正指令書(方式)(特許権者宛) 同年 4月24日 : 特許権者による手続補正書(方式)の提出 なお、令和5年6月16日提出の訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。 第2 訂正の適否 1 訂正請求書の補正について 令和6年4月24日の手続補正書による令和5年11月22日提出の訂正請求書の補正は、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する同法第133条第1項の規定により、当該請求書について補正をすべきことを命じられた場合において、当該命じられた事項についてしたものであるから、特許法120条の5第9項で準用する同法第131条の2第1項ただし書第3号に該当し、同法同条第1項の規定に違反するものではない。 よって、令和6年4月24日の手続補正書による令和5年11月22日提出の訂正請求書の補正を認める。 2 訂正の内容 令和6年4月24日の手続補正書によって補正された、令和5年11月22日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(なお、下線は訂正箇所を示す。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、「前記導電性高分子組成物が、更に(D)水溶性高分子を含有するものであ」とあるのを、「前記導電性高分子組成物が、更に(D)水溶性高分子を含有するものであり、 かつ、 下記一般式(2)中のX+が下記一般式(3)で示される窒素化合物であるとき前記(D)水溶性高分子はポリビニルピロリドンであり、」 に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2−7も同様に訂正する。)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1において、訂正事項1に係る記載の直後に「前記導電性高分子組成物は、電子線レジスト描画用帯電防止膜に用いられるものであ」の文言を加える訂正を行う。(請求項1の記載を引用する請求項2−7も同様に訂正する。) (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項8において、 「前記導電性高分子組成物が、(A)下記一般式(1)で表される繰り返し単位を少なくとも1種類以上有するポリアニリン系導電性高分子、及び(B)下記一般式(2)で表されるカルボン酸塩、を含むものであ」を、 「前記導電性高分子組成物が、(A)下記一般式(1)で表される繰り返し単位を少なくとも1種類以上有するポリアニリン系導電性高分子、及び(B)下記一般式(2)で表されるカルボン酸塩、を含むものである導電性高分子組成物であって、 前記導電性高分子組成物が、更に(D)水溶性高分子を含有するものであり、」 に訂正する(請求項8の記載を引用する請求項9−10も同様に訂正する。)。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項8において、訂正事項3に係る記載の直後に 「かつ、 下記一般式(2)中のX+が下記一般式(3)で示される窒素化合物であるとき前記(D)水溶性高分子はポリビニルピロリドンであ」 の文言を加える訂正を行う。(請求項8の記載を引用する請求項9−10も同様に訂正する。) (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項11において、 「前記導電性高分子組成物を、(A)下記一般式(1)で表される繰り返し単位を少なくとも1種類以上有するポリアニリン系導電性高分子、及び(B)下記一般式(2)で表されるカルボン酸塩、を含むもの」を、 「前記導電性高分子組成物を、(A)下記一般式(1)で表される繰り返し単位を少なくとも1種類以上有するポリアニリン系導電性高分子、及び(B)下記一般式(2)で表されるカルボン酸塩、を含むものである導電性高分子組成物とし、 前記導電性高分子組成物を、更に(D)水溶性高分子を含有するものとし、」 に訂正する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項11において、訂正事項5に係る記載の直後に、 「かつ、 下記一般式(2)中のX+を下記一般式(3)で示される窒素化合物とするとき前記(D)水溶性高分子をポリビニルピロリドン」 の文言を加える訂正を行う。 2 一群の請求項について 訂正前の請求項1〜7について、請求項2〜7は、請求項1を引用するものであって、訂正事項1、2によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。 訂正前の請求項8〜10について、請求項9,10は請求項8を引用するものであって、訂正事項3、4によって記載が訂正される請求項8に連動して訂正されるものである。 また、訂正事項5、6は独立請求項である請求項11を訂正するものである。 よって、訂正事項1〜6に係る訂正は、一群の請求項〔1−7〕、〔8−10〕、11についてするものである。 3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項2について 訂正事項2の訂正は、訂正前の請求項1の「導電性高分子組成物」について、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の[0017]に記載された「・・・電子線レジスト描画用帯電防止膜に好適に用いることができる導電性高分子組成物を提供することを目的とする。」を根拠に、その用途を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものでもなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 よって、訂正事項2による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。 (2)訂正事項3,5について 訂正事項3、5の訂正は、訂正前の請求項8又は11の「導電性高分子組成物」について、本件明細書の[0028]における「また、前記導電性高分子組成物が、更に(D)水溶性高分子を含有するものであることが好ましい。」との記載、及び本件明細書の[0067]における「また、本発明では、基板等の被加工体へ成膜した際の膜の均質性を向上するために、更に(D)水溶性高分子を添加してもよい。」との記載を根拠に、「(D)水溶性高分子」を含有するものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものでもなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 よって、訂正事項3、5による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。 (3)訂正事項1、4、6について 訂正事項1、4、6の訂正は、訂正前の請求項1の「(D)水溶性高分子」、又は訂正前の請求項8、10に訂正事項3、5による訂正によって追加された「(D)水溶性高分子」について、「一般式(2)中のX+」が「下記一般式(3)で示される窒素化合物」であるとき「前記(D)水溶性高分子」が「ポリビニルピロリドン」であることを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 そして、一般式(2)中のX+の選択肢として「一般式(3)で示される窒素化合物」が含まれることは訂正前の請求項1、8、11に記載され、水溶性高分子としてポリビニルピロリドンが用いられることは実施例27〜39に記載されており、実施例27は「一般式(2)中のX+」が「下記一般式(3)で示される窒素化合物」であるとき「前記(D)水溶性高分子」が「ポリビニルピロリドン」であるものに相当するから、訂正事項1、4、6による訂正は、新規事項を追加するものではない。 よって、訂正事項1、4、6による本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。 4 本件訂正後の独立特許要件について 特許異議の申立ては、訂正前の請求項1〜11に対してされているので、当該請求項における訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。 5 まとめ 以上のとおり、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−7〕、〔8−10〕、11について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり本件訂正は認められたので、本件特許の請求項1〜11に係る発明(以下、順に「本件発明1」のようにいい、本件発明1〜11を総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、訂正特許請求の範囲の請求項1〜11に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 (A)下記一般式(1)で表される繰り返し単位を少なくとも1種類以上有するポリアニリン系導電性高分子、及び(B)下記一般式(2)で表されるカルボン酸塩、を含むものである導電性高分子組成物であって、 前記導電性高分子組成物が、更に(D)水溶性高分子を含有するものであり、かつ、 下記一般式(2)中のX+が下記一般式(3)で示される窒素化合物であるとき前記(D)水溶性高分子はポリビニルピロリドンであり、 前記導電性高分子組成物は、電子線レジスト描画用帯電防止膜に用いられるものであることを特徴とする導電性高分子組成物。 【化1】 (式中、R1〜R4は、各々独立に、水素原子、酸性基、ヒドロキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子、炭素数1〜24の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、ヘテロ原子を含む炭素数1〜24の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基、又はハロゲン原子で部分置換された炭素数1〜24の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基を示す。) 【化2】 (式中、X+はリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、又は下記一般式(3)で示される窒素化合物を示す。Lは単結合又はヘテロ原子が介在してもよい炭素数1〜8の直鎖状、分岐状、環状の飽和又は不飽和の炭化水素鎖を示し、Lが単結合の場合にはn=0であり、Lが単結合でない場合はn=1である。R5とR6はそれぞれ独立に水素原子、ヘテロ原子、−COO−X+基、ヒドロキシル基、ヘテロ原子が介在してもよい炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、又は環状の1価炭化水素基、又は末端に−COO−X+基をもつ炭素数1〜8の直鎖状、分岐状、又は環状の飽和又は不飽和炭化水素基を示す。R7は水素原子、ヒドロキシル基、又は−COO−X+基を示す。) 【化3】 (式中、R101、R102、R103、R104は、それぞれ水素原子、炭素数1〜12の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基、アルケニル基、オキソアルキル基、又はオキソアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基、又は炭素数7〜12のアラルキル基又はアリールオキソアルキル基を示し、これらの基の水素原子の一部又は全部がアルコキシ基によって置換されていてもよい。R101とR102、R101とR102とR104とは環を形成してもよく、環を形成する場合には、R101とR102及びR101とR102とR104は炭素数3〜10のアルキレン基、又は式中の窒素原子を環の中に有する複素芳香族環を示す。) 【請求項2】 前記酸性基がスルホ基であることを特徴とする請求項1に記載の導電性高分子組成物。 【請求項3】 前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、1質量部から70質量部であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の導電性高分子組成物。 【請求項4】 前記導電性高分子組成物が、更に(C)ノニオン系界面活性剤を含有するものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の導電性高分子組成物。 【請求項5】 前記(C)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、0.1質量部から10質量部であることを特徴とする請求項4に記載の導電性高分子組成物。 【請求項6】 前記(D)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、30質量部から150質量部であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の導電性高分子組成物。 【請求項7】 被加工体上に請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の導電性高分子組成物が成膜されたものであることを特徴とする被覆品。 【請求項8】 被加工体上に導電性高分子組成物が成膜されたものである被覆品であって、 前記被加工体は、化学増幅型レジスト膜を備える基板であり、かつ、 前記導電性高分子組成物が、(A)下記一般式(1)で表される繰り返し単位を少なくとも1種類以上有するポリアニリン系導電性高分子、及び(B)下記一般式(2)で表されるカルボン酸塩、を含むものである導電性高分子組成物であって、 前記導電性高分子組成物が、更に(D)水溶性高分子を含有するものであり、かつ、 下記一般式(2)中のX+が下記一般式(3)で示される窒素化合物であるとき前記(D)水溶性高分子はポリビニルピロリドンであることを特徴とする被覆品。 【化4】 (式中、R1〜R4は、各々独立に、水素原子、酸性基、ヒドロキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子、炭素数1〜24の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、ヘテロ原子を含む炭素数1〜24の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基、又はハロゲン原子で部分置換された炭素数1〜24の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基を示す。) 【化5】 (式中、X+はリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、又は下記一般式(3)で示される窒素化合物を示す。Lは単結合又はヘテロ原子が介在してもよい炭素数1〜8の直鎖状、分岐状、環状の飽和又は不飽和の炭化水素鎖を示し、Lが単結合の場合にはn=0であり、Lが単結合でない場合はn=1である。R5とR6はそれぞれ独立に水素原子、ヘテロ原子、−COO−X+基、ヒドロキシル基、ヘテロ原子が介在してもよい炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、又は環状の1価炭化水素基、又は末端に−COO−X+基をもつ炭素数1〜8の直鎖状、分岐状、又は環状の飽和又は不飽和炭化水素基を示す。R7は水素原子、ヒドロキシル基、又は−COO−X+基を示す。) 【化6】 (式中、R101、R102、R103、R104は、それぞれ水素原子、炭素数1〜12の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基、アルケニル基、オキソアルキル基、又はオキソアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基、又は炭素数7〜12のアラルキル基又はアリールオキソアルキル基を示し、これらの基の水素原子の一部又は全部がアルコキシ基によって置換されていてもよい。R101とR102、R101とR102とR104とは環を形成してもよく、環を形成する場合には、R101とR102及びR101とR102とR104は炭素数3〜10のアルキレン基、又は式中の窒素原子を環の中に有する複素芳香族環を示す。) 【請求項9】 前記被加工体は、電子線をパターン照射してレジストパターンを得るための基板であることを特徴とする請求項8に記載の被覆品。 【請求項10】 前記被加工体は、20μC/cm2以上の感度をもつ化学増幅型電子線レジスト膜を備える基板であることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の被覆品。 【請求項11】 化学増幅型レジスト膜を備える基板の該レジスト膜上に、導電性高分子組成物を用いて帯電防止膜を形成する工程、電子線をパターン照射する工程、及びH2O又はアルカリ性現像液を用いて現像してレジストパターンを得る工程を含むパターン形成方法であって、 前記導電性高分子組成物を、(A)下記一般式(1)で表される繰り返し単位を少なくとも1種類以上有するポリアニリン系導電性高分子、及び(B)下記一般式(2)で表されるカルボン酸塩、を含むものである導電性高分子組成物とし、 前記導電性高分子組成物を、更に(D)水溶性高分子を含有するものとし、かつ、 下記一般式(2)中のX+を下記一般式(3)で示される窒素化合物とするとき前記(D)水溶性高分子をポリビニルピロリドンとすることを特徴とするパターン形成方法。 【化7】 (式中、R1〜R4は、各々独立に、水素原子、酸性基、ヒドロキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子、炭素数1〜24の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、ヘテロ原子を含む炭素数1〜24の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基、又はハロゲン原子で部分置換された炭素数1〜24の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基を示す。) 【化8】 (式中、X+はリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、又は下記一般式(3)で示される窒素化合物を示す。Lは単結合又はヘテロ原子が介在してもよい炭素数1〜8の直鎖状、分岐状、環状の飽和又は不飽和の炭化水素鎖を示し、Lが単結合の場合にはn=0であり、Lが単結合でない場合はn=1である。R5とR6はそれぞれ独立に水素原子、ヘテロ原子、−COO−X+基、ヒドロキシル基、ヘテロ原子が介在してもよい炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、又は環状の1価炭化水素基、又は末端に−COO−X+基をもつ炭素数1〜8の直鎖状、分岐状、又は環状の飽和又は不飽和炭化水素基を示す。R7は水素原子、ヒドロキシル基、又は−COO−X+基を示す。) 【化9】 (式中、R101、R102、R103、R104は、それぞれ水素原子、炭素数1〜12の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基、アルケニル基、オキソアルキル基、又はオキソアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基、又は炭素数7〜12のアラルキル基又はアリールオキソアルキル基を示し、これらの基の水素原子の一部又は全部がアルコキシ基によって置換されていてもよい。R101とR102、R101とR102とR104とは環を形成してもよく、環を形成する場合には、R101とR102及びR101とR102とR104は炭素数3〜10のアルキレン基、又は式中の窒素原子を環の中に有する複素芳香族環を示す。)」 第4 特許異議申立理由の概要、証拠方法及び取消理由の概要 1 申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 令和5年1月27日に申立人が提出した特許異議申立書(以下「申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。 (1)申立理由1(甲第1号証による新規性) 本件特許の訂正前の請求項1,2,4,7〜9、11に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (2)申立理由2(甲第1号証を主引用文献とする進歩性) 本件特許の訂正前の請求項1〜11に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (3)申立理由3(甲第3号証を主引用文献とする進歩性) 本件特許の訂正前の請求項1〜11に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明及び甲第1,2号証に記載された事項に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (4)申立理由4(サポート要件違反) 本件特許の訂正前の請求項1〜11に係る特許は、以下の理由により特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 具体的理由の概略は以下のとおり。 本件発明1に係る(D)水溶性高分子について、特定の化合物(ポリビニルピロリドン)を用いた場合以外について課題を解決し得ると認識することができないから、本件発明1〜11は発明の詳細な説明に記載したものではない。 2 証拠方法 (1)特許異議申立書に添付した証拠方法 甲第1号証:特開平8−109351号公報 甲第2号証:特開2016−80964号公報 甲第3号証:国際公開第2012/144608号 (2)令和5年7月26日に提出した意見書(申立人)に添付した証拠方法 甲第4号証:国際公開第2015/060231号 甲第5号証:特開2017−039927号公報 甲第6号証:特開2014−009342号公報 以下、順に「甲1」ないし「甲6」という。 3 取消理由の概要 当審が令和5年9月29日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。 取消理由1(甲3を主引用文献とする進歩性) 本件特許の請求項1〜7に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 第5 当審の判断 当審は、取消理由1及び特許異議申立書に記載した申立理由1〜4によっては、本件発明1〜11についての特許を取り消すことはできないものと判断する。 その理由は、以下のとおりである。 1 取消理由1(甲3を主引用文献とする進歩性)、申立理由3(甲3を主引用文献とする進歩性)について 取消理由1及び申立理由3は、いずれも甲3を主引用文献とするものであるから、併せて検討する。 (1)甲3に記載された事項及び甲3に記載された発明 甲3には、「スルホン酸基及び/又はカルボキシ基を有する導電性高分子(A)並びにアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の酢酸塩、炭酸塩、リン酸塩及びハロゲン化物より選択される少なくとも一種の化合物(C)を含む導電性組成物。」が記載されており(請求項2)、「前記導電性高分子(A)が下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する導電性高分子である請求項1〜5の何れか1項に記載の導電性組成物。 式(1)中、R1〜R4は、各々独立に、水素原子、炭素数1〜24の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数1〜24の直鎖もしくは分岐のアルコキシ基、酸性基、ヒドロキシ基、ニトロ基又はハロゲン原子である。またR1〜R4のうちの少なくとも一つは酸性基又はその塩である。」(請求項6)も記載されている。 そして、その具体的な例として、実施例2−1には、製造例B1で得た導電性高分子(A2)溶液を用い、導電性高分子の繰り返し単位1モルに対して、0.25モルの「酢酸リチウム」を添加し、導電性組成物溶液を調製したことが記載されている([0187]〜[0195])。 そして、「製造例B1で得た導電性高分子(A2)溶液」の詳細については[0170]に記載される以下の通りのものである。 「[製造例B1;導電性高分子(A2)の製造)] 水/アセトニトリル(体積比1/1)混合液150mlにペルオキソ二硫酸アンモニウム200mmolと硫酸1.0gを溶解させた溶液をエチレングリコールを用いたバスで0℃に冷却し、撹拌動力0.7kw/m3下、2−アミノアニソール−4−スルホン酸200mmolとトリエチルアミン200mmolを水/アセトニトリル(体積比1/1)混合液150mlに溶解させた溶液を200mmol/hrで滴下した。 滴下終了後、撹拌下2時間冷却を保持したのち、反応生成物を冷却下で減圧濾過装置にて濾別し、メチルアルコールにて洗浄後乾燥し、導電性高分子の粗ポリマーを得た。 得られた粗ポリマー20gを400mlの水で溶解し、酸性陽イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、「アンバーライト」)100mlをカラムに充填し、該カラムに前記粗ポリマー溶液をSV=0.3の流量で通過させて陽イオン交換処理を行い、精製された導電性高分子(A2)溶液を得た。 得られた導電性高分子(A2)溶液において、導電性高分子(A2)の割合は4.5質量%であった。また、得られた導電性高分子中に含まれる塩を形成している塩基性化合物の含有量は0.1質量%以下であった。 また、分子量(M)は、34900であり、X/Y=1.24であった。」 上記「製造例B1で得た導電性高分子(A2)」は、「2−アミノアニソール−4−スルホン酸」を重合して得られたものであり、かつ、「得られた導電性高分子中に含まれる塩を形成している塩基性化合物の含有量は0.1質量%以下」([0170])、すなわちほぼ塩を形成していないことから、甲3の請求項6の一般式(1)で表される繰り返し単位を有し、R1,R4が水素原子、R2が炭素数1のアルコキシ基、R3がスルホン酸基(酸性基)である導電性高分子に相当する。 また、実施例2−1の「酢酸リチウム」は、請求項2の「アルカリ金属・・・の酢酸塩」に相当する。 したがって、実施例2−1で製造された導電性組成物溶液に着目し、それを請求項2を引用する請求項6にならって記載すると、甲3には次の発明(以下「甲3発明1」という。)が記載されている。 「下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する導電性高分子(A)並びに酢酸リチウムを含む導電性組成物。 式(1)中、R1,R4は水素原子であり、R2は炭素数1のアルコキシ基であり、R3はスルホン酸基である。」 また、甲3の[0187]には、甲3発明1の組成物をガラス基板上に塗布して導電体を形成したことが記載されているから、甲3には次の発明(以下「甲3発明2」という。)が記載されている。 「ガラス基板上に甲3発明1の組成物が塗布されて形成された導電体を有する、ガラス基板。」 さらに、甲3発明2のガラス基板の製造方法に着目すると、甲3には次の発明(以下「甲3発明3」という。)が記載されている。 「ガラス基板上に甲3発明1の組成物を塗布して導電体を形成する方法。」 (2)本件発明1について ア 本件発明1と甲3発明1との対比 本件発明1と甲3発明1を対比すると、甲3発明1の「導電性高分子(A)」は、本件発明1の一般式(1)において、R1,R4が水素原子、R2がヘテロ原子(酸素原子)を含む炭素数1の炭化水素基、R3が酸性基であるものに相当する。 また、甲3発明1の「酢酸リチウム」は、本件発明1の「一般式(2)で表されるカルボン酸塩」であって、R7が水素原子、Lが炭素数1の炭化水素鎖、R5,R6が水素原子、X+がリチウムイオンであるものに相当する。 そして、甲3発明1の「酢酸リチウム」は、本件発明1の「一般式(2)で表されるカルボン酸塩」には相当するものの、「X+が下記一般式(3)で示される窒素化合物」であるものには相当しない。 したがって、両者は、 「(A)下記一般式(1)で表される繰り返し単位を少なくとも1種類以上有するポリアニリン系導電性高分子、及び(B)下記一般式(2)で表されるカルボン酸塩、を含むものである導電性高分子組成物。 【化1】 (式中、R1〜R4は、各々独立に、水素原子、酸性基、ヒドロキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子、炭素数1〜24の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、ヘテロ原子を含む炭素数1〜24の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基、又はハロゲン原子で部分置換された炭素数1〜24の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基を示す。) 【化2】 (式中、X+はリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、又は下記一般式(3)で示される窒素化合物を示す。Lは単結合又はヘテロ原子が介在してもよい炭素数1〜8の直鎖状、分岐状、環状の飽和又は不飽和の炭化水素鎖を示し、Lが単結合の場合にはn=0であり、Lが単結合でない場合はn=1である。R5とR6はそれぞれ独立に水素原子、ヘテロ原子、−COO−X+基、ヒドロキシル基、ヘテロ原子が介在してもよい炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、又は環状の1価炭化水素基、又は末端に−COO−X+基をもつ炭素数1〜8の直鎖状、分岐状、又は環状の飽和又は不飽和炭化水素基を示す。R7は水素原子、ヒドロキシル基、又は−COO−X+基を示す。) 【化3】 (式中、R101、R102、R103、R104は、それぞれ水素原子、炭素数1〜12の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基、アルケニル基、オキソアルキル基、又はオキソアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基、又は炭素数7〜12のアラルキル基又はアリールオキソアルキル基を示し、これらの基の水素原子の一部又は全部がアルコキシ基によって置換されていてもよい。R101とR102、R101とR102とR104とは環を形成してもよく、環を形成する場合には、R101とR102及びR101とR102とR104は炭素数3〜10のアルキレン基、又は式中の窒素原子を環の中に有する複素芳香族環を示す。)」 である点において一致し、以下の点で相違する。 <相違点1−1> 導電性高分子組成物が、本件発明1は「更に(D)水溶性高分子を含有する」ものであるのに対し、甲3発明1はそのような特定がない点 <相違点1−2> 導電性高分子組成物が、本件発明1では「電子線レジスト描画用帯電防止膜に用いられる」ものであるのに対し、甲3発明1ではそのような特定がない点 イ 相違点についての判断 事案に鑑み、相違点1−2について検討する。 甲3には、甲3発明1の組成物が、導電性、耐熱性、成膜性に優れた導電性組成物であり、静電容量が高く、耐熱性に優れた高導電率の導電性高分子層を備えた固体電解コンデンサの製造に用いられることは記載されているが([0032])、電子線レジスト描画用帯電防止膜に用いられることについては、記載も示唆もされていない。 よって、相違点1−1について検討するまでもなく、甲3発明1において、相違点1−2の構成を採用することは、当業者が容易に想到することではない。 ウ 本件発明1の効果について 本件発明1の組成物は、本件発明1の構成を有することによって、「濾過性ならびに電子線レジスト上への平坦膜の成膜性が良好で、低体積抵抗率(Ω・cm)の性質により電子線描画工程においても優良な耐電防止能を示し、かつ、当該膜より拡散する酸の影響を最小限としてリソグラフィーへの影響を低減し、さらに描画後のH2O又はアルカリ現像液による剥離性にも優れ」る(本件明細書の【0017】)という顕著な効果を奏するものであり、このことは、本件明細書の【表2】〜【表11】の記載からも理解できることである。 そして、上記効果のうち、特に「当該膜より拡散する酸の影響を最小限としてリソグラフィーへの影響を低減し、さらに描画後のH2O又はアルカリ現像液による剥離性にも優れ」るという効果は、導電性、耐熱性、成膜性に優れた導電性組成物であり、静電容量が高く、耐熱性に優れた高導電率の導電性高分子層を備えた固体電解コンデンサの製造に用いられることしか記載のない甲3からは、当業者が予測できることではない。 エ 申立人の主張について 申立人は、令和6年2月14日提出の意見書において、高い導電性、すなわち表面抵抗が十分に小さいことを特徴とするポリアニリン系導電性高分子組成物によって形成される導電体膜が「電子線レジスト描画用帯電防止膜」として好適に用いられることは甲1、甲2に記載されるように当該技術分野における技術常識であるから、甲3発明1の組成物を本件発明1の用途に用いることは十分に動機付けられること、また、本件明細書の【表2】によれば(D)水溶性高分子を添加したものはそれを添加しないものと比較して体積抵抗率が悪化しているし、拡散する酸の影響についての結果を示した【表8】〜【表11】からは、(D)水溶性高分子の添加による改善はほとんどなく、剥離性に関しても(D)水溶性高分子を含有させることで塗膜の強度が向上することは甲4〜甲6に記載された周知技術から予測できる程度にすぎないことを主張する(意見書5〜6頁の項目「エ 相違点についての判断」)。 上記主張について検討する。上記イで述べたように、甲3には、甲3発明1の組成物を電子線レジスト描画用帯電防止膜に用いられることについては、記載も示唆もされていないから、当業者が動機付けられるとはいえない。 そして、高い導電性を有するという甲3の記載からは、「当該膜より拡散する酸の影響を最小限としてリソグラフィーへの影響を低減し、さらに描画後のH2O又はアルカリ現像液による剥離性にも優れ」るという本件発明1の効果を予測することはできない。 また、【表8】〜【表11】からは、(D)水溶性高分子の添加による改善の効果がほとんどないとしても、本件発明1の組成物を「電子線レジスト描画用帯電防止膜」という特定の用途に用いたときに、(水溶性高分子の添加の有無にかかわらず)良好なリソグラフィー結果が得られることは理解することができるし、その効果が甲3から予測できないことは上記ウで述べたとおりである。 そして、甲1、甲2には、ポリアニリン系導電性高分子を含む組成物を「電子線レジスト描画用帯電防止膜」に用いることが記載されているが、これらは甲3発明1の酢酸リチウムを含むものではなく、甲3発明1の組成物を「電子線レジスト描画用帯電防止膜」の用途に用いたときに良好なリソグラフィー結果が得られることを示すものではない。 したがって、申立人の主張は採用することができない。 オ 本件発明1についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件発明1は甲3に記載された発明及び甲1、甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、取消理由1及び申立理由3によっては、本件発明1についての特許を取り消すことはできない。 (3)本件発明2〜7について 本件発明2〜7は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1が甲3発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件発明2〜7についても、甲3発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)本件発明8について ア 本件発明8と甲3発明2との対比 甲3発明2の「ガラス基板」、「甲3発明1の組成物」、「塗布されて形成された」、「導電体を有する、ガラス基板」は、それぞれ、本件発明8の「被加工体」、「導電性高分子組成物」、「成膜された」、「被覆品」に相当するから、上記(2)アで検討した点を踏まえて、本件発明8と甲3発明2を対比すると、両者は 「被加工体上に導電性高分子組成物が成膜されたものである被覆品であって、 かつ、 前記導電性高分子組成物が、(A)下記一般式(1)で表される繰り返し単位を少なくとも1種類以上有するポリアニリン系導電性高分子、及び(B)下記一般式(2)で表されるカルボン酸塩、を含むものである導電性高分子組成物である、 被覆品。」(当審注:一般式(1)〜(3)については省略。以下も同様。) である点において一致し、以下の点で相違する。 <相違点1−3> 被加工体が、本件発明8では「化学増幅型レジスト膜を備える基板」であるのに対し、甲3発明2では「ガラス基板」であって、化学増幅型レジスト膜を備えるものではない点 <相違点1−4> 導電性高分子組成物が、本件発明1は「更に(D)水溶性高分子を含有する」ものであるのに対し、甲3発明2はそのような特定がない点 イ 相違点についての判断 相違点1−3について検討すると、「化学増幅型レジスト膜を備える基板」である被加工体上に、導電性高分子組成物を成膜することは、本件明細書の【0033】〜【0037】、及び【0040】の記載からみて、実質的に、その導電性高分子が(電子線による)化学増幅型レジスト描画用の帯電防止膜として用いられることを意味するものと認められる。 そうすると、相違点1−4について検討するまでもなく、上記(2)イにおいて、相違点1−2について述べたのと同様の理由により、甲3発明2において、相違点1−3の構成を採用することは当業者が容易に想到することではない。 ウ 申立人の主張について 申立人は、令和6年2月14日提出の意見書において、上記(2)エで示したのと同様の主張をしているが、その主張については、上記(2)エで述べたとおり、採用することはできない。 エ 本件発明8についてのまとめ よって、本件発明8は、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (5)本件発明9、10について 本件発明9、10は、いずれも本件発明8を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明8が甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件発明9、10についても、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (6)本件発明11について ア 本件発明11と甲3発明3との対比 甲3発明3の「ガラス基板」、「甲3発明1の組成物」、「塗布して導電体を形成する」は、それぞれ、本件発明11の「基板」、「導電性高分子組成物」、「膜を形成する」に相当するから、上記(2)ア、上記(4)アで検討した点を踏まえて、本件発明11と甲3発明3を対比すると、両者は 「基板上に、導電性高分子組成物を用いて膜を形成する工程を含む方法であって、 前記導電性高分子組成物を、(A)下記一般式(1)で表される繰り返し単位を少なくとも1種類以上有するポリアニリン系導電性高分子、及び(B)下記一般式(2)で表されるカルボン酸塩、を含むものである導電性高分子組成物とする、方法。」 である点において一致し、以下の点で相違する。 <相違点1−5> 本件発明11では、「基板」が「化学増幅型レジスト膜を備える」ものであり、「膜」が「帯電防止膜」であり、かつ、「方法」が「電子線をパターン照射する工程、及びH2O又はアルカリ性現像液を用いて現像してレジストパターンを得る工程を含むパターン形成方法」であるのに対し、甲3発明3ではそのような特定がない点 <相違点1−6> 本件発明11では、「導電性高分子組成物を、更に(D)水溶性高分子を含有するもの」とするのに対し、甲3発明3ではそのような特定がない点 イ 相違点についての判断 相違点1−5について検討する。「化学増幅型レジスト膜を備える基板の該レジスト膜上に、導電性高分子組成物を用いて帯電防止膜を形成する工程、電子線をパターン照射する工程、及びH2O又はアルカリ性現像液を用いて現像してレジストパターンを得る工程を含むパターン形成方法」というのは、実質的に、その導電性高分子組成物を用いて化学増幅型レジスト描画用の帯電防止膜を形成することを意味するものと認められる。 そうすると、相違点1−6について検討するまでもなく、上記(2)イにおいて、相違点1−2について述べたのと同様の理由により、甲3発明3において、相違点1−5の構成を採用することは当業者が容易に想到することではない。 ウ 申立人の主張について 申立人は、令和6年2月14日提出の意見書において、上記(2)エで示したのと同様の主張をしているが、その主張については、上記(2)エで述べたとおり、採用することはできない。 エ 本件発明11についてのまとめ よって、本件発明11は、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (7)取消理由1及び申立理由3についてのまとめ 以上のとおりであるから、取消理由1及び申立理由3によっては、本件発明1〜11についての特許を取り消すことはできない。 2 申立理由1(甲1による新規性)、申立理由2(甲1による進歩性)について 申立理由1、2は、いずれも甲1を主引用文献とするものであるから、併せて検討する。 (1)甲1に記載された発明 甲1には、 「(a)下記一般式(1)及び(2)で表わされる繰り返し単位を有する重量平均分子量1万以上であり常温固体である可溶性アニリン系ポリマ0.01〜30重量部及び(b)溶媒100重量部を含むことを特徴とする電離放射線照射用組成物。 【化1】 (式中、R1 〜R4 は電子供与基を表し、Y1 〜Y4 は−SO3 −又は−COO−を表し、M1 〜M4 は水素イオン、アンモニウムイオン、アルキルアンモニウムイオン(炭素数1〜8)、芳香族アンモニウムイオン、又は芳香族複素環の四級イオンを表わす。)」が記載されており(請求項1)、「一般式(1)及び(2)のY1 〜Y4 がスルホン基である」こと(請求項3)、「更に、(c)成分としてアンモニア、脂肪族アミン(炭素数1〜8)、芳香族アミン、複素環化合物又はこれらの四級塩を0.01〜15重量部含むこと(請求項4)、「更に、成分(d)として(A)酸性基を含有する化合物及び/又は(B)酸性基を含有する重合体を0.001〜30重量部含」み(請求項5)、その「(d)成分の酸性基がスルホン基又はカルボキシル基である」こと(請求項6)も記載されている。 そうすると、請求項6(請求項5において請求項4を引用し、請求項4において請求項1を引用する部分)に記載された発明のうち、Y1 〜Y4がスルホン基(−SO3 −)であり、成分(d)が「(A)酸性基を含有する化合物」であって、その酸性基が「カルボキシル基」であるものに着目すると、甲1には次の発明が記載されている。 「(a)下記一般式(1)及び(2)で表わされる繰り返し単位を有する重量平均分子量1万以上であり常温固体である可溶性アニリン系ポリマ0.01〜30重量部及び(b)溶媒100重量部を含み、更に(c)成分としてアンモニア、脂肪族アミン(炭素数1〜8)、芳香族アミン、複素環化合物又はこれらの四級塩を0.01〜15重量部含み、成分(d)として(A)カルボキシル基を含有する化合物を0.001〜30重量部含むことを特徴とする電離放射線照射用組成物。 【化1】 (式中、R1 〜R4 は電子供与基を表し、Y1 〜Y4 はスルホン基(−SO3 −)を表し、M1 〜M4 は水素イオン、アンモニウムイオン、アルキルアンモニウムイオン(炭素数1〜8)、芳香族アンモニウムイオン、又は芳香族複素環の四級イオンを表わす。)」(以下「甲1発明1」という。) また、甲1の請求項7には 「被加工物上のレジスト膜上に請求項1〜6のいずれかに記載の電離放射線照射用組成物を塗布してコート膜を形成する工程と、 露光によりパターンを形成するために電離放射線を用いて該被加工物を照射する工程と、 該コート膜の剥離を行なった後レジスト膜を現像してパターンを形成する工程、又は該コート膜の剥離とレジストの現像を同時に行なってパターンを形成する工程とを含むことを特徴とするパターン形成方法。」 が記載されており、【0001】には「本発明は、電子線、イオン線などの電離放射線を用いた電離放射線照射用組成物・・・に係る。」と記載されているから、その方法及びコート膜を形成する工程によって得られたものに着目すると、甲1には次の発明も記載されているといえる。 「被加工物上のレジスト膜上に甲1発明1の電離放射線照射用組成物を塗布してコート膜が形成された、露光によりパターンを形成するために電子線などの電離放射線を用いて照射するための積層体。」(以下「甲1発明2」という。) 「被加工物上のレジスト膜上に甲1発明1の電離放射線照射用組成物を塗布してコート膜を形成する工程と、 露光によりパターンを形成するために電子線などの電離放射線を用いて該被加工物を照射する工程と、 該コート膜の剥離を行なった後レジスト膜を現像してパターンを形成する工程、又は該コート膜の剥離とレジストの現像を同時に行なってパターンを形成する工程とを含むことを特徴とするパターン形成方法。」(以下「甲1発明3」という。) (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明1を対比する。 甲1発明1の「(a)下記一般式(1)及び(2)で表わされる繰り返し単位を有する重量平均分子量1万以上であり常温固体である可溶性アニリン系ポリマ」は、本件発明1の「(A)下記一般式(1)で表される繰り返し単位を少なくとも1種類以上有するポリアニリン系」の「高分子」に相当する。 甲1発明1の「電離放射線照射用組成物」は、(a)の可溶性アニリン系ポリマを含むものであるから、本件発明1の「高分子組成物」に相当する。 そうすると、両者は 「(A)下記一般式(1)で表される繰り返し単位を少なくとも1種類以上有するポリアニリン系高分子を含むものである高分子組成物。 【化1】 (式中、R1〜R4は、各々独立に、水素原子、酸性基、ヒドロキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子、炭素数1〜24の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、ヘテロ原子を含む炭素数1〜24の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基、又はハロゲン原子で部分置換された炭素数1〜24の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基を示す。)」 である点において一致し、以下の3点において相違する。 <相違点2−1> 「ポリアニリン系高分子」及び「高分子組成物」が、本件発明1ではそれぞれ「ポリアニリン系導電性高分子」及び「導電性高分子組成物」であるのに対し、甲1発明1では「導電性」であるか否かが不明な点。 <相違点2−2> 「高分子組成物」が、本件発明1では「(B)下記一般式(2)で表されるカルボン酸塩 【化2】 (式中、X+はリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、又は下記一般式(3)で示される窒素化合物を示す。Lは単結合又はヘテロ原子が介在してもよい炭素数1〜8の直鎖状、分岐状、環状の飽和又は不飽和の炭化水素鎖を示し、Lが単結合の場合にはn=0であり、Lが単結合でない場合はn=1である。R5とR6はそれぞれ独立に水素原子、ヘテロ原子、−COO−X+基、ヒドロキシル基、ヘテロ原子が介在してもよい炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、又は環状の1価炭化水素基、又は末端に−COO−X+基をもつ炭素数1〜8の直鎖状、分岐状、又は環状の飽和又は不飽和炭化水素基を示す。R7は水素原子、ヒドロキシル基、又は−COO−X+基を示す。) 【化3】 (式中、R101、R102、R103、R104は、それぞれ水素原子、炭素数1〜12の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基、アルケニル基、オキソアルキル基、又はオキソアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基、又は炭素数7〜12のアラルキル基又はアリールオキソアルキル基を示し、これらの基の水素原子の一部又は全部がアルコキシ基によって置換されていてもよい。R101とR102、R101とR102とR104とは環を形成してもよく、環を形成する場合には、R101とR102及びR101とR102とR104は炭素数3〜10のアルキレン基、又は式中の窒素原子を環の中に有する複素芳香族環を示す。)」 を含むものであるのに対し、甲1発明1では 「(c)成分としてアンモニア、脂肪族アミン(炭素数1〜8)、芳香族アミン、複素環化合物又はこれらの四級塩を0.01〜15重量部含み、成分(d)として(A)カルボキシル基を含有する化合物を0.001〜30重量部」を含むものである点 <相違点2−3> 「高分子組成物」が、本件発明1では「(D)水溶性高分子」を含有するものであり、かつ、「下記一般式(2)中のX+が下記一般式(3)で表される窒素化合物であるとき前記(D)水溶性高分子はポリビニルピロリドン」であるのに対し、甲1発明1ではそのような特定がない点 <相違点2−4> 「高分子組成物」が、本件発明1では「電子線レジスト描画用帯電防止膜に用いられる」ものであるのに対し、甲1発明1ではそのような特定がない点 イ 相違点についての判断 事案に鑑み、相違点2−2及び2−3についてまとめて検討する。 甲1発明1において、組成物中に(c)成分であるアンモニア、脂肪族アミン(炭素数1〜8)、芳香族アミン、複素環化合物等と(d)成分である「カルボキシル基を含有する化合物」が存在すると、両者が反応したカルボン酸アミン塩も存在するものと認められる。 そのようなカルボン酸アミン塩は、本件発明1の成分(B)と実質的に区別することはできないし、たとえそうでないとしても、甲1の【0035】に記載されているカルボキシル基を含有する化合物の具体例、例えば安息香酸と、甲1の【0027】〜【0033】に記載されている(c)成分の具体例、例えばアンモニア、炭素数1〜8の脂肪族アミン、アニリン(芳香族アミン)、ピペリジン(複素環化合物)等が反応すれば、本件発明1の成分(B)になることは明らかである。 そうすると、甲1発明1の(c)成分であるアンモニア、脂肪族アミン(炭素数1〜8)、芳香族アミン、複素環化合物等と(d)成分である「カルボキシル基を含有する化合物」の反応生成物であるカルボン酸アミン塩が、本件発明1の成分(B)に相当するところ、そのカルボン酸アミン塩は、本件発明1でいう「一般式(2)中のX+が下記一般式(3)で示される窒素化合物であるとき」に相当するものであるから、相違点2−3は、「高分子組成物」が、本件発明1では「(D)ポリビニルピロリドン」を含有するものであるのに対し、甲1発明1はそのような特定がない点、と言い換えることができる。 そこで検討すると、甲1の【0043】には、「本発明に用いられる組成物にバインダポリマを用いることができる。具体的には水溶性高分子化合物および水系でエマルジョンを形成する高分子化合物が好ましく用いられる。水溶性高分子の具体例としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、・・・ポリビニルピロリドン類・・・などが挙げられる。」と記載されているが、ポリビニルピロリドン類を積極的に採用する記載はなく、ポリビニルピロリドンを配合した実施例の記載もない。 したがって、相違点2−3は実質的な相違点であるといえるから、本件発明1は甲1に記載された発明ではない。 そして、本件明細書の【0067】に、 「このような水溶性高分子としては、親水性繰り返し単位のホモポリマーまたはコポリマーが望ましい。また、このような親水性繰り返し単位は重合性官能基にビニル基をもったものが好ましく、さらには(A)の成分から発生する酸の拡散を制御する意味でも分子内に窒素原子を含む化合物であることが好ましい。このとき、分子内窒素原子が求核性を持たなければ、前述の様にレジスト組成物中のレジストポリマーや酸発生剤に含まれるエステル基などの被求核攻撃官能基への副反応が生じるおそれがないのでより好ましい。そのため、上記繰り返し単位としては、アクリルアミド類などの様に末端に窒素原子をもつものよりも含窒素複素環状化合物が望ましい。また、その時、窒素原子は環状構造の主鎖を形成するビニル基に結合しているものがより好ましい。このような繰り返し単位としては、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニルカプロラクタム等が挙げられる。」 と記載されるように、水溶性高分子として「ポリビニルピロリドン」を用いることの技術上の意義は、単に「基板等の被加工体へ成膜した際の膜の均一性を向上する」という、一般的な水溶性高分子の役割に加えて、「(A)の成分から発生する酸の拡散制御」し、「レジスト組成物中のレジストポリマーや酸発生剤に含まれるエステル基などの被求核攻撃官能基への副反応」が生じないようにすることであると認められ、このことは、本件明細書の【表3】においても、水溶性高分子として「ポリビニルピロリドン」を用いた実施例27〜39が、水溶性高分子を含まない実施例1〜26と比較して膜減り変化率が少なくなっていることによっても理解することができる。 一方、甲1には、ポリビニルピロリドンが単に多数の水溶性高分子化合物と共に列挙されているだけで実施例の記載もなく、本件発明1のような観点からポリビニルピロリドンを採用する動機付けはない。 また、甲2は、甲1と同様に、「レジスト層の表面に、導電性組成物を塗布して帯電防止膜を形成する」(請求項1)技術に関するものであり、その導電性組成物が「水溶性ポリマー(c)」(請求項11)を含むものであるところ、その【0071】には、「水溶性ポリマー(c)の含有量が前記範囲の下限値以上であれば、界面活性剤としての効果(すなわち、塗布性の向上効果など)が十分に得られる。」と記載されており、水溶性ポリマーを配合することで、導電性組成物の塗布性が向上することが記載されており、水溶性ポリマーを構成するビニルモノマーの例として「N−ビニル−2−ピロリドン」も記載されている(【0065】)が、水溶性ポリマーとしてN−ビニル−2−ピロリドンを含んでいても、(甲1発明1のように)甲2の請求項11で特定される特定の塩基性化合物を含まない場合には、レジスト製造時の減膜率が大きく、評価が劣ることが示されている(比較例2〜5)。 よって、甲2の記載からポリビニルピロリドンのみを取り出して、それを甲1発明1に適用することが動機付けられるとはいえない。 よって、相違点2−1及び2−4について検討するまでもなく、甲1発明1において、相違点2−3に係る構成を採用することは当業者が容易に想到することではない。 ウ 本件発明1の効果について 本件発明1の組成物は、本件発明1の構成を有することによって、「濾過性ならびに電子線レジスト上への平坦膜の成膜性が良好で、低体積抵抗率(Ω・cm)の性質により電子線描画工程においても優良な耐電防止能を示し、かつ、当該膜より拡散する酸の影響を最小限としてリソグラフィーへの影響を低減し、さらに描画後のH2O又はアルカリ現像液による剥離性にも優れ」る(本件明細書の【0017】)という顕著な効果を奏するものであり、このことは、本件明細書の【表2】〜【表11】の記載からも理解できることである。 そして、上記効果のうち、特に「当該膜より拡散する酸の影響を最小限としてリソグラフィーへの影響を低減」するという効果は、ポリビニルピロリドンが単に多数の水溶性高分子化合物と共に列挙されているだけで実施例の記載もない甲1や、水溶性ポリマーとしてN−ビニル−2−ピロリドンを含んでいても、甲2の請求項11で特定される特定の塩基性化合物を含まない場合には、レジスト製造時の減膜率が大きく、評価が劣ることしか示されていない甲2からは、当業者が予測できることではない。 エ 申立人の主張について 申立人は、相違点2−3に関連して、甲1の【0042】に水溶性高分子化合物が用いられることが記載されていることを主張しているが(申立書13頁項目(ウ)及び14頁項目イ(ア))、この点は上記イで述べたとおりである。 オ 本件発明1についてのまとめ よって、本件発明1は甲1に記載された発明であるとも、また、甲1、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (3)本件発明2〜7について 本件発明2〜7は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1が甲1に記載された発明であるとも、また、甲1、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、本件発明2、4、7は甲1に記載された発明であるとはいえないし、本件発明2〜7は甲1、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)本件発明8について ア 本件発明8と甲1発明2との対比 甲1発明2の「被加工物上のレジスト膜」、「電離放射線照射用組成物を塗布してコート膜が形成された」、「積層体」は、それぞれ本件発明8の「化学増幅型レジスト膜を備える基板」である「被加工体」、「高分子組成物が成膜された」、「被覆品」に相当する。なお、甲1発明3の「レジスト膜」が直ちに「化学増幅型レジスト膜」とはいえないとしても、甲1の実施例1では「ポジ型化学増幅レジスト」が用いられているから、この点は実質的な相違点とはいえない。 したがって、上記(2)アで検討した点も考慮すると、本件発明8と甲1発明2とは、 「被加工体上に高分子組成物が成膜されたものである被覆品であって、 前記被加工体は、化学増幅型レジスト膜を備える基板であり、かつ、 前記導電性高分子組成物が、(A)下記一般式(1)で表される繰り返し単位を少なくとも1種類以上有するポリアニリン系高分子を含むものである高分子組成物である、 被覆品。」 である点において一致し、以下の点で相違する。 <相違点2−5> 「ポリアニリン系高分子」及び「高分子組成物」が、本件発明1ではそれぞれ「ポリアニリン系導電性高分子」及び「導電性高分子組成物」であるのに対し、甲1発明2では「導電性」であるか否かが不明な点。 <相違点2−6> 「高分子組成物」が、本件発明1では「(B)下記一般式(2)で表されるカルボン酸塩 【化5】 (式中、X+はリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、又は下記一般式(3)で示される窒素化合物を示す。Lは単結合又はヘテロ原子が介在してもよい炭素数1〜8の直鎖状、分岐状、環状の飽和又は不飽和の炭化水素鎖を示し、Lが単結合の場合にはn=0であり、Lが単結合でない場合はn=1である。R5とR6はそれぞれ独立に水素原子、ヘテロ原子、−COO−X+基、ヒドロキシル基、ヘテロ原子が介在してもよい炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、又は環状の1価炭化水素基、又は末端に−COO−X+基をもつ炭素数1〜8の直鎖状、分岐状、又は環状の飽和又は不飽和炭化水素基を示す。R7は水素原子、ヒドロキシル基、又は−COO−X+基を示す。) 【化6】 (式中、R101、R102、R103、R104は、それぞれ水素原子、炭素数1〜12の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基、アルケニル基、オキソアルキル基、又はオキソアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基、又は炭素数7〜12のアラルキル基又はアリールオキソアルキル基を示し、これらの基の水素原子の一部又は全部がアルコキシ基によって置換されていてもよい。R101とR102、R101とR102とR104とは環を形成してもよく、環を形成する場合には、R101とR102及びR101とR102とR104は炭素数3〜10のアルキレン基、又は式中の窒素原子を環の中に有する複素芳香族環を示す。)」 を含むものであるのに対し、甲1発明2では 「(c)成分としてアンモニア、脂肪族アミン(炭素数1〜8)、芳香族アミン、複素環化合物又はこれらの四級塩を0.01〜15重量部含み、成分(d)として(A)カルボキシル基を含有する化合物を0.001〜30重量部」を含むものである点 <相違点2−7> 「高分子組成物」が、本件発明8では「(D)水溶性高分子」を含有するものであり、かつ、「下記一般式(2)中のX+が下記一般式(3)で表される窒素化合物であるとき前記(D)水溶性高分子はポリビニルピロリドン」であるのに対し、甲1発明3ではそのような特定がない点 イ 相違点についての判断 相違点2−5〜2−7は、上記(2)アで示した相違点2−1〜2−3と同じであり、上記(2)イで示したのと同様の理由により、相違点2−7は実質的な相違点であり、また、甲1、甲2の記載に基づいて当業者が容易に想到することではない。 ウ 本件発明8についてのまとめ よって、本件発明8は、甲1に記載された発明であるとも、また甲1、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (5)本件発明9、10について 本件発明9、10は、いずれも本件発明8を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明8が甲1に記載された発明であるとも、また甲1、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件発明9は甲1に記載された発明であるとはいえないし、本件発明9、10は甲1、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (6)本件発明11について ア 本件発明11と甲1発明3との対比 甲1発明3の「被加工物上のレジスト膜上」は、上記(4)アで指摘した点も考慮すると、本件発明11の「化学増幅型レジスト膜を備える基板の該レジスト膜上」に相当する。 甲1発明3の「甲1発明1の電離放射線照射用組成物を塗布してコート膜を形成する」は、本件発明11の「高分子組成物を用いて」「膜を形成する」に相当する。 甲1発明3の「露光によりパターンを形成するために電子線などの電離放射線を用いて該被加工物を照射する工程」は、本件発明11の「電子線をパターン照射する工程」に相当する。 甲1発明3の「レジスト膜を現像してパターンを形成する工程、又は該コート膜の剥離とレジストの現像を同時に行なってパターンを形成する工程」は、甲1の実施例1においてアルカリ性現像液である「テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液」が用いられていることから、本件発明11の「H2O又はアルカリ性現像液を用いて現像してレジストパターンを得る工程」に相当する。 したがって、上記(2)アで検討した点も考慮すると、両者は 「化学増幅型レジスト膜を備える基板の該レジスト膜上に、高分子組成物を用いて膜を形成する工程、電子線をパターン照射する工程、及びH2O又はアルカリ性現像液を用いて現像してレジストパターンを得る工程を含むパターン形成方法であって、 前記高分子組成物を、(A)下記一般式(1)で表される繰り返し単位を少なくとも1種類以上有するポリアニリン系高分子を含むものである高分子組成物とすることを特徴とするパターン形成方法。」 である点において一致し、以下の点で相違する。 <相違点2−8> 「ポリアニリン系高分子」、「高分子組成物」、及び(高分子組成物によって形成される)「膜」が、本件発明11ではそれぞれ「ポリアニリン系導電性高分子」、「導電性高分子組成物」、「帯電防止膜」であるのに対し、甲1発明3では「導電性」又は「帯電防止」であるか否かが不明な点。 <相違点2−9> 「高分子組成物」が、本件発明11では「(B)下記一般式(2)で表されるカルボン酸塩 【化7】 (式中、X+はリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、又は下記一般式(3)で示される窒素化合物を示す。Lは単結合又はヘテロ原子が介在してもよい炭素数1〜8の直鎖状、分岐状、環状の飽和又は不飽和の炭化水素鎖を示し、Lが単結合の場合にはn=0であり、Lが単結合でない場合はn=1である。R5とR6はそれぞれ独立に水素原子、ヘテロ原子、−COO−X+基、ヒドロキシル基、ヘテロ原子が介在してもよい炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、又は環状の1価炭化水素基、又は末端に−COO−X+基をもつ炭素数1〜8の直鎖状、分岐状、又は環状の飽和又は不飽和炭化水素基を示す。R7は水素原子、ヒドロキシル基、又は−COO−X+基を示す。) 【化8】 (式中、R101、R102、R103、R104は、それぞれ水素原子、炭素数1〜12の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基、アルケニル基、オキソアルキル基、又はオキソアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基、又は炭素数7〜12のアラルキル基又はアリールオキソアルキル基を示し、これらの基の水素原子の一部又は全部がアルコキシ基によって置換されていてもよい。R101とR102、R101とR102とR104とは環を形成してもよく、環を形成する場合には、R101とR102及びR101とR102とR104は炭素数3〜10のアルキレン基、又は式中の窒素原子を環の中に有する複素芳香族環を示す。)」 を含むものであるのに対し、甲1発明3では 「(c)成分としてアンモニア、脂肪族アミン(炭素数1〜8)、芳香族アミン、複素環化合物又はこれらの四級塩を0.01〜15重量部含み、成分(d)として(A)カルボキシル基を含有する化合物を0.001〜30重量部」を含むものである点 <相違点2−10> 「高分子組成物」が、本件発明11では「(D)水溶性高分子」を含有するものであり、かつ、「下記一般式(2)中のX+を下記一般式(3)で表される窒素化合物とするとき前記(D)水溶性高分子をポリビニルピロリドン」とするのに対し、甲1発明3ではそのような特定がない点 イ 相違点についての判断 相違点2−10は、上記(2)アで示した相違点2−3と実質的に同じであるから、上記(2)イで示したのと同様の理由により、相違点2−8、2−9について検討するまでもなく、相違点2−10は実質的な相違点であり、また、甲1、甲2の記載に基づいて当業者が容易に想到することでもない。 ウ 本件発明11についてのまとめ よって、本件発明11は、甲1に記載された発明であるとも、また甲1、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 3 申立理由4(サポート要件違反)について (1)サポート要件の考え方 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁、平成17年(行ケ)10042号判決参照)。 (2)本件発明が解決しようとする課題 本件発明が解決しようとする課題は、本件明細書の【0017】の記載からみて、「濾過性ならびに電子線レジスト上への平坦膜の成膜性が良好で、低体積抵抗率(Ω・cm)の性質により電子線描画工程においても優良な帯電防止能を示し、かつ、当該膜より拡散する酸の影響を最小限としてリソグラフィーへの影響を低減し、さらに描画後のH2O又はアルカリ性現像液による剥離性にも優れた電子線レジスト描画用帯電防止膜に好適に用いることができる導電性高分子組成物を提供すること」であると認められる。 (3)サポート要件の判断 本件発明1では、「下記一般式(2)中のX+が下記一般式(3)で示される窒素化合物であるとき前記(D)水溶性高分子はポリビニルピロリドンであり」と規定されており、本件発明2〜11においても同様である。 すなわち、本件発明においては、「下記一般式(2)中のX+が下記一般式(3)で示される窒素化合物」でない場合には、(D)水溶性高分子はポリビニルピロリドンに限られるものではない。 そこで、このような本件発明が、上記(2)で示した本件発明の課題を解決できるといえるかどうか、検討する。 本件明細書には、次の記載がある。 「【0049】 本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、一般式(1)で表される繰り返し単位を含む(A)成分のポリアニリン系導電性高分子と、一般式(2)で表される(B)成分のカルボン酸塩を含む組成物を電子線レジストへの電子線照射時のレジスト上に塗布することにより、成膜性、膜質および膜平坦性が良好で、低い表面抵抗率(Ω/□)即ち高導電率を示し、H2O又はアルカリ性水溶液による剥離性が良好で、かつ(A)成分から発生する酸のレジストへの拡散が制御された膜帯電防止膜を形成することを見出した。 【0050】 また、上記導電性高分子分散液に(C)ノニオン系界面活性剤および(D)水溶性高分子あるいはいずれか一方を添加することで、一般式(1)で表される繰り返し単位を含む(A)成分のポリアニリン系導電性高分子と、一般式(2)で表される(B)成分のカルボン酸塩を含む組成物の被加工体表面への濡れ性がさらに良好となって成膜性が向上し、膜均質性も向上することを見出した。」 上記記載からみて、(A)成分のポリアニリン系導電性高分子と、(B)成分のカルボン酸塩を含むことで、本件発明の課題である「成膜性が良好」、「低体積抵抗率(Ω・cm)の性質により電子線描画工程においても優良な帯電防止能を示し」、「膜より拡散する酸の影響を最小限としてリソグラフィーへの影響を低減し」、「描画後のH2O又はアルカリ性現像液による剥離性にも優れた」電子線レジスト描画用帯電防止膜となり、さらに(D)成分の水溶性高分子を含むことで、組成物の被加工体表面への濡れ性がさらに良好になり、より成膜性や膜均質性が向上することが理解できる。 そして、本件明細書の実施例及び比較例の結果、特に【表2】〜【表11】の結果からも、上記の事項を具体的に理解することができる。 これらの結果から、(A)成分と(B)成分を含んでいれば、本件発明の課題を解決できることを当業者は認識することができるといえる。 そうすると、(A)成分と(B)成分を含んでいれば、本件発明の課題を解決することができるのであるから、本件発明において、(D)成分が必ずしもポリビニルピロリドンに限られないとしても、当業者は本件発明の課題を解決できると認識できるといえる。 なお、仮に、(D)水溶性高分子化合物が必須とされた本件発明においては、本件発明の課題である「描画後のH2O又はアルカリ性現像液による剥離性にも優れた」の「剥離性」が、【表2】の実施例27〜38に示されるような高い水洗剥離性(評価が「◎」)を意味するものであるとしても、水溶性高分子化合物は水に溶解するものであるから、そのようなものが含まれていれば、「ポリビニルピロリドン」でなくても高い水洗剥離性が得られることは当業者が予測できることであり、当業者は本件発明の要件を満たすものが本件発明の課題を解決できると認識するといえる。 よって、本件発明1〜11は、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、発明の詳細な説明に記載したものであり、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定される要件を満たすものである。 (4)申立人の主張について 申立人は、本件明細書の【0067】に以下のとおり記載され、かつ、実施例27〜39において(D)成分としてポリビニルピロリドンを含むものが、それを含まないものに比して、水洗剥離性、膜減り変化率に優れることが看取できるから、(D)成分として、本件発明の課題を解決していると理解し得るのは、【0067】において望ましいとされている、複素環を構成する窒素原子がビニル基に結合している化合物であるポリビニルピロリドンのみであり、他の官能基を有する水溶性高分子を含む場合であっても同様に課題を解決し得るものと認識することはできないことを主張する。 「【0067】 (水溶性高分子) また、本発明では、基板等の被加工体へ成膜した際の膜の均質性を向上するために、更に(D)水溶性高分子を添加してもよい。このような水溶性高分子としては、親水性繰り返し単位のホモポリマーまたはコポリマーが望ましい。また、このような親水性繰り返し単位は重合性官能基にビニル基をもったものが好ましく、さらには(A)の成分から発生する酸の拡散を制御する意味でも分子内に窒素原子を含む化合物であることが好ましい。このとき、分子内窒素原子が求核性を持たなければ、前述の様にレジスト組成物中のレジストポリマーや酸発生剤に含まれるエステル基などの被求核攻撃官能基への副反応が生じるおそれがないのでより好ましい。そのため、上記繰り返し単位としては、アクリルアミド類などの様に末端に窒素原子をもつものよりも含窒素複素環状化合物が望ましい。また、その時、窒素原子は環状構造の主鎖を形成するビニル基に結合しているものがより好ましい。このような繰り返し単位としては、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニルカプロラクタム等が挙げられる。」 しかし、【0067】の記載は、「基板等の被加工体へ成膜した際の膜の均質性を向上するため」に水溶性高分子が添加されるが、その中でも、「(A)の成分から発生する酸の拡散を制御する」ことや、「レジスト組成物中のレジストポリマーや酸発生剤に含まれるエステル基などの被求核攻撃官能基への副反応が生じるおそれがない」ことから、N−ビニル−2−ピロリドン等の、環状構造の主鎖を形成するビニル基に窒素原子が結合した含窒素環状化合物がより好ましいことをいうものにすぎず、水溶性高分子であれば少なくとも「基板等の被加工体へ成膜した際の膜の均質性を向上する」ことはできると認められるから、【0067】の記載により、本件発明が上記課題を解決できないとはいえない。 また、本件明細書の【表3】では「膜減り変化率」が測定され、それは「導電性高分子膜からレジスト膜への酸の拡散」や「添加剤のレジスト膜への拡散」の影響に関するものであるところ(【0167】)、その結果によれば、水溶性高分子としてポリビニルピロリドンを配合した実施例27〜39において膜減り変化率がより小さくなっており良好な結果が示されているものの、ポリビニルピロリドンを配合していない実施例1〜13においても、比較例1〜9よりは膜減り変化率が少なくなっており、本件発明の課題を解決できることが示されているから、特に(D)水溶性高分子としてポリビニルピロリドンを用いることが本件発明の課題の解決に必須であるとまではいえない。 よって、申立人の主張は採用することができない。 (5)申立理由4についてのまとめ 以上のとおりであるから、申立理由4によっては本件発明1〜11についての特許を取り消すことはできない。 第6 むすび 上記第5のとおり、本件特許の請求項1〜11に係る特許は、当審が取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由及び申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1〜11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 (A)下記一般式(1)で表される繰り返し単位を少なくとも1種類以上有するポリアニリン系導電性高分子、及び(B)下記一般式(2)で表されるカルボン酸塩、を含むものである導電性高分子組成物であって、 前記導電性高分子組成物が、更に(D)水溶性高分子を含有するものであり、かつ、 下記一般式(2)中のX+が下記一般式(3)で示される窒素化合物であるとき前記(D)水溶性高分子はポリビニルピロリドンであり、 前記導電性高分子組成物は、電子線レジスト描画用帯電防止膜に用いられるものであることを特徴とする導電性高分子組成物。 【化1】 (式中、R1〜R4は、各々独立に、水素原子、酸性基、ヒドロキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子、炭素数1〜24の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、ヘテロ原子を含む炭素数1〜24の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基、又はハロゲン原子で部分置換された炭素数1〜24の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基を示す。) 【化2】 (式中、X+はリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、又は下記一般式(3)で示される窒素化合物を示す。Lは単結合又はヘテロ原子が介在してもよい炭素数1〜8の直鎖状、分岐状、環状の飽和又は不飽和の炭化水素鎖を示し、Lが単結合の場合にはn=0であり、Lが単結合でない場合はn=1である。R5とR6はそれぞれ独立に水素原子、ヘテロ原子、−COO−X+基、ヒドロキシル基、ヘテロ原子が介在してもよい炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、又は環状の1価炭化水素基、又は末端に−COO−X+基をもつ炭素数1〜8の直鎖状、分岐状、又は環状の飽和又は不飽和炭化水素基を示す。R7は水素原子、ヒドロキシル基、又は−COO−X+基を示す。) 【化3】 (式中、R101、R102、R103、R104は、それぞれ水素原子、炭素数1〜12の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基、アルケニル基、オキソアルキル基、又はオキソアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基、又は炭素数7〜12のアラルキル基又はアリールオキソアルキル基を示し、これらの基の水素原子の一部又は全部がアルコキシ基によって置換されていてもよい。R101とR102、R101とR102とR104とは環を形成してもよく、環を形成する場合には、R101とR102及びR101とR102とR104は炭素数3〜10のアルキレン基、又は式中の窒素原子を環の中に有する複素芳香族環を示す。) 【請求項2】 前記酸性基がスルホ基であることを特徴とする請求項1に記載の導電性高分子組成物。 【請求項3】 前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、1質量部から70質量部であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の導電性高分子組成物。 【請求項4】 前記導電性高分子組成物が、更に(C)ノニオン系界面活性剤を含有するものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の導電性高分子組成物。 【請求項5】 前記(C)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、0.1質量部から10質量部であることを特徴とする請求項4に記載の導電性高分子組成物。 【請求項6】 前記(D)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、30質量部から150質量部であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の導電性高分子組成物。 【請求項7】 被加工体上に請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の導電性高分子組成物が成膜されたものであることを特徴とする被覆品。 【請求項8】 被加工体上に導電性高分子組成物が成膜されたものである被覆品であって、 前記被加工体は、化学増幅型レジスト膜を備える基板であり、かつ、 前記導電性高分子組成物が、(A)下記一般式(1)で表される繰り返し単位を少なくとも1種類以上有するポリアニリン系導電性高分子、及び(B)下記一般式(2)で表されるカルボン酸塩、を含むものである導電性高分子組成物であって、 前記導電性高分子組成物が、更に(D)水溶性高分子を含有するものであり、かつ、 下記一般式(2)中のX+が下記一般式(3)で示される窒素化合物であるとき前記(D)水溶性高分子はポリビニルピロリドンであることを特徴とする被覆品。 【化4】 (式中、R1〜R4は、各々独立に、水素原子、酸性基、ヒドロキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子、炭素数1〜24の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、ヘテロ原子を含む炭素数1〜24の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基、又はハロゲン原子で部分置換された炭素数1〜24の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基を示す。) 【化5】 (式中、X+はリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、又は下記一般式(3)で示される窒素化合物を示す。Lは単結合又はヘテロ原子が介在してもよい炭素数1〜8の直鎖状、分岐状、環状の飽和又は不飽和の炭化水素鎖を示し、Lが単結合の場合にはn=0であり、Lが単結合でない場合はn=1である。R5とR6はそれぞれ独立に水素原子、ヘテロ原子、−COO−X+基、ヒドロキシル基、ヘテロ原子が介在してもよい炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、又は環状の1価炭化水素基、又は末端に−COO−X+基をもつ炭素数1〜8の直鎖状、分岐状、又は環状の飽和又は不飽和炭化水素基を示す。R7は水素原子、ヒドロキシル基、又は−COO−X+基を示す。) 【化6】 (式中、R101、R102、R103、R104は、それぞれ水素原子、炭素数1〜12の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基、アルケニル基、オキソアルキル基、又はオキソアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基、又は炭素数7〜12のアラルキル基又はアリールオキソアルキル基を示し、これらの基の水素原子の一部又は全部がアルコキシ基によって置換されていてもよい。R101とR102、R101とR102とR104とは環を形成してもよく、環を形成する場合には、R101とR102及びR101とR102とR104は炭素数3〜10のアルキレン基、又は式中の窒素原子を環の中に有する複素芳香族環を示す。) 【請求項9】 前記被加工体は、電子線をパターン照射してレジストパターンを得るための基板であることを特徴とする請求項8に記載の被覆品。 【請求項10】 前記被加工体は、20μC/cm2以上の感度をもつ化学増幅型電子線レジスト膜を備える基板であることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の被覆品。 【請求項11】 化学増幅型レジスト膜を備える基板の該レジスト膜上に、導電性高分子組成物を用いて帯電防止膜を形成する工程、電子線をパターン照射する工程、及びH2O又はアルカリ性現像液を用いて現像してレジストパターンを得る工程を含むパターン形成方法であって、 前記導電性高分子組成物を、(A)下記一般式(1)で表される繰り返し単位を少なくとも1種類以上有するポリアニリン系導電性高分子、及び(B)下記一般式(2)で表されるカルボン酸塩、を含むものである導電性高分子組成物とし、 前記導電性高分子組成物を、更に(D)水溶性高分子を含有するものとし、かつ、 下記一般式(2)中のX+を下記一般式(3)で示される窒素化合物とするとき前記(D)水溶性高分子をポリビニルピロリドンとすることを特徴とするパターン形成方法。 【化7】 (式中、R1〜R4は、各々独立に、水素原子、酸性基、ヒドロキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子、炭素数1〜24の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、ヘテロ原子を含む炭素数1〜24の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基、又はハロゲン原子で部分置換された炭素数1〜24の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基を示す。) 【化8】 (式中、X+はリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、又は下記一般式(3)で示される窒素化合物を示す。Lは単結合又はヘテロ原子が介在してもよい炭素数1〜8の直鎖状、分岐状、環状の飽和又は不飽和の炭化水素鎖を示し、Lが単結合の場合にはn=0であり、Lが単結合でない場合はn=1である。R5とR6はそれぞれ独立に水素原子、ヘテロ原子、−COO−X+基、ヒドロキシル基、ヘテロ原子が介在してもよい炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、又は環状の1価炭化水素基、又は末端に−COO−X+基をもつ炭素数1〜8の直鎖状、分岐状、又は環状の飽和又は不飽和炭化水素基を示す。R7は水素原子、ヒドロキシル基、又は−COO−X+基を示す。) 【化9】 (式中、R101、R102、R103、R104は、それぞれ水素原子、炭素数1〜12の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基、アルケニル基、オキソアルキル基、又はオキソアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基、又は炭素数7〜12のアラルキル基又はアリールオキソアルキル基を示し、これらの基の水素原子の一部又は全部がアルコキシ基によって置換されていてもよい。R101とR102、R101とR102とR104とは環を形成してもよく、環を形成する場合には、R101とR102及びR101とR102とR104は炭素数3〜10のアルキレン基、又は式中の窒素原子を環の中に有する複素芳香族環を示す。) |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2024-05-20 |
出願番号 | P2019-043968 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(C08L)
P 1 651・ 121- YAA (C08L) P 1 651・ 537- YAA (C08L) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
細井 龍史 |
特許庁審判官 |
松本 直子 小出 直也 |
登録日 | 2022-07-20 |
登録番号 | 7108565 |
権利者 | 信越化学工業株式会社 |
発明の名称 | 導電性高分子組成物、被覆品、及びパターン形成方法 |
代理人 | 好宮 幹夫 |
代理人 | 小林 俊弘 |
代理人 | 好宮 幹夫 |
代理人 | 小林 俊弘 |