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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08J 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C08J 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08J 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08J |
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管理番号 | 1413314 |
総通号数 | 32 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2024-08-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2023-07-20 |
確定日 | 2024-06-04 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第7210401号発明「フィルム及び積層体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7210401号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−6〕について訂正することを認める。 特許第7210401号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第7210401号(以下、この通知において「本件特許」という。)の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、令和1年7月31日(優先権主張 平成31年2月15日)の出願であって、令和5年1月13日にその特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、同年同月23日に特許掲載公報が発行されたものである。 その後、その特許に対して、令和5年7月20日に特許異議申立人 櫛田 和代(以下、「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、同年11月2日付けで取消理由が通知され、同年12月26日に特許権者 住友化学株式会社(以下、「特許権者」という。)より訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされるとともに意見書の提出がされ、令和6年2月2日付けで特許法第120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知を行ったところ、同年3月8日に特許異議申立人より意見書の提出があったものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 本件訂正請求の趣旨 本件訂正請求における請求の趣旨は、「特許第7210401号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜6について訂正することを求める。」というものである。 2 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。) (1) 訂正事項 特許請求の範囲の請求項1に、 「熱可塑性樹脂を含み、 周波数1GHzにおける比誘電率が2.9以下であり、 周波数1GHzにおける誘電正接が0.005以下であり、 マイクロ波配向計で測定した分子配向度(MOR)の値が1〜1.1の範囲であり、 前記熱可塑性樹脂が液晶ポリエステルであり、前記液晶ポリエステルが、ナフタレン構造を含む構造単位を有し、前記ナフタレン構造を含む構造単位の含有量が、前記液晶ポリエステル中の構造単位の合計量100モル%に対して60モル%以上である、フィルム。」 とあるのを、 「熱可塑性樹脂を含み、 周波数1GHzにおける比誘電率が2.9以下であり、 周波数1GHzにおける誘電正接が0.002以下であり、 マイクロ波配向計で測定した分子配向度(MOR)の値が1〜1.1の範囲であり、 前記熱可塑性樹脂が液晶ポリエステルであり、前記液晶ポリエステルが、ナフタレン構造を含む構造単位を有し、前記ナフタレン構造を含む構造単位の含有量が、前記液晶ポリエステル中の構造単位の合計量100モル%に対して60モル%以上である、フィルム。」 に訂正する。 請求項1の記載を直接または間接的に引用して特定する請求項2ないし6についても同様に訂正する。 (2) 一群の請求項について 訂正前の請求項1ないし6について、請求項2ないし6は請求項1の記載を直接または間接的に引用して特定するものであるから、訂正前の請求項1ないし6に対応する訂正後の請求項1ないし6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項に係る請求項1の訂正は、フィルムの周波数1GHzにおける誘電正接の上限を下げるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項に係る請求項1の訂正は、本件特許の明細書の【0013】の記載から見て、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。 請求項1の記載を直接または間接的に引用して特定する請求項2ないし6も同様である。 4 訂正についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし6〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記第2のとおり、訂正後の請求項〔1ないし6〕について訂正を認めるので、本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明6」という。また、総称して「本件特許発明」という。)は、令和5年12月26日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 熱可塑性樹脂を含み、 周波数1GHzにおける比誘電率が2.9以下であり、 周波数1GHzにおける誘電正接が0.002以下であり、 マイクロ波配向計で測定した分子配向度(MOR)の値が1〜1.1の範囲であり、 前記熱可塑性樹脂が液晶ポリエステルであり、前記液晶ポリエステルが、ナフタレン構造を含む構造単位を有し、前記ナフタレン構造を含む構造単位の含有量が、前記液晶ポリエステル中の構造単位の合計量100モル%に対して60モル%以上である、フィルム。 【請求項2】 前記液晶ポリエステルが、下記式(1)で表される構造単位、下記式(2)で表される構造単位、及び下記式(3)で表される構造単位を有する、請求項1に記載のフィルム。 (1)−O−Ar1−CO− (2)−CO−Ar2−CO− (3)−O−Ar3−O− (Ar1は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。 Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、2,6−ナフタレンジイル基、2,7−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基、又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。 Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数6〜20のアリール基で置換されていてもよい。) 【請求項3】 昇温速度5℃/分の条件で50〜100℃の温度範囲において求められた線膨張係数が85ppm/℃以下である、請求項1又は2に記載のフィルム。 【請求項4】 厚さが5〜50μmである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のフィルム。 【請求項5】 金属層と、前記金属層上に積層された請求項1〜4のいずれか一項に記載のフィルムと、を備える積層体。 【請求項6】 前記金属層を構成する金属が銅である、請求項5に記載の積層体。」 第4 特許異議申立人が主張する特許異議申立理由について 特許異議申立人が特許異議申立書において、請求項1ないし6に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の要旨(下記1ないし18)は、次のとおりである。なお、主たる証拠が同じ理由はまとめて整理の上、記載した。 1 申立理由1−1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性) 本件特許の請求項1、2及び4ないし6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 2 申立理由1−2(甲第2号証を主たる証拠とする新規性) 本件特許の請求項1及び4ないし6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 3 申立理由1−3(甲第3号証を主たる証拠とする新規性) 本件特許の請求項1ないし3、5及び6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 4 申立理由1−4(甲第34号証を主たる証拠とする新規性) 本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第34号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 5 申立理由1−5(甲第36号証を主たる証拠とする新規性) 本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第36号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 6 申立理由2−1(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性) 本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 7 申立理由2−2(甲第2号証を主たる証拠とする進歩性) 本件特許の請求項1及び3ないし6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 8 申立理由2−3(甲第3号証を主たる証拠とする進歩性) 本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 9 申立理由2−4(甲第4号証を主たる証拠とする進歩性) 本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 10 申立理由2−5(甲第5号証を主たる証拠とする進歩性) 本件特許の請求項1及び3ないし6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第5号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 11 申立理由2−6(甲第6号証を主たる証拠とする進歩性) 本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第6号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 12 申立理由2−7(甲第7号証を主たる証拠とする進歩性) 本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第7号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 13 申立理由2−8(甲第34号証を主たる証拠とする進歩性) 本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第34号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 14 申立理由2−9(甲第36号証を主たる証拠とする進歩性) 本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第36号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 15 申立理由2−10(周知技術を主たる証拠とする進歩性) 本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3、4、6ないし9、11、17ないし20、24及び33号証に記載された事項により示される周知技術の発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 16 申立理由3(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 なお、申立理由3の具体的理由は、おおむね次のとおりである。 (1) 申立理由3−1 本件特許発明1では、液晶ポリエステルについて、「ナフタレン構造を含む構造単位を有し、前記ナフタレン構造を含む構造単位の含有量が、前記液晶ポリエステル中の構造単位の合計量100モル%に対して60モル%以上である」とのみ記載している。また、本件特許発明2でも、液晶ポリエステルを構成する構造単位について、複数の選択肢から選択される構造単位を複数組み合わせたものを記載している。 しかし、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の実施例では、ナフタレン構造を含む構造単位の含有量が、液晶ポリエステル中の構造単位の合計量100モル%に対して72.5モル%となる、特定の成分を有する液晶ポリエステルしか例示されていない。 本件特許の明細書の発明の詳細な説明でも「また、誘電特性の優れた液晶ポリエステルを原料に用いることができるため、誘電特性及び等方性に優れた液晶ポリエステルフィルムを容易に製造可能である。」([0156])、「熱可塑性樹脂は、任意の熱可塑性樹脂のなかから、誘電特性に優れた原料樹脂を選択することで、誘電特性に優れたフィルムが得られる。」([0020])と記載するように、原料樹脂の成分は、液晶ポリエステルフィルムの誘電特性を規定する上で重要であるが、ナフタレン構造を含む構造単位の含有量が、液晶ポリエステル中の構造単位の合計量100モル%に対して60モル%以上であれば、必ずフィルムの比誘電率が2.9以下となることは、当業者の常識ではないので、本件特許発明1ないし6は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。 (2) 申立理由3−2 字義通りに解釈すれば、本件特許発明1は、「周波数1GHzにおける比誘電率が2.9以下」との特徴を有する「フィルム」に関する発明である。ところが、上述のように、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の実施例では、フィルムを溶融・固化した「錠剤」を用いて測定した値を、フィルムの誘電特性としている。 しかし、比誘電率は、分子の配向性に依存するものであるから、液晶ポリエステルの成分だけではなく、例えば、分散液キャスト法とインフレーション製膜法など、製法の違いに起因して配向性が異なれば、計測される比誘電率も異なるはずである。したがって、本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載された誘電特性の特定法は、「フィルム」の状態における、比誘電率を特定し得るものではなく、本件特許発明1ないし6は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。 17 申立理由4(明確性要件) 本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 なお、申立理由4の具体的理由は、おおむね次のとおりである。 (1) 申立理由4−1(比誘電率について) 本件特許発明1は、「フィルム」の特徴として、「周波数1GHzにおける比誘電率が2.9以下であり、」と記載している。しかし、上述のように、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の実施例では、フィルムを溶融・固化した「錠剤」を用いて測定した値を、フィルムの誘電特性としている。 ここで、甲第20号証に示されているように、液晶ポリエステルフィルムにおいて、分子配向が卓越したXY方向(面内方向)では、比誘電率が高く、これに直交するZ方向では、比較的低い比誘電率が測定される。 そうすると、フィルムの状態でXY方向の比誘電率を測定した場合には比誘電率が3以上となるが、本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載の方法に従って錠剤を作製して測定した場合には、比誘電率が2.9以下となる場合も考えられる。しかし、本件特許発明1の記載では、比誘電率の測定方向も、測定方法も特定されていないので、当業者は、上記の場合のフィルムが、本件の特許権の範囲に含まれるのか否かを判断することができない。 また仮に、比誘電率を上記の本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載の方法で測定されたものと解釈しても、当業者が自己の液晶ポリエステルフィルムと、本件特許発明1のフィルムの対比を行うことは困難である。 本件特許ではインピーダンスアナライザーを使用し、容量法で測定を行っているので、錠剤の両面に電極を設置または蒸着してコンデンサを形成し、錠剤の厚み方向で比誘電率の測定を行ったものと想定される(甲第28号証参照)。その場合、錠剤の作製時に負荷した圧力が不明であれば、同様の条件で対比を行うことはできない。たとえば、甲第1号証の場合、誘電特性を測定する試験片作製時に100kgfの荷重をかけたことが記載されている(甲1[0057])。 ここで錠剤の作製に用いたフローテスターとは、甲第27号証に示すように、定試験力押出式の装置であり、試験圧力は、CFT−500EXを例にとると、0.4903〜49.03MPaの広い範囲で選択可能である。その場合、負荷される圧力に応じ、錠剤の厚み方向に対する分子の配向性も変化するはずであるが、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、錠剤作製時に使用した圧力が記載されていないので、当業者は、本件特許と同じ条件で比誘電率の対比を行うことができない。 したがって、「周波数1GHzにおける比誘電率が2.9以下であり、」との限定を含む本件特許発明1ないし6は、特許発明を明確に定義したものとはいえない。 (2) 申立理由4−2(分子配向度(MOR)について) 甲第13号証に記載するように、分子の配向性が同じフィルムであっても、厚みが異なれば配向パターンが異なることは技術常識である。そのため、通常、分子配向度の対比は、厚み補正を行ったパラメータMOR・cを用いて行われており、甲第25号証でも、下記のように、基準とする厚みを50μmとしてMOR_Cの計算を行っている。 「【0078】 MOR_C=[(Tc/T)×(MOR−1)]+1 [式中、Tは試料の厚さ(μm)を示し、Tcは基準厚さ(μm)を示し、本試験の場合、50μmである。]」 一方、本件特許の明細書の発明の詳細な説明では、「試料を回転させながら、一定の周波数(12GHzが用いられる)を有するマイクロ波を照射し、分子の配向によって変化する透過マイクロ波の強度を測定し、その最大値/最小値の比をMORとする。」([0015])とのみ記載しており、厚み補正は行われていない。その場合、例えば、厚み5μmのフィルムがMOR値で1.1の分子配向度を示す場合、同じ配向性を有する厚み50μmのフィルムのMOR値は、(上記の式を用いて計算すると)2.0となる。本件特許発明1では、フィルムの厚みが一義的に特定されていないので、MORは、所定の分子配向性を定義する適切なパラメータであるとはいえない。 したがって、「マイクロ波配向計で測定した分子配向度(MOR)の値が1〜1.1の範囲であり、」との限定を含む本件特許発明1ないし6は、特許発明を明確に定義したものとはいえない。 18 申立理由5(実施可能要件) 本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 なお、申立理由5の具体的理由は、おおむね次のとおりである。 特許庁の特許・実用新案審査便覧の第II部第1章第1節は実施可能要件を扱っており、「3.実施可能要件の具体的な判断」の「3.1.1「物の発明」についての発明の実施の形態」には、「(2)「その物を作れる」ように記載されていること」として、「機能、特性等によって物を特定しようとする記載を含む請求項において、その機能、特性等が標準的なものでなく、しかも当業者に慣用されているものでもない場合は、当該請求項に係る発明について実施可能に発明の詳細な説明を記載するためには、その機能、特性等の定義又はその機能、特性等を定量的に決定するための試験方法又は測定方法を示す必要がある。」と記載されている。 本件特許発明について見ると、フィルムの状態のまま、所定の測定方向における比誘電率を測定することは、当業者にとって常用の手段であるが、「錠剤」の比誘電率をもって、フィルムの誘電特性を表すのは、当業者に慣用されている方法ではない。 明確性要件について上で述べたように、錠剤を作製する際に負荷される圧力によって測定方向に対する分子の配向性は異なり、結果として測定される比誘電率も異なると考えられるが、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、錠剤を作製する際に負荷される圧力が記載されていないので、当業者は、本件特許発明と同じ条件で比誘電率を測定することができない。 したがって、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1ないし6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえない。 19 証拠方法 ・甲第1号証:特開2004−196930号公報 ・甲第2号証:特開2006−225641号公報 ・甲第3号証:特開2011−213802号公報 ・甲第4号証:特開2013−194225号公報 ・甲第5号証:特開2004−250620号公報 ・甲第6号証:特開2011−96471号公報 ・甲第7号証:特開2005−272810号公報 ・甲第8号証:特開2007−154169号公報 ・甲第9号証:特開2014−46509号公報 ・甲第10号証:岡本敏 ほか、「LCPキャストフィルムの開発」、住友化学、住友化学株式会社、2005−I、p.4−13、2005年5月31日 ・甲第11号証:特開2002−326312号公報 ・甲第12号証:特開2004−277731号公報 ・甲第13号証:永田紳一、小山清人、「マイクロ波法による導電性ゴムの配向測定」、成形加工、一般社団法人プラスチック成形加工学会、11巻、2号、p.142−150、1999年2月20日 ・甲第14号証:特開平11−147963号公報 ・甲第15号証:国際公開第2013/146174号 ・甲第16号証:特開平8−90570号公報 ・甲第17号証:小出直之監修、液晶ポリマーの開発技術 高性能・高機能化、株式会社シーエムシー出版、p.51−55、123−129、137−139、144−146、2009年12月22日 普及版第1刷 ・甲第18号証:柿本雅明、高橋昭雄監修、エレクトロニクス実装用基板材料の開発、株式会社シーエムシー出版、p.154、157−161、163−164、171、2010年6月18日 普及版第1刷 ・甲第19号証:特開2000−269616号公報 ・甲第20号証:砂本辰也、小野寺稔、「複素誘電率の異方性を改善した液晶ポリマーフィルムの特性と応用」、エレクトロニクス実装学会誌、一般社団法人エレクトロニクス実装学会、Vol.18、No.5、p.316−318、2015年11月1日 ・甲第21号証:「ナフタレン」、理化学辞典第5版、株式会社岩波書店、p.985、2004年12月20日 第5版第8刷 ・甲第22号証:J−GLOBAL 科学技術総合リンクセンター 化学物質情報、「6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸」、国立研究開発法人科学技術振興機構、印刷日2023年6月9日、URL:https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=20090789428157681 ・甲第23号証:試薬データ、「2,6−ナフタレンジカルボン酸」、富士フイルム和光純薬株式会社、印刷日2023年6月26日、URL:https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/product/detail/W01TRCN356020.html ・甲第24号証:「銅」、理化学辞典第5版、株式会社岩波書店、p.944、2004年12月20日 第5版第8刷 ・甲第25号証:特開2017−101200号公報 ・甲第26号証:特開平10−338755号公報 ・甲第27号証:島津製作所HP所載 定試験力押出形細管式レオメータフローテスタ製品情報、株式会社島津製作所、印刷日2023年6月14日、URL:https://www.an.shimadzu.co.jp/products/materials-testing/viscosity-and-flow-testing/cft-ex-series/index.html(概要)、https://www.an.shimadzu.co.jp/products/materials-testing/viscosity-and-flow-testing/cft-ex-series/features.html(特長)、https://www.an.shimadzu.co.jp/products/materials-testing/viscosity-and-flow-testing/cft-ex-series/spec.html(仕様) ・甲第28号証:東陽テクニカHP所載、誘電率測定 概説、株式会社東陽テクニカ、印刷日2023年6月17日、URL:https://www,toyo.co.jp/material/casestudy/detail/ele22.html ・甲第29号証:特開平10−34742号公報 ・甲第30号証:特開平9−131789号公報 ・甲第31号証:国際公開第2018/163999号 ・甲第32号証:特開平11−221893号公報 ・甲第33号証:福武素直ほか、「高耐熱・高寸法安定LCPフィルムの開発」、第12回回路実装学術講演大会講演論文集、回路実装学会、p.51−52、1998年3月9日 ・甲第34号証:特開2018−109090号公報 ・甲第35号証:米国特許出願公開第2002/0104982号明細書 ・甲第36号証:特開2004−189867号公報 なお、証拠の表記については、おおむね、特許異議申立書における記載にしたがった。 第5 令和5年11月2日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由の要旨 請求項1ないし6に係る特許に対して、当審が令和5年11月2日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。なお、取消理由には、申立理由1−5及び申立理由2−9が包含される。 1 取消理由1(甲第36号証を主たる証拠とする新規性) 本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第36号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 2 取消理由2(甲第36号証を主たる証拠とする進歩性) 本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第36号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 第6 当審の判断 1 令和5年11月2日付取消理由通知で通知した取消理由についての判断 ●取消理由1及び2(甲第36号証を主たる証拠とする新規性・進歩性)について (1) 甲第36号証の記載事項等 ア 甲第36号証の記載事項 甲第36号証には、「芳香族液晶ポリエステル溶液組成物」に関し、次の記載がある。 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、芳香族液晶ポリエステル溶液組成物に関する。」 「【0004】 【発明が解決しようとする課題】 本発明の目的は、軽量化、低誘電率化されたフィルム又はシートを製造し得る芳香族液晶ポリエステル溶液組成物を提供することにある。」 「【0005】 【課題を解決するための手段】 本発明者らは、上記したような問題を解決し得る芳香族液晶ポリエステル溶液組成物を見出すべく、鋭意検討を重ねた結果、芳香族液晶ポリエステル、中空率60〜80%の中空球体、および溶剤を含有してなる芳香族液晶ポリエステル溶液組成物が、軽量化、低誘電率化されたフィルム又はシートを製造し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。」 「【0036】 本発明の芳香族液晶ポリエステル溶液組成物は、芳香族液晶ポリエステルを溶剤に溶解して得た芳香族液晶ポリエステル溶液に中空率60〜80%の中空球体を混合することによって得ることができる。 該芳香族液晶ポリエステル溶液組成物は、テフロン(R)、金属、ガラスなどからなる表面平坦かつ均一な支持体上に流延し、その後、溶剤を除去した後、支持基板から剥離することによって、芳香族液晶ポリエステルフィルムとすることができる。 溶剤除去の方法は、特に限定されないが、溶剤を蒸発させることにより行うことが好ましい。溶媒を蒸発させる方法としては、加熱、減圧、通風などの方法が挙げられる。中でも生産効率、取り扱い性の点から加熱により溶剤をして蒸発させることが好ましく、通風しながら加熱して蒸発せしめることがより好ましい。 【0037】 上記のようにして得られる芳香族液晶ポリエステルフィルムは、軽量化、低誘電率化されているため、プリント配線板用絶縁材料などに好適に使用することができる。」 「【0038】 【実施例】 以下、本発明を実施例により説明するが、本発明が実施例により限定されるものでないことは言うまでもない。 【0039】 製造例1 攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸191.8g(1.02モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル 63.3g(0.34モル)、イソフタル酸 56.5g(0.34モル)及び無水酢酸 191g(1.87モル)、を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して3時間還流させた。 その後、留出する副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら170分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。得られた固形分は室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下250℃で10時間保持し、固層で重合反応を進めた。得られた芳香族液晶ポリエステルをp−クロロフェノールに溶解し、60℃において極限粘度を測定した結果、2.1であった。 【0040】 実施例1 製造例1により得られた芳香族液晶ポリエステル粉末1gをp−クロロフェノール9gに加え、120℃に加熱した結果、完全に溶解し透明な溶液が得られることを確認した。この溶液に、中空状のガラスバルーン(住友スリーエム製Scotchlite S60 HS)を0.67g加え、得られた組成物溶液を脱泡攪拌した後、ガラス基板上に流延して100℃で1時間乾燥後、250℃で1時間熱処理を行った、得られたフィルムについてヒューレトパッカード社製マテリアルインピーダンスナライザーにて誘電率を測定した結果および比重の測定結果を表1に示す。 【0041】 比較例1 製造例1により得られた芳香族液晶ポリエステル粉末1gをp−クロロフェノール9gに加え、120℃に加熱した結果、完全に溶解し透明な溶液が得られることを確認した。得られた溶液を脱泡攪拌した後、ガラス基板上に流延して100℃で1時間乾燥後、250℃で1時間熱処理を行った、得られたフィルムについてヒューレトパッカード社製マテリアルインピーダンスナライザーにて測定した結果および比重の測定結果を表1に示す。 【0042】 【表1】 」 イ 甲第36号証に記載された発明 上記アの記載、特に実施例1の記載を中心に整理すると、甲第36号証には次の発明が記載されているものと認める。 「攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸191.8g(1.02モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル 63.3g(0.34モル)、イソフタル酸 56.5g(0.34モル)及び無水酢酸 191g(1.87モル)、を仕込み、反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して3時間還流させ、その後、留出する副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら170分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出し、得られた固形分は室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下250℃で10時間保持し、固層で重合反応を進め、得られた芳香族液晶ポリエステル粉末1gをp−クロロフェノール9gに加え、120℃に加熱した結果、完全に溶解し透明な溶液を得、この溶液に、中空状のガラスバルーン(住友スリーエム製Scotchlite S60 HS)を0.67g加え、得られた組成物溶液を脱泡攪拌した後、ガラス基板上に流延して100℃で1時間乾燥後、250℃で1時間熱処理を行い、得られた、誘電率(1GHz)が2.4のフィルム。」(以下、「甲36発明」という。) (2) 対比・判断 ア 本件特許発明1について 本件特許発明1と甲36発明とを対比する。 甲36発明の「2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸」、「4,4’−ジヒドロキシビフェニル」、「イソフタル酸」を原料として重合される「芳香族液晶ポリエステル」は、本件特許発明1の「熱可塑性樹脂」を含む「液晶ポリエステル」に相当する。 また、甲36発明の「芳香族液晶ポリエステル」は、「2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸191.8g(1.02モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル 63.3g(0.34モル)、イソフタル酸 56.5g(0.34モル)」を原料として重合されるものであることから、芳香族液晶ポリエステルに含まれる「ナフタレン構造を含む構造単位」は、1.02モル/(1.02モル+0.34モル+0.34モル)=1.02モル/1.70モル=60モル%と算出される。 すると、甲36発明の「芳香族液晶ポリエステル」は、本件特許発明1の「前記熱可塑性樹脂が液晶ポリエステルであり、前記液晶ポリエステルが、ナフタレン構造を含む構造単位を有し、前記ナフタレン構造を含む構造単位の含有量が、前記液晶ポリエステル中の構造単位の合計量100モル%に対して60モル%以上である、」との特定事項を満たす。 さらに、甲36発明のフィルムは、「誘電率(1GHz)が2.4」であるから、本件特許発明1の「周波数1GHzにおける比誘電率が2.9以下であり、」との特定事項を満たす。 してみると、両者は、 「熱可塑性樹脂を含み、 周波数1GHzにおける比誘電率が2.9以下であり、 前記熱可塑性樹脂が液晶ポリエステルであり、前記液晶ポリエステルが、ナフタレン構造を含む構造単位を有し、前記ナフタレン構造を含む構造単位の含有量が、前記液晶ポリエステル中の構造単位の合計量100モル%に対して60モル%以上である、フィルム。」 で一致し、次の点で相違又は一応相違する。 ・相違点36−1 フィルムについて、本件特許発明1は「周波数1GHzにおける誘電正接が0.002以下であり、」と特定されるのに対して、甲36発明は「周波数1GHzにおける誘電正接」が不明な点。 ・相違点36−2 フィルムについて、本件特許発明1は「マイクロ波配向計で測定した分子配向度(MOR)の値が1〜1.1の範囲であり、」と特定されるのに対して、甲36発明にはそのような特定がない点。 上記相違点について検討する。 ・相違点36−1について 甲36発明のフィルムは、「周波数1GHzにおける誘電正接」の値が不明であるし、熱可塑性樹脂からなる液晶ポリエステルの一般的な誘電正接(1GHz)は0.003前後である(要すれば甲第17号証を参照のこと)ことからすると、甲36発明のフィルムの「周波数1GHzにおける誘電正接」が「0.002以下」と推認することもできない。 すると、相違点36−1は実質的な相違点であるから、本件特許発明1は甲36発明ではない。 また、甲第36号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲36発明のフィルムにおいて、「周波数1GHzにおける比誘電率」を小さいものとし、「0.002以下」とする、すなわち、相違点36−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとする動機付けもない。 してみれば、甲36発明において、「周波数1GHzにおける比誘電率」を調整し、相違点36−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲36発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 この点について、特許異議申立人は、令和6年3月8日に提出した意見書において、甲第8号証の実施例には、甲第36号証の実施例1で用いられたものと同じ「ガラスバルーン(住友3M(株)製、商品名:S60HS)」を使用しており、甲第8号証の表1,2を見ると、液晶ポリエステルに対し、中空粒子の配合比を増加させた場合、1GHzにおける誘電正接は、同じ値を維持またはやや低下していることが読み取れること、S60HSの1GHzにおける誘電正接も、0.0018未満である蓋然性が高いことなどをあげ、甲36発明の1GHzの誘電正接も、「0.002以下」との本件特許発明1の発明特定事項を満たす蓋然性が高いこと、仮にそうではないとしても、ガラスバルーンの配合量を増加させることにより、本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者にとって極めて容易である旨主張(意見書p.3−4)する。 しかしながら、「ガラスバルーン(住友3M(株)製、商品名:S60HS)」の1GHzにおける誘電正接が十分小さいことは理解できるものの、添加する対象の芳香族液晶ポリエステルフィルムそのものの1GHzにおける誘電正接が不明である以上、甲36発明のフィルムの1GHzにおける誘電正接の値を導くことはできない。 また、上記判断のとおり、全ての証拠の記載を見ても、甲36発明において、「1GHzの誘電正接」を「0.002以下」に調整する動機付けがない以上、「ガラスバルーン(住友3M(株)製、商品名:S60HS)」の1GHzにおける誘電正接が十分小さいものであるとしても、「1GHzの誘電正接」を調整する目的で、その添加量を調整することが、当業者にとって容易になし得たことであるということはできない。 よって、特許異議申立人の上記主張は採用しない。 イ 本件特許発明2ないし6について 本件特許発明2ないし6は、本件特許発明1の発明特定事項の全てを有するものである。 そして、本件特許発明1は甲36発明ではなく、また、甲36発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明2及び3も甲36発明ではなく、また、本件特許発明2ないし6は、甲36発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3) 取消理由1及び2についてのまとめ 上記(2)のとおりであるから、取消理由1及び2の理由では、本件特許発明1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。 2 令和5年11月2日付取消理由通知で通知した取消理由において採用しなかった異議申立理由についての判断 令和5年11月2日付取消理由通知で通知した取消理由において採用しなかった異議申立理由は、申立理由1−1ないし1−4、申立理由2−1ないし2−8、2−10、申立理由3ないし5である。 以下、順に検討する。 (1) 申立理由1−1及び2−1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性・進歩性)について ア 甲第1号証の記載事項等 (ア) 甲第1号証の記載事項 甲第1号証には、「芳香族液晶ポリエステルおよびそのフィルム」に関し、次の記載がある。 「【請求項1】 2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸に由来する繰り返し構造単位30〜80mol%、芳香族ジオールに由来する繰り返し構造単位35〜10mol%、および芳香族ジカルボン酸に由来する繰り返し構造単位35〜10mol%から実質的になることを特徴とする芳香族液晶ポリエステル。 【請求項2】 芳香族ジオールが、4,4’−ジヒドロキシビフェニルであり、芳香族ジカルボン酸が、テレフタル酸、イソフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物である請求項1記載の芳香族液晶ポリエステル。」 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、芳香族液晶ポリエステルおよびそのフィルムに関する。」 「【0004】 【発明が解決しようとする課題】 本発明の目的は、広い周波数域において誘電損失が小さい芳香族液晶ポリエステルを提供することにある。」 「【0053】 【実施例】 以下、本発明を実施例を用いて説明するが、本発明が実施例により限定されるものでないことは言うまでもない。 【0054】 製造例1 攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシー6−ナフトエ酸752.72g(4.00モル)、ハイドロキノン220.22g(2.00モル)、2,6−ナフタレンジカルボン酸432.38g(2.00モル)、無水酢酸986.19(9.2モル)および触媒として1−メチルイミダゾール0.143gを添加し、室温で15分間攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度を保持したまま1時間攪拌した。 次に、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から310℃まで3時間かけて昇温した。その後、1−メチルイミダゾール1.427gをさらに加えたのち、同温度で30分保温して芳香族ポリエステルを得た。得られた芳香族ポリエステルを室温に冷却し、粉砕機で粉砕して、芳香族ポリエステルの粉末(粒子径は約0.1mm〜約1mm)を得た。 上記で得た粉末を25℃から250℃まで1時間かけて昇温したのち、同温度から320℃まで5時間かけて昇温し、次いで同温度で3時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却し、冷却後の粉末(芳香族ポリエステル)をフローテスター〔島津製作所社製、「CFT−500型」〕を用いて、流動開始温度を測定したところ、333℃であった。」 「【0057】 実施例1 製造例1により得られた樹脂の粉末を、100kgfの荷重下、310℃で10分プレスして厚さ2mmの試験片を得た。得られた試験片の誘電率、誘電損失をヒューレットパッカード(株)製インピーダンス・マテリアルアナライザーにより測定した。結果を表1に示す。」 「【0060】 実施例3 製造例1により得られた芳香族液晶ポリエステルを、単軸押し出し機(スクリュー径50mm)内で溶融し、その押し出し機先端のTダイ(リップ長さ300mm、リップクリアランス1mm、ダイ温度360℃)より、ドラフト比4の条件でフィルム状に押し出し、冷却して厚さ250μmのフィルムを得た。」 「【0063】 【表1】 」 (イ) 甲第1号証に記載された発明 上記(ア)の記載、特に実施例3について整理すると、甲第1号証には次の発明が記載されていると認める。 「2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸752.72g(4.00モル)、ハイドロキノン220.22g(2.00モル)、2,6−ナフタレンジカルボン酸432.38g(2.00モル)、無水酢酸986.19(9.2モル)および触媒として1−メチルイミダゾール0.143gを用いて、芳香族ポリエステルを得、得られた芳香族ポリエステルを室温に冷却し、粉砕機で粉砕して、芳香族ポリエステルの粉末(粒子径は約0.1mm〜約1mm)を得、 得られた芳香族液晶ポリエステルを、単軸押し出し機(スクリュー径50mm)内で溶融し、その押し出し機先端のTダイ(リップ長さ300mm、リップクリアランス1mm、ダイ温度360℃)より、ドラフト比4の条件でフィルム状に押し出し、冷却して得られた、厚さ250μmのフィルム。」(以下、「甲1発明」という。) イ 対比・判断 (ア) 本件特許発明1について 本件特許発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明のフィルムは、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸752.72g(4.00モル)、ハイドロキノン220.22g(2.00モル)、2,6−ナフタレンジカルボン酸432.38g(2.00モル)を芳香族液晶ポリエステルの構造単位として含むものであり、そのうち、ナフタレン構造を含む構造単位(2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸)の割合は、(4.00+2.00)/(4.00+2.00+2.00)=75%と計算される。 また、甲1発明のフィルムは、芳香族液晶ポリエステルの原料から見て、熱可塑性樹脂であることも明らかである。 すると、甲1発明のフィルムは、本件特許発明1の「熱可塑性樹脂を含み、」「前記熱可塑性樹脂が液晶ポリエステルであり、前記液晶ポリエステルが、ナフタレン構造を含む構造単位を有し、前記ナフタレン構造を含む構造単位の含有量が、前記液晶ポリエステル中の構造単位の合計量100モル%に対して60モル%以上である、」との特定事項を満たす。 以上の点をふまえると、本件特許発明1と甲1発明との間の一致点、相違点は次のとおりである。 (一致点) 「 熱可塑性樹脂を含み、 前記熱可塑性樹脂が液晶ポリエステルであり、前記液晶ポリエステルが、ナフタレン構造を含む構造単位を有し、前記ナフタレン構造を含む構造単位の含有量が、前記液晶ポリエステル中の構造単位の合計量100モル%に対して60モル%以上である、フィルム。」 (相違点) ・相違点1−1 フィルムの比誘電率及び誘電正接に関し、本件特許発明1は「周波数1GHzにおける比誘電率が2.9以下」及び「周波数1GHzにおける誘電正接が0.002以下」と特定するのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。 ・相違点1−2 フィルムの分子配向度(MOR)に関し、本件特許発明1は「マイクロ波配向計で測定した分子配向度(MOR)の値が1〜1.1の範囲」と特定するのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。 上記相違点について検討する。 ・相違点1−1について 甲1発明のフィルムにおける比誘電率及び誘電正接は不明であるし、また、甲第1号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲1発明のフィルムの比誘電率及び誘電正接が、相違点1−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものと推認する理由もない。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明ではない。 また、甲第1号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲1発明のフィルムの比誘電率を調整し、相違点1−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとする動機付けもないから、甲1発明において、フィルムの比誘電率及び誘電正接を調整し、相違点1−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 してみれば、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (特許異議申立人の主張について) なお、この点について、特許異議申立人は、甲第1号証の表1における誘電率、誘電損失の値を根拠に、相違点1−1は相違点とはならない旨主張する(特許異議申立書p.77)。 しかしながら、甲第1号証の表1の誘電率、誘電損失はいずれも、樹脂の粉末を、100kgfの荷重下、310℃で10分プレスして厚さ2mmの試験片を得、得られた試験片の誘電率、誘電損失をヒューレットパッカード(株)製インピーダンス・マテリアルアナライザーにより測定したものであるから、そもそも「フィルム」としたものを用いたものではないし、その測定方法も本件特許発明1とは異なるものである(本件特許の明細書【0164】)から、甲第1号証の表1における値を採用することはできない。 よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 (イ) 本件特許発明2ないし6について 本件特許発明2ないし6はいずれも、本件特許発明1の発明特定事項の全てを有するものである。 そして、本件特許発明1が、甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明2ないし6もまた、甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 ウ 申立理由1−1及び2−1についてのまとめ 上記イのとおりであるから、申立理由1−1及び2−1の理由では、本件特許発明1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。 (2) 申立理由1−2及び2−2(甲第2号証を主たる証拠とする新規性・進歩性)について ア 甲第2号証の記載事項等 (ア) 甲第2号証の記載事項 甲第2号証には、「液晶ポリエステル及びそれを用いたフィルム」に関し、次の記載がある。 「【請求項1】 (イ)芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰り返し構造単位、(ロ)芳香族ジカルボン酸に由来する繰り返し構造単位および(ハ)以下の式(1)で示される繰り返し構造単位を含有することを特徴とする液晶ポリエステル。 −X−Ar1−O−Ar1−Y− (1) (式中、Ar1は、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基で置換されていてもよい1,4−フェニレンであり、X、Yは独立にOまたはNHを表す。)」 「【技術分野】 【0001】 本発明は、液晶ポリエステルおよびそれを用いたフィルムに関する。」 「【背景技術】 【0002】 液晶ポリエステルは、誘電率が低く、機械的強度が高く、耐熱性、薄肉成形性などに優れていることから、プリント配線基板等の電子部品に幅広く用いられている。また、電子部品のさらなる薄層化の要望に伴い、とともに、誘電率が一層低い材料が求められている。そこで、本発明者らは、すでに2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、芳香族ジオールおよび芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位からなる液晶ポリエステルを提案しており(特許文献1参照。)、その一実施態様として前記芳香族ジオールが4,4’−ジヒドロキシビフェニルである液晶ポリエステルを記載している。 【0003】 【特許文献1】特開2004−196930号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 しかしながら、上記の特許文献1に記載された液晶ポリエステルは、誘電正接が低く、高周波特性に優れた成形体を与えるものであるが、更なる低誘電率が求められていた。また、液晶ポリエステル樹脂は、一般に加水分解によって劣化が生じる場合があり、加水分解による耐久性(以下、加水分解耐性と呼ぶ)を有する液晶ポリエステルが切望されていた。本発明の目的は、低誘電率であり、加水分解耐性に優れる成形体を与える液晶ポリエステルを提供し、さらには当該液晶ポリエステルからなるフィルム、該フィルムを有する電子部品並びに該フィルムから得られる成形体を提供するものである。 【課題を解決するための手段】 【0005】 本発明者らは、上記の課題を解決すべく、液晶ポリエステルの構成成分につき鋭意研究を重ねた結果、4,4’−ジヒドロキシビフェニルの代わりに4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテルを用いることにより、得られる液晶ポリエステルの誘電率がより一層低くなるのみならず、意外にも、加水分解耐性も優れていることも見出し、さらに種々の検討を加え、本発明を完成した。」 「【0066】 製造例1 攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸282.3g(1.5モル)、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル166.8g(0.825モル)、2,6−ナフタレンジカルボン酸162.1g(0.75モル)および無水酢酸369.8g(3.62モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して3時間還流させた。 【0067】 その後、留出する副生酢酸および未反応の無水酢酸を留去しながら170分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。得られた固形分は室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下250℃で3時間保持し、固相で重合反応を進め、粉末を得た。」 「【0072】 実施例1 製造例1で得られた粉末を、100kgfの荷重下、325℃で10分プレスして厚さ2mmの試験片を得た。得られた試験片の誘電率をヒューレットパッカード株式会社製インピーダンス・マテリアルアナライザーにより測定したところ比誘電率は2.8(周波数:1GHz)であった。また、製造例1で得られた粉末を用いて0.3mm厚に成形した試験片を作製し、プレッシャークッカーテストを行ったところ引張強度保持率は96%であった。 【0073】 実施例2 製造例1で得られた粉末1gとp−クロロフェノール9gとを混合し、170℃に加熱した結果、完全に溶解した液状組成物を得た。この液状組成物につき攪拌および脱泡を行い、18μmの銅箔上にバーコート法により流延した後、100℃で1時間、250℃で1時間加熱処理し、本発明のフィルムからなる層と導体からなる層とを有するフレキシブルな積層体を得た。」 (イ) 甲第2号証に記載された発明 上記(ア)の記載、特に実施例2の記載を中心に整理すると、甲第2号証には次の発明が記載されていると認める。 「2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸282.3g(1.5モル)、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル166.8g(0.825モル)、2,6−ナフタレンジカルボン酸162.1g(0.75モル)および無水酢酸369.8g(3.62モル)を用い、重合反応を進め粉末を得、 得られた粉末1gとp−クロロフェノール9gとを混合し、170℃に加熱し、完全に溶解した液状組成物を得、この液状組成物につき攪拌および脱泡を行い、18μmの銅箔上にバーコート法により流延した後、100℃で1時間、250℃で1時間加熱処理し得られた、液晶ポリエステルフィルムからなる層と導体からなる層とを有するフレキシブルな積層体。」(以下、「甲2発明」という。) イ 対比・判断 (ア) 本件特許発明1について 本件特許発明1と甲2発明とを対比する。 甲2発明の「フィルムからなる層」は、本件特許発明1の「フィルム」に相当する。 また、甲2発明の「フィルムからなる層」は、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸282.3g(1.5モル)、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル166.8g(0.825モル)、2,6−ナフタレンジカルボン酸162.1g(0.75モル)を液晶ポリエステルの構造単位として含むものであり、そのうち、ナフタレン構造を含む構造単位(2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸)の割合は、(1.5+0.75)/(1.5+0.825+0.75)≒73%と計算される。 また、甲2発明のフィルムからなる層は、液晶ポリエステルの原料から見て、熱可塑性樹脂であることも明らかである。 すると、甲2発明のフィルムからなる層は、本件特許発明1の「熱可塑性樹脂を含み、」「前記熱可塑性樹脂が液晶ポリエステルであり、前記液晶ポリエステルが、ナフタレン構造を含む構造単位を有し、前記ナフタレン構造を含む構造単位の含有量が、前記液晶ポリエステル中の構造単位の合計量100モル%に対して60モル%以上である、」との特定事項を満たす。 以上の点をふまえると、本件特許発明1と甲2発明との間の一致点、相違点は次のとおりである。 (一致点) 「 熱可塑性樹脂を含み、 前記熱可塑性樹脂が液晶ポリエステルであり、前記液晶ポリエステルが、ナフタレン構造を含む構造単位を有し、前記ナフタレン構造を含む構造単位の含有量が、前記液晶ポリエステル中の構造単位の合計量100モル%に対して60モル%以上である、フィルム。」 (相違点) ・相違点2−1 フィルムの比誘電率及び誘電正接に関し、本件特許発明1は「周波数1GHzにおける比誘電率が2.9以下」及び「周波数1GHzにおける誘電正接が0.002以下」と特定するのに対し、甲2発明にはそのような特定がない点。 ・相違点2−2 フィルムの分子配向度(MOR)に関し、本件特許発明1は「マイクロ波配向計で測定した分子配向度(MOR)の値が1〜1.1の範囲」と特定するのに対し、甲2発明にはそのような特定がない点。 上記相違点について検討する。 ・相違点2−1について 相違点2−1は、相違点1−1と同旨である。 そして、甲第2号証における比誘電率の測定手順(甲第2号証の実施例1)をふまえてみても、上記(1)イ(ア)と同様に判断される。 よって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明ではなく、また、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (イ) 本件特許発明3ないし6について 本件特許発明3ないし6はいずれも、本件特許発明1の発明特定事項の全てを有するものである。 そして、本件特許発明1が、甲2発明ではなく、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明4ないし6は、甲2発明ではなく、また、本件特許発明3ないし6は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 ウ 申立理由1−2及び2−2についてのまとめ 上記イのとおりであるから、申立理由1−2及び2−2の理由では、本件特許発明1及び3ないし6に係る特許を取り消すことはできない。 (3) 申立理由1−3及び2−3(甲第3号証を主たる証拠とする新規性・進歩性)について ア 甲第3号証の記載事項等 (ア) 甲第3号証の記載事項 甲第3号証には、「液晶ポリエステル粉体の製造方法」に関し、次の記載がある。 「【請求項1】 溶融重縮合により流動開始温度が240〜300℃である液晶ポリエステルを得る工程(1)と、前記液晶ポリエステルを厚さが1cm以上の状態で固化させて、固化物を得る工程(2)と、前記固化物を粉砕して、体積平均粒径が3〜30μmである粉体(A)を得る工程(3)と、前記粉体(A)を熱処理して、前記液晶ポリエステルの流動開始温度より高い流動開始温度を有する粉体(B)を得る工程(4)とを有する液晶ポリエステル粉体の製造方法。 【請求項2】 前記工程(3)を、ジェットミルを用いる機械粉砕により行う請求項1に記載の製造方法。 【請求項3】 前記粉体(B)を解砕して、前記粉体(A)の体積平均粒径以下の体積平均粒径を有する粉体(C)を得る工程(5)をさらに有する請求項1又は2に記載の製造方法。 【請求項4】 前記工程(5)を、ジェットミルを用いる機械粉砕により行う請求項3に記載の製造方法。 【請求項5】 前記液晶ポリエステル粉体を構成する液晶ポリエステルが、下記式(1)で表される構造単位と、下記式(2)で表される構造単位と、下記式(3)で表される構造単位とを有し、Ar1、Ar2及びAr3の合計個数に占める2,6−ナフタレンジイル基の個数の割合が、40%以上である液晶ポリエステルである請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。 (1)−O−Ar1−CO− (2)−CO−Ar2−CO− (3)−O−Ar3−O− (Ar1は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基で置換されていてもよい。) 【請求項6】 請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法により得られる液晶ポリエステル粉体と、充填剤とを含む組成物。 【請求項7】 前記充填剤の含有量が、前記液晶ポリエステル粉体及び充填剤の合計容量に対して、20容量%以上である請求項6に記載の組成物。 【請求項8】 請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法により得られる液晶ポリエステル粉体を、プレス成形してなる成形体。 【請求項9】 請求項6又は7に記載の組成物を、プレス成形してなる成形体。 【請求項10】 請求項8又は9に記載の成形体に、導体回路層を形成してなる回路基板。」 「【技術分野】 【0001】 本発明は、液晶ポリエステル粉体を製造する方法に関する。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 特許文献1に記載の方法によれば、微粒での液晶ポリエステル粉体が得られるが、フィブリル状物が生じ易く、プレス成形に適さないことがある。そこで、本発明の目的は、微粒で、フィブリル状物が生じ難い液晶ポリエステル粉体を製造しうる方法を提供することにある。」 「【0063】 また、本発明に適用する液晶ポリエステル組成物は種々の大型成形体を得ることを可能とするが、比較的形状の小さな成形体や、フィルム状成形体に加工することもできる。更に、プレス成形に係る金型を種々変更することにより、例えば、円筒形状、四角形状、歯車や軸受け等の機械部品の形状等、任意形状に加工できるし、一旦シート形状に成形した成形体から所望の形状に切り出して加工することもできる。」 「【0070】 実施例1 攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)、ハイドロキノン272.52g(2.475モル、0.225モル過剰仕込み)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、無水酢酸1226.87g(12.0モル)および触媒として1−メチルイミダゾール0.17gを添加し、室温で15分間にわたって攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度(145℃)を保持したまま1時間にわたって攪拌した。 【0071】 次に、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から310℃まで3時間30分かけて昇温した。同温度(310℃)で3時間保温して液晶ポリエステルを、厚みが2cmとなるように溶融状態でバットの中に取り出した。こうして得られた液晶ポリエステルを室温程度まで冷却し、固化させ、竪型粉砕機((株)セイシン企業製の“オリエントVM−16”)で粉砕して、体積平均粒径が約0.5mmの粗粉砕粉体の液晶ポリエステル(プレポリマー)を得た。この液晶ポリエステルの流動開始温度を測定したところ266℃であり、280℃以上の温度では溶融状態で光学異方性を示した。 【0072】 次いで、粗粉砕粉体の液晶ポリエステルを、ジェットミル((株)セイシン企業製の“STJ−200”)を用い、ノズル圧0.7MPa、粉砕処理量3.0kg/hrの条件で微粉砕したところ、体積平均粒径8.4μmの液晶ポリエステル粉体(A)を得た。得られた液晶ポリエステル粉体(A)を走査電子顕微鏡により観察したところ、粒子状であった。 【0073】 得られた液晶ポリエステル粉体(A)を窒素雰囲気下に、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、次いで250℃から292℃まで7時間かけて昇温し、さらに292℃に到達した後、同温度で5時間加熱するといった熱処理を行った。熱処理後の液晶ポリエステル粉体(B)を冷却して取り出した後、ジェットミル((株)セイシン企業製の“STJ−200”)を用い、ノズル圧0.7MPaの条件で解砕処理した結果、体積平均粒径8.4μm、流動開始温度325℃の液晶ポリエステル粉体(C)が得られた。得られた液晶ポリエステル粉体(C)を走査電子顕微鏡により観察したところ、粒子状であった。」 (イ) 甲第3号証に記載された発明 上記(ア)の記載、特に実施例1の記載を中心に整理すると、甲第3号証には次の発明が記載されていると認める。 「2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)、ハイドロキノン272.52g(2.475モル、0.225モル過剰仕込み)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、無水酢酸1226.87g(12.0モル)および触媒として1−メチルイミダゾール0.17gを用いて得られた液晶ポリエステル粉体。」(以下、「甲3発明」という。) イ 対比・判断 (ア) 本件特許発明1について 本件特許発明1と甲3発明とを対比する。 甲3発明の液晶ポリエステル粉体は、「2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)、ハイドロキノン272.52g(2.475モル、0.225モル過剰仕込み)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)」を液晶ポリエステルの構造単位として含むものであり、そのうち、ナフタレン構造を含む構造単位(2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸)の割合は、(5.5+1.75)/(5.5+2.25+1.75+0.5)=72.5%と計算される。 また、甲3発明の液晶ポリエステル粉体は、液晶ポリエステルの原料から見て、熱可塑性樹脂であることも明らかである。 すると、甲3発明の液晶ポリエステル粉体は、本件特許発明1の「熱可塑性樹脂を含み、」「前記熱可塑性樹脂が液晶ポリエステルであり、前記液晶ポリエステルが、ナフタレン構造を含む構造単位を有し、前記ナフタレン構造を含む構造単位の含有量が、前記液晶ポリエステル中の構造単位の合計量100モル%に対して60モル%以上である、」との特定事項を満たす。 以上の点をふまえると、本件特許発明1と甲3発明との間の一致点、相違点は次のとおりである。 (一致点) 「 熱可塑性樹脂を含み、 前記熱可塑性樹脂が液晶ポリエステルであり、前記液晶ポリエステルが、ナフタレン構造を含む構造単位を有し、前記ナフタレン構造を含む構造単位の含有量が、前記液晶ポリエステル中の構造単位の合計量100モル%に対して60モル%以上である、液晶ポリエステル。」 (相違点) ・相違点3−1 本件特許発明1は「フィルム」であるのに対し、甲3発明は「粉体」である点。 ・相違点3−2 フィルムの比誘電率及び誘電正接に関し、本件特許発明1は「周波数1GHzにおける比誘電率が2.9以下」及び「周波数1GHzにおける誘電正接が0.002以下」と特定するのに対し、甲3発明にはそのような特定がない点。 ・相違点3−3 フィルムの分子配向度(MOR)に関し、本件特許発明1は「マイクロ波配向計で測定した分子配向度(MOR)の値が1〜1.1の範囲」と特定するのに対し、甲3発明にはそのような特定がない点。 事案に鑑み、相違点3−2について検討する。 甲第3号証の記載を見ても、甲3発明における周波数1GHzにおける比誘電率及び誘電正接に関する記載はなく、また、他の全ての証拠の記載を見ても、甲3発明における比誘電率や誘電正接が、相違点3−2に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものと推認する理由もない。 また、甲第3号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲3発明の比誘電率を調整し、相違点3−2に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとする動機付けもないから、甲3発明において、フィルムとした上でその比誘電率及び誘電正接を調整し、相違点3−2に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 してみれば、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (特許異議申立人の主張について) なお、この点について、特許異議申立人は、甲3発明は、本件特許の実施例1と同じ成分の液晶ポリエステルからなる粉体を溶融固化したものであり、甲3発明では、粉末を固相重合しており、成形時に加圧しているとの違いがあるものの、本件特許発明1と同様の方法で測定を行った場合には、大差のない誘電特性が得られ、相違点3−2に係る本件特許発明1の発明特定事項を満足する蓋然性が高い旨主張(異議申立書p.79)する。 しかしながら、液晶ポリエステル試料の誘電特性は、原料となるモノマー組成だけで決まるものではなく、形成条件等にも影響を受けるものであるところ、本件特許発明1と甲3発明は、測定試料の調製条件が明らかに異なるものである(成形時の加圧条件が異なることは特許異議申立人も認めているとおりである。また、本件特許発明1は「フィルム」とした上で更に測定試料を得ているので、この点においても異なる。)から、用いている原料(成分)が同じであることのみから、比誘電率や誘電正接が同じである蓋然性が高いということはできない。 よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 (イ) 本件特許発明2ないし6について 本件特許発明2ないし6はいずれも、本件特許発明1の発明特定事項の全てを有するものである。 そして、本件特許発明1が、甲3発明ではなく、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明2ないし6もまた、甲3発明ではなく、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 ウ 申立理由1−3及び2−3についてのまとめ 上記イのとおりであるから、申立理由1−3及び2−3の理由では、本件特許発明1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。 (4) 申立理由2−4(甲第4号証を主たる証拠とする進歩性)について ア 甲第4号証の記載事項等 (ア) 甲第4号証の記載事項 甲第4号証には、「液晶ポリエステルフィルムの製造方法及び液晶ポリエステルフィルム」に関し、次の記載がある。 「【請求項1】 下記(a)及び(b)の要件を満たす液晶ポリエステルを溶融押出した後、ろ過精度が1〜50μmのフィルタを用いて前記液晶ポリエステルを溶融ろ過する工程を有することを特徴とする液晶ポリエステルフィルムの製造法。 (a)前記液晶ポリエステル中の2,6−ナフチレン基を含む繰り返し単位の含有量が、前記液晶ポリエステルを構成する全繰り返し単位の合計量に対して15モル%以上である。 (b)フィルム加工温度において、せん断速度1000(s−1)の条件下でノズル径0.5mmφ、ノズル長10mmのダイスを用いて流れ特性試験機により測定した溶融粘度が40Pa・s以上である。」 「【技術分野】 【0001】 本発明は、液晶ポリエステルフィルムの製造方法及び液晶ポリエステルフィルムに関する。」 「【0009】 本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、機械的強度に優れた等方化液晶ポリエステルフィルムの製造方法を提供することを目的とする。」 「【0066】 本実施形態の液晶ポリエステルフィルムの製造方法を用いて製造される液晶ポリエステルフィルムは、フィルム中の異物が低減されることにより、均一な機械的強度を有する。即ち、前記液晶ポリエステルフィルムは、機械的強度に優れている。かかる液晶ポリエステルフィルムは、電子回路基板、包装材料、ガスバリヤ材料等に好適に用いられる。」 「【0071】 <合成例1> 攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)、ヒドロキノン272.52g(2.475モル、0.225モル過剰仕込み)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、無水酢酸1226.87g(12モル)、及び触媒として1−メチルイミダゾール0.17gを添加し、室温で15分間にわたって攪拌した後、攪拌しながら145℃まで昇温し、その温度を保持して1時間攪拌した。 次いで、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら、3時間30分かけて145℃から310℃まで昇温させ、310℃で3時間保温して、液晶ポリエステルを得た。こうして得られた液晶ポリエステルを室温まで冷却し、粉砕機で粉砕して、粒子径が約0.1〜1mmの粉末状の液晶ポリエステル(プレポリマー)を得た。 このプレポリマーにおいて、共重合モル分率は、繰返し単位(1):繰返し単位(2):繰返し単位(3)=55モル%:22.5モル%:22.5モル%である。これら繰り返し単位の合計含有量に対する2,6−ナフタレンジイル基含有繰返し単位の共重合モル分率は、72.5モル%である。 このプレポリマーを、25℃から250℃まで1時間かけて昇温させた後、250℃から310℃まで10時間かけて昇温した。その後、310℃で5時間保温して固相重合させ、さらに冷却することで、粉末状の液晶ポリエステルを得た。液晶ポリエステルの流動開始温度は333℃であった。 粉末状の液晶ポリエステルを用いて、二軸押出機((株)池貝製の「PCM−30」)によって液晶ポリエステルの粉末の流動開始温度〜流動開始温度より10℃高い温度で造粒し、ペレットを得た。得られたペレットについて測定温度340℃の溶融粘度を測定したところ、101Pa・sであった。」 「【0076】 <実施例1> 合成例1で得られたペレットを単軸押出し機で加熱混練し、ダイ径30mm、スリット間隔0.25mmの環状インフレーションダイの入口に、ろ過装置(リーフディスク型フィルタ、日本精線社製)を接続し、340℃に加熱された環状インフレーションダイから押出し、引き取り方向の延伸倍率に対して引き取り方向に直角な方向の延伸倍率を4.1倍とする条件下で液晶ポリエステルフィルムを得た。得られた液晶ポリエステルフィルムの膜厚を測定したところ、25μmで推移した。 前記ろ過装置には、ナスロンフィルタLF4−0 NF2M−05D2(日本精線社製、ろ過精度5.0μm、リーフディスク型)を16枚積層して用いた。 得られた液晶ポリエステルフィルムは、外観上異物は散見されず、フィルムの引き取り方向について引張強度を測定したところ340MPaであった。」 (イ) 甲第4号証に記載された発明 上記(ア)の記載、特に、実施例1の記載を中心に整理すると、甲第4号証には次の発明が記載されていると認める。 「6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)、ヒドロキノン272.52g(2.475モル、0.225モル過剰仕込み)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、無水酢酸1226.87g(12モル)、及び触媒として1−メチルイミダゾール0.17gを用い、液晶ポリエステルのペレットを得、 得られたペレットを単軸押出し機で加熱混練し、ダイ径30mm、スリット間隔0.25mmの環状インフレーションダイの入口に、ろ過装置(リーフディスク型フィルタ、日本精線社製)を接続し、340℃に加熱された環状インフレーションダイから押出し、引き取り方向の延伸倍率に対して引き取り方向に直角な方向の延伸倍率を4.1倍とする条件下で得た、液晶ポリエステルフィルム。」(以下、「甲4発明」という。) イ 対比・判断 (ア) 本件特許発明1について 本件特許発明1と甲4発明とを対比する。 甲4発明の液晶ポリエステルフィルムは、「6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)、ヒドロキノン272.52g(2.475モル、0.225モル過剰仕込み)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)」を液晶ポリエステルの構造単位として含むものであり、そのうち、ナフタレン構造を含む構造単位(2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸)の割合は、(5.5+1.75)/(5.5+2.25+1.75+0.5)=72.5%と計算される。 また、甲4発明の液晶ポリエステルフィルムは、液晶ポリエステルの原料から見て、熱可塑性樹脂であることも明らかである。 すると、甲4発明の液晶ポリエステルフィルムは、本件特許発明1の「熱可塑性樹脂を含み、」「前記熱可塑性樹脂が液晶ポリエステルであり、前記液晶ポリエステルが、ナフタレン構造を含む構造単位を有し、前記ナフタレン構造を含む構造単位の含有量が、前記液晶ポリエステル中の構造単位の合計量100モル%に対して60モル%以上である、」との特定事項を満たす。 以上の点をふまえると、本件特許発明1と甲4発明との間の一致点、相違点は次のとおりである。 (一致点) 「熱可塑性樹脂を含み、 前記熱可塑性樹脂が液晶ポリエステルであり、前記液晶ポリエステルが、ナフタレン構造を含む構造単位を有し、前記ナフタレン構造を含む構造単位の含有量が、前記液晶ポリエステル中の構造単位の合計量100モル%に対して60モル%以上である、フィルム。」 (相違点) ・相違点4−1 フィルムの比誘電率及び誘電正接に関し、本件特許発明1は「周波数1GHzにおける比誘電率が2.9以下」及び「周波数1GHzにおける誘電正接が0.002以下」と特定するのに対し、甲4発明にはそのような特定がない点。 ・相違点4−2 フィルムの分子配向度(MOR)に関し、本件特許発明1は「マイクロ波配向計で測定した分子配向度(MOR)の値が1〜1.1の範囲」と特定するのに対し、甲4発明にはそのような特定がない点。 上記相違点について検討する。 ・相違点4−1について 甲第4号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲4発明のフィルムの比誘電率を調整し、相違点4−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとする動機付けもない。 よって、甲4発明において、フィルムの比誘電率及び誘電正接を調整し、相違点4−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 してみれば、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (特許異議申立人の主張について) なお、この点について、特許異議申立人は、甲4発明は、本件特許の実施例1と同じ成分・製法で製造されたプレポリマーを用いたものであって、その後の製膜法に関する違いはあるものの、本件特許発明1と同様の方法で測定を行った場合には、大差のない誘電特性が得られ、相違点4−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満足する蓋然性が高い旨主張(異議申立書p.100−101)する。 しかしながら、測定試料の調製条件が明らかに異なるものである(フィルムの製膜法が異なることは特許異議申立人も認めているとおりである。)から、用いている原料(成分)が同じであることのみから、比誘電率や誘電正接が同じである蓋然性が高いということはできない。 よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 (イ) 本件特許発明2ないし6について 本件特許発明2ないし6はいずれも、本件特許発明1の発明特定事項の全てを有するものである。 そして、本件特許発明1が、甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明2ないし6もまた、甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 申立理由2−4についてのまとめ 上記イのとおりであるから、申立理由2−4の理由では、本件特許発明1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。 (5) 申立理由2−5(甲第5号証を主たる証拠とする進歩性)について ア 甲第5号証の記載事項等 (ア) 甲第5号証の記載事項 甲第5号証には、「絶縁材料用液晶性芳香族ポリエステルおよびその樹脂組成物」に関し、次の記載がある。 「【請求項1】 2種以上の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位を含んでなる液晶性芳香族ポリエステルであって、該ポリエステルが、次の(1)〜(3)のいずれかの組成を含んでなることを特徴とする絶縁材料用液晶性芳香族ポリエステル。 (1)下記(a)および(b)からなり、(a)および(b)の合計モル数に対する(a)の含有割合が30〜90モル%の範囲で構成されてなる組成 (2)下記(a)および(c)からなり、(a)および(c)の合計モル数に対する(a)の含有割合が5〜65モル%の範囲で構成されてなる組成 (3)下記(a)、(b)および(c)からなり、(a)、(b)および(c)の合計モル数に対する(a)の含有割合が30〜90モル%の範囲で構成されてなる組成 (a)p−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位 (b)m−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位 (c)1種以上のヒドロキシナフトエ酸に由来する構造単位 【請求項2】 (c)が6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する構造単位および/または5−ヒドロキシ−1−ナフトエ酸に由来する構造単位であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁材料用液晶性芳香族ポリエステル。 【請求項3】 更に、4−ヒドロキシ−4’−ビフェニル酸に由来する構造単位、4−ヒドロキシ−3’−ビフェニル酸に由来する構造単位および3−ヒドロキシ−4’−ビフェニル酸に由来する構造単位からなる群より選ばれる1種以上を含んでなることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の絶縁材料用液晶性芳香族ポリエステル。 【請求項4】 (A)請求項1〜3のいずれかに記載の絶縁材料用液晶性芳香族ポリエステルを連続相とし、(B)液晶ポリエステルと反応性を有する官能基を有する共重合体を分散相とすることを特徴とする絶縁材料用液晶性芳香族ポリエステル樹脂組成物。 【請求項5】 (A)液晶性芳香族ポリエステル75.0〜99.9重量%と、(B)液晶ポリエステルと反応性を有する官能基を有する共重合体25.0〜0.1重量%とを溶融混練して得られたことを特徴とする請求項4記載の絶縁材料用液晶性芳香族ポリエステル樹脂組成物。 【請求項6】 (B)液晶ポリエステルと反応性を有する官能基を有する共重合体が、不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位および/または不飽和グリシジルエーテル単位を0.1〜30重量%含有する共重合体であることを特徴とする請求項4〜5のいずれかに記載の絶縁材料用液晶性芳香族ポリエステル樹脂組成物。 【請求項7】 請求項1〜3のいずれかに記載の絶縁材料用液晶性芳香族ポリエステルまたは請求項4〜6のいずれかに記載の絶縁材料用液晶性芳香族ポリエステル樹脂組成物からなる絶縁体。 【請求項8】 請求項1〜3のいずれかに記載の絶縁材料用液晶性芳香族ポリエステルまたは請求項4〜6のいずれかに記載の絶縁材料用液晶性芳香族ポリエステル樹脂組成物からなる発泡絶縁体。 【請求項9】 請求項1〜3のいずれかに記載の絶縁材料用液晶性芳香族ポリエステルまたは請求項4〜6のいずれかに記載の絶縁材料用液晶性芳香族ポリエステル樹脂組成物からなる絶縁フィルム。 【請求項10】 インフレーション成形法により得られたことを特徴とする請求項9記載の絶縁フィルム。 【請求項11】 超臨界発泡法により得られたことを特徴とする請求項9〜10のいずれかに記載の絶縁フィルム。 【請求項12】 請求項9〜11のいずれかに記載の絶縁フィルムを用いてなることを特徴とする回路基板。」 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、モーターやトランス等の絶縁体やプリント配線基板等の電子回路基板等の絶縁体に好適に用いられる、芳香族液晶性ポリエステルおよびその樹脂組成物に関する。」 「【0004】 【発明が解決しようとする課題】 本発明の目的は、高周波領域における誘電正接の小さい絶縁材料用液晶性芳香族ポリエステルおよびそれを含んでなる絶縁材料用樹脂組成物を提供することにある。」 「【0007】 【発明の実施の形態】 以下、本発明について詳細に説明する。 最初に本発明に使用される液晶性芳香族ポリエステルについて説明する。 本発明に使用される液晶性芳香族ポリエステルは、2種以上の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位を含んでなる液晶性芳香族ポリエステルであるが、中でも、下記の(1)〜(3)のいずれかの組成を含んでなるものである。 (1)下記(a)および(b)からなり、(a)および(b)の合計モル数に対する(a)の含有割合が30〜90モル%の範囲で構成されてなる組成 (2)下記(a)および(c)からなり、(a)および(c)の合計モル数に対する(a)の含有割合が5〜65モル%の範囲で構成されてなる組成 (3)下記(a)、(b)および(c)からなり、(a)、(b)および(c)の合計モル数に対する(a)の含有割合が30〜90モル%の範囲で構成されてなる組成 (a)p−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位 (b)m−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位 (c)1種以上のヒドロキシナフトエ酸に由来する構造単位」 「【0031】 次に本発明の絶縁体について説明する。 本発明に使用する液晶性芳香族ポリエステルや液晶性芳香族ポリエステル樹脂組成物は、例えば、絶縁体等の用途に好適に用いられるが、特に回路基板用の絶縁体、具体的には高周波、高速型回路基板用等の絶縁体として好適に用いられる。 本発明の絶縁体に用いられる液晶性芳香族ポリエステルおよび液晶性芳香族ポリエステル樹脂組成物の誘電特性は、通常、1GHzの周波数の正弦波電圧を加えた場合の比誘電率が1.1〜3.2であって、同条件下における誘電正接が0.0001〜0.002の範囲である。 さらには、本発明の液晶性芳香族ポリエステルおよび液晶性芳香族ポリエステル樹脂組成物の誘電特性は、1GHzの正弦波電圧を加えた場合の比誘電率および誘電正接がそれぞれ1.1〜3.1および0.0001〜0.0018の範囲にあることが好ましく、それぞれ1.1〜3.0および0.0001〜0.0015の範囲にあればさらに好ましく、それぞれ1.1〜3.0以下および0.0005〜0.001の範囲にあればなお好ましい。1GHzにおける比誘電率が3.2を越えると、例えば本発明の液晶性芳香族ポリエステルや液晶性芳香族ポリエステル樹脂組成物を回路基板の絶縁体として用いた場合に、信号伝達速度が十分でない場合があり好ましくない。同様に、1GHzでの誘電正接が0.002を越えると、回路作動時の発熱が大きく、消費電力の増大や回路作動が不安定になる恐れがあり好ましくない。」 「【0032】 本発明の絶縁体としての形状には特に制限は無いが、一例を挙げると、例えば電気・電子用途の各種部品に代表される直方体や球状体等の形状やこれらの組み合せの形状、フィルム、シート、板等の形状等が挙げられる。」 「【0033】 次に本発明の絶縁体の製造方法について説明する。 本発明の絶縁体は射出成形、熱プレス、打ち抜き成形、発泡成形、インフレーション成形等の方法により製造することができる。また、発泡体を絶縁体として得ることができる製造方法も好ましく用いられる。誘電率をより小さくすることが求められる用途には発泡体によるフィルム、シート、板状の絶縁体が好ましく用いられる。発泡体を絶縁体として得ることにより誘電率の低い気体(酸素や二酸化炭素)を樹脂内に取り込むことができ、該絶縁体の誘電率を低くすることが期待でき好ましい。発泡体を得るための方法は、発泡剤の配合による方法、超臨界CO2に浸漬して除圧後発泡させる超臨界発泡による方法などが挙げられるが、該成形体中の気泡のサイズをより微細にする目的で超臨界発泡法が好ましく用いられる。 【0034】 超臨界発泡の方法は一般に知られている方法(例えば成型加工 13(2)2001 83頁)を用いることができるが、気泡径などをそろえるために、熱、圧力、冷却方法などの後処理の条件を適宜選択することができる。 【0035】 本発明の絶縁体はフィルム状の形状とした絶縁フィルムが好ましく用いられるが、この様な絶縁フィルムを得る方法としては、例えば、Tダイから溶融樹脂を押出し巻き取るTダイ法、環状ダイスを設置した押出機から溶融樹脂を円筒状に押出し、冷却し巻き取るインフレーション成形法、熱プレス法、またはカレンダもしくはロールを用いた成形法等、一般的に熱可塑性樹脂やその組成物に用いられる方法等等を挙げることができる。中でもTダイ法、インフレーション成形法による製造方法が好ましく、インフレーション成形法であればなお好ましい。 先に説明した(A)液晶性芳香族ポリエステルと(B)液晶ポリエステルと反応性を有する官能基を有する共重合体による液晶性芳香族ポリエステル樹脂組成物を成形する際には、インフレーション成形法が好ましく用いられる。その際のブロー比(TD延伸比)は通常2.0以上10未満である。ブロー比が2.0未満であると得られた絶縁フィルムのTD方向の強度が十分でない場合があり、10以上であると、安定した厚みの絶縁フィルムが得られない場合があり好ましくない。この様にして得られた絶縁フィルムは回路基板等の用途に好適に用いられる。」 「【0042】 実施例1(液晶性芳香族ポリエステルA−1) 攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸140.8g(1.02モル)、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸447.4g(2.38モル)及び無水酢酸 382g(3.74モル)、を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して3時間還流させた。その後、留出する副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら1℃/分の昇温速度で320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。得られた固形分は室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下260℃で10時間保持し、固層で重合反応を進め、流動温度が261℃の粒子状の下記の繰り返し単位からなる全芳香族ポリエステルを得た。 以下該液晶ポリエステルをA−1と略記する。このポリマーは加圧下で270℃以上で光学異方性を示した。 液晶ポリエステルA−1の構造単位およびその比率は次の通りである。 =30:70 A−1を285℃、50kg/cm2の条件でプレス成形し、2mm厚の板状試験片を作製した。吸水率は0.04%であった。 1GHzで誘電特性を評価したところ、比誘電率3.0、誘電正接0.00075と非常に良好な値が得られた。」 (イ) 甲第5号証に記載された発明 上記(ア)の記載、特に、請求項1、9、10の記載を中心に整理すると、甲第5号証には次の発明が記載されていると認める。 「2種以上の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位を含んでなる液晶性芳香族ポリエステルであって、該ポリエステルが、次の組成を含んでなることを特徴とする絶縁材料用液晶性芳香族ポリエステルからなり、インフレーション成形法により得られた絶縁フィルム。 下記(a)および(c)からなり、(a)および(c)の合計モル数に対する(a)の含有割合が5〜65モル%の範囲で構成されてなる組成 (a)p−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位 (c)1種以上のヒドロキシナフトエ酸に由来する構造単位」(以下、「甲5発明」という。) イ 対比・判断 (ア) 本件特許発明1について 本件特許発明1と甲5発明とを対比する。 甲5発明の「絶縁フィルム」は、本件特許発明1の「フィルム」に相当する。 甲5発明の絶縁フィルムは、「2種以上の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位を含んでなる液晶性芳香族ポリエステル」であって、「(a)p−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位」および「(c)1種以上のヒドロキシナフトエ酸に由来する構造単位」からなる「絶縁材料用液晶性芳香族ポリエステル」からなるものであるから、本件特許発明1の「熱可塑性樹脂を含み、」「前記熱可塑性樹脂が液晶ポリエステルであり、前記液晶ポリエステルが、ナフタレン構造を含む構造単位を有し、」との特定事項を満たす。 以上の点をふまえると、本件特許発明1と甲5発明との間の一致点、相違点は次のとおりである。 (一致点) 「熱可塑性樹脂を含み、 前記熱可塑性樹脂が液晶ポリエステルであり、前記液晶ポリエステルが、ナフタレン構造を含む構造単位を有するものである、フィルム。」 (相違点) ・相違点5−1 フィルムの比誘電率及び誘電正接に関し、本件特許発明1は「周波数1GHzにおける比誘電率が2.9以下」及び「周波数1GHzにおける誘電正接が0.002以下」と特定するのに対し、甲5発明にはそのような特定がない点。 ・相違点5−2 フィルムの分子配向度(MOR)に関し、本件特許発明1は「マイクロ波配向計で測定した分子配向度(MOR)の値が1〜1.1の範囲」と特定するのに対し、甲5発明にはそのような特定がない点。 ・相違点5−3 液晶ポリエステルの組成に関し、本件特許発明1は「前記ナフタレン構造を含む構造単位の含有量が、前記液晶ポリエステル中の構造単位の合計量100モル%に対して60モル%以上である」と特定するのに対し、甲5発明にはそのような特定がない点。 上記相違点について検討する。 ・相違点5−1について 甲第5号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲5発明のフィルムの比誘電率を調整し、相違点5−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとする動機付けもない。 よって、甲5発明において、フィルムの比誘電率及び誘電正接を調整し、相違点5−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 してみれば、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (特許異議申立人の主張について) 上記相違点5−1に関し、特許異議申立人は、「比誘電率が1.1〜3.0以下」との範囲から比誘電率2.9以下を選択することは容易であり、また、誘電正接に関しては、甲5発明は「周波数1GHzにおける誘電正接が0.002以下」との特定事項を満たすものである旨主張(特許異議申立書p.42、p.103)する。 しかしながら、特許異議申立人が主張する比誘電率や誘電正接の根拠(甲第5号証の【0031】)は、あくまで「液晶性芳香族ポリエステルおよび液晶性芳香族ポリエステル樹脂組成物」の好ましい範囲であり、「フィルム」としたものの比誘電率や誘電正接ではないから、当該記載があることを根拠に、直ちに甲5発明のフィルムの比誘電率や誘電正接が好ましい値になるとまで推認することはできない。 よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 (イ) 本件特許発明3ないし6について 本件特許発明3ないし6はいずれも、本件特許発明1の発明特定事項の全てを有するものである。 そして、本件特許発明1が、甲5発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明3ないし6もまた、甲5発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 申立理由2−5についてのまとめ 上記イのとおりであるから、申立理由2−5の理由では、本件特許発明1及び3ないし6に係る特許を取り消すことはできない。 (6) 申立理由2−6(甲第6号証を主たる証拠とする進歩性)について ア 甲第6号証の記載事項等 (ア) 甲第6号証の記載事項 甲第6号証には、「シールド層付き携帯電話用ケーブル」に関し、次の記載がある。 「【請求項1】 液晶ポリエステル基材からなる誘電体層を有するシールド層付き携帯電話用ケーブルであって、 前記液晶ポリエステル基材を構成する液晶ポリエステルが、以下の式(1)、(2)および(3)で示される構造単位からなり、 これらの式(1)、(2)および(3)に含まれる2価の芳香族基Ar1 、Ar2 およびAr3 の合計を100モル%とするとき、これらの芳香族基の中で2,6−ナフタレンジイル基が40モル%以上含まれていることを特徴とするシールド層付き携帯電話用ケーブル。 (1)−O−Ar1 −CO− (2)−CO−Ar2 −CO− (3)−O−Ar3 −O− (式中、Ar1 は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基および4,4’−ビフェニレン基からなる群から選ばれる1種以上の基を表す。Ar2 、Ar3 は、それぞれ独立に、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基および4,4’−ビフェニレン基からなる群から選ばれる1種以上の基を表す。なお、Ar1 、Ar2 、Ar3 は、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基を置換基として有していてもよい。)」 「【技術分野】 【0001】 本発明は、携帯電話機の筐体内に配線される電気ケーブルであって被覆電線の外周がシールド層で包囲されたもの、つまりシールド層付き携帯電話用ケーブルに関するものである。このシールド層付き携帯電話用ケーブルには、同軸ケーブルが含まれる。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 しかしながら、特許文献1で提案された技術では、ポリアミドとABS樹脂とのポリマーアロイから誘電体層が形成されているため、誘電正接が高くて誘電特性に優れないという課題があった。 【0007】 そこで、本発明は、このような事情に鑑み、同軸ケーブルを含むシールド層付き携帯電話用ケーブルにおいて、誘電特性を改善することを目的とする。」 「【課題を解決するための手段】 【0008】 かかる目的を達成するために、本発明者が鋭意検討したところ、特定の構造を有する液晶ポリエステルが、低い誘電正接を発現することを見出し、本発明を完成するに至った。」 「【0020】 ここで、誘電体層3および保護被覆層6はいずれも、主に液晶ポリエステル基材から構成されている。この液晶ポリエステル基材を構成する液晶ポリエステルは、以下の式(1)、(2)および(3)で示される構造単位からなり、これらの式(1)、(2)および(3)に含まれる2価の芳香族基Ar1 、Ar2 およびAr3 の合計を100モル%とするとき、これらの芳香族基の中で2,6−ナフタレンジイル基が40モル%以上含まれている。 (1)−O−Ar1 −CO− (2)−CO−Ar2 −CO− (3)−O−Ar3 −O− (式中、Ar1 は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基および4,4’−ビフェニレン基からなる群から選ばれる1種以上の基を表す。Ar2 、Ar3 は、それぞれ独立に、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基および4,4’−ビフェニレン基からなる群から選ばれる1種以上の基を表す。なお、Ar1 、Ar2 、Ar3 は、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基を置換基として有していてもよい。) 【0021】 ここで、液晶ポリエステルとは、450℃以下の温度で、溶融時に光学的異方性を示すポリエステルを意味する。このような液晶ポリエステルは、その製造段階で、2,6−ナフタレンジイル基を含むモノマーと、それ以外の芳香環を有するモノマーとを、得られる液晶ポリエステル中において、2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位が40モル%以上になるように、原料モノマーを選択して重合させることで得ることができる。 【0022】 本発明に用いられる液晶ポリエステルにおいては、Ar1 、Ar2 およびAr3 で示される2価の芳香族基の合計を100モル%とするとき、これらの芳香族基の中で2,6−ナフタレンジイル基が、50モル%以上である液晶ポリエステルが好ましく、2,6−ナフタレンジイル基が65モル%以上の液晶ポリエステルがさらに好ましく、2,6−ナフタレンジイル基が70モル%以上の液晶ポリエステルが特に好ましい。」 「【0032】 本発明に用いられる液晶ポリエステルの好ましいモノマーの組み合わせとしては、特開2005−272810号公報に記載された液晶ポリエステルが、耐熱性の向上という観点から好ましい。具体的には、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸の繰り返し構造単位(I)が40〜74.8モル%、ハイドロキノンの繰り返し構造単位(II)が12.5〜30モル%、2,6−ナフタレンジカルボン酸の繰り返し構造単位(III)が12.5〜30モル%およびテレフタル酸の繰り返し構造単位(IV)が0.2〜15モル%であり、かつ(III)および(IV)で表される繰り返し構造単位のモル比が(III)/{(III)+(IV)}≧0.5の関係を満たすものである。 【0033】 より好ましくは、前記の(I)〜(IV)の繰り返し構造単位の合計に対して、(I)の繰り返し構造単位が40〜64.5モル%、(II)の繰り返し構造単位が17.5〜30モル%、(III)の繰り返し構造単位が17.5〜30モル%および(IV)の繰り返し構造単位が0.5〜12モル%であり、かつ(III)および(IV)で表される繰り返し構造単位のモル比が(III)/{(III)+(IV)}≧0.6を満足するものが挙げられる。 【0034】 さらに好ましくは、前記の式(I)〜(IV)の繰り返し構造単位の合計に対して、(I)の繰り返し構造単位が50〜58モル%、(II)の繰り返し構造単位が20〜25モル%、(III)の繰り返し構造単位が20〜25モル%および(IV)の繰り返し構造単位が2〜10モル%であり、かつ(III)および(IV)で表される繰り返し構造単位のモル比が(III)/{(III)+(IV)}≧0.6を満足するものが挙げられる。」 「【0061】 この誘電体層3および保護被覆層6の液晶ポリエステルフィルムを製造する際には、溶融押出成形法が採用される。その具体的方法としては、例えば、液晶ポリエステルを押出機で溶融混練し、Tダイを通して押し出した溶融樹脂を巻き取り機の方向(長手方向)に延伸しながら巻き取って一軸配向フィルムを得る方法や、後述の二軸延伸フィルムを得る方法、円筒形のダイから押し出した溶融体シートをインフレーション法で成膜してインフレーションフィルムを得る方法などが挙げられる。」 「【0082】 また、誘電体層3および保護被覆層6の液晶ポリエステルフィルムを製造する際には、上述した溶融押出成形法に代えて、溶媒キャスト法を採用することもできる。すなわち、液晶ポリエステルを溶媒(有機溶媒であると無機溶媒であるとを問わない。)に溶解して液晶ポリエステル溶液を調製し、この液晶ポリエステル溶液から溶媒を除去することにより、液晶ポリエステルフィルムを得るようにしても構わない。 【0083】 ここで用いる溶媒は、非プロトン性溶媒であってもよく、プロトン性溶媒であってもよく、両者の混合溶媒であっても構わない。 【0084】 非プロトン性溶媒としては、例えば、塩化メチレン、1−クロロブタン、クロロベンゼン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、1,1,2,2−テトラクロロエタンなどのハロゲン系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、 1,4−ジオキサンなどのエーテル系溶媒、アセトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、酢酸エチルなどのエステル系溶媒、γ−ブチロラクトンなどのラクトン系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒、トリエチルアミン、ピリジンなどのアミン系溶媒、アセトニトリル、サクシノニトリルなどのニトリル系溶媒、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒、ニトロメタン、ニトロベンゼンなどのニトロ系溶媒、ジメチルスルホキシド、スルホランなどのスルフィド系溶媒、ヘキサメチルリン酸アミド、トリn−ブチルリン酸などのリン酸系溶媒が挙げられる。」 「<実施例2> 【0097】 攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)、ハイドロキノン272.52g(2.475モル、0.225モル過剰仕込み)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、無水酢酸1226.87g(12.0モル)および触媒として1−メチルイミダゾール0.17gを添加し、室温で15分間にわたって攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度(145℃)を保持したまま1時間にわたって攪拌した。 【0098】 次に、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から310℃まで3時間30分間かけて昇温した。同温度(310℃)で3時間保温して液晶ポリエステルを得た。こうして得られた液晶ポリエステルを室温まで冷却した後、粉砕機で粉砕して、粒子径が約0.1〜1mmの粉末状の液晶ポリエステル(プレポリマー)を得た。 【0099】 こうして得られたプレポリマーを25℃から250℃まで1時間かけて昇温した後、同温度(250℃)から293℃まで5時間かけて昇温し、次いで、同温度(293℃)で5時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却し、粉末状の液晶ポリエステルを得た。この液晶ポリエステルにおいて、実質的な共重合モル分率は、前記の式(1)で示される構造単位:前記の式(2)で示される構造単位:前記の式(3)で示される構造単位で表して、55.0モル%:22.5モル%:22.5モル%である。また、この液晶ポリエステルにおいて、これらの構造単位に含まれる芳香族基の合計に対する2,6−ナフタレンジイル基の共重合モル分率は72.5モル%である。 【0100】 この液晶ポリエステルを用いて、厚さ50μmの液晶ポリエステルフィルムを作製した。すなわち、この液晶ポリエステルの粉末を一軸押出機(スクリュー径50mm)内で溶融し、その一軸押出機の先端のTダイ(リップ長さ300mm、リップクリアランス1mm、ダイ温度350℃)よりフィルム状に押し出して冷却し、厚さ50μmの液晶ポリエステルフィルムを作製した。」 (イ) 甲第6号証に記載された発明 上記(ア)の記載、特に実施例2の記載を中心に整理すると、甲第6号証には次の発明が記載されていると認める。 「2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)、ハイドロキノン272.52g(2.475モル、0.225モル過剰仕込み)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、無水酢酸1226.87g(12.0モル)および触媒として1−メチルイミダゾール0.17gを用い、粉末状の液晶ポリエステルを得、 この液晶ポリエステルの粉末を一軸押出機(スクリュー径50mm)内で溶融し、その一軸押出機の先端のTダイ(リップ長さ300mm、リップクリアランス1mm、ダイ温度350℃)よりフィルム状に押し出して冷却し得た、厚さ50μmの液晶ポリエステルフィルム。」(以下、「甲6発明」という。) イ 対比・判断 (ア) 本件特許発明1について 本件特許発明1と甲6発明とを対比する。 甲6発明の液晶ポリエステルフィルムは、「2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)、ハイドロキノン272.52g(2.475モル、0.225モル過剰仕込み)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)」を構造単位として含むものであり、そのうち、ナフタレン構造を含む構造単位(2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸)の割合は、(5.5+1.75)/(5.5+2.25+1.75+0.5)=72.5%と計算される。 また、甲6発明の液晶ポリエステルフィルムは、液晶ポリエステルの原料から見て、熱可塑性樹脂であることも明らかである。 すると、甲6発明の液晶ポリエステルフィルムは、本件特許発明1の「熱可塑性樹脂を含み、」「前記熱可塑性樹脂が液晶ポリエステルであり、前記液晶ポリエステルが、ナフタレン構造を含む構造単位を有し、前記ナフタレン構造を含む構造単位の含有量が、前記液晶ポリエステル中の構造単位の合計量100モル%に対して60モル%以上である、」との特定事項を満たす。 以上の点をふまえると、本件特許発明1と甲6発明との間の一致点、相違点は次のとおりである。 (一致点) 「熱可塑性樹脂を含み、 前記熱可塑性樹脂が液晶ポリエステルであり、前記液晶ポリエステルが、ナフタレン構造を含む構造単位を有し、前記ナフタレン構造を含む構造単位の含有量が、前記液晶ポリエステル中の構造単位の合計量100モル%に対して60モル%以上である、フィルム。」 (相違点) ・相違点6−1 フィルムの比誘電率及び誘電正接に関し、本件特許発明1は「周波数1GHzにおける比誘電率が2.9以下」及び「周波数1GHzにおける誘電正接が0.002以下」と特定するのに対し、甲6発明にはそのような特定がない点。 ・相違点6−2 フィルムの分子配向度(MOR)に関し、本件特許発明1は「マイクロ波配向計で測定した分子配向度(MOR)の値が1〜1.1の範囲」と特定するのに対し、甲6発明にはそのような特定がない点。 上記相違点について検討する。 ・相違点6−1について 甲第6号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲6発明のフィルムの比誘電率を調整し、相違点6−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとする動機付けもない。 よって、甲6発明において、フィルムの比誘電率及び誘電正接を調整し、相違点6−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 してみれば、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲6発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (特許異議申立人の主張について) なお、この点について、特許異議申立人は、甲6発明は、本件特許の実施例1と同じ成分・製法で製造されたプレポリマーを用いたものであって、その後の製膜法に関する違いはあるものの、本件特許発明1と同様の方法で測定を行った場合には、大差のない誘電特性が得られ、相違点6−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満足する蓋然性が高い旨主張(異議申立書p.104−105)する。 しかしながら、測定試料の調製条件が明らかに異なるものである(フィルムの製膜法が異なることは特許異議申立人も認めているとおりである。)から、用いている原料(成分)が同じであることのみから、比誘電率や誘電正接が同じである蓋然性が高いということはできない。 よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 (イ) 本件特許発明2ないし6について 本件特許発明2ないし6はいずれも、本件特許発明1の発明特定事項の全てを有するものである。 そして、本件特許発明1が、甲6発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明2ないし6もまた、甲6発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 申立理由2−6についてのまとめ 上記イのとおりであるから、申立理由2−6の理由では、本件特許発明1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。 (7) 申立理由2−7(甲第7号証を主たる証拠とする進歩性)について ア 甲第7号証の記載事項等 (ア) 甲第7号証の記載事項 甲第7号証には、「芳香族液晶ポリエステルおよびそのフィルムならびにそれらの用途」に関し、次の記載がある。 「【請求項1】 下式(I)、(II)、(III)および(IV)で表される繰り返し構造単位からなり、これら(I)〜(IV)の繰り返し構造単位の合計に対して(I)の繰り返し構造単位が40〜74.8モル%、(II)の繰り返し構造単位が12.5〜30モル%、(III)の繰り返し構造単位が12.5〜30モル%および(IV)の繰り返し構造単位が0.2〜15モル%であり、かつ(III)および(IV)で表される繰り返し構造単位のモル比が(III)/{(III)+(IV)}≧0.5の関係を満たす芳香族液晶ポリエステル。 (ここで、Ar1およびAr2はそれぞれ独立に1,4−フェニレン、またはパラ位でつながるフェニレン数2以上の二価の残基から選ばれる基である。)」 「【技術分野】 【0001】 本発明は、芳香族液晶ポリエステルおよびそのフィルムならびにそれらの用途に関する。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 従来知られた芳香族液晶ポリエステルはフィルム加工性に劣ることが多く、フィルム加工性のよいものは耐熱性といった基本物性において不十分なものとなることが多かった。こうした状況の中で、該特許文献1記載のフィルムは耐熱性とフィルム加工性とのバランスに優れてはいたが、誘電損失は十分小さいとはいえなかった。本発明の目的は、耐熱性とフィルム加工性のバランスに優れ、誘電損失が小さい芳香族液晶ポリエステルフィルム、その調製に用いられる芳香族液晶ポリエステル、およびそれらの用途を提供することにある。」 「【0009】 本発明の芳香族液晶ポリエステルは、より好ましくは前記の式(I)〜(IV)の繰り返し構造単位の合計に対して(I)の繰り返し構造単位が40〜64.5モル%、(II)の繰り返し構造単位が17.5〜30モル%、(III)の繰り返し構造単位が17.5〜30モル%および(IV)の繰り返し構造単位が0.5〜12モル%であり、かつ(III)および(IV)で表される繰り返し構造単位のモル比が(III)/{(III)+(IV)}≧0.6を満足するものが耐熱性およびフィルム加工性に優れることから好ましい。 さらに好ましくは前記の式(I)〜(IV)の繰り返し構造単位の合計に対して(I)の繰り返し構造単位が50〜58モル%、(II)の繰り返し構造単位が20〜25モル%、(III)の繰り返し構造単位が20〜25モル%および(IV)の繰り返し構造単位が2〜10モル%であり、かつ(III)および(IV)で表される繰り返し構造単位のモル比が(III)/{(III)+(IV)}≧0.6を満足するものが挙げられる。 (I)の繰り返し構造単位が40モル%未満では、芳香族液晶ポリエステルが溶融時に光学的異方性を示さない傾向があり、74.8モル%を超えると、芳香族液晶ポリエステルの溶融時の粘度が上昇し加工性が低下する傾向がある。また、(II)の繰り返し構造単位が30モル%を超えると、芳香族液晶ポリエステルが溶融時に光学的異方性を示さない傾向があり、12.5モル%未満であると芳香族液晶ポリエステルの溶融時の粘度が上昇し加工性が低下する傾向がある。また、(III)の繰り返し構造単位が30モル%を超えると、芳香族液晶ポリエステルが溶融時に光学的異方性を示さない傾向があり、12.5モル%未満であると芳香族液晶ポリエステルの溶融時の粘度が上昇し加工性が低下する傾向がある。また、(IV)の繰り返し構造単位が12モル%を超えたり、0.5モル%未満であると芳香族液晶ポリエステルの誘電損失が大きくなる傾向がある。さらに、(III)/{(III)+(IV)}の値が0.5未満では、芳香族液晶ポリエステルの誘電損失が大きくなる傾向がある。」 「【0064】 実施例1 攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸940.90g(5.0モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル512.08g(2.75モル、0.25モル過剰に使用。)、2,6−ナフタレンジカルボン酸497.24g(2.3モル)、テレフタル酸33.23g(0.2モル)、無水酢酸1179.14(11.5モル)および触媒として1−メチルイミダゾール0.198gを添加し、室温で15分間攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度を保持したまま1時間攪拌し、触媒である1−メチルイミダゾール5.94gをさらに添加した。 【0065】 次に、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から310℃まで3時間30分かけて昇温した。同温度で2時間10分保温して芳香族ポリエステルを得た。得られた芳香族ポリエステルを室温に冷却し、粉砕機で粉砕して、芳香族ポリエステルの粉末(粒子径は約0.1mm〜約1mm)を得た。 この粉末(芳香族液晶ポリエステル)についてフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、273℃であった。 【0066】 得られた粉末を25℃から250℃まで1時間かけて昇温したのち、同温度から325℃まで10時間かけて昇温し、次いで同温度で12時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却し、冷却後の粉末(芳香族液晶ポリエステル)をフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、335℃であった。」 「【0070】 実施例5 実施例1と同様の反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)、ハイドロキノン272.52g(2.475モル、0.225モル過剰に使用。)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、無水酢酸1226.87(11.9モル)および触媒として1−メチルイミダゾール0.17gを添加し、室温で15分間攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度を保持したまま1時間攪拌した。 次に、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から310℃まで3時間30分かけて昇温した。同温度で3時間保温して芳香族液晶ポリエステルを得た。得られた芳香族液晶ポリエステルを室温に冷却し、粉砕機で粉砕して、芳香族液晶ポリエステルの粉末(粒子径は約0.1mm〜約1mm)を得た。 この粉末(芳香族液晶ポリエステル)についてフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、261℃であった。 得られた粉末を25℃から250℃まで1時間かけて昇温したのち、同温度から315℃まで5時間かけて昇温し、次いで同温度で3時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却し、冷却後の粉末(芳香族液晶ポリエステル)をフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、330℃であった。」 「【0076】 実施例1〜7、比較例1〜3において固相重合して得られた芳香族液晶ポリエステルの粉末を、それぞれ一軸押し出し機(スクリュー径50mm)内で溶融し、その押し出し機先端のTダイ(リップ長さ300mm、リップクリアランス1mm、ダイ温度360℃)より、ドラフト比4の条件でフィルム状に押し出し、冷却して厚さ250μmの芳香族液晶ポリエステルフィルムを得た。このフィルム加工工程で溶融状態の張力が優れ連続的にフィルムが得られた場合は○、フィルムは得られたがフィルム加工時に溶融状態の張力が低いため連続的にフィルムが得られなかったものは△とした。 得られたフィルムのそれぞれについて、誘電率、誘電損失をヒューレットパッカード(株)製インピーダンス・マテリアルアナライザーにより測定した。 得られたフィルムのそれぞれについて、280℃のH60Aハンダ(スズ60%、鉛40)に120秒浸漬し、フィルムの耐発泡性(ブリスター)を調べた。発泡が見られない場合を○とした。 実施例1〜7及び比較例1〜3の条件及び結果について、表1に取りまとめた。 【0077】 【表1】 【0078】 表1中の略号の説明 POB:p−ヒドロキシ安息香酸 BON:2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸 DOD:4,4’−ジヒドロキシビフェニル HQ:ハイドロキノン NDCA:2,6−ナフタレンジカルボン酸 TPA:テレフタル酸 IPA:イソフタル酸 NI:1−メチルイミダゾール」 (イ) 甲第7号証に記載された発明 上記(ア)の記載、特に実施例5の芳香族液晶ポリエステルの粉末を用いて得られた芳香族液晶ポリエステルフィルム(【0076】)に着目して整理すると、甲第7号証には次の発明が記載されていると認める。 「2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)、ハイドロキノン272.52g(2.475モル、0.225モル過剰に使用。)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、無水酢酸1226.87(11.9モル)および触媒として1−メチルイミダゾール0.17gを用い、芳香族液晶ポリエステルの粉末を得、 得られた芳香族液晶ポリエステルの粉末を、それぞれ一軸押し出し機(スクリュー径50mm)内で溶融し、その押し出し機先端のTダイ(リップ長さ300mm、リップクリアランス1mm、ダイ温度360℃)より、ドラフト比4の条件でフィルム状に押し出し、冷却して得られた、厚さ250μmの芳香族液晶ポリエステルフィルム。」(以下、「甲7発明」という。) イ 対比・判断 (ア) 本件特許発明1について 本件特許発明1と甲7発明とを対比する。 甲7発明の芳香族液晶ポリエステルフィルムは、「2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)、ハイドロキノン272.52g(2.475モル、0.225モル過剰に使用。)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)」を液晶ポリエステルの構造単位として含むものであり、そのうち、ナフタレン構造を含む構造単位(2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸)の割合は、(5.5+1.75)/(5.5+2.25+1.75+0.5)=72.5%と計算される。 また、甲7発明の芳香族液晶ポリエステルフィルムは、芳香族液晶ポリエステルの原料から見て、熱可塑性樹脂であることも明らかである。 すると、甲7発明の芳香族液晶ポリエステルフィルムは、本件特許発明1の「熱可塑性樹脂を含み、」「前記熱可塑性樹脂が液晶ポリエステルであり、前記液晶ポリエステルが、ナフタレン構造を含む構造単位を有し、前記ナフタレン構造を含む構造単位の含有量が、前記液晶ポリエステル中の構造単位の合計量100モル%に対して60モル%以上である、」との特定事項を満たす。 以上の点をふまえると、本件特許発明1と甲6発明との間の一致点、相違点は次のとおりである。 (一致点) 「熱可塑性樹脂を含み、 前記熱可塑性樹脂が液晶ポリエステルであり、前記液晶ポリエステルが、ナフタレン構造を含む構造単位を有し、前記ナフタレン構造を含む構造単位の含有量が、前記液晶ポリエステル中の構造単位の合計量100モル%に対して60モル%以上である、フィルム。」 (相違点) ・相違点7−1 フィルムの比誘電率及び誘電正接に関し、本件特許発明1は「周波数1GHzにおける比誘電率が2.9以下」及び「周波数1GHzにおける誘電正接が0.002以下」と特定するのに対し、甲7発明にはそのような特定がない点。 ・相違点7−2 フィルムの分子配向度(MOR)に関し、本件特許発明1は「マイクロ波配向計で測定した分子配向度(MOR)の値が1〜1.1の範囲」と特定するのに対し、甲7発明にはそのような特定がない点。 上記相違点について検討する。 ・相違点7−1について 甲第7号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲7発明のフィルムの比誘電率及び誘電正接を調整し、相違点7−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとする動機付けもない。 よって、甲7発明において、フィルムの比誘電率及び誘電正接を調整し、相違点7−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 してみれば、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲7発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (特許異議申立人の主張について) なお、この点について、特許異議申立人は、甲7発明は、本件特許の実施例1と同じ成分・製法で製造されたポリマーを用いたものであって、その後の製膜法に関する違いはあるものの、本件特許発明1と同様の方法で測定を行った場合には、大差のない誘電特性が得られ、相違点7−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満足する蓋然性が高い旨主張(異議申立書p.106)する。 しかしながら、測定試料の調製条件が明らかに異なるものであるし、フィルムの製膜法も異なるものであるから、用いている原料(成分)が同じであることのみから、比誘電率や誘電正接が同じである蓋然性が高いということはできない。 よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 (イ) 本件特許発明2ないし6について 本件特許発明2ないし6はいずれも、本件特許発明1の発明特定事項の全てを有するものである。 そして、本件特許発明1が、甲7発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明2ないし6もまた、甲7発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 申立理由2−7についてのまとめ 上記イのとおりであるから、申立理由2−7の理由では、本件特許発明1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。 (8) 申立理由1−4及び2−8(甲第34号証を主たる証拠とする新規性・進歩性)について ア 甲第34号証の記載事項等 (ア) 甲第34号証の記載事項 甲第34号証には、「熱可塑性液晶ポリマーフィルムおよびそれを用いた回路基板」に関し、次の記載がある。 「【請求項1】 光学的に異方性の溶融相を形成し得る熱可塑性ポリマー(以下、これを熱可塑性液晶ポリマーと称する)からなる熱可塑性ポリマーフィルムであって、前記熱可塑性ポリマーは、 下記式(1): 【化1】 (式中、a、b、c、dは、互いに独立に0または1である。ただし、a+b=1、c+d=1であって、bおよびcが同時に0になることはない。) で示される構造単位を、熱可塑性液晶ポリマーを構成する全構造単位中、30〜90モル%含むとともに、 前記フィルムにおいて、25℃、15GHzでの誘電率の面内での変動係数C(%)が、下記式: C=σ/εave×100≦1 (ここで、C:変動係数、σ:標準偏差、εave:平均値を示す。) を満たす、熱可塑性液晶ポリマーフィルム。」 「【技術分野】 【0001】 本発明は、光学的異方性の溶融相を形成し得る熱可塑性ポリマーからなるフィルム(以下、熱可塑性液晶ポリマーフィルムと称する)に関し、特にマイクロ波・ミリ波(例えば、10GHz〜300GHz、好ましくは30GHz〜300GHz)で用いられる回路基板として有用な熱可塑性液晶ポリマーフィルムに関する。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0007】 一般に、誘電正接は温度依存性であり、温度が高くなると誘電正接も上昇する。特許文献1には面内の誘電率ばらつきを抑制した熱可塑性液晶ポリマーフィルムの記載はあるも のの、このフィルムが高温下で低い誘電正接を維持できることについては何ら記載されていない。 【0008】 例えば、ミリ波レーダでは、基板上のICチップの発熱や、外部(例えばエンジン)に由来する熱により、高温(例えば、120℃)となる場合がある。したがって、そのような高温下においても誘電正接の上昇を抑制できる熱可塑性液晶ポリマーフィルムが求められている。 【0009】 従って、本発明の目的は、高温下における誘電正接が低減された熱可塑性液晶ポリマーフィルムを提供することにある。 【0010】 本発明の他の目的は、マイクロ波・ミリ波アンテナを製造するのに好適な熱可塑性液晶ポリマーフィルムを提供することにある。」 「【課題を解決するための手段】 【0011】 本発明の発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、(1)誘電率の面内均一性を高めたフィルムであっても、高温下では分子の運動が激しくなるために、温度が上昇するにつれ増加する誘電損に由来して誘電正接が上昇してしまうことを見出し、(2)さらに、熱可塑性液晶ポリマー中の永久双極子を構成するカルボニル基に着目し、その配向性および回転性を検討したところ、(3)カルボニル基に結合する芳香族環をナフタレン環とする構造単位を液晶ポリマーの全構造単位の中で所定の範囲にすることにより、高温下であっても誘電損が発生するのを抑制できるためか、誘電率の面内均一性に優れるとともに、高温下での誘電正接が低減された熱可塑性液晶ポリマーフィルムを見出し、本発明の完成に至った。」 「【0065】 (熱膨張係数) 本発明の熱可塑性液晶ポリマーフィルムでは、熱膨張係数0〜25ppm/℃を有しており、熱膨張係数は、好ましくは5〜22ppm/℃程度であってもよい。なお、熱膨張係数は、後述する実施例に記載した方法により測定される値である。本発明の熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、熱膨張係数を熱処理に応じて変化させることができるため、幅広い範囲の熱膨張係数とすることができ、例えば、回路基板として用いる場合、相手側の材料の熱膨張係数にあわせることが可能である。 【0066】 (厚み) 本発明の熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、用途に応じて任意の厚みであってよく、そして、5mm以下の板状またはシート状のものをも包含する。例えば、高周波伝送線路に使用する場合は、厚みが厚いほど伝送損失が小さくなるので、できるだけ厚みを厚くするのが好ましい。一方で、回路基板の電気絶縁層として熱可塑性液晶ポリマーフィルムを単独で用いる場合、そのフィルムの膜厚は、10〜500μmの範囲内にあることが好ましく、15〜200μmの範囲内がより好ましい。フィルムの厚さが薄過ぎる場合には、フィルムの剛性や強度が小さくなることから、フィルム膜厚10〜200μmの範囲のフィルムを積層させて任意の厚みを得る方法を使用してもよい。」 「【実施例】 【0075】 以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は本実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例においては、下記の方法により各種物性を測定した。 ・・・(略)・・・ 【0077】 [面内における誘電率の変動係数C(%)] 王子計測機器(株)製分子配向計「MOA6015」を用いて、TD方向、MD方向のそれぞれにおいて採取した各サンプル(70個)について、25℃、15GHzでの誘電率を測定した。また、測定の際に入力する膜厚は、上述した膜厚を採用した。」 「【0082】 [実施例1] (1)熱可塑性液晶ポリマーの作製 2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(55モル%)、ハイドロキノン272.52g(ポリマー中の組成としては22.5モル%)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(17.5モル%)、テレフタル酸83.07g(5モル%)、および無水酢酸1226.87gを投入し、アセチル化(145℃、還流下約1時間)後、0.78℃/分で昇温し310℃で保持し、同温度で3時間保温して芳香族液晶ポリエステルを得た。得られた芳香族液晶ポリエステルを室温に冷却後、粉砕して粉末(粒子径は約0.1mm〜約1mm)を得て、この粉末を3.75℃/分で250℃まで昇温した後、0.21℃/分で昇温し315℃で3時間保温して固相重合させた後、二軸押出機を用いて340℃で造粒して、ペレットを得た。 得られたポリマーは、式(1)の構成成分72.5モル%の共重合物で、融点が320℃、340℃におけるせん断速度1000s−1の溶融粘度75Pa・sであった。 (2)原反熱可塑性液晶ポリマーフィルムの作製 前記(1)で得られた熱可塑性液晶ポリマーを単軸押出機で加熱混練し、環状インフレーションダイ(ダイ直径46.0mm、ダイスリット間隔800μm)から、ドロー比2.5、ブロー比4.0で溶融押出し、膜厚100μmの原反フィルムを作製した。 (3)熱可塑性液晶ポリマーフィルムの作製 支持体として、厚さ50μmのアルミニウム箔を用い、連続熱ロールプレス装置に耐熱ゴムロール(硬さ90度)と、加熱金属ロールを取り付け、耐熱ゴムロール面に熱可塑性液晶ポリマーフィルム原反が、加熱金属ロール面にアルミニウム箔が接触するようにロール間に供給し、260℃の加熱状態で圧力10kg/cm2で圧着して、熱可塑性液晶ポリマーフィルム/アルミニウムの構成の積層板を作製した。続いて、炉内において、左側、中央、右側をそれぞれ表に示す所定の温度に精密に制御した炉長1.5mの熱風循環式熱処理炉に、前記積層板を3m/分の速度で加熱処理し、熱処理後の積層板を得た。続いて、炉内において、前記積層板を315℃で加熱処理し、熱処理後の積層板を得た。得られた積層板において、フィルムを支持体に対して180°の角度で剥がし、熱可塑性液晶ポリマーフィルムを得た。 得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルムの物性を表6に示す。」 「【0087】 【表6】 【0088】 【表7】 」 (イ) 甲第34号証に記載された発明 上記(ア)の記載、特に実施例1について整理すると、甲第34号証には次の発明が記載されていると認める。 「2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(55モル%)、ハイドロキノン272.52g(ポリマー中の組成としては22.5モル%)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(17.5モル%)、テレフタル酸83.07g(5モル%)、および無水酢酸1226.87gを用い、熱可塑性液晶ポリマーである芳香族液晶ポリエステルのペレットを得、 得られた熱可塑性液晶ポリマーを単軸押出機で加熱混練し、環状インフレーションダイ(ダイ直径46.0mm、ダイスリット間隔800μm)から、ドロー比2.5、ブロー比4.0で溶融押出し、膜厚100μmの原反フィルムを作製し、 次いで、支持体として、厚さ50μmのアルミニウム箔を用い、連続熱ロールプレス装置に耐熱ゴムロール(硬さ90度)と、加熱金属ロールを取り付け、耐熱ゴムロール面に熱可塑性液晶ポリマーフィルム原反が、加熱金属ロール面にアルミニウム箔が接触するようにロール間に供給し、260℃の加熱状態で圧力10kg/cm2で圧着して、熱可塑性液晶ポリマーフィルム/アルミニウムの構成の積層板を作製し、続いて、炉内において、左側、中央、右側をそれぞれ下記表の実施例1の炉温度の欄に示す所定の温度に精密に制御した炉長1.5mの熱風循環式熱処理炉に、前記積層板を3m/分の速度で加熱処理し、熱処理後の積層板を得、続いて、炉内において、前記積層板を315℃で加熱処理し、熱処理後の積層板を得、得られた積層板において、フィルムを支持体に対して180°の角度で剥がし、得られた、熱可塑性液晶ポリマーフィルム。 」(以下、「甲34発明」という。) イ 対比・判断 (ア) 本件特許発明1について 本件特許発明1と甲34発明とを対比する。 甲34発明の熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、「2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(55モル%)、ハイドロキノン272.52g(ポリマー中の組成としては22.5モル%)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(17.5モル%)、テレフタル酸83.07g(5モル%)」を構造単位として含むものであり、そのうち、ナフタレン構造を含む構造単位(2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸)の割合は、(55+17.5)/(55+22.5+17.5+5)=72.5%と計算される。 すると、甲34発明の液晶ポリエステルフィルムは、本件特許発明1の「熱可塑性樹脂を含み、」「前記熱可塑性樹脂が液晶ポリエステルであり、前記液晶ポリエステルが、ナフタレン構造を含む構造単位を有し、前記ナフタレン構造を含む構造単位の含有量が、前記液晶ポリエステル中の構造単位の合計量100モル%に対して60モル%以上である、」との特定事項を満たす。 以上の点をふまえると、本件特許発明1と甲34発明との間の一致点、相違点は次のとおりである。 (相違点) ・相違点34−1 フィルムの比誘電率及び誘電正接に関し、本件特許発明1は「周波数1GHzにおける比誘電率が2.9以下」及び「周波数1GHzにおける誘電正接が0.002以下」と特定するのに対し、甲34発明にはそのような特定がない点。 ・相違点34−2 フィルムの分子配向度(MOR)に関し、本件特許発明1は「マイクロ波配向計で測定した分子配向度(MOR)の値が1〜1.1の範囲」と特定するのに対し、甲34発明にはそのような特定がない点。 上記相違点について検討する。 ・相違点34−1について 甲34発明のフィルムにおける周波数1GHzにおける比誘電率及び誘電正接は不明であるし、また、甲第34号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲34発明のフィルムの比誘電率及び誘電正接が、相違点34−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものと推認する理由もない。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲34発明ではない。 また、甲第34号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲34発明のフィルムの比誘電率及び誘電正接を調整し、相違点34−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとする動機付けもないから、甲34発明において、フィルムの比誘電率及び誘電正接を調整し、相違点34−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 してみれば、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲34発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (イ) 本件特許発明2ないし6について 本件特許発明2ないし6はいずれも、本件特許発明1の発明特定事項の全てを有するものである。 そして、本件特許発明1が、甲34発明ではなく、甲34発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明2ないし6もまた、甲34発明ではなく、甲34発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 ウ 申立理由1−4及び2−8についてのまとめ 上記イのとおりであるから、申立理由1−4及び2−8の理由では、本件特許発明1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。 (9) 申立理由2−10(周知技術を主たる証拠とする進歩性)について 特許異議申立人は、特許異議申立書p.92−94において、甲第11号証、甲第17号証、甲第18号証それぞれから各発明を認定しようとしているが、結局のところ、「周知技術」としていかなる発明を認定し、本件特許発明と対比しようとしているのか理解することができない。 また、提出された全ての証拠の記載を見ても、特定の「周知技術発明」を認定することができない。 よって、具体的に検討するまでもなく、本件特許発明は、周知技術発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって、申立理由2−10の理由では、本件特許発明1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。 (10) 申立理由3(サポート要件)について ア サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 イ 特許請求の範囲の記載 上記第3のとおりである。 ウ サポート要件についての判断 本件特許の発明の課題(以下、「発明の課題」という。)は、「電子部品用フィルムとして好適な品質を有する、フィルム及びその積層体を提供すること」(【0005】)である。 そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、比誘電率及び誘電正接が低く、等方性に優れたフィルム及びその積層体を得ることを可能とし、本発明を完成するに至った」(【0006】)こと、「実施形態のフィルムは、周波数1GHzにおける比誘電率が3以下であり、2.9以下であることが好ましく、2.8以下であることがより好ましく、2.7以下であることがさらに好ましく、2.6以下であることが特に好ましい」(【0012】)こと、「実施形態のフィルムは、周波数1GHzにおける誘電正接が0.005以下であり、0.004以下であることが好ましく、0.003以下であることがより好ましく、0.002以下であることがさらに好ましく、0.001以下であることが特に好ましい」(【0013】)こと、「実施形態のフィルムは、マイクロ波配向計で測定した分子配向度(MOR)の値が1〜1.1の範囲であり、1〜1.08の範囲であることが好ましく、1〜1.06の範囲であることがより好ましく、1〜1.04の範囲であることがさらに好ましい」(【0014】)ことがそれぞれ記載され、さらに、具体的な実施例を通じた効果の検証もある。 これらの記載に接した当業者であれば、フィルムにおいて、「周波数1GHzにおける比誘電率が3以下」であり、「周波数1GHzにおける誘電正接が0.005以下」であり、「マイクロ波配向計で測定した分子配向度(MOR)の値が1〜1.1の範囲」との特定事項を満たすことで、「比誘電率及び誘電正接が低く、等方性に優れたフィルム」(【0006】)を得ることができ、発明の課題を解決できると認識できる。 そして、本件特許発明1ないし6は、上記の発明の課題を解決できると認識できる全ての特定事項を有し、さらに限定するものであるから、当然、発明の課題を解決できると認識できる。 よって、本件特許発明1ないし6はいずれも、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合する。 エ 特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、上記第4 16(1)及び(2)の主張をするが、いずれも、本件特許発明1ないし6において、発明の課題を解決し得ないものとする具体的な証拠を挙げるものではなく、上記ウの判断に影響するものではない。 オ 申立理由3についてのまとめ 上記ウ及びエのとおりであるから、申立理由3の理由では、本件特許発明1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。 (11) 申立理由4(明確性要件)について ア 明確性要件の判断基準 特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 イ 特許請求の範囲の記載 上記第3のとおりである。 ウ 明確性要件についての判断 本件特許発明1は、フィルムが、「熱可塑性樹脂を含」むこと、「前記熱可塑性樹脂が液晶ポリエステルであり、前記液晶ポリエステルが、ナフタレン構造を含む構造単位を有し、前記ナフタレン構造を含む構造単位の含有量が、前記液晶ポリエステル中の構造単位の合計量100モル%に対して60モル%以上である」こと、「周波数1GHzにおける比誘電率が2.9以下」であること、「周波数1GHzにおける誘電正接が0.002以下」であること、「マイクロ波配向計で測定した分子配向度(MOR)の値が1〜1.1の範囲」であることを特定するものであり、その特定事項は明確であり、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 また、本件特許発明2ないし6についても、その特定事項は明確であり、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 エ 特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、上記第4 17(1)及び(2)の主張をするが、(1)については、明細書の発明の詳細な説明の【0164】において試料の調製法及び測定機器が明らかにされているし、(2)については明細書の発明の詳細な説明の【0165】)において試料の調製法及び測定機器が明らかにされているし、フィルム厚についても、実施例で作製されたフィルム厚(300μm)(【0177】)であろうことも、当業者であれば理解できる。 してみれば、特許異議申立人の上記主張はいずれも採用することができない。 オ 申立理由4についてのまとめ 上記ウ及びエのとおりであるから、申立理由4の理由では、本件特許発明1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。 (12) 申立理由5(実施可能要件)について ア 実施可能要件の判断基準 本件特許発明1ないし6は、上記第3のとおり、「物」の発明であるところ、物の発明における実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、例えば、明細書等にその物を生産することができる具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産することができるのであれば、実施可能要件を満たすと言うことができる。 イ 実施可能要件についての判断 本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、比誘電率及び誘電正接が低く、等方性に優れたフィルム及びその積層体を得ることを可能とし、本発明を完成するに至った」(【0006】)こと、「実施形態のフィルムは、熱可塑性樹脂を含み、周波数1GHzにおける比誘電率が3以下であり、周波数1GHzにおける誘電正接が0.005以下であり、マイクロ波配向計で測定した分子配向度(MOR)の値が1〜1.1の範囲であるものである」(【0011】)こと、「フィルムの比誘電率及び誘電正接の値は、熱可塑性樹脂の種類により制御可能である。また、一例として、フィルムの等方性の程度は、フィルムの製造方法により制御可能である」(【0011】)ことがそれぞれ記載されるとともに、具体的な材料の記載(【0020】ないし【0078】)、フィルムの製造方法(【0085】ないし【0099】)の記載があり、具体的な実施例の記載もある。 してみれば、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明1ないし6を実施できる程度に記載されているものと認識できる。 よって、本件特許発明1ないし6に関して、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件に適合する。 ウ 特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、上記第4 18の主張をするが、本件特許発明1ないし6を実施し得ないとする具体的な証拠を挙げるものではないし、各主張はいずれも、上記イの判断に影響するものではない。 エ 申立理由5についてのまとめ 上記イ及びウのとおりであるから、申立理由5の理由では、本件特許発明1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。 第7 結語 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 熱可塑性樹脂を含み、 周波数1GHzにおける比誘電率が2.9以下であり、 周波数1GHzにおける誘電正接が0.002以下であり、 マイクロ波配向計で測定した分子配向度(MOR)の値が1〜1.1の範囲であり、 前記熱可塑性樹脂が液晶ポリエステルであり、前記液晶ポリエステルが、ナフタレン構造を含む構造単位を有し、前記ナフタレン構造を含む構造単位の含有量が、前記液晶ポリエステル中の構造単位の合計量100モル%に対して60モル%以上である、フィルム。 【請求項2】 前記液晶ポリエステルが、下記式(1)で表される構造単位、下記式(2)で表される構造単位、及び下記式(3)で表される構造単位を有する、請求項1に記載のフィルム。 (1)−O−Ar1−CO− (2)−CO−Ar2−CO− (3)−O−Ar3−O− (Ar1は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。 Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、2,6−ナフタレンジイル基、2,7−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基、又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。 Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数6〜20のアリール基で置換されていてもよい。) 【請求項3】 昇温速度5℃/分の条件で50〜100℃の温度範囲において求められた線膨張係数が85ppm/℃以下である、請求項1又は2に記載のフィルム。 【請求項4】 厚さが5〜50μmである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のフィルム。 【請求項5】 金属層と、前記金属層上に積層された請求項1〜4のいずれか一項に記載のフィルムと、を備える積層体。 【請求項6】 前記金属層を構成する金属が銅である、請求項5に記載の積層体。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2024-05-24 |
出願番号 | P2019-141071 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(C08J)
P 1 651・ 113- YAA (C08J) P 1 651・ 536- YAA (C08J) P 1 651・ 537- YAA (C08J) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
加藤 友也 |
特許庁審判官 |
植前 充司 松本 陶子 |
登録日 | 2023-01-13 |
登録番号 | 7210401 |
権利者 | 住友化学株式会社 |
発明の名称 | フィルム及び積層体 |
代理人 | 松沼 泰史 |
代理人 | 加藤 広之 |
代理人 | 松沼 泰史 |
代理人 | ▲高▼梨 航 |
代理人 | 佐藤 彰雄 |
代理人 | 佐藤 彰雄 |
代理人 | 加藤 広之 |
代理人 | ▲高▼梨 航 |