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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
管理番号 1414164
総通号数 33 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-09-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-06-05 
確定日 2024-07-05 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第7184966号発明「脂質燃焼促進剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7184966号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1及び2〕〔3ないし7〕について訂正することを認める。 特許第7184966号の請求項1及び3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 特許第7184966号の請求項2及び4ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7184966号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、
平成28年11月29日を出願日とする特願2016−231758号の一部を、
令和 3年 6月23日に新たな特許出願(特願2021−104141号)としたものであって、
令和 4年11月28日にその特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、
令和 4年12月 6日に特許掲載公報が発行され、
その後、当該特許に対し、
令和 5年 6月 5日に特許異議申立人 石井 宏司(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし7)がされ、
令和 5年 9月29日付けで取消理由が通知され、
令和 5年12月 1日に特許権者(花王株式会社)により訂正請求がされるとともに意見書が提出され、
令和 5年12月22日付けで特許法第120条の5第5項に基づき特許異議申立人に対して訂正請求があった旨の通知がされ、
令和 6年 2月 9日に特許異議申立人より意見書が提出され、
令和 6年 3月22日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、
令和 6年 5月27日に特許権者(花王株式会社)により訂正請求がされるとともに意見書が提出されたものである。

なお、令和 5年12月1日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
また、令和 6年 5月27日にされた訂正請求は、すでに特許異議申立人に意見書の提出の機会が与えられている場合であって、後記のとおり、訂正請求によって特許請求の範囲が相当程度減縮され、事件において提出された全ての証拠や意見等を踏まえてさらに審理を進めたとしても、特許を維持すべきとの結論になると合議体が判断したため、特許異議申立人に対して意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情があるものと判断し、再度の意見書提出の機会を与えないこととした。

第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和 6年 5月27日にされた訂正請求(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に
「1日当たり、体重1kg当たり、前記アラビノキシランを0.025〜0.190g摂取するように用いられる、請求項1記載の脂質燃焼促進剤。」と記載されているのを、独立形式に改め、かつアラビノキシランの摂取量の数値範囲及び摂取する対象を限定し、
「アラビノキシランを有効成分として含有し、当該アラビノキシランの重量平均分子量が50000以上であり、1日当たり、体重1kg当たり、前記アラビノキシランを0.025g以上0.035g未満摂取するようにヒトに用いられる、脂質燃焼剤。」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に、
「1日当たり、体重1kg当たり、前記アラビノキシランを0.025〜0.190g摂取するように用いられる、請求項3記載の脂質燃焼促進用加工食品。」と記載されているのを、独立形式に改め、かつ、アラビノキシランの摂取量の数値範囲及び摂取する対象を限定し、
「アラビノキシランを有効成分として含有し、当該アラビノキシランの重量平均分子量が50000以上であり、1日当たり、体重1kg当たり、前記アラビノキシランを0.025g以上0.035g未満摂取するようにヒトに用いられる、脂質燃焼促進用加工食品。」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に、
「請求項3又は4記載の脂質燃焼促進用加工食品。」と記載されているのを、
「請求項4記載の脂質燃焼促進用加工食品。」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に、
「請求項3〜5のいずれか1項記載の脂質燃焼促進用加工食品。」と記載されているのを、
「請求項4又は5記載の脂質燃焼促進用加工食品。」に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に、
「請求項3〜6のいずれか1項記載の脂質燃焼促進用加工食品。」と記載されているのを、
「請求項4〜6のいずれか1項記載の脂質燃焼促進用加工食品。」に訂正する。

(8)一群の請求項について
訂正前の請求項1及び2について、請求項2は請求項1を引用するものであるから、一群の請求項である。
訂正前の請求項3ないし7について、請求項4ないし7は、請求項3を直接又は間接的に引用するものであるから、一群の請求項である。
よって、訂正前の請求項1及び2に対応する訂正後の請求項1及び2、訂正前の請求項3ないし7に対応する訂正後の請求項3ないし7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

2 訂正の目的、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1による請求項1の訂正について
訂正事項1による請求項1の訂正は、請求項の削除に係るものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1による請求項1の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(2)訂正事項2による請求項2の訂正について
訂正事項2による請求項2の訂正のうち、「アラビノキシランを有効成分として含有し、当該アラビノキシランの重量平均分子量が50000以上であ」る「脂質燃焼促進剤。」とする訂正は、訂正前の請求項2が請求項1を引用する記載であるところ、訂正事項1による請求項1の訂正により請求項1が削除されたことに伴い、請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項に記載を改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明又は第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
また、訂正事項2による請求項2の訂正のうち、「1日当たり、体重1kg当たり、前記アラビノキシランを0.025g以上0.035g未満摂取するように」「ヒトに用いられる」とする訂正は、アラビノキシランの摂取量の数値範囲を、訂正前の請求項2では「0.025〜0.190g」であったものを、訂正後の請求項2において「0.025g以上0.035g未満」とし、かつ、「ヒトに用いられる」ことを特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2による請求項2の訂正は、本件特許明細書【0014】、【0021】及び【0022】の記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(3)訂正事項3による請求項3の訂正について
訂正事項3による請求項3の訂正は、請求項の削除に係るものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3による請求項3の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(4)訂正事項4による請求項4の訂正について
訂正事項4による請求項4の訂正のうち、「アラビノキシランを有効成分として含有し、当該アラビノキシランの重量平均分子量が50000以上であ」る「脂質燃焼促進用加工食品。」とする訂正は、訂正前の請求項4が請求項3を引用する記載であるところ、訂正事項3による請求項3の訂正により請求項3が削除されたことに伴い、請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項に記載を改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明又は第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
また、訂正事項4による請求項4の訂正のうち、「1日当たり、体重1kg当たり、前記アラビノキシランを0.025g以上0.035g未満摂取するように」「ヒトに用いられる」とする訂正は、アラビノキシランの摂取量の数値範囲を、訂正前の請求項4では「0.025〜0.190g」であったものを、訂正後の請求項4において「0.025g以上0.035g未満」とし、「ヒトに用いられる」ことを特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項4による請求項4の訂正は、本件特許明細書【0014】、【0021】及び【0022】の記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(5)訂正事項5ないし7による請求項5ないし7の訂正について
訂正事項5ないし7による請求項5ないし7の訂正は、請求項5ないし7の引用請求項から請求項3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項5ないし7による請求項5ないし7の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法126条第6項に適合するものである。

3 むすび
以上のとおり、訂正事項1ないし7による請求項1ないし7の訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号、第4号に掲げる事項を目的とするものである。
また、訂正事項1ないし7による請求項1ないし7の訂正は、いずれも特許法第120条の5第9項において準用する特許法第126条第5及び6項の規定に適合する。
訂正前の請求項1及び2、並びに、請求項3ないし7は一群の請求項に該当するものであり、訂正事項1及び2による請求項1及び2の訂正、及び、訂正事項3ないし7による請求項3ないし7の訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項毎にされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
さらに、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし7に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1及び2〕〔3ないし7〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
アラビノキシランを有効成分として含有し、当該アラビノキシランの重量平均分子量が50000以上であり、1日当たり、体重1kg当たり、前記アラビノキシランを0.025g以上0.035g未満摂取するようにヒトに用いられる、脂質燃焼促進剤。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
アラビノキシランを有効成分として含有し、当該アラビノキシランの重量平均分子量が50000以上であり、1日当たり、体重1kg当たり、前記アラビノキシランを0.025g以上0.035g未満摂取するようにヒトに用いられる、脂質燃焼促進用加工食品。
【請求項5】
脂肪の燃焼を亢進する旨の表示が付された、請求項4記載の脂質燃焼促進用加工食品。
【請求項6】
脂肪の代謝を高める旨の表示が付された、請求項4又は5記載の脂質燃焼促進用加工食品。
【請求項7】
内臓脂肪を低減する旨の表示が付された、請求項4〜6のいずれか1項記載の脂質燃焼促進用加工食品。」

第4 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由について
令和 5年 6月 5日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

1 申立理由1(甲第3号証に基づく新規性進歩性
本件特許発明1ないし7は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第3号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

2 申立理由2(甲第4号証に基づく新規性進歩性
本件特許発明1、3及び5ないし7は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許発明1ないし7は、甲第4号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

3 申立理由3(甲第7号証に基づく進歩性
本件特許発明1及び3は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第7号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1及び3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

4 申立理由4(甲第9号証に基づく新規性進歩性
本件特許発明1及び3は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第9号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第9号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1及び3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

5 申立理由5(甲第10号証に基づく新規性進歩性
本件特許発明1及び3は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第10号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第10号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1及び3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

6 申立理由6(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

・請求項1ないし7の「脂質燃焼促進剤」又は「脂質燃焼促進用加工食品」は、重量平均分子量が50000以上であるアラビノキシランを有効成分として含有する旨が規定されている。これは、本件特許明細書【0011】によれば、あくまでも「小麦ふすまを有効成分として含有する」「第1実施形態の剤」とは異なる「第2実施形態の剤」に相当する。
一方で、本件特許明細書【0014】によれば、当該「第2実施形態の剤」には「小麦ふすまを配合する」場合も含まれており、本件特許明細書【0018】によれば「脂質燃焼促進剤が配合された飲食品」には「アラビノキシランとして小麦ふすまを含有する」旨の表示が付されていてもよいことが記載されており、「小麦ふすま」をそのまま直接配合した場合も含まれる。
そうすると、請求項1ないし7の、重量平均分子量が50000以上であるアラビノキシランを含有する脂質燃焼促進剤又は脂質燃焼促進用加工食品として、「小麦ふすま」を有効成分として含有する場合が含まれてしまうか否かが、本件特許明細書の記載からは不明確である。

7 証拠方法
甲第1号証:日本調理科学会誌 Vol.49,No.5,p.297-302(2016).11.01〔総説〕,2016年11月1日,一般社団法人日本調理科学会
甲第2号証:長尾精一著,食物と健康の科学シリーズ「小麦の機能と科学」,2014年9月10日,朝倉書店
甲第3号証:Zhong X Lu,et.al.,Am.J.Clin.Nutr.,(2000),Vol.71,p.1123-1128,https://academic.oup.com/ajcn/article-abstract/71/5/1123/4729190
甲第4号証:Kirstine L.Christensen,et.al.,J.Agric.Food Chem.,2013,61,7760-7768
甲第5号証:植木浩二郎,低炭水化物ダイエットによる体重減少メカニズム,実験医学増刊,Vol.34,No.2(2016)
甲第6号証:Mark A.Pereira,et.al.,Pediatric Clinics of North America,Vol.48,Issue 4,1 August (2001),p.969-980
甲第7号証:Audrey M.Neyrinck,et.al.,PLoS ONE,June2011,Vol.6,Issue6,e20944,http://hdl.handle.net/2078.1/104650
甲第8号証:物部真奈美等,「日本食品科学工学会誌」,2008年,55巻,5号,p.245-249,https://doi.org/10.3136/nskkk.55.245
甲第9号証:国際公開第2008/111651号
甲第10号証:特開2014−140364号公報
参考文献1:ジャクソン・ラボラトリー・ジャパン「体重データ JAX(R) Mice Strain C57BL/6J」(当審注:(R)は○囲みにR)、
URL:https://wwww.jax.or.jp>pdf>product>information

なお、参考文献1は令和 6年 2月 9日提出の意見書に添付されたものである。
証拠の表記は特許異議申立書及び令和 6年 2月 9日提出の意見書の記載におおむね従った。
以下、順に「甲1」等という。

第5 令和 6年 3月22日付け取消理由<決定の予告>に記載した取消理由の概要
当審が令和 6年 3月22日付けで通知した取消理由<決定の予告>(以下、「取消理由<決定の予告>」という。)の概要は次のとおりである。

1 取消理由3(甲3に基づく進歩性
本件特許発明2及び4ないし7は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項2及び4ないし7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

2 取消理由4(甲4に基づく進歩性
本件特許発明2及び4ないし7は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲4に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項2及び4ないし7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

3 取消理由5(甲7に基づく進歩性
本件特許発明2及び4ないし7は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲7に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項2及び4ないし7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

第6 当審の判断
以下に述べるように、取消理由<決定の予告>における取消理由3ないし5はいずれも理由がないものと判断する。

1 取消理由3(甲3に基づく進歩性)について
(1)甲1の記載事項
甲1には「穀類に含まれる食物繊維の特徴について」以下の事項が記載されている。



(2)甲2の記載事項
甲2には「小麦の機能と科学」として以下の事項が記載されている。


(3)甲3の記載事項等
ア 甲3の記載事項
甲3には、「Arabinoxylan fiber」(訳:アラビノキシラン繊維)に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、甲3は外国語文献のため、抄訳を摘記する。






(図2)


イ 甲3に記載された発明
甲3に記載された事項を、第1123頁の試験及び結果を中心に整理すると、甲3には次の発明(以下、「甲3発明a」「甲3発明b」という。)が記載されていると認める。
<甲3発明a>
「小麦粉製造後に残留するAXを豊富に含む残渣を篩(75μm)で回収し、水で丁寧に洗浄後、噴霧乾燥して粉末にして製造され、総非デンプン多糖類が69.9%であり、非デンプン多糖類の89.9%がアラビノキシランであるAXリッチ繊維であって、これを1日あたり6g又は12g摂取することにより、14名の健常被験者の食後のインスリンのIAUC(上昇曲線面下面積)を17.0%又は32.7%低下させる、AXリッチ繊維。」
<甲3発明b>
「小麦粉製造後に残留するAXを豊富に含む残渣を篩(75μm)で回収し、水で丁寧に洗浄後、噴霧乾燥して粉末にして製造されたAXリッチ繊維であって、総非デンプン多糖類が69.9%であり、非デンプン多糖類の89.9%がアラビノキシランであるAXリッチ繊維を6g又は12g含有する、パン、マーガリン、およびジャムを含む朝食であって、14名の健常被験者の食後のインスリンのIAUC(上昇曲線面下面積)を17.0%又は32.7%低下させる食事。」

(4)甲5の記載事項
甲5には「低炭水化物ダイエットによる体重減少メカニズム」に関して、次の事項が記載されている。


(5)甲6の記載事項
甲6には「食物繊維と体重調整:観察とメカニズム」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、甲6は外国語文献のため、抄訳を摘記する。
(表題)


(6)検討
ア 本件特許発明2について
本件特許発明2と甲3発明aとを対比する。
甲3発明aにおける「小麦粉製造後に残留するAXを豊富に含む残渣を篩(75μm)で回収し、水で丁寧に洗浄後、噴霧乾燥して粉末にして製造された」「総非デンプン多糖類が69.9%であり、非デンプン多糖類の89.9%がアラビノキシランであるAXリッチ繊維」は、本件特許発明2における「アラビノキシランを有効成分として含有」する「剤」に相当する。
また、甲3発明aは、「14名の健常被験者」が摂取した剤であるから、本件特許発明2における「ヒトに用いられる」に相当する。

そうすると、本件特許発明2と甲3発明aとの一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「アラビノキシランを有効成分として含有する、ヒトに用いられる剤。」
<相違点3−1>
本件特許発明2は、「アラビノキシランの重量平均分子量が50000以上であ」るとの特定を有するのに対して、甲3発明aはそのような特定がない点。
<相違点3−2>
本件特許発明2は、「脂質燃焼促進剤」であるとの特定を有するのに対して、甲3発明aはそのような特定がない点。
<相違点3−3>
本件特許発明2は、「1日当たり、体重1kg当たり、前記アラビノキシランを0.025g以上0.035g未満摂取するように」「用いられる」との特定を有するのに対して、甲3発明aはそのような特定がない点。

事案に鑑み、相違点3−3について検討する。
甲3発明aのAXリッチ繊維は、総非デンプン多糖類が69.9%含有され、総非デンプン多糖類の89.9%がアラビノキシランであるから、AXリッチ繊維中のアラビノキシランは69.9%×89.9%=62.8%である。
甲3発明aにおいては、AXリッチ繊維は1日当たり6g又は12g摂取されるから、1日当たりのアラビノキシランは、3.77g又は7.54gである。
甲3発明aは14名の健常人を被験者としているから、被験者の平均体重を60kg〜80kg程度とすると、1日当たり・体重1kg当たりのアラビノキシランの摂取量は、体重60kgならば0.063〜0.126g/日・kgであり、体重80kgならば0.047〜0.0943g/日・kgである。
そうすると、甲3発明aは、アラビノキシランの摂取量として、1日当たり、体重1kg当たり0.025g以上0.035g未満を満たさない。
よって、相違点3−3は実質的な相違点である。

そして、甲3及び他の全ての証拠をみても、甲3発明aにおいて、相違点3−3に係る、1日当たり、体重1kg当たりのアラビノキシランの摂取量を0.025g以上0.035g未満に調整する動機となる記載はない。
よって、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明2は甲3発明aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件特許発明4について
本件特許発明4と甲3発明bとを対比する。
甲3発明bにおける「AXリッチ繊維を6g又は12g含有する、パン、マーガリン、およびジャムを含む朝食」は、本件特許発明4における「加工食品」に相当する。
また、本件特許発明4と甲3発明bのその他の相当関係は、上記アにおける検討と同様である。
そうすると、本件特許発明4と甲3発明bとの一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「アラビノキシランを有効成分として含有する、ヒトに用いられる加工食品。」
<相違点3−4>
本件特許発明4は、「アラビノキシランの重量平均分子量が50000以上であ」るとの特定を有するのに対して、甲3発明bはそのような特定がない点。
<相違点3−5>
本件特許発明4は、「脂質燃焼促進用」との特定を有するのに対して、甲3発明bはそのような特定がない点。
<相違点3−6>
本件特許発明4は、「1日当たり、体重1kg当たり、前記アラビノキシランを0.025g以上0.035g未満摂取するように用いられる」との特定を有するのに対して、甲3発明bにはそのような特定がない点。

事案に鑑み、相違点3−6について検討する。
相違点3−6は上記アの相違点3−3と同旨であり、同様に判断される。
よって、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明4は甲3発明bに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件特許発明5ないし7について
本件特許発明5ないし7は、請求項4を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明4の発明特定事項を全て有するから、本件特許発明4と同様に判断される。
よって、本件特許発明5ないし7は、甲3発明bに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(7)取消理由3についてのまとめ
本件特許発明2及び4ないし7は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、特許法第113条第2号に該当しない。
よって、取消理由3によって、本件特許の請求項2及び4ないし7に係る特許を取り消すことはできない。

2 取消理由4(甲4に基づく進歩性)について
(1)甲4の記載事項等
ア 甲4の記載事項
甲4には、Concentrated Arabinoxylan(濃縮アラビノキシラン)に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、甲4は外国語文献のため、抄訳を摘記する。

(表題)


イ 甲4に記載された発明
甲4に記載された事項を整理すると、甲4には次の発明(以下、「甲4発明a」「甲4発明b」という。)が記載されていると認める。

<甲4発明a>
「AXパンに配合された重量平均分子量(Mw)が602kDaでアラビノキシランが23.4%である小麦アラビノキシラン画分であって、ブタに給餌後4時間、ブタに挿入した門脈カテーテルにより収集した血液プロファイルにおいて、給餌後30分のインスリン分泌を、低食物繊維白小麦パン(WF)を給餌したブタと較べて48%低下させた、小麦アラビノキシラン画分。」
<甲4発明b>
「重量平均分子量(Mw)が602kDaでアラビノキシランが23.4%である小麦アラビノキシラン画分を配合したAXパンであって、ブタに給餌後4時間、ブタに挿入した門脈カテーテルにより収集した血液プロファイルにおいて、給餌後30分のインスリン分泌を、低食物繊維白小麦パン(WF)を給餌したブタと較べて48%低下させた、AXパン。」

(2)検討
ア 本件特許発明2について
本件特許発明2と甲4発明aとを対比する。
甲4発明aにおける「重量平均分子量(Mw)が602kDaでアラビノキシランが23.4%である小麦アラビノキシラン画分」は、本件特許発明2における「アラビノキシランを有効成分として含有し、当該アラビノキシランの重量平均分子量が50000以上である」「剤」に相当する。
そうすると、本件特許発明2と甲4発明aとの一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「アラビノキシランを有効成分として含有し、当該アラビノキシランの重量平均分子量が50000以上である、剤。」
<相違点4−1>
本件特許発明2は、「脂質燃焼促進」剤との特定を有するのに対して、甲4発明aはそのような特定がない点。
<相違点4−2>
本件特許発明2は、「1日当たり、体重1kg当たり、前記アラビノキシランを0.025g以上0.035g未満摂取するようにヒトに用いられる」との特定を有するのに対して、甲4発明aはそのような特定がない点。

事案に鑑み、相違点4−2について検討する。
甲4(第7761頁左欄 Animal Model、第7761頁右欄 Table 1、第7761頁右欄 Experimental Design)には、甲4発明aのパンは、体重60.2kgの豚に対して、体重70kgになるまで、1日3回、各回635g給餌し、その後は750g給餌されることが記載されており、この給餌量は明らかに1日当たり、体重1kg当たり、アラビノキシランの摂取量として0.058gを超えるものであるとともに、ここに記載されているアラビノキシランの摂取量は豚を対象した場合の摂取量であって、ヒトに対するアラビノキシランの摂取量ではない。
したがって、相違点4−2は実質的な相違点である。
そして、甲4及び他の全ての証拠をみても、アラビノキシランをヒトに用いるときに、その摂取量を1日当たり、体重1kg当たり、0.025g以上0.035g未満とする動機となる記載はない。
したがって、甲4発明aにおいて、相違点4−2に係る発明特定事項を満たすものとすることは当業者が容易に想起し得た事項であるとはいえない。
よって、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明2は甲4発明aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件特許発明4について
本件特許発明4と甲4発明bとを対比する。
甲4発明bにおける「重量平均分子量(Mw)が602kDaでアラビノキシランが23.4%である小麦アラビノキシラン画分を配合したパン」は、本件特許発明4における「アラビノキシランを有効成分として含有し、当該アラビノキシランの重量平均分子量が50000以上である、加工食品」に相当する。
また、本件特許発明4と甲4発明bのその他の相当関係は、上記アにおける検討と同様である。
そうすると、本件特許発明4と甲4発明bとの一致点、相違点は次のとおりである。

<一致点>
「アラビノキシランを有効成分として含有し、当該アラビノキシランの重量平均分子量が50000以上である、加工食品。」
<相違点4−3>
本件特許発明4は、「脂質燃焼促進用」加工食品との特定を有するのに対して、甲4発明bはそのような特定がない点。
<相違点4−4>
本件特許発明4は、「1日当たり、体重1kg当たり、前記アラビノキシランを0.025g以上0.035g未満摂取するようにヒトに用いられる」との特定を有するのに対して、甲4発明bはそのような特定がない点。

事案に鑑み、相違点4−4について検討する。
相違点4−4は、上記アの相違点4−2と同旨であり、同様に判断される。
よって、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲4発明bに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件特許発明5ないし7について
本件特許発明5ないし7は、請求項4を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明4の発明特定事項を全て有するから、本件特許発明4と同様に判断される。
よって、本件特許発明5ないし7は、甲4発明bに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(7)取消理由4についてのまとめ
本件特許発明2及び4ないし7は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、特許法第113条第2号に該当しない。
よって、取消理由4によって、本件特許の請求項2及び4ないし7に係る特許を取り消すことはできない。

3 取消理由5(甲7に基づく進歩性)について
(1)甲7の記載事項等
ア 甲7の記載事項
甲7には「食事誘発性肥満マウスにおけるビフィズス菌、ローズブリアおよびバクテロイデス/プレボテラの増加に関連する小麦アラビノキシランのプレバイオティクス効果」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、甲7は外国語文献のため、抄訳を摘記する。

(表題)


イ 甲7に記載された発明
甲7に記載された事項を整理すると、甲7には次の発明(以下、「甲7発明a」「甲7発明b」という。)が記載されていると認める。
<甲7発明a>
「マウスに4週間摂取させた高脂肪(HF)食に10%w/w添加されて、肥満の改善と脂質低下作用が確認された、平均60を超える様々な重合度である、BioActor社(ヘント、ベルギー)から供給されたAX(Naxus(登録商標))。」
<甲7発明b>
「マウスに4週間摂取させて、肥満の改善と脂質低下作用が確認された、平均60を超える様々な重合度である、BioActor社(ヘント、ベルギー)から供給されたAX(Naxus(登録商標))が10%w/w添加された高脂肪(HF)食。」

(2)検討
ア 本件特許発明2について
本件特許発明2と甲7発明aとを対比する。
甲7発明aにおける「平均60を超える様々な重合度である、BioActor社(ヘント、ベルギー)から供給されたAX(Naxus(登録商標))」は、本件特許発明2における「アラビノキシランを有効成分として含有し、当該アラビノキシランの重量平均分子量が50000以上である」「剤」に相当する。

そうすると、本件特許発明2と甲7発明aとの一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「アラビノキシランを有効成分として含有し、当該アラビノキシランの重量平均分子量が50000以上である、剤」
<相違点7−1>
本件特許発明2は、「脂質燃焼促進剤」であるとの特定を有するのに対して、甲7発明aはそのような特定がない点。
<相違点7−2>
本件特許発明2は、「1日当たり、体重1kg当たり、前記アラビノキシランを0.025g以上0.058g未満摂取するようにヒトに用いられる」との特定を有するのに対して、甲7発明aはそのような特定がない点。

事案に鑑み、相違点7−2について検討する。
甲7(第2頁左欄 Animals and diet intervention)には、実験が24匹の雄マウスに対し、餌と水を自由に摂取できる環境において実施された旨記載されており、1日当たり、体重1kg当たりのマウスのアラビノキシランの摂取量は不明であるとともに、ここに記載されているアラビノキシランはマウスに対して摂取させたものであって、ヒトに対して摂取させる場合の摂取量については甲7に何ら記載されていない。
したがって、相違点7−2は実質的な相違点である。
そして、甲7及び他の全ての証拠をみても、アラビノキシランをヒトに用いるときに、1日当たり、体重1kg当たり、0.025g以上0.035g未満とする動機となる記載はない。したがって、甲7発明aにおいて、相違点7−2に係る発明特定事項を満たすものとすることは当業者が容易に想起し得た事項であるとはいえない。
よって、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明2は甲7発明aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件特許発明4についての対比・判断
本件特許発明4と甲7発明bとを対比する。
甲7発明bにおける「平均60を超える様々な重合度である、BioActor社(ヘント、ベルギー)から供給されたAX(Naxus(登録商標))」は、本件特許発明4における「重量平均分子量が50000以上である」「アラビノキシラン」に相当する。
甲7発明bにおける「高脂肪(HF)食」は、本件特許発明4における「加工食品」に相当する。
また、本件特許発明4と甲7発明bのその他の相当関係は、上記アにおける検討と同様である。
そうすると、本件特許発明4と甲7発明bとの一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「アラビノキシランを有効成分として含有し、当該アラビノキシランの重量平均分子量が50000以上である、加工食品。」
<相違点7−3>
本件特許発明4は、「脂質燃焼促進用」加工食品との特定を有するのに対して、甲7発明bはそのような特定がない点。
<相違点7−4>
本件特許発明4は、「1日当たり、体重1kg当たり、前記アラビノキシランを0.025g以上0.035g未満摂取するようにヒトに用いられる」との特定を有するのに対して、甲7発明bはそのような特定がない点。

事案に鑑み、相違点7−4について検討する。
相違点7−4は、上記アの相違点7−2と同旨であり、同様に判断される。
よって、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明4は甲7発明bに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件特許発明5ないし7について
本件特許発明5ないし7は、請求項4を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明4の発明特定事項を全て有するから、本件特許発明4と同様に判断される。
よって、本件特許発明5ないし7は、甲7発明bに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)取消理由5についてのまとめ
本件特許発明2及び4ないし7は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、特許法第113条第2号に該当しない。
よって、取消理由5によって、本件特許の請求項2及び4ないし7に係る特許を取り消すことはできない。

第7 取消理由<決定の予告>に採用しなかった特許異議申立書に記載した特許異議申立理由について
取消理由<決定の予告>に採用しなかった特許異議申立書に記載した申立理由は、
・申立理由1(甲3に基づく新規性進歩性)の、請求項1及び3
・申立理由2(甲4に基づく新規性進歩性)の、請求項1及び3
・申立理由3(甲7に基づく進歩性)の、請求項1及び3
・申立理由4(甲9に基づく新規性進歩性
・申立理由5(甲10に基づく新規性進歩性
・申立理由6(明確性要件)
である。以下、順に検討する。

1 申立理由1及び2(甲3、甲4に基づく新規性進歩性)の、請求項1及び3について
本件訂正により請求項1及び3は削除されため、申立ての対象がなくなった。

2 申立理由3ないし5(甲7に基づく進歩性、甲9、10に基づく新規性進歩性)について
申立理由3ないし5の対象請求項は請求項1及び3であったところ、本件訂正により請求項1及び3は削除されたため、申立ての対象がなくなった。

3 申立理由6(明確性要件)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。

(2) 明確性要件の判断
本件特許の請求項2及び4ないし7の記載は、上記第3のとおりであり、それ自体に不明確な記載はなく、本件特許の明細書の記載とも整合する。
したがって、本件特許発明2及び4ないし7に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。

(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第4 6の主張について検討する。
請求項2及び4ないし7の「脂質燃焼促進剤」又は「脂質燃焼促進用加工食品」は「重量平均分子量が50000以上」の「アラビノキシランを有効成分として含有」することを発明特定事項とするから、重量平均分子量が50000以上のアラビノキシランが含有されていればよく、これが小麦ふすまを配合することによって達成されるものであるか否かは、明確性要件の判断に影響しない。
請求項2及び4ないし7の記載は(2)で検討したとおり明確である。

(4)申立理由6についてのまとめ
本件特許の請求項2及び4ないし7に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、特許法第113条第4号に該当しない。
よって、申立理由6の理由によって、本件特許の請求項2及び4ないし7に係る特許を取り消すことはできない。

第8 結語
上記第6及び第7のとおり、本件特許の請求項2及び4ないし7に係る特許は、取消理由<決定の予告>、及び、特許異議申立書に記載した申立理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項2及び4ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項1及び3に係る特許は、訂正により削除されたため、特許異議申立人による請求項1及び3に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する特許法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
アラビノキシランを有効成分として含有し、当該アラビノキシランの重量平均分子量が50000以上であり、1日当たり、体重1kg当たり、前記アラビノキシランを0.025g以上0.035g未満摂取するようにヒトに用いられる、脂質燃焼促進剤。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
アラビノキシランを有効成分として含有し、当該アラビノキシランの重量平均分子量が50000以上であり、1日当たり、体重1kg当たり、前記アラビノキシランを0.025g以上0.035g未満摂取するようにヒトに用いられる、脂質燃焼促進用加工食品。
【請求項5】
脂肪の燃焼を亢進する旨の表示が付された、請求項4記載の脂質燃焼促進用加工食品。
【請求項6】
脂肪の代謝を高める旨の表示が付された、請求項4又は5記載の脂質燃焼促進用加工食品。
【請求項7】
内臓脂肪を低減する旨の表示が付された、請求項4〜6のいずれか1項記載の脂質燃焼促進用加工食品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2024-06-24 
出願番号 P2021-104141
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (A23L)
P 1 651・ 537- YAA (A23L)
P 1 651・ 121- YAA (A23L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 天野 宏樹
磯貝 香苗
登録日 2022-11-28 
登録番号 7184966
権利者 花王株式会社
発明の名称 脂質燃焼促進剤  
代理人 赤羽 修一  
代理人 弁理士法人クオリオ  
代理人 飯田 敏三  
代理人 弁理士法人クオリオ  
代理人 赤羽 修一  
代理人 飯田 敏三  

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