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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01M 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H01M 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01M |
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管理番号 | 1414182 |
総通号数 | 33 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2024-09-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2023-09-06 |
確定日 | 2024-07-02 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第7242970号発明「導電部材、電気化学セル装置、モジュール、モジュール収容装置および導電部材の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7242970号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−7〕について訂正することを認める。 特許第7242970号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第7242970号の請求項1〜10に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2022年(令和4年)4月13日(優先権主張 令和3年4月13日、日本国)を国際出願日とする出願であって、令和5年3月10日にその特許権の設定登録がなされ、同年3月20日に特許掲載公報が発行された。 本件は、その後、同年9月6日差出で特許異議申立人井上敬也(以下、「申立人」という。)より請求項1〜10(全請求項)に係る特許に対してなされた特許異議申立事件であって、同年12月25日付けで取消理由が通知され、これに対し、令和6年3月11日に意見書が提出されるとともに訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされ、同年4月24日受付で申立人から意見書(以下、単に「意見書」という。)が提出されたものである。 第2 訂正請求について 1 訂正請求の趣旨、及び、訂正の内容 本件訂正請求は、特許第7242970号の特許請求の範囲を、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜7について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。 なお、訂正箇所には、当審で下線を付した。 (1)訂正事項1 請求項1について、本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)前の「前記被覆層が、導電性の酸化物粒子と、前記第1酸化物を有する第1酸化物粒子とを含有する焼結体である導電部材。」を「前記被覆層が、導電性の酸化物粒子と、前記第1酸化物を有する第1酸化物粒子とを含有する焼結体であり、前記導電性の酸化物が、Zn(CoxMn1−x)2O4(ただし、0<x<1)、Mn1.5Co1.5O4、MnCo2O4およびCoMn2O4から選択される1以上の複合酸化物を含む導電部材。」に訂正する。 請求項1を直接または間接的に引用する請求項2〜7も同様に訂正する。 2 当審の判断 2−1 訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び、新規事項追加の有無 (1)訂正事項1 訂正事項1は、本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)【0056】を根拠として、本件訂正前の請求項1の発明特定事項である「導電性の酸化物」について、「Zn(CoxMn1−x)2O4(ただし、0<x<1)、Mn1.5Co1.5O4、MnCo2O4およびCoMn2O4から選択される1以上の複合酸化物を含む」とするものである。 そうすると、訂正事項1は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないし、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内の訂正である。 2−2 独立特許要件について 本件訂正請求に係る請求項はいずれも特許異議の申立てがなされているので、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定される要件は課されない。 3 一群の請求項について 本件訂正前の請求項2〜7は、請求項1を引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1〜7は一群の請求項であり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。 そして、本件訂正は、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めがないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1〜7〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。 4 訂正請求についてのむすび 以上のとおりであるから、令和6年3月11日に特許権者が行った訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1〜7〕についての訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1 本件発明 令和6年3月11日に特許権者が行った請求項1〜7についての訂正は、上記第2で検討したとおり適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜10に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明10」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1〜10に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 クロムを含有する基材と、 前記基材を覆う被覆層と を備え、 前記被覆層は、導電性の酸化物と、第一イオン化エネルギーおよび酸化物の生成自由エネルギーの絶対値がクロムよりも小さい第1元素の酸化物である第1酸化物とを含み、 前記被覆層が、導電性の酸化物粒子と、前記第1酸化物を有する第1酸化物粒子とを含有する焼結体であり、 前記導電性の酸化物が、Zn(CoxMn1−x)2O4(ただし、0<x<1)、Mn1.5Co1.5O4、MnCo2O4およびCoMn2O4から選択される1以上の複合酸化物を含む 導電部材。 【請求項2】 前記被覆層は、5体積%以上50体積%以下の前記第1酸化物粒子を含有する 請求項1に記載の導電部材。 【請求項3】 前記第1酸化物粒子は、平均粒径が0.1μm以上5μm以下である 請求項1に記載の導電部材。 【請求項4】 前記導電性の酸化物が、スピネル構造またはペロブスカイト構造を有する複合酸化物を含む 請求項1に記載の導電部材。 【請求項5】 素子部を有する2以上の電気化学セルと、 請求項1〜4のいずれか1つに記載の導電部材と を備える電気化学セル装置。 【請求項6】 請求項5に記載の電気化学セル装置と、 前記電気化学セル装置を収納する収納容器と を備えるモジュール。 【請求項7】 請求項6に記載のモジュールと、 前記モジュールの運転を行うための補機と、 前記モジュールおよび前記補機を収容する外装ケースと を備えるモジュール収容装置。 【請求項8】 クロムを含有する基材の表面に、導電性の酸化物と、第一イオン化エネルギーおよび酸化物の生成自由エネルギーの絶対値がクロムよりも小さい第1元素の酸化物である第1酸化物と、アニオン型樹脂とを含む塗膜を形成する第1工程と、 塗膜を形成した前記基材を焼成する第2工程と、 焼成した前記基材を焼結させる第3工程と を含む導電部材の製造方法。 【請求項9】 前記第3工程は、5体積%以上50体積%以下の第1酸化物粒子を含有する導電性の被覆層を形成する 請求項8に記載の導電部材の製造方法。 【請求項10】 前記第3工程は、平均粒径が0.1μm以上5μm以下の第1酸化物粒子を含有する導電性の被覆層を形成する 請求項8または9に記載の導電部材の製造方法。」 2 特許異議申立理由、及び、取消理由 申立人は、証拠方法として次の甲第1〜6号証(以下、それぞれ「甲1」〜「甲6」という。)を提出し、以下の申立理由1〜3により、請求項1〜10に係る特許を取り消すべきである旨主張している。 また、令和5年12月25日付けの取消理由通知により、職権で一部主たる引例を甲5に変更して申立理由1の一部を通知し、また、職権で一部主たる引例を甲5に変更して申立理由2を通知した。 (証拠方法) 甲第1号証:特表2013−527309号公報 甲第2号証:特表2020−537302号公報 甲第3号証:特許第5839756号公報 甲第4号証:特許第3143599号公報 甲第5号証:国際公開第2017/131176号 甲第6号証:特開2012−212651号公報 (1)申立理由1(甲1を主たる引例とした場合の新規性・進歩性) 本件発明1、3〜5は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するため、同発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 本件発明2、6〜10は、甲1に記載された発明及び甲3〜甲6のいずれかに記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるため、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (職権で一部主たる引例を甲5に変更して、取消理由に一部採用。) (2)申立理由2(甲2を主たる引例とした場合の新規性・進歩性) 本件発明1、2、4、5は、甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するため、同発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 本件発明1、2、4〜7は、甲2に記載された発明及び甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるため、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (職権で一部主たる引例を甲5に変更して、取消理由に採用。) (3)申立理由3(サポート要件) 本件特許は、次のア〜ウの理由により特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 ア 本件明細書には、本件発明の課題を解決することを示す実施例の記載も、技術的な機序を示す記載もないから、本件発明1〜10は本件発明の課題を解決し得るとはいえない(取消理由に不採用)。 イ 本件明細書の記載によれば、本件発明の課題を解決するためには、請求項1〜3に記載された全ての発明特定事項、または、請求項8〜10に記載された全ての発明特定事項を具備する必要があるところ、本件発明1〜10は、当該発明特定事項を具備するものではない(取消理由に不採用)。 ウ 本件発明1〜10は、基材が第2基材層を有さない態様を含んでおり、そのような態様は、本件発明の課題が生じない(取消理由に不採用)。 3 当審の判断 当審では、次に示すとおり、上記2の特許異議申立理由及び取消理由によっては、本件請求項1〜10に係る特許を取り消すことはできないと判断する。 3−1 各甲号証に記載された発明について (1)甲1に記載された発明 ア 甲1の実施例1の「酸化金属マトリックス複合材料被覆基材」に注目すると、甲1(特に、【0001】、【0043】〜【0045】、【0047】、【0052】参照。)には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。 「ハイネス(登録商標)230(登録商標)、Ni基超合金を、カソード基材として選択し、 試験片を研磨紙により研磨し、アルカリ洗浄液中で超音波洗浄して、表面から汚染物質を除去した後、50%HCl中でエッチングして、金属残渣及び天然酸化物を除去し、 カソードのストライクNiめっきを行い、 次いで、ハイネス230試験片を、Ni−Co/GDC槽中で8分間及び任意選択により別の純粋なNi槽中で2分間電着させ、 酸化物スケールを特性決定するために、1000℃で、空気中で酸化した被覆基材であって、 酸化物スケールは、3つの層を含み、 内部層はCrに富み、クロミアと同定され、 中間層は、少量のNi及びMn(基材合金から拡散した)と共に主にCo及びCrイオンを含有する立方晶スピネル固溶体であり、XRDパターンにおけるスピネルのピークは、CoCr2O4とよく一致しており、 外部層は、Crを含まないNiO及びCoOの固溶体であり、 GDC粒子(d10=0.4μm、d50=0.5μm、d95=1μm)は、スピネル中間層に主に位置している、 酸化金属マトリックス複合材料被覆基材。」 イ また、実施例1の「酸化金属マトリックス複合材料被覆基材」の製造方法に注目すると、甲1(特に、【0001】、【0043】〜【0045】、【0047】、【0052】参照。)には、次の発明(以下、「甲1方法発明」という。)が記載されている。 「ハイネス(登録商標)230(登録商標)、Ni基超合金を、カソード基材として選択し、 試験片を研磨紙により研磨し、アルカリ洗浄液中で超音波洗浄して、表面から汚染物質を除去した後、50%HCl中でエッチングして、金属残渣及び天然酸化物を除去し、 カソードのストライクNiめっきを行い、 次いで、ハイネス230試験片を、Ni−Co/GDC槽中で8分間及び任意選択により別の純粋なNi槽中で2分間電着させ、 酸化物スケールを特性決定するために、1000℃で、空気中で酸化した被覆基材の製造方法であって、 酸化物スケールは、3つの層を含み、 内部層はCrに富み、クロミアと同定され、 中間層は、少量のNi及びMn(基材合金から拡散した)と共に主にCo及びCrイオンを含有する立方晶スピネル固溶体であり、XRDパターンにおけるスピネルのピークは、CoCr2O4とよく一致しており、 外部層は、Crを含まないNiO及びCoOの固溶体であり、 GDC粒子(d10=0.4μm、d50=0.5μm、d95=1μm)は、スピネル中間層に主に位置している、 酸化金属マトリックス複合材料被覆基材の製造方法。」 (2)甲2に記載された発明 ア 甲2の【0135】に記載された「前記ペースト1」とは、【0126】の「<ペースト1の製造>」で最終製造された「ペースト組成物1」であると認められる。 イ そうすると、甲2の実施例1の「固体酸化物燃料電池用連結材」に注目すると、甲2(特に、【0116】、【0125】〜【0127】、【0135】参照。)には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。 「Mn1.35Co1.35Cu0.2Y0.1O4の組成を有する導電性酸化物粉末、バインダーとしてエチルセルロース、および分散溶媒としてブチルカルビトールが混合され、可塑剤ジブチルフタレートを添加した後、ペーストミキサを用いて混合物を混ぜた後、1次的に形成されたペーストを、さらに3回混合粉砕を実施して、導電性酸化物粉末を含むペースト組成物1を最終製造し、 前記ペースト組成物1を導電性基板(STS441)にスクリーンプリンティングの方法を利用してコーティングし、この後、100℃の温度の循環乾燥機で溶媒を除去し、この後、1,000℃の温度で2時間熱処理して、セラミック保護膜を形成して製造した、固体酸化物燃料電池用連結材であって、 前記ペースト組成物1は、Mn1.35Co1.35Cu0.2Y0.1O4の組成を有する導電性酸化物粉末65重量%、エチルセルロース23重量%、ブチルカルビトール7重量%、ジブチルフタレート5重量%である、 固体酸化物燃料電池用連結材。」 (3)甲5に記載された発明 ア 甲5(特に、[0047]、図4参照。)には、次の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されている。 「セルスタック装置1を収納容器21内に収納してなるモジュール20。」 イ また、甲5(特に、[0047]、[0051]、図5参照。)には、次の発明(以下、「甲5装置発明」という。)が記載されている。 「セルスタック装置1を収納容器21内に収納してなるモジュール20と、モジュール20を作動させるための補機とを外装ケースに収納してなるモジュール収容装置25。」 3−2 申立理由1(甲1を主たる引例とした場合の新規性・進歩性)について (1)請求項1について 本件発明1と甲1発明とを対比する。 ア 甲1発明の「ハイネス(登録商標)230(登録商標)」である「カソード基材」は、Crを含有するものである(甲1の表1)から、本件発明1の「クロムを含有する基材」に相当する。 イ 甲1発明の「内部層」、「中間層」及び「外部層」は、いずれも本件発明1の「被覆層」に相当する。 ウ 甲1の請求項1には、「内部クロミア層と、・・・(略)・・・スピネル固溶体の中間層と、・・・(略)・・・導電性最上層とを含む基材表面上の三層スケール」(当審注:下線は当審で付した。)と記載されているから、その具体例である甲1における実施例1に基づいて認定した甲1発明の「Crを含まないNiO及びCoOの固溶体であ」る「外部層」は、導電性の酸化物を含むものであるといえる。 そうすると、甲1発明の「外部層は、Crを含まないNiO及びCoOの固溶体であ」る事項は、本件発明1の「被覆層は、導電性の酸化物」「を含」む事項に相当する。 エ 甲1発明の「GDC粒子(d10=0.4μm、d50=0.5μm、d95=1μm)」は、ガドリニアドープセリア(CeO2)0.9−(Gd2O3)0.1粒子であって、セリアを含むものであり(【0043】)、また、本件明細書には、第一イオン化エネルギーおよび酸化物の生成自由エネルギーの絶対値がクロムよりも小さい第1元素の酸化物として、CeO2が記載されている(【0057】)から、甲1発明の「GDC粒子(d10=0.4μm、d50=0.5μm、d95=1μm)は、スピネル中間層に主に位置している」事項は、本件発明1の「被覆層は、」「第一イオン化エネルギーおよび酸化物の生成自由エネルギーの絶対値がクロムよりも小さい第1元素の酸化物である第1酸化物」「を含」む事項に相当する。 オ 甲1発明の「酸化物スケール」は、「1000℃で、空気中で酸化し」た結果、「内部層はCrに富み、クロミアと同定され、中間層は、少量のNi及びMn(基材合金から拡散した)と共に主にCo及びCrイオンを含有する立方晶スピネル固溶体であり、」「外部層は、Crを含まないNiO及びCoOの固溶体」となるものであって、いずれの層も金属酸化物からなるものであるから、全体として焼結体となっていると考えられる。 そして、甲1発明は、「GDC粒子(d10=0.4μm、d50=0.5μm、d95=1μm)」が「スピネル中間層に主に位置している」ものの、「Ni−Co/GDC槽中で8分間」「電着させ」たものを「1000℃で、空気中で酸化し」たものであるから、「Crを含まないNiO及びCoOの固溶体」と「GDC粒子」とが焼結体となっている蓋然性が高い。 そうすると、甲1発明は、本件発明1の「被覆層が、導電性の酸化物粒子と、前記第1酸化物を有する第1酸化物粒子とを含有する焼結体である」事項を有するものである。 カ 上記ウで検討したとおり、甲1発明の「外部層」は導電性であるから、甲1発明の「酸化金属マトリックス複合材料被覆基材」も導電性を有するものといえる。 そうすると、甲1発明の「酸化金属マトリックス複合材料被覆基材」は、本件発明1の「導電部材」に相当する。 キ 上記ア〜カより、本件発明1と甲1発明とは、 「クロムを含有する基材と、 前記基材を覆う被覆層と を備え、 前記被覆層は、導電性の酸化物と、第一イオン化エネルギーおよび酸化物の生成自由エネルギーの絶対値がクロムよりも小さい第1元素の酸化物である第1酸化物とを含み、 前記被覆層が、導電性の酸化物粒子と、前記第1酸化物を有する第1酸化物粒子とを含有する焼結体である 導電部材。」で一致し、次の相違点で相違する。 (相違点1) 「導電性の酸化物」について、本件発明1は、「Zn(CoxMn1−x)2O4(ただし、0<x<1)、Mn1.5Co1.5O4、MnCo2O4およびCoMn2O4から選択される1以上の複合酸化物を含む」ものであるのに対し、甲1発明は、「Crを含まないNiO及びCoOの固溶体」である点。 ク 上記相違点1について、以下検討する。 ケ 甲1には、「酸化物スケール」に「Zn(CoxMn1−x)2O4(ただし、0<x<1)、Mn1.5Co1.5O4、MnCo2O4およびCoMn2O4から選択される1以上の複合酸化物」を含有させることは記載されていないから、上記相違点1は実質的な相違点である。 コ また、甲1発明は、「ハイネス(登録商標)230(登録商標)、Ni基超合金を、カソード基材として選択し、」「カソードのストライクNiめっきを行い、次いで、ハイネス230試験片を、Ni−Co/GDC槽中で8分間及び任意選択により別の純粋なNi槽中で2分間電着させ、」「1000℃で、空気中で酸化」することにより得るものであって、「酸化物スケール」に「Zn(CoxMn1−x)2O4(ただし、0<x<1)、Mn1.5Co1.5O4、MnCo2O4およびCoMn2O4から選択される1以上の複合酸化物」を含有させる動機もない。 サ そうすると、甲1発明において、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。これは、甲2〜甲6を参酌しても、同様である。 シ よって、本件発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲2〜甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (2)請求項2〜7について ア 請求項2〜7は請求項1を引用するものであり、本件発明2〜7は本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明2〜7と甲1発明とを対比すると、少なくとも上記相違点1で相違する。 イ そして、上記(1)で検討したとおり、甲1発明において、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえないから、同様の理由により、甲1発明において、上記相違点1に係る本件発明2〜7の発明特定事項を得ることも、当業者が容易になし得たこととはいえない。 ウ よって、本件発明3〜5は甲1発明ではないし、本件発明2〜7は、甲1発明及び甲2〜甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (3)請求項1〜7についてのまとめ 本件発明1、3〜5は、甲1に記載された発明であるとはいえない。 本件発明1〜3、5は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 本件発明2、6、7は、甲1に記載された発明及び甲3〜甲6のいずれかに記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (4)請求項8について 本件発明8と甲1方法発明とを対比する。 ア 甲1方法発明の「ハイネス(登録商標)230(登録商標)」である「カソード基材」は、Crを含有するものである(甲1の表1)から、本件発明8の「クロムを含有する基材」に相当する。 イ 甲1方法発明の「GDC粒子(d10=0.4μm、d50=0.5μm、d95=1μm)」は、ガドリニアドープセリア(CeO2)0.9−(Gd2O3)0.1粒子であって、セリアを含むものであり(【0043】)、また、本件明細書には、第一イオン化エネルギーおよび酸化物の生成自由エネルギーの絶対値がクロムよりも小さい第1元素の酸化物として、CeO2が記載されている(【0057】)から、甲1方法発明の「GDC粒子(d10=0.4μm、d50=0.5μm、d95=1μm)」は、本件発明8の「第一イオン化エネルギーおよび酸化物の生成自由エネルギーの絶対値がクロムよりも小さい第1元素の酸化物である第1酸化物」に相当する。 ウ 甲1方法発明の「ハイネス(登録商標)230(登録商標)、Ni基超合金を、カソード基材として選択し、」「カソードのストライクNiめっきを行い、次いで、ハイネス230試験片を、Ni−Co/GDC槽中で8分間及び任意選択により別の純粋なNi槽中で2分間電着させ」る事項と、本件発明8の「クロムを含有する基材の表面に、導電性の酸化物と、第一イオン化エネルギーおよび酸化物の生成自由エネルギーの絶対値がクロムよりも小さい第1元素の酸化物である第1酸化物と、アニオン型樹脂とを含む塗膜を形成する第1工程」「を含む」事項とは、本件明細書に「塗膜は、たとえば電着法により形成されてもよい」(【0119】)と記載されていることを踏まえると、「クロムを含有する基材の表面に、第一イオン化エネルギーおよび酸化物の生成自由エネルギーの絶対値がクロムよりも小さい第1元素の酸化物である第1酸化物を含む塗膜を形成する第1工程を含む」事項で共通する。 エ 甲1方法発明の「1000℃で、空気中で酸化」する事項は、本件発明8の「基材を焼結させる第3工程」「を含む」事項に相当する。 オ 上記ア〜エより、本件発明8と甲1方法発明とは、 「クロムを含有する基材の表面に、第一イオン化エネルギーおよび酸化物の生成自由エネルギーの絶対値がクロムよりも小さい第1元素の酸化物である第1酸化物を含む塗膜を形成する第1工程と、 前記基材を焼結させる第3工程と を含む導電部材の製造方法。」で一致し、次の相違点で相違する。 (相違点2) 「塗膜」について、本件発明8は、「導電性の酸化物」を含むものであるのに対し、甲1方法発明は、「カソードのストライクNiめっきを行い、次いで、ハイネス230試験片を、Ni−Co/GDC槽中で8分間及び任意選択により別の純粋なNi槽中で2分間電着させ」たものであって、「導電性の酸化物」を含むか否かが不明である点。 (相違点3) 本件発明8は、「塗膜」が「アニオン型樹脂」を含み、「塗膜を形成した前記基材を焼成する第2工程」「を含む」の対し、甲1方法発明は、「カソードのストライクNiめっきを行い、次いで、ハイネス230試験片を、Ni−Co/GDC槽中で8分間及び任意選択により別の純粋なNi槽中で2分間電着させ」たものであって、アニオン型樹脂を含むか否かが不明であり、ハイネス230試験片を焼成する工程を有するか否かが不明である点。 カ 事案に鑑み、まず、上記相違点2について検討する。 キ 甲1方法発明の「塗膜」は、「ハイネス(登録商標)230(登録商標)、Ni基超合金を、カソード基材として選択し、」「カソードのストライクNiめっきを行い、次いで、ハイネス230試験片を、Ni−Co/GDC槽中で8分間及び任意選択により別の純粋なNi槽中で2分間電着させ」たものであり、「塗膜」形成後、「酸化物スケールを特性決定するために、1000℃で、空気中で酸化」するものの、酸化前の「塗膜」が「導電性の酸化物」を含むか否かが不明である。 ク そして、甲1方法発明は、「塗膜」形成後、「酸化物スケールを特性決定するために、1000℃で、空気中で酸化」するものであるから、酸化前の「塗膜」に「導電性の酸化物」を含有させる動機がない。これは、甲2〜甲6を参酌しても、同様である。 ケ そうすると、甲1方法発明において、上記相違点2に係る本件発明8の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 コ よって、上記相違点3について検討するまでもなく、本件発明8は、甲1方法発明及び甲2〜甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (5)請求項9、10について ア 請求項9、10は請求項8を引用するものであり、本件発明9、10は本件発明8の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明9、10と甲1方法発明とを対比すると、少なくとも上記相違点2で相違する。 イ そして、上記(4)で検討したとおり、甲1方法発明において、上記相違点2に係る本件発明8の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえないから、同様の理由により、甲1方法発明において、上記相違点2に係る本件発明9、10の発明特定事項を得ることも、当業者が容易になし得たこととはいえない。 ウ よって、本件発明9、10は、甲1方法発明及び甲2〜甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (6)請求項8〜10についてのまとめ 本件発明8〜10は、甲1に記載された発明及び甲3〜甲6のいずれかに記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 3−3 申立理由2(甲2を主たる引例とした場合の新規性・進歩性)について (1)請求項1について 本件発明1と甲2発明とを対比する。 ア 甲2発明の「導電性基板(STS441)」は、フェライト系ステンレス鋼であるSTS441からなるものであり(【0070】)、フェライト系ステンレス鋼は、技術常識に照らして、Crを含有するものであるから、本件発明1の「クロムを含有する基材」に相当する。 また、甲2発明の「セラミック保護膜」は、本件発明1の「被覆層」に相当する。 イ 本件明細書【0057】によれば、Y(イットリウム)は「第一イオン化エネルギーおよび酸化物の生成自由エネルギーの絶対値がクロムよりも小さい第1元素」であるから、甲2発明の「Mn1.35Co1.35Cu0.2Y0.1O4の組成を有する導電性酸化物粉末」は、本件発明1の「第一イオン化エネルギーおよび酸化物の生成自由エネルギーの絶対値がクロムよりも小さい第1元素の酸化物である第1酸化物」に相当する。 ウ また、甲2発明の「Mn1.35Co1.35Cu0.2Y0.1O4の組成を有する導電性酸化物粉末」は、本件発明1の「導電性の酸化物」にも相当する。 エ さらに、甲2の【0105】には、熱処理するステップは800℃〜1000℃で1時間〜10時間行って、セラミック保護膜を焼結することが記載されている。 そして、甲2発明の「セラミック保護膜」は、「Mn1.35Co1.35Cu0.2Y0.1O4の組成を有する導電性酸化物粉末」を含む「ペースト組成物1」を「コーティングし、」「この後、1,000℃の温度で2時間熱処理し」て製造したものであるから、「Mn1.35Co1.35Cu0.2Y0.1O4の組成を有する導電性酸化物粉末」が、焼結体となっている蓋然性が高い。 また、甲2発明の「Mn1.35Co1.35Cu0.2Y0.1O4の組成を有する導電性酸化物粉末」は、当該導電性酸化物の複数個の粒子からなるものであり、上記イ、ウより、その複数個の粒子の一部が、本件発明1の「第一イオン化エネルギーおよび酸化物の生成自由エネルギーの絶対値がクロムよりも小さい第1元素の酸化物である第1酸化物」「を有する第1酸化物粒子」に相当し、残りの一部が、本件発明1の「導電性の酸化物粒子」に相当するものといえる。 そうすると、甲2発明の「セラミック保護膜」は、「導電性の酸化物粒子と、前記第1酸化物を有する第1酸化物粒子とを含有する焼結体である」事項を含むものである。 オ 上記ア〜エより、本件発明1と甲2発明とは、 「クロムを含有する基材と、 前記基材を覆う被覆層と を備え、 前記被覆層は、導電性の酸化物と、第一イオン化エネルギーおよび酸化物の生成自由エネルギーの絶対値がクロムよりも小さい第1元素の酸化物である第1酸化物とを含み、 前記被覆層が、導電性の酸化物粒子と、前記第1酸化物を有する第1酸化物粒子とを含有する焼結体である 導電部材。」で一致し、次の相違点で相違する。 (相違点4) 「導電性の酸化物」について、本件発明1は、「Zn(CoxMn1−x)2O4(ただし、0<x<1)、Mn1.5Co1.5O4、MnCo2O4およびCoMn2O4から選択される1以上の複合酸化物を含む」ものであるのに対し、甲2発明は、「Mn1.35Co1.35Cu0.2Y0.1O4の組成を有する」ものである点。 カ 上記相違点4について、以下検討する。 キ 甲2には、「セラミック保護膜」に「Zn(CoxMn1−x)2O4(ただし、0<x<1)、Mn1.5Co1.5O4、MnCo2O4およびCoMn2O4から選択される1以上の複合酸化物」を含有させることは記載されていないから、上記相違点4は実質的な相違点である。 ク また、甲2発明は、「高耐食性および高導電表面特性を有する金属連結材の素材を確保する」(【0008】)ために、「セラミック保護膜」として、「下記化学式1で表されたスピネル構造の酸化物を含むもの」(【0013】)を採用したものである。 [化学式1] Mn1.5−0.5(x1+x2)Co1.5−0.5(x1+x2)Cux1Yx2O4 ケ そうすると、甲2発明において、「Mn1.35Co1.35Cu0.2Y0.1O4の組成を有する導電性酸化物粉末」に代えて、「Zn(CoxMn1−x)2O4(ただし、0<x<1)、Mn1.5Co1.5O4、MnCo2O4およびCoMn2O4から選択される1以上の複合酸化物」を採用する動機はないし、「Mn1.35Co1.35Cu0.2Y0.1O4の組成を有する導電性酸化物粉末」に加えて、「Zn(CoxMn1−x)2O4(ただし、0<x<1)、Mn1.5Co1.5O4、MnCo2O4およびCoMn2O4から選択される1以上の複合酸化物」を含有させる動機もない。 コ したがって、甲2発明において、上記相違点4に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。これは、甲1、3〜6を参酌しても、同様である。 サ よって、本件発明1は、甲2発明ではないし、甲2発明及び甲1、3〜6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (2)請求項2、4〜7について ア 請求項2、4〜7は請求項1を引用するものであり、本件発明2、4〜7は本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明2、4〜7と甲2発明とを対比すると、少なくとも上記相違点4で相違する。 イ そして、上記(1)で検討したとおり、甲2発明において、上記相違点4に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえないから、同様の理由により、甲2発明において、上記相違点4に係る本件発明2、4〜7の発明特定事項を得ることも、当業者が容易になし得たこととはいえない。 ウ よって、本件発明2、4、5は甲2発明ではないし、本件発明2、4〜7は、甲2発明及び甲1、3〜6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (3)請求項1、2、4〜7についてのまとめ 本件発明1、2、4、5は、甲2に記載された発明であるとはいえない。 本件発明1、2、4、5は、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 本件発明1、2、4〜7は、甲2に記載された発明及び甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 3−4 職権による取消理由(甲5を主たる引例とした場合の新規性・進歩性)について (1)請求項6について ア 本件発明6と甲5発明とを対比すると、甲5発明における「セルスタック装置1」は、本件発明6における「電気化学セル装置」に相当するから、両者は、 「電気化学セル装置と、 前記電気化学セル装置を収納する収納容器と を備えるモジュール。」で一致し、本件発明6は、請求項5に記載の電気化学セル装置を引用し、請求項5は請求項1に記載の導電部材を引用しているから、少なくとも次の点で相違する。 (相違点5) 電気化学セル装置が備える導電部材の被覆層に含まれる「導電性の酸化物」について、本件発明6は、「Zn(CoxMn1−x)2O4(ただし、0<x<1)、Mn1.5Co1.5O4、MnCo2O4およびCoMn2O4から選択される1以上の複合酸化物を含む」ものであるのに対し、甲5発明は、セルスタック装置1が導電部材を備えるか不明であり、仮に備えるとしても、導電部材の被覆層が導電性の酸化物を含むか否かが不明である点。 イ 上記相違点5について検討するに、甲1、甲2には、電気化学セル装置が備える導電部材の被覆層に含まれる「導電性の酸化物」を「Zn(CoxMn1−x)2O4(ただし、0<x<1)、Mn1.5Co1.5O4、MnCo2O4およびCoMn2O4から選択される1以上の複合酸化物を含む」ものとすることは記載も示唆もされていない。 ウ したがって、甲5発明において、上記相違点5に係る本件発明6の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 エ よって、本件発明6は、甲5発明及び甲1または甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (2)請求項7について ア 請求項7は請求項6を引用するものであり、請求項6に記載された事項を繰り入れると、本件発明7は次のとおりのものとなる。 「請求項5に記載の電気化学セル装置と、前記電気化学セル装置を収納する収納容器とを備えるモジュールと、 前記モジュールの運転を行うための補機と、 前記モジュールおよび前記補機を収容する外装ケースと を備えるモジュール収容装置。」 イ そして、本件発明7と甲5装置発明とを対比すると、甲5装置発明における「セルスタック装置1」は、本件発明7における「電気化学セル装置」に相当するから、両者は、 「電気化学セル装置と、前記電気化学セル装置を収納する収納容器とを備えるモジュールと、 前記モジュールの運転を行うための補機と、 前記モジュールおよび前記補機を収容する外装ケースと を備えるモジュール収容装置。」で一致し、少なくとも次の点で相違する。 (相違点6) 電気化学セル装置が備える導電部材の被覆層に含まれる「導電性の酸化物」について、本件発明7は、「Zn(CoxMn1−x)2O4(ただし、0<x<1)、Mn1.5Co1.5O4、MnCo2O4およびCoMn2O4から選択される1以上の複合酸化物を含む」ものであるのに対し、甲5装置発明は、セルスタック装置1が導電部材を備えるか不明であり、仮に備えるとしても、導電部材の被覆層が導電性の酸化物を含むか否かが不明である点。 ウ そして、上記相違点6は上記相違点5と同様の相違点であるから、上記(1)で検討した理由と同様の理由により、甲5装置発明において、上記相違点6に係る本件発明7の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 エ よって、本件発明7は、甲5装置発明及び甲1または甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (3)請求項6、7のまとめ 本件発明6、7は、甲5に記載された発明及び甲1または甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 3−5 申立理由3(サポート要件)について (1)実施例及び機序が記載されていないこと ア 本件発明の解決しようとする課題は、本件明細書の記載から見て、「第2基材層42が成長しにくく」して、「内部抵抗が増大しにくくな」り、「これにより、セル1の電池性能の低下を低減することができる」(【0058】)導電部材を提供することであると認められる。 イ そして、本件発明1は、「被覆層」が、「第一イオン化エネルギーおよび酸化物の生成自由エネルギーの絶対値がクロムよりも小さい第1元素の酸化物である第1酸化物」「を含」むことから、「第1元素」がクロムより酸化しやすいこと、及び、「第1元素」がクロムに優先して酸化されることにより、基材に含まれるクロムが酸化されにくくなって、酸化クロムを含有する「第2基材層42が成長しにくく」(【0058】)なることが理解できる。 ウ そうすると、実施例及び機序が記載されていなくても、本件発明1は、上記アの課題を解決し得ることが理解できる。 エ また、本件発明8も同様の理由により、上記アの課題を解決し得るものといえる。 オ よって、請求項1、8及びそれらを引用する請求項2〜7、9、10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。 (2)第1酸化物粒子の含有量及び平均粒径について ア 本件発明2、3、9、10が発明の詳細な説明に記載されたものであることは、上記(1)で検討したとおりである。 イ なお、申立人は、特許異議申立書において、請求項2、9に記載された第1酸化物の含有量及び請求項3、10に記載された第1酸化物の平均粒径は、本件明細書の記載によれば、いずれも、「第2基材層42が成長しにくくなることから、導電部材18は、内部抵抗が増大しにくくなる」(【0062】、【0063】)ため、必須の発明特定事項である旨主張している。 ウ しかしながら、本件発明1〜10が発明の詳細な説明に記載されたものであることは、上記(1)で検討したとおりであり、請求項2、9に記載された第1酸化物の含有量及び請求項3、10に記載された第1酸化物の平均粒径は、さらに「第2基材層42が成長しにくくなることから、導電部材18は、内部抵抗が増大しにくくなる」好ましい例であるといえる。 エ よって、申立人の主張は採用できない。 (3)基材の構成について ア 本件発明1〜10が発明の詳細な説明に記載されたものであることは、上記(1)で検討したとおりである。 イ なお、申立人は、特許異議申立書において、基材が第1基材層と第2基材層を有することが限定されていないから、基材の第2基材層の成長に起因する導電部材の内部抵抗の増大を抑制するという、本件発明の解決しようとする課題が生じないと主張している。 ウ しかしながら、本件発明の解決しようとする課題は、上記(1)のアで示したとおりのものである。本件明細書には、「基材40は」「第2基材層42を有さなくてもよい」(【0055】)と記載されているところ、上記(1)のイを踏まえると、基材が第2基材層を有していなかったとしても、基材に含まれるクロムが酸化されれば、酸化クロムを含有する第2基材層は成長してしまうから、本件発明の解決しようとする課題は生じるものと解される。 エ そして、「クロムを含有する基材」は請求項1、8において特定されており、また、クロムの含有量が第1の基材層よりも大きく、酸化クロムを含有する第2基材層は、存在しない場合が最も内部抵抗が増大しにくくなるから、基材について第1基材層と第2基材層を有することを特定しなければならない理由がない。 オ よって、申立人の主張は採用できない。 3−6 意見書の主張について (1)サポート要件について (1)−1 基材の構成について ア 申立人は、本件発明1〜10は、被覆層が基材の全面ではなく一部のみを覆う態様を包含し、このような態様では、被覆層に覆われていない箇所の第2基材層が成長してしまうから、課題を解決できない態様を含むものであると主張している。 イ しかしながら、当該主張は、特許異議申立ての時点で主張できたにもかかわらず、申立理由に含まれていない新たな主張であるから、特許法第113条において特許異議申立の期間を「特許掲載公報の発行の日から六月以内に限り」と定めている観点から採用しない。 (1)−2 被覆層における第1酸化物粒子の含有量について ア 申立人は、請求項2、9に記載された第1酸化物の含有量は、本件明細書の記載によれば、「第2基材層42が成長しにくくなることから、導電部材18は、内部抵抗が増大しにくくなる」(【0062】)ものであるから、必須の発明特定事項である旨主張している。 イ しかしながら、本件発明2、9が発明の詳細な説明に記載されたものであることは、上記3−4の(1)、(2)で検討したとおりであり、請求項2、9に記載された第1酸化物の含有量は、さらに「第2基材層42が成長しにくくなることから、導電部材18は、内部抵抗が増大しにくくなる」好ましい例であるといえる。 ウ また、申立人は、本件発明1、3〜8、10は、被覆層における導電性の酸化物粒子の含有量がごくわずかである態様も包含するものであり、このような態様は、本件明細書【0065】に記載されたXRDによる導電性の酸化物粒子のスピネル構造の同定方法では、被覆層が含有する導電性の酸化物粒子のスピネル構造を同定できないと主張している。 エ しかしながら、XRDで検出される結晶相について、被覆層が含有する導電性の酸化物粒子のスピネル構造を同定できないと、それをもってサポート要件違反となる理由が不明である。仮に、被覆層における導電性の酸化物粒子の含有量がごくわずかである場合に、導電性の酸化物粒子のスピネル構造を同定できないことがあるとしても、そうであるからといって、直ちにサポート要件違反であるとはいえない。 オ また、請求項1〜10の「導電性の酸化物」の同定は、本件明細書【0065】に記載された方法によりなされるべきであって、当該方法により同定されれば「導電性の酸化物」が存在し、当該方法により同定されなければ「導電性の酸化物」が存在しないこととなり、何ら不具合はない。 カ よって、申立人の主張は採用できない。 (2)明確性要件について (2)−1 導電性の酸化物について ア 申立人は、本件発明1の「導電性の酸化物が、Zn(CoxMn1−x)2O4(ただし、0<x<1)、Mn1.5Co1.5O4、MnCo2O4およびCoMn2O4から選択される1以上の複合酸化物を含む」との発明特定事項は、本件明細書【0056】、【0118】から、被覆層の形成に用いられるスラリーに含まれる導電性の酸化物の組成を特定するものか、それとも、該スラリーを焼成することにより形成された被覆層に含まれる導電性の酸化物の組成を特定するものか、不明であると主張している。 イ しかしながら、本件発明1は、「導電部材」の発明であり、本件明細書【0056】も「導電部材」における「被覆層」の材料に関する記載であるから、上記アの特定事項は、形成された被覆層に含まれる導電性の酸化物の組成であることは明白である。 ウ よって、申立人の主張は採用できない。 (2)−2 導電性の酸化物粒子について ア 申立人は次(ア)〜(イ)の主張をしている。 (ア)本件発明1は、以下の発明特定事項を有する。 ・発明特定事項1:「前記被覆層は、導電性の酸化物と、第一イオン化エネルギーおよび酸化物の生成自由エネルギーの絶対値がクロムよりも小さい第1元素の酸化物である第1酸化物とを含み」 ・発明特定事項2:「前記被覆層が、導電性の酸化物粒子と、前記第1酸化物を有する第1酸化物粒子とを含有する焼結体である」 ・発明特定事項3:「前記導電性の酸化物が、Zn(CoxMn1−x)2O4(ただし、0<x<1)、Mn1.5Co1.5O4、MnCo2O4およびCoMn2O4から選択される1以上の複合酸化物を含む」 (イ)そうすると、発明特定事項3が発明特定事項2の「導電性の酸化物粒子」を特定するものか否かが不明である。 イ 確かに、発明特定事項3の「前記導電性の酸化物」が、発明特定事項2の「導電性の酸化物粒子」を特定するものか否かが一見不明である。 ウ しかしながら、本件明細書の「第1酸化物粒子46は、第1酸化物を有する」(【0060】)との記載を参酌しつつ、発明特定事項1と発明特定事項2とを対比すると、前者の「導電性の酸化物」は後者の「導電性の酸化物粒子」の形態で存在することは明らかである。 エ そして、発明特定事項3の「前記導電性の酸化物」が発明特定事項1の「導電性の酸化物」を意味することは明らかである。 オ そうすると、上記ウ、エより、発明特定事項3の「導電性の酸化物」の材料の特定は、発明特定事項2の「導電性の酸化物粒子」の材料を特定するものである。 カ よって、申立人の主張は採用できない。 (2)−3 アニオン樹脂について ア 申立人は、本件発明8の「アニオン型樹脂」とはどのような樹脂であるかが不明確であると主張している。 イ しかしながら、当該主張は、特許異議申立ての時点で主張できたにもかかわらず、申立理由に含まれていない新たな主張であるから、特許法第113条において特許異議申立の期間を「特許掲載公報の発行の日から六月以内に限り」と定めている観点から採用しない。 第4 むすび 以上のとおり、本件特許の請求項1〜10に係る特許は、令和5年12月25日付け取消理由通知書に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできず、また、他に本件の請求項1〜10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 クロムを含有する基材と、 前記基材を覆う被覆層と を備え、 前記被覆層は、導電性の酸化物と、第一イオン化エネルギーおよび酸化物の生成自由エネルギーの絶対値がクロムよりも小さい第1元素の酸化物である第1酸化物とを含み、 前記被覆層が、導電性の酸化物粒子と、前記第1酸化物を有する第1酸化物粒子とを含有する焼結体であり、 前記導電性の酸化物が、Zn(CoxMn1−x)2O4(ただし、0<x<1)、Mn1.5Co1.5O4、MnCo2O4およびCoMn2O4から選択される1以上の複合酸化物を含む 導電部材。 【請求項2】 前記被覆層は、5体積%以上50体積%以下の前記第1酸化物粒子を含有する 請求項1に記載の導電部材。 【請求項3】 前記第1酸化物粒子は、平均粒径が0.1μm以上5μm以下である 請求項1に記載の導電部材。 【請求項4】 前記導電性の酸化物が、スピネル構造またはペロブスカイト構造を有する複合酸化物を含む 請求項1に記載の導電部材。 【請求項5】 素子部を有する2以上の電気化学セルと、 請求項1〜4のいずれか1つに記載の導電部材と を備える電気化学セル装置。 【請求項6】 請求項5に記載の電気化学セル装置と、 前記電気化学セル装置を収納する収納容器と を備えるモジュール。 【請求項7】 請求項6に記載のモジュールと、 前記モジュールの運転を行うための補機と、 前記モジュールおよび前記補機を収容する外装ケースと を備えるモジュール収容装置。 【請求項8】 クロムを含有する基材の表面に、導電性の酸化物と、第一イオン化エネルギーおよび酸化物の生成自由エネルギーの絶対値がクロムよりも小さい第1元素の酸化物である第1酸化物と、アニオン型樹脂とを含む塗膜を形成する第1工程と、 塗膜を形成した前記基材を焼成する第2工程と、 焼成した前記基材を焼結させる第3工程と を含む導電部材の製造方法。 【請求項9】 前記第3工程は、5体積%以上50体積%以下の第1酸化物粒子を含有する導電性の被覆層を形成する 請求項8に記載の導電部材の製造方法。 【請求項10】 前記第3工程は、平均粒径が0.1μm以上5μm以下の第1酸化物粒子を含有する導電性の被覆層を形成する 請求項8または9に記載の導電部材の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2024-06-21 |
出願番号 | P2022-551303 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(H01M)
P 1 651・ 113- YAA (H01M) P 1 651・ 537- YAA (H01M) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
井上 猛 |
特許庁審判官 |
相澤 啓祐 土屋 知久 |
登録日 | 2023-03-10 |
登録番号 | 7242970 |
権利者 | 京セラ株式会社 |
発明の名称 | 導電部材、電気化学セル装置、モジュール、モジュール収容装置および導電部材の製造方法 |
代理人 | 弁理士法人酒井国際特許事務所 |
代理人 | 弁理士法人酒井国際特許事務所 |