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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
管理番号 1414228
総通号数 33 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-09-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2024-05-27 
確定日 2024-08-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第7387950号発明「熱可塑性樹脂粉体造粒物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7387950号の請求項1ないし16に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第7387950号の請求項1〜16に係る特許についての出願は、令和5年5月16日に出願され、同年11月20日にその特許権の設定登録がされ、同年11月29日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和6年5月27日付けで特許異議申立人 村川明美(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。

2 本件特許発明
特許第7387950号の請求項1〜16の特許に係る発明(以下、請求項に付された番号に応じて「本件特許発明1」等という。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜16に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
熱可塑性樹脂粉体を含む粉体造粒物であって、粉体造粒物の外縁に位置する熱可塑性樹脂粉体の少なくとも一部が溶融して構成された外壁部を有し、外壁部の内側に圧縮された熱可塑性樹脂粉体が収まっており、圧縮造粒物である、粉体造粒物。
【請求項2】
外壁部の内側の圧縮された熱可塑性樹脂粉体の少なくとも一部が、溶融していない圧縮された粉体状形態を含む、請求項1に記載の粉体造粒物。
【請求項3】
外壁部の内側の圧縮された熱可塑性樹脂粉体の少なくとも一部が、部分的に溶融している形態を含む、請求項1に記載の粉体造粒物。
【請求項4】
粉体造粒物の形状が、略円柱状又は略角柱状である、請求項1に記載の粉体造粒物。
【請求項5】
粉体造粒物の側面に、外壁部を有する、請求項4に記載の粉体造粒物。
【請求項6】
破壊強度が、2.0kg以上である、請求項5に記載の粉体造粒物。
【請求項7】
粉体造粒物の高さが、1mm以上である、請求項4に記載の粉体造粒物。
【請求項8】
熱可塑性樹脂粉体が、50〜150℃の軟化開始温度を有する熱可塑性樹脂を含む、請求項1に記載の粉体造粒物。
【請求項9】
熱可塑性樹脂粉体が、60〜90℃の軟化開始温度を有する熱可塑性樹脂を含む、請求項1に記載の粉体造粒物。
【請求項10】
熱可塑性樹脂粉体が、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)系樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)系樹脂、ポリイミド(PI)系樹脂、ポリアミドイミド(PAI)系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート(PC)系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリケトン系樹脂、液晶ポリマー(LCP)、およびコアシェル型ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載の粉体造粒物。
【請求項11】
熱可塑性樹脂粉体が、PHA系樹脂を含む、請求項1に記載の粉体造粒物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の粉体造粒物を製造する方法であって、
熱可塑性樹脂粉体をダイス穴から押し出す圧縮造粒法により熱可塑性樹脂粉体を造粒する圧縮造粒工程を含み、
造粒直後の造粒物温度Tp(℃)と熱可塑性樹脂粉体の軟化開始温度Ts(℃)とが式(1)を満たす条件で圧縮造粒工程が行われる、方法:
式(1):Ts−30≦Tp≦Ts+10。
【請求項13】
造粒直後の造粒物温度Tp(℃)と熱可塑性樹脂粉体の軟化開始温度Ts(℃)とが式(1)を満たす条件となるように、ダイスの温度が制御される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
外壁部が、ダイス穴の壁面との接触面にて、壁面との摩擦熱もしくは壁面からの伝熱によって熱可塑性樹脂粉体の少なくとも一部が溶融することで形成される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
圧縮造粒が、ディスクペレッター方式の圧縮造粒装置を用いて行われる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
熱可塑性樹脂コンパウンド用原料、または成形用材料としての、請求項1〜11のいずれか1項に記載の粉体造粒物の使用。」

3 申立理由の概要
申立人は、特開平11−254428号公報(以下「甲第1号証」という。)を証拠として提出し、請求項1〜10、12、14〜16に係る特許は、特許法第29条第1項3号の規定に違反してされたものであり、請求項1〜16に係る特許は、特許法第29条2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1〜16に係る特許を取り消すべきものであると主張する。

4 甲第1号証
(1)甲第1号証の記載事項
本件特許に係る出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証には、以下の記載事項がある。なお、引用発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 熱可塑性樹脂の第一粒子が部分的に融合して粒子の凝集体を形成するように第一粒子を軟化するのに有効な温度で第一粒子を圧縮すること、及び該凝集体を熱可塑性樹脂の第二粒子に分割することを含んでなる熱可塑性樹脂の加工方法。
【請求項2】 第一粒子が粉末の形態であり、第二粒子がペレットの形態である、請求項1記載の方法。
【請求項3】 前記熱可塑性樹脂が、ゴム改質熱可塑性樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂及びポリイミド樹脂のうちの1以上を含んでなる、請求項1記載の方法。
・・・
【請求項8】 前記圧縮が、第一粒子を孔あき金型に対して圧縮することによって実施され、凝集体が金型の孔を通して押出される、請求項1記載の方法。
【請求項9】 前記圧縮が、
第一の長手軸に沿って延在する円筒壁であって、円筒形内面と該円筒形内面から半径方向に離隔した円筒形外面とを有していてこれらの内面と外面とをつなぐ半径方向に配設された1以上の通路もしくは孔を有する円筒壁を含んでなる回転自在に装着された金型と、
上記金型を上記第一の軸の回りに回転させる手段と、
上記金型内に熱可塑性樹脂粒子を導入する手段と、
各々それぞれの長手軸に沿って延在しそれぞれの円筒形外面を有する1以上の円筒ミルであって、各々前記金型と軸方向に整列しかつ金型内に回転自在に装着されていてミルの外面が金型の円筒壁内面に近接している、1以上の円筒ミルと、
各ミルを各自の軸の回りに回転させる手段とを含んでなるプレス押出装置を用いて実施され、第一粒子が金型中に導入されてミルの外面と金型の壁の内面との間で圧縮され、金型壁内に画定された1以上の通路を通して凝集体が金型から半径方向外側に押出される、請求項1記載の方法。
・・・
【請求項11】 請求項1記載の方法で製造された熱可塑性樹脂ペレット。」

イ 「【0001】
【技術分野】本発明は熱可塑性樹脂の加工方法に関するものであり、より具体的には熱可塑性樹脂をコンパウンディングして、ペレットの形態の熱可塑性樹脂組成物を提供する方法に関する。」

ウ 「【0002】
【背景】熱可塑性樹脂を他の成分と混合したり、ある形態で製造された熱可塑性樹脂を成形作業に都合のよい別の形態に変換することが往々にして望まれる。例えば、取扱い及び成形作業に便利な形態の熱可塑性樹脂組成物を与えるため、粉末形態で製造された熱可塑性樹脂を他の成分と組合せてペレットに変換し得る。例えば押出機やバンバリーミキサーのような配合機を用いる通常のコンパウンディング技術では通例大量のエネルギーが消費され、熱可塑性樹脂が局部的に高温となって熱分解を起こすことがある。極端な場合、高温にさらされることで熱可塑性樹脂の局部的炭化が起こることがあり、かかるプロセスで製造された熱可塑性樹脂ペレットに目に見える黒色の粒状夾雑物として現れる。」

エ 「【0003】
【発明の概要】本発明は、熱可塑性樹脂の第一粒子が部分的に融合して粒子の凝集体を形成するように第一粒子を軟化するのに有効な温度で第一粒子を圧縮すること、及び該凝集体を熱可塑性樹脂の第二粒子に分割することを含んでなる熱可塑性樹脂の加工方法に関する。」

オ 「【0004】本発明の方法では、熱可塑性樹脂の熱分解の危険性が大幅に低減するとともに大幅に低減したコストで、粒状熱可塑性樹脂を他の成分とコンパウンディング、圧縮、造粒できるようになる。」

カ 「【0005】
〔発明の詳細な説明〕非常に好ましい実施形態では、第一熱可塑性樹脂粒子は篩分分析で求めた粒度が約4.0mm以下、好ましくは約2.0mm以下、さらに好ましくは約0.06mm〜約1.0mmのものである。非常に好ましい実施形態では、第一の熱可塑性樹脂粒子は粉末の形態にある。
【0006】好ましい実施形態では、第二の熱可塑性樹脂粒子は、約1mm〜約6mm、さらに好ましくは約2mm〜約5mmの縦寸法(例えば長さ)と約1mm〜約5mm、さらに好ましくは約2mm〜約4mmの横寸法(例えば直径)で特徴付けられる粒度のものである。非常に好ましい実施形態では、第二の熱可塑性樹脂粒子はペレットの形態、さらに好ましくは実質的に円筒形ペレットの形態にある。
【0007】熱可塑性樹脂の第一粒子を圧縮する段階は焼結効果を与えるのに有効な温度で実施され、第一粒子が軟化し、部分的に融合して第一粒子の凝集体を形成し、好ましくは該凝集体から形成される第二粒子が良好な物理的一体性を示すようにする。好ましい実施形態では、熱可塑性樹脂の第一粒子の圧縮は、該熱可塑性樹脂のビカット軟化温度以上の温度で実施する。本明細書において樹脂の「ビカット軟化温度」という用語は、ISO 306/B50に準じて測定した熱可塑性樹脂の軟化温度をいう。さらに好ましい実施形態では、圧縮は、熱可塑性樹脂のビカット軟化温度から熱可塑性樹脂のビカット軟化温度を約70℃上回る温度までの範囲内の温度で実施する。さらに好ましくは、圧縮は熱可塑性樹脂のビカット軟化温度を約5〜約50℃上回る温度、さらに一段と好ましくは約10〜約30℃上回る温度で実施される。
・・・
【0012】好ましい実施形態では、樹脂の圧縮は図1(c)に示すタイプの装置で行なわれる。次に図2、図3及び図4を参照すると、装置(60)にはハウジング(62)が含まれる。ハウジング(62)内には、長手軸に沿って延在する円筒壁(101)を有する金型(100)が回転自在に装着されており、該円筒壁は内面(102)と該内面(102)から半径方向に離隔した外面(103)とを有しているとともに、内面(102)と外面(103)とをつなぐ半径方向に配設された1以上の通路もしくは孔(104)を有している。当該装置は、さらに、金型(100)をその長手軸の回りに回転させるため金型(100)と作動可能に連結したモーター(70)及び動力継手(72)及び歯車列(74)、並びに熱可塑性樹脂ペレットを金型(100)内に導入するためのホッパー(76)及びスクリューコンベヤー(78)及び供給シュート(80)も含んでいる。当該装置はさらに1以上の円筒形ミル(106)も含んでいる。各々のミル(106)はそれぞれの長手軸に沿って延在し、かつそれぞれの外面(107)を有しており、各ミル(106)は金型(100)と軸方向に整列しかつ金型(100)内に回転自在に装着されていてミル(106)の外面(107)が金型(100)の円筒壁(101)の内面(102)と好ましくは約0〜約2mmの間隔で近接している。モーター(70)、動力継手(72)及び歯車列(74)は、各々のミル(106)が各自の軸の回りを回転するように、1以上のミル(106)と作動可能に連結されている。樹脂粒子はミル(106)の外面(107)と金型(100)の壁(101)の内面(102)の間で圧縮され、金型壁(101)内に画定された1以上の通路(104)を通してハウジング(62)内に半径方向外側に押出されて樹脂粒子凝集体を形成する。押出された樹脂をハウジング(62)から吐出するために吐出シュート(82)が設けられる。
【0013】好ましい実施形態では、半径方向の通路(104)は各々が各自の実質的連続円筒面によって画定され、該円筒面は1〜10mm、好ましくは2〜4mmの内径(「D」)を有するとともに、円筒壁(101)の厚みに対応した10〜100mm、好ましくは30〜70mmの長さ(「L」)の長手軸に沿って延在しており、各半径方向通路の長手方向軸は円筒壁(101)の長手軸に関して半径方向に向いている。
【0014】金型(100)の半径方向通路(104)のLとDの比は、押出物の温度が望ましい範囲内になるように、個々の熱可塑性樹脂に対して個別に決定される。好ましい実施形態では、半径方向通路のL/D比は5〜50、好ましくは10〜30、さらに好ましくは10〜20である。通例、押出物温度はビカット軟化温度を10〜40℃上回る。
・・・
【0016】非常に好ましい実施形態では、円筒壁(101)の外面(103)には、押出物が円筒壁(101)を通って半径方向通路(104)を出るときに樹脂押出物を切断してペレットにするナイフ(109)が1以上配置されている。ナイフ(109)は金型(100)の円筒壁(101)の外面(103)の周囲に離隔して配置される。押出される樹脂ペレットの寸法は、ナイフの形状、半径方向通路(104)の寸法及び押出速度の総合的影響によって決定される。」
合議体注:図1(c)、図2、図3及び図4は次のものである。


キ 「【0064】
【実施例】実施例1〜4及び比較例C1〜C4
本発明の方法を用いて幾つかのABS系ゴム改質熱可塑性樹脂組成物のペレットを形成し、その結果を通常の配合技術で得た結果と比較した。
・・・
【0067】粉末形態の熱可塑性樹脂組成物A〜Dの試料を、(i)1.3リットルFarrel Pomini配合機を用いて各組成物をコンパウンディングし、次いで配合組成物をダイシング(切断)してペレットを形成すると従来プロセス、或いは(ii)Universal Milling Technology V3−30C型プレス押出機を用いて本発明の方法に従って各組成物を圧縮することよって、ペレットとした。このプレス押出機は図1(c)、図2、図3及び図4に示す一般的な設計のものであり、回転式金型と、加工すべき材料を該金型の孔を通して半径方向外側にプレスする2つの内部ミルを含んでいた。
・・・
【0072】実施例1〜4及び比較例C1〜C4の各々について、使用熱可塑性樹脂組成物、使用熱可塑性樹脂組成物のメルトインデックス(10分当たりのグラム数「g/10min」で表す)、使用熱可塑性樹脂組成物のビカット軟化温度(「ビカットT(℃)」)、使用プロセス(すなわち本発明による上記「圧縮」プロセス又は従来の「コンパウンディング」プロセス)、プロセス温度(℃で表す。ここで「>」はより高温であることを意味している)、使用した金型、形成された樹脂ペレットの密度(平方メートル当たりのキログラム「kg/m3」で表す)、及び熱可塑性樹脂ペレットから成形した試験片の衝撃強さ(平方メートル当たりのジュール「kJ/m2」で表す)を以下の表2に示す。
【0073】
【表2】

【0074】これらの結果は、本発明のプレス押出法で作成した造粒ABS系組成物が従来の押出技術で作成したものよりも優れていることを示している。」

(2)甲第1号証に記載された発明
上記(1)の記載事項アに基づけば、甲第1号証には、請求項1の記載を引用する請求項11に係る発明の「熱可塑性樹脂ペレット」として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「熱可塑性樹脂の第一粒子が部分的に融合して粒子の凝集体を形成するように第一粒子を軟化するのに有効な温度で第一粒子を圧縮すること、及び該凝集体を熱可塑性樹脂の第二粒子に分割することを含んでなる熱可塑性樹脂の加工方法で製造された熱可塑性樹脂ペレット。」

5 当審の判断
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と引用発明を対比する。

(ア)熱可塑性樹脂粉体
引用発明の「熱可塑性樹脂の第一粒子」は、凝集体を形成し、分割することで、「熱可塑性樹脂ペレット」に加工されるものである。そうすると、引用発明の「熱可塑性樹脂の第一粒子」は、本件特許発明1の「熱可塑性樹脂粉体」に相当する。
また、引用発明の「熱可塑性樹脂ペレット」は、その加工工程からみて、「熱可塑性樹脂の第一粒子」を含むものである。そうすると、引用発明の「熱可塑性樹脂ペレット」は、本件特許発明1の「粉体造粒物」に相当する。

(イ)圧縮造粒物
引用発明の「熱可塑性樹脂ペレット」は、「第一粒子を軟化するのに有効な温度で第一粒子を圧縮すること」により、「第一粒子が部分的に融合」した「粒子の凝集体」を形成し、分割して得られるものである。そうすると、引用発明の「熱可塑性樹脂ペレット」は、本件特許発明1の「熱可塑性樹脂粉体の少なくとも一部が溶融して構成された」との要件、及び、「圧縮造粒物である」との要件を満たしている。

(ウ)一致点及び相違点
以上より、本件特許発明1と引用発明とは、
「熱可塑性樹脂粉体を含む粉体造粒物であって、熱可塑性樹脂粉体の少なくとも一部が溶融して構成された圧縮造粒物である、粉体造粒物。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点]
本件特許発明1は、一部が溶融して構成された可塑性樹脂粉体によって構成された「粉体造粒物の外縁に位置する」「外壁部」を有し、「外壁部の内側に圧縮された熱可塑性樹脂粉体が収まって」いるのに対し、引用発明は、一部が溶融して構成された可塑性樹脂粉体によって構成された外壁部を有しているとは特定されていない点。

イ 判断
甲第1号証には、記載事項カに「熱可塑性樹脂の第一粒子を圧縮する段階は焼結効果を与えるのに有効な温度で実施され、第一粒子が軟化し、部分的に融合して第一粒子の凝集体を形成し、好ましくは該凝集体から形成される第二粒子が良好な物理的一体性を示すようにする。」(段落【0007】)との記載がある。
当該記載に基づけば、第一粒子の「凝集体」は、「該凝集体を熱可塑性樹脂の第二粒子に分割すること」により形成される第二粒子について、良好な物理的一体性を示すように形成されるものである。第一粒子の凝集体を分割することにより形成される第二粒子が物理的一体性を示すためには、凝集体に形成されるいずれの分割面においても、そこに存在する複数の第一粒子がすべて部分的に融合していることが必要である。そうすると、引用発明の第一粒子は、熱可塑性樹脂ペレットの「外縁」だけでなく、「内側」においても、部分的に融合して粒子の凝集体を形成する必要がある。したがって、引用発明において、部分的に融合した第一粒子の凝集体によって「外壁部」を設け、「外壁部の内側に圧縮された熱可塑性樹脂粉体が収まって」いる構成とすることには阻害要因があるといえる。

また、甲第1号証の記載事項キに基づけば、実施例1〜4は、回転式金型と、加工すべき材料を該金型の孔を通して半径方向外側にプレスする2つの内部ミルを含むプレス押出機を用いてABS系ゴム改質熱可塑性樹脂組成物のペレットを形成したものであり、いずれも、使用熱可塑性樹脂組成物のビカット軟化温度(「ビカットT(℃)」)よりも10℃以上高いプロセス温度で圧縮しながら製造されている。そうすると、仮に実施例1〜4に基づいて引用発明を認定したとしても、第一の粒子が部分的に融合して形成された粒子の凝集体が、外縁に位置する部分にとどまるとは考えがたく、形成されたペレットが外壁部を有している蓋然性が高いとはいえない。さらに、上記プロセスを変更してペレットが外壁部を有する構成とする動機づけはない。

したがって、上記[相違点]は、実質的な相違点であり、当業者であっても容易になし得たとはいえないものである。

ウ 小括
以上より、本件特許発明1は、本件特許に係る出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明ということはできず、また、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。
よって、本件特許発明1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号及び第2項の規定に違反してされたものではない。

(2)本件特許発明2〜16について
本件特許発明2〜16は、本件特許発明1に、さらに限定を付した発明である。そうすると、本件特許発明2〜16は、本件特許発明1と同じ理由により、本件特許に係る出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明ということはできず、また、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。
したがって、本件特許発明2〜16も、特許法第29条第1項第3号及び第2項の規定に違反してされたものではない。

6 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜16に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2024-08-05 
出願番号 P2023-080938
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C08J)
P 1 651・ 121- Y (C08J)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 宮澤 浩
西岡 貴央
登録日 2023-11-20 
登録番号 7387950
権利者 ナガセプラスチックス株式会社 長瀬産業株式会社
発明の名称 熱可塑性樹脂粉体造粒物  
代理人 弁理士法人平木国際特許事務所  
代理人 弁理士法人平木国際特許事務所  

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