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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H10K 審判 全部申し立て 2項進歩性 H10K 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 H10K 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H10K |
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管理番号 | 1415286 |
総通号数 | 34 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2024-10-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2023-10-10 |
確定日 | 2024-07-11 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第7257440号発明「組成物、膜、有機光電変換素子、及び光検出素子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7257440号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜3〕、〔4〜6〕について訂正することを認める。 特許第7257440号の請求項1〜6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 1 本件特許の出願から特許掲載公報の発行までの手続の経緯 令和 3年 4月23日 :特許出願 (優先日:令和 2年12月 8日) 令和 5年 4月 5日 :特許権の設定登録 同年 4月13日 :特許掲載公報の発行 2 本件特許異議の申立ての手続の経緯 令和 5年10月10日 :特許異議申立書の提出 (特許異議申立人:浅野 幸義(以下「申立人」という。) 請求項1〜6に対して) 令和 6年 1月18日付け:取消理由通知書 同年 3月22日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出 同年 4月 4日付け:訂正請求があった旨の通知書 同年 4月26日 :申立人による意見書の提出 以下、令和6年1月18日付け取消理由通知書で通知した取消理由を「取消理由」といい、令和6年3月22日に提出された訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。 第2 本件訂正について 1 本件訂正の請求の趣旨 本件訂正の請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜6について訂正することを求める、というものである。 2 本件訂正前の特許請求の範囲の記載 本件訂正前(設定登録時)の特許請求の範囲の請求項1〜6の記載は、次のとおりである。 「【請求項1】 p型半導体材料と、n型半導体材料と、絶縁材料と、溶媒とを含む組成物であって、前記n型半導体材料が非フラーレン化合物を含み、前記絶縁材料が前記溶媒に25℃で0.1重量%以上溶解する材料であり、 前記組成物における前記絶縁材料の含有量が、p型半導体材料、n型半導体材料、絶縁材料、及び溶媒の総重量を100重量%としたときに、0.1重量%以上5重量%以下である、組成物。 【請求項2】 前記絶縁材料が、下記式(I)で表される構成単位を含む重合体を含む、請求項1に記載の組成物。 【化1】 ![]() (I) (式(I)中、 Ri1は、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素原子数1〜20のアルキル基を表し、 Ri2は、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、下記式(II−1)で表される基、式(II−2)で表される基、又は式(II−3)で表される基を表す。 【化2】 ![]() (II−1) (式(II−1)中、 複数あるRi2aは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素原子数1〜20のアルキル基を表す。) 【化3】 ![]() (II−2) (式(II−2)中、 Ri2bは、水素原子又は炭素原子数1〜20のアルキル基を表す。) 【化4】 ![]() (II−3) (式(II−3)中、 Ri2cは、炭素原子数1〜20のアルキル基を表す。)) 【請求項3】 前記p型半導体材料が、下記式(III)で表される構成単位及び下記式(IV)で表される構成単位からなる群より選択される一種以上の構成単位を含む重合体を含む、請求項1又は2に記載の組成物。 【化5】 ![]() (III) (式(III)中、 Ar1及びAr2は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい3価の芳香族複素環基を表す。 Zは、下記式(Z−1)〜式(Z−7)で表される基を表す。 【化6】 ![]() (式(Z−1)〜(Z−7)中、 Rは、 水素原子、 ハロゲン原子、 置換基を有していてもよいアルキル基、 置換基を有していてもよいシクロアルキル基、 置換基を有していてもよいアルケニル基、 置換基を有していてもよいシクロアルケニル基、 置換基を有していてもよいアルキニル基、 置換基を有していてもよいシクロアルキニル基、 置換基を有していてもよいアリール基、 置換基を有していてもよいアルキルオキシ基、 置換基を有していてもよいシクロアルキルオキシ基、 置換基を有していてもよいアリールオキシ基、 置換基を有していてもよいアルキルチオ基、 置換基を有していてもよいシクロアルキルチオ基、 置換基を有していてもよいアリールチオ基、 置換基を有していてもよい1価の複素環基、 置換基を有していてもよい置換アミノ基、 置換基を有していてもよいイミン残基、 置換基を有していてもよいアミド基、 置換基を有していてもよい酸イミド基、 置換基を有していてもよい置換オキシカルボニル基、 シアノ基、 ニトロ基、 −C(=O)−Raで表される基、又は −SO2−Rbで表される基を表し、 Ra及びRbは、それぞれ独立して、 水素原子、 置換基を有していてもよいアルキル基、 置換基を有していてもよいシクロアルキル基、 置換基を有していてもよいアリール基、 置換基を有していてもよいアルキルオキシ基、 置換基を有していてもよいシクロアルキルオキシ基、 置換基を有していてもよいアリールオキシ基、又は 置換基を有していてもよい1価の複素環基を表す。 式(Z−1)〜式(Z−7)中、Rが2つある場合、2つあるRは同一であっても異なっていてもよい。)) −Ar3− (IV) (式(IV)中、Ar3は2価の芳香族複素環基を表す。) 【請求項4】 p型半導体材料と、非フラーレン化合物を含むn型半導体材料と、溶媒に25℃で0.1重量%以上溶解する材料である絶縁材料と、溶媒とを含む組成物であって、 前記組成物における前記絶縁材料の含有量が、p型半導体材料、n型半導体材料、絶縁材料、及び溶媒の総重量を100重量%としたときに、0.1重量%以上5重量%以下である、組成物を、塗布対象に塗布して塗膜を形成する工程と、 前記塗膜を乾燥させる工程と を含む、膜の製造方法。 【請求項5】 第一の電極が設けられた支持基板を用意する工程と、 請求項4に記載の膜の製造方法により膜を製造して活性層とする工程と、 第二の電極を形成する工程と をこの順で含む、有機光電変換素子の製造方法。 【請求項6】 第一の電極が設けられた支持基板を用意する工程と、 請求項4に記載の膜の製造方法により膜を製造して活性層とする工程と、 第二の電極を形成する工程と をこの順で含む、光検出素子の製造方法。」 3 本件訂正後の特許請求の範囲の記載 本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1〜6の記載は、次のとおりである。下線は訂正箇所を示す。 「【請求項1】 p型半導体材料と、n型半導体材料と、絶縁材料と、溶媒とを含む組成物であって、前記n型半導体材料が非フラーレン化合物を含み、前記絶縁材料が前記溶媒に25℃で0.1重量%以上溶解する材料であり、 前記組成物における前記絶縁材料の含有量が、p型半導体材料、n型半導体材料、絶縁材料、及び溶媒の総重量を100重量%としたときに、0.1重量%以上5重量%以下である、下記組成物1及び2以外の組成物。 組成物1: 前記p型半導体材料が下記式(i)で表される化合物(PBDB−TF)であり、前記n型半導体材料が下記式(ii)で表される化合物(IT−M)又は下記式(iii)で表される化合物(IT−4F)であり、前記絶縁材料が1,8−ジヨードオクタンであり、溶媒がクロロベンゼンである、組成物。 組成物2: 前記p型半導体材料が下記式(iv)で表される化合物(PBT1−EH)であり、前記n型半導体材料が下記式(v)で表される化合物(ITIC−Th)であり、前記絶縁材料がクロロナフタレンであり、溶媒がクロロホルムである、組成物。 【化1】 ![]() ・・・(i) ![]() ・・・(ii) 【化2】 ![]() ・・・(iii) ![]() ・・・(iv) 【化3】 ![]() ・・・(v) 【請求項2】 前記絶縁材料が、下記式(I)で表される構成単位を含む重合体を含む、請求項1に記載の組成物。 【化4】 ![]() (I) (式(I)中、 Ri1は、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素原子数1〜20のアルキル基を表し、 Ri2は、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、下記式(II−1)で表される基、式(II−2)で表される基、又は式(II−3)で表される基を表す。 【化5】 ![]() (II−1) (式(II−1)中、 複数あるRi2aは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素原子数1〜20のアルキル基を表す。) 【化6】 ![]() (II−2) (式(II−2)中、 Ri2bは、水素原子又は炭素原子数1〜20のアルキル基を表す。) 【化7】 ![]() (II−3) (式(II−3)中、 Ri2cは、炭素原子数1〜20のアルキル基を表す。)) 【請求項3】 前記p型半導体材料が、下記式(III)で表される構成単位及び下記式(IV)で表される構成単位からなる群より選択される一種以上の構成単位を含む重合体を含む、請求項1又は2に記載の組成物。 【化8】 ![]() (III) (式(III)中、 Ar1及びAr2は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい3価の芳香族複素環基を表す。 Zは、下記式(Z−1)〜式(Z−7)で表される基を表す。 【化9】 ![]() (式(Z−1)〜(Z−7)中、 Rは、 水素原子、 ハロゲン原子、 置換基を有していてもよいアルキル基、 置換基を有していてもよいシクロアルキル基、 置換基を有していてもよいアルケニル基、 置換基を有していてもよいシクロアルケニル基、 置換基を有していてもよいアルキニル基、 置換基を有していてもよいシクロアルキニル基、 置換基を有していてもよいアリール基、 置換基を有していてもよいアルキルオキシ基、 置換基を有していてもよいシクロアルキルオキシ基、 置換基を有していてもよいアリールオキシ基、 置換基を有していてもよいアルキルチオ基、 置換基を有していてもよいシクロアルキルチオ基、 置換基を有していてもよいアリールチオ基、 置換基を有していてもよい1価の複素環基、 置換基を有していてもよい置換アミノ基、 置換基を有していてもよいイミン残基、 置換基を有していてもよいアミド基、 置換基を有していてもよい酸イミド基、 置換基を有していてもよい置換オキシカルボニル基、 シアノ基、 ニトロ基、 −C(=O)−Raで表される基、又は −SO2−Rbで表される基を表し、 Ra及びRbは、それぞれ独立して、 水素原子、 置換基を有していてもよいアルキル基、 置換基を有していてもよいシクロアルキル基、 置換基を有していてもよいアリール基、 置換基を有していてもよいアルキルオキシ基、 置換基を有していてもよいシクロアルキルオキシ基、 置換基を有していてもよいアリールオキシ基、又は 置換基を有していてもよい1価の複素環基を表す。 式(Z−1)〜式(Z−7)中、Rが2つある場合、2つあるRは同一であっても異なっていてもよい。)) −Ar3− (IV) (式(IV)中、Ar3は2価の芳香族複素環基を表す。) 【請求項4】 p型半導体材料と、非フラーレン化合物を含むn型半導体材料と、溶媒に25℃で0.1重量%以上溶解する材料である絶縁材料と、溶媒とを含む組成物であって、 前記組成物における前記絶縁材料の含有量が、p型半導体材料、n型半導体材料、絶縁材料、及び溶媒の総重量を100重量%としたときに、0.1重量%以上5重量%以下である、下記組成物1及び2以外の組成物を、塗布対象に塗布して塗膜を形成する工程と、 前記塗膜を乾燥させる工程と を含む、膜の製造方法。 組成物1: 前記p型半導体材料が下記式(i)で表される化合物(PBDB−TF)であり、前記n型半導体材料が下記式(ii)で表される化合物(IT−M)又は下記式(iii)で表される化合物(IT−4F)であり、前記絶縁材料が1,8−ジヨードオクタンであり、溶媒がクロロベンゼンである、組成物。 組成物2: 前記p型半導体材料が下記式(iv)で表される化合物(PBT1−EH)であり、前記n型半導体材料が下記式(v)で表される化合物(ITIC−Th)であり、前記絶縁材料がクロロナフタレンであり、溶媒がクロロホルムである、組成物。 【化10】 ![]() ・・・(i) ![]() ・・・(ii) 【化11】 ![]() ・・・(iii) ![]() ・・・(iv) 【化12】 ![]() ・・・(v) 【請求項5】 第一の電極が設けられた支持基板を用意する工程と、 請求項4に記載の膜の製造方法により膜を製造して活性層とする工程と、 第二の電極を形成する工程と をこの順で含む、有機光電変換素子の製造方法。 【請求項6】 第一の電極が設けられた支持基板を用意する工程と、 請求項4に記載の膜の製造方法により膜を製造して活性層とする工程と、 第二の電極を形成する工程と をこの順で含む、光検出素子の製造方法。」 4 本件訂正の内容 本件訂正は、請求項1〜6を訂正するものであって、本件訂正により請求項1〜6を訂正する事項(以下「訂正事項1」などという。)は、次のとおりである。 (1) 訂正事項1 本件訂正前の請求項1の「組成物。」との記載を、次の記載に訂正する。 「下記組成物1及び2以外の組成物。 組成物1: 前記p型半導体材料が下記式(i)で表される化合物(PBDB−TF)であり、前記n型半導体材料が下記式(ii)で表される化合物(IT−M)又は下記式(iii)で表される化合物(IT−4F)であり、前記絶縁材料が1,8−ジヨードオクタンであり、溶媒がクロロベンゼンである、組成物。 組成物2: 前記p型半導体材料が下記式(iv)で表される化合物(PBT1−EH)であり、前記n型半導体材料が下記式(v)で表される化合物(ITIC−Th)であり、前記絶縁材料がクロロナフタレンであり、溶媒がクロロホルムである、組成物。 【化1】 ![]() ・・・(i) ![]() ・・・(ii) 【化2】 ![]() ・・・(iii) ![]() ・・・(iv) 【化3】 ![]() ・・・(v) 」 本件訂正前の請求項1の記載を引用する本件訂正前の請求項2〜3も同様に訂正する。 (2) 訂正事項2 本件訂正前の請求項4について、「組成物を」との記載を、「下記組成物1及び2以外の組成物を」に訂正するとともに、「膜の製造方法。」の後に次の記載を追加する。 「組成物1: 前記p型半導体材料が下記式(i)で表される化合物(PBDB−TF)であり、前記n型半導体材料が下記式(ii)で表される化合物(IT−M)又は下記式(iii)で表される化合物(IT−4F)であり、前記絶縁材料が1,8−ジヨードオクタンであり、溶媒がクロロベンゼンである、組成物。 組成物2: 前記p型半導体材料が下記式(iv)で表される化合物(PBT1−EH)であり、前記n型半導体材料が下記式(v)で表される化合物(ITIC−Th)であり、前記絶縁材料がクロロナフタレンであり、溶媒がクロロホルムである、組成物。 【化10】 ![]() ・・・(i) ![]() ・・・(ii) 【化11】 ![]() ・・・(iii) ![]() ・・・(iv) 【化12】 ![]() ・・・(v) 」 本件訂正前の請求項4の記載を引用する本件訂正前の請求項5〜6も同様に訂正する。 (3) 一群の請求項について 本件訂正は、それぞれ一群の請求項である訂正後の請求項〔1〜3〕、請求項〔4〜6〕について請求するものである。 5 本件訂正の適否についての当審の判断 以下、本件訂正が、訂正要件を満たすか否かについて検討する。 (1) 訂正事項1について ア 訂正の目的の適否 訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の「組成物」について、「組成物1及び2以外の」ものに限定するものである。 したがって、訂正事項1は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ 新規事項の追加の有無 訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の「組成物」について、「組成物1及び2」という特定の態様を除外するものであるところ、当該除外により新たな技術的事項を追加するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」という。)に記載された技術的思想に変更を生じさせるものでもない。したがって、訂正事項1は、明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。 したがって、訂正事項1は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否 前記アにおいて検討したとおり、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは明らかである。 したがって、訂正事項1は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合する。 (2) 訂正事項2について ア 訂正の目的の適否 訂正事項2は、本件訂正前の請求項4の「組成物」について、「組成物1及び2以外の」ものに限定するものである。 したがって、訂正事項2は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ 新規事項の追加の有無 訂正事項2は、本件訂正前の請求項4の「組成物」について、「組成物1及び2」という特定の態様を除外するものであるところ、前記(1)イで検討した訂正事項1と同様に、明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。 したがって、訂正事項2は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否 前記アにおいて検討したとおり、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは明らかである。 したがって、訂正事項2は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合する。 (3) 本件訂正の適否についてのまとめ したがって、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであるから同項の規定に適合し、かつ、同条9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。なお、訂正後の請求項1〜6は、特許異議の申立てがされた請求項であることから、当該各請求項についての訂正には、同法120条の5第9項で読み替えて準用する同法126条7項の独立特許要件は課されない。 よって、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜3〕、〔4〜6〕について訂正することを認める。 第3 本件発明について 前記第2に示したとおり、本件訂正は認められたから、本件特許の請求項1〜6に係る発明(以下、請求項の番号に従って「本件発明1〜6」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項(前記第2の3参照)により特定されるとおりのものと認める。 第4 取消理由について 1 取消理由の概要 当審において通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 (1) 取消理由1 新規性欠如 本件発明1、3〜5は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である下記の文献に記載された発明であって、特許法29条1項3号に該当するから、請求項1、3〜5に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。 (2) 取消理由2 進歩性欠如 本件発明1、3〜6は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である下記の文献に記載された発明に基づいて、本件特許出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、3〜6に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。 2 当合議体の判断 当合議体は、請求項1、3〜6に係る特許は、以下に示す理由により、取消理由によって取り消すことはできないと判断する。 (1) 各甲号証及び各甲号証に記載された発明の認定 ア 各甲号証 甲第1号証:LI, W et al., A High-Efficiency Organic Solar Cell Enabled by the Strong Intramolecular Electron Push-Pull Effect of the Nonfullerene Acceptor, ADVANCED MATERIALS, 2018, 30, 1707170 甲第2号証:LIU, T et al., Alkyl Side-Chain Engineering in Wide-Bandgap Copolymers Leading to Power Conversion Efficiencies over 10%, ADVANCED MATERIALS, 2017, 29, 1604251 以下、「第」及び「号証」を略して「甲1」、「甲2」という。 イ 甲1の記載事項及び甲1発明の認定 (ア) 甲1の記載事項 甲1には、次の事項が記載されている。括弧内の翻訳は、申立人が提出した翻訳文を参考に当合議体が作成したものであり、下線は当合議体が付したものである(甲2についても同様である。)。 「With the advantages of making large-area, light-weight, and flexible solar-cell panels through the low-cost solution-coating techniques, organic solar cells (OSCs) with the bulk heterojunction (BHJ) structure have attracted considerable attention. Although both fullerene and nonfullerene (NF) acceptors were initially employed in BHJ OSCs, the former had been predominantly used in the early stage and significant breakthroughs in power conversion efficiency (PCE) had been achieved.」(1頁左欄1〜9行) (低コストな溶液塗布技術により、大面積、軽量、フレキシブルな太陽電池パネルを作製できるという利点から、バルクヘテロ接合(BHJ)構造を持つ有機太陽電池(OSC)が大きな注目を集めている。BHJ太陽電池には当初、フラーレンと非フラーレン(NF)アクセプターの両方が採用されていたが、初期段階では前者が主に使用され、電力変換効率(PCE)で大きなブレークスルーが達成されていた。) 「In this work, we use IT-M and IT-4F as a pair of ITIC derivatives with similar chemical structures and focus on correlating their photovoltaic properties with their intrinsic properties. Quantum chemistry calculations reveal that the intramolecular electron push-pull effect in IT-4F is stronger than that in IT-M. Owing to the distinct surface tensions, the IT-4F shows a much lower miscibility than the IT-M when blended with an identical polymer donor (PBDB-TF). This is further confirmed by resonant soft X-ray scattering (R-SoXS) measurements. Furthermore, although these two NF acceptors have different optical bandgaps, we find that their photoluminescence (PL) spectra are similar in the long wavelength region, implying the vibrational relaxation in these two materials is quite different. As a result of low miscibility and low energetic loss in vibrational relaxation, the PBDB-TF:IT-4F based OSC has very efficient charge generation and suppressed charge recombination, resulting in a high PCE of 13.7%. The chemical structures of the two NF acceptors (IT-M and IT-4F) and polymer donor (PBDB-TF) are shown in Figure 1a.」(2頁左欄7〜25行) (本研究では、化学構造が類似したITIC誘導体のペアとしてIT-MとIT-4Fを用い、それらの光電変換特性と固有特性の相関に焦点を当てた。量子化学計算の結果、IT-4Fの分子内電子プッシュプル効果はIT-Mのそれよりも強いことが明らかになった。異なる表面張力により、IT-4Fは、同一の高分子ドナー(PBDB-TF)とブレンドした場合、IT-Mよりもはるかに低い混和性を示す。このことは、共鳴軟X線散乱(R-SoXS)測定によってさらに確認された。さらに、これら2つのNF受容体の光学的バンドギャップは異なるが、長波長領域では光ルミネッセンス(PL)スペクトルが類似しており、このことはこれら二つの受容体の振動緩和が全く異なることを示唆している。低混和性と振動緩和における低エネルギー損失の結果として、PBDB-TF:IT-4F-ベースのOSCは、非常に効率的な電荷生成と電荷再結合の抑制を有し、13.7%という高いPCEをもたらした。 2種類のNFアクセプター(IT-MおよびIT-4F)とポリマー供与体(PBDB-TF)の化学構造を図1aに示す。) 「 ![]() Figure 1. a) Molecular structures of the donor and NF acceptors」 (図1. a) ドナーとNFアクセプターの分子構造) 「OSC devices were fabricated based on the blends using PBDB- TF:IT-M or PBDB-TF:IT-4F as the BHJ blend. All the devices were prepared by adopting a device architecture of ITO/PEDOT:PSS/ BHJ blend/PFN-Br/Al. The fabricating conditions including the D/A weight ratio, solvent additive and thermal annealing were carefully scanned to achieve the best device performance. The optimal D/A weight ratio is 1:1 for the two blends. The blend solution was prepared in chlorobenzene with a polymer concentration of 12 mg mL-1, and 0.5% (vol) 1,8-diiodooctane was used as the solvent additive. The photoactive layer thickness of the devices was controlled to be 90 ± 5 nm by tuning the rotation rate for spin-coating. The photoactive layers were annealed under 100 ℃ for 10 min to obtain the optimal photovoltaic performance.」(2頁右欄10〜22行) (BHJブレンドとしてPBDB-TF:IT-M又はPBDB-TF:IT-4Fを用いたブレンドに基づいてOSCデバイスを作製した。すべてのデバイスは、ITO/PEDOT:PSS/BHJブレンド/PFN-Br/Alのデバイス・アーキテクチャを採用して作製した。D/A重量比、溶媒添加剤、熱アニールを含む作製条件は、最高のデバイス性能を達成するために注意深くスキャンされた。最適なD/A重量比は、2つのブレンドで1:1であった。ブレンド溶液は、ポリマー濃度が12 mg mL-1のクロロベンゼンで調製し、溶媒添加剤として0.5%(体積)の1,8-ジヨードオクタンを使用した。デバイスの光活性層の厚さは、スピンコーティングの回転数を調整することにより、90 ± 5 nmに制御した。光活性層は、最適な光起電力性能を得るために、100℃で10分間アニールした。) (イ) 甲1発明の認定 前記(ア)で摘記した甲1の記載事項を総合すると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。 <甲1発明> 「有機太陽電池(OSC)装置を作成するためのバルクへテロ接合(BHJ)ブレンドであって、(1ページ左欄3〜4行、2ページ右欄10〜11行) BHJブレンドは、PBDB-TF:IT-M又はPBDB-TF:IT-4Fを使用したブレンドであり、(2ページ右欄10〜11行) ブレンド溶液は、クロロベンゼン中のポリマー度12 mg mL-1で調製され、0.5%(体積)の1,8-ジヨードオクタンが溶媒添加剤として使用された、(2ページ右欄16〜19行) BHJブレンド」 (ウ) 甲1方法発明の認定 甲1には、甲1発明のBHJブレンドをスピンコーティング及びアニールして光活性層を得る方法が記載されている(2ページ右欄19〜22行)から、甲1には次の甲1方法発明が記載されているものと認められる。 <甲1方法発明> 「甲1発明のBHJブレンドをスピンコーティング及びアニールして光活性層を得る方法」 ウ 甲2の記載事項及び甲2発明の認定 (ア) 甲2の記載事項 甲2には、次の事項が記載されている。 「In this contribution, we designed a series of novel WBG copolymers (PBT1-MP, PBT1-EH, and PBT1-BO, see Scheme 1 for their chemical structures). The copolymers consist of identical polymeric backbones with benzodithiophene (BDT) as the electron-rich unit and benzodithiophene-4,8-dione (BDTDO) as the electron-deficient unit, in which alkyl side chains having 40 carbon atoms in total were employed. The effect of alkyl side chains on both BDT donor and BDTDO acceptor units on the electronic structures, molecular packing, charge transport, photovoltaic properties of WBG copolymers have been systematically studied. It was found that PBT1-EH with the moderate bulky side chains exhibited the best photovoltaic performance. When paired with PC71BM, PBT1-EH-based solar cells showed a high PCE of 10.3%, the highest values reported in the literature so far for WBG polymer:fullerene solar cells. Furthermore, a high PCE of 10.6% has been achieved when it was blended with a deep absorbing nonfullerene acceptor (ITIC-Th), indicating that PBT1-EH is a good candidate for incorporation in various types of organic photovoltaic devices. The results suggest that the alkyl side-chain engineeing is an effective strategy to further tuning the optoelectronic properties of WBG polymers. The synthetic route of WBG polymers is shown in Scheme 1.」(1頁右欄17〜39行) (この寄稿では、一連の新規WBGコポリマー(PBT1-MP、PBT1-EH、PBT1-BO、化学構造はスキーム1を参照)を設計した。ベンゾジチオフェン(BDT)を電子豊富単位とし、ベンゾジチオフェン-4,8-ジオン(BDTDO)を電子不足単位とし、アルキル側鎖が合計40個の炭素原子を有する同一ポリマー骨格から構成されるコポリマーを採用した。BDTドナー及びBDTDOアクセプターユニットのアルキル側鎖が、WBGコポリマーの電子構造、分子パッキング、電荷輸送、光電変換特性に及ぼす影響を体系的に研究した。その結果、適度に嵩高い側鎖を持つPBT1-EHが最高の光電変換性能を示すことが分かった。PC71BMと組み合わせた場合、PBT1-EHベースの太陽電池は10.3%という高いPCEを示し、WBGポリマー:フラーレン太陽電池に関するこれまでの文献で報告されている中で最も高い値を示した。さらに、深部吸収型非フラーレンアクセプター(ITIC-Th)とブレンドした場合には、10.6%という高いPCEを達成し、PBT1-EHがさまざまなタイプの有機光起電力デバイスに組み込むのに適した候補であることを示している。この結果は、WBGポリマーの光電子特性をさらにチューニングするために、アルキル側鎖工学が有効な戦略であることを示唆している。 WBGポリマーの合成経路をスキーム1に示す。) ![]() 「 Scheme 1. Synthetic routes of WBG copolymers: (i) Toluene, Pd(PPh3)4, 110 ℃, 12 h.」(3頁) (スキーム1. WBGコポリマーの合成ルート: (i) トルエン, Pd(PPh3)4 , 110 ℃, 12時間。) 「To assess the photovoltaic performance of these copolymers, organic solar cells have been fabricated using PC71BM as the acceptor and 1, 8-diiodooctane (DIO) as the solvent additive to optimize the active layer morphology. Typical current density-voltage (J-V) curves of solar cells are shown in Figure 2 and the corresponding device performance is summarized in Table 1. It was found that the DIO concentration has pronounced effects on the device performance. Without using DIO, all devices incorporating these three copolymers show rather low PCEs (<4%), but with quite impressive high Voc values of ≒1.0 eV. Dramatic increases in the device performance were observed upon addition of a small amount of DIO (see Table 1 and Figure 2). The optimal DIO concentration was found to be 0.5% for all the blend films. Under this condition, the PBT1-EH:PC71BM solar cell showed a short-circuit current (Jsc) of 14.22 mA cm-2, an open-circuit voltage (Voc) of 0.97 V, and a fill factor (FF) of 75.1%, producing an overall efficiency of 10.3%. To our best knowledge, the efficiency of 10.3% represents the highest value reported in the literature so far for WBG polymer:fullerene solar cells. 100 cells from different batch runs were fabricated in total (Figure S8, Supporting Information) and the average PCE from 20 best cells is 10.1%, indicating good reproducibility. The efficiency versus the active layer thickness has been investigated (Figure S10, Supporting Information). At the active layer thickness of 130 nm, solar cells showed the best photovoltaic performance. When the thickness was increased to 160 nm, the PCE was decreased to 9.3%. Further increasing the thickness up to 210 nm, the PCE dropped to 7.6% due to the dramatically reduced FF. PBT1-MP:PC71BM solar cells showed a PCE of 9.1%, with a Jsc of 12.87 mA cm-2, a Voc of 0.98 V, and a FF of 72.5%. Among the three polymers, PBT1-BO-based solar cells show the lowest Voc (0.93 V), and FF (66.7%) values, which contributed to a low PCE (8.1%). The lowest Voc obtained in PBT1-BO-based solar cells is mainly due to its higher HOMO level. The hole and electron mobilities of PBT1-EH:PC71BM films were measured as 1.94 × 10-3 and 2.87 × 10-3 cm2 V-1 s-1 (Figure S11 and Table S1, Supporting Information), which are higher than those of PBT1- MP:PC71BM and PBT1-BO:PC71BM films. The high and balanced hole and electron mibility helps to explain the high Jsc and FF achieved in PBT1-EH:PC71BM devices. The corresponding incident photon conversion efficiency (IPCE) spectra are shown in Figure 2. The IPCE curves exhibited a broad photoresponse in the range of 300-700 nm for all the cells. Especially for PBT1-EH:PC71BM device, IPCE exceeds 70% from 380 to 650 nm, with a peak of 78% at 520 nm. Therefore, PBT1-EH- based device yielded the highest Jsc. The calculated Jsc from the IPCE spectra is 13.97 mA cm-2, in good agreement with the value obtained from J-V measurements.」(2頁右欄下から3行〜4頁左欄10行) (これらのコポリマーの光起電力性能を評価するため、アクセプターとしてPC71BM、溶媒添加剤として1, 8-ジヨードオクタン(DIO)を用いて有機太陽電池を作製して、活性層の形態を最適化した。太陽電池の典型的な電流密度−電圧(J-V)曲線を図2に示し、対応するデバイス性能を表1にまとめた。DIO濃度がデバイス性能に顕著な影響を与えることがわかった。DIOを使用しない場合、これら3つのコポリマーを組み込んだすべてのデバイスは、かなり低いPCE(4%未満)を示すが、≒1.0 eVという非常に印象的な高いVoc値を示す。少量のDIOを添加することで、デバイス性能の劇的な向上が観察された(表1及び図2参照)。最適なDIO濃度は、すべてのブレンドフィルムで0.5%であることがわかった。この条件下で、PBT1-EH:PC71BM太陽電池の短絡電流(Jsc)は14.22 mA cm-2 、開放電圧(Voc)は0.97 V、フィルファクター(FF)は75.1%で、総合効率は10.3%であった。われわれの知る限り、10.3%という効率は、WBGポリマー:フラーレン太陽電池について、これまでの文献で報告された中で最高の値である。異なるバッチ運転から合計100個のセルを作製した(図S8、Supporting Information)、20個の最良セルからの平均PCEは10.1%であり、良好な再現性を示している。活性層の厚さに対する効率も調べた(図S10、Supporting Information)。活性層の厚さが130 nmのとき、太陽電池は最高の光起電力性能を示した。厚さを160 nmにすると、PCEは9.3%に低下した。さらに210nmまで厚みを増すと、FFが劇的に低下したため、PCEは7.6%に低下した。PBT1-MP:PC71 BM太陽電池は9.1%のPCEを示し、Jscは12.87 mA cm-2 、Vocは0.98 V、FFは72.5%であった。3つのポリマーの中で、PBT1-BOベースの太陽電池はVoc(0.93 V)、FF(66.7%)の値が最も低く、これがPCEの低さ(8.1%)につながった。PBT1-BO系太陽電池のVocが最も低いのは、主にHOMO準位が高いためである。PBT1-EH:PC71BM 膜の正孔及び電子の移動度は、1.94 × 10-3及び2.87 ×10-3 cm2 V-1 s-1 と測定され(図S11及び表S1、Supporting Information)、PBT1-MP:PC71BM膜及びPBT1-BO:PC71BM膜よりも高かった。高くバランスのとれた正孔と電子の移動度がPBT1-EH:PC71BMデバイスで達成された高いJscとFFを説明するのに役立つ。対応する光電変換効率(IPCE)スペクトルを図2に示す。IPCE カーブは、すべてのセルで 300〜700 nmの幅広い光応答を示した。特にPBT1-EH:PC71 BMデバイスでは、IPCEは380〜650 nmで70%を超え、520 nmで78%のピークを示した。したがって、PBT1-EH-ベースのデバイスが最も高いJscを示した。IPCEスペクトルから計算されたJscは13.97 mA cm-2 であり、J-V測定から得られた値とよく一致している。) 「Table 1. Summary of device parameters of PBT1-MP:PC71BM, PBT1-EH:PC71BM, PBT1-BO:PC71BM, and PBT1-EH:ITIC-Th solar cells with different solvent additives under the illumination of AM1.5G, 100 mW cm-2. ![]() a)The values in parentheses are average PCEs from 20 devices.」(4頁) (表1.PBT1-MP:PC71BM、PBT1-EH:PC71BM、PBT1-BO:PC71BM、PBT1-EH:ITIC-Th太陽電池のAM1.5G, 100 mW cm-2 照射下における溶媒添加剤の違いによるデバイスパラメータのまとめ。 a)括弧内の値は、20台のデバイスの平均PCE。) 「Nonfullerene acceptor-based organic solar cell has recently attracted a lot attention. As aforementioned, WBG polymers play a critical role in determining the overall performance of nonfullerene organic solar cells. Therofore, PBT1-EH and a well established nonfullerene acceptor, ITIC-Th, have been used to fabricate the devices. Without any treatments, a high PCE of 9.1% has been achieved with a Jsc of 14.70 mA cm-2, a Voc of 0.99 V, a FF of 62.1%. With the addition of 1% chloronaphthalene (CN) additive, the PCE was improved to 10.6%, with a Jsc of 15.62 mA cm-2, a Voc of 0.97, and a FF of 69.8%, which is among the best PCE values for nonfullerene systems reported in the literature. It was found that the addition of CN additive into the blend films led to a rough surface and enhanced π-π stacking of ITIC-Th (Figure S14, Supporting Information). Furthermore, resonant soft X-ray scattering was carried out to study the phase separation of PBT1-EH:ITIC-Th films (Figure 5e). The domain size in the PBT1-EH:ITIC-Th films with CN additive is 35 nm, which is much smaller than that (145 nm) in PBT1-EH:ITIC-Th films without CN additive. It has been well known that the small domain size would be favorable for exciton dissociation and lead to high photovoltaic performance. The relative domain purity can also be acquired by calculating the total scattering intensity. The relative domain purity is 0.78 for PBT1-EH:ITIC-Th films while the purity of blend films processed with CN additive is 1. The purer domain may reduce the recombination of electron and hole, and leads to a higher FF. The hole and electron mobility are 1.63 × 10-3 and 2.45 × 10-3 cm2 V-1 s-1, respectively, which ensures effective charge carrier transport to the electrodes, resulting in such high PCEs (Figure S15, Supporting Information).」(5頁左欄下から5行〜6頁左欄10行) (最近、非フラーレンアクセプター型有機太陽電池が注目を集めている。前述のように、WBGポリマーは非フラーレン系有機太陽電池の全体的な性能を決定する上で重要な役割を担っている。そこで、PBT1-EHとよく知られた非フラーレンアクセプターであるITIC-Thをデバイスの作製に使用した。何も処理しない場合、9.1%という高いPCEが達成され、Jscは14.70 mA cm-2 、Vocは0.99 V、FFは62.1%であった。1%のクロロナフタレン(CN)添加剤の添加により、PCEは10.6%に改善され、Jscは15.62 mA cm-2 、Vocは0.97、FFは69.8%であり、これは文献で報告されている非フラーレン系で最高のPCE値の一つである。ブレンドフィルムにCN添加剤を加えると、表面が粗くなり、ITIC-Thのπ-πスタッキングが促進されることがわかった(図S14、Supporting Information)。さらに、PBT1-EH:ITIC-Th膜の相分離を調べるために共鳴軟X線散乱を行った(図5e)。CNを添加したPBT1-EH:ITIC-Th薄膜のドメインサイズは35 nmであり、CNを添加しないPBT1-EH:ITIC- Th薄膜のドメインサイズ(145 nm)よりもはるかに小さい。ドメインサイズが小さいと励起子解離に有利であり、高い光起電力性能につながることはよく知られている。全散乱強度を計算することで、相対的なドメイン純度を求めることもできる。PBT1-EH:ITIC-Th膜の相対ドメイン純度は0.78であるのに対し、CNを添加したブレンド膜の純度は1であった。より純粋なドメインは、電子と正孔の再結合を減少させ、より高いFFをもたらす。正孔と電子の移動度はそれぞれ、1.63 × 10-3 及び 2.45 × 10-3 cm2 V-1 s-1 であり、電極への効果的な電荷キャリア輸送が確保されるため、このような高いPCEが得られる(図S15、Supporting Information)。) 「Experimental Section Solar Cell Fabrication and Characterization: Polymer solar cells were fabricated with a conventional architecture of indium tin oxide (ITO)/ poly(3,4-ethylenedioxythiophene): (PEDOT):poly(styrenesulfonate) (PSS)/active layer/Ca/Al. After cleaning, the ITO-coated glass substrates were ready for use. In terms of the device fabrication, a 40 nm thick PEDOT:PSS (Heraeus Clevios P VP A 4083) layer was spin-cast on top of the ITO substrates and then annealed on a hotplate at 150 ℃ for 10 min in air. The polymers were mixed with PC71BM at various blending ratio in CHCl3. The polymer concentration was fixed at 8 mg mL-1. The mixed soultion was spin-cast on top of PEDOT:PSS substrate to form the active layer. The optimal thickness of the active layers were measured as 130 nm using an Ambios Technology XP-2 surface profilometer. For PBT1-EH:ITIC-Th active layer, the concentration of the mixed solutions is 8 mg mL-1 in CHCl3 and the optimal thickness of the active layer is 110 nm. Finally, a 10 nm thick Ca layer and a 100 nm Al electrode were successively deposited on top of the active layers by thermal evaporation. The active area of devices is 4.5 mm2. During measurements, an aperture with the area of 3.14 mm2 was used. Current density-voltage (J-V) characteristics were measured using a Keithley 2400 source measure unit. Solar cell performance used an Air Mass 1.5 Global (AM 1.5 G) solar simulator (Class AAA solar simulator, Model 94063A, Oriel) with an irradiation intensity of 100 mW cm-2, which was measured by a calibrated silicon solar cell and a readout meter (Model 91150V, Newport). IPCE spectra were measured by using a QEX10 solar cell IPCE measurement system (PV measurements, Inc.).」(6頁左欄26〜51行) (実験部門 太陽電池の作製と特性評価:ポリマー太陽電池は、インジウムスズ酸化物(ITO)/ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):(PEDOT):ポリ(スチレンスルホン酸)(PSS)/活性層/Ca/Alの従来のアーキテクチャで作製した。洗浄後、ITOコートガラス基板は使用可能な状態になった。デバイス作製に関しては、厚さ40nmのPEDOT:PSS(Heraeus Clevios P VP A 4083)層をITO基板の上にスピンキャストし、ホットプレート上で150 ℃, 10分間大気中でアニールした。ポリマーをPC71BMと様々な配合比でCHCl3中で混合した。ポリマー濃度は8 mg mL-1に固定した。この混合溶液をPEDOT:PSS基板上にスピンキャストし、活性層を形成した。活性層の最適な厚さは、Ambios Technology XP-2 表面形状計を用いて 130 nm と測定された。PBT1-EH:ITIC-Th活性層の場合、混合溶液の濃度は8 mg mL-1 in CHCl3であり、活性層の最適厚さは110 nmであった。最後に、厚さ10 nmのCa層と100 nmのAl電極を熱蒸発法によって活性層の上に順次蒸着した。デバイスの活性面積は4.5 mm2である。測定時には、面積3.14 mm2のアパーチャーを使用した。電流密度-電圧(J-V)特性は、Keithley 2400ソース測定ユニットを使用して測定した。太陽電池性能は、Air Mass 1.5 Global(AM 1.5G)ソーラーシミュレーター(クラスAAAソーラーシミュレーター、モデル94063A、Oriel)を使用し、照射強度は100 mW cm-2 、校正済みシリコン太陽電池と読み出しメーター(モデル91150V、Newport)で測定した。IPCE スペクトルは、QEX10 太陽電池 IPCE 測定システム(PV measurements, Inc.)で測定した。) (イ) 甲2発明の認定 前記(ア)で摘記した甲2の記載事項を総合すると、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。 <甲2発明> 「ポリマー太陽電池の活性層を形成するための混合溶液であって、(6ページ左欄27〜30、40〜41行) PBT1-EH:ITIC-Th活性層について、混合溶液の濃度はCHCL3中の8 mg mL-1であり、(6ページ左欄39〜40行) ITIC-Thは深吸収非フラーレンアクセプターであり、(1ページ右欄33行) 溶媒添加剤として1%のクロロナフタレン(CN)を添加した、(4ページ表1の最下行、5ページ左欄下から2行〜右欄1、3〜7行) 混合溶液」 (ウ) 甲2方法発明の認定 甲2には、甲2発明の混合溶液をスピンキャストして活性層を形成することが記載されており(6ページ左欄36〜37、39〜41行)、技術常識を踏まえればスピンキャスト後に乾燥することは甲2に記載されているに等しい事項である。 したがって、甲2には次の発明(以下「甲2方法発明」という。)が記載されているものと認められる。 <甲2方法発明> 「甲2発明の混合溶液をスピンキャストして、スピンキャスト後に乾燥して活性層を形成する方法」 (2) 本件発明1について ア 甲1発明を主引用発明とした場合 (ア) 対比 a 対比分析 本件発明1と甲1発明を対比する。 (a)i 甲1発明の「BHJブレンド」は、本件発明1の「組成物」に相当する。 ii 甲1発明の「PBTB-TF」、「IT-M」又は「IT-4F」、「1,8-ジヨードオクタン」及び「クロロベンゼン」はそれぞれ、本件発明1の「p型半導体材料」、「n型半導体材料」、「絶縁材料」及び「溶媒」に相当する。 iii 前記i及びiiから、本件発明1と甲1発明は、「p型半導体材料と、n型半導体材料と、絶縁材料と、溶媒とを含む組成物」である点で一致する。 (b) 甲1発明の「IT-M」又は「IT-4F」は、フラーレン化合物ではないから、本件発明1と甲1発明は、「前記n型半導体材料が非フラーレン化合物を含[む]」点で一致する。 (c) 甲1発明の「1,8-ジヨードオクタン」は、「クロロベンゼン」に25℃で0.1重量%以上溶解する材料であると認められる(必要であれば、特許異議申立書に添付された参考資料1参照)。 よって、本件発明1と甲1発明は、「前記絶縁材料が前記溶媒に25℃で0.1重量%以上溶解する材料であ[る]」点で一致する。 (d) 甲1発明の「0.5%(体積)の1,8-ジヨードオクタン」は、BHJブレンド中の1,8-ジヨードオクタンが0.5%(体積)であることを意味するところ、これをPBFB-TFとIT-M又はIT-4Fの合計量であるポリマー度12mg mL-1、ジヨードオクタンの密度1.84g/mL、クロロベンゼンの密度1.11g/mLを用いて重量比に換算すると、1.84×0.5/100/(1.11×99.5/100+12/1000+1.84×0.5/100)=0.82重量%となる。 よって、本件発明1と甲1発明は、「前記組成物における前記絶縁材料の含有量が、p型半導体材料、n型半導体材料、絶縁材料、及び溶媒の総重量を100重量%としたときに、0.1重量%以上5重量%以下である」点で一致する。 (e) 甲1発明のBHJブレンドは、本件発明1の組成物から除外される組成物1であるから、組成物について、本件発明1は「組成物1以外」の組成物であるのに対して、甲1発明は、組成物1である点で相違する。 b 一致点及び相違点の認定 前記aの対比分析を踏まえると、本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点は次のとおりである。 <一致点> 「p型半導体材料と、n型半導体材料と、絶縁材料と、溶媒とを含む組成物であって、前記n型半導体材料が非フラーレン化合物を含み、前記絶縁材料が前記溶媒に25℃で0.1重量%以上溶解する材料であり、 前記組成物における前記絶縁材料の含有量が、p型半導体材料、n型半導体材料、絶縁材料、及び溶媒の総重量を100重量%としたときに、0.1重量%以上5重量%以下である、組成物」である点。 <相違点1> 組成物について、本件発明1は「組成物1及び組成物2以外」の組成物であるのに対して、甲1発明は、組成物1である点。 (イ) 相違点についての判断 甲1発明を開示する甲1は、組成物1からなるBHJブレンドを開示するものであるところ、組成物1以外のBHJブレンドは開示されていない。 そして、甲1発明は溶媒としてクロロベンゼン、溶媒添加剤として1,8-ジヨードオクタンを用いるものであるところ、仮に甲1発明のBHJブレンドにおいて高分子ドナーであるPBDB-TFや、非フラーレン(NF)アクセプターであるIT-M又はIT-4Fを他の化合物に変更することを想定しても、溶媒や溶媒添加剤は高分子ドナーや非フラーレン(NF)アクセプターに応じて適切なものを選択すべきことが本願優先日時点の技術常識を考慮すれば、甲1発明のBHJブレンドにおいて、高分子ドナーであるPBDB-TFや、非フラーレン(NF)アクセプターであるIT-M又はIT-4Fを他の化合物に変更した場合の溶媒や溶媒添加剤がなにになるかを特定することはできず、この結果、溶媒添加剤が「前記絶縁材料が前記溶媒に25℃で0.1重量%以上溶解する材料であ[る]」との本件発明1と甲1発明の一致点が維持されるのかどうかは不明というほかない。また、甲1発明において、溶媒及び溶媒添加剤としてクロロベンゼン及び1,8-ジヨードオクタンを変更する場合についても同様に、溶媒及び溶媒添加剤を変更した場合に、溶媒添加剤が「前記絶縁材料が前記溶媒に25℃で0.1重量%以上溶解する材料であ[る]」との本件発明1と甲1発明の一致点が維持されるのかどうかは不明というほかない。 そして、甲1発明から出発した当業者が、甲1発明のBHJブランドを、「前記絶縁材料が前記溶媒に25℃で0.1重量%以上溶解する材料」であって、かつ、組成物1以外の組成物とすることは当業者が容易になし得たことであることを示す他の証拠は存在しないから、本件発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 イ 甲2発明を主引用発明とした場合 (ア) 対比 a 対比分析 本件発明1と甲2発明を対比する。 (a)i 甲2発明の「混合溶液」は、本件発明1の「組成物」に相当する。 ii 甲2発明の「PBT1-EH」、「ITIC-Th」、「クロロナフタレン(CN)」及び「CHCl3」はそれぞれ、本件発明1の「p型半導体材料」、「n型半導体材料」、「絶縁材料」及び「溶媒」に相当する。 iii 前記i及びiiから、本件発明1と甲2発明は、「p型半導体材料と、n型半導体材料と、絶縁材料と、溶媒とを含む組成物」である点で一致する。 (b) 甲2発明の「ITIC-Th」は、「深吸収非フラーレンアクセプター」であるから、本件発明1と甲2発明は、「前記n型半導体材料が非フラーレン化合物を含[む]」点で一致する。 (c) 甲2発明の「クロロナフタレン(CN)」は、「CHCl3」に25℃で0.1重量%以上溶解する材料であると認められる(必要であれば、特許異議申立書に添付された参考資料1参照)。 よって、本件発明1と甲2発明は、「前記絶縁材料が前記溶媒に25℃で0.1重量%以上溶解する材料であ[る]」点で一致する。 (d) 甲2発明の「1%のクロロナフタレン(CN)」は、混合溶液中のクロロナフタレン(CN)が1%であることを意味するところ、これが体積比であるのか、重量比であるのか明らかでないが、体積比であるとすると、これをPBT1-EHとITIC-Thの合計量である8mg/mL-1、クロロナフタレンの密度1.19g/mL、CHCL3の密度1.49g/mLを用いて重量比に換算すると、1.19×1/100/(1.49×99/100+8/1000+1.19×1/100)=0.80重量%となる。 よって、甲2発明の「1%のクロロナフタレン(CN)」が重量比、体積比いずれの場合についても、本件発明1と甲2発明は、「前記組成物における前記絶縁材料の含有量が、p型半導体材料、n型半導体材料、絶縁材料、及び溶媒の総重量を100重量%としたときに、0.1重量%以上5重量%以下である」点で一致する。 (e) 甲2発明の混合溶液は、本件発明1の組成物から除外される組成物2であるから、組成物について、本件発明1は「組成物1及び組成物2以外」の組成物であるのに対して、甲2発明は、組成物2である点で相違する。 b 一致点及び相違点の認定 前記aの対比分析を踏まえると、本件発明1と甲2発明の一致点及び相違点は次のとおりである。 <一致点> 「p型半導体材料と、n型半導体材料と、絶縁材料と、溶媒とを含む組成物であって、前記n型半導体材料が非フラーレン化合物を含み、前記絶縁材料が前記溶媒に25℃で0.1重量%以上溶解する材料であり、 前記組成物における前記絶縁材料の含有量が、p型半導体材料、n型半導体材料、絶縁材料、及び溶媒の総重量を100重量%としたときに、0.1重量%以上5重量%以下である、組成物」である点。 <相違点2> 組成物について、本件発明1は「組成物1及び組成物2以外」の組成物であるのに対して、甲2発明は、組成物2である点。 (イ) 相違点についての判断 甲2発明を開示する甲2には、一連の新規WBGコポリマーであるPBT1-MP、PBT1-EH、PBT1-BOについて光電変換特性等に及ぼす影響を体系的に研究した結果、適度に嵩高い側鎖を持つPBT1-EHが最高の光電変換性能を示すことが記載されており(1頁右欄17〜39行)、当業者は、甲2発明であるPBT1-EHを他のWBGコポリマーに置き換える動機を有しない。 一方、非フラーレンアクセプターであるITIC-THについては、甲2発明を開示する甲2には、「最近、非フラーレンアクセプター型有機太陽電池が注目を集めている。前述のように、WBGポリマーは非フラーレン系有機太陽電池の全体的な性能を決定する上で重要な役割を担っている。そこで、PBT1-EHとよく知られた非フラーレンアクセプターであるITIC-Thをデバイスの作製に使用した。」と記載されており(5頁左欄下から5行〜右欄1行)、甲2発明のITIC-Thは非フラーレンアクセプターの一例であると解されるから、他の公知の非フラーレンアクセプターを当業者が試みる動機はあるといえる。 しかしながら、甲2発明においてITIC-Thを他の非フラーレンアクセプターに変更することを想定しても、溶媒や溶媒添加剤は高分子ドナーや非フラーレンアクセプターに応じて適切なものを選択すべきことが本願優先日時点の技術常識を考慮すれば(このことは、甲2において、甲2発明であるアクセプターがITIC-Thの場合は、溶媒にCHCl3、溶媒添加剤にクロロナフタレン(CN)を使用しているのに対して、アクセプターがPC71BMの場合は、溶媒はCHCl3で共通であるが(甲2の6頁左欄34〜35行)、溶媒添加剤に1, 8-ジヨードオクタン(DIO)を用いている(甲2の2頁右欄下から3行〜3頁左欄1行)ことからも首肯される。)、甲2発明の混合溶液において、ITIC-Thを他の非フラーレンアクセプターに変更した場合の溶媒や溶媒添加剤がなにになるかを特定することはできず、この結果、溶媒添加剤が「前記絶縁材料が前記溶媒に25℃で0.1重量%以上溶解する材料であ[る]」との本件発明1と甲2発明の一致点が維持されるのかどうかは不明というほかない。 また、甲2発明において、溶媒及び溶媒添加剤を変更する場合についても同様に、溶媒添加剤が「前記絶縁材料が前記溶媒に25℃で0.1重量%以上溶解する材料であ[る]」との本件発明1と甲2発明の一致点が維持されるのかどうかは不明というほかない。 そして、甲2発明から出発した当業者が、甲2発明の混合溶液を、「前記絶縁材料が前記溶媒に25℃で0.1重量%以上溶解する材料」であって、かつ、組成物2以外の組成物とすることは当業者が容易になし得たことであることを示す他の証拠や技術常識は存在しないから、本件発明1は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 ウ 申立人の主張について 申立人は、甲1発明、甲2発明の各々において、組成物1、組成物2の組み合わせは必須とはなっていない旨を主張しているが、甲1発明において組成物1以外のどのような組成物を当業者が容易に想到できるのか、また、甲2発明において組成物2以外のどのような組成物を当業者が容易に想到できるのかについての具体的な主張はなされていない。そして、組成物が具体的に特定されなければ、溶媒や溶媒添加剤を特定することはできず、この結果、「前記絶縁材料が前記溶媒に25℃で0.1重量%以上溶解する材料であ[る]」との本件発明1の発明特定事項を満たす組成物であるかどうかも不明であるから、本件発明1は当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないことは、前記ア(イ)及びイ(イ)で述べたとおりである。 申立人はまた、絶縁材料としてジヨードオクタンやクロロナフタレンを使用することは、本件発明1の技術分野においては一般的なことにすぎないから、ジヨードオクタン及びクロロナフタレンを本件発明1で使用する絶縁材料から除外すべきである旨を主張しているが、絶縁材料としてジヨードオクタンやクロロナフタレンを使用することが、本件発明1の発明特定事項である、「前記絶縁材料が前記溶媒に25℃で0.1重量%以上溶解する材料であ[る]」ことを直ちに意味するものではなく、当該発明特定事項が本件発明1の技術分野において一般的であることを示す証拠も示されていないから、申立人の主張は前記ア(イ)及びイ(イ)の判断を左右するものではない。 よって、申立人の主張はいずれも採用できない。 エ 小括 以上検討のとおり、本件発明1は、甲1発明又は甲2発明とは同一ではなく、また、甲1発明又は甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (3) 本件発明3について 本件発明3は、甲1発明と少なくとも相違点1において相違し、甲2発明と少なくとも相違点2において相違するから、前記(2)で検討したのと同様の理由により、本件発明3は、甲1発明又は甲2発明とは同一ではなく、また、甲1発明又は甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (4) 本件発明4について ア 甲1方法発明を主引用発明とした場合 (ア) 対比 前記(2)ア(ア)の本件発明1と甲1発明の対比を踏まえて、本件発明4と甲1方法発明を対比すると、両者の相違点及び一致点は次のとおりである。 <一致点> 「p型半導体材料と、非フラーレン化合物を含むn型半導体材料と、溶媒に25℃で0.1重量%以上溶解する材料である絶縁材料と、溶媒とを含む組成物であって、 前記組成物における前記絶縁材料の含有量が、p型半導体材料、n型半導体材料、絶縁材料、及び溶媒の総重量を100重量%としたときに、0.1重量%以上5重量%以下である、組成物を、塗布対象に塗布して塗膜を形成する工程と、 前記塗膜を乾燥させる工程と を含む、膜の製造方法」である点。 <相違点3> 組成物について、本件発明4は「組成物1及び組成物2以外」の組成物であるのに対して、甲1方法発明は、組成物1である点。 (イ) 判断 相違点3は、本件発明1と甲1発明の相違点1と同内容であり、前記(2)ア(イ)で検討したのと同様に、本件発明4は、甲1方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 イ 甲2方法発明を主引用発明とした場合 (ア) 対比 前記(2)イ(ア)の本件発明1と甲2発明の対比を踏まえて、本件発明4と甲2方法発明を対比すると、両者の相違点及び一致点は次のとおりである。 <一致点> 「p型半導体材料と、非フラーレン化合物を含むn型半導体材料と、溶媒に25℃で0.1重量%以上溶解する材料である絶縁材料と、溶媒とを含む組成物であって、 前記組成物における前記絶縁材料の含有量が、p型半導体材料、n型半導体材料、絶縁材料、及び溶媒の総重量を100重量%としたときに、0.1重量%以上5重量%以下である、組成物を、塗布対象に塗布して塗膜を形成する工程と、 前記塗膜を乾燥させる工程と を含む、膜の製造方法」である点。 <相違点4> 組成物について、本件発明4は「組成物1及び組成物2以外」の組成物であるのに対して、甲2方法発明は、組成物2である点。 (イ) 判断 相違点4は、本件発明1と甲2発明の相違点2と同内容であり、前記(2)イ(イ)で検討したのと同様に、本件発明4は、甲2方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 ウ 小括 以上検討のとおり、本件発明4は、甲1方法発明又は甲2方法発明とは同一ではなく、また、甲1方法発明又は甲2方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (5) 本件発明5〜6について 本件発明5〜6は、甲1方法発明と少なくとも相違点3において相違し、甲2方法発明と少なくとも相違点4において相違するから、前記(4)で検討したのと同様の理由により、本件発明5は、甲1方法発明又は甲2方法発明とは同一ではなく、また、本件発明5〜6は、甲1方法発明又は甲2方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 第5 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について 1 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由の概要 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由の概要は、次のとおりである。 (1) 実施可能要件違反 本件発明1〜6に係る特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。 (2) サポート要件違反 本件発明1〜6に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。 (3) 明確性要件違反 本件発明1〜6に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。 2 当合議体の判断 以下で検討するとおり、本件訂正後の請求項1〜6に係る特許は、前記1に示した特許異議申立理由によって取り消すことはできない。 (1) 実施可能要件及びサポート要件について 申立人は、本件発明は、増粘のために絶縁材料を添加しても、有機光電変換素子の光電流特性が低下してしまうことがなく、しかも保管中の組成物の粘度の経時変化が少なく、長期間保管された組成物を使用しても安定した品質の膜を製造することができる組成物を提供とすることを課題としているところ、本件発明1では溶媒の種類が特定されておらず、本件発明1、3〜6は任意の溶媒に対して溶解性を有しさえすれば、あらゆる種類の絶縁材料を包含することになることを意味するところ、明細書に記載される特定の4種類の絶縁物と特定の1種類の混合溶媒を使用した場合以外の任意の絶縁材料と溶媒の組み合わせについては、前記課題を解決できることを当業者が認識できる範囲を超えている旨を主張している。 しかしながら、まず、本件発明における有機光電変換素子の光電流特性が低下するという課題を解決するための手段は、n型半導体材料が非フラーレン化合物であることであり(明細書【0072】)、本件発明には課題を解決するための手段が反映されている。そして、本件発明の絶縁材料については、実施例として記載されている4種類以外にも、明細書【0184】に各種の絶縁材料が例示されているところ、前記課題との関係についていえば溶媒に添加することにより組成物を増粘できれば足りるのであって、溶媒に対して溶解性を有する絶縁材料を溶媒に添加すれば組成物が増粘することを当業者は認識できるから、当業者は、特定の4種類の絶縁物と特定の1種類の混合溶媒の組み合わせに限らずとも、前記課題が解決できることを認識できるといえる。 申立人はまた、本件発明の絶縁材料の含有量について、絶縁材料が1.0重量%を越える範囲については、溶解が困難となり効果の妨げになると予想され、前記課題が解決できることを当業者が認識できる範囲を超えている旨を主張している。 しかしながら、本件発明の絶縁材料については、前記課題との関係についていえば溶媒に添加することにより組成物を増粘できれば足りることは前記のとおりであり、絶縁材料が1.0重量%を越えることで組成物の増粘ができなくなるとも解すべき事情は存在しないから、当業者は、絶縁材料が1.0重量%を越える範囲についても前記課題が解決できることを認識できるといえる。 したがって、申立人の主張する実施可能要件及びサポート要件に関する取消理由には理由がない。 (2) 明確性要件について 申立人は、本件発明では溶媒の種類が具体的に特定されておらず、絶縁材料が「溶媒に25℃で0.1重量%以上溶解する材料であ[る]」という限定は実質的な限定ではないから、本件発明は不明確である旨を主張している。 しかしながら、本件発明の絶縁材料が「溶媒に25℃で0.1重量%以上溶解する材料であ[る]」との発明特定事項は、溶媒と当該溶媒に25℃で0.1重量%以上溶解する材料である絶縁材料との組み合わせを特定するものであるから、実質的な限定ではないという申立人の主張は前提において誤っている。そして、本件発明の絶縁材料が、組成物が含む溶媒に25℃で0.1重量%以上溶解する材料であるとの特定にはなんら不明確なところはない。 したがって、申立人の主張する明確性要件に関する取消理由には理由がない。 第6 むすび 以上検討のとおり、本件発明1〜6に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。さらに、他に本件発明1〜6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 p型半導体材料と、n型半導体材料と、絶縁材料と、溶媒とを含む組成物であって、前記n型半導体材料が非フラーレン化合物を含み、前記絶縁材料が前記溶媒に25℃で0.1重量%以上溶解する材料であり、 前記組成物における前記絶縁材料の含有量が、p型半導体材料、n型半導体材料、絶縁材料、及び溶媒の総重量を100重量%としたときに、0.1重量%以上5重量%以下である、下記組成物1及び2以外の組成物。 組成物1: 前記p型半導体材料が下記式(i)で表される化合物(PBDB−TF)であり、前記n型半導体材料が下記式(ii)で表される化合物(IT−M)又は下記式(iii)で表される化合物(IT−4F)であり、前記絶縁材料が1,8−ジョードオクタンであり、溶媒がクロロベンゼンである、組成物。 組成物2: 前記p型半導体材料が下記式(iv)で表される化合物(PBT1−EH)であり、前記n型半導体材料が下記式(v)で表される化合物(ITIC−Th)であり、前記絶縁材料がクロロナフタレンであり、溶媒がクロロホルムである、組成物。 【化1】 【化2】 【化3】 【請求項2】 前記絶縁材料が、下記式(I)で表される構成単位を含む重合体を含む、請求項1に記載の組成物。 【化4】 (式(I)中、 Ri1は、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素原子数1〜20のアルキル基を表し、 Ri2は、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、下記式(II−1)で表される基、式(II−2)で表される基、又は式(II−3)で表される基を表す。 【化5】 (式(II−1)中、 複数あるRi2aは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素原子数1〜20のアルキル基を表す。) 【化6】 (式(II−2)中、 Ri2bは、水素原子又は炭素原子数1〜20のアルキル基を表す。) 【化7】 (式(II−3)中、 Ri2cは、炭素原子数1〜20のアルキル基を表す。)) 【請求項3】 前記p型半導体材料が、下記式(III)で表される構成単位及び下記式(IV)で表される構成単位からなる群より選択される一種以上の構成単位を含む重合体を含む、請求項1又は2に記載の組成物。 【化8】 (式(III)中、 Ar1及びAr2は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい3価の芳香族複素環基を表す。 Zは、下記式(Z−1)〜式(Z−7)で表される基を表す。 【化9】 (式(Z−1)〜(Z−7)中、 Rは、 水素原子、 ハロゲン原子、 置換基を有していてもよいアルキル基、 置換基を有していてもよいシクロアルキル基、 置換基を有していてもよいアルケニル基、 置換基を有していてもよいシクロアルケニル基、 置換基を有していてもよいアルキニル基、 置換基を有していてもよいシクロアルキニル基、 置換基を有していてもよいアリール基、 置換基を有していてもよいアルキルオキシ基、 置換基を有していてもよいシクロアルキルオキシ基、 置換基を有していてもよいアリールオキシ基、 置換基を有していてもよいアルキルチオ基、 置換基を有していてもよいシクロアルキルチオ基、 置換基を有していてもよいアリールチオ基、 置換基を有していてもよい1価の複素環基、 置換基を有していてもよい置換アミノ基、 置換基を有していてもよいイミン残基、 置換基を有していてもよいアミド基、 置換基を有していてもよい酸イミド基、 置換基を有していてもよい置換オキシカルボニル基、 シアノ基、 ニトロ基、 −C(=O)−Raで表される基、又は −SO2−Rbで表される基を表し、 Ra及びRbは、それぞれ独立して、 水素原子、 置換基を有していてもよいアルキル基、 置換基を有していてもよいシクロアルキル基、 置換基を有していてもよいアリール基、 置換基を有していてもよいアルキルオキシ基、 置換基を有していてもよいシクロアルキルオキシ基、 置換基を有していてもよいアリールオキシ基、又は 置換基を有していてもよい1価の複素環基を表す。 式(Z−1)〜式(Z−7)中、Rが2つある場合、2つあるRは同一であっても異なっていてもよい。)) −Ar3− (IV) (式(IV)中、Ar3は2価の芳香族複素環基を表す。) 【請求項4】 p型半導体材料と、非フラーレン化合物を含むn型半導体材料と、溶媒に25℃で0.1重量%以上溶解する材料である絶縁材料と、溶媒とを含む組成物であって、 前記組成物における前記絶縁材料の含有量が、p型半導体材料、n型半導体材料、絶縁材料、及び溶媒の総重量を100重量%としたときに、0.1重量%以上5重量%以下である、下記組成物1及び2以外の組成物を、塗布対象に塗布して塗膜を形成する工程と、 前記塗膜を乾燥させる工程と を含む、膜の製造方法。 組成物1: 前記p型半導体材料が下記式(i)で表される化合物(PBDB−TF)であり、前記n型半導体材料が下記式(ii)で表される化合物(IT−M)又は下記式(iii)で表される化合物(IT−4F)であり、前記絶縁材料が1,8−ジョードオクタンであり、溶媒がクロロベンゼンである、組成物。 組成物2: 前記p型半導体材料が下記式(iv)で表される化合物(PBT1−EH)であり、前記n型半導体材料が下記式(v)で表される化合物(ITIC−Th)であり、前記絶縁材料がクロロナフタレンであり、溶媒がクロロホルムである、組成物。 【化10】 【化11】 【化12】 【請求項5】 第一の電極が設けられた支持基板を用意する工程と、 請求項4に記載の膜の製造方法により膜を製造して活性層とする工程と、 第二の電極を形成する工程と をこの順で含む、有機光電変換素子の製造方法。 【請求項6】 第一の電極が設けられた支持基板を用意する工程と、 請求項4に記載の膜の製造方法により膜を製造して活性層とする工程と、 第二の電極を形成する工程と をこの順で含む、光検出素子の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2024-07-01 |
出願番号 | P2021-073138 |
審決分類 |
P
1
651・
536-
YAA
(H10K)
P 1 651・ 121- YAA (H10K) P 1 651・ 537- YAA (H10K) P 1 651・ 113- YAA (H10K) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
秋田 将行 |
特許庁審判官 |
吉野 三寛 波多江 進 |
登録日 | 2023-04-05 |
登録番号 | 7257440 |
権利者 | 住友化学株式会社 |
発明の名称 | 組成物、膜、有機光電変換素子、及び光検出素子 |
代理人 | 弁理士法人酒井国際特許事務所 |
代理人 | 弁理士法人酒井国際特許事務所 |