【重要】サービス終了について

  • ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  C08L
管理番号 1415294
総通号数 34 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-10-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-10-30 
確定日 2024-08-08 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第7287348号発明「樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7287348号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−12〕について訂正することを認める。 特許第7287348号の請求項1−12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7287348号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜12に係る特許についての出願は、令和2年5月28日を出願日とする特許出願であって、令和5年5月29日にその特許権の設定登録(請求項の数12)がされ、同年6月6日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許の請求項1〜12に係る特許に対し、令和5年10月30日に特許異議申立人 斎藤 明子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後の経緯は、以下のとおりである。
令和6年 2月22日付け: 取消理由通知
同年 4月16日 : 応対記録
同年 4月30日 : 応対記録
同年 4月30日 : 特許権者による意見書の提出及び訂正請求
同年 5月 9日付け: 訂正請求があった旨の申立人への通知
同年 6月12日 : 申立人による意見書の提出

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和6年4月30日の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであって、その内容は以下のとおりである(なお、下線は訂正箇所を示す。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、「(A)成分が、温度20℃で液状のエポキシ樹脂を含み、」を追加する。
(請求項1を引用する請求項2〜12についても同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2の記載中、「(A)成分が、縮合環骨格を含む、」を「(A)成分が、ナフタレン型エポキシ樹脂である温度20℃で液状のエポキシ樹脂を含む、」に訂正する。
(請求項2を引用する請求項3〜12についても同様に訂正する。)

2 一群の請求項について
訂正前の請求項1〜12について、請求項2〜12は、請求項1を引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
よって、訂正前の請求項1〜12は一群の請求項であり、訂正事項1、2による訂正は、一群の請求項についてするものである。

3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1の「(A)エポキシ樹脂」について、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0014】に記載された「エポキシ樹脂には、温度20℃で液状のエポキシ樹脂・・・がある。」を根拠に、その内容を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものでもなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項2の「(A)成分が、縮合環骨格を含む」について、本件明細書の【0012】の「(A)エポキシ樹脂としては、・・・ナフタレン型エポキシ樹脂・・・等の縮合環骨格を含有するエポキシ樹脂等が挙げられる。」との記載、【0014】の「エポキシ樹脂には、温度20℃で液状のエポキシ樹脂・・・がある。」との記載、【0016】の「液状エポキシ樹脂としては・・・ナフタレン型エポキシ樹脂・・・が好ましく」との記載、及び本件明細書の実施例1〜5で用いられているエポキシ樹脂が、DIC社製の「HP4032D」を含んでおり、これが液状のナフタレン型エポキシ樹脂である(本件明細書の【0017】参照)ことを根拠に、その内容を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものでもなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

4 本件訂正後の独立特許要件について
特許異議の申立ては、訂正前の請求項1〜12に対してされているので、当該請求項における訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

5 まとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−12〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められたので、本件特許の請求項1〜12に係る発明(以下、順に「本件発明1」〜「本件発明12」のようにいう。)は、それぞれ、訂正特許請求の範囲の請求項1〜12に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、
(B)酸無水物系硬化剤、アミン系硬化剤、及びフェノール系硬化剤から選ばれる少なくとも1種の硬化剤、
(C)芳香族構造を有するポリエステルポリオール樹脂、及び
(D)無機充填材、を含み、
(A)成分が、温度20℃で液状のエポキシ樹脂を含み、
(A)成分の含有量が、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合、1質量%以上30質量%以下であり、
(C)成分の含有量が、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合、2質量%以上20質量%以下であり、
(D)成分の含有量が、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合、60質量%以上95質量%以下である、樹脂組成物。
【請求項2】
(A)成分が、ナフタレン型エポキシ樹脂である温度20℃で液状のエポキシ樹脂を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
(C)成分の末端が、ヒドロキシ基及びカルボキシル基のいずれかである、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
(C)成分が、ポリエステル由来の構造及びポリオール由来の構造を有する樹脂である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
ポリオール由来の構造が、エチレンオキシド構造、プロピレンオキシド構造、及びブチレンオキシド構造のいずれかを含む、請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
(C)成分が、ビスフェノール骨格を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
(C)成分の樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合の含有量をc1とし、(D)成分の樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合の含有量をd1としたとき、d1/c1が、5以上70以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
封止層用である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
支持体と、該支持体上に設けられた、請求項1〜8のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含む樹脂組成物層とを含む、樹脂シート。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の樹脂組成物の硬化物により形成された硬化物層を含む、回路基板。
【請求項11】
請求項10に記載の回路基板と、該回路基板上に搭載された半導体チップとを含む、半導体チップパッケージ。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の樹脂組成物、もしくは請求項9に記載の樹脂シートにより封止された半導体チップを含む半導体チップパッケージ。」

第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要並びに証拠方法
1 申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和5年10月30日に申立人が提出した特許異議申立書(以下「申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

申立理由1(拡大先願)
本件特許の訂正前の請求項1〜12に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた甲第1号証に係る特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもなく、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

2 取消理由の概要
当審が令和6年2月22日付けで通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

取消理由1(拡大先願)
本件特許の訂正前の請求項1〜12に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた甲第1号証に係る特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもなく、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

3 証拠方法
(1)申立書に添付された証拠方法
甲第1号証:特開2021−38356号公報(特願2019−162049号の内容を公開した公開特許公報。以下、「甲1」という。)

(2)令和6年6月12日の意見書(申立人)に添付された証拠方法
参考文献1:梶 正史,「エポキシ樹脂の構造と硬化物の物性」,熱硬化性樹脂,第44巻,1994年,137〜140頁,

参考文献2:友井 正男,「エポキシ樹脂の強靱化−最近の動向について−」,ネットワークポリマー,Vol.20,No,2,1999年,43−56頁,

参考文献3:梶 正史、荒牧 隆範、中原 和彦,「多官能型ナフタレン系エポキシ樹脂の構造と物性」,熱硬化性樹脂,Vol.14,No.4,1993年,189〜195頁,

参考文献4:有田 和郎,「高耐熱性エポキシ樹脂の開発に向けた基礎検討」,ネットワークポリマー,合成樹脂工業協会,Vol.36,No.5,2015年,255〜264頁,

参考文献5:小椋 一郎,「半導体封止用エポキシ樹脂」,電子材料,巴工業株式会社,1995年7月,52〜57頁

参考文献6:大西 裕一、大山 俊幸、高橋 昭雄,多環芳香族型エポキシ樹脂の硬化性と熱機械特性,高分子論文集,第68巻第2号,2011年,62〜71頁

参考文献7:特開平8−157560号公報

参考文献8:特開平8−20628号公報

参考文献9:特開2006−77167号公報

参考文献10:特開2011−195742号公報

参考文献11:特開平8−143641号公報

第5 当審の判断
当審は、取消理由1及び申立書に記載した申立理由1によっては、本件発明1〜12についての特許を取り消すことはできないものと判断する。
その理由は、以下のとおりである。(なお、取消理由1と申立理由1はいずれも甲1による拡大先願に係るものであるから、併せて検討する。)

1 甲1に記載された発明
甲1に係る特許出願(特願2019−162049号)は、本件特許の出願日(令和2年5月28日)前の令和1年9月5日に出願され、本件特許の出願日後である令和3年3月11日に出願公開がされたものであり、本件特許の発明者は甲1に係る特許出願の発明者と同一ではなく、また、本件特許の出願の時において、本件特許の出願人は、甲1に係る特許出願の出願人と同一でもないものである。
そして、甲1には、
「熱硬化性樹脂、熱硬化剤、改質樹脂、並びに、無機微粒子及び繊維からなる群より選ばれる1種以上を含む熱硬化性組成物であって、
前記改質樹脂が、水酸基及びカルボキシ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種を有する熱可塑性樹脂であり、
前記改質樹脂のガラス転移温度が、−100℃以上50℃以下であり、
前記改質樹脂の数平均分子量が、600以上50,000以下であり、
前記無機微粒子及び繊維からなる群より選ばれる1種以上の含有率が、不揮発分中、40質量%以上であることを特徴とする熱硬化性組成物。」が記載されており(請求項1)、その具体例として実施例1が記載されている。
実施例1で用いられている改質樹脂は、「合成例1で得られた両末端OH基ポリエステル」(【0120】)であるから、甲1の実施例1に着目し、合成例1の記載(【0117】)を踏まえ、甲1の請求項1にならって記載すると、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

「熱硬化性樹脂であるオルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(軟化点55℃)を100質量部、熱硬化剤であるフェノールノボラック樹脂(軟化点80℃)を52質量部、硬化促進剤であるトリフェニルホスフィンを1質量部、改質樹脂である、下記合成例1で得られたポリエステル樹脂Aを30質量部、無機微粒子である溶融シリカ粒子を546質量部含む熱硬化性組成物であって、
前記改質樹脂が、両末端OH基ポリエステルであり、
前記改質樹脂のガラス転移温度が、−14℃であり、
前記改質樹脂の数平均分子量が、3,040であり、
前記無機微粒子の含有率が、不揮発分中、75質量%である、熱硬化性組成物。
〔合成例1〕ポリエステル樹脂Aの合成
反応装置に、ビスフェノールA型グリコールエーテル(商標;DIC株式会社製、『ハイプロックスMDB−561』)を779.1質量部と、イソフタル酸を132.9質量部と、セバシン酸を40.4質量部仕込み、昇温と撹拌を開始した。
次いで、内温を230℃に上昇した後、TiPTを0.10質量部仕込み、230℃で24時間反応させポリエステル樹脂を合成した。」

2 本件発明1について
(1)対比
本件発明と甲1発明を対比する。
甲1発明の「オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂」は、「エポキシ樹脂」である限りにおいて、本件発明1の「(A)エポキシ樹脂」に相当する。
甲1発明の「熱硬化剤であるフェノールノボラック樹脂」、「充填剤である溶融シリカ粒子」は、それぞれ、本件発明1の「フェノール系硬化剤」、「無機充填材」に相当する。
甲1発明の「改質樹脂」は、「両末端OH基ポリエステル」(すなわち、ポリエステルポリオール)であって、芳香族構造を含む「ビスフェノールA型グリコールエーテル」を含む原料によって製造されたものであるから、本件発明1の「芳香族構造を有するポリエステルポリオール樹脂」に相当する。
甲1発明では、546質量部含まれる無機微粒子の含有率が、「不揮発分中、75質量%」であり、このことは、本件発明1の「(D)成分の含有量が、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合、60質量%以上95質量%以下である」ことに相当する。
そして、甲1発明の無機微粒子の含有率の値から計算すると、組成物中に不揮発分が728質量部(=546÷0.75)含まれていることになる。
そうすると、甲1発明の「オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂」の、組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合の含有量は約13.7質量%(=100÷728×100)であり、本件発明1の(A)成分の含有量と重複し、また、甲1発明の「改質樹脂」の含有量は約4.1質量%(=30÷728×100)であり、本件発明1の(C)成分の含有量と重複する。

したがって、両者は
「(A)エポキシ樹脂、
(B)酸無水物系硬化剤、アミン系硬化剤、及びフェノール系硬化剤から選ばれる少なくとも1種の硬化剤、
(C)芳香族構造を有するポリエステルポリオール樹脂、及び
(D)無機充填材、を含み、
(A)成分の含有量が、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合、1質量%以上30質量%以下であり、
(C)成分の含有量が、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合、2質量%以上20質量%以下であり、
(D)成分の含有量が、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合、60質量%以上95質量%以下である、樹脂組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
「(A)成分」が、本件発明1では「温度20℃で液状のエポキシ樹脂を含」むものであるのに対し、甲1発明は「熱硬化性樹脂であるオルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(軟化点55℃)」であり、軟化点が55℃であることから、温度20℃で液状ではない点

(2)相違点についての判断
上記のとおり、甲1発明のエポキシ樹脂は「温度20℃で液状」ではない。
また、甲1の【0011】及び【0012】にエポキシ樹脂として各種のものが例示され、例えば「ナフタレン骨格を有するナフトールノボラック型エポキシ樹脂」(本件明細書の【0016】の「ナフタレン型エポキシ樹脂」に相当)等が「耐熱性に優れる硬化物が得られる点から特に好ましい。」旨の記載はあるものの、「ナフタレン骨格を有するナフトールノボラック型エポキシ樹脂」であれば必ず「温度20℃で液状」であるとの技術常識もない。
したがって、上記相違点は実質的な相違点であるから、本件発明1は甲1発明と同一であるとはいえない。

(3)申立人の主張について
申立人は、令和6年6月12日提出の意見書において、主に以下の点を主張する。
ア 特許権者は、令和6年4月30日付け意見書において、(本件発明は)「(A)成分として特定のものを選択することによって低CTE(当審注:線膨張係数)を実現することができたという、甲1発明にはない新たな効果を奏するものであり、よって、(A)成分の特定は実質同一ではないと思料する。」と主張している。
しかし、本件発明1の実施例1が甲1の実施例1と比較して低CTEであるのは、エポキシ樹脂が「温度20℃で液状」であることではなく、「ナフタレン型」であると考えられ、かつ、「(D)無機充填材」の量が甲1の実施例1よりも6.7質量%も多いことに基づく結果と考えられる。
「ナフタレン型」のエポキシ樹脂が低CTEであること、無機充填材の含有量が多いほど低CTEになることは当業者の理解であるから、特許権者の主張は失当である(2頁2行〜6頁下から6行)。

イ 本件明細書の実施例においては、「脂環式エポキシ樹脂」及び「ナフタレン型エポキシ樹脂」を併用した場合しか記載されておらず、「温度20℃で液状のエポキシ樹脂」であれば、常に本件発明1の所望の効果を奏するのか否かは不明であり、サポート要件又は実施可能要件違反の記載不備があるということができる(6頁下から4行〜7頁1行)。

主張アについて検討すると、(2)で述べたように、本件発明1と甲1発明との相違点は実質的なものである。
そして、相違点に基づく効果が有利なものであるとはいえない旨の主張は、発明の進歩性の判断においてはともかく、同一性の判断においては採用することはできない。

主張イについて検討すると、この主張は、明細書に具体的に開示された内容に比べて特許請求の範囲が広すぎることに関するものであるところ、この主張は「(A)エポキシ樹脂」について「温度20℃で液状の」という限定がなくても当てはまることであるから、訂正の請求の内容に付随して生じる理由であるとはいえない。
よって、申立人の主張は採用することができない。
なお、本件明細書の【0034】には、「(C)成分を樹脂組成物に含有させることでその硬化物の応力が緩和され、その結果、高い接合強度を有し且つ硬化物の反りの発生が抑制された硬化物を得ることが可能となる。」と記載されるように、本件発明はエポキシ樹脂に(C)成分を所定量配合した点に特徴があるものと認められ、そのことは実施例1〜5と比較例1〜3((C)成分を含まないか、含んでいても本件発明1の範囲外の量で含む)の比較結果とも整合するものである。よって、エポキシ樹脂の中に「エステル骨格を有する脂環式エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂」(本件明細書【0016】)等のより好ましいものがあるとしても、それ以外の「温度20℃で液状」のエポキシ樹脂を使用した場合に、本件発明の課題を解決できないとか、本件発明の組成物を製造することができない等の事情があるとは認められない。

(4)本件発明1についてのまとめ
よって、本件発明1は甲1発明と同一ではなく、本件発明1についての特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものではない。


3 本件発明2〜12について
本件発明2〜12は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1が甲1発明と同一であるとはいえない以上、本件発明2〜12も甲1発明と同一であるとはいえない。

第6 むすび
上記第5のとおり、本件発明1〜12に係る特許は、当審が通知した取消理由及び申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1〜12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、
(B)酸無水物系硬化剤、アミン系硬化剤、及びフェノール系硬化剤から選ばれる少なくとも1種の硬化剤、
(C)芳香族構造を有するポリエステルポリオール樹脂、及び
(D)無機充填材、を含み、
(A)成分が、温度20℃で液状のエポキシ樹脂を含み、
(A)成分の含有量が、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合、1質量%以上30質量%以下であり、
(C)成分の含有量が、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合、2質量%以上20質量%以下であり、
(D)成分の含有量が、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合、60質量%以上95質量%以下である、樹脂組成物。
【請求項2】
(A)成分が、ナフタレン型エポキシ樹脂である温度20℃で液状のエポキシ樹脂を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
(C)成分の末端が、ヒドロキシ基及びカルボキシル基のいずれかである、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
(C)成分が、ポリエステル由来の構造及びポリオール由来の構造を有する樹脂である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
ポリオール由来の構造が、エチレンオキシド構造、プロピレンオキシド構造、及びブチレンオキシド構造のいずれかを含む、請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
(C)成分が、ビスフェノール骨格を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
(C)成分の樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合の含有量をc1とし、(D)成分の樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合の含有量をd1としたとき、d1/c1が、5以上70以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
封止層用である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
支持体と、該支持体上に設けられた、請求項1〜8のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含む樹脂組成物層とを含む、樹脂シート。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の樹脂組成物の硬化物により形成された硬化物層を含む、回路基板。
【請求項11】
請求項10に記載の回路基板と、該回路基板上に搭載された半導体チップとを含む、半導体チップパッケージ。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の樹脂組成物、もしくは請求項9に記載の樹脂シートにより封止された半導体チップを含む半導体チップパッケージ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2024-07-31 
出願番号 P2020-093146
審決分類 P 1 651・ 161- YAA (C08L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 ▲吉▼澤 英一
特許庁審判官 北澤 健一
小出 直也
登録日 2023-05-29 
登録番号 7287348
権利者 味の素株式会社
発明の名称 樹脂組成物  
代理人 弁理士法人酒井国際特許事務所  
代理人 弁理士法人酒井国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ