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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1416429
総通号数 35 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-11-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-08-10 
確定日 2024-09-05 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第7015970号発明「ゴム組成物及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7015970号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜6〕について訂正することを認める。 特許第7015970号の請求項1〜6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7015970号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜6に係る特許についての出願は、令和2年8月28日に国際出願(優先日 2019年8月30日 日本国)された特願2021−538236号に係るものであって、令和4年1月26日にその特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、同年2月15日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和4年8月10日に特許異議申立人 田中 理紗(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後の経緯は、以下のとおりである。
令和5年 1月 5日付け: 取消理由通知
同年 3月10日 : 特許権者による意見書の提出及び訂正請求
同年 3月30日 : 特許権者による手続補正書の提出
同年 4月10日付け: 訂正請求があった旨の申立人への通知
同年 5月12日 : 申立人による意見書の提出
同年 8月17日付け: 取消理由通知(決定の予告)
同年10月13日 : 特許権者による意見書の提出及び訂正請求
同年10月26日付け: 手続補正指令(方式)(特許権者宛)
同年11月28日 : 特許権者による手続補正書(方式)の提出
同年12月 7日付け: 訂正請求があった旨の申立人への通知
令和6年 1月10日 : 申立人による意見書の提出
同年 2月29日付け: 取消理由通知(決定の予告)
同年 5月 1日 : 特許権者による意見書の提出及び訂正請求
同年 5月10日付け: 訂正請求があった旨の申立人への通知
同年 6月 6日 : 申立人による意見書の提出

なお、令和5年3月10日、及び、同年10月13日提出の訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和5年5月1日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(なお、下線は訂正箇所を示す。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「成分(A):アニオン化度が0.06meq/g以上2.50meq/g以下であり、平均繊維径が1μm以上である、変性セルロースマイクロフィブリル、及び
成分(B);ゴム成分
を含み、
成分(A)は、以下の式:
保水能=(B+C−0.003×A)/(0.003×A−C)
(式中、Aは、変性セルロースマイクロフィブリルの固形分濃度0.3質量%の水分散体の質量、Bは、質量Aの水分散体を30℃、25000G、30分間遠心分離した後に分離される沈降物の質量、Cは前記遠心分離後に分離される水相中の固形分の質量をそれぞれ表す)
で表される保水能が10以上の変性セルロースマイクロフィブリルを少なくとも含む、
ゴム組成物。」とあるのを、
「成分(A):アニオン化度が0.49meq/g以上1meq/g以下であり、平均繊維径が1μm以上である、変性セルロースマイクロフィブリル、及び
成分(B);ゴム成分
を含み、
成分(A)は、以下の式:
保水能=(B+C−0.003×A)/(0.003×A−C)
(式中、Aは、変性セルロースマイクロフィブリルの固形分濃度0.3質量%の水分散体の質量、Bは、質量Aの水分散体を30℃、25000G、30分間遠心分離した後に分離される沈降物の質量、Cは前記遠心分離後に分離される水相中の固形分の質量をそれぞれ表す)
で表される保水能が18〜120の変性セルロースマイクロフィブリルを少なくとも含む、
ゴム組成物。」
に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2〜6も同様に訂正する。

2 一群の請求項について
訂正前の請求項1〜6について、請求項2〜6は、請求項1を引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
よって、訂正事項1〜6に係る訂正は、一群の請求項〔1〜6〕についてするものである。

3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
以下、本件訂正請求書による本件訂正は以下のとおりである。また、本件特許の願書に添付した明細書を、「本件明細書」という。
(1)訂正事項1ついて
訂正事項1の訂正は、訂正前の請求項1の「ゴム組成物」について、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)に記載された実施例2及び3のアニオン化度及び実施例4及び5の保水能を根拠に、アニオン化度について「0.49meq/g以上1meq/g以下」に、保水能について「18〜120に」その数値範囲を狭めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものでもなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
よって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。

4 本件訂正後の独立特許要件について
特許異議の申立ては、訂正前の請求項1〜6に対してされているので、当該請求項における訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

5 まとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜6〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められたので、本件特許の請求項1〜6に係る発明(以下、順に「本件発明1」のようにいい、本件発明1〜6を総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、訂正特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
成分(A):アニオン化度が0.49meq/g以上1meq/g以下であり、平均繊維径が1μm以上である、変性セルロースマイクロフィブリル、及び
成分(B);ゴム成分
を含み、
成分(A)は、以下の式:
保水能=(B+C−0.003×A)/(0.003×A−C)
(式中、Aは、変性セルロースマイクロフィブリルの固形分濃度0.3質量%の水分散体の質量、Bは、質量Aの水分散体を30℃、25000G、30分間遠心分離した後に分離される沈降物の質量、Cは前記遠心分離後に分離される水相中の固形分の質量をそれぞれ表す)
で表される保水能が18〜120の変性セルロースマイクロフィブリルを少なくとも含む、
ゴム組成物。
【請求項2】
成分(A)は、固形分1質量%の水分散体とした際のB型粘度(25℃、60rpm)が、4,000mPa・s以下である、変性セルロースマイクロフィブリルを少なくとも1種含む、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
成分(A)は、酸化セルロースマイクロフィブリル、カルボキシアルキル化セルロースマイクロフィブリル及びリン酸化セルロースマイクロフィブリルからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1または2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
酸化セルロースマイクロフィブリルのカルボキシル基量が0.1〜2.5mmol/gである、請求項3に記載のゴム組成物。
【請求項5】
酸化セルロースマイクロフィブリルのカルボキシ置換度が0.01〜0.50であり、及び/又は、カルボキシアルキル化セルロースマイクロフィブリルのカルボキシアルキル置換度が0.01〜0.50である、請求項3または4に記載のゴム組成物。
【請求項6】
(A)成分と(B)成分を混合および混練し、ゴム組成物を得ることを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載のゴム組成物の製造方法。」

第4 特許異議申立理由の概要、証拠方法及び取消理由の概要
1 申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和4年8月10日に申立人が提出した特許異議申立書(以下「申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

(1)申立理由1(甲第1号証を主引用文献とする進歩性
本件特許の訂正前の請求項1〜6に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(2)申立理由2(サポート要件)
本件特許の訂正前の請求項1〜6に係る特許は、以下の理由により特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
具体的理由の概略は以下のとおり。

ア 本件発明1〜6に包含される実施例1〜5は、硬度、引張特性の一部、引裂強度の向上は認められるものの、摩耗特性及び圧縮疲労特性の向上を認めることができず、「摩耗特性、圧縮疲労特性を含む各種の強度が向上し、さらに当該各種の強度がバランスよく良好な強度を示す、ゴム成分とセルロース繊維とを含むゴム組成物、およびその製造方法を提供する」という課題を解決できていないから、本件発明1〜6は発明の詳細な説明に記載したものではない。

イ 本件明細書の実施例では、成分(A)として、保水能が18〜120である実験データのみが示されており、保水能が120を超える実験データは示されていない。また、保水能が18〜120の場合でも本件発明が解決しようとする課題を解決できていないことから、保水能が120を超える場合には当該課題を解決できると当業者が認識できる合理的な理由は存在しない。
本件明細書の実施例では、変性セルロースマイクロフィブリルとして、酸化セルロースマイクロフィブリル、カルボキシメチル化セルロースマィクロフィブリルの実験データは示されているものの、リン酸化セルロースマイクロフィブリルの実験データは示されていない。そして、変性セルロースマイクロフィブリルとして、酸化セルロースマイクロフィブリル及びカルボキシメチル化セルロースマイクロフィブリルを用いた場合でも、本件発明が解決しようとする課題を解決できていないことから、リン酸化セルロースマイクロフィブリルを用いた場合には当該課題を解決できると当業者が認識できる合理的な理由は存在しない。

ウ 本件明細書の実施例では、成分(A)として、保水能が18〜120である実験データのみが示されており、保水能が10を下回る比較例としての実験データが記載されていない。そのため、保水能が10以上の変性セルロースマイクロフィブリルを含んだゴム組成物が奏する効果と、保水能が10未満の変性セルロースマイクロフィブリルを含んだゴム組成物が奏する効果を比較することができず、「保水能」が「摩耗特性、圧縮疲労特性を含む各種の強度が向上し、さらに当該各種の強度がバランスよく良好な強度を示す、ゴム成分とセルロース繊維とを含むゴム組成物」を得るために、どのような技術的意味を有しているのか理解することができない。

(3)申立理由3(実施可能要件
本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
具体的な理由の概要は以下のとおり。
本件明細書では、5つの実施例及び変性セルロースマイクロフィブリルの保水能の算出方法は記載されているものの、どのようにすれば変性セルロースマイクロフィブリルの保水能の数値を調整できるのか具体的な条件が教示されていないため、当業者が技術常識を考慮しても、実施例1ないし5で具体的に製造方法が記載された物以外の物を作る方法が理解できない。そのため、実施例1ないし5で具体的に製造方法が記載された物以外の物を作るためには、当業者に期待しうる程度を越える試行錯誤や複雑高度な実験を行う必要がある。

2 証拠方法
(1)申立書に添付した証拠方法
甲第1 号証:特開2015−98576号公報
甲第1−1号証:特開2013−18918号公報
甲第2 号証:特開2019−73681号公報
甲第3 号証:特開2016−94539号公報

以下、順に「甲1」ないし「甲3」という。

(2)当審が職権調査により発見した証拠方法
引用文献1:特開平9−105089号公報

以下、「引1」という。

(3)特許権者が意見書に添付した証拠方法
乙第1号証:パルプ−保水度試験方法,JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法 No.26:2000
乙第2号証:実験報告書(令和5年3月7日 日本製紙株式会社)

以下、順に「乙1」、「乙2」という。

3 令和6年2月29日付けで通知した取消理由(決定の予告)
当審が令和6年2月29日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。

取消理由2(サポート要件)
本件特許の訂正前の請求項1〜6に係る特許は、以下の理由により特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

取消理由3(実施可能要件
本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

第5 当審の判断
当審は、取消理由2、3及び申立書に記載した申立理由1〜3によっては、本件発明1〜6についての特許を取り消すことはできないものと判断する。
その理由は、以下のとおりである。

1 取消理由2(サポート要件)、申立理由2(サポート要件)について
申立理由2(サポート要件)は、取消理由2(サポート要件)と同旨であるから、これらを併せて検討する。

(1)サポート要件の考え方
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁、平成17年(行ケ)10042号判決参照)。

(2)本件明細書の記載事項
本件明細書には以下の事項が記載されている。

「【0004】
しかしながら、ゴム成分とセルロース系繊維を含む従来のゴム組成物が様々な分野に応用されるには、更なる強度の向上が必要とされている。特に摩耗特性、圧縮疲労特性を含む各種の強度の向上が求められていた。
【0005】
そこで本発明は、バランスよく良好な強度を示す、ゴム成分とセルロース繊維とを含むゴム組成物、およびその製造方法を提供することを目的とする。」

「【0009】
<(A)成分:変性セルロースマイクロフィブリル>
変性セルロースマイクロフィブリルは、通常、変性セルロースのフィブリル化繊維及びフィブリル化セルロース繊維の変性物である。フィブリル化を経ることにより、比表面積が大きくなり、保水性や強度付与効果の向上が期待される。また、変性(通常、化学変性)を経ることにより、フィブリル化の際に繊維同士がほぐれやすく、変性を経ない場合と比較して少ない電力で効率よくフィブリル化を進めることができる。また、水との親和性が向上し、繊維長が比較的長くとも良好な保水性を呈することができる。
【0010】
(変性セルロースマイクロフィブリルの形状)
変性セルロースマイクロフィブリルの形状における特徴は以下のとおりである。フィブリル化を経ない変性セルロースと比較すると、通常、繊維表面にセルロースのミクロフィブリルの毛羽立ちがみられる。化学変性セルロースナノファイバーと比較すると、通常、繊維自体の微細化が抑制され、繊維表面の毛羽立ち(外部フィブリル化)が効率よくなされている。化学変性なされていないフィブリル化セルロースナノファイバーと比較すると、保水性が良好であり、チキソトロピー性が観察される。変性セルロースマイクロフィブリルは、好ましくは、化学変性セルロースのフィブリル化繊維である。これにより、フィブリル化の際に繊維同士がほぐれやすく、繊維の損傷を抑制できる。」

「【0013】
(平均繊維径、平均繊維長及びアスペクト比)
変性セルロースマイクロフィブリルの平均繊維径は、通常500nm以上、1μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましい。これにより、未解繊のセルロース繊維に比べて高い保水性を呈することができ、微細に解繊されたセルロースナノファイバーと比較して少量でも高い強度付与効果や歩留まり向上効果が得られる。平均繊維径の上限は60μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましく、30μm以下がさらに好ましく、20μm以下がさらにより好ましいが、特に制限はない。」
「【0019】
(アニオン化度)
変性セルロースマイクロフィブリルのアニオン化度(アニオン電荷密度)は、通常は2.50meq/g以下であり、2.30meq/g以下が好ましく、2.0meq/g以下がより好ましく、1.50meq/g以下がさらに好ましい。これにより、アニオン化度がより高い化学変性セルロース繊維に比べ、化学変性がセルロース全体にわたり均一になされていると考えられ、保水性等の化学変性セルロース繊維に特有の効果をより安定に得ることができると考えられる。下限は、通常は0.06meq/g以上、好ましくは0.10meq/g以上、より好ましくは0.30meq/g以上であるが、特に限定されない。従って、0.06meq/g以上2.50meq/g以下が好ましく、0.08meq/g以上2.50meq/g以下、又は0.10meq/g以上2.30meq/g以下がより好ましく、0.10meq/g以上2.00meq/g以下がさらに好ましい。アニオン化度は、単位質量の変性セルロースマイクロフィブリルあたりのアニオンの当量であり、単位質量の変性セルロースマイクロフィブリルにおいてアニオン性基を中和するのに要するジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)の当量から算出できる。」

「【0055】
カルボキシメチル化の方法としては、例えば、(方法1)水媒法(水を主とする溶媒下でマーセル化とカルボキシメチル化の両方を行う方法)、(方法2)溶媒法(水と有機溶媒との混合溶媒下でマーセル化とカルボキシメチル化の両方を行う方法)、及び、(方法3)マーセル化の際に水を主とする溶媒を、カルボキシメチル化の際には有機溶媒と水との混合溶媒を、それぞれ使用する方法が挙げられ、方法3が好ましい。これにより、セルロースの結晶化度が50%以上であり、かつ、カルボキシメチル化剤の有効利用率を維持しながら、カルボキシメチル基を局所的ではなく均一に導入でき、アニオン化度の絶対値が小さいカルボキシメチル化セルロースを経済的に得ることができる。」

「【0070】
フィブリル化の条件は、処理後の平均繊維径が前述の範囲内となる条件を適宜選択できる。これにより、得られる変性セルロースマイクロフィブリルは、未解繊のセルロース繊維に比べて高い保水性を呈し得る。微細に解繊されたセルロースナノファイバーに比較して少量でも高い強度付与効果や歩留まり向上効果を発揮し得る。フィブリル化の条件は、フィブリル化率が前述の範囲となるような条件を適宜選択してもよい。」

「【0074】
<(B)成分:ゴム成分>
ゴム成分とはゴムの原料であり、架橋してゴムとなるものをいう。ゴム成分としては、天然ゴム用のゴム成分と合成ゴム用のゴム成分が存在する。天然ゴム用のゴム成分としては、例えば、化学修飾を施さない狭義の天然ゴム(NR);塩素化天然ゴム、クロロスルホン化天然ゴム、エポキシ化天然ゴム等の化学修飾した天然ゴム;水素化天然ゴム;脱タンパク天然ゴムが挙げられる。合成ゴム用のゴム成分としては、例えば、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム、イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム等のジエン系ゴム;ブチルゴム(IIR)、エチレン−プロピレンゴム(EPM、EPDM)、アクリルゴム(ACM)、エピクロロヒドリンゴム(CO、ECO)、フッ素ゴム(FKM)、シリコーンゴム(Q)、ウレタンゴム(U)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)等の非ジエン系ゴムが挙げられる。これらの中で、天然ゴムおよびジエン系のゴムが好ましく、ジエン系の天然ゴム(化学修飾を施さない狭義の天然ゴム(NR))がより好ましい。
【0075】
(B)成分は、1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。」

「【0082】
<製造方法>
本発明のゴム組成物は、(A)成分と(B)成分を混合及び混練し、ゴム組成物を得る方法であればよい。(A)〜(B)成分を混練する際、同時、途中又は混練後に必要に応じて任意成分を添加してもよい。(A)、(B)および任意成分の具体例、使用量は、既述のとおりである。
【0083】
混合に供される(B)成分の形態は特に限定されない。例えば、ゴム成分の固形物、ゴム成分を分散媒に分散させた分散体(ラテックス)および溶媒に溶解した溶液が挙げられる。分散媒および溶媒(以下、まとめて「液体」ともいう)としては、例えば、水、有機溶媒が挙げられる。液体の量は、ゴム成分(2以上のゴム成分を使用する場合、その合計量)100質量部に対し、10〜1000質量部が好ましい。
【0084】
混合は、ホモミキサー、ホモジナイザー、プロペラ攪拌機等の公知の装置を用いて実施できる。混合する温度は限定されないが、室温(20〜30℃)が好ましい。混合時間も適宜調整してよい。
【0085】
混合に供される(A)成分の形態は、特に限定されない。例えば、変性セルロースマイクロフィブリルの水分散体、当該水分散体の乾燥固形物、当該水分散体の湿潤固形物が挙げられる。水分散体における変性セルロースマイクロフィブリルの濃度は、分散媒が水である場合、0.1〜5%(w/v)であってもよく、分散媒が水とアルコール等の有機溶媒とを含む場合、0.1〜20%(w/v)であってもよい。本明細書において、湿潤固形物とは、前記水分散体と乾燥固形物との中間の態様の固形物である。前記水分散体を通常の方法で脱水して得た湿潤固形物中の分散媒の量は変性セルロースマイクロフィブリルに対し5〜15質量%が好ましい。液体の追加またはさらなる乾燥により、湿潤固形物中の分散媒の量は適宜調整し得る。
【0086】
(A)成分に関し既述のとおり、(A)成分は、2以上の変性セルロースマイクロフィブリルの組み合わせでもよい。
【0087】
(A)及び(B)成分の混合物は、混練に供される前に、必要に応じて乾燥されてもよい。乾燥の方法は特に限定されず、加熱法、凝固法、それらの併用のいずれでもよいが、加熱処理が好ましい。加熱処理の条件は、特に限定されないが、一例を挙げると以下のとおりである。加熱温度は、40℃以上100℃未満が好ましい。処理時間は、1時間〜24時間が好ましい。加熱温度または加熱時間を上記条件とすることにより、ゴム成分に対するダメージが抑えられ得る。乾燥後の混合物は絶乾状態でも、溶媒が残存していてもよい。また、乾燥の方法は上記の方法には限定されず、溶媒を除去する従来公知の方法を適宜選択すればよい。
【0088】
混合物の混練は、公知の方法に従い混練機を用いて行えばよい。混練機としては、例えば、2本ロール、3本ロール等の開放式混練機、噛合式バンバリーミキサー、接線式バンバリーミキサー、加圧ニーダー等の密閉式混練機が挙げられる。混練は、多段階処理でもよい。例えば、第一段階で密閉式混練機による混練およびその後の開放式混練機で再混練の組み合わせが挙げられる。
【0089】
混練の際には、充填剤、加硫剤、界面活性剤等の任意の添加剤(配合剤)を添加してもよい。添加の時点は特に限定されず、例えば、混練開始時、混練中のいずれか、および両方が挙げられ、混合物を先に混練機に投入した後に添加剤を投入して混練してもよく、反対に、添加剤を先に投入した後、混合物を投入して混練してもよい。界面活性剤とは、通常、分子の中に少なくとも1つの親水性基と少なくとも1つの疎水性基とを有し得る物質、およびその前駆体(例えば、金属塩の存在下で上記両基を有し得る物質)である。例えば、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。界面活性剤の添加方法は、特に限定されず、例えば、所定量の一括添加、および逐次添加が挙げられる。混合物に対し界面活性剤が均一に混練されるのであれば、いずれの方法でもよく特に限定されない。加硫剤を添加する場合は、加硫剤の添加は混練の最終段に行うことが好ましい。
【0090】
混練時間は、通常3〜20分程度であり、均一に混練される時間を適宜選択できる。混練温度は、常温程度(例えば、15〜30℃程度)でよいが、ある程度高温に加熱してもよい。例えば、温度の上限は、通常150℃以下であり、好ましくは140℃以下であり、より好ましくは130℃以下である。温度の下限は15℃以上であり、好ましくは20℃以上であり、より好ましくは30℃以上である。混練温度は、15〜150℃が好ましく、20〜140℃がより好ましく、30〜130℃がさらに好ましい。
【0091】
得られた混練物は、そのままマスターバッチとして利用されることが好ましい。一方、得られた混練物が最終製品として利用されてもよい。最終製品として利用される場合、混練物に対し、ゴム成分、加硫剤等の任意の添加剤が追加添加され、再度混練されることが好ましい。
【0092】
混練終了後に、必要に応じて成形を行ってもよい。成形としては、例えば、金型成形、射出成形、押出成形、中空成形、発泡成形が挙げられ、最終製品の形状、用途、成形方法に応じて装置を適宜選択すればよい。
【0093】
混練終了後、好ましくは成形後、さらに加熱することが好ましい。ゴム組成物が架橋剤を(好ましくは架橋剤と加硫促進剤を)含む場合、加熱により架橋(加硫)処理がなされる。また、ゴム組成物が架橋剤および加硫促進剤を含まない場合も、加熱前に添加しておけば同様の効果が得られる。加熱温度は、150℃以上が好ましく、上限は200℃以下が好ましく、180℃以下がより好ましい。従って、150〜200℃程度が好ましく、150〜180℃程度がより好ましい。加熱装置としては例えば、型加硫、缶加硫、連続加硫等の加硫装置が挙げられる。
【0094】
混練物を最終製品とする前に、必要に応じ仕上げ処理を行ってもよい。仕上げ処理としては例えば、研磨、表面処理、リップ仕上げ、リップ裁断、塩素処理が挙げられ、これらの処理のうち1つのみを行ってもよいし2つ以上の組み合わせであってもよい。」

「【0109】
実施例1(TEMPO酸化MFC(高粘度)を含むゴム組成物)
<パルプのTEMPO酸化>
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(NBKP、日本製紙(株)製、白色度85%)5.00g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)39mg(絶乾1gのセルロースに対し0.05mmol)と臭化ナトリウム514mg(絶乾1gのセルロースに対し1.0mmol)を溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を次亜塩素酸ナトリウムが5.5mmol/gになるように添加し、室温にて酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物に塩酸を添加しpH2に調整した後、ガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、分離されたパルプを十分に水洗して、TEMPO酸化パルプを得た。この時のパルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は90分、カルボキシル基量は1.37mmol/g、pHは4.5であった。
【0110】
<マイクロフィブリル化>
得られたTEMPO酸化パルプの固形分濃度2.0質量%の水分散体を調製し、5%NaOH水溶液及び炭酸水素ナトリウムを添加してpH8.0に調整した後、トップファイナー(相川鉄工株式会社製)を用いて10分間処理し、酸化セルロースマイクロフィブリル(TEMPO酸化MFC)を調製した。得られた酸化セルロースマイクロフィブリルの物性値を表1に示す。
【0111】
<ゴム組成物の調製>
TEMPO酸化MFCの水分散体(1質量%)500gと天然ゴムラテックス(商品名HA−LATEX、株式会社レヂテックス製、固形分濃度61.4%)162.9gを混合してゴム成分とマイクロフィブリルとの質量比が100:5となるようにし、TKホモミキサー(8000rpm)で10分間、23℃で撹拌した。この水性懸濁液を、70℃の加熱オーブン中で19時間乾燥して混合物(マスターバッチ)を得た。
【0112】
得られた混合物105gに対し、硫黄3.5g、加硫促進剤(N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)0.7g、酸化亜鉛6.0g、ステアリン酸0.5gを加え、オープンロール(関西ロール社製)を用い、40℃で15分間混練して、未加硫ゴム組成物のシートを得た。このシートを金型にはさみ、150℃で10分間プレス架橋することにより、厚さ約2mmのゴム組成物のシートを得た。ゴム組成物の物性を表2に示す。
【0113】
実施例2(TEMPO酸化MFC(低粘度)を含むゴム組成物)
マイクロフィブリル化において、水分散体におけるTEMPO酸化パルプの固形分濃度を30質量%に変更し、ラボリファイナー(相川鉄工株式会社製)を用いた処理を2回行った後、水で希釈し、5%NaOH水溶液及びH2O2溶液を加えて固形分濃度を4質量%に調整した後にてトップファイナー処理を20分行ったことのほかは、実施例1と同様に行った(表1及び2)。
【0114】
実施例3(TEMPO酸化MFC(H型・長)を含むゴム組成物)
マイクロフィブリル化において、水分散体におけるTEMPO酸化パルプの固形分濃度を4質量%に変更したこと、トップファイナー処理前に5%NaOH及び炭酸水素ナトリウムの添加を行わなかったこと、マイクロフィブリル化終了後に5%NaOH水溶液を添加しpHを7.4に調整した上で物性評価及びゴムの調整に供したことのほかは、実施例1と同様に行った(表1及び2)。
【0115】
実施例4(TEMPO酸化MFC(H型・高濃度)を含むゴム組成物)
マイクロフィブリル化において、水分散体におけるTEMPO酸化パルプの固形分濃度を30質量%に変更したこと、及びトップファイナー処理の代わりに実施例2で行ったのと同様のラボリファイナー(相川鉄工株式会社製)を用いた処理を2回行ったこと、のほかは、実施例3と同様に行った(表1及び2)。
【0116】
実施例5(CM化MFC(高粘度)を含むゴム組成物)
以下の処理により得られるカルボキシメチル化パルプをマイクロフィブリル化に供したことのほかは、実施例1と同様に行った(表1及び2)。
【0117】
<パルプのカルボキシメチル化>
回転数を100rpmに調節した二軸ニーダーに、水130部と、水酸化ナトリウム20部を水100部に溶解したものとを加え、広葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(LBKP、日本製紙(株)製)を100部(100℃で60分間乾燥した際の乾燥質量)仕込んだ。これらを30℃で90分間撹拌、混合しマーセル化されたセルロース系原料を調製した。更に撹拌しつつイソプロピルアルコール(IPA)100部と、モノクロロ酢酸ナトリウム60部を添加し、30分間撹拌した後、70℃に昇温して90分間カルボキシメチル化反応をさせた。カルボキシメチル化反応時の反応媒中のIPAの濃度は、30%であった。反応終了後、酢酸でpH7程度になるよう中和し、カルボキシメチル化パルプ(ナトリウム塩)を得た。
【0118】
比較例1(天然ゴム組成物)
天然ゴムラテックスのみを用いてゴムを調製したことのほかは、実施例1と同様に行った(表1及び2)。
【0119】
比較例2(天然ゴム組成物)
TEMPO酸化MFCの水分散体の代わりにカーボンブラック20phrを用いたほかは、実施例1と同様に行った(表1及び2)。
【0120】
【表1】

【0121】
【表2】




(3)本件発明が解決しようとする課題
本件発明が解決しようとする課題は、本件明細書の「ゴム成分とセルロース系繊維を含む従来のゴム組成物が様々な分野に応用されるには、更なる強度の向上が必要とされている。特に摩耗特性、圧縮疲労特性を含む各種の強度の向上が求められていた。」(【0004】)、「バランスよく良好な強度を示す、ゴム成分とセルロース繊維とを含むゴム組成物、およびその製造方法を提供すること」(【0005】)の記載からみて、摩耗特性、圧縮疲労特性を含む各種の強度について、バランスよく良好な強度を示す、ゴム成分とセルロース繊維とを含むゴム組成物、およびその製造方法を提供することであると認められる。

(4)サポート要件の判断
本件発明1では、「アニオン化度が0.49meq/g以上1meq/g以下であり」、「成分(A)は、以下の式:保水能=(B+C−0.003×A)/(0.003×A−C)(式中、Aは、変性セルロースマイクロフィブリルの固形分濃度0.3質量%の水分散体の質量、Bは、質量Aの水分散体を30℃、25000G、30分間遠心分離した後に分離される沈降物の質量、Cは前記遠心分離後に分離される水相中の固形分の質量をそれぞれ表す)で表される保水能が18〜120の変性セルロースマイクロフィブリルを少なくとも含む」と規定されており、本件発明2〜6においても同様である。
このような本件発明が、上記(2)で示した本件発明の課題を解決できるといえるかどうか、検討する。
本件明細書の【0120】【表1】、【0121】【表2】(上記(3))には、実施例1−5として、アニオン化度0.49〜1meq/g、保水能が18〜120g/gの変性セルロースマイクロフィブリルを用いる例、及び、変性セルロースマイクロフィブリルを用いない比較例1、2の組成物について各種試験の結果が記載されている。
また、本件明細書において、天然ゴム単体を用いるもの、従来用いられてきた補強材(カーボンブラックは補強材として従来用いられていたものと認められる。)を用いるもののいずれを比較対象として性能の向上の指標とするか明記されていないものの、少なくとも摩耗特性については、従来用いられてきた補強材を用いる比較例2において87、実施例1−5は94〜114の値となっており、比較例2に対して、実施例1〜5すべてにおいて性能が向上しているものと認められる。
ここで、その他のパラメータにおいても、比較例2と比較して、一部で劣るパラメータが存在し、また、実施例2〜4については圧縮疲労試験のデータは記載されていないものの、向上しているパラメータも存在しており、実施例1〜5において、「摩耗特性、圧縮疲労特性を含む各種の強度について、バランスよく良好な強度を示す」という本件発明の課題について解決できないものとまでは認められない。
ここで、本件明細書の【0055】には、カルボキシメチル化の方法により、アニオン化度について調整することが記載されており、また、【0009】、【0070】にはフィブリル化により、【0010】には化学変性の有無により、【0013】には変性セルロースマイクロフィブリルの平均繊維径により、【0019】にはアニオン化度により、保水性について調整することが記載されており、これらの手法により、「保水能」についても調整することができるものと認められる。
また、本件明細書の【0009】には、「変性セルロースマイクロフィブリルは、通常、変性セルロースのフィブリル化繊維及びフィブリル化セルロース繊維の変性物である。フィブリル化を経ることにより、比表面積が大きくなり、保水性や強度付与効果の向上が期待される。」と記載されており、保水性と強度付与効果が関連することが記載されており、【0070】には「フィブリル化の条件は、処理後の平均繊維径が前述の範囲内となる条件を適宜選択できる。これにより、得られる変性セルロースマイクロフィブリルは、未解繊のセルロース繊維に比べて高い保水性を呈し得る。微細に解繊されたセルロースナノファイバーに比較して少量でも高い強度付与効果や歩留まり向上効果を発揮し得る。フィブリル化の条件は、フィブリル化率が前述の範囲となるような条件を適宜選択してもよい。」と記載されており、本件発明の変性セルロースマイクロフィブリルが、高い保水性を有し、高い強度付与効果を発揮することが記載されている。
すなわち、アニオン化度が保水能に影響し、保水能と強度付与効果が関連することから、アニオン化度、保水能について、実施例1〜5に具体的に記載されていない数値範囲についても、実施例に記載される数値範囲内の程度であれば、実施例と同様に強度付与効果を有し、本件発明の課題を解決できるものと認められる。
よって、本件発明1〜6は、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、発明の詳細な説明に記載したものであり、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定される要件を満たすものである。

(5)申立人の主張について
ア 実施例全体における課題解決の有無について
申立人は申立書において概略、第4の1(2)アのように主張する。
上記主張について検討する。
上記(4)のとおり、実施例1〜5において、「摩耗特性、圧縮疲労特性を含む各種の強度について、バランスよく良好な強度を示す」という本件発明の課題について解決できないものとまでは認められない。
よって、申立人の主張は採用することができない。

イ 変性セルロースマイクロフィブリルについて
申立人は、申立書、令和6年1月10日付け意見書、令和6年6月6日付け意見書において、概略、第4の1(2)イのように主張する。
上記主張について検討する。
本件発明1は、上記(4)のとおり、「アニオン化度」と「保水能」の範囲を特定することで本件発明の課題を解決するものであり、変性セルロースマイクロフィブリルの「変性」の種類が「アニオン化度」と「保水能」に影響を与えるものであるとしても、本件明細書の実施例に記載されるTEMPO酸化セルロースマイクロフィブリル、カルボキシメチル化セルロースマイクロフィブリル以外の変性セルロースマイクロフィブリルについても、「アニオン化度」と「保水能」の範囲が特定されるものであるから、カルボキシメチル化セルロースマイクロフィブリル以外の変性セルロースマイクロフィブリルについて、本件発明の上記課題を解決できないとはいえない。
よって、申立人の主張は採用することができない。

ウ 保水能の技術的意義について
申立人は、申立書において、概略、第4の1(2)ウのように主張する。
上記主張について検討する。
上記(4)に記載のとおり、保水能と強度付与効果が関連することから、保水能について、実施例に記載される数値範囲内の程度であれば、実施例と同様に強度付与効果を有し、本件発明の課題を解決できるものと認められる。
よって、申立人の主張は採用することができない。

(6)取消理由2(サポート要件)、申立理由2(サポート要件)についてまとめ
以上のとおりであるから、取消理由2、申立理由2によっては本件発明1〜6についての特許を取り消すことはできない。

2 取消理由3(実施可能要件)、申立理由3(実施可能要件)について
申立理由3(実施可能要件)は、取消理由3(実施可能要件)と同旨であるから、これらを併せて検討する。

(1)特許法第36条第4項第1号の判断手法について
特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定され、その第1号において、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。
特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、本件発明1〜5は物の発明であるところ、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、物の発明にあっては、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産でき、かつ、使用できる程度の記載があることを要する。また、本件発明6は物を生産する方法の発明であるところ、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、物を生産する方法の発明にあっては、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用し、その方法により生産した物の使用等をできる程度の記載があることを要する。

(2)本件発明1〜6について
ア 判断
上記1(2)に記載のとおり、本件明細書には【0009】〜【0073】に本件の(A)成分について、また、【0074】、【0075】に(B)成分について、具体的な説明がされており、さらに、【0082】〜【0094】に組成物の製造方法が記載されている。
そして、実施例において、本件組成物の特徴的な成分である(A)成分について、アニオン化度が0.49meq/g以上1meq/g以下の範囲で、保水能が18〜120の範囲の5種類のものが、具体的な製造条件を明示した上で製造例が開示されており、これらの記載から、当業者であれば、本件発明の組成物を製造し、使用することができるものと認められる。

イ 申立人の主張について
申立人は、令和6年1月10日付け意見書、令和6年6月6日付け意見書において、本件明細書の記載からは「アニオン化度」の調整方法が不明であり、実施例以外のものを製造するには過度の試行錯誤を要する旨、また、申立書、令和5年5月12日付け意見書、令和6年6月6日付け意見書において、本件明細書の記載からは「保水能」の調整方法が不明であり、実施例以外のものを製造するには過度の試行錯誤を要する旨主張する。
上記主張について検討する。

「アニオン化度」について
本件明細書において、実施例1、5では、解繊処理に先立ち5%NaOH水溶液及び炭酸水素ナトリウムを添加してpHを8.0、すなわち中性付近に調整する(本件明細書段落【0110】、【0116】)一方、実施例3、4においては処理前にpH調整を行っておらず(【0114】、【0115】)、解繊処理時のpHは、TEMPO酸化終了時のpH4.5、すなわち酸性であるものと認められる。
そして、実施例1、5では「アニオン化度」が、実施例3、4と比較して大きい。
このことから、解繊前にpHを調整することによりある程度「アニオン化度」を調整できるものであり、詳細について、本件明細書の実施例等を参考に調整を行うことは、当業者が通常行う試行錯誤の範囲内のものであって、過度の試行錯誤を要するものとまではいえない。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件に適合するものといえる。

「保水能」について
本件明細書の実施例において、上記のとおり記載されている。
そして、実施例1、5では「保水能」が、実施例3、4と比較して大きい。
このことから、解繊前にpHを調整することによりある程度「保水能」を調整できるものであり、本件発明の範囲内となるように、本件明細書の実施例等を参考に調整を行うことは、当業者が通常行う試行錯誤の範囲内のものであって、過度の試行錯誤を要するものとまではいえない。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件に適合するものといえる。

したがって、申立人の主張は採用できない。

(4)取消理由3(実施可能要件)、申立理由3(実施可能要件)についてまとめ
以上のとおりであるから、取消理由3、申立理由3によっては本件発明1〜6についての特許を取り消すことはできない。

3 申立理由1(甲1を主引用文献とする進歩性)について
申立理由1(甲1を主引用文献とする進歩性)について検討する。

(1) 甲1、甲1−1、甲2、甲3に記載された事項
ア 甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明
(ア)甲1に記載された事項
甲1には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方を含む水溶液と、ゴムラテックスと、を混合して第1の混合物を得る混合工程と、
前記第1の混合物を乾燥して第2の混合物を得る乾燥工程と、
前記第2の混合物をオープンロールによって薄通ししてゴム組成物を得る分散工程と、
を含むことを特徴とする、ゴム組成物の製造方法。」

「【請求項8】
ゴムに解繊された酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方が分散し、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方を含む直径が0.1mm以上の凝集体を有しないことを特徴とする、ゴム組成物。」

「【0008】
本発明にかかるゴム組成物の製造方法によれば、特にオープンロールによって薄通しすることによって、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方が解繊した状態で分散したゴム組成物を得ることができる。そのため、ゴム組成物の製造方法によれば、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方によって補強され、剛性、強度、及び耐疲労性に優れたゴム組成物を提供することができる。」

「【0080】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0081】
(1−1)実施例1〜4のサンプルの作製
水溶液を得る工程:
特開2013−18918号の製造例1に開示された方法と同様にして、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーを得た。
【0082】
具体的には、針葉樹の漂白クラフトパルプをイオン交換水で十分に攪拌した後、パルプ質量100gに対し、TEMPO1.25質量%、臭化ナトリウム12.5質量%、次亜塩素酸ナトリウム28.4質量%を20℃でこの順で添加した。
水酸化ナトリウムを滴下してpHを10.5に保持し、酸化反応を行った。酸化反応を120分行った後に滴下を停止し、TEMPO酸化した酸化セルロース繊維を10質量%含む水溶液を得た。酸化セルロース繊維は、元のパルプと同程度の繊維径10μm〜30μm、繊維長さ1mm〜5mmであった。
【0083】
さらに、イオン交換水を用いて酸化セルロース繊維を十分に洗浄し、次いで脱水処理を行った。その後、酸化セルロース繊維をイオン交換水により固形分1質量%に調整し、高圧ホモジナイザーを用いて微細化処理を行い、セルロースナノファイバーを1質量%含む水分散液を得た。セルロースナノファイバーの平均繊維径は3.3nm、平均アスペクト比は225であった。
【0084】
混合工程:
このセルロースナノファイバーを1質量%含む水溶液に水素化ニトリルゴム(以下、「H−NBR」という)ラテックス(日本ゼオン社製ZLx−B:固形分濃度40質量%の水分散体)を投入し、ジューサーミキサーを用いて回転数10000rpmで混合して、第1の混合物を得た。
【0085】
実施例2−4では、さらにミキサーの混合の後、ニップを10μmに設定したEXAKT社製の三本ロール(M−50)に回転数200rpmで通して、追加の混合を行い、第1の混合物を得た。
【0086】
乾燥工程:
第1の混合物を50℃に設定したオーブン内で4日間加熱乾燥して、第2の混合物を得た。乾燥後の第2の混合物における配合割合は、表1に示した。なお、表1〜表3における配合量は、質量部(phr)である。
【0087】
分散工程:
第2の混合物をロール間隔1.5mmで素練りし、ロール間隙0.3mmのオープンロールに投入し、10℃〜30℃で薄通しをしてゴム組成物サンプルを得た。このとき、2本のロールの表面速度比を1.1とした。薄通しは繰り返し5回行った。
【0088】
加硫工程:
薄通しして得られたゴム組成物サンプルに架橋剤としてパーオキサイド8質量部を加えて分出ししたシートを170℃、10分間圧縮成形して厚さ1mmのシート状の架橋体ゴム組成物サンプルを得た。
【0089】
【表1】

【0090】
(1−2)実施例5〜7のサンプルの作製
混合工程:
TEMPO酸化した酸化セルロース繊維1質量%を含む水溶液にH−NBRラテックス(日本ゼオン社製ZLx−B)を投入し、ジューサーミキサーを用いて回転数10000rpmで混合して、第1の混合物を得た。
【0091】
実施例6,7では、さらにミキサーの混合の後、ニップを10μmに設定したEXAKT社製の三本ロール(M−50)に回転数200rpmで通して、追加の混合を行い、第1の混合物を得た。
【0092】
乾燥工程:
第1の混合物を50℃に設定したオーブン内で4日間加熱乾燥して、第2の混合物を得た。乾燥後の第2の混合物における配合割合は、表2に示した。
【0093】
分散工程:
第2の混合物をロール間隔1.5mmで素練りし、ロール間隙0.3mmのオープンロールに投入し、10℃〜30℃で薄通しをしてゴム組成物サンプルを得た。このとき、2本のロールの表面速度比を1.1とした。薄通しは繰り返し5回行った。
【0094】
加硫工程:
薄通しして得られたゴム組成物サンプルに架橋剤としてパーオキサイド8質量部を加えて分出ししたシートを170℃、10分間圧縮成形して厚さ1mmのシート状の架橋体ゴム組成物サンプルを得た。
【0095】
【表2】



(イ)甲1に記載された発明
甲1には、請求項1に係るゴム組成物の製造方法及び、請求項8に係るゴム組成物が記載されており、このゴム組成物及び製造方法の具体例として、実施例6が記載されている。また、甲1の段落【0081】には、実施例1〜4のサンプル作製として、「特開2013−18918号の製造例1に開示された方法と同様にして、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーを得た」と記載されているが、実施例1〜4では、セルロースナノファイバーを含むゴム組成物の具体例となっている。一方、実施例5〜7では、「TEMPO酸化した酸化セルロース繊維」が記載されているが、上記段落【0081】には、酸化セルロース繊維を得たという記載があり、段落【0082】には、TEMPO酸化した酸化セルロース繊維が記載されていることから、実施例5〜7の「TEMPO酸化した酸化セルロース繊維」も、段落【0082】に記載された方法と同様にして得られた酸化セルロース繊維を用いていると解するのが相当である。
以上を踏まえて、甲1に記載された事項について、実施例6に着目して整理すると、甲1には、以下の発明が記載されているといえる。

「針葉樹の漂白クラフトパルプをイオン交換水で十分に攪拌した後、パルプ質量100gに対し、TEMPO1.25質量%、臭化ナトリウム12.5質量%、次亜塩素酸ナトリウム28.4質量%を20℃でこの順で添加し、水酸化ナトリウムを滴下してpHを10.5に保持し、酸化反応を行い、酸化反応を120分行った後に滴下を停止して得た、繊維径10μm〜30μm、繊維長さ1mm〜5mmであるTEMPO酸化した酸化セルロース繊維1質量%を含む水溶液にH−NBRラテックス(日本ゼオン社製ZLx−B)を投入し、ジューサーミキサーを用いて回転数10000rpmで混合して、さらにミキサーの混合の後、ニップを10μmに設定したEXAKT社製の三本ロール(M−50)に回転数200rpmで通して、追加の混合を行い得た第1の混合物を、50℃に設定したオーブン内で4日間加熱乾燥して得た、H−NBRラテックス(乾燥体重量)100質量部に対して、酸化セルロース繊維を5質量部含むゴム組成物。」(以下、「甲1発明1」という。)

「針葉樹の漂白クラフトパルプをイオン交換水で十分に攪拌した後、パルプ質量100gに対し、TEMPO1.25質量%、臭化ナトリウム12.5質量%、次亜塩素酸ナトリウム28.4質量%を20℃でこの順で添加し、水酸化ナトリウムを滴下してpHを10.5に保持し、酸化反応を行い、酸化反応を120分行った後に滴下を停止して得た、繊維径10μm〜30μm、繊維長さ1mm〜5mmであるTEMPO酸化した酸化セルロース繊維1質量%を含む水溶液にH−NBRラテックス(日本ゼオン社製ZLx−B)を投入し、ジューサーミキサーを用いて回転数10000rpmで混合して、さらにミキサーの混合の後、ニップを10μmに設定したEXAKT社製の三本ロール(M−50)に回転数200rpmで通して、追加の混合を行い得た第1の混合物を、50℃に設定したオーブン内で4日間加熱乾燥する、甲1発明1の「ゴム組成物」の製造方法。」
(以下、「甲1発明2」という。)

イ 甲1−1の記載事項
甲1−1には以下の事項が記載されている。
「【0041】
製造例1(セルロース繊維/SBR複合体の製造)
(1)セルロース繊維の製造
まず、以下の原料等を用意した。
天然繊維:針葉樹の漂白クラフトパルプ(フレッチャーチャレンジ カナダ社製、商品名「Machenzie」、CSF650ml)
TEMPO:市販品(ALDRICH社製、 Free radical、98質量%)
次亜塩素酸ナトリウム:市販品(和光純薬工業株式会社製、Cl:5%)
臭化ナトリウム:市販品(和光純薬工業株式会社製)
次に、漂白クラフトパルプ100gを9900gのイオン交換水で十分に攪拌した後、漂白クラフトパルプ質量100gに対し、TEMPO1.25質量%、臭化ナトリウム12.5質量%、次亜塩素酸ナトリウム28.4質量%を20℃でこの順で添加した。
Hスタットを用い、0.5M水酸化ナトリウムを滴下してpHを10.5に保持し、酸化反応を行った。酸化反応を120分行った後に滴下を停止し、酸化パルプを得た。イオン交換水を用いて酸化パルプを十分に洗浄し、次いで脱水処理を行った。その後、前記酸化パルプをイオン交換水により固形分1質量%に調整し、高圧ホモジナイザー(スターバーストラボHJP−25005、スギノマシン株式会社製)を用いて、245MPaで微細化処理を2回行い、セルロース繊維の水分散液を得た。分散液の固形分濃度は、1質量%であった。
得られたセルロース繊維の平均繊維径は3.3nm、平均アスペクト比は225、カルボキシ基含有量は1.2mmol/gであった。」

ウ 甲2の記載事項
甲2には以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
微細セルロース(A)と、樹脂(B)と、
分子内にアミノ基を2つ以上有し、前記アミノ基が一級アミノ基及び/又は二級アミノ基であるアミン及び/又はその塩(C)と、を含む樹脂組成物であって、前記微細セルロース(A)が、微細セルロース繊維(A−1)及び/又は微細セルロース粒状物(A−2)を含み、
前記セルロース繊維(A−1)の濃度が1重量%である水分散液の粘度が300〜15000mPa・sであり、
前記樹脂(B)のガラス転移温度が−130〜110℃である、樹脂組成物。
【請求項2】
前記樹脂(B)が、スチレンブタジエンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びエチレンプロピレンジエンゴム、から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の樹脂組成物。」

「【0005】
本発明の目的は、樹脂中に微細セルロースを凝集することなく分散し、機械的強度に優れた樹脂組成物を提供することにある。」

「【0016】
また、微細セルロース繊維(A−1)、及び微細セルロース粒状物(A−2)としては、バクテリアセルロース等の発酵法により製造したものを用いてもよい。
微細セルロース繊維(A−1)、及び微細セルロース粒状物(A−2)の保水度は、樹脂組成物の物性の観点から、特に限定はないが、(1)10〜2000%、(2)50〜1000%、(3)100〜900%、(4)100〜800%、(5)150〜800%、(6)200〜600%、(7)200〜500%の順で好ましい(括弧の数字が大きくなるにつれ好ましい)。微細セルロース繊維(A−1)、及び微細セルロース粒状物(A−2)の保水度が、上記範囲外の場合、樹脂組成物の物性が低下することがある。なお、微細セルロース繊維(A−1)、及び微細セルロース粒状物(A−2)の保水度はJAPANTAPPI No.26に準拠して測定した。」

「【0020】
微細セルロース(A)が微細セルロース繊維(A−1)を含む場合、微細セルロース繊維(A−1)の濃度が1重量%である水分散液の粘度は、300〜15000mPa・sであり、好ましくは500〜15000mPa・s、より好ましくは500〜8000mPa・sである。300mPa・s未満及び15000mPa・sを超えると、ハンドリング性が悪くなり生産性が不足する。
微細セルロース繊維(A−1)水分散液の25℃における粘度は、B型回転粘度計(東京計器)、回転数12rpm、ローターNo.1〜4で測定した。」

「【0026】
〔樹脂(B)〕
樹脂(B)としては、ガラス転移温度が−130〜110℃のものであれば、特に限定されないが、具体的には、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)等のジエン系ゴム;エポキシ化天然ゴム、水素化天然ゴム等の改質天然ゴム、水素添加ニトリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロロヒドリンゴム、フッ素ゴム、多硫化ゴム、プロピレンオキシドゴム等の非ジエン系ゴム;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;ポリビニルアルコール;エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン−エチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン−ブチル(メタ)アクリレート共重合体等のエチレン系共重合体;低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(L−LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリスチレン、ポリテルペン、変性ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂;スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン−アクリロニトリル共重合体等のスチレン系共重合体;ポリアセタール;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリメチルメタクリレート;酢酸セルロース;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂;アクリル酸エステル系共重合樹脂、酢酸ビニル・アクリル酸エステル系共重合樹脂、シリコン変性アクリル系樹脂等のアクリル樹脂;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド樹脂;熱可塑性ポリウレタン;ポリテトラフルオロエチレン樹脂;エチレン系アイオノマー、ウレタン系アイオノマー、スチレン系アイオノマー、フッ素系アイオノマー等のアイオノマー樹脂;ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー等の熱可塑性樹脂エラストマー等が挙げられる。上記樹脂(B)の中でも、本願効果を奏する観点から、ジエン系ゴム、エチレン系共重合体、ポリオレフィン系樹脂、アクリル樹脂、熱可塑性エラストマーが好ましく、さらに、中でも、本発明の効果が大きく発揮される観点から、スチレンブタジエンゴム(SBR)、天然ゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、アクリル樹脂が好ましい。これらの樹脂(B)は、1種又は2種以上を併用してもよい。」

エ 甲3の記載事項
甲3には以下の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物に関するものである。」

「【0008】
発明が解決しようとする主たる課題は、比較的安価で、かつサーマルリサイクルの問題や溶媒処理の問題等が生じず、しかも強度が強い熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、次の通りである。
(請求項1記載の発明)
熱可塑性樹脂及び植物繊維を含有する熱可塑性樹脂組成物であって、
前記植物繊維が、リグニンを含むパルプ繊維を微細化処理して得た保水度が350%以下のセルロースナノファイバーである、
ことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。」

「【0012】
セルロースナノファイバーは、熱可塑性樹脂中における分散性が悪い。しかしながら、リグニンを含むセルロースナノファイバーはリグニンを含まないセルロースナノファイバーと比べて保水度を低くすることができ、特に350%以下とすることができ、濾水性や、脱水性、乾燥性、熱可塑性樹脂中における分散性等が向上させることができる。結果、熱可塑性樹脂組成物の強度も向上する。この点、セルロースナノファイバーの脱水性が向上すると、例えば、セルロースナノファイバーを熱可塑性樹脂と混錬して脱水する際のエネルギー等を低減することができ、製造コストの点でも有利である。」

「【0014】
また、以上のように保水度が350%以下であると脱水性等が向上するが、更に得られる熱可塑性樹脂組成物の曲げ強度や弾性率等の機械的強度も向上する。本発明者等は、BTMP(保水度200〜280%)及びBTMPを微細化処理して得たセルロースナノファイバー(保水度200〜280%)を、熱可塑性樹脂(PP及びMAPP)の粉末と、後述するマスターバッチ法や固相せん断法ではなく直接二軸混練する試験を行った。結果、得られた熱可塑性樹脂組成物の曲げ強度及び弾性率は、BTMP<セルロースナノファイバーとなった。」

「【0044】
(保水度)
セルロースナノファイバーの保水度は、350%以下であるのが好ましく、300%以下であるのがより好ましく、280%以下であるのが特に好ましい。保水度が350%を超えると、濾水性や乾燥性、熱可塑性樹脂との相溶性が劣る傾向にある。また、熱可塑性樹脂組成物の補強効果を優れたものとするためには、セルロースナノファイバーを十分に乾燥し、熱可塑性樹脂への均一な分散を行う必要がある。しかるに、セルロースナノファイバーは凝集性が高いため、乾燥処理や熱可塑性樹脂との混練処理等に際して凝集し易い。そこで、セルロースナノファイバーの保水度を350%以下とし、濾水性や乾燥性、熱可塑性樹脂との相溶性を優れたものとすることで、乾燥処理や熱可塑性樹脂との混練処理等に際する凝集を抑制することができ、熱可塑性樹脂組成物の補強効果が十分なものとすることができる。
【0045】
前記、保水度は、パルプ繊維、前処理工程、微細化処理工程で任意に調整可能である。」

「【0089】
(マスターバッチ法)
次に、図1を参照しつつ、熱可塑性樹脂及びセルロースナノファイバーを原料とし、相溶化剤を添加して熱可塑性樹脂組成物を製造する方法であるが、得られる熱可塑性樹脂組成物の強度が著しく向上する方法(単に「マスターバッチ法」ともいう。)について説明する。
【0090】
このマスターバッチ法においては、まず、パルプ繊維(P)を、必要により前処理(10)した後、微細化処理(20)してセルロースナノファイバーを得、このセルロースナノファイバーを水(W)と混ぜて分散液(C)とする。次に、この分散液(C)と熱可塑性樹脂、好ましくは低融点熱可塑性樹脂(Rx)とを脱水・乾燥処理(30x)し、一次混練処理(40x)する。そして、この一次混練物に熱可塑性樹脂(Ry)、更に相溶化剤(Rz)を添加し、二次混練処理(50x)及び成形処理(60)して熱可塑性樹脂組成物(S)を得る。」

「【0130】
(保水度)
JAPAN TAPPI No.26:2000に準拠して測定する。」

オ 引1の記載事項
引1には以下の事項が記載されている。
「【0013】
保水度の測定方法はJ.TAPPINO.26−78に定義されている方法に従い、離解したパルプ懸濁液を3,000Gで遠心分離して、脱水したパルプの重量Aと、105℃で乾燥した絶乾重量Bをそれぞれ秤量して求め、次いで(A−B)/B×100を計算することによって得ることができる。
尚、測定は原則として、試料の量を0.15g、遠心分離の時間を15分として行う。」

カ 乙1の記載事項
乙1にはパルプ−保水度試験方法について、以下の事項が記載されている。
「4.操作 操作は,次による。
a)冷却装置付遠心機内の相対応する位置に取り付けるガラスろ過器は,バランスのとれたものを選んでおく。
b)ガラスろ過器1個に対し絶乾0.5g相当量の試料を,パルプ懸濁液から採取し,これをガラスろ過器に注ぎ,吸引装置で徐々に吸引し,均一なマット状とし,水がパルプの表面から引いたところで吸引を止める。
c)繊維マットが形成されているガラスろ過器を沈殿管ケース掛けに取り付ける。
d)遠心機が一定の温度で安定するのを待って,回転前の機内の温度を測定する。遠心機を回転させ,遠心力30OOGを15分作用させた後,停止させる。停止後に再び機内の温度を測定する。
e)遠心機を停止させた後,ろ過器より繊維マットをピンセット又は針で丁寧に素早く取り出し,はかり瓶に移し,はかりで1mgのけたまで正確にひょう量する。
f)これを乾燥機に入れ,105±2℃で恒量に達するまで乾燥し,はかりで1mgのけたまで正確にひょう量する。
g)測定は,同一試料について2個行う。
h)冷却装置がない遠心機の場合は,一般に遠心分離中に若干の温度上昇に伴う保水度の変化が起こるので,できるだけ温度変化を少なくする必要がある。その方法としては,遠心分離は恒温室で行うか,又は遠心分離器の上ぶたを金網にして通風を良くして温度上昇を防ぐなどがある。

5.計算 計算は,次による。

ここに,C:保水度(%)
A:遠心脱水後の湿潤パルプの質量(g)
B:パルプの絶乾質量(g)」(1頁26行〜33行、3頁1〜12行)」

キ 乙2の記載事項
乙2には以下の事項が記載されている。
「令和5年3月7日
実験報告書
以下の実験を行いましたので、ご報告させていただきます。
日本製紙株式会社
中田咲子
加藤隼人
・セルロース繊維の製造:
甲1段落【0082】及び【0083】に記載の方法で得られる酸化セルロース繊維製造方法:針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(NBKP、日本製紙(株)製、白色度85%)を9900gのイオン交換水で十分に攪拌した後、パルプ質量100gに対し、TEMPO (Sigma Aldrich社)1.25質量%、臭化ナトリウム12.5質量%、 次亜塩素酸ナトリウム28.4質量%を20℃でこの順で添加した。水酸化ナトリウムを滴 下してpHを10.5に保持し、酸化反応を行った。酸化反応を120分行った後に滴下を 停止し、TEMPO酸化した酸化セルロース繊維を1.0質量%含む水溶液を得た(なお、セルロース繊維の濃度「1.0%」は、甲1段落【0082】では「10%」であるが誤記と認められるため、引用元の甲1−1【0041】に従った)。さらに、イオン交換水を用いて酸化セルロース繊維を十分に洗浄し、次いで脱水処理を行った。カルボキシル基量1.2mmol/gの酸化セルロース繊維を得た。

(2)本件発明実施例1のTEMPO酸化MFC
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトバルプ(NBKP、日本製紙(株)製、白色度85%)5.00g(絶乾)をTEMPO (Sigma Aldrich社)39mg(絶乾1gのセルロースに対し0.05mmol)と臭化ナトリウム514mg(絶乾1gのセルロースに対し1.0mmol)を溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を次亜塩素酸ナトリウムが5.5mmol/gになるように添加し、室温にて酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物に塩酸を添加しpH2に調整した後、ガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、分離されたパルプを十分に水洗して、TEMPO酸化パルプを得た。この時のパルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は90分、カルボキシル基量は1.37mmol/gであった。得られたTMPO酸化パルプの固形分濃度2.0質量%の水分散体を調製し、5%NaOH水溶液及び炭酸水素ナトリウムを添加してpH8.0に調整した後、トップファイナー(相川鉄工株式会社製)を用いて10分間処理し、酸化セルロースマイクロフィブリル(TMPO酸化MFC)を調製した。

・TAPPI保水度および保水能の測定:
TAPPI保水度はJAPAN TAPPI No.26に準拠して測定した。
保水能は本件発明に記載の方法で測定した。

・結果


本件発明実施例1のTEMPO酸化MFCのTAPPI保水度は、TAPPIの方法での4.操作b)における試料をガラスろ過器に注ぐ際に、繊維が微細であるためガラスフィルターを通過してしまい、フィルター上にマットが形成できず、測定ができなかった。」(1〜2頁)

(2)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明1とを対比する。
甲1発明1の「H−NBRラテックス(日本ゼオン社製ZLx−B)」は、甲1の段落【0084】に「水素化ニトリルゴム(以下、「H−NBR」という)ラテックス(日本ゼオン社製ZLx−B:固形分濃度40質量%の水分散体)」であることが記載されており、甲1発明1の「H−NBR」が、本件発明1の「成分(B);ゴム成分」に相当する。
甲1発明1の「酸化セルロース繊維」は、TEMPO酸化していることから、変性しているといえ、また、甲1発明1の「酸化セルロース繊維」の繊維径は10μm〜30μmであることから、本件発明1の「平均繊維径が1μm以上である、変性セルロースマイクロフィブリル」に相当する。
そうすると、両者は、以下の<一致点>で一致し、以下の<相違点1−1>〜<相違点1−2>で相違する。

<一致点>
成分(A):平均繊維径が1μm以上である、変性セルロースマイクロフィブリル、及び
成分(B);ゴム成分
を含むゴム組成物。

<相違点1−1>
成分(A):平均繊維径が1μm以上である、変性セルロースマイクロフィブリルについて、本件発明1は、「アニオン化度が0.49meq/g以上1meq/g以下である」のに対して、甲1発明1では上記アニオン化度が不明である点

<相違点1−2>
成分(A):平均繊維径が1μm以上である、変性セルロースマイクロフィブリルについて、本件発明1は、「保水能=(B+C−0.003×A)/(0.003×A−C)(式中、Aは、変性セルロースマイクロフィブリルの固形分濃度0.3質量%の水分散体の質量、Bは、質量Aの水分散体を30℃、25000G、30分間遠心分離した後に分離される沈降物の質量、Cは前記遠心分離後に分離される水相中の固形分の質量をそれぞれ表す)で表される保水能」(以下、「保水能」という。)が「18〜120」であるのに対して、甲1発明1では保水能が不明である点

(イ)<相違点1−1>について
甲1−1の段落【0041】には、製造例1において製造したセルロース繊維が、TEMPO酸化した酸化セルロース繊維を、高圧ホモジナイザーによって微細化処理をして製造したセルロース繊維であり、その平均繊維径は3.3nm、平均アスペクト比は225、カルボキシ基含有量は1.2mmol/gであることが記載されており、この記載から、微細化処理を行う前のTEMPO酸化した酸化セルロース繊維もカルボキシ基含有量は1.2mmol/gであることが分かり、甲1発明1の「酸化セルロース繊維」は甲1−1の製造例1に開示された方法と同様にして製造されたものであるから、カルボキシ基含有量は1.2mmol/gであると解される。
一方、本件明細書の【表1】には実施例1〜5のカルボキシル(COOH)基量が、各々1.37mmol/g、1.37mmol/g、1.37mmol/g、1.37mmol/g、1.21mmol/gであるところ、実施例1〜5のアニオン化度が各々0.78meq/g、1meq/g、0.49meq/g、0.55meq/g、0.61meq/gであるため、カルボキシ基含有量とアニオン化度は比例関係にないものと認められるから、甲1発明1の「酸化セルロース繊維」において、「アニオン化度が0.49meq/g以上1meq/g以下である」という事項を満たすか否かは不明である。
また、甲1及び申立人の提出したその他の証拠に、「アニオン化度が0.49meq/g以上1meq/g以下」とすることは記載も示唆もされておらず、甲1発明1の「酸化セルロース繊維」において、「アニオン化度が0.49meq/g以上1meq/g以下である」という事項を満たすように調整することが当業者にとって容易になし得たものとも認められない。
ここで、アニオン化度を「0.49meq/g以上1meq/g以下」に特定することの効果について検討する。
本件明細書にはアニオン化度について以下の事項が記載されている。
「【0019】
(アニオン化度)
変性セルロースマイクロフィブリルのアニオン化度(アニオン電荷密度)は、通常は2.50meq/g以下であり、2.30meq/g以下が好ましく、2.0meq/g以下がより好ましく、1.50meq/g以下がさらに好ましい。これにより、アニオン化度がより高い化学変性セルロース繊維に比べ、化学変性がセルロース全体にわたり均一になされていると考えられ、保水性等の化学変性セルロース繊維に特有の効果をより安定に得ることができると考えられる。下限は、通常は0.06meq/g以上、好ましくは0.10meq/g以上、より好ましくは0.30meq/g以上であるが、特に限定されない。従って、0.06meq/g以上2.50meq/g以下が好ましく、0.08meq/g以上2.50meq/g以下、又は0.に/g以上2.30meq/g以下がより好ましく、0.10meq/g以上2.00meq/g以下がさらに好ましい。」
すなわち、本件発明1はアニオン化度を「0.49meq/g以上1meq/g以下」に特定することにより、保水性等の化学変性セルロース繊維に特有の効果をより安定に得ることができるという特有の効果を有するものである。そして、当該効果は、甲1及び甲1−1〜甲3を参酌しても当業者が予測できるものとは認められない。

(ウ)<相違点1−2>について
甲1の段落【0008】には、甲1に記載されたゴム組成物の製造方法によって、剛性、強度、及び耐疲労性に優れたゴム組成物を提供できることが記載されており、甲1において、強度に優れたものとすることが課題として記載されていることが分かる。
甲2の請求項1〜2、段落【0016】、【0026】の記載から、JAPAN TAPPI No.26に準拠して測定した微細セルロース繊維の保水度が10〜2000%の範囲外の場合、微細セルロースと、ゴムを含んだ樹脂を含む樹脂組成物の物性が低下することがあると解され、段落【0005】の記載から、この物性は機械的強度に関する物性であると考えられる。ここで、JAPAN TAPPI No.26に準拠して測定した保水度とは、引1の段落【0013】「保水度の測定方法はJ.TAPPI NO.26−78に定義されている方法に従い、離解したパルプ懸濁液を3,000Gで遠心分離して、脱水したパルプの重量Aと、105℃で乾燥した絶乾重量Bをそれぞれ秤量して求め、次いで(A−B)/B×100を計算することによって得ることができる。尚、測定は原則として、試料の量を0.15g、遠心分離の時間を15分として行う。」の記載から、「絶乾したパルプの質量に対する保水された水の質量に100を乗じたもの」である。そこで、甲2に記載された「10〜2000%の保水度」が、「パルプの質量に対して0.1倍から20倍の質量の水を保水する能力」、すなわち本件発明の保水能が「0.1〜20」を意図するか否か検討する。
乙1に記載されるとおり、TAPPI保水度は、パルプ懸濁液を2段階の脱水操作で水分を分離除去して得られるサンプルに含まれる水分含有量である。2段階の脱水操作により、繊維間及び繊維内の自由水はほぼ除去され、TAPPI保水度として測定される対象は、サンプル内の結合水である。
一方、本件発明1における保水能は、
「保水能=(B+C−0.003×A)/(0.003×A−C)
(式中、Aは、変性セルロースマイクロフィブリルの固形分濃度0.3質量%の水分散体の質量、Bは、質量Aの水分散体を30℃、25000G、30分間遠心分離した後に分離される沈降物の質量、Cは前記遠心分離後に分離される水相中の固形分の質量をそれぞれ表す)」(【請求項1】)であり、測定方法が異なる。
そして、乙2に「・結果

本件発明実施例1のTEMPO酸化MFCのTAPPI保水度は、TAPPIの方法での4.操作b)における試料をガラスろ過器に注ぐ際に、繊維が微細であるためガラスフィルターを通過してしまい、フィルター上にマットが形成できず、測定ができなかった。」と記載されるとおり、本件発明1における保水能とTAPPI保水度は、比較が困難なものである。
そうすると、甲2に記載された「10〜2000%の保水度」が、保水能が「0.1〜20」を意図するとはいえない。よって、甲2には、セルロースナノファイバーの保水能を「18〜120」とすることが記載も示唆もされていないから、甲1発明の「酸化セルロース繊維」において、「保水能が「18〜120」という事項を満たすように調整することが当業者にとって容易になし得たものとも認められない。
ここで、保水能を「18〜120」に特定することの効果について検討する。
本件明細書には保水能について以下の事項が記載されている。
「【0021】
保水能の値が大きいほど、繊維が水を保持する力が高いことを意味する。」
すなわち、本件発明1は保水能を「18〜120」に特定することにより、繊維が水を保持する力が高いという特有の効果を有し、当業者が予測できるものとは認められない。

(エ)申立人の主張について
申立人は、申立書、及び、令和5年5月12日提出の意見書において、甲2は、酸化処理を施した微細セルロース繊維が「微細セルロース繊維(A−1)の保水度は、樹脂組成物の物性の観点から、(1)10〜2000%、(2)50〜1000%、(3)100〜900%、(4)100〜800%、(5)150〜800%、(6)200〜600%、(7)200〜500%の順で好ましいこと、微細セルロース繊維(A−1)の保水度が、上記範囲外の場合、樹脂組成物の物性が低下することがある」こと、甲3は、セルロースナノファイバーの保水度が350%以下であることにより、濾水性や、脱水性、乾燥性、熱可塑性樹脂中における分散性等を向上させることができ、結果、熱可塑性樹脂組成物の曲げ強度や弾性率等の機械的強度が向上することを記載しており、甲2及び甲3により、当業者は、得られる樹脂組成物の機械的強度を向上させるために、当該樹脂組成物に含まれるセルロース繊維の保水度に着目しており、当業者にとって、機械的強度を高めるために当該保水度を調整することは、優先日前から実施されている周知技術にすぎず、そのため、当業者にとって、セルロース繊維の保水度を適切に調整して樹脂への分散性を高め、樹脂組成物の機械的強度を向上させることは容易になし得ることである旨主張している。
上記主張について検討する。
上記(ウ)で述べたように、甲2及び甲3には、セルロースナノファイバーの保水能を「18〜120」とすることが記載も示唆もされおらず、甲1発明1の「酸化セルロース繊維」において、保水能を「18〜120」とすることは、当業者が容易になし得たものではない。
よって、申立人の上記主張を採用することができない。

(オ)本件発明1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は甲1に記載された発明及び甲1−1、甲2、甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2〜6について
本件発明2〜6は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1が甲1に記載された発明及び甲1−1、甲2、甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件発明2〜6についても、甲3発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)申立理由1(甲1を主引用文献とする進歩性)についてまとめ
以上のとおりであるから、申立理由1によっては本件発明1〜6についての特許を取り消すことはできない。


第6 むすび
上記第5のとおり、本件特許の請求項1〜6に係る特許は、当審が令和6年2月29日付け取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由及び申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1〜6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A):アニオン化度が0.49meq/g以上1meq/g以下であり、平均繊維径が1μm以上である、変性セルロースマイクロフィブリル、及び
成分(B);ゴム成分
を含み、
成分(A)は、以下の式:
保水能=(B+C−0.003×A)/(0.003×A−C)
(式中、Aは、変性セルロースマイクロフィブリルの固形分濃度0.3質量%の水分散体の質量、Bは、質量Aの水分散体を30℃、25000G、30分間遠心分離した後に分離される沈降物の質量、Cは前記遠心分離後に分離される水相中の固形分の質量をそれぞれ表す)
で表される保水能が18〜120の変性セルロースマイクロフィブリルを少なくとも含む、
ゴム組成物。
【請求項2】
成分(A)は、固形分1質量%の水分散体とした際のB型粘度(25℃、60rpm)が、4,000mPa・s以下である、変性セルロースマイクロフィブリルを少なくとも1種含む、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
成分(A)は、酸化セルロースマイクロフィブリル、カルボキシアルキル化セルロースマイクロフィブリル及びリン酸化セルロースマイクロフィブリルからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1または2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
酸化セルロースマイクロフィブリルのカルボキシル基量が0.1〜2.5mmol/gである、請求項3に記載のゴム組成物。
【請求項5】
酸化セルロースマイクロフィブリルのカルボキシ置換度が0.01〜0.50であり、及び/又は、カルボキシアルキル化セルロースマイクロフィブリルのカルボキシアルキル置換度が0.01〜0.50である、請求項3または4に記載のゴム組成物。
【請求項6】
(A)成分と(B)成分を混合および混練し、ゴム組成物を得ることを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載のゴム組成物の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2024-08-26 
出願番号 P2021-538236
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C08L)
P 1 651・ 536- YAA (C08L)
P 1 651・ 121- YAA (C08L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 細井 龍史
特許庁審判官 小出 直也
岡谷 祐哉
登録日 2022-01-26 
登録番号 7015970
権利者 日本製紙株式会社
発明の名称 ゴム組成物及びその製造方法  
代理人 弁理士法人酒井国際特許事務所  
代理人 弁理士法人酒井国際特許事務所  

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