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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B23K |
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管理番号 | 1416472 |
総通号数 | 35 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2024-11-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2023-11-07 |
確定日 | 2024-08-16 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第7269443号発明「溶接方法および溶接装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7269443号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜14〕、〔15〜19〕について訂正することを認める。 特許第7269443号の請求項1、3〜19に係る特許を維持する。 特許第7269443号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 1 特許掲載公報の発行までの経緯 特許第7269443号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜19に係る特許についての出願は、2021年(令和3年)6月4日を国際出願日とする国際特許出願(優先権主張 令和2年6月4日(以下「優先日」という。))であって、令和5年4月25日にその特許権の設定登録がされ、同年5月8日に特許掲載公報が発行された。 2 特許異議の申立て以降の経緯 本件特許についての特許異議の申立て以降の主な経緯は、次のとおりである。 (1)令和5年11月7日 特許異議申立人 西村 裕之(以下「申立人」という。)による、本件特許の請求項1〜19に係る特許に対する特許異議の申立て(申立てのために提出された特許異議申立書を、以下単に「申立書」という。) (2)令和6年1月17日付け(発送日:同月31日) 取消理由の通知 (以下「取消理由通知」という。) (3)令和6年3月5〜11日(同月12日の応対記録参照) 特許権者 古河電気工業株式会社(以下単に「特許権者」という。)との、電話及び電子メールでの応対(面接審理の要望、調整) (4)令和6年3月12日(同月12日の面接記録参照) 特許権者との面接審理の実施 (5)令和6年3月15〜21日(同月21日の応対記録参照) 特許権者との、電話及び電子メールでの応対(訂正案の受信、合議体の暫定的な心証の開示) (6)令和6年4月1日 特許権者による、訂正の請求(請求された訂正を以下「本件訂正」といい、本件訂正の請求のために提出された訂正請求書を以下単に「訂正請求書」という。)、及び意見書の提出 (7)令和6年4月10日付け(発送日:同月15日) 訂正請求書についての手続補正の指令 (8)令和6年5月14日 訂正請求書の「7 請求の理由」を補正対象とする手続補正書(方式)(以下単に「補正書」という。)の提出 (9)令和6年5月22日付け(発送日:同月24日) 訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項) (10)令和6年6月21日 申立人による、意見書(以下「申立人意見書」という。)の提出 第2 本件訂正の適否 1 本件訂正の内容について 特許権者は、本件訂正の請求により、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書(すなわち、令和6年4月1日に提出され、令和6年5月14日提出の補正書により補正がされた訂正請求書)に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜19について訂正することを求めるところ、本件訂正の内容は、以下のとおりである(訂正箇所に下線を付して示す。)。 <請求項1〜14について> (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1における、 「金属部材の第一面上に第一方向に重ねられた複数の金属箔に対して、前記金属部材の反対側からレーザ光を照射することにより、前記金属部材と前記複数の金属箔とを溶接する溶接方法であって、 前記レーザ光は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光と、550[nm]以下の波長の第二レーザ光と、を含み、 前記レーザ光を、前記複数の金属箔のうち前記第一方向において前記金属部材から最も離れた金属箔の前記金属部材とは反対側の第二面上に照射する、溶接方法。」 との記載を、 「金属部材の第一面上に第一方向に重ねられた複数の金属箔に対して、前記金属部材の反対側からレーザ光を照射して前記複数の金属箔と前記金属部材とにわたる溶接金属を形成することにより、前記金属部材と前記複数の金属箔とを溶接する溶接方法であって、 前記金属部材および前記複数の金属箔のそれぞれは、銅系金属材料、アルミニウム系金属材料、ニッケル系金属材料、鉄系金属材料、およびチタン系金属材料のうちのいずれか一つで作られており、 前記レーザ光は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光と、550[nm]以下の波長の第二レーザ光と、を含み、 前記レーザ光を、前記複数の金属箔のうち前記第一方向において前記金属部材から最も離れた金属箔の前記金属部材とは反対側の第二面上に照射するとともに前記第二面上で掃引し、 前記第二面上で、前記第一レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第一強度領域の全域が、前記第二レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第二強度領域と重なり、前記第二強度領域は、前記第一強度領域と重ならない、当該第一強度領域に対して掃引方向の前方に位置する領域と後方に位置する領域とを有し、 前記第二レーザ光によって前記複数の金属箔の前記第二面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより前記複数の金属箔内に留まった前記溶接金属の第二部位を形成するとともに、前記第一レーザ光によってキーホール型溶融を生じさせることにより前記第二部位に対して前記第二面とは反対側に隣接した位置から前記金属部材内まで延びる前記溶接金属の第一部位を形成する、溶接方法。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3〜14も同様に訂正する。)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3における、 「請求項1または2に記載の溶接方法。」 との記載を、 「請求項1に記載の溶接方法。」 に訂正する(請求項3の記載を引用する請求項4〜14も同様に訂正する。)。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4における、 「請求項1〜3のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」 との記載を、 「請求項1または3に記載の溶接方法。」 に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項5〜14も同様に訂正する。)。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5における、 「請求項1〜4のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」 との記載を、 「請求項1、3、4のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」 に訂正する(請求項5の記載を引用する請求項6〜14も同様に訂正する。)。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項6における、 「請求項1〜5のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」 との記載を、 「請求項1、3〜5のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」 に訂正する(請求項6の記載を引用する請求項7〜14も同様に訂正する。)。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項7における、 「請求項1〜6のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」 との記載を、 「請求項1、3〜6のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」 に訂正する(請求項7の記載を引用する請求項8〜14も同様に訂正する。)。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項8における、 「請求項1〜7のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」 との記載を、 「請求項1、3〜7のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」 に訂正する(請求項8の記載を引用する請求項9〜14も同様に訂正する。)。 (9)訂正事項9 特許請求の範囲の請求項9における、 「請求項1〜8のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」 との記載を、 「請求項1、3〜8のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」 に訂正する(請求項9の記載を引用する請求項10〜14も同様に訂正する。)。 (10)訂正事項10 特許請求の範囲の請求項10における、 「請求項1〜9のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」 との記載を、 「請求項1、3〜9のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」 に訂正する(請求項10の記載を引用する請求項11〜14も同様に訂正する。)。 (11)訂正事項11 特許請求の範囲の請求項11における、 「請求項1〜10のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」 との記載を、 「請求項1、3〜10のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」 に訂正する(請求項11の記載を引用する請求項12〜13も同様に訂正する。)。 (12)訂正事項12 特許請求の範囲の請求項12における、 「請求項1〜11のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」 との記載を、 「請求項1、3〜11のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」 に訂正する(請求項12の記載を引用する請求項13も同様に訂正する。)。 (13)訂正事項13 特許請求の範囲の請求項13における、 「請求項1〜12のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」 との記載を、 「請求項1、3〜12のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」 に訂正する。 (14)訂正事項14 特許請求の範囲の請求項14における、 「請求項1〜10のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」 との記載を、 「請求項1、3〜10のうちいずれか一つに記載の溶接方法。」 に訂正する。 <請求項15〜19について> (15)訂正事項15 特許請求の範囲の請求項15における、 「レーザ発振器と、 金属部材の第一面上に第一方向に重ねられた複数の金属箔に対して、前記金属部材の反対側から、前記レーザ発振器からのレーザ光を照射する光学ヘッドと、 を備え、金属部材と複数の金属箔とを溶接する溶接装置であって、 前記レーザ光は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光と、500[nm]以下の波長の第二レーザ光と、を含み、 前記光学ヘッドは、前記レーザ光を、前記複数の金属箔のうち前記第一方向において前記金属部材から最も離れた金属箔の前記金属部材とは反対側の第二面上に照射する、溶接装置。」 との記載を、 「レーザ発振器と、 金属部材の第一面上に第一方向に重ねられた複数の金属箔に対して、前記金属部材の反対側から、前記レーザ発振器からのレーザ光を照射する光学ヘッドと、 を備え、前記複数の金属箔と前記金属部材とにわたる溶接金属を形成することにより前記金属部材と前記複数の金属箔とを溶接する溶接装置であって、 前記金属部材および前記複数の金属箔のそれぞれは、銅系金属材料、アルミニウム系金属材料、ニッケル系金属材料、鉄系金属材料、およびチタン系金属材料のうちのいずれか一つで作られており、 前記レーザ光は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光と、500[nm]以下の波長の第二レーザ光と、を含み、 前記光学ヘッドは、前記レーザ光を、前記複数の金属箔のうち前記第一方向において前記金属部材から最も離れた金属箔の前記金属部材とは反対側の第二面上に照射するとともに前記第二面上で掃引し、 前記第二面上で、前記第一レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第一強度領域の全域が、前記第二レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第二強度領域と重なり、前記第二強度領域は、前記第一強度領域と重ならない、当該第一強度領域に対して掃引方向の前方に位置する領域と後方に位置する領域とを有し、 前記第二レーザ光によって前記複数の金属箔の前記第二面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより前記複数の金属箔内に留まった前記溶接金属の第二部位を形成するとともに、前記第一レーザ光によってキーホール型溶融を生じさせることにより前記第二部位に対して前記第二面とは反対側に隣接した位置から前記金属部材内まで延びる前記溶接金属の第一部位を形成する、溶接装置。」 に訂正する(請求項15の記載を引用する請求項16〜19も同様に訂正する。)。 2 一群の請求項について 本件訂正前の請求項1〜14については、請求項2〜14がそれぞれ請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。 また、本件訂正前の請求項15〜19については、請求項16〜19がそれぞれ請求項15の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあって、訂正事項15によって記載が訂正される請求項15に連動して訂正されるものである。 したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である請求項〔1〜14〕、〔15〜19〕について請求をするものである。 3 独立特許要件について 本件特許異議の申立ては、全ての請求項を対象としているので、訂正事項1〜15に関して、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 4 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について <一群の請求項〔1〜14〕について> (1)訂正事項1 ア 訂正の目的について (ア)訂正事項1のうち、「レーザ光を照射して前記複数の金属箔と前記金属部材とにわたる溶接金属を形成することにより、前記金属部材と前記複数の金属箔とを溶接する」と訂正する点は、金属部材と複数の金属箔とを溶接することが、レーザ光を照射することで「複数の金属箔と金属部材とにわたる溶接金属を形成」することによりなされることを具体的に限定するものである。 (イ)訂正事項1のうち、「前記金属部材および前記複数の金属箔のそれぞれは、銅系金属材料、アルミニウム系金属材料、ニッケル系金属材料、鉄系金属材料、およびチタン系金属材料のうちのいずれか一つで作られており、」と訂正する点は、溶接対象である金属部材および複数の金属箔のそれぞれの材料を具体的に限定するものである。 (ウ)訂正事項1のうち、「前記レーザ光を、前記複数の金属箔の・・・第二面上に照射するとともに前記第二面上で掃引し、」と訂正する点は、金属部材と複数の金属箔とを溶接するために金属箔の第二面上に照射するレーザ光が、その第二面上で掃引されることを具体的に限定するものである。 (エ)訂正事項1のうち、「前記第二面上で、前記第一レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第一強度領域の全域が、前記第二レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第二強度領域と重なり、前記第二強度領域は、前記第一強度領域と重ならない、当該第一強度領域に対して掃引方向の前方に位置する領域と後方に位置する領域とを有し、」と訂正する点は、金属箔の第二面上に照射するレーザ光の、第一レーザ光の照射領域と第2レーザ光の照射領域との位置関係を具体的に限定するものである。 (オ)訂正事項1のうち、「前記第二レーザ光によって前記複数の金属箔の前記第二面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより前記複数の金属箔内に留まった前記溶接金属の第二部位を形成するとともに、前記第一レーザ光によってキーホール型溶融を生じさせることにより前記第二部位に対して前記第二面とは反対側に隣接した位置から前記金属部材内まで延びる前記溶接金属の第一部位を形成する、」と訂正する点は、金属箔の第二面上に照射するレーザ光の、第一レーザ光及び第2レーザ光のそれぞれにより、金属部材と複数の金属箔に形成される溶融金属の形成態様を具体的に限定するものである。 (カ)上記(ア)〜(オ)のとおり、訂正事項1は、訂正前の請求項1において特定されていた事項を具体的に限定するように訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 イ 新規事項の有無について (ア)訂正事項1のうち、「レーザ光を照射して前記複数の金属箔と前記金属部材とにわたる溶接金属を形成することにより、前記金属部材と前記複数の金属箔とを溶接する」と訂正する点は、本件明細書の段落【0050】に「溶接部14は、溶接金属14aを含んでいる。溶接金属14aは、表面Waから、金属部材11に向けて延びている。溶接金属14aは、第一部位14a1と、第二部位14a2とを有している。第一部位14a1は、主として第一レーザ光の照射によって形成され、第二部位14a2は、主として第二レーザ光の照射によって形成される。図2の例では、第二部位14a2は、表面WaからZ方向の反対方向に延びている。第二部位14a2は、第一部位14a1に対してZ方向に隣接している。すなわち、第一部位14a1は、第二部位14a2に対してZ方向の反対方向に隣接している。第二部位14a2は、少なくとも複数の金属箔12内に形成されている。第一部位14a1は、複数の金属箔12と金属部材11とに渡って延びている。」(下線は当審にて付した。以下同様。)と記載されるように、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものである。 (イ)訂正事項1のうち、「前記金属部材および前記複数の金属箔のそれぞれは、銅系金属材料、アルミニウム系金属材料、ニッケル系金属材料、鉄系金属材料、およびチタン系金属材料のうちのいずれか一つで作られており、」と訂正する点は、本件明細書の段落【0057】に「加工対象Wとしての金属部材11および金属箔12は、それぞれ、導電性を有した金属材料で作られ得る。金属材料は、例えば、銅系金属材料や、アルミニウム系金属材料、ニッケル系金属材料、鉄系金属材料、チタン系金属材料などであり、具体的には、銅や、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、錫、ニッケル、ニッケル合金、鉄、ステンレス、チタン、チタン合金等である。金属部材11および金属箔12は、同じ材料で作られてもよいし、異なる材料で作られてもよい。」と記載されるように、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。 (ウ)訂正事項1のうち、「前記レーザ光を、前記複数の金属箔の・・・第二面上に照射するとともに前記第二面上で掃引し、」と訂正する点は、本件明細書の段落【0049】に「このようなレーザ光Lの照射により、溶接部14は、表面Waから、Z方向の反対方向に向けて延びることになる。Z方向の反対方向は、溶接部14の深さ方向とも称されうる。また、レーザ光Lが表面Wa上でX方向(掃引方向SD)に掃引されることにより、溶接部14は、図2と略同様の断面形状で、X方向にも延びることになる。X方向は、第二方向の一例である。溶接部14の長手方向や延び方向とも称されうる。また、Y方向は、溶接部14の幅方向とも称されうる。」と記載されるように、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。 (エ)訂正事項1のうち、「前記第二面上で、前記第一レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第一強度領域の全域が、前記第二レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第二強度領域と重なり、前記第二強度領域は、前記第一強度領域と重ならない、当該第一強度領域に対して掃引方向の前方に位置する領域と後方に位置する領域とを有し、」と訂正する点は、本件明細書の段落【0054】に「図4は、表面Wa上に照射されたレーザ光Lのビーム(スポット)を示す模式図である。ビームB1およびビームB2のそれぞれは、そのビームの光軸方向と直交する断面の径方向において、たとえばガウシアン形状のパワー分布を有する。ただし、ビームB1およびビームB2のパワー分布はガウシアン形状に限定されない。また、図4のように各ビームB1,B2を円で表している各図において、当該ビームB1,B2を表す円の直径が、各ビームB1,B2のビーム径である。各ビームB1,B2のビーム径は、そのビームのピークを含み、ピーク強度の1/e2以上の強度の領域の径として定義する。」と記載され、段落【0055】に「図4に示されるように、本実施形態では、一例として、レーザ光Lのビームは、表面Wa上において、第一レーザ光のビームB1と第二レーザ光のビームB2とが重なり、ビームB2がビームB1よりも大きく(広く)、かつ、ビームB2の外縁B2aがビームB1の外縁B1aを取り囲むよう、形成されている。この場合、ビームB2のスポット径D2は、ビームB1のスポット径D1よりも大きい。表面Wa上において、ビームB1は、第一スポットの一例であり、ビームB2は、第二スポットの一例である。」と記載され、段落【0056】に「また、本実施形態では、図4に示されるように、表面Wa上において、レーザ光Lのビーム(スポット)は、中心点Cに対する点対称形状を有しているため、任意の掃引方向SDについて、スポットの形状は同じになる。」と記載され、さらに、図4として次の図: 「 ![]() 」が示されていることから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。 (オ)訂正事項1のうち、「前記第二レーザ光によって前記複数の金属箔の前記第二面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより前記複数の金属箔内に留まった前記溶接金属の第二部位を形成するとともに、前記第一レーザ光によってキーホール型溶融を生じさせることにより前記第二部位に対して前記第二面とは反対側に隣接した位置から前記金属部材内まで延びる前記溶接金属の第一部位を形成する、」と訂正する点は、本件明細書の段落【0050】に「溶接部14は、溶接金属14aを含んでいる。溶接金属14aは、表面Waから、金属部材11に向けて延びている。溶接金属14aは、第一部位14a1と、第二部位14a2とを有している。第一部位14a1は、主として第一レーザ光の照射によって形成され、第二部位14a2は、主として第二レーザ光の照射によって形成される。図2の例では、第二部位14a2は、表面WaからZ方向の反対方向に延びている。第二部位14a2は、第一部位14a1に対してZ方向に隣接している。すなわち、第一部位14a1は、第二部位14a2に対してZ方向の反対方向に隣接している。第二部位14a2は、少なくとも複数の金属箔12内に形成されている。第一部位14a1は、複数の金属箔12と金属部材11とに渡って延びている。」と記載され、段落【0063】に「したがって、被溶接部位には、まずは、領域B2fにおける吸収率が高い第二レーザ光の照射により、熱伝導型の溶融領域が生じる。その後、被溶接部位には、第一レーザ光の照射によって、より深いキーホール型の溶融領域が生じる。この場合、被溶接部位には、予め熱伝導型の溶融領域が形成されているため、当該熱伝導型の溶融領域が形成されない場合に比べて、より低いパワーの第一レーザ光によって所要の深さの溶融領域を形成することができる。さらにその後、被溶接部位には、領域B2bにおける吸収率が高い第二レーザ光の照射により、溶融状態が変化する。」と記載され、さらに、図2として次の図: 「 ![]() 」が示されていることから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。 (カ)上記(ア)〜(オ)のとおり、訂正事項1は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について 訂正事項1は、上記アのとおり、本件訂正前の請求項1において特定されていた事項を具体的に限定するように訂正するものであるから、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 (2)訂正事項2 ア 訂正の目的について 訂正事項2は、請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について 訂正事項2は、請求項を削除するものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。 (3)訂正事項3〜14 ア 訂正の目的について 訂正事項3〜14は、訂正事項2による請求項2の削除に伴い、請求項3〜14における引用請求項から請求項2を除いて記載を整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。 イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について 訂正事項3〜14は、訂正事項2による請求項2の削除に伴い、請求項3〜14における引用請求項から請求項2を単に除くものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項3〜14は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。 (4)訂正事項15 ア 訂正の目的について 訂正事項15における、溶接装置に係る請求項15についての訂正は、訂正事項1における、溶接方法に係る請求項1についての訂正と、実質的に同様の事項で限定して訂正するものであるから、上記(1)アと同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について 訂正事項15における、溶接装置に係る請求項15についての訂正は、上記アのとおり、溶接方法に係る請求項1を訂正する訂正事項1と実質的に同様の事項にて訂正するものであるから、訂正事項15は、上記(1)イ及びウで検討した訂正事項1と同様に、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。 5 小括 上記4(1)〜(4)のとおり、訂正事項1〜15に係る本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 よって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜14〕、〔15〜19〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり本件訂正は認められることから、本件特許の請求項1〜19に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明19」という。なお、請求項2は削除されている。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜19に記載された、以下の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 金属部材の第一面上に第一方向に重ねられた複数の金属箔に対して、前記金属部材の反対側からレーザ光を照射して前記複数の金属箔と前記金属部材とにわたる溶接金属を形成することにより、前記金属部材と前記複数の金属箔とを溶接する溶接方法であって、 前記金属部材および前記複数の金属箔のそれぞれは、銅系金属材料、アルミニウム系金属材料、ニッケル系金属材料、鉄系金属材料、およびチタン系金属材料のうちのいずれか一つで作られており、 前記レーザ光は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光と、550[nm]以下の波長の第二レーザ光と、を含み、 前記レーザ光を、前記複数の金属箔のうち前記第一方向において前記金属部材から最も離れた金属箔の前記金属部材とは反対側の第二面上に照射するとともに前記第二面上で掃引し、 前記第二面上で、前記第一レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第一強度領域の全域が、前記第二レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第二強度領域と重なり、前記第二強度領域は、前記第一強度領域と重ならない、当該第一強度領域に対して掃引方向の前方に位置する領域と後方に位置する領域とを有し、 前記第二レーザ光によって前記複数の金属箔の前記第二面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより前記複数の金属箔内に留まった前記溶接金属の第二部位を形成するとともに、前記第一レーザ光によってキーホール型溶融を生じさせることにより前記第二部位に対して前記第二面とは反対側に隣接した位置から前記金属部材内まで延びる前記溶接金属の第一部位を形成する、溶接方法。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 前記金属部材の前記第一方向の厚さが0.05[mm]以上2.0[mm]以下であり、かつ前記複数の金属箔の層の厚さが0.05[mm]以上2.0[mm]以下である、請求項1に記載の溶接方法。 【請求項4】 前記レーザ光を、ウォブリング、ウィービング、または出力変調を行いながら前記第二面に照射する、請求項1または3に記載の溶接方法。 【請求項5】 前記第二面上で、前記レーザ光を複数回掃引する、請求項1、3、4のうちいずれか一つに記載の溶接方法。 【請求項6】 前記第二面上で、前記レーザ光を掃引し、前記第二面上での掃引の途中で前記第二面上での掃引速度を変更する、請求項1、3〜5のうちいずれか一つに記載の溶接方法。 【請求項7】 前記第二面上で、前記レーザ光を掃引し、前記第二面上での掃引の途中で前記レーザ光のパワーを変更する、請求項1、3〜6のうちいずれか一つに記載の溶接方法。 【請求項8】 前記金属部材は、めっき付き金属板を含む、請求項1、3〜7のうちいずれか一つに記載の溶接方法。 【請求項9】 前記第二面上において、前記第二レーザ光によって前記第二面上に形成される第二スポットは、前記第一レーザ光によって前記第二面上に形成される第一スポットより広い、請求項1、3〜8のうちいずれか一つに記載の溶接方法。 【請求項10】 前記レーザ光は、前記第二面の法線方向が前記第一方向と略平行な状態で、前記第二面上に照射される、請求項1、3〜9のうちいずれか一つに記載の溶接方法。 【請求項11】 前記第二面上において、前記レーザ光によって前記第二面上に形成されるスポットの形状は、当該スポットの中心に対する点対称形状を有する、請求項1、3〜10のうちいずれか一つに記載の溶接方法。 【請求項12】 前記第一レーザ光と前記第二レーザ光とが同軸で照射される、請求項1、3〜11のうちいずれか一つに記載の溶接方法。 【請求項13】 前記第二面上において、前記第一レーザ光によって前記第二面上に形成される第一スポットの中心と、前記第二レーザ光によって前記第二面上に形成される第二スポットの中心とが略一致する、請求項1、3〜12のうちいずれか一つに記載の溶接方法。 【請求項14】 前記第二面上において、前記第一レーザ光によって前記第二面上に形成される第一スポットと、前記第二レーザ光によって前記第二面上に形成される第二スポットとが、互いにずれている、請求項1、3〜10のうちいずれか一つに記載の溶接方法。 【請求項15】 レーザ発振器と、 金属部材の第一面上に第一方向に重ねられた複数の金属箔に対して、前記金属部材の反対側から、前記レーザ発振器からのレーザ光を照射する光学ヘッドと、 を備え、前記複数の金属箔と前記金属部材とにわたる溶接金属を形成することにより前記金属部材と前記複数の金属箔とを溶接する溶接装置であって、 前記金属部材および前記複数の金属箔のそれぞれは、銅系金属材料、アルミニウム系金属材料、ニッケル系金属材料、鉄系金属材料、およびチタン系金属材料のうちのいずれか一つで作られており、 前記レーザ光は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光と、500[nm]以下の波長の第二レーザ光と、を含み、 前記光学ヘッドは、前記レーザ光を、前記複数の金属箔のうち前記第一方向において前記金属部材から最も離れた金属箔の前記金属部材とは反対側の第二面上に照射するとともに前記第二面上で掃引し、 前記第二面上で、前記第一レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第一強度領域の全域が、前記第二レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第二強度領域と重なり、前記第二強度領域は、前記第一強度領域と重ならない、当該第一強度領域に対して掃引方向の前方に位置する領域と後方に位置する領域とを有し、 前記第二レーザ光によって前記複数の金属箔の前記第二面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより前記複数の金属箔内に留まった前記溶接金属の第二部位を形成するとともに、前記第一レーザ光によってキーホール型溶融を生じさせることにより前記第二部位に対して前記第二面とは反対側に隣接した位置から前記金属部材内まで延びる前記溶接金属の第一部位を形成する、溶接装置。 【請求項16】 前記レーザ光を複数のビームに分割するビームシェイパを備えた、請求項15に記載の溶接装置。 【請求項17】 前記レーザ光が前記第二面上で前記第一方向と交差した第二方向に沿う掃引方向に移動するよう、前記レーザ光の出射方向を変化させるガルバノスキャナを備えた、請求項15または16に記載の溶接装置。 【請求項18】 前記光学ヘッドは、前記レーザ光を、ウォブリング、ウィービング、または出力変調を行いながら前記第二面に照射する、請求項15〜17のうちいずれか一つに記載の溶接装置。 【請求項19】 前記光学ヘッドは、前記第一レーザ光と前記第二レーザ光とを同軸で照射する、請求項15〜18のうちいずれか一つに記載の溶接装置。」 第4 申立人が主張する申立ての理由の概要 1 申立書における申立ての理由について 申立人による申立ての理由は、以下のとおり整理することができる。 <進歩性(特許法第29条第2項、同法第113条第2号)について> (1)申立ての理由1:請求項1〜19 甲1に記載された発明を主引用発明とした、進歩性欠如(申立書第12〜20、48〜61ページ) (2)申立ての理由2:請求項1〜19 甲2に記載された発明を主引用発明とした、進歩性欠如(申立書第21〜30、61〜72ページ) 2 証拠方法 申立人による証拠方法は、書証として提出された、申立書に添付した甲第1号証〜甲第11号証と、申立人意見書に添付した甲第12号証である。 (1)甲第1号証:特開2015−217422号公報 (2)甲第2号証:国際公開第2018/159857号 (3)甲第3号証:武田 晋,「高出力ダイレクト半導体レーザ発振器の動向と適用事例」,レーザ加工学会誌,2019.10,Vol.26,No.3,p.13〜19 (4)甲第4号証:特開2019−67570号公報 (5)甲第5号証:特開2020−17483号公報 (6)甲第6号証:特開2020−4643号公報 (7)甲第7号証:特開2018−187660号公報 (8)甲第8号証:特開2011−212711号公報 (9)甲第9号証:特開2019−5769号公報 (10)甲第10号証:特開平10−180469号公報 (11)甲第11号証:国際公開第2010/131298号 (12)甲第12号証:Markus Ruetering, “Hybrid Solution Moves Boundaries of Copper Welding”, Photonics Views, 米国, John Wiley & Sons, Inc., 2019.10.9, Vol.16, Issue 5, p.46-50(なお、uのウムラウトは「ue」と代替表記した。) (「甲第1号証」〜「甲第12号証」を、以下それぞれ「甲1」等という。) 第5 当審より通知した取消理由の概要 取消理由通知における、本件訂正前の請求項1〜19に係る特許に対する取消理由の要旨は、以下のとおりである。 <進歩性について(主引用発明:甲2に記載された発明)> 本件特許の請求項1〜19に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲2に記載された発明、並びに、甲1及び甲4〜甲11に記載された技術的事項に基づいて(以下の1〜5を参照)、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜19に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 1 請求項1〜2、15〜17 引用した文献:甲2、甲4〜甲6、甲11 2 請求項3 引用した文献:甲1〜甲2、甲4〜甲6、甲11 3 請求項4 引用した文献:甲1〜甲2、甲4〜甲8、甲11 4 請求項5 引用した文献:甲1〜甲2、甲4〜甲9、甲11 5 請求項6〜14 引用した文献:甲1〜甲2、甲4〜甲11 6 請求項18〜19 引用した文献:甲2、甲4〜甲8、甲11 第6 取消理由通知における取消理由について 本件訂正後の本件発明1、3〜19について、取消理由通知にて示した取消理由(甲2に記載された事項から主引用発明を認定した進歩性欠如、上記第5)を解消しているかについて、以下判断する。なお、申立人意見書において、実質的に新たな証拠方法として甲12が提示されているが、本件訂正により追加された事項についての証拠方法であって、本件訂正の内容に付随して提出されたものであるため、当審の判断は、甲12も踏まえて行う(審判便覧67−05.4の1.(2))。 1 本件発明1について (1)本件発明1の認定 本件発明1は、上記第3の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。 (2)甲2に記載された発明の認定 ア 甲2には、以下の事項が記載されている。 (ア)請求の範囲(請求項1〜3、8、11〜14、16) 「[請求項1] 加工対象を、レーザ装置からのレーザ光の照射される領域に配置し、 前記レーザ装置からの前記レーザ光を前記加工対象に向かって照射しながら前記レーザ光と前記加工対象とを相対的に移動させ、前記レーザ光を前記加工対象上で掃引しつつ、照射された部分の前記加工対象を溶融して溶接を行う、 工程を含み、 前記レーザ光は主ビームと、掃引方向前方に少なくともその一部がある副ビームによって構成され、主ビームのパワー密度は副ビームのパワー密度以上である、 加工対象をレーザによって溶接する方法。 [請求項2] 前記主ビームのパワー密度は、少なくともキーホールを発生させうる強度である、請求項1に記載の溶接方法。 [請求項3] 前記レーザ光は、前記主ビームの掃引方向後方に、前記主ビームよりもパワー密度が低い副ビームをさらに有する、請求項1に記載の溶接方法。」 「[請求項8] 前記主ビームおよび前記副ビームのうち少なくとも前記副ビームを形成するレーザ光の波長は、前記加工対象の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長である、請求項1に記載の溶接方法。」 「[請求項11] 前記主ビームおよび前記副ビームは、異なる発振器から出射されたレーザ光である、請求項1から請求項9の何れか1項に記載の溶接方法。 [請求項12] 前記主ビームおよび前記副ビームは、前記発振器と前記加工対象との間に配置されたビーシェイパ(当審注:「ビームシェイパ」の誤記と認める。)によって形成される、請求項1から請求項11の何れか1項に記載の溶接方法。 [請求項13] 前記ビームシェイパは回折光学素子である、ことを特徴とする請求項12に記載の溶接方法。 [請求項14] 前記加工対象は溶接されるべき少なくとも2つの部材であり、前記加工対象をレーザ光の照射される領域に配置する前記工程は、前記少なくとも2つの部材を重ねる、または接触させる、または隣接させるように配置する工程である、請求項1から請求項13の何れか1項に記載の溶接方法。」 「[請求項16] レーザ発振器と、 レーザ発振器から発振された光を受け取ってレーザ光を生成し、前記生成されたレーザ光を加工対象に向かって照射して照射された部分の前記加工対象を溶融して溶接を行う光学ヘッドと、 によって構成され、 前記光学ヘッドは前記レーザ光と前記加工対象とが相対的に移動可能な様に構成され、前記レーザ光を前記加工対象上で掃引しつつ、前記溶融を行なって溶接を行い、 前記レーザ光は主ビームと、掃引方向前方に少なくともその一部がある副ビームによって構成され、主ビームのパワー密度は副ビームのパワー密度以上である、 加工対象をレーザによって溶接するレーザ溶接装置。」 (イ)明細書 A 技術分野 「[0001] 本発明は、溶接方法および溶接装置に関する。」 B 背景技術 「[0002] 鉄や銅などの金属材料を溶接する手法の一つとして、レーザ溶接が知られている。レーザ溶接とは、レーザ光を加工対象の溶接部分に照射し、レーザ光のエネルギーで溶接部分を溶融させる溶接方法である。レーザ光が照射された溶接部分には、溶融池と呼ばれる溶融した金属材料の液溜りが形成され、その後、溶融池の金属材料が固まることによって溶接が行われる。 [0003] また、レーザ光を加工対象に照射する際には、その目的に応じ、レーザ光のプロファイルが成型されることもある。例えば、レーザ光を加工対象の切断に用いる場合に、レーザ光のプロファイルを成型する技術が知られている(例えば特許文献1参照)。 [0004] 従前は、レーザ光発生装置の出力が低かったので、反射率の低い(吸収率の高い)金属材料に対してのレーザ溶接が実用されてきたが、近時ではレーザ光発生装置の集光性も向上している傾向にあるので、銅やアルミ等の反射率の高い金属材料に対するレーザ溶接も実用化されつつある(例えば特許文献2〜4参照)。」 C 先行技術文献 特許文献 「[0005] ・・・ 特許文献4:国際公開第2010/131298号」 D 発明を実施するための形態(第1実施形態) 「[0047](第1実施形態) 図1は、第1実施形態に係る溶接装置の概略構成を示す図である。図1に示すように、第1実施形態に係る溶接装置100は、加工対象Wにレーザ光Lを照射して加工対象Wを溶融させる装置の構成の一例である。図1に示すように、溶接装置100は、レーザ光を発振する発振器110と、レーザ光を加工対象Wに照射する光学ヘッド120と、発振器110で発振されたレーザ光を光学ヘッド120へ導く光ファイバ130とを備えている。加工対象Wは、溶接されるべき少なくとも2つの部材である。 [0048] 発振器110は、例えば数kWの出力のマルチモードのレーザ光を発振し得るように構成されている。例えば、発振器110は、内部に複数の半導体レーザ素子を備え、当該複数の半導体レーザ素子の合計の出力として数kWの出力のマルチモードのレーザ光を発振し得るように構成することとしてもよいし、ファイバレーザ、YAGレーザ、ディスクレーザ等様々なレーザを用いてもよい。 [0049] 光学ヘッド120は、発振器110から導かれたレーザ光Lを、加工対象Wを溶融し得る強度のパワー密度に集光して、加工対象Wに照射するための光学装置である。そのために、光学ヘッド120は、内部にコリメートレンズ121と集光レンズ122とを備えている。コリメートレンズ121は、光ファイバ130によって導かれたレーザ光を一旦平行光化するための光学系であり、集光レンズ122は、平行光化されたレーザ光を加工対象Wに集光させるための光学系である。 [0050] 光学ヘッド120は、加工対象Wにおけるレーザ光Lの照射位置を移動(掃引)させるために、加工対象Wとの相対位置を変更可能に設けられている。加工対象Wとの相対位置を変更する方法としては、光学ヘッド120自身を移動することや、加工対象Wを移動することなどが含まれる。すなわち、光学ヘッド120はレーザ光Lを、固定されている加工対象Wに対して掃引可能に構成されてもよい、または、光学ヘッド120からのレーザ光Lの照射位置は固定され、加工対象Wが、固定されたレーザ光Lに対して移動可能に保持されてもよい。加工対象Wをレーザ光Lの照射される領域に配置する工程では、溶接されるべき少なくとも2つの部材を重ねる、または接触させるまたは、隣接させるように配置する。 [0051] 第1実施形態に係る光学ヘッド120は、コリメートレンズ121と集光レンズ122との間にビームシェイパとしての回折光学素子123を備えている。ここでいう回折光学素子とは、図15に示す概念の様に周期の異なる複数の回折格子1501を1体にした光学素子1502を指している。これを通過したレーザ光は各回折格子の影響を受けた方向に曲げられ、重なり合い、任意の形にレーザ光を形成することができる。本実施形態において、回折光学素子123は、加工対象W上におけるレーザ光Lのパワー密度の移動方向に関するプロファイルが、パワー密度が高い主ビームよりも移動方向前方に、主ビームよりもパワー密度が低い副ビームを有するように、レーザ光Lを成型するためのものである。なお、回折光学素子123は、回転可能に設ける構成とすることができる。また、交換可能に設ける構成とすることもできる。 [0052] ここで、主ビームまたは副ビームのパワー密度は、ピークを含み、ピーク強度の1/e2の以上の強度の領域でのパワー密度である。また、主ビームまたは副ビームのビーム径は、ピークを含み、ピーク強度の1/e2の以上の強度の領域の径である。円形でないビームの場合は、本明細書に於いては移動方向に対し垂直方向の、ピーク強度の1/e2以上の強度となる領域の長さをビーム径と定義する。副ビームのビーム径は、主ビームのビーム径と略等しい又は大きくてもよい。 [0053] 加工対象W上におけるレーザ光Lのパワー密度の移動方向に関するプロファイルが、パワー密度が高い主ビームよりも移動方向前方に、主ビームよりもパワー密度が低い副ビームを有することの作用は、以下の通りである。図2A、2Bは、レーザ光が加工対象を溶融する状況の比較を示す図である。 [0054] 図2Aに示すように、従来のレーザ溶接では、レーザ光が1つのビームBを有しているので、レーザ光が照射された位置から移動方向(矢印v)の反対方向に、加工対象Wが溶融した溶融池WPが溶融領域として形成される。一方、図2Bに示すように、第1実施形態に係る溶接装置およびこれを用いた溶接方法では、加工対象W上におけるレーザ光のパワー密度の移動方向に関するプロファイルが、主ビームB1と副ビームB2とを有している。主ビームB1のパワー密度は、例えば、少なくともキーホールを発生させうる強度である。なお、キーホールについては後に詳述する。そして、パワー密度が高い主ビームB1よりも移動方向(矢印v)の前方に、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2を有する。また、副ビームB2のパワー密度は、主ビームB1の存在下または単独にて、加工対象Wを溶融し得る強度である。したがって、主ビームB1が照射される位置よりも前方に、主ビームB1が溶融する深さよりも浅い領域がある溶融池WP1が溶融領域として形成されることになる。これを便宜上、浅瀬領域Rと呼ぶことにする。 [0055] 図2Bに示すように、主ビームB1と副ビームB2のレーザ光のビームの溶融強度領域は、重なってもよいが、必ずしも重なる必要はなく、溶融池が重なればよい。副ビームB2で形成された溶融池が固化する前に、その溶融池に主ビームB1が形成する溶融強度領域が到達できればよい。上記のように、主ビームB1および副ビームB2のパワー密度は加工対象Wを溶融し得る強度であり、溶融強度領域とは、主ビームB1または副ビームB2の周囲における加工対象Wを溶融し得るパワー密度のレーザ光のビームの範囲のことをいう。 [0056] 第1実施形態に係る溶接装置およびこれを用いた溶接方法では、主ビームB1が照射される位置よりも前方に浅瀬領域Rが存在することで、主ビームB1の照射位置の近傍で溶融池WP1が安定化する。先述したように、スパッタは、溶融金属が飛散したものであるので、主ビームB1の照射位置の近傍で溶融池WP1が安定化することは、スパッタの発生を抑制することにつながる。実際、後述する実験でも、このスパッタの発生を抑制する効果が確かめられた。 [0057] 第1実施形態に係る溶接方法は、加工対象Wを、レーザ装置である発振器110からのレーザ光Lの照射される領域に配置し、発振器110からのレーザ光Lを加工対象Wに向かって照射しながらレーザ光Lと加工対象Wとを相対的に移動させ、レーザ光Lを加工対象W上で掃引しつつ、照射された部分の加工対象Wを溶融して溶接を行う、工程を含む。このとき、レーザ光Lは、主ビームB1と、掃引方向前方に少なくともその一部がある副ビームB2によって構成され、主ビームB1のパワー密度は副ビームB2のパワー密度以上である。加工対象Wは溶接されるべき少なくとも2つの部材である。加工対象Wをレーザ光Lの照射される領域に配置する工程は、少なくとも2つの部材を重ねる、または接触させる、または隣接させるように配置する工程である。 [0058] なお、副ビームB2のパワー密度は、浅瀬領域Rが、許容されるポロシティ(空隙状、内部から表面まで穴の開いたピット形状、ブローホール等の溶接欠陥)の直径よりも深くなるようなパワー密度とすることが好ましい。これにより、ポロシティの原因の一つである、加工対象Wの表面に付着した不純物が、浅瀬領域Rを流れて主ビームB1が形成する溶融池WP1に流れ込むので、ポロシティが発生しにくくなる。なお、許容されるポロシティの直径は、例えば加工対象Wの使用用途に応じて定まる。一般的には200μm以下が許容され、100μmが好ましく、50μm以下がさらに好ましく、30μm以下がより好ましく、20μm以下がより一層好ましく、10μm以下がさらに一層好ましく、全く存在しない事が最も好ましい。 [0059] 次に、図3A〜3Fを参照しながら、加工対象上におけるレーザ光のパワー密度の移動方向に関するプロファイルが、パワー密度が高い主ビームよりも移動方向前方に、主ビームよりもパワー密度が低い副ビームを有するための、レーザ光の断面形状の例を説明する。図3A〜3Fに示すレーザ光の断面形状の例は、必須の構成ではないが、図3A〜3Fに例示されるレーザ光の断面形状が加工対象Wの表面に実現されるように、回折光学素子123を設計することで、本発明の実施に好適なレーザ光のプロファイルが実現される。なお、図3A〜3Fに例示されるレーザ光の断面形状は、全て紙面上方(図中矢印v)を移動方向としている。 ・・・ [0061] 図3Bは、パワー密度が高い主ビームB1よりも移動方向前方に、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2を有するのみならず、主ビームB1の移動方向後方にも、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2を有する例である。溶接加工は必ずしも前進のみではなく、後進も行うこともある。したがって、図3Bに示される例のように、主ビームB1の移動方向後方にも、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2を設ければ、光学ヘッドの向きを変えずとも本発明の効果を得ることができる。 ・・・ [0063] 図3Dは、パワー密度が高い主ビームB1よりも移動方向前方に、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2を有するのみならず、主ビームB1の移動方向の後方および横方向にも、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2を有する例である。つまり、図3Dに示される例は、図3Bおよび3Cに示される例の両方のメリットを併せ持つことになる。 [0064] 図3Eは、主ビームB1の周囲に、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2を分散して有する例である。図3A〜3Dに示される例は、副ビームB2が線状に構成されていたが、ある程度近い間隔で副ビームB2を配置すれば、必ずしも副ビームB2が連続している必要はない。ある程度近い間隔で副ビームB2を配置すれば、浅瀬領域Rが繋がるので、実効的な効果が得られるからである。図3Fは、主ビームB1の周囲に、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2をリング状に有する例である。図3Eとは逆に、副ビームB2を連続的に一周する形で設けることも可能である。 [0065] なお、主ビームB1と副ビームB2との間の距離d(たとえば図3Aに示す)は、主ビームB1のビーム径の外縁と、副ビームB2のビーム径の外縁との最短距離である。距離dは、副ビームB2で形成された溶融池が固化する前に、その溶融池に主ビームB1が形成する溶融領域が到達できればよいが、副ビームB2のビーム径の2倍未満が好ましく、1倍未満がより好ましく、0.5倍未満がさらに好ましい。 [0066] また、主ビームB1と副ビームB2とのパワー密度が等しくてもよい。」 E 発明を実施するための形態(第4実施形態) 「[0077](第4実施形態) 図6は、第4実施形態に係る溶接装置の概略構成を示す図である。図6に示すように、第4実施形態に係る溶接装置400は、加工対象Wにレーザ光L1,L2を照射して加工対象Wを溶融させる装置の構成の一例である。第4実施形態に係る溶接装置400は、第1実施形態に係る溶接装置と同様の作用原理によって溶接方法を実現するものである。したがって、以下では、溶接装置400の装置構成の説明のみを行う。 [0078] 図6に示すように、溶接装置400は、レーザ光を発振する複数の発振器411,412と、レーザ光を加工対象Wに照射する光学ヘッド420と、発振器411,412で発振されたレーザ光を光学ヘッド420へ導く光ファイバ431,432とを備えている。 [0079] 発振器411,412は、例えば数kWの出力のマルチモードのレーザ光を発振し得るように構成されている。例えば、発振器411,412は、それぞれの内部に複数の半導体レーザ素子を備え、当該複数の半導体レーザ素子の合計の出力として数kWの出力のマルチモードのレーザ光を発振し得るように構成することとしてもよいし、ファイバレーザ、YAGレーザ、ディスクレーザ等様々なレーザを用いてもよい。 ・・・ [0081] 第4実施形態に係る光学ヘッド420も、加工対象W上におけるレーザ光L1,L2のパワー密度の移動方向に関するプロファイルが、パワー密度が高い主ビームよりも移動方向前方に、主ビームよりもパワー密度が低い副ビームを有するように構成されている。すなわち、光学ヘッド420が加工対象Wに照射するレーザ光L1,L2のうち、レーザ光L1を主ビーム形成のために用い、レーザ光L2を副ビーム形成のために用いればよい。なお、図に示される例は、レーザ光L1,L2のみを用いているが、その数を適宜増やすことにより、図3に例示されるレーザ光の断面形状のような、本発明の実施に好適なレーザ光のプロファイルを実現するように構成され得る。」 F 発明を実施するための形態(すべての実施形態に関して) 「[0093] なお、本明細書のすべての実施形態に関して、主ビームの溶接形態は、キーホール型溶接であってもよいし、熱伝導型溶接であってもよい。ここでいうキーホール溶接とは、高いパワー密度を用い、加工対象Wが溶融した際に発生する金属蒸気の圧力により発生するくぼみや穴(キーホール)を利用した溶接方法である。一方、熱伝導型溶接とは、母材の表面でレーザ光が吸収されて発生した熱を利用して加工対象Wを溶融させる溶接方法である。」 G 発明を実施するための形態(レーザ光の断面形状の例) 「[0100] 図11、12は、レーザ光の断面形状の例を示す図であって、パワー密度が高い主ビームB1よりも移動方向前方に、主ビームB1よりもパワー密度が低いV字状の副ビームB2を有する例である。図11は主ビームB1と副ビームB2とが重なっている例であり、図12は主ビームB1と副ビームB2とが重なっていない例である。」 H 発明を実施するための形態(金属材料の反射率) 「[0101](金属材料の反射率) ここで、金属材料の反射率について説明する。図13に示すグラフは、代表的金属材料の反射率を光の波長に関して示したものである。図13に示すグラフは、横軸を波長とし、縦軸を反射率とするものであり、金属材料の例として、アルミニウム、銅、金、ニッケル、白金、銀、ステンレス鋼、チタン、およびスズを記載している。なお、図13に示すグラフは、NASA TECHNICAL NOTE (D−5353)に記載のデータをグラフ化したものである。 [0102] 図13に示すグラフから読みとれるように、ステンレス鋼などと比べると、銅およびアルミニウムなどは反射率が高い。特に、レーザ溶接において一般的に用いられる赤外レーザ光の波長領域ではその差は顕著である。例えば、1070nm付近では銅やアルミニウムの反射率が95%程度であることから、照射したレーザ光のエネルギーの5%程度しか加工対象に吸収されないことになる。これは、ステンレス鋼と比較すると、照射するエネルギーの効率が6分の1程度になってしまっていることを意味する。 [0103] 一方、銅やアルミニウムなどの反射率が高いといっても、全ての波長の光に対して反射率が高いわけではない。特に、銅における反射率の変化は顕著である。上述のように、1070nm付近での銅の反射率は95%程度であったものが、黄色の波長(例えば600nm)では、銅の反射率は75%程度となり、そこから急峻に減少し、紫外光の波長(例えば300nm)では、銅の反射率は20%程度となる。したがって、一般的な赤外レーザ光を用いるよりも、青や緑のレーザ光を用いたレーザ溶接の方がエネルギーの効率が高い。具体的には、300nmから600nmの間の波長のレーザ光を用いることが好ましい。 [0104] なお、上記波長の範囲は一例であり、対象材料の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長のレーザ光を用いてレーザ溶接を行えば、反射率の観点で、エネルギーの効率が高い溶接が行える。この場合の赤外領域とは、一般的なレーザ溶接に用いられる赤外レーザ光の波長である1070nmとすることが好ましい。 [0105] 以下で説明する本発明の実施形態に係る溶接方法および溶接装置は、上記特性を活用したものである。」 I 発明を実施するための形態(第7実施形態) 「[0111] 一方、図14Bに示すように、第11実施形態(当審注:「第7実施形態」の誤記と認める。[0113]についても同様。)に係る溶接装置およびこれを用いた溶接方法では、加工対象W上におけるレーザ光のパワー密度の掃引方向に関するプロファイルが、主ビームB1と副ビームB2とを有している。そして、パワー密度が高い主ビームB1よりも掃引方向(矢印v)の前方に、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2を有する。また、副ビームB2のパワー密度は、主ビームB1の存在下または単独にて、加工対象Wを溶融し得る強度である。したがって、主ビームB1が照射される位置よりも前方に、主ビームB1が溶融する深さよりも浅い溶融池が形成されることになる。これを便宜上、前方溶融池WPfと呼ぶことにする。 [0112] 図14Bに示すように、主ビームB1と副ビームB2のレーザ光のビームの溶融強度領域は、必ずしも重なる必要はなく、溶融池が重なればよい。つまり、副ビームB2で形成された溶融池が固化する前に、前方溶融池WPfに主ビームB1が形成する溶融強度領域が到達できればよい。上記のように、主ビームB1および副ビームB2のパワー密度は加工対象Wを溶融し得る強度であり、溶融強度領域とは、主ビームB1または副ビームB2の周囲における加工対象Wを溶融し得るパワー密度のレーザ光のビームの範囲のことをいう。 [0113] 第11実施形態に係る溶接装置およびこれを用いた溶接方法では、主ビームB1が照射される位置よりも前方に前方溶融池WPfが存在することで、主ビームB1の照射位置の近傍で溶融池WPの状態が安定化する。先述したように、スパッタは、溶融金属が飛散したものであるので、主ビームB1の照射位置の近傍で溶融池WPの状態が安定化することは、スパッタの発生を抑制することにつながる。 [0114] しかも、第7実施形態に係る溶接装置およびこれを用いた溶接方法では、主ビームB1および副ビームB2のうち少なくとも副ビームB2(本例では両方)を形成するレーザ光の波長は、加工対象の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長であるので、銅やアルミニウムなどの赤外波長における反射率が高い金属材料であっても、前方溶融池WPfを効率良く形成することができる。 [0115] 第7実施形態に係る溶接装置およびこれを用いた溶接方法では、主ビームB1におけるパワー密度よりも、副ビームB2におけるパワー密度が低いことが好ましい。より具体的には、副ビームB2におけるパワー密度は、1×107W/cm2以下であることが好ましい。副ビームB2の目的は、主ビームB1が照射される位置よりも前方に前方溶融池WPfを形成することであり、前方溶融池WPfの作用は、主ビームB1の照射位置の近傍で溶融池WPの状態が安定化することにある。前方溶融池WPfの深さは、溶融池WPを安定させる程度の浅いもので十分であり、しかも、先述のように、副ビームB2を形成するレーザ光を加工対象の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長とすることで加工対象に対する反射率が低減されるので、パワー密度が過度に高いことが要求されない。副ビームのパワー密度が過度に高いと、副ビーム自体がスパッタ発生の一因となってしまう。一方、主ビームの目的は加工対象Wを十分に溶融し、加工対象を確実に溶接することが求められている。これらを考慮すると、主ビームB1におけるパワー密度よりも、副ビームB2におけるパワー密度が低いことが好ましいことになる。」 J 発明を実施するための形態(第10実施形態) 「[0125](第10実施形態) 第10実施形態に係る溶接装置は、図6に示す第4実施形態に係る溶接装置400によって実現できる。 [0126] 第10実施形態では、レーザ発振器411とレーザ発振器412とは、異なるレーザ発振器であり、同一の波長のレーザ光を発振してもよいが、異なるレーザ光を発振するように構成してもよい。その場合、主ビームおよび副ビームのうち副ビームを形成するレーザ光L2の波長が300nmから600nmの間の波長となるように、レーザ発振器412を構成する。 [0127] 光学ヘッド420は、加工対象W上におけるレーザ光L1,L2のパワー密度の掃引方向に関するプロファイルが、主ビームよりも掃引方向前方に位置する副ビームを有するように構成されている。すなわち、光学ヘッド420が加工対象Wに照射するレーザ光L1,L2のうち、レーザ光L1を主ビーム形成のために用い、レーザ光L2を副ビーム形成のために用いればよい。なお、図に示される例は、レーザ光L1,L2のみを用いているが、その数を適宜増やすことにより、図3A〜3F、11、12に例示されるレーザ光の断面形状のような、本発明の実施に好適なレーザ光のプロファイルを実現するように構成され得る。 [0128] 第10実施形態に係る溶接装置およびこれを用いた溶接方法では、主ビームおよび副ビームのうち少なくとも副ビームを形成するレーザ光の波長は、加工対象の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長であるので、銅やアルミニウムなどの赤外波長における反射率が高い金属材料であっても、前方溶融池を効率良く形成することができる。一方、主ビームを形成するレーザ光L1の波長は、必ずしも加工対象の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長とする必要がないので、レーザ発振器411は、従来品と同様に、赤外波長の高出力レーザ発振器を用いることができる。つまり、本実施形態では、副ビームを形成するレーザ光の波長は、主ビームを形成するレーザ光の波長における加工対象の反射率よりも低い反射率を持つ波長となる。赤外波長における反射率が高い金属材料であっても、溶融状態では反射率が低くなるので、レーザ発振器411は、例えばファイバレーザ、YAGレーザ、ディスクレーザ等の赤外波長の高出力レーザ発振器を用いても十分に加工対象を溶融することができる。」 K 発明を実施するための形態(検証実験2) 「[0139](検証実験2) ここで、本発明の効果の検証実験2の結果について説明する。本検証実験2で用いられる装置構成は、第7実施形態に係る溶接装置の構成であり、溶接装置100と同じ構成である。・・・なお、共通の実験条件として、光学ヘッド120と加工対象Wとの掃引速度を毎分5mとし、シールドガスとして窒素ガスを用いている。なお、加工対象Wは厚み2mmのタフピッチ銅を採用している。 ・・・ [0141] 第2の実験条件では、レーザ発振器110として、発振波長450nmの半導体レーザ装置を用い、これを1kWの出力で使用する。使用する回折光学素子123は、図10に示されるような照射面形状のレーザ光が加工対象Wに照射されるように設計されたものである。出力の分配は、1kWの出力のうち300Wを半円状の副ビームにほぼ均等に分配している。このとき、主ビームの平均パワー密度は2.2×106W/cm2であり、副ビームの平均パワー密度は8.0×104W/cm2である。 [0142] 上記実験条件の下、検証実験を行ったところ、以下のような結果が得られた。 ・・・ [0144] 一方、第2の実験条件では、レーザ発振器の出力が1kWであったにも拘わらず、銅材は波長450nmにおける吸収率が高いので、所望の深さまで溶接をすることができ、しかも、掃引方向前方に配した300Wの半円状の副ビームク(当審注:「副ビーム」の誤記と認める。)によって前方溶融池を形成することも可能であった。結果、副ビームによって形成された前方溶融池の効果により、スパッタおよび溶接欠陥が顕著に少なくなり、20%程度またはそれ以下になることが高速度カメラ観察から確認された。」 (ウ)図面 「[図1] ![]() [図2B] ![]() [図3B] ![]() [図3D] ![]() [図3E] ![]() [図3F] ![]() [図6] ![]() [図11] ![]() [図13] ![]() [図14B] ![]() 」 イ 上記アから、甲2には以下の事項が記載されているといえる。 (ア)甲2の、請求項14、段落[0050]、[0057]には、「加工対象Wをレーザ光Lの照射される領域に配置する工程では、溶接されるべき少なくとも2つの部材を重ねる」旨が記載され、並びに、段落[0002]〜[0004]に記載された背景技術、段落[0047]〜[0066]、図1〜3に記載された第1実施形態、及び、段落[0125]〜[0128]、図6に記載された第10実施形態における段落[0128]の記載から、 甲2には、赤外領域のレーザ光の反射率の高い銅やアルミニウムなどを含む、金属材料である少なくとも2つの部材を重ねた加工対象Wに対して、レーザ光Lを照射して前記金属材料である少なくとも2つの部材を重ねた加工対象Wにわたる溶接金属を形成することにより、金属材料である少なくとも2つの部材を重ねた加工対象Wを溶接する溶接方法が記載されている、といえる。 また、金属材料である少なくとも2つの部材を重ねた加工対象Wは、銅やアルミニウムなどの金属材料である(段落[0128])ことがわかる。 (イ)甲2の、第10実施形態における段落[0126]及び[0128]の記載から、甲2に記載されたレーザ光Lは、赤外波長の高出力レーザ発振器411からのレーザ光L1と、レーザ発振器412からの300nmから600nmの間の波長であるレーザ光L2と、を含むことがわかる。また、甲2における、赤外波長のレーザ光L1の波長は、段落[0104]の記載から1070nmであるとわかり、また、300nmから600nmの間の波長であるレーザ光L2の波長として、段落[0141]、[0144]の記載から、450nmが例示されていることがわかる。してみると、甲2に記載のレーザ光Lは、1070nmの赤外波長のレーザ光L1と、450nmの波長のレーザ光L2と、を含むものである、といえる。 (ウ)甲2の、第1実施形態における段落[0050]の記載、第10実施形態における段落[0127]の記載から、甲2に記載された溶接方法は、加工対象Wにおけるレーザ光Lの照射位置を、加工対象Wのレーザ光Lが照射される面(以下「照射面」という。)上で掃引するものである、といえる。そして、段落[0127]の記載の記載から、レーザ光L1は主ビームB1を形成するために用いられ、レーザ光L2は副ビームB2を形成するために用いられ、少なくとも主ビームB1よりも掃引方向前方に副ビームB2が位置するように構成されるものであって、段落[0059]〜[0064]及び[0100]の記載から、加工対象Wの照射面上における主ビームB1及び副ビームB2のパワー密度の掃引方向に関するプロファイルが、図3A〜3F及び11に例示されるレーザ光の断面形状のような好適なものとして実現されることが理解できる。 (エ)甲2の、段落[0052]の記載から、主ビームB1または副ビームB2のビーム径は、ピークを含み、ピーク強度の1/e2以上の強度の領域の径で定義されることがわかる(以下、主ビームB1の、ピークを含み、ピーク強度の1/e2以上の強度の領域を「主ビームB1強度領域」と、副ビームB2の、ピークを含み、ピーク強度の1/e2以上の強度の領域を「副ビームB2強度領域」と、それぞれいう。)。そして、上記(ウ)から、主ビームB1強度領域と副ビームB2強度領域とは、段落[0100]の記載から、図11のように、少なくとも一部が重なってもよいことが理解され、副ビームB2強度領域は、図3B、3D〜3Fのように、主ビームB1強度領域と重ならない、主ビームB1強度領域に対して掃引方向の前方に位置する領域と後方に位置する領域とを有するように形成してもよいことが理解できる。 (オ)甲2の、段落[0093]の記載から、甲2に記載された溶接方法における溶接形態には、高いパワー密度を用い、加工対象Wが溶融した際に発生する金属蒸気の圧力により発生するくぼみや穴(キーホール)を利用した「キーホール型溶接」と、母材の表面でレーザ光が吸収されて発生した熱を利用して加工対象Wを溶融させる「熱伝導型溶接」とがあることが理解できる。 そして、段落[0054]の記載から、副ビームB2のパワー密度は、主ビームB1よりも低く、単独にて加工対象Wを溶融し得る強度であって、図2Bに示されるように、主ビームB1が照射される位置よりも前方に、主ビームB1が溶融する深さよりも浅い浅瀬領域Rを溶融領域として形成することを理解できる。また、段落[0115]の記載から、副ビームB2のパワー密度は、図14Bに示されるように、スパッタの発生することのない、前方溶融池WPfを形成する程度のものであり、段落[0126]、[0128]の記載から、甲2の第10実施形態では、副ビームB2を形成するレーザ光L2の波長が300nmから600nmの間の波長となるようにレーザ発振器412を構成し、加工対象の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長で、前方溶融池WPfを効率良く形成するものであることがわかる。してみると、甲2に記載された溶接方法では、レーザ光L2によって、加工対象Wの照射面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより、前方溶融池WPfとしての浅瀬領域Rを形成するといえる。 一方、段落[0054]の記載から、主ビームB1のパワー密度は、キーホールを発生させうる強度であることがわかり、また、段落[0128]の記載から、甲2の第10実施形態では、主ビームB1を形成するレーザ光L1は高出力レーザ発振器411を用いていることから、甲2に記載された溶接方法では、レーザ光L1によってキーホールを生じさせる「キーホール型溶接」により、加工対象Wを溶接するといえる。さらに、段落[0112]〜[0115]の記載から、図14Bに示されるように、副ビームB2で形成された前方溶融池WPfが固化する前に、前方溶融池WPfに主ビームB1が形成する溶融強度領域である主ビームB1強度領域が到達できるようにすることで、主ビームB1の照射位置の近傍で溶融池WP1の状態が安定化し、スパッタの発生が抑制された状態で、加工対象Wを十分に溶融し、加工対象Wを確実に溶接することがわかる。すなわち、レーザ光L1によって、少なくとも2つの部材を重ねた加工対象Wのうち、照射面から最も離れた部材とも確実に溶接がされるように、前方溶融池WPfとしての浅瀬領域Rに対して照射面とは反対側に隣接する位置から、照射面から最も離れた部材内まで延びるように、溶融池WP1が形成されるものと理解できる。 ウ 上記ア〜イからみて、甲2の、第10実施形態(当該実施形態は、第4実施形態及び第1実施形態を参照するものである。)として記載された事項を、本件発明1に合わせて整理すると、甲2には以下の発明(以下「甲2発明A」という。)が記載されているといえる。 (括弧内には、甲2に記載の事項に対応する本件発明1の発明特定事項、又は、甲2の参照箇所を記載した。以下、同様。) 「銅やアルミニウムなどの金属材料である少なくとも2つの部材を重ねた加工対象Wに対して、レーザ光L(レーザ光)を照射して前記金属材料である少なくとも2つの部材を重ねた加工対象Wにわたる溶接金属を形成することにより、金属材料である少なくとも2つの部材を重ねた加工対象Wを溶接する溶接方法であって(上記イ(ア)を参照。)、 前記金属材料である少なくとも2つの部材を重ねた加工対象Wは、銅やアルミニウムなどの金属材料(銅系金属材料、アルミニウム系金属材料、ニッケル系金属材料、鉄系金属材料、およびチタン系金属材料のうちのいずれか一つ)で作られており(上記イ(ア)を参照。)、 前記レーザ光L(レーザ光)は、1070nmの赤外波長(800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長)のレーザ光L1(第一レーザ光)と、450nm(550[nm]以下)の波長のレーザ光L2(第二レーザ光)と、を含み(上記イ(イ)を参照。)、 前記レーザ光L(レーザ光)を、金属材料である少なくとも2つの部材を重ねた加工対象Wの照射面上に照射するとともに前記加工対象Wの照射面上で掃引し(上記イ(ア)、(ウ)を参照。)、 前記加工対象Wの照射面上で、前記レーザ光L1(第一レーザ光)のピーク強度の1/e2以上の主ビームB1強度領域(第一強度領域)の少なくとも一部が、前記レーザ光L2(第二レーザ光)のピーク強度の1/e2以上の副ビームB2強度領域(第二強度領域)と重なり、前記副ビームB2強度領域(第二強度領域)は、前記主ビームB1強度領域(第一強度領域)と重ならない、当該主ビームB1強度領域(第一強度領域)に対して掃引方向の前方に位置する領域と後方に位置する領域とを有し(上記イ(ウ)、(エ)を参照。)、 前記レーザ光L2(第二レーザ光)によって前記加工対象Wの前記照射面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより前方溶融池WPfとしての浅瀬領域R(前記溶接金属の第二部位)を形成するとともに、前記レーザ光L1(第一レーザ光)によってキーホールを発生させる(キーホール型溶融を生じさせる)ことにより前記前方溶融池WPfとしての浅瀬領域R(第二部位)に対して前記照射面とは反対側に隣接した位置から、加工対象Wのうち照射面から最も離れた部材(前記金属部材)内まで延びる溶融池WP1(前記溶接金属の第一部位)を形成する(上記イ(オ)を参照。)、溶接方法。」 エ 甲2の段落[0004]〜[0005]に特許文献4として挙げられた甲11の、段落[0001]〜[0004]には、リチウムイオン二次電池等を製造する工程におけるレーザ反射率の高い部材に対するレーザ溶接に関して記載されることからみて、甲2発明Aは、リチウムイオン二次電池等を製造する工程におけるレーザ反射率の高い部材に対するレーザ溶接の方法に適用されることも想定されている、と理解できる。 (3)甲4〜甲6に記載された技術的事項 ア 甲4に記載された技術的事項 (ア)甲4には、以下の事項が記載されている。 「【0002】 従来から、EV(Electric Vehicle)やPHV(Plug in Hybrid Vehicle)などの車両には、電動機などへの供給電力を蓄える蓄電装置としてリチウムイオン二次電池などが搭載されている。二次電池は、複数のシート状の正極電極と負極電極とが絶縁された状態で交互に積層された電極組立体と、該電極組立体を収容するケースとを備える。 【0003】 正極電極及び負極電極は、金属箔と、金属箔の両面又は片面に存在する活物質層と、活物質層が存在せず、金属箔が露出する未塗工部とを有する。未塗工部は、例えば、金属箔の一辺から突出したタブである。電極組立体は、各極性のタブが積層された未塗工部群としてのタブ群を備える。二次電池からの電力の取り出しは、電極組立体と電気的に接続された電極端子を通して行われる。電極組立体と電極端子とは、タブ群と電極端子に導電部材を溶接することで電気的に接続されている。 【0004】 ところで、タブ群と導電部材との溶接において、タブ群を構成するタブの枚数が多くなるほど、全てのタブを一度に溶接する際のタブの積層方向における溶け込み深さが深くなるため、溶接に要するレーザ光のエネルギーが大きくなる。この場合、タブ群のうちレーザ光の照射位置に近いタブに破れが生じることがある。これに対し、例えば特許文献1では、保護板と導電部材とでタブ群を挟み込んでレーザ溶接することで、溶接時のタブの破れを抑制している。 ・・・ 【0006】 しかしながら、保護板は、タブ群と導電部材を溶接する際に、タブ群に溶接されるため、タブ群と導電部材とを溶接する度に必要になる。また、保護板は、二次電池の部品点数の増加につながる。 【0007】 本発明の目的は、保護板を用いなくても未塗工部の破れの発生を抑制できる溶接用治具及び溶接部の形成方法を提供することにある。」 「【0021】 正極電極21及び負極電極22は、矩形シート状の金属箔24を備える。正極電極21の金属箔24は、例えばアルミニウム箔であり、負極電極22の金属箔24は、例えば銅箔である。正極電極21及び負極電極22は、金属箔24の両面に存在する活物質層25を備える。活物質層25は、極性に応じた活物質、導電材、及びバインダを含む。正極電極21及び負極電極22は、一対の長辺に沿う縁部のうち一方の縁部の一部から突出した矩形状のタブ26を備える。本実施形態では、タブ26の長手方向は、縁部からのタブ26の突出方向と一致する。タブ26は、活物質層25が存在せず、金属箔24が露出する未塗工部である。 【0022】 電極組立体12は、各正極電極21のタブ26が正極電極21、負極電極22、及びセパレータ23が積層される方向の一端に集箔されて積層された未塗工部群としてのタブ群18を備える。同様に、電極組立体12は、各負極電極22のタブ26が正極電極21、負極電極22、及びセパレータ23が積層される方向の一端に集箔されて積層された未塗工部群としてのタブ群18を備える。タブ26が積層される方向を積層方向とする。各タブ群18は、電極組立体12において蓋14と対向している端面12aに存在する。電極組立体12は、タブ26の突出方向におけるタブ群18の基端部及び先端部が折り曲げられた状態でケース11に収容される。なお、図3以降では、説明の便宜上、タブ群18を折り曲げずに延ばした状態で図示している。 【0023】 図3(a)及び図3(b)に示すように、二次電池10は、溶接部31を備える。図3(a)に示すように、溶接部31は、積層方向全てのタブ26をレーザ溶接して形成されている。なお、タブ群18の積層方向を上下方向とし、タブ群18の積層方向一端を下端とするとともに、積層方向他端を上端とする。タブ群18を積層方向他端側(上側)から見たとき、溶接部31は直線的に延びる帯状である。溶接部31の長手は、タブ26の短手方向に延びる。溶接部31の長手方向への長さは、例えば、タブ26の短手方向への長さが22mmであれば10mmに設定され、溶接部31の短手方向への長さは例えば1.0mmに設定される。なお、溶接部31の長手方向への長さは、タブ26の短手方向への長さの範囲内であれば適宜変更してもよいし、溶接部31の短手方向への長さは、タブ26の長手方向への長さの範囲内であれば適宜変更してもよい。 【0024】 なお、図3(c)に示すように、溶接部31は、スポット径50μmのレーザ光Rを、タブ26の長手方向(溶接部31の短手方向)へ往復させながら、タブ26の短手方向(溶接部31の長手方向)に移動させて形成されている。本実施形態では、溶接部31の長手方向は、レーザ光Rの進行方向であり、溶接部31の短手方向は、進行方向に対する直交方向である。」 「【0025】 次に、溶接用治具を用いた溶接部の形成方法について説明する。 溶接部の形成方法は、集箔工程、加圧工程及び溶接工程を備える。 集箔工程は、電極組立体12が備える複数枚のタブ26を集箔してタブ群18を形成する工程である。集箔工程は、図5又は図6に示すように、作業台Sに載置された導電部材17上に、電極組立体12の全てのタブ26を配置する。すなわち、積層方向一端のタブ26より外側(下側)に導電部材17を配置する。 【0026】 なお、導電部材17は、既に電極端子15に接合されるとともに、その電極端子15は蓋14に締結されており、蓋14に導電部材17が一体化されている。よって、図6に示すように、導電部材17は蓋14から若干離れた状態で片持ち支持されている。導電部材17の上にタブ26が配置された状態では、全てのタブ26は、蓋14に片持ち支持された導電部材17の上に配置される。次に、図示しない集箔装置によって、タブ26を挟んだ導電部材17の反対側(積層方向他端側)から全てのタブ26を押圧して集箔し、タブ群18を形成する。 【0027】 加圧工程は、タブ群18を積層方向他端から加圧する工程である。加圧工程には、溶接用治具50が用いられる。ここで、溶接用治具50について説明する。 溶接用治具50は、セラミックス製であり、セラミックスとしてはマシナブルセラミックスや窒化ケイ素などが挙げられる。なお、マシナブルセラミックスは、雲母などを複合した機械切削加工しやすい快削性セラミックスのことである。本実施形態では、マシナブルセラミックスとして、熱伝導率が低く、かつ耐熱衝撃性が高いものを使用しており、例えば、SiO2・AlO2を主成分としたホトベール(登録商標)や、AlN・BNを主成分としたものシェイパルMソフト(登録商標)が挙げられる。」 「【0041】 図6に示すように、溶接工程は、溶接部31を形成する工程である。溶接工程はレーザ溶接によって行われる。レーザ照射装置62によって、タブ群18を加圧している溶接用治具50の貫通孔53にレーザ光Rを照射し、貫通孔53にレーザ光Rを通過させる。つまり、タブ群18の積層方向他端のタブ26にレーザ光Rを照射する。そして、図3(c)に示すように、レーザ光Rを進行方向に移動させる。このとき、溶接用治具50によってタブ群18を加圧しておくことにより、タブ群18において、第1押圧部52a同士の間では、各タブ26が引っ張られ、突っ張った状態となる。その結果、積層方向に隣り合うタブ26同士が密着した状態でレーザ溶接が行われ、溶接部31が形成される。」 「【0042】 次に、本実施形態の作用効果を記載する。 (1)溶接用治具50の接触部52のうち、一対の第1押圧部52aの間隔K1を50μmより広く、かつ5mm以下に設定した。このため、溶接用治具50によりタブ群18を加圧したとき、タブ26において、一対の第1押圧部52aで挟まれた部分を突っ張らせることができる。その結果、積層方向に隣り合うタブ26同士を密着させた状態としながら、溶接用治具50にレーザ光Rを通過させることで溶接部31を形成できる。このため、積層方向に溶融が進みやすくなり、レーザ光Rの照射位置に近いタブ26にエネルギーが集中することが抑制される。よって、保護板を用いることなくタブ26の破れの発生を抑制できる。その結果として、タブ群18と導電部材17のレーザ溶接の度に保護板を用いる場合と比べると、溶接工程が容易となるとともに、二次電池10の部品点数の増加もない。」 「【図2】 ![]() 【図3】 ![]() 【図5】 ![]() 【図6】 ![]() 」 (イ)上記(ア)から、甲4には、以下の技術的事項(以下「甲4記載の技術的事項」という。)が記載されている、といえる。 「リチウムイオン二次電池など(段落【0002】)の二次電池10のアルミニウムからなる正極電極21及び銅からなる負極電極22(段落【0021】)として、導電部材17(金属部材)の上(第一面上)に積層方向(第一方向)に配置された(重ねられた)複数のタブ26(金属箔)に対して(段落【0025】、図5)、前記導電部材17(金属部材)の反対側からレーザ光R(レーザ光)を照射して複数のタブ26と導電部材17とにわたる溶接部31(溶接金属)を形成する(段落【0023】、【0041】、図3、図6)ことにより、前記導電部材17(金属部材)と複数のタブ26(金属箔)とを溶接する溶接方法であって、 前記レーザ光R(レーザ光)を、複数のタブ26(金属箔)のうち前記積層方向(第一方向)において前記導電部材17(金属部材)から最も離れたタブ26(金属箔)の前記導電部材17(金属部材)とは反対側の積層方向の他端側の面(第二面)上に照射するとともに積層方向の他端側の面(第二面)上で移動し(掃引し)(段落【0023】〜【0024】、【0041】、図3、図6)、 前記レーザ光R(レーザ光)によって前記積層方向の他端側の面(第二面)から前記導電部材17(金属部材)内まで延びる前記溶接部31(溶接金属)を形成する(段落【0023】、【0041】、図2〜3)こと。」 イ 甲5に記載された技術的事項 (ア)甲5には、以下の事項が記載されている。 「【0002】 従来から、EV(Electric Vehicle)やPHV(Plug in Hybrid Vehicle)などの車両には、電動機などへの供給電力を蓄える蓄電装置としてリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池などが搭載されている。特許文献1には、従来の二次電池として、金属箔と、金属箔の少なくとも片面に存在する活物質層と、活物質層が存在せず、金属箔が露出した未塗工部とを有する複数の電極が積層され、かつ未塗工部が積層された未塗工部群を備える電極組立体と、電極組立体と外部装置とを接続する端子構造と、未塗工部群と端子構造とが重ねられた状態でレーザ溶接された溶接部とを備えたものが開示されている。溶接部は、重ねられた未塗工部群及び端子構造に対し、未塗工部群側からレーザを照射することで形成される。」 「【0004】 ところで、未塗工部群を構成する未塗工部の枚数を増やすほど、溶接部の溶け込み深さを深くする必要がある。溶接部の溶け込み深さは、溶接時の入熱量(レーザの出力)を増大させることで深くできる。しかしながら、入熱量を増大させ過ぎると、未塗工部群を構成する複数の未塗工部のうち、レーザの照射側に位置する未塗工部が溶断して他の未塗工部から剥離し、剥離した未塗工部と他の未塗工部とが溶接されないことがある。この場合、剥離した未塗工部を有する電極と端子構造とが電気的に接続されず、二次電池の出力が低下してしまう。」 「【0017】 正極電極21は、矩形状の金属箔としての正極金属箔24と、正極金属箔24の両面に存在する活物質層としての正極活物質層25とを有する。本実施形態の正極金属箔24の材料は、アルミニウム(熱伝導率:236[W/m・K])である。正極電極21は、長手方向に沿う縁部のうちの一方の縁部にタブ側縁部21aを備える。正極電極21は、タブ側縁部21aの一部から突出した矩形状の正極のタブ26を有する。正極のタブ26は、正極活物質層25が存在せず、正極金属箔24が露出した未塗工部である。正極のタブ26の長手方向は、タブ側縁部21aからのタブ26の突出方向と一致し、正極のタブ26の短手方向は、タブ側縁部21aに沿う方向と一致する。 【0018】 負極電極22は、矩形状の金属箔としての負極金属箔27と、負極金属箔27の両面に存在する活物質層としての負極活物質層28とを有する。本実施形態の負極金属箔27の材料は、銅(熱伝導率:398[W/m・K])である。負極電極22は、長手方向に沿う縁部のうちの一方の縁部にタブ側縁部22aを備える。負極電極22は、タブ側縁部22aの一部から突出した矩形状の負極のタブ26を有する。負極のタブ26は、負極活物質層28が存在せず、負極金属箔27が露出した未塗工部である。負極のタブ26の長手方向は、タブ側縁部22aからのタブ26の突出方向と一致し、負極のタブ26の短手方向は、タブ側縁部22aに沿う方向と一致する。」 「【0020】 図1に示すように、二次電池10は、電極組立体12から電気を取り出すための各極性の端子構造16を備える。正極の端子構造16の材料はアルミニウムであり、負極の端子構造16の材料は銅である。各端子構造16は、矩形状の導電部材16aと、導電部材16aから突出する電極端子16bとを有する。正極の導電部材16aは、後述の溶接部18によって正極のタブ群15に接合され、負極の導電部材16aは、後述の溶接部18によって負極のタブ群15に接合される。積層方向の一端に位置する正極電極21のタブ26は、正極の導電部材16aと対向し、積層方向の一端に位置する負極電極22のタブ26は、負極の導電部材16aと対向する。各電極端子16bは、蓋14の貫通孔14aを貫通してケース11外に突出する。各電極端子16bの先端部には、二次電池10同士を電気的に接続する図示しない外部装置としてのバスバーが固定可能である。各端子構造16は、電極組立体12とバスバーとを電気的に接続する。二次電池10は、蓋14と各端子構造16の電極端子16bとを絶縁するための絶縁リング17を備える。 【0021】 図3に示すように、二次電池10は、正極のタブ群15と、正極の端子構造16の導電部材16aとが重ねられた状態で溶接された正極の溶接部18を備える。また、二次電池10は、負極のタブ群15と端子構造16の導電部材16aとが重ねられた状態で溶接された負極の溶接部18とを備える。各溶接部18は、キーホール方式のレーザ溶接によって形成される。溶接部18は、レーザ溶接の熱により、タブ群15及び端子構造16の導電部材16aが溶融した後に凝固し、タブ群15と導電部材16aとが一体となった部分である。 【0022】 各溶接部18は帯状である。溶接部18の長手方向は、タブ26の短手方向に延び、溶接部18の短手方向は、タブ26の長手方向に延びている。図2に示すように、タブ群15と導電部材16aとが重なる方向において、溶接部18の最深部18aは、導電部材16aの厚さ方向の半分程度まで到達している。よって、溶接部18は、導電部材16aにおける電極端子16b側の面からは視認されない。 【0023】 次に、二次電池の製造方法の一部について説明する。 二次電池の製造方法は、電極組立体12が備える複数のタブ26を集箔してタブ群15を形成する集箔工程と、タブ群15と導電部材16aとを溶接して溶接部18を形成する溶接工程と、溶接部18を検査する溶接検査工程とを含む。 【0024】 集箔工程では、図示しない作業台に載置された導電部材16a上に、電極組立体12の全てのタブ26を配置する。次に、図示しない集箔装置によって、タブ26を挟んで導電部材16aの反対側から全てのタブ26を押圧することで、タブ26を積層方向の一端側に集箔しタブ群15を形成する。導電部材16aにおける電極端子16bが突出する面とは反対側の面は、タブ群15を構成する複数のタブ26のうち、積層方向の一端に位置するタブ26と対向する。 【0025】 溶接工程では、まず、タブ群15の上方に配置された図示しない治具によって、タブ群15を導電部材16aに向けて押圧する。なお、タブ群15において押圧される部分は、後に溶接部18となる部分を囲む部分であり、タブ群15において溶接部18となる部分は押圧されず、露出している。これにより、タブ群15を構成する積層方向に隣り合うタブ26同士、及びタブ群15と導電部材16aとは密接する。 【0026】 次に、図4に示すように、治具によりタブ26同士及びタブ群15と導電部材16aとを密接させた状態で、レーザ照射装置30によって、重ねられたタブ群15及び導電部材16aに向けてタブ群15側からレーザを照射する。本実施形態のレーザ照射装置30は、連続波のレーザを照射しながらタブ26の短手方向の一端から他端に向けて移動する。よって、タブ群15及び導電部材16aに対するレーザの照射位置は移動する。 【0027】 タブ群15においてレーザが照射された部分とその周辺では、タブ群15の溶融が急激に進むとともに、金属蒸気の反跳力により、溶融した金属が押し広げられることでキーホールHが形成される。レーザは、形成されたキーホールH内に侵入するとともにキーホールH内で多重反射する。これにより、キーホールHの深さは更に深くなる。そして、キーホールHの最深部が導電部材16aまで到達すると、タブ群15及び導電部材16aが溶融した溶融部が形成される。レーザの通過後、溶融部が凝固することで、タブ群15と導電部材16aとが溶接された溶接部18が形成される。溶接部18の長手方向は、レーザ照射装置30の移動方向、すなわちレーザの進行方向と一致し、溶接部18の短手方向は、タブ26に沿い、かつレーザの進行方向と直交する方向と一致する。 【0028】 なお、レーザの照射により形成されたキーホールHは、溶融部が凝固して溶接部18となる前に、溶融した金属の表面張力によって埋められる。また、レーザの照射条件は、レーザが導電部材16aを貫通しないような条件に設定される。レーザの照射条件とは、レーザの出力、スポット径、導電部材16aの厚さ方向における焦点の位置、レーザ照射装置30の移動速度などを指す。溶接工程では、レーザの出力によっては、レーザの照射側である積層方向の他端側に位置するタブ26への入熱量が多くなることで、積層方向の他端側に位置するタブ26が溶断し、溶断したタブ26が隣り合うタブ26から剥離することがある(図6(a)参照)。」 「【0052】 ○ タブ26及び端子構造16の材料は、アルミニウムや銅に限定されない。タブ26及び端子構造16の材料は、熱伝導率が200[W/m・K]以上の導電性材料であるのが好ましい。熱伝導率が200[W/m・K]以上の導電性材料としては、例えば、アルミニウムや銅の金めっき(熱伝導率:295[W/m・K])や、アルミニウムや銅の銀めっき(熱伝導率:418[W/m・K])が挙げられる。」 「【図2】 ![]() 【図4】 ![]() 【図5】 ![]() 【図6】 ![]() 」 (イ)上記(ア)から、甲5には、以下の技術的事項(以下「甲5記載の技術的事項」という。)が記載されている、といえる。 「リチウムイオン二次電池など(段落【0002】)の二次電池10のアルミニウムからなる正極電極21及び銅からなる負極電極22(段落【0017】〜【0018】、【0020】〜【0021】)として、導電部材16a(金属部材)の上(第一面上)に積層方向(第一方向)に配置された(重ねられた)複数のタブ26(金属箔)に対して(段落【0024】、図4)、前記導電部材16a(金属部材)の反対側からレーザ(レーザ光)を照射して複数のタブ26と導電部材16aとにわたる溶接部18(溶接金属)を形成する(段落【0025】〜【0028】、図4〜6)ことにより、前記導電部材16a(金属部材)と複数のタブ26(金属箔)とを溶接する溶接方法であって、 前記レーザ(レーザ光)を、複数のタブ26(金属箔)のうち前記積層方向(第一方向)において前記導電部材16a(金属部材)から最も離れたタブ26(金属箔)の前記導電部材16a(金属部材)とは反対側の積層方向の他端側の面(第二面)上に照射するとともに積層方向の他端側の面(第二面)上で移動し(掃引し)(段落【0025】〜【0028】、図4)、 前記レーザ(レーザ光)によってキーホール型溶融を生じさせることにより(段落【0027】〜【0028】)前記積層方向の他端側の面(第二面)から前記導電部材16a(金属部材)内まで延びる前記溶接部18(溶接金属)を形成する(段落【0022】、【0027】〜【0028】、図4〜5)こと。」 ウ 甲6に記載された技術的事項 (ア)甲6には、以下の事項が記載されている。 「【0002】 従来から、EV(Electric Vehicle)やPHV(Plug in Hybrid Vehicle)などの車両には、電動機などへの供給電力を蓄える蓄電装置としてリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池などが搭載されている。特許文献1に開示の二次電池は、複数の電極が積層された電極組立体を備える。電極は、金属箔と、金属箔の少なくとも片面に存在する活物質層と、活物質層が存在せず、金属箔が露出した未塗工部(芯体露出部)とを有する。電極組立体は、未塗工部が積層された未塗工部群を備える。二次電池は、電極組立体と外部装置とを接続する端子(集電用部材)と、未塗工部群と端子とがレーザ溶接により一体となった接合部を備える。」 「【0004】 このような二次電池において、接合強度が低い場合、例えば、二次電池を車両に搭載した後に車両が振動すると、未塗工部群と端子との接合や未塗工部群を構成する未塗工部同士の接合が解除されることがある。未塗工部群と端子との接合が解除されると、電極組立体から電気を取り出せなくなってしまう。また、未塗工部群を構成する未塗工部同士の接合が解除されると、未塗工部群における電気抵抗が増大してしまう。よって、接合強度の向上が望まれている。」 「【0016】 正極電極21は、矩形状の金属箔としての正極金属箔24と、正極金属箔24の両面に存在する活物質層としての正極活物質層25とを有する。本実施形態の正極金属箔24の材料は、アルミニウム(熱伝導率:236[W/m・K])である。正極金属箔24は、アルミニウムの基材が圧延されることにより形成される。正極電極21は、長手方向に沿う縁部のうちの一方の縁部にタブ側縁部21aを備える。正極電極21は、タブ側縁部21aの一部から突出した矩形状の正極のタブ26を有する。正極のタブ26の長手方向は、正極電極21の短手方向と一致し、正極のタブ26の短手方向は、正極電極21の長手方向と一致する。正極のタブ26は、正極活物質層25が存在せず、正極金属箔24が露出した未塗工部である。図4(b)に示すように、正極金属箔24において、アルミニウムの結晶は、細長形状であり、タブ26の長手方向に延びている。 【0017】 負極電極22は、矩形状の金属箔としての負極金属箔27と、負極金属箔27の両面に存在する活物質層としての負極活物質層28とを有する。本実施形態の負極金属箔27の材料は、銅(熱伝導率:398[W/m・K])である。負極金属箔27は、銅の基材が圧延されることにより形成される。負極電極22は、長手方向に沿う縁部のうちの一方の縁部にタブ側縁部22aを備える。負極電極22は、タブ側縁部22aの一部から突出した矩形状の負極のタブ26を有する。負極のタブ26の長手方向は、負極電極22の短手方向と一致し、負極のタブ26の短手方向は、負極電極22の長手方向と一致する。負極のタブ26は、負極活物質層28が存在せず、負極金属箔27が露出した未塗工部である。図4(b)に示すように、負極金属箔27において、銅の結晶は、細長形状であり、タブ26の長手方向に延びている。」 「【0019】 図1に示すように、二次電池10は、電極組立体12から電気を取り出すための各極性の端子16を備える。正極の端子16の材料はアルミニウムであり、負極の端子16の材料は銅である。各端子16は、矩形状の板部16aと、板部16aから突出する軸部16bとを有する。正極の端子16の板部16aは正極のタブ群15に接合され、負極の端子16の板部16aは負極のタブ群15に接合される。各軸部16bは、蓋14の貫通孔14aを貫通してケース11外に突出する。各軸部16bの先端部には、二次電池10同士を電気的に接続する図示しない外部装置としてのバスバーが固定可能である。各端子16は、電極組立体12とバスバーとを電気的に接続している。二次電池10は、蓋14と各端子16の軸部16bとを絶縁するための絶縁リング17を備える。」 「【0021】 図4(a)に示すように、二次電池10は、正極のタブ群15と正極の端子16の板部16aとが接合され、一体となった正極の接合部32と、負極のタブ群15と端子16の板部16aとが接合され、一体となった負極の接合部32とを備える。電極組立体12は、接合部32により、端子16と一体化される。 【0022】 各接合部32は、キーホール方式のレーザ溶接によって形成される。接合部32は、レーザ溶接の熱により、タブ群15及び端子16の板部16aが溶融した後に凝固することで金属組織が変化するとともに、タブ群15と端子16の板部16aとが一体となった部分である。タブ群15と端子16とが重なる方向において、接合部32の最深部32aは、端子16の板部16aの厚さ方向の半分程度まで到達している。各タブ群15及び各端子16の板部16aにおいて、接合部32の外側で、溶接前と変わらず分離している部分は、非接合部31である。 【0023】 接合部32の外側では更に、接合部32と非接合部31との間に熱影響部33が存在する。熱影響部33は、レーザ溶接の熱により、溶融までは至らないものの、タブ群15及び端子16の板部16aの金属組織が変化した部分である。つまり、上述した接合部32と熱影響部33は、レーザ溶接により、タブ群15及び端子16の板部16aの金属組織が変化した部分である。接合部32及び熱影響部33を合わせて溶接部30とする。」 「【0029】 次に、二次電池10の製造方法の一部について説明する。 二次電池10の製造方法は、電極組立体12が備える複数のタブ26を集箔してタブ群15を形成する集箔工程と、タブ群15と端子16の板部16aとを接合し、溶接部30を形成する接合工程と、電極組立体12をケース11に収容する収容工程とを含む。 【0030】 集箔工程では、図示しない金属製の作業台に載置された端子16の板部16a上に、電極組立体12の全てのタブ26を配置する。次に、図示しない集箔装置によって、タブ26を挟んで板部16aの反対側から全てのタブ26を押圧して集箔し、タブ群15を形成する。板部16aにおける軸部16bが突出する面とは反対側の面は、タブ群15を構成する複数のタブ26のうち、積層方向の一端に位置するタブ26と対向する。 【0031】 接合工程では、まず、タブ群15の上方に配置された図示しない金属製の治具によって、タブ群15を端子16の板部16aに向けて押圧する。なお、タブ群15において押圧される部分は、溶接部30となる部分を囲む部分であり、溶接部30となる部分は押圧されない。これにより、タブ群15を構成する積層方向に隣り合うタブ26同士、及びタブ群15と板部16aとは密接する。次に、治具によりタブ26同士及びタブ群15と板部16aとを密接させた状態で、図示しないレーザ照射装置によって、タブ群15側からタブ群15と板部16aに向けてレーザを照射する。本実施形態のレーザ照射装置は、レーザを照射しながら板部16aの長手方向の一端から他端に向けて移動する。 【0032】 タブ群15においてレーザが照射された部分とその周辺では、タブ群15の溶融が急激に進むとともに、金属蒸気の反跳力により溶融した金属が押し広げられることでキーホールが形成される。レーザは、形成されたキーホール内に侵入するとともにキーホール内で多重反射する。これにより、キーホールの深さは更に深くなる。そして、キーホールの最深部が端子16の板部16aまで到達すると、タブ群15及び端子16の板部16aが溶融した溶融部が形成される。レーザの通過後、溶融部が凝固することで、タブ群と端子16の板部16aとが一体となった接合部32が形成される。また、溶融部が形成される際に、非接合部31と溶融部との間には熱影響部33が形成される。つまり、溶接部30が形成される。レーザの照射により形成されたキーホールは、溶融部が凝固して接合部32となる前に、溶融した金属の表面張力によって埋められる。なお、レーザの照射条件は、レーザが端子16の板部16aを貫通しないような条件に設定される。レーザの照射条件とは、レーザの出力、スポット径、端子16の板部16aの厚さ方向における焦点の位置、レーザ照射装置の移動速度などを指す。タブ群15及び端子16の溶接部30は、レーザ照射後、自然冷却される。熱影響部33における結晶の成長、すなわち結晶粒径の粗大化は、冷却により緩やかになる。 【0033】 ここで、上述したようにタブ26及び端子16の材料はアルミニウムや銅であり、アルミニウムや銅の熱伝導率は、例えば、鋼の熱伝導率(熱伝導率:67[W/m・K])と比較して高い。このため、本実施形態のタブ26及び端子16の冷却速度は、タブ26及び端子16の材料が鋼である場合の冷却速度よりも速い。また、結晶粒径は、冷却時間が長くなるほど粗大化することが一般に知られている。よって、本実施形態の熱影響部33の結晶粒径は、タブ26及び端子16の材料が鋼である場合の熱影響部33の結晶粒径よりも小さくなる。その結果、タブ26及び端子16の材料が鋼である場合、熱影響部33の結晶粒径は、非接合部31の結晶粒径よりも大きくなるのに対し、本実施形態の熱影響部33の結晶粒径は、非接合部31の結晶粒径よりも小さくなる。」 「【0048】 ○ タブ26及び端子16の材料は、アルミニウムや銅に限定されず、熱伝導率が200[W/m・K]以上の導電性材料であればよく、例えば、アルミニウムや銅の金めっき(熱伝導率:295[W/m・K])でもよいし、アルミニウムや銅の銀めっき(熱伝導率:418[W/m・K])でもよい。タブ26及び端子16の材料の熱伝導率が200[W/m・K]以上であれば、熱影響部33の結晶粒径は非接合部31の結晶粒径よりも小さくなる。」 「【図2】 ![]() 【図4】 ![]() 」 (イ)上記(ア)から、甲6には、以下の技術的事項(以下「甲6記載の技術的事項」という。)が記載されている、といえる。 「リチウムイオン二次電池など(段落【0002】)の二次電池10のアルミニウムからなる正極電極21及び銅からなる負極電極22(段落【0016】〜【0017】、【0019】)として、端子16の板部16a(金属部材)の上(第一面上)に積層方向(第一方向)に配置された(重ねられた)複数のタブ26(金属箔)に対して(段落【0030】)、前記端子16の板部16a(金属部材)の反対側からレーザ(レーザ光)を照射して複数のタブ26と端子16の板部16aとにわたる溶接部30(溶接金属)を形成する(段落【0023】、【0031】〜【0032】、図2、図4)ことにより、前記端子16の板部16a(金属部材)と複数のタブ26(金属箔)とを溶接する溶接方法であって、 前記レーザ(レーザ光)を、複数のタブ26(金属箔)のうち前記積層方向(第一方向)において前記端子16の板部16a(金属部材)から最も離れたタブ26(金属箔)の前記端子16の板部16a(金属部材)とは反対側の積層方向の他端側の面(第二面)上に照射するとともに積層方向の他端側の面(第二面)上で移動し(掃引し)(段落【0031】〜【0032】、図4)、 前記レーザ(レーザ光)によってキーホール型溶融を生じさせることにより(段落【0022】、【0032】)前記積層方向の他端側の面(第二面)から前記端子16の板部16a(金属部材)内まで延びる前記溶接部30(溶接金属)を形成する(段落【0022】、【0031】〜【0032】、図4)こと。」 (4)甲12、甲3に記載された技術的事項 ア 甲12に記載された技術的事項 (ア)甲12には、以下の事項が記載されている。 A 46ページ 第1〜8行 「For copper joining, blue diode lasers have made it possible to ・・・ and in so doing moves the boundaries of copper welding altogether.」 <日本語訳> 「銅の接合では、青色ダイオードレーザーにより、熱伝導溶接の制御が初めて可能になりました。銅の深絞り溶接では、赤外線レーザーでも満足のいく結果が得られず、この技術は現在の限界に達しています。青色ダイオードレーザーと赤外線ダイオードレーザーを接続したLaserline社のハイブリッドコンセプトが、今、新たな製造の選択肢を切り開きました。この手法は、シートの接合だけでなく、ヘアピンの静止溶接でも発揮され、銅溶接の境界線を完全に移動させることに成功しました。」(申立人意見書第11ページ) B 46ページ 左欄第1行〜中欄第7行 「Copper belongs to metals with the highest electrical conductivity, ・・・ and ranges from wafer-thin wires and foils to robust sheets and connectors.」 <日本語訳> 「銅は最も電気伝導率の高い金属に属し、古くから最も重要な導体材料の一つであった。銀とほぼ同等の導電性を持ちながら、明らかに安価なため、伝統的にほとんどの送電線と誘導コイルに使用されています。家電の巨大市場とエレクトロモビリティの強いトレンドにより、その価値は著しく、急速に高まっています。現在では、携帯端末機器の超薄型電池セルや、電気自動車の二次電池やモーターに使用されています。また、発電所のサーキットブレーカーや鉄道車両のモーター、産業用アクチュエーターなどでも、変わらぬ役割を担っています。これらで使用される銅部品の範囲はかなり広く、ウエハーシンのワイヤーやフォイルから、頑丈なシートやコネクターまで、さまざまなものがあります。」(申立人意見書第11ページ) C 47ページ 左欄第22行〜右欄第2行 「Deep welding as a critical challenge ・・・ which caused pores and spatters and left behind qualitatively inadequate joining seams.」 <日本語訳> 「重要な課題である深堀り溶接 しかし、青色ダイオードレーザーも、より高い材料厚の銅部品を接合しなければならなくなると、すぐに限界に達してしまうのです。そのためには、銅の熱伝導率が高いため、非常に高い強度の溶接を行う必要があり、簡単に言えば、局部的に加わったエネルギーが部品全体に早く散ってしまうのです。青色レーザーの最大溶接溶け込み深さは、出力500Wで0.3〜0.4mm、1000Wで約0.6〜0.7mmとなります。理論的には、より高い出力によってこれを変更することが可能です。現在1.5kWのレーザー装置がすでにあり、その他も進行中である。しかし、深堀り溶接を視野に入れると、青色ダイオードレーザーは赤外線方式に比べて製造コストが高くなるため、効率の問題が出てくるかもしれません。しかし、技術的には疑問が残るものの、銅の深堀り溶接(当審注:申立人意見書では「深絞り溶接」と記載されているが、「深堀り溶接」の誤記と認める。)で使用することは可能である。なぜなら、赤外線の吸収率が低いため、材料を定着・浸透させるためには、このような高いエネルギー入力が必要となり、プロセスや結果が満足のいくものにならないからです。これまで赤外線レーザーを使って銅の深堀り溶接を実現しようとした場合、非常にダイナミックな溶融池が定期的に発生し、気孔やスパッタが発生し、接合部の品質が不十分なままでした。」(申立人意見書第11〜12ページ) D 第47ページ 右欄第3行〜48ページ中欄第10行 「Hybrid welding concept connects blue and infrared laser beams ・・・ the approach is therefore clearly more efficient.」 <日本語訳> 「青色レーザーと赤外線レーザーをつなぐハイブリッド溶接コンセプト 青色レーザーや赤外線レーザーだけでは、技術的にも商業的にも納得のいく銅のキーホール溶接ができないことから、ダイオードレーザー専門メーカーのLaserline社は、別のアプローチを試行しました。青色レーザーや赤外線レーザーだけに頼るのではなく、まったく新しいハイブリッドコンセプトを開発しました。これは、両方のレーザーを接続し、特殊な集光光学系を介してLDM青色ダイオードレーザーのビームを、従来のLDM赤外線レーザーのビームと一体化させるものです(図1)。これにより、直径1mmの青色スポットと0.3mmの赤外線スポットがスポット中心に重なります(図2)。しかし、必要に応じて2つのレーザーを別々に使用することも可能で、ある時間だけ1つのワークに青色又は赤外線のみを照射することができる(図3)。赤外線レーザーのLDMの代わりに、より大きなシステム(例:LaserlineLDF)を検討することもできます。ハイブリッド構成は、既存の全ての赤外線ダイオードレーザー設備に問題なくアップグレードすることができます。溶接工程では、まず青色ダイオードレーザーの高い吸収率でワークの表面を溶かし、スイッチオンした赤外線レーザーでキーホールを開き、実際のキーホール溶接工程を実現します。溶融プールを落ち着かせ、プロセス全体を安定させるため、蒸気キャピラリーが開いた後も、青色レーザーは接続されたままです。銅の平均をはるかに超える熱伝導を補うため、赤外線レーザーの出力は青色レーザーの約2〜5倍(プロセス構成により異なる)に設定されています。これまでの実験では1〜5kWだったので、純粋な赤外線を使った銅溶接の実験に比べれば、まだ低い。一方、青色レーザーでは、1kWの出力で十分な場合が多く、(接合部が薄い場合は)500W程度でも、それだけでは深い溶接はできなかった。純粋なエネルギー投入量を考えても、このアプローチの方が明らかに効率的です。」(申立人意見書第12〜13ページ) E 図1(第47ページ) 「図1 ![]() 」 <日本語訳> 「図1 Laserlineのハイブリッドコンセプトは、LDM青色ダイオードレーザーのビームを特殊な集光光学系で従来のLDM赤外線レーザーのビームと結合します。」(申立人意見書第13ページ) F 図2(第47ページ) 「 ![]() 」 <日本語訳> 「図2 直径1mmの青色スポットと、0.3mmの赤外線スポットとがスポット中心で重なっています。」(申立人意見書第13ページ) G 図4〜6(第48ページ) ![]() 」 <日本語訳> 「図4〜6 青色1kWと赤外線3kWにより、送り速度2m/minで板厚1mmと2mmの2枚の銅板を重ね溶接したところ、溶接溶け込み深さは1.45mmに達することができた。赤外線レーザーの出力を3.5kW又は4kWに上げると、同じ送り速度で1.91mm又は2.36mmの溶け込み深さを実現することができた。」(申立人意見書第15ページ。以下、レーザーが照射される板厚1mmの銅板を「銅板B」といい、銅板Bのレーザーが照射される面を「第二面」といい、板厚2mmの銅板を以下「銅板A」といい、銅板Aの銅板Bと重ねられる面を「第一面」という。) (イ)上記(ア)から、甲12には、以下の技術的事項(以下「甲12記載の技術的事項」という。)が記載されている、といえる。 「銅板Aの第一面上に第一方向に重ねられた銅板Bに対して、銅板Aの反対側からレーザーを照射して銅板Aと銅板Bとにわたる溶接金属を形成することにより、銅板Aと銅板Bとを溶接する溶接方法であって、 銅板Aおよび銅板Bのそれぞれは、銅系金属材料で作られており、 レーザーは、赤外線レーザーと青色レーザーと、を含み、 レーザーを、銅板Bの銅板Aとは反対側の第二面上に照射するとともに第二面上で掃引し、 銅板Bの照射面上で、赤外線レーザーの赤外線スポットの全域が、青色レーザーの青色スポットと重なり、青色スポットは、赤外線スポットと重ならない、赤外線スポットに対して掃引方向の前側に位置する領域と後方に位置する領域とを有し(上記Fの図2、及び上記Dの「直径1mmの青色スポットと0.3mmの赤外線スポットがスポット中心に重なります(図2)」との記載を参照。)、 1kWの青色レーザーによって板厚1mmの銅板Bの照射面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより銅板B内に留まった溶接金属の第二部位を形成する(上記Gの溶接条件、及び上記Cの「青色レーザーの最大溶接溶け込み深さ」は「1000Wで約0.6〜0.7mm」との記載を参照。)とともに、3kWの赤外線レーザーによってキーホール型溶融を生じさせることにより第二部位に対して照射面とは反対側に隣接した位置から銅板A内まで延びる溶接金属の第一部位を形成する(上記Gの「溶接溶け込み深さは1.45mmに達する」との記載を参照。)、溶接方法。」 イ 甲3に記載された技術的事項 甲3には、以下の事項が記載されている。 (ア)6.2 高出力DDL発振器の深溶込み溶接(第18ページ左欄第14行〜右欄第4行)「高出力ブルーDDL発振器開発は、大出力化、高輝度化の方向で大きく動いておりその開発動向に大きな注目を集めているが、その一方で近赤外域のレーザ光とのハイブリッド化によるソリューションも研究されている(Fig.19)。 これは現時点で1mm以上の厚い銅板や太い銅ワイヤなどへ、青色波長による溶接品質向上の効果を狙った深い溶込み加工の実現を目的としている。これからさまざまな加工試験を実施していくが、今のところ一般的な近赤外レーザの大出力レーザ光によるキーホール溶接と青色波長のスパッタの発生のない穏やかな溶融池の両者のもつ長所が良く現れた深溶け込み溶接結果が得られた(Fig.20、Fig.21)」 (イ)図19、図21(第18ページ) 「 ![]() ![]() 」 (5)甲1に記載された技術的事項 ア 甲1には、以下の事項が記載されている。 (ア)明細書 「【技術分野】 【0001】 本開示は、密閉電池などで電極として用いられる積層箔の積層体を含む集電部などをレーザビームで溶接する方法に関し、特に、レーザを用いた場合に溶接部に発生する空隙などの品質不良を防止するレーザ溶接方法に関する。」 「【0012】 図5(a)〜(c)を用いて、従来のレーザ溶接方法における問題点について説明する。まず、被溶接物が第1の部材(上板:集電体)61と第2の部材(下板:集電体受け部品)62に挟まれた第3の部材(積層箔)63の構成で形成されている場合について説明する。この被溶接物をレーザで溶接する場合に、従来のレーザ溶接方法では空隙の発生する原因としては、積層箔63への強パワーのレーザ64の照射にある。積層箔63は、積層されているとはいえ薄箔の集合体であり厚みのある金属一枚板とは異なり、箔自体の熱容量が小さく、また熱逃げの場所がない。そして、積層された箔間にはいくら強く押さえて固定したとしても隙間が存在する。この状態で、図5(b)に示すように通常の強パワーのレーザ64を照射した場合には、積層箔63にレーザが照射された時点で図5(c)に示すように、積層箔63の溶融時に金属蒸気や有機蒸気66などが多量に発生する、または隙間に存在したエアーや水分が気化することがあり、その成分が溶融部65内に留まり、ブローホールと呼ばれる空隙66が発生するという課題がある。 【0013】 また、この時発生する蒸気は、レーザを金属に照射する場合の妨げになり、レーザ加工の偏りなどが発生する。これによりレーザ照射が不均一になり、さらに正常な溶融が起こりにくくなり、空隙の発生がさらに増加するという悪循環が生じる原因になる。」 「【発明の効果】 【0016】 以上のように、本開示に係るレーザ溶接方法によれば、上板と下板とその間に積層箔を挟んだ構成の集電体の接合時に溶融部に空隙などのブローホールの発生を抑制することが出来る。」 「【0028】 (実施の形態1) <レーザ溶接装置> 図3は、実施の形態1に係るレーザ溶接装置40の構成を示すブロック図である。このレーザ溶接装置40は、第1の部材18と、第2の部材19と、第1の部材18と第2の部材19との間に設けられた第3の部材15と、からなる被溶接部材についてレーザビームを照射しながら走査して溶接するレーザ溶接装置であって、第1のレーザ部41と、第2のレーザ部42と、第3のレーザ部43と、走査部44と、を備える。第1のレーザ部41は、第1の部材18の表面を溶融させるが、第1の部材18を貫通しない第1のレーザパワー密度を有する第1のレーザビーム30を第1の部材18に照射する。第2のレーザ部42は、第1のレーザビーム30の内側に、第1のレーザビーム30の第1のレーザパワー密度より高い第2のレーザパワー密度を有する第2のレーザビーム31を照射する。第3のレーザ部43は、第1のレーザビーム30の内側に、第2のレーザビーム31と並んで、第1のレーザビーム30の第1のレーザパワー密度より高い第3のレーザパワー密度を有する第3のレーザビーム32を照射する。走査部44は、第2のレーザビーム31、及び、第3のレーザビーム32を第1の部材18について走査する。 【0029】 実施の形態1に係るレーザ溶接装置40によれば、第1のレーザ部41から照射される第1のレーザビーム30は、比較的広い範囲にわたって照射されるが、その第1のレーザパワー密度は弱いので、被溶接部材である第1の部材18の表面について熱伝導溶融させる。 【0030】 また、第2のレーザ部42から照射する第2のレーザビーム31は、第1のレーザビーム30の内側に照射される。この第2のレーザビーム31は、第1のレーザビーム30の第1のレーザパワー密度より高い第2のレーザパワー密度を有するので、第1のレーザビーム30によって溶融している第1の部材18の溶融部30aの中で、第2のレーザビーム31に沿って、より高温の溶融部31aからなる第1のキーホールを生じさせる。その結果、より高温の第1のキーホール31aの下部の溶融部30aは、熱伝導溶融によってさらに第3の部材15を溶融し始める。この場合、通常のキーホール溶接の場合とは異なり、第1の部材18から第3の部材15にわたる溶融部30aの生成において、すでに溶融状態にある溶融部30aの深さの変化として生じるのでスパッタや空隙の発生を抑制できる。 【0031】 さらに、第3のレーザビーム32は、第2のレーザビーム31と同様に、第1のレーザパワー密度より高い第3のレーザパワー密度を有するので、溶融部30aの中で、第3のレーザビーム32に沿って、より高温の溶融部32aからなる第2のキーホールを生じさせる。その結果、より高温の第2のキーホール32aの下部の溶融部30aは、熱伝導溶融によってさらに第2の部材19を溶融し始める。この場合にも通常のキーホール溶接の場合とは異なり、第1の部材18、第3の部材15、及び、第2の部材にわたる溶融部30aの生成において、すでに溶融状態にある溶融部30aの深さの変化として生じるのでスパッタや空隙の発生を抑制できる。なお、第3のレーザビーム32の第3のレーザパワー密度を、第2のレーザビーム31の第2のレーザパワー密度よりも大きくすることによって、第2のキーホールの溶融部32aの深さを第1のキーホールの溶融部31aの深さより深くすることができる。 【0032】 具体的には、各レーザ部41、42、43の種類としては、例えば、基本波である波長1070nm程度のものを用いることができる。なお、レーザの波長は上記に限られない。また、レーザとしては、例えば、Nd:YAGレーザ(発振波長:1064nm)、炭酸ガスレーザ(発振波長:9.6μm、10.6μm)、Arレーザ(発振波長:480.0nm、514.5nm)、アレキサンドライトレーザ、エキシマレーザ等を使用できる。なお、上記レーザの種類に限られるものではなく、その他のレーザも使用できる。レーザパワーとしては、被溶接部材である上板(第1の部材)18、下板(第2の部材)19、積層箔(第3の部材)15の特性に依存するところが大きい。一例として、各部材18、19、15の材質をアルミニウム、厚みをそれぞれ順に上板18の厚さ0.4mm、下板19の厚さ0.8mm、積層箔の総厚0.5mmとした場合、加工速度150mm/sの場合には、第1のレーザビーム30は、300W、第2のレーザビーム31は、600W、第3のレーザビーム32は、1000Wとビーム強度を変えてもよい。また、照射の範囲も第1のレーザビーム30は、スポット径で、例えば約1000μmと比較的広く設定し、第2のレーザビーム31、及び、第3のレーザビーム32は、それぞれ約100μm程度になるようにビームプロファイルを設定してもよい。これによって空隙の発生を抑制したレーザ溶接が実現出来る。 【0033】 また、第1から第3のレーザ部41、42、43としては、上記のレーザ溶接装置40では、互いに異なるビーム強度を有する3つのレーザ部41、42、43を独立に設け、同時に照射して溶接しているが、このような構成に限られない。このレーザプロファイルの作り方としては、3つの独立したレーザから同一スポットに向けてそれぞれ照射することで実現してもよく、あるいは回折格子などを用いて1つのレーザビームを3つに分けた後、同一スポットに向けて照射してもよい。・・・ 【0034】 走査部44は、第2のレーザビーム31と、第3のレーザビーム32とを第1の部材18について走査できればよい。この場合、第2のレーザビーム31と、第3のレーザビーム32とを、第1のレーザビーム30の照射範囲の内側で走査する。さらに、走査部44は、第1のレーザビーム30についても第1の部材18に対して走査してもよい。・・・ 【0035】 <レーザ溶接方法> 次に、実施の形態1に係るレーザ溶接方法に関して、同じく図2(a)〜図2(e)を用いて説明する。図2(a)〜図2(e)は、本実施の形態1における集電体部のレーザ溶接方法の各工程を経時的に示す断面図である。図2(a)から図2(e)の順に時間経過を示している。 【0036】 (a)まず、図2(a)は、レーザ溶接前の被溶接部材の構成を表している。図2(a)に示すように、本実施の形態1における溶接方法では、被溶接部材は、例えば、下板(第2の部材)19、積層箔(第3の部材)15、上板(第1の部材)18の順に重ね合わせている。積層箔15は、薄い金属箔が重ねられたもので、電池の場合、アルミニウムまたは銅を用いる場合が多いが、これに限られない。また厚みは5〜100μm程度と幅広いが、主に5〜20μm程度の場合が多く、箔厚みが薄い程、本発明の効果が大きい。積層箔15内の箔枚数は10〜100枚程度のものがあり、枚数が多い程、本発明の効果が大きい。上板18の厚みは0.2〜2mm程度であり、材質は電池の場合、アルミニウムまたは銅を用いる場合が多いが、その限りではない。下板19も上板18と同様であるが、上板厚みが下板厚みより薄い方が本発明の効果が大きい。なお、上板18、下板19、積層箔15は、いずれも同一金属であっても、あるいは、それぞれ異なる金属からなる場合であってもよい。ここでは主に10枚〜100枚の金属箔が重ねられている積層箔15の部分に着目し、説明を行う。 【0037】 なお、本開示のレーザ溶接方法を電池の集電体、積層箔、集電体受け部品のレーザ溶接に用いる場合、積層箔としては正極箔又は負極箔のいずれであってもよい。さらに、積層箔は、巻回形のものであっても積層形のものであってもよい。またさらに、電池としては、一次電池、非水電解質二次電池、又は、水性電解質二次電池であってもよい。 【0038】 (b)図2(b)は、第1のレーザビームを照射する第1溶融工程の概略断面図である。図2(b)では、弱いビームである第1のレーザビーム30の照射によって熱伝導溶融のために上板(第1の部材)18の上部30aに金属溶融が発生していることを示している。第1のレーザビーム30の第1のレーザパワー密度が相対的に低い為、このレーザビーム30のみでは上板18を貫通するだけの溶融は出来ない。つまり表面のみ溶融した状態になる。 なお、第1のレーザビーム30は、相対的に弱いビームであるので、熱伝導溶融が生じる。この熱伝導溶融とは、ビームが弱い場合にビームの熱が低速に伝わりながら溶融が起こる状態を示している。 【0039】 (c)続いて、図2(c)は、第2のレーザビームを照射する第2溶融工程の概略断面図である。図2(c)では、弱い第1のレーザビーム30が通過し、その後、第2のレーザビーム31である強いビーム31が到着し、溶融部30aの中に第2のレーザビーム31に沿って深い溶融部(第1のキーホール)31aが形成されることが示されている。第2のレーザビーム31の第2のレーザパワー密度は、第1のレーザパワー密度より高い。この工程によって、溶融深さが全体的に深くなる。溶融部30aの深さが深くなるのは、第2のレーザビーム31に沿って、高パワーで溶融している溶融部(第1のキーホール)31aの熱の影響により、通常以上に溶融部30aが熱伝導溶融するパワーを有するからである。 【0040】 第2のレーザビーム31は、相対的に強いビームであるのでキーホール溶融が生じる。ここで、ビームが強い、弱いとは、例えば、単位面積当たりのビーム強度(レーザパワー密度)のことを示しており、4kW/mm2以上のものを強いビーム、それ以下のものを弱いビームと位置づけている。なお、材料、加工条件などによって上記条件は変化するため、4kW/mm2との指標に限られるものではない。 【0041】 また、「キーホール」とは、ビームが強い場合にレーザビームが溶融部を掘りながら溶融していく状態を示している。具体的には、「キーホール」とは、溶接用語の一つであって、溶融池の先端部分で熱源が母材(被溶接部材、ここでは、第1の部材、積層箔、及び第2の部材)の裏側へ貫通してできる円孔と定義されている(JISZ3001 2676)。 なお、ここでは第1のレーザビームによって熱伝導溶融している溶融部30aの中でさらに第2のレーザビーム31に沿って生じる、より高温の溶融部の箇所を第1のキーホール31aと呼んでいる。この第1のキーホール31aは、溶融部30aと比べて、レーザパワー密度の差に起因して溶融池の温度が高いと考えられる。その結果、第1のキーホール31aの下部の溶融部30aにおける熱伝導溶融も進行して、溶融部30a自体の深さが深くなっていくと考えられる。 【0042】 但し、第2のレーザビーム31には、上板18を貫通して第3の部材である積層箔15に達する程のレーザパワー密度は持たず、第2のレーザビーム31だけでは積層箔15へ到達することはない。つまり、第1のレーザビーム30の内側の溶融部30aに第2のレーザビーム31を照射することによって、溶融部30aの内部により高温の第1のキーホール31aを生じさせ、熱伝導溶融による溶融部30aをさらに深くできる。 なお、通常のキーホール溶接では、急激な溶融加工である為、スパッタや空隙の発生が考えられるが、本開示ではすでに溶融中である溶融部30a上へのレーザ照射である為、スパッタや空隙の発生を抑制できる。 【0043】 (d)次に、図2(d)では、第2溶融工程において、さらに第1のレーザビーム30及び第2のレーザビーム31が進行することにより、弱い第1のレーザビーム30による溶融部30aの深さが増加し、積層箔15の部分で溶融が開始されることが示されている。 なお、従来の強いレーザビームであれば、レーザビームが積層箔15に到達した時点で金属蒸気や有機蒸気などが急激に発生し、溶融部の内部に空隙を形成する。一方、本開示では相対的に弱い第1のレーザビーム30を使用しており、キーホール溶接ではなく、熱伝導溶融による溶融速度の遅い溶接の為、溶融状態を維持しながら溶融部30aの深さが変化する。このため、溶融部30aにおける空隙の発生を抑制できる。 【0044】 (e)図2(e)は、第3のレーザビームを照射する第3溶融工程の概略断面図である。図2(d)の後、図2(e)に示すように、さらに第3の強いレーザビーム32が到着し、溶融部30aはさらに深くまで溶け込み、下板19までも溶け込みが発生し、集電体全体が接合される。この時、強い第3のレーザビーム32は、積層箔15内を通過することになるが、その時点では、積層箔15自体は溶融部32aとして多層の積層箔ではなく一体化されていることもあり、熱逃げの場所もあれば、また箔内にあったエアーなどもすでに熱伝導溶融時に抜けている為、空隙が発生することはほとんどない。 なお、ここでは第1のレーザビームによって熱伝導溶融している溶融部30aの中でさらに第3のレーザビーム32に沿って、第2のキーホール32aが生じている。この第2のキーホール32aは、溶融部30aと比べて、レーザパワー密度の差に起因して溶融池の温度が高いと考えられる。その結果、第2のキーホール32aの下部の溶融部30aにおける熱伝導溶融も進行して、溶融部30a自体の深さがさらに深くなっていくと考えられる。 【0045】 以上によって、上板18、積層箔15、及び、下板19が溶融され、被溶接部材が溶接される。・・・」 「【0059】 今回、被溶接部材として、上板18、下板19を用いて積層箔15をはさんだ状態でレーザ加工を行ったが、片側だけの場合、積層箔15自体に剛性が無い為、上下板で挟んだ場合と同程度に強固に押さえることが難しく、本発明の効果を実現することは難しかった。これにより、上板18と下板19とで積層箔15を挟みこむことが必須であると考えられる。 【0060】 また実験結果より、上板18の厚さと下板19の厚さとを比較した場合、上板18の厚さ<下板19の厚さの場合、つまり上板18の厚さを下板19の厚さより薄くした方が溶融部における空隙の発生が少ないことを本発明者は確認している。この理由としては上板18を厚くすると上板18を積層箔15の近くまで溶融する為には大きなパワーが必要であり、その場合、積層箔15には大きなパワーのレーザが照射されてしまう可能性があり、そのリスクを避ける為にも下板19よりも上板18が薄いことが望ましい。」 (イ)図面 「【図2(a)】 ![]() 【図2(b)】 ![]() 【図2(c)】 ![]() 【図2(d)】 ![]() 【図2(e)】 ![]() 」 イ 上記アから、甲1には、以下の技術的事項(以下「甲1記載の技術的事項」という。)が記載されている、といえる。 「下板19(金属部材)の上に順に(第一面上に第一方向に)重ねられた積層箔15(複数の金属箔)、上板18に対して(段落【0036】)、下板19(前記金属部材)の反対側である上板18の表面からレーザビーム30〜32(レーザ光)を照射して上板18と積層箔15(前記複数の金属箔)と下板19(前記金属部材)とにわたる溶接金属を形成することにより、下板19(前記金属部材)と上板18と積層箔15(前記複数の金属箔)とを溶接する溶接方法(段落【0035】〜【0045】)であって、 上板18、下板19(前記金属部材)および積層箔15(前記複数の金属箔)のそれぞれは、アルミニウムまたは銅(銅系金属材料、アルミニウム系金属材料、ニッケル系金属材料、鉄系金属材料、およびチタン系金属材料のうちのいずれか一つ)で作られており(段落【0036】)、 レーザビーム30〜32(前記レーザ光)は、基本波である波長1070mm程度のもののほか、Arレーザ(発振波長:480.0nm、514.5nm)も使用できる、第3のレーザビーム32、第2のレーザビーム31および第1のレーザビーム30を含み(段落【0032】)、 レーザビーム30〜32(前記レーザ光)を、上板18の下板19(前記金属部材)とは反対側の表面(第二面)上に照射する(段落【0028】、【0035】〜【0045】)とともに上板18の表面(前記第二面)上で走査(掃引)し(段落【0034】)、 上板18の表面(前記第二面)上で、第3のレーザビーム32および第2のレーザビーム31のスポット径(前記第一レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第一強度領域)の全域が、第1のレーザビーム30のスポット径(前記第二レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第二強度領域)と重なり、第1のレーザビーム30のスポット径(前記第二強度領域)は、第3のレーザビーム32および第2のレーザビーム31のスポット径(前記第一強度領域)と重ならない、第3のレーザビーム32および第2のレーザビーム31のスポット径(当該第一強度領域)に対して走査方向(掃引方向)の前方に位置する領域と後方に位置する領域とを有し(段落【0028】、【0032】、図2(e))、 第1のレーザビーム30(前記第二レーザ光)および第2のレーザビーム31によって上板18の表面側の一部を熱伝導型溶融することにより上板19内に留まった溶融部30aを形成し(段落【0042】、図2(c))、第1のレーザビーム30及び第2のレーザビーム31が進行し熱伝導溶融により溶融部30aの深さが増加することによって積層箔15の部分で溶融が開始される(前記複数の金属箔の前記第二面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融する)ことにより(段落【0043】、図2(d))積層箔15自体が一体化された溶融部30a(前記溶接金属の第二部位、段落【0044】)を形成するとともに、第3のレーザビーム32(前記第一レーザ光)によって第2のキーホール32a(キーホール型溶融)を生じさせることにより下板19までも溶け込みが発生し(段落【0044】)溶融部30a(前記第二部位)に対して上板18の表面(前記第二面)とは反対側に隣接した位置から下板19(前記金属部材)内まで延びる溶融部30a(前記溶接金属の第一部位)を形成する(段落【0044】、図2(e))こと。」 (6)本件発明1と甲2発明Aとの対比 ア 相当関係 本件発明1と甲2発明Aとを対比すると、次の相当関係があるといえる。 (ア)甲2発明Aにおける「レーザ光L」は、その作用・機能からみて、本件発明1における「レーザ光」に相当し、以下同様に、「レーザ光L1」は「第一レーザ光」に、「レーザ光L2」は「第二レーザ光」に、「主ビームB1強度領域」は「第一強度領域」に、「副ビームB2強度領域」は「第二強度領域」に、「前方溶融池WPfとしての浅瀬領域R」は「溶接金属の第二部位」に、「キーホールを発生させる」は「キーホール型溶融を生じさせる」に、「溶融池WP1」は「溶融金属の第一部位」に、それぞれ相当する。 (イ)甲2発明Aにおける「銅やアルミニウムなどの金属材料である少なくとも2つの部材を重ねた加工対象W」は、溶接方法における溶接対象であることから、 「金属材料である少なくとも2つの部材を重ねた溶接対象」である限りにおいて、 本件発明1における、「金属部材」及び金属部材の第一面上に第一方向に重ねられた「複数の金属箔」と一致する。 また、甲2発明Aにおける「金属材料である少なくとも2つの部材を重ねた加工対象W」は、「銅やアルミニウムなど」の金属材料で形成されていることから、加工対象の金属材料の限りにおいて、本件発明1における「銅系金属材料、アルミニウム系金属材料、ニッケル系金属材料、鉄系金属材料、およびチタン系金属材料のうちのいずれか一つで作られて」いる点と一致する。 さらに、甲2発明Aにおける、金属材料である少なくとも2つの部材を重ねた加工対象Wの「照射面」は、レーザ光が溶接対象に対して照射される「照射面」であることから、溶接対象の「照射面」である限りにおいて、本件発明1における、複数の金属箔のうち第一方向において金属部材から最も離れた金属箔の金属部材とは反対側の「第二面」と一致する。 また、甲2発明における「レーザ光L2によって加工対象Wの照射面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより前方溶融池WPfとしての浅瀬領域Rを形成する」ことは、 「第二レーザ光によって溶接対象の照射面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより溶接金属の第二部位を形成する」ことの限りにおいて、 本件発明1における、「前記第二レーザ光によって前記複数の金属箔の前記第二面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより前記複数の金属箔内に留まった前記溶接金属の第二部位を形成する」ことと一致する。 (ウ)甲2発明Aにおける「レーザ光L1」の波長は、1070nmの赤外波長であるから、本件発明1における「第一レーザ光」の、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の数値範囲のなかに含まれる。同様に、「レーザ光L2」の波長は、450nmの波長であるから、本件発明1における「第二レーザ光」の、550[nm]以下の波長の数値範囲のなかに含まれる。 (エ)甲2発明Aにおける、「加工対象Wの照射面上で、レーザ光L1のピーク強度の1/e2以上の主ビームB1強度領域の少なくとも一部が、レーザ光L2のピーク強度の1/e2以上の副ビームB2強度領域と重な」る点は、 「照射面上で、第一レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第一強度領域の少なくとも一部が、第二レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第二強度領域と重な」る限りにおいて、 本件発明1における「前記第二面上で、前記第一レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第一強度領域の全域が、前記第二レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第二強度領域と重な」ることと一致する。 イ 一致点 上記アを踏まえると、本件発明1と甲2発明Aとは以下の点で一致する。 「金属材料である少なくとも2つの部材を重ねた溶接対象に対して、レーザ光を照射して金属材料である少なくとも2つの部材を重ねた溶接対象にわたる溶接金属を形成することにより、金属材料である少なくとも2つの部材を重ねた溶接対象を溶接する溶接方法であって、 金属材料である少なくとも2つの部材を重ねた溶接対象のそれぞれは、銅系金属材料、アルミニウム系金属材料、ニッケル系金属材料、鉄系金属材料、およびチタン系金属材料のうちのいずれか一つで作られており、 前記レーザ光は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光と、550[nm]以下の波長の第二レーザ光と、を含み、 前記レーザ光を、金属材料である少なくとも2つの部材を重ねた溶接対象の照射面上に照射するとともに前記照射面上で掃引し、 前記照射面上で、前記第一レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第一強度領域の少なくとも一部が、前記第二レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第二強度領域と重なり、前記第二強度領域は、前記第一強度領域と重ならない、当該第一強度領域に対して掃引方向の前方に位置する領域と後方に位置する領域とを有し、 前記第二レーザ光によって溶接対象の前記照射面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより前記溶接金属の第二部位を形成するとともに、前記第一レーザ光によってキーホール型溶融を生じさせることにより前記第二部位に対して前記照射面とは反対側に隣接した位置から前記金属部材内まで延びる前記溶接金属の第一部位を形成する、溶接方法。」 ウ 相違点 一方、本件発明1と甲2発明Aとは以下の相違点1〜3で相違する。 (ア)相違点1 「金属材料である少なくとも2つの部材を重ねた溶接対象」及び「照射面」に関して、 本件発明1においては、「金属部材」および「金属部材の第一面上に第一方向に重ねられた複数の金属箔」を溶接対象とし、「金属部材の反対側」から、すなわち「複数の金属箔のうち第一方向において金属部材から最も離れた金属箔」の「金属部材とは反対側」の「第二面」上にレーザ光を照射して、「複数の金属箔と金属部材とにわたる溶接金属を形成する」ことにより「金属部材と複数の金属箔とを溶接」する溶接方法であるのに対し、 甲2発明Aにおいては、「金属材料である少なくとも2つの部材を重ねた加工対象W」を溶接対象とし、加工対象Wの「照射面」上にレーザ光Lを照射して、加工対象Wにわたる溶接金属を形成することにより、加工対象Wを溶接する溶接方法であって、加工対象Wが金属部材および複数の金属箔であるか不明であり、そのため「照射面」が「複数の金属箔のうち第一方向において金属部材から最も離れた金属箔」の「金属部材とは反対側」の「第二面」であるか不明である点。 (イ)相違点2 「第一強度領域」と「第二強度領域」との位置関係に関して、 本件発明1においては、「第一強度領域の全域」が「第二強度領域」と重なるのに対し、 甲2発明Aにおいては、「主ビームB1強度領域の少なくとも一部」が「副ビームB2強度領域」と重なるものである点。 (ウ)相違点3 「第二レーザ光によって溶接対象の照射面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより溶接金属の第二部位を形成する」ことに関して、 本件発明1においては、「第二レーザ光によって前記複数の金属箔の前記第二面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより前記複数の金属箔内に留まった前記溶接金属の第二部位を形成する」ものであるのに対し 甲2発明Aにおいては、「前記レーザ光L2によって前記加工対象Wの前記照射面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより前方溶融池WPfとしての浅瀬領域Rを形成する」ものであって、上記(ア)のとおり、加工対象Wが金属部材および複数の金属箔であるか不明であるから、前方溶融池WPfとしての浅瀬領域Rが「複数の金属箔内に留まった」状態で形成されているか不明である点。 以下、事案に鑑み、相違点3について検討するが、当該検討の前に、相違点3に関連する相違点1について検討する。 (7)相違点1に対する当審の判断 ア 相違点1に関して、甲4〜甲6には、それぞれ、上記(3)ア(イ)〜ウ(イ)に示した、甲4〜甲6記載の技術的事項が記載されている。 イ 甲2発明Aと甲4〜甲6記載の技術的事項とは、銅やアルミニウムなどの部材にレーザ光を照射する溶接方法である点で技術分野が関連するとともに、少なくとも2つの部材を重ねた加工対象にレーザ光を照射して全ての部材にわたる溶接金属を形成することにより、少なくとも2つの部材を重ねた加工対象を溶接する方法である点で作用・機能が共通する。さらに、上記(2)エのとおり、甲2には、甲2発明Aを、リチウムイオン二次電池等を製造する工程におけるレーザ反射率の高い部材に対するレーザ溶接の方法に適用することが示唆されているといえる。してみると、甲2発明Aに甲4〜6記載の技術的事項を適用し、加工対象Wを、「金属部材」と、当該金属部材の第一面上に第一方向に重ねられた「複数の金属箔」とするとともに、レーザ光Lを「複数の金属箔のうち第一方向において金属部材から最も離れた金属箔」の「金属部材とは反対側」の「第二面」上に照射するようにすることで、上記相違点1に係る本件発明1のようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである、といえる。 (8)相違点3に対する当審の判断 ア 上記(7)のとおり、甲2発明Aの溶接対象を、金属部材の第一面上に第一方向に重ねられた複数の金属箔に改変し、金属箔の第二面上にレーザ光を照射するように構成することが、当業者にとって容易に想到し得たことであるとの前提で、相違点3を検討する。 イ 甲2発明Aに甲4〜甲6記載の技術的事項を適用した場合に、上記相違点3に係る本件発明1のように、金属部材から積層方向に最も離れた金属箔の照射面に450nmの波長のレーザ光L2を照射して、照射面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することによって形成される前方溶融池WPfとしての浅瀬領域Rが、「複数の金属箔内に留まった」状態となることについては、甲2及び甲4〜甲6に接した当業者であれば、複数の金属箔の全ての各表面を含むように(すなわち、金属部材の表面まで達するように)浅瀬領域Rを形成することを想到するというべきである(以下の(ア)〜(ウ))。 また、技術常識を照らしても、浅瀬領域Rが「複数の金属箔内」に留まるような現象が生じていると裏付けることもできず(以下の(エ)〜(オ))、さらに仮にそのような技術が公知であったとしても、相違点1に係る改変を前提として、さらに相違点3に係る改変を行うことは、多段階の改変となり得る(以下の(オ)〜(カ))ため、上記相違点3に係る本件発明1のようにすることは、当業者が容易になし得たということはできない。 以下、これらについて詳述する。 (ア)甲2には、レーザ光L2による副ビームB2にて形成される「前方溶融池WPf」(図14B)及び「浅瀬領域R」(図2B)に関して、上記(2)アのとおり次の記載がある。 「副ビームB2のパワー密度は、主ビームB1の存在下または単独にて、加工対象Wを溶融し得る強度である。したがって、主ビームB1が照射される位置よりも前方に、主ビームB1が溶融する深さよりも浅い領域がある溶融池WP1が溶融領域として形成されることになる。これを便宜上、浅瀬領域R(または前方溶融池WPf)と呼ぶことにする。」([0054]、[0111]) 「主ビームB1が照射される位置よりも前方に浅瀬領域R(または前方溶融池WPf)が存在することで、主ビームB1の照射位置の近傍で溶融池WP1(またはWP)が安定化する。」([0056]、[0113]) 「副ビームB2のパワー密度は、浅瀬領域Rが、許容されるポロシティ(空隙状、内部から表面まで穴の開いたピット形状、ブローホール等の溶接欠陥)の直径よりも深くなるようなパワー密度とすることが好ましい。これにより、ポロシティの原因の一つである、加工対象Wの表面に付着した不純物が、浅瀬領域Rを流れて主ビームB1が形成する溶融池WP1に流れ込むので、ポロシティが発生しにくくなる。」([0058]) 「少なくとも副ビームB2(本例では両方)を形成するレーザ光の波長は、加工対象の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長であるので、銅やアルミニウムなどの赤外波長における反射率が高い金属材料であっても、前方溶融池WPfを効率良く形成することができる。」([0114]) 「副ビームB2の目的は、主ビームB1が照射される位置よりも前方に前方溶融池WPfを形成することであり、前方溶融池WPfの作用は、主ビームB1の照射位置の近傍で溶融池WPの状態が安定化することにある。前方溶融池WPfの深さは、溶融池WPを安定させる程度の浅いもので十分であり、しかも、先述のように、副ビームB2を形成するレーザ光を加工対象の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長とすることで加工対象に対する反射率が低減されるので、パワー密度が過度に高いことが要求されない。」([0115]) 「第10実施形態に係る溶接装置およびこれを用いた溶接方法では、主ビームおよび副ビームのうち少なくとも副ビームを形成するレーザ光の波長は、加工対象の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長であるので、銅やアルミニウムなどの赤外波長における反射率が高い金属材料であっても、前方溶融池を効率良く形成することができる。」([0128]) (イ)上記(ア)から、加工対象Wの表面に付着した不純物が、浅瀬領域Rを流れて主ビームB1が形成する溶融池WP1に流れ込むように、浅瀬領域Rが、許容されるポロシティ(空隙状、内部から表面まで穴の開いたピット形状、ブローホール等の溶接欠陥)の直径よりも深くなるようなパワー密度とすることが好ましいことが明記されている。 (ウ)すなわち、甲2発明Aの加工対象Wを、甲4〜甲6記載の技術的事項のように「金属部材」と「複数の金属箔」とする場合、複数の金属箔における、それぞれの金属箔が表裏に表面を有することから、甲2の段落[0058]の記載に触れた当業者であれば、その各表面に付着した不純物が浅瀬領域Rを流れるようにするために、前方溶融池WPfとしての浅瀬領域Rの深さは、複数の金属箔の全ての各表面を含むように(積層方向の厚さ分にわたるように)形成することを想到することとなる、というべきである。 (エ)また、レーザ光による金属箔の溶融について、甲1を参照すると、上記(5)ア(ア)〜(イ)に摘記したように、下板19、積層箔15及び上板18の順に重ね合わされた被溶接部材に対するレーザ溶接方法に関し(段落【0036】)、第1のレーザビーム30と第2のレーザビーム31とが照射された時点では、溶融部30aは上板18に留まり、積層箔15に到達していない(段落【0042】、図2(c))ものの、熱伝導溶融により、溶融部30aの深さは増加し、積層箔15の部分で溶融が開始され(段落【0043】、図2(d))、第3のレーザビーム32が到着するまでに、「積層箔15自体は溶融部32aとして多層の積層箔ではなく一体化され」、そこに第3のレーザビーム32が照射されて下板19までも溶け込みが発生し、集電体全体が接合される(段落【0044】、図2(e))旨が記載されている。そして、「積層箔15自体は溶融部32aとして多層の積層箔ではなく一体化され」という記載は、積層箔15が全て溶融することを意味すると理解できる。 この理解をふまえると、積層箔15に対して、第2のレーザビーム31が照射されて通過した後で第3のレーザビーム32が照射される前までの間(図2(d)の右端の部分)では、エネルギー密度の低い第1のレーザビーム30のみが照射される状態であるところ、熱伝導溶融による積層箔15内の溶融は、エネルギー密度の低い第1のレーザビーム30であっても簡単に進行し続けてしまい、第3のレーザビーム32が走査されて到着するまでには、溶融部30aの深さが積層箔15の下板19に接する位置にまで達してしまうこと(積層箔自体は多層の積層箔ではなく溶融部として一体化されること)が理解できる。これは、甲1の段落【0012】に、「積層箔63は、積層されているとはいえ薄箔の集合体であり厚みのある金属一枚板とは異なり、箔自体の熱容量が小さく、また熱逃げの場所がない。」と記載されるように、積層箔15が、熱容量が小さな箔の集合体であることに起因するものであるため、といえる。 (オ)してみると、甲2発明Aに甲4〜甲6記載の技術的事項を適用したのみでは、レーザ光L2によって照射面から熱伝導型溶融により形成される前方溶融池WPfとしての浅瀬領域Rは、「複数の金属箔内に留まった」状態で形成されるというよりは、積極的・意識的にレーザ光L2の照射パワー密度等を制御・調整しない限りは、複数の金属箔の熱容量の小ささから、複数の金属箔内で溶融が進行し続け、金属部材との接合面に達するまで溶融されると解するのが妥当であるといえる。そして、当該制御・調整が仮に公知であったとしても、上記相違点3に係る本件発明1を想到するためには、相違点1に係る改変、すなわち、主引用発明である甲2発明Aに、甲4〜甲6記載の技術的事項を適用した上で、さらに当該制御・調整に係る技術を適用するように、多段階で改変する必要があるところ、そのような多段階の改変が当業者にとって容易であると評価するに足る根拠も見いだせない。 (カ)なお、甲12には、上記(4)ア(イ)に示したように、銅板Aと銅板Bとを溶接する溶接方法として、1kWの青色レーザーによって板厚1mmの銅板Bの照射面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより銅板B内に留まった溶接金属の第二部位(溶け込み深さが0.6〜0.7mm)を形成することが記載されていると解されるものの、銅板Bは、「厚みのある金属一枚板」(上記(エ)、甲1の段落【0012】)であって、その熱容量の違いから、複数の金属箔が積層されたものとは発生する溶融の進行速度が大きく異なるといえることから、直ちに相違点3について甲12に記載の技術的事項を採用することはできず、また、上記(オ)のとおり、上記相違点3に係る本件発明1を想到するためには、相違点1に係る改変を前提として、さらに、相違点3に係る改変を行うように、多段階の改変を必要とすることから、これまでの判断を覆すに至らない。 (キ)また、他の甲3、甲7〜甲11に記載された事項を参照しても、上記相違点3に係る本件発明1を想到することが、当業者にとって容易であると結論づける根拠を見いだせない。 (9)小括 したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明A、並びに、甲1及び甲3〜甲12に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないことから、本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。 2 本件発明3〜14について 本件発明3〜14は、請求項1の記載を引用するものであるところ、本件発明1が上記1のとおり、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないことから、本件発明3〜14についても同様に、甲2発明A、並びに、甲1及び甲3〜甲12に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 したがって、本件特許の請求項3〜14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。 3 本件発明15について 本件発明15は、溶接装置に係る発明であって、溶接方法に係る本件発明1と実質的に発明のカテゴリーのみが異なるものである。 そして、甲2には、方法の発明である甲2発明Aとともに、対応する装置の発明(以下「甲2発明B」という。)も記載されるものの、本件発明15と甲2発明Bとを対比すると、少なくとも相違点1及び相違点3と同様の相違点を有するといえるから、本件発明15は、本件発明1と同様の理由により、甲2発明B、並びに、甲1及び甲3〜甲12に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 したがって、本件特許の請求項15に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。 4 本件発明16〜19について 本件発明16〜19は、請求項15の記載を引用するものであるところ、本件発明15が上記3のとおり、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないことから、本件発明16〜19についても同様に、甲2発明B、並びに、甲1及び甲3〜甲12に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 したがって、本件特許の請求項16〜19に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。 第7 申立人が主張するその他の申立ての理由について 申立人による申立ての理由(上記第4の1)のうち、上記第6にて検討した以外の、その他の申立ての理由(上記第4の1(1))について、以下検討する。 <進歩性(特許法第29条第2項、同法第113条第2号)について> 請求項1〜19 甲1に記載された発明を主引用発明とした、進歩性欠如(申立書第12〜20、48〜61ページ) 1 本件発明1について (1)甲1に記載された発明の認定 甲1には、上記第6の1(5)アに示した事項が記載され、同イに示した甲1記載の技術的事項を含む、以下の発明(以下「甲1発明A」という。)が記載されているといえる。 「下板19(金属部材)の上に順に(第一面上に第一方向に)重ねられた積層箔15(複数の金属箔)、上板18に対して、下板19(前記金属部材)の反対側である上板18の表面からレーザビーム30〜32(レーザ光)を照射して上板18と積層箔15(前記複数の金属箔)と下板19(前記金属部材)とにわたる溶接金属を形成することにより、下板19(前記金属部材)と上板18と積層箔15(前記複数の金属箔)とを溶接する溶接方法であって、 上板18、下板19(前記金属部材)および積層箔15(前記複数の金属箔)のそれぞれは、アルミニウムまたは銅(銅系金属材料、アルミニウム系金属材料、ニッケル系金属材料、鉄系金属材料、およびチタン系金属材料のうちのいずれか一つ)で作られており、 レーザビーム30〜32(前記レーザ光)は、基本波である波長1070mm程度のもののほか、Arレーザ(発振波長:480.0nm、514.5nm)も使用できる、第3のレーザビーム32、第2のレーザビーム31および第1のレーザビーム30を含み、 レーザビーム30〜32(前記レーザ光)を、上板18の下板19(前記金属部材)とは反対側の表面(第二面)上に照射するとともに上板18の表面(前記第二面)上で走査(掃引)し、 上板18の表面(前記第二面)上で、第3のレーザビーム32および第2のレーザビーム31のスポット径(前記第一レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第一強度領域)の全域が、第1のレーザビーム30のスポット径(前記第二レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第二強度領域)と重なり、第1のレーザビーム30のスポット径(前記第二強度領域)は、第3のレーザビーム32および第2のレーザビーム31のスポット径(前記第一強度領域)と重ならない、第3のレーザビーム32および第2のレーザビーム31のスポット径(当該第一強度領域)に対して走査方向(掃引方向)の前方に位置する領域と後方に位置する領域とを有し、 第1のレーザビーム30(前記第二レーザ光)および第2のレーザビーム31によって上板18の表面側の一部を熱伝導型溶融することにより上板19内に留まった溶融部30aを形成し、第1のレーザビーム30および第2のレーザビーム31が進行し熱伝導溶融により溶融部30aの深さが増加することによって積層箔15の部分で溶融が開始される(前記複数の金属箔の前記第二面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融する)ことにより積層箔15自体が一体化された溶融部30a(前記溶接金属の第二部位)を形成するとともに、第3のレーザビーム32(前記第一レーザ光)によって第2のキーホール32a(キーホール型溶融)を生じさせることにより下板19までも溶け込みが発生し溶融部30a(前記第二部位)に対して上板18の表面(前記第二面)とは反対側に隣接した位置から下板19(前記金属部材)内まで延びる溶融部30a(前記溶接金属の第一部位)を形成する、溶接方法。」 (2)本件発明1と甲1発明Aとの対比 本件発明1と甲1発明Aとを対比すると、以下の相違点4〜5で相違し、その余の点で一致する。 ア 相違点4 本件発明1においては、「金属部材」および「金属部材の第一面上に第一方向に重ねられた複数の金属箔」を溶接対象とし、「金属部材の反対側」から、すなわち「複数の金属箔のうち第一方向において金属部材から最も離れた金属箔」の「金属部材とは反対側」の「第二面」上にレーザ光を照射して、「複数の金属箔と金属部材とにわたる溶接金属を形成する」ことにより「金属部材と複数の金属箔とを溶接」する溶接方法であり、第二レーザ光によって複数の金属箔の第二面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより複数の金属箔内に留まった溶接金属の第二部位を形成するのに対し、 甲1発明Aにおいては、「下板19」、「積層箔15」および「上板18」を順に重ね合わせたものを溶接対象とし、「下板19の反対側」から、すなわち「上板18の表面」上にレーザビーム30〜32を照射して、「上板18と積層箔と下板19とにわたる溶接金属を形成する」ことにより、「下板19と上板18と積層箔15とを溶接」する溶接方法であり、第1のレーザビーム30および第2のレーザビーム31によって上板18の表面側の一部を熱伝導型溶融することにより上板19内に留まった溶融部30aを形成し、第1のレーザビーム30及び第2のレーザビーム31が進行し熱伝導溶融により溶融部30aの深さが増加することによって積層箔15の部分で溶融が開始されることにより積層箔15自体が一体化された溶融部30aを形成する点。 イ 相違点5 本件発明1においては、レーザ光は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光と、550[nm]以下の波長の第二レーザ光と、を含んでいるのに対し、 甲1発明Aにおいては、レーザビーム30〜32は、第3のレーザビーム32、第2のレーザビーム31および第1のレーザビーム30を含んでおり、基本波である波長1070mm程度のもののほか、Arレーザ(発振波長:480.0nm、514.5nm)も使用できるものの、第1のレーザビーム30、第2のレーザビーム31、第3のレーザビームの各波長を異ならせたものであるのか、不明である点。 (3)相違点4に対する当審の判断 ア 相違点4に関して、甲4を参照すると、上記(3)ア(イ)に示した甲4記載の技術的事項が記載される。また、甲4には、次の記載がある。 「【0006】 しかしながら、保護板は、タブ群と導電部材を溶接する際に、タブ群に溶接されるため、タブ群と導電部材とを溶接する度に必要になる。また、保護板は、二次電池の部品点数の増加につながる。 【0007】 本発明の目的は、保護板を用いなくても未塗工部の破れの発生を抑制できる溶接用治具及び溶接部の形成方法を提供することにある。」 イ 甲1発明Aと甲4記載の技術的事項とは、銅やアルミニウムからなる電極をレーザ溶接する方法である点で技術分野が関連するとともに、複数の金属箔と金属部材とを溶接する点で作用・機能が共通する。さらに、上記アのとおり、甲4には、甲1発明Aが備える上板18を用いなくとも、積層箔15(タブ群)と下板19(導電部材)とを溶接するとの、記載上の示唆がある。 ウ しかしながら、甲1発明Aは、第1のレーザビーム30および第2のレーザビーム31により、上板18の表面側の一部を熱伝導型溶融することにより溶融部30aを形成し(図2(c))、その後、第1のレーザビーム30および第2のレーザビーム31が進行し熱伝導溶融により溶融部30aの深さが増加することによって積層箔15の部分で溶融が開始される(図2(d))ことにより、積層箔15自体が一体化された溶融部30aを形成するものである。 そして、甲1発明Aの溶融部30aは、積層箔全体を溶融して下板19にまで達するものであるから、仮に、甲1発明Aに、甲4記載の技術的事項を適用したとしても、相違点4に係る「第二レーザ光によって複数の金属箔の第二面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより複数の金属箔内に留まった溶接金属の第二部位を形成する」という構成には至らない。 また、他の甲2〜3及び5〜12を参照しても、「第二レーザ光によって複数の金属箔の第二面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより複数の金属箔内に留まった溶接金属の第二部位を形成する」ことについては、記載や示唆はない。 したがって、相違点4は、甲1発明A及び甲2〜12に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。 (4)小括 したがって、本件発明1は、甲1発明A、及び、甲2〜甲12に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないことから、本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。 2 本件発明3〜14について 本件発明3〜14は、本件訂正後の請求項1の記載を引用するものであるところ、本件発明1が上記1のとおり、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないことから、本件発明3〜14についても同様に、甲1発明A、及び、甲2〜甲12に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 したがって、本件特許の請求項3〜14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。 3 本件発明15について 本件発明15は、溶接装置に係る発明であって、溶接方法に係る本件発明1と実質的に発明のカテゴリーのみが異なるものである。 そして、甲1には、方法の発明である甲1発明Aとともに、対応する装置の発明(以下「甲1発明B」という。)も記載されるものの、本件発明15と甲1発明Bとを対比すると、少なくとも相違点4〜5と同様の相違点を有するといえるから、本件発明15は、本件発明1と同様の理由により、甲1発明B、及び、甲2〜甲12に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 したがって、本件特許の請求項15に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。 4 本件発明16〜19について 本件発明16〜19は、本件訂正後の請求項15の記載を引用するものであるところ、本件発明15が上記3のとおり、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないことから、本件発明16〜19についても同様に、甲1発明B、及び、甲2〜甲12に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 したがって、本件特許の請求項16〜19に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。 第8 申立人意見書における申立人の主張について 1 申立人の主張 申立人は、申立人意見書において、訂正事項1(及び15)により訂正された次の事項: 「前記第二レーザ光によって前記複数の金属箔の前記第二面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより前記複数の金属箔内に留まった前記溶接金属の第二部位を形成するとともに、前記第一レーザ光によってキーホール型溶融を生じさせることにより前記第二部位に対して前記第二面とは反対側に隣接した位置から前記金属部材内まで延びる前記溶接金属の第一部位を形成する」 に関して、次の点を主張する。 (1)訂正要件違反(新規事項)について(申立人意見書第2〜6ページ) 上記事項に関して、 ア 本件明細書の段落【0050】には「第一部位14a1は、主として第一レーザ光の照射によって形成され、第二部位14a2は、主として第二レーザ光の照射によって形成される。」と記載されるのみであり、「第二レーザ光」及び「第一レーザ光」のみによって「第二部位」及び「第一部位」がそれぞれ形成されている訳ではないので、当該事項は、本件明細書等に記載された範囲内のものといえない。 イ 本件明細書の段落【0050】に「第二部位14a2は、少なくとも複数の金属箔12内に形成されている」と記載されるのみであり、また、図1〜2を踏まえても「前記複数の金属箔内に留まった前記溶接金属の第二部位を形成する」点は、本件明細書等に記載されていたとはいえない。 (2)新たな相違点5について(申立人意見書第13〜16ページ) 本件明細書の段落【0075】の記載から、第二部位の深さはビート幅の1/2であり、甲12の図4〜6の条件に当て嵌めれば、第二部位の深さは約0.9mmであって銅板の板厚の1mmよりも小さいから、甲12には、第二部位が上側の銅板内に留まることが開示されている。 2 当審の判断 上記主張について検討する。 (1)について 上記第2の4(1)イ(オ)にて検討したように、訂正事項1のうち申立人が指摘する事項は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 上記1(1)アについてみると、訂正事項1においては、「前記第二レーザ光のみによって・・・、前記第一レーザ光のみによって・・・」とまで訂正されたものでなく、訂正事項1は、本件明細書等に記載された事項の範囲内のものであるといえる。 上記1(1)イについても、明細書に「第二部位14a2は、少なくとも複数の金属箔12内に形成されている」と記載されることから、第二部位14a2が複数の金属箔12内のみに形成されている概念が示されているといえ、また、図2を併せて参照すれば、第二部位14a2が複数の金属箔12内に留まって形成されていると解釈できることから、訂正事項1は、本件明細書等に記載された事項の範囲内のものであるといえる。 (2)について 上記第6の1(7)及び上記第7の1(3)において検討したように、訂正事項1(及び15)により訂正された上記事項は、甲2発明A並びに甲1及び甲3〜12記載の技術的事項、及び、甲1発明A及び甲2〜甲12記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。 申立人は、甲12には、第二部位は上側の銅板内に留まるものであることを主張するものの、上記第6の1(7)ウ(カ)に示したとおり、甲12に記載された事項をもって、第二部位が複数の金属箔内に留まることを容易に想到し得たとはいうことができない(なお、本件明細書に記載の実験の条件と甲12に記載の実験の条件とは、溶接対象等の点で異なることから、申立人の主張の根拠をそのまま採用することはできない。当審の甲12記載の技術的事項の認定は、上記第6の1(4)アに基づく。)。 したがって、申立人の申立人意見書での主張は、採用できない。 第9 むすび 以上のとおり、本件特許の請求項1、3〜19に係る特許は、取消理由通知に示した取消理由(上記第6を参照。)、又は、申立書に記載された申立ての理由(上記第7を参照。)によっては、取り消すことはできない。また、本件特許の請求項1、3〜19に係る特許を取り消すべき他の理由も発見しない。 そして、本件特許の請求項2は、上記第2及び第3のとおり、本件訂正により削除された。これにより、申立人による本件特許の請求項2に係る特許に対する特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 金属部材の第一面上に第一方向に重ねられた複数の金属箔に対して、前記金属部材の反対側からレーザ光を照射して前記複数の金属箔と前記金属部材とにわたる溶接金属を形成することにより、前記金属部材と前記複数の金属箔とを溶接する溶接方法であって、 前記金属部材および前記複数の金属箔のそれぞれは、銅系金属材料、アルミニウム系金属材料、ニッケル系金属材料、鉄系金属材料、およびチタン系金属材料のうちのいずれか一つで作られており、 前記レーザ光は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光と、550[nm]以下の波長の第二レーザ光と、を含み、 前記レーザ光を、前記複数の金属箔のうち前記第一方向において前記金属部材から最も離れた金属箔の前記金属部材とは反対側の第二面上に照射するとともに前記第二面上で掃引し、 前記第二面上で、前記第一レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第一強度領域の全域が、前記第二レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第二強度領域と重なり、前記第二強度領域は、前記第一強度領域と重ならない、当該第一強度領域に対して掃引方向の前方に位置する領域と後方に位置する領域とを有し、 前記第二レーザ光によって前記複数の金属箔の前記第二面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより前記複数の金属箔内に留まった前記溶接金属の第二部位を形成するとともに、前記第一レーザ光によってキーホール型溶融を生じさせることにより前記第二部位に対して前記第二面とは反対側に隣接した位置から前記金属部材内まで延びる前記溶接金属の第一部位を形成する、溶接方法。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 前記金属部材の前記第一方向の厚さが0.05[mm]以上2.0[mm]以下であり、かつ前記複数の金属箔の層の厚さが0.05[mm]以上2.0[mm]以下である、請求項1に記載の溶接方法。 【請求項4】 前記レーザ光を、ウォブリング、ウィービング、または出力変調を行いながら前記第二面に照射する、請求項1または3に記載の溶接方法。 【請求項5】 前記第二面上で、前記レーザ光を複数回掃引する、請求項1、3、4のうちいずれか一つに記載の溶接方法。 【請求項6】 前記第二面上で、前記レーザ光を掃引し、前記第二面上での掃引の途中で前記第二面上での掃引速度を変更する、請求項1、3〜5のうちいずれか一つに記載の溶接方法。 【請求項7】 前記第二面上で、前記レーザ光を掃引し、前記第二面上での掃引の途中で前記レーザ光のパワーを変更する、請求項1、3〜6のうちいずれか一つに記載の溶接方法。 【請求項8】 前記金属部材は、めっき付き金属板を含む、請求項1、3〜7のうちいずれか一つに記載の溶接方法。 【請求項9】 前記第二面上において、前記第二レーザ光によって前記第二面上に形成される第二スポットは、前記第一レーザ光によって前記第二面上に形成される第一スポットより広い、請求項1、3〜8のうちいずれか一つに記載の溶接方法。 【請求項10】 前記レーザ光は、前記第二面の法線方向が前記第一方向と略平行な状態で、前記第二面上に照射される、請求項1、3〜9のうちいずれか一つに記載の溶接方法。 【請求項11】 前記第二面上において、前記レーザ光によって前記第二面上に形成されるスポットの形状は、当該スポットの中心に対する点対称形状を有する、請求項1、3〜10のうちいずれか一つに記載の溶接方法。 【請求項12】 前記第一レーザ光と前記第二レーザ光とが同軸で照射される、請求項1、3〜11のうちいずれか一つに記載の溶接方法。 【請求項13】 前記第二面上において、前記第一レーザ光によって前記第二面上に形成される第一スポットの中心と、前記第二レーザ光によって前記第二面上に形成される第二スポットの中心とが略一致する、請求項1、3〜12のうちいずれか一つに記載の溶接方法。 【請求項14】 前記第二面上において、前記第一レーザ光によって前記第二面上に形成される第一スポットと、前記第二レーザ光によって前記第二面上に形成される第二スポットとが、互いにずれている、請求項1、3〜10のうちいずれか一つに記載の溶接方法。 【請求項15】 レーザ発振器と、 金属部材の第一面上に第一方向に重ねられた複数の金属箔に対して、前記金属部材の反対側から、前記レーザ発振器からのレーザ光を照射する光学ヘッドと、 を備え、前記複数の金属箔と前記金属部材とにわたる溶接金属を形成することにより前記金属部材と前記複数の金属箔とを溶接する溶接装置であって、 前記金属部材および前記複数の金属箔のそれぞれは、銅系金属材料、アルミニウム系金属材料、ニッケル系金属材料、鉄系金属材料、およびチタン系金属材料のうちのいずれか一つで作られており、 前記レーザ光は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光と、500[nm]以下の波長の第二レーザ光と、を含み、 前記光学ヘッドは、前記レーザ光を、前記複数の金属箔のうち前記第一方向において前記金属部材から最も離れた金属箔の前記金属部材とは反対側の第二面上に照射するとともに前記第二面上で掃引し、 前記第二面上で、前記第一レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第一強度領域の全域が、前記第二レーザ光のピーク強度の1/e2以上の第二強度領域と重なり、前記第二強度領域は、前記第一強度領域と重ならない、当該第一強度領域に対して掃引方向の前方に位置する領域と後方に位置する領域とを有し、 前記第二レーザ光によって前記複数の金属箔の前記第二面側の少なくとも一部を熱伝導型溶融することにより前記複数の金属箔内に留まった前記溶接金属の第二部位を形成するとともに、前記第一レーザ光によってキーホール型溶融を生じさせることにより前記第二部位に対して前記第二面とは反対側に隣接した位置から前記金属部材内まで延びる前記溶接金属の第一部位を形成する、溶接装置。 【請求項16】 前記レーザ光を複数のビームに分割するビームシェイパを備えた、請求項15に記載の溶接装置。 【請求項17】 前記レーザ光が前記第二面上で前記第一方向と交差した第二方向に沿う掃引方向に移動するよう、前記レーザ光の出射方向を変化させるガルバノスキャナを備えた、請求項15または16に記載の溶接装置。 【請求項18】 前記光学ヘッドは、前記レーザ光を、ウォブリング、ウィービング、または出力変調を行いながら前記第二面に照射する、請求項15〜17のうちいずれか一つに記載の溶接装置。 【請求項19】 前記光学ヘッドは、前記第一レーザ光と前記第二レーザ光とを同軸で照射する、請求項15〜18のうちいずれか一つに記載の溶接装置。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2024-08-08 |
出願番号 | P2022-528922 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(B23K)
|
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
刈間 宏信 |
特許庁審判官 |
大山 健 鈴木 貴雄 |
登録日 | 2023-04-25 |
登録番号 | 7269443 |
権利者 | 古河電気工業株式会社 |
発明の名称 | 溶接方法および溶接装置 |
代理人 | 弁理士法人酒井国際特許事務所 |
代理人 | 弁理士法人酒井国際特許事務所 |