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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  H02H
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  H02H
管理番号 1417672
総通号数 36 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-12-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2024-08-26 
確定日 2024-11-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第7439139号発明「光発電システムの保護装置及び保護方法並びに光発電システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7439139号の請求項1〜4、25、26、30、31、34、35、37、40に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7439139号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜40に係る特許についての出願は、2021年(令和3年)3月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2020年4月13日、中華人民共和国)を国際出願日とする出願であって、令和6年2月16日にその特許権の設定登録がされ、同年2月27日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対し、令和6年8月26日に特許異議申立人 上杉 隆一(以下「特許異議申立人」という。)が特許異議の申立てをし、同年10月1日に特許異議申立人が特許異議申立書の補正をした。


第2 本件発明
特許第7439139号の請求項1〜40の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明40」といい、これらを総称して「本件発明」ということがある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜40に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
光発電システムに適用される前記光発電システムの保護装置であって、前記装置はインタフェイス、保護スイッチ、直流母線及びコントローラを備え、
前記装置は前記インタフェイスを用いて少なくとも2つの光起電力部に接続され、前記少なくとも2つの光起電力部は前記直流母線に前記装置内で接続されて少なくとも1つ又は2つのブランチを形成し、各ブランチは2つまたは3つの光起電力部に並列接続で接続され、
前記コントローラは、前記ブランチのパラメータ検出値又は前記直流母線のパラメータ検出値に基づいて、前記光発電システムに障害があることを検出する場合に、前記直流母線から前記光起電力部の全部又は一部を切断し、並列に直接接続される前記光起電力部の最大数を確実に3より少なくするように前記保護スイッチを制御するように構成される、
保護装置。
【請求項2】
前記パラメータ検出値が逆電流値であり、前記コントローラは、前記光発電システムに障害があることが、ブランチの逆電流値が第1の電流値を超えることを意味するように、特に構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記装置は前記インタフェイスを用いて少なくとも3つの光起電力部に接続され、少なくとも1つの光起電力部が前記直流母線に並列に直接接続され、残りの光起電力部の各々と少なくとも1つの保護スイッチとが直列に接続されてから前記直流母線に並列に接続される、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記装置は前記インタフェイスを用いて少なくとも3つの光起電力部に接続され、最大2つ又は3つの光起電力部が前記直流母線に並列に直接接続され、残りの光起電力部の各々と少なくとも1つの保護スイッチとが直列に接続されてから前記直流母線に並列に接続される、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記装置は前記インタフェイスを用いて3つの光起電力部に接続され、2つの光起電力部が前記直流母線に並列に直接接続され、それ以外の1つの光起電力部と少なくとも1つの保護スイッチとが直列に接続されてから前記直流母線に並列に接続される、請求項3に記載の装置。
【請求項6】
前記装置は前記インタフェイスを用いて3つの光起電力部に接続され、2つの光起電力部と少なくとも1つの保護スイッチとが個別に直列に接続されてから前記直流母線に並列に接続され、それ以外の1つの光起電力部が前記直流母線に並列に直接接続される、請求項3に記載の装置。
【請求項7】
前記装置は前記インタフェイスを用いて4つの光起電力部に接続され、まず2つの光起電力部が並列に接続され、次に並列に接続された前記2つの光起電力部と少なくとも1つの保護スイッチとが直列に接続されてから前記直流母線に並列に接続され、それ以外の2つの光起電力部が前記直流母線に並列に直接接続される、請求項3に記載の装置。
【請求項8】
前記装置は前記インタフェイスを用いて4つの光起電力部に接続され、2つの光起電力部が並列に直接接続され、それ以外の2つの光起電力部と少なくとも1つの保護スイッチとが個別に直列に接続されてから、個別に直列に接続された前記それ以外の2つの光起電力部及び前記少なくとも1つの保護スイッチと、前記2つの光起電力部とが前記直流母線に並列に接続される前に並列に接続される、請求項3に記載の装置。
【請求項9】
前記装置は前記インタフェイスを用いて4つの光起電力部に接続され、1つの光起電力部と少なくとも1つの保護スイッチとが直列に接続されてから前記直流母線に並列に接続され、それ以外の3つの光起電力部が前記直流母線に並列に直接接続される、請求項3に記載の装置。
【請求項10】
前記装置は前記インタフェイスを用いて4つの光起電力部に接続され、まず3つの光起電力部が並列に接続され、次に並列に接続された前記3つの光起電力部と少なくとも1つの保護スイッチとが直列に接続されてから前記直流母線に並列に接続され、それ以外の1つの光起電力部が前記直流母線に並列に直接接続される、請求項3に記載の装置。
【請求項11】
前記光起電力部が1つの保護スイッチに直列に接続される場合、前記保護スイッチは前記光起電力部の正の出力端部又は負の出力端部に直列に接続される、請求項3から6,8及び9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記光起電力部が2つの保護スイッチに直列に接続される場合、前記2つの保護スイッチは前記光起電力部の正の出力端部と負の出力端部とに個別に直列に接続される、請求項3から6,8及び9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
まず複数の光起電力部が並列に接続されてから1つの保護スイッチに直列に接続される場合、前記複数の光起電力部の正の出力端部が並列に接続されてから1つの保護スイッチに直列に接続されるか、前記複数の光起電力部の負の出力端部が並列に接続されてから別の保護スイッチに直列に接続されるかする、請求項7又は10に記載の装置。
【請求項14】
まず複数の光起電力部が並列に接続されてから2つの保護スイッチに直列に接続される場合、前記複数の光起電力部の正の出力端部が並列に接続されてから一方の保護スイッチに直列に接続され、前記複数の光起電力部の負の出力端部が並列に接続されてから他方の保護スイッチに直列に接続される、請求項7又は10に記載の装置。
【請求項15】
前記コントローラは、ブランチの電流の絶対値が前記直流母線の電流の絶対値を超えるときに、ブランチの逆電流が前記第1の電流値を超えると判断するように特に構成される、請求項2から14のいずれか一項に記載の装置。
【請求項16】
前記装置は第1の電流センサと第2の電流センサとをさらに備え、
前記第1の電流センサは前記直流母線の前記電流の前記絶対値を取得して前記絶対値を前記コントローラに送るように構成され、
前記第2の電流センサはブランチの電流の既定の絶対値を取得して前記絶対値を前記コントローラに送るように構成される、
請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記装置は電力回路をさらに備え、
前記電力回路は直流−直流DC−DC変換回路又は直流−交流DC−AC変換回路である、
請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記装置は第1の電圧センサと直流スイッチとをさらに備え、
前記直流スイッチを用いて前記直流母線が前記電力回路の入力端部に接続され、
前記第1の電圧センサは前記直流母線の電圧の絶対値を取得して前記絶対値を前記コントローラに送るように構成される、
請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記コントローラは、ブランチの電流方向が既定の電流方向とは反対であるときに、ブランチの逆電流が前記第1の電流値を超えると判断するように特に構成される、請求項2から14のいずれか一項に記載の装置。
【請求項20】
前記装置は第3の電流センサと第4の電流センサとをさらに備え、
前記第3の電流センサは、第1の検出箇所の電流検出方向を取得して前記電流検出方向を前記コントローラに送り、前記第1の検出箇所がいずれかのブランチにある、ように構成され、
前記第4の電流センサは、第2の検出箇所の電流検出方向を取得して前記電流検出方向を前記コントローラに送り、前記第1の検出箇所がある前記ブランチ以外のすべてのブランチが前記第2の検出箇所で寄り集められる、ように構成される、
請求項19に記載の装置。
【請求項21】
前記コントローラは、前記第1の検出箇所の前記電流検出方向が前記第1の検出箇所の既定の電流方向とは反対であるとき、又は前記第2の検出箇所の前記電流検出方向が前記第2の検出箇所の既定の電流方向とは反対であるときに、開放状態になるように前記保護スイッチを制御するように特に構成される、請求項20に記載の装置。
【請求項22】
電力回路をさらに備え、
前記電力回路は直流−直流DC−DC変換回路又は直流−交流DC−AC変換回路である、
請求項21に記載の装置。
【請求項23】
前記装置は第5の電流センサ、第2の電圧センサ及び直流スイッチをさらに備え、
前記直流スイッチを用いて前記直流母線が前記電力回路の入力端部に接続され、
前記第5の電流センサは前記直流母線の電流の絶対値を取得して前記絶対値を前記コントローラに送るように構成され、
前記第2の電圧センサは前記直流母線の電圧の絶対値を取得して前記絶対値を前記コントローラに送るように構成される、
請求項22に記載の装置。
【請求項24】
前記コントローラは、前記直流母線の前記電流の前記絶対値が第2の電流値を超え、前記直流母線の前記電圧の前記絶対値が第1の電圧値未満であるときに、開放状態になるように前記直流スイッチを制御するようにさらに構成される、請求項18又は23に記載の装置。
【請求項25】
前記コントローラは、前記ブランチの前記パラメータ検出値が第1の既定のパラメータ値範囲を超えるとき、又は前記直流母線の前記パラメータ検出値が第2の既定のパラメータ値範囲を超えるときに、前記光発電システムに障害があると判断するように特に構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項26】
前記パラメータ検出値は、
電圧値、電流値、電力値又は温度値
の少なくとも1つである、請求項25に記載の装置。
【請求項27】
前記コントローラは、前記直流母線のリーク電流検出値が第3の電流値を超えるとき、又はブランチのリーク電流検出値が第4の電流値を超えるときに、前記光発電システムに障害があると判断するように特に構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項28】
前記コントローラは、前記ブランチすべての電流検出値に基づいて、ブランチにアークによる障害が存在すると判断するとき、又は前記直流母線の電流検出値に基づいて、前記直流母線にアークによる障害が存在すると判断するときに、前記光発電システムに障害があると判断するように特に構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項29】
前記コントローラは、ブランチにアークによる障害が存在すると判断するときに、前記障害があるブランチを前記直流母線から切断するように前記保護スイッチを制御するか、開放状態になるようにすべての保護スイッチを制御するかするようにさらに構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項30】
前記コントローラはホストコンピュータによって送られた制御指示にしたがって開放状態又は閉鎖状態になるように前記保護スイッチを制御するようにさらに構成される、請求項1から29のいずれか一項に記載の装置。
【請求項31】
前記最大3つの光起電力部は並列に直接接続されてから1つのインタフェイスに接続されるか、前記最大3つの光起電力部は対応するインタフェイスを用いて前記装置内で並列に接続されるかする、請求項4に記載の装置。
【請求項32】
前記光起電力部及び保護部が直列又は並列に接続されてから前記インタフェイスを用いて前記装置に接続される場合、前記保護スイッチは開放状態にあるときに、前記保護部が保護動作を開始するのを妨げるようにさらに構成される、請求項1から29のいずれか一項に記載の装置。
【請求項33】
前記保護部は、
ヒューズ、オプティマイザ、断路ボックス、又はロータリ直流スイッチ断路器又は直流回路遮断器
の少なくとも1つを備える、請求項32に記載の装置。
【請求項34】
光発電システムの保護装置に適用される前記光発電システムの保護方法であって、前記保護装置はインタフェイスを用いて少なくとも2つの光起電力部に接続され、前記少なくとも2つの光起電力部は前記装置内で直流母線に接続されて少なくとも1つ又は2つのブランチを形成し、各ブランチは2つまたは3つの光起電力部に並列接続で接続され、前記方法は、
前記ブランチのパラメータ検出値又は前記直流母線のパラメータ検出値に基づいて、前記光発電システムに障害があることを検出する場合に、前記直流母線から前記光起電力部の全部又は一部を切断し、並列に直接接続される前記光起電力部の最大数を確実に3より少なくするように、前記光起電力部と前記直流母線との間に配置された保護スイッチを制御するステップ
を備える、方法。
【請求項35】
前記パラメータ検出値は逆電流値であり、前記ブランチのパラメータ検出値又は前記直流母線のパラメータ検出値に基づいて、前記光発電システムに障害があることを検出する前記ステップは、
ブランチの逆電流値が第1の電流値を超えるときに、前記光発電システムに障害があることを検出するステップ
を特に備える、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記装置は電力回路をさらに備え、前記電力回路の入力端部には直流スイッチを用いて前記直流母線が接続され、前記方法は、
前記直流母線の電流の絶対値が第2の電流値を超え、前記直流母線の電圧の絶対値が第1の電圧値未満であるときに、開放状態になるように前記直流スイッチを制御するステップ
をさらに備える、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記パラメータ検出値は電圧値、電流値、電力値又は温度値の少なくとも1つであり、前記ブランチのパラメータ検出値又は前記直流母線のパラメータ検出値に基づいて、前記光発電システムに障害があることを検出する前記ステップは、
前記ブランチの前記パラメータ検出値が第1の既定のパラメータ値範囲を超えるとき、又は前記直流母線の前記パラメータ検出値が第2の既定のパラメータ値範囲を超えるときに、前記光発電システムに障害があることを検出するステップ
を特に備える、請求項35又は36に記載の方法。
【請求項38】
前記ブランチのパラメータ検出値又は前記直流母線のパラメータ検出値に基づいて、前記光発電システムに障害があることを検出する前記ステップは、
前記直流母線のリーク電流検出値が第3の電流値を超えるとき、又は前記ブランチのリーク電流検出値が第4の電流値を超えるときに、前記光発電システムに障害があることを検出するステップ
を特に備える、請求項34に記載の方法。
【請求項39】
前記ブランチのパラメータ検出値又は前記直流母線のパラメータ検出値に基づいて、前記光発電システムに障害があることを検出する前記ステップは、
前記ブランチすべての電流検出値に基づいて、ブランチにアークによる障害が存在することを検出するとき、又は前記直流母線の電流検出値に基づいて、前記直流母線にアークによる障害が存在することを検出するときに、前記光発電システムに障害があることを検出するステップ
を特に備える、請求項34に記載の方法。
【請求項40】
少なくとも2つの光起電力部と請求項1から32のいずれか一項に記載の保護装置とを備える光発電システムであって、各光起電力部は1つ以上の光起電力構成要素を備え、
前記光起電力構成要素は光エネルギーを用いて直流を発生するように構成される、
光発電システム。」


第3 特許異議申立理由の概要
1 申立理由
特許異議申立人が主張する特許異議申立理由の概要は、次のとおりである。

(1)申立理由1
請求項1、2、25、26、34、35、37、40に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明であるので、同請求項に係る特許は、特許法第113条第2号に該当する。
請求項1、2、25、26、34、35、37、40に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項3、4、31に係る発明は、甲第1号証及び甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項30に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜4、25、26、30、31、34、35、37、40に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、同請求項に係る特許は、特許法第113条第2号に該当する。

(2)申立理由2
請求項1、2、25、26、34、35、37、40に係る発明は、甲第3号証及び甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項3、4、31に係る発明は、甲第3号証、甲第1号証及び甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項30に係る発明は、甲第3号証、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜4、25、26、30、31、34、35、37、40に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、同請求項に係る特許は、特許法第113条第2号に該当する。

(3)申立理由3
請求項1〜4、25、26、30、31、34、35、37、40に係る発明は、甲第4号証及び甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、同請求項に係る特許は、特許法第113条第2号に該当する。

(4)申立理由4
請求項1〜4、25、26、30、31、34、35、37、40に係る発明は、甲第4号証及び甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、同請求項に係る特許は、特許法第113条第2号に該当する。

2 証拠方法
特許異議申立人が特許異議申立書に添付した証拠方法は、以下のとおりである(以下、甲第1号証〜甲第5号証を「甲1」等という。)。

甲1:特表2016−506227号公報
甲2:国際公開第2012/046331号
甲3:特表2013−501495号公報
甲4:特表2017−530680号公報
甲5:欧州特許第3050117号明細書


第4 当審の判断
1 甲号証の記載
事案に鑑み、以下では、甲1、甲3、甲4及び甲5の記載を引用する。

(1)甲1
ア 甲1の記載事項
甲1には、次の事項が記載されている(下線は当審で付与したものである。以下、同じ。)。

「【0007】
本発明は、DC電圧中間回路が、光起電力発生器によって生成されたエネルギーを公共のACグリッドシステムに供給するインバータの中間入力回路として構成されている、光起電力設備で適用されるように特に意図される。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、光起電力発生器の、共通のDC電圧中間回路に並列に接続されている複数のストリングをリターン電流から保護する方法および装置であって、ハードウェアの最小限の出費だけで実施可能な方法および装置を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の目的は、独立特許請求項1に記載された特徴を有する方法、および独立特許請求項8に記載された特徴を有する装置によって成し遂げられる。本発明による方法および本発明による装置の実施形態の好ましい形式が、従属特許請求項に記載されている。
【0015】
本発明は、光起電力発生器の複数のストリングであって、それぞれ、DC/DCコンバータを介して小グループで並列に共通のDC電圧中間回路に接続されている複数のストリングをリターン電流から保護する方法に関する。この方法により、DC/DCコンバータのそれぞれを通って流れる電流が検出され、DC/DCコンバータの1つを通って流れるリターン電流が、DC/DCコンバータの制御によって抑制される。必ずしも小さなリターン電流がすべて、DC/DCコンバータの1つによって抑制される必要があるのではなく、リターン電流が、DC/DCコンバータのそれぞれによって抑制されるように閾値を設定することが可能であることが理解される。したがって、リターン電流を抑制するDC/DCコンバータの制御機能を不必要にトリッピングすることを回避することができる。」

「【0019】
この文脈において、「DC/DCコンバータを通電するリターン電流」とは電流であって、この電流によって、DC/DCコンバータを介してDC電圧中間回路に接続されているストリングに、DC電圧中間回路からの電気エネルギーが流れる電流であると理解される。すなわち、DC/DCコンバータを通電するリターン電流は、ストリングからDC電圧中間回路に流れるはずの電流に対して反対方向に流れる。DC/DCコンバータを通電するこの種のリターン電流は、臨界電流に関連する故障、具体的には、接続されているストリングの1つを通電するリターン電流に関連する故障を示唆するものである。このことは、たとえDC/DCコンバータを通電するリターン電流が単に小さいだけであり、したがって、接続されているストリングの1つを通電する関連するリターン電流が臨界状態ではない場合であっても当てはまるであろう。本発明では、DC/DCコンバータを通って流れる電流だけが、リターン電流に関してモニタリングされる。にもかかわらず、接続されているストリングすべてで、過負荷からの保護を実現することが可能である。
【0020】
この文脈において、「小グループ」とは、光が当たらないか、または他の理由に関連して、ストリングの1つの出力電圧が低下しても、またストリングの1つが誤った極性で接続されても、いずれの場合も、小グループの残りのストリングから、1つのストリングを通って流れ、前記ストリングに損傷を及ぼすことになる電流を引き起こさないくらいの、十分に小さい数のストリングであると理解される。小グループが2つのストリングからなる場合には、または単一ストリングからなる場合であっても、このことが保証される。グループは、安全を最大化するためだけではなく、1つのDC/DCコンバータにつき1つのストリングだけを用いた配置と比較して、DC/DCコンバータの数を半減させる手段としても、2つのストリングで構成されるのが好ましい。
【0021】
本発明によれば、DC/DCコンバータの1つを通って流れるリターン電流は、接続されているストリングに負荷がかかり過ぎる原因となるおそれがあるが、DC/DCコンバータの適切な制御によって抑制される。原則として、これは、リターン電流が生じているDC/DCコンバータを制御してリターン電流の遮断を行うようにすることにより、実現される。この種の制御機能は、例えば、DC/DCコンバータが、降圧コンバータとして構成される場合に利用可能になる。しかしながら、そうではない例が多い。
【0022】
原則として、DC/DCコンバータの1つを通って流れる任意のリターン電流が、残りのDC/DCコンバータの制御によって抑制されることで、残りのDC/DCコンバータによって共通のDC電圧中間回路に接続されたストリングからの電流の流れを遮断するのが、したがって好ましい。このことは、例えば、DC/DCコンバータが、昇圧コンバータとして構成される場合であっても可能になる。
【0023】
DC/DCコンバータが、接続されているストリングの独立したMPP追随調整に使用可能である、昇圧コンバータとして構成される場合には、DC/DCコンバータの1つを通って流れる任意のリターン電流を、残りのDC/DCコンバータの昇圧コンバータスイッチを閉じることによって抑制することが可能である。昇圧コンバータスイッチのこの閉鎖により、残りのDC/DCコンバータが短絡する。残りのDC/DCコンバータの昇圧コンバータダイオードは、昇圧コンバータスイッチによって、DC電圧中間回路の短絡もまた防ぐ。」

「【0028】
本発明によれば、リターン電流が、昇圧コンバータの形式で構成されている残りのDC/DCコンバータの昇圧コンバータスイッチを閉じることによって抑制されているならば、リターン電流が発生しているDC/DCコンバータの昇圧コンバータスイッチは、常時開かれていることになる。この場合、このDC/DCコンバータを介してDC電圧中間回路に接続されたDC電圧中間回路のストリングは、少なくとも、接続されているインバータの非常時運転または接続されているインバータの制御機能を可能にするのに十分な電気エネルギーが供給される。電気エネルギーは、DC電圧中間回路から供給することもまた可能である。」

「【発明を実施するための形態】
【0036】
図1は、光起電力発生器3の個々のストリング2とインバータ5のDC電圧中間回路4との間に接続された装置1を示す。ストリング2はそれぞれ、直列に接続された複数の光起電力モジュールまたは光起電力セルで構成されるが、ここでは詳細に図示しない。各ストリング2に対して、装置1は、一対の端子6および7が設けられる。各場合において、装置1の2つの端子6および関連する2つの端子7が、これらの端子に接続されたストリング2が、まさに装置1の入力部で並列回路を形成するように組み立てられる。これらの並列に接続されたストリング2は次に、それぞれ、DC/DCコンバータ8を介してバスライン9および10に接続される。バスライン9および10は、装置1の端子11および12を介してDC電圧中間回路4へと配線されるが、ここでは中間回路キャパシタ13によって符号で表わされている。インバータ5は、DC電圧中間回路4からACグリッドシステム14に電気エネルギーを供給する。
【0037】
DC電圧中間回路4で利用可能な電気エネルギーを最大化するために、DC/DCコンバータ8は、DC/DCコンバータ8に接続されているストリング2を個別にMPP追随調整するように構成される。これは、DC/DCコンバータ8が、DC電圧中間回路4の中間回路電圧に関して、DC/DCコンバータ8に接続されているストリング2の作用点、すなわち供給電圧に適合されることを意味する。これにより、前記ストリング2によって生成された電力が最大化される。ストリング2の出力電圧に加えて、電流電源出力を決定するために、関連するDC/DCコンバータ8に流れる電流も、測定されなければならない。電流は、電流センサ15によって測定される。
【0038】
電流センサ15は、DC電圧中間回路4のストリング2の正常な電流フロー方向に対して反対側に流れるリターン電流の発生を検出するためにも使用される。この種のリターン電流は、特にこれらの電流が多数の他のストリング2から生じ、その後関係している個々のストリングを通って流れる場合には、ストリング2の保全性を危険にさらすおそれがある。この種のリターン電流が、DC/DCコンバータ8の1つを通って流れる場合には、電流センサ15によって測定された電流、具体的にはリターン電流17を、入力信号23として受け取る制御装置16が、リターン電流が抑制されるように、DC/DCコンバータ8を制御する。この目的のために着手される的確な処置は、DC/DCコンバータ8の性質によって左右される。
【0039】
DC/DCコンバータ8が、例えば降圧コンバータとして構成される場合には、DC/DCコンバータ8に接続されているストリング2を、DC電圧中間回路4から絶縁するために、リターン電流が存在しない残りのDC/DCコンバータの降圧コンバータスイッチが開かれてもよい。次いで、DC電圧中間回路4は、それまでリターン電流が流れていたストリング2によってのみ充電されることになる。それぞれの場合において、リターン電流を抑制するための制御システム16は、個々のMPP追随調整のために設けられたDC/DCコンバータ8を制御するだけであり、それ以外の絶縁開閉器またはそれに類する機器を制御しない。同様に、リターン電流を抑制するためのダイオードを追加で設けることはない。DC/DCコンバータ8に接続されたストリング2のそれぞれの一対では、リターン電流は、これらのストリング2の第1のストリングによって生成された電流に限定されるので、このリターン電流は一方から他方へ流れることができるとされている。並列に接続されたストリングを短絡するような、誤った極性でストリング2が接続されていても、せいぜい1つのストリング2からDC/DCコンバータ8に接続された2つのストリング2を通って、短絡電流が流れる程度で終わる。そのような電流値は、ストリング2によって連続的に対処することが可能であり、損傷やオーバーヒートが生じない。示されていない実施形態の一形式において、3つのストリング2がDC/DCコンバータ8に接続される場合には、1つのストリング2’個体の極性反転は、最大でも、2つの他のストリングによって生成された短絡電流を2倍にした、このストリングの電流負荷に相当する程度であろう。この負荷でさえも、多数のストリングによって連続的に、しかも損傷を与えずに対処することができる。多くの場合、所与の数のストリングに対するDC/DCコンバータの数が少なくなるという理由で、3つのストリングを備えた構成は、したがって有利である。逆に、負荷形モジュールの場合には、1つのDC/DCコンバータ8につき、2つのストリング2だけを備える構成が好ましい。
【0040】
図1は、合計3つのDC/DCコンバータ8を示す。それぞれに2つのストリング2が接続されている。しかしながら、原則として、存在するDC/DCコンバータ8は、もっと少なくてもよいし、したがってストリング2も、もっと少なくてよい。具体的には、DC/DCコンバータ8の数、およびDC/DCコンバータ8に接続しているストリング2の数は、もっと大きくてもよい。具体的には、3つのストリング2が、各DC/DCコンバータ8に接続されてもまたよい。
【0041】
図2は、2つのDC/DCコンバータ8だけを備える装置1を示す。この例では、2つのDC/DCコンバータ8は、具体的には昇圧コンバータ18として構成される。ここでもまた、DC/DCコンバータ8の数は、もっと大きくてもよい。DC/DCコンバータ8はそれぞれ、ここでもまた、それぞれの各ストリング2に対して、2つの端子7および2つの端子6が設けられている。ここでもまた、関連するストリング2が、装置1の外部ですでに並列に接続されている場合には、複数の端子7を、1つの端子7にまとめてもよい。そうでないのであれば、装置1の基本的な設計は、図1に示された設計に一致する。
【0042】
しかしながら、DC/DCコンバータ8を昇圧コンバータ18として構成することによって、その昇圧コンバータダイオード19は、基本的に、DC電圧中間回路4から、関連するDC/DCコンバータ8に接続されたストリング2へのリターン電流に対する阻止装置として作用する。したがって、原則として、昇圧コンバータダイオード19に不備がある場合にのみ、そのようなリターン電流が生じ得る。図2に示される上部DC/DCコンバータ8では、リターン電流は破線によって表されている短絡経路20によって表示されており、昇圧コンバータダイオード19に対して平行に示される。この昇圧コンバータダイオード19に不備がある結果、昇圧コンバータ18も同様にまったく機能しなくなり、DC電圧中間回路4の電圧が、対応するストリングの電圧よりも高くなっている場合には、リターン電流が、接続されているストリング2に流れることになる。このリターン電流が、電流センサ15によって検出されると、ここで図示しないが、制御システムが、残りのDC/DCコンバータ8のすべての昇圧コンバータスイッチ21を閉じて、DC/DCコンバータ8に接続しているストリング2を短絡させるようにする。したがって、これらはもはや中間回路キャパシタ13を充電せず、リターン電流が抑制され、リターン電流に関連する放電を行うことにより、直ちに中間回路キャパシタ13の電圧が、十分な程度まで低下する。制御システムが、リターン電流15が生じているDC/DCコンバータ8の昇圧コンバータスイッチ21を同時に開く場合には、DC/DCコンバータ8に接続されているストリング2は、少なくとも、DC電圧中間回路4の中間回路キャパシタ13のバックグラウンド電荷を維持することが可能になる。発生しているリターン電流による故障のさらに詳細な分析、除去または上位装置への照会を可能にするために、ここでは詳細に示されない装置1の、またはインバータ5の、モニタリングシステムおよび信号システムを最低限供給するのに、このバックグラウンド電荷は、十分事足りる。
【0043】
原則として、対応するDC/DCコンバータ8に接続されたストリング2が、両方とも誤った極性で接続されているのであれば、電流センサ15の1つを通電するリターン電流が生じ得るが、やはりこの場合も、フェールセーフ性評価だけで考慮されることにはならない。このリターン電流は、関連する昇圧コンバータスイッチ21を介して流れ、全体として、順方向阻止機能だけを果たす。このリターン電流は、制御システムによって、残りのDC/DCコンバータ8の昇圧コンバータスイッチ21を開くことで抑制することはできないものの、前記制御システムによって検出され得る。そのため、誤った極性でDC/DCコンバータ8に接続された2つのストリング2の、DC/DCコンバータ8を通って流れるリターン電流は、DC/DCコンバータ8の昇圧コンバータスイッチによって残りのDC/DCコンバータの1つに接続されたストリングの短絡回路を流れる電流を超過しないので、臨界状態にならない。
【0044】
図2に示される下部DC/DCコンバータ8では、ストリング2’の両方ではなく、1つだけが誤った極性で接続されていることが示されている。全体として、これにより関連する電流センサ15によって検出されるリターン電流が発生することはないが、DC/DCコンバータ8に接続されたストリング2および2’の両方によって形成された回路に流れる電流が発生する。2つのストリング2および2’だけの接続は、この電流を無害なレベルに制限する。たとえ考慮された境界条件下では、電流が流れているはずであっても、この故障の場合には、電流センサ15が、電流がDC/DCコンバータ8を通って流れていないことを検出することになる。
【0045】
図3は、流れ図によって表わされた、本発明による方法の実施形態の潜在的な形式を示す。ステップ100では、DC/DCコンバータのそれぞれを通って流れる電流が、最初に検出される。ステップ110では、次いで、リターン電流の発生について、これらの電流がチェックされる。リターン電流が検出されない場合には、方法は分岐してステップ100に戻り、すべての電流の検出が引き続き繰り返される。リターン電流の流れがDC/DCコンバータを通して検出された場合には、影響を受けたDC/DCコンバータは、ステップ120で最初にトリッピングされる。DC/DCコンバータが昇圧コンバータとして構成される場合には、昇圧コンバータスイッチも開かれる。ステップ130では、このトリッピングが、残りのDC/DCコンバータにも適用される。その後ステップ140では、影響を受けたDC/DCコンバータに流れる電流が再度検出され、ステップ150では、実行された措置によって、リターン電流がすでに抑制されているかどうかが確認される。抑制されている場合には、方法は分岐してステップ140に戻り、影響を受けたDC/DCコンバータを通って流れる電流が、定期的にチェックされる。リターン電流が再度生じる可能があるからである。
【0046】
すべてのDC/DCコンバータのトリッピングによってリターン電流を抑制することができなければ、影響を受けていないDC/DCコンバータは、ステップ160において短絡する。すなわち、影響を受けていないDC/DCコンバータが、共通の中間回路にそれ以上電流を供給しないように制御される。
【0047】
潜在的な選択肢では、方法は、ステップ120から直接ステップ160に分岐する。この場合、リターン電流が発生すると、影響を受けたストリングだけが依然として中間回路に電流を供給することができる状態が、直接実現される。これにより、確実にリターン電流状況が終了する。逆に、ステップ130、140および150では、中間状態が実現される。中間状態では、ストリングはすべて中間回路に電流を供給可能性であり、すべてのDC/DCコンバータがトリッピングされているので、すべてのストリングが、同じ供給電圧となる。多くの場合、これはリターン電流状況を終了させるのに十分事足りる。
【0048】
最後に、装置1では、ストリング2からDC電圧中間回路4への電流の流れが、電気構成部品や電子構成部品を必要としないことが再度強調されるべきである。これら構成部品は、所与のDC/DCコンバータ8に接続されたストリング2の個々のMPP追随調整には必要ないからである。」

「【図1】


【図2】


【図3】



イ 甲1発明
前記アの図1から、装置1は、制御装置16(【0038】)を備えることが見て取れるから、前記アの下線部及び図1に着目すると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。なお、後の参照のために、甲1発明をa〜oに分説し、「構成a」等という。

a 光起電力発生器3の個々のストリング2とインバータ5のDC電圧中間回路4との間に接続された装置1であって、(【0036】)
b 装置1は、制御装置16を備え、(図1)
c ストリング2はそれぞれ、直列に接続された複数の光起電力モジュールまたは光起電力セルで構成され、(【0036】)
d 各ストリング2に対して、装置1は、一対の端子6および7が設けられ、(【0036】)
e 装置1の2つの端子6および関連する2つの端子7が、これらの端子に接続されたストリング2が、まさに装置1の入力部で並列回路を形成するように組み立てられ、(【0036】)
f これらの並列に接続されたストリング2は次に、それぞれ、DC/DCコンバータ8を介してバスライン9および10に接続され、(【0036】)
g バスライン9および10は、装置1の端子11および12を介してDC電圧中間回路4へと配線され、(【0036】)
h DC/DCコンバータ8は、DC/DCコンバータ8に接続されているストリング2を個別にMPP追随調整するように構成され、(【0037】)
i 関連するDC/DCコンバータ8に流れる電流は、電流センサ15によって測定され、(【0037】)
j 電流センサ15は、DC電圧中間回路4のストリング2の正常な電流フロー方向に対して反対側に流れるリターン電流の発生を検出するためにも使用され、(【0038】)
k この種のリターン電流が、DC/DCコンバータ8の1つを通って流れる場合には、電流センサ15によって測定されたリターン電流17を、入力信号23として受け取る制御装置16が、リターン電流が抑制されるように、DC/DCコンバータ8を制御し、(【0038】)
l DC/DCコンバータ8が、降圧コンバータとして構成され、DC/DCコンバータ8に接続されているストリング2を、DC電圧中間回路4から絶縁するために、リターン電流が存在しない残りのDC/DCコンバータの降圧コンバータスイッチが開かれ、(【0039】)
m DC/DCコンバータ8それぞれに2つのストリング2が接続され、(【0040】)
n 光起電力発生器の、共通のDC電圧中間回路に並列に接続されている複数のストリングをリターン電流から保護する(【0013】)
o 装置1」

(2)甲3
ア 甲3の記載事項
甲3には、次の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、独立請求項1の前文の特徴を備えている光起電システムに、同じく、それぞれが独立請求項2の前文の特徴を備えている、電力グリッドに直列に接続される複数の光起電モジュールを備える複数のストリングから電気エネルギーを供給するための器具に、関する。この器具は、ストリングおよびそれらのケーブルに加えて、ストリングから電力グリッドに電気エネルギーを供給するために必要とされるユニットを提供する。この種の器具はしばしば、ストリングおよびそれらのケーブルとは別の専門会社によって供給される。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
独立請求項1の前文の特徴を備えている光起電システム、および個々のストリングを通しての逆電流の発生に起因する危険性を−最小限の構造上の努力で−制御することが可能である光起電システムを構築するために使用可能な、独立請求項2の前文の特徴を備えている器具、を提供することが本発明の課題である。」

「【0012】
本発明によれば、逆電流がストリングへと流れるかどうかを少なくとも判定し、かつ逆電流をコントローラに報告する1個の電流センサが各ストリングに対して設けられる。ここで、用語逆電流は正しい動作でそれぞれのストリングの光起電モジュールによって生成される電流と比較して、逆流した流れの向きを備える、かつそれぞれのストリングの故障に起因する、より有意な電流を指す。逆電流の報告に対する反応として、コントローラは逆電流を止めるためにバスラインの間に存在するシステム電圧を低下させる。バスラインの間に存在するシステム電圧は、逆電流を引き起こすその電圧である。それが低下されるならば、不良のストリングさえ端子電圧として備えるかまたは、不良のストリングさえ遮るかもしれない、電圧が到達されるかまたは切り下げさえされるかもしれない。したがって、逆電流の継続的な流れは、フューズまたはその他のスイッチング素子を、影響を受けるストリングに設ける必要性なしで止められる。バスラインの間の電圧の低下の後、残りのストリングは更に、バスラインの間で低下した電圧が電力グリッドに電気エネルギーを供給するのに充分な限り、インバータによって電力グリッドに供給される電気エネルギーを供給する。特にその時、コントローラが、逆電流を止めるために、存在するMPPより下にバスライン間のシステム電圧をわずかに低下させる必要があるだけの時、電力グリッドにもはや供給されない電気エネルギーの損失が、スイッチング素子によってストリングのスイッチを切る場合には供給されることもできない不良のストリングの寄与に実質的に限定され、それは本発明に対する一変形例である。それに加えて、システム電圧のミスフィット(MPPの放棄)に起因する少しの損失がある。」

「【0024】
図1は、ここで交流グリッド3である電力グリッド2に、電気エネルギーを供給するための光起電システム1を例示する。電気エネルギーは、ストリング5を形成するために直列に接続される、複数の光起電モジュール4によって生成される。ストリング5は、それらが中央ユニット7内のバスライン8および9に互いに並列に接続される前に、ローカル接続ユニット6を用いてグループで並列に接続される。接続ユニット6において、1個の電流センサ10が各ストリングに対して設けられ、それが、それぞれのストリング5を通して逆電流、すなわち、光起電モジュール4によって生成される電流が通常流れる方向に対して反対方向の電流、が生じるかどうかを中央ユニット7内のコントローラ11に、少なくとも報告する。電流センサ10からコントローラ11まで信号を伝送するために、コントローラ11と無線で通信する、送信機22が各接続ユニット6内に設けられる。送信機22は逆電流が生じる時その時だけでなく、また、どのストリング5がそれによって影響を受けるかを連絡する信号を送ることができる。その上、これらの電流の集団を監視することによって、ストリング不良監視が可能であるように、それは全てのストリング5から流れる電流を報告することができる。有意な逆電流、すなわち閾値を上回る逆電流は、関連するストリング5の故障を示唆している。残りのストリングによって生成されるこの逆電流は電力グリッド2に供給されないので、それは電力損失を意味するだけではなく、しかし、主に特に影響を受けたストリング5に対する潜在的危険性である。したがって、中央ユニット7の中で、ストリング5からの電気エネルギーが電力グリッドに供給されるコンバータ12の動作に、コントローラ11が干渉する。コンバータ12はここで三相のインバータ13として示され、それはコンタクタ14経由で電力グリッド2に接続される。その入力側で、接続ユニット6からの接続ライン15が、光起電力的に生成された電流が全極切換電源スイッチ16経由でインバータ13へと流れるバスライン8および9に接続される。報告された逆電流は、最大電力がソーラーモジュールによって生成されるというような方法でバスライン8および9の間に存在するコンバータ12の入力電圧を調整するために−逆電流の発生なしで−設計されているコントローラ11の動作を変更する。生じている逆電流を止めるために、コントローラ11は、個々のストリング5上でまた低下するバスライン8および9の間に存在するシステム電圧を低下させる。この低下は、逆電流に影響を受けるストリングの上に存在する電圧がもはや逆電流を引き起こすのに十分でないようになるまで進行する。個々の場合には、これはバスライン8および9間の電圧がゼロまで低下することを意味することができる。これがその場合でないかぎり、または、バスライン8および9の間に存在するシステム電圧が、コンバータ12が電力グリッド2に電気エネルギーを供給することができるためになお充分である限り、更なる電気エネルギーが不良でないストリングから電力グリッド2に供給される。」

「【図1】



イ 甲3発明
前記アの下線部に着目すると、甲3には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

「電力グリッド2に、電気エネルギーを供給するための光起電システム1であって、
電気エネルギーは、ストリング5を形成するために直列に接続される、複数の光起電モジュール4によって生成され、
ストリング5は、それらが中央ユニット7内のバスライン8および9に互いに並列に接続される前に、ローカル接続ユニット6を用いてグループで並列に接続され、
接続ユニット6において、1個の電流センサ10が各ストリングに対して設けられ、それが、それぞれのストリング5を通して逆電流が生じるかどうかを中央ユニット7内のコントローラ11に、報告し、
閾値を上回る逆電流は、関連するストリング5の故障を示唆し、
中央ユニット7の中で、ストリング5からの電気エネルギーが電力グリッドに供給されるコンバータ12の動作に、コントローラ11が干渉し、
コンバータ12は三相のインバータ13であり、コンタクタ14経由で電力グリッド2に接続され、その入力側で、接続ユニット6からの接続ライン15が、光起電力的に生成された電流が全極切換電源スイッチ16経由でインバータ13へと流れるバスライン8および9に接続され、
報告された逆電流は、最大電力がソーラーモジュールによって生成されるというような方法でバスライン8および9の間に存在するコンバータ12の入力電圧を調整するために−逆電流の発生なしで−設計されているコントローラ11の動作を変更し、
生じている逆電流を止めるために、コントローラ11は、個々のストリング5上でまた低下するバスライン8および9の間に存在するシステム電圧を低下させ、この低下は、逆電流に影響を受けるストリングの上に存在する電圧がもはや逆電流を引き起こすのに十分でないようになるまで進行する
光起電システム1」

(3)甲4
ア 甲4の記載事項
甲4には、次の事項が記載されている。

「【0003】
先行技術の解決法では、夫々の光電池列は電流センサへ接続され、夫々の電流センサは実時間において夫々の光電池列の電流を検出する。逆電流が光電池列において存在することを電流センサが検出するとき、光センサは逆電流をコントローラへ報告し、コントローラは、光電池を保護するように光電池列の逆電流を低減するようコンバータを制御する。しかし、その技術的解決法では、夫々の光電池列が電流センサへ接続される必要があり、デバイス費用の増大をもたらす。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、光電池の保護を提供することだけでなく、デバイス費用を低減することもできる光電池システムを提供する。」

「【0011】
本発明の実施において、光電池システムは、複数の光電池列、コンバータ、コントローラ、及びバスを含み、複数の光電池列は、2つ又は3つの並列接続された光電池列が1つの電流センサへ接続される少なくとも1つの列グループを含み、少なくとも1つの列グループは、並列に接続された後に、バスを使用することによってコンバータへ接続され、コンバータはコントローラへ接続され、コントローラは、少なくとも1つの列グループの中の夫々の列グループにおける電流センサへ接続され、電流センサは、夫々の列グループの総電流を検出し、逆電流が夫々の列グループにおいて存在するかどうかをコントローラに報告するよう構成され、コントローラは、逆電流が少なくとも1つの列グループにおける対象の列グループにおいて存在するとの電流センサからの報告を受ける場合に、コンバータへ出力される制御信号を調整するよう構成され、コンバータは、調整された制御信号に従って、対象の列グループにおける逆電流を低減するようにバス間のシステム電圧を低減するよう構成される。従って、光電池保護が提供され得るだけでなく、デバイス費用も低減される。」

「【0018】
図1を参照すると、図1は、本発明の実施形態に従う光電池システムの略構造図である。図1に示されるように、光電池システムは、複数の光電池列、コンバータ、コントローラ、及びバスを含む。複数の光電池列は、2つ又は3つの並列接続された光電池列が1つの電流センサへ接続される少なくとも1つの列グループを含む。少なくとも1つの列グループは、並列に接続された後に、バス(1,2)を使用することによってコンバータへ接続される。コンバータはコントローラへ接続される。コントローラは、少なくとも1つの列グループの中の夫々の列グループにおける電流センサへ接続される。電流センサは、夫々の列グループの総電流を検出し、逆電流が夫々の列グループにおいて存在するかどうかをコントローラに報告するよう構成される。コントローラは、逆電流が少なくとも1つの列グループの中の対象の列グループにおいて存在するとの電流センサからの報告を受ける場合に、コンバータへ出力される制御信号を調整するよう構成される。コンバータは、調整された制御信号に従って、対象の列グループにおける逆電流を低減するようにバス(1,2)間のシステム電圧を低減するよう構成される。」

「【0022】
任意で、図3に示されるように、コントローラは、プロセッサ302及びドライバ303を含む。
【0023】
プロセッサ302は、対象の列グループにおける逆電流が予め設定された閾値よりも高いかどうかを判定するよう構成される。
【0024】
ドライバ303は、プロセッサへ接続され、対象の列グループにおける逆電流が予め設定された閾値よりも高いとプロセッサが決定する場合に、コンバータへ出力される制御信号を調整するよう構成される。」

「【図1】



イ 甲4発明
前記アの下線部に着目すると、甲4には、次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。

「光電池システムは、複数の光電池列、コンバータ、コントローラ、及びバスを含み、
複数の光電池列は、2つ又は3つの並列接続された光電池列が1つの電流センサへ接続される少なくとも1つの列グループを含み、
少なくとも1つの列グループは、並列に接続された後に、バス(1,2)を使用することによってコンバータへ接続され、
コンバータはコントローラへ接続され、
コントローラは、夫々の列グループにおける電流センサへ接続され、
電流センサは、夫々の列グループの総電流を検出し、逆電流が夫々の列グループにおいて存在するかどうかをコントローラに報告するよう構成され、
コントローラは、逆電流が少なくとも1つの列グループの中の対象の列グループにおいて存在するとの電流センサからの報告を受ける場合に、コンバータへ出力される制御信号を調整するよう構成され、
コンバータは、調整された制御信号に従って、対象の列グループにおける逆電流を低減するようにバス(1,2)間のシステム電圧を低減するよう構成される
光電池システム」

(4)甲5
ア 甲5の記載事項
甲5には、次の事項が記載されている。なお、当審訳は、特許異議申立人が提出したものを参考にした。

「[0042] Each string includes a plurality of serially connected PV modules 10 for generating a DC current and forming a first and a second end. Each string further comprises a power 11 and a return line 12 (reference signs only given to string S1). The power line 11 is electrically connected to the first end and the return line 12 the second end of the serial connection of the modules 10.
[0043] Figures 1 and 2 illustrate that the string combiner box SCB1 comprises four DC inputs 21, 22, 23 resp. 24 for electrical connection to a respective one of the four strings S1, S2, S3 resp. S4 and a DC output 20 for electrical connection to a DC input of a further component K of the photovoltaic plant, in particular a DC-AC inverter or an array combiner box.
[0044] As shown in fig.2 the string combiner box SCB1 further comprises a power line busbar 25 and a return line busbar 26. The power line busbar 25 is electrically connected to power line terminals 251 of the four DC inputs 21, 22, 23, 24 by means of four power line connections 252 and to a power line terminal 253 of the DC output 20 by means of a power line connection 254. The return line bus bar 26 is electrically connected to four return line terminals 261 of the four DC inputs 21 to 24 by means of four return line connections 262 and to a return line terminal 263 of the DC output 20 by means of a return line connection 264.
[0045] In each of the four power line connections 252 resp. in each of the four corresponding return line connections 262 is arranged a member 255 resp. 265 of just one pair of four pairs of switching units 255, 265, a DC direction sensor 256 resp. 266 and a potential-to-ground sensor 257 resp. 267. In the power line connection 254 and in the corresponding esp. in the return line connection 264 is arranged a switching unit 258 resp. 268.
[0046] The string combiner box SCB1 further comprises a string combiner control unit SCCU for receiving output signals from the DC direction sensors 256 and 266 and from the potential-to-ground sensors 257 and 267. The string combiner control unit SCCU is enabled to generate tripping signals for opening or closing the switching units 255 and 265 in function of the outputs of the sensors 256, 266, 257 and 267.
[0047] The DC part of the PV plant according to fig.1 is for use in a PV plant in which neither the power line 11, the power line busbar 25 or any further power line section nor the return line 12, the return line busbar 26 or any further return line section is connectable to ground. During operation each of its four strings S1 to S4 feeds a direct current Ii, i= S1, S2, S3 and S4, via the string combiner box SCB1 to the component K. The size of the direct current is typically in the range of 8A to 30A but can be as high as 120A. The instantaneous electrical power generation from incident solar radiation by the PV modules 10 leads to a limited short circuit current in the order of the nominal current of the PV modules, typically 125% of the nominal current. Thus each pair of the eight switching units 255, 265, which break or make a current circuit, have to carry a direct current generated in one of the four strings, for instance S1, must only carry the direct current Ii which is sized in the order of the nominal current of the string.
[0048] However, when a fault occurs between the terminals of a string, as shown in the figures 1 and 2 for instance in string S3, a short current will flow into the string S3. The short circuit current is fed from the three faultless parallel strings S1, S2 and S4 with the direct current IS1, IS2 and IS4. These three direct currents pass the DC input 23 as a direct current IR with a reverse direction with respect to the DC inputs 21, 22 and 24. In addition parallel string combiner boxes can feed into the fault from outside a reverse current IRo via an array combiner box or via the input stage of the inverter. The inverter itself can feed the fault, too, e.g. by the discharge of its filter capacitors. Thus the reverse current IR in the faulty string S3 is the sum of the currents IS1, IS2, IS4 and the reverse current IRo.
[0049] The string combiner control unit SCCU permanently receives output signals from the DC direction sensors 256 and 266. Upon the detection of the reverse current in the power 252 and the return line connection 262, connected to the DC input 23 which feeds the fault in the string S3, the string combiner control unit SCCU generates (mechanically or electronically) a tripping signal and emits this signal to six of the eight switching units 255 and 265 in order to interrupt the direct currents IS1, IS2 and IS4 generated in the faultless strings S1, S2 and S4. Independently the switching units 258 und 268 which are preferably realized as conventional circuit breakers detect the reverse current IRo (or an overcurrent) and interrupt the reverse current IRo fed from outside (component K: array combiner box, inverter) in the string combiner box SCB1. These two conventional circuit breakers can take up to 5 ms for interruption. During this time the two switching units 255 and 265 which are arranged in the fault path must carry the reverse current IRo fed from outside. Only after all other switching units 255, 265, 258 and 268 have interrupted their currents, the two switching units 255 and 265 which have taken the reverse current IR of the faulty string S3 are operated (preferably after a fixed time delay of 5ms, but an additional mechanical or electronic activation is possible as well). Thus these two switching units need not to turn-off any current. After an additional fixed time delay given by the switching time of the two switching units 258 and 268 in the fault path, all remaining switching units 255, 265, 258 and 268 can (automatically) close again and normal operation of the remaining faultless three strings S1, S2 and S4 is recovered. The overall operation time can be in the order of 10 ms.」
(当審訳:
[0042] 各ストリングは、直流電流を生成し、第1及び第2の端部を形成するための、直列に接続された複数のPVモジュール10を含む。各ストリングはさらに、電力線11と戻り線12(参照符号はストリングS1に対してのみ付与されている)を含む。電力線11はモジュール10の直列接続の第1の端部に、戻り線12は第2の端に電気的に接続されている。
[0043] 図1及び2は、ストリングコンバイナボックスSCB1が、4つのストリングS1、S2、S3、S4のそれぞれに電気的に接続するための4つのDC入力21、22、23、24と、太陽光発電プラントの別のコンポーネントK(特にDC−ACインバータまたはアレイコンバイナボックス)のDC入力に電気的に接続するためのDC出力20を備えることを示している。
[0044] 図2に示すように、ストリングコンバイナボックスSCB1は、さらに、電力線バスバー25及び戻り線バスバー26を備える。電力線バスバー25は、4つの電力線接続部252によって4つのDC入力21、22、23、24の電力線端子251に電気的に接続され、電力線接続部254によってDC出力20の電力線端子253に電気的に接続される。戻り線バスバー26は、4つの戻り線接続部262によって4つのDC入力21〜24の4つの戻り線端子261に電気的に接続され、戻り線接続部264によってDC出力20の戻り線端子263に電気的に接続される。
[0045] 4つの電力線接続部252のそれぞれ、及び対応する4つの戻り線接続部262のそれぞれには、4対のスイッチングユニット255、265のうちの1対、DC方向センサ256及び266、対地電位センサ257及び267が配置されている。電力線接続部254及び対応する戻り線接続部264には、スイッチングユニット258及び268が配置されている。
[0046] ストリングコンバイナボックスSCB1は、DC方向センサ256及び266と、接地電位センサ257及び267からの出力信号を受信するためのストリングコンバイナ制御ユニットSCCUをさらに備える。ストリングコンバイナ制御ユニットSCCUは、センサ256、266、257及び267の出力に応じて、スイッチングユニット255及び265を開閉するためのトリップ信号を生成することができる。
[0047] 図1に示すPVプラントのDC部分は、電力線11、電力線バスバー25またはその他の電力線セクション、及び戻り線12、戻り線バスバー26またはその他の戻り線セクションのいずれも接地できないPVプラントに使用される。動作中、4つのストリングS1〜S4のそれぞれは、ストリングコンバイナボックスSCB1を介してコンポーネントKに直流電流Ii(i=Sl、S2、S3及びS4)を供給する。直流電流の大きさは、通常8A〜30Aの範囲であるが、最大120Aになることもある。PVモジュール10による入射太陽放射からの瞬間的な電力生成により、制限された短絡電流(PVモジュールの定格電流程度、通常、定格電流の125%)が発生する。したがって、電流回路を切断または形成する8つのスイッチングユニット255、265の各対は、4つのストリングのうちの1つで生成された直流電流を流す必要があり、例えば、S1は、ストリングの定格電流程度の大きさの直流電流Iiのみを流す必要がある。
[0048] しかし、ストリングの端子間に障害が発生すると、図1及び2に示すように、例えばストリングS3では、短絡電流がストリングS3に流れ込む。短絡電流は、障害のない3つの並列ストリングS1、S2、S4から直流電流IS1、IS2、IS4で供給される。これらの3つの直流電流は、DC入力21、22、24とは逆方向の直流電流IRとしてDC入力23を通過する。さらに、並列ストリングコンバイナボックスは、アレイコンバイナボックスまたはインバータの入力段を介して、外部から逆電流IRoを障害のあるストリングに供給し得る。インバータ自体も、たとえばフィルタコンデンサの放電によって障害のあるストリングに供給できる。したがって、障害のあるストリングS3の逆電流IRは、電流IS1、IS2、IS4と逆電流IRoの合計である。
[0049] ストリングコンバイナ制御ユニットSCCUは、DC方向センサ256及び266からの出力信号を常時受信する。障害のあるストリングS3に電力を供給するDC入力23に接続された電源252(当審注:「電力線接続部252」のことであると認める。)及び戻り線接続部262における逆電流を検出すると、ストリングコンバイナ制御ユニットSCCUは(機械的または電子的に)トリップ信号を生成し、この信号を8つのスイッチングユニット255及び265のうちの6つに送信して、障害のないストリングS1、S2及びS4で生成された直流電流IS1、IS2及びIS4を遮断する。独立して、従来のサーキットブレーカとして実現されることが好ましいスイッチングユニット258及び268は、逆電流IRo(または過電流)を検出し、外部(コンポーネントK:アレイコンバイナボックス、インバータ)からストリングコンバイナボックスSCBlに供給される逆電流IR。を遮断する。これらの2つの従来のサーキットブレーカによる遮断に最大5ミリ秒かかる場合がある。この間、障害経路に配置された2つのスイッチングユニット255及び265は、外部から供給される逆電流IRoを流さなければならない。他のすべてのスイッチングユニット255、265、258及び268が電流を遮断した後にのみ、障害のあるストリングS3の逆電流IRを流した2つのスイッチングユニット255及び265が作動する(好ましくは5ミリ秒の固定時間遅延後であるが、追加の機械的または電子的作動も可能である)。したがって、これらの2つのスイッチングユニットは電流をオフにする必要がない。障害経路内の2つのスイッチングユニット258及び268のスイッチング時間によって与えられる追加の固定時間遅延後、残りのすべてのスイッチングユニット255、265、258及び268は(自動的に)再び閉じることができ、残りの障害のない3つのストリングS1、S2及びS4の通常動作が回復される。全体の動作時間は10ミリ秒程度であり得る。)

「Fig.1


Fig.2



イ 甲5技術
前記アの下線部に着目すると、甲5には、次の技術(以下「甲5技術」という。)が記載されていると認められる。

「ストリングコンバイナボックスSCB1が、4つのストリングS1、S2、S3、S4のそれぞれに電気的に接続するための4つのDC入力21、22、23、24と、太陽光発電プラントの別のコンポーネントKのDC入力に電気的に接続するためのDC出力20を備え、([0043])
各ストリングは、直流電流を生成し、第1及び第2の端部を形成するための、直列に接続された複数のPVモジュール10を含み、([0042])
ストリングコンバイナボックスSCB1は、さらに、電力線バスバー25及び戻り線バスバー26を備え、電力線バスバー25は、4つの電力線接続部252によって4つのDC入力21、22、23、24の電力線端子251に電気的に接続され、電力線接続部254によってDC出力20の電力線端子253に電気的に接続され、戻り線バスバー26は、4つの戻り線接続部262によって4つのDC入力21〜24の4つの戻り線端子261に電気的に接続され、戻り線接続部264によってDC出力20の戻り線端子263に電気的に接続され、([0044])
4つの電力線接続部252のそれぞれ、及び対応する4つの戻り線接続部262のそれぞれには、4対のスイッチングユニット255、265のうちの1対、DC方向センサ256及び266、対地電位センサ257及び267が配置され、([0045])
ストリングコンバイナボックスSCB1は、DC方向センサ256及び266と、接地電位センサ257及び267からの出力信号を受信するためのストリングコンバイナ制御ユニットSCCUをさらに備え、ストリングコンバイナ制御ユニットSCCUは、センサ256、266、257及び267の出力に応じて、スイッチングユニット255及び265を開閉するためのトリップ信号を生成し、([0046])
動作中、4つのストリングS1〜S4のそれぞれは、ストリングコンバイナボックスSCB1を介してコンポーネントKに直流電流Ii(i=Sl、S2、S3及びS4)を供給し、([0047])
ストリングコンバイナ制御ユニットSCCUは、DC方向センサ256及び266からの出力信号を常時受信し、障害のあるストリングS3に電力を供給するDC入力23に接続された電力線接続部252及び戻り線接続部262における逆電流を検出すると、ストリングコンバイナ制御ユニットSCCUはトリップ信号を生成し、この信号を8つのスイッチングユニット255及び265のうちの6つに送信して、障害のないストリングS1、S2及びS4で生成された直流電流IS1、IS2及びIS4を遮断する([0049])」

2 申立理由1について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。

(ア)「光発電システムに適用される前記光発電システムの保護装置であって、」について

甲1発明の「装置1」は、「光起電力発生器3」及び「インバータ5」(構成a)とともに光発電のためのシステムを構成しているということができ、該システムは、本件発明1の「光発電システム」に相当する。そして、上記「装置1」は、「光起電力発生器の」「複数のストリングをリターン電流から保護する」(構成n)ために上記システムに用いられる装置といえるから、本件発明1と甲1発明とは、「光発電システムに適用される前記光発電システムの保護装置」である点で一致する。

(イ)「前記装置はインタフェイス、保護スイッチ、直流母線及びコントローラを備え、」について

a 甲1発明の「装置1」に設けられた「各ストリング2」に対する「一対の端子6および7」(構成d)は、本件発明1の「インタフェイス」に相当する。
甲1発明の「装置1」の「バスライン9および10」(構成f)には、「並列に接続されたストリング2」(構成f)からの直流電流が、「それぞれ、DC/DCコンバータ8を介して」(構成f)流れると解されるから、上記「バスライン9及び10」は、本件発明1の「直流母線」に相当する。
甲1発明の「装置1」の「制御装置16」(構成b)は、本件発明1の「コントローラ」に相当する。

b 甲1発明の「装置1」の「DC/DCコンバータ8」の「降圧コンバータスイッチ」(構成l)と、本件発明1の「保護スイッチ」とは「スイッチ」である点で共通する。他方で、本件発明1の「保護スイッチ」は、光起電力部とラインとを障害、具体的には逆電流(短絡電流)から保護するために、従前のヒューズに替えて配置されるもので(本件特許明細書【0004】、【0005】、【0008】)、発明の詳細な説明を参酌すると、もっぱら上記障害発生時に保護のために機能(動作)するスイッチであると解されるのに対し、甲1発明の上記「降圧コンバータスイッチ」は、「DC/DCコンバータ8」の構成部品であって、技術常識に照らすと通常時に降圧のための開閉動作を行うと解されるから、本件発明1の「保護スイッチ」とは、構成及び機能(動作)が異なる。

c よって、本件発明1と甲1発明とは、「前記装置はインタフェイス、スイッチ、直流母線及びコントローラを備え」る点で共通するものの、該「スイッチ」が、本件発明1は「保護スイッチ」であるのに対し、甲1発明は「降圧コンバータスイッチ」である点で相違する。

(ウ)「前記装置は前記インタフェイスを用いて少なくとも2つの光起電力部に接続され、前記少なくとも2つの光起電力部は前記直流母線に前記装置内で接続されて少なくとも1つ又は2つのブランチを形成し、各ブランチは2つまたは3つの光起電力部に並列接続で接続され、」について

a 甲1発明の「ストリング2」は、「複数の光起電力モジュールまたは光起電力セルで構成され」たものである(構成c)から、本件発明1の「光起電力部」に相当し、「各ストリング2」は「装置1」の「一対の端子6および7」に「接続」する(構成d、e)から、本件発明1と甲1発明とは、「前記装置は前記インタフェイスを用いて少なくとも2つの光起電力部に接続され」る点で一致する。

b 甲1発明の「ストリング2」は、「DC/DCコンバータ8を介してバスライン9および10に接続され」る(構成f)から、本件発明1と甲1発明とは「前記少なくとも2つの光起電力部は前記直流母線に前記装置内で接続され」る点で一致する。また、上記「ストリング2」は、「装置1の入力部で並列回路を形成」し(構成e)、それぞれ「DC/DCコンバータ8を介してバスライン9および10に接続」(構成f)、換言すると、上記「ストリング2」の上記「並列回路」が「バスライン9および10に接続」されるから、上記「並列回路」は、本件発明1の「ブランチ」に相当する。そうすると、本件発明1と甲1発明とは、「前記少なくとも2つの光起電力部は前記直流母線に前記装置内で接続されて少なくとも1つ又は2つのブランチを形成」する点で一致する。

c 甲1発明の「ストリング2」は、前記bのとおり、「並列回路」を形成して「DC/DCコンバータ8」に接続され、各「DC/DCコンバータ8」には「2つのストリング2」が接続される(構成m)のであるから、各「並列回路」は「2つのストリング2」が並列接続されたものである。そうすると、本件発明1と甲1発明とは、「各ブランチは2つまたは3つの光起電力部に並列接続で接続され」る点で一致する。

(エ)「前記コントローラは、前記ブランチのパラメータ検出値又は前記直流母線のパラメータ検出値に基づいて、前記光発電システムに障害があることを検出する場合に、前記直流母線から前記光起電力部の全部又は一部を切断し、並列に直接接続される前記光起電力部の最大数を確実に3より少なくするように前記保護スイッチを制御するように構成される、」について

a 甲1発明の「電流センサ15」により測定された「DC/DCコンバータ8の1つを通って流れる」「リターン電流17」(構成k)は、該「DC/DCコンバータ8」に接続される「並列回路」(前記(ウ)b)に流れるものであるから、「測定されたリターン電流17」(構成k)は、本件発明1の「ブランチのパラメータ検出値」に相当する。
甲1発明の「制御装置16」は、「測定されたリターン電流17を、入力信号23として受け取る」と、「リターン電流が抑制されるように、DC/DCコンバータ8を制御」する(構成k)ところ、「リターン電流」は「ストリング2の正常な電流フロー方向に対して反対側に流れる」電流(構成j)、すなわち「ストリング2」に流れる異常な電流であり、「測定されたリターン電流17」を受け取った「制御装置16」は「リターン電流が抑制される」ような制御を行うのであるから、「制御装置16」が、上記「測定されたリターン電流17」によって「ストリング2」に「リターン電流」という異常(障害)があることを検出していることは明らかである。そうすると、本件発明1と甲1発明とは、「前記コントローラは、前記ブランチのパラメータ検出値又は前記直流母線のパラメータ検出値に基づいて、前記光発電システムに障害があることを検出する」点で一致する。

b 甲1発明の「制御装置16」は、上記「リターン電流が抑制される」ような制御として、「DC/DCコンバータ8に接続されているストリング2を、DC電圧中間回路4から絶縁するため」に、「リターン電流が存在しない残りのDC/DCコンバータの降圧コンバータスイッチが開かれ」る制御をしており(構成l)、このことは、「ストリング2」を上記「DC/DCコンバータ8」を介して接続する「バスライン9および10」(構成f)から「絶縁」することを意味する。そうすると、本件発明1と甲1発明とは、「前記直流母線から前記光起電力部の全部又は一部を切断」するよう「前記スイッチを制御する」点で共通する。

c 甲1発明の各「DC/DCコンバータ8」に接続される、並列接続された「2つのストリング2」(前記(ウ)c)は、互いに直接接続されたものといえる。そして、甲1発明は、上記「2つのストリング2」は、それぞれ「DC/DCコンバータ8を介してバスライン9および10に接続され」る(構成f)ため、他の「2つのストリング2」とは直接には接続され得ないから、本件発明1とは、「並列に直接接続される前記光起電力部の最大数は確実に3より少ない」点で共通する。他方で、甲1発明は、上記「並列に直接接続される前記光起電力部の最大数は確実に3より少ない」のは、前記bの「降圧コンバータスイッチ」の制御によるものではない。

d よって、本件発明1と甲1発明とは、「前記コントローラは、前記ブランチのパラメータ検出値又は前記直流母線のパラメータ検出値に基づいて、前記光発電システムに障害があることを検出する場合に、前記直流母線から前記光起電力部の全部又は一部を切断するよう前記スイッチを制御するように構成され、並列に直接接続される前記光起電力部の最大数は確実に3より少ない」点で共通するものの、本件発明1は、「並列に直接接続される前記光起電力部の最大数を確実に3より少なくするように」「前記スイッチを制御」するのに対し、甲1発明は、「並列に直接接続される前記光起電力部の最大数は確実に3より少ない」のは「前記スイッチの制御」によらない点で相違する。

(オ)前記(ア)〜(エ)によれば、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点、相違点がある。

[一致点]
光発電システムに適用される前記光発電システムの保護装置であって、前記装置はインタフェイス、スイッチ、直流母線及びコントローラを備え、
前記装置は前記インタフェイスを用いて少なくとも2つの光起電力部に接続され、前記少なくとも2つの光起電力部は前記直流母線に前記装置内で接続されて少なくとも1つ又は2つのブランチを形成し、各ブランチは2つまたは3つの光起電力部に並列接続で接続され、
前記コントローラは、前記ブランチのパラメータ検出値又は前記直流母線のパラメータ検出値に基づいて、前記光発電システムに障害があることを検出する場合に、前記直流母線から前記光起電力部の全部又は一部を切断するように前記スイッチを制御するように構成され、並列に直接接続される前記光起電力部の最大数は確実に3より少ない
保護装置。

[相違点]
(相違点1)
スイッチが、本件発明1は「保護スイッチ」であるのに対し、甲1発明は「降圧コンバータスイッチ」である点。

(相違点2)
本件発明1は、「並列に直接接続される前記光起電力部の最大数を確実に3より少なくするように」「前記スイッチを制御」するのに対し、甲1発明は、「並列に直接接続される前記光起電力部の最大数は確実に3より少ない」のは「前記スイッチの制御」によらない点。

イ 相違点についての検討
相違点1及び2についてまとめて検討する。

(ア)相違点1及び2は、保護装置の構成、機能に関わるものであるから、実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲1発明と同一ではない。

(イ)甲1発明の「降圧コンバータスイッチ」は、前記ア(イ)のとおり、「DC/DCコンバータ8」を構成し、降圧のための開閉動作をするものである。さらに、「DC/DCコンバータ8」は、「DC/DCコンバータ8に接続されているストリング2を個別にMPP追随調整する」(構成h)ことで、発電電力を最大化していると解されるものである。そうすると、甲1発明において、「降圧コンバータスイッチ」あるいは「DC/DCコンバータ8」を、本件発明1のような「保護スイッチ」に置き換える動機付けはない。
また、甲1は、「リターン電流を抑制するため」に「個々のMPP追随調整のために設けられたDC/DCコンバータ8を制御するだけであり、それ以外の絶縁開閉器またはそれに類する機器を制御しない」(【0039】)ものであり、これにより、「複数のストリングをリターン電流から保護する」ことを「ハードウェアの最小限の出費だけで実施可能」(【0013】)にするとの課題を解決するものであるから、甲1発明において、本件発明1のような「保護スイッチ」を追加する動機付けはなく、むしろ阻害事由があるといえる。
したがって、相違点1に係る本件発明1の構成は、甲1発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。

相違点2は、前記ア(エ)のとおり、甲1発明の「2つのストリング2」が、「バスライン9および10」にそれぞれ「DC/DCコンバータ8を介して」接続されることに起因するものであるから、上述のとおり、「DC/DCコンバータ8」を本件発明1のような「保護スイッチ」に置き換えることが困難である以上、相違点2に係る本件発明1の構成も、甲1発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。

したがって、本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)なお、甲1には、「DC/DCコンバータ8」を「昇圧コンバータ18」として構成した態様(「昇圧コンバータスイッチ21」を備える態様)も記載されているが(【0041】〜【0047】、図2、図3)、該態様は、リターン電流が検出された場合に、「残りのDC/DCコンバータ8のすべての昇圧コンバータスイッチ21を閉じて、DC/DCコンバータ8に接続しているストリング2を短絡させるようにする」(【0042】)点以外は、甲1発明と同様である。そのため、上記態様と本件発明1との間には上記相違点1、2と同様の相違点が存在し、該相違点は、前記(ア)及び(イ)と同様に、実質的な相違点であって、当業者が容易に想到し得たものではないことは変わらない。

ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、甲第1号証に記載された発明は、請求項1に係る発明と相違しないと主張するが(特許異議申立書28頁)、本件発明1と甲1発明とに実質的な相違点1及び2が存在することは、前記イ(ア)のとおりである。

エ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲1発明と同一ではなく、また、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2〜4、25、26、30、31、34、35、37、40について
本件発明2〜4、25、26、30、31、40は、相違点1、2に係る本件発明1の構成と同一の構成を備えるものであり、また、方法の発明である本件発明34、35、37は、相違点1、2に係る本件発明1の構成と対応する構成を備えるものである。
よって、前記(1)に示した理由により、本件発明2、25、26、34、35、37、40は、甲1発明と同一ではなく、また、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。さらに、甲2、4は、相違点1、2の非容易想到性を左右するものではないから、本件発明3、4、31は、甲1発明及び甲4に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件発明30は、甲1発明及び甲2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)申立理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由1には理由がない。

3 申立理由2について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲3発明とを対比すると、次のことがいえる。

甲3発明の「コントローラ11」、「バスライン8および9」、「ストリング5」は、本件発明1の「コントローラ」、「直流母線」、「光起電力部」にそれぞれ相当する。
甲3発明の「全極切換電源スイッチ16」は、「ストリング5」が「グループで並列に接続され」る「ローカル接続ユニット6」からの「接続ライン15」と「バスライン8及び9」との間に介在するから、「バスライン8及び9」から「ストリング5」を切断し得るものである。しかしながら、甲3発明は、「逆電流」(「関連するストリング5の故障を示唆」し得るものである。)が報告された場合、「コントローラ11」が、「逆電流に影響を受けるストリングの上に存在する電圧がもはや逆電流を引き起こすのに十分でないようになるまで」、「バスライン8および9の間に存在するシステム電圧を低下させ」るのものであり、その期間、「ストリング5」は「バスライン8および9」に接続されている必要があるから、甲3発明の「全極切換電源スイッチ16」は、上記「逆電流」が報告された場合に、「バスライン8および9」から「ストリング5」を切断するものではないと解される。そのため、甲3発明の「全極切換電源スイッチ16」は、本件発明1の、コントローラが光発電システムに障害があることを検出する場合に、直流母線から光起電力部の全部又は一部を切断する「保護スイッチ」には相当しない。
したがって、本件発明1と甲3発明とは、少なくとも次の点で相違するといえる。

(相違点3)
本件発明1は、「保護スイッチ」を備えるのに対し、甲3発明は、該「保護スイッチ」を備えない点。

イ 相違点についての検討
甲3は、「逆電流の継続的な流れは、フューズまたはその他のスイッチング素子を、影響を受けるストリングに設ける必要性なしで止められる」(【0012】)というものであるから、甲3発明に保護スイッチを備える動機付けはない。また、前記2(1)ア(イ)bのとおり、甲1発明は、本件発明1の「保護スイッチ」を備えるものではないから、たとえ、甲3発明に甲1発明を適用することができたとしても、本件発明1の構成に至らない。
特許異議申立人は、「即ち、甲第3号証に開示された装置において、ストリングを逆電流から保護するという課題の解決手段として、甲第1号証に開示された…(略)…「前記コントローラは、前記ブランチのパラメータ検出値に基づいて、前記光発電システムに障害があることを検出する場合に、前記直流母線から前記光起電力部の一部を切断し、並列に直接接続される前記光起電力部の最大数を確実に3より少なくするように前記保護スイッチを制御するように構成される」を適用することは、当業者であれば容易に想到し得ることである。よって、本件特許発明の請求項1に係る発明は、甲第3号証及び甲第1号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである」(特許異議申立書30頁)と主張するが、上述のとおりであるから、該主張は採用することができない。

ウ 小括
したがって、本件発明1は、甲3発明及び甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2〜4、25、26、30、31、34、35、37、40について
本件発明2〜4、25、26、30、31、40は、相違点3に係る本件発明1の構成と同一の構成を備えるものであり、また、方法の発明である本件発明34、35、37は、相違点3に係る本件発明1の構成と対応する構成を備えるものである。
よって、前記(1)に示した理由により、本件発明2、25、26、34、35、37、40は、甲3発明及び甲1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。さらに、甲2、4は、相違点3の非容易想到性を左右するものではないから、本件発明3、4、31は、甲3発明及び甲1、甲4に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件発明30は、甲3発明及び甲1、甲2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)申立理由2についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由2には理由がない。

4 申立理由3について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲4発明とを対比すると、次のことがいえる。

甲4発明の「バス(1,2)」、「光電池列」は、本件発明1の「直流母線」、「光起電力部」にそれぞれ相当する。
他方で、甲4発明は、「バス(1,2)」から「光電池列」を切断するスイッチは存在しないと解される。
そうすると、本件発明1と甲4発明とは、少なくとも次の点で相違する。

(相違点4)
本件発明1は、「保護スイッチ」を備えるのに対し、甲4発明は、該「保護スイッチ」を備えない点。

イ 相違点についての検討
相違点4に関し、特許異議申立人は、「甲第4号証に開示された発明と、甲第5号証に開示された発明は、いずれも光起電システムの技術分野に属し、且つ、光電池列を逆電流から保護するという共通の技術課題を有するものである。よって、当業者であれば、甲第5号証におけるスイッチを甲第4号証の発明に設け、1つの光電池列に逆電流が流れていることを検出すると、スイッチを制御して、残りの光電池列をバスから切断する動機付けがある。…(略)…よって、本件特許発明の請求項1に係る発明は、甲第4号証及び甲第5号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである」(特許異議申立書31頁)と主張する。

甲5技術についてみると、4対の「スイッチングユニット255、265」は、「電力線バスバー25及び戻り線バスバー26」と4つの「ストリングS1、S2、S3、S4」それぞれとの接続間に存在し、「障害のあるストリング」への「逆電流」が検出されると、「ストリングコンバイナ制御ユニットSCCU」の制御により「電力線バスバー25及び戻り線バスバー26」から「障害のないストリング」を切断するものといえる。
これに対し、甲4発明は、「逆電流が少なくとも1つの列グループの中の対象の列グループにおいて存在する」場合に、「対象の列グループにおける逆電流を低減するように」、「コンバータ」が「バス(1,2)間のシステム電圧を低減する」ものであり、これは「バス(1,2)」に「並列に接続される」全ての「列グループ」の両端の電圧を低減することを意味する。そうすると、甲4発明において、甲5技術のように、逆電流が存在する「対象のグループ」以外の「列グループ」を「バス(1,2)」から切断させる積極的な理由はない。加えて、甲4は、「光電池の保護」とともに「デバイス費用を低減する」ことを課題とするものであり(【0004】)、甲4発明において、甲5技術のようなスイッチングユニットを各「列グループ」と「バス(1,2)」の間に設けることは、デバイス費用を増大させるものであって、そのデメリットを超える光電池の保護効果が得られるかは不明である。
してみると、甲4発明に甲5技術を適用する動機付けがあるとはいえないから、相違点4に係る本件発明1の構成は、当業者といえども甲4発明及び甲5技術から容易に想到し得たものではない。

ウ 小括
したがって、本件発明1は、甲4発明及び甲5技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2〜4、25、26、30、31、34、35、37、40について
本件発明2〜4、25、26、30、31、40は、相違点4に係る本件発明1の構成と同一の構成を備えるものであり、また、方法の発明である本件発明34、35、37は、相違点4に係る本件発明1の構成と対応する構成を備えるものであるから、前記(1)に示した理由により、本件発明2〜4、25、26、30、31、34、35、37、40は、甲4発明及び甲5技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)申立理由3についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由3には理由がない。

5 申立理由4について
(1)本件発明1について
本件発明1と甲4発明とは、前記4(1)アのとおり、少なくとも相違点4が存在する。
相違点4に関し、特許異議申立人は、「当業者であれば、甲第1号証におけるスイッチを甲第4号証の発明に設け、1つの光電池列に逆電流が流れていることを検出すると、スイッチを制御して、残りの光電池列をバスから切断する動機付けがある。…(中略)…よって、本件特許発明の請求項1に係る発明は、甲第4号証及び甲第1号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」(特許異議申立書32頁)と主張する。
しかしながら、前記2(1)ア(イ)bのとおり、甲1発明は、本件発明1の「保護スイッチ」を備えるものではないから、たとえ、甲4発明に甲1発明を適用することができたとしても、本件発明1の構成に至らない。
よって、本件発明1は、甲4発明及び甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2〜4、25、26、30、31、34、35、37、40について
本件発明2〜4、25、26、30、31、40は、相違点4に係る本件発明1の構成と同一の構成を備えるものであり、また、方法の発明である本件発明34、35、37は、相違点4に係る本件発明1の構成と対応する構成を備えるものであるから、前記(1)に示した理由により、本件発明2〜4、25、26、30、31、34、35、37、40は、甲4発明及び甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)申立理由4についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由4には理由がない。


第5 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜4、25、26、30、31、34、35、37、40に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に上記請求項に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2024-11-06 
出願番号 P2021-572645
審決分類 P 1 652・ 121- Y (H02H)
P 1 652・ 113- Y (H02H)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 馬場 慎
特許庁審判官 寺谷 大亮
衣鳩 文彦
登録日 2024-02-16 
登録番号 7439139
権利者 華為数字能源技術有限公司
発明の名称 光発電システムの保護装置及び保護方法並びに光発電システム  
代理人 河野 英仁  
代理人 野村 進  
代理人 実広 信哉  

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