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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01F |
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管理番号 | 1003683 |
異議申立番号 | 異議1998-71656 |
総通号数 | 4 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1988-04-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1998-04-08 |
確定日 | 1999-05-12 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第2661902号「超電導マグネットの製造方法」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第2661902号の特許を取り消す。 |
理由 |
I.手続きの経緯 本件特許第2661902号は、昭和61年10月16日に特許出願され、平成9年6月13日に設定登録され、その後、特許異議申立てがなされ、取消理由通知がなされたところ、その指定期間内である平成10年9月4日に訂正請求がなされた。これに対し、訂正拒絶理由が通知されたが、その指定期間を経過しても特許権者からは何らの応答もなかったものである。 II.訂正の適否 【1】訂正明細書の請求項1に係る発明 訂正明細書の特許請求の範囲第1項に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲第1項に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「超電導線を巻回してなる超電導マグネットの製造方法において、無溶剤型の接着剤が充てんされた容器に前記超電導線をくぐらすことによって前記接着剤を前記超電導線に塗布しながら所定回巻回し、その後、前記接着剤を硬化することを特徴とする超電導マグネットの製造方法。」 【2】引用刊行物記載の発明 本件発明に対し、当審が訂正拒絶理由通知において示した刊行物1(特開昭48-34496号公報)には、 「超伝導線の不安定な移動を抑制するため、コイルCに対しエポキシ系の接着剤や、当初流動状態にある固定剤Dを含浸し」(刊行物1の公報第507頁右欄第6行〜第8行)、「このような固定剤の含浸技術を採用して超伝導マグネットを製造する方法としては超伝導線の巻線完了後に固定剤を含浸して接着固化するものと、超伝導線に固定剤を塗布しながら巻線し、巻線完了時には固定剤が含浸状態となっているようにするものと二種類が行われており」(公報第507頁右下欄下から第3行〜第508頁左上欄第4行)、「上記いずれの方法によるも超伝導マグネットとして使用される段階では、固定剤は硬化している」(公報第508頁左上欄第9行〜第11行)と記載されており、該記載を参酌すれば、刊行物1には次の発明が記載されている。 超伝導線を巻回してなる超伝導マグネットの製造方法において、超伝導線に固定剤を塗布しながら前記超伝導線を所定回巻回し、その後、前記固定剤を硬化する超伝導マグネットの製造方法。 同じく訂正拒絶理由通知において示した刊行物 2(「REVIEW OF SCIENTIFIC INSTRUMENTS」Vol.52,No.5,May1981p.649〜p.656)には、 超電導マグネットの製造方法において、接着剤として「エポキシ樹脂」を用いることが記載されており、特に、刊行物2の第652頁左欄第36行〜第38行の記載に対応する異議申立人の提出した翻訳文には、「このシステムの全てのコイルはエポキシ・レジンを用いた「湿式1巻線法で巻かれた。」と記載されており、また、第652頁右欄第10行〜第11行の記載に対応する異議申立人の提出した翻訳文には、「このエポキシ・レジンは、重量で同量の硬化剤V40を入れたEP ON815である。」と記載されている。 同じく訂正拒絶理由通知において示した刊行物3(Claude LESMOND KEK Reports KEK80-17 March1981「DESIGN OF THE MAGNETIC SYSTEM OF THE 6 TESLA VERTICAL WIGGLER」p.1〜p.23)には、超電導磁石に関する発明が記載されており、特に刊行物3の第6頁第23行〜第24行の記載に対応する異議申立人の提出した翻訳文には、「この導体は、緩やかに硬化するエポキシ・レジンを用いて巻回中に塗られる。巻回後、このコイルは型の中で硬化される。」と記載されている。 【3】対比 そこで、本件発明と刊行物1に記載された発明を対比すると、刊行物1における、「超伝導線」、「超伝導マグネット」は、本件発明における、「超電導線」、「超電導マグネット」に相当し、本件発明における「接着剤」は、明らかにコイル,の固定を目的とするものであることを考慮すると、本件発明における「無溶剤型の接着剤」も刊行物1における「固定剤」も共に「固定剤」であるから、両者は、 超電導線を巻回してなる超電導マグネットの製造方法において、固定剤を前記超電導線に塗布しながら所定回巻回し、その後、前記固定剤を硬化することを特徴とする超電導マグネットの製造方法、 で一致し、次の点で相違する。 1.刊行物1における固定剤は特に材料を限定していないのに対し、本件発明は「無溶剤型の接着剤」である点。 2.刊行物1においては超電導線への固定剤の塗布方法について特に記載はないが、本件発明では「接着剤が充てんされた容器に超電導線をくぐらすことによって」塗布する点。 【4】当審の判断 そこで、前記相違点1、2につき、以下に検討する。 相違点1.について、 刊行物2、3には超電導磁石用コイルをエポキシ・レジン(固定剤に相当する)で被覆する点が記載されており、特に刊行物2には、このエポキシ・レジンとして、硬化剤V40を入れたものを挙げているが、異議申立人が提出した参考資料1(シェル社のエポン硬化剤のカタログ)を見ると、硬化剤V40はポリアミドであり、特に溶剤を混入していないことが分かる。 そして、刊行物1にはコイルの接着剤としてエポキシ系のものを用いる旨、示唆されている点も考慮すると、刊行物1における固定剤として、刊行物2に記載された無溶剤型の接着剤を用いることは、当業者が容易になし得るところと認められる。 相違点2.について、 コイル表面を被覆剤で被覆するにあたり、被覆剤が充てんされた容器に電線をくぐらすことにより行うことは、当該技術分野で周知の技術的事項である(例えば、特開昭59ー141206号公報参照)以上、刊行物1において、超電導線に接着剤を塗布するに際し、該周知技術を用いた点に格別の創意を要し得たものとは認められない。 【5】むすび 以上のとおりであるから、本件発明は、前記刊行物1〜3に記載されたもの及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件訂正請求は、特許法第120条の4第3項で準用する同法第126条第4項の規定に違反するので、当該訂正請求は認められない。 III.特許異議申立てについての判断 【1】請求項1に係る発明 本件請求項1に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項によって特定されるとおりのものである。 「超電導線を巻回してなる超電導マグネットの製造方法において、超電導線に無溶剤型の接着剤を塗布しながら前記超電導線を所定回巻回し、その後、前記接着剤を硬化することを特徴とする超電導マグネットの製造方法。」 【2】引用刊行物記載の発明 当審が通知した取消理由に引用した刊行物1(特開昭48-34496号公報)には、 「超電導線を巻回してなる超電導マグネットの製造方法において、超電導線に接着剤を塗布しながら前記超電導線を所定回巻回し、その後、前記接着剤を硬化する」超電導マグネットの製造方法が記載されている。 同じく取消理由に引用した刊行物2(「REVIEW OF SCIENTIFIC INSTRUMENTS」 Vol.52,No.5,May1981)、 刊行物3(Claude LESMOND KEK Reports KEK80-17 March1981「DESIGN OF THE MAGNETIC SYSTEM OF THE 6 TESLA VERTICAL WIGGLER」)には、前記のような超電導マグネットの製造方法において、接着剤として「エポキシ樹脂」を用いることが記載されており、特に刊行物2の第652頁右欄第10行〜第11行の記載に対応する異議申立人の提出した翻訳文には、「このエポキシ・レジンは、重量で同量の硬化剤V40を入れたEPON815である。」と記載されている。 【3】対比、判断 請求項1に係る発明と刊行物1に記載された発明を対比すると、請求項1に係る発明が前記刊行物1に記載された超電導マグネットの製造方法において「無溶剤型」の接着剤を用いた点でのみ相違するだけで、その他の点に格別の差異は認められないが、該相違点についての判断は、前記II. 【4】相違点1.について、で示した判断と同様である。 【4】むすび 以上のとおりであるから、請求項1に係る発明は、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、旧特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものである。 したがって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第9条第4項及び第7項並びに第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第1項及び第2項の規定により、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 1999-03-05 |
出願番号 | 特願昭61-244198 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
ZB
(H01F)
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最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 嶋野 邦彦 |
特許庁審判長 |
鈴木 伸夫 |
特許庁審判官 |
岩本 正義 西川 一 |
登録日 | 1997-06-13 |
登録番号 | 特許第2661902号(P2661902) |
権利者 | 三菱電機株式会社 |
発明の名称 | 超電導マグネットの製造方法 |
代理人 | 外川 英明 |
代理人 | 高瀬 彌平 |