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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
管理番号 1008854
異議申立番号 異議1998-72390  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1991-11-11 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-05-15 
確定日 1999-11-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第2681094号「窒化ガリウム糸化合物半導体発光素子」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2681094号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2,681,094号に係る主な手続の経緯は以下のとおりである。
特許出願 平成2年2月28日
手続補正 平成9年3月24日
特許権設定登録 平成9年8月8日
特許公報発行 平成9年11月19日
特許異議の申立て(2件)
平成10年5月15日及び19日
取消理由通知 平成10年8月19日
異議意見書 平成10年11月9日
2.本件発明
本件特許明細書の請求項1〜4に係る発明(以下「第1発明」乃至「第4発明」という。)は、その明細書及び図面の記載からして請求項1〜4に記載されている次のとおりのものである。
「【請求項1】N型の少なくとも窒素(N)とガリウム(Ga)を含む窒化ガリウム系化合物半導体からなるN層と、P型不純物を添加した少なくとも窒素(N)とガリウム(Ga)を含む窒化ガリウム系化合物半導体からなるP型不純物添加層とを有する窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、
P型不純物添加層を、前記N層と接合する側から側に、
前記P型不純物が比較的低濃度の低不純物濃度層と前記P型不純物が比較的高濃度の高不純物濃度層との二重層構造とし、
前記高不純物濃度層の厚さを、0.02〜0.3μmとし、
前記低不純物濃度層の厚さを、0.01〜1μmとしたことを特徴とする発光素子。
【請求項2】前記低不純物濃度層のP型不純物の濃度は、1×1016〜5×1019/cm3であることを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の発光素子。
【請求項3】前記高不純物濃度層のP型不純物の濃度は、1×1019〜5×1020/cm3であることを特徴とする特許請求の範囲第1項又は第2項に記載の発光素子。
【請求項4】前記P型不純物は亜鉛(Zn)であることを特徴とする特許請求の範囲第1項乃至第3項のいずれかに記載の発光素子。」
本件の各発明は、上記構成により発光ダイオードの青色の発光強度を増加させるという作用及び効果を奏するものである。
3.要旨変更について
(3.1)出願当初の明細書の記載
出願当初の特許請求の範囲に、「N型の窒化ガリウム系化合物半導体(AlXGa1-XN;X=0を含む)からなるN層と、P型不純物を添加したI型の窒化ガリウム系化合物半導体(AlXGa1-XN;X=0を含む)からなるI層とを有する窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、前記I層をN層と接合する側から順に、前記P型不純物が比較的低濃度の低不純物濃度IL層と前記P型不純物が比較的高濃度の高不純物濃度IH層との二重層構造としたことを特徴とする発光素子。」と記載されているように、P型不純物を添加した窒化ガリウム系化合物半導体はI型であり、該層はI層と記載され、低不純物濃度層はIL層と、高不純物濃度層はIH層と定義されていた。ここで、I型又はI層とはその層が絶縁体であることを示す。
また、図面においては全図を通して低不純物濃度層5はIL-GaNと表示され、高不純物濃度層6はIH-GaNと表示されていた。
したがって、出願人は上記I層をN型半導体層上に形成した構造の発光素子を金属/絶縁体/半導体(Metal-Insulator-Semiconductor)からなるMIS構造の発光素子と定義していた(出願当初の明細書第9頁第2〜4行)。
(3.2)補正後の明細書の記載
しかるに、平成9年3月24日付けの手続補正書により、P型不純物を添加した窒化ガリウム系化合物半導体がI型又はI層である旨の記載をすべて削除し、単にP型不純物添加層とした。
また、図面では全図を通して低不純物濃度層5はGaNと表示し、高不純物濃度層6はGaNと表示し、IL又はIHの表示を削除した。
さらに、MIS構造と称していた発光素子の構造特定を削除した。
(3.3)補正後の内容の検討
窒化ガリウム系化合物半導体発光素子は上記MIS構造とPN接合構造とに大別される。前者は金属/絶縁体/半導体からなり、通常N型半導体上に絶縁体を積層し、この絶縁体を発光層とするものである。したがって、金属と半導体との間に印加される動作電圧は比較的高く、発光強度が大きいものが得られない。それに対し後者は、P型半導体層とN型半導体層とを接合させ、その界面又はその界面に介在させた活性層を発光層とするものであり、動作電圧は比較的低く、しかも発光強度が大きいのが特徴である。
後者は前者の改良型として開発されたものである。窒化ガリウム系化合物半導体においては開発当初、N型半導体にP型不純物を添加してもP型半導体が製造できなかった。したがって、従来は、本件特許の出願当初の明細書における【従来の技術】においても説明されているように、N型半導体にP型不純物を添加して形成されるI型半導体を使用し、MIS構造の発光素子を対象としていた。しかし、その後、P型不純物(Mg)を添加した窒化ガリウム系化合物半導体に低速電子線を照射したり、又は量産法として窒化ガリウム系化合物半導体を熱処理してP型半導体を製造することが可能となり、後者のPN接合構造の発光素子が窒化ガリウム系化合物半導体においても製造できるようになった。
したがって、以上の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子の開発経緯からも明らかなように、上記補正は、出願当初の明細書及び図面においては、MIS型の発光素子についてのみしか記載されていなかったものを、P型不純物を添加した層に対するI型という特性を削除することにより、PN接合型の発光素子をも包含するように変更するものであり、願書に添付した明細書及び図面の要旨を変更するものである。
よって、本件特許出願は、平成6年法律116号附則第6条1項及び平成5年法律26号附則第2条第2号の規定により、なお従前の例とされる平成5年改正前の特許法第40条の規定を適用して、上記手続補正書を提出した時にしたものとみなす。
4.刊行物記載の発明
平成3年11月11日に公開された特開平3-252178号公報(本件特許に係る公開公報、以下「刊行物」という。)には、その特許請求の範囲において、「N型の窒化ガリウム系化合物半導体(AlXGa1-XN,X=0を含む)からなるN層と、P型不純物を添加したI型の窒化ガリウム系化合物半導体(AlXGa1-XN;X=0を含む)からなるI層とを有する窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、前記I層をN層と接合する側から順に、前記P型不純物が比較的低濃度の低不純物濃度IL層と前記P型不純物が比較的高濃度の高不純物濃度IH層との二重層構造としたことを特徴とする発光素子。」と記載され、【課題を解決するための手段】において、
「・・・尚、上記低不純物濃度IL層の不純物濃度は1×1016〜5×1019/cm3で膜厚は0.01〜1μmが望ましい。・・・更に、高不純物濃度IH層の不純物濃度は1×1019〜5×1020/cm3で膜厚は0.02〜0.3μmが望ましい。」と記載され、実施例において、P型不純物としてZn(亜鉛)が示されている。
すなわち、上記刊行物には、N型の窒化ガリウム系化合物半導体からなるN層と、P型不純物(亜鉛)を添加したI型の窒化ガリウム系化合物半導体からなるI層とを有する窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、前記I層をN層と接合する側から順に、前記P型不純物が比較的低濃度の低不純物濃度IL層と前記P型不純物が比較的高濃度の高不純物濃度IH層との二重層構造とし、上記低不純物濃度IL層の不純物濃度は1×1016〜5×1019/cm3であり、膜厚は0.01〜1μmであり、また、高不純物濃度IH層の不純物濃度は1×1019〜5×1020/cm3であり、膜厚は002〜03μmである発光素子の発明が記載されている。
5.対比及び判断
(5.1)本件第1発明について
本件第1発明(以下、この項において「前者」という。)と上記刊行物に記載された発明(以下、この項において「後者」という。)とを比較すると、前者におけるP型不純物層が、後者においては、I層である点においてのみ相違する。
しかしながら、P型不純物層は、P層及びI層を包含するので、前者におけるP型不純物層がI層である場合は、両者の発明は同一である。
したがって、本件第1発明は、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するので特許を受けることができないものである。
(5.2)本件第2発明乃至第4発明について
本件第2発明乃至第4発明も、上記本件第1発明と同様に刊行物に記載された発明と同一である。
したがって、本件第2発明乃至第4発明は、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するので特許を受けることができないものである。
(5.3)この項のむすび
したがって、本件第1発明乃至第4発明は、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するので、特許を受けることができないものである。
(5.4)特許権者の主張について
特許権者は、平成10年11月9日付け特許異議意見書において、「「I型」を削除しても、P型不純物を添加している事実に変更はなく、P型不純物の添加されている層の電気的性質は、本来的に、P型不純物に起因するものであって、P型不純物が添加されている以上のその層の性質は、当初から、その層に内在しているものである。」と主張する。
しかしながら、MOCVDで作製した窒化ガリウム系化合物半導体は、作製した状態ではN型であり、P型の不純物を添加してもI型にしかならないことは上記(3.3)においても記載したように周知である。そして、P型半導体においてはホールが多く存在し、I型半導体においてはホールは、ほとんど存在せず、存在しても極めて少量でしかない。このため、両者間では電気的特性、例えば電気伝導度あるいは抵抗率等において、大きな差異が生じてくる。よって、上記権利者の主張は採用できない。
6.むすび
以上のとおり、本件第1発明乃至第4発明に係る特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してなされたものであるので、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第1項及び第2項の規定により取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 1999-09-17 
出願番号 特願平2-50212
審決分類 P 1 651・ 113- Z (H01L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 小橋 立昌  
特許庁審判長 小林 邦雄
特許庁審判官 東森 秀明
河原 英雄
登録日 1997-08-08 
登録番号 特許第2681094号(P2681094)
権利者 科学技術振興事業団 豊田合成株式会社 株式会社豊田中央研究所 名古屋大学長
発明の名称 窒化ガリウム系化合物半導体発光素子  
代理人 藤谷 修  

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