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審決分類 審判 補正却下の決定 5項独立特許用件  G01N
審判 補正却下の決定 2項進歩性  G01N
管理番号 1012139
審判番号 審判1998-4344  
総通号数 10 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-09-12 
種別 補正却下の決定 
確定日 1999-11-04 
事件の表示 平成6年特許願第28381号「電気泳動装置」拒絶査定に対する審判事件について,次のとおり決定する。 
結論 平成10年4月16日付けの手続補正を却下する。 
理由 1,手続の経緯
本願は、平成6年2月25日の出願であって、平成10年2月12日付けでなされた拒絶査定の理由の概要は、本願の請求項1に係る発明は、本願出願前に頒布された刊行物である、特開平3-24451号公報(以下、「引用例1」という)及び特開昭64-80850号公報(以下、「引用例2」という)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
この査定を不服として本件審判請求がなされ、その請求の日から30日以内である、平成10年4月16日付けで手続補正書が提出された。同補正書による補正にしたがえば、請求項1に記載された発明は、次のとおりのものとなる。
「ゲルの両端に電圧を印加して試料に電気泳動を生じさせ、試料の泳動パターンを測定する電気泳動装置において、泳動分離用ゲルを支持するガラス支持体と、ガラス支持体の表面に接触させる放熱プレートと、ガラス支持体と放熱プレートとの間に介在させた柔軟な良熱伝導性絶縁層からなる放熱シートとを備え、ガラス支持体と放熱プレートとの接触を均一にしたことを特徴とする電気泳動装置。」
以下、この発明を「補正後発明」という。
2,引用刊行物
引用例1には、電気泳動装置に関する従来技術として次のような記載がある。
▲1▼「電気泳動装置は、第6図に示すように、電気泳動を行うベースとなるゲル61と、当該ゲル61を挟むゲル支持板62a、62bと、当該ゲル61内に電界を加えるための緩衝液を満たした電極63a、63bと、泳動電圧を印加するための電源装置64から構成されている。」
(2頁、右上欄10-15行)
▲2▼「光が入射される光路85をも含めて泳動部73の詳細が、第8c図の断面図に示されている。泳動部73は、ポリアクリルアミドなどのゲル96と該ゲル96を支えるためのガラス板の支持板97a及び97bから構成されている。」
(3頁、右上欄5-9行)
そしてこのような従来の電気泳動装置における問題点について次のように記載されている。
▲3▼「ところで、電気泳動において、試料の泳動の速度は、印加する泳動電圧の大きさに関係するが、泳動電圧以外にゲルの温度分布の影響を受ける。....泳動速度はゲル96の温度分布に応じて異なるので、中央部のレーン93,94と両端部のレーン92,95とで泳動の移動距離に差を生じてしまう。...このような中央部と両端部とで移動距離の差が生じ、泳動されたバンド91が弓状になる現象をスマイリング現象という。....スマイリング現象が生じると、バンド91の配列を正しく読み取ることが困難となり、DNAのシーケンシングを精度よく行うことができない。....従来からスマイリング効果(スマイリング現象)の発生を防止するため、支持板の電気泳動用媒体に接しない側の表面に熱伝導率のよい金属板などからなる放熱板を付設して温度差の発生を抑制するという工夫がなされているが、金属板の平面度を高めることが難しいため金属板と支持板を全面にわたって密着させるのが難しく、放熱板の放熱にむらが生じ易いなどの問題がある。」
(3頁、左下欄9行-右下欄末行)
▲1▼〜▲3▼等の記載から明らかなように、引用例1には、従来技術として、「ゲルの両端に電圧を印加して試料に電気泳動を生じさせ、試料の泳動パターンを測定する電気泳動装置において、泳動分離用ゲルを支持するガラス支持体と、ガラス支持体の表面に接触させる放熱プレートとを備えるもの」が知られていること、そして、この従来技術では、ゲル支持板と放熱プレートとの密着性を確保することが難しい、という問題点があることが記載されている。そして、上記問題点を解決するための手段に関し次のような記載がある。
▲4▼「本発明の目的は、....電気泳動を行うベースとなるゲルの温度分布のばらつきを低減し、泳動距離のばらつきを低減させた電気泳動方法を提供することにある。」
(4頁、右上欄16-20行)
▲5▼「上記目的を達成するため、....前記支持板に電気泳動方向と直角な方向に接着剤を介して金属板を密着させ、電気泳動方向と直角な方向の熱伝導性を高めて電気泳動を行うことを特徴とする。」
(4頁、左下欄10-17行)
▲6▼「また、金属板と支持板とを密着させる場合、接着剤を介して接着することに替えて、シリコーングリスの薄い層を介して密着させることによっても、電気泳動方向と直角な方向の熱伝導性を高めることができる。」
(5頁、右上欄6-10行)
▲7▼「支持板に金属板を密着させる場合、接着剤がゲル支持板と金属板との間に薄く入って、表面の荒さや歪みなどによって発生する空間を埋め、密着性を高めて、電気泳動方向と直角な方向(支持板の横方向)での各泳動レーン部分相互間の熱抵抗を低く保つ。」
(5頁、右上欄末行-左下欄5行)
▲4▼〜▲7▼等の記載から、上記問題点を解決するため、引用例1の発明は、ゲル支持板と金属板との間に接着剤やシリコーングリスの層を介在させるようにしたものであることが理解できる。
以上のことをまとめると、引用例1には、
「ゲルの両端に電圧を印加して試料に電気泳動を生じさせ、試料の泳動パターンを測定する電気泳動装置において、泳動分離用ゲルを支持するガラス支持体と、ガラス支持体の表面に接触させる放熱プレートと、ガラス支持体と放熱プレートとの間にあって電気泳動方向と直角な方向に介在させた密着性改善媒体とを備えたことを特徴とする電気泳動装置」
に関する発明が記載されている、ということができる。
引用例2には、次のような記載がある。
▲1▼「本発明は電気泳動装置に係り、特にゲルの温度を全面で均一に保つのに好適な電気泳動装置に関するものである。」
(1頁、左下欄14-18行)
▲2▼「従来の電気泳動装置は、....泳動板に恒温槽を取り付けることによって、泳動板に支持されたゲルの温度を全面で均一にする構造となっていた。...上記従来技術は、泳動板と恒温槽の密着が不完全で空気槽としてのすきまが生じる点について記載がされておらず、泳動板と恒温槽との間の伝熱が空気層としてのすきまによって阻害され、ゲルの温度にむらが生じるという問題があった。」
(1頁、左下欄18行-右下欄11行)
▲3▼「本発明の目的は、泳動板と恒温槽との間の伝熱特性を改善し、ゲルの温度を全面で均一に保つ電気泳動装置を提供することにある。」
(1頁、右下欄12-14行)
そして、前記目的を達成する手段に関し、次のように記載されている。
▲4▼「泳動板と恒温槽との間に熱伝導性の良い弾性体を挟むと、泳動板と恒温槽との密着が不完全ですきまの生じる部分があっても、熱伝導性の良い弾性体が効率良く熱を伝えるため、泳動板と恒温槽の伝熱特性が良好に保たれる。従って、ゲルの温度を全面で均一に保つことができる。」
(1頁、右下欄末行-2頁、左上欄5行)
3,対比判断
補正後発明と引用例1に記載された発明(以下、「引用発明」という。)とを比較すると、両者は、
「ゲルの両端に電圧を印加して試料に電気泳動を生じさせ、試料の泳動パターンを測定する電気泳動装置において、泳動分離用ゲルを支持するガラス支持体と、ガラス支持体の表面に接触させる放熱プレートと、ガラス支持体と放熱プレートとの間に介在させた密着性改善媒体とを備えたことを特徴とする電気泳動装置」
である点で一致し、次の点で相違する。
ガラス支持体と放熱プレートとの間に介在させた密着性改善媒体が、補正後発明では、柔軟な良熱伝導性絶縁層からなる放熱シートであり、ガラス支持体と放熱プレートとの接触を均一にするのに対し、引用発明では、接着剤やシリコーングリスの薄層であり、電気泳動方向と直角な方向に介在している点
相違点について検討する。
引用発明が、ガラス支持体に、電気泳動方向と直角な方向に接着剤を介して放熱プレートを密着させる理由は、「電気泳動を行うベースとなるゲルにおける温度分布の均一化は、電気泳動方向と直角な方向に対してのみ行えば良」(4頁、右下欄14-16行)いということに加え「ゲルの支持板に金属板を接着させる場合、金属板の平面の全面に渡って空気などの気体層を挟まないように接着させることは、金属板および支持板の被密着面の平面度が高くないこと、また、被密着面の平面の全面に渡る接着剤の均一塗布が容易でないことのため困難である」(5頁、左上欄3-8行)ことにあるから、引用発明が、ガラス支持体と放熱プレートとに介在させる密着性改善媒体を電気泳動方向と直角な方向に備えているとはいえ、温度分布のばらつきを低減させるためには、ガラス支持体と放熱プレートとを全面に渡って密着させるという技術思想を示唆するものといわざるをえない。
また、引用例2には、泳動板と恒温槽との間の密着性を改善するために、両者の間に熱伝導性の良い弾性部材を全面にわたって介在させることが記載されている。この恒温槽と引用発明の放熱プレートでは熱の移動方向が異なるものの、これらのものはいずれも泳動板との間の熱伝導を制御することによりゲルの温度分布のばらつきを低減するためのものであるから、引用例2に記載された密着性改善のための手段を引用発明に採用し、引用発明の密着性改善媒体を熱伝導性の良い弾性部材とし、ガラス支持体と放熱プレートとの接触を均一とすることは、当業者にとって格別困難なことではない。また、その際、熱伝導性の良い弾性部材として具体的にどのようなものを採用するかは、泳動板や放熱プレートの構造、必要とする密着性等を考慮して当業者が適宜定めうる設計上の事項にすぎず、しかも、発熱性の電子、電気部品に放熱部材を取り付ける際に、柔軟な良熱伝導性絶縁層からなる放熱シートを介在させることは周知技術である(必要ならば、特開平3-200397号公報(1頁、右下欄3-13行)、特開平5-235218号公報(【0002】【0003】参照)。
したがって、引用発明における密着性改善媒体に代えて、柔軟な良熱伝導性絶縁層からなる放熱シートを採用し、ガラス支持体と放熱プレートとの接触を均一にすることは当業者にとって格別困難なことではない。また、補正後発明の構成により、引用例1、2あるいは前記周知技術からは予測しがたいほどすぐれた効果が得られるものともいえない。
以上のとおりであるから、補正後発明は、引用例に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、この補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
決定日 1999-07-26 
出願番号 特願平6-28381
審決分類 P 1 93・ 121- (G01N)
P 1 93・ 575- (G01N)
前審関与審査官 黒田 浩一竹中 靖典  
特許庁審判長 伊坪 公一
特許庁審判官 阿部 綽勝
橋場 健治
発明の名称 電気泳動装置  
代理人 喜多 俊文  
代理人 江口 裕之  
代理人 西岡 義明  

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